2: 2011/02/15(火) 01:05:17.63 ID:Z+oLWhjSO
「ありがとうございましたー」
店員さんに、意味深な目配せをされてしまった。
一足遅い、バレンタインデーのプレゼントと勘違いされてしまったらしい。
ママのお手製の布バッグにチョコを詰めてから、私は無機質な灯りを満載したコンビニを出た。
今日は2月14日。時刻は午後11時。
天気は、雪。
店員さんに、意味深な目配せをされてしまった。
一足遅い、バレンタインデーのプレゼントと勘違いされてしまったらしい。
ママのお手製の布バッグにチョコを詰めてから、私は無機質な灯りを満載したコンビニを出た。
今日は2月14日。時刻は午後11時。
天気は、雪。
5: 2011/02/15(火) 01:14:08.49 ID:Z+oLWhjSO
「はぁっ……」
寒い。
身に染み込むような、という表現がぴったりだ。
信号機の青も、この冷気に凍りついてしまうのではないか。そんな気さえした。
身体が、内側から少しずつ冷えていくのがわかる。
パパが貸してくれたマフラーに顔をうずめると、タバコと汗のにおいがした。
空を見上げると、大粒の結晶が顔を打つ……痛い。
静かに舞い降りてくる雪の粒は、まるで遠い宇宙の流星群のようだ。
どんなに見ていても、飽きることなんてない。
寒い。
身に染み込むような、という表現がぴったりだ。
信号機の青も、この冷気に凍りついてしまうのではないか。そんな気さえした。
身体が、内側から少しずつ冷えていくのがわかる。
パパが貸してくれたマフラーに顔をうずめると、タバコと汗のにおいがした。
空を見上げると、大粒の結晶が顔を打つ……痛い。
静かに舞い降りてくる雪の粒は、まるで遠い宇宙の流星群のようだ。
どんなに見ていても、飽きることなんてない。
7: 2011/02/15(火) 01:18:54.65 ID:Z+oLWhjSO
「……っくち」
それにしても。変な見栄を張るんじゃなかった。
いくら律に小馬鹿にされたのが悔しかったからといって、
あげるアテもないチョコを買うなんて。
お金と時間の無駄使いも、いいとこだ。
でも……。
「……くすっ」
楽しい。
それにしても。変な見栄を張るんじゃなかった。
いくら律に小馬鹿にされたのが悔しかったからといって、
あげるアテもないチョコを買うなんて。
お金と時間の無駄使いも、いいとこだ。
でも……。
「……くすっ」
楽しい。
12: 2011/02/15(火) 01:22:53.76 ID:Z+oLWhjSO
雪って、踏むと不思議な感じがするんだよね。
古い電車のシートに座るような、なんだか懐かしい感じ。
桜の木、枝の雪が重そう。ちょっとかわいそうだな。
タクシーの運転手さん、こんな時間までご苦労さまです。
……どこかで、静かな崩壊の音がした。
屋根の雪が、静かに崩れる音だ。
古い電車のシートに座るような、なんだか懐かしい感じ。
桜の木、枝の雪が重そう。ちょっとかわいそうだな。
タクシーの運転手さん、こんな時間までご苦労さまです。
……どこかで、静かな崩壊の音がした。
屋根の雪が、静かに崩れる音だ。
14: 2011/02/15(火) 01:27:07.11 ID:Z+oLWhjSO
「……寒い」
ちょっと、休憩しよう。
この公園、懐かしいなあ。
小さい頃、鉄棒の練習に来たっけ。
逆上がりがなかなかできなくて、泣いたんだよね。
……哀れなベンチは、慣れない雪に埋もれて凍えていた。
これじゃあ、座れないな。
「……出ておいで」
ちょっと、休憩しよう。
この公園、懐かしいなあ。
小さい頃、鉄棒の練習に来たっけ。
逆上がりがなかなかできなくて、泣いたんだよね。
……哀れなベンチは、慣れない雪に埋もれて凍えていた。
これじゃあ、座れないな。
「……出ておいで」
15: 2011/02/15(火) 01:32:03.80 ID:Z+oLWhjSO
「……いつから、気づいてたの?」
さっきから、ずっとだよ。
ほら、怒ってないから。こっちにおいで。
「……へへ」
パラソルをさしてあらわれたのは、困ったように笑う女の子。
黄色のピンが、ブラウンの髪によく似合ってる。
女の子はワンピース姿だった。半袖の、純白のワンピース。
寒くないのかな?
さっきから、ずっとだよ。
ほら、怒ってないから。こっちにおいで。
「……へへ」
パラソルをさしてあらわれたのは、困ったように笑う女の子。
黄色のピンが、ブラウンの髪によく似合ってる。
女の子はワンピース姿だった。半袖の、純白のワンピース。
寒くないのかな?
16: 2011/02/15(火) 01:36:29.11 ID:Z+oLWhjSO
「どうして、私のあとをつけたの?」
見ると女の子は、私と同い年くらい。
桜高にこんな子がいればいいのに。そんなことを、ふと思った。
「あなたがさみしそうに見えたから、かな」
……むう。
さみしくなんか、ないよ。
「ねえ、遊ぼ?いっしょに大きな雪だるま、つくらない?」
……やれやれ、子供だな。
見ると女の子は、私と同い年くらい。
桜高にこんな子がいればいいのに。そんなことを、ふと思った。
「あなたがさみしそうに見えたから、かな」
……むう。
さみしくなんか、ないよ。
「ねえ、遊ぼ?いっしょに大きな雪だるま、つくらない?」
……やれやれ、子供だな。
18: 2011/02/15(火) 01:39:57.72 ID:Z+oLWhjSO
それから、私は。
その子と、雪だるまを作りました。
とても大きな雪だるま。
よく見ると、その子の歩いたあとには、足跡ひとつありませんでした。
不思議だけど、怖くはなったな。
どうしてかな?
私にも、よくわからない。
……ああ、手袋が濡れちゃう。
その子と、雪だるまを作りました。
とても大きな雪だるま。
よく見ると、その子の歩いたあとには、足跡ひとつありませんでした。
不思議だけど、怖くはなったな。
どうしてかな?
私にも、よくわからない。
……ああ、手袋が濡れちゃう。
19: 2011/02/15(火) 01:43:48.52 ID:Z+oLWhjSO
「……できた!」
「やったね、澪ちゃん!」
ぴょんぴょん跳ねてよろこぶ女の子。
まるで、雪ウサギだね。
私のお気に入りのウサちゃん。
もう、私のこと名前で呼んでる。
教えた覚えなんか、ないのに。
「やったね、澪ちゃん!」
ぴょんぴょん跳ねてよろこぶ女の子。
まるで、雪ウサギだね。
私のお気に入りのウサちゃん。
もう、私のこと名前で呼んでる。
教えた覚えなんか、ないのに。
20: 2011/02/15(火) 01:48:25.79 ID:Z+oLWhjSO
「ねえ、そんなかっこうで、寒くないの?」
こんな真冬に、白のワンピース一枚なんて。
ほら、手もこんなに冷たいじゃんか。
「手の冷たい人は、心があったかあったかなんだよ!」
……そんなこと、知ってるよ。
私、今とっても暖かいもん。
こんな真冬に、白のワンピース一枚なんて。
ほら、手もこんなに冷たいじゃんか。
「手の冷たい人は、心があったかあったかなんだよ!」
……そんなこと、知ってるよ。
私、今とっても暖かいもん。
22: 2011/02/15(火) 01:54:45.28 ID:Z+oLWhjSO
大時計の長い針と短い針が、12で重なり合おうとしている。
それはまるで、私たちのようで。長い針が私で、短い針が女の子。
……時計の針にだって、バレンタインを祝う権利があるよね。
でも、私が針のデートを見届けることは、できない。
もう、帰らなくちゃ。
「……そう、残念だなぁ」
それはまるで、私たちのようで。長い針が私で、短い針が女の子。
……時計の針にだって、バレンタインを祝う権利があるよね。
でも、私が針のデートを見届けることは、できない。
もう、帰らなくちゃ。
「……そう、残念だなぁ」
24: 2011/02/15(火) 02:00:30.02 ID:Z+oLWhjSO
女の子が悲しそうな顔になる。
止めて。そんな顔しないで。
そうだ、明日また会おうよ。今度は二人だけで雪合戦しよう。
雪ウサギも作ろうよ。私、作るから。君にそっくりな雪ウサギ、作ってみせるから。
……ねえ、なんで首を横に振るの?
「ごめんね、私に明日はないの」
「朝がきたら、お日様が顔を出すでしょう?」
「そしたら、私たちは溶けて消えちゃうの。だから……」
止めて。そんな顔しないで。
そうだ、明日また会おうよ。今度は二人だけで雪合戦しよう。
雪ウサギも作ろうよ。私、作るから。君にそっくりな雪ウサギ、作ってみせるから。
……ねえ、なんで首を横に振るの?
「ごめんね、私に明日はないの」
「朝がきたら、お日様が顔を出すでしょう?」
「そしたら、私たちは溶けて消えちゃうの。だから……」
25: 2011/02/15(火) 02:10:57.95 ID:Z+oLWhjSO
そこまで言うと、女の子はうつむいてしまう。
「……そっか」
喉がツンと痛い。さっきの冷気が、戻ってきたみたい。
……そのくせ、目の奥がどうしようもなく熱い。変なの。
「ねえ、そんなに悲しそうな顔しないで」
「私たち、また会えるから」
「雪の降る夜なら、きっとまた会えるから」
「……そっか」
喉がツンと痛い。さっきの冷気が、戻ってきたみたい。
……そのくせ、目の奥がどうしようもなく熱い。変なの。
「ねえ、そんなに悲しそうな顔しないで」
「私たち、また会えるから」
「雪の降る夜なら、きっとまた会えるから」
26: 2011/02/15(火) 02:13:33.84 ID:Z+oLWhjSO
約束だぞ?
「うん、約束」
……ありがとう。
そうだ、お礼をしなくちゃ。
えっと、何かあったかな?
……ああ、そうだ。これにしよう。
はい、これ。バレンタインチョコだよ。
「うん、約束」
……ありがとう。
そうだ、お礼をしなくちゃ。
えっと、何かあったかな?
……ああ、そうだ。これにしよう。
はい、これ。バレンタインチョコだよ。
27: 2011/02/15(火) 02:19:36.94 ID:Z+oLWhjSO
赤いリボンで飾られた、ブラウンの箱を渡す。
箱はすっかり冷え切っていたけれど、女の子はとても嬉しそうに受け取ってくれました。
純白の歯が、愛想のない電灯に輝く。
虫歯にだけは、気をつけてね。
「ありがとう!私も何かお礼ができたらいいんだけど……」
いいんだよ。今日は本当にありがとう。
チョコ、大切に食べてね。
私が初めてあげる、バレンタインチョコなんだから。
箱はすっかり冷え切っていたけれど、女の子はとても嬉しそうに受け取ってくれました。
純白の歯が、愛想のない電灯に輝く。
虫歯にだけは、気をつけてね。
「ありがとう!私も何かお礼ができたらいいんだけど……」
いいんだよ。今日は本当にありがとう。
チョコ、大切に食べてね。
私が初めてあげる、バレンタインチョコなんだから。
28: 2011/02/15(火) 02:27:13.46 ID:Z+oLWhjSO
さあ、もう帰らなくちゃ。
あと少しで、針と針が重なっちゃう。
そしたら、この魔法のような一日は終わってしまう。
「うふふー、まるでシンデレラみたいだね」
ふふっ、本当だ。
さようなら、私のお姫様。
あ、ちょっと待って。
君の名前を聞かせてよ。
「私?私の名前は……」
「……唯っていうんだ!」
あと少しで、針と針が重なっちゃう。
そしたら、この魔法のような一日は終わってしまう。
「うふふー、まるでシンデレラみたいだね」
ふふっ、本当だ。
さようなら、私のお姫様。
あ、ちょっと待って。
君の名前を聞かせてよ。
「私?私の名前は……」
「……唯っていうんだ!」
29: 2011/02/15(火) 02:28:25.00 ID:Z+oLWhjSO
そっか、唯っていうんだ。
素敵な名前だね。
ああ、もう時間がない。
最後にもう一度、伝えなくちゃ。
「ありがとう、唯!」
……そして、長い針と短い針は結ばれ。
私と唯の時間に、終わりを告げました。
素敵な名前だね。
ああ、もう時間がない。
最後にもう一度、伝えなくちゃ。
「ありがとう、唯!」
……そして、長い針と短い針は結ばれ。
私と唯の時間に、終わりを告げました。
31: 2011/02/15(火) 02:33:49.68 ID:Z+oLWhjSO
……気がついたら、私は夜の公園に一人で立っていた。
近くの楡の木から、雪の塊が滑り落ち、優しい音をたてた。
公園には、まだ雪だるまが残っている。私と唯が二人で作った、大きな雪だるま。
持って帰りたい。一瞬そんな衝動にかられた。
だけど私は、首を横に振る。
……思い出なんていらない。
だって私と唯は、きっとまた会えるから。
雪の降る、静かな夜に。
近くの楡の木から、雪の塊が滑り落ち、優しい音をたてた。
公園には、まだ雪だるまが残っている。私と唯が二人で作った、大きな雪だるま。
持って帰りたい。一瞬そんな衝動にかられた。
だけど私は、首を横に振る。
……思い出なんていらない。
だって私と唯は、きっとまた会えるから。
雪の降る、静かな夜に。
32: 2011/02/15(火) 02:38:45.17 ID:Z+oLWhjSO
公園を足早に出て、家路を急ぐ。
足元で、雪が優しい音をたてる。古い電車のシートに座るような、どこか懐かしい感じ。
丸っこいかたちの車のボンネットに、雪が何センチも積もっていた。
さすがにこの車にはなりたくないな。
自販機の無表情な白い灯りが、私を誘う。
……ココアでも買って、帰ろうかな。
足元で、雪が優しい音をたてる。古い電車のシートに座るような、どこか懐かしい感じ。
丸っこいかたちの車のボンネットに、雪が何センチも積もっていた。
さすがにこの車にはなりたくないな。
自販機の無表情な白い灯りが、私を誘う。
……ココアでも買って、帰ろうかな。
33: 2011/02/15(火) 02:43:35.42 ID:Z+oLWhjSO
……小銭入れを開いてみて、私はおどろいた。
いつの間にか、入れた覚えのないガラス細工が入っていたのだ。
雪の結晶をかたどった、小さなガラス細工。
頬が緩むのを、押さえきれなかった。
……唯の仕業だな。まったく。
いつの間にか、入れた覚えのないガラス細工が入っていたのだ。
雪の結晶をかたどった、小さなガラス細工。
頬が緩むのを、押さえきれなかった。
……唯の仕業だな。まったく。
34: 2011/02/15(火) 02:52:41.44 ID:Z+oLWhjSO
いつの間にか、雪は止んでいた。
硬貨を三枚、自販機に入れてからココアのボタンを押す。
無粋な音が眠る町に響き渡り、そして凍った虚空に吸い込まれていった。
左手に小銭入れ、右手に缶を持って私は不慣れな雪道を歩く。
右手の缶は、確かに温かい。
だけど、なぜだろう。左手の方が暖かく感じるのは。
小銭入れの中の、小さなガラス細工のせいだろうか。
終わり
硬貨を三枚、自販機に入れてからココアのボタンを押す。
無粋な音が眠る町に響き渡り、そして凍った虚空に吸い込まれていった。
左手に小銭入れ、右手に缶を持って私は不慣れな雪道を歩く。
右手の缶は、確かに温かい。
だけど、なぜだろう。左手の方が暖かく感じるのは。
小銭入れの中の、小さなガラス細工のせいだろうか。
終わり
35: 2011/02/15(火) 02:54:11.58
乙!やさしいSSで癒された
36: 2011/02/15(火) 02:54:42.31
乙
しんみりとあたたまるSSだった
しんみりとあたたまるSSだった
43: 2011/02/15(火) 07:47:39.86 ID:Z+oLWhjSO
>>18修正
×怖くはなったな
○怖くはなかったな
×怖くはなったな
○怖くはなかったな
引用元: 澪「ホワイト・バレンタイン」
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