1: 2013/03/06(水) 22:12:23.25 ID:gs6Qt8Ze0
タッタッタッタ……

男「やべえっ!! 遅刻する!」

男「そうだ! ここからなら、あの "魔法" で……!」

男「『ルーラ』!!」

"魔法"の呪文を唱えた瞬間、男の身体は一直線に青い空に吸い込まれていった。

男「よっしゃwww 最初からこうしてればよかったなww」

男は空を猛スピードで飛行していく。はるか下界には見慣れた景色が通過していった。

男「おっと、そろそろ学校か。着地しないとな……」

欠伸を噛みしめ、着地体制に入った男は、その瞬間――


――絶命した。

2: 2013/03/06(水) 22:13:11.73 ID:gs6Qt8Ze0
ニュースキャスター「――警察の発表によると、通学途中の少年は
  遅刻しそうになり、移動呪文『ルーラ』を使ったところ、
  高度25000フィートを航行中の飛行機に衝突したものと見られています。」

ニュースキャスター「少年は全身を強く打って氏亡しました。
  なお、衝突した飛行機は、衝突時大きな揺れがあったものの、
  けが人等は出ておりません。」

父親「最近ルーラ事故が多いなぁ」

母親「そうねぇ……。あんたも、気を付けなさいよね。」

母親「っていっても、あんたはてんで魔法が使えないんだったわねww」

男「うるせー。少しは責任ってもんを感じやがれ!」

父親・母親「wwww」

3: 2013/03/06(水) 22:14:31.82 ID:gs6Qt8Ze0
男「ったくよー。そろそろ学校行くぜ」

母親「はーい、いってらっしゃい。ちゃんと "歩いて" いくのよ^^」

男「」

そう。俺は生まれてこの方、"魔法" というものを使ったことがない。

いや、表現が間違っていた。魔法が一切 "使えない" のだ。
そこらの幼稚園児だって、『ホイミ』の1つや2つは使えるのに、だ。

この体質のせいで、小学校ではいじめられ、中学校ではむしろ同情された。

同級生「うっわ、マジで……? 『ホイミ』すら……?」

どん引きしていた同級生の顔は、今でも忘れる事ができない。

4: 2013/03/06(水) 22:16:13.29 ID:gs6Qt8Ze0
通学路をとぼとぼと歩く俺の後ろから、いつもの底抜けに明るい声が聞こえてきた。

友人「よーっす! なんだよ男。朝からテンション低いなー」

男「うっせ。朝からテンション高いやつなんていないだろ」

友人「いやー、俺ぐらいのレベルになると『ザメハ』で目覚め爽快なんだなー」

こいつは "使える" 側の人間だ。しかし、"使えない" 側の人間である俺にも
分け隔て無く接してくれる。性格が良いため交友関係も広く、そのおかげで
今のクラスでは俺も比較的浮くことなく馴染めていた。

5: 2013/03/06(水) 22:17:50.27 ID:gs6Qt8Ze0
友人「そういえば、今日はバレンタインだよな」

男「どうせ俺にチョコをくれる女子なんかいねーしな……」

友人「わかんねーだろ? 義理チョコぐらいはもらえるって」

友人は理解していない。
魔法が使えない男は、そもそも恋愛対象にすらならない。最初から眼中にないのだ。

この世界では魔法が全てだから。

魔法が上手ければ女にモテる。魔法が上手ければ高収入の職業に就ける。
魔法が上手ければ人生勝ち組。そして俺は完全なる負け組だった。

7: 2013/03/06(水) 22:19:26.02 ID:gs6Qt8Ze0
キーンコーンカーンコーン

女「おっはよ、友人君! ……男君。」

友人「おはよー。一時限目なんだっけ?」

女「現国だよ。宿題やってきた?」

友人「げっ! そういえばあったな! やっべ、プリントどこやったっけ……」

女「くすくすwww あ、私はやって――」
男「俺やってきたぜ。見るか?」

友人「おお! マジか! 持つべき物は親友だよなぁ!」

女「……よかったね^^」

友人「よっしゃ、じゃあ……『ピオラ』ッ!」

『ピオラ』で加速した友人の手は、瞬く間に俺のプリントの回答を写し終えた。

友人「オッケー サンキューナ!! ソレニシテモ ヤッパリ ピオラ ツカウト アトガコマルナ」

『ピオラ』の効果は1分間続く。その間、友人は早口でしゃべり続けた。
ちょうど動画を早送りしているような変な声なので、傍から聞いてると笑える。

8: 2013/03/06(水) 22:21:09.59 ID:gs6Qt8Ze0
チャイムが鳴り、担任の教師が教壇に立った。

担任「朝のニュースで見たと思うが、最近『ルーラ』を使った事故が多発している」

担任「改めて言うまでも無いと思うが、『ルーラ』での登下校は禁止だからな」

担任「っつーか、お前ら若いんだから、歩け! 走れ!」

頭髪の寂しくなってきた年代の担任は、そう言うとちらりと俺に視線を送り、

担任「男を見ろ。こいつは魔法が使えないが必氏に生きてるだろ。
  お前らも男を見習ってだな――」

クラスメイト「せんせー 男君に対するマジハラ(マジック・ハラスメント)でーすw」

担任「くっ! あー ゴホン。」
担任「それとだな、最近、この近所でモンスターがたびたび目撃されている。」

野次を飛ばしていたクラスメイトたちが、しんと静まりかえった。

9: 2013/03/06(水) 22:22:32.27 ID:gs6Qt8Ze0
担任「どうやら、ドラゴン属のようだが、幸いおとなしいモンスターのようだ。
  今のところ、目撃した人たちは特に危害を加えられたという事はない。」

モンスターは存在する。存在はするが、普通は人間の住む人里には現れない。
山奥や、洞窟など、自然が濃い場所に生息する習性があるからだ。

とはいえ、モンスターパークなどで、実際のモンスターを見る事もできる。
人なつっこい小型モンスターをペットにする人もいる。

しかし、基本的には人間に危害を加える存在だ。
魔法があるとはいえ、力も強く、凶暴なモンスターは十分に脅威だった。
ましてや、魔法の使えない俺にとっては、何をか言わんやだ。

担任「登下校の時は、『トヘロス』を使える者は唱えておくように。
  あとは、なるべく一人で行動するのはやめて、集団で行動するんだぞ」

担任はやはり俺を見てそう言った。

10: 2013/03/06(水) 22:24:01.28 ID:gs6Qt8Ze0
授業は、いつも通り退屈なものだった。

現国の教師が『インパス』を唱えて
友人が必氏に写したプリントを赤色に光らせた時は笑ったが。

友人「すみませんっした!!」

教師「次やったら、『ぱふぱふ』な。」

友人「ぎゃああああああああ」

ちなみに教師は筋骨隆々のあらくれ者である。

11: 2013/03/06(水) 22:25:20.40 ID:gs6Qt8Ze0
昼休みに、便所に行って戻ってきたところ

女「友人君……、あのね、はいコレ!」

友人「おおっ! チョコ! くれんの? オレに? よっしゃあ!」

女「義理だよ~~www」

気合いの入ったラッピングをされたチョコを受け取った友人は
無邪気にハシャいでいた。

俺はいたたまれなくなって、その場を離れた。

『メガンテ』を唱えたい気分だった。

12: 2013/03/06(水) 22:27:37.09 ID:gs6Qt8Ze0
下校は、友人と女と一緒になった。

友人が俺に「一緒に帰ろうぜ」と声を掛けてきたのだ。
もしかしたら、朝、担任が言っていたことを気に掛けているかもしれない。
女は、友人と二人で帰りたそうにしていたが。

友人「でさー、親父の書斎に『アバカム』で忍び込んだら何があったと思う?」
友人「『エOチなほん』と『ガーターベルト』が引き出しに入っててよー」

女「www」

俺は会話には入らずに、ニヤニヤと笑いながら二人の後ろを追いかける。
近道である人通りの少ない路地裏を通りかかったところだった。

友人「親父を問い詰めたらよ――」

なぜか、辺りに "霧" がでてきたのだ。

友人「親父ガクガク震えちゃってさ――」

どうやら、二人は話に夢中でまだ気づいていないようだった。

14: 2013/03/06(水) 22:32:52.32 ID:gs6Qt8Ze0
友人「で、親父が赤い洗面器をおもむろに――」

男「おい、なんかおかしくないか?」

友人「あ、なんだよ? いいところだったのに」

男「なんか霧がでてるんだけど」

女「ほんとだ」 友人「なんじゃこりゃあああ」

三人で辺りを見回してみるが、徐々に霧は濃くなっていき
あっという間に、お互いの姿すら見えなくなってしまった。

16: 2013/03/06(水) 22:35:30.08 ID:gs6Qt8Ze0
友人「おい! 女ちゃん、男、いるか?」

男「ああ! でも何にも見えないな」

女「うー、真っ白で怖いよー……」

二人がいた位置を手探りで探してみるが、空を切るばかりだった。

友人「ひょっとして、これ『マヌーサ』かもな」

男「ひょっとしなくてもそうだろ。こんな都会のど真ん中で、いきなり濃霧が出てたまるか」

その時である。耳を裂くような "悲鳴" が聞こえてきたのだ。

17: 2013/03/06(水) 22:36:45.89 ID:gs6Qt8Ze0
女「キャアアアアアアア!!!」

友人「!? お、おい! 女! 大丈夫か!?」

悲鳴が止んだと思ったら、今度はうってかわって野太い "うなり声" が聞こえてきた。

??「グルルルル……」

男「なんだ、このうなり声……?」

友人「……モンスターだ。」

モンスターが『マヌーサ』を使った。恐らく、女はモンスターの餌食となった。
突如、襲いかかってきた非現実にパニックになる俺。

しかし、友人は冷静だった。

18: 2013/03/06(水) 22:38:41.69 ID:gs6Qt8Ze0
友人「とりあえず、『スクルト』ォ!! んでもって『ピオリム』!」

姿の見えない友人は、グループ範囲の補助呪文を唱えた。
俺の身体がカチコチに固くなり、周りの時間の流れが遅くなる。

しかし、相変わらず視界は0の状況で、魔法も使えない俺は己の無力を呪うばかりだ。

友人「気を付けろ! いつ襲いかかってくるかわかんねーぞ!」

男「ああ、わかってるよ! でも、どうすりゃいいんだ……!」

うなり声は相変わらず聞こえているが、なぜか襲ってくる気配はない。

19: 2013/03/06(水) 22:42:02.29 ID:gs6Qt8Ze0
ジリジリと時間が経つと、徐々に霧が晴れていく。

そこには、黄金に輝くウロコを持つドラゴンの姿があった。

そのすぐ近くに友人の姿を見つける。

友人はドラゴンの姿を見てもひるまず、そちらから目を離さずに叫んだ。

友人「男!! お前は逃げて助けを呼べ! 俺が魔法で時間を稼ぐ!」

俺は、

俺は、

震える足を必氏に動かして、言われた通り、逆方向に逃げだした。

最低な俺。

でも魔法が使えないんだから、仕方ないじゃないか。

20: 2013/03/06(水) 22:44:43.76 ID:gs6Qt8Ze0
し か し、 ま わ り こ ま れ て し ま っ た。



ドラゴンは巨体に似合わない俊敏な動きと、大きな翼で空を飛び、
逃げようとした俺の目の前に立ちはだかった。


俺は、目の前が真っ暗になる。

22: 2013/03/06(水) 22:47:17.16 ID:gs6Qt8Ze0
男「ちく・・・しょう・・・」

ドラゴンは鋭い牙を剥きだしにして、俺にかぶりつく。



走馬燈が走る。


中学生時代の同級生のどん引き顔。


小学生時代に「MP0」とあだ名をつけられ、いじめられた記憶。


幼稚園時代に「俺、大きくなったら魔法使いになるんだ!」と
『ホイミ』すら使えないくせに、粋がっていた事。


赤ちゃんの時の両親の顔。


そして、前世……。


前世!?

23: 2013/03/06(水) 22:49:21.54 ID:gs6Qt8Ze0
俺には、なぜか前世の記憶があった。


幼稚園の頃には、はっきりと覚えていたのに。


成長するにつれて、忘れていた。


こことは "違う世界" で、俺は魔法使いだったのだ。




そう、俺は『黒魔法』使い――


 

25: 2013/03/06(水) 22:50:53.57 ID:gs6Qt8Ze0
男「『ファイガ』ァァァァァァァァ!!!!!」

ドラゴンが俺の頭を一噛みしようとした瞬間

俺はありったけの大声で、呪文を唱えた。

そして、巨大な火球がドラゴンの頭上に現れ、その巨軀を押しつぶす。



あとは一方的だった。

俺は『バーサク』が掛かったように、MPが切れるまで"黒魔法"を唱え続けた。

友人は、俺が魔法を使っている様を呆然と見ているだけだった。

27: 2013/03/06(水) 22:52:58.82 ID:gs6Qt8Ze0
ドラゴンは、プスプスと音を立てて動かなくなる。

男「ハァ…… ハァ……」

友人「お、おい。大丈夫か?」

男「ああ……なんとか……」

俺がそう応えると、友人は少し安心したかのようにため息をつき、
あらためてドラゴンの巨体に目を向ける。

友人「それにしても驚いたぜ……。お前、魔法使えたんだな。」

男「自分でも驚いてるぜ。でも、どうも、皆が使ってる魔法と違うみたいだ。」

友人「だなぁ。『ファイガ』とか『ブリザガ』とか聞いた事ねーな。」

30: 2013/03/06(水) 22:54:46.67 ID:gs6Qt8Ze0
そこで、友人はハッと息を呑んだ。

友人「そうだ! 女ちゃんは!? 女ちゃんはどこだ!?」

そう言われて、俺も辺りを見回すが、女の姿は無い。

友人「くそっ……! やっぱり、このドラゴンの胃の中なのか……!」


すると、そのドラゴンが光を放ち、徐々に形を変えていく。

大きい身体がみるみるしぼんでいき、


そこには、倒れている女の姿があった。


友人「!? ……そうか! 『ドラゴラム』か!」

慌てて女に駆け寄る俺たち。女を揺さぶって起こそうとする。



へんじがない、ただのしかばねのようだ。

32: 2013/03/06(水) 22:57:22.53 ID:gs6Qt8Ze0
友人「ちっくしょお!! 俺は『ザオラル』や『ザオリク』は使えねーんだぞ!!」

俺も、思い出したのは "黒魔法"。人を生き返らせる術は持たない。


このままでは、殺人者になってしまう。正当防衛といっても過剰すぎる。

なにより、女の笑顔が見られなくなるのは悲しかった。


騒ぎを聞きつけた近隣住人や、野次馬が駆けつける。
しかし、誰も『ザオラル』や『ザオリク』は使えない。

これらの蘇生魔法は、倫理的な理由で、習得には国家資格が必要なのだ。


俺は、魔法が使えるようになったのに。相変わらず無力なままだった。

33: 2013/03/06(水) 22:58:43.12 ID:gs6Qt8Ze0
友人「何かないか何かないか……!!」


そして、友人は、"ある呪文" の存在を思い出す。


それは、けっして唱えてはならないとされている、禁忌の呪文。


人を生き返らせる事もあれば、自分が氏ぬ事もある。



唱えてしまえば、何が起こるかわからない――



友人「 『パ ル プ ン テ』 」



 

35: 2013/03/06(水) 23:01:49.40 ID:gs6Qt8Ze0
.
..
...




あれから、数日がたった。





 

37: 2013/03/06(水) 23:04:03.25 ID:gs6Qt8Ze0
結果から言ってしまうと、友人の『パルプンテ』は

> しかし、MPがたりない!

で不発、というオチだった。



それにしても、この世界の蘇生呪文は強力すぎる。

氏んでから数時間が経った後でも、原型さえ留めていれば、簡単に蘇ってしまうのだから――。

女は無事に蘇生され、経過観察のため入院する事になった。

パニックになって焦った俺たちが馬鹿みたいだった。

40: 2013/03/06(水) 23:07:08.17 ID:gs6Qt8Ze0
 


女「本当にごめんなさい……」


女「でもね、男君も悪いんだよ? 私が友人君を好きな事、気づいてたでしょ?」


女「それなのに、邪魔ばっかりして……」


 

42: 2013/03/06(水) 23:09:03.86 ID:gs6Qt8Ze0
そう。今回のドラゴン騒動は、すべて女の仕業だった。

こっそりと『マヌーサ』を唱え、自作自演で悲鳴をあげ、『ドラゴラム』で変身。

なんとも間抜けな事に、『マヌーサ』の対象である「グループ」には
自分自身も含まれていたため、霧に紛れて襲うつもりが、自分も何も見えなくなっていた。

霧が晴れた後、近くにいた友人を狙わず、俺の前に回り込んだのも当たり前である。
はじめからターゲットは俺一人だったのだから。

女「ほんのちょっと怖がらせるつもりだったの……」

近所で目撃されていたドラゴンというのも
女が『ドラゴラム』の練習中に目撃されていた、というオチだった。

43: 2013/03/06(水) 23:11:43.74 ID:gs6Qt8Ze0
友人は、この女の言い草に完全に呆れ果てていた。

友人「はぁー。女があんなやつだったなんて、思わなかったぜ……。」

男「まあ、そう言ってやるなよ。ほらよく言うだろ……

    『ブライン』
    恋は盲目    てさ。」


友人「ドヤ顔やめろwwww」

45: 2013/03/06(水) 23:15:26.71 ID:gs6Qt8Ze0
俺はと言えば、魔法が使えるようになったのに、相変わらずだった。


そもそも、既存の魔法とは魔法体系が全く異なるため
現在の「魔法の使用等に関する法律」(通称「魔法法」)では
一切認められていない、非公式な魔法なのだ。

もし、公衆の空間でみだりに使用した場合は
懲役5年以下、もしくは50万円以下の罰金である。
(今回の一件では緊急避難とやらで見逃してもらえた)


その上、俺が使えるのは "黒魔法"、つまり攻撃魔法だけである。
最下級の『ファイア』ですら、ガスバーナー並の威力があるのだ。
日常的に使うにはオーバースペックすぎて、ほとんど役に立たない。

46: 2013/03/06(水) 23:18:21.65 ID:gs6Qt8Ze0
 


結局、俺が魔法が "使えない" 事に変わりはない。


チョコは0個だった。


世の中うまくいかないものである。



~完~

49: 2013/03/06(水) 23:24:59.24 ID:gs6Qt8Ze0
DQ7やってたら思いついたので書いた。
SS初めてだったんだけど、分量少なかったかな?

55: 2013/03/06(水) 23:34:51.23 ID:gs6Qt8Ze0

あれから、数週間が経ち、俺たちは1つ学年が上がった。

俺は相変わらず魔法が使えないものの、友人が武勇伝をクラスのみんなに広げたおかげで

「怒らせると怖いやつ」の称号をもらい、順風満帆な日々を送っていた。

58: 2013/03/06(水) 23:37:44.84 ID:gs6Qt8Ze0
女は、あの事件で警察の事情聴取を受けた。

俺たちが被害届を出さなかったので、逮捕は見送られた。

女「ありがとね! 友人君! それから俺君も」

友人「これにこりたら、もう『ドラゴラム』なんか使うんじゃねーぞ」

女「うふふww」

やっぱり、被害届を出すべきだったかもしれない。

59: 2013/03/06(水) 23:41:16.72 ID:gs6Qt8Ze0
そんなある日、クラスに転校生がやってくる事になった。


担任「みんなー 席に着けー」

担任「この度、家庭の事情でこの学校に転校してくる事になった、転校生君だ。
  みんな、仲良くしてやれよ」

転校生「転校生です。みなさんよろしくお願いします。」


スラリとした長身でイケメンの彼は、あっという間にクラスのみんなから質問攻めにあった。

同級生「転校生君は、どんな魔法が使えるの?」

転校生「あはは、えっと、得意なのは回復系かな。『ベホマ』とか使えるよ」

同級生「すげえええええ」

『ベホマ』は回復系の中でもかなりの高等魔法で、
『ベホイミ』がやっとの俺たちにとっては、上級生以上の尊敬を集める。

60: 2013/03/06(水) 23:45:36.96 ID:gs6Qt8Ze0
友人「すげーな。『ベホマ』だってよ」

男「お前だって、色々魔法使えるじゃねーか。俺なんてなぁ……」

友人「あーうっせうっせ。『ファイガ』やら『ブリザガ』やら使うやつのセリフじゃねーぞそれ」

男「……」


転校生は、その後もイケメンっぷりを大いに発揮した。

魔法の授業では、まだクラスの誰も使えない『フバーハ』にも成功し、耳目を集めていた。

あれだけ友人を好きだった女も、あっさりと転校生に惚れ込み、空き時間をみては転校生を追いかけるようになった。

62: 2013/03/06(水) 23:49:27.57 ID:gs6Qt8Ze0
出る杭は打たれる。

世の常である。

注目を集めすぎた転校生は、上級生に目を付けられた。

魔法のあるこの世界では、一年の差というのはとても大きい。

魔法の授業で、使える魔法の数にそもそも違いがあるし、
歳をとるにつれ、MPも増えていくからである。

俺の祖母は、『ニフラム』を使う霊媒師として活躍していたが、
「『ニフラム』100回はいける」とは祖母の弁である。

63: 2013/03/06(水) 23:52:42.37 ID:gs6Qt8Ze0
ある日の休み時間、転校生は上級生から呼び出された。

いわゆる「体育館裏に来い」である。


たまたま、呼び出されている場面に遭遇した俺と友人は
こっそり、彼らのあとをつける事にした。

いくら、イケメンだからといって、同級生である。
いじめられるのを黙って見過ごすのは、やはり気分が重かった。
俺が小学校の頃、いじめられていたせいかもしれない。

もし暴力沙汰に発展しそうなら、先生を呼ぶ事にして、
俺たちは事の成り行きを見守った。

65: 2013/03/06(水) 23:58:21.46 ID:gs6Qt8Ze0
体育館裏には、上級生数人が集まっていた。

上級生「どうして呼ばれたか、わかってんだろーな?」

転校生「えーと……、あいにく、さっぱりなんですが……」

上級生「調子にのってんじゃねーぞ? あ? しばくぞ?」

時代を感じさせる脅し文句に、俺は吹き出しそうになったが、なんとかこらえた。
しかし、転校生は無表情のまま続けた。

転校生「調子になんかのってませんよ」

もはや一触即発。上級生たちが転校生を取り囲む。

67: 2013/03/07(木) 00:01:51.57 ID:buzdsRjD0
その時、俺のそばで同じく様子を伺っていた友人が、小声で呪文を唱える。


友人「『レムオル』」


すると、友人の姿が、徐々に透けていき、ついに透明となって見えなくなった。

そして、走る足音が聞こえたと思った次の瞬間、上級生の一人が後ろに倒れる。

転校生もさすがに少し表情を崩し、驚いた顔をした。

さらに一人、また一人と、上級生たちが後ろに倒れていく。

69: 2013/03/07(木) 00:05:10.05 ID:buzdsRjD0
しかし、それでおとなしくしている上級生たちではなかった。

リーダー格と思われる上級生は、倒されるとすぐに立ち上がり

リーダー格「『イオラ』ァァァァ!!」

と唱えたのだ。


爆音。


あたりに土煙が立ちこめた。どうやら、俺は爆発にまきこまれなかったらしい。

70: 2013/03/07(木) 00:08:13.63 ID:buzdsRjD0
徐々に視界が晴れていくと、

そこには、相変わらず立ち続ける転校生の姿と

気絶した上級生たちがいた。


そう、『イオラ』は全体にむけた爆発呪文。

対象があまりに近かったため、唱えたリーダー格自身や、取り巻きの上級生たちも
爆発に巻き込まれていたのだ。


自爆である。

72: 2013/03/07(木) 00:12:30.89 ID:buzdsRjD0
しかし、転校生は無傷だったようだ。

制服についた土埃を手で払うと、気絶した上級生たちを一瞥し、
その後、周りを見回した。


そして、同じく "土埃にまみれた" 友人に気がつく。
いくら透明になっても、自分についた土埃までは透明にならない。


転校生「『レムオル』とは面白い呪文を使えるね」

友人「!! ……ああ、わりい。危ねーと思って手助けに入ったんだが、余計だったか?」

転校生「そんなことないよ。ありがとう。」

転校生はニッコリとほほえむ。俺は男なのに惚れてしまいそうなキレイな笑顔だ。

73: 2013/03/07(木) 00:16:16.85 ID:buzdsRjD0
友人「おーい、男も出てこいよ。 いるんだろ?」

友人に呼ばれて、俺も物陰から姿を現す。

男「大丈夫か? 結構な爆発だったけど」

友人「ああ、俺はとっさに上級生の身体を盾にしてよぉww」

なんたる所業。

俺は上級生が少し気の毒になった。

友人「ところで、転校生はなんでピンピンしてんだ? もろ至近距離だったろ?」

転校生「ああ。こんな事もあろうかと、事前に『マホカンタ』をかけておいたのさ」

75: 2013/03/07(木) 00:21:22.61 ID:buzdsRjD0
そして、しばらく立ち話をしていると、
爆発音を聞きつけた教師たちと、野次馬の生徒たちが集まってきた。

教師「また、お前らかぁぁぁ! 『ぱふぱふ』してやろうか!」

友人「ぎゃああああああああ 体罰反対! 体罰反対!」


その後、上級生たちは保健室で手当を受けたようだ。軽い傷だったらしい。
あのリーダー格の上級生は、魔法が不得手だったと聞いた。

放課後、職員室に呼び出された俺たちは、こってりと絞られた。曰く「やりすぎだ」との事。
幸い、『ぱふぱふ』はかろうじて免れた。

友人「別に俺たちが魔法を使ったわけじゃ無いのになぁ」

76: 2013/03/07(木) 00:24:36.41 ID:buzdsRjD0
転校生「あはは、仕方ないよ。それにしても、本当に助けてくれてありがとう」

友人「よせよ、結局ほとんどなんもしてないしなー」

男「俺なんか物陰でこそこそしてただけだしな」

友人「お前が出てきたら、それこそ、また氏人がでるぞw」

それを聞いた転校生が、ぴくりと眉をひそめる。

転校生「へえ、男君は攻撃魔法が得意なのかい?」

男「んー、っていっても "使えない" んだけどな」

俺たちは転校生に、この前のドラゴン事件と、俺の "体質" について話した。

77: 2013/03/07(木) 00:26:22.71 ID:buzdsRjD0
 



気軽に話した事が、次の "事件" のきっかけになるとも知らずに――



 

81: 2013/03/07(木) 00:31:40.82 ID:buzdsRjD0
転校生「へぇ……。面白いね。"ほかの世界の記憶" か。興味あるな」

転校生「今度、詳しく聞かせてよ。俺君。」

下校中だった俺たちは、途中の分かれ道で転校生と別れた。
俺と友人は家がすぐ近所なので、帰り道は同じ方向である。

男「それにしても、驚いたな。転校生。『マホカンタ』も使えるなんて」

友人「ああ、そうだな……。大人が使ってるのを見た事はあるが、同年代で使ってるやつは初めて見た」

男「『ベホマ』といい『フバーハ』といい、才能があるやつはうらやましいぜ」

友人「そうしょげるなよ」

友人とも別れ、俺は帰宅した。

82: 2013/03/07(木) 00:36:14.32 ID:buzdsRjD0
母親「おっかえりー。 あ、そうだ、ちょっと、あんたこっち来なさいよ!」

男「な、なんだよ急に」

母親「あんたの無駄な魔力を活かそうと思ってね。はいこれ、燃やしてちょうだい!」

目の前には瓦礫の山。

男「ちょ、ちょっとまてよ! 俺の魔法を、焼却炉かなんかと勘違いしてねーか!」

男「それに、いいのかよ、俺が逮捕されても。懲役5年だぞ! 5年!」

母親「大丈夫よーこのぐらい。バレなきゃ平気平気!」

男「この、子不幸もの~~~!!」

83: 2013/03/07(木) 00:38:15.48 ID:buzdsRjD0
俺は、しかたなく、目の前の瓦礫に向かって呪文を唱える。
さすがに、危ないので、最下級の呪文でいいだろう。

男「『ファイア』!」



しかし、なにもおこらない。

男「あれ……? おっかしいな…… 『ファイア』ァァァ!」



瓦礫の山は へいきな かおを している!

85: 2013/03/07(木) 00:41:55.34 ID:buzdsRjD0
母親「ちょっとちょっと、あんたやっぱり、魔法が使えるようになったって嘘だったのね!」

男「ちょ、ちょっと待ってくれ! あん時は確かに……」

母親「お母さんは、嘘をつくような子供に育てた覚えはありませんよ!」

男「」


結局、何度も挑戦してみたが、炎の "ほ" の字も出ないまま終わった。

試しに『メラ』や『バギ』を唱えてみたが、何も起こらない。


どうやら、俺はまた、魔法が "使えない" 身体になってしまったらしい。

86: 2013/03/07(木) 00:46:41.50 ID:buzdsRjD0
母親にあらぬ罵倒をうけ、父親には呆れられ、俺は涙目になった。

男「おかしい…… あの時は、確かに使えたのに」


あのドラゴン事件のあと、誰もいないガード下で、他の呪文も色々試してみた事があった。

『ファイア』や『ブリザド』など、思い出した呪文は一通り使う事ができた。


男「やっぱり、俺は魔法が使えないダメなやつなんだ…… ううう」

その晩、俺は枕を濡らした。

88: 2013/03/07(木) 00:50:38.06 ID:buzdsRjD0
翌日、いつにもまして、テンションの低い登校中、いつにもまして、テンションの高い声が聞こえてくる。

友人「おーっす!! どうしたどうした! 相変わらず暗いなーwww」

男「ほうっておいてくれ…… 俺はどうせダメなやつなんだ……」

俺の様子を見て、何か感じ取ったらしい友人は、一転、まじめな顔をして「どうした?」と聞いた。

俺は、昨日の顛末を友人に話した。


友人「魔法が使えなくなった――ねぇ。」

男「希望を持たせて落とすのが一番残酷だと思わないか……?」

友人「まあ、そうクヨクヨすんなってww どっちにしろ "使えない" んだから同じだろww」

89: 2013/03/07(木) 00:54:59.12 ID:buzdsRjD0
友人の微妙にフォローになっていないフォローに励まされて、学校に着いた。

教室に入ると、相変わらず転校生は女子に囲まれて笑顔を振りまいている。


俺は、むなしさを覚えつつ、席についた。

友人「そうだ。そういう事なら、保健の先生に聞いてみるのはどうだ?」

友人「魔法が使えなくなる、って時々聞く話だし。病気かなにかかもしれないぜ?」

男「保健の先生ねぇ……」

91: 2013/03/07(木) 00:59:23.71 ID:buzdsRjD0
休み時間。

俺はあまり期待せず、保健室に向かった。
友人は「わりい! 用があるから」といって、ついてはこなかった。薄情なやつめ。

保健室の扉を開くと、そこには机に向かう保健医の姿があった。

彼女は、学校の男子の人気が高く、道を歩けば二度見される美貌の持ち主だ。
わざわざ仮病を使って、彼女に会いにくる生徒もいるらしい。

保健医「あら、どうしたの?」

男「実は……」

俺は、保健医に事情を話した。ただし、俺の使う魔法が特殊である事は話さなかったが。

93: 2013/03/07(木) 01:07:20.22 ID:buzdsRjD0
保健医「魔法が使えなくなった…… なるほどね。」

保健医「いいかしら? 人が魔法を使えなくなるには、いくつか考えられる理由があるわ。」

保健医の説明は明確だった。それによると

1. 精神的な理由
例えば、落ち込んでいる時や、無気力な状態だと魔法は使えない。
俺の場合、落ち込んでいるのは魔法が使えないせいなので、これだと逆だ。

2. 肉体的な理由
体調が悪い時や、疲れている時。MP を使いすぎると、この状態になる。

3. 魔法的な理由
例えば『マホトーン』などの魔法だ。

94: 2013/03/07(木) 01:10:44.00 ID:buzdsRjD0
男「うーん、どれも思い当たる節はないですね。」

保健医「そうねぇ……。とりあえず、2,3日、様子を見たらどうかしら?」

保健医「精神的な理由や、肉体的な理由だったら、それで回復するかもしれないわ」


俺は、保健医に礼を告げて、保健室をあとにした。

教室に戻ると、友人はまだ帰ってきていないようだ。

俺は自分の席について、昨日の自分の行動を思い返していた。


あの時――

95: 2013/03/07(木) 01:14:24.07 ID:buzdsRjD0
あの時、転校生に、俺の体質について話した時。

実は、かすかな違和感があったのだ。


転校生が俺の話に目を輝かせ、詳しく "黒魔法" について聞き出した。

俺が調子にのってペラペラと話していると、転校生は俺の両肩に手を載せて

転校生「すごいね! 驚いたよ!」

と言ったあと、何かをつぶやいたのだ。

その瞬間、妙な脱力感に襲われた。

あの時は気にしていなかったが、あれはなんだったのだろう。

97: 2013/03/07(木) 01:19:09.75 ID:buzdsRjD0
転校生に話を聞こうと思ったが、あいにく、教室にはいないようだ。

ため息をついていると、チャイムが鳴った。


教師「チャイム鳴ったぞー 席に着けー」

時間に厳しい現国の教師は、教壇に立った。

廊下から生徒がなだれ込んでくる。その中には友人の姿もあった。

男「なにしてたんだ? こんなギリギリまで」

友人「……へへ、ちょっとな」


教師が教室を見回すと、ふと気がついて、

教師「おや、転校生はどうした? 今日は休みか?」


転校生は、その日、教室に現れる事はなかった。

98: 2013/03/07(木) 01:23:17.45 ID:buzdsRjD0
下校時間になり、準備をしていた俺と友人のもとに、女が現れた。

女「ねぇねぇ、転校生君、どこいったか知らない?」

男「しらねーよ。こっちが聞きたいくらいだってのに」

女「そっかー…… あ、友人君、いっしょに帰ろーよっ」

こいつ、転校生がいないとみるや、友人に乗り換えるつもりか?

友人「あー、わりい。俺、今日ちょっと用事があってさ」

友人は別れをつげると、そそくさと教室を出て行った。

99: 2013/03/07(木) 01:25:59.09 ID:buzdsRjD0
女「あやしい……」

男「は?」

女「友人君らしくない。なんかあったんだよ、きっと。」

女「ねぇ! 男君! 一緒に尾行しよっ!」

男「!?」



結局、押しに弱い俺は、女と二人で友人の後をつける事になってしまった。

後で、友人に謝らなくてはならない。

100: 2013/03/07(木) 01:30:21.36 ID:buzdsRjD0
俺と女が尾行しているとはつゆしらず、友人はとことこと歩いていく。

男「ちょ! そんなにくっつくなって!」

女「しー! 静かに! バレちゃうよ!」

俺たちは、物陰に隠れながら、こそこそと友人の後をつけた。

友人のように、『レムオル』でも唱えられれば楽だったのだが。


曲がり角に隠れていると、不意に後ろから声を掛けられた。

???「あんたたち、何してんの?」

突然の声に驚いた俺たちが声を頃して慌てて振り向くと

そこには、俺の母親がいた。

102: 2013/03/07(木) 01:35:04.16 ID:buzdsRjD0
男「母ちゃん! あー これはその……」

女「えー 男君のお母さんですか? 男君のクラスメイトの女です! いつも男君にお世話になってますー」

ちなみに、この前のドラゴン事件の首謀者が女であることを、母親は知らない。

母親「あらっ! まぁまぁ! デキた子ねー! うちのにも見習わせたいわ!」

見習っていいのか? 『ドラゴラム』を使って人を脅そうとする女だぞ?

母親「ちょっと、なによこの子! あんたにはもったいないわね!」

男「ちょっwww そんなんじゃねーからwww」

103: 2013/03/07(木) 01:38:21.06 ID:buzdsRjD0
女「あっ! いっけない! 友人君を見失っちゃう!」

俺と女は慌てて、友人の足取りを追いかける。

母親は、「夕飯までには帰ってくるのよー」と言って、俺に親指を立てた。

もうやだこの母親。



幸い、友人はそこまで離れておらず、尾行を続けた。

どんどん、ひとけの無い場所に向かっている。

104: 2013/03/07(木) 01:43:52.69 ID:buzdsRjD0
どうやら、目的地は無人の工場跡のようだ。

俺たちが、物陰に隠れていると、友人は工場跡の真ん中に立ち……



友人「…… くす  あっはっははは!!」



笑い出した。

俺たちが、その異様な笑い声に息を呑んで見守っていると

不意に、友人の身体が光に包み込まれる。


友人は

徐々に形をかえ

なんと、転校生の姿になった!

105: 2013/03/07(木) 01:46:07.17 ID:buzdsRjD0
おとこは こんらん している!

なにがなんだかわからない。


男「どういうことだ……!?」

女「……『モシャス』ね。きっと転校生君が、友人君の姿に変身していたのよ。」

男「!!」


それを聞いて、俺は我慢できずに物陰から飛び出した。

男「おい!! 友人をどこにやったんだ!」

106: 2013/03/07(木) 01:50:58.69 ID:buzdsRjD0
転校生「あはっ 誰かと思えば、男君じゃないか」

転校生はこちらを振り向いて、ニヤニヤと笑っている。

転校生「……そうか、バレちゃったんだね。」

転校生「あはは、大丈夫だよ。友人君にはちょっと『ラリホー』で眠ってもらったんだ」

男「……!」

転校生「尾行してたのかな? ぜんぜん気がつかなかったよ。君も鋭いね。」

男「君 "も" ……?」

転校生「いやー、参ったよ。友人君に呼び出されてさ、何かと思ったら「返してやれ」ってさ」

107: 2013/03/07(木) 01:54:07.02 ID:buzdsRjD0
転校生「なんで、わかったんだろうね?

  君の "黒魔法" を、僕が盗っちゃったことに――さ。」

男「!!!」

転校生「おや、その顔は、気づいてなかったみたいだね。
  てっきり、友人君が話したもんだと思ってたよ。」


うすうす、感づいてはいた。

"違和感" の正体は、やはり、転校生によるものだったのだ。

魔法が使えなくなったのは、こいつに奪われていたから。

108: 2013/03/07(木) 02:00:25.92 ID:buzdsRjD0
しかし、そんな事、可能なんだろうか?

他人の魔法を "奪う" なんて、聞いた事がない。


転校生「さて、もういいかな? 悪いけど、君にも眠ってもらおうかな」

転校生が『ラリホー』を唱えるために、手を挙げた瞬間。


物陰から、女が飛び出した。

女「『メラミ』ィ!」


女の手から火球が飛び出し、転校生に飛びかかった。

転校生「ッ……!」

転校生は不意をつかれて、まともに食らってしまう。

109: 2013/03/07(木) 02:07:36.37 ID:buzdsRjD0
転校生が顔を上げると

顔の一部が、ド口リと溶け落ちた。


転校生「……このアマがぁぁ!!!」

転校生「『ブリザガ』ァァァッァ!」

突如として空中に大きな氷の塊が現れ、鋭い氷柱となって女を襲う。


やばい。

とっさに、俺は、女をかばった。

110: 2013/03/07(木) 02:11:19.33 ID:buzdsRjD0
女「男君!!!」

俺は、背中にもろに氷柱を受け止める。




――今度は、走馬燈も、走らない。




俺は、体中を貫かれ、絶命した。

112: 2013/03/07(木) 02:14:18.04 ID:buzdsRjD0
 




    - GAME OVER -




 

114: 2013/03/07(木) 02:17:18.12 ID:buzdsRjD0
 


……



どこから ともなく こえがきこえる


??「おお ゆうしゃよ しんでしまうとは なさけない」



どこから ともなく こえがきこえる


??「クリスタルに みちびかれし せんしよ」



どこから ともなく こえがきこえる


??「……い! ……とこ! ……」

117: 2013/03/07(木) 02:20:38.85 ID:buzdsRjD0
俺は、目を覚ました。

そこには、母親の顔があった。

母親「おきなさい! しっかりしなさいよ! 男!」


どうやら、寝ぼけているのかな。


男「……もう少しだけ寝かせて……」

母親「ばかねあんたは! ほら、女ちゃんが戦ってるのよ!」

男「え??」

118: 2013/03/07(木) 02:23:31.78 ID:buzdsRjD0
母親に抱えられながら、横をみると

そこには黄金のドラゴンと戦う、転校生の姿があった。


よく見ると転校生の身体中はボロボロに溶け落ち、

下から、骨が見えている。


転校生「ちっ! 『フバーハ』が切れたか!」

ドラゴン「ブルァァァッァァァ」

ドラゴンは もえさかる かえんをはいた!

転校生は炎に包まれた。

119: 2013/03/07(木) 02:29:22.69 ID:buzdsRjD0
炎が途切れると、転校生の姿は、完全に骨になっていた。

しかし、転校生の動きは止まらない。


転校生は しょうたいを あらわした!

どうやら、転校生は、モンスターだったようだ。人間に化けていたらしい。


転校生「くっそぉぉぉ!! 『ファイガ』ァァァ! 『ブリザガ』ァァァ! 『サンダガ』ァァァッ!!」

3つの魔法が、ドラゴンに襲いかかる。

しかし、ドラゴンの目の前に、光る壁が現れ、魔法をはじき飛ばした。

母親「『マホカンタ』をかけておいて、正解だったわね」

なにもんだこいつ。

121: 2013/03/07(木) 02:33:38.64 ID:buzdsRjD0
母親「さてと、あんたも蘇生したし、そろそろ本業といきますかね」

唖然とする、俺を尻目に、母親は立ち上がると、両手を目の前にだし、集中して、呪文を唱えた。




母親「 『ニ フ ラ ム』 」




すると、母親の両手から光があふれだし、転校生をつつみこむ。

転校生「『ニフラム』だと……? 俺を何レベルだと思ってるんだ…… きかんn」

転校生「あびゃばばうdfbdfばいjfbd」

なんと、転校生の骨が溶け出した。

123: 2013/03/07(木) 02:38:34.17 ID:buzdsRjD0
そして、完全に骨が溶けてなくなり、

辺りは静寂に包まれた。



母親「ふー、久々に使うと、やっぱり疲れるわね」

母親は肩をこきこきと鳴らすと、尻餅をついたままの俺に手をさしのべ、立ち上がらせた。

恐ろしいほどの力で、俺は楽に立ち上がる事ができた。


男「あ、あのー 母ちゃん……? ちなみに、レベルはいくつ?」

母親「あら、言ってなかったかしら。私、レベル80よ~。お婆ちゃんに昔っから仕込まれてね。」


レベル80。

もちろん、常人ならありえない数字である。

125: 2013/03/07(木) 02:41:16.02 ID:buzdsRjD0
母親「特に『ニフラム』は鍛えたわねぇ。ほら、お婆ちゃん霊媒師だったでしょ?」

男「」


俺が言葉も無く立ち尽くしていると、ドラゴンから元の姿に戻った女が駆け寄ってきた。

女「よかった!! 男君、元気になったんだね!」

男「」


俺は呆然としたまま、何も言えずにいた。

127: 2013/03/07(木) 02:45:06.51 ID:buzdsRjD0
 




友人は、体育倉庫で寝ているのを現国の教師に見つかったらしい。

『ぱふぱふ』されたのは言うまでもない。




俺は言葉なく帰宅して、母親の才能が自分に引き継がれなかった事に、こっそり泣いた。

131: 2013/03/07(木) 02:49:20.33 ID:buzdsRjD0
数日後。

友人「ひどいめにあったぜ……」

そういいながら、友人はお尻をさすっていた。何があったのだろう。



俺はといえば、思いついて自分の部屋でこっそりと『ファイア』を使ってみたところ

あやうく小火をだしかけ、レベル80の母親にこっぴどく叱られた。



そう、俺はまた魔法が使えるようになった。

134: 2013/03/07(木) 02:55:24.22 ID:buzdsRjD0
転校生はモンスターだった。それも知能が極端に高い。

俺の魔法の力は、どうにかして奪われたらしい。
どんな手段を使ったのかは、わからないままだった。

ただ、この世界には、確かに "認識されていない魔法" が存在する。

それは、俺自身の存在が証明だった。



モンスターが人間に化けて人里に下りてくる話は、あまり例が無い。

俺たちは、連日マスコミに追われる事になった。

女「わー、あたしたち有名人みたいだねっ! 友人君!」

女はあっという間に、また友人にくっつくようになった。

137: 2013/03/07(木) 03:00:49.40 ID:buzdsRjD0
例によって、『レムオル』でマスコミをやりすごして、俺たちは帰路についた。


男「あーあ、今回は踏んだり蹴ったりだなぁ」

友人「俺は寝てたからよくわかんねーけど、お前の母ちゃんスゴいなぁ」

男「……それを言われると、俺はどんどん自信がなくなってくるわ……」

俺はため息をひとつつくと、友人と別れた。


帰宅すると、待ってましたとばかりに、母親が立ちふさがる。

母親「うふふ、今度こそ、ちゃんと燃やしてもらうわよ!」

そういって、俺をまた、瓦礫の山の前に引きずり出す。

レベル80の力に、抗えるわけがなかった。

138: 2013/03/07(木) 03:02:00.75 ID:buzdsRjD0
瓦礫の山に立たされ、観念した俺は、あらためて呪文を唱えた。

男「『ファイア』ァァァ!」




しかし、なにも おこらない。





男「!?」

139: 2013/03/07(木) 03:04:42.06 ID:buzdsRjD0
 




その時、俺の脳裏に、保健医の言葉がフラッシュバックした。





保健医「いいかしら? 人が魔法を使えなくなるには、いくつか考えられる理由があるわ。」



保健医「人は、落ち込んでいる時や、無気力な時には、魔法を使う事ができないわ。」



保健医「例えば、ものすごおおく、ショックを受けて、"自信を失ってる時" とかね」


 

141: 2013/03/07(木) 03:06:50.47 ID:buzdsRjD0
 



  俺はまた、魔法が使えなくなった――




失った自信を、回復する呪文はありますか?

俺は、あの時聞こえた声に、問いかけるのだった。




~今度こそ完~

154: 2013/03/07(木) 03:32:29.99
面白かった
ぜひまた読みたい

引用元: 男「みんな魔法が使える世界」