1: 2013/04/01(月) 23:38:42.03 ID:93OfX7qB0
<六/四 帰り道>

カン、カン、カン、カン、カン

男子高校生「……今なんか言った?」

遮断機の前で電車を待つ少年は、隣に立っている小柄な少女にそう聞いた。

女子高生「えっと」

カン、カン、カン、カン、カン

男子高校生(なんか、言いづらそうだな)

足をクロスして立っている少女。
昔からの馴染みである少年は、仕草を見れば彼女のことは大体わかってしまうのだった。

カン、カン、カン、カン、カン

女子高生「あの、ね」

男子高校生「?」

ごぉ

遠くから電車が近づいてくるのがわかる。

女子高生「私、ね」


 https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1364827121

2: 2013/04/01(月) 23:39:46.29 ID:93OfX7qB0
ごぉぉ

男子高校生「?」

女子高生「勇者にえら」

ガタンゴトン!ガタンゴトン!

女子高生「――――」

ガタンゴトン!ガタンゴトン!

男子高校生「え!? なんだって!?」

ガタンゴトン、ガタンゴトン……

女子高生「あー……」

男子高校生「今の全然聞こえなかったから、もう一回」

がー

電車は通り過ぎ、遮断機が上がる。

女子高生「……二度は言わない。というわけで帰る」

男子高校生「いやいやいやここまで気にさせておいてそれはひどいだろう!」

少年は自転車を転がしながら前を行く少女の後を追う。

3: 2013/04/01(月) 23:40:15.16 ID:93OfX7qB0
女子高生「……」

男子高校生「おいこら」

少女はスタスタと歩いてく。

男子高校生「……おぅしそれじゃあ、いつもの勝負で決めようぜ」

女子高生「え?」

振り向く少女と横を向いている少年。
その少年が見ている先は古ぼけた駄菓子屋。

女子高生「いつもの、って」

男子高校生「アイスの当り棒出した奴の言うことを一つ聞くってやつ」

女子高生「……あそこの当り入ってる確率超低いのに」

男子高校生「おう、だからこそ、それなら問題ないだろ?」

女子高生「……うん」

少女は黒塗りの車が目の前を通って行くのを眺めていた。

4: 2013/04/01(月) 23:40:43.10 ID:93OfX7qB0
<駄菓子屋>

ガラララ

男子高校生「ばっちゃん、くじ付きアイス二つくれー」

ばっちゃん「ん……おお、最近顔見せないからくたばったかと思ってたよ」

男子高校生「それはお年寄りとかに言うセリフだろう!? 俺まだ16だぞ!!」

ばっちゃん「ふん、このご時世に年齢なんか関係あるもんかい」

男子高校生「む……」

ばっちゃん「……くじ付きアイスだね、いつものソーダは切れちまってるからコーラ二つになるよ?」

男子高校生「んじゃそれでいいや」

チャリン

男子高校生は店主に小銭を渡し、アイスを受け取る。

ばっちゃん「ちょっと」

老婆はその手を握り、少年を引き寄せた。そして、

男子高校生「おわ! 何すんだよ!」

ばっちゃん「なんだい、あの娘なんだか元気がないみたいじゃないか。あんたなんかしたのかい?」

少年の耳に顔を近づけて、耳打ちをした。

5: 2013/04/01(月) 23:41:13.78 ID:93OfX7qB0
男子高校生「いやなんもしてねぇよ。なんか……いきなり暗くなっちまったから」

ばっちゃん「……よく聞きな坊主、女の子はデリケートなんだよ。あんたが自分でわからないうちに何かやっちまったのかしれないだろ」

男子高校生「本当に何もしてない、と思うんだけどなぁ」

ばっちゃん「おっOい揉んだとか」

男子高校生「!? も、揉んでねぇよ!! てかあいつ無いもん!!」

女子高生「……」

店の外からジト目で睨んでくる少女。

ばっちゃん「そうだったね。あの娘は洗濯板だった。……というかあんた氏んだね」

男子高校生「ばっちゃんのせいじゃねぇか……」

少年は肩を落として出口に向かう。

ばっちゃん「……右の方食べな」

男子高校生「は?」

少年が振り向くも、老婆は目を閉じて澄まし顔。

男子高校生「……」

6: 2013/04/01(月) 23:41:43.52 ID:93OfX7qB0
ガラララ

女子高生「何の話してたの?」

男子高校生「いや、なんもなんも」

女子高生「……揉むとか聞こえたけど」

男子高校生「い、いや、その、友達のな」

女子高生「あいつは無いとか聞こえたけど」

少女は胸らしき部位を両の手で押さえている。

男子高校生「いやーその、友達の」

女子高生「へー女友達のおっOいを? 何?」

男子高校生「い、いやいやいや俺女友達お前しかいないし!!」

女子高生「へー、ダンス部員、友達じゃないんだ」

男子高校生「いやいやいやあいつは友達ではあるけれど!!」

女子高生「なんでそんなどうしようない嘘をついたんだ……はぁ、もういいよ」

少女は少年に向かって手を出す。

7: 2013/04/01(月) 23:42:22.85 ID:93OfX7qB0
男子高校生「お、おぅ」

少年は一瞬戸惑って、

スッ

右のアイスを差し出した。

女子高生「ありがとう」

男子高校生「さてさて……」

少年と少女は袋を破ってアイスにかじりついた。

シャクシャク

男子高校生(どうなるかね……)

シャクシャク

女子高生「……ん、あ、やっぱり外れかー」

半分まで食べ終わった少女がなんともなしに呟く。

シャクシャク

男子高校生「……」

一方少年の方のアイスの棒には、



という文字が。

8: 2013/04/01(月) 23:43:46.56 ID:93OfX7qB0
男子高校生(野郎……やっぱりそういうことだったか。っていうか外から当りとかわかるように操作してるのかよばっちゃん。そりゃ確率低いわ)

少年は窓ガラス越しに老婆を睨む。

女子高生「ねぇ……あんたはどうだったの?」

男子高校生「ん? えっと」

シャクシャク

少女の顔を見て少年は思う。

男子高校生(なんだよその顔……そんなに言いづらいことなのかよ)

女子高生「……」

男子高校生「ん、外れだわ」

少年は字が書いてない裏側を見せたあと、棒をゴミ箱に捨てた。

がさ

女子高生「……なんだか怪しい」

男子高校生「なんでよ」

女子高生「だっていつもだったら外れた時もっと悔しそうだもん」

男子高校生(う……よく見てるなぁ……)

9: 2013/04/01(月) 23:44:15.92 ID:93OfX7qB0
女子高生「……そっか」

ぱんぱん

少女は立ち上がりスカートの汚れをはらうと、少年の自転車の後ろに乗った。

がちゃ

女子高生「よし、今日は私の家まで送ることを許可しよう」

男子高校生「何言ってんだ? 二人乗りは法律で禁止されてるっぺ」

女子高生「……えぇ!? な、何もっともなこと言ってるの!! 信じらんない!! 女の子が誘ってあげたのに!!」

男子高校生「いやいやいや、俺、ルールとか遵守する主義だし?」

女子高生「子供のころ万引きばっかやってたくせに」

男子高校生「……昔のことを持ちだすんじゃないよ。だからなおのこと今はルールをだなぁ」

女子高生「今日だけだから」

男子高校生「いや今日だけとかそういう問題じゃ……」

そういって見上げた少女の顔があまりに真剣だったので、少年はそれ以上言えなくなってしまった。

男子高校生「……はぁ、仕方のないおなごだよあんた」

女子高生「はっはっはっ。ゆっくりお願いね、歩くぐらいの速度で」

男子高校生「二人乗りでそれはきついよ!?」

10: 2013/04/01(月) 23:44:45.92 ID:93OfX7qB0
<帰り道>

シャー

男子高校生「やー、さすがに二人乗りだと下り道はえーや」

女子高生「む。言っとくけど私は軽いからね」

男子高校生「そりゃ軽いさ、なんて言ったって夢が詰まってないもの」

女子高生「? 夢?」

男子高校生「そう、夢は胸につまって」

どぼっ!

少女は少年の背中に頭突きをかました。

男子高校生「がはっ!! こ、こら運転中はやめろや!! 的確に肺を狙いやがって!!」

女子高生「なんであんたはいつも私の胸の話をするかなぁ!! それセクハラだからねっ!!」

男子高校生「黙れ!! 無いものは無いだろうが!! 文句あるなら出してみろ!!」

女子高生「ろ、露出狂になっちゃうだろばかーーー!!」

どぼっ!

11: 2013/04/01(月) 23:45:15.23 ID:93OfX7qB0
男子高校生「ごふっ!! い、いやそういう意味の出すじゃないよ、凹んでいるものをこう」

女子高生「凹んじゃいないわばかあ!!!」

どぼっ!!

男子高校生「はぐっ!! ぐ……じゃ、じゃあわかったよ、もうちっと俺にくっついてみ」

女子高生「? くっつく?」

男子高校生「そう、腰に手をまわして、がっちりと」

女子高生「……なんか恥ずかしいんだけど」

男子高校生「いやいやいやこれが男女の由緒正しい乗り方だから。ほら、やってみそ」

女子高生「……」

す……

男子高校生「……はいっ! ぷにっとしなーい!!」

女子高生「!?」

12: 2013/04/01(月) 23:45:46.98 ID:93OfX7qB0
男子高校生「本来ならここで、『あ、あれ!? この背中の柔らかい二つの感触は……まさか!?』 てな展開になるハズなんがはっ!?」

ぎりぎりぎり

少女は回した手で少年の体を締め上げた。

女子高生「~~っ!!」

男子高校生「いたいいたいいたい!! あーっ!! ち、力強いんだから剣道じゃなくて柔道部とかに入ればよかったのに!!」

涙目の少女は更に無言で締め上げる。

男子高校生「あたたたた!! ギブギブ!! ギブだってば!!」

ききぃいいい

少年はブレーキをかけて、少女の腕に手を伸ばす。

女子高生「っ」

男子高校生「わ、悪かったって! いつもと変わらぬやりとりじゃねぇの!! なんでそんな……あれ?」

女子高生「っ……っ」

少女は少年の背に顔を押しつけていた。

男子高校生「……え? そんなにショックだったの?」

女子高生「う、うるさいっ!! 早く走らせろ!!」

うわずった少女の声。

女子高生「ひっ……」

男子高校生「……おーらい」

13: 2013/04/01(月) 23:46:26.99 ID:93OfX7qB0
シャー

再び走り出す自転車。

女子高生「……」

男子高校生「……」

女子高生「ねぇ……」

男子高校生「ん?」

女子高生「この前さ、健康診断あったじゃん」

男子高校生「あー……五月のか。四月でもやってたのにおかしいよなー」

女子高生「不思議に思ったことある?」

男子高校生「あるに決まってるだろ。なんでこんな短期間に二度もやんなきゃなんねぇんだよ、って。てっきり四月の健康診断で何か大きな問題でも見つかって再検査なのかとおもったぞ。空手部員なんて、お、おでの尻穴のせいかもしれない、とか言ってうろたえてたのはおもしろかったけどな」

女子高生「……」

男子高校生「それがどうかしたんか?」

女子高生「あの時黒塗りの大きい車が学校の外に止まってたのは知ってる?」

男子高校生「……へ?」

女子高生「あの健康診断、ね……勇者を探すためのものだったんだよ」

14: 2013/04/01(月) 23:46:58.38 ID:93OfX7qB0
男子高校生「……勇者って、あれか? あの、中東の地面から湧き出てきた『魔獣』を倒すとかそんな空想のヒーロー」

女子高生「うん……」

男子高校生「そんな漫画みたいな話……そもそも『魔獣』は三年前すでに国連が大多数を殲滅したんだろ? 後は残ってる少数を時間かけて潰してくらしいしもう必要ないだろう」

女子高生「それ、嘘みたい」

男子高校生「……ん?」

女子高生「本当はね、西イギリスを攻め込んでた魔獣の大半は倒せたらしいけど、魔獣の上位の『魔族』っていうのが出てきて、」

少女は何の感情も乗せない声で

 「西イギリスは滅ぼされちゃったらしいよ」

と言った。

男子高校生「……っ」

シャー

男子高校生「……そんなのデマだろ」

女子高生「テレビとか新聞の方がデマなんだよ。海外のサイトだともっと結構わかるもんらしいよ。もっともこの国だと制限多くてほとんど見れないけれど」

男子高校生「……うそー。この国に限ってそんな情報統制みたいなこと」

女子高生「……」

男子高校生「うそー……」

15: 2013/04/01(月) 23:47:26.61 ID:93OfX7qB0
シャー

女子高生「……それでね、その時の戦争で敵の中の階級ってものがわかったらしいの。いっぱいいるのが私達も知ってる『魔獣』」

男子高校生「……」

女子高生「それの上の、幹部級のが『魔族』。そして、一番上に『魔王』っていうのがいるんだって」

男子高校生「……それで?」

女子高生「そもそも魔獣って何らかの力を使って兵器の威力を軽減していたらしいんだけど、魔族はその比じゃなくて、ほぼ無効化できるんだって」

男子高校生「んなばかな話しあるかよ。バリアとか?」

女子高生「うん。西イギリス軍とローマ軍が協力して戦ってたんだけど、それでも魔族に押し切られちゃって、結局東イギリスが核を落として倒したんだって。まだ残ってる国民と兵士ごと」

男子高校生「!!……さ、さすがにそんなこと」

女子高生「でね、その時の魔族の氏体を捕獲して色々調べたらしいんだけど」

男子高校生(核食らって氏体残ってるのかよ)

女子高生「人間にもその不思議な力を使う機能が備わっている個体がいるらしいの」

16: 2013/04/01(月) 23:48:16.31 ID:93OfX7qB0
男子高校生「!?」

女子高生「魔族の見た目がね、ほとんど人間そっくりなんだってさ。だから国連の人はもしかしたら人にも似たようなものがあるのかもしれないって調べ始めたらしいんだけど、それがある因子なんだって」

男子高校生「……」

女子高生「それを備え持ってる人間は少ないらしいんだけど、でもその因子があれば魔族と互角に戦うことができるらしいの。それを改良すれば魔王かもしれない、とか」

男子高校生「じゃ、じゃあ」

女子高生「五月の健康診断は、政府がその因子を持つ者を調べに来たんだよ」

シャー

男子高校生「……」

べらべらと、およそ一般人の知ることができない情報を喋る女子高生。
少年はわかっていながらも、認めることができないでいた。

女子高生「私、日本で唯一持ってるらしいの。『勇者因子』」

キキィ!!

女子高生「わぷっ!!」

少年は急ブレーキをかけた。

女子高生「い、いたいな!! 急に止まるな!!」

男子高校生「……今の話、全部本当なのか?」

女子高生「……うん」

17: 2013/04/01(月) 23:48:54.65 ID:93OfX7qB0
男子高校生「作り話、とかじゃなくて?」

女子高生「作り話に聞こえた?」

今日の素ぶりを見て、即座にそれはないと思えてしまった。

男子高校生「お前はそんな嘘つかない……嘘だろ……お前、戦いに行くってことか?」

女子高生「う、ん……」

男子高校生「女子高生を戦場につれてくほど、そこまで切迫してるのかよ」

女子高生「アジアはほぼ落ちてるらしいからね……。ここは山間部だからわからないだろうけど、日本だって海の近くは危ないんだって。海はほとんど制圧されちゃってるから」

男子高校生「!! ……い、いきなりすぎて信じられないけど……だったらなおのことお前一人行ったところで何にもならないだろうが」

女子高生「なる、らしいよ」

男子高校生「!?」

少女は申し訳なさそうな、残念そうな顔をして笑った。

女子高生「私が持ってる力はあいつらの天敵になりえるものらしくて、それこそ一騎当千らしいんだ」

男子高校生「……千匹倒しても勝てねぇんじゃねぇのか……?」

女子高生「……かもね」

男子高校生「だったら! ……だからずっと、お前変だったのか」

女子高生「うん……」

男子高校生「いついくんだ?」

女子高生「……明日」

男子高校生「!?」

女子高生「だから……お願い。しばらく図書委員の仕事私の代わりにやっておいてね……たまに電話するから」

夕焼けを背に、少女は笑った。

18: 2013/04/01(月) 23:49:21.42 ID:93OfX7qB0
<六/二十二 図書室>

ゴオオオオオ

男子高校生「……」

窓を開け身を乗り出している少年は、夏の空を飛行機雲が横断していくのを眺めていた。

ダンス部員「ちょっと~さぼらないでもらえますか~? 男子高校生君~」

男子高校生「……あー」

少年に女生徒が声をかけた。

ダンス部員「なんですか不抜けた顔で私のことじっと見て~。まさか欲情してないでしょうね~」

そう言って髪をかきあげる女生徒。
確かに彼女はスタイルはよかった。

男子高校生「不抜けた顔をしといて欲情とかお前、どんな人間よ俺」

ダンス部員「見たまんまですよ。はいはい、さっさと作業こなしてください~返却ボックス溜まってるんですから~」

腕を引っ張って少年を机の所まで連れてくる。

19: 2013/04/01(月) 23:49:48.22 ID:93OfX7qB0
がさごそ

男子高校生「うぅ……」

ダンス部員「……あの子に頼まれたんですからね、私達は~。あの子が返ってくるまで……しっかりやらなきゃ~」

がさごそ

男子高校生「まぁなぁ……」

がさごそ

ダンス部員「……」

ガラガラー

保健教師「あれ? お二人とも図書委員でしたっけ?」

図書室に若い教師が入ってきた。

男子高校生「あ、これは」

ダンス部員「これは違うんですよ~図書委員の友達の代わりに手伝ってるだけなんですよ~!」

保健教師「あ、そうなんですか? 偉いですね」

20: 2013/04/01(月) 23:50:16.17 ID:93OfX7qB0
男子高校生「……代わり身はやっ」

どぼっ

男子高校生「ごふっ!」

ダンス部員は誰にも悟られぬように少年の腹部に拳をめり込ませ、耳元で小声で囁く。

ダンス部員「いいですか~……変なこと言ってないでしばらく黙っててくださいね~。私はあの人とお話がありますから~」

男子高校生「うぃ、うぃ」

保健教師「あれ? 大丈夫ですか男子高校生君。なんだか具合が悪いんじゃありませんか?」

ダンス部員「い~え~大丈夫ですよ~彼はいつもこんな感じなんです~」

保健教師「いや、普段の授業の時間だとそうでもないけど」

ダンス部員「大丈夫です大丈夫です~大丈夫ったら大丈夫~それより先生、ちょっと人気の無い所に行きませんか~?」

男子高校生「おまっ!! 先生までぼこるつもりか!?」

保健教師「え、えぇ!?」

ダンス部員「――」

ギン!

男子高校生「ひぃっ!?」

無言で振り向き睨みつける。

21: 2013/04/01(月) 23:50:45.37 ID:93OfX7qB0
ダンス部員「そんなわけないじゃないですか~……全く何を言っているのかわかりませんねぇ~。さぁ先生~? 誰もいないところへれっつご~」

保健教師「え? あ、あれ? えっとその困るんですが」

有無を言わさぬ押しの強さで先生を連れ去ったダンス部員であった。

男子高校生「……」

ごと

少年はため息をついた。

男子高校生「……今頃どうしてるんだろあいつ」

22: 2013/04/01(月) 23:51:25.46 ID:93OfX7qB0
<六/二十二 ロシア戦場>

ゴオオオオオ

女子高生「……」

赤一色となった大地で少女は一人立ちすくみ、空を裂く飛行機雲を眺めている。
その身は赤い鎧でかためられ、右手には巨大な大剣が握られ、左手の甲にはひし形の盾がついていた。

びちゃ

女子高生「!」

音に反応し振り返る少女。

スペイン勇者「どうやら、生き残ったようだなお前も」

そこには一人の男性が。

女子高生「……はい」

スペイン勇者「よろしい。これで勇者は誰一人かけることなくこの戦いを切り抜けられたわけだ。行くぞ、みんなが待っている」

女子高生「はい……」

ぴちゃ

少女の足元に転がっているのは無数の魔獣の氏骸と、

カツン

女子高生「……」

数え切れぬほどの兵士達の氏体だった。

23: 2013/04/01(月) 23:52:01.84 ID:93OfX7qB0
<同日、ロシア軍基地>

カツンカツン

女子高生「!」

ざっ

メキシコ勇者「はっ。お前も無事だったんだ? 実戦経験浅いとか言ってたから、てっきりくたばってるものかと思ってたー」

女子高生「っ……」

たたたっ

ベトナム勇者「め、メキシコ勇者ちゃん、ダメだよ、やめようよ。仲間なんだし、女の子同士なんだし仲良くしようよっ!」

慌てて間に割って入る褐色肌の少女。
彼女はこうなることを予想してついてきたに違いなかった。

メキシコ勇者「は? うるっさい。同期だからってなれなれしくすんなって言っただろ?」

女子高生「……」

メキシコ勇者「……なんとか言わないのか? 日本で平和に暮らしてた新しい勇者さんよぉ」

女子高生改め日本勇者「別に……」

24: 2013/04/01(月) 23:52:41.93 ID:93OfX7qB0
カツンカツン

メキシコ勇者「なっ!?」

少女は因縁をつけてきたグラマラスな少女の横を通り抜ける。

カツンカツン

ベトナム勇者「日本勇者ちゃん……」

メキシコ勇者「何だよ……あいつ」

25: 2013/04/01(月) 23:54:00.75 ID:93OfX7qB0
<六/二十四 ロシア軍基地、作戦会議室>

フィリピン勇者(うわ、いっぱいいる……これ全員勇者なのか)

作戦ボードの前に立っている年端も行かぬ少年とスペイン勇者。

スペイン勇者「ではまた我が隊に一人勇者が加わったので、ここで全員の自己紹介をしておこうと思う。よろしいですね少佐」

少佐「あぁ。好きにしたまえ」

ぺら

軍帽を被った初老の男が、椅子に座ったまま書類に目を通している。

スペイン勇者「では向かって一番右の席に座っているのはベトナム出身の勇者だ。参入期は第四期」

がたっ

ベトナム勇者「は、はい! 私がベトナム勇者です。よろしくお願いします!」

名前を呼ばれたベトナム勇者は、立ち上がり頭を下げて挨拶をする。

スペイン勇者「その隣が同じく第四期メンバー、メキシコ出身のメキシコ勇者」

メキシコ勇者「……ういーっす」

スペイン勇者「その右後ろが日本出身の第五期メンバー、日本勇者だ」

日本勇者「……」

少女はこくんと頭をさげる。

26: 2013/04/01(月) 23:54:30.98 ID:93OfX7qB0
スペイン勇者「えー……更にその後ろにいるのが」

ベトナム勇者、メキシコ勇者、日本勇者「「「「!?」」」」

一斉に振り返る勇者達。

???『キキキ』

それもそのはず、彼女達はこの部屋にこれ以上人間がいるとは思っていなかったから。

メキシコ勇者(気配なんて感じなかったけどなー……)

ベトナム勇者(え? え? もしかして、あれなの?)

日本勇者(……生気が感じられなかったから人形なのかと思ってた)

三人が見つめる先には壁にもたれかかったゴス口リの人形のような少女。

スペイン勇者「ロシア出身の勇者、彼女も日本勇者と同じく第五期選出メンバーだ」

???改めロシア勇者『キキキ』

スペイン勇者「そして同じく第五期、おそらく君が最後に選ばれた勇者となるだろう、フィリピン出身のフィリピン勇者だ」

フィリピン勇者「よろしくお願いします!!」

大きな声であいさつをし、ぺこりと頭を下げる。

ベトナム勇者「かわいーですー! うちの弟と同じくらいです!」

メキシコ勇者「はっ。私ガキには興味でないしー」

27: 2013/04/02(火) 00:00:28.44 ID:eyC7+zoE0
日本勇者(……最後?)

スペイン勇者「そうだ、彼が最後だ」

日本勇者「!?」

スペイン勇者「勇者の力を持つものが現れる人口比率を考えると、残りの人口の中には恐らくいまい……。いたとしても選出するための費用と時間がない」

日本勇者(心を、読まれた?)

スペイン勇者「ゆえに我々は……っと、私の紹介がまだだった。私はこの勇者小隊の隊長をつとめているスペイン勇者だ。出身はスペイン、選出時期は第二期だ」

フィリピン勇者「よろしくお願いします隊長殿!」

スペイン勇者「よろしい。というわけで、勇者の力を持つ者は我ら六人のみだ。共に力を合わせ、来たる最終決戦を戦い抜こう!」

ベトナム勇者(こ、こわいなぁ!)

メキシコ勇者(あーもうねみー)

日本勇者「……」

ロシア勇者『キキキ』

フィリピン勇者「あ、あの隊長殿、質問いいでしょうか」

スペイン勇者「なんだ? 俺に答えられることならばなんでもいいぞ」

28: 2013/04/02(火) 00:01:06.84 ID:eyC7+zoE0
フィリピン勇者「はい。えっと……第五期とか色々あるみたいですけど、第一期と第三期の方々はここにはいないのですか?」

スペイン勇者「あぁ、皆先にあの世に行った」

フィリピン勇者「い!?」

日本勇者「!!」

スペイン勇者「第一期メンバー、第三期メンバーともに全滅している。第二期も俺以外は全員氏んでいる」

フィリピン勇者「そ、んな」

メキシコ勇者(あーあ、初っ端からそう怖がらせなくてもいいのに、全く人が悪いねー。ま、私達も通った道だけどさー)

メキシコ勇者は顔だけ振り返って日本勇者の顔を確認する。

日本勇者「……」

パッと見平静を保っているように見えるが、自分が見られていることにも気付かないほど狼狽しているのが見て取れた。

メキシコ勇者(ふふん)

フィリピン勇者「じゃ、じゃあ僕達は……僕達も氏ぬ……んですか?」

スペイン勇者「恐らくだが、答えはYES。この場にいる全員が氏ぬだろう」

フィリピン勇者「!?」

日本勇者「!」

少女の肩がびくりと跳ねる。

29: 2013/04/02(火) 00:02:07.58 ID:eyC7+zoE0
スペイン勇者「いくら我々の力が魔獣達に有効とはいえ、さすがに多勢に無勢だ。……不測の事態や油断さえなければ魔獣自体には後れをとることは無いと思うが、奴らには『大型魔獣』という大型の魔獣がいる。これに遭遇すると氏亡確率は飛躍的に高まる」

スペイン勇者はボードに書き始める。

スペイン勇者「大型魔獣と遭遇した場合の生存確率は約三十パーセント。現在までに犠牲になった勇者は二名」

日本勇者(ただでさえ分母が少ない勇者が二人も……)

スペイン勇者「更にこの上には、魔獣の指揮官クラスの『魔族』というものがいる。外見は比較的に人間に近く人語も解す。そしてその力は勇者の力を完全に上回る」

日本勇者「!!」

スペイン勇者「魔族と思しき魔獣と遭遇した場合、必ず援軍を呼ぶこと。決して一人で戦おうだなどと思ってはいけない。かつて三人の勇者が力を合わせ魔族と戦った。その結果は……」

フィリピン勇者「……ごく」

スペイン勇者「同士打ちだ。勇者三人が命をかけてやっと……魔族一体に届く」

日本勇者「魔族は……あとどれだけいるんですか?」

ベトナム勇者「……う」

メキシコ勇者(あーあ)

スペイン勇者「……現在確認しているものだけを数えると、十八体」

日本勇者「!!!!」

フィリピン勇者「そんな……! それじゃあ、どうやっても勝てないじゃないですか!!」

30: 2013/04/02(火) 00:02:44.92 ID:eyC7+zoE0
少佐「やかましい、落ち着きを持て少年よ」

ぱさ

軍帽を被った男は初めて書類から目を離し前を向いた。

少佐「事態が絶望的なのはこの基地にいる誰もかれもが知っている。百も承知なのだ。それでも闘わねば一縷の望みすら掴めぬ」

フィリピン勇者「っ!」

少佐の落ち着いていて、威厳のある声は少年を黙らせた。

少佐「ふん、大体全てを貴様らに倒せなどとは言ってはいない。なりふり構わずやつらの脳天に核をブチ込んでやるって手段もある」

スペイン勇者「……現に軍は魔族の二体を核で葬っている」

補足とばかりにスペイン勇者は付け足した。

少佐「……貴様らに貴様らの唯一の使命を言い渡す」

少佐は勇者全員の顔を見てから次の言葉を紡ぐ。

少佐「貴様らは持てる力の全てを出しつくし、魔獣の王、『魔王』がいると思われる城に突撃し、魔王を倒すことだ」

日本勇者「!」

メキシコ勇者「それは初めて聞いた……おいおい嘘だろ? 魔王って魔族より強いんだろ?」

スペイン勇者「それはわからん。やつらのヒエラルキーの頂点に座していることは確実だが、戦闘力そのものはわかっていない」

メキシコ勇者「はっ、よくわからないやつを倒しにいけって? 冗談きついぜ」

ベトナム勇者「頭を潰せば、この戦いに勝てるの……ですか?」

少佐「知るか。だが、それしか策は無いと上層部が判断した」

31: 2013/04/02(火) 00:03:13.02 ID:eyC7+zoE0
ざわ

勇者達に動揺が走る。

スペイン勇者「……どの道このままいけば数年も持たずに人類は滅ぼされてしまう。今となっては全ての魔獣を殲滅することもできない。それならば敵の王を倒すしかない、ということだ」

メキシコ勇者「はー。まー私はどの道何やっても負けだと思ってたからさー、今更いいんだけどねー」

少佐「む」

少佐に睨まれるも、メキシコ勇者は何食わぬ顔でそっぽを向く。

ベトナム勇者「魔獣の拠点、城ってどこにあるんですか?」

少佐「我々が勝手に城と呼んじゃあいるがな、見た目は城じゃない。お前らも良く知るペルシャのパサルガダエの地下だ」

32: 2013/04/02(火) 00:06:31.08 ID:eyC7+zoE0

<同日ロシア軍基地、日本勇者部屋>

日本勇者「……」

あれから部屋に戻ってきた日本勇者は、ずっと携帯を開いたまま画面を見つめていた。

日本勇者「……」

とっくに省電モードになり暗くなった画面、それに映し出されている『男子高校生』という名前を見続けている。

日本勇者「……今電話したら、迷惑、だよね。話すこともないし」

ぱたんと携帯を畳む。

日本勇者「……敵の拠点に突っ込んで氏ぬなんて、言えないし」

こんこん

日本勇者「っ」

ドアをノックする音に反応し、滲み始めていた涙を引っ込める。

日本勇者「は、はい!」

海軍曹長「勇者准尉殿、お話があってきました」

日本勇者「あ、はい今開けます」

ガチャ

海軍曹長「こんな遅くに申し訳ありません」

ドアの外には日本海軍の曹長が立っていた。

33: 2013/04/02(火) 00:07:43.08 ID:eyC7+zoE0
日本勇者「何、か」

海軍曹長「准尉殿、本来これは貴女に見せない方がよいのかと考えましたが、自分は見せるべきだと判断し、ここに来た次第です」

日本勇者「これ?」

曹長から渡されたものはダンボール一杯に詰まった荷物。

日本勇者「……これは、なんですか」

少女はダンボールを受け取ろうとする。

海軍曹長「今日、散っていた者達の遺品です」

日本勇者「っ!?」

ドサっ

少女は驚き、ダンボールを落としてしまう。

海軍曹長「……」

日本勇者「あ、あっ! ご、ごめんなさい!」

曹長はしゃがみ込み、中から溢れたものをダンボールの中に戻していく。

海軍曹長「……この三等兵は故郷で蜜柑畑をやっているらしく、よく送られてきた蜜柑を自分らにふるまってくれました」

曹長は一枚の写真を手に取りダンボールの中に落とした。

34: 2013/04/02(火) 00:08:31.12 ID:eyC7+zoE0
海軍曹長「こっちの二等兵は、妹に子供が出来たとかで。この歳で伯父さんになってしまったと笑って話してくれました」

日本勇者「……」

海軍曹長「よっ、と」

曹長はダンボールを持ち、立ち上がる。

海軍曹長「……我々は軍人です。お国のために氏ぬ覚悟は持ち合わせています。彼らは勇敢に戦い、そして散って行った……本望だったと思います」

日本勇者「……」

海軍曹長「例えそれが、勇者をレベルアップさせるためだけに使われたのだとしても」

日本勇者「!?」

驚いた表情の少女を見て、困ったように笑いかける曹長。

海軍曹長「……申し訳ありません、貴女をせめているのではないのです。ただ、作戦について自分達はとっくに気付いていたのです」

日本勇者「……そんな、どうして……」

海軍曹長「勇者を即実戦でも使用できるよう強制的にレベルアップさせる。そのためには敗色濃い戦場であろうと勇者と軍を送りこみ、兵を盾にしてでも勇者を帰還させる。……これを繰り返すことで短期間で大量の経験値を稼ぐことができる」

35: 2013/04/02(火) 00:09:01.32 ID:eyC7+zoE0
日本勇者「……」

海軍曹長「この状況においてそれがいかに有効な作戦であるかは理解しているつもりです。屍山血河を築こうとも、その先に人類の未来があるのであれば……我々にとって何の問題もないのです」

日本勇者「……っ」

海軍曹長「気に病むな、というほうが酷でしょうか。なにせ貴女は普通の女子高生だったのですから」

日本勇者「……ごめんなさい」

海軍曹長「いえ、謝るのは自分達のほうです」

日本勇者「……え?」

曹長はそう言うとしゃがみ込み、膝を地面に付いた。

海軍曹長「我々がふがいないばかりに、貴女をこんな戦いに巻き込んでしまいました」

日本勇者「!?」

曹長は地面に頭をつける。

ごっ

海軍曹長「本当に申し訳ない」

日本勇者「や、やめて下さい!! いきなり何を!!」

海軍曹長「貴女は軍人ではない。それゆえに、氏ぬ覚悟もないでしょう」

36: 2013/04/02(火) 00:09:38.29 ID:eyC7+zoE0
日本勇者「……え」

海軍曹長「最後の作戦、それの過酷さは大まかではありますが理解しています。恐らく……無事では済まないのでしょう」

日本勇者「あ……」

海軍曹長「くっ……情けなさの極みで腸が煮えくりかえる思いではありますが……」

曹長が強く握りしめた手から血がにじむ。

海軍曹長「どうか、人類のために氏んでください。でなければ、彼らの氏が無駄氏になってしまう……!」

日本勇者「……」

海軍曹長の気持ちは痛いほどわかる、つもりだった。彼らだって氏にたくないし氏なせたくないのだ。
それは少女も一緒だった。

日本勇者「顔をあげて下さい……」

少女はしゃがみ込んで海軍曹長の手に触れた。

日本勇者「大丈夫です、逃げません。私は最後まで戦い続け、そして」

氏にます。

37: 2013/04/02(火) 00:10:25.28 ID:eyC7+zoE0
<六/二十六 ロシア軍基地、訓練室>

ロシア勇者「……」

ブンッ! ブンッ!

日本勇者「ふっ! はっ!」

一心不乱に剣を振るう少女を見ているロシア勇者。

フィリピン勇者「なるほど、これが勇者の力なんですか」

スペイン勇者「あぁそうだ。飲みこみが早いな」

スペイン勇者はフィリピン勇者に力の使い方を教えている。

ブンッ! ブンッ!

ベトナム勇者「日本ちゃん、なんだかすごい迫力だね……」

メキシコ勇者「はっ。お前らは自爆特攻しろ、だなんてむちゃくちゃな宣告されたばっかりだってのによ。しかも成功するほうが奇跡だなんて、やってられねぇってのっ」

ベトナム勇者「しーっ! だ、だめだよ思ってても口にしちゃ」

スペイン勇者はメキシコ勇者達の方に視線を向ける。

ベトナム勇者「ほ、ほらやばっ」

慌ててメキシコ勇者の影に隠れるベトナム勇者。

38: 2013/04/02(火) 00:11:30.99 ID:eyC7+zoE0
日本勇者「はっ! はっ!」

ブンッ! ブンッ!

メキシコ勇者「……ちっ、気に食わねぇ」

39: 2013/04/02(火) 00:12:04.89 ID:eyC7+zoE0
<同日、ロシア軍基地、食堂>

ガチャ

日本勇者「!」

メキシコ勇者「よぉ」

食事をとっている日本勇者の前にトレイを置くメキシコ勇者。

メキシコ勇者「うわなんだそれ。まずそうなもん食ってんな? それが日本食か?」

日本勇者「……何の用?」

メキシコ勇者「お前にいいもん見せてやろうと思ってさ」

日本勇者「いいよ、興味ない」

メキシコ勇者「はっ……連れねぇなぁ。見ておいて損はねぇもんだぜ?」

日本勇者「……」

いつもと違ったメキシコ勇者の対応に少女は違和感を覚えた。

メキシコ勇者「さっさと昼飯を食っちまいな。終わったら連れていってやるからよ」

カチャ

ベトナム勇者「……」

その様子を遠くから見詰めているベトナム勇者。

40: 2013/04/02(火) 00:13:04.08 ID:eyC7+zoE0
<ロシア軍基地、地下>

ロシア兵士「あぎっ!!」

ドサっ

メキシコ勇者「はっ。相変わらず温いガードだぜ。こんなんで最高レベルの機密を守ってるつもりかよ」

日本勇者「こんなことして一体何を……軍紀違反よ。監視カメラにも映ってる……」

メキシコ勇者「はっ。残念ながらそうにはならねぇのさ」

日本勇者「? ……!」

ぼうぅ

メキシコ勇者の体がほのかに光っている。

メキシコ勇者「私の勇者としての力を使えば、こんなもんどうとでもなるんだよ。どんなものかは教えないけどなー」

日本勇者「……どうせ幻覚とか改竄するような能力なんでしょ」

プシュッ

日本勇者はさっさとドアの向こうに歩いて行ってしまう。

メキシコ勇者「……」

カツン、カツン、カツン

41: 2013/04/02(火) 00:13:38.44 ID:eyC7+zoE0
日本勇者「ん……」

しばらく暗い通路を進んだ先に、まぶしい光を放つ部屋が。

日本勇者「……」

そこは真っ白な部屋だった。

ゴポッ

メキシコ勇者「どうだ? 中々いいもんだろ。他の動物園にゃいないぜこんなの」

日本勇者「なっ……!」

ゴポポッ

そこには大きめの水槽と、

ゴポポッ

メキシコ勇者「これは第三期メンバーの勇者だ。何回か会話したことがあるが、結構いい先輩だった」

手足を拘束された男がいた。

日本勇者「!? ……第三期メンバーは全滅したって……」

メキシコ勇者「な。一人は氏ぬ所見てるから確定だけど、他のメンバーももしかしたら生きてるかもな。こんな感じに実験材料になって」

日本勇者「っ」

ゴポポッ

42: 2013/04/02(火) 00:14:18.86 ID:eyC7+zoE0
メキシコ勇者「な、やってらんねーだろ。あいつら隠しごとばっかで、私らをただの使い捨ての弾丸くらいにしか思ってないんだぜ」

ゴポポッ

メキシコ勇者「あの戦力差だ。私らは確実に氏ぬと勘定されてる。それなのにお前は、人類のために闘えるのかよ」

日本勇者「……」

メキシコ勇者「何にも苦しい思いをしてないやつら<人類>を生き残らせるために、うちらは辛い思いをしたあげく、氏ぬことを前提に戦わされるんだぜ?」

日本勇者「……」

  海軍曹長『どうか、人類のために氏んでください。でなければ、彼らの氏が無駄氏になってしまう』

メキシコ勇者「……なぁ、聞いてんのか?」

カツン

その時第三者の足音が響いた。

メキシコ勇者「っ!?」

スペイン勇者「そこまでだ二人とも」

入り口に、険しい表情のスペイン勇者が立っていた。

43: 2013/04/02(火) 00:15:17.99 ID:eyC7+zoE0
メキシコ勇者「……ち、一応結界張っておいたはずなんですがねー」

ベトナム勇者「メキシコちゃん……」

メキシコ勇者「!! ベトナム……お前が解いたのか……!」

ベトナム勇者「だ、だって……これはよくないことだもん……」

メキシコ勇者「……はっ!! どっちがだよ!! これを見てみろよベトナム!! お前もこれを見るのは初めてだろう!? これが私達の未来なんだぞ!!」

ベトナム勇者「うっ……」

日本勇者「……」

メキシコ勇者「私達の未来は戦場で土くれに戻るか、ここで実験体にされるかの二択なんだ!! 人類のために犠牲になれとな!! やつらはどう転んでも私らを棺桶にブチ込みたいらしい!!」

スペイン勇者「」

ヒュ

メキシコ勇者「!?」

ガっ!!

高速で接近したスペイン勇者はメキシコ勇者の腹部を殴った。

メキシコ勇者「ぐっ……」

スペイン勇者「……馬鹿が……。そんなもの、力を持った者の宿命だろうが……」

倒れようとするメキシコ勇者の体を腕で支え、苦虫を噛み潰したような顔をするスペイン勇者。

44: 2013/04/02(火) 00:15:46.84 ID:eyC7+zoE0
日本勇者「……隊長」

スペイン勇者「何も言うな。ここでのことは見なかったことにする」

ベトナム勇者「……ごめんね二人共」

45: 2013/04/02(火) 00:17:35.96 ID:eyC7+zoE0
<六/二十七 ロシア軍基地、日本勇者部屋>


カチカチカチ

日本勇者は自室でベッドに寝転がって携帯をいじっていた。

日本勇者「はぁ……みんな、勝手に価値観を押し付けてきて……まいっちゃうなぁ」

カチカチカチ

日本勇者「そんなに……背負えないのに」

カチカチ、カチ

日本勇者「そんなに答えなんて、出せないのに」

カチ……

日本勇者「……あいつ、元気してるかな」

カチ

日本勇者「私がこんなめにあってるのに、あいつは楽しんでるのかな……」

カチ

日本勇者「そうだと、いいな。私の分まで、せめてあいつだけは、あいつの生活だけは護らなくちゃ」

カチ……

日本勇者「………………私の生活はどこにいっちゃったんだっけ」

カチッ

ビイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!

日本勇者「!?」

がばっ!

その時、けたたましいサイレンの音が基地全体に鳴り響く。

日本勇者「……敵襲!?」

46: 2013/04/02(火) 00:18:24.66 ID:eyC7+zoE0
<同日 ロシア軍基地、作戦会議室>

ダン!!

日本勇者「遅くなりました!!」

スペイン勇者「あぁ、席につけ」

メキシコ勇者「ち」

ベトナム勇者「……」

フィリピン勇者「ごくっ」

ロシア勇者『キキキ』

少佐「貴様らももうわかっていると思うが、現在この基地に魔獣が迫って来ている」

フィリピン勇者「ッ!!」

少佐「貴様らに難しい作戦内容なんか言わん。簡単にシンプルに一つだけだ」

ベトナム勇者「……」

少佐「全ての魔獣を倒せ。以上だ」

47: 2013/04/02(火) 00:24:45.56 ID:eyC7+zoE0
<同日 ロシア軍基地>

ひゅおおぉぉお

吹き荒れる吹雪。そんな中鎧のみに身を包んだ六人の勇者が立っている。

フィリピン勇者「すごいこれが勇者の力、魔力……全然寒さを感じない」

スペイン勇者「ろくに訓練も積ませていないのに実戦ですまないな。だがカバーできるかわからない。危険だと思ったならすぐ引け」

フィリピン勇者「は、はい!」

ゴゴゴゴゴゴゴ

日本勇者「!……来た」

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

陸、海、空……その全てを黒に染める魔獣の大群がロシア基地に迫って来ていた。その圧倒的なまでの物量に勇者達、兵士達は息をのむ。

メキシコ勇者「は、はぁ!? なんの冗談だよこれは! こんな大量、ぶっ殺せるわけねぇだろ!?」

スペイン勇者「まさかこれほどとは……奴らこの数日でケリを付けるつもりなのか……? これでは一週間ともたずに世界は……」

少佐「……逆にチャンスかもしれねぇな」

ベトナム勇者「え?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

スペイン勇者「来るぞ!! 各自散開!!!」

48: 2013/04/02(火) 00:25:20.21 ID:eyC7+zoE0
ガーゴイル「ぎゅあああああああああああああああああ!!!!」

メキシコ勇者「おらああああああああああああ!!!!」

ドドドドドド!!!!

メキシコ勇者のレイピアが空を飛んでいる魔獣を打ち貫く。

ババババッババッババババッ!!!!

サブマシンガンで援護する兵士達だが、その攻撃のほとんどは弾かれてしまっている。

クラーケン「ぎゅしょおおおお!!」

ロシア兵士「う、うわあああああああああ!!」

ブショオオオオオオオ!!!!

陸に上がって来た魔獣が兵士達を捕え、握り潰す。

日本勇者「ッ!!」

少女は大剣を構えて跳躍、

ズドンっ!!

そしてクラーケンを一刀両断。

49: 2013/04/02(火) 00:25:54.14 ID:eyC7+zoE0
ベトナム勇者「!! み、皆さん!! あれを!!」

メキシコ勇者「!? あ、あのでかさ……」

スペイン勇者「大型魔獣だ……」

ミノタウロス「ぶもおおおおおおおおおおお!!」

ズシンズシンズシンズシン!!!!

ミノタウロスは大地を揺るがしながらこちらに向かってくる。

フィリピン勇者「う、うわでかい……!!」

スペイン勇者「いくぞメキシコ勇者、日本勇者!! お前達は左右に回れ!! ベトナム勇者はここでシールドを張って待機、フィリピン勇者もだ!!」

メキシコ勇者「……ちっ」

日本勇者「はい!」

ズシンズシンズシンズシン!!!!

ダダダダダダ!!

三人は連携を駆使してミノタウロスに戦いを挑む。

ミノタウロス「ぶもおおおおおおおおおおお!!」

日本勇者「はぁあああ!!」

日本勇者はミノタウロスの攻撃をかわして脚部を斬りつける。

ギギィン!!

日本勇者「っ!? かた」

50: 2013/04/02(火) 00:26:24.27 ID:eyC7+zoE0
ぶおん!!

一瞬の硬直、そこをミノタウロスの巨大なこん棒が襲った。

日本勇者「あ」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!


ベトナム勇者「!!?? に、日本勇者ちゃん!!!!」

スペイン勇者「!! くっ!!」

バキバキバキ

砕かれた地面、スペイン勇者はバランスを崩しながらもミノタウロスの頭部に殴打を加える。

ガァアァン!!

ミノタウロス「ぶもっ!?」

スペイン勇者「ちっ!! やはり大型魔獣は一筋縄ではいかないか!!」

フィリピン勇者「え……日本勇者さん……氏んじゃった……んですか?」

ひゅおおおおおおおお

51: 2013/04/02(火) 00:27:28.26 ID:eyC7+zoE0
メキシコ勇者「……ふん、めんどくせえことさせやがって」

ベトナム勇者「!! あっ!!」

ミノタウロスから離れた場所に、

日本勇者「……あれ? わ、私生きてる……?」

メキシコ勇者が日本勇者を抱えたまま地面に着地した。

メキシコ勇者「……別に助けたわけじゃあねぇ。だが今一人でも欠けたらきついんだよ!!」

日本勇者「あ、ありがと……」

52: 2013/04/02(火) 00:28:11.07 ID:eyC7+zoE0
ベトナム勇者「よ、よかった……日本勇者ちゃん無事だった!! ね、よかったねフィリピン勇者ちゃん!!」

振り返るベトナム勇者。

ばぎゅ、ぐちゃ

フィリピン勇者「が、ぐy」

するとそこには生きたまま食われているフィリピン勇者がいた。

半魚人「ぎょおおおおおおおおおおおおお!!」

ベトナム勇者「!!?? そ、そんな!! 大型魔獣!?」

フィリピン勇者「だ、だずげ」

グシャっ!!!!

ぼた、ぼたたっ

白い大地を赤く染めるフィリピン勇者の血。

半魚人「ぎょおおお……」

スペイン兵士「わ、わああああああああああ!!!!」

ババババババババッ!!

サブマシンガンを放つスペイン兵士達だったが、大型魔獣にそんなものがきくはずもなく、

グシャっ グシャシャシャっ

片っぱしから潰されていった。

53: 2013/04/02(火) 00:29:39.00 ID:eyC7+zoE0
ベトナム勇者「あ、あぁ……」

ジャム作りのイチゴのようになった兵士達を次々に口へと放り込む半魚人。そしてその眼はベトナム勇者を見る。

半魚人「ぎょああああああ!!」

ベトナム勇者(だ、だめだ……私攻撃能力は高くない……! や、やられる!!)

バァアアアアアン!!

ベトナム勇者「」

しかし半魚人は、空から落とされた何かによって右腕だけを残して消滅した。

ベトナム勇者「い、今の……は」

ロシア勇者『キキキ!!』

空をふよふよと浮いているのはロシア勇者。

ベトナム勇者「そんな……たった一人で大型魔獣を!?」

少佐「ふん、あいつにかかれば大型魔獣なんて屁でもないだろうよ。なんせ我らが人類の叡智の結晶、人造勇者なんだからな」

ベトナム勇者「人……造」

ロシア勇者『キキキ!!』

ロシア勇者はミノタウロスの所に飛んでいく。

少佐「改造過程で人間らしさは失われちまったがな……」

ベトナム勇者「……」

54: 2013/04/02(火) 00:30:24.74 ID:eyC7+zoE0
ミノタウロス「ぐもおおおおおおおおおおおお!!」

ロシア勇者から打ち出された光の弾丸によりミノタウロスもただの肉塊と化す。

日本勇者「はぁ、はぁ」

メキシコ勇者「な、なんだこの化物は……」

スペイン勇者「さすがだな……噂通りの性能だ」

三人は次の魔獣達を迎え撃つために息を整える。

少佐「おいスペイン勇者ー!! 聞こえるかー!!」

少佐は格納庫からスペイン勇者の名を叫んでいる。

スペイン勇者「はい、なんですか少佐!!」

少佐「この大量の魔獣、やつらは終わらせに来ている!! ってことはどういうことだ!? チャンスなんじゃないのか!?」

スペイン勇者「……攻撃に力を割いたということは、防御が手薄になっている……?」

少佐「どの道この量じゃこの基地はもう終わりだ!! 俺らだけで魔王を叩きに行くぞ!!」

日本勇者「!?」

スペイン勇者「……上層部はなんと?」

少佐「知らねぇよ!! 俺の独断だ!!」

55: 2013/04/02(火) 00:31:02.56 ID:eyC7+zoE0
スペイン勇者「……」

バラバラバラバラ!!

少佐は大型輸送ヘリコプターを格納庫から出している。

メキシコ勇者「……隊長さんよ、それしかなさそうだぜ」

スペイン勇者「……く」

既に数え切れないほどの魔獣が防衛線を突破し基地に向かっていた。基地ももう長くはない。

ババババッババッババババッ!!!!

それでもまだ戦っている兵士達を見捨てて行くのには抵抗があった。

海軍曹長「行って下さい!!」

日本勇者「!?」

日本勇者の後ろに、左腕を失い血だらけになった海軍曹長が立っていた。

海軍曹長「行って下さい……自分達のことなど構わずに!!」

日本勇者「あ……で、でも」

海軍曹長「既に貴女にはお伝えしたはずです、我々の覚悟を!! そして貴女も決意したはずだ!!」

日本勇者「ッ」

スペイン勇者「……」

海軍曹長「……絶対に魔王を倒して来て下さい。でないと末代まで呪わせていただきます」

海軍曹長は初めてちゃんと笑って見せた。

56: 2013/04/02(火) 00:32:37.25 ID:eyC7+zoE0
スペイン勇者「勇者諸君、聞け!! 我々はこれより魔王を討ちに出るぞ!!」

バラバラバラバラバラ!!

けたたましいヘリコプターのローター音。

少佐「全員乗ったか? 出るぞ!!」

バラバラバラバラバラ!!

飛び立つヘリを敬礼しながら見送る海軍曹長。

海軍曹長「……ご武運を」

ゴーレム「ぐおああおあ!!!!」

そして周囲に迫っていたゴーレム達に群がられてしまう。

日本勇者「あぁ!!」

ばん

ヘリの窓からその光景を眺めている日本勇者。

ぼんっ

海軍曹長の体に巻きつけていた爆弾が作動し、飛び散るゴーレム。

日本勇者「あ、あぁ……」

メキシコ勇者「……見な」

ベトナム勇者「……基地が」

海からせり上がって来た大型魔獣がそのまま基地を押しつぶした。

ずずぅん……

スペイン勇者「……これで我らに退路はなくなったな」

57: 2013/04/02(火) 00:33:22.20 ID:eyC7+zoE0
<六/二十八 海上>

バラバラバラバラバラ!!

スペイン勇者「操縦お疲れ様です。コーヒーをどうぞ」

少佐「おう」

夜が明け、ヘリは海の上を飛んでいる。

日本勇者「……」

ベトナム勇者「日本勇者ちゃん、少しでも口に入れておいた方がいいよ」

メキシコ勇者「はっ。いらねぇっつってるやつにやることねーだろ!」

ロシア勇者『キキキ!』

少佐「……しかし全く魔獣を見なくなったな。あと五時間程度でつくって言うのに……やはりあれは全軍での突撃だったのか?」

スペイン勇者「わかりません。用心するに越したことはないでしょう」

少佐「あぁ……ん? !? この反応は!?」

スペイン勇者「え」

ドジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

青白いビームのようなものがヘリのすぐ横をかすめていった。

58: 2013/04/02(火) 00:34:15.91 ID:eyC7+zoE0
ベトナム勇者「!? な、なんですか!?」

メキシコ勇者「くっそ魔獣に決まってんだろ!!」

日本勇者「今の攻撃……魔獣よりはるかに強い!」

スペイン勇者「……くそ……まさかここに来て魔族があらわれるとは」

日本勇者、ベトナム勇者、メキシコ勇者「「「!?」」」

ロシア勇者『キキキ!』

ベトナム勇者「魔族って……あの大型魔獣より強いっていう……」

バサッバサッ

サキュバス「きゅいぃいいん」

ヘリの後方に羽を持った人間のような物体が飛んでいる。

スペイン勇者「あぁ。あれが魔族だ……」

メキシコ勇者「冗談じゃねぇぞ!! こんな海の上でまともに戦えっこないってーのによぉ!!」

スペイン勇者「……」

少佐「どうするよ」

スペイン勇者「私が囮になります」

日本勇者「!!」

少佐「……まぁそれしかねぇよな」

ベトナム勇者「そんな……」

59: 2013/04/02(火) 00:35:03.50 ID:eyC7+zoE0
がらっ

スペイン勇者「……少佐、私が行ったら全速力で離脱を」

少佐「あぁ、わかってるよ。こいつらも無事送り届けてやる……じゃあな」

スペイン勇者は勇者達に向き直り、

スペイン勇者「後のことは頼んだぞ」

そう言ってヘリから飛びだした。

サキュバス「きゅいぃ?」

スペイン勇者は空中に浮かびながらサキュバスの前で構えを取る。

スペイン勇者「……すぐには終わらせんぞ」

60: 2013/04/02(火) 00:35:58.29 ID:eyC7+zoE0
<同日 ペルシャ上空>


少佐「……見えたぞ。魔王の城が」

メキシコ勇者「思った以上に普通の遺跡みてーだ」

ベトナム勇者「魔獣もいないし……今なら本当に勝てるかも」

ずずず……

日本勇者「!?」

周りの地面が急に盛り上がり始める。

ベトナム勇者「!? こ、これは!!」

ベヒーモス「ぎゅごががががががががああ!!!!」

ずずずずずーーん!!!!

少佐「……なんつー、バカでかさだ……大型魔獣が小さく見えてくる……超大型魔獣ってか?」

ベヒーモス「ぎゅごがああああああああああああ!!」

日本勇者「あいつがいれば……他の魔獣なんて守備に回す必要なんてないんだ」

ベヒーモスは巨大な口を開口し、そこに魔力を溜め始める。

ぎぎぎぎぎぎぎ!!!!

61: 2013/04/02(火) 00:37:09.62 ID:eyC7+zoE0
少佐「! いけねぇ!!」

どぎゃああああああああああ!!!!

強烈なビーム攻撃がヘリを襲う。

どがああああああああん!!!!

日本勇者「うあああああああああ!!」

どおおおおおん!! ばああん!!

ベトナム勇者「! す、すごい衝撃だけど、私達、まだ生きてる?」

ばばばばばばばば!!

少佐「はん! 当たり前だ!! このヘリは勇者因子の力を研究して積み込んであるんだ!!」

ヘリはバリアをはってビーム攻撃を弾いていた。

しゅぅうう……

メキシコ勇者「……あの攻撃を受けて無事とは思わなかったぜ……」

少佐「だが楽観視もしていられねぇ。燃料が尽きそうだ。次の一発、恐らく耐えきれないだろうな」

日本勇者「!」

少佐「何ぼさっとしてやがる!! お前らはさっさとヘリから降りろ!! 勇者なんだろ!? このくらいの高さから落ちたくらいじゃなんともねえだろ!!」

62: 2013/04/02(火) 00:38:12.00 ID:eyC7+zoE0
ベトナム勇者「しょ、少佐はどうされるんですか?」

少佐「このまま突っ込んでやるさ」

ベトナム勇者「!!」

少佐「どの道帰りの燃料なんざ積んでやしねぇ。その代わりにありったけの爆薬を積んできたからな!」

ロシア勇者『……キキ』

ロシア勇者は少佐の所にまで歩いて行くと手を握った。

少佐「……俺のことを……思い出したのか?」

ロシア勇者『キ?』

首をかしげるロシア勇者。

少佐「……ふん、なんでもねぇや。ほらいけ。お前ら、氏んでも魔王の奴をぶち殺せよ」

日本勇者「……はい」

ベトナム勇者「いくよ、ロシア勇者ちゃん」

ベトナム勇者はロシア勇者の手を取ってヘリから飛びおりた。

ロシア勇者『あ』

びょおおおおお

63: 2013/04/02(火) 00:39:50.02 ID:eyC7+zoE0
日本勇者「私が最初にシールドをはってダメージを軽減する! ベトナム勇者はその後お願い!」

ベトナム勇者「わ、わかった!」

ロシア勇者『……』

ベヒーモスは再び魔力を溜め始める。

ぎぎぎぎぎぎぎぎ!!!!

少佐「! ……今そのでっかい口の中にブチ込んでやるぜ!!!!」

どぎゃああああああ!!!!

少佐の乗ったヘリは、

どおおおおおん

超大型魔獣に到達する前にビームを受け、爆散した。

日本勇者「……ッ」

メキシコ勇者「け……あれだけ言っておきながら結局は一矢報いることもできないのかよ」

ベトナム勇者「急ごう! あいつがこっちを向く前に」

ロシア勇者『キキキキキキキキ!!!!』

ロシア勇者は一人飛びだした。

ベトナム勇者「!? ロシア勇者ちゃん一人じゃ危ないよ!!」

ロシア勇者は光の弾丸を連発し、ベヒーモスに突貫していく。

キュドォン!!

ベヒーモス「ぎょごおおおおお!!!!」

64: 2013/04/02(火) 00:40:23.91 ID:eyC7+zoE0
メキシコ勇者「!! おいほっとけ!! それよりもあれを見ろ!!」

パサルガダエがふたのように開き、そこから大量の魔獣があふれ出て来た。

ミイラ「ぎゃあぁあ」

ゾンビ「ぐるぅるるる」

ベトナム勇者「そ……そんな……ここまで来たのに」

日本勇者「……」

メキシコ勇者「くそ……この分だとまだ中にもいやがるぞ」

たじろぐベトナム勇者とメキシコ勇者。

ザっ

日本勇者「……だめだ、引くことは出来ない」

少女だけ前に歩きだす。


65: 2013/04/02(火) 00:43:09.49 ID:eyC7+zoE0
日本勇者「ここで退いたらもう二度と人間は反撃できなくなる」

ザッザッ

日本勇者「今まで氏んでいった人達が無駄氏になる」

ザッザッザっ

日本勇者「あいつを、守れなくなる!」

ダッ!!

メキシコ勇者「おい!!」

日本勇者は大剣を担いで走り出した。

日本勇者「ああああああああああああああああ!!!!」

狼男「ぎゃおおおお!!」

ドガっ! ズシャッ!! ズバッ!!

66: 2013/04/02(火) 00:43:53.77 ID:eyC7+zoE0
ベトナム勇者「……うんっ! メキシコ勇者ちゃん!」

ベトナム勇者は再度決心を固めメキシコ勇者を見る。

メキシコ勇者「まぁ……元より退路は無かったしな!」

メキシコ勇者は再びレイピアを強く握る。

ダッ!!!!

67: 2013/04/02(火) 00:44:32.68 ID:eyC7+zoE0
ロシア勇者『キキッキ!!』

ベヒーモス「ぎゅごごおおおおおぉ!」

ベヒーモスはロシア勇者の攻撃によって体の半分以上が融解していた。

ロシア勇者『キキキ!!』

最後の止めとばかりに力を溜めるロシア勇者の体を

ズンっ

ロシア勇者『』

ベヒーモスの触手が貫いた。

ロシア勇者『ぎ、ギギッ』


メキシコ勇者「ち……ロシア勇者の奴もだめみたいだぜ……こっちも長くはもたねぇだろうし……」

ぽたっぽたたっ

頭部の三分の一が無くなった状態で奇跡的に生きているメキシコ勇者。

ベトナム勇者「はぁ、はぁ」

ベトナム勇者も右足が既に無い。

日本勇者「はぁっはぁっ……くそ!!」

日本勇者は泣きながら大剣を振るう。

ブン、ブン!!

日本勇者「くそっ!! くそ!!」

68: 2013/04/02(火) 00:45:12.22 ID:eyC7+zoE0
ベトナム勇者「日本勇者ちゃん、行って!」

日本勇者「え?」

ベトナム勇者「こいつらは私達で時間稼ぐから、日本勇者ちゃんは行って!!」

日本勇者「ッ! で、でも」

メキシコ勇者「うるせぇ」

ドシャ!!

メキシコ勇者はレイピアで魔獣を一体倒す。

ズズーン

メキシコ勇者「早く行け……氏ぬ時までお前の顔を見てなきゃいけないなんてごめんなんだよ」

日本勇者「……」

ベトナム勇者「……後は頼んだよ」

ダッ!!

日本勇者は駆けだす。

日本勇者「うああああああああああああああああああああ!!!!」

69: 2013/04/02(火) 00:46:03.36 ID:eyC7+zoE0
<同日 魔王城>


日本勇者「はぁ、はぁ、はぁ……」

日本勇者は折れた大剣を引きずるように歩き、やっとの思いで最深部の部屋に付いた。

魔王「……」

宮殿と見間違うような、広く荘厳な部屋……。

日本勇者「!?」

そこにいたのは全裸の少女。少女は優しくほほ笑んで日本勇者を見ている。

日本勇者「お前が……魔王……?」

魔王「あおえ847うやwdlkjふぁ」

何を言っているのかはわからないが済んだ声で言葉を発した。

日本勇者「お前が……魔王なんだな」

ずるっ、ずるっ

日本勇者「お前が……お前のせいでみんな」

ずるっ、ずるっ

日本勇者「あああああああああああああああああああああ!!!!」

70: 2013/04/02(火) 00:46:47.17 ID:eyC7+zoE0
日本勇者は大剣を振り被り、そして

ズガッ!!

魔王「」

魔王の白い首を両断した。

ドッ


日本勇者「はぁ、はぁ……」

拍子抜けするほど弱い魔王だった。
罠かも知れない。そう思う日本勇者だったが、今は疲労困憊で立つことさえ出来ない。

日本勇者「はぁ、はぁ」

……くす

日本勇者「……?」

くすくすくす

どこからか笑い声が聞こえてくる。

71: 2013/04/02(火) 00:47:31.99 ID:eyC7+zoE0
くすくすくす

日本勇者「まだ、いたのか」

日本勇者はなんとかして立とうとするも、それすら叶わない。

くすくすくすくすくすくす

魔王「あいghじゃおい;rgじゃいg」

日本勇者「!?」

魔王は、首だけで笑っていた。

魔王「次はお姉ちゃんの番だね」

ドッ

日本勇者「」

天井から何かが落ちてきて、そのまま日本勇者の体を貫いた。

日本勇者「が……」

それはそのまま日本勇者の体に侵入してくる。

日本勇者「が!? ああああああああああ!!」

魔王「次ノ魔王は、お姉チゃんダァ……そノ脳ヲ、我が種の繁栄に使ワセてモラウぞ」

72: 2013/04/02(火) 00:48:03.57 ID:eyC7+zoE0
ずる、ずるる

ぼたっ、ぼたたっ

上から落ちてくる液体状の何かが日本勇者の体を覆っていく。

日本勇者「ああ、アアぁあ」

頭の中に真っ黒い何かが入ってくる。

ざり、ざりざり

頭の中を黒いものが埋め尽くしていく。

日本勇者「あ、ああぁあ」

くすくすくすくすくすくす

日本勇者「」

日本勇者は誰かの名を呼ぼうとした。

73: 2013/04/02(火) 00:48:44.41 ID:eyC7+zoE0
<十二/四 帰り道>

カン、カン、カン、カン、カン

男子高校生「……今なんか言った?」

遮断機の前で電車を待つ少年は、隣に立っている少女にそう聞いた。

ダンス部員「だからぁ、あの子から連絡は来たんですかぁ?」

カン、カン、カン、カン、カン

男子高校生「……いや、なんも」

ダンス部員「そうですか……心配ですね」

男子高校生「あぁ」

カン、カン、カン、カン、カン

ごぉ

遠くから電車が近づいてくるのがわかる。

男子高校生「……」

ごぉぉ

ダンス部員「……」

ガタンゴトン!ガタンゴトン!

74: 2013/04/02(火) 00:50:22.66 ID:eyC7+zoE0
あれから世界は何も変わらない。
男子高校生達も普通の生活を続けて行くだけだった。

ガタンゴトン!ガタンゴトン!

男子高校生は携帯を取り出した。

がー

電車は通り過ぎ、遮断機が上がる。

男子高校生(……いつになったら連絡してくれんだよ)

男子高校生は着信履歴と受信メールを開き、女子高生の名前を探す。

75: 2013/04/02(火) 00:52:25.33 ID:eyC7+zoE0
<同日 魔王城>

カチカチカチカチ

???「ごめんね連絡遅れちゃって」

カチカチカチカチ

???「今色々あって帰れなくなっちゃったんだ、でももう暫くしたら帰るから、まってて、欲しいな、っと」

カチカチカチ

???「送信、っと」

少女は何も映っていない携帯の送信ボタンを押した。

ずる、ずる……

部屋と一体化した肉の塊はいとおしそうに携帯を持っている……。

部屋の外にいる魔族たちは少女に対してひざまずいている。

???「もうすぐ、平和にするから」

76: 2013/04/02(火) 00:52:59.48 ID:eyC7+zoE0
これにてこのssは終わります。見て下さった方、ありがとうございました!

78: 2013/04/02(火) 01:44:13.10
これで完結!?

79: 2013/04/02(火) 04:51:24.15
みんな頑張ったのにな・・・ つ_;

引用元: 男子高校生「え? なんだって?」