1: 2015/02/20(金) 21:00:18.80 ID:pG2W2XqA0
狐っ子「今週の分の執筆が終わったからといって怠けてはイカンぞ」

狐っ子「そんなに眠いのならさっさと寝てしまえ、布団はもう敷いてあるぞ」

狐っ子「…温もりから逃れられない?ええいさっさと出る!」カチッ

狐っ子「どうだ、コレで出ざるをえまい……」

狐っ子「…はあ、余計潜り込んでしまった。コレは面倒だぞ」

狐っ子「……」

狐っ子「明日の朝飯は煮干しだな」

狐っ子「…お、動いた動いた」

3: 2015/02/20(金) 21:05:47.37 ID:pG2W2XqA0
狐っ子「ほれ、肩をかそうか?」

狐っ子「ふふふ、さすがにこんな背丈の女に力を借りるのは恥ずかしいか?」

狐っ子「ほれほれ、さっさと寝よ、湯たんぽ持って行ってやるからな」

狐っ子「…真っすぐ歩けとらんぞ、大丈夫か…」

狐っ子「はあ、執筆が終わるといつもこうだ…っと」カチッ

狐っ子「湯たんぽを作るのも慣れたものの、自分で使った覚えがないぞ」

狐っ子「…コタツで湯が沸くのを待つかな」

4: 2015/02/20(金) 21:12:04.10 ID:pG2W2XqA0
狐っ子「…こりゃあ出たくもなくなるの」

狐っ子「ご主人の気持ちもわかる、コレはどけたほうがいいくらいの居心地の良さだ」

狐っ子「…一人で入っているのはすこしばかり寂しいな」

狐っ子「今日は早くに寝てしまったし…することもない…」

狐っ子「よし、夜の散歩にでも行くか」

6: 2015/02/20(金) 21:21:41.81 ID:pG2W2XqA0
狐っ子「そうと決まれば…あのマフラーでもつけていくかの」

狐っ子「…少しおめかしでもしようかの、夜であっても外にでるわけだから」

狐っ子「どの着物にしようか…ん、コレは…」

狐っ子「…タンスの肥やしにしては上等な…」

狐っ子「いかんいかん、ご主人の思い入れのあるものかもしれん、いつものでいいだろう」

狐っ子「…ああしまった!お湯!」タッタッタッ

7: 2015/02/20(金) 21:29:09.00 ID:pG2W2XqA0
狐っ子「ご主人、湯たんぽ…」

狐っ子「…布団に入ればすぐに寝てしまうんだよな、そこだけは羨ましい…」ガサゴソ

狐っ子「ふう、設置完了」

狐っ子「…ではご主人、少しばかり出かけてくるぞ」

狐っ子「さてさて、マフラーを巻いてっと…ふふ」ガラガラ

狐っ子「行ってきます…っと」ピシャン

10: 2015/02/20(金) 21:38:00.34 ID:pG2W2XqA0
狐っ子「…うう、やはり夜風は冷たいな」ブルルッ

狐っ子「どこへ向かうか…街か、山か」

狐っ子「…んん?街が賑やかだ」

狐っ子「今日は祭り事か?…となれば、行くしかあるまい」カツッカツッカツッ

狐っ子「……お前も、興味を惹かれたか?」

猫「お久しぶりですにゃ、素敵なお召し物で」

狐っ子「いつもと同じだ、厄猫」

猫「むう、ひどい扱いですにゃあ」

14: 2015/02/20(金) 21:45:33.00 ID:pG2W2XqA0
狐っ子「で、あれはなにか知っているか?」

猫「もちろんですにゃ、アレは毎年やってる…ええっと…」

狐っ子「…なるほどな、猫の情報網はそんなものか」

猫「アレですにゃ、収穫祭ですにゃ」

狐っ子「どうだか…まあいい、行けば分かるか」

猫「百聞は一見にしかずですにゃ、それが言いたかったんですにゃ」

狐っ子「けっ、よく回る猫舌だ」

猫「それほどでもですにゃ」

16: 2015/02/20(金) 21:58:22.24 ID:pG2W2XqA0
狐っ子「ほう、コレはなかなか…」

猫「盛大ですにゃあ、あら露店も」

狐っ子「…何か買うかな」

猫「私はいらないですにゃあ、大丈夫ですにゃあ」

狐っ子「猫なで声とはよく言ったもの…何がほしいんだ」

猫「ではイカ焼きを」

狐っ子「わかっていたが…わかっているからこそ腹が立つな」

猫「へへへ、照れますにゃあ」

18: 2015/02/20(金) 22:04:17.10 ID:pG2W2XqA0
狐っ子「しかし、猫にイカを食わせるなとは言うが…お前は食うのか」

猫「私は猫に見えるだけですにゃ、猫のようで猫でない…」

狐っ子「…猫をかぶっている、と?」

猫「ご名答…悔しいですにゃあ」

狐っ子「…このイカ焼きは私のものだ、お前は煮干しでも食ってろ」

猫「にゃあ…」

狐っ子「…ん、アレは」

男「いらっしゃい!飴はいかがだねー?」

狐っ子「…」

猫「…行くんですかにゃ?」

狐っ子「ご名答」ムギュ

猫「にゃあああ!?なんで尻尾をつかむんだにゃあああぁぁぁぁ…」

23: 2015/02/20(金) 22:23:59.86 ID:pG2W2XqA0
眩ゆく冷たい風が着物を旗めかせる。
幼く見える小さな背丈がきゅっと縮まり、マフラーに顔を埋める。
大きな雑踏の中での一コマは、有象無象にかき消されていく。

狐っ子「…」

猫「…どうしたんですかにゃ?そんな顔をして」

狐っ子「…なんでもない、さっさと買うか」

猫「…眠たいんですかにゃ?」

小さく猫は悲鳴を上げた。

28: 2015/02/20(金) 22:54:03.26 ID:pG2W2XqA0
男は小さい子に囲まれ、黄色い歓声が彼を包む。
甘い匂気が付近を包み、人々が吸い込まれるように覗いていく。
彼が操る透明な飴は子どもたちの澄んだ瞳を吸い込んでいく。
…見るのは二度目なのだが、やはり彼は楽しそうだ。

男「そこの可愛い嬢ちゃん!コレをあげようか!」

狐っ子「……えっ」

猫「もらっちゃえばよろしいかと」

男「むむむ、一個じゃ足りなかったかい?じゃあもう二つ!」

男は両手に素材を掴んだ。

35: 2015/02/20(金) 23:28:49.19 ID:pG2W2XqA0
みるみるうちに完成していく飴細工に、先程より強く大きな拍手が起こる。
まるでヒーローショーのごとく周りが取り囲む。
左手に持った飴をちらっと見て右手を伸ばす。
………。

男は子供向けの笑顔を振るまい、次々に売りさばいていった。

狐っ子「……」

猫「もう帰りましょ、お金取られる前にパパっと」

狐っ子「………」

猫「…」

猫はじっと顔を見つめる。
やたらに男を見つめるその顔は、寂しさと懐かしさと………。
複雑に入り混じる感情を読み取ることができなかった。
猫特有の丸い瞳を閉じて、切なさ混じりのため息を吐いた。

36: 2015/02/20(金) 23:37:14.19 ID:pG2W2XqA0
猫「あの男、気に入ってるんですかにゃ?」

狐っ子「………」

猫「…はぁ」

狐っ子「…んあ、なにか言ったか?」

猫「何も言ってませんにゃ、祭りはもうそろそろ終わりですにゃ」

狐っ子「もう終わりか…」

猫「…なんだかんだ、お祭り事が好きにゃんですにゃ」

狐っ子「…まあ、嫌いってわけじゃないが」

猫「が?」

狐っ子「…ふん、なんでもないわ」

38: 2015/02/20(金) 23:46:20.33 ID:pG2W2XqA0
光量が減っていく街を惜しむようにとぼとぼと一人と一匹が歩いて行く。
両手に持った飴を見ては思い出すように少し俯く。
…猫はそれを寂しそうに見ては尻尾を揺らす。

猫「それでは、私はここで」

狐っ子「………」

猫「…またあの男には逢えますにゃ、何を考えているかはわかりませんがにゃ」

狐っ子「…ああ」

42: 2015/02/20(金) 23:57:18.74 ID:pG2W2XqA0
一匹は離れ、一人になった。
足取りは重く、悪いことをした子供のようにゆらゆらと進む。
冷える空気が蝕んでいく。濁った飴が彼女の心情を映すようで。

狐っ子「…ただいま」ガラガラ

狐っ子「ああ、ご主人、起きて……」

ガシッ

狐っ子「……ご主人、どうした?普段はそんなことしないだろう?」

狐っ子「…寂しかったか、そうかそうか…」

狐っ子「大丈夫だ、私はご主人から離れたりはしない…そう誓ったろう?」

狐っ子「ほら、おみやげだ。屋台の飴細工…前と同じ男が売っていてな」

狐っ子「…ご主人、今日は一緒に寝ようか」

43: 2015/02/21(土) 00:09:09.30
ご主人はずっと私を離さなかった。
私だって離さなかった。
この折れてしまいそうな腕にすがりついた。
消えてしまいそうな自分自身をつなぎとめてくれる気がして。
不安で仕方なかった、ご主人が居なくても一人で立ててしまう自分が怖い。
ご主人がいなくなっても大丈夫になってしまえることが怖い。
…私もご主人も、永遠ではないのに。



猫「……私はいつだって見ていますからね。あなたが私を見ていなくても」


一旦END

引用元: 狐っ子「ご主人、こたつで寝ては風邪を引くぞ」