1: 2009/09/05(土) 00:38:03.15 ID:bmgHjjTP0
澪「カツ丼、カレーにラーメンが揃ってる店なんて味に期待してなかったけど」

モグモグ…

澪「うん、これは結構あたりだね。健康を噛み締めてる感じ。玄米ご飯とどんぴしゃり」

澪「お味噌汁もいいダシ出てるなぁ……あ、にぼし入ってる」ジャリッ ズズゥ…

・・・

澪「はぁ、食べた食べた」カチャ

店主「お茶をどうぞ~」

澪「あっ、どうも」

澪「ン。ほうじ茶か…久しぶりでウマイな」ズズー

澪「…スイマセーン、お会計お願いします」

店主「450円です」

澪「はい(値段も良心的で良し)」チャリチャリ

店主「丁度ですね。ありがとうございました~」

澪「ごちそうさまでした」ガチャ

3: 2009/09/05(土) 00:40:02.61 ID:bmgHjjTP0
澪「ふぅ~……あ!?じっくり食べ過ぎた、もう午後の授業始まっちゃってる!」

澪「……ま、しょうがない。5限目終わるまでお茶でもしてるのもいいか」

―こんな日も時には必要なのかもね。心のスイッチ切り替えデー。


私は満足したお腹をひとさすりすると、おもむろに歩き始めた。



澪「…マジメな野沢菜食べたのに不真面目にサボる私……ププッ、いいね」



~ぼっちのグルメ~

著・秋山 澪



5: 2009/09/05(土) 00:43:23.99 ID:bmgHjjTP0
……とにかく腹が減っていた。

私は隣町の中古楽器店でレフティベースフェアをやっているという話を聞き
躍る気分で見に行ったのだが、どれも予想を上回るジャンクぶりだった。

まったくの無駄足だ。

おまけにどうやら私はまたも路に迷ったらしい。
しかも追い討ちをかけるように雨が降り出す。

澪(くそっ……どこか雨宿り出来る場所は…)

丁度前方に商店街のアーケードが見えた。
びしょ濡れになる前に急いで入り込む。

澪「ふぅ…でも一体どこに迷い込んじゃったんだろ」キョロキョロ

澪(……あれ、うちの制服着た子がちらほらいるなぁ。もううちの学区なのかな)

11: 2009/09/05(土) 00:46:17.32 ID:bmgHjjTP0
グループで楽しそうにお喋りしながら歩いている女の子達。

すれ違う度に自分が見られている気がする。

澪「ぼっちって思われてるのかなぁ…くそっ」

澪(焦るんじゃない…私はお腹が減っているだけなんだ)

澪(お腹が減って氏にそうなんだ)

店主「バカヤローッ!二度とこの店に来るんじゃねぇぞ!」

客「ひぃっすいません!」

澪「!?」ビクッ

澪(……)チラ

怒声が聞こえてきた店の看板を見やる。

澪(二郎だ!うわ、嫌な事思い出しちゃったぞ……)

16: 2009/09/05(土) 00:49:13.20 ID:bmgHjjTP0
私は以前、ここではないが別の二郎へ行って考え無しに大を頼み、残してしまったことがあった。
あの客も多分残してしまったのだろう。

それにしてもここの次郎の店主は随分と厳しいんだな。
私だったらゲロ吐いて泣いちゃうぞ…

なんて事を考えながら歩いていると―

澪「あ、アーケード終わっちゃった…」

澪(どうしよう、引き返そうか……)

澪(でも同じ所をうろうろなんていかにも暇を持て余したぼっちっぽいぞ)

澪「他で探そう。まだ店はあるはずだ」

意を決し、私は幾分か小降りになった雨の中に飛び出す。

澪「くそっ、それにしてもお腹減ったなぁ!」タッタッタッ

澪(めし屋は……どこでもいい、めし屋はないのか)

ふと前方のバーガー屋に目がとまる。

澪「マックスバーガーか……」

18: 2009/09/05(土) 00:51:28.18 ID:bmgHjjTP0
出来る限りこういう店には入りたくない。
私はチェーン店で食べると損した気分になるのだ。
金銭的な事ではなく、食事という行為に対してそういう意識が働く。
ファストフードなどは尚のこと「ただ腹を膨らます」感が強くそう思える。

だが先を見ると住宅街、もうここ以外に食事を取れる店は無さそうだった。


澪「まぁいいか。ジャンクフードってたまに腹に入れたくなるしな」

ガーッ

店員「いらっしゃいませ~、お決まりでしたらどうぞ」

澪「えぇっと……チキンフィレオのセット」

店員「セットのお飲み物はいかがいたしましょう」

澪「ブレンドコーヒーで」

店員「ホットコーヒーですね。ご注文以上でよろしいでしょうか?」

澪「はい あっ、あとナゲット!ナゲットつけてください」

店員「ソースの方はバーベキューとマs」
澪「バーベキューで」

澪(ナゲットだけだとマスタード派だけどポテトもつけるからね)

20: 2009/09/05(土) 00:52:49.62 ID:bmgHjjTP0
店員「お会計790円になります」

澪「はい(うわ、結構いくんだな……やめとけばよかったか)」

店員「では右の方お並びになってお待ち下さい」

澪「ふぅ」

客「えーっと……テリヤキのセット。かざすクーポンで」シャリーン♪

澪「?」チラ

澪(携帯クーポン!そういうのもあるのか)

店員「こちらでお召し上がりですか?」

客「持ち帰りで」

澪(持ち帰り!そういうのもあるのか)

店員「チキンフィレオのセット、ナゲットでお待ちのお客様~」

澪「あ、はい」サッ

23: 2009/09/05(土) 00:54:21.20 ID:bmgHjjTP0
・・・

澪「ふぅ。しかしこの時間は学生のグループ客ばかりだなぁ。参っちゃったぞ」

澪「ぼっちって思われてるんだろうか……そうなんだろうなぁ……」

澪「まぁいいや、ともかく今は目の前のバーガーだよ!いただきまーす」ガサ

澪「はむ。もむ」モグモグ

澪「いいね、このジャンクな感じ。マヨネーズの味って育ち盛りって感じだよね」

澪「さてナゲットのソースを開けてポテトを……」モグモグ

澪「さめないうちにナゲットにも手を付けておこう」スッ

澪「……あっ!しまった!」

澪「チキフィレとナゲットでチキンがかぶっちゃったな……テリヤキあたりにすべきだった」

澪「はぁ、鶏づくしだ。仕方ない」モグモグ

25: 2009/09/05(土) 00:55:52.60 ID:bmgHjjTP0
客1「でさぁーっ、地学の吉田が…」

客2「そうそう!マジ空気読めないよねェーっ」

キャハハ ゲラゲラ…

澪(吉田先生の話してる。ぷぷ、確かにあの人そうだよね~)

澪「プククッ」

客1「」ピタ

澪(うっ、つい笑い声がもれてしまった)

客1「……ねぇ、今あの子一人で笑ってたよ」ヒソヒソ

客2「あれ軽音部の人じゃない?文化祭でパンツ見せてた」ヒソッ

澪「!……//(は、恥ずかしい……)」

28: 2009/09/05(土) 00:59:07.57 ID:bmgHjjTP0
・・・

澪「ふぅ、ごちそうさま」ガササ

澪(いつも思うけどミルクの容器ってプラスチックの方でいいんだよね…)ポイ

ガーッ

店員「ありがとうございましたぁ~」


雨はもう止んでいた。


澪「……」テクテク

澪「」ピタ

店を出て少し歩き、振り返ってみる。

店内のグループ客が私を見ていた。

澪「……」


多分ぼっちには不釣合いな場所だったんだろうな……

30: 2009/09/05(土) 01:03:49.80 ID:bmgHjjTP0
澪「め~し屋へ~♪エークソォダスゥ~っ♪」タッタッ

ある日の部活帰り。

校門を出て早々に皆と別れた私は、浮いた気持ちに軽い足取りで下校していた。


――話は今朝に遡る。


呼込み「本日午後16:00より開店シマス、ドウゾお立ち寄りクダサイ」

澪「あっ、どうも」


私は登校途中、新しく出来たカレー屋さんの呼び込みに一枚のチラシを渡された。

本格インドカレー屋と記されたそのチラシには、おいしそうなカレーの写真。

澪「ごくり」

澪(朝っぱらから食欲をそそるモノ渡されちゃったぞ、参ったなぁこれから学校なのに)

32: 2009/09/05(土) 01:05:14.19 ID:bmgHjjTP0
・・・

和「…ぉ。……みお」

澪「……」ホゲー

和「澪!聞いてるの?」

澪「はっ!?」ジュル「あ、ごめん和、何?」

和「もう……今日はお昼どうするの?私今日は一緒に食べられるわよ」

澪「えっ?あ、もう昼なのか!」

和「……(大丈夫かしらこの子)」

澪「そうだなー(今朝のカレー屋…昼休みに行くには微妙な距離だな……)」

澪(近場の店に行ってもいいけれど、ここは簡単にすませておいてそれで帰りにガーッと……)

澪「よし。じゃあパン買ってくる、待ってて」

和「分かったわ」

33: 2009/09/05(土) 01:07:26.36 ID:bmgHjjTP0
――購買――

ガヤガヤ

澪「わぁ、混んでるなぁ…」

唯「あ、澪ちゃんだー!やっほー」

澪「おっ。唯もパンか?」

唯「そうだよぉ~、へへ…あんぱん買いにきたんだ!」

澪「あんぱんかぁ。昼飯に菓子パンかー…」

唯「りっちゃんとアンパンマンごっこするんだぁ」

澪「へ、へぇ~(小学生か)」

34: 2009/09/05(土) 01:08:10.84 ID:bmgHjjTP0
唯「澪ちゃんは何にするの?」

澪「そうだなぁ~」チラ

前に並ぶ列の脇に視線を走らせ、カウンターに並べられたパンをチェックする。

あんパンにメロンパン、焼きそばパン、お好み焼きパン、カレーパン…


カレーパン。


澪(カレー…)ごくり

澪「や、焼きそばパンにしようかな」

唯「焼きそばパン!わぁー澪ちゃんがそんなこと言うから私も食べたくなってきたよぉ…」

澪「おいおい。アンパンマンごっこは?」

唯「そうなんだけど~…うぅ」モジモジ

36: 2009/09/05(土) 01:10:03.45 ID:bmgHjjTP0
澪「二つ買えば?」

唯「だめだよぉ節約中なんだもん」

澪「じゃあどっちかにしなきゃな」

唯「あぅ……うう~」モジモジ

澪「おい番回ってくるぞ」

唯「えっ!あっあっ…み、澪ちゃん先でいいよ! んんんどうしよう……」

澪「(平和な悩みだこって)焼きそばパンくださーい」

澪「ふー。じゃあ私戻って食べるから」

唯「えええ待ってよぉおお私まだどっちか決まってないよぉ」

澪(知らんよ……)

39: 2009/09/05(土) 01:13:07.86 ID:bmgHjjTP0
・・・

律「おーぃす」ガチャ

唯「りっちゃんおっす!おっすめっす!」

律「唯ぃいいい元気いいなぁあカワイイよぉ~」

紬「お茶淹れるわね~」

澪「……」

唯「おいひい!今日のふるーつけーきおいひいよぉお」モグモグ

律「うまいなー! …ん、なんだ澪。食べないのか?」

澪「えっ」

紬「澪ちゃんひょっとしてフルーツケーキ嫌いだった?ごめんね……」

澪「い、いやそんなことない!そんなことないけど…」

律「けど?」

澪(……なるべくベストの空腹状態でカレーに持っていきたいんだよなぁ……)

41: 2009/09/05(土) 01:15:19.29 ID:bmgHjjTP0
澪「そうだ、私今ダイエット中だったんだよー!ははっ」

唯「そうなんだ! じゃあさ…じゃあ~…」モジモジ

澪「あ、唯欲しかったらいいぞ」

唯「ほんと!?わぁ~いやったー!」

律「あっ、唯ズリぃ!私だって欲しいぞ」

梓「わ、私も欲しいです!」

紬「あらあらあら♪」

澪(てか居たんだ梓)


澪(あぁ…それにしても早くカレーが食べたい……)ゴキュリッ

律「ん?澪のど鳴ってんじゃんwやっぱ食べたいんじゃないかよw」

澪「だ、大丈夫だって」

梓「そろそろ練習しましょうよー」

澪「そうだな、練習しよう!(これ以上皆が食べてるの見てたら限界だ)」

46: 2009/09/05(土) 01:19:11.68 ID:bmgHjjTP0
―――

―で、部活も終わって今に至るというわけ。

ガサッ

澪「ふふっ」

私はポケットにつっこんでいたチラシを取り出すと、もう一度メニューの写真を眺める。

澪「ダルカレー、タンドリーカレー…色々あるなぁどれも写真はおいしそうだ!」グゥーッ

澪「でもこのダルカレーというのはなんだろう?インドカレーってあまり食べた事ないんだ」

澪「載ってる順番からすると一番基本のカレーっぽいけど…」

澪「よし、折角だからこのダルカレーというのにするぞー!」

澪(絶対大盛りで食べよう)ごくり

47: 2009/09/05(土) 01:20:56.26 ID:bmgHjjTP0
・・・

澪「ついた!ここだここ」

カラカラーン♪

店員「イラシャイマセー」

澪(スタッフ全員インドの人なのかな。これは本格的っぽいぞ~)

澪「……えと、このダルカレーというのをください」

店員「ナンとライスがアリマスが」

澪「(お腹空いてるし…)ライスで!あ、大盛りできますか?」

店員「スイマセン、大盛りはやってマセンです」

澪「そうですか」

澪(がーんだな…出鼻をくじかれた)

49: 2009/09/05(土) 01:23:16.35 ID:bmgHjjTP0
店員「食後ノお飲み物ハコーヒーとチャイがアリマスが」

澪「あ、はい。うーん……(折角だしなぁ、ここはやっぱり本場インドの…)」

澪「じゃあチャイお願いします」

店員「カシコマリマシタ」


客「えーと、タンドリーカレー。持ち帰りで」

澪(持ち帰り!そういうのもあるのか)

澪(しかしルーだけ持ち帰るのか。米は自分のとこで炊くのか)

・・・

店員「お待たせシマシタ、ダルカレーです」コト

澪「わぁー」

53: 2009/09/05(土) 01:26:07.84 ID:bmgHjjTP0
鮮やかな色のサフランライスに、平底の鉄製小鉢に入ったルー。

カウンターに立てかけられた食べ方メモを手に取る。

澪「ふんふん…別々に食べてもかけてもいいか。じゃあまずは別々で」

澪「いただきまーす」

澪「まずはやっぱりルーからだね。初ダルカレー!」パクッ

澪「……」モグモグ

澪「なんだろう、これ。豆?ぬるっとしたとろみがある…ちょっと苦手かも」

澪「それにスパイスは凄く効いているけど味があまり無いな」モグモグ

澪「気を取り直してライス行こう」モグッ

澪「……なんだか中途半端に日本人向けにされてる感じだなぁ」

澪(これは大盛りがなくて正解だったかな)

澪「かけてみよう。少しは食べやすくなるかな…」モグモグ

澪「……うーん、あんまり変わらないかも」モグモグ

澪「あぁ、それにしても肉が欲しい。タンドリーにするんだったな」

澪「やっぱりカレーには肉が入ってなきゃ……」モグモグ

59: 2009/09/05(土) 01:28:40.45 ID:bmgHjjTP0
・・・

澪「ふー(やっと片付いたぞ…)」カチャ

店員「コチラ食後のチャイです」コト

澪「あっ、どうも」

澪「チャイティー!スタバでしか飲んだことないけどどうだろう」

澪「アイスなんだ。夏だからかなぁ…いただきまーす」チュー

澪「……なんかぬるい…それに牛乳の味が強いなぁ。薄い味のついた牛乳みたいだ」

澪(そうだ、目を閉じて飲んでみよう)

澪「……」チュー

澪「はは。別にインドに居る気分にはならないか」

61: 2009/09/05(土) 01:30:21.10 ID:bmgHjjTP0
澪「ふぅ、ごちそうさま」

店員「890円デス」

澪「はい」チャリ


澪「……はぁ。期待感が大きかっただけにしょんぼりしちゃったぞ……」

澪(でも向こうの人にはこれが家庭の味なんだろうな)



夕暮れ時の住宅街。今日も様々な“家庭の味”の匂いで満ちている。


澪(今のは肉じゃが。……こっちは…あ、カレーだ。ぷぷっ)


そんな事を考えながら家路につく私であった。

71: 2009/09/05(土) 01:37:25.59 ID:bmgHjjTP0
―――

澪「さて、こんなもんかな」

夏の休日、私は買い漁ったバンドスコアを鞄につめ、街を歩いていた。

澪「にしても今日はあっついなー、どこか喫茶店にでも寄って一休みしたいところだ」

フラフラ…

澪「ん?」

路地にある一軒の店が目に留まる。

澪「入り口脇の…なんだこりゃ。トーテムポール?」

澪「反対側には赤電話。変なセンス」

澪(でもなんだかすごく懐かしい雰囲気が漂ってるなぁ…)

古い煉瓦造りの入り口にかけられた看板を見る。

澪「珈琲ってある。喫茶店なんだ。丁度いいや、ここにしよう」

72: 2009/09/05(土) 01:39:34.94 ID:bmgHjjTP0
店員「いらっしゃいませ。お一人様でございますか」

澪「あ、はい(わぁあ執事みたいなおじいちゃん。雰囲気あるなぁ)」

店員「席はどちらにいたしますか?」

澪(ん?あ…中で半地下と半二階になってるのか。面白いな)

澪「じゃあ下で」

店員「かしこまりました、ではこちらへどうぞ」


澪「ふぅ。えーっとじゃあ…アイスコーヒーください」

澪(しっかし随分と古そうなところだね。何年前からあるのかなぁ)

何の気無しに脇の煉瓦の壁を見てみる

澪「わぁ。なんだこりゃ、落書きだらけだ」

訪れた人達の“記念の落書き”のようだ。
店内が落ち着いた薄暗い照明のため遠くからは良く分からなかったが、
こうして見ると壁一面にびっしりと隙間なくある。

74: 2009/09/05(土) 01:41:02.19 ID:bmgHjjTP0
澪「もしかすると結構有名なところなのかもしれないなぁ。客もいっぱい入ってるし…」

澪(ネットで調べてみよう)ピッピッ

澪「あ、出た。やっぱり有名なんだ…わぁあナポリタン!これが名物だったのかぁ」

澪「そうだよ喫茶店と言えばナポリタン…何してんだ私はぁ~」ペチ

急にとても損した気分になる。考えてみればそろそろ昼時、小腹も空いている頃合だ。

澪「『飲み物は生ジュースが名物』。こっちもハズしてるじゃん!も~」

なんて後悔をしているとほどなく、アイスコーヒーが運ばれてきた。

店員「お待たせしました」

澪(ありゃ、普通のお姉さん。おじいちゃんは席案内だけなのか)

店員「以上でお揃いですか?」

澪(ん~、ナポリタンどうしよう……)

澪「あ、はい。大丈夫です」

澪(ま、ここはコーヒーで一息つくだけけにしとこうか)

79: 2009/09/05(土) 01:45:14.81 ID:bmgHjjTP0
実を言うとお昼はどこで食べるかもう決めていたのだ。
この街に来たらここ!という店が私にはあった。

澪「ナポリタンも興味あるけど、もう決めてきちゃったからね~」

澪「…ん、ついてきたのミルクだけ?ガムシロップ無いのかな」

澪「どうしよう、店員さん呼ぼうかなぁ…声出すの恥ずかしいなぁ」

澪(ええい、飲んでみてブラックでも飲めそうならいっちゃえ)チュー

澪「! 甘い。最初から甘いんだ。そういえば昔の喫茶店ってこうなんだよね」

澪「うーん外暑かったから生き返る!」

澪「コーヒー自体は普通だけど…雰囲気のお陰でおいしさ3割り増しだね」チュチュー

澪「…………あっ」

コーヒーだけだとなんとなく暇なので、改めて壁の落書きを観察していると
その中の一つに見慣れた名前を発見した。

『軽音さいこー!ゆい☆』

81: 2009/09/05(土) 01:47:33.55 ID:bmgHjjTP0
澪「ぶはっ! ……ん?あれ、こっちのはまさか…」

『唯さいこー!律』

その脇には更に唯と律の名前が記してある相合傘が描かれている。

澪「なんだあいつら二人でここ来てたのか……」

澪(たく、こんな店知ってるなら教えてくれたっていいのに)

と同時に、ぼっちで二人の落書きを見ているこの状況に切なくなる。

澪「……はぁ~…和とか誘ってみれば良かった……」チュー


澪「おいしかった。ごちそうさま」

カラカラン♪

モワッ

澪「わぁあ暑っ!ずっと冷房の中に居たから余計に暑く感じるよ」

澪「さーてご飯食べにいくぞぉー♪」

85: 2009/09/05(土) 01:52:20.86 ID:bmgHjjTP0
喫茶店を出て大通りをぶらぶらと歩く。

通称“やさしさ通り”(澪が勝手に呼んでるだけ)

澪「この辺りにはチェーンじゃない洋食屋とか多いんだよね」

澪「昔懐かしの定食屋って感じでオシャレ過ぎてもない、ぼっちにはすっごく優しいんだ」テクテク

ほどなくして目的の店が見えてきた。

澪「あっ、やっぱり少し並んでるなぁ~」


―ラーメンさ○ちゃん―


ここが私の目指していた店だ。


澪「この界隈に来たらここで半チャンラーメン食べてかないと落ち着かないよ」

澪「さて並ぼう……ん?張り紙だ。何々」

―原料高騰の折、ラーメンのお値段を値上げさせていただきました

澪「ありゃ、そうなんだ。でも仕方ないね。いくらになったんだろ」ヒョイ

澪「40円値上げかぁ。それでも半チャンセット690円、安い安い」

87: 2009/09/05(土) 01:55:14.35 ID:bmgHjjTP0
・・・

澪「お、席空いた」

店主「どうぞー」

人柄の良さそうな親父さん。いや、もうおじいちゃんだね。
店名の○ぶちゃんその人である。

澪「へへへ、どうも」ガタッ

調理場とカウンター数席だけの狭い店内。一番奥に腰掛ける。

澪「半チャンください」

店主「はい半チャンねー」

澪(親父さんなんだか前に来たときより元気が無いなぁ…大丈夫かな)

煙草で一息つきながら黙々とラーメンを作っていく親父さん。

調理場で煙草を吸うなんて、という人は多そうだけれど
こういう店ではアリな光景だな、と私は思っている。
煙草の灰がうまみの素!なんちゃって。

澪(しかしサラリーマンだらけだね、女子高生は私だけか)

なんて事を考えているとラーメンが出来上がった。

店主「お待たせしましたぁー」ゴト

89: 2009/09/05(土) 01:57:57.93 ID:bmgHjjTP0
澪「いただきまーす」パチン

ズズルー

澪「うまい!」

刻みネギとメンマ、チャーシューだけのシンプルな醤油ラーメン。
このシンプルさが日々の気苦労に疲れた体を癒してくれるのだ。

澪(ぼっちは色々悩み多き生き物なのです……ってね)

澪「モグモグ…この甘い味付けのメンマがいいんだなぁ」

澪「チャーシューは底に沈めておいてスープを染み渡らせてから食べるぞぉ」ギュウー

澪「ズズー」

澪「ぷぅ。この体全体に染み渡っていくような感覚!シンプルな醤油スープじゃないと味わえないよね」

店主「お客さん久しぶりだねぇ」

澪「あっ、へへ…あんまりこっちに用事がなかったものですからー」

店主「そうかい、たっぷり食べていってよ」

澪「はーい」

91: 2009/09/05(土) 02:00:01.50 ID:bmgHjjTP0
澪「さて、チャーハンも食べちゃおう」

ところどころ白い部分が残っているチャーハン。
どちらかと言えば家庭のチャーハンって感じ。

澪「ところがどっこいそこが良い~っと」

澪「もぐもぐ」

澪「おいしー!この濃い味付け!ここはいつも変わらない味だね」

店員「すいませんお待たせです、卵買ってきましたー」

店主「あいお疲れ、ちょっとラーメン見ててくれるか…三つね」

店員「はい」

店主「ふぅーっ…」

澪「……」チラッ

93: 2009/09/05(土) 02:01:02.31 ID:bmgHjjTP0
戻ってきた店の外に出て椅子に座って一服する親父さん。
疲れてそうだなぁ…


澪(私が大人になる頃には、もうこの店もやっていなかったりするんだろうか…)


ふとそんな事を考えてしまい、急に寂しくなって箸が止まる。


澪(もうあと何度来れるんだろう……)

澪(しっかりとこの味を覚えておこう)


私は箸を取り直し、残りのラーメンをじっくりと噛み締めるように食べるのであった。

97: 2009/09/05(土) 02:05:44.81 ID:bmgHjjTP0
唯「やったね!おっす!」ガチャ

律「おっす唯!何がやったねなんだ?」

唯「別にー、言ってみただけだよ~」

律「やったね!」

唯「あっ、りっちゃんまねっこ?」

律「唯が部活に来た!やったね!!」

唯「何それ~あはは」

律「唯ぃい~!」ガバァ

唯「ちょちょ、やめ…」

律「」

紬「今日はチーズケーキよ唯ちゃん」

唯「ホンマ!?やったね!」

律「やったな唯ぃいい唯が嬉しいと私も嬉しいよぉお」

紬「あらあら……//」

102: 2009/09/05(土) 02:12:29.24 ID:bmgHjjTP0
唯「おいひい!おいひいよおお」モグモグ

澪「……」モグモグ

梓「そういえば澪先輩、土曜日さ○ちゃん行ってませんでした?」

澪「え?」

梓「並んでるの見ましたよ」

澪「あ、梓居たのか」

梓「えぇまぁ。ちょっと近くに用があったので」

澪(……あ、そういえば近くに二郎あったな…)

澪「っていうか見かけたんなら声ぐらいかけてよ……」

梓「えっ!…スイマセン何か忙しそうだったので~」

澪(嘘つけ)

梓「あっ、唯先輩口のまわりべったべたですよ~」

唯「ほんと?やったぁ口のまわり味わうぞぉ~♪」ペロペロ

澪(唯とかだったら話しかけたんだろうなぁ……ハァ…)モグモグ

106: 2009/09/05(土) 02:27:43.57 ID:bmgHjjTP0
澪「……」

律「唯ぃいあーんしてよあーん」

唯「いいよりっちゃん自分で食べるから」

律「そんなこと言うなよぉお」

澪「そ、そういえばさ~」

唯「どうしたの澪ちゃん?」

澪「私こないだ面白い喫茶店見つけてさ。入り口にトーテムポールなんか立ってるとこで」

唯「あっ、それ知ってるよぉ~!赤デンワもあったでしょ」

律「あぁ、あそこかぁ。唯一緒に行ったよなー♪」

紬「もしかしてこないだりっちゃんに教えてもらったとこ?」

律「そうそう!梓も行ったんだろ?ムギと」

梓「良かったですよ」

律「へぇーそうかぁ、澪も見つけたんだ!いいよなあそこ」

澪「……うん……」

澪「……」モグモグ

113: 2009/09/05(土) 02:41:45.29 ID:bmgHjjTP0
また休日。

いつものように誰からも遊びに誘われなかった私はふらふらとあてもなく街を彷徨っていた。

めし屋を探して。

澪「はぁ…お腹が減った……」

澪「それにしてもここいらは本当に洒落たイタリアンやらばかりだなぁ」

澪「あんなとこぼっちが入ったら一瞬で白骨化してしまうぞ……」

めし屋だ。ぼっちが入れるめし屋は無いのか。

澪(あぁ…私の座れる場所がどこにも無い街)

澪「……」ピタリ

気が付けば私の足は桜水産の前で止まっていた。

澪「うぅ……結局こういう選択になるのか」

114: 2009/09/05(土) 02:43:05.13 ID:bmgHjjTP0
澪「本日のランチ…マグロ刺身定食ってやつでいいか」ピッ


澪「ふぅ。なんだ昼間から飲んでる人多いなぁ…する事ないのかな」

澪(と、ぼっちの私が言えたことじゃないけど…はは、案外あれが未来の私だったりして)

店員「お待たせしゃっしたー」

澪「どうも」

澪「さて、食べるぞぉー」

澪(……うわ、刺身4切れだけ。相変わらずしょぼいな。まぁワンコインだし仕方ないか)

刺身の他はご飯、味噌汁のみ。

澪「まぁいいや、ここのメインはおかずじゃないもんね」

卓に備えつけられたのりに柴漬け、のりに生卵。

いわゆる“フリーおかず(勝手に呼んでるだけ)”だ。

加えてご飯に味噌汁もおかわり自由なので定食についてくるおかずはオマケのようなものなのだ。

澪「まずは漬物とのりで一杯目を食べるぞ~」

澪「最初に卵かけご飯やると茶碗が汚れて美しくないからね!」

118: 2009/09/05(土) 02:48:33.94 ID:bmgHjjTP0
もぐもぐ…

澪「はぁ。なんとも普通なご飯だ。空腹が調味料だね」モグモグ

食べながら、窓から外の通りを眺める。

腕を組んで歩くカップル、友達同士じゃれあいながら走っていく子供達―

澪「……お、おいしいな~この柴漬け!はははうまいぞぉー」モグモグ

澪「あっ、味噌汁全部飲んじゃった。おかわりしてこよ」スッ

カパ

澪「ん?もうほとんど残って無いぞ…」

澪「どうしよう、言うの恥ずかしいなぁ……」

鍋を傾け、わずかに残った味噌汁を集める

澪「情けない……うぅ……」チャカチャカ

澪「……くずみたいなワカメしか入ってない……」

126: 2009/09/05(土) 02:55:37.80 ID:bmgHjjTP0
澪「……どうしよう、味噌汁これで最後かぁ」

澪「ラストはねこまんまで締めるつもりだったのになぁ…」

澪「卵かけご飯中は手をつけないでおいておくという手もあるけど
  それじゃあねこまんまやる頃にはぬるくなっちゃうぞ…」

澪「卵かけご飯を取るべきか捨てるべきか…それが問題だよ」

客「スイマセーンっ!ちょっとぉー!」

澪「?」

店員「ハイなんでしょう」

客「これ、味噌汁無くなってるんでェ」

店員「あ、はいすぐ新しい物をお持ちします」

澪(やったー!ナイス!これで悩みが吹き飛んだぞぉー、ははは)

澪「じゃあ卵かけご飯し~ようっと♪へへ」

130: 2009/09/05(土) 03:02:58.88 ID:bmgHjjTP0
澪「醤油はちょっと少なめが好きなんだよね」ツツー

澪「ほいほいほい」カチャカチャカチャ

澪「よいしょっと。食べるぞぉー」ザフザフ

澪「ングむ……ご飯ぬるっ!」

澪「卵かけご飯はあっつあつ炊きたてにやると卵固まって嫌だって人いるけど
  私はあっつあつ派だなぁ……」

澪「この保温されすぎて微妙な温度と水気の無くなったご飯!」

澪「卵かけて更にしまりがなくなった感じだよ」

澪「はぁ、まるでぼっちの私のような卵かけご飯だ……」モグモグ


客1「なァ、さっきからあの子一人で何言うとるの」ヒソヒソ

客2「さぁ…こんなとこに一人で来る女子高生なんてよくわからんね」ヒソッ


澪「…………」モグモグ


139: 2009/09/05(土) 03:10:54.90 ID:bmgHjjTP0
澪「だめだ、これは醤油を足した方がいいな」ツー

澪「よーし、更にのりで巻いて……あ、そうだ!」

澪「ついでだから柴漬けを乗せて、それで巻こうっと」マキマキ

澪「へへ…澪流リトルグルメ…そうだなぁ、卵と柴漬けの結婚式with仲人ノリスケかな」

澪「もぐ」

澪「オーマイコ~ンブ!なんちゃって~ははは」

ヒソヒソ…クスクス

澪(……ぼっちだってご飯ぐらい楽しく食べてもいいじゃないか……)


澪「さてねこまんまして帰ろうかな」

143: 2009/09/05(土) 03:16:38.07 ID:bmgHjjTP0
カパ

澪「うわぁーすごい、替えたてだからあっつあつの味噌汁だぁ」

澪「へへ、具いっぱい取っちゃおう」ツーッ

澪「おとと、なかなかうまく集まってくれないなぁ…このっ」

澪「くそぅこのっ、この……流れて逃げるな、金魚すくいの金魚かっ!」

澪「むむぅうう、こn」
客「……あのー…」

澪「!?」

澪「あっ!!す、すいませんすぐつぎますから…」ジャバジャバ

澪「ごめんなさい、どうぞ…//」

澪(うぅっ、恥ずかしい……)

澪「あっ!?」

澪「しかも急いでついだから具がほとんど入らなかった……」

澪「はぁ、なんか今日は微妙にズレる日だなぁ……」

145: 2009/09/05(土) 03:26:23.19 ID:bmgHjjTP0
澪「……」ジャバーッ

澪「やっぱり茶碗に味噌汁だね。味噌汁椀にご飯は美しくないよ」

澪「さて、食べよう……ん?」

窓の外、店の正面の横断歩道を信号待ちしている二人の少女が目に留まる。

澪「あっ!唯に律じゃないか……!」

澪「反対側に手を振ってるぞ」

澪「! む、ムギと梓…四人で遊ぶんだ……」

澪(どうしよう。この辺りで遊ぶのかな…早いとこ店出てこの辺ぶらつこうか)

澪(偶然を装って見つかってみたら拾ってくれるかなぁ~)

澪「……」カッチャカッチャ

澪「……ぷは!ごちそうさまー」チラ

澪「あれ!?居ない!どこ行ったんだ!?」


「窓際の席にしようよぉ~♪」

澪「!!!!」

153: 2009/09/05(土) 03:33:56.85 ID:bmgHjjTP0
梓「でもこんなとこ知ってるなんて意外ですね」

律「へへ、親父がたまに昼ここで食べるらしいんだー」

唯「たまごとかおかわり自由なんでしょ!?すごいよぉー」

紬「私こういうお店は初めて~」

ワイワイ…


澪(やばっ、流石にこの状況で会うのは気まずすぎる……!)コソコソ

唯「あっ、澪ちゃんだ!」

澪「」

律「えっ?あ、マジだ」

紬「澪ちゃんこんにちは~」

梓(うわぁあ……こりゃかわいそうなタイミングで遭遇しちゃったね…)

澪「……よ、よ~。何してるんだお前らー」

162: 2009/09/05(土) 03:42:47.15 ID:bmgHjjTP0
律「実はこの店ご飯に味噌汁、卵までおかわりし放題らしいんだよー
  って澪は食べてたんなら知ってるか!ははは」

紬「この機会に人生初の卵かけご飯にトライしてみようと思うの」

梓(おいおい、初って。おいおい)

唯「ご飯代は節約するんだぁ~、今日はこれから映画にいk もが!」ガシ
律「ははは!たまにはこんなとこもいいかなって!!(唯っ、空気読めって!)」

澪「! そ、そっかァー映画行くんだ……」

律「あっ……ごめんな澪誘ってなくて」

律(だってこいつ隣でポップコーン食うなとか言うしな…)

澪「い、いいんだよ別に~ははは、今月お小遣い厳しかったしさぁーどっちにしろ無理だったよ」

澪「あははははは」

梓(わぁあぁ……なんだろうこの気持ち……)

172: 2009/09/05(土) 03:51:12.05 ID:bmgHjjTP0
紬「澪ちゃんは何しに来てたの?」

澪「えっ!?と、特に何も……」

唯「そうなんだ!もう食べ終わったの?」

澪「うんもう帰るとこだよ……(早く立ち去りたい。帰ってベッドに突っ伏したい)」

唯「えぇ~せっかく会えたのに…おかわり自由なんだからもうちょっと居ようよぉ」

澪「」

梓(唯先輩……これ真面目に言ってるってのがまたアレだよね……)

澪「そ、そっかぁ~?ははは、じゃあどうしよっかなぁ、もうちょっと居ようかn」

カチャカチャ

澪「あっ!?(食器が……)」

律「……」

175: 2009/09/05(土) 03:54:08.56 ID:bmgHjjTP0
紬「さ、下げられちゃった……」

梓(まぁ結果オーライじゃないですかね)

澪「……か、帰るよ。じゃあまた…えと、月曜な~」

唯「うぅ、ざんねん…またね澪ちゃん」

律「またな」

紬「またね~」

梓「またです。おつかれです」

澪「……」フラフラ


唯「わぁああじゃあ私さっそく卵まぜちゃっていい!?いい!?」

律「いいよ唯ぃいどんどん混ぜちゃってよぉおカワイイよぉ」

紬「あらあらあら…私もやろう♪」

梓「柴漬けおいしいですね」コリコリ


私は皆の楽しそうな会話に振り返ること無く静かに店を後にしたのだった。

澪(映画何見るのかなぁ~。はぁ…ツタヤで何か借りて帰ろうかな)トボトボ

186: 2009/09/05(土) 04:02:27.99 ID:bmgHjjTP0
澪「ふぅ~、さて何借りようかなぁ」

澪「楽しい気分になる映画がいいな!」

澪「スカッとする映画とかでもいいなぁー」

和「あら?澪じゃない」

澪「えっ!?あ、和!わぁー何してるんだ!?偶然だなー!」

和「(声でかっ…)な、何ってビデオ借りに来た以外に何があるのよ」

澪「そうだよなー!はは、何聞いてるんだ私はぁ~ははは」

和「勉強が一区切りついたからね、息抜きでもしようと思って」

澪「そっかぁー!何借りに来たんだ?」

和「うーん…実はちょっと気になってたのがあって、それ探しに来たんだけど…」

和「あった。これこれ」スッ

澪「あ、それ見たことあるよ!そこそこって感じだったよ」

和「」

和「そ、そう……」カタン

194: 2009/09/05(土) 04:09:24.47 ID:bmgHjjTP0
和「じゃあ私もう行くわね…」

澪「えっ、借りないの?」

和「また今度にするから…」

澪「あ、そう……」

和「じゃあ」

澪「またね」


澪「……(もしかしたら一緒に観れるかもなんて幻想を抱いてしまった……)」

澪「はぁ。あ、トランスフォーマーか。これでいいかスカッとしそうだし」

―――

澪「さぁ観るぞー!丁度律達も観始めてる頃かなぁ~」

・・・

澪「……なんだこのプレステのゲームみたいなCGは……」

澪「あ、よく見るとタイトルが違う……パチモン……」

202: 2009/09/05(土) 04:28:11.14 ID:bmgHjjTP0
ガヤガヤ…ワイワイ

澪「へへ、ア○横は活気があっていいね。並んでるお店見てるだけでわくわくしてくる」

澪「魚屋さんって何かテンション上がっちゃうなぁ~。あ、すごい蟹まだ生きてるぞぉ」

「ウマイヨーウマイヨー!ネェチャンニーチャンラッシャーイ」

澪「ん?」

澪「ケバブかぁ。へぇ~…そういえば食べた事無かったなぁ」

澪「この機会に食べてみようか」

店員「ラッシェエネエチャーン、ウマイヨ!」

澪「一つくださーい」

澪(ってうわ!一つ500円もするの?高ッ)

店員「スグツクルからマッテテネー」チャキチャキ

205: 2009/09/05(土) 04:34:07.05 ID:bmgHjjTP0
澪「…あ、この肉ってばら肉重ねてタワーにしてるのかぁ」

澪「今まで大きい肉を串刺してるのかと思ってた」

澪「んん~いいニオイ」

澪(…しかしこれ一日で全部使えるのか?余ったらどーするんだろ……)

店員「ハイオマチー、カライヨー」

澪「どうも」

澪「……どこで食べればいいんだろう。このベンチしか無さそうだけど…」ストン

澪「……」モグモグ

澪「おいしい!」

澪「……(うぅ、でも私しか食べてないから店員さんの視線が…落ち着かないよ)」モグモグ

「すいませーん二つください」

店員「ラッシェ!ニイチャンネエチャンウマイヨー」

澪(カップル客だ。はぁやっと店員さんの視線が外れてくれたよ)モグモグ

207: 2009/09/05(土) 04:36:08.77 ID:bmgHjjTP0
店員「ヘイオマチー」

男「うまそー!…てかどこで食べる?これ」

女「このベンチでよくない?」

澪「」

男「だなぁ、じゃ食べよう」

澪(正面のベンチに座るなよぉおお……)

澪(くそっ、見てるのか…こっち見てるのか?)モグモグ

ヒソヒソ

澪「!(こ、小声で喋るなよぉ…私のこと何か言ってるのかと思うだろぉ……)」

澪(あぁ、早く食べてどっか行こう…うぅ、折角おいしいのに味わってられないなんて…)

「澪ちゃん!」

澪「!?」

律「よ、よぉー」

澪「唯…律……」

208: 2009/09/05(土) 04:36:49.99 ID:bmgHjjTP0
唯「ほらねりっちゃん、やっぱり澪ちゃんだったでしょー♪」

律「唯は澪見つけるの上手いなーははは」

澪「な、何してるんだ」

律「いやその…唯がケバブ食べてみたいっていうから……」

唯「りっちゃんちたまにここに買い物に来たらいっつも食べるんだって!」

澪「そ、そうかー。ははは」

唯「澪ちゃん何してたの?ひまなら一緒にまわろうよぉ」

澪「えっ。いいのか?」

律「……まぁ唯がいいっていうならァ…いいけどぉ……」

唯「じゃあ決まりだねー!へへへこの後は服見に行くんだよぉ」

澪「唯ぃ……グスッ」

209: 2009/09/05(土) 04:40:57.90 ID:bmgHjjTP0
律「泣くなよオイ」

澪「だってぇ……グス……」

唯「とりあえずけばぶ買おうよ~、ふたつくーださーいな~」

店員「ヘイ!ネェチャンタチ、ドッチガカレシ?」

唯「ほぁっ!?」

律「な、何言ってんだろうなこの人!はははは、唯気にするなってェ」

唯「うーん……りっちゃんが彼氏かな!」

律「!!ゆ、唯ぃ~ッ……グスン」

澪(お前も泣いてンじゃん……)

店員「ヘイオマチ!デキタヨーカライヨー」

唯「わぁーいいにおいだよぉお」

唯「じゃあ食べよう!澪ちゃん隣座っていい?」

澪「い、いいよ!待っててつめるから」ササッ

唯律「いただきまーす!」


HAPPY☆END

222: 2009/09/05(土) 04:57:40.51 ID:bmgHjjTP0
――アメ横の奇跡から数日後。

私はアッサリとまた元のぼっちの鞘に納まっていた。

また一人で散歩をするだけの休日。


澪「…………」テクテク

考え事をしながら足の向くままに散策する。

いつもならお気に入りのめし屋のことなどを考えるのだが、

その日私が考えていたのは珍しく、自分の身の振り方についてだった。

澪「唯は私が誘ったら遊んでくれるんだろーか」

澪「でももし二人で遊んで楽しく感じてくれなかったらどうしよう……」

結局余計なことを気にしすぎて誘えない。

まさにぼっちの思考である。

澪「消極人間ぼっちここに極まれり、か……」テクテク

澪「はぁ…だめだ、お腹が減って頭が働かないや」

澪「とりあえずめし屋だ……どこか適当なところで飯でも入れよう」

223: 2009/09/05(土) 04:58:21.13 ID:bmgHjjTP0
ごめんちょっと最初の路線からズレたからリセットした

231: 2009/09/05(土) 05:10:21.15 ID:bmgHjjTP0
と、そこでやっと気が付いた。また知らない場所に迷い込んでしまっていたことに。

澪「あちゃー私っていっつもこうだなぁ…どこなんだろここ」

澪「まぁいいか。もしかしたらいいめし屋と巡り会えるかもしれないぞ」

澪「そう考えると迷子も悪くないなって思えてくるよなー、ははは」テクテク

住宅街…学生街かな?アパートがそこかしこにある。

そんな中にもめし屋がぽつぽつと。

澪「へぇ~、こうして見ると結構面白そうな店が多そうだぞ」

澪「中華!うーん……悪くないんだけど……とりあえずあの先にも店があるぞ」

澪「ここはイタ飯かぁ。パスタ……スパゲッティ…そうだなぁ…でも他にも見てない店がまだありそうだ」

澪「とんかつ……蕎麦屋……定食屋……」

澪「参ったなぁ、もう無いかと思って少し歩くと次のめし屋がある」

澪「最初の中華でもいいかと思えてきたけど戻るのが面倒だ……」

澪「これじゃきりが無いや、もう次のめし屋に決めよう!」

238: 2009/09/05(土) 05:38:04.34 ID:bmgHjjTP0
澪「……お、ここめし屋だぞ」

澪「なんて読むんだ?薔薇…“ばらえてい”……ん、バラエティーって読むのかな?ダジャレ?」

澪「しかし何の店なんだろう。欧風家庭料理とあるけどいまいち分からないな」

澪「でも逆におもしろそうだな!よしここに決めたぞー」

カラカラン♪

澪「おや、いきなり階段ですかー」トントントン

店員「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」

澪「あっ。ハイ……(毎度この瞬間だけは何か嫌だ)」

店員「こちらへどうぞ」

澪「ふぅ」ギッ

澪「……あ、ランチセットがあるぞ。ボルシチ?ロシア料理の店なんだろうか」

239: 2009/09/05(土) 05:40:57.65 ID:bmgHjjTP0
澪「うーん…ボルシチって食べた事無いんだ。少し気になるなぁ」チラ

澪「あっ。若鶏のクリーム煮つぼ焼き風ってこれどうだろう。これもよさそうだ」

澪「ま、迷うなぁ……」

店員「いらっしゃいませー」

澪「新しい客だ…うぐ、先に頼まれると来るのが遅くなっちゃうぞ。早く決めよう」

澪「……すいませーん!」

店員「はい、おうかがいします」

澪「えと…このBのランチをください」

店員「若鶏のクリーム煮つぼ焼き風ですね。デザートはいかがいたしますか?」

澪「あ…じゃあこの3種のデザートプレートっていうのを」


澪「ふ~……焦って注文しちゃったかな…でもいいや」

240: 2009/09/05(土) 05:45:48.22 ID:bmgHjjTP0
・・・

澪「あっ。サラダが来た」

澪「一応コース料理なんだね。へへへ」カチャカチャ

澪「キャベツがメインか。見た目には普通のサラダだなぁ」

澪「お、皿がちゃんと冷やしてあるや。いただきまーす」モグモグ

澪「んー、いいね。素直な味付け。優等生…和みたいな味だ」

澪「このドレッシングは自家製なのかな?気に入ったよ」モグモグ

カラカラーン

店員「いらっしゃいませー」

澪「……」チラ

澪(しかしさっきから来ている客層……年配の小奇麗な人が多めだなぁ)

澪(そういえば近くに大学があるみたいだった。そこの教員の人達だろうか…雰囲気がそんな感じだ)

澪「浮きまくってるなぁ私……でも同年代ばかりの店よりはぼっち感無いぞ」モグモグ

246: 2009/09/05(土) 05:51:23.10 ID:bmgHjjTP0
・・・

店員「お待たせしました、こちらつぼ焼きです」

澪「わぁー、来た来た!ポットパイって好きなんだ、私」

サクサク

澪「このパイのドームを破る瞬間が楽しい!」

澪「さて中は……んんっ」

澪「大きい野菜がごろごろしてるぞー。あはは凄い凄い。おいしそー」

澪「でもこれだけで足りるかなぁ…」モグモグ

澪「ん?シチューかと思ったけどチーズがいっぱい入ってて…こりゃ結構重たそうだ」

澪「おいしい!んん~いいね、チーズがすきっ腹にガツンと響くね」モグモグ

澪「シチューに入ってるにんじんの甘さってなんか優しくっていいよなぁ」モグモグ

澪「……」モグモグ

247: 2009/09/05(土) 05:53:20.13 ID:bmgHjjTP0
澪「……これ底が見た目より大分深いな…美味しいけどちょっと飽きてきちゃったぞ……」

澪「やっぱりボルシチにしとけばよかったかな。ピロシキもつくみたいだったし…」


店員「お待たせしました、こちらボルシチとピロシキです」

澪「ん?」チラッ

澪(あのお客さんのがボルシチかぁ)

澪(でか!でもおいしそうだなぁ。なんだろう、赤っぽいビーフシチューみたいな感じだ)

客「……」チラ

澪(あっ!見られてしまった…恥ずかしい。失礼な子って思われたかなぁ……)モグモグ

248: 2009/09/05(土) 06:00:09.31 ID:bmgHjjTP0
・・・

澪「ふう。かなりお腹にたまったぞ…」ポンポン

店員「食後の紅茶です」

澪「あ、どうも」

澪「……」カチャカチャ

澪「…デザートはまだかな。食後の紅茶といったらデザートだろうが」

店員「お待たせしました」カタ

澪「きたきた!うわぁー」

澪「バニラアイスにフルーツケーキに…プリンかな?どれもおいしそう」

澪「まずはフルーツケーキから…へへ、ムギがよく持ってくるやつに似てるな」トン パク

澪「おいしい!ちょっと硬めの食感で私好みだ。今日のランチは当たりだよ」

澪「お次はプリンかな。これとか唯が好きそうだな」

澪(……唯達は今日は何してるんだろうか)

250: 2009/09/05(土) 06:07:10.12 ID:bmgHjjTP0
―――

唯「おいひい!このケーキおいひいよぉ~」モグモグ

律「はははホントか唯ぃいおいしいかー!よーし私も食べ…」

唯「うん!澪ちゃんにも食べさせてあげたいなぁ」

律「えっ。なんで澪?」

唯「なんでって。うーん…これ澪ちゃんが好きそうだなって」

律「ど、ど、どの辺が…?」

唯「えぇ~、どの辺て言われてもぉ……なんとなく!」

律「……唯ぃいいい~っ!」ガバァ

唯「わぁっ!?ちょっとりっちゃんお店の中だよぉ~っ」

律「そうだこの店の壁にも唯最高って書いとこう……」キュポ キュキュー

唯「」

254: 2009/09/05(土) 06:27:25.61 ID:bmgHjjTP0
―――

カランカラーン♪

澪「ふぅ~っ、満腹だぁ……」ゴソゴソ

ショッポをポケットから取り出すと口にくわえる。火は点けない。
“エア一服”(勝手に命名)だ。


―今日は久々にいいめし屋に出会えた。

ぼっちでふらふらしているとどこに入るも自分の意思次第、
当たったら嬉しいしハズしても自分が落ち込むだけで実に気楽だ。

こういう点ではやっぱりぼっちがいいかなって思ってしまう。
…な~んて考えを持つから私はいつまでもぼっちなのだろうか……


ふと唯の顔が浮かんだ。先週のアメ横は楽しかったなぁ。


澪「…よし!今後思い切って唯を誘ってみようかなぁ。お気に入りのめし屋にでも」


私は唾液でフィルターがくちゃくちゃになったショッポを箱に戻すと、
また道をぶらぶらと歩き出すのであった。

澪(ところでこれ帰り道どっちなんだ……)

256: 2009/09/05(土) 06:28:34.92 ID:bmgHjjTP0
朝です。キリのいい所で終わります、ありがとうございました。

259: 2009/09/05(土) 06:30:39.44

てか高校生なのにショッポ持ち歩くなwwww

引用元: 澪「へぇ、この野沢菜マジメな味」