1: 2012/06/06(水) 22:38:46.87 ID:DjopJoIp0


律「……へ? 廃部した?」

さわ子「正確には廃部寸前ね。昨年度までいた部員はみんな卒業しちゃって、
    今月中に5人入部しないと廃部になっちゃうの」



律達は軽音楽部を存続させるために東走西奔したが、5人の部員が集まることはなかった。
1ヶ月後、軽音楽部は廃部となった。


3: 2012/06/06(水) 22:39:57.43 ID:DjopJoIp0
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1年後。


梓(部活どうしようか…)

梓(軽音楽部は廃部になってしまったらしいし、入るとしたらジャズ研一択かな)

梓(見学期間だし、とりあえずお邪魔してみよう)

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ジャズ研部員A「あなたも入部希望かい?」

梓「あ、はい。今日は見学させてもらおうと思いまして」

ジャズ研部員A「お、ギター持ってるじゃん。じゃあ、練習に参加してみるかい?」

梓「はい。よろしくお願いします」

6: 2012/06/06(水) 22:43:13.20 ID:DjopJoIp0
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ジャズ研部員B「中野さんでしたっけ? 随分上手ねぇ。中学時代から楽器やってたのかな?」

梓「父がジャズをやっていたんで、その影響で昔から練習していました」

ジャズ研部員B「そうなのー。即戦力として期待できそうねぇ」


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ジャズ研部長「はい。じゃあ今日の練習はここまで」

ジャズ研部長「ちょっと遅くなったから、みんなすぐに帰ってね」

ジャズ研部長「新入生の子は特に気をつけて。暗くなるの早いからね」

9: 2012/06/06(水) 22:46:30.02 ID:DjopJoIp0
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梓(ジャズ研の先輩たちいい人だったな)

梓(指導も丁寧だし、練習熱心だし、ほぼ決定かな)

梓(…………あれ、ピアノの音が聞こえる。もう随分遅い時間なのに……)

梓(力強い音色……)

梓(この教室から聞こえる……ここは…合唱部の部室?)

梓(ちょっとだけ覗いてみようかな)

_
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梓(……女の人がピアノを弾いてる。綺麗な金色の髪……外国の人かな?)

梓(音も素敵だけど、私が入ってきたことに気づく様子さえないなんて、すごい集中力)

梓(見てるだけでわかる。この人はピアノに全てを捧げてるんだ)

梓(すごい!)

梓(終わっちゃった……拍手しないと)パチパチパチパチ

梓(って拍手なんてしたら気づかれちゃう)

11: 2012/06/06(水) 22:48:44.72 ID:DjopJoIp0
紬「…? だぁれ?」

梓「あ、すいません勝手に入ってしまって」

紬「入部希望の子かしら、お名前は?」

梓「中野…中野梓といいます」

紬「そう、梓ちゃんっていうの。梓ちゃんは合唱部に入部希望なのかしら?」

梓(違うけど、違うって言ったら、勝手に入ったことごまかせないよね)

紬「そう、違うのね。残念」

梓「す…すいません。あまりにいい音がしたから誘われちゃって」

紬「あらまぁ、それは嬉しいわ。ねぇ、ちょっとお話ししない? 
  ペットボトルのお茶ぐらいしかないけど、歓迎するから」

梓「じゃあ少しだけ」

14: 2012/06/06(水) 22:50:47.85 ID:DjopJoIp0

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紬「じゃあ梓ちゃんはジャズ研に入るんだ。残念」

梓「本当は軽音楽部に入りたかったんですけど、去年潰れちゃったらしくて」

紬「けいおん部かぁ…。実は私も1ヶ月だけけいおん部に所属していたの」

梓「なんで辞めちゃったんですか?」

紬「部員が5人揃わなかったの。4人までは集まったんだけどね」

梓「それは…残念です」

紬「梓ちゃんはジャズ研よりけいおん部の方が良かったんだね」


16: 2012/06/06(水) 22:51:40.03 ID:DjopJoIp0
梓「それはちょっと違います?」

紬「えっ?」

梓「ジャズは好きですし、仮に軽音楽部が存続していても、
  軽音楽部とジャズ研のどちらか雰囲気のいいほうを選ぼうと思ってました」

紬「うんうん」

梓「軽音楽部が存続してたら、先輩と一緒に音が作れたじゃないですか
  それがちょっと惜しいと思いまして」

紬「じゃあちょっとだけ合わせてみようか」

梓「えっ?」

紬「背中にしょってる楽器、弾けるんでしょ?」

17: 2012/06/06(水) 22:52:48.07 ID:DjopJoIp0
梓(先輩と二人だけのセッションが始まりました)

梓(合わせてみて改めてわかったこと。先輩の音は深い)

梓(慣れている曲をお願いしたけど、これほどレベルの差があるとは…)

梓(そんな私のことを引っ張ってくれるように、先輩は鍵を弾く)

梓(音が生き物みたいにうねりあって、ひとつの曲として生まれ変わっていく)

梓(初めての体験でした)

紬「どうだったかな?」

梓「せんぱぃ…すごかったです」

紬「それじゃあそろそろ帰りましょう。もう下校時間はとっくに過ぎてるんだし」

梓「ねぇ、先輩」

紬「なぁに?」

梓「もしよろしければ、また合わせてもらえませんか?」

19: 2012/06/06(水) 22:53:52.93 ID:DjopJoIp0
梓(結局ジャズ研には入らなかった)

梓(無理に部活に入る必要ないか、と思ってしまったから)

梓(理由は自分でもよくわかってない)

梓(ただ、私がそう思ってしまった原因が先輩にあることは間違い無い)



梓(放課後は純や憂とくだらない話題に花を咲かせ、二人と別れた後図書室へ行く)

梓(そこで私は勉強をしたり、本を読んだりして時間を潰す)

梓(部活動が終わる頃、私は作業を切り上げ先輩の元へ行く。ムスタングを背負って)

20: 2012/06/06(水) 22:54:37.60 ID:DjopJoIp0
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部長「紬、頼まれてた部室の延長利用申請出しといたわよ」

紬「あ、部長さん! ありがとうございます」

部長「紬のピアノがなきゃうちのコーラスは成り立たないからね。あなたの頼みならなんでも聞いちゃうわ」

紬「うふふ…褒めても何も出ませんよ」

部長「でも紬の家ならピアノぐらいあるんじゃないの? 部室にあるよりずっと立派なのが、さ」

紬「確かにそうなんですか……」

部長「何か事情があるのね…いいわ。詮索はしないでおいてあげる」

紬「ご配慮に感謝します、部長さん」

22: 2012/06/06(水) 22:55:03.80 ID:DjopJoIp0
部員A「あ、紬ちゃん。最近部活終わった後、部室に女の子連れ込んでるって本当?」

紬「そんなのじゃない…とも言い切れないのかな」

部員A「え、じゃあ紬ちゃんのコレなのコレ?」

紬「そうじゃないわ。でも大切な後輩なの」

部員A「ふーん。なんか進展あったら教えてよ。それじゃあバイバイ、紬ちゃん」


部長(…………ほどほどにね)

23: 2012/06/06(水) 22:55:46.01 ID:DjopJoIp0
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梓(私が合唱部の部室にきても先輩は気づかないことが多い)

梓(いつも先輩は真剣な眼差しでピアノに向き合っている)

梓(一曲終わった頃になってやっと私に気づく。そして声をかけてくれる)


紬「あら、梓ちゃん、きてたのね。ちょっと待って、お茶を出すから」


梓(それから私と先輩は少しだけ雑談をする)

梓(憂や純のこと、昨日の夜ご飯のこと、授業中の些細なミスのこと…そんな本当に些細なことを)


紬「それじゃあそろそろ合わせましょうか」

梓「はいっ!」


梓(雑談が終わると、私はムスタングを取り出し、演奏の準備をする)

梓(先輩の音に追いつけるよう、精一杯の力を振り絞って演奏する)

梓(私はこの瞬間が大好きだ。とても短いけど濃密な時間)

梓(自分の音が先輩の音に引っ張られて高められていく、確かにそう感じられる短い時間)

25: 2012/06/06(水) 22:59:45.13 ID:DjopJoIp0
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紬「梓ちゃんこの短期間で随分上達したわね」

梓「そんな…私なんてまだまだです」

紬「そんなことないわ。こんなスピードで上達するなんて普通じゃないもの。家ではギターばっかり弾いてるんじゃない?」

梓「はい。でも好きでやってますから」

紬「ちゃんと友達と遊んでる?」

梓「はい」

紬「毎日私のところに来てるから、学校の外で遊ぶ時間がなくなってないか心配なの」

梓「そんな…土日まで来てるわけじゃないんですし、友達と遊ぶ時間ぐらい確保できますよ」

梓(と言いつつ、最近外に遊びに行ってないけど)

梓(なんだか先輩納得してないような顔をしてる……じゃあ)

梓「先輩、今度の日曜遊びに行きませんか」

28: 2012/06/06(水) 23:01:48.72 ID:DjopJoIp0
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梓(待ち合わせ場所はここでいいはず。流石に20分前だから先輩もまだ…)

紬「わっ!!」

梓「うわぁぁあ! え? 何!? 先輩!??」

紬「おはよう。梓ちゃん」

梓「せんぱぃ……やめて下さい…。心臓か止まるかかと思ったじゃないですか」

紬「ごめんなさい。梓ちゃんのこと驚かしてみたくて待ちぶせしてたの」

梓「待ち伏せ?」

紬「そう。そこの影で隠れてたの」

梓「じゃあもっと前から来てたんですか?」

紬「うん。30分ぐらい前から来てた」

梓「なんでそんな早くから……」

紬「私、『今きたところなの~』って言うのが夢だったから…」

梓「驚かしたんじゃ、言えないじゃないですか」

紬「……」

梓(先輩がシュンとしてしまった…今日の先輩はいつもの先輩と違う気がする)

30: 2012/06/06(水) 23:03:25.02 ID:DjopJoIp0
紬「気を取り直してっと」

梓(あ、立ち直った)

紬「じゃあどこへ行こうか。梓ちゃんどこか行きたいところはある?」

梓「特に考えてないです。テキトーに街をまわればいいかなって」

紬「そうね。じゃあちょっと歩きましょうか」

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梓「あ、このお店でちょっと服見て行きませんか」

紬「うん。いいわね」

梓「あ、この服先輩に似合いそう」

紬「白いワンピースかぁ……ちょっと試着してくるね」

31: 2012/06/06(水) 23:04:09.00 ID:DjopJoIp0
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紬「どう? 似合うかな?」

梓「これは…すごく似あってます。こんなに白のワンピースが似合う人ははじめてかもです」

紬「そうかな? あれ、手に持ってるのは?」

梓「あ、これ面白かったから持ってきたんです。なんでこの店こんな服があるんでしょう?」

紬「じゃあちょっと着替えるね」

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紬「どうかな?」

梓「すごく似あってますけど……なんでこの店にナース服なんてあるんでしょう」

梓(そして先輩はなんでノリノリで着こなしちゃうの)

紬「次は…これね」

35: 2012/06/06(水) 23:10:16.01 ID:DjopJoIp0
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紬「じゃーん!」

梓「ゴシック口リータも完璧に着こなしちゃうんですね」

紬「梓ちゃんもこれ着てみてよ」

梓「嫌です。私にそんなの似合いませんよ」

紬「ダメ?」

梓(その上目遣いは反則です…)

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梓「ど……どうですか」

紬「そしてこれを装着」

梓「なんで猫耳なんてつけてるんですか。てかこの店なんで猫耳まであるんですか」

36: 2012/06/06(水) 23:10:37.24 ID:DjopJoIp0
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紬「うーん。これはなんと言えばいいのかしら…」

梓「?」

紬「世の中にこんなにかわいいものがあるなんて知らなかったわ!!」

梓「うわっ! 突然抱きつかないでください!!!」

梓(胸が顔にあたってる。というか先輩の胸に顔が埋まっちゃってる)

梓「…………」

梓「…………」

梓「…………」

紬「…ハッ、ご、ごめんなさい。あまりに梓ちゃんがかわいかったから」

梓「別に…気にしてませんから」

梓(胸…やわらかかった……)

37: 2012/06/06(水) 23:11:25.38 ID:DjopJoIp0
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紬「じゃあちょっとこれ買ってくるから待っててね」

梓「先輩、ナース服とゴス口リ服は要りません」

紬「えー。せっかく梓ちゃんが褒めてくれたのに」

梓「そんな声出さないで下さい。あんな服買っても着る機会なんてないですよ」

紬「……確かにそうね。じゃあワンピースだけ買ってくるね」


梓(先輩はしゃいでるなー)

梓(いつもの大人っぽくてミステリアスな先輩とは違うけど)

梓(明るくノリのいい先輩も悪くないかな)

38: 2012/06/06(水) 23:12:44.93 ID:DjopJoIp0
梓(その後、私と先輩はお昼を食べ、それから雑貨屋を見て回りました)

梓(先輩は思ってたよりかわいらしい人です。今日一緒に遊んでそれがよく分かりました)

梓(演奏の時は恐ろしい集中力を発揮するけど、はしゃぐときは思いっきりはしゃぐ)

梓(それが先輩の人となりであり、魅力でもある、そう思います)

梓(そろそろ帰ろうか、なんて話をしながら歩いていると、路上ライブをやっている男の人が見えてきました)

梓(その男の人はギター一本で語り弾していました。そんなに上手くない。ギターの腕なら私のほうが上だと思うし、歌もそれほどじゃない)

梓(でもいいなと思った。ああいう風に人に音楽を聴かせるるのが)

梓「……いいな」

39: 2012/06/06(水) 23:13:58.25 ID:DjopJoIp0
紬「梓ちゃん?」

梓「あ、口に出てしまいましたか」

紬「あの男の人がいいの?」

梓「ち、違います。ああいう風に人に音楽を聴かせるのが、です」

紬「梓ちゃんは路上ライブをやってみたいの?」

梓「それもちょっとやってみたいですけど、そうじぇなくて……人に自分の音楽を聴いてもらいたいなって」

紬「そうね……」

梓(あ、先輩が何か考えこんでる……たぶん私達が二人で放課後にやってる練習に関することだ)

梓(あの練習は先輩が善意で付き合ってくれてるものだけど、私はその成果を発表する場所がない)

梓(先輩と一緒に演奏するのはそれだけで楽しいけど、いつか誰かに自分の音を聴かせてみたいとも思ってる)

紬「いいこと思いついちゃった!」

梓「え?」

紬「梓ちゃん、私と一緒にバンドを組みましょう!」

梓「えええ!?」

40: 2012/06/06(水) 23:14:57.53 ID:DjopJoIp0
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梓(最初に誘うことになったのは平沢唯先輩)

梓(お小遣いを前借りしてギターを買ったのに軽音楽部が潰れてしまったので、たいそうショックを感じたそうです)

梓(そのショックの反動なのか、家ではひたすらギターを弾きまくってるとのこと)

梓(誘えば確実に落ちるだろうという判断から、最初のターゲットに決定しました)

梓(憂のお姉さんということでどんな完璧超人が出てくるのかと思いましたが……)


唯「ふむふむ。それで私のところに来たんだね」

紬「どうかしら唯ちゃん。一緒にバンド組んでくれる?」

唯「ムギちゃんの頼みなら断れないよー。ところで、この子抱きしめてもいいかな?」

紬「いいわよ!」

唯「えいっ!」

梓「うわっ、突然抱きしめないでください! 先輩もそんないい笑顔でゴーサイン出さないでください!!」

唯「うーん。いい抱きごこちだねー。次はりっちゃん? それとも澪ちゃん??」

紬「先にりっちゃんね」

45: 2012/06/06(水) 23:20:32.24 ID:DjopJoIp0
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梓(次に私達が向かったのは軽音楽部元部長の田井中律先輩のところ)

梓(部員を4人集め、存続まで後一歩のところまで上り詰めたのは、この人のおかげらしい)

梓(ノリのいい人だから大丈夫だって先輩は言ってたけど……)


律「いいぞーっ。私もけいおん部のことは不完全燃焼だったし」

紬「それでこそりっちゃんだわ」

唯「うんうん。それでこそりっちゃんだよー」

律「そんなに褒めるなよ。照れるだろ」

紬「じゃあ澪ちゃんのところ行こうか」

唯「うん」

梓(うん。ちょっと引くぐらいノリがいい…)

46: 2012/06/06(水) 23:22:37.34 ID:DjopJoIp0
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梓(最後に向かったのは秋山澪先輩のところ)

梓(なんでも裏ではミス桜ヶ丘と呼ばれているほど綺麗な人らしいです)

梓(先輩いわく、『今回のメンバー集めで苦戦するとしたら澪ちゃんでしょうね』とのこと)

梓(既に文芸部に所属しているそうで…)


澪「うーん。バンドをやってみたい気持ちも少しはあるけど、今は文芸部の活動に専念したいんだ」

律「澪~っ、そこを何とか、な」

澪「そんなこと言われても私は嫌だぞ。部員として書かなきゃならない小説だって最近スランプ気味で…」

唯「澪ちゃ~ん…」

澪「唯もそんな目で見るな。無理なものは無理なんだから」

48: 2012/06/06(水) 23:30:35.21 ID:DjopJoIp0
紬「ねぇ、澪ちゃん。なんでスランプなの?」

澪「上手く描写できないんだ。登場人物の感情の機微とか、考え方とか、そういうものを。
  無理すれば書けないことはないけど、そうすると全然自然じゃなくなっちゃう」

紬「ねぇ澪ちゃん。澪ちゃんのスランプはバンド活動すれば少しは解消するかもしれないわ」

澪「…?」

紬「バンド活動をやっていて澪ちゃんの感じたもの、考えたことを小説に盛り込んでいけばいいと思うの」

澪「そんなにうまくいくかな?」

紬「辞めたくなったらいつでも辞めていいから、軽く考えて、ね」

澪「…………ふーっ、そこまで言うならいいよ。私も参加する」

律「澪~っ、ありがとう!」

澪「試しに入ってみるだけだからな」

梓(と言いつつも、とても嬉しそうだ。これがツンデレってやつなのかな…)

51: 2012/06/06(水) 23:35:16.29 ID:DjopJoIp0
梓(こうして元軽音楽部の4人+私の合計5人でバンド活動が開始することになりました)

梓(活動は週一回、水曜日だけ。なぜ水曜日かというと合唱部がお休みだからです)

梓(活動場所は元軽音楽部の部室。なんでも毎回利用申請書を提出すれば利用できるそうです)

梓(バンド名のほうはと言えば……)


紬「それじゃあ梓ちゃん、あなたが決めてくれる?」

梓「え?」

律「『恩那組』か『ぴゅあ☆ぴゅあ』か『にぎりこぶし』か『充電期間』か…どれがいい?」

梓「え、えーー」

澪「このままみんなで話し合っても埒があかないからな」

梓「じゃあ…………」

紬・唯・律・澪「……」

梓「『充電期間』で…」

紬「やったっ!」

55: 2012/06/06(水) 23:40:31.98 ID:DjopJoIp0
梓(そんなこんなで、私たちのバンド『充電期間』は本格的に活動を開始しました)

梓(目標は秋に行われる学園祭で演奏すること)

梓(とは言え滑り出しは順調とは言えませんでした。初めて皆で合わせてみたとき…)


唯「りっちゃんと澪ちゃん、あんまり上手くないね」

梓(毎日練習しまくってた唯先輩や私と差ができるのは当然です。でも…)


唯「でもやっぱりいいね。こうやってみんなで演奏するの。すっごく楽しい!」


紬「唯ちゃん…」

澪「…律! このままじゃ駄目だ。私達も練習しよう!!」


梓(澪先輩はこれが嬉しかったと同時にかなり悔しかったらしく、律先輩と一緒に相当練習したようです)

梓(そのおかげで夏が終わる頃には律先輩と澪先輩も随分上達しました)

56: 2012/06/06(水) 23:43:23.82 ID:DjopJoIp0
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梓(時は流れ文化祭当日)


唯「みなさんこんにちは『充電期間』です!!」


梓(一番前に立っているのは唯先輩。今回はボーカルを担当することになりました)

唯「では聞いてください『ふわふわタイム』!!」


梓(唯先輩の掛け声で演奏が始まります)

梓(演奏は完璧でした。唯先輩の力強いボーカルに負けじといい音を出す律先輩のドラム。二人はまるで争うように熱を高めていきます)

梓(二人のバトルを支えるのは澪先輩の堅実なベース演奏。そして私のギター先輩のキーボードが全体のバランスを整える)

梓(観客たちが興奮してくるのが見てわかりました。私たちの熱がオーディエンスに伝わり、より大きな躍動感を生み出す)

梓(これが音楽を聴いてもらうということ…)

58: 2012/06/06(水) 23:44:16.26 ID:DjopJoIp0
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唯「大成功だったね!」

澪「ああ」

律「ここまで上手くいくとは正直思ってなかったよ」

紬「うふふ」

唯「でもこれで終わりかー、なんだか寂しいね」

紬「あ、提案があるんだけど、いいかな?」

律「なんだ、ムギ?」

紬「けいおん部を復活させたらどうかなって思うの」

唯「いいねぇー」

澪「おいおい、文芸部は掛け持ち大丈夫だけど、ムギの合唱部はそういうわけにはいかないだろ」

紬「うん。だから私抜きで。たぶん今回の成功で一年生の入部希望者は捕まえられると思うから」

律「ムギ抜きってのはなぁ…。少し考えてみるか」

60: 2012/06/06(水) 23:51:18.53 ID:DjopJoIp0
梓(熱心な先輩の後押しもあり、結局軽音楽部は復活することになりまいた)

梓(先輩を除く『充電期間』のメンバーに憂を加えた計5人で)

梓(私は図書館通いの放課後生活から解放され、軽音楽部で練習に励むことになりました)

梓(もちろん部活が終わった後に先輩のところに行くのは変わりません)



紬「あら、梓ちゃんいらっしゃい。ちょっと待ってね。お茶を出すから」

梓「あの…今日はお話があるんです」

紬「あら、なぁに?」

梓「冬休みにさわ子先生が紹介してくれたライブハウスでライブをやらないかって話になって
  それなら先輩も一緒にやらないかって話になって…」

紬「冬休みにライブ……うーん」

梓「駄目ですか?」

紬「けいおん部には憂ちゃんがいるでしょ? 同じキーボードの私が出る必要はないと思うの」

63: 2012/06/06(水) 23:53:44.68 ID:DjopJoIp0
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梓「……確かにそうですが……だったら憂にボーカルをやってもらって…」

紬「憂ちゃんがボーカルをやりたがってるの?」

梓「そうじゃありません。でも憂だったら…」

紬「梓ちゃん…憂ちゃんだってキーボードの練習を毎日やってるんだから、
  ライブで演奏したいと思ってるんじゃないかなぁ」

梓「……でも私は先輩の音をみんなに聴いてもらいたいんです」

紬「…梓ちゃんの気持ちは嬉しいけど、私はやっぱり遠慮しておくわ。
  それに『キーボード』なら私と憂ちゃんの音に大差はない。そうでしょ 」


梓(そのとおりです。先輩の力強い音はピアノだからこそ)

梓(先輩のキーボードは上手いけど、ただ上手いだけ。それ以上の何かはない)

66: 2012/06/06(水) 23:55:39.49 ID:DjopJoIp0
紬「納得してくれたみたいね。じゃあこの話はもうおしまい」


梓(私は先輩を説得することができなかった)

梓(確かにけいおん部が一つの部として成立した以上、5人でやっていくべきなのかもしれない)

梓(でも、少しだけ寂しかった……ううん嘘。本当はすごく寂しかった)




_
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梓(冬休みに行ったライブは大成功だった)

梓(可愛い子揃いの高校生バンドだったせいでもあるんだろうけど、それでもお客さんの熱気は学園祭の比ではなかった)

梓(私はライブハウスの熱気のなかで心地良い充足感を味わうことができた)


梓(でも、ほんの少しの虚しさを感じてしまった)

68: 2012/06/06(水) 23:57:35.49 ID:DjopJoIp0
2月14日。

部員A「うわっ。やっぱり紬ちゃんはモテるねー」

紬「部員Aちゃんだって一杯もらってるじゃん」

部員A「あははー。これはみんな後輩からの義理チョコだよー」

紬「だったら私のだって」

部員A「そんなことないよ。こっちのはゴディバだし、あっちのはカルティエ…」

紬「部員Aちゃんのそのチョコレートもたぶん手作りよ」

部員A「ええっ! うわっ、本当だ…どうよう」

紬「……」

部員A「ねぇ、紬ちゃん。最近ちょっと元気ないんじゃない?」

紬「そうかな?」

部員A「最近部活終了後にピアノとギターの音が聞こえなくなった、って話を聞いたんだけど関係あるの?」

71: 2012/06/07(木) 00:00:57.38 ID:TQdChW+z0
紬「あると言えば…あるかな」

部員A「ふーん。私で相談に乗れることはない?」

紬「多分相談しても仕方ないことだから……」

部員A「話してみてよ。話すだけでも随分楽になるものだからさ」

_
__
部員A「じゃあ紬ちゃんは後輩ちゃんが来なくなって寂しいと」

紬「そういうこと」

部員A「ねぇ、紬ちゃん。今日なんの日だか知ってる?」

紬「ばれんたいんでー」

部員A「そうだよ。普段感謝してる人に、好きな人に、自分の想いを伝える日だよ」

紬「……でも来てくれるかな」

部員A「来てくれなかったら家まで押しかけちゃえばいいんだよ」

紬「……」

部員A「バイバイ紬ちゃん。私はそろそろ帰るよ。後悔だけはしないように、ね」

76: 2012/06/07(木) 00:08:24.49 ID:TQdChW+z0
紬「梓ちゃん今日も来ないのかな……私は…どうすればいいのかな」



梓「…先輩」

紬「梓ちゃん…来てくれたんだ」

梓「先輩……私色々考えたんです」

紬「……」

梓「確かにみんなに自分の音を聴いてもらうのは楽しいです。
  でも、先輩が一緒じゃないと本当の意味じゃ満足できない
  私は先輩と一緒に音楽をやりたい…だから」

紬「うん」

梓「だから私、けいおん部やめます」

81: 2012/06/07(木) 00:14:38.04 ID:TQdChW+z0
紬「なんで…なんでそんな結論に達しちゃったの? そんなの絶対駄目なんだから」

梓「でも私は先輩と音楽がやりたいんです!」

紬「前みたいに一緒に練習するだけじゃ駄目なの?」

梓「確かに先輩と二人の時間も好きです。最初はそれだけで十分だと思っていました。
  でも、先輩と一緒にみんなの前で演奏する機会がないと思うと……寂しいんです」

紬「梓ちゃん。冷静になって」

梓「……」

紬「梓ちゃんがけいおん部をやめても、私は合唱部をやめるけにはいかないの。
  私は副部長だし、いまピアノの私がなくなったら、大変なことになっちゃうもの」

梓「……」

紬「わかってくれた?」

梓「……頭ではわかってます。でも…」


紬「ねぇ、梓ちゃん。私も梓ちゃんみたいに考えたの」

梓「え?」

84: 2012/06/07(木) 00:25:16.26 ID:TQdChW+z0
紬「私達ふたりでバンドを組まない?」

梓「へ?」

紬「私がピアノで、梓ちゃんがボーカル兼ギター。
  ちゃんと楽曲から一から作って、来年の学園祭で演奏するの
  それでけいおん部に負けないぐらいオーディエンスをわかせるの」

梓「せんぱい…?」

紬「私のピアノと梓ちゃんのギターだもの。最高の演奏になるわ
  演奏が終わったら鳴り止まない拍手の渦に包まれるの」

梓「……」

紬「だから梓ちゃん、泣かないで」


梓(そう言うと先輩は私をぎゅっと抱きしめてくれました)

梓(ちょっと痛いぐらい強く)

紬「けいおん部にいることは梓ちゃんにとって絶対いい経験になると思うの。
  だから絶対にやめちゃ駄目。唯ちゃん、りっちゃん、澪ちゃん。憂ちゃん。
  最高の仲間と過ごす部活は、最高の想い出になるはず。だから……」

梓「……わかりました」

86: 2012/06/07(木) 00:30:17.19 ID:TQdChW+z0
梓(先輩は私が落ち着くまでずっと抱きしめ続けてくれました)

梓(そして私が落ち着いたのを見計らい、こう言いました)


紬「今日はなんの日だか知ってる?」

梓(何の日だか私にはわかりませんでした。本当に)

紬「これを見て」

梓「チョコレート、ですか?」

紬「正解。今日はバレンタインデーよ」

梓「あ…」

紬「梓ちゃんは私にくれないのかなー」

梓「ごめんなさい。気づかなくって」

紬「そう。じゃあ後輩部員からもらったチョコレートでも食べようかな」

梓(そう言って先輩はチョコレートを口に放り込みました…)

梓(私には先輩がなんでこんなことをするのかわかりません。でも)

92: 2012/06/07(木) 00:37:29.49 ID:TQdChW+z0
梓「先輩。やめてください」

紬「どうして?」

梓「どうしても」

紬「わかった梓ちゃんも食べてみたいのね」

梓(そう言って先輩は私のほうに近寄り)

梓「えっ」

梓(私は唇を奪われました。そして甘い何かが流れこんできました。先輩の唾液と一緒に)

梓(先輩の唾液と混ざったそれは、とても優しく上品な味がしました)

梓「はぁ…はぁ……せんぱい…なんで」

紬「後輩からもらったチョコレートだなんて嘘。これは私が昨日作ったチョコレートなの。」

梓「先輩…」

紬「梓ちゃんがいない間、とっても寂しかった。そして気づいたの。
  自分が梓ちゃんをそういう目で見てるってこと」

梓「……」

紬「答えを聞かせてくれる?」

96: 2012/06/07(木) 00:39:33.14 ID:TQdChW+z0
梓(合唱部部室ではとてもミステリアスで大人な先輩)

梓(デートのときはとても子供っぽくて悪ノリする先輩)



紬「梓ちゃんが悩んでる間にバンド名を決めておきましょうか…」
紬「バンド名は『充電完了』ね。どう? いい名前でしょ!」


梓(そしてときどき妙にズレた発言をする先輩)

梓(私はそんな先輩のことが)


梓「大好き」


おしまいっ!

97: 2012/06/07(木) 00:40:19.48

告り方のレベルたけーww

引用元: 梓「先輩」