学者「実験の期間は一ヶ月間、場所はとある合宿施設」

学者「被験者は20歳から25歳までの男女20名に協力して頂きました」

学者「彼らには朝起きて8時間ゲーム、8時間共同生活、8時間睡眠というサイクルで生活してもらい」

学者「その過程でTVゲームがどのような影響を及ぼすかを調査いたしました」

学者「プレイしてもらうゲームはこの5つのジャンルにいたしました」

・格闘ゲーム

・恋愛ゲーム

・戦略ゲーム

・銃撃ゲーム

・パズルゲーム

学者「4名ずつ5グループに分かれて、これらのゲームを一日8時間プレイしてもらうわけです」

学者「それでは映像をどうぞ」

若者『おはよー！』

男『おはよ』

女『おはよー』

若者『8時間ゲームってキツイよな～』

金髪『まったくだよ』

ﾜｲﾜｲ…



学者「実験開始三日目の様子です。ご覧のように被験者らは和やかに生活しています」

学者「しかし七日目、一週間後から異変が起こります」



若者『おいっ、なにすんだよ！』

青年『なにって……ちょっとぶつかっただけだろう』

若者『ふざけんな！　ブン殴ってやる！』

女子『ダメよ、暴力沙汰は！　実験が中止にされちゃう！』

角刈り『やめろ！』

ｶﾞﾔｶﾞﾔ…



学者「この若者は格闘ゲームをプレイしていた若者です」

学者「口調が乱暴になり、腕っ節で事態を打開しようとするようになります」

青年『ねえねえ、俺と遊ばなーい？』

女『いえ、私は……』

青年『君の腕さわっていい？』

茶髪女『やめてよ！』



学者「この青年は恋愛ゲームをプレイしていました」

学者「異性を口説こうとしたり、セクハラまがいの行為が目立つようになります」

角刈り『お前は料理を作れ』

角刈り『お前は掃除をしろ』

角刈り『お前は休憩していい』

角刈り『俺の指示に従えば、なんの問題もないのだ』



学者「彼は戦略ゲームをプレイしていました」

学者「まるで指揮官になったかのように、他人を顎で使うような言動が増えていきます」

女『あたしはドラマが見たいのー！』

女子『ダーメ、クイズ見るの！』

女『バーンバンバンバーン！』

茶髪女『ちょっとどうしたのよ！？』

男『やめろよ！』



学者「銃撃ゲームをプレイしていた被験者は、ことあるごとに銃の真似事をするようになりました」

学者「もしここにエアガンのようなものがあれば、本当に撃っていたかもしれません」

金髪『……』ｶﾁｬ…

金髪『……』ｶﾁｬ…



学者「これはパズルゲームをしていた被験者です」

学者「なにやら一人でペンや消しゴムを積み重ねるといった仕草が増えていきます」

学者「もちろん、この実験以前にこのような趣味はなかったそうです」

学者「こうした傾向は日を追うごとに強くなっていき……」

若者『てめえコラァッ！』

眼鏡『あぁん！？』

女『バーンバーンバーン！　バキューンバキューンバキューン！』

青年『ヤらせろ！』

角刈り『ふむ、皆の者落ちつくのだ。戦略を練り直すのだ』

金髪『……』ｶﾁｬ…

ﾜｰﾜｰ…　ｷﾞｬｰｷﾞｬｰ…



学者「実験開始から二週間後の映像です。トラブルが頻発し、もはや収拾がつかない状態となってしまいました」

学者「これ以上は危険と判断し、我々は実験を中断せざるをえませんでした」

学者「我々は被験者を健康診断の後帰宅させ、実験を終了させました」

学者「以上のように、TVゲームは人に悪影響を及ぼすのです」

学者「この実験の成果が、社会で役立ててもらえることを祈ります」



ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ…

「あそこまで変わってしまうものなのか」

「恐ろしいな」

「よくいう“一日一時間”でもかなりの悪影響だろう……」

ワイドショー番組にて――

司会者「続いては、今話題のTVゲーム実験のニュースです」

司会者「いやー、実験の映像は私も見ましたが……恐ろしいですね！」

コメンテーター「本当ですね」

コメンテーター「まさかゲームがここまで人を変えてしまうとは思いませんでした」

司会者「もし、あのまま実験を続けてたらどうなってたんでしょうか？」

コメンテーター「それこそ、暴力事件だのに発展してもおかしくなかったでしょうね」

司会者「ですよねー。いやー、ゲームって怖い！　私はゲームをやってなくてよかったです！」

インタビュアー「町ゆく人に例の実験について聞いてみました」

インタビュアー「あの実験を見て、どういう感想を抱きました？」

保護者「怖いですね」

インタビュアー「お子さんにゲームを買うことについては？」

保護者「もうゲームは買いません！　子供を犯罪者にしたくありませんから！」

インタビュアー「そうですよね、よく分かります」

国会でも――

議員「学者氏はこれまでにも多大な功績を残しており、実験は極めて信憑性の高いものです」

「そうだ！」　「いいぞー！」　「その通り！」

議員「今こそTVゲーム規制法が必要なのです！」

議員「ゲームを規制しなければ、この国に未来はありません！」

「賛成！」　「異議なし！」　「そうだそうだ！」

ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ…

国会さえ動くほど、実験の映像はセンセーショナルであった。

しかし、実験から数ヶ月後――

ﾌﾟﾙﾙﾙﾙﾙ…

記者「もしもし」

若者『あの、僕TVゲームの実験に参加した被験者なんですけど……』

記者「ああ、ぜひ取材したかったところなんだよ。まさかそっちから連絡をくれるなんて」

若者『えぇと、あの……実は……』

記者「どうした？」

若者『あの実験……やらせなんです』

記者「え！？」

若者は記者に全てを打ち明けた。

若者「僕たちは事前に集められて、説明されて……」

若者「それぞれプレイしてるゲームに見合った異常行動をしろ、と……」

若者「僕は格闘ゲームだったので、暴力を衝動に駆られるフリを……」

若者「お金に釣られて引き受けてしまいました……」

若者「実際には8時間のゲームで目や頭は疲れるけど、さして影響はなかったです……」

若者「なんか僕らの実験でどんどん世の中が動いてるのが怖くなって……」



なんと被験者20名のうち、17名がやらせを認める事態となった。

追い詰められた学者は全てを認めた。

学者「はい……全てやらせです」

学者「このたびは功を焦る余り、このようなことをしてしまいました」

学者「TVゲームを題材にしたのは、世間からの注目度が高いだろうと判断したためです」

学者「大変申し訳ありませんでした」

ﾊﾟｼｬｼｬｯ　ﾊﾟｼｬｯ　ﾊﾟｼｬｼｬｯ

「あのインチキ学者め！　最低だな！」

「ゲームはやっぱり安全だったんだ！　よかった！」

「これからは思う存分ゲームを楽しもう！」





ゲーム業界は一気に活気を取り戻し、それどころか以前以上に盛り上がった。

そう、こうしてTVゲーム悪影響論争は終止符を打たれることになったのである。

……

……

大物「ふふふ、このたびはあなたのおかげで我がゲーム業界はまさに最盛期を迎えましたよ」

大物「もはや、TVゲームは悪影響などと叫ぶ愚か者はいなくなるでしょう。何もかも筋書き通りです」

学者「……」

大物「なにしろ、あなたほどの学者が“TVゲームを陥れるために不正をした”と発覚してしまったのですから」

大物「もっともあなたには名誉を失った代わりに、それ相応の謝礼を支払いますがね」

学者「ありがとうございます」

学者「私としても大変有意義な実験を行うことができました」

大物「……というと？」

学者「人は一度危険だと判定されたものが、その後その判定基準がインチキだったと分かると」

学者「逆にそれはすっかり安全だと思うようになってしまう、ということがこれで証明できました」

学者「社会を巻き込みこれほどの実験ができたのです」

学者「私の名誉ぐらいどうってことありませんし、あなたから頂く金などこの成果に比べればはした金です」

大物「ふ、ふふ……あなたは本当に恐ろしいお方だ」





― 終 ―

学者の掌だったわけか
乙