1: 2015/12/02(水) 16:43:18.26
平塚「そうだ。海浜側の方々とも話し合った結果だ」

八幡「はあ、何でまたいきなり? まだ打ち合わせの段階だから支障はないでしょうけど」

平塚「先日ディスティニーのキャラが駅前の広場に来てパレードを行うイベントが発表されたのを知っているな?」

八幡「ええ、教室でリア充共が大声で話してましたんで」

平塚「大半の生徒はそちらに流れてしまうだろうとの見解でな。人があまり集まらないようならいっそ取り止めにしようということになった」

八幡「そうですか…………まあ予想しなかったわけじゃないですが」

平塚「今日は週末だし、先ほどの職員会議で決まったから生徒会への報告は来週になってしまうが、奉仕部には伝えておこうと思って部室に来たのだが…………雪ノ下や由比ヶ浜はどうした?」

八幡「雪ノ下は何やら家の用事で少し前に帰りました。由比ヶ浜は今日は最初から休みですよ。俺はちょっと本を読んでて残ってただけです」

平塚「そうか。なら奉仕部への正式報告も来週になるな。別に比企谷から二人に伝えてもらっても構わんのだが」

八幡「いえ、俺雪ノ下の連絡先を知らないんで」

平塚「じゃあやはり来週になるか。比企谷ももう帰るんだろう? 鍵はここで私が預かろう」

八幡「はい。じゃ、お願いします」

平塚「うむ…………と、ところで比企谷、私はクリスマスイブの予定はこれで空いてしまってな。どうだ、良ければ…………あれ、いない?」



2: 2015/12/02(水) 16:46:55.18 ID:Qedm9wcAO
八幡(マズイマズイ。クリスマスイベントが中止だと。今年のイブはぼっちじゃないと思っていたのに)

八幡(奉仕部関連で下手に知り合いが増えたからな。きっと中学時代みたいにハブられてあとでからかわれたりするパターンだ…………)

『あら、ハブられ谷君はついに家族からも見放されたのかしら? 私もさすがに実家で家族と過ごしたのだけれど』

『あ、ごめんヒッキー。誰かが誘ったと思って』

『ヒキタニ君、この間のパレードの後のパーティーは楽しかったね。え、あれ? いなかったっけ?』

『八幡! みんなで見たパレード綺麗だったね! 僕はテニス部の人達と見たけど』

『けぷこんけぷこん。我は人気声優さんと共に過ごしたぞ。ツイッターやブログを監視しておったからな、同じ夜を過ごしたと言っても過言ではあるまい』

八幡(…………といった感じでみんなで俺の心をえぐってくるに決まってる! くそっ、完全ぼっちだった去年はこんなことすら言われなかったのに! やっぱりぼっちは最強だな)

八幡(などと現実逃避している場合ではない。今年はイベントがあると言った結果、両親は泊まりがけの旅行に行くし小町は友達と集まるみたいなことを言っていた)

八幡(さすがにクリスマスに家で独りきりというのはプロぼっちの俺でも辛いものがある。どうにかしないと…………)

3: 2015/12/02(水) 16:47:39.64 ID:Qedm9wcAO
八幡「ただいまー」

小町「あ、お兄ちゃんお帰りー」

八幡(帰宅してリビングに顔を覗かせると小町の声がキッチンからする。夕飯の支度中のようだ)

八幡(実に良くできた妹だ。親があんなに仕事漬けなのに…………ん、仕事?)

八幡「そうか、これだ!」

八幡(俺は自室に行って着替え、スマホをいじりはじめる)

八幡(…………あった)

5: 2015/12/02(水) 16:48:56.35 ID:Qedm9wcAO
小町「へー、あれ中止になったんだ?」

八幡(俺は夕食を食いながら小町にイベントのことを伝える)

八幡「ああ。ま、学生主導のショボいイベントとディスティニーのイベントじゃあ贔屓目に見たって後者に行くわな」

小町「そうかもね。でもお兄ちゃんはクリスマスイブはどうするの? お父さんたちいないし小町も多分友達と出掛けちゃうよ」

八幡「ああ。わかんねえけど明日次第で予定埋まるかもしれん」

小町「えっ?」

八幡「ちょっと明日昼過ぎから出掛けてくるけど、その結果次第かな」

小町(え? え? 明日デートするってこと? そんでイブは一緒に過ごそうって誘うってこと?)

八幡「そんで小町にちょっと頼みがあるんだが」

小町「え、な、何?」

八幡「明日は少しばかり身嗜みに気を使わないといけないからな。簡単でいいから服装チェックしてくれねえか?」

小町「うん、お安い御用だよ。おまかせあれ」

小町(うわー! デートだ! 絶対デートだ! 雪乃さん? 結衣さん? あああー、聞きたいけどあとの楽しみに取っとこ!)

6: 2015/12/02(水) 16:50:38.01 ID:Qedm9wcAO
八幡(次の日、小町に服装チェックをされて見送られ、俺はとある場所に向かう)

八幡(こういうのは約束の時間の二十分くらい前に行っとくのが基本だよ、とは小町の談だ。まあ確かにな。遅れるよりは全然いい)

八幡「この辺のはずだが…………お、あった」

『クリスマスディスティニーイベント臨時アルバイト説明会会場』

八幡(えーっと、当日交通誘導の部屋は…………こっちか)

八幡(部屋に向かう途中、前日設営や後日撤収の部屋前を通りかかったがやはり人が多かった。それに比べて当日用の人の少なさよ……)

八幡(一番バイト代も高いってのに…………やはり当日は遊びたいやつらが多いってことですかね)

八幡(そんな中、世のため人のために自らを犠牲にして働こうとしている俺マジ社畜。バイトだけど)

八幡(しばらく待っていると時間になったのかスーツ姿の男性が入ってきて挨拶し、説明を始めた)

7: 2015/12/02(水) 16:51:54.75 ID:Qedm9wcAO
八幡(要約すると交通量が多いところや大変な箇所はプロに任せるが、裏通りや狭い路地などあまり人通りのないところはどうしても手が回らず、俺達のようなバイトでまかなうらしい。確かにコスト的にもその方がいいよな。もちろん手に負えないトラブルがあったらすぐに無線で連絡すること前提でだ)

八幡(何それ。そんなに忙しくなくてあまり人と関わらなくてもよくてバイト代も高いって最高じゃね?)

八幡(しかしそうは思わなかった連中もいるようだ。多分バイトしながらパレードも見ようと目論んでいたのだろう。そいつらはここの説明会が終わると他の部屋を訪ねに行った。各所で一日に何度か説明会をしているみたいだしな)

八幡(俺はもうここに決めたのでその旨を申し出て、書類に名前を書く。明日ちゃんとした面接をするのでもう一度ここに来るように言われ、俺は会場を後にした)

13: 2015/12/02(水) 20:13:21.89 ID:Qedm9wcAO
八幡(俺も一応高校生なわけだから一番割りの良い深夜は働けないが、それでも充分な臨時収入だ。あの感じだと不採用ってことはないだろうし、今のうちに欲しいものでも考えとこうかな)

八幡(そんな皮算用をしてショッピングモールをうろついていたらいつの間にか夕方になっていた。やべ、早く帰らないと)

14: 2015/12/02(水) 20:14:26.33 ID:Qedm9wcAO
小町「あ、お兄ちゃんお帰り」

八幡「おう、遅くなって悪かったな」

小町「平気平気。お兄ちゃんにも色々あるもんね。さ、夕御飯できてるから食べよ」

八幡「ああ」

八幡(俺は洗面所で手を洗い、うがいをしてからテーブルに着く)

小町「いただきまーす」

八幡「いただきます」

八幡(食べ始めてしばらくしてから小町が話し掛けてきた)

小町「ねえねえお兄ちゃん。今日の結果はどうだったの?」

八幡「あん?」

八幡(あれ? 俺がバイトの面接に行くの話したっけ? まあ多分話したんだろう)

八幡「一応返事待ちってとこだな。明日また行ってちゃんとした返事をもらうことになってる」

小町「そ、そうなんだ」

小町(うわーうわー! 即座に断られないってことはもう脈ありじゃん! うう、ついにお兄ちゃんにも春が…………冬だけど)

小町「ち、ちなみにお兄ちゃん的に手応えはどう、かな?」

八幡「なんでそんなおそるおそる聞いてくるんだ? まああの感じだと多分大丈夫だろ。向こうも是非にって反応だったし」

八幡(説明会のあとに即座に登録したのは数えるほどしかいなかったからな)

小町(やった! うう……小町泣きそう…………)

15: 2015/12/02(水) 20:15:19.50 ID:Qedm9wcAO
八幡(次の日、起きてリビングに入ると家族全員がやたらニコニコしていた。何か良いことでもあったのか?)

比企谷父「八幡、今日も出掛けるんだってな。それでイブの予定が決まるらしいが」

八幡「え? ああ」

八幡(小町が話したのか)

比企谷父「お前ももう高二だし、そういうことに文句は言わん。ただし、自分でしたことに責任は持てるようにしておけよ」

八幡「あ、ああ」

八幡(たかがバイトに大袈裟じゃね?)

八幡「というかまだ決定じゃないからな。今日返事もらうんだし、駄目だったらこの家でぼっちメシするぞ」

小町「お兄ちゃんなら大丈夫! 自信持って行こうよ!」

八幡「お、おう」

八幡(何でこんなに応援されてんの? まさかバイトすることで専業主夫の夢を諦めたとか思われてんのか?)

八幡「と、とりあえずメシ食って準備したら出掛けるから」

比企谷父「うむ。頑張ってこい」

16: 2015/12/02(水) 20:16:25.33 ID:Qedm9wcAO
  ~面接会場~


面接官「それでは比企谷さんは十四時から二十二時の交通誘導チームで採用と致します」

八幡「はい」

八幡(向こうが用意してくれた書類を何枚か書き、簡単な面接を終えて俺は無事採用された)

面接官「イブ直前の土曜日と日曜日に最終説明会がありますのでどちらかにいらしてください。詳細は先ほど書類に記入していただいたメールアドレスに送りますので」

八幡「はい、よろしくお願いします」

八幡(俺は頭を下げて部屋を出る。よし、これでイブの予定は埋まった。夜には小町も帰ってるし、イブじゃない次の日は親も帰ってくるから完全ぼっちは回避できた)

八幡(これで誰かにイブの予定があるかを聞かれても自信を持ってあると答えられるな)

八幡(…………ま、その予定がバイトだというのは伏せておこう)

17: 2015/12/02(水) 20:17:41.42 ID:Qedm9wcAO
八幡「もう明日から学校か。おのれ月曜日め…………ただいまー」

小町「お帰りお兄ちゃん! さ、もう夕御飯だよ。早く早く!」

八幡「え? お、おう」

八幡(何でそんなテンション高いの?)

八幡(リビングに行くとちょうど料理を並べ終えたところのようだ。俺は席に着く)

比企谷父「で、八幡。首尾はどうだった?」

八幡「ああ、色よい返事をもらえたよ。イブの夜は俺も予定が埋まった」

小町「やった! 良かったねお兄ちゃん!」

比企谷父「くうう。まさかあの八幡が…………」グス

八幡(何でこんなに喜んでるんですかね? 息子独りをぽつんと家に居させるのがそんなに心苦しかったのか?)

八幡「一応日付変わる前には帰るつもりだが、先に帰ってから戸締まりはしっかりしとけよ小町」

小町「え、あれ? お兄ちゃん、その……あ、朝までコース、とかじゃないの?」////

八幡「何言ってんだ。俺はまだ十八歳にもなってねえんだぞ。んなことできねえよ」

八幡(法律は守らないとね。良い子にしないとサンタさんが来ないゾっ…………まあ良い子にしてても来ないけど)

18: 2015/12/02(水) 20:18:27.10 ID:Qedm9wcAO
比企谷父「八幡…………しっかり考えてるんだな……少しお前を見くびっていたようだ」

八幡「いや、当たり前のことだろ…………駅前のパレードが終わって、ちょっとしてから帰る予定な」

八幡(確かパレードは夜九時過ぎくらいまでだったはず)

比企谷父「そうか、人通りも多いし何かと起こりやすいから気を付けろよ」

八幡「ああ」

小町(相手とはぐれちゃうかもしれないし手を繋いだりするのかなあ)ドキドキ

八幡(裏通りって言っても人は溢れてるだろうしな。飲酒運転もいるかもしれないしその辺は気を付けないと…………しかし親父がこんなに気を使ってくれるなんて珍しいな)

33: 2015/12/03(木) 15:03:16.89 ID:JubZhLiAO
いろは「こんにちはー」ガラガラ

結衣「あ、いろはちゃん。やっはろー」

雪乃「こんにちは一色さん」

いろは「どうもー。あれ? 先輩はいないんですか?」

結衣「ヒッキーなら日直でちょっと遅れてくるよ」

いろは「なるほど。ところで聞きました? クリスマスイベントが中止になった話なんですが」

雪乃「ええ。先ほど平塚先生から聞いたわ。まあどんなに楽しくしようと手を尽くしても相手が悪いわよ」

いろは「せっかく頑張ろうと気合いを入れてたのに残念です」

結衣「仕方ないよね……でもパレードはパレードで楽しみじゃない?」

いろは「そうですね! まさかここの駅前まで来てくれるとは思いませんでした。ランドは激混みな上に高いですけど、駅前なら早めに行って場所取りとか出来ますし」

結衣「でも道路とか車平気かなあ」

いろは「ネットで調べたんですけどあのあたり一帯は朝から封鎖して歩行者天国にするみたいですよ」

雪乃(パンさんに会えるかしら。会えるわよね? いい場所を取らないと)ワクワク

35: 2015/12/03(木) 15:04:40.07 ID:JubZhLiAO
いろは「でもパレード誰と見に行こうかなあ…………よし、先輩を誘ってみよっかな」

雪乃・結衣「「!!」」

いろは「どうせ先輩はイブを一緒に過ごす相手なんていないだろうし、一生の思い出のためにここは可愛い後輩が一肌脱いであげますかね」ヤレヤレ

結衣(ゆきのん!)チラッ

雪乃(ええ)チラッ

雪乃「それには及ばないわ一色さん。実はさっき奉仕部の三人でパレードを見に行こうと話し合っていたのよ。そうよね、由比ヶ浜さん」

結衣「うん! だからヒッキーのことはあたしたちに任せて隼人君でも誘ってみたら?」

いろは「ええー、でも葉山先輩は引く手数多だろうから、確実に暇な人をキープしておきたいんですよねー。先輩なら二人きりでも勘違いとかしないでしょうし」

いろは(引き離そうったってそうはいきませんよ!)

結衣(うう、あのヒッキーでもさすがに二人きりでパレードに行ったら靡いちゃうかも…………あれ、じゃああたしも)

雪乃(ここは一色さんも誘い入れて四人で行動するのが無難かしら…………でも)

いろは(もしパレードで)

結衣(ヒッキーと)

雪乃(二人きりになれたら…………)

36: 2015/12/03(木) 15:06:20.71 ID:JubZhLiAO
雪乃『パレード、煌びやかで綺麗だったわね』

八幡『そうだな。予想以上だったわ』

雪乃『あら、お前の方が綺麗だよ、くらいは言えないのかしら?』

八幡『んなこと言えるか。お前だって俺なんかに言われても気持ち悪いだけだろ』

雪乃『そうでもないわ。むしろ気分が高揚している今なら素直に嬉しいかもしれないわよ』

八幡『それに、綺麗ってのはちょっと違うと思うし…………』

雪乃『え…………』

八幡『その、パンさんを見つけてはしゃぐお前は、どっちかっていうと可愛い、って感じだった』

雪乃『!』

八幡『す、すまん。気持ち悪いこと言って! ほら、送っていくから帰ろうぜ』

雪乃『…………』スッ

八幡『お、おい、何で腕を組んで……』

雪乃『疲れて何かに掴まりたい気分なのよ』

八幡『…………ならしょうがねえか。しっかり掴まっとけよ』

雪乃『ええ』ギュ



雪乃(なんてことに)ドキドキ

雪乃(はっ…………な、何を考えているの。私はただパンさんが見たいだけで、ボディーガード兼道案内役として比企谷君がいいだけよ)

雪乃(比企谷君なら私がパンさん好きなのを知っているし、男連れならナンパとかも来ないし、ああ見えて面倒見がいいから…………)

37: 2015/12/03(木) 15:07:21.49 ID:JubZhLiAO
結衣『パレードすごかったねー。ぜーんぶキラキラしてたし』

八幡『だな。こういうのに興味は薄かったけどたまにはいいもんだ』

結衣『でしょでしょ。だから今度からもっといろんなとこ行けばいいと思うよ!』

八幡『たまには、だからな。あと…………お前となら、だから』

結衣『えっ』

八幡『…………』

結衣『ヒッキー、今…………』

八幡『由比ヶ浜』グイッ

結衣『あ、腕……ヒ、ヒッキー、顔、近い……だめ、こんなとこで……』

八幡『結衣…………綺麗だ……さっきのパレードなんかよりずっと』

結衣『だ、だめ、こんな道端で…………誰かに見られちゃう……』

八幡『結衣……結衣……お前の全部が欲しい…………』



結衣(なんて、なんてことに!)ドキドキ

結衣(はっ…………な、何考えてんのあたし。いくらヒッキーでもいきなりそんなこと!)

38: 2015/12/03(木) 15:08:53.14 ID:JubZhLiAO
いろは『パレード、素敵でしたね。ランドに負けてないんじゃないですかね、あれ』

八幡『実物を見たことがないから何とも言えんな。俺はそんなに興味ないし』

いろは『…………』

八幡『どうした?』

いろは『ごめんなさい先輩。そしてありがとうございます』

八幡『何だよ突然』

いろは『そんなに興味ないってのは本当だと思います。でも、来てくれましたよね』

八幡『ま、まあ暇だったしな』

いろは『わたし知ってるんですよ。ちょっと前に来たって言ってましたけど、本当はもっとずっと早く来てあそこを場所取りをしてたの。クラスの子が見たそうです』

八幡『…………』

いろは『それとパレード中、人に押されないようにガードしてくれてたり、変な目で見てくる男の人を睨んで追っ払ってくれてたりしたのも』

八幡『…………覚えがねえな』

いろは『先輩、わたしのことをあざといって言いますけど先輩の方がずっとあざといですよ…………』

八幡『一色…………』

いろは『嫌です。いろはって呼んでください』

八幡『いろは…………俺……俺……』グイッギュッ

いろは『あ…………』



いろは(なーんてことに…………)ドキドキ

いろは(はっ…………何を考えているんですかわたしは!)

39: 2015/12/03(木) 15:10:17.14 ID:JubZhLiAO
八幡「うーっす」ガラガラ

雪乃「うぬぼれないでちょうだい比企谷君。あなたはあくまで奉仕部の便利な備品なのよ」

結衣「外でなんてヒッキーのスケベ! 変態!」

いろは「さすがにあざとすぎます卑怯ですごめんなさいまずは交換日記からでいいですか?」

八幡「部室のドアを開けただけで罵倒されるこんな世の中は滅んでいいよちくしょう」

96: 2015/12/03(木) 23:55:55.29 ID:JubZhLiAO
八幡「で、さっきのは何だったんだ?」

雪乃「忘れなさい」

結衣「忘れて」

いろは「忘れてください」

八幡「いや、でも…………わかりました」

八幡(そんなにみんなして睨まないでくれますかね怖いです)

雪乃「コホン…………ところで比企谷君、残念なお知らせがあるの。実は学校主催のクリスマスイベントのことなのだけれど」

八幡「ああ、取りやめになったんだろ。さすがにアレが相手じゃみんな向こうに流れるわな」

結衣「あれ、知ってたの?」

八幡「おう。先週末に平塚先生から聞いた。雪ノ下が帰ったあと部室に来たんだよ」

いろは「でもイブの予定が空いちゃいましたね。先輩も寂しいイブを過ごしちゃうんですか?」

結衣(しまった!)

雪乃(先手を取られた!)

八幡「あー…………」

結衣「ヒ、ヒッキーはやっぱり家族と過ごすの?」

雪乃「まあそうよね。シスコン谷君が小町さん以外と過ごすなんて考えられないもの」

八幡「いや、小町は学校の友達と遊ぶみたいなこと言ってたぞ。受験前最後の息抜きとか言って」

雪乃・結衣・いろは(((チャンス!!)))

97: 2015/12/03(木) 23:56:50.25 ID:JubZhLiAO
結衣「じゃ、じゃあさ、ヒッキーはイブの日は空いてるの?」

八幡(ここで勘違いしてはいけない。お誘いだと思って空いてると返事をすると『キャハハハ、やっぱりー!』って笑われて終わるだけだ。だが残念だったな、俺にはもう予定はあるのさ!)フフン

八幡「いや、空いてない。もう予定入ってるぜ」

結衣「え、う、嘘……?」

雪乃「ひ、比企谷君、見栄を張るのはよしなさい」

いろは「そ、そうですよ。先輩にイブの予定が入るわけないじゃないですか」

八幡「何だよその決め付けは…………というか俺の予定なんかお前らには関係ないだろ」

いろは「う…………」

八幡(ふふふ、からかうことができなくて残念だったな!)

結衣「ヒッキー、ど、どこに行く予定なの?」

八幡「どうだっていいだろんなもん」

雪乃「いいから答えなさい。奉仕部部長命令よ」

八幡「横暴にも程がある…………んじゃ先にお前らの予定を言えよ。そしたら答えてやるから」

雪乃(う…………)

結衣(ここであたしたちの方から予定を言ったら…………)

いろは(誘うことが出来ない…………)

98: 2015/12/03(木) 23:57:56.29 ID:JubZhLiAO
雪乃「まだ予定はないわ。元々イベントのつもりだったのが中止と聞かされたばかりだもの」

結衣「あ、そ、そうだよ。だからあたしたちは予定空いちゃってるの!」

いろは「先輩も同じかなって…………」

八幡「へえ。んじゃお前らで集まれば良くね? パーティーとか適当にやれば」

結衣「も、もちろんヒッキーも誘うからね!」

八幡「だから俺は予定あるんだって。話聞けよ」

雪乃「その、それは私達の集まりより優先することなのかしら?」

八幡「いや、普通先約を優先するだろ…………」

雪乃(くっ、手ごわい…………)チラッ

結衣(このまんまじゃヒッキーから何も聞けそうにないし…………)チラッ

いろは(ここは共同戦線を張った方がいいかもしれませんね)チラッ

八幡(あの、俺を省いて目配せして頷き合うのやめてくれませんかね。色々悲しい過去を思い出しちゃうんで)

雪乃「ところで由比ヶ浜さん、ちょっと相談したいことがあるのだけれど」

結衣「え、珍しいね。何?」

雪乃「その、できれば男性には聞かれたくない内容なのよ…………」

八幡(俺が邪魔者ってことね)

八幡「んじゃ俺はもう今日は引き上げるわ」

雪乃「ええ、ごめんなさい」

八幡(あの雪ノ下が俺に謝っただと…………てことは俺をハブる計画ではなく本当に悪いと思ってるってことか)

八幡「いいよ。んじゃまた明日な」

126: 2015/12/04(金) 19:07:00.35 ID:X1tzrUgAO
 ~ファミレス~

いろは「で、なんでここに来たんですか? 話し合うなら部室でも良かったのでは」

雪乃「情報提供者を呼ぶためよ」

いろは「情報提供者?」

小町「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」

結衣「あっ、小町ちゃん。やっはろー」

小町「やっはろーです皆さん。なにやら兄について聞きたいことがあるとか。何でも答えちゃいますよー」

雪乃「な、何でも…………じゃ、じゃあ比企谷君は寝るときに……」ゴクリ

いろは「雪ノ下先輩、主旨が違います」

雪乃「はっ……じょ、冗談に決まっているでしょう」

結衣「あ、あはは……小町ちゃん、とりあえずドリンクバー頼んどいたから何か取ってきたらいいよ」

小町「はーい」トテトテ

いろは「しかしなるほど、妹さんですか」

雪乃「ええ、彼女なら何か知っているはずよ」

127: 2015/12/04(金) 19:18:24.93 ID:X1tzrUgAO
小町「お待たせしましたー。それで何を聞きたいんですか?」

雪乃「総武高校主催のクリスマスイベントが中止になった話は聞いているかしら?」

小町「はい、兄から聞きました」

雪乃「そのせいで私達も予定が空いてしまって、だったらいっそそのまま私達で集まってパーティーでもしようと思っていたのだけれど」

小町「えっ?」

結衣「えっ?」

小町「あの…………兄はイブに出掛けるらしいんですが、そのパーティーのことなんですか?」

雪乃「……違うわ」

いろは「せ、先輩に予定があるのは本当みたいですね…………」

雪乃「その……どういう経緯で比企谷君は予定を入れることになったのかしら?」

小町「金曜の夜に、明日出掛けてくるからって…………それ、小町はてっきり雪乃さんか結衣さんと出掛けるものだと思ってたんですけど」

結衣「ううん、あたしたちは知らないよ」

いろは「で、でも誰かと出掛けたとは限らないんじゃないですか?」

小町「いえ、約束の時間も決まってて身嗜みにも注意してて…………そんでそれ次第でイブの予定が決まるって言ってました」

128: 2015/12/04(金) 19:19:19.09 ID:X1tzrUgAO
結衣「そ、そんな…………」

小町「それで出掛けていって、次の日にもう一回会って、『いい返事を貰えた、イブの予定は埋まった』って…………」

いろは「あ、相手が誰だったとかは?」

小町「それは聞いてないんですけど…………でもパレードに行くようなことは言ってましたね。それで、その…………」

雪乃「?」

小町「ま、まだ高校生だから朝帰りとかはしないって言ってました…………」////

雪乃・結衣・いろは「「「!!」」」////

雪乃「コホン…………と、とにかく比企谷君はイブに誰かとパレードに出掛けるのは間違いなさそうね」

結衣「ううー、誰と行くんだろ……」

いろは「あの、気になるなら先輩本人に聞いてみればいいんじゃないですか?」

雪乃「あら、じゃあその役目は一色さんにお願いしてもいいかしら?」

いろは「そ、それはちょっと…………」

小町「ほえー、お兄ちゃん愛されてますねー。こんなにみんなに好かれてるなんて」

雪乃「なっ、べ、別にそういうわけでは……」

結衣「ち、違うし!」

いろは「た、ただちょっと気になってるだけで……」

129: 2015/12/04(金) 19:22:06.33 ID:X1tzrUgAO
小町「でもすいませんけど、小町は今回の件はあまり協力できませんよ」

結衣「え、ど、どうして?」

小町「小町は何だかんだ言ってもお兄ちゃんの味方ですからね。今までと違ってお兄ちゃんが積極的に動いての結果なら邪魔はできないです」

雪乃「…………」

結衣「…………」

いろは「…………」

小町「あ、でも応援はしてますよ。あと小町が知ってることを教えるくらいなら全然構わないですので」

雪乃「ありがとう。ならまた連絡してもいいかしら?」

小町「はい! じゃ、小町は夕飯の買い物があるのでこれで失礼します!」

130: 2015/12/04(金) 19:22:33.59 ID:X1tzrUgAO
いろは「それでこれからどうするんですか?」

雪乃「とりあえず比企谷君の相手を知りたいわね。幸い交友関係が広くないし、きっとすぐに見つかるわ。それから考えましょう」

結衣「でも正直想像つかないよね、ヒッキーが自分から動くなんて…………それこそ彩ちゃんくらいしか…………あ」

いろは「あ」

雪乃「…………たぶんそれね。よく考えたら他に候補がいないわ」

いろは「そ、そうですよね。なぜか相手は女の子って思い込んでましたけど…………」

結衣「じゃあ明日あたしが彩ちゃんに聞いてみるね。ついでに一緒に行くかも誘ってみるよ!」

雪乃「ええ、じゃあお願いするわ」

139: 2015/12/04(金) 23:15:20.34 ID:X1tzrUgAO
 ~次の日・教室~


結衣(ヒッキーはまだ来てないか…………あ、彩ちゃんいた)

結衣「彩ちゃん、やっはろー」

彩加「おはよう由比ヶ浜さん」

結衣「うん。ねえ、彩ちゃんクリスマスイブはどうするの?」

彩加「僕? 僕は午前中テニス部の練習があるんだ。それでそのまま部の有志のみんなでお昼食べて駅前のパレード見に行こうって話になってるよ」

結衣「え、そ、そうなんだ」

彩加「うん。由比ヶ浜さんは葉山君達と一緒? それとも奉仕部?」

結衣「あ、えっと、奉仕部で集まろうと思ってて、それで良ければ彩ちゃんもどうかなって……」

彩加「あ、ごめんね……もう部の人達と行くことになってて」

結衣「ううん、気にしないでよ」

彩加「もし八幡が空いてたらこっちに誘おうと思ってたけど由比ヶ浜さん達と一緒なら止めとくね」

結衣「う、うん…………」

140: 2015/12/04(金) 23:16:00.62 ID:X1tzrUgAO
 ~昼休み・奉仕部部室~


結衣「彩ちゃんじゃなかった…………」

雪乃「まさか戸塚君じゃないとは予想していなかったわね…………いったい誰なのかしら」

いろは「実はさっきめぐり先輩と会ってお話聞いたんですけど、めぐり先輩でもないですね。クラスの人と行動するみたいです」

結衣「あとヒッキーと関わりのある人って…………中二と、沙希と……」

雪乃「姉さんと平塚先生くらいかしら?」

いろは「うーん。こうしてみると本当に先輩って」

結衣「交友関係狭いね…………」

雪乃「それじゃ、由比ヶ浜さんは川崎さんに探りを入れてもらえる? 私は平塚先生に聞いてみるわ」

結衣「うん!」

141: 2015/12/04(金) 23:17:26.65 ID:X1tzrUgAO
結衣「ねえねえ、沙希、イブの日はどうするの?」

沙希「え? ああ、えっと…………ちょっと家族関係で約束があってね。どうかしたの?」

結衣「あ、実はさ、奉仕部で集まってパレードを見に行こうと思ってたんだけど、人数多い方が楽しいから沙希もどうかなって」

沙希「ああ、ごめん。誘ってくれたのは嬉しいんだけど…………もう用事が外せなくて」

結衣「あ、ううん、いいの。また何かあったら誘うから!」

沙希「う、うん、ありがと。比企谷や雪ノ下にもよろしく言っといて」

結衣「うん! じゃあね」

142: 2015/12/04(金) 23:18:05.88 ID:X1tzrUgAO
雪乃「先生、鍵を借りに来ました」

平塚「うむ。ほら」

雪乃「ありがとうございます。ところで先生、ひとつお聞きしたいのですがよろしいですか?」

平塚「ん、なんだ珍しいな。構わんぞ」

雪乃「平塚先生はイブの日はどのように過ごされるのでしょうか?」

平塚「グフッ!」バターン

ウワーヒラツカセンセイガタオレタゾ!
チノナミダヲナガシテル!
エイセイヘイ!エイセイヘイハマダカ!?

雪乃「わ、悪いことを聞いたかしら…………?」

143: 2015/12/04(金) 23:19:58.84 ID:X1tzrUgAO
 ~放課後・奉仕部部室~


雪乃「たぶん違うわ」

結衣「違った」

いろは「もう手詰まりじゃないですか…………」

結衣「中二じゃないだろうし、誰なんだろう…………本当にいるのかなあ?」

雪乃「! …………それよ」

結衣「え?」

雪乃「ここまで探してていないのだから気付くべきだったわ。本当は比企谷君とイブを過ごす相手なんていないのよ」

結衣「え、え? どういうこと?」

いろは「なるほど…………いるフリをしているってことですか」

雪乃「ええ、おそらく比企谷君はイベント中止になって焦ったのよ。『マズい、ぼっちになる』と」

結衣「そういえば今年は家族も家にいないって小町ちゃん言ってたね」

雪乃「ぼっちになるだけならまだしも、それを他の人に知られるのが嫌だったのよ彼は」

いろは「だから妹さんも騙して誰かに会いに行くフリをしたりしたんですか」

雪乃「ええ、疑った私達が小町さんに問い合わせることも予想した上でね」

結衣「むう、ちゃんとあたしたちが誘ったのに…………」

雪乃「たぶん引っ込みがつかなくなったのよ。でもイブが近付いたときにもう一度強引気味に誘えば、有りもしない用事をキャンセルしてきっとこっちに来るわ」フフフ

144: 2015/12/04(金) 23:21:16.90 ID:X1tzrUgAO
結衣「そっかー。もう。ヒッキーは仕方ないなあ」アハハ

いろは「しょうがないからもう一度誘ってあげますかね」ヤレヤレ

八幡「うーっす」ガラガラ

雪乃「こんにちは比企谷君」ニコニコ

結衣「やっはろーヒッキー」ニコニコ

いろは「どうも、先輩」ニコニコ

八幡(え、何? こいつら何でこんなにニコニコしてんの? 何かトラップでも仕掛けた?)

雪乃「聞いたわよ比企谷君、イブのこと。小町さんに」

八幡「え? ああ、あれか。まあそういうことだ」

八幡(俺がバイトするのバレちまったか…………)

雪乃「それなら仕方ないわね。私達は私達で楽しむから比企谷君は比企谷君で頑張ってちょうだい」

八幡「お、おう」

八幡(だから何でこんなにみんな俺のバイト応援してくんの? そんなに働かない奴だって思われてんの? 合ってるけど)

八幡「ま、まあ何事も経験かなって。ちょっとは頑張るつもりだ」

結衣(もうバレてるのに)

いろは(まったく先輩はどうしようもないですねー)

145: 2015/12/04(金) 23:22:30.60 ID:X1tzrUgAO
ピリリリリ

結衣「ん? 誰かの携帯?」

八幡「あ、俺だ」

八幡(見知らぬアドレスからメールが来ていた。どうやらバイト先からのようだ)

雪乃「企業からのメールかしら? それとも迷惑メール?」

いろは「知人からという選択肢を最初から外している当たり非道いですね」

八幡「まあほとんど知人からのメールなんて来ないしな…………ちなみに今のはイブの日の予定の確認メールだが」

雪乃・結衣・いろは「「「!!」」」

雪乃(え、演技よね? 手の込んだ演技に決まっているわよね?)

結衣(で、でもここまでする?)

いろは(ま、まさか本当に?)

八幡「う…………」

八幡(最終説明会の会場と時間のお知らせだったが、仕事内容も簡単に書かれていた)

八幡(どうも交通誘導は二人組でやるらしい。そりゃそうか、トラブルやトイレ休憩のことも考えたら一人はツラいもんな)

八幡(幸いなことにペアは向こうが勝手に決めてくれるようだ。コミュ力はいらないな。しかし…………)

八幡「二人きり、か。緊張するな…………」

雪乃「」

結衣「」

いろは「」

162: 2015/12/05(土) 23:44:47.32 ID:qCkQNvlAO
八幡(メールの確認を終えて顔を上げるとなぜか三人は放心していた)

八幡「おい、どうした?」

雪乃「い、いえ、何でもないわ…………そ、それより比企谷君」

八幡「あん?」

雪乃「その…………」

八幡(雪ノ下が何かを言い掛けたが、それを遮るようにドアがノックされた。来客のようだ)

雪乃「……どうぞ」

義輝「ふはははは! 剣豪将軍、見参!」ガラガラ

八幡「おう、よく来たな帰れ帰りやがれお帰りください」

義輝「ちょ、待っ、ひどい!」

八幡「はあ、何しに来たんだよ…………また何か読めっていうのか?」

義輝「あー、いや、違う。実はクリスマスイブについてなのだが、八幡は予定があるか?」

八幡「え? ああ、埋まってるが」

義輝「何!? もう埋まってるだと! いったい誰と過ごすのだ!?」

雪乃(これは…………!)

いろは(労せずして先輩の相手が聞けるチャンス!)

結衣(行けっ、中二、頑張れ!)

義輝「…………って、それは別にどうでも良いか」

いろは(使えねえええ! 何ですかこの役立たずのデブは!)

結衣(もっとちゃんと聞いてよ!)

雪乃(あなたは今ここで比企谷君の相手を問い詰めるためにこの世に生を受けたことを自覚しなさい!)

163: 2015/12/05(土) 23:45:35.04 ID:qCkQNvlAO
義輝「いやでもやっぱり気になってしまうな。相手は誰だ八幡よ」

いろは(さすが! 見た目のように貫禄のあるお方ですね!)

結衣(信じてたよ中二!)

雪乃(あなたなら比企谷君のお友達として近くにいることを許してあげてもいいわ!)

八幡「誰だっていいだろ。それより何の用だよ」

義輝「あ、そうであったな。実は…………」

いろは(こらあああああ!)

結衣(中二いいいぃぃ!)

雪乃(自分の事ばかりではなく私達の事も考えなさい!)

義輝「…………という依頼なのだが」

八幡「ああ、そんくらいなら構わねえぞ。万一の事があったら適当に返事しとくわ」

義輝「おお、恩に着る。では我はこれで退散させていただく。さらば!」

八幡「毎度騒がしいやつだな…………ってお前ら何してんの? ドアに手を振って」

いろは「ちょっとあの方に『配られたプリントに先生の唾が毎回付いてる』の呪いを」フリフリ

結衣「ちょっと中二に『映画館に行くと前の席に居る人が毎回アフロ』の呪いを」フリフリ

雪乃「ちょっと材なんとか君に『コンビニで前の客が毎回宅配便を頼む』の呪いを」フリフリ

八幡「お前ら材木座に何の恨みがあんの!?」

164: 2015/12/05(土) 23:46:12.42 ID:qCkQNvlAO
雪乃「…………で、彼はいったい何の依頼に来たのかしら?」

八幡「聞いてなかったのかよ…………イブの日に声優のイベントがあるけど東京でやってて深夜までなんだと。一人でそういうとこに行くのは親が許さないかもしれないから学校のやつらと泊まりがけパーティーをやることにして、それのアリバイ工作をしてくれって話な」

結衣「それ、引き受けたの?」

八幡「ああ、連絡がすぐに取れるようにしとくのを条件にな。そもそも当日までごまかせばいいらしいし…………ん、またメール?」

いろは「だ、誰からですか?」

八幡「何でそんな食いつくんだよ…………えっと、小町からだな。夕飯の食材を買ってきて欲しいんだと。雪ノ下、俺今日はもう帰っていいか?」

雪乃「え、ええ。私達はもう少し残っているわ」

八幡「悪いな、それじゃ」ガラガラ

雪乃「…………」

結衣「…………」

いろは「…………」

165: 2015/12/05(土) 23:46:56.20 ID:qCkQNvlAO
雪乃「…………さて、わかっていたことだけど材なんとか君でもなかったわね」

結衣「ほ、本当に誰なんだろ…………」

いろは「メール来たときのあの反応は嘘や演技って感じではなかったですよね…………」

雪乃「こうなったら徹底調査をしましょう。まだ日はあるし、地道に聞き込み作業よ。ただし、比企谷君本人の耳には入らないようにしながらね」

166: 2015/12/05(土) 23:47:40.34 ID:qCkQNvlAO
雪乃(次の日から私達は地道に聞き込みを行った)

雪乃(その結果収穫はゼロ)

雪乃(あえて言うなら校内の誰でもないというのが収穫といえば収穫なのかもしれないけれど…………)

雪乃(比企谷君がイブに誰かとデートするという噂が水面下で広がってしまったわ…………)

アノヒキナントカガイブニデートダッテヨ
エー、アノクサッタメヲシテルアイツガ?
ヘッ、ドウセブサイクガアイテダロ
ソレガアノホウシブフタリノサソイヲケッテマデイクヨウナアイテラシイゼ
マジデ!? ジャアソレイジョウノアイテ? ドンナヤツダヨ
ハヤマクンニキマッテルジャナイグフフフ
クソッ、アンナヤツデモイブニデートデキルノカ
ダレダイマノ

八幡(なんか最近視線を感じるな…………)

179: 2015/12/06(日) 01:34:17.07 ID:D2OFxShAO
八幡(さて、刻一刻とクリスマスは近付いている。これが何を意味しているかというと…………)

八幡「寒い……」

八幡(そう、どんどん気温が下がっているってことさ! …………そろそろ昼飯を屋外で食うのは辛くなってきたな)

八幡「自転車通学も大変です、っと」

沙希「なに独り言しゃべってんの?」

八幡「うおわ! な、なんだ川崎か…………突然声掛けるなよ、びっくりするだろうが」ドキドキ

沙希「いや、普通に声掛けただけじゃない」

八幡「ぼっちは声を掛けられること自体慣れてないんだよ」

沙希「まあそれはわかるけど…………」

八幡「わかんのかよ……お、信号変わった。じゃあな」

沙希「何でさ。一緒に行こうよ。どうせ学校の駐輪場っていう目的地は変わらないんだから」

八幡「え、あ、お、おう」

八幡(じょ、女子と一緒に自転車登校だと…………俺いつからリア充の仲間入りしたんだっけ?)

180: 2015/12/06(日) 01:35:00.63 ID:D2OFxShAO
沙希「でも最近本当に寒くなってきたね」

八幡(次の信号待ちの時、川崎が話し掛けてきた。こいつ人見知りする方だったはずなんだが…………俺には遠慮や気を遣わなくていいってか?)

八幡「そうだな。体調とかにも気を付けないと。特にお前は家族のために無茶とかして自分を後回しにしたりしそうだし」

沙希「その言葉そっくり返すよ、シスコン」

八幡「うるせえブラコン」

八幡(信号が変わり、俺達は自転車を漕ぎ始める。ここからは何事もなく学校の駐輪場に到着した)

八幡「よっ、と」

八幡(俺は自転車に鍵をかける。そういえば川崎どうすんだ? このまま一緒に教室行くのか?)

八幡(それはちょっと気まずいな……トイレにでも寄って……)

沙希「ねえ」

八幡「お、おう、何だ?」

八幡(タイミング逃した…………)

沙希「あんたさ、イブの日に予定あるって本当?」

八幡「あ? 何で知ってんだ?」

沙希「由比ヶ浜に聞いた」

八幡「何で言いふらしてんだあいつは…………まあ、そういうのに今まで縁がなかったからちょっと戸惑ってるとこもあるけどさ、せっかくだから頑張ってみようかなって」

沙希「そ、そう…………」

181: 2015/12/06(日) 01:35:26.28 ID:D2OFxShAO
八幡「お前は? やっぱり家族と過ごすのか?」

沙希「まあそんなとこ。色々あるけどね」

八幡「ふうん」

八幡(そんな雑談をしていたらなし崩し的に川崎と一緒に教室に入ることになったのだが…………)

八幡(あの、なんでみんなそんなにチラチラ見てくるの? そんなに俺と川崎が一緒にいるのが変? 変ですね、はい)

182: 2015/12/06(日) 01:36:40.18 ID:D2OFxShAO
八幡(さて、昼休みだが…………外は風が強く実に寒そうだ。うん、今日はここで食うか)

隼人「やあヒキタニ君、今日の昼御飯は教室かい?」

八幡(やっぱりさっさと教室を出れば良かった…………何で話し掛けてくんだよ目立つだろうが)

隼人「たまには俺達と食べないか? ちょっと聞きたいことや話したいことがあるし」

八幡(だが断る。俺にはない…………待てよ?)

八幡(そういやあのバイト二人組でやるんだったな。その日限りの付き合いとはいえ、ちょっとはコミュ力を鍛えておいた方がいいのかもしれない。バイトとはいってもせっかくのクリスマスなんだから少しでもいい気分になりたいしな)

八幡「まあ、たまにはいいか」

隼人「えっ…………誘っておいてなんだけども君が受けるとは思わなかったよ」

八幡「なんだ。社交辞令だったら別にいいんだぞ?」

隼人「いやいや、歓迎するよ。あっちでみんな待ってる」

八幡(俺は弁当を持って葉山の後ろからついて行き、グループの輪に入った)

194: 2015/12/06(日) 16:50:05.73 ID:D2OFxShAO
キャー静ちゃんのパンティークンカクンカモフモフ!


ああ、大丈夫です
ちょっとボーっとしてて二駅ほど乗り過ごしたけど寝過ごしてはいません
ただ座って目を瞑って考え事をしてただけなんです
指定時刻にギリギリセーフで間に合いました

あと言い忘れました
このSSは修学旅行も文化祭も選挙もすべて当事者達はわだかまりをなくして仲良くなってる優しい世界です

195: 2015/12/06(日) 16:50:43.46 ID:D2OFxShAO
八幡(机を並べて座っているのは戸部と三浦と海老名さんだった。由比ヶ浜は雪ノ下と部室で食べているのだろう)

姫菜「いらっしゃいヒキタニ君! ささ、そっちの真ん中にどうぞ! 両手に花ってことで」

八幡「むしろ両手に薔薇だろそれは…………俺は端でいいよ」

翔「いやいや、主役はヒキタニ君だからヒキタニ君真ん中に来ないとダメっしょ」

八幡「何だよ主役って…………」

隼人「言っただろう。君に聞きたいことがあると。とりあえず座ろうじゃないか」

八幡(そう言って葉山も席に着く。空いた席が真ん中しかないため、やむなく俺はそこに座った)

八幡(しばらくは雑談で盛り上がり、俺は適当に生返事をしていた。が、少しトーンの変わった声で葉山が話し掛けてくる。どうやら本題らしい)

隼人「ヒキタニ君、小耳に挟んだんだけどイブのパレードの件は本当なのか?」

八幡「だから何で知ってんだよ…………」

優美子「あーしらは結衣に聞いた」

八幡「何であいつは俺の予定を広めてんの? 俺のプライバシーどこいったんだよ」

隼人「まあまあ。実は俺達は結衣の気持ちがわからないでもないんだよ」

196: 2015/12/06(日) 16:52:04.06 ID:D2OFxShAO
八幡(なに? 周りに言っとかないと俺がバイトドタキャンするかもしれないとか疑ってんの?)

優美子(まあ好きな男子が自分以外の誰かとパレード見に行くってなったら気になるっしょ)

姫菜(相手が女子とは限らないけどね)グフフフ

隼人「一応ヒキタニ君本人から確認しとこうと思ってね。その反応だと本当みたいだな」

八幡「まあその通りなんだけどよ…………別にお前らには関係ないだろ」

隼人「はは、直接的にはそうだね。だから好奇心も含まれていることは否定しないよ。君がそういう行動を起こすとは予想していなかったし」

八幡「そうかもな。でも悪いことじゃないだろ」

隼人「周りがとやかく言うことじゃないしね。で、好奇心で聞くんだが上手いこと行きそうなのか?」

八幡「正直こういうことは初めてだからわかんねえよ。だけどそれを言い訳にするつもりはない。向こうにとって俺の事情なんて関係ないし、いつもと違う特別な日なんだからな。俺なりにしっかり導いてやりたいと思ってる」

197: 2015/12/06(日) 16:52:55.57 ID:D2OFxShAO
八幡(交通事情がいつもと勝手が違うだろうし、俺が下手なことをしたら事故が起こったりするかもしれないからな。車だろうと人だろうとしっかり誘導しないと)

優美子(へえ…………ヒキオのやつ真面目に考えてるんだ)

姫菜(こういうとこ意外ときっちりしてるんだよねヒキタニ君て)

翔(ヒキタニ君マジかっけー! 決める時には決めるってやつか!)

隼人(ヒキタニ君…………いや、比企谷、君は本気なんだな)

198: 2015/12/06(日) 16:53:56.25 ID:D2OFxShAO
隼人「なら俺達はもう何も言わないよ。君の成功を祈ってる。陰ながら応援させてもらおう」

八幡「大袈裟なやつだな…………ちなみにお前らはパレードに行くのか?」

隼人「ああ。ここにいるメンバーと他に何人か声を掛けていてね。大勢で楽しむつもりさ」

八幡「そうか……なら先に言っておくけど、当日俺を見かけても声掛けたりすんなよ。邪魔だからな」

翔「いやいや、いくら俺達でもそんな野暮な真似はしないっしょ」

八幡(野暮の使い方間違ってね?)

優美子「ちょっと。あーしらまで空気読めないみたいな言い方やめな。あんただけだから」

翔「えー」

八幡(そんなふうにして昼休みは終わった。何でやたらめったらバイトするの応援されるんだろうな? 俺ひょっとしてそこまで駄目人間だと思われてるのか?)

218: 2015/12/07(月) 18:18:28.68 ID:LdzlfBoAO
 ~イブ直前土曜日~


八幡(さて、今日はバイトの最終説明会があるな。明日でもいいけど何があるかわからんし今日行っといた方がいいだろ)

八幡「小町、ちょっと出掛けてくるわ」

小町「え、どこ行くの?」

八幡「この前も言っただろ。イブの日の打ち合わせだよ」

小町「あ、そっか! 頑張って来てね!」

八幡「何をだよ。本番はイブなんだから今日は頑張る必要ないだろ」

小町「それでも、だよ」

八幡「なんだかよくわからんが…………まあ行ってくるわ」

小町「行ってらっしゃーい」

小町(そういえば結局お兄ちゃんの相手聞いてなかったや。帰ったら聞いてみよ)

219: 2015/12/07(月) 18:19:17.77 ID:LdzlfBoAO
八幡「会場は…………あった、ここの二階だな。さっさと説明聞いて引き上げるか」

八幡(建物に入ってまず目を引いたのは、イブの夜に働こうという人種からは程遠そうな若い女性の後ろ姿だった)

八幡(遠目でも目立つ長身ポニーテール…………ていうか)

八幡「川崎じゃねえか」

沙希「えっ!?」

八幡(川崎は俺の声を聞き、振り向いて驚愕の表情を浮かべる)

八幡「なに、お前もバイトすんの? どれで?」

沙希「え、あ、あたしは交通誘導で…………じゃなくて! 何であんたがここにいるの!?」

八幡「何でって…………同じだよ。バイトな。お前も誘導か、早く行こうぜ」

沙希「え? え? あれ?」

八幡(川崎は何やら混乱していたが、周りの目が気になるので急かしながら該当の部屋に向かう)

220: 2015/12/07(月) 18:21:44.48 ID:LdzlfBoAO
八幡(受付で名前を告げると担当者が『おっ』という顔をした。何だ?)

受付「お二人はお知り合いですか?」

八幡「ええ、クラスメイトですが」

受付「ならちょうど良かった。お二人がペアとして登録されてますので部屋内の三番窓口でご一緒に説明を受けてください」

八幡「お、川崎と一緒か、やった。よろしくな」

沙希「え? あ、う、うん」

八幡(見知らぬ他人と組むよりは全然気楽だしな…………部屋に入るとちょうど三番窓口とやらが空いたところのようだ。そのまま二人で説明を受ける)

担当者「以上です。現時点で何かわからないことはございますか?」

八幡「いえ、ないです」

沙希「大丈夫です」

八幡(最初は何やら戸惑っていた川崎だが、今は落ち着いていて話もちゃんと聞いていたようだ)

担当者「当日の九時半頃ここにいらしてください。ここで当日の服装に着替えていただきますので」

八幡「はい」

沙希「わかりました」

担当者「では説明を終わります。当日はよろしくお願いします」

八幡「お願いします」

沙希「お願いします」

八幡(二人で頭を下げて挨拶し、部屋を出る)

八幡「んじゃ帰るか、またな」

沙希「ちょ、ちょっと待って!」

八幡「あん?」

沙希「少し聞きたいことがあるんだけど…………時間ある?」

221: 2015/12/07(月) 18:22:56.40 ID:LdzlfBoAO
 ~サイゼリヤ~


八幡(特に用事もなかったので承諾し、サイゼでドリンクバーと簡単なつまむものを注文する。ガムシロップをたっぷり入れたコーヒーを入れ、俺は話を切り出した)

八幡「で、聞きたいことって何だ?」

沙希「その…………あんたイブは予定入ってるんじゃなかったの?」

八幡「入ってるぞ、バイトが。てか由比ヶ浜に聞いたんだろ?」

沙希「……………………」

八幡「?」

沙希「ごめん、ちょっと考えさせて」

八幡「? ああ、構わねえけど…………」

沙希「……………………」

沙希(…………なるほどね。たぶん『イブはパレードに行く』って感じのしか聞いてなくて勝手に色々勘違いしたまま広まったパターンか)

沙希「はあー…………」

八幡(え、なに? 俺の顔見て溜め息ついちゃうの? 俺何かやらかしたの?)

八幡「な、何だよ」

沙希「あー、なんでもない。もうだいたいわかったから」

八幡「俺にはさっぱりなんだが…………」

沙希「大丈夫、あんたが気にすることじゃないさ」

八幡「まあいいけど…………ところでお前は何でバイトの予定入れてんだ? 家族と過ごすとか言ってなかったか?」

222: 2015/12/07(月) 18:24:05.57 ID:LdzlfBoAO
沙希「あー…………イブの日はさ、保育園で有志のお泊まり会があって下の二人は両親とそれに行くの。で、大志は学校の友達とパーティーするんだって」

八幡「なるほど、それでぼっちのお前はあぶれてしまって一人でいるのも寂しいからバイト入れたわけだ」

沙希「それたぶんあんたのことでしょ…………あたしはちょっとみんなのプレゼント奮発しようと思ったら結構入り用になってね、超短期で割りの良いバイト探してたらこれを見つけたんだよ。以前みたいなことして大志とかに心配掛けられないし」

八幡「そっか。もう深夜とかはやめろよな。俺だって心配すんだからよ」

沙希「…………何であんたが心配するのさ」

八幡「え、何でって…………何となく?」

沙希「いや、聞き返されても…………でも、うん、ありがと」

八幡「お、おう」

沙希「…………」

八幡「…………」

八幡(何だこの空気)

沙希「…………ね、比企谷。クリスマスは空いてる? イブじゃなくて次の日」

八幡「え、ああ、予定はないが」

沙希「夜にうちでパーティーするんだけどさ、来ない?」

八幡「えっ?」

沙希「両親いなくて姉弟四人でやる予定だったけど…………どう?」

223: 2015/12/07(月) 18:25:30.19 ID:LdzlfBoAO
八幡「…………何で俺を誘うんだ?」

沙希「何でって…………何となく?」

八幡「さっきのお返しかよ……」

沙希「ふふ。でも社交辞令とかじゃないよ。あんたと一緒にクリスマスを祝えたらなって思う」

八幡「えっ!?」

沙希「…………////」

八幡(何でそんな顔赤いの!? 勘違いしちゃうよ?)

八幡「えっと……じゃ、お邪魔、しちゃおうかな……」

沙希「うん、歓迎するよ」

八幡「ああ」

沙希「それじゃ、ついでにさ、連絡先交換しとかない? バイトのためにもちょうどいいし」

八幡「お、おう、そうだな」

八幡(電話番号とメルアドを教え合い、電話帳に登録する)

沙希「ふふ…………」

八幡(何でそんなに嬉しそうなの? 俺じゃなかったら勘違いして告白してフられちゃうよ?)

沙希「じゃ、そろそろ出よっか」

八幡「そうだな。意外と長居してしまったし」

八幡(会計は面倒くさいので俺が一括で払い、端数を切り捨てて川崎から小銭を受け取る。別に奢ってもいいのだが川崎が頑として受け入れなかったからな)

沙希「じゃ、またね」

八幡「おう、また」

八幡(俺は少しだけ遠回りをして川崎の家の近くまで送り、帰路についた)

273: 2015/12/09(水) 21:43:33.62 ID:yfXrbTnAO
八幡「寒い…………けど」

八幡(なんか心がむず痒いな、嫌じゃないが)

八幡(普通にクリスマスパーティーに誘われるなんて初めてだし…………イブではないがそこはあまり気にするものでもないか)

八幡「川崎、良い匂いがしたな…………」

八幡(誰かが聞いていたら通報物の言葉を口にする。いや、連絡先交換したときに身体近付けてきたから……あと帰りに一緒に歩いてるときにやたら近かったし)

八幡(まったく…………俺だからいいものの、他の男だったら何かされちまうぞ。パーティーに誘うのにもぼっちで慣れてないからって緊張して顔赤くしてたし)

八幡「…………」

八幡(…………いや、ないな。ないない。あの川崎が俺なんかを、なんて)

274: 2015/12/09(水) 21:44:43.11 ID:yfXrbTnAO
八幡「たでーまー」

小町「おかえりなさーい、小町にする? 小町にする? それとも小町?」

八幡「小町しか選択肢がねえじゃねえか…………んじゃ小町で」

小町「はい、お兄ちゃん様ご案内ー」

八幡「うぜぇ……」

八幡(でも可愛いから許しちゃう。だって、千葉の兄妹だもん)

小町「ほら、こっちこっ…………」

八幡(小町が俺の手を引こうとして近付いてきたところで動きを止める。何だ?)

小町(朝にはなかった匂い…………シャンプー? 香水? ううん、大事なのは匂いがお兄ちゃんに移るほど接近した誰かがいたってこと!)

八幡「どうした小町?」

小町「あー、えっと、お兄ちゃん今日は満員電車乗ったり人混みの中を渡り歩いたりした?」

八幡「いや別に。何だ突然?」

小町(うわーうわー、微妙に疑ってたりしてたけどやっぱりいるんだ。いい人が…………うう、小町泣きそう)

小町「お兄ちゃん」

八幡「あん?」

八幡(小町はいきなり真面目な表情になって俺に顔を向ける。何だ?)

小町「小町は嬉しいよ、あのお兄ちゃんがこんなふうになるなんて…………もうゴミいちゃんなんて呼べないね。お兄ちゃんは小町の自慢のお兄ちゃんだよ」

275: 2015/12/09(水) 21:45:28.74 ID:yfXrbTnAO
八幡「お、おう?」

八幡(だからなんでバイトするだけでそこまで持ち上げてくんの? 逆にプレッシャーでバイトの日に胃痛で倒れちゃうよ?)

小町「じゃ、もうすぐご飯出来るから座って待ってて」

八幡(小町はそう言って鼻歌を歌いながらキッチンに消えていった)

八幡「ていうか…………」

八幡(なーんかここ最近周囲のやつらの態度が変なんだよな…………)

八幡(俺がバイトすることにやたら感激する小町や両親)

八幡(俺がバイトをすることにやたら衝撃を受けていた雪ノ下や由比ヶ浜や一色)

八幡(俺がバイトをすることをやたら応援してくる葉山グループのやつら)

八幡(……………………)

八幡(うん、わからん)

小町「ご飯出来たよー」

八幡「おう」

八幡(考えるのが面倒くさくなった俺はさっさと思考を放棄する。小町の愛妹料理でも食べて気分直しといこう)

276: 2015/12/09(水) 21:47:13.74 ID:yfXrbTnAO
八幡「ふう…………」

八幡(小町の料理に舌鼓を打ち、食後のお茶を小町と飲む。実に落ち着いたひとときだ)

小町(あ、そういえばお兄ちゃんに誰と会ってたのか聞かないと)

ピリリリリ

八幡「ん? メールか」

小町(あう、間の悪い…………)

八幡(お、川崎からか。どれどれ、初メールの内容は…………)

『今日はお疲れ様。あんたしっかりしてるように見えて結構隙だらけだからバイト中は気を付けなよ。ぼーっとしてあたしに隙を見せたら一撃入れちゃうからね(笑)。まだ早いけどイブの日はよろしく』

八幡(こいつメールだとよく喋るな。口下手な方なのに…………ていうか)

八幡「隙隙うるせえな、わかってんだよそんなもん」

小町(!! え? え? 好き好き? そんでお兄ちゃんはそれをわかってる!?)

八幡(交通事故経験者だしな俺は。対人関係には注意を払っていてもそういうのにそこまで気を回してねえのは認める。ま、川崎も心配して言ってくれてんだよな)ポチポチ

277: 2015/12/09(水) 21:50:02.35 ID:yfXrbTnAO
小町「お、お兄ちゃん、何て返事してるの?」

八幡(え? おいおいメール覗き見したのか? お行儀悪いゾっ)

八幡「ああ。ありがとう、イブの日はよろしく。『隙』はあまり見せないようにするから、みたいなのを」

小町「何でよ!? イブだからこそ『好き』を見せないと!」

八幡「いやいや、危ないだろ。(車に)轢かれたりしたらどうすんだよ?」

小町「いいじゃない! (心が)惹かれるなんてイブにはよくあることでしょ!」

八幡「そりゃそうだけどよ…………」

八幡(普段と違って浮かれてるやつも多いし……だから俺らみたいな交通誘導の仕事が必要になってくるわけだが)

八幡「でもだからって俺がそうなる必要はないだろ。過去のアレ(入学式の日の事故)みたいなのはもう御免だからな」

小町「お兄ちゃん、まだアレ(中学の時のトラウマ)を引きずってたんだ…………」

八幡「引きずってるっつうか、そりゃ気にするだろ。もう二度とあんな思いはしたくない」

小町「……じゃあ何で今回はそんなことしてるの?」

小町(女の子とパレードに行くなんて…………)

八幡「え、何でって…………あんまり深い理由はないが」

八幡(バイトするのなんて、ただ誰もいない家にぼっちで過ごすのが嫌だったってだけだし)

278: 2015/12/09(水) 21:51:05.65 ID:yfXrbTnAO
小町(え、なに!? お兄ちゃんは自分を好きって言ってくれる女子を何となくでパレードに誘って、なのにお兄ちゃんは相手をどうとも思ってないってこと!?)

八幡「小町?」

小町「ゴミいちゃんのお兄ちゃん! 最低! もう知らない!」ダッ

八幡「お、おい小町!? なんだ突然! …………行っちまった」

八幡(何なんだ? 車に轢かれろ、みたいなことを言われたかと思ったら罵倒されたぞ…………しかもゴミいちゃんのお兄ちゃんて、普通逆じゃね?)

小町(お兄ちゃんの馬鹿! こうなったら雪乃さんと結衣さんに情報をリークしてやる!)

341: 2015/12/12(土) 17:36:48.70 ID:R8iru9wAO
八幡(さて、期末テストの結果が発表されてやはり国語は三位に甘んじてしまったわけだが…………どうしても雪ノ下と葉山の壁を超えられない)

八幡(別に二人だって満点を取っているわけじゃないんだからチャンスはあるはずなんだが)チラ

雪乃「…………」

八幡(そういやなんか雪ノ下の元気がねえ気がするな。覇気がないっつーか意気消沈してるっつーか)

結衣「…………」

八幡(こっちはあからさまだ。ちょっと前のうるさいくらいのあれはどうした? 静かなのはいいけど暗いのは勘弁してほしい)

八幡(仕方ない、たまには俺から話題を振ってやるか)

八幡「そういえばお前らはイブはどうすんだ? パレード行くのか?」

雪乃「………………」

結衣「………………」

八幡(あ、あれ? 空気がより重くなったような)

結衣「うん……いろはちゃんも合わせて三人でパレード見て、そのあとはゆきのんの家でお泊まりパーティーするつもり…………」

八幡「いいじゃねえか楽しそうで。何でそんなに落ち込んでんだよ?」

雪乃「はあ…………もういいわ。由比ヶ浜さん、比企谷君なんかほっといて思いっきり楽しみましょう」

八幡(ほっといてって…………いつも放置気味にされてるんですがそれは)

342: 2015/12/12(土) 17:38:58.35 ID:R8iru9wAO
結衣「そうだね……もうヒッキーなんか気にしないで楽しんじゃうから!」

八幡「いつも空気みたいな扱いで気にされてないだろ俺は…………というか何で一色が一緒なんだ? あいつだって同級生の友達はいるだろうに」

八幡(わざわざ気を使う先輩二人となんて俺は御免だぞ)

結衣「あー…………それはちょっとヒッキーには言えないっていうか、慰め会みたいなとこもあるし……」

八幡「そ、そうか」

八幡(なるほど。きっと一色に何かツラいことがあったんだな。それで同年代には言いづらいから雪ノ下や由比ヶ浜を頼ったのか…………なら俺は深く関わらない方がいいだろう)

八幡(一瞬でそこまで察する俺マジ国語第三位。伊達に作者の気持ち力高くないな。第一位が目の前にいるんじゃ自慢にもならないけど)

八幡「ま、お前らはお前らで楽しんでこい。あとパレード中に俺を見かけても話し掛けたりするなよ。邪魔になるから」

結衣「…………うん」

八幡(俺の担当場所少し離れてるから平気だとは思うが一応な)

雪乃(邪魔、ってはっきり言われてしまったわね…………)

結衣(はあ……今更相手を知ったところでどうしようもないしなあ)

379: 2015/12/13(日) 20:30:11.37 ID:7teSsNqAO
八幡(さて、終業式も恙なく終わり、イブの日である)

八幡(ところで恙なく、の語源が恙虫という説があるのを知っていても恙虫そのものを知らない人って結構いるよね)

八幡(そんなどうでもいいことを寝起きで考えながら俺はベッドから降りた)

八幡「十二時前か…………飯食って準備して出掛けたらちょうどいいくらいかな」

八幡(リビングに入るが誰もいない。すでに全員出掛けているようだ)

八幡「あ、そういや明日川崎んち行くって伝えてなかったな…………ま、今日帰って小町に言えばいいか」

八幡(俺はトーストをかじり、朝飯兼昼飯を終えて家を出る)

380: 2015/12/13(日) 20:31:15.51 ID:7teSsNqAO
八幡(集合場所に向かう途中、見知った後ろ姿を見掛けた。最近何かと縁のある川崎だ)

八幡(普段の俺なら話し掛けたりはしないのだが、今日は一緒に仕事をするんだ。たまにはいいだろう)

八幡「よう、川崎。今日はよろしくな」

沙希「あ、比企谷。うん、よろしく」

八幡(…………やべ。女子に声を掛けて普通に応対してくれるのがやけに新鮮だ。まあ声を掛けること自体がほとんどないんだけど)

八幡「今日は晴れてるしそこそこ暖かいな。ホワイトクリスマスってわけにはいかないようだ」

沙希「でも夜は冷え込むって言ってたよ。あんた少し薄着じゃない?」

八幡「一応カイロくらいは用意してるけどな。ま、仕事終わったら帰るだけだし問題はねえよ」

沙希「そう?」

八幡(ちょっと大きめのカバンを持っていたのが気になったが、女子には色々あるのだろう。そこには言及せず、雑談をしながら川崎と並んで歩く)

381: 2015/12/13(日) 20:32:24.51 ID:7teSsNqAO
八幡「ふむ…………こんなもんか」

八幡(俺は更衣室で渡された服に着替え、用意されていた姿見でチェックする)

八幡「サイズも問題なし、と。しかし一応はクリスマス仕様なんだな」

八幡(交通誘導員としては目立つ方がいいため作業着は赤なのだが、それのついでかサンタクロースをイメージして作られているようだ)

八幡(更衣室を出たところで係員に必要な道具を渡される。無線機に腕章に交通誘導棒やホイッスル、あと帽子を渡された。もう完全にサンタ帽子だなこれ)

沙希「ごめん、待った?」

八幡「いや、俺も今来たとこだから」

八幡(入り口で川崎と合流する。川崎もサンタ衣装風作業着なのだが、分厚い生地にもかかわらずその母性の象徴が全然隠せてない。ホントスタイルいいなこいつ…………)

八幡「んじゃ行こうぜ。お前の分の道具も預かってるからあっち着いたら渡すよ」

沙希「うん、ありがと。行こ」

八幡(俺達は担当場所に向かって歩き出した)

382: 2015/12/13(日) 20:33:11.30 ID:7teSsNqAO
八幡(時間少し前に着くと、警備会社の人達が段取りをしていた。俺達を見付け、もう一度打ち合わせを行う)

八幡(無線機の使い方を改めて確認し、わからないことがあったら連絡するように言ってその場を離れていき、俺と川崎が残される)

八幡「んじゃもう看板立てとくか」

沙希「そうだね。まだ人が少ないうちにやっちゃお」

八幡(道路端に用意されていた看板を十字路の一角に立てる。ここは普段は一方通行なのだが、パレードが行われる道への近道になるので今日は車両通行止めになるのだ。歩行者は通していいが、自転車は降りるように促す役割もある)

八幡「そういや道案内も兼ねるとか言ってたな。パレード関係なら説明受けたからいいけど、店とか聞かれてもわからんぞ」

沙希「そういうのなら今どきは携帯やスマホで調べたりするから平気でしょ。いざとなったらあたし達が調べてもいいんだし」

八幡(『誘導員』と書かれた腕章を付けながらそんな会話をする。ま、ここは裏道だからあまりそういう心配はしなくてもいいか)

383: 2015/12/13(日) 20:34:12.11 ID:7teSsNqAO
「すいません、本日こちらの道は通行止めになってます。迂回お願いしまーす!」
「はい、こちら真っ直ぐ歩いていただければ大通りに出られます」
「あ、自転車のかた、こちらの道は降りてのご通行お願いします」
「駐車場? この辺りは少ないですよ。駅の反対側に行かれることをお薦めします」



八幡「なんか意外と人多いな…………もう疲れてきたわ」

沙希「だね。看板だけで対処できるかと思ったけどそうでもないし…………でもここは楽な方なんだよね確か」

八幡「バイトに任せるくらいだからそうなんだろうな…………二人組でなきゃツラいし……本当に相方がお前で良かったわ」

沙希「まったく知らない人とだったら軽口も言えないしね。あたしもあんたとで良かったよ」

八幡「ま、パレードが始まったらむしろここは楽になるだろ。辛抱しようぜ」

沙希「ん。そうだね」

八幡(俺達は時折交代で休憩を挟みながら仕事をこなしていく。そろそろ暗くなってきたな。五時前くらいといったところか…………)

403: 2015/12/14(月) 20:59:38.83 ID:dMbFDHfAO
沙希「ふう、もう一踏ん張りってとこかな」

八幡「そうだな。今は楽だけど、もうすぐパレード終わるからまた大変になるが」

沙希「本場みたいに深夜までやらないんだね」

八幡「地域全体で盛り上げててもやっぱり公道を使ってるわけだからな、兼ね合いがあるんだろ」

沙希「そういえばあんたはパレード見に行こうとかは思わなかったの?」

八幡「あんま興味ないしな。混んでるとこも好きじゃねえし」

沙希「誰かに誘われたりしたら行った?」

八幡「相手に寄るかな…………俺を誘うやつなんか小町くらいしかいないけど」

沙希「…………じゃあ、あたしが誘ったら一緒に来てくれた?」

八幡「え…………」

沙希「…………」

八幡「…………」

八幡(な、なんだこれ。この空気、まるで…………)

ピーッピーッ

八幡「! は、はい、もしもし」

『パレードが終了した。そちらにも人が流れていくと思うから注意しておいてくれ』

八幡「了解しました」

八幡(無線機からの連絡に応対し、通信を切る)

沙希「来たよ」

八幡(川崎の目線を追うと看板の向こう側から何人かのグループがいくつか歩いてくるのが見える。んじゃ頑張りますかね)

404: 2015/12/14(月) 21:01:52.84 ID:dMbFDHfAO
受付「お疲れ様でした。金額に間違いがなければこちらの受領書にサインをお願いします」

八幡(仕事を終えて再び更衣室で着替えた俺は給料を受け取り、確認してサインをする)

受付「はい、ありがとうございます。あとこちらをどうぞ。お友達などにプレゼントしてあげてください」

八幡(いや、俺友達いないんで。なんて言葉を飲み込みつつ差し出されたものを受け取る。小さなビニール袋が五つ、ストラップだ)

八幡「どうもありがとうございます。お世話になりました」

受付「はい。また何かありましたらよろしくお願いします」

八幡(軽く頭を下げて俺はその場を離れる。入り口で待っていると川崎がやってきた)

沙希「あれ、どうしたの? こんなとこで」

八幡「ああ。その、迷惑じゃなければ、送って行こうかと」

沙希「え、あ、あたしを?」

八幡「もう、夜も遅いし、俺みたいなのでも女一人よりは安全かなって…………いや、迷惑だったり余計なお世話だったりしたら全然断ってくれて構わないから」

沙希「ううん、迷惑なんかじゃないよ。お願いしてもいい?」

八幡「おう。行こうぜ」

406: 2015/12/14(月) 21:04:01.83 ID:dMbFDHfAO
八幡(さっきまで着ていた作業着は防寒もしっかりしていたようで、私服で外に出ると思わず寒さで身をすくめてしまう)

沙希「ほらもう、やっぱり寒いんじゃない」

八幡「いいんだよ、懐は暖かいから」

沙希「何それ? そりゃバイト代入った直後だけどさ…………ちょっといい?」

八幡(川崎は通行人の邪魔にならないよう道の端に寄り、俺もあとに続く)

八幡(しばらくカバンを漁っていたかと思うと、何かを取り出して俺に差し出してきた)

沙希「はいこれ。クリスマスプレゼント」

八幡「…………え?」

沙希「巻いてあげるよ。動かないでね」

八幡「え? え?」

八幡(川崎は混乱している俺に近寄り、取り出したマフラーを俺の首に巻いていく。あ、また良い匂いが…………じゃなくて!)

八幡「か、川崎……」

沙希「ほら動かないで。終わるまで待ちなって」

八幡「あ、ああ」

八幡(な、なんだこれ? どうなってんの?)

沙希「ん、よし。うん、似合ってる。我ながら良い出来かな?」

八幡「えっ? これ川崎が編んだのか?」

沙希「うん。あんたのために編んだよ。渡すのは明日でもいいかなと思ってたけど…………貰ってくれると嬉しいな」

407: 2015/12/14(月) 21:05:15.07 ID:dMbFDHfAO
八幡「…………マ、マジで俺にくれるの?」

沙希「そうだってば」

八幡「えっと、その、今日のバイト代を渡せばいいのか?」

沙希「あたしを何だと思ってんのさ…………見返りなんか求めてないって」

八幡「………………」

八幡(ようやく実感が湧いてきて、首元と一緒に胸の内がじんわりと暖かくなってきた。俺はそっと慈しむようにマフラーに触れる)

八幡「川崎」

沙希「……何?」

八幡「ありがとな。すっげえ嬉しい」ニコッ

沙希「う、うん。そこまでストレートに喜んでくれるならあたしも嬉しいかな」

沙希(な、何今の? いつもの自虐的なのや苦笑いじゃなくて、本当に嬉しそうな笑顔…………一瞬だけど、目元がキリッとして、唇の端がふわっと柔らかく上がって…………)ドキドキ

八幡「あー、でもやっぱり貰いっぱなしってのもな…………えっと、何か欲しいものとかしてほしいこととかないか? 本当は本人に聞くことじゃないんだろうけど、俺こういう経験ないからさ」

沙希「………………じゃあ、変なお願いしてもいい?」

八幡「おう、遠慮すんな。俺に出来ることなら何でもするぜ」

408: 2015/12/14(月) 21:06:00.16 ID:dMbFDHfAO
沙希「実はあたし、少し寒がりでさ」

八幡「? おう」

沙希「と、特に、手、寒いから…………」スッ

八幡「!!」

八幡(か、片手差し出してきた。これって、そういうことで、いいのか?)

八幡(俺は恐る恐るといった感じでその手を握る)

沙希「ん…………」

八幡(そんな色っぽい声出さないでください川崎さん! そして手が柔らけえぇ!)

八幡「い、行くか」

沙希「うん……」

八幡(俺達は手を繋いだまま歩き出す。とても雑談とかするような気にはなれない。だけど…………)

八幡「…………」

沙希「…………」

八幡(気まずい雰囲気はなく、ちょっとくすぐったいような空気だ。そしてそれがちっとも不快ではない)

八幡(川崎の家に着くまで俺達はずっとそんな状態だった)

409: 2015/12/14(月) 21:06:58.45 ID:dMbFDHfAO
八幡「えっと、じゃあ、また明日な」

沙希「うん。さっきも言ったけど夕方五時くらいに来てくれればいいから」

八幡「それなんだけどさ、せっかく招待してくれるんだったら俺も弟達に何かプレゼントしたいんだが…………何が良い?」

沙希「え、いいってそんなの。そういうつもりで招待したわけじゃないんだから」

八幡「俺がそうしたいんだよ。頼むからそうさせてくれ」

沙希「あ、頭下げないでよ……わかったからさ」

八幡(しばらく川崎と相談し、みんなにプレゼントするものを決める)

八幡「じゃ、今度こそまた明日。マフラー、ありがとな」

沙希「うん。あたしも送ってくれてありがとね。また明日」

八幡(少し名残惜しくなりながら繋いでいた手を離し、手を振って川崎と別れる)

410: 2015/12/14(月) 21:07:41.27 ID:dMbFDHfAO
八幡「うう、寒…………」

八幡(途端に寒さを感じ始め、俺はポケットに手を突っ込んだ)

八幡「あ……」

八幡(そこにカサリとした感触。さっき貰ったストラップだ)

八幡「…………らしくないけど、幸せのお裾分けでもしてみるか」

八幡(俺はスマホを取り出して由比ヶ浜にメールをする)

『今三人か? どこにいる?』

『うん、三人。パレードも見終わってごはん食べて、今ゆきのんの家に向かってる途中だよ。どしたの?(?_?)』

八幡(返信早いな…………ま、好都合か)

『今からちょっとだけ会えないか? お前らに渡したいものがあるんだが』

八幡(そう送ると雪ノ下のマンションの入口で待ってると返事が来た。ここからそう遠くないし十分もかからんだろ)

411: 2015/12/14(月) 21:08:45.09 ID:dMbFDHfAO
いろは「あ、先輩! こっちですこっち!」

八幡(俺を見つけた一色がぶんぶんと手を振る。わかってるからやめてくれませんかね。通行人に見られてます)

八幡「よう、待たせて悪かったな」

結衣「ううん平気!」

雪乃「それで、突然どうしたのかしら? 渡したいものがあるとか聞いたのだけれど」

八幡「ああ。つまんねえもんだけどさ、一応普段のお礼も兼ねてってことで。メリークリスマスだ」

八幡(俺はそう言って三人にストラップを差し出す)

雪乃・結衣・いろは「「「え…………?」」」

八幡(三人は絶句して動かない。えーっと…………)

八幡「その、いらなきゃいらないでいいけどさ、せっかくだから受け取る素振りだけでもしてくれると嬉しいんだが」

いろは「ど、どうしたんですか突然!?」

結衣「な、なんでなんで!?」

雪乃「雪でも降るのかしら…………」

八幡(ひどい言われようである。と思ったが普段の俺を知ってるならさもありなんといったところだな)

八幡「あー……すまんな変なことして。悪かったよ」

八幡(俺はストラップを引っ込め、ポケットに戻そうとする。が、その前に一色に腕を掴まれた)

412: 2015/12/14(月) 21:09:53.12 ID:dMbFDHfAO
いろは「待った待った! いらないなんて言ってないじゃないですか!」

八幡「だったら早く受け取れよ。腕上げさせたまんまにすんな」

八幡(三人はそっと俺の手からストラップを取った。別に変なイタズラとか仕掛けてないから!)

雪乃「! こ、これは!」

八幡(雪ノ下の顔が驚愕の表情になる。あ、そういや雪ノ下はパンさんが好きだったな)

雪乃「きょ、去年のクリスマスにディスティニィーランドで限定販売された超レア物のパンさんサンタ衣装ストラップ! どうして比企谷君がこれを!?」

八幡「あ、そんな珍しいもんなのそれ?」

雪乃「ファンにとっても垂涎の代物よ。ネットオークションでも最低十倍以上の値段がつくほどで、それすら安いと言われているわ」

八幡「詳しいなお前…………あ、もしかしてもう持ってる?」

雪乃「い、いえ、出回ることすらほとんどなくて…………」

八幡「んじゃちょうど良かったか。俺からってのは気に入らないかもしれねえけど物はおんなじだし構わねえだろ?」

いろは「ま、待ってください! そんな凄いものポンと受け取れませんよ!」

結衣「そうだよ! だいたい何であたし達に……」

413: 2015/12/14(月) 21:12:16.07 ID:dMbFDHfAO
八幡「何でって…………クリスマスプレゼントって言ったろ。俺からってのが嫌ならサンタさんからの贈り物ってことにしとけ。それにこう言っちゃなんだけど、それ貰い物だからよ」

雪乃「貰い物? こんなのをあっさりくれる人がいるの?」

八幡「個人じゃねえよ。バイト先な。バイト代のついでにくれたんだ」

雪乃・結衣・いろは「「「…………………バイト?」」」

八幡「だから今日のバイトだよ。小町に聞いたんだろ?」

雪乃・結衣・いろは「「「……………………」」」

八幡「?」

雪乃「ちょっとごめんなさい比企谷君、少し三人で話し合うから待っててくれないかしら?」

八幡「何をだよ。俺の用事は済んだから帰りたいんだが」

結衣「あ、あれ? えっと…………」

いろは「せ、先輩、確認しますね。先輩は今日パレードに行ったんですよね?」

八幡「正確にはパレードの交通誘導のバイトな」

雪乃・結衣・いろは「「「…………………………」」」

八幡「だから何なんだよその沈黙は」

雪乃「いえ、何かとんでもないすれ違いがあったみたいで…………」

八幡「?」

雪乃「その、今私達も混乱しているわ…………後日比企谷君と話し合いをしたいのだけれど」

八幡「何だかよくわからんが…………まあ暇な時なら構わねえぞ」

雪乃「え、ええ、それとストラップありがとう。すごく嬉しいわ」

結衣「あ、そうだ。ありがとうヒッキー!」

いろは「ありがとうございます先輩!」

八幡「おう。んじゃまたな」

八幡(俺はまだ動揺、というか混乱している三人に手を振り、帰路についた)

444: 2015/12/15(火) 22:14:46.72 ID:s+J0D6eAO
八幡「ただいま、っと」

小町「あ…………お帰りお兄ちゃん」

八幡(帰宅してリビングに入ると何やら小町がそわそわしていた。何だ?)

小町「ちょ、ちょっと聞きたいんだけど、お兄ちゃん、アルバイトに行ってた、んだよね?」

八幡「何でそんな恐る恐る聞くんだよ…………そうだぞ、パレード時の交通誘導のバイトな。知ってるんだろ?」

小町「え、えっと、あはは…………」

八幡(小町は何かをごまかすように笑う。何なんだよいったい)

小町(はあ…………さっき雪乃さんからかかってきた電話で聞いた通りか…………どこでどう勘違いしちゃってたんだろ?)

八幡「ああ、小町、これやるよ。バイト先でもらったんだ。雪ノ下曰く、レア物らしいぞ」

小町「わ、可愛いパンさん! って、それなら雪乃さんにあげた方がいいんじゃない?」

八幡「あいつにはもうやったよ。全部で五個貰ったしな。いらなかったら売っ払っちまえばちょっとした小遣いになるぞ」

小町「売らないよ! その、ありがとうお兄ちゃん」

八幡「ま、貰い物で悪いけどな」

小町「ううん、大事にするから」

445: 2015/12/15(火) 22:15:44.84 ID:s+J0D6eAO
小町(でも、うーん。余計なことしなければもっと早くなんとかなったのかなあ? 上手く行けばお兄ちゃんと雪乃さん達でパーティーさせて急接近とか…………あれ?)

小町「お兄ちゃん、そんなマフラー持ってたっけ? いつ買ったの?」

八幡「あー…………」

小町「ん? んんー……? よく見たらそれ、市販のじゃないよね、手編みって感じがする」

八幡「何でわかるんだよ…………」

小町「え、ほ、本当に? 誰に貰ったの? 雪乃さん? 結衣さん?」

八幡「…………川崎」

小町「えっ?」

八幡「川崎だよ。大志の姉の川崎沙希だ」

小町「…………」

八幡(小町がしばらく沈黙する。と思ったらいきなり俺の腕を掴んで椅子に座らされた)

小町「さあ、容疑者お兄ちゃんさん。洗いざらい吐くのです」

八幡「何をだよ、悪いことはしてないぞ。そりゃワンダの朝専用コーヒーを午後に飲むくらいはしてるが」

小町「そんなの小町だって午後の紅茶を午前中に飲んでるよ! そうじゃなくて沙希さんのこと!」

八幡「川崎がどうかしたのか?」

小町「どうしてお兄ちゃんにマフラーを渡すのに至ったのかってことだよ!」

446: 2015/12/15(火) 22:16:20.73 ID:s+J0D6eAO
八幡「どうしてって…………プレゼントって言って渡されたんだが」

小町「ああもう! そうじゃなくて! どうして今日沙希さんと会ってたの!?」

八幡「ああ、そっからか。いや、あいつも同じバイトを申し込んでてさ、説明会の時にたまたま会ってな。んで俺達が二人組にされて仕事してたんだ」

小町「あ、それは偶然なんだ」

八幡「そんで仕事のあとに川崎を送っていこうと思ったんだけど」

小町「え、お兄ちゃんが? 珍しい! でもポイント高い!」

八幡「茶々入れるなよ……少し俺が寒そうにしてたらちょうど良かったって言って渡してくれたんだ」

小町「へえー…………」

小町(これは意外な伏兵だね。まさか沙希さんとは。このままお兄ちゃん争奪戦に絡んでくるかな?)

八幡「あ、そうそう。明日の夜なんだが、俺川崎んちにクリスマスパーティーで呼ばれてるからそっち行ってくる。親父達の相手は小町に任せるわ。毎年のことだけど」

小町「えっ!? 沙希さんとこ行くの?」

八幡「ああ。ついでに川崎の弟達にもプレゼント買っていくから昼過ぎには出掛けるわ」

小町「義弟達にもかぁ……」

八幡「今なんかニュアンスおかしくなかったか?」

447: 2015/12/15(火) 22:17:00.41 ID:s+J0D6eAO
小町(というかもう争奪戦に参加するどころか雪乃さん達をごぼう抜きしてるような…………でも、うん、邪魔はしないでおこう)

小町「うん、わかった。お父さん達は夕方に帰ってくるらしいけど、小町から言っとく。お兄ちゃんはお兄ちゃんで楽しんできなよ」

八幡「人様の家にパーティーで呼ばれるなんて緊張するけどな…………んじゃ風呂入ってさっさと寝るか」

小町「うん。もう沸いてるよ…………あれ、お仕事してたならごはんは?」

八幡「ああ、休憩中に食ったから平気だ」

小町「りょーかい」

八幡(その後、俺は風呂に入り、歯を磨いてベッドに潜り込む)

八幡(ちら、と向けた視線の先にはハンガーにかけた川崎から貰ったマフラーがある)

八幡(今日一日にあった川崎との色んな会話。それらを頭の中で反芻しながら俺は眠りについた)

478: 2015/12/16(水) 20:39:29.43 ID:+7agQ8QAO
 ~二十五日・昼過ぎ~


八幡「んじゃそろそろ出掛けるかな」

小町「あれ、早くない? ってそっか。プレゼント買っていくんだっけ」

八幡「ああ。このシーズンだったら最初の店で買えるとは限らないからな。いくつか店を廻るつもりだ」

小町「そういう気配りはできるのにどうしてお兄ちゃんはぼっちなんだろ……?」

八幡「自分で言うのもなんだが、普段はそんな気配りしてないからだろ」

小町「じゃあ何で今回は……あ、もしかして沙希さんに惚れちゃったとか? それでポイント稼ごうとか。なーんて…………」

八幡「………………」

小町「…………え、お兄ちゃん? まさか」

八幡「いや、そんなんじゃねえよ。行ってくるわ」

小町「あ、うん。行ってらっしゃい」

小町(お兄ちゃんのあの表情、何でだろって感じだった。たぶん自分でもよくわかってないってことなんだろうな…………)

小町(でもさっきの昨日沙希さんから貰ったマフラーを捲いたときの顔、答えは出てるようなもんだよね)

小町(最終的に決めるのはお兄ちゃん自身だけど、できれば後悔しない道を選択してほしいな…………)

479: 2015/12/16(水) 20:40:26.09 ID:+7agQ8QAO
 ~二十五日・午後九時・川崎家~


大志「二人ともぐっすり寝てるよ」

八幡(小さい二人の様子を見てきた大志が戻ってきた。ちょうど洗い物を終えた川崎も居間にやってくる)

沙希「ん、ありがと。今お茶淹れるから」

八幡(川崎はポットから急須にお湯を注ぎ、湯呑みにお茶を入れて俺達の前に差し出す)

八幡「サンキュー」

大志「ありがと姉ちゃん…………でもあいつら二人ともお兄さんにべったりだったっすね」

沙希「最初はちょっと怖がってたけどね」

八幡「そりゃこんなツラしてりゃな。まあお前らが普通に接してきたから危険はないと判断したんだろ」

沙希「プレゼントも効いたんじゃない? すごく喜んでたし」

大志「二人とも枕元に置いて寝てたっす。よっぽど嬉しかったんすね」

八幡(弟には流行りのヒーローものの変身セット。妹にはぬいぐるみをプレゼントしてやったのだ。おかげでメシ時も引っ付かれてしまった…………まあ子供に懐かれるのは悪い気しなかったけど)

大志「お兄さんが来てくれたのはびっくりしましたけど、おかげで楽しいパーティーになったっすね。ありがとうございます」ペコ

480: 2015/12/16(水) 20:41:21.61 ID:+7agQ8QAO
八幡「そんなことで頭下げるなって。俺だって楽しんだんだからおあいこだ」

大志「いや、それでもっすよ。わざわざ来てもらったんすから」

八幡「そんなことされたら今からのがやりにくくなるだろうが…………」

大志「え?」

八幡(大志が怪訝な表情をする。俺は鞄から包装されたものを取り出した)

八幡「ほら、クリスマスプレゼントだ。メリークリスマス」

大志「…………え?」

八幡(大志に差し出すと、大志はポカンとした顔になった。川崎も少し驚いている)

大志「お、俺にっすか!?」

八幡「そうだ。早く受け取れよ」

大志「あ、ありがとうございます! 開けていいっすか?」

八幡「好きにしろ。大したものでもないが」

大志「…………あ、財布。ちょっと大人っぽくてかっこいい」

八幡「お前も来年は高校生だしそのくらいのは持ってていいだろ」

大志「ありがとうございます! 大事に使わせてもらうっす!」

沙希「よかったね大志。ありがとう比企谷」

八幡「そんな高いものでもないしな。下の子達にあげて上にはやらないってのも変な話だし…………で、これが川崎の分な」

沙希「えっ!?」

481: 2015/12/16(水) 20:42:00.17 ID:+7agQ8QAO
八幡(俺が包みを差し出すと川崎が驚愕の表情になる)

沙希「な、何で!? 何で!?」

八幡「何でって、別におかしくないだろ。今言ったように他のやつらにはやってるんだからお前にもだよ。そもそも最初にくれたのは川崎の方からじゃないか」

沙希「あ、えっと…………ありがとう。開けていい?」

八幡「ああ、気に入らなきゃ捨てたっていいから」

沙希「しないよそんなこと……あ、エプロン」

沙希(しかもこれ安物なんかじゃない。生地もしっかりしてるしかなり良いものだ…………)

八幡「お前が家事してるんならエプロンは消耗品に近くなるだろ? よかったら使ってくれ」

沙希「うん。ありがとう…………」

大志「良かったね姉ちゃん。お兄さん、これはあれすか? 将来は自分の身の回りもこれ着けて世話してほしいとかそういう…………」

八幡「なっ!?」

沙希「た、大志っ!!」

大志「うおっと。怒られる前に退散するっすよ」タタッ

沙希「あ、こら…………もう」

八幡(川崎は浮かした腰を下ろして溜め息をつく。顔が真っ赤なのは気のせいということにしたい)

499: 2015/12/17(木) 23:41:20.79 ID:erWpMbAAO
沙希「ごめん、大志が変なこと言っちゃって…………」

八幡「あ、いや、別に…………」

沙希「…………」

八幡「…………」

沙希「…………ねえ」

八幡「お、おう。何だ?」

沙希「その、下の子達もあんたのこと気に入ってるみたいだしさ、よかったらまた遊びにきてやってくれないかな?」

八幡「あ、ああ、俺なんかでよければ…………」

沙希「うん」

八幡「………………下の子達『も』?」

沙希「え…………あっ」

八幡「!」

八幡(自意識過剰かと思ったけどどうして何も言わず俯くんですか川崎さん!)

八幡「…………」

沙希「…………」チラ、サッ

八幡(チラ見して目があったら咄嗟にそむけるとか少女漫画かよ!?)

沙希「…………////」

八幡「そ、そろそろ帰るわ。もう夜も遅いし」

沙希「え、あ、うん。わかった」

500: 2015/12/17(木) 23:42:27.25 ID:erWpMbAAO
八幡(玄関で靴を履いていると声を掛けられる)

沙希「今日は本当にありがとうね。来てくれたことも、プレゼントも」

八幡「いや、こっちこそ誘ってくれてサンキューな。たぶん今までで一番楽しいクリスマスだったわ」

沙希「そんな大袈裟な…………でも、うん。そう言ってくれるなら誘った甲斐があったかな」

八幡「あとこれも」

八幡(俺は立ち上がって振り向き、首のマフラーに触れる)

沙希「あ…………」

八幡「どんなブランドものとかよりも嬉しい。大事に使わせてもらうぜ」

沙希「うん…………その、それが古くなったり解れたりしたら言って。また編んであげるから」

八幡「マジで? じゃあそん時はよろしく頼むわ。もう寒いときはお前のマフラー無しじゃ外に出れそうにねえから」

沙希「ふふ、何それ…………あ、比企谷、頭にクラッカーの紙屑ついてる」

八幡「え、どこだ?」パッパッ

沙希「取ってあげるよ、動かないで」

八幡(川崎が寄ってきて俺の頭から紙屑をひょいとつまみ上げる…………って、近い近い! 川崎の顔が目の前に!)

沙希「…………」

八幡(もう紙屑は取れたんだろ。何で離れないの!? いや、俺もだけど!?)

501: 2015/12/17(木) 23:43:11.98 ID:erWpMbAAO
八幡(目を逸らすことも離れることも出来ず、川崎と見つめ合う)

八幡(川崎って睫毛長いな。なぜか少し潤んでる瞳も綺麗で…………ヤ、ヤバい、吸い込まれそう…………)

??「ただいまー、ごめんね遅くなっちゃって」ガチャ

八幡・沙希「!!?」バッ

八幡(突然ドアが開き、俺達は弾かれたように身体を離す)

??「って、あら?」

八幡(俺を見て訝しげな表情をする壮年の女性。おそらく川崎の母親だろう)

沙希「お、お帰り母さん。こっちはクラスメイトの比企谷」

八幡「ど、どうも、比企谷です。いつも川崎…………沙希さんにはお世話になってます」

川崎母「まあ、ご丁寧にどうも。沙希の母です」

八幡(お互いに頭を下げあったあと、川崎の母親は俺をじろじろと眺める)

川崎母「ふむ…………」

八幡「あ、あの、何か?」

川崎母「ごめんなさい沙希、あと三十分くらい出掛けてくるわ。いいところを邪魔しちゃって悪かったわね」

八幡「なっ!」

沙希「ち、違う、そんなんじゃないから!」

八幡(その騒ぎを聞きつけたのか大志がやってきた)

大志「あ、母ちゃんお帰り。あれ、お兄さん帰るんすか? 泊まってってもいいのに」

502: 2015/12/17(木) 23:44:06.36 ID:erWpMbAAO
八幡「な、何言ってんだ!?」

沙希「からかうんじゃないよ大志!」

大志「別に冗談のつもりはないんすけどね…………あれ、お兄さんのそのマフラー、姉ちゃんが編んでたやつじゃないっすか。姉ちゃん、ちゃんと受け取ってもらえてよかったじゃん」

川崎母「あらあらまあまあ」

沙希「ああう…………ひ、比企谷! もう帰るんでしょ! ほら!」

八幡「お、おう。えっと、お邪魔しました」

八幡(この状況に耐えきれなくなったか、川崎は俺の背中をぐいぐいと押して追いやる。俺は慌てて川崎の母親に挨拶をした)

沙希「はあ…………ごめんね、母さんと大志が」

八幡「いや、別に…………それよりお前まで出て来なくてよかったのに。寒いだろ、早く家の中に入れよ」

沙希「うん。でも、その…………」

八幡「…………川崎、先に言っておくことがある」

沙希「え、な、何?」

八幡「玄関のドア、少し開いてる。誰か様子窺ってんぞ」

八幡(川崎がバッと振り向くと同時にそのドアが閉まる。その向こうでドタバタと音がした。逃げていったようだ)

沙希「まったく…………」

八幡「はは、いい家族じゃねえか…………じゃ、川崎、また明日な。確か予備校の講義一緒だったろ?」

沙希「あ、そうだったね。午後一からのやつか…………うん、また明日」

八幡「おう。んじゃな」

沙希「またね」

八幡(俺達は手を振り合ってその場を別れた。うん…………いいクリスマスだったな)

503: 2015/12/17(木) 23:45:31.67 ID:erWpMbAAO
クリスマス終了
あとは後日談をやって終わり

ついでに酔った勢いで叩かれ覚悟でおまけ投下



八幡(川崎沙希、か…………何かした覚えはあんまりないんだけど、それなりの好意を持ってくれてるっぽいよな)

八幡(あと一回くらい、黒歴史を増やす覚悟を決めてみようかな…………)

八幡「しかし寒いな。あの公園にマッ缶売ってる自販機あったし寄っていくか」

八幡(そう呟いて公園に入ると、ベンチにぐてーっとのびている一人の女性が目に入った)

平塚「………………」

八幡(いや、何でだよ!?)

平塚「あー……結婚したい…………カップル氏ね……リア充滅びろ……」

八幡(何物騒なこと呟いてんの!? てか明らかに酔ってるよなあれ…………こんなところで寝始めたりしたら下手すりゃ凍氏するぞ)

八幡(見つけた以上無視するわけにもいかず、声を掛けようとした時、別の男性が平塚先生に近付いていった)

1「おい静、妙な呪詛撒き散らしてんじゃねえよ。ほら、ペットボトルの水買ってきたから飲め」

平塚「あーうー、それより酒持って来い1、飲み足りない」

1「さっき吐いたくせに何言ってやがる。せめて口ゆすぐくらいしろ、ほら」

505: 2015/12/17(木) 23:48:56.65 ID:erWpMbAAO
平塚「ガラガラ、ペッ。だいたいせっかくのクリスマスなのに何で隣にいるのがお前なんだ」

1「ひでえ。いきなり呼び出して飲みに付き合わせてる相手に言う言葉じゃないぞ」

平塚「…………なあ1よ、どうして私は結婚できないんだろうな? 外見は悪くないと思うし、公務員という安定した職持ちだぞ?」

1「今のお前を見てりゃ誰だって逃げるわ。あと重いんだよ、すぐ結婚の話持ち出すから。それと酒と煙草もアウトな」

平塚「教師ってのはなー、ストレス溜まるんだよー。飲まなきゃやってられんこともある」

1「お前中学の頃から親の酒をくすねてチビチビ飲んでたじゃねえか。ただのアル中一歩手前なだけだ」

平塚「うー、ああ言えばこう言う…………もう1でいいや、結婚しよ」

1「はいはい、お互い三十三になってもいい相手がいなかったら俺がもらってやるから」

平塚「何だその上から目線は。ムカつくムカつく! 絶対1より良い男見つけて結婚してやるんだからな! あう……頭痛い…………」

1「突然大声出すからだ。ほら、早く帰らないと風邪引くぞ」

平塚「だるいー、おんぶー」

1「やだよお前んちここから遠いし」

平塚「1の家でいいー」

1「ったく。ほら、背中乗れ」

平塚「わーい」ガバッ、ギュッ

1「おっと……はしゃぐな、歳考えろ」

平塚「zzzz」

1「もう寝たのか!? …………やれやれ、こいつとの腐れ縁もいつまで続くのやら」

507: 2015/12/17(木) 23:49:46.05 ID:erWpMbAAO
八幡「………………」

八幡(と、とんでもないもん見ちまった…………平塚先生、あのまま背負われて行ってしまったけど…………)

八幡(てか平塚先生、いい人いるじゃん! あの男性でいいじゃん! あんな醜態晒しても世話してくれるってもう夫婦レベルじゃん! 何が不満なの!?)

八幡(名前呼び合ってるし、家に泊まるのも初めてじゃないみたいだし、昔からの知り合いっぽいし)

八幡(えーと、1さんだっけ。今度先生に何か言われたらからかってやろう)





さあ、好きなだけ1こと俺を叩けや!
サムいでもキモいでもバッチコイ!
今日はここまで
またノシ

514: 2015/12/18(金) 00:10:39.03
お願い>>1! 正気に戻って!!

520: 2015/12/18(金) 01:08:04.23
いい歳して何やってんだ1

545: 2015/12/19(土) 22:56:05.62 ID:IvYEGp0AO
 ~二十六日・午後一時~


八幡(予備校にやってきて教室に入ると、先に来ていた川崎がこっちに気付き、手を振ってくる)

八幡「おっす。隣、座っていいか?」

沙希「ん、いいよ」

八幡「サンキュ。よっと」

八幡(川崎の許可を貰い、俺は隣の席に座る。そこで俺はふと気付く)

八幡(俺が、率先して誰かの隣に座ろうとするなんて。それもごく自然に)

沙希「? どしたの?」

八幡「あ、いや、何でもない。えっと、まずは英語からだったな」

八幡(少し呆けてしまったようで、川崎が訝しげに聞いてくる。それを誤魔化すように俺は講義の教材を準備し始めた)

546: 2015/12/19(土) 22:57:03.10 ID:IvYEGp0AO
八幡「ほら、午後ティーな」

沙希「うん。ありがと」

八幡(俺は川崎の前に自販機で購入した飲み物を置き、対面の椅子に座る)

八幡(講義が1コマ分空いたこの時間はいつもなら自習室で勉強するのだが、時期的に埋まっていたのだ。一人だったら暇つぶしに外に出るのだが、川崎に誘われて俺達は休憩スペースにいる)

沙希「そういえばさ、昨日も言ったけどまたうちにあんたを招待したいんだよね」

八幡「ああ、また下の子達と遊んで欲しいってやつか。そこまで懐いてくれてんなら光栄だぜ」

沙希「うん、それもあるんだけど…………ウチの親がね」

八幡「何かあったのか?」

沙希「なんていうか、プレゼント買ってくれたのをすごく申し訳なさそうにしててさ、ちゃんとお礼とおもてなしをしたいって聞かなくて」

八幡「えー……いや、いいよそういうのは。俺苦手だし」

沙希「うん。あんたならそう言うと思ってた。でもほら、多少なりともお金が絡んじゃってるからさ…………」

547: 2015/12/19(土) 22:57:48.08 ID:IvYEGp0AO
八幡「面倒だな…………俺から貰ったとか言わないでよかったのに」

沙希「うん。だけど朝起きたら下の子達が騒いじゃっててさ。親にプレゼント見せながら『はーちゃんに貰ったー!』って」

八幡「あー…………」

沙希「さすがにごまかすわけにもいかなくてね。あんたのことある程度話しちゃった」

八幡「なら仕方ねえな…………んじゃまた近いうちにお邪魔させてもらうか」

沙希「うん、是非来てよ。今度はちゃんとしたあたしの料理を食べてほしいし。この前のは買ってきたものばかりだったから」

八幡「お、川崎の手料理か。楽しみにしてるぜ」

沙希「腕によりをかけるよ。そ、それでさ」

八幡「ん?」

沙希「その……もし、あたしの料理が気に入ってもらえたなら、あの…………」

八幡「何だよ?」

沙希「し、新学期からさ、あんたのお昼のお弁当をあたしに作らせてほしいんだ」

八幡「…………え?」

沙希「…………////」

八幡(川崎は顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。これはもう勘違いとか自意識過剰とかのレベルじゃない)

548: 2015/12/19(土) 22:58:41.39 ID:IvYEGp0AO
八幡「…………川崎」

沙希「な、何?」

八幡「正直お前の腕前の心配はしていない。だから、もう俺からお願いするわ。俺に、弁当を作ってきてくれないか?」

沙希「え……う、うん!」

八幡「あ、あとさ、感想とかはすぐに伝えるもんだし、その…………良ければ、昼、一緒に食べないか?」

沙希「!!」

八幡「い、いや、ダメならいいんだ! ただ言ってみただけだから」

沙希「ううん、平気。その、一緒に食べよ…………」

八幡「お、おう。じゃ、来年から、よろしくな」

沙希「うん…………」

八幡(お互いつっかえつっかえどもりながらも何とか自分の意志を伝える。だけど…………)

八幡(肝心の、言いたいことが言えてない)

八幡(言いたい。伝えたい。俺の気持ちを川崎に)

八幡「川崎」

沙希「な、何?」

八幡「ちょっと話したいことがあるからさ、今日一緒に帰ろうぜ。お前んちまで送るから」

沙希「…………うん、わかった」

549: 2015/12/19(土) 22:59:11.67 ID:IvYEGp0AO
八幡(もし、総武高校のクリスマスイベントが中止になっていなかったら、今の俺の状況とはまったく違う未来になっていただろう)

八幡(奉仕部や生徒会の連中とイベントを成功させ、クリスマス後は打ち上げなんかもしていたかもしれない。きっとそれはそれで楽しいクリスマスになったとは思う)

八幡(でも、ことここに至っては俺は他の未来を選びたくはない。俺が川崎沙希という少女を好きになってしまったこの気持ちを手放したくはない)

八幡「なあ、川崎。俺さ、お前のこと…………」






八幡「クリスマスイベントが中止?」
  ~ 完 ~

550: 2015/12/19(土) 22:59:59.63 ID:IvYEGp0AO
これにてこの話は終了します
上の方でも言われてるけどどうも俺の書くサキサキが飽食気味、というかマンネリ化してきたようです
酉さらしただけで展開読まれるし、実際このあとの展開は過去作と似たようなもんになるでしょうしwww

あと1が登場したのはもっと遠慮なく叩いていいんですよ?
むしろフルボッコにされるくらいの気持ちで書いたのにwww

しばらくは沙希ュバススレをちまちま更新するくらいに留めます
またいつか新作書いたら読んでやってください
それではノシ

552: 2015/12/19(土) 23:02:27.08
乙です

引用元: 八幡「クリスマスイベントが中止?」