1: 2013/03/20(水) 17:30:33.33 ID:E9dxOSwkO
少年「うっそだー」

少女「ほんと」

少年「うっそだー」

少女「うそじゃない」

少年「うー。今日は特に寒いよね。ホワイトクリスマスも近いかな」

少女「はぐらかさないで」

少年「あ、よく見ると可愛い顔してるね」

少女「……」

少年「照れた!」

少女「……」ペチッ

 https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363768233

2: 2013/03/20(水) 17:33:34.75 ID:E9dxOSwkO
少年「可愛らしい音が鳴りましたね」

少女「だれなの」

少年「ひどいなー。クラスメートじゃん。昨日落としもの拾ってあげたじゃん」

少女「そのことは忘れて」

少年「無理だよ」

少女「人のノートをかってに見るなんて」

少年「名前が書いてなかったからさ」

少女「だったらほっといてよ」

3: 2013/03/20(水) 17:34:36.96 ID:E9dxOSwkO
少年「だってさ。読みたくなるでしょ。あんなの」

少女「ならない」

少年「俺はなったの。そして君のことが知りたくなった」

少女「わたしにかまわないで」

少年「ひとりで寂しくないの?」

少女「ない」

少年「ふーん」

少年「でもさ。俺、分かっちゃったんだよね」


少年「君が嘘つきだってこと」

4: 2013/03/20(水) 17:39:03.26 ID:E9dxOSwkO
『初恋』


少年「だーれだ」

少女「だれでもいいよ」

少年「うっそだー」

少女「うるさい」

少年「毎日ここに来てるの?」

少女「……」

少年「ごめんね。俺は友達に誘われたりするからさ、たまにしか来れないんだ」

少女「こなくていい」

少年「誰かと話すことは大切だよ?」

少女「わたしはいい」

少年「君は特別なんだ?」

少女「……」

少年「あ、俺の初恋の話でもしようか」

少女「いらない」

少年「初恋は中学生のとき。斜め前に座る女の子のことが好きだった」

少女「……」

5: 2013/03/20(水) 17:43:05.26 ID:E9dxOSwkO
少年「本当に好きで、大好きで。俺は授業中にずっとラブレターを書いてた」

少年「大学ノートの一番後ろのページ。誰も俺を振り返らないよう、音を立てずに紙を破って……」

少年「今日は雨だね、とか。そんな彼女も知ってること。何でもないことを書いたりしてさ」

少年「そしてその紙は、チャイムと同時に俺のポケットの中へ」

少女「……」

少年「それを何回繰り返したかな。紙を破った跡を見ては、彼女のことを想って、また破ってた」

少年「そしてある日、彼女が島崎藤村の『初恋』っていう詩の本読みを当てられてさ」

少年「有り触れた表現で言うと、鈴みたいな真っ直ぐな声でさ。詩を読むわけだ。んで、ふと思った」

少年「この声が、俺の名前を呼ぶことはないんだなあ……って」

6: 2013/03/20(水) 17:45:03.34 ID:E9dxOSwkO
少女「なんで」

少年「勘だよ。でも、 不確かなものじゃない。彼女は読み終えてから、窓際の方を見たんだ」

少年「俺は彼女の後ろ姿を見て、彼女は窓の外をずーっと眺めている男子の後ろ姿を見てた」

少年「彼女と俺は同じだったんだ」

少年「好きな人と一緒に、りんごの木の下に立つことはできない」

少女「なんでそう決めつけたの」

少年「決めつけかー。そうだね。俺はラブレターを彼女に見せるのが怖かっただけだ」

少年「君だって、そうでしょ?」

少女「……」

少年「ただ、ポケットが膨らんでいくだけ。それが俺の初恋でした」

少女「ばかみたい」


少年「それ、自分に言ってるの?」

7: 2013/03/20(水) 17:53:10.82 ID:E9dxOSwkO
『石投げ』


少年「だーれだ」

少女「だれでもいいよ」

少年「うっそだー」

少女「ほんと」

少年「何してたの?」

少女「とくに何も」

少年「うっそだー」

少女「うそじゃない」

少年「へえ。俺はてっきり川の近くで遊んでる子供達を見てるのかと」

少女「……」

8: 2013/03/20(水) 17:56:14.96 ID:E9dxOSwkO
少年「あいつら、可愛いね」

少年「俺も石投げしてたなあ」

少年「『どこまで遠くへ飛ばせるか』なんて。競い合ったのはいつだったっけ」

少年「君も、したことある?」

少女「……」

少年「一緒に遊んでもらえなかったの?」

少女「…… 」

少年「違うよね。君がひとりになったんだよね」

少女「わたしの何がわかるの」

少年「分かるよ。ノート、読んだからね」

少年「『誰も私を見ていない』。『私は皆の邪魔』。『小説の中で生きたい』」

少年「『出席簿に私の名前は書いてあるの?』。『おはようって言われて嬉しかった』。『おはようって言いたかった』」

少年「『本当は……』」

9: 2013/03/20(水) 17:58:11.18 ID:E9dxOSwkO
少女「……」

少年「泣かないでよ。意地悪してごめん」

少年「俺さ、自分勝手なんだ」

少女「しってる」

少年「お節介かもしれないけどさ。言うね?」

少年「皆は、君が距離を置くから離れて行くんだよ」

少女「……」

少年「君が皆と少し違うことなんて、大したことじゃないよ」

少年「君は、君みたいな人が皆ひとりで過ごしてると思ってるの?」

少女「……」

少年「君がどうしてもひとりでいたいなら、何も言わない」

少女「じゃあほっといて」

少年「……って言いたいところだけど。俺は離れないよ。君はどうせまた、嘘をつくだろうから」

少女「……」


少年「また明日。覚悟しててね?」

10: 2013/03/20(水) 18:18:46.53 ID:E9dxOSwkO
『出席簿』


少年「だーれだ」

少女「……」

少年「あれ。『だれでもいいよ』っていう台詞、使い回さないの?」

少女「……」

少年「あー。完全に怒ってる。目くらい合わせてよー。……って、いっつも君は俺の方見てくれてないよね」

少年「俺の作戦、駄目だった?」

少年「朝礼のときに担任から出席簿うばって、俺が君の名前叫ぶの」

少女「……」

11: 2013/03/20(水) 18:43:12.25 ID:E9dxOSwkO
少年「みんな君に大注目だったね。あの後、担任にはうんと怒られたけど」

少年「あ、俺さ。出席簿の名前を指差してたんだけど、君の席からでも見えてた?」

少女「……」

少年「君の名前、あったよ」

少年「確かに君は普通とはちょっと違う。だからずっと席は一番後ろだし、授業で当てられることもない」

少年「でもさ、君はちゃんといるんだよ」

少年「君があの空間にいたい、と思えばね」

12: 2013/03/20(水) 18:44:43.10 ID:E9dxOSwkO
少年「人はさ、自分に優しい人には優しくするし」

少年「自分に楽しく接してくれる人には、楽しく話すんだよ」

少年「君は誰かに優しくしたいと思わない?」

少女「……」

少年「俺は知ってるけどね。ノート見たから」

少年「君がすっごく優しいことは」

少年「君が今、そうしてる理由は知らない。書いてなかったからね」

少年「でも、君が嘘をついてることは分かるよ。今、悲しいことは分かるよ」

少女「わたしが好きになれば、みんなわたしを好きになってくれるの?」

少年「そうだね。皆じゃないし、絶対じゃないけど」

少女「じゃあ、どうしてあなたは好きだって言わなかったの」

13: 2013/03/20(水) 18:45:38.25 ID:E9dxOSwkO
少年「おっとー。ちょっぴりグサっときたー」

少年「いや、でもさ。むしろ説得力あるでしょ? 俺の初恋は、ラブレターを渡さなかったから叶わなかったのかもしれない」

少年「君はそんな俺を見習って、このノートを皆に見せればいい」

少年「そうすれば、君のことを見てくれる人がきっと現れるよ」

少女「……」

少年「随分、怯えた目をしてるね」

少年「胸、ちょっと触ってもいい?」

少女「……」ビクッ


少年「ここ、さらけだしちゃいなよ」

14: 2013/03/20(水) 20:29:56.53 ID:oDvJ7l5p0
『ポケット』


少年「だーれだ」

少女「だれでもいいよ」

少年「うっそだー」

少女「しつこい」

少年「俺以外だったらがっかりするくせに」

少女「しない」

少年「ふーん。……あっ。やべ。ポケットに穴空いちゃった」

少女「見えない」

少年「いやー。これどんどん大きくなっていくんだよ」

少年「あーあ。人差し指がこんにちはしちゃった」

少女「そうやって触るから」

少年「ははっ。ついね」

少年「俺さあ。ポケットに手つっこんで歩くの癖なんだよね」

少年「楽……というか、落ち着くから」

少年「んでさ、ふと思ったの」

15: 2013/03/20(水) 20:31:50.70 ID:oDvJ7l5p0
少年「そういえば、走って転ぶことも無くなったなあって」

少年「君はある?」

少女「……」

少年「走らなくなるとさ、手の役割ってあんまり無くてさ」

少年「気づいたらずーっとポケットに手つっこんで歩いてた」

少年「そしたらいつの間にか、ポケットの底に小さな綻びができてたんだ」

少年「俺さあ。思うんだ」

少年「その綻びから落ちていったのは……一体、何なんだろうなあって」

少年「君は、分かる?」

16: 2013/03/20(水) 21:01:01.99 ID:oDvJ7l5p0
少女「人それぞれ、ちがうんじゃない」

少年「そうだね」

少女「わたしは、おとしてない」

少年「そっか」

少女「ポケットに穴なんて、あいたことないから」

少年「そうだろうね」

少女「あなたのように、ころぶこともない」

少女「わたしは、しあわせもの」

少年「そっかー。いいなあ」

17: 2013/03/20(水) 21:01:56.98 ID:oDvJ7l5p0
少年「落とすのも、転ぶのも、本当に辛いよ」

少女「……」

少年「走っても転ばない人になりたいなって、思ってたよ」

少年「あの頃に戻りたいなって。落としものを拾いに行きたいなって。思ってたよ」

少年「今でも思う」

少年「君みたいに無くしたり転んだりしないのは、羨ましいよ」

少女「……」

少年「どうして泣くの? 君が言ったことでしょ?」

少女「いじわる」

少年「君は嘘つき」

少年「……だよね?」

少女「かえる」

少年「うん。また明日」


少年「嘘が随分と下手な嘘つきさんだ」

18: 2013/03/20(水) 23:25:39.26 ID:oDvJ7l5p0
『歌』


少年「だーれだっ。だれだ。だーれだっ」

少女「だれでもいいよ」

少年「ノリ悪いなー。俺の渾身の歌が台無し」

少女「へたくそ」

少年「あ。結構傷付いたよ、今」

少女「知らない」

少年「俺結構カラオケ行ったらモテるんだよ? リクエストとかされまくり!」

少女「よく行くの?」

少年「うん。歌うの好きだからね」

少女「いいな」

少年「……歌いたい?」

少女「べつに」

19: 2013/03/20(水) 23:26:57.24 ID:oDvJ7l5p0
少年「君は歌詞を書いてるよね」

少女「……」

少年「睨まないでよ。ノートを落とした君が悪いって」

少年「んで、感想なんだけどさ」

少年「好きだよ。君の詞」

少女「……」

少年「べったべたなラブソングなんて聞き飽きてたんだよね」

少年「君のは、君にしか書けないって感じの詞だった」

少女「わたしはわたしの好きな詞を書いてるだけ」

少女「たくさんの人が共感するような詞なんて、かんたんに書ける」

少女「ベタな言葉を感動的に並べればいいだけだから」

少女「わたしはそんな詞を書きたいとは思わない」

20: 2013/03/20(水) 23:27:51.54 ID:oDvJ7l5p0
少女「『共感してもらいたい』なんて下心で書いた詞に、おもわくどおり共感されたって、むなしいだけ」

少年「うん」

少女「わたしらしく書いて、大半の人にいみが分からないって言われても」

少女「たったひとりでいい」

少女「わたしが心から好きな詞を、好きになってくれる人がいたら」

少女「それでいいの」

少年「……すっごく、生き生きしてるね」

少女「……」

21: 2013/03/20(水) 23:31:11.77 ID:oDvJ7l5p0
少年「俺、君の詞に曲をつけて歌いたいなー」

少女「だれも聴かない」

少年「どうして?」

少女「どうしても」

少年「誰かに読んでもらおうとしないと、そのひとりすら見つからないよ?」

少年「ま、俺が君のファン第一号だけどね」

少女「ばか」

少年「素直に喜べ」

少女「かえる」

少年「ん、また明日ね」


少年「少しだけ、君の本当が見られたかな」

22: 2013/03/20(水) 23:33:35.82 ID:oDvJ7l5p0
『サンタ』


少年「だーれだ」

少女「だれでもいいよ」

少年「うっそだー。かーらーの! メリークリスマス!」

少年「……あれ? 無視? 俺、すっごく寒いんだけど」

少女「雪がふってるから」

少年「あー。そうだね。俺の予言通り。ホワイトクリスマスだ」

少女「ひとりぼっちのクリスマス?」

少年「何言ってんの。君がいるじゃん」

23: 2013/03/20(水) 23:34:58.90 ID:oDvJ7l5p0
少女「わたしはいないよ」

少年「いつから?」

少女「わすれた」

少年「大丈夫。俺は君のこと忘れないよ」

少女「……」

少年「そういえば、サンタさんに何かお願いした?」

少女「した」

少年「あら意外」

少女「うるさい」

少年「可愛いとこあるんだねー。何が欲しいって言ったの?」

少女「ひみつ」

少年「だと思った」

少女「あなたは?」

少年「あー。俺はね、小さい頃からサンタにお願いはしなかったんだ」

少年「『お前にサンタは必要ない』って、言われてたから」

24: 2013/03/20(水) 23:36:06.58 ID:oDvJ7l5p0
少年「父さんにね。プレゼントを用意するのが面倒だったのかな。ははっ」

少年「そういえば、流れ星も必要ないって言ってた」

少年「なんでだと思う?」

少女「……」

少年「『何か欲しいものがあるんなら、自分から手を伸ばせ』だってさ」

少年「当時小学生だった俺にはかなり酷だったよ。実際、すっごく泣いたしね」

少年「でも、父さんの言葉は大人になってからよく分かったよ」

少年「サンタはただ赤い服を着てるだけだし、流れ星はただ綺麗なだけ」

25: 2013/03/20(水) 23:36:56.03 ID:oDvJ7l5p0
少年「自分が本当に欲しいものを叶えてくれるような、大それたものじゃなかったんだよ」

少女「サンタはおもちゃをくれるでしょ」

少年「君が欲しいと願ったのは、おもちゃなの?」

少女「……」

少年「もうお願いしちゃった後で悪いけど、俺も君に言いたいんだ」


少年「君にサンタは必要ないよ」

28: 2013/03/21(木) 19:28:27.70
『傘』


少年「だーれだ」

少女「だれでもいいよ」

少年「土曜日なのに雨だね」

少女「そうだね」

少年「傘のスタンドって、こんなところに付いてるんだ」

少年「雨の角度によっては、随分と濡れちゃうね」

少女「車いすをすっぽりつつむ傘もある」

少年「それの方がいいんじゃない?」

少女「いや」

少年「なんで?」

少女「おしえない」

少年「秘密、多いよね」

少女「……」

29: 2013/03/21(木) 19:31:31.03 ID:tTo/bpVM0
少女「なんで傘さしてないの」

少年「さあ。なんででしょう?」

少女「かぜひく」

少年「おっと。俺のこと心配? 嬉しいなあ」

少女「……」

少年「だんまり。得意技だね」

少女「人として心配するのは当たり前」

少年「ははっ。ありがとう」

少年「……理由、聞く?」

少女「いい」クルッ

少年「おいおい! 帰らないでよ!」

少年「君のお気に入りの! その可愛い傘を貸してくださーい!」

少女「……」

30: 2013/03/21(木) 19:32:55.79 ID:tTo/bpVM0
少年「俺は女の子じゃないけど、分かるよ」

少年「その傘買ったとき、雨の日がすっごく待ち遠しかったでしょ?」

少女「……」

少年「うん。似合うね。すっごく」

少女「ばか」

少年「そんな馬鹿な俺に、傘を貸してくれない?」

少年「俺もずっと雨が待ち遠しかった」


少年「君と相合傘をするために、今日は来たんだ」

31: 2013/03/21(木) 22:03:33.15 ID:tTo/bpVM0
『嘘』


少年「だーれだ」

少女「だれでもいいよ」

少年「嘘」

少女「本当」

少女「わたしは本当に、ひとりでいいの」

少年「どうして?」

少女「歩けないし、話せないから」

少年「歩かないし、話さないんでしょ?」

少女「うるさい。本当にうるさい」

32: 2013/03/21(木) 22:16:56.35 ID:tTo/bpVM0
少年「言ったでしょ。俺は自分勝手だって。言いたいこと、全部言っちゃうんだよ」

少女「それがだれかをきずつけるって気づかないの」

少年「何も言わない方が、ずるいよ」

少女「……」

少年「俺は皆にこうしてるわけじ
ゃないよ。あえて誰かを傷つけるような発言はしない方がいいに決まってる」

少年「君は特別」

少女「めいわく」

少年「だって俺、嘘つきは嫌いだからさ」

33: 2013/03/21(木) 22:17:49.43 ID:tTo/bpVM0
少年「嫌いだから、傷つけるんだ」

少年「ちょっと期待してた?」

少年「俺が君のこと好きなんじゃないかって」

少年「嫌いだよ。嘘つきな君のこと」

少女「うそ」

少年「本当」

少女「うそ」フルフル

少年「本当だってば」

少女「わからない」

少年「ん?」

少女「なにがうそで。なにが本当なのか」

少年「君が本当だと信じたいものを、本当だと思えばいいよ」

少女「……」

34: 2013/03/21(木) 22:19:00.22 ID:tTo/bpVM0
少年「君はきっと歩けるし、話せるんだ」

少年「君は、自分に嘘をつき過ぎたね」

少年「辛かっただろうね。自分に嘘をつくことは、全てを欺くことだから」

少年「作り笑いも、嘘泣きも。楽しい振りも、怒った振りも」

少年「最後に『あれは嘘でした』って言わなきゃ、本当になっちゃうんだよ」

少女「……」

35: 2013/03/21(木) 22:19:55.51 ID:tTo/bpVM0
少年「君は嘘泣きなんてできないだろうね」

少年「だから、その涙の理由を大切にしてよ」

少年「そしていつか、それを聞かせて」

少年「じゃあ、また明日ね」

少年「……って。大事なこと言い忘れてた」

少女「……」


少年「君のことが嫌いだってのは、嘘でした」

36: 2013/03/21(木) 22:22:00.90 ID:tTo/bpVM0
『また明日』


少年「だーれだ」

少女「だれでもいいよ」

少女「ねえ。けいたいでんわって、持ってる?」

少年「おっ。君から話題を出してくるなんて珍しいね」

少女「……」

少年「うーん。残念ながら。俺はそんなに金持ちじゃない」

少女「そっか」

少女「でもいつか、けいたいでんわか、それに似た何かを持つようになると思うよ」

少年「おっ。やっぱり俺、金持ちになると思う?」

少女「ううん。いつかみんなが持つようになると思う」

37: 2013/03/21(木) 22:23:38.68 ID:tTo/bpVM0
少年「えー。そうかな」

少女「きっとね」

少年「便利になるな」

少女「わたしはいらない」

少年「どうして?」

少女「だれかとつながるツールがふえるぶん、不安もふえていくんじゃないかな」

少年「不安?」

少女「たとえば、毎日でんわをしていたのに、それが急に途絶えたらどう思う?」

少年「何かあったのかなって思うな」

少女「でも実際は、めんどくさくなっただけなんだと思うよ」

38: 2013/03/21(木) 22:24:45.45 ID:tTo/bpVM0
少女「簡単なものは、何かをきっかけにめんどくさくなるものなんだよ」

少女「ふっきんだってそう。大したことじゃないから、今日はいいかなって思っちゃうの」

少年「君が腹筋の話をするなんて、ちょっとおかしいね」

少女「たたいてもいい?」

少年「いいよ。多分、痛くないから」

少女「……」ポカポカ

少年「ははっ。やっぱり痛くない」

少年「ごめんごめん。拗ねないでよ」

39: 2013/03/21(木) 22:25:54.54 ID:tTo/bpVM0
少年「じゃあさ、君はさ。もし携帯電話を持つことになったら、誰と繋がりたい?」

少女「……」

少年「教えてよ」

少女「おしえないし、いらない」

少年「そっか。そうだね」

少年「俺が直接、君に会いに行くから。会って、話すから。いらない! いらない!」

少女「……」

少年「じゃあ、また明日」


少年「俺たちには、こんな約束だけで十分だ」

40: 2013/03/21(木) 22:28:02.99 ID:tTo/bpVM0
『ばいばい』


少年「だーれだ」

少女「うそつき」

少年「ええっ!?」

少女「……」

少年「……」

少女「『また明日』っていつも言うのに」

少女「毎回『ひさしぶり』なかんじ」

少年「言わなかったっけ? 俺は誘われていっつも忙しいから、毎日は来れないって」

少女「しってる。受験勉強でしょ」

少年「……うん」

41: 2013/03/21(木) 22:29:03.55 ID:tTo/bpVM0
少女「じゃあ『また明日』なんていわないでよ」

少女「むりしてこんなところに来ないでよ」

少年「ねえ。俺たち、毎日ちゃんと会ってるでしょ?」

少女「……」

少年「同じ学校。同じクラスなんだから」

少年「そういう意味での『また明日』だったんだけど」

少年「俺、待ってたんだよ」

少年「君が学校で話しかけてくれるのを」

少女「……」

42: 2013/03/21(木) 22:31:10.40 ID:tTo/bpVM0
少年「でも、そうなることはなくて。君と話せないのが寂しくなってさ」

少年「家に帰らなきゃって思いつつも、気付いたらここに来てた」

少年「明日からは自由登校だし。君の姿すら見れなくなる」

少年「たぶんまた、ここに来ちゃうんだろうなあ」

少年「ははっ。君のせいだよ? 志望校に落ちたら」

少女「なんで」

少年「ん?」

少女「なんでわたしなんかに」

少年「君が嘘つきだから」

少年「……っていうのは、今はもう嘘になっちゃうかな」

43: 2013/03/21(木) 22:33:55.31 ID:tTo/bpVM0
少年「君に会いたいと思うからだよ」

少年「単純にね」

少女「……」

少年「君と話すの、楽しいよ」

少女「……」

少年「いつかさ、美味しい食事をしながら笑い合いたいなって思う」

少年「変わってるかもしれないかど、大喧嘩とかもしたいなって」

少女「むりだよ」

少年「無理じゃないよ」

少女「むり」

少年「絶対に、無理じゃない」

44: 2013/03/21(木) 22:35:35.69 ID:tTo/bpVM0
少女「ばか」

少年「ばかです」

少女「ばか」

少年「ごめんね」

少年「いっぱい泣かせちゃって」

少女「ばか」

少年「うん」

少女「ばか」

少年「うん」

少女「ありがとう」

少年「……うん」

少女「もう、来なくていいから」

少女「おねがい。がんばって」

少年「うん」

少女「ばいばい」


少年「……ばいばい」

49: 2013/03/22(金) 19:11:31.92 ID:cGxcu1NxO
『本当』


少年「だーれだ」

少女「だれでもいいよ」

少年「本当?」

少女「うそなんでしょ」

少年「そうだよ。君は嘘つきだ」

少年「涙の理由、そろそろ教えてくれる?」

少女「おしえない」

少年「けちー」

少女「かわりに言いたいことがあるの」

少年「うん」

少女「とても時間がかかるとおもう」

少年「いいよ。待ってるから」

少女「ありがとう」

少年「素直。いい子だね」

少女「子どもあつかいはやめて」

少年「ごめんごめん。さ、話してみて」

少女「うん」

50: 2013/03/22(金) 19:13:28.18 ID:cGxcu1NxO
少女「わたしが歩けなくなったのは、中学生のとき」

少女「家族みんなが乗ってる車で事故にあって、足の自由と声を落とした」

少女「でも、あなたの言ったとおり」

少女「本当は努力をすれば歩けたし、話せたの」

少女「落としものは足元にあったのに、わたしは拾わなかった」

少年「どうして?」

少女「だれも、待ってくれなかったから」

少女「わたしが声を落としたとき、仲良しだった友だちはずっとそばにいてくれて、筆談もちゃんと待っててくれた」

少女「でもやっぱりね。だんだん話に入れなくなった。ノートに返事を書いてたら、もう次の話だいになっていたり」

少女「それはしかたのないことだって思ってた」

51: 2013/03/22(金) 19:14:55.33 ID:cGxcu1NxO
少女「でも、わたしは足も落としてしまっていたから」

少女「いつしか追いつけなくなって、『待って』も言えなくて」

少年「それも仕方のないことだって思っちゃったんだ?」

少女「そのとき『早く歩けるようになろう。話せるようになろう』って思えたらよかったのに」

少年「そうだね」

少女「わたしはあきらめた。ひとりでいることが一番楽なんだって思った」

少年「後悔してる?」

少女「うん」

少年「大丈夫だよ。そのおかげで俺に会えたんだから」

少女「……」

52: 2013/03/22(金) 19:27:05.87 ID:cGxcu1NxO
少年「君のそのノート、すっごく良いと思うんだ」

少年「自分の言ったこと、思ったことはそのノートの中にある」

少年「素敵なことだと思うよ」

少年「人はいちいち、自分の言ったことなんて覚えてないからさ」

少年「誰かを傷付けたことに気付かなかったり、忘れることがある」

少年「そして、そんな振りをすることもある」

少年「でも君は必氏に無機質な文字で伝えようとしてた」

少年「嘘偽りのない、君の本当を。できるだけ、柔らかい言葉で」

少年「俺はそれを読んだとき、君はすっごく優しい子なんだって思ったよ」

53: 2013/03/22(金) 19:28:47.63 ID:cGxcu1NxO
少年「それが故に、伝わらなかったのが悲しかったんだね」

少女「……」

少年「頑張ったね。すっごく」

少女「……」

少年「ごめん。また俺の自分勝手、我が儘なんだけどさ」

少年「もう少しだけ、頑張ってくれないかな」

少女「……」

少年「必ず帰ってくるから。ここに」

少女「うん」

少年「いい子」

少女「だからやめてってば」

54: 2013/03/22(金) 19:47:04.87 ID:cGxcu1NxO
少年「そういえば、もうすぐ桜が咲くかな」

少女「まだまだだよ」

少年「えー。卒業こそ桜が相応しいと思うんだけどなあ」

少女「しかたないよ」

少年「お花見、来ようね」

少女「ここに?」

少年「いいじゃん。あんまり桜は無いけどさ」

少女「うん」

55: 2013/03/22(金) 19:48:04.65 ID:cGxcu1NxO
少年「そろそろ帰る? 泣いちゃう前に」

少女「うん」

少年「じゃあ……ばいばい」

少女「また明日」

少年「え? 明日?」

少女「うそ」

少年「嘘つき。泣き虫」

少女「待ってるから」

少年「うん」

少女「ずっと」

少年「うん」

少女「……」


少年「また明日、ね」

56: 2013/03/22(金) 19:57:29.96 ID:cGxcu1NxO
『1ページ』


少年「だーれだ」

少女「ーーくん」

少年「……正解」

少女「やった」

少年「難問だったもんね」

少女「うん」

少年「ノート、捨てたの?」

少女「ううん。ここにあるよ」

少女「私にはやっぱり、必要なの」

少女「私が言った大事な言葉を、これからはここに書いていくことにする」

少年「うん。それがいいや」

57: 2013/03/22(金) 19:58:36.13 ID:cGxcu1NxO
少女「桜の木、本当にちょっとしかないね」

少年「でも、ちゃんと咲いてるよ」

少女「うん。綺麗」

少女「貴方が来る前に大雨が降って、全部散っちゃうんじゃないかって、ハラハラしちゃった」

少年「あら。なんて可愛いことを」

少女「よかった。ちゃんと待っててくれて」

少年「……」

58: 2013/03/22(金) 20:01:01.07 ID:cGxcu1NxO
少年「そういえば子供達は相変わらず石投げしてるんだね。よく飽きないなあ」

少女「私も貴方に、石をいっぱい投げられたよ」

少年「え?」

少女「貴方の言葉が、私の心に波を起こした」

少女「落ちた場所から、それがどんどん広がっていって……」

少女「今もまだ、治まらないの」

少年「胸触って確認していい?」

少女「駄目。まだ小さいから」

少年「もうこれ以上む……うっ!」

少女「痛い?」

少年「かなり根に持つタイプなんだね?」

少女「今度は私が傘を持つから」

少年「君はチビだから無理だよ。腕、伸びるの?」

少女「ばかばかばかばかばか!」

少年「あー。なんか幸せ」

少女「え?」

59: 2013/03/22(金) 20:02:17.15 ID:cGxcu1NxO
少年「なんでもない。あ、そういえば俺の親が携帯電話買ったんだ」

少女「へえ。便利って?」

少年「まーね」

少女「そんなもの無くても……貴方は来てくれるんでしょ?」

少年「うん。むしろ、ずっと一緒にいたいって思ってる」

少女「……ばか」

少年「口癖だね」

少女「ねえ。私も貴方に石を投げてもいい?」

少年「もちろん」

少女「絶対に、落とさないでね」

少年「どんとこい」

少女「じゃあ、えーっと……」

少女「好きです……っと」

60: 2013/03/22(金) 20:03:41.61 ID:cGxcu1NxO
少年「待って。あまりにさらっと過ぎるし。ノートに書くのは後でもいいでしょ。雰囲気台無し」

少女「ごめん。これだけはすぐに書きたかったの」

少年「見せてよ」

少女「新しいノートの1ページ目。じゃーん」

少年「でっかい字。照れる」

少女「次は貴方の番ね」

少年「うーん。好きっていうのは照れ臭いからさ。さっきからずーっと思ってること、言っていい?」

少女「え?」


少年「声、すっごく可愛いね」



おわり

67: 2013/03/23(土) 16:38:26.41
乙でした

引用元: 少年「だーれだ」少女「だれでもいいよ」