1: 2014/06/07(土) 23:46:41 ID:.0w1GcyQ
男「姉のコネによって無理やり入学させられたこの学校」

男「地元だが、国内屈指の珍学校でもある」


男「だって入学が12月だし。そっからもうおかしいだろ」

男「その学校の名は――」


姉「インターナショナル"帰宅"学園高等部っ!」


男「なんてこったい」

4: 2014/06/07(土) 23:52:10 ID:.0w1GcyQ
男「数時間前」


姉「あんたの入学が決まったから転学届出してきたわ」

男「……えっ?」

姉「あなたは私と同じ高校に入るの。オッケー?」

男「マジかよ……」


男「受験勉強捨ててて正解だったわ」

5: 2014/06/07(土) 23:56:28 ID:.0w1GcyQ
男「でも、インターナショナル帰宅ってそもそも何?」

姉「行ったら分かるわ。インターナショナルな帰宅ね」

男「いやいや何にも修飾されてないからそれ!」

姉「うちには公的なワークスチームもあるのよ」


男「いやいや、帰宅のワークスチームって何さ」

姉「要は主賓に認められてる協力母体ね」


男「帰宅に必要なのか、それ――?」

7: 2014/06/07(土) 23:59:43 ID:.0w1GcyQ
姉「何言ってるの? 帰宅は過酷なんだよ!?」

姉「世界には舗装されてない帰宅路だってあるんだよ!」

姉「雨あり雪ありのサバイバル・ゲームなんだよっ!!」

姉「それを個人でやろうだなんて、実に滑稽だよ?!」


男「……そうかもな」トオイメ

姉「オッケー。これは私の命令よ」


姉「帰宅部に入部せよ」男「えっ」

8: 2014/06/08(日) 00:02:49 ID:k1wRaZvA
姉「帰宅部何個かと無所属しか無いのに!?」

姉「こんだけ帰宅制度が充実してるのに無所属だなんて――」


姉「就学支援金受け取れないし、第一滑稽だよ!!」

男「分かった分かった。じゃあ入部ってことで」

姉「大いに歓迎するよ。第二帰宅部へようこそ」


男「……第二?」

9: 2014/06/08(日) 00:04:23 ID:k1wRaZvA
姉「第一帰宅部は、方針がクズなんだよね……」

男「第一なのにクズなんだ……」

姉「確かにその方針のお蔭で全国有数の実力なのは否めないけどね」

男「ランキングとかあるんだ」

姉「グローバルランキングだよ! 履歴書に書けるよっ!」

男「帰宅部から一般職種を目指すの!?」


姉「いんや、それはもうたぶん帰宅で食っていけるね」

10: 2014/06/08(日) 00:04:59 ID:k1wRaZvA
男「帰宅ってそんなに世界的に認められてたんだ……」

姉「まぁ、世界大会だしね」


姉「ところで、第一帰宅部の方針は――」

姉「"実力の無い部員は即退部"だよ」


男「それ本当に帰宅部なの?!」

姉「信じられないでしょ。だから、あんたは第二ね」

11: 2014/06/08(日) 00:07:06 ID:k1wRaZvA
男「そういうことなら……了解かな」

男「でも、帰宅の技能とか特に具えてないよ? 大丈夫?」

姉「本来は具えてなきゃキツいけど、まぁ大丈夫かな」

姉「私達が、全力でサポートしてあげるから!」

男「帰宅部なのに……」


姉「じゃあ、明日入学式だから。起こされるのを待ってね」

12: 2014/06/08(日) 00:10:12 ID:k1wRaZvA
姉「翌朝のこと」


姉「おはよう、男!」

男「お、おはよう……」

姉「さぁ、登校するよっ! 早くっ!」

男「朝からはしゃぎすぎだろ……」


姉「登校は帰宅の準備だから!」キリッ

13: 2014/06/08(日) 00:13:20 ID:k1wRaZvA
姉「そして学校にて」


学園長「インターナショナル帰宅学園へ、ようこそ」

学園長「一月までは帰宅の練習に勤しむように。以上」


男「えっ」

14: 2014/06/08(日) 00:16:04 ID:k1wRaZvA
姉「あの人が学園長だね。高等部含む学園の長」

男「偉いだけにスピーチもエライ短かさだったね」


姉「……さて、部室に行こうか。みんなが待ってる」

男「部長は忙しいもんね、そうだよね」

15: 2014/06/08(日) 00:19:36 ID:k1wRaZvA
姉「ここは第二帰宅部・部室」

男「殺風景だね。ディスカッションテーブルに椅子が4つしかない」

姉「本来ならあと二人は来るはずなんだけど……」


男「えっ、二人しか居ないの?」

姉「まぁ、うちの花形は第一帰宅部だからね……」

姉「少し事の経緯を話すよ」

16: 2014/06/08(日) 00:20:16 ID:k1wRaZvA
姉「まず第一に、無理やり入部させちゃってごめん」

男「退学と入学もだな」

姉「それは、1月までに部員が4人は必要だったからなの」


男「たしかに、俺が居たほうが確実だな」


姉「たぶん、誰も入部しないし」ボソッ

17: 2014/06/08(日) 00:21:26 ID:k1wRaZvA
姉「そして、この部活にはあんまり予算が無い」

姉「これは、第一帰宅部の方針とうちが違うからだね」

姉「多少出してもらってるだえでも万々歳だよ」

男「なかなか辛い現実だな」


姉「ちなみに、うちには借金もあるしね」

男「おい」

18: 2014/06/08(日) 00:24:20 ID:k1wRaZvA
姉「まぁこんなところね。あっ、誰か来たわ!」


先輩「お疲れっすー」

姉「お疲れっすー。彼は同じく3年生の会長よ」

会長「会長です。趣味はナンパです。よろしくです」


男「こんなのが会長で大丈夫か!?」

姉「まぁ、だからホームルームが遅かったってのは、あるよね」

19: 2014/06/08(日) 00:27:43 ID:k1wRaZvA
会長「まぁそう冷たくしないでくださいよ。君が噂の進入部員?」

男「はい。無理やり入部させられました男です」

会長「まぁ男性男子に興味は無いから心配なさるな」


男「えっ、誰かもう襲われたんですか!?」


会長「拉致なら一人」男「ないわー」

20: 2014/06/08(日) 00:31:12 ID:k1wRaZvA
姉「ところで、会長含む私達はほとんど帰れないよ」

男「……世界大会、ですもんね。帰宅の」

会長「まぁ、世界紀行はなんだかんだ楽しいよ?」

姉「会長はどの言語でもナンパできるよね」


会長「Bien sûr! C'est un morceau de gâteau!」

姉「勿論!朝飯前だよ! だってさ」

男「誇っちゃうかそこ……」

22: 2014/06/08(日) 00:34:51 ID:k1wRaZvA
男「ところで、あと一人が見当たらないね」

姉「んー、もうすぐ来ると思うけど――あっ」


少女「す、すみません……遅れました……っ」

会長「君のような可憐な華が、咲き遅れるなんてまた珍しい」


少女「……私、実は動物なんです」

姉「知ってた」

23: 2014/06/08(日) 00:36:26 ID:k1wRaZvA
姉「紹介しよう。彼女は2年生の先輩で、うちのマネージャー」

先輩「新入部員の――男、さんですよね。よろしくお願いします」

男「よろしくお願いします」


会長「一通りメンバーも揃ったし、練習しようぜっ!」

姉「練習いいね練習! 行こう!」

先輩「あ、じゃあ私、事務室から鍵とってきますね」タッタッ

24: 2014/06/08(日) 00:37:00 ID:k1wRaZvA
男「見知らぬ倉庫の前にて」


男「ここは何の倉庫?」

姉「第二帰宅部の備品倉庫だね」

男「帰宅部なのに、備品とかあるんだ……」

姉「ちなみに、第一帰宅部の備品は多すぎてここにはないよ」

男「? じゃあどこにあるの?」


姉「学校の裏の敷地の南側半分」

25: 2014/06/08(日) 00:38:59 ID:k1wRaZvA
男「マジか……予算って大きいな」

姉「まぁ、予算の壁を覆すのが私達の仕事だよっ!」

会長「それに、現地人の手を借りるのも厭わないッ!!」


姉「いや、それはレギュレーションに抵触するからやめて」

会長「分かってますよ、そんなこと」

男「レギュレーションとかあるんか――」

26: 2014/06/08(日) 00:39:38 ID:k1wRaZvA
姉「あるね。実はFIAっていう世界の組織が定義してるよ」

男「へぇ……あっ、先輩さんが来た」

先輩「お待たせしました。カギ開けますね」

会長「待ってました! さすが君臨した救世主っ!」


先輩「開きましたっ」

男「おおーっ……!!」

27: 2014/06/08(日) 00:41:11 ID:k1wRaZvA
男「明らかに帰宅に使わないと思わしき自動車が2台」

男「それと、メモと落書きとノートが一杯……」

男「……って、どれが備品なの?」

会長「あなた、まさか、本気で言っているのですか?」


会長「このクルマですよォォっ!!!」


男「いや、こんなだらけの派手なのを、どうやって?」

28: 2014/06/08(日) 00:42:45 ID:k1wRaZvA
姉「ねぇ、男? 一般的に車ってどうやって使うと思う?」

男「乗る、とか」

姉「そう。じゃあ私達も乗らなきゃ滑稽だよ!!」


男「えっ、じゃあ、帰宅部って何?」

先輩「……あの、っ、実はですね――」

29: 2014/06/08(日) 00:43:20 ID:k1wRaZvA
先輩「帰宅部世界大会では、帰宅の早さを競うんです」

先輩「昔は、そうじゃなかったらしいんですけど、今は」

先輩「もっぱら帰宅の早さを競います。そして、車はその道具です」

男「……なるほど、合点がいった」


男「レースかなんかだな?」

先輩「えっ……知らないで入部したんですか……?」

30: 2014/06/08(日) 00:44:10 ID:k1wRaZvA
男「そうです……けど、何か問題でしょうか」

姉「いや? まぁ問題ないんじゃない? 実践あるのみだよ」

男「そういうもんなのか……でも、免許持ってないぞ?」


姉「生徒手帳は帰宅競技において免許として使えるよ」

男「マジかっ!?」


姉「その代わりといっちゃナンだけど、一切の補填は効かないよ」

31: 2014/06/08(日) 00:48:04 ID:k1wRaZvA
男「補填?」

会長「まぁ、帰宅は極めると危険ですからねー。氏者も出る」

男「なんか怖いなぁ。それでも保険は降りないのかー」

会長「その代わり、警察にも基本は捕まらない」


姉「あっ、だから生徒手帳は大切に扱ってね!」

男「はーい」

32: 2014/06/08(日) 00:51:14 ID:k1wRaZvA
姉「練習を始めよう! 私は男の同伴をするよ」


先輩「……よろしくお願いします、会長さん」

会長「そろそろ敬語は不要だよ?」

先輩「……行きましょう」


会長「なんか不憫だなー……もう一年来の付き合いなのに」

34: 2014/06/08(日) 00:54:43 ID:k1wRaZvA
姉「さぁ、男はとりあえず助手席に座って」

男「助手席……左側だよね」

姉「あぁ、ごめん。助手席は右側だよ」

男「……本当だ。じゃあ右に座るよ」


姉「じゃあ、シートベルトをやたらしっかり締めてね!」

男「なんかやたらしっかりしてるっ! 着け方が分からん!!」

姉「慣れるしかないね。6点式とか12点式とかが一般的だね」

35: 2014/06/08(日) 00:58:11 ID:k1wRaZvA
男「やっぱり危ないのか?」

姉「やっぱりそこは切っても切れない縁だねー」

姉「森から野生動物! とかもザラだからね。仕方ない」


男「そこは『不運だった』で済ませられちゃうの?」

姉「そうだね。人為的じゃなかったら、大抵は」

男「人為的なのもあるんだね」

36: 2014/06/08(日) 01:00:24 ID:k1wRaZvA
姉「あんまり無いかな」

男「無いんだ」

姉「観客が飛び出して! なんかもあったらしいね」


姉「ちなみにその扱いは『天災』だよ」


男「そんな……」

37: 2014/06/08(日) 01:01:51 ID:k1wRaZvA
男「数分後」


姉「♪」

男「無作為の運転だけど、上手いね」

姉「何をもって上手いとしてるの?」

男「曲がるのがスムーズだし、なにより酔いづらいし」

姉「あははっ! それは嬉しいね! ありがとっ」


姉「本番はきっと酔うから、覚悟しときなよ」

男「……承知しました」

38: 2014/06/08(日) 01:02:56 ID:k1wRaZvA
男「さらに数分後」


姉「オッケー。今日の調子は悪くないね」

男「何をもってのオッケーなんだ?」

姉「特に何も無いけどね。パイロンジムカーナは」


男「……憧れるよ」

姉「やる?」


男「……とりあえず、さわりだけ」

39: 2014/06/08(日) 01:04:54 ID:k1wRaZvA
姉「さわりだけ教えるね。まず足元を見て」

姉「一番右はアクセル。踏むと加速してくれるよ」

姉「真ん中はブレーキ。こっちは踏むと減速するよ」

姉「最後に、左側はクラッチだけど……説明が難しいなぁ」


姉「次に、男の左にある棒のうち、奥の棒はギアボックス」

姉「これをいじるときには、クラッチを必ず踏んでね」

姉「ふふふ」

40: 2014/06/08(日) 01:07:49 ID:k1wRaZvA
男「笑う要素あったか?」

姉「いいの。そして、手前にあるのはサイドブレーキね」

姉「曲げるためのブレーキだから、急旋回したいときに引くのよ」


姉「男の奥にあるのは計器類ね。中央にあるのはタコメーター」

姉「要は回転数を表示してるんだけど、赤ゾーンに入ったら」

姉「ギアボックスのギアをひとつ分上げてね。2なら3」

41: 2014/06/08(日) 01:10:52 ID:k1wRaZvA
姉「ちなみに、この車はかなり回転力が強いわ。注意してね」

姉「右は速度。速さと同義かもね。いろいろ使えるわ」

姉「左はごちゃごちゃしてるけど……まぁ、いいや」


男「えっ」

姉「……まぁ、燃料計とかがあるわ。たぶん」


姉「ごめん。あんまりメカとか詳しくないんだ、えへへ……」

42: 2014/06/08(日) 01:14:01 ID:k1wRaZvA
男「……まぁ大事なのはきっと実践だね。大丈夫だよ」

姉「男……ありがとっ! 早速行こう!」


姉「数分後のこと」


男「……」フラフラ

姉「まぁ、慣れるまでの辛抱かな――」

45: 2014/06/08(日) 22:43:25 ID:k1wRaZvA
先輩「その数日後」


先輩「姉さんも、皆に続いて、真面目に練習しましょうよ」

姉「ねぇねぇ先輩ちゃん?」

先輩「はい、何でしょうか」

姉「先輩ちゃんって、なんだか猫っぽいよね」


先輩「猫……では、それは何故でしょうか?」

46: 2014/06/08(日) 22:47:03 ID:k1wRaZvA
姉「なんとなくだけどさ、ほら、雰囲気?」

先輩「あんまり自覚無いですが……どうなんでしょう」

姉「いや、猫ってよりは子猫って感じかなー」


先輩「子猫……ますます自覚無いです」

姉「ほら! 子猫って……そう! 可愛いじゃないっ!」


先輩「可愛い……って……」///

47: 2014/06/08(日) 22:50:31 ID:k1wRaZvA
姉「じゃあ今から先輩ちゃんは子猫ちゃんだね!」

子猫「何でですかぁ……はっ」


姉「さては、自覚し始めたね?」

子猫「そ、そんなこと……さぁ、練習しましょう、練習!」


姉(やっぱり、子猫だなぁ……可愛いなぁ……)

48: 2014/06/08(日) 22:59:18 ID:k1wRaZvA
姉「数十分後、車内にて」


姉「そういえば子猫ちゃん」

子猫「あ、やっぱりその呼び方なんですね……」

姉「そうだよ? 猫足のセッティングが上手いからね」


子猫「あぁ……なるほど。ようやく理解できました」

49: 2014/06/08(日) 23:01:28 ID:k1wRaZvA
姉「本当に上手いよね……私は硬めのほうが好きだけど」

子猫「いえいえ姉さん。サスペンションは帰宅の"足"です」

子猫「それくらい大事なんですよっ」

姉「そりゃそうだ。足だもの」


子猫「……実は分かってないですよね?」

子猫「私が、しっかりと分からせてやります……!」

50: 2014/06/08(日) 23:11:17 ID:k1wRaZvA
子猫「先ず、サスペンションとはタイヤと車体をつなぐ部分です」

姉「あーあ、また始まっちゃった……終わらないよこれ」

子猫「もとはといえば姉さんが私のこと、こ、子猫だなんて!」

姉「いいじゃない」


子猫「でも、動機が不純なんですっ!」

姉「でも、子猫ちゃんの猫足セッティングには感謝してるよ?」

52: 2014/06/09(月) 00:05:40 ID:VTKmeyik
子猫「感謝は実績で示してください! 前年度だって――」

姉「あーはいはい。でもその話はしないって約束したでしょ?」


子猫「……っ、つい、熱くなってしまいました……」

姉「まぁ、実績で示せてないのはみんな同じだけどねぇ」


子猫「……私も、今年こそは――」

姉「その意気だよっ、子猫ちゃんっ!!」

53: 2014/06/09(月) 00:10:57 ID:VTKmeyik
子猫「それで、足回りはおおよそ3つの部品から構成されています」

姉「そっちは続けるんだね」

子猫「アーム、ダンパー、そしてスプリングです」

姉「質問だけど、どこまで制約されてるの?」


子猫「……いえ、特には。でも懸架方式まで変えちゃうのは駄目かと」

姉「へぇ」

54: 2014/06/09(月) 00:11:34 ID:VTKmeyik
子猫「例えば、この車の前輪はストラット式なのでやや貧弱です」

子猫「ですが、これをより強固なマルチリンク式などに変更は出来ません」

姉「出来ればかなり楽なんだけどねぇ」

子猫「でも、FIAはレギュレーションオタクなので」

姉「酷い言われようだね、そりゃ」

子猫「ですが、そんなFIAルールにも例外はあります」

55: 2014/06/09(月) 00:15:08 ID:VTKmeyik
子猫「確か……リアサスペンションを変更できたっけかな?」

姉「ずいぶん適当だね……私は何も言えないけどさ」

子猫「あの数百ページもある英文を記憶するって――無茶ですよ」

姉「やっぱりレギュレーションオタクで問題ないみたいだね」

子猫「毎年変更されてますし」

姉「ねー」

子猫「ねー」

56: 2014/06/09(月) 00:18:00 ID:VTKmeyik
子猫「ですが、形式以外は結構自由なわけです」

子猫「そこで、メカニックの腕の見せ所ですっ!」


子猫「タイヤの設置力に大きく影響するのは、3つの要素です」

子猫「空力、タイヤグリップ、足回りです」


子猫「ですが! そのうち空力は変更が効きづらいです!」

57: 2014/06/09(月) 00:18:35 ID:VTKmeyik
姉「効きそうなのに」

子猫「車体の全長・幅が制限されていますから、大掛かりなのは無理です」

子猫「そしてタイヤ選びですが、それはまた後日話します」


姉「話すんだね」

子猫「こちらもかなり重要な要素ですからね」

58: 2014/06/09(月) 00:19:27 ID:VTKmeyik
子猫「つまり、実質はサスペンションで走っているようなもの!」

姉「いや、それは言いすぎでしょ……」


子猫「……こほん、ニキ・ラウダさんは知っていますか?」

姉「馬鹿にしないでよ。元F1ドライバーでしょ?」

子猫「そうです。彼がフェラーリに移籍したときの、こんなエピソードがあります」

59: 2014/06/09(月) 00:22:10 ID:VTKmeyik
子猫「当時、フェラーリF1ではマシンの批判が禁止されていました」

姉「ってことは、1970年代のことだね」

子猫「その際アレジは、フロントサスペンションに文句をつけました」

子猫「そして、"1秒以上速く走らないとクビ"と宣告されました」

姉「そりゃひどいね」

子猫「ちなみに、ちゃんと1秒以上速く走って一命を取りとめました」

姉「そんなに危険なの!?」

60: 2014/06/09(月) 00:24:25 ID:VTKmeyik
子猫「歴史人はいつだって偉大です。偉大だから歴史に残るんです」

子猫「それはさておき、サスペンションはそんな部品です」

子猫「柔らかくすると曲線で粘り、硬くすると直線で安定します」

子猫「あまり柔らかくすると速度が落ちます」

子猫「しかし反面、硬くしすぎると粗い路面で跳ねます」


子猫「それらを極めたバランスこそが、この猫足なのです!!」

61: 2014/06/09(月) 00:27:15 ID:VTKmeyik
子猫「ちなみに、アーム・スプリング・ダンパーは一緒に弄ります」

子猫「その際、車高やキャンバー角・トー角なども弄れます」

子猫「姉さんも、たまには弄ってみたらどうですか?」

姉「……」ウトウト


子猫「もう、知らないです」ボソッ

子猫「姉さん、日が暮れますよ、起きてくださいっ!」

67: 2014/06/10(火) 22:49:02 ID:p/Mn79DI
会長「時は少しだけ遡り、放課後が始まって間もない」

会長「姉と猫耳が乗っていない方・カーナンバー#2にて」


会長「さて男くん。昨日、操作方法は教わったんだっけ?」

男「忘れてなければ、大丈夫です」ドアカチャッ

会長「それでもまぁ、助手席に乗るんだね」ドアガチャッ

男「お姉ちゃんの運転は乗りましたけど……まぁ」


会長「イマイチ信用できないって? まぁ信用されるのもキャラじゃない」

68: 2014/06/10(火) 22:53:09 ID:p/Mn79DI
男「ごめんなさい。でもビビリは治せないです」

会長「何事も諦めちゃ駄目さ……まぁ、練習を始めようか」


会長「ペースノートを、読んでくれないか?」

男「……ペースノートって、何でしょうか?」


会長「……」ハァ

男「?」

会長「じゃあ、ちょっと説明を入れつつ、やることにしようかね」

69: 2014/06/10(火) 23:01:15 ID:p/Mn79DI
会長「では第一問。われわれ帰宅部は1月から、何をする予定でしょうか?」
                           (2013・センター試験・改/配点1)

男「……帰宅、です。カーレースの一種だと思われます」

会長「まぁあらかたオッケーだが、センターは4択だから取れないぞ――」

男「センターって、大学入試センター試験ですよね!? そんな問題出ませんよ!」

会長「いや、いいんだ。何でもない。忘れてくれ」

男「そうですか……」ハァ


会長「帰宅やレースってのは慣例名だな。一般的には"ラリー"と呼ばれている」

70: 2014/06/10(火) 23:07:12 ID:p/Mn79DI
男「……聞いたことしかないな。聞いたことはあるが」

会長「人はそれを"知らない"って言うんだ。冷酷だよな」


会長「ラリーは英語で書くとR,A,L,L,Y、R-Al-Lyを原型としている。英語は得意か?」

男「まぁ、人並みには。でもリスニングは無理ですね」

会長「将来困るかもだな。まぁ英語は俺に任しとけっ!」


男「あ、ナンパとかしないんで大丈夫ですよ」

会長「ちゃうわ、ドアホ」

71: 2014/06/10(火) 23:11:25 ID:p/Mn79DI
会長「意味としては"再び此処へ集う"だな。すなわち"帰宅"だ」

男「なるほど、だから帰宅部なんですね」

会長「その通り。でも、昔は今と違ってスピード勝負じゃなかったんだ」

男「では、何勝負だったんですか?」


会長「たぶん、体力勝負だな。それか、機転とか計算力とか」

会長「とにかく、そこまでスピードは重要じゃ無かったんだ」


会長「まぁ、坂は全速力じゃなきゃ登れなかったぐらい昔の話ではある」

72: 2014/06/11(水) 00:03:06 ID:opwexppw
男「だいたい何年前くらいなんですか?」


会長「……記憶が正しければ、だがな。1911年――だいたい100年前だ」

男「マジか……まだ明治時代ですかね」


会長「まぁ、その頃は5日くらいの競技で、競争ではなかったらしい」

会長「でも規定平均時速はあったから、計算機片手にやってたそうな」

男「なかなか複雑ですね」

会長「その"現在のペースをメモするノート"が、今のペースノートの原型だ」

73: 2014/06/11(水) 00:07:15 ID:opwexppw
会長「そして、当時のラリーストたちは皆モンテカルロを目指していた」

会長「再び集まる、とはこの事だな」


会長「って、歴史の授業で習った」

男「……授業あるんだ、この学校」

会長「安心してくれ。英語以外まともな授業はないっ!」

会長「ちなみに、英語もリスニングとかが主になるがな――」


会長「ま、ペースノートは現代ではもっぱらルートやコツなどが書いてあるな」

74: 2014/06/11(水) 00:13:01 ID:opwexppw
男「それで、どこにあるんですか?」

会長「ああ、目の前の段……ダッシュボードの上にあるぞ」

男「本当だ……綺麗な字で色々書いてあります」

会長「ああ、それを書いたのは後輩ちゃんだ」


男「後輩さん、ですか……綺麗な字ですね」

会長「俺としては"情報が少ねぇ!"って言いたいがなぁ」


男「いや、かなり色々書いてありますけど……っ」

75: 2014/06/11(水) 00:21:31 ID:opwexppw
会長「ほれ、これ俺のペースノート。モンテカルロのコルデ・ブロースのだな」


男「……これ、情報多すぎてどれを読めばいいのか分からないです」

会長「そこはドライバーによるな……姉とかには、ほとんど必要ないぞ」


会長「姉には、太陽の向きとコーナーの路面状態だけ読めばいい」

会長「あいつは、そういうとこノリでできちゃうんだよな……憧れるさ」

男「会長さんは、どれくらい必要ですか?」

会長「んー……向きと進入速度、それから留意点くらいかな。俺は」

76: 2014/06/11(水) 00:28:24 ID:opwexppw
会長「じゃあ、実際に読んでみてくれ。"ホーム"ってやつな」

男「分かりました――100m,右,約90度,40km/s,ショートです!」

会長「敬語はいらんぞ! 逆に怖い!」ブロロロロキィィ

男「はい! 27m,右,30度,20-30km/s,出口重視でs」

会長「もう少し、早口にできるか?」キィッ ブロロロ

男「はいっ!  ――」


会長「いやー、実に危なっかしいね……!」

77: 2014/06/11(水) 00:32:05 ID:opwexppw
男「ごめんなさい! 俺、まだまだ未熟で――」

会長「第二帰宅部でやる限り、ドライバーとコ・ドライバーは両方できる必要がある」

会長「あ、コ・ドライバーってのは今の男みたいな。別名ナビゲーター」


会長「ルール的にはその両者が入れ替わるのは問題ない」

会長「だが、人数が足りないともしもの時に困るからな」



会長「……せめて、全員が無事に帰ってくるためには、必要なんだよ」

78: 2014/06/11(水) 00:37:26 ID:opwexppw
男「えっ……?」

会長「――っと、口が滑ったな……まぁ忘れてくれたまえ」

男「? はい、分かりました」


会長「ちなみに、コ・ドライバーはレッキっていうのも行うな」

会長「これはコースの下見のことで、レッキをもとにペースノートを作るわけ」


会長「こうやって色々あるけど、俺はコ・ドライバーの方が好きだな」

男「それはまた、どうしてでしょうか?」

79: 2014/06/11(水) 00:42:02 ID:opwexppw
会長「そもそも俺、コ・ドライバー志望で第一帰宅部に入ってたんだ」

会長「でもその方針を、俺は心底懼れていたんだ」

会長「一年生のときには、とりあえず修行を積んだね」


会長「おかげでこうして、初対面でナンパできるくらい口が回るようになった」

男「逆じゃなかったんですね」


会長「……さぁな? まぁどうあれ男には興味ないから安心しろ」

男「……」ハァ

80: 2014/06/11(水) 00:46:55 ID:opwexppw
会長「でも2年になったとき、俺は見ちまったんだよ……」

会長「ドライバー志望の1年生の女の子が、部長に脅されてたんだ」

会長「『お前は、ドライバーには向いてない!』ってな」

男「……っ、それは……どうなんでしょう」

会長「正直、憤りを覚えたね、あの時だけは――」

会長「だが終わりじゃない。その女の子は反抗してたんだ」

会長「『才能によって努力が摘まれるのは、おかしい……ッ!』って」

81: 2014/06/11(水) 00:51:38 ID:opwexppw
会長「そこで一度部長に殴られてからは、泥沼だったね」

会長「それでもその女の子は、諦めず、殴り返さなかった」


会長「そして、最後の一発が彼女に下されたとき、彼女は気絶した」

男「そんな……」

会長「部長はまんざらでも無さそうな面してやがったよ……忘れやしないね」


会長「思わず、衝動的に、俺は退部を宣言してたよ」

会長「その女の子を、保健室に拉致するために、な」

82: 2014/06/11(水) 00:56:16 ID:opwexppw
会長「……っと、そいつが今の先輩ちゃんってわけだ」

男「」ウルウル

会長「まったく……涙もろいのって、血なのかな……ははは」


会長「泣き止んだか? だったら、ドライバーズシートにつくがよい」

男「あっ、こんどは俺がやるんですね、分かりました」


男「準備オッケーです、会長さん」

会長「この会長の本気、見せてあげようではありませんかっ!!」

83: 2014/06/11(水) 01:04:33 ID:opwexppw
会長「――ワンハンドレッド,ミディアムライト,スピード:フォーティー,ショート」ペラペラ

男「凄い……情報が的確に、すばやく認識されてる気がするっ!」

会長「サーティー,タイト・ライト,アクセラレーションッッ」スラスラ

男「なんだか、必要な情報以外がうまくカットされてる気がする――」

会長「そこもウデだね。  フィフティー,ルーズレフト,――」


男「つ、疲れました……よっ……」

会長「……なんと! 姉には及ばないが、現・最速記録だ!!」

84: 2014/06/11(水) 01:09:07 ID:opwexppw
男「……嘘だぁ」

会長「ホント。会長は嘘付かないからね」


男「本当だ……お姉ちゃんは3秒以上速いけど……」

会長「まぁ姉は、ターマック(舗装路)の天才だからな。血、かもな」

男「初めてなのに……実感ないです」


会長「でも、やれば、もっと縮むと思う。こっから頑張ろうぜ、男っ!」

男「はいっ!!」

89: 2014/06/11(水) 20:09:02 ID:opwexppw
姉「練習後」


姉「――ということで彼女の名前は子猫ちゃんになりましたっ!」

会長「確かに猫らしくて繊細だな……賛成するよ」

男「……本人の意思は確認したの?」

姉「したよ! 許可はもらったー」

子猫「……」コクリ


男「じゃあ、今後もよろしくお願いします、子猫さん」

90: 2014/06/11(水) 21:06:52 ID:opwexppw
子猫「男さんはサスペンションについて、なにかご存知ですか?」

男「いえ、まったく……」

子猫「……それはそうと、今週末、みんなでどこかに集まりませんか?」

姉「本当!? ご飯おごってもらえるのはうれしいな!」

会長「じゃあ、今後の日程とかもついでに話しましょうか」


姉「それ、週末である必要ある?」

会長「まぁいい機会だしさ。親睦会って事で」


姉「オッケー! じゃあ、今日は解散!」

92: 2014/06/11(水) 22:13:32 ID:opwexppw
強引な姉の行動。
会長の意味深な言葉。
先輩の過去。
そして、それらに翻弄される男は、
必氏に、
されども楽しそうに、
辛く厳しい現実の中を、生きてゆく。

悠久の"帰宅"がいま、始まろうとしていた――

94: 2014/06/11(水) 22:19:11 ID:opwexppw
姉「……」

姉「はい! 体験版なのでここまで!」

姉「本当は、ここからが本番なんだけどね……まだ帰宅してないし」


姉「ってことだから、私は製品版で待ってるからね!」


姉「あんたの購入が決まったから、予約特典先に貰っといたわ」




姉「帰宅部に入部せよ」男「えっ」 完

◆GYD5w6gAss先生の次回作にご期待下さい!

95: 2014/06/11(水) 22:24:53 ID:opwexppw
また連投しちゃいましたね。ほんと、機械は実に苦手です。
重大なミスに気が付きつつ、書き溜めの重要さに気が付きつつ……略
今度はしっかり、製品版として書き溜めてから上げるのですよ。

それではしばし、そして少しの間、皆さんさようならです。

とりあえず、書いてる身としては、やはりチョコレートでしたよ!
チョコレートでした!               ◆GYD5w6gAss

引用元: 姉「帰宅部に入部せよ」男「えっ」