1: 2012/05/05(土) 22:03:07.00 ID:xKPe5O4j0

「う、またか?」

「何よ!この伊織ちゃんの言うことが聞けないわけ!?」

「わ、わかったよ・・・・・・ほら」

「フン、最初から素直になればいいのよ」

夕方、765プロの近くの人気の少ない公園で俺と伊織はベンチに座っていた。

竜宮小町のリーダー、伊織のプロデューサーは俺ではなく律子だ。
だが、空き時間のかぶっている時にはこうして2人で話すことが多くなった。

ただ、問題なのは・・・・・・

「よいしょっ・・・・・・と、ん~! やっぱり座り心地いいわね~」



俺の膝の上に伊織が座っているということだ。



――どうしてこうなった?

5: 2012/05/05(土) 22:08:13.10 ID:xKPe5O4j0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


きっかけは、俺がプロデュースしているユニットの方向に悩んでいる時に公園で座っているときだった。

「・・・・・・ダメだ、俺じゃあ何も浮かばないな・・・クソッ」

両手で目を塞ぎながら独り言をつぶやく。
最近は仕事終わりに公園で考えごとをすることが多くなっていた。

「な~に辛気くさい顔してるのよっ」

「うお!? 冷たっ!」

右手に持った冷えたオレンジジュースを俺の顔にあてた後、伊織はベンチに座っている俺の横に腰を下ろす。

「ほら、あんたにあげる」

「え?」

自分の耳がおかしくなったのだろうか? ジュースを買いに行かされたこと
(無理やり、しかも100%のオレンジジュースのみ)はあっても、俺がおごられるなんてことは無かった。

6: 2012/05/05(土) 22:14:15.00 ID:xKPe5O4j0
「何よその目は! このスーパーアイドル伊織ちゃんが直々におごってあげるのよ!? 感謝しなさい!」

半ば手にねじ込められるようにされて缶を受け取った。

そういえば事務所に所属してから伊織とはあまり話す機会がなかったかもしれない。
竜宮小町で活動していたし、自分のユニットで精一杯だったから当然だが。

本当は優しい言葉を掛けてくれる清楚なお嬢様なのかもしれない・・・

伊織はもう片方の手で持っていたジュースを開けた。プルタブの開く音が静かな公園に響く。

「まったく・・・・・・アンタが今にも氏ぬか犯罪犯すような顔してるから思わず心配して後をつけちゃったじゃない!」

・・・・・・うん、やっぱり言葉遣いはキツイな、とてもお嬢様とは思えない。

しかし心配してくれた、というのは嬉しかった。

「で、どうしたの? なんならこのアタシが相談に乗ってあげるわよ♪」

少し驚いた。同じ事務所の仲間とはいえ、ライバルの、しかもあまり会話をしないプロデューサーを
助けるのは、いくら優しくても少しは気がひけたりしないのだろうか?

「どうして伊織は俺を助けようって思ったんだ?」

缶ジュースを少し飲む。果汁5%未満か・・・とは口が裂けても言えない。

10: 2012/05/05(土) 22:20:55.09 ID:xKPe5O4j0
「それは・・・・・・あんたのユニットのリーダーがやよいだからよ」

「やよい? 確かに伊織はやよいと仲がよかったな」

そういえばやよいが伊織に勉強を教えてもらったと言っていたな。
この前はいっしょにお泊まりしたと言っていて、すごく喜んでいたのが印象的だった。

なるほど、つまり伊織は

「すごく友達思いなんだな」

果汁100%のジュースを飲んでいる伊織が急に咳き込む。

「ッ~~! ちがうわよ! 私はただやよいが張り合いのある相手になってほしいだけよ!!」

・・・・・・張り合いのある相手、か。今の竜宮小町から見れば俺たちのユニットはまだまだ実力不足なのだろう。
結成してからそんなに時間も経っていないのも理由かもしれない。

ただ、担当しているアイドルたちのポテンシャルを引き出せない自分が腹立たしかった。

「伊織の気持ちはありがたいけど、これは俺自身が解決することだからな。気持ちだけで・・・・・・」

「ねえ、アンタ。一つだけアドバイスしてあげよっか?」

12: 2012/05/05(土) 22:28:21.67 ID:xKPe5O4j0
俺の言葉を遮りながら、グイッと顔を近づけてくる。
少し、ドキッとした。

「まずアンタがそんな気持ちじゃ一生プロデュースに成功しないわ。自信の無いプロデューサーなんてハッキリいってお荷物よ」

・・・・・・こんなにはっきりと怒られたのは高校生以来かもしれない。
正直、耳が痛い。

「やよいはアンタを信じてるのよ? それに答えられるようガンバリなさい」

「・・・・・・やよいのプロデューサーはアンタしか居ないんだから」

・・・・・・確かに俺がここであれこれ悩むより、ユニットのみんなと話し合ったほうが良いかもしれない。

「じゃ、私は帰るわね。この伊織ちゃんに追いつくようがんばるのよ?」

ベンチから立った伊織はそう言うと公園の出口に向かって行った。
少し離れたあと、伊織がクルッと振り返りながら――

「しょうがないからまた今度アンタの相談につきあってあげるわよ! 感謝しなさい!」

にひひっと笑いながら伊織は去って行った。


気まぐれなお嬢様のことだ、すぐにここに来なくなるだろうな。

そう、思っていた。

14: 2012/05/05(土) 22:33:19.94 ID:xKPe5O4j0
――それから

「今日もシケた顔してるわね~・・・ほら、差し入れよ」

「なんでまたここに来たかって? 偶然通りかかったからよぐ・う・ぜ・ん!」

「そうそう! 今日はドラマの撮影があったのよ。それでね――」

「私がアイドルになった理由? パパに頼らずに私だけの力で何かを手に入れたかったからよ!」

「いつかお兄様達とパパをぎゃふんと言わせるんだからっ♪」


数日後

「ちょっとアンタ! 聞きなさいよ! この前ムカツクことが・・・・・・」

「――でね、亜美ったら番組のディレクターにね・・・」

「みんなあずさの水着ばっかり注目してるの。私の水着姿で会場を悩頃するはずだったのに・・・・・・何よその目は」

「そういえばこの前番組のプロデューサーが律子の大ファンで無理やりゲスト出演させようとしてたわね~」
「あの焦った顔! アンタにも見せてやりたかったわ」


「え? いつも持ってるこの子の名前? んー、アンタが一流になったら教えてあげてもいいわよ。にひひっ♪」

16: 2012/05/05(土) 22:40:38.61 ID:xKPe5O4j0
1ヶ月後

「見たわよ、アンタ達のライブ。なかなかやるじゃない。ま、ガンバリなさい」

「今日は新堂がつくったダックワーズを持ってきたわよ。感謝しなさい♪ ・・・・・・え? 知らないの!?」

「やよいも最近はリーダーらしくなってきたんじゃない?」

「ねえ、やよいにプレゼントあげたいんだけど・・・・・・何がいいかしら?」


「あら? 今日はやけに鳩が多いわね。ポーポークルッポ~・・・・・・何笑ってんのよこのバカ!」



さらに1ヶ月後

「やよいのカバン見た? あれ私があげたのよ。どう? 喜んでたかしら? ――そう、良かった♪」

「あ、このネクタイアンタにあげるわ。え? こ、これはやよいのプレゼントの『ついで』に買ったの」

「別に感謝してるわけじゃないわよ。ついでなんだからつ・い・で!」

「まあせっかくこの伊織ちゃんがプレゼントしたんだから大切にしなさいよ?」

「もし雑に扱ってるんだったら承知しないんだから。にひひっ♪」


20: 2012/05/05(土) 22:46:02.88 ID:xKPe5O4j0
数ヶ月後

「・・・・・・横、いい?」

「・・・・・・ねえ、私ってリーダーの素質ないのかしら? 3人がかりで天ヶ瀬って奴一人に負けたのよ?」

「正直、自信なくしちゃったわ。私たち竜宮は、もう――」

パチーン

「ッ!? ~~~痛ったいわね!! いきなりデコピンとか何すんのよ! この変態!」

「なんなのよ!? ・・・・・・『俺の初めての相談の時、何を言ったか』ですって?」

「覚えてるわよ! 自信の無い奴が・・・・・・あっ!」

「・・・・・・」


「・・・・・・そうね、そうよ! この私がこんな失敗程度でくじけるなんてらしくないわよね!」

「私はスーパー美少女アイドル伊織ちゃんなんだから! 昔の私とは違うんだから・・・・・・」

――落ち着いたか?

「んっ・・・・・・気安く頭撫でないでよ、バカ。変態」



23: 2012/05/05(土) 22:52:07.29 ID:xKPe5O4j0
――そして――

「ねえプロデューサー? 疲れたから肩マッサージしてくれない?」

「今度のオフ空いてる? ちょっと荷物持ち頼みたいんだけど」

「あんたこんな紅茶で満足してるの!? 信じらんない! 今度家に来なさい! 新堂のいれた紅茶を飲ませてあげるわ」

「くれぐれもパパに失礼のないようにね? 怒るとすっっごく恐いんだから」


「うぅ~ちょっと肌寒いわね・・・もうちょっと近寄りなさいよ」

「今日の収録は座りっぱなしだったからある意味キツかったわ・・・・・・椅子も硬かったし」

「正直このベンチに直接座ってるのもウンザリするわ。・・・・・・そうだ!」





「ねえ、あんたの膝の上に座ってもいい?」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

28: 2012/05/05(土) 22:58:31.14 ID:xKPe5O4j0
「伊織、最近楽しそうね? どうしたの?」

夕日が差し込んでいる事務所で律子がキーボードを打ちながら私に話しかけてくる。
竜宮小町もIA大賞をノミネートしてから律子は今までよりさらに忙しそうだった。

よく見ると目に少しクマができているじゃない。
キチンと寝てるのかしら?

「別に? なんでもないわよ。それより大丈夫なの? もし倒れたら困るんだけど」

私は律子と反対の方を向きながら答えた。
だって正面から話したらウソがばれてしまうもの。
意外と鋭いのよね、律子は。

「大丈夫大丈夫! もう少ししたら休み取るから」

そう言いながらも律子は手を止めなかった。
まあ律子はなんだかんだ言いながらも器量がいいから隙をみつけて休みをとっているのかもね。


・・・・・・がむしゃらに進むアイツと違って、ね。

29: 2012/05/05(土) 23:04:48.11 ID:xKPe5O4j0

今日はアイツと会う日ね。
何度も会う内にごく自然と『いつもの場所』に集まる日が決まっていった。
事務所から出て帰り道とは反対方向に歩き始める。

「今日は何を話そうかしら、~~~♪」

つい一週間前に発売されたシングル曲を口ずさみながら歩く。
そして思わず早歩きになっている自分に苦笑いした

「別に楽しみってわけじゃないわよ、あくまでもアイツが寂しそうだから・・・・・・」

思わず独り言を言ってしまう。・・・・・・変な人だと思われてないかしら?

そう、これは私がしょうがなくやってるだけ。
プロデューサーといろいろ相談している、ただ・・・・・・それだけよ。


「ハァ・・・・・・バッカみたい」

誰に言ったのかもわからないセリフをつぶやいたときにはすでに公園の入り口が見えていた。

32: 2012/05/05(土) 23:10:26.21 ID:xKPe5O4j0
私は何かを手帳に書き込んでいるアイツに見つからないようにこっそりとベンチの後ろに近づいた。
後ろから少しのぞいてみる。・・・・・・どうやら次のIA大賞の対策を練っているようね。

まったく・・・・・・こんなときくらい仕事をわすれてゆっくりしてもいいじゃない。

少しイタズラしてやろうかしら?
私は手に持っている100%オレンジジュースをプロデューサーのほっぺたに近づけた。


「お、伊織。ジュースありがとな」

――何よ、もっと驚きなさいよ。

「まあ後ろに居たの気づいてたからな、それに・・・・・・」

「こんなことするのは伊織くらいだからな、すぐわかるよ」

わかったようなクチ聞いちゃって・・・・・・私はそんなに単純じゃないわよ。
でも私のことを理解してくれているのはちょっとだけ嬉しい。

・・・・・・ほんのちょっぴり、だけど。

34: 2012/05/05(土) 23:17:26.67 ID:xKPe5O4j0
私はいつものようにプロデューサーの膝の上に座った。
すこし前までは説得しないと座らせてくれなかったけど最近ではもう何も言わずに座らせてくれる。

やっと主従関係ってものを理解したのかしらね。にひひっ♪

「そういえばアンタのユニットもIA大賞ノミネートされたんですって? やるじゃない」

765プロからは私たち竜宮小町と、やよい・響・真美の『4 tails』がノミネートされた。
これって結構スゴイことなのかしら?

ちなみにやよい達のユニットの名前は髪型からきているらしいわね。
確かにポニーテール、サイドテール、ツインテールだから4本の尻尾か。
まあプロデューサーにしては悪くはないんじゃない?

「はは、ありがとう伊織」

そう言いながらプロデューサーは私の名前を呼びながら頭を撫でてくる。
少しくすぐったい。

最近はこうやって頭を撫でられなるのも気にならなくなった。
ちょっと子供っぽい感じがしたから最初は嫌だったけど。

35: 2012/05/05(土) 23:23:39.01 ID:xKPe5O4j0
オレンジジュースを飲みながら公園を見渡した。
ハトのつがいが仲良く地面をつついてる。

私たちもあんな風に・・・・・・って何考えてんのよ私は!

「平和ねぇ・・・・・・」

めまぐるしく時間が進むアイドル活動で忙しい私にとって、変わらない景色があるこの場所とこの時間は
いつのまにか必要不可欠なものになっていた。


ずっとこれが続くといいわね――





「なあ伊織、話があるんだ。聞いてくれないか?」

36: 2012/05/05(土) 23:29:18.58 ID:xKPe5O4j0
辺りが暗くなり始めてそろそろ帰ろうとしたときにプロデューサーが後ろから声を掛けてきた。

「何よ、また今度で良いでしょ? 今じゃ無きゃ氏ぬわけじゃあるまいし」

どうせたいした話じゃないでしょ。
それなら急ぐ必要もないんじゃない?

「大事な話なんだ、今すぐ聞いてくれ」

真面目な声でプロデューサーが話した。
少し驚いたわ。プロデューサーがこんな雰囲気をしてるなんて今まで無かったから。

それにしても大事な話って何かしら?

そういえば前に撮影したドラマでこんなシーンあったわね。
暗くなった公園で大事な話があると言った男の人が女の人に告白を・・・・・・

告白を・・・

40: 2012/05/05(土) 23:35:18.90 ID:xKPe5O4j0
・・・・・・

・・・え?

――暗い公園、大事な話――

・・・・・・ってまんまじゃない! どっどどどうしよう!?
アイツが、私に、こっ告白!?

「伊織、俺――」

ちょ、ちょっと待って!! まだ心の準備が・・・・・・


「IA大賞が終わったらハリウッドに行くんだ」




・・・・・・へ?

ハリウッド? 

なに、それ。

42: 2012/05/05(土) 23:41:31.34 ID:xKPe5O4j0
「伊織? 伊織~聞いてるか~?」

プロデューサーは私が起きているか確認するように目の前で手をプラプラさせた。
私はそれを気にせずプロデューサーの膝の上を離れた。

頭の中がぐるぐるする。どういうこと?

――この時間が、終わる?

――プロデューサーと会えなくなるの?



そんなの――


「嫌よ・・・イヤ!!」

44: 2012/05/05(土) 23:47:09.25 ID:xKPe5O4j0

「伊織? いきなりどうし・・・・・・」

「触んないでよ!」

プロデューサーが伸ばしてきた手を払いのける。
とにかく、今は一人になりたい。

「・・・・・・帰るわ」

私は早歩きで公園の出入り口まで進んだ。
後ろで止まってくれという声が聞こえたけど聞こえないふりをした。

出入り口で振り返ったとき、プロデューサーは口を開けたままポカンとしていた。
ハトのつがいもどこかに飛び去っていった。この公園、こんな寂しい感じだったかしら・・・・・・?

それから私はここから逃げるように去った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

47: 2012/05/05(土) 23:53:31.26 ID:xKPe5O4j0

「新堂お疲れ様、下がっていいわよ」

「はい、お休みなさいませお嬢様」

バタン、と扉が閉まったのを確認してから私はベッドに飛び込む。

「ハァ、今日も疲れた・・・・・・」


あれから数週間たったけどまだ私の心からモヤモヤが消えない。
アイツともずっと会ってない。

あの後律子から詳しい話を聞いた。
IA大賞をノミネートされたユニットの事務所にはハリウッドに留学できる権利が贈られるらしい。

もちろんハリウッド留学はプロデューサーにとってはすごく価値のあるものでしょうね。

でも1年間アイツと過ごせなくなる、この事実が私にとっては受け入れがたかった。
ワガママなのはわかってる。けど・・・・・・

「ねえうさちゃん、私どうすればいいの・・・?」

寝転がりながら腕に抱いている私の親友に話しかける。
最近忙しかったからあまり遊んであげられなかったのよね。ごめんね・・・

48: 2012/05/06(日) 00:00:19.40 ID:+Fa8Rtnf0
こうして久しぶりにうさちゃんと話していると昔を思い出すわね。
パパ、ママ、お兄様・・・あんまりかまってくれなかったのよね。

新堂はいつも私のことを思って行動してくれている。感謝してもしきれないわ。
うさちゃん・・・うさちゃんだけは私の家で普通にそばにいてくれた。

世間からみたら何1つ不自由の無い暮らし、なのにどうして――

「どうしてアイドルになろうと思ったのかしら・・・・・・?」

・・・・・・決まっているじゃない。ここの物は全部パパの物、私自身の力で手に入れたものじゃない。
パパにもお兄様にも頼らずに自分の力で自分の欲しい物を手に入れる。
その自分だけの物を見つけるためにアイドルになろうって思ったのよね・・・・・・

私の歌、私の仲間、私の・・・・・・


――私のプロデューサー


50: 2012/05/06(日) 00:06:39.04 ID:+Fa8Rtnf0

そうよ・・・・・・なんで私こんなことに気づかなかったのかしら?

「欲しい物は自分の実力でとらなきゃ…ね? うさちゃん」

そもそもアイツがハリウッドに行く気なら主人の私の許可が無いとダメなんだから!
 
仮にも私の下僕なんだし、ね?

決めた! 明日はプロデューサーに会いに行って宣戦布告するわ。
気が付いたらもう12時をまわっていた。そろそろ寝なきゃね。



「おやすみ、うさちゃん」

お休みの挨拶をして私は枕に頭をうずめた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

53: 2012/05/06(日) 00:13:17.63 ID:+Fa8Rtnf0
「久しぶり、ね」

いつもの公園にいつものようにアイツはいた。

少し疲れているのかしら? 初めて会った時みたいな顔してるわね。

「……今日は座らないのか?」

プロデューサーが今の私にとって魅力的な提案をしてくる。けどね――

「せっかくだけど遠慮しとくわ」

今日はアンタに甘えにきたわけじゃないの。

「私は・・・アンタに勝負を挑みにきたの」

そう言いながら私はプロデューサーを指差した。

「いい? 今度のIA大賞で私たち竜宮小町がアンタたちに勝ったら、ハリウッドに行くのは辞めなさい!」

55: 2012/05/06(日) 00:20:37.04 ID:+Fa8Rtnf0

「・・・・・・いきなり何言ってるんだ? それに勝負って――」

うーん、いきなり言っても受けてくれないか。
ここは挑発するしかないかしら?

「あら? そんなに私たちに負けるのが怖いの? まあ気持ちはわからなくもないわよ」

「それに竜宮小町に負けたままハリウッドに行くなんて悔しくないの? 今のままだったら負け犬よま・け・い・ぬ!」

ど、どうかしら? さすがに単純すぎたかも――

「・・・・・・わかった。その勝負のったよ」
「確かにこのままじゃスッキリしないからな」

・・・・・・意外とすんなりいったわね。
もっと拒むかと思ったんだけど。

「言っておくが前の俺たちとは違うぞ、竜宮にも負けないっていう自信はある」

ふうん・・・言うじゃない。まあ最近は売り上げも抜かされてるけど・・・・・・
それに本気をだしたプロデューサーに私たちが勝てるのかしら・・・・・・?

ううん、やるのよ! 弱気になるなんて私らしくないわ!

59: 2012/05/06(日) 00:27:19.20 ID:+Fa8Rtnf0

「それじゃあ楽しみにしてるわ。そうそう、これからアンタは敵だから! にひひっ♪」

「敵って・・・・・・」

ふぅ、言いたいことを言ったらスッキリしたわ。
あとはIA大賞授賞式の日まで頑張るだけね。
本気の私たち、見てみななさい!

「もう遅いし私は帰るわ、じゃあね」

これからプロデューサーと少しの間会えなくなるけど、私は何でも無いフリをした。
ちょっと泣きそうになったのはナイショ。

「・・・・・・頑張れよ!」

出口まで歩いた時にプロデューサーが叫んだ。
ちょっと恥ずかしいじゃない、もう・・・・・・

「そっちも、ね」

誰にも聞こえないように私はつぶやいた。


61: 2012/05/06(日) 00:34:07.04 ID:+Fa8Rtnf0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『さあIA大賞の発表です! おおっと今私のもとに結果が入った封筒が届きました!』

胸がバクバクいってる・・・すごく緊張してきたわ。

『手が震えております! 早速開けてみましょう!』

何もたついてんのよあの司会者、しっかりしてほしいわね。

『それでは発表します!』

もうどんな結果でも悔いはないわ。
受け入れる覚悟はしてる。

『本年度のIA大賞に輝いたのは・・・・・・!』

――お願い!




64: 2012/05/06(日) 00:41:32.35 ID:+Fa8Rtnf0


~~数週間後~~


「プロデューサー! 向こうに行ってもきちんとご飯食べてくださいね!」

「兄ちゃんが帰ってくるころには真美、超セクシーになってるかんね! みとれても知らないよ~?」

「自分、プロデューサーが帰ってきたら沖縄料理ごちそうしてやるからな!」

ハリウッド行きの飛行機に乗る前に俺の育てたユニットのみんなが暖かい声をかけてきた。
もう少しここにいて話したいけどそろそろ時間だ。

「もうすぐ飛行機の時間だな・・・他に何か言っておくことあるか?」

「あ、プロデューサー! これ伊織ちゃんからです!」

やよいが笑顔で俺に手紙を手渡してくる。

伊織とはIA大賞で「おめでとう」と言われた以来、会っていない。
仕事や引き継ぎなどでお互い忙しかったこともあるけど、正直気まずかったのも大きい。
あのときの伊織、泣いてたから・・・・・・

「・・・ありがとう、飛行機で読むことにするよ。じゃあみんな元気でな!」

後ろ髪をひかれつつも俺は搭乗口へ進んだ。

67: 2012/05/06(日) 00:48:49.04 ID:+Fa8Rtnf0
―――――

プロデューサーへ

まずは見送りに行けなかったことを謝るわ、ごめんなさい。
どうしても外せない大事な仕事があったの・・・・・・。
というわけで手紙を書いたの。伊織ちゃん直筆の手紙が読めるなんて感謝しなさい!

あらためてIA大賞受賞おめでとう! 
結局アンタ達に負けちゃったわ。流石ね。
でも、私そんなに悔しくなかったの。おかしいわよね?

多分アンタと争ってるのが内心イヤだったんだと思う。
終わったあとに素直に「おめでとう」って言えたもの。
そりゃあちょっと涙はでたけどね。

アンタと少しの間離れるのは寂しいけどコレで関係が終わるってわけじゃないからね。

それから・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

68: 2012/05/06(日) 00:54:32.34 ID:+Fa8Rtnf0

最後にいっておくけど、今すごい仕事のオーディションを受けてるのよ!
何か知りたい? でも残念でした! アンタには教えてあげないっ!
まあそのうちすぐわかるわ、にひひっ♪


それじゃあまたね。


・・・浮気したら承知しないんだから。
アンタの膝の上は私専用なのよ? 覚えておきなさい!



                                伊織


――――


おわり?


69: 2012/05/06(日) 00:55:16.11
まだ終わるなよ

73: 2012/05/06(日) 00:57:02.88
ここからだろ?

74: 2012/05/06(日) 00:57:13.33
(第一部)おつおつ

77: 2012/05/06(日) 00:58:14.73 ID:+Fa8Rtnf0
あれから3ヶ月たった今、俺はハリウッドで猛勉強中だった。
あまり得意じゃない英語も現地で聞いているうちに日常会話はなんとかできるようになった。

今日は久しぶりに休みを取ったので近くの公園に休みに来ている。

「ハッキリ愚痴を言わせてもらうとハリウッド留学しんどいです・・・・・・」

思わず口に出てしまう。もちろん、やりがいはすごくあるんだけどな。

こうやって座っていると伊織とのやりとりを思い出す。
確か初めて公園でしゃべったときもこうやってベンチに座っていたときに――

「なに辛気くさい顔してんのよっ」

「うおっ!?」

突然ほっぺたに冷たい感触が襲う。
この声・・・・・・もしかして・・・・・・?

「い、伊織!? どうしてここに!?」

85: 2012/05/06(日) 01:03:43.21 ID:+Fa8Rtnf0

ここはハリウッドだぞ!? なんで・・・・・・

「にひひっ♪ 実は私・・・ハリウッド映画のオーディションに受かったの! すごいでしょ?」

映画? オーディション? 
あ、頭が痛い・・・

「はぁ!? そんなものいつ受け・・・・・・まさか!」

俺は大事に保存している手紙のことを思い出した。
飛行機で読んだときに意味深なことが書いてあったような・・・

「気づいた? 手紙に書いてあったオーディションがそうなのよ!」

「まあ、この伊織ちゃんの手にかかれば楽勝だったわ♪」

「あ、そうそう! 社長から伝言よ。『現地で水瀬君をサポートしてくれたまえ』だって」

しゃ、社長・・・なんで俺に直接言わないんですか・・・・・・
しかも伊織のサポート、これはキツそうだな・・・・・・

でも――

「よし! まかせとけ!」

すごく、楽しそうだ。


88: 2012/05/06(日) 01:09:19.38 ID:+Fa8Rtnf0


「にひひっ、きちんとサポートよろしくね。これからは私のパートナーなんだから・・・」

「私のために働くのよ? 嬉しいでしょ?」

「そうそう、この映画が成功したら私の大事なこの子の名前、教えてあげてもいいわよ?」


「私だけの・・・・・・プロデューサー」

「な、なんでもないわよ! それより・・・・・・」







「ここ、座らせてもらうわね♪」


ほんとのおわり

89: 2012/05/06(日) 01:09:39.23

100: 2012/05/06(日) 01:13:19.57 ID:+Fa8Rtnf0
久しぶりに書いたから疲れた・・・
誕生日に間に合わせるために最後駆け足だったスマン
結局間に合ってないけどまあバースデー後夜祭って感じで許してね

見てくれたひとありがとう

106: 2012/05/06(日) 01:18:01.44 ID:+Fa8Rtnf0
>>75
書いてないから違うよ


次は亜美真美の誕生日か・・・・・・

111: 2012/05/06(日) 01:23:50.29 ID:+Fa8Rtnf0
>>109
正直あんま書いてないんだ

春香「ハイご苦労様Death―」
P「うちのアイドルが全員非処Oだった」乗っ取り
P「今日も俺のイスに画鋲が置いてある」乗っ取り
とか

引用元: 伊織「ここ、座っていいかしら?」