1: 2021/01/15(金) 18:26:14.884 ID:zaNkVYT90
ワイワイガヤガヤ…

女「うわ、すごい行列」

男「なにせ人気ラーメン店だからな。ところでこないだの草野球はどうだった?」

女「私のフォークボールが冴え渡って、3対0で大勝利!」

男「そりゃすごい」

女「あ、やっと入れそう」

男「ここのラーメン、一度食ったけどマジで美味いからな。まあ期待しといてくれ」

5: 2021/01/15(金) 18:29:10.464 ID:zaNkVYT90
男「おっ、ちょうど席二つ空いた。ラッキー」

女「バラバラにならなくてよかったね」

店主「ご注文は?」

男「もちろん、チャーシューメン!」

女「じゃあ私も」

店主「かしこまりました! チャーシューメン二つ!」

6: 2021/01/15(金) 18:31:45.391 ID:zaNkVYT90
男「今レポート書いてるんだって? どういうレポート?」

女「フォークランド紛争について書いてる」

男「フォークランド紛争?」

女「1982年に始まったフォークランド諸島を巡るイギリスとアルゼンチンとの戦いで……」

男「あー、話さなくていい。俺は歴史とか海外情勢とかよく分からんし」

女「少しは食い付いてよ。興味あることはとことん追求するくせにさ」

7: 2021/01/15(金) 18:34:34.575 ID:zaNkVYT90
男「興味あるといえば……どうしてラーメン屋の店主はいつも腕組みしてるんだろう?」

女「は?」

男「ほら例えばポスターとかで。だいたいみんな腕組みしてるじゃん。妙に威圧する感じで」

女「ラーメンって競争激しいし、“自分のラーメンに自信あり!”みたいなもんを出したいんじゃない?」

男「なるほどね。だけどここの店主さんは妙なんだよなぁ……」

女「何が?」

男「見てみろよ。腕組みしながらラーメン作ってる」

腕組みした状態で麺を湯切りする店主。

女「ホントだ!」

男「ポスターとかなら分かるけど、ここまでする必要はなくね?」

女「んー、まあクセなんじゃない?」

8: 2021/01/15(金) 18:37:22.476 ID:zaNkVYT90
店主「チャーシューメン二つ、お待ち!」

男「お、来た来た!」

女「たしかにいい匂い!」

男「いただきまーす!」ズルルッ

女「いただきます」チュルルッ

男「美味い! 前よりさらに美味くなってる!」

女「うん、これはイケる。麺類はパスタ派だけど、美味しい」

男「……にしても、お前箸の使い方もう少しどうにかならないか? 下手すぎるぞ」

女「人間には得意不得意ってもんがあるのよ」

男「そういう問題じゃない気がする」

10: 2021/01/15(金) 18:40:25.126 ID:zaNkVYT90
女「今度フォークリフトの免許取ろうかなー」

男「んなもん取ってどうするんだよ」

女「何かの役に立つかもしれないじゃん」

男「役に立つかというと……やっぱ気になる」

女「何が?」

男「なぜ店主さんが腕組みしてるか。ずーっとやってるんだもん。あの行為がラーメン作りの役に立ってるとは思えないし」

女「そんなに気になるんだったら、直接聞いてみれば?」

男「そうだな、聞いてみよう」

女「えっ、ホントに聞くの? 忙しそうだからやめときなって……」

男「すいませーん!」

11: 2021/01/15(金) 18:43:10.519 ID:zaNkVYT90
店主「なんですか?」

男「どうして、ずっと腕組みされてるんですか? 作業しづらいと思うんですけど」

店主「あー、これはクセみたいなもんでして」

男「クセっていうにはあまりにも不自然……」

客「すいません、替え玉くださーい!」

店主「はーい!」

男「……」

女「だってさ」

13: 2021/01/15(金) 18:46:14.469 ID:zaNkVYT90
男「会計お願いします」

女「ごちそうさまでした。おいしかったです」

店主「毎度!」

男「あ、最後に、店主さん嫌いな動物とかっています?」

店主「嫌いな? んー、細長い食べ物扱ってるのに蛇が苦手ですねえ」

男「ありがとうございます」

女「なにしょーもない質問してるのよ」

14: 2021/01/15(金) 18:49:13.358 ID:zaNkVYT90
女「あー、おいしかった!」

男「……」

女「どうしたの?」

男「気になる……どうしても気になる!」

女「まさか……」

男「ああ、あの人が腕組みしてる理由を知りたい! もっというと腕組みを外してみたい!」

女「あーあ、悪いクセが出た……」

15: 2021/01/15(金) 18:52:10.734 ID:zaNkVYT90
夜になった。

男「店が終わったようだな」

女「なんで私まで……」

男「ま、いいじゃないか。お前だって気になるだろ?」

女「全然気にならないんだけど。クセで結論出てるじゃない」

男「あ、ほら! 暖簾を片付けるために店主さんが出てきた!」

女「こんな時にも腕組みは外さないんだね」

男「明らかにおかしいだろ! よーし!」

16: 2021/01/15(金) 18:55:14.643 ID:zaNkVYT90
腕組みしながら暖簾を外す店主。

男「こんばんはー!」

店主「? あなたはたしか、昼間に来ていた……」

男「そうです。さっきはご馳走様でした」

店主「それで、なにか用ですか? 忘れ物ですか?」

男「どうしても店主さんが腕組みを外す瞬間を見たいなぁと思いまして」

店主「あー、それはちょっと勘弁してもらいたいですね。すいません」

男「ですよね……だから……」

17: 2021/01/15(金) 18:58:13.064 ID:zaNkVYT90
男「これ!」バッ

店主「ひゃあああああっ!」

男「なーんて、これはオモチャの蛇ですよ」

店主「あ……」

驚いた拍子に店主の腕組みは外れていた。

男「やった!」

女(ったく、最低!)

19: 2021/01/15(金) 19:02:31.449 ID:zaNkVYT90
男「……ん?」

店主「あ……ああ……」ウジュウジュウジュ…

店主の胸には“ラーメンの麺”の塊――替え玉のようなものがくっついていた。

男「なにこれ……麺……?」

麺「ラァァァァァ…メェェェェェェン!!!」

男「うわっ!?」

麺が男に飛びかかる。

男(これはただの麺じゃない……生き物だ!)

20: 2021/01/15(金) 19:05:16.172 ID:zaNkVYT90
麺「メェェェェェン!!!」ビチャッ

男「ひっ!」

麺が体にくっついてしまう。

男「こいつ……! と、取れねえ……!」

店主「もうダメだ……」

女「ちょっと店主さん! こいつはなんなの!?」

22: 2021/01/15(金) 19:09:07.544 ID:zaNkVYT90
店主「あの麺は……“ラーメンの精”とでもいうべき存在です」

店主「私はかつてラーメンの修行中、“あれ”に出会い、そして取りつかれたのです」

店主「その結果、私は美味しいラーメンを作ることができるようになったのですが」

店主「代償として、胸に取りつく“あれ”を隠すため、ずっと腕組みしなければならなくなりました」

店主「なぜなら“あれ”は胸に取りついてるところを見られると……見た人を食べてしまうからです!」

女「な……!」

麺「ラァァァァァメェェェェェン!!!」ジワジワ…

男「こいつ……なんか汁を出してきやがった!」

23: 2021/01/15(金) 19:13:47.344 ID:zaNkVYT90
麺「ラァァァァァ…」ジュワァァァァァ…

男「ヒッ! 服がっ、服が溶けるッ!」

男「店主さん! どうにかしてこいつを倒す術はないのかよォ!?」

店主「ありません……絶対に不氏身なのです!」

男「マジかよォォォォォッ!」

麺「メェェェェェン…」ジュワァァァァァァ…

男「うわあああああああああっ!!!」

24: 2021/01/15(金) 19:19:09.192 ID:zaNkVYT90
女「ったく、よかったわね」サッ

懐からフォークを取り出す。

男「え……?」

女「私が“フォーク”の達人で」

女はフォークで“麺”を絡め取ると、

クルクルクルッ

素早くパスタのように丸めてしまった。

男「取れた……!」

26: 2021/01/15(金) 19:27:57.148 ID:zaNkVYT90
女「だけど、倒せたわけじゃないわ!」

麺「メェェェェェェン!!!」

女「くっ、脱出されちゃう!」

ビチビチッ ビチビチッ

女「店主さん、こいつを受け取って!」

店主「へっ!?」

女「早くっ!」ヒュッ

店主「はいぃっ!」

麺を受け取ると、腕組みする。

27: 2021/01/15(金) 19:32:24.992 ID:zaNkVYT90
男「た、助かったぁ……」

女「大丈夫?」

男「ああ、溶けたのは服だけだったみたいだ」

女「間一髪だったね」

店主「いやぁ、お客さんが助かってよかった……」

男「申し訳ありません! 俺のせいで……」

店主「いえいえ、それでは失礼します」

腕を組んだまま店に入っていく店主。

28: 2021/01/15(金) 19:34:09.675 ID:zaNkVYT90
男「あー……お前がいなきゃきっと全身溶かされて食われてたな。どうもありがとう」

女「これに懲りたら、もうこういうことに首を突っ込むのやめなよ」

男「分かったよ」

男「それにしても、あの店主さんはすごいな」

男「あんなのに取りつかれてるのに、美味しいラーメンを提供し、かつお客を守るために」

男「あの麺を見せないようずーっと腕組みしてるんだから。立派な人だ」

女「……ホントにそうかな」

男「え?」

29: 2021/01/15(金) 19:36:34.997 ID:zaNkVYT90
女「だって、もしラーメンの精に取りつかれたまま、お客を守りたいと思ったら」

女「カウンターと厨房の間に壁を設けるとか、いくらでも方法はあるじゃない?」

男「まあ、たしかに……」

女「なのに、それをしないでああやって腕組みをみんなに見せながら、ラーメン作り続けてるのは……」

女「あんたみたいな人が罠にかかるのを待ってるからだったりして」

男「どういうことだよ?」

女「例えば、あの麺があんたみたいな好奇心で腕を開かせようとする人間が大好物だとしたら……」

女「そういう人間を食べさせれば食べさせるほど成長し、宿主である店主さんのラーメンも美味くなるとしたら……」

女「店主さんがわざと腕組みを外したんじゃなんの意味もないとしたら……」

女「あんたがいうには、店のラーメンは“前よりさらに美味くなってる”んでしょ?」

男「……!」

30: 2021/01/15(金) 19:39:43.891 ID:zaNkVYT90
男「だけど、そんなのはお前の推理に過ぎないし……」

女「そう、今のは私の勝手な推理。当たってるかもしれないし、大外れかもしれない」

男「もし当たってたらとんでもない悪党じゃないか! 警察に……!」

女「通報してどうするの? なんの証拠もないし、あの麺を警察が退治できるとも思えない。犠牲者が増えるだけ」

女「誰かに話しても同じこと。またあんたみたいな人が出るのを誘発しちゃうだけよ」

男「ってことは……」

女「私たちにできることは、今日のことは忘れて、あのラーメン屋には出来ればもう行かないこと」

男「それしかないか……」

31: 2021/01/15(金) 19:41:06.643 ID:zaNkVYT90
店内、一人厨房に立つ店主。

店主「……」

店主「さて、明日の仕込みを開始するか」

腕組みをしながら……。







おわり

33: 2021/01/15(金) 19:55:28.035
怖い終わり方だ

34: 2021/01/15(金) 20:20:48.681
凄い落差の球を投げそうな女だ

引用元: 男「どうしてラーメン屋の店主はいつも腕組みしてるんだろう?」