1: 2021/01/31(日) 20:11:59.39 ID:gL6w6puf0
課長「こんな下らないミスしやがって!」

課長「大学卒業したばかりの新人でもこんなミスしねえぞ、ええ!?」

男「申し訳ありません、申し訳ありません!」

課長「この給料泥棒! 恥知らず! 会社のダニ! 謝る元気があるんなら辞めろ! 辞めちまえ!」

男「申し訳ありません……!」

男(くそっ、頃してやりたい。頃してやりたい……!)

 https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1612091519

2: 2021/01/31(日) 20:13:19.33 ID:gL6w6puf0
同僚「また怒られてたなぁ、お前」ニヤニヤ

男「……なんだよ」

同僚「なんだよじゃねえよ。お前のミスのせいでこっちにまでしわ寄せが来たんだぞ?」

同僚「仕事もスポーツもなんでも、足手まといがいるとホント迷惑すんだよな」

同僚「もっと申し訳なさそうにしたらどうだ? そうだ、退職届の書き方教えてやろうか?」

男「……」

男(もし銃があったら、法律が許すなら、迷わずぶっ放してる……!)

3: 2021/01/31(日) 20:14:39.01 ID:gL6w6puf0
男「はぁ……」フラフラ

ドンッ

DQN「いてっ!」

DQN「気をつけろボケ!」ペッ

男「ぐっ!」ビチャッ

男(ツバ吐きかけることはないだろうが……!)

4: 2021/01/31(日) 20:17:36.75 ID:gL6w6puf0
男(あー……どいつもこいつも頃したい。頃してやりたい)

男(だけど、やったら間違いなくムショ行きだ。殺せず返り討ちになる可能性だって低くはない)

男(あーあ、デスノートがあったらなぁ……)

男(俺だったら新世界の神なんざ目指さず、身近の目障りな奴だけこっそり頃して)

男(順風満帆な人生を歩んでやるのに……)

男(って、デスノートなんて漫画の話だぞ。なに下らない中学生レベルの妄想してるんだ)

男(だけど、あーあ……)

男「せめて一人……ウザイのを一人殺せば、人生だいぶ変わるだろうに……」

商人「そんなに頃したいんですか」

男「!?」

5: 2021/01/31(日) 20:19:24.29 ID:gL6w6puf0
男「なんだあんた……(しまった、独り言が大きすぎた)」

商人「あなた、そんなに人を頃したいんですか」

男「いや、そんなことは……」

商人「だったらいいアイテムを売ってあげましょう」

男「なんだこれ……?」

商人「頃したい相手を念じながらこれを押すと、他人を一人だけ頃すことのできるボタンです」

男「!」

商人「ただし……代償として押した人にとって最も大切な人も氏亡します」

男「なんだって!?」

6: 2021/01/31(日) 20:21:53.61 ID:gL6w6puf0
男「いくつか質問させてもらってもいいか?」

商人「どうぞ」

男「まず……どうやって氏ぬんだ?」

商人「心臓が止まって氏にます。頃す対象だった人も、大切な人も。他殺が疑われることは100%ないでしょう」

男「まさにデスノートだな……で、条件はあるのか? 名前知らなきゃダメとか」

商人「ありません。たとえその辺の通行人でも、“あいつを頃す”と念じながら押せば殺せます」

男「最も大切な人ってのは誰が氏ぬんだ?」

商人「それは人によるでしょう。親か恋人か、親友か、あるいは好きな芸能人かもしれません」

男「押してみるまで分からないと」

商人「そういうことです」

男「人間関係が希薄で、大切な人といえる人がいない奴が押したら?」

商人「それでも誰かしら氏ぬことになるでしょう」

商人「何年も会ってない知り合いとか、一度親切にしてくれただけの人ですとか」

7: 2021/01/31(日) 20:23:44.88 ID:gL6w6puf0
商人「いかがいたしますか?」

男「……いくらするんだ」

商人「――です」

男(今財布に入ってる手持ちで十分買える金額だ……)

男「売ってくれ……」

商人「お買い上げ、ありがとうございます」

男(買ってしまった……)

8: 2021/01/31(日) 20:26:17.59 ID:gL6w6puf0
男「ただいまー」

妻「お帰りなさい」

男「……」

妻「どうしたの?」

男「いや、なんでもない」

男(俺の場合、ボタンで誰かを頃したとして、代償に誰が氏ぬことになるんだろう)

男(やっぱり妻なのかな……それとも親か……。同居してる妻の可能性が高いか)

男(いずれにせよ、買ったはいいけど、押すわけにはいかないよな)

9: 2021/01/31(日) 20:27:45.53 ID:gL6w6puf0
ガタンゴトン… ガタンゴトン…

男「……」

男(ボタンの話は……きっと真実だと思う)

男(そう信じさせるオーラみたいなものが、あの商人にはあった)

若者「……」シャカシャカシャカ

男(イヤホンがやかましいこの若者をここで頃すこともできるけど……)

男(さすがにそんな使い方はバカバカしいよな)

男(こんな名前も知らない奴を腹いせみたいに頃して、おそらく妻も氏ぬなんて割りに合わないなんてもんじゃない)

10: 2021/01/31(日) 20:29:49.88 ID:gL6w6puf0
課長「ちょっと来い!」

男「なんでしょう」

課長「なんだこの資料は! 全然まとまってない――」

男(ああ、うざい。ああ、頃したい)

男(ボタンを押せば……殺せる。こいつが氏ねば確実に俺の人生は好転する)

男(だけど、妻の氏もついてくると考えると……)

11: 2021/01/31(日) 20:32:23.37 ID:gL6w6puf0
同僚「よう、足手まとい君。今日もみんなの足引っぱってる?」

男「……」

男(こいつもそうだ。課長と同じぐらい頃したいけど……こいつを殺せば妻も氏ぬ)

男(押すわけにはいかない……)

男(だけど……殺そうと思えば殺せるって状況は案外愉快なもんだな)ニヤッ

同僚「うっ……。不気味な笑い方しやがって……気持ち悪い奴だ」

12: 2021/01/31(日) 20:34:55.47 ID:gL6w6puf0
男「ただいまー」

妻「お帰り。今日はあなたの好きなビーフシチューよ」

男「マジか、嬉しいなぁ!」

妻「ビールも冷えてるわよ」

男「酒屋で買ったのか。あそこの二代目も頑張ってるよな」

男(そうだ……彼女を俺のエゴの犠牲にするわけにはいかない)

男(会社の連中ぐらいボタンに頼らず何とかしてみせる!)

男(そう、いつでも葬れると思えばあんな奴らぐらい――)

13: 2021/01/31(日) 20:36:34.96 ID:gL6w6puf0
男「お言葉ですが、課長!」

課長「む……」

男「この案件は私のものです。私に最後まで任せて頂きたい!」

課長「わ、分かった……」

課長(なんだ? まるで人が変わったようだ……)



同僚「おいおい、ずいぶん課長に歯向かってたけど大丈夫なのかぁ?」

男「やかましい!」

同僚「!」ビクッ

男「俺をからかってる暇があったら、自分の仕事をこなしたらどうだ? お前の仕事は油売りか?」

同僚「うぐ……!」

同僚(ぐ……こいつ! 全身から妙な自信を漲らせてる……)

14: 2021/01/31(日) 20:38:08.51 ID:gL6w6puf0
男「ただいまー」

妻「お帰りなさい。あなた、この頃なんだか急に逞しくなったわね」

妻「物怖じしないっていうか、卑屈さがなくなったっていうか……」

男「そうかな」

男(その通りだ。あのボタンを買ってから、俺は変わった)

男(あのボタンの正しい使い方はこれだったんだ。決して押さず自信をつけることだったんだ……!)

15: 2021/01/31(日) 20:41:28.60 ID:gL6w6puf0
男「給料上がったし、今日は君の好きな服を買ってあげるよ」

妻「わぁっ、嬉しい!」

男(今も懐にはあのボタンがあるが、もちろん押さない。今やお守りみたいなもんだ)

男(このまま一生押すことがなければいいんだが――)



キャーッ! ワーッ! ウワーッ!



男「……?」

16: 2021/01/31(日) 20:42:24.90 ID:gL6w6puf0
通り魔「頃してやる……どいつもこいつも頃してやる!」



キャーッ! 逃げろーっ! うわあああっ!



男「なんだあいつ……!?」

妻「刀を持って暴れてるわ!」

17: 2021/01/31(日) 20:45:22.16 ID:gL6w6puf0
通り魔「氏ねっ!」

ザシュッ!

通行人「ぐあっ!」



男(まずい……すごい勢いでこっちに来る! あんなの取り押さえるなんて無理だ!)

妻「ひいいい……」

男(ボタンを押せば奴を殺せるが、そしたら妻は――)

男(奴を頃して、なおかつ妻を助ける方法……なにかないか!?)

男(そうだ!)

18: 2021/01/31(日) 20:47:15.32 ID:gL6w6puf0
男「おいっ!」

妻「なに?」

男「このボタンを押してくれ!」

妻「これは……?」

男「説明してる時間はない! あの通り魔くたばれと思いながら、これを押すんだ!」

妻「でも……」

通り魔「次はお前らだあああああああっ!!!」

男「早くっ!」

妻「分かったわ!」

19: 2021/01/31(日) 20:48:27.70 ID:gL6w6puf0
妻「えいっ!」ポチッ

通り魔「うぐっ……!?」ドクンッ

通り魔「ぐ、ぐぐ、ぐ……」

通り魔「ぐはぁ……」ドサッ

妻「え……」

男(これでいい……俺の心臓も止まるけど……妻は守れた……これでいい……)

男(さよなら……どうか幸せに……)

20: 2021/01/31(日) 20:50:00.09 ID:gL6w6puf0
男「……あれ?」

妻「あなた、このボタンってなんだったの!?」

「通り魔が倒れたぞ!?」

「救急車呼べ救急車!」

「興奮しすぎで発作でも起こしたか……?」

ザワザワ…

男「俺……氏んでない……」

男(どういうことなんだ、これ……)

21: 2021/01/31(日) 20:52:24.20 ID:gL6w6puf0
男(妻の実家にも電話したけど特に異変はなかった。じゃあいったい誰が犠牲に――)

中年女「大変よー!」

男「ああ、ご近所の……どうされました?」

中年女「この近くの酒屋さんの息子さんが、さっき配達中に突然倒れて亡くなったらしいの!」

中年女「まだ若くていい男だったのにねえ……」







― END ―

23: 2021/01/31(日) 21:46:11.09

妻ェ・・・

24: 2021/01/31(日) 21:59:47.07
旦那にとっては一番いい使い方だったわけだなwwwwww

27: 2021/02/01(月) 02:13:29.29
落語のような見事なオチだった

引用元: 商人「このボタンを押せば他人を一人だけ殺せます。ただし……」