1: 2021/01/26(火) 19:38:14.148 ID:IGCnBfiR0
社長「いいか、成果だ! 成果を上げろ! 成果を上げられない社員は社員じゃない!」

男「……」


上司「今月の営業ノルマに全然届いてないじゃないか! このクズ!」

男「すいませんすいませんすいません!」


社員「オラッ、俺の酒が飲めねえのか! 飲めよ! この会社は上下関係絶対なんだよォ!」

男「も、もう……」ウプッ



男「もう嫌だ……もう限界だ! 俺はブラック企業を辞める!」

2: 2021/01/26(火) 19:41:11.732 ID:IGCnBfiR0
男「……」カタカタ

男(昔テレビで特集やってた、若者だけで山奥で自給自足みたいな生活してる村……)

男(……あった! さすがにホームページぐらいはあるんだな)

男(えーと、受け入れてもらうには……ふむふむ、そんな難しい手続きはいらないのか)

男(来る者拒まずって感じだ)

男「よし、行くか! 俺は自然と共存するんだ!」

4: 2021/01/26(火) 19:44:09.681 ID:IGCnBfiR0
ガタンゴトン… ガタンゴトン…

男(電車にながーく揺られて……)



ザッザッザッ

男「うわぁ、ホントに山奥だなー。こんなとこで人が暮らせるのかー?」

男(これでも昔から足は速くてこういう道も苦じゃない……ま、社会という道じゃ通用しなかったけど)

男「あった! あれだ!」

7: 2021/01/26(火) 19:47:16.683 ID:IGCnBfiR0
男「初めまして」

リーダー「いらっしゃい」

女「こんにちはー!」

男「ぜひ、今日から仲間入りさせてもらいたく……」

リーダー「俺たちコミュニティは君を歓迎するよ」

リーダー「理不尽な人間社会のことは忘れ、ここでのびのびと暮らして欲しい」

男「ありがとうございます。よろしくお願いします!」

8: 2021/01/26(火) 19:51:04.930 ID:IGCnBfiR0
リーダー「ここが君の家だ。粗末な小屋だが……」

男「いえいえ、これで十分です」

リーダー「さっそく食事を用意しよう」

野菜料理を中心としたメニューが並べられる。

男「わっ、おいしそう!」

女「おにぎりも作ってきたわ」

男「このお米も……」

女「もちろん、私たちが田植えして作ったのよ」

モグモグ… パクパク…

男「どれもとてもおいしいです!」

9: 2021/01/26(火) 19:55:16.956 ID:IGCnBfiR0
夜になる。

リーダー「今日は新しく加わってきた仲間を歓迎しよう!」

女「自己紹介どうぞ!」

男「先日まで会社勤めをしていたのですが、今度こちらに加わることになりました」

男「よろしくお願いしますっ!」

巨漢「おう、よろしく!」

仲間「これからは同志だ」

パチパチパチパチパチ…

男(よかった……歓迎されてるようだ)

10: 2021/01/26(火) 19:58:42.109 ID:IGCnBfiR0
ワイワイ…

リーダー「じゃあ、乾杯しよう」

リーダー「君もどうぞ」

男「このお酒は?」

リーダー「俺たちが独自に作ったものさ」

男「あれ、だけど、お酒って勝手に作っちゃいけないんじゃ……」

巨漢「堅いこというなって!」

女「そうそう、これでお金儲けしてるわけじゃないし!!」

男「そうですよね!」グビッ

男「んまいっ!」プハーッ

男(よかった……この村に来て本当によかった……! 俺は人間らしい生活を手に入れたんだ……!)

14: 2021/01/26(火) 20:02:18.486 ID:IGCnBfiR0
翌朝――

「起きろーっ!」

ガンガンガンガンガン!

「起きろーっ!」

ガンガンガンガンガンガンガンッ!

男「な、なんだぁ?」

仲間「起きろ! 一日が始まるぞ!」

男「え、ええ……? まだ日も昇ってませんよ……?」

仲間「ここの一日は早いんだ。もうみんなとっくに起きてるぞ」

15: 2021/01/26(火) 20:05:24.135 ID:IGCnBfiR0
すでに男以外全員が集まっていた。

リーダー「遅い!」

男「す、すいません」

リーダー「この村では、みんなバラバラでは生きていけない」

リーダー「この村が一つの生き物とするなら、みんなはその細胞のようなものだ」

リーダー「細胞がきちんと働かねば生き物は体調を崩してしまう。だから生活リズムを乱してもらっては困る」

男「気をつけます!」

男(昨日までとはまるで別人だ……)

リーダー「では三ヶ条唱和ッ!」

16: 2021/01/26(火) 20:08:35.036 ID:IGCnBfiR0
リーダー「一つ、みんなで助け合うこと!」

「一つ、みんなで助け合うこと!」

男「一つ、みんなで助け合うこと」

リーダー「男君、声が小さい!」

リーダー「一つ、集団の和を乱してはならない!」

「一つ、集団の和を乱してはならない!」

男「一つ、集団の和を乱してはならない!」

リーダー「一つ、働かざる者食うべからず!」

「一つ、働かざる者食うべからず!」

男「一つ、働かざる者食うべからず!」

18: 2021/01/26(火) 20:11:34.935 ID:IGCnBfiR0
リーダー「畑を耕してくれ。君の担当はここから、あの線までだ」

男「分かりました」

男(畑なんか耕したことないけど……)

男「えいっ、えいっ!」ザクッザクッ

男(昔話なんかじゃお爺さんがやってるけど、かなりの重労働だな……)

「おーい、もっとペース上げろ!」

男「は、はいっ!」

19: 2021/01/26(火) 20:14:21.081 ID:IGCnBfiR0
男「手がマメだらけだ……」

リーダー「さあ、みんな昼食にしよう!」

男「よかった……やっと休める」

リーダー「コラコラ、君はダメだよ」

男「えっ……」

リーダー「君はまだ割り当てられたエリアを耕してないだろう。それまで食事はできないよ」

男「お願いします、お腹が減って……」

リーダー「ダメダメ! 例外は認めない! 例外を認めると集団の崩壊に繋がるからな!」

20: 2021/01/26(火) 20:17:43.194 ID:IGCnBfiR0
男「やっと終わった……。ご飯を食べれる……」

女「次は田んぼの手入れをしてもらうわ」

男「へ……?」

女「雑草を抜いたり、害虫を取り除く作業よ。田んぼってデリケートだから」

男「ちょっと待って下さい。まだ食事できてなくて……」

女「時間が押してるの。食べてる時間なんてないわよ。スムーズに作業できなかった自分を恨みなさい」

男「はい……」

22: 2021/01/26(火) 20:20:03.110 ID:IGCnBfiR0
男「ひい、ひい、ひい」

リーダー「なーにやってる!」

巨漢「チンタラしてんじゃねえ!」

女「そんなんじゃ、日が沈んじゃうわよ!」

男「す、すいませんっ!」



男(畑を耕して、田んぼを手入れして、用水路を見回って……やっと一日が終わった……)

23: 2021/01/26(火) 20:22:28.552 ID:IGCnBfiR0
男「早起きできたけど、体じゅうが痛い……」

ガンガンガン!

男「!」ハッ

ガンガンガンガンガンガンガンッ!

仲間「早くしろ! 昨日に続いて遅刻する気か!?」

男「今行きます……!」

24: 2021/01/26(火) 20:24:19.799 ID:IGCnBfiR0
男「一つ、みんなで助け合うこと!」

男「一つ、集団の和を乱してはならない!」

男「一つ、働かざる者食うべからず!」



男「ひい、ひい、ひい……」

リーダー「おいおい昨日より動きが悪いじゃないか」

男「手にマメができちゃって……作業を減らしてもらえませんか」

リーダー「ダメだ! マメなんて我慢すればいい! 終わるまで休むことは許さないからな!」

25: 2021/01/26(火) 20:27:15.886 ID:IGCnBfiR0
男「やっと……一日が終わった……」

巨漢「おう、ちょっと付き合えや」

男「付き合う?」

巨漢「酒飲みたいんだが、相手がいなくてよ」

男「今は酒よりも睡眠を取りたくて……」

巨漢「俺の酒が飲めねえってのか!? 俺と酒飲むのはイヤか!?」

男「いえいえいえ! 飲ませて頂きます!」

27: 2021/01/26(火) 20:30:20.891 ID:IGCnBfiR0
巨漢「ほれ、イッキイッキイッキ!」

男「ううっ……」グビグビ

男「うえっ……!」

巨漢「ハハッ、なかなか飲めるクチじゃねーか。ほらもう一杯いけや」

男「いえ、明日があるんで……」

巨漢「ああん!? 俺には明日がねえってか!?」

男「そんなこといってないですって……」

巨漢「じゃ、飲めや!」

男「飲みます飲みます!」

男(自家製の粗い酒だからなのか、あまりいい酔い方もできない……)

28: 2021/01/26(火) 20:33:23.776 ID:IGCnBfiR0
男(連日のように厳しいノルマを課せられ……朝早くから夜遅くまで仕事)

男(仕事が終われば飲みやら何やらに付き合わされ、自分の時間なんてない)

男(これってブラック企業とほとんど何も変わらないのでは……?)

男(いやいやいや……これはきっと俺が慣れてないからだ)

男(このままここで経験を積んでいけば、きっと農作業が生きがいになって)

男(都会じゃ味わえない充実感を味わえるようになるさ……!)

29: 2021/01/26(火) 20:36:24.541 ID:IGCnBfiR0
男「ようやく……今日の作業終了……」

男(作物が実ってきたけど、なんとなく育ちが悪い気がする。今度リーダーにでも相談してみるか……)

男「ん?」

男(村の主要メンバーが集まって、なにやら話をしてる……)



リーダー「集まってもらったのは他でもない」

30: 2021/01/26(火) 20:42:08.764 ID:IGCnBfiR0
リーダー「今年の収穫……おそらくこれまでにない不作になる」

女「でしょうね」

巨漢「雨が少なかったし、気候もよくなかったしな……」

リーダー「うむ、このままではまずい。どこかで肉でも食って精をつけねばならないだろう」

仲間「あの新入りだな?」

リーダー「ああ、非常食として加えたかいがあった。近いうち、あいつを食すことになるだろう」

巨漢「なんだったら今のうちやっちまった方がいいんじゃねえか? 首絞めりゃイッパツだぜ」

女「そうそう、塩漬けにすれば保存きくし」

リーダー「そうだな……こういうのは早めの方がいいかもしれないな」

31: 2021/01/26(火) 20:44:01.517 ID:IGCnBfiR0
男「……!」

男(マジかよ……。新入りって俺だよな? 俺のことだよな? 他にいないしな?)

男(非常食って……塩漬けって……! どうしよう!?)

男(こうなったら一刻も早く、逃げるしかない!)

32: 2021/01/26(火) 20:47:05.056 ID:IGCnBfiR0
男(最低限の荷物だけまとめて……バレないように……)ガサゴソ

コンコン

男「!?」ビクッ

男「は、はいっ!」

リーダー「やぁ、調子はどう? 村の暮らしには慣れた?」

男「え、ええ……だいぶ慣れてきましたっ! マメもほら、すっかり固くなって……バッチリですっ!」

リーダー「……」

33: 2021/01/26(火) 20:50:10.273 ID:IGCnBfiR0
リーダー「様子がおかしいねえ。どうしたんだい、そんなに怯えて」

男「怯えてなんて……いませんよ」

リーダー「ひょっとして……さっきの話聞いちゃったとか?」

男「!」ビクッ

リーダー「……やっぱりか」

男「う……うわああああああっ!」ドンッ

リーダー「ぐっ!?」

男「ひいいいいいいいいいっ!!!」タタタタタッ

リーダー「追えッ! 逃がすなッ! 捕まえろッ!」

34: 2021/01/26(火) 20:53:11.094 ID:IGCnBfiR0
男「あひゃああああああああああっ!!!」タタタッ

巨漢「待ちやがれっ!」ブウンッ

男「あひいっ!」ゴロゴロゴロ

男「ハッ、ハッ、ハッ!」ムクッ

男「ああああああああああああああっ!!!」タタタタタッ

リーダー「絶対逃がすな! 頃してかまわん!」

「殺せ!」 「殺せ!」 「殺せ!」 「殺せ!」 「殺せ!」 「殺せ!」

36: 2021/01/26(火) 20:56:23.306 ID:IGCnBfiR0
男「あああああああああああああああああっ!!!」タタタタタッ

「弓を用意しろ!」 「撃てぇっ!」 「逃がすんじゃねえ!」

ビュッ! ビュッ! ビュッ!

男「あうっ!」ビシュッ

男「うぐっ……なんのこれしき……!」

タタタタタタタタッ

男(逃げる! 逃げる! 逃げるぅぅぅぅぅ!!!)

ダダダダダッ…

37: 2021/01/26(火) 20:58:59.834 ID:IGCnBfiR0
男「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

男(もう……誰も追いかけてこない……)

男(助かったぁぁぁ……)

男「お父さんお母さん、足を速く産んでくれてありがとうっ……!」

38: 2021/01/26(火) 21:02:19.139 ID:IGCnBfiR0
男(その後、俺は遠くへ引っ越し、なんとか小さな会社に就職できた)

男(給料こそ安いものの、ようやく人間らしい待遇を手に入れた)

男(最初のうちは追手を警戒していたが、とりあえずその心配はなさそうである……)



男「課長、これ出来ました」

課長「うむ、ご苦労」

39: 2021/01/26(火) 21:04:18.843 ID:IGCnBfiR0
先輩「おーい!」

男「なんですか、先輩?」

先輩「今度の休み、キャンプ行かねーか? 欠員出ちゃってよー。たまには自然で過ごすのもいいもんだぜ!」

男「!」

男「いえ……自然で過ごすのはもう懲りてまして……」

先輩「なんか嫌な思い出でもあるのか? ならしょうがねえか」

男(今も彼らはあの村で、自給自足生活をしてるんだろうか……)







―おわり―

40: 2021/01/26(火) 21:05:09.739
おつ

41: 2021/01/26(火) 21:09:13.108
逃げ切れてよかった乙

引用元: 男「俺はブラック企業を辞めて自然と共存するぞぉぉぉぉぉ!!!」