1: 2021/02/17(水) 17:04:08.131 ID:mmh2/hSg0
男「ふんふ~ん」シャーッ

男(おっ、綺麗な髪した女発見! 顔を見たいな……)

男(なんだよ、髪が長いだけで男かよ! ――あっ!)ガッ

男(タイヤが――、段差に引っかかっ――、体ひっくり返――、やべっ、頭から――)

ゴッ!


…………

……


神「ワシは神じゃ」

男「神様……? なんで……?」

神「おぬし……氏んだぞ」

男「マジですか!?」

3: 2021/02/17(水) 17:05:56.827
アニメ化まだかよ

4: 2021/02/17(水) 17:08:14.728 ID:mmh2/hSg0
男「冗談でしょ!? だって自転車でコケただけですよ!?」

神「よほど打ちどころが悪かったのだろう」

男「そんなぁ……」

神「ワシも多くの人間を見てきたが、ここまで間抜けな氏に方をした人間はそうそうおらんぞ」

男「ううう……人生これからだったのに……」

神「そこでだ。あまりに惨めで哀れなので……おぬしを転生させてやることにした」

男「えっ、ホントですか!? 今流行りの!?」

6: 2021/02/17(水) 17:11:12.978 ID:mmh2/hSg0
男「で、俺はどんな転生をするんですか?」

神「おぬしの経歴を調べたが、犯罪こそしとらんがなかなかのスケベ心の持ち主のようだ」

男「いや、そんなことは……」

神「隠さんでよい。ワシは全てお見通しじゃ」

男「えへへ……」

神「というわけで、おぬしは自転車事故で氏んだし、おぬしを美少女JKの自転車のサドルに転生させてやろう」

男「ありがとうございます!」

男(さすが神様、俺の好みを分かってやがる!)

8: 2021/02/17(水) 17:14:58.257 ID:mmh2/hSg0
神「サドルになれば、当然美少女に座ってもらえるじゃろう」

男「最高っすよ!」

神「しかも、持ち主と絆が芽生えれば、意志疎通することも可能になるであろう」

男「ってことはサドルと人間の禁断の恋も夢じゃないってことですか!」

神「おぬしの努力次第でな。では、美少女JKのサドルとして復活するがよい!」

男「ワーイ!」



…………

……



サドル「…………」

サドル(マジだ、マジで自転車のサドルに生まれ変わってる! さて、持ち主は――)

JK「さて、と……」

サドル(可愛い! 俺好み! 文句なし! やった! 早く座ってくれ~!)

12: 2021/02/17(水) 17:17:45.815 ID:mmh2/hSg0
JK「ちょっと名残惜しいけど、今日でお別れだね」

サドル「……へ? お別れ?」

サドルの声は人間には聞こえない。

JK「お父さん、すぐ飽きないでよね」

中年「ありがとう。たくさん乗って、しっかり痩せてみせるよ」

JK「頑張って! 少しでもたるんだお腹引き締めてよ!」

サドル「……は?」

中年「よろしくな、マイバイシクル!」

サドル「はぁぁぁぁ!?」

13: 2021/02/17(水) 17:18:15.746
娘の貰うなwww

15: 2021/02/17(水) 17:20:24.338 ID:mmh2/hSg0
サドル「おい、神! これはどういうことだ!?」

サドル「たしかに美少女JKの自転車のサドルになったけど……」

サドル「転生した直後、その自転車の持ち主はおっさんになっちまったじゃねえか!」

サドル「こんなの罠だ! インチキだぁ! 転生をやり直せぇ!」

シーン…

サドル「ううう……返事がない。ただのしかばね……いや氏んだのは俺か」

中年「明日から通勤で使わせてもらうかな」

サドル「使うんじゃねえ!」

17: 2021/02/17(水) 17:23:33.302 ID:mmh2/hSg0
翌朝――

中年「さて、記念すべき初自転車出勤だ」

サドル「勘弁してくれ……」

中年「ちょっと緊張するなぁ」

サドル「乗るんじゃねえええええ!」

中年「よいしょ、と」ドスッ

サドル「うわああああああああああ!」

サドル(おっさんの尻が俺の上にぃぃぃぃぃ……)

JK「お父さん、立ち漕ぎは危ないからダメだよ」

中年「分かってるよ」

サドル「立って! 立って下さいお願いします!」

18: 2021/02/17(水) 17:26:20.919 ID:mmh2/hSg0
快調に自転車を漕ぐ。

キコキコキコ…

中年「うん、いい。調子がいい」

サドル(うげえ……走るごとにおっさんの尻の肉がうごめく……)

キコキコキコ…

中年「自転車乗るのは久しぶりだけど忘れないもんだなぁ」

サドル(おっさんのサドルに転生って……これなんて地獄……!?)

サドル(俺、なにか悪いことしましたっけ? たとえば前世で……)

サドル(いや前世は“俺”だったんだから、前々世がよほどの凶悪犯だったとか?)

サドル(だからって、こんな仕打ちはあんまりすぎる!)

サドル「助けてくれえええっ……!」

19: 2021/02/17(水) 17:27:23.377
天国から地獄

21: 2021/02/17(水) 17:29:18.160 ID:mmh2/hSg0
―駐輪場―

キコキコキコ… キキッ

中年「ここに自転車を置くとしよう」

サドル(公営の駐輪場か? やっと解放された……)

中年「朝から自転車漕いだから、今日は調子がいいぞぉ!」

サドル(俺の調子は最悪だよ……)

22: 2021/02/17(水) 17:32:12.192 ID:mmh2/hSg0
サドル「…………」

サドル(自転車が止まってる間はこうして待ってなきゃいけないのか)

サドル(不思議なことに“退屈”は感じないな)

サドル(人間じゃなくサドルになったから、退屈を感じる感覚が鈍くなったんだろうか)

サドル(そうでなきゃ大変だもんな。止まったまま何時間も待ってるなんて)

サドル「…………」

サドル「……ん?」

24: 2021/02/17(水) 17:34:37.257 ID:mmh2/hSg0
ニット帽「…………」コソコソ

ニット帽をつけた男が、停めてある自転車に何やら細工をしている。



サドル(なにやってんだ、あいつ? 遠いからよく分からん)

サドル(まあいいか……)

サドル(俺はしがないサドル……人間が何をしようと気にしないのさ)

26: 2021/02/17(水) 17:38:12.614 ID:mmh2/hSg0
夜になり、中年が会社から帰ってくる。

中年「さ、帰るぞ。マイバイシクル!」

サドル「うげえ……」

キコキコキコ…

中年「ただいまー」

JK「お父さん、私の自転車どうだった?」

中年「乗り心地最高!」

サドル「乗られ心地最悪!」

27: 2021/02/17(水) 17:41:25.971 ID:mmh2/hSg0
次の日からも当然――

中年「行ってきまーす」

キコキコキコ…

サドル(はうう……おっさんの尻肉が俺にグイグイくる!)

サドル(これ……世界中のスパイ組織が取り入れるべきだと思う)

サドル(拷問として!)

28: 2021/02/17(水) 17:42:16.419
パンツになりてぇとか言うけど実際拷問だよな

29: 2021/02/17(水) 17:44:12.765 ID:mmh2/hSg0
……

中年「今日も快調!」

キコキコキコ…

サドル(毎日毎日俺に座りやがって。マジいい加減にしろよ。このおっさん)

サドル(そうだ……ちょっと揺さぶってみるか!)グラグラ

中年「お?」

サドル「降りろ降りろ降りろぉ!」グラグラグラ

中年「なんだ、揺れてる?」

サドル「どうだ、気味悪いだろ! 降りろ! 自転車乗るのやめろ!」

中年「き、効くっ! これはお尻によさそうだ!」

サドル(逆効果だった!)

30: 2021/02/17(水) 17:47:22.959 ID:mmh2/hSg0
……

妻「あらお父さん、どうしたのそのカッコ? オシャレなジャージ着ちゃって」

中年「今日はたくさん自転車で走ろうと思ってな」

妻「すっかり自転車にハマっちゃったわね」

中年「そのうち、自転車で日本一周するのも悪くないかもしれん」

JK「お父さんかっこいい~!」

サドル「日本一周!? 冗談じゃねえぞ!」

中年「よしよし、今日はいっぱい走ろうな」ナデナデ

サドル「…………!」

サドル(なでるんじゃねえ、キメエ!)

31: 2021/02/17(水) 17:50:30.765 ID:mmh2/hSg0
中年「さあ、今日はたっぷり漕ぐぞ~」

キコキコキコ…

中年「自転車に乗るようになってから、体の調子がよくてね」

中年「会社の女の子からもスリムになりましたねって褒められたんだよ」

サドル「あーそう、よかったね」

サドル(ったく自転車に話しかけるんじゃねえよ、おっさんが。植物じゃねえんだからさ)

サドル(女の子に褒められただと? 本当は……本当は俺だって……!)

32: 2021/02/17(水) 17:53:08.986 ID:mmh2/hSg0
サドル「本当は俺だって女の子乗せて、チヤホヤされたかったよぉ!」

中年「!?」ビクッ

中年「な、なんだ?」キキッ

サドル「え……?」

中年「今の声、どこから……?」

サドル「おっさん……俺の声が聞こえたのか?」

中年「サドル……? サドルから声が……?」

サドル「……おう」

中年「サドルが喋った!」

34: 2021/02/17(水) 17:56:43.253 ID:mmh2/hSg0
中年「なんで!? ホワイ!? なぜサドルが喋るんだ!?」

中年「なんでぇぇぇぇぇ!?」

サドル「うるせぇぇぇぇぇ!」

中年「ひっ!」

サドル「まさか、俺の声が届くようになっちまうとは……」

中年「君は……何者なんだ?」

サドル「全部話すよ……。俺が何者なのか、なんでこうなったのか……」

中年「私もこういう現象は初めてだし、分かりやすく頼むよ」

…………

……

35: 2021/02/17(水) 18:00:42.869 ID:mmh2/hSg0
中年「……なるほど、君はサドルに生まれ変わってしまったわけか」

サドル「ああ、そうなんだ」

サドル「美少女のお尻を堪能できるはずだったのに……」

中年「すまん。私が娘から自転車をもらったばかりに……」

中年「――って、ちょっと待て!」

中年「そうじゃなかったら、今頃貴様は娘のお尻を堪能していたということか!」

サドル「そうだよぉ! 今すぐこの自転車娘に返せ!」

中年「絶対ダメだ!」

ギャーギャーッ!

36: 2021/02/17(水) 18:03:31.314 ID:mmh2/hSg0
中年「ハァ、ハァ、ハァ……サドルとマジ喧嘩してしまった」

サドル「ハァ、ハァ、ハァ……おっさんとマジ喧嘩してしまった」

サドル「で、どうするよおっさん。こんな呪いのサドル、とっとと捨てちまうか?」

中年「……いや、それはしない」

サドル「なんだと?」

中年「君は一度氏んでしまって……今は第二の人生を歩んでるのだろう?」

サドル「人生っつーかサドル生だけどな」

中年「だとしたら、無下にはできんよ。私は持ち主として君を責任持って最後まで管理する」

サドル「ホントか! さっそく娘さんを俺に座らせ……」

中年「それはダメ!」

37: 2021/02/17(水) 18:06:05.291 ID:mmh2/hSg0
サドル「じゃあ持ち主に……せめて俺からもアドバイスだ」

中年「ん?」

サドル「おっさん、自転車乗る時はヘルメットつけた方がいい。俺は頭打って氏んだからな」

中年「…………」

中年「そうだな、そうさせてもらうよ」

サドル「これからもよろしくな、おっさん」

中年「よろしく」

40: 2021/02/17(水) 18:09:17.196 ID:mmh2/hSg0
中年「ただいまー」

妻「お帰りなさい。あら、どうしたのそのヘルメット?」

中年「自転車でこけた時危ないからな、買ってきたんだ」

妻「あらま、ずいぶん本格的ねえ」

中年「せっかくのアドバイス、聞かなきゃもったいないからな」

妻「アドバイス? 誰から?」

中年「サド……え、えーとあれだ。会社に自転車に詳しい同僚がいるんだよ」

41: 2021/02/17(水) 18:13:23.678 ID:mmh2/hSg0
―駐輪場―

いつものように通勤に自転車を使う。

中年「じゃ、行ってくるよ」

サドル「行ってらっしゃい」

サドル「…………」

サドル(まさかおっさんと会話できるようになるとは……)

サドル(ってことは俺、あのおっさんと絆が芽生えちゃったってことか!? 冗談じゃねえ!)

サドル(まあ、たしかに悪いおっさんではないけどさ……)

42: 2021/02/17(水) 18:16:23.488 ID:mmh2/hSg0
ニット帽「…………」ヌッ

サドル「ん?」

サドル(この野郎、前もここに来てたような……)

ニット帽「今日はどれにしようかな……」

サドル(自転車を物色してる……? なにするつもりだ?)

ニット帽「今日はこいつでいいか」

ブスッ!

男はタイヤにアイスピックを突き刺した。

サドル(こいつ、自転車をパンクさせてやがるのか! なんて地味な……だけどえげつねえ!)

43: 2021/02/17(水) 18:18:37.806 ID:mmh2/hSg0
ニット帽「もう一台やろう、ヒヒヒ……」

サドル(この駐輪場、カメラないしな……こいつのやりたい放題だ!)

ニット帽「…………」キョロキョロ

サドル(なんとか退治してやりたいが……サドルの俺にゃこいつに声かけることも通報もできねえ)

ニット帽「どれにしようかな……」

サドル(よぉし……)ガタガタガタ

サドルが揺れる。

ニット帽「……ん?」

44: 2021/02/17(水) 18:20:33.476 ID:mmh2/hSg0
ニット帽「なんだぁ?」

サドル「俺に乗れ……俺に乗れ……」ガタガタ

ニット帽「このサドル、勝手に動いたぞ?」

サドル「俺に乗れ!」ガタガタ

ニット帽「今はこういう自転車もあるのか。面白そうだ、ちょっと乗ってみるか」

サドル「かかった!」

サドル「せーのっ!」

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ…

サドルのフルパワー振動。

ニット帽「お゛っ!?」

45: 2021/02/17(水) 18:22:09.651 ID:mmh2/hSg0
ガタガタガタガタガタ…

ニット帽「おおおおおおおっ!?」

サドル「トドメだッ!」ガタンッ!

ニット帽「おふうっ!」

ニット帽「…………」ドサッ…

ニット帽「あへ……あへあへ……」

サドル「俺に座ったのが……運の尽きだ」

47: 2021/02/17(水) 18:25:19.000 ID:mmh2/hSg0
サドル「ふん、ざまあみやがれ」

『アリガトウ……』

『ヨクヤッタ……』

『スゴイ……』

サドル「!」

サドル(この声は……もしかして他のサドルの声?)

サドル(そうか……流石に俺みたいに元人間ってことはないだろうが)

サドル(サドルにも意志みたいなもんはあるんだな。で、こういう声を聞くこともできるってことか)

ちなみにこの犯人、アイスピック片手に倒れてるところを通報され、警察に逮捕された。

49: 2021/02/17(水) 18:28:24.325 ID:mmh2/hSg0
中年「ん、今日はやけに嬉しそうじゃないか」

中年「私に乗られるのがそんなに嬉しいのかね?」

サドル「んなわけあるか!」

サドル「ただ……今日は人助けならぬチャリ助けをできたからな」

中年「いいことじゃないか。情けは人のためならず、というからな」

中年「今日体験したことがいつか役立つかもしれないぞ」

サドル「だといいけどな」

シャーッ…

サドルも少しずつ、自分の境遇に生きがいを感じるようになっていった。

52: 2021/02/17(水) 18:31:21.445 ID:mmh2/hSg0
休みの日、中年は自転車を走らせる。

シャーッ

中年「今日みたいな天気は絶好の自転車日和だね」

サドル「ああ、サドルの俺も気持ちいいや」

中年「たまにはいつも行かない方へ行ってみようか」

サドル「そりゃいいな!」

53: 2021/02/17(水) 18:34:45.899 ID:mmh2/hSg0
キコキコ…

中年「ふぅ、ふぅ……」

サドル「大丈夫か? ここら辺は坂が多くて、バイクや競技用の自転車じゃないとキツイだろ」

中年「しかし、これもいい経験になるさ」

中年「ん?」

ギャハハハ… ハハハ…

サドル「ほら見ろ、あの店。バイク乗りの溜まり場になってる」

中年「それもどうやらちょっと悪そうな連中だねえ」

54: 2021/02/17(水) 18:37:25.130 ID:mmh2/hSg0
DQN「あ? なに見てんだ、おっさん!」

中年「!」ビクッ

サドル「!」ギクッ

中年「い、行こう!」

サドル「早く! 早く漕いで!」

キコキコキコキコキコ…

サドル「暴走族……ってわけでもないだろうがチンピラの集まりだな」

中年「触らぬ神に祟りなしだね」

55: 2021/02/17(水) 18:40:49.852 ID:mmh2/hSg0
中年「ただいまー」

サドル「今日はちょっとハラハラしたよ」

JK「あ、お父さんお帰り!」

中年「どうだ? このヘルメット」

JK「いいじゃんいいじゃん、競輪選手みたい!」

中年「ありがとう」

サドル(マジこの子可愛いよなぁ、妹とは大違いだ)

56: 2021/02/17(水) 18:43:30.619 ID:mmh2/hSg0
JK「私はもう新しい自転車買っちゃったけど……」

JK「たまにはそっちにまた乗ってみたいなーなんて」

中年「!」

中年「ダメだぞ、ダメダメ! この自転車に乗ることは許さん!」

JK「相当気に入っちゃったんだね」

サドル「おっさぁん……」

中年「フッ、そう簡単に娘の尻は渡さんぞ!」

サドル「くそう……いつか味わってやるからな!」

サドル(だけど、おっさんとつるんでるのも悪くないと思うようになってしまった)

57: 2021/02/17(水) 18:46:24.713 ID:mmh2/hSg0
ある日――

中年「フフフ、コンビニでチキンを買ってしまったよ」モグモグ

サドル「おっさん、買い食いしたらせっかく痩せたのにリバウンドしちゃうぞ」

中年「固いこというなって。ところでサドルは食欲ってないのか?」

サドル「全くないな。ていうかあっても食う方法ないし」

中年「私もサドルになれば、太る太らないを気にせず済むのにな」

サドル「間抜けな氏に方すればなれるかもしれないぞ」

キコキコ…

中年「ただいまー」

妻「あなた……」

中年「どうした?」

58: 2021/02/17(水) 18:49:05.946 ID:mmh2/hSg0
妻「あの子が……まだ帰ってきてないの」

中年「えっ! 今日は予備校じゃないのか?」

妻「今日は予備校の日じゃないわ」

中年「電話はかけたのか?」

妻「繋がらないの」

中年「だとしたら、友達と遊んでるとか……」

妻「心当たりはあたったけど、いないっていうの」

妻「あの子、遅くなる時はいつもちゃんと連絡するし、心配で……」

60: 2021/02/17(水) 18:52:11.582 ID:mmh2/hSg0
中年「分かった、ちょっと二人で捜索してくるよ」

妻「二人?」

中年「い、いや、一人の間違いだった。母さんは……念のため警察に連絡してくれ」

妻「分かったわ」

中年「何事もなければいいんだが……」

中年「話は聞いてたかね?」

サドル「おう。とりあえず、あの子の高校周辺を走り回ってみるか」

娘の捜索を開始する。

61: 2021/02/17(水) 18:55:38.330 ID:mmh2/hSg0
キコキコキコ…

中年「うーん……やはりどこを捜してもいない……」

中年「まさか、事故にでもあったんじゃ……」

サドル「あんなしっかりした子なんだ。俺みたいなことにはそうそうならないって!」

中年「君がいてくれて心強いよ」

サドル「だけど、手掛かりがないのはな……」

中年「例えば、あそこの乗り捨てられた自転車……」

中年「何かを目撃したりしてないだろうか……発想がメルヘンすぎるか」

サドル「!」ハッ

62: 2021/02/17(水) 18:58:27.520 ID:mmh2/hSg0
サドル「おっさん、ナぁイス!」

中年「え?」

サドル「ちょっと……聞いてみる。あのサドルに」

中年「そんなことできるのかね?」

サドル「一度サドルの声を聞いたことがあるんだ。もしかしたら、やれるかも!」

サドル(そこのサドル……サドル……)

サドル(女の子……見てないか!? ほんのちょっとこのおっさんの面影がある可愛い女子高生を……!)

『…………』

63: 2021/02/17(水) 19:01:29.691 ID:mmh2/hSg0
『オンナノコ……カラマレタ……』

サドル「!」

『オレタチトコイ……オドサレテ……』

『コトワッタケド……ツレテカレテ……』

サドル「…………!」

サドル「ありがとぉぉぉぉぉ!!!」

中年「ど、どうしたんだね!?」

サドル「おっさん! もしかしたら、あの子はさらわれたのかもしれない!」

中年「なんだって!?」

64: 2021/02/17(水) 19:04:12.585 ID:mmh2/hSg0
中年「どんな奴だ!?」

サドル「どんな奴だった!?」

『バイクノッテル……ワルソウ……』

サドル「バイク乗ってる、悪そう……」

中年「…………」

中年「ひょっとして……彼らでは?」

サドル「行ってみる価値はありそうだな!」

サドル「ありがとよ!」

『ヤクニタテテ……ウレシイ……』

65: 2021/02/17(水) 19:07:18.107 ID:mmh2/hSg0
―溜まり場―

数台のバイク。数人の非行少年。そして――

JK「お願い……帰して……」

DQN「つれないこというなよ。夜は長いんだ」

不良「今夜はたっぷり楽しもうぜ~?」

金髪「もうちょい夜が更けたらマジで人通りなくなるから……そしたら“お楽しみ”だな」

ヒヒヒ… ハハハ…

JK「そんな……」

66: 2021/02/17(水) 19:09:35.830 ID:mmh2/hSg0
必氏に自転車を走らせる。

シャーッ

中年「はぁ、はぁ、はぁ……」

サドル「おっさん、あいつらまた溜まってるぜ!」

中年「ひぃ、ひぃ、ひぃ……」

サドル「頑張れ!」

中年「ああ、分かってる。コレステロールパワーを見せてやる!」

サドル「その意気だぁ!」

68: 2021/02/17(水) 19:12:08.469 ID:mmh2/hSg0
キキッ

中年「ちょっと待ったぁ!」

DQN「あ?」

JK「お、お父さん……!」

中年「娘を……放しなさい!」

DQN「お父さん……? マジか、オヤジ来ちゃったよ」

金髪「よく居所が分かったな。親の愛ってヤツかぁ?」

中年「なんでもいい。娘を返したまえ!」

69: 2021/02/17(水) 19:14:18.716 ID:mmh2/hSg0
DQN「うるせえなぁ、すっこんでろ!」

バキィッ!

中年「ぎゃっ!」

金髪「ぎゃっ、だってよ。ダッセェ~」

ハハハハ… ヒャハハハ…

サドル「おっさん!」

JK「お父さぁん!」

72: 2021/02/17(水) 19:17:09.951 ID:mmh2/hSg0
中年「う、うぐっ……!」

サドル「おっさん!」

中年「!」

サドル「俺を使え!」

中年「使うって……?」

サドル「サドルは……取り外せるだろ?」

中年「そうか!」

サドルを自転車から外す。

DQN「おいおい、んなもんでどうしようってんだ?」

ヒャハハハ…

74: 2021/02/17(水) 19:20:23.022 ID:mmh2/hSg0
サドル「俺を投げろ!」

中年「分かった!」

ブンッ!

ギュルルルルルルルッ!

投げつけられたサドルは――

バキッ! ドカッ! ガッ!

「ぐあっ!」 「いでぇっ!」 「ぐえっ!」

ブーメランのように敵を打ちのめす。

DQN「なんだとォ!?」

75: 2021/02/17(水) 19:23:19.786 ID:mmh2/hSg0
中年「私はただのおっさんではない……」

DQN「え……!?」

中年「正義の味方“サドルマスター”だ!」

DQN「サドルマスター……!」

中年「もいっちょ!」ブンッ

ギュルルルルルルッ!

DQN「うわぁっ!」

サドル「世の中色んなマスターがあるけど、かなりしょぼい部類だと思うぞ」

中年「なぁに、どんな分野でもマスターってのはすごいものさ」

76: 2021/02/17(水) 19:26:05.410 ID:mmh2/hSg0
中年「逃げるぞ!」

JK「うん!」

キコキコキコキコキコ…

二人乗りで逃げる。

中年「ひぃ、ひぃ、ひぃ」

サドル「頑張れおっさん!」

DQN「ク、クソが……! チャリで逃げれると思うなよォ!」

78: 2021/02/17(水) 19:29:07.352 ID:mmh2/hSg0
逃げる自転車、追うバイク。

中年「ひい、ひい、ひい!」

キコキコキコ…

DQN「待ちやがれぇぇぇぇぇ!」

ブオオオオオッ!

中年「ダ、ダメだ、追いつかれる!」

サドル「おっさん俺を投げろ! あのバイクこけさしてやる!」

中年「とても走りながらじゃ……!」

DQN「もう追いつくぞぉぉぉぉぉ! 蹴り倒してやる!」

ブオオオオオッ!

81: 2021/02/17(水) 19:32:21.536 ID:mmh2/hSg0
ウーウー… ウーウー…

DQN「……え?」

中年「パ、パトカー!」

パトカー「そこの二人乗りの自転車と、ノーヘルのバイク、止まりなさい!」

DQN「や、やばっ……!」

中年「どうしてパトカーが……?」

サドル「きっと奥さんの通報で、パトカーが見回りに出てくれたんだ!」

中年「助かったぁ……!」

…………

……

82: 2021/02/17(水) 19:36:10.659 ID:mmh2/hSg0
非行集団は警察に捕まり、自転車二人乗りについてはお咎め無しとなった。

JK「さっきのお父さん……かっこよかったよ」

中年「いやいや」デレッ

JK「それとさっきのサドル、まるで生き物みたいだったね」

中年「え、いや、まあね」

JK「サドルもありがとう! ……なーんて」

サドル「いやいや」デレッ

中年「鼻の下伸びてるぞ」

サドル「俺に鼻はないっての」

中年「いーや、絶対伸びてる」

サドル「うん、きっと伸びてる」

83: 2021/02/17(水) 19:40:20.211 ID:mmh2/hSg0
……

……

事件から二週間後、中年は遠出をしていた。

キコキコキコ…

中年「ふんふ~ん」

中年「これだけ長時間漕いでるのに、全く苦じゃないよ。私も成長したもんだ」

サドル「…………」

中年「どうした?」

サドル「あ、いや、懐かしいなって思って……」

中年「懐かしい? もしかして、この辺りは――」

サドル「ああ、俺、この辺りに住んでたんだ……」

中年「! そうだったのか……」

85: 2021/02/17(水) 19:43:56.623 ID:mmh2/hSg0
事故現場には花が置かれていた。

中年「…………」

サドル「手を合わせてくれてありがとよ、おっさん」

中年「当然のことさ」

サドル「こういうの見ると、改めて俺は氏んじゃったんだなって感じるよ」

中年「……なぁ」

サドル「え?」

中年「君の家族のところに……行ってみないか」

サドル「!」

88: 2021/02/17(水) 19:50:43.341 ID:mmh2/hSg0
キコキコキコ…

中年「あの家かね?」

サドル「うん……あそこに住んでた。俺と両親と妹の四人暮らしで」

中年「…………」

サドル「一目見たらなんだかスッキリしたし帰ろ――」

中年「よし、寄ってみよう!」

サドル「ハァ? 寄ってみるって、おっさん俺の家族と接点ないだろ!」

中年「理由なんかどうにでもなるさ」

89: 2021/02/17(水) 19:53:06.178 ID:mmh2/hSg0
―男の実家―

サドル「母さんだ……!」

中年「行こう」

サドル「まだ心の準備が……」

中年「あの、すみません」

母「……はい? どちら様ですか?」

中年「初めまして。私、息子さんと交流をしていた者で……」

中年「このたび亡くなられたと聞いて、線香を上げさせてもらえないかと……」

母「まあ……中へどうぞ」

サドル(母さん……やつれたなぁ)

中年(もちろん、サドルも持って行かないとな)

90: 2021/02/17(水) 19:55:07.515 ID:mmh2/hSg0
妹「どなた?」

母「お兄ちゃんと縁がある人だって」

妹「兄さんと……」

中年「どうも、初めまして」

中年「おいおい、君の妹、なかなか可愛いじゃないか」ボソッ

サドル「どこがだよ。ただのガリ勉女だよ」

中年「たしかに君と違って真面目そうだ」

サドル「ほっといてくれ」

91: 2021/02/17(水) 19:58:11.502 ID:mmh2/hSg0
父「息子は……事故で亡くなりました。自転車で転倒して……」

父「近くにいた男性がすぐ救急車を呼んでくれたんですが……残念ながら」

母「…………」

中年「そうでしたか……」

サドル(俺が間違えて見とれたあの人、救急車呼んでくれたんだな。なぜかちょっと嬉しい)

父「ところで、息子とはどのような?」

中年「私が自転車を故障させて困っていたら、息子さんがたまたま通りがかって……」

中年「このサドルをくれたんです。その時、ちょっとした知り合いのような感じになって……」

全くのデタラメだったが、疑われることはなかった。

93: 2021/02/17(水) 20:00:50.344 ID:mmh2/hSg0
父「息子は学生で、交友関係もよく知らなかったのですが……」

父「そんな人助けをしていたと知って、嬉しいです」

中年「息子さんは本当にいい青年でした。私のようなおっさんとも気さくに話してくれて」

中年「どこに出しても恥ずかしくない、立派な若者だったと思います」

サドル「褒めすぎだって、おっさん!」

中年「早くに亡くなったのが本当に惜しい……そう断言できます」

父「そうおっしゃって頂けると、私たちも救われます」

母「だけど……だけど生きてて欲しかった……。生きて……」

父「母さん……」

サドル「…………!」

サドル「バカな氏に方しちゃって……ごめんよぉ……!」

サドル「うっ、ううっ、うっ……!」

94: 2021/02/17(水) 20:03:53.941 ID:mmh2/hSg0
中年「――あの」

父「はい?」

中年「実は先日、私の夢の中に……息子さんが現れたんです」

父「え……?」

中年「息子さんは、私の口を通じてご家族にお伝えしたいことがあるというのです」

中年「何をバカなことをと思うかもしれません。ですが聞いて頂けないでしょうか?」

サドル「お、おっさん!」

中年「いいから。伝えたいことがあるなら……」

サドル「……分かったよ」

97: 2021/02/17(水) 20:06:33.714 ID:mmh2/hSg0
中年「父さん母さん、バカな氏に方しちゃってゴメン」

中年「だけど今は楽しく暮らしてる。毎日が楽しいよ」

中年「だから心配しないで……元気出して。そういってました」

父「そう……ですか」

母「ありがとう……ございます」

中年「それと妹さんにも」

妹「え?」

中年「勉強もいいけど、たまにはパーッと遊べよ」

中年「だけど、お前は俺よりしっかりしてるから安心できる。……と」

妹「なんだか、本当に兄さんみたい……」

家族は一切否定せず、このメッセージを受け取った。

98: 2021/02/17(水) 20:09:18.751 ID:mmh2/hSg0
帰り際――

中年「…………」

中年「あ、あのっ!」

父「なんでしょう」

中年「実は……実はこのサドルにはあなた方の――」

サドル「おっさん!」

中年「!」

サドル「それは……やめてくれ」

サドル「三人とももう、俺の氏を乗り越えてる。それに俺はもう氏んだ人間だ」

サドル「ここで正体バラしちゃうのは、なんていうか、いびつな事だと思うから……」

中年「分かった……そうしよう」

100: 2021/02/17(水) 20:11:21.097 ID:mmh2/hSg0
父「サドルが何か?」

中年「えぇと、最後にこのサドルに……触ってもらえませんか?」

父「え?」

中年「お願いします」

父「分かりました」

母「息子が人助けした証のサドルですもんね」

妹「兄さん……」

家族の手の温もりを感じ――

サドル(おっさん……ありがとう)

101: 2021/02/17(水) 20:14:19.009 ID:mmh2/hSg0
中年「またこちらの家に来てもいいですか?」

父「ええ、ぜひ」

母「そのサドルも一緒に。なんだか他人の気がしなくて……」

中年「もちろんです」

妹「もしまた兄さんが夢に出てきたら伝えて下さい。絶対いい大学入ってやるからって!」

中年「必ず伝えます」

サドル(お前なら絶対合格できる! 俺みたいにこけることはないさ!)

中年「では、今日はこれで失礼します」

102: 2021/02/17(水) 20:17:20.844 ID:mmh2/hSg0
キコキコキコキコキコ…

中年「どうだった? 久々の実家は」

サドル「やっぱり親が泣いてるのを見るのはつらいな」

中年「すまなかった」

サドル「謝ることないって。むしろ感謝してる」

中年「今日は特別に娘を座らせてあげてもいいぞ?」

サドル「いやいやいや、このムードで『ぜひお願いします!』とはいえんでしょ」

中年「それが分かってるから聞いたんだよ」ニヤッ

サドル「ったく……。楽しみは後にとっとくわ」

104: 2021/02/17(水) 20:20:22.125 ID:mmh2/hSg0
サドル「おっさん、これからも良きパートナーでいてくれよ」

中年「こっちこそ」

サドル「そのうち、二人で日本一周するのもいいかもな!」

中年「定年後の楽しみが一つ増えたよ」

シャーッ







―おわり―

105: 2021/02/17(水) 20:22:06.362

泣いた

106: 2021/02/17(水) 20:23:48.458

良かっとよ

107: 2021/02/17(水) 20:26:14.781
( ;∀;)イイハナシダナー

引用元: 神「美少女JKの自転車のサドルに転生させてやろう」男「ありがとうございます!」