唯「……」

唯「1人でごはんかー……どうしよう」

唯「お母さんからごはん代1000円貰ってるし何か買いに行こうかな」

唯「スーパーいこ」

唯「んー、めんどうだし制服のままでいいや」

スーパー

唯「確かお弁当売ってるんだよね。お母さんがたまに買ってくるし」

唯「ええと……」

唯「お肉……お魚……飲み物……あ、いちご牛乳買っちゃお」

唯「お弁当は……あった」

唯「結構色んな種類があるんだ。……ん？」

唯「おおー半額だラッキー。時間が遅いからかな」

唯「これならいちご牛乳とこのお弁当とデザートを買ってもまだお釣りがくる。いいねえ」

唯「そうだなぁ……もう一つお弁当買ったらギリギリはみ出しちゃうか……」

唯「んー何かないかなぁ……おっ？　お惣菜もあるんだ。ここから選ぼう」

唯「あっコロッケおいしそう。これにしよ……あっ！」

唯「カニクリームコロッケがある！　しかも半額！」

唯「これにしよう。あ！」

唯「割引されてるからもう一個カニクリームコロッケ買える。へっへー値段もぴったり～」

自宅

唯「……なんで1000円ぴったり買う事にこだわってたんだろう」

唯「安く済ませればおこずかいに出来たじゃん」

唯「買い過ぎた……」

唯「おまけにデザート買い忘れた」

唯「まあ買っちゃったものはしかたない。食べよう！」

唯「いただきまーす」

唯「まずはやっぱりカニクリームコロッケだよね！」

唯「あ、お皿用意してない……まっいいか」

私は透明のプラスチック容器に箸を向けてカニクリームコロッケを掴んだ。
コロッケにまるごとかぶりつきたかったから割れてしまわないようにそうっと。
俵型のコロッケは少しへこんだが箸ですくう事に成功した。
このカニクリームコロッケが俵型でなく小判型だったら出来なかったと思う。
カニクリームコロッケは通常のコロッケに比べて水分が多く作る時に型崩れしやすい。
俵の形をしている事が多いのはそれを防ぐためだ。

唯「おお……」

こがね色にきらきら輝く表面からうっすらと湯気が立ち、一緒に香ばしい香りを運んでくる。
それだけで今晩のご飯にカニクリームコロッケを買って正解だったと思える。
ちょっと買い過ぎてしまったけれど今ならカニクリームコロッケがもう一つある事も嬉しく思えた。

唯「では。……はむ」

サクサクサクッと小気味良い音と触感。
濃厚なカニクリームが私の唇に付着する。
ころものカリカリに私の舌と口内が刺され、ほっぺの奥が痛くなるほどに涎が流れ込んだ。

唯「ん～♪」

ここからは優しく空気に触れる様な扱いから一転。
カニクリームコロッケの味を最後の最後まで味わいつくすようにすり潰していく。
始めの一噛みは格別だ。
ころもの固さに次いで柔らかいクリームの歯触り。
それらが混ざり合い舌に押し寄せればカニクリームコロッケのうま味に支配される。
サクサクッ。
トロトロッ。
クリームだけでも、ころもだけでもだめ。
この二つがそれぞれを引き立てている。
だからカニクリームコロッケはこんなにも美味しいんだ。

唯「んまぁい♪」

甘美な刺激を受け火照った身体がさらにカニクリームコロッケを求めている。
口の中のコロッケをすべて飲み込む前にもうひとかけらを頬張った。
丁寧に揚げられたころもが再び口内を刺激する。
かゆくてかゆくてしょうがない場所をひたすらかき続けているような感覚。
カニクリームコロッケを味わう事がやめられない。
もう頭がカニクリームコロッケの事しか考えられなくなってる。

唯「っ……ん、ん……んく……おいしすぎる」

あっという間に1個目のカニクリームコロッケを平らげてしまった。
満足感と共にそれを惜しむ気持ちが沸いてくる。
食べ終わる事を惜しむなんてそうそうない感覚だ。

唯「憂にも食べさせてあげたかったなぁ」

唯「今度憂がいる時にまた買おう」

唯「それじゃあ……」

プラスチック容器にはカニクリームコロッケが2個ずつ入っているため残り3個のカニクリームコロッケがある。
私は今すぐにでも第2陣を迎え入れたい気持ちを抑えて冷蔵庫へと向かった。
そう、最初のカニクリームコロッケは何もかけずにそのままの味を感じたけれどこのコロッケはそれだけで終わらない。
カニクリームコロッケは他のコロッケや揚げ物よりもソースのバリエーションが豊富なんだ。

冷蔵庫を開けるとウスターソース、ケチャップ、しょうゆ、タルタルソース、それにとんかつソース。
私の中のカニクリームコロッケがそれらに惹かれている。
だけど……これだけでも充分なんだけどついつい高望みしてしまう。
さっきまでの私はカニクリームコロッケに夢中でソースの事まで頭が回っていなかったんだ。
ここにトマトソースとドミグラスソースがあれば最高だったけれど今から準備するのはちょっと難しいかな。
それでもタルタルソースは予想外の収穫だった。
まさか家にあるなんて。きっとこれを買ったのはお母さんだ。
憂は使用頻度の低いソース類はあまり買わないし何よりタルタルソースは手作りなんだよ。
ありがとうお母さん、ありがとうキューピー。

私はそれらのソースを全て持って食卓へと戻る。
この僅かな時間すら億劫に感じて、唇に着いたままだったクリームをぺろりと舐めた。

唯「さってと！　どれからいこうかな～」

5種類のソースに対応するために残りのカニクリームコロッケを2等分にした。
6個に分かれたコロッケに5種類のソースが対峙する。
残りのひとかけらはそれらの中で最もおいしかったソースをかけるかそのまま食べることにする。
ちなみにお弁当は今日中にお召し上がりくださいって書かれていた。
この時点でコロッケとお弁当を両方完食しなければいけなくなったが誘惑には勝てなかった。

まずはしょうゆ。
しょうゆが好きな人なら迷わずこれを選ぶんだろうね。
クリームにしょうゆが合わさって何ともいやらしいソースができる。
さっそく口に運ぶと先程のほのぼのとした味わいにエッジの効いたしょっぱさが足されている。
これが私の舌と脳みそを刺激してたまらずお弁当の蓋をあけた。
そして梅干しもゴマもかかっていない白いごはんを口に頬張る。
これこれ。
しょうゆカニクリームコロッケはごはんによく合うんだよ。

唯「ほふほふ……んふふ」

カニクリームコロッケの前ではまさにごはんはおかずになる。
美味しゅう御座いました。
しょうゆの後味に惹かれるけれど次のソースに行かなければ。
私は全てのカニクリームコロッケをしょうゆで一気に平らげたいという欲求をこらえながらとんかつソースを手に取る。
正直に言うと好きなソースを後に残す作戦だった。
なのに最初からここまで惹かれるなんて……この先どうなっちゃうの。
カニクリームコロッケが怖い。

唯「よーし」

かわいいワンちゃんの絵柄が書いてあるとんかつソースをかける。
カニクリームと同等のト口リとしたソースは見るからに相性抜群。
野菜や果物の入ったこのソースはカニクリームコロッケに素敵なあまじょっぱさをプラスしてくれる。
もう我慢できない。

唯「あーん……もぐもぐ……おおぉ」

適度に垂らしたソースが私の舌先で踊り出す。
舌の先端でフルーティな甘さがしたかと思えば左右からのしょっぱさに唾液腺が刺激される。
このソースもカニクリームコロッケを引き立たせてくれる。
特にサクサクのころもととんかつソースのコンビはかなりのものだった。

唯「ふぅ、おいしい」

そうして残りのウスター、タルタル、ケチャップも余すところなく堪能した。

唯「どれも美味しかったなー」

最後のひとかけらを前に私は悩んでいた。
どのソースをかけて食べればいいのか。
どれも甲乙つけがたくて箸が進まない。
高レベルな横並び、いや横歩き。カニだけに。
しょゆうもとんかつソースもよかった。
ウスターのみずみずしさとほんのり辛い味。
タルタルの酸味とカニクリームのハーモニー。
ケチャップのトマトとカニの融合。
どれも至高。
どの組み合わせも良かったからこそ、私は残りの一切れを何もかけずに食べる事にした。

そもそもカニクリームコロッケは何もかけなくても十分においしい。
だけど色んなソースたちが新しいカニクリームコロッケを堪能させてくれる。
私はそのままの味わいを楽しみつつもまだ見ぬトマトソースとドミグラスソースを想像して唾液腺を刺激させた。

唯「はふぅ……ごちそうさま」

1人で食べる夕食は新鮮さとちょっぴりの寂しさがあった。
けれどそのちょっぴりの寂しさは濃厚なクリームが満たしてくれた。
心と体を満たしてくれたスーパーのお惣菜カニクリームコロッケ。
この子たちはスーパーにやってくる仕事帰りの人をいつも静かに待っているんだろう。
疲れて夕食を探している人はこの子を見つけてほっこりするような優しい味を想像して、
容器に貼ってある割引シールを見てもうひとつの優しさを感じたり。
カニクリームコロッケはみんなに優しさを味あわせてくれる存在なのかもしれない。
そんなカニクリームコロッケをお腹いっぱい食べられて私は今まさに幸せなのです。

唯「なによりおいしいしね～」

唯「さてと！」

全てのカニクリームコロッケを食べつくして改めて思う。
なんて素敵な揚げ物なんだろうと。
うん、すっごく満足だよ。
だからこうなってしまっても悔いはないね。
私は空のプラスチック容器を退けてまだたんまりと白いごはんやおかずの入っている容器を引き寄せた。

唯「……けぷ」



END

明日カニクリームコロッケにするわ
乙

乙
今度作ってみるかなあ

腹減ってきた…
でもカニクリームコロッケに醤油はないなあｗ