1: 2013/03/24(日) 14:01:21.27 ID:qozQ7Idu0
「学校行きたくないってどういうこと?」

少年「……」

「何かあったの?」

少年「……」

「何かあったのね? 言ってみなさい」

少年「別に、何でもないよ」

「何でもないことないでしょう」

少年「ほんとになんでもないんだ」

「……」

少年「なんでも、ないんだよ」

4: 2013/03/24(日) 14:04:10.57 ID:qozQ7Idu0
……

「すみませんお義母さん」

  「いいんだよう、孫が一緒にいてくれるなら嬉しいわあ」

「じゃあ、この子をお願いしますね」

  「はいはい。帰りの車も気をつけてねえ。坂道、多いから」

「はい、それじゃあ。……行儀よくしてるのよ?」

少年「うん……」

  「よろしくね」

少年「よろしく、お願いします」

6: 2013/03/24(日) 14:09:00.28 ID:qozQ7Idu0
少年「……」

「田舎は退屈だろう? すまないねえ」

少年「あ、別に大丈夫です」

「なにかあったら遠慮なく言ってね」

少年「はい」

「……」

少年「……。あの」

「ん? なんだい?」

少年「ちょっと外歩いてきます」

「ああ、わかったよ。気をつけてね」

少年「はい」


 タッタッタ……


「……あの子は相変わらずだねえ」

7: 2013/03/24(日) 14:15:50.78 ID:qozQ7Idu0
裏の林 川岸


少年「ふう」

少年「……」

少年「はあ」


『あいつ? いや、なんとなくいっしょにいるだけだよ』


少年「……はあ」

9: 2013/03/24(日) 14:19:43.78 ID:qozQ7Idu0
少年「……」

少年「……」ポイ

 ――ぽちゃん……

少年「……」ポイ

 ――ぽちゃん

少年「……っ」ブン!

 ――ばしゃん!

少年「グス……」

?「なんだこいつ」

少年「!?」

10: 2013/03/24(日) 14:24:51.01 ID:qozQ7Idu0
少年「か……っ」

?「……ん?」

少年「河童……!?」

河童「お前、俺が見えるのか?」

少年「え?」

河童「見えてるんだな」

少年「……見えてるけど」

河童「へえ。最近の奴は俺らのことなんて忘れちまったもんだと思ってたが」

少年「?」

11: 2013/03/24(日) 14:29:24.15 ID:qozQ7Idu0
河童「まあいいか。見えるんなら好都合」

少年「な、何が?」

河童「さっきから川に石を投げ込んでるのはお前だろ。うるさくてかなわん。さっさと失せろ」

少年「え? あ……ごめん」

河童「さっさと行け。さもないと尻子玉抜いちまうぞ」

少年「しりこ……? 何それ」

河童「頃すぞっつってんだよ」

少年「……。それ、楽に氏ねる?」

河童「あ?」

12: 2013/03/24(日) 14:33:44.49 ID:qozQ7Idu0
少年「……いや、何でもないよ。うるさくしてごめん」

河童「しっしっ」

少年「じゃあね」

河童「もう来るんじゃねえぞ」

14: 2013/03/24(日) 14:37:57.10 ID:qozQ7Idu0
林の奥


少年「……びっくりした」

少年(河童って、ほんとにいたんだ)

少年「しりこ……ってなんなんだろう」


?「がはははは!」


少年「え?」


 ヒュウウウゥゥゥ――ドスンッ!


少年「うわ!」

15: 2013/03/24(日) 14:44:18.93 ID:qozQ7Idu0
?「着地成功! だがなんだ。なんだかおかしく候!」

少年(な、なんだ? 空から人が……)

?「天地がまっさかさまさま! これはあれか。皆してワシをからかっておるのだな!?」

少年(なんで頭から落下して平気なんだろう)

17: 2013/03/24(日) 14:48:37.02 ID:qozQ7Idu0
?「ぬうん」

少年「あの……大丈夫ですか?」

?「なにぃ!? ワシがおかしく見えると申すか! 失礼千万笑止千万!」

少年(あれ? この人、鼻が……)

?「天狗の頭たるこのワシをコケにするなら相応の覚悟をすべし!」

少年「! 天狗!?」

天狗「ぬ?」

18: 2013/03/24(日) 14:55:54.20 ID:qozQ7Idu0
天狗「おお」

少年「?」

天狗「お主、人間か。いや、さかさまだから『んげんに』か?」

少年「ちがいます。人間です」

天狗「なんと!? さかさまの分際で生意気な!」

少年「ええと……さかさまなのはあなたです」

天狗「おや?」

19: 2013/03/24(日) 15:03:06.61 ID:qozQ7Idu0
天狗「おお……確かにさかさまなのはワシの方じゃった」

少年「起こしましょうか?」

天狗「目からうろこが落ちたような気分じゃ。記念にワシは今日から『ぐんて』と名乗ろう」

少年「記念しなくても。名乗らなくても」

天狗「うるさい! ワシが決めたことに逆らうな!」

少年(打ちどころが悪かったのかな)

天狗「去れい去れい!」

少年「すみません、失礼しました。帰ります」

21: 2013/03/24(日) 15:10:28.77 ID:qozQ7Idu0



少年「ただいま帰りました」

「ああ、おかえり」

?「おかえりー」

少年「え?」

「どうかしたかい?」

少年「あ、いや……別に」

少年(今、女の子の声が。気のせいかな)

「じゃあ夕食の支度の続きするからね」

少年「あ、はい」

?「おや?」

少年「!」

22: 2013/03/24(日) 15:17:41.96 ID:qozQ7Idu0
少年(小さな女の子?)

?「あたしが見えるのかい?」

少年「き、君はどこから入ったの?」

?「ありゃりゃ、本当に見えちまってるんだねえ」

少年「何をいってるのか分からないけど、勝手に入ったらだめだよ」

?「うーん、その口のきき方はないんじゃないかい? この家のことならあたしの方がずーっと先輩だよ?」

少年「は?」

座敷「あたしは座敷わらしさ。なんで見えてるのか知らないけど、よろしくね」

少年「……」

少年「え?」

24: 2013/03/24(日) 15:22:27.53 ID:qozQ7Idu0
次の日


少年「あの」

河童「んあ?」

少年「こ、こんにちは」

河童「……何しに来た?」

少年「ええっと」

河童「もう来るなっていったのは忘れたのか? ずいぶんとできのいい頭だな」

少年「それは覚えてるんだけど……昨日迷惑かけたからお詫びをと思って」ゴソ

河童「きゅうり?」

少年「うん」

27: 2013/03/24(日) 15:33:16.14 ID:qozQ7Idu0
河童「殊勝な心がけだが安物は嫌いでな。余計なことするぐらいなら出てこない方がマシだってなんで分からないかね」

少年「うう……」

河童「決めた。てめえの尻子玉抜いてやる」

座敷「それは困るねえ」

河童「っ!」

座敷「あたしんちのもんに手ぇ出すんじゃないよ」

河童「お前は……」

座敷「久しぶりだねこわっぱ」

河童「出てきやがったなクソババア……」

29: 2013/03/24(日) 15:41:03.48 ID:qozQ7Idu0
少年「知り合い?」

河童「不本意ながらな」

座敷「かれこれ半世紀ぶりってとこかねえ」

河童「このガキはお前の宿主んとこのかよ。どうりで見覚えのある辛気臭さだと思ったぜ」

座敷「お黙り。うーん、この林に来るのもしばらくぶりだね」

少年「?」

座敷「ああ、あたしは人家が活動範囲だから基本外には出ないんだよ」

少年「出てるじゃない」

座敷「あんたがいるからね。その家の人間がいる場所なら家の中と似たようなもんなのさ」

少年「ふうん?」

座敷「というわけでここに来るのもだいぶ久しぶりってわけ」

33: 2013/03/24(日) 15:47:46.74 ID:qozQ7Idu0
河童「永遠にこもってりゃ良かったものを」

座敷「なんか言ったかい?」

河童「別に」ヒョイ

少年(あ、きゅうり……)

河童「……」シャクシャク……

座敷「ひひ。どうだい? うちの野菜はやっぱり絶品だろ?」

河童「うんにゃ。他よりマシってだけだ。まあ最近は食えたもんじゃねえのがほとんどだからそりゃあありがてえけどよ」ペッ

座敷「もしよければこれからちょくちょく差しいれするけどどうする?」

河童「うれしいね……とすぐ飛びつく野郎はただの阿呆だろうが」

座敷「……」

河童「何企んでやがる?」

36: 2013/03/24(日) 15:56:52.62 ID:qozQ7Idu0
座敷「やだねえ、変なことは何一つ企んじゃいないよお」

河童「嘘ならもっと上手くつきやがれ」

座敷「まあ確かにただとは言ってない」チラ

少年「?」

座敷「とりあえずはこの子の話を聞くって事でどうだい?」

少年「え?」

河童「は?」

37: 2013/03/24(日) 16:01:04.66 ID:qozQ7Idu0
「がははは!」


 ヒュウウウゥゥゥ……ドスンッ!


天狗「ぬうん!? 暗いのう! 夜か!」

少年「頭が埋まってる」

座敷「ちょうどいいとこに来たね」

天狗「おお、その声。林裏の!」

河童「チッ、天狗のジジイもきやがったか」

少年「また知り合い?」

座敷「まあこの辺のは大抵顔見知りだあね」

38: 2013/03/24(日) 16:06:28.91 ID:qozQ7Idu0
河童「……」

天狗「何が始まるのだ?」ワクワク

少年「え、っと?」

座敷「ほら、あんたが主役だよ」

少年「ぼ、ぼく?」

河童「チッ、さっさと済ませろよ」

少年「え。ぼくは何を期待されてるの?」

座敷「察しが悪いねえ。あんたがなんでここにいるのか聞きたいんだよ」

少年「なんでって」

座敷「あんたは都会にいたんだろう? なんで急にこんな辺鄙なとこに来たのさ」

少年「……」

39: 2013/03/24(日) 16:09:52.15 ID:qozQ7Idu0
少年「それは、その」

河童「……」イライラ

少年「ご、ごめん。ぼくがここに来たのは、学校に行きたく……なくなったからなんだ」

天狗「ガッコウ? なんだそれは?」

少年「人間の子どもが行くところです。みんな行かなくてはならないんです。ぼくはそれがいやになっちゃって……」

座敷「ここらの子どもは皆楽しそうに通ってるみたいだけどねえ」

少年「都会の学校は、いろいろふくざつなんです……」

座敷「ふうん、そういうものか」

河童「けっ、甘ったれが」

座敷「ちょっとあんた」

少年「いいんだ。たしかにぼくのわがままだし……ぼくがもっとうまくやってれば、もっと楽しかったはずなんだ」

天狗「よくわからんのう」ガハハ!

座敷「はあ……まああんたには永遠に分からないことだろうね」

40: 2013/03/24(日) 16:16:19.80 ID:qozQ7Idu0
少年「そういうわけで、あの学校に居場所がなくなっちゃって。おばあちゃんちでしばらく休むことになったんだ」

座敷「なるほどねえ」

河童「ふわぁ……ねみぃ」

天狗「さっぱり分からんかった!」

座敷「あんたたち……」

少年「はは……」

41: 2013/03/24(日) 16:19:42.76 ID:qozQ7Idu0
河童「話は終わりだな? 俺は帰るぞ」

天狗「ワシももっと面白いことをしに行こう!」

座敷「お待ち!」

河童「あん?」

天狗「ふむ?」

座敷「あんたたち、こんないたいけな少年を一人残して行っちまう気かい?」

河童「それが何か」

座敷「はあ~嘆かわしいねえ、河童族天狗族には情けってもんがなくなっちまったのかい」

天狗「む! 何が言いたい!」

座敷「この子の話を聞いたなら、遊び相手になってやろうって普通は思うだろう?」

44: 2013/03/24(日) 16:23:26.09 ID:qozQ7Idu0
河童「思わねえよ」

天狗「ふむ、一理ある!」

河童「騙されてんじゃねえよ馬鹿」

座敷「そうかい、遊んでやってくれないのかい、残念だねえ」

河童「話を聞くって約束は果たしたからな」

座敷「あれは、いつごろだったっけねえ」

河童「ん?」

45: 2013/03/24(日) 16:26:08.87 ID:qozQ7Idu0
座敷「ある大きい家の子供にちょっかい出した河童がいたっけ」

河童「……」

座敷「遊びたい盛りで抑えがきかなかったんだろうね、相撲でその子をわんわん泣かせちゃって」

河童「てめ……」

少年「その河童はどうなったの?」

座敷「その家の主人に手ぇ引っこ抜かれて――」

河童「分かった分かった! 遊んでやるからそれ以上言うな! 尻子玉ひっこ抜くぞ!」

座敷「ひひ」

少年「?」

46: 2013/03/24(日) 16:28:04.36 ID:qozQ7Idu0
座敷「あんたも文句ないかい?」

天狗「楽しいことのためなら多少の労苦はいとわぬ!」

座敷「それでこそ天狗の大将だ」

天狗「がははは!」

河童「チッ! オラ! 何して遊ぶんだっ?」

少年「え、ええと! ちょっと待って」

47: 2013/03/24(日) 16:29:52.49 ID:qozQ7Idu0
河童「ええいじれったい!」ドン!

少年「うわ!」


 ドボーン!


河童「今日は水遊びだ!」

少年「ぼ、く! 泳げない、よおっ!」バシャバシャ!

河童「んだと軟弱! 俺が今日からみっちり叩きこおおむ!」ドボーン!

天狗「ワシも混ぜろー!」ドボーン!

少年「ひいい!」

座敷「ひひひ」

51: 2013/03/24(日) 16:40:11.29 ID:qozQ7Idu0
……


少年「ひい、ひい……!」

河童「くぉら! 諦めんじゃねえ!」

少年「むり、だよお……!」

河童「なんでそこで諦める! もうちょっとだろうが! 必氏で脚動かせやあああああ!」

少年「わああああん!」


  天狗「あいつはなんであんなに楽しそうなのだ?」

  座敷「そりゃあもともと子ども大好きだからね」

52: 2013/03/24(日) 16:43:55.45 ID:qozQ7Idu0
……


少年「――」

河童「セイッ」

少年「……うっぷ!」

座敷「大丈夫かい?」

少年「ぼ、ぼくはいったい……」

天狗「今にも氏にそうな顔しとったわ。がはは!」

少年「ぼく氏にかけてたの!?」

座敷「すまないねえ」

河童「でもまあ、見ろ」

少年「?」

河童「泳ぎ切ったぞ、お前」

少年「あっ……」

53: 2013/03/24(日) 16:47:57.37 ID:qozQ7Idu0
座敷「おめでとう」

少年「……」

天狗「うむ、見事であった! がはは!」

少年「……」

河童「まあ、まだまだだが、そこはおいおいだな」

少年「グス……」

座敷・天狗・河童「?」

少年「ふぐ……」

54: 2013/03/24(日) 16:48:57.56 ID:qozQ7Idu0
座敷「ご、ごめんよう。怖かったもんねえ」

河童「俺は悪くねえぞ!」

少年「ちが、います……っ」

天狗「嬉しいのであろう?」

座敷「え?」

天狗「ワシにはそんな涙に見えるがのう」

少年「た、楽しく、て……こんなの、初めて、で……っ」

座敷「……」ナデ

河童「チッ」

少年「ありがとう、ございました……」

天狗「がはは!」

少年「ありが、とう、ございました……!」

55: 2013/03/24(日) 16:55:28.86 ID:qozQ7Idu0
数日後


座敷「どうだい練習の調子は?」

天狗「今はぐっすり寝ておるぞ」

少年「――」

河童「……俺は悪くねえ」

座敷「また氏にかけてるのかい」クスクス

57: 2013/03/24(日) 17:01:43.57 ID:qozQ7Idu0
河童「セイッ」

少年「うぶぅ……っ」

座敷「おかえり」

少年「氏んだお父さんが手招きしてた……」

天狗「それはいい夢じゃのう!」

少年「そうとも言い切れません……」

座敷「家からおにぎり持ってきたよ。休憩しよう?」

60: 2013/03/24(日) 17:07:27.13 ID:qozQ7Idu0
……


少年「毎日びしょぬれで帰ってくるからおばあちゃんが心配するんだよ」

河童「仕方ねえだろ多少の犠牲は」

少年「毎日命を落としかけるのはちょっと……」

天狗「その割には楽しそうだがのう!」

少年「それは、まあ。へへ」

61: 2013/03/24(日) 17:14:00.67 ID:qozQ7Idu0
座敷「どうだい、上達したかい?」

少年「どうかなあ」

河童「全然ダメだな、身体が浮く感覚ってのを分かってねえ。手足の動きがばらばら。すぐ顎を上げやがる」

少年「……うう」

天狗「それだけか?」

河童「……だが、熱心なのは感心だ。絶対にモノになる」

少年「ほ、本当?」

河童「ああん!? 俺が嘘吐くとでも!?」

少年「わ、わーい!」

河童「……チッ!」

62: 2013/03/24(日) 17:20:37.06 ID:qozQ7Idu0
座敷「ひひひ……っとそういえば」

少年「?」

座敷「さっき来る時てれびで、今日は星が降る日だとかなんとか言ってたねえ」

少年「流星群?」

座敷「ああそれそれ」

天狗「なんなのだそれは?」

河童「もしかして流れ星か?」

少年「そう。それがたくさん見れる日なんだ」

天狗「???」

63: 2013/03/24(日) 17:27:13.07 ID:qozQ7Idu0
座敷「そろそろ時間じゃなかったかねえ、夕方って言ってたし」

少年「どうせだし見てから帰ろうかな」

河童「悪くねえな」

座敷「あ、どうせだしのついでで」

河童「ん?」

座敷「ひひ」

64: 2013/03/24(日) 17:34:51.95 ID:qozQ7Idu0
……

 ビュウウウゥゥゥゥ!


座敷「相変わらず速いねえ!」

少年「お、重くないですかあ!?」

天狗「お主ら程度では重いとか分からんのう!」ガハハ!

河童「……」

少年「どうしたの!?」

河童「うるせえ話しかけんな!」

座敷「高いところが苦手なのさ!」

少年「へえ!」

河童「あ! この野郎笑うんじゃねえ!」

65: 2013/03/24(日) 17:40:12.50 ID:qozQ7Idu0
山頂


少年「始まったね」

座敷「綺麗だねえ……」

天狗「ぬう、これが流れ星か」

河童「知らなかったのかよ」

少年「……」

66: 2013/03/24(日) 17:45:26.55 ID:qozQ7Idu0
少年「……あの」

座敷「うん?」

少年「天狗さんって、その、言っちゃあなんですけど……」

天狗「ふむ?」

河童「言いたいことは分かる。馬鹿だよな」

天狗「いかにも!」

座敷「認められる辺りが唯一持ちえた英知かねえ」

少年「は、はは」

67: 2013/03/24(日) 17:49:28.81 ID:qozQ7Idu0
少年「……。ぼくのいた学校では、頭のわるい子はいじめられちゃうんです」

天狗「いじめられる? とはなんだ?」

少年「いるのにいないように扱われたり、暴力を振るわれたり……」

天狗「いるのにいない?」

座敷「それはつらいねえ」

河童「へえ」

少年「河童さんみたいに人当たりが、その、悪くてもそうなります」

河童「え?」

少年「座敷わらしさんみたいにあんまりお節介でも、同じです」

座敷「……」

68: 2013/03/24(日) 17:54:11.68 ID:qozQ7Idu0
少年「それで、聞きたいんですけど。妖怪の世界にはいじめってないんですか?」

座敷「……」チラ

河童「……」フルフル

天狗「いるのにいないなどと言う馬鹿は妖怪にはおらんな!」

少年「……そうですか」

座敷「ねえ」

少年「いいなあ、妖怪の世界って」

座敷「え……」

少年「……」

71: 2013/03/24(日) 18:00:08.81 ID:qozQ7Idu0
……


 ビュウウウゥゥゥゥ……!


少年「ムニャ……」

座敷「寝ちゃったね」

河童「この強風の中でよく眠れるもんだぜ。支える方の身にもなれよ」

座敷「できるだけ優しく飛んでちょうだいよ」

天狗「あい分かった!」

72: 2013/03/24(日) 18:02:32.55 ID:qozQ7Idu0
座敷「妖怪の世界っていいな、か」

河童「……」

座敷「なんかあったね、これは」

河童「俺たちが見えるのもそのせいか?」

座敷「あまりいいことじゃないのかもね」

河童「俺たちと遊んでいることもか?」

座敷「多分」

河童「そっか。……そうかもな」

座敷「やっぱりあの子には人間の友だちが必要だと、あたしは思うねえ」

河童「人間の、友だちか」

天狗「着いたぞお!」

74: 2013/03/24(日) 18:07:53.21 ID:qozQ7Idu0
ある日


河童「今日は泳ぎは休みだ!」

少年「え?」

河童「かくれんぼやるぞ、かくれんぼ! 俺が鬼だ、隠れろお!」

少年「ええ?」

河童「いーち、にーい」

少年「あ、え、その」

河童「さんしいごおろく」

少年「わわっ!」ダッ!

76: 2013/03/24(日) 18:15:41.34 ID:qozQ7Idu0
 タッタッタ……


河童「……」

河童「さて」

77: 2013/03/24(日) 18:19:46.89 ID:qozQ7Idu0
少年「……」

少年(とりあえず草むらの中に隠れてみたけど……)

少年(かくれんぼなんて何年ぶりかなあ)


 ガサガサ……


少年「!」

少年(け、結構ドキドキするっ)

78: 2013/03/24(日) 18:22:23.71 ID:qozQ7Idu0
少年(来るな。来ないでよ?)


 ガサガサ!


少年(あ、見つかる!)

「あのー」

少年「ひゃい!?」

79: 2013/03/24(日) 18:25:55.93 ID:qozQ7Idu0
少年「だ、誰!?」

少女「あ、その、ごめん」

少年「き、きき、君は?」

少女「えっと。通りすがり?」

少年「……?」

少女「なんかこんな紙が落ちてて」

少年「『助けて』?」

少女「同じようなのが林の外から点々と」

少年「……何それ?」

少女「君が書いたんじゃないの?」

少年「いや、知らない」

80: 2013/03/24(日) 18:28:38.29 ID:qozQ7Idu0
物陰


河童「よし、接触したな」

座敷「なんかごそごそやってると思ったら……」

天狗「ふうむ?」

河童「これであいつにも人間の友だちができるぞ」

座敷「あんたも結構単細胞なんだねえ……」

河童「何ぃ!?」

81: 2013/03/24(日) 18:33:14.47 ID:qozQ7Idu0
少女「なんでこんな所に?」

少年「あ、えっと、かくれんぼで……」

少女「……一人で?」

少年「そ、それは」

少女「……」

少年「……うう」

少年(逃げ出したい……)

84: 2013/03/24(日) 18:37:09.47 ID:qozQ7Idu0
河童「……あれ?」

座敷「はあ……」

天狗「ふうむ」

86: 2013/03/24(日) 18:40:24.22 ID:qozQ7Idu0
少女「ふうん」

少年「あの、ぼくはその、これで……」

少女「ちょっと待ってよ」

少年「な、何?」

少女「わたし、今暇してたの」

少年「そ、そう」

少女「かくれんぼ、混ぜてくれない?」

少年「え?」

87: 2013/03/24(日) 18:41:17.36 ID:qozQ7Idu0
河童「お!」

座敷「ええ?」

天狗「うむ、うむ」

座敷「……うっそお」

88: 2013/03/24(日) 18:46:40.07 ID:qozQ7Idu0
……


少女「はー楽しかった」

少年「ほ、本当?」

少女「うん、かくれんぼなんて久しぶりだったから」

少年「よかったあ……」

少女「わたし、今日はもう帰るね」

少年「あ……さようなら」

少女「またね!」タタッ!

少年「……」

少年(ん? またね?)

89: 2013/03/24(日) 18:49:35.55 ID:qozQ7Idu0
河童「ま、ざっとこんなもんか」

座敷「こんなこともあるんだねえ……」

天狗「ぬ? 何か意外か?」

座敷「だって普通に考えたら」

天狗「こうなる以外はなかったと思うが」

河童「だろ!?」

座敷「天狗……あんたってさあ、ときどき妙に勘がいいんだねえ」

90: 2013/03/24(日) 18:53:34.88 ID:qozQ7Idu0
次の日 川岸


少年「河童さーん」タッタッタ

少女「それ、わたしのこと?」

少年「あ!」

少女「大人しそうな顔してけっこう毒舌なんだね」クスクス

少年「いや! 君のことじゃ、なくて」

少女「じゃあ誰のこと?」

少年「それは」

少女「……」

少年「……うう」

少女「……ぷっ。ふふ」

少年「?」

91: 2013/03/24(日) 18:58:13.17 ID:qozQ7Idu0
少女「今日の最初の鬼は君ね!」タッタッタ……

少年「ええ?」

少女「ちゃんと十数えてねー!」

少年(……)

少年「……クス」

少年「さて。いーち、にーい……」

93: 2013/03/24(日) 19:03:44.12 ID:qozQ7Idu0
……


河童「……」ブスッ

座敷「あの子たち、妙に仲良くやってるねえ。毎日飽きもせずかくれんぼにかくれんぼ」

天狗「良きかな!」

河童「チッ」

座敷「……おやあ?」

河童「なんだよっ?」

座敷「あんたもしかして」

天狗「奴と遊べないから不機嫌なのだな」

河童「くっ、ちげーよ!」

座敷「ひひひ!」

96: 2013/03/24(日) 19:09:08.32 ID:qozQ7Idu0
夕方


少年「あー、疲れた!」

少女「もうそろそろやめようか」

少年「そうだね」

少女「じゃあわたし、帰るね」

少年「……うん」

100: 2013/03/24(日) 19:25:38.91 ID:qozQ7Idu0
少年(毎日遊んでるけど、この子のこと、何にも知らないなあ)

少年(せめて名前くらいは知りたいな……)

少女「あ、そうだ」クル

少年「え、何?」

少女「ちょっと寄るところがあるんだけど、一緒に行かない?」

少年「寄るとこ……?」

少女「来てくれると嬉しいな」

少年「……え?」

少女「なんてね」

少年「……。行く」

101: 2013/03/24(日) 19:30:59.42 ID:qozQ7Idu0
山のふもと 小さなほこら


少女「着いたよ」

少年「ここは?」

少女「狐の妖怪を祀ってるって」

少年「狐の妖怪?」

少女「そう。妖狐」

102: 2013/03/24(日) 19:34:36.53 ID:qozQ7Idu0
少女「知ってる? 子どもを妖怪の世界にさらっちゃうきれいな女の人の話」

少年「知らない。こんなとこがあることも知らなかったよ」

少女「その女の人はね、人間の世界がいやになっちゃった子が来ると現れるの」

少年「……」

少女「正体は妖狐で、そんな子を妖怪の世界に連れていっちゃうんだって」

少年「妖怪の、世界」

少女「そこは楽しくて、苦しみがなくて、でも生きてるって実感もないの」

少年「……」

少女「もしそんな世界があったら、行きたい?」

103: 2013/03/24(日) 19:37:34.93 ID:qozQ7Idu0
少年「……」

少女「……」

少年「分から、ない」

少女「……」

少年「前は行きたかった。絶対に行くんだって思ってた」

少女「今は?」

少年「……分からなくなった」

少女「どうして?」

少年「こっちの世界もいいかな、って」

少女「どうして?」

少年「君と――」

少年(一緒にいたいから)

少年「一緒に遊ぶのが楽しいから」

104: 2013/03/24(日) 19:41:37.56 ID:qozQ7Idu0
少女「……そっか」

少年「うん」

少女「よかった」

少年「え?」

少女「だって君、最初に会った時、すごくさびしそうだったもん」

少年「そう……?」

少女「昔のわたしにそっくりでさ。あっち側に行きたがってるんだって、すぐに分かった」

少年「……」

少女「でも、もう大丈夫だね?」

少年「……多分」

106: 2013/03/24(日) 19:49:01.18 ID:qozQ7Idu0
少女「多分、か。じゃあ絶対にあっちに行かないように、これあげるよ」

少年「……お守り?」

少女「うん」

少年「でもこれ」

少女「うん。わたしの手作り」

少年「……」

少女「でも、心をこめて作ったよ?」

少年「なんだろう」

少女「え?」

少年「今、よくわかんない感じがした」

少女「やな感じ?」

少年「ううん。逆。とてもいい感じ」

107: 2013/03/24(日) 19:53:08.59 ID:qozQ7Idu0
 
少女「……」

少年「……帰ろうか」

少女「うん!」
 

108: 2013/03/24(日) 19:53:42.03 ID:qozQ7Idu0
     ・
     ・
     ・
 

109: 2013/03/24(日) 19:57:05.73 ID:qozQ7Idu0
 
少女「ごめんね」

少年「え?」
 

110: 2013/03/24(日) 19:58:48.14 ID:qozQ7Idu0
少年「え……」

少女「……」

少年「今、なんて?」

少女「……ごめんね」

少年「……」

少年(なんだよ……なんだよそれ)

少年(引っ越すって、なんだよ)

111: 2013/03/24(日) 20:03:55.56 ID:qozQ7Idu0
少女「本当は、前から決まってたんだ」

少年「……」

少女「お父さんの仕事の都合で町の方に行くの」

少年「……」

少女「言いだせなくて、ごめん」

113: 2013/03/24(日) 20:09:02.56 ID:qozQ7Idu0
少年「なんだよ、それ」

少女「ごめん」

少年「なんだよそれ! なんで言ってくれなかったんだよ!」

少女「ごめん……言いだすのが怖くて、言ったらだめな気がして」

少年「い、言いわけなんかいらないよ!」

少女「っ……」

115: 2013/03/24(日) 20:11:38.60 ID:qozQ7Idu0
少年(まさか、まさか)

少年「ぼくにいろいろよくしてくれたのは、どうせすぐに縁が切れるからって……」

少女「ち、ちが」

少年「嘘つくなよ! ぼくを、か、からかって遊んでたんだろ!」

少女「ちがうよ!」

少年「だって毎日遊んでたのに、名前……名前も教えてもらってないじゃないか!」

少女「それは」

少年「やっぱりどうでもよかったんだ……!」

少女「わ、わたしの名前は」

少年「……ッ!」ダッ

少女「待って!」

118: 2013/03/24(日) 20:18:12.40 ID:qozQ7Idu0
……


家 少年の部屋


 ……コンコン

  「大丈夫? ずっと部屋から出てこないけど」

少年「……大丈夫です、おばあちゃん。ほっといて」

  「そう……夕食できてるからね」

少年「うん」

少年(……いらないけど)

119: 2013/03/24(日) 20:20:48.56 ID:qozQ7Idu0
少年「……ふん」

少年(ひどいこと、言っちゃった)

少年「ち、ちがうや、あの子が悪いんだ」

少年(名前、ちゃんと聞いておけばよかったな)

少年「そんなことない」

少年(ちゃんと見送りしてあげれば)

少年「そんなのいらない……!」

122: 2013/03/24(日) 20:25:03.90 ID:qozQ7Idu0
 ガチャ


「あ、あら、やっと出てきたねえ。ご飯できて」

少年「いらない」

「え?」

少年「ちょっと出かけてくる」

「え、ちょ、ちょっと!」

123: 2013/03/24(日) 20:26:28.17 ID:qozQ7Idu0
夜 川岸


少年「……河童さん?」

少年「天狗さん、座敷わらしさん」

少年「みんな、どこにいるの?」

少年「……どこいっちゃったんだよ」

少年「……グス」

124: 2013/03/24(日) 20:30:34.64 ID:qozQ7Idu0
……


少年「……」

?「おや、こんなとこでうずくまってたのかい」

少年「……え?」

女「そんな格好じゃ寒いよ」

少年(あれ? ここはどこ? なんで森の中に……)

女「おいで。いいところに案内してあげるよ」

少年(きれいな、人だなあ)

125: 2013/03/24(日) 20:34:55.61 ID:qozQ7Idu0
森の中の屋敷


少年(大きい……広い)

女「いいところだろう?」

少年「誰も、いない」

女「ここにいるのはわたしとお前だけだよ」

少年「……」

女「おいしい食事が用意してあるんだ。こっちにおいで」

少年「……」

126: 2013/03/24(日) 20:39:06.23 ID:qozQ7Idu0
屋敷 広い部屋


女「ほら、おいしそうだろう?」

少年「……」

女「さあお食べ」

少年「……」

女「食べ終わったら眠るんだ。眠って起きても時間はたっぷりある。そうしたらいい服に着替えて、一緒に遊ぼう?」

少年「あなたは、何者ですか?」

女「……お前の事をよく知る者さ」

127: 2013/03/24(日) 20:42:57.39 ID:qozQ7Idu0
少年「ぼくのこと?」

女「つらかったねえ」

少年「え?」

女「お前は優しいけど引っ込み思案な性格のせいで友だちはいなかった」

少年「……」

女「学校ではいつも一人。いじめられても誰も助けてはくれない」

少年「……」

女「先生にも見捨てられて、母親も忙しくて気づいてはくれなくて」

少年「……」

女「でも、そんなお前にもやっと友だちができたんだ」

129: 2013/03/24(日) 20:44:28.59 ID:qozQ7Idu0
女「話しかけられて嬉しかっただろう? 一緒にいてくれてほっとしただろう?」

少年「……」

女「でも」

少年「っ……」

女「そいつもお前を裏切った」

少年「ッ……!」

130: 2013/03/24(日) 20:46:15.41 ID:qozQ7Idu0
 
『あいつ? いや、なんとなくいっしょにいるだけだよ』

『あいつと友だち? 馬鹿言うなよ、かわいそうだから仕方なく一緒にいてやってるだけだよ』

『あんな暗い奴と友だちになりたがる奴なんていねえよお』
 

131: 2013/03/24(日) 20:47:03.94 ID:qozQ7Idu0
女「つらかったねえ……」

少年「……」

女「でも、もう大丈夫だ。わたしと一緒にいれば、つらい思いはしなくてすむ」

少年「あなたは、妖狐ですね」

女「……」

少年「現実から逃げてきた子どもを連れていく、妖狐ですね」

女「……」

妖狐「そうだ」

133: 2013/03/24(日) 20:51:45.56 ID:qozQ7Idu0
少年「ここは、妖怪の世界」

妖狐「楽しく、苦しみがなく、しかし生きる実感のない場所」

妖狐「生きる実感がない? そりゃそうさ。ここでは人間の時間は流れていないのだから」

少年「人間の時間?」

妖狐「そうさ。それを失う代わりに、もう傷つかなくてもいい」

少年「……」

妖狐「どうだい? 悪い話じゃないだろう?」

少年「……」

134: 2013/03/24(日) 20:55:49.47 ID:qozQ7Idu0
少年「あっちの世界じゃ、いいことなんてなかった」

妖狐「……ふふ」

少年「学校から逃げて、その先で手に入れたと思ったものも、にせものだった」

妖狐「ふふふふ」

少年「河童さんも天狗さんも座敷さんも、あの子も。ぼくの前からいなくなってしまった」

妖狐「そう。その通りだよ」

少年「ぼくにはもう何も残ってない」

妖狐「そうだ、お前は空っぽだ」

135: 2013/03/24(日) 20:59:02.18 ID:qozQ7Idu0
妖狐「おいで。わたしが抱きしめてあげよう」

少年「……」

妖狐「どうした? 迷っているのかい?」

少年「……ぐ」

妖狐「じゃあわたしがお前のところに行こう」

少年「あ……あなたは」

妖狐「ん?」

少年「あなたは、泳いで氏にそうになったことがありますか?」

妖狐「どういう意味だい?」

少年「氏にそうになるまで頑張ったことがありますか?」

妖狐「……」

少年「ぼくはある」

136: 2013/03/24(日) 21:01:24.58 ID:qozQ7Idu0
少年「あっちの世界で、河童さんが教えてくれました。天狗さんや座敷わらしさんと一緒に教えてくれました」

妖狐「……」

少年「あなたは、誰かを好きになったことがありますか?」

妖狐「……」

少年「心の中があったかくてあったかくて、どうしようもなくなったことはありますか?」

妖狐「……」

少年「ぼくはある。あの子が、教えてくれたから」

138: 2013/03/24(日) 21:03:55.91 ID:qozQ7Idu0
妖狐「教えてくれた者たちはみな、お前の前から去っていったよ?」

少年「そうだ。確かにそうだ……」

妖狐「ほら見ろ。お前は一人だ。お前を愛せるのはわたしだけだ」

少年「そう……いやちがう」

妖狐「……」

少年「たしかにいなくなってしまった。でも」

妖狐「……」

少年「それでも、一緒にいたんだ。少し前までは一緒だったんだ」

妖狐「過去にすがりつくのかい?」

少年「ちがう……と思う。ぼくが望めばもっと一緒にいれる。そんな気がする」

妖狐「お前は……」

少年「それならぼくは……ぼくは生きていたい」

139: 2013/03/24(日) 21:10:56.65 ID:qozQ7Idu0
 
 ――カッ!


妖狐「ぬ!」

少年(……お守りが、光って――)


 ピカッ! ――ドサドサァ!


河童「いつつ……」

座敷「うう……」

天狗「がーはっはっはっは!」

少年「あ……あ……」

河童「お、坊主か……久しぶりだな」

座敷「だ、大丈夫かい!? 怪我はない!?」

天狗「うむ、今日も快調である!」

少年「みんな!」

141: 2013/03/24(日) 21:15:45.17 ID:qozQ7Idu0
河童「さ、てと。お前が妖狐か」

座敷「……っ」キッ

天狗「ふうむ?」

妖狐「なぜお前たちのような下劣な妖怪どもがここにいる?」

河童「知らねえよ。知ったことかそんなもの」

座敷「あたしたちはこの子を迎えに来たんだよ!」

天狗「おお、こんな所にご馳走が!」ハフハフ!

2: 2013/03/24(日) 22:09:37.27 ID:cngKJ3Tto

少年「ぼくは帰ります。みんなと一緒に」

妖狐「……」

少年「おさそい、ありがとうございました」

妖狐「くくっ」

少年「それではさようなら」

妖狐「ああ。出る以上はもう二度と来るんじゃないよ」

少年「……はい」

4: 2013/03/24(日) 22:11:41.86 ID:cngKJ3Tto

妖怪世界の空


 ヒュオオオウウウウゥゥゥゥ……


天狗「しっかりつかまっておれよ!」

少年「はい!」

河童「出口はどこだ!?」

座敷「分からないねえ……」

少年(まわりぜんぶ、すごい高さのがけで囲まれてる……)

5: 2013/03/24(日) 22:15:56.84 ID:cngKJ3Tto

天狗「どっちへ行ったらいいかも分からんのう」

座敷「あんたの勘でも分からないんじゃお手上げじゃないか」

少年「あ」

河童「どうした?」

少年「こっち……な気がする」

河童「……あてになんのか?」

天狗「ワシもそんな気がしてきたぞ!」

河童「分かんないって言ってたじゃねえかよ」

6: 2013/03/24(日) 22:18:40.77 ID:cngKJ3Tto

天狗「うむ。今もどっちへ行けばいいかすらわからん」

河童「駄目じゃねえか!」

天狗「だが、小僧が正しいことをいっとることは分かる」

座敷「この子はあっちの世界の住人だ。帰りたいと言う気持ちが強い今、感覚的に分かるのかもしれないねえ」

河童「そういうもんか?」

少年「うん、間違いない。行こう!」

7: 2013/03/24(日) 22:22:50.95 ID:cngKJ3Tto

天狗「このあたりか?」

少年「あ! あれ!」

河童「崖の側面に口が開いてやがるな」

座敷「水の勢いよく噴き出してるけど……」

天狗「河童。お主なら行けるであろう?」

河童「ったりめえよ! 任せとけ!」

8: 2013/03/24(日) 22:28:15.84 ID:cngKJ3Tto

 ――ザブン!


河童(全員、手ぇ離すなよ!)

少年(ぐっ……)

河童(絶対諦めるんじゃねえぞ! 愚痴ってる暇あったら脚動かせ!)

少年(うん!)

9: 2013/03/24(日) 22:32:15.74 ID:cngKJ3Tto




少年「――ぷはっ!」

河童「っと!」

座敷「ごほ、ごほ!」

天狗「ぬうん!」

少年「……帰って、きた?」

河童「このにおいは、間違いなく人間世界だな」

少年「そっか……帰ってきたんだ」

河童「岸に引っ張るぞ、ほら掴まれ」

10: 2013/03/24(日) 22:35:47.02 ID:cngKJ3Tto

川岸


少年「足がふらふらだ」

座敷「心配しないで。あたしがちゃんと家まで送り届けるよ」

少年「ありがとう」

河童「……なんつーか」

少年「え、何?」

天狗「うむ河童の言いたいことは分かる。お主はトカイとやらに帰ってしまうのだろう? そんな気がするわい」

少年「……うん。そうだね。ぼく、帰るよ」

11: 2013/03/24(日) 22:41:55.10 ID:cngKJ3Tto

少年「帰ったらいろいろやりたいことがあるんだ」

座敷「やりたいこと?」

少年「うん。ぼくを裏切ったあいつに怒ってやらないと気が済まないよ」

河童「……へえ」

少年「ぼく、何も言わずに逃げて来ちゃった。でもそれは、とっても損してると思うんだ」

天狗「然り! 思いのままをぶちまけてくるがよい!」

少年「うん!」

座敷「それだけかい?」

少年「あの子を探す」

河童「……」

少年「引っ越し先も、名前も知らないけど、絶対見つけるよ。ぼくまだあの子と仲直りしてないもん」

座敷「……」

少年「もちろん、見つからないかもしれないけど……」

天狗「心配するな。見つかる見つかる! ワシはなんだかそんな気がしてきたぞ!」

少年「天狗さんが言うなら心強いな」

12: 2013/03/24(日) 22:44:11.08 ID:cngKJ3Tto

座敷「ふふ。じゃあ帰ろうかねえ」

少年「お願いします」

座敷「はいよ」

少年「それじゃあ河童さん、天狗さん。またね」

河童「おう」

天狗「うむ! また会おう!」

13: 2013/03/24(日) 22:47:12.76 ID:cngKJ3Tto

 振り返らずに真っ直ぐ帰ってすぐに眠った。
 次の日には座敷わらしもいなくなっていた。
 きっと、見えなくなったのだと思う。
 でも、それでも、きっとすぐそばにいたのだとも思う。

 ぼくはその後、都会に戻った。
 戻った日の夜一度だけ、声をあげて泣いた。

14: 2013/03/24(日) 22:51:27.54 ID:cngKJ3Tto

……


「お話はここでおしまい」

  「それ本当にあった話ー? パパはウソついてるんじゃないの?」

「さあて、どうかなあ」

  「でも、もし本当なら、ママは例のあの子なんだよね。それってロマンチックー!」

「ふふふ」

  「うん、わたし、信じるよ。その方が面白いもん!」

「彼らはね、きっと今もあの場所にいると思うんだ。お前が困ったとき、逃げ出したいときはきっと力になってくれるよ」

  「楽しみにしてるね!」

15: 2013/03/24(日) 22:52:02.30 ID:cngKJ3Tto

     ・
     ・
     ・

16: 2013/03/24(日) 22:54:46.83 ID:cngKJ3Tto

河童「あいつ、元気かねえ」

座敷「寂しいのかい?」

天狗「がはは! 河童らしいのう!」

河童「らしいのかよ」

座敷「もうあれから二十年だよ。あの子もいい大人さ」

天狗「子供もいるかもしれんな!」

河童「でも、また妙なことになってたりしねえかな、大丈夫かな」

座敷「いい加減子離れしなさいな」

天狗「がははは!」

17: 2013/03/24(日) 22:57:06.62 ID:cngKJ3Tto

……


河童「あいつらはああ言ってたけど」

河童「俺は心配だなあ」

河童「ふーむ」


 ぽちゃん……


河童「うん?」


 ぽちゃん……! ばしゃん!


河童「チッ、うっせえなあ。誰だ一体!」

18: 2013/03/24(日) 22:59:30.13 ID:cngKJ3Tto

「ヒック、グス……」

河童「……なんだこいつ」

「!」

河童「ん?」

「か、河童さんだあ……!」

河童「……お前、まさか。俺が見えるのか?」

19: 2013/03/24(日) 23:00:06.05 ID:cngKJ3Tto
終わり。ありがとでした

引用元: 河童「あいつ、元気かねえ」座敷「寂しい?」天狗「がはは!」