1: 2011/07/04(月) 23:44:43.39 ID:cXGB5cPNO
和「よいしょっと」

季節は初夏。
新しい環境にも大分慣れ、大学生活を楽しんでいる折、ふと思い立って押し入れの整理をすることにした。
ドタバタと引っ越して来て以来、忙しくてあまり触れていなかったのだ。

和「それにしても凄い量ね……」

お母さんがあれも、これもと段ボール箱に詰めて送ってくれたため、整理するのも一苦労。
今までサボってたツケでもあるんだけど。

2: 2011/07/04(月) 23:46:39.81 ID:cXGB5cPNO
和「でも、こんなものまでわざわざこっちに送る必要もないでしょうに」

ふう、と一息吐いて、苦労して引っ張り出したものを見下ろす。
冬用の服が入った段ボール箱に紛れていたもの。
他と比べて妙に重かったので、一体何が入っているのかと思えば……。

和「昔のアルバム……重いはずよ、まったく」

和「……」

和「……ちょっと見てみようかな?」

片付けの最中にこういうことをするのは非常によろしくないことは分かっている。
でも、気になるものは気になるのだ。

5: 2011/07/04(月) 23:48:59.39 ID:cXGB5cPNO
和「幼稚園の頃のからつい最近のまで……律儀ね」

そう呟きつつ、一番古いであろう幼稚園の頃のアルバムを開く。

和「……」ペラ

和「あ……」

そこには、当たり前だが幼い頃の私と……。
ずっと一緒だった、幼なじみの姿が所狭しと写っていた。

和「ほとんどの写真に唯が写ってるわね。本当にあの子は……」

アルバムを眺めていると、懐かしい思い出が次々と思いだされる。
そしてその思い出は、あのロクでもない幼なじみが必ずと言っていいほど出てきて……。

8: 2011/07/04(月) 23:52:01.96 ID:cXGB5cPNO
……

ゆい「のろか、ちゃん?」

のどか「ちがうよ、の・ど・か」

ゆい「のろかちゃん!」

のどか「『ろ』じゃないってば」

ゆい「わちゃん!」

のどか「……」

出会ったばかりの唯は、少し舌足らずで『のどか』と上手く発音出来なかった。
いつもいつも『のろかちゃん』としか聞こえない名で私を呼び、私の後をついて回っていた。

人の名前もきちんと呼べないなんて、唯は本当にロクでもない。

9: 2011/07/04(月) 23:54:47.76 ID:cXGB5cPNO
……

ゆい「のどかちゃん♪」

のどか「なーに?」

ゆい「えへへ、なんでもない」

のどか「ふうん?」

ゆい「……」

のどか「……」

ゆい「の~どかちゃんっ♪」

のどか「どうかしたの?」

ゆい「よんだだけー♪」

のどか「もうっ」

11: 2011/07/04(月) 23:56:23.46 ID:cXGB5cPNO
ゆい「……」

のどか「……」

ゆい「のどかちゃ~ん♪」

のどか「……なに?ゆいちゃん」

ゆい「のどかちゃん、ぎゅ~♪」

のどか「わわっ」

唯はすぐに私の名前を呼べるようになった。
どうやら家や幼稚園で何度も『のどか』と発音する練習をしたらしい。
ただ、私の名前をきちんと発音出来るようになったのがよっぽど嬉しかったのか……。

用もないのに嬉しそうに何度も私を呼び、じゃれついて来る唯はやっぱりロクでもない。

14: 2011/07/04(月) 23:59:30.58 ID:cXGB5cPNO
……

ゆい「のどかちゃん、おままごとしよ~」

のどか「ええ、またぁ?」

唯は幼い頃、とてもおままごとを好んでいた。
私はいつもそれに付き合わされて……。

のどか「ただいま、ゆい」

ゆい「おかえりなさい!」

……何故か私はいつもお父さんの役だった。
唯はいつも私のお嫁さんの役。

17: 2011/07/05(火) 00:01:38.09 ID:LtNhm7zhO
ゆい「ご飯できてますよ~」

のどか「ありがとう、いただきます」

ゆい「えへへ、おいしい?」

のどか「うん、とっても。ゆいはご飯作るのじょうずだね」ナデナデ

ゆい「ん~……♪」

美味しいわけがない。
唯が作ってくれていたのは、歪な形の泥団子。

そんなものしか出せないくせに、私のお嫁さんの役を譲らない唯はロクでもないやつだ。

18: 2011/07/05(火) 00:04:23.90 ID:LtNhm7zhO
……

ゆい「わたし、おとなになったらのどかちゃんのおよめさんになるの!」

のどか「ち、ちょっとゆいちゃん……」

おままごとでの配役がいつも同じだから、ある時それはどうしてなのかと聞かれたことがある。
そして唯が堂々と言い放ったのがさっきのセリフだ。

ゆい「のどかちゃんは、わたしがおよめさんになるのイヤ……?」ウルウル

のどか「そ、そんなことないよっ」

ゆい「……わたしのことすき?」

のどか「うん、好きだよゆいちゃん」

ゆい「えへへ、わたしもだいすきっ!」ギュー

のどか「ゆ、ゆいちゃん……///」

この後、周りの子たちに思いっきりからかわれてしまった。
まったく……私にあんな恥ずかしい思いをさせるなんて、唯は本当にロクでもない。

20: 2011/07/05(火) 00:08:48.16 ID:LtNhm7zhO
……

ゆい「うんたん、うんたん♪」カチャカチャ

のどか「ゆいちゃん、何やってるの?」

ゆい「あ、のどかちゃん!みてみてーっ」カチャカチャ

唯が先生に上手だと褒められたカスタネット。
しばらくの間、それをいつも楽しそうに叩いていた。

ゆい「せんせー、わたしじょうずになったかな?」

「ええ、すっごく上手よ。唯ちゃんは将来ミュージシャンかもね」ナデナデ

ゆい「みゅーじしゃん!かっこいい!」フンス!

のどか「……」

21: 2011/07/05(火) 00:12:30.62 ID:LtNhm7zhO
いつも私と遊んでいたのに、その時はカスタネットに夢中だった唯。
私が寂しがっていることに気付かないなんて、やっぱり唯は……。

ゆい「のどかちゃんもいっしょにやろ~♪」

のどか「えっ?」

ゆい「ほら、うんたん、うんたん♪」カチャカチャ

のどか「う、うんたん……?」カチャ

ゆい「やっぱりのどかちゃんもじょうずだねっ」

のどか「そ、そうかな……うんたん、うんたん♪」

……ロクでもない子だ。

22: 2011/07/05(火) 00:18:01.95 ID:LtNhm7zhO
……

唯「ねえ、和ちゃん」

和「何?」

唯「算数の宿題……」

和「……自分でやらなきゃダメだよ?」

唯「分からないんだよ~!」

和「はあ……じゃあ一緒にやる?」

唯「いいの!?ありがとう和ちゃんっ」

和「どういたしまして。どこが分からないの?」

23: 2011/07/05(火) 00:22:10.38 ID:LtNhm7zhO
唯「えっとぉ……一問目のこれから……」

和「この問題はね、こうやって……」

小学校に上がってからというもの、唯は私に勉強で頼ることが増えた。
そのせいで私は唯にきちんとした説明をしてあげることが出来るよう、頑張って勉強するようになった。

唯「和ちゃんって教えるの上手だね!何だか先生みたい!」

和「そう、かな……?唯ちゃんもいっぱい問題解けるようになったね」

唯「えへへ、和ちゃんのおかげだよ」ニコッ

私にあんな苦労をさせておいて、でも全然苦痛に感じさせなかった唯はロクでもない子だ。

27: 2011/07/05(火) 00:27:10.91 ID:LtNhm7zhO
……

和「……」キョロキョロ

和「……」

和「ここ、どこ……?」

お互いの家族も合わせて、唯と一緒に初詣に行った日。
あまりにも人が多くて混雑していて、私は一人はぐれてしまった。

和「お母さ~んっ!」

和「唯ちゃ~ん!」

和「……」グスッ

28: 2011/07/05(火) 00:29:46.08 ID:LtNhm7zhO
どれだけ歩きまわっても、どれだけ大声を出しても一人ぼっちのままで、不安に押し潰されそうだったのをぼんやりと覚えている。
とうとう歩き疲れてしゃがみ込み、泣き出そうとした時。

唯「お~い、和ちゃ~んっ!」タタタッ

和「……え?唯ちゃん?」

唯「はあ、はあ……やっと見つけたあ……」ギュッ

和「あ……」

唯が走り寄って来て、私の手をギュッと握りしめてくれた。
不安で不安で堪らなかったのに、唯が近くにいてくれる……それだけですごく安心した。

29: 2011/07/05(火) 00:32:41.19 ID:LtNhm7zhO
和(あったかい……)

唯「じゃあ行こっか!」

和「うん!お母さんたちはどこにいるの?」

唯「ふぇ?」

和「え?」

……結局、唯も迷子になっていた。
それからお母さんたちと合流できたのは一時間くらい経ってから。

私を探すのに夢中になるあまり自分も迷子になってしまうなんて、唯はロクでもないヤツだ。

31: 2011/07/05(火) 00:37:11.96 ID:LtNhm7zhO
……

和「ゆ、唯……ちゃん」

唯「ん?な~に?」

和「な、何でもない……」

唯「ふぇ?変な和ちゃん」

和「……」

唯「次の授業は体育だよね。早く着替えなきゃ」

和「そ、そうだね」

33: 2011/07/05(火) 00:41:46.98 ID:LtNhm7zhO
唯「えっと、今日は外だっけ?体育館だっけ?」

和「今日は体育館でドッジボールだよ……ゆ、唯!」

唯「えっ!?」

和「い、急ぎましょう唯」

唯「……うん!そうだねっ」ニコッ

この日、私は初めて唯のことを呼び捨てにした。
理由はよく覚えていない。
クラスのみんなが呼び捨てで呼んでいたからかもしれないし、唯ともっと仲良くなりたかったからかもしれない。
ただ一つ覚えていることは、私はすごく緊張していて、何度も『唯』と呼ぼうとして失敗したことだけだ。

……私にあんなに緊張させたのに、呼び捨てにされたことに言及しなかった唯はやっぱりロクでもない。

34: 2011/07/05(火) 00:46:31.66 ID:LtNhm7zhO
……

唯「はむっ。ん~、美味しい~♪和ちゃんはお料理上手だね!」

和「はいはい、ありがと」

唯「私ずっと和ちゃんの料理を食べて生きていくよ!」

和「……何言ってるのよ、もう」

唯は昔から料理が出来ない子だった。
……出来ないのはみんなが唯にあまり料理をさせなかったからだけど。
何だかとんでもない失敗をやらかしそうだったし。

36: 2011/07/05(火) 00:50:25.14 ID:LtNhm7zhO
和「唯、何か食べたいものある?」

唯「和ちゃんが作ってくれるものなら何でも!」

和「リクエストしてくれたほうが作りがいがあるのよ?」

唯「う~ん……じゃあ甘いものが食べたい、かな?」

和「了解」

唯「えへへ、楽しみだな~♪」ニコニコ

この頃からだろうか、私が料理を勉強するようになったのは。
あんなに美味しそうに私の料理を食べて、色々な料理を作れるようにさせた唯はロクでもないヤツだ。

40: 2011/07/05(火) 00:57:28.85 ID:LtNhm7zhO
……

和「好きな子かあ……」

小学校の修学旅行の夜。
定番と言えば定番だけど、みんなで好きな子を言い合おう、という話になった。
私は他のみんなのように同じ年頃の男の子にそれほど興味を持っていなかったため、言い淀んでしまったことを覚えている。

和「唯は……好きな子、いるの?」

何故だか私はドキドキしながら、隣に寝ころんでいた唯に話を振っていた。
話を振られた唯は、

唯「私?私は和ちゃんが好きー♪」

42: 2011/07/05(火) 01:00:07.87 ID:LtNhm7zhO
和「え……」

あっけらかんとそう叫んだ。
当然好きな「男の子」を前提にしていたみんなは驚き静まり返る。

唯「だって私、和ちゃんのお嫁さんになるって決めてるもんっ!」ダキッ

和「わわ……ゆ、唯……」

「へえ~。真鍋さんは唯ちゃんのことどう思ってるの?」

和「わ、私!?」

「うん、これは唯ちゃんからの告白なんだから返事をあげないと!」

43: 2011/07/05(火) 01:01:59.51 ID:LtNhm7zhO
小学生は本当に切り替えが早い。
さっきまで静まり返っていたくせに、面白いものを見つけたとばかりにニヤニヤしながらみんなが私の言葉を待つ。

和「私も……唯のこと、好きよ」

唯「わ~い、両想いだ~♪」ギュウウッ

和「こ、こらっ!///」

その後は当たり前だがみんなからからかわれた。
……デジャブ。

幼稚園の頃から進歩がないなんてロクでもない子だ。

44: 2011/07/05(火) 01:06:59.60 ID:LtNhm7zhO
……

和「……」ペタペタ

唯「んしょんしょ」ペタペタ

和「唯、先に帰ってていいよ?」

唯「やだ、和ちゃんと一緒に帰るー」

和「もう、気にしなくていいのに」

私はよくクラス委員長を任されていたため、放課後に残って作業することがたまにあった。
同じ委員のはずの子はいっつもサボっていたため、基本的に私一人での作業……のはずだったけど。
唯はいつも私を手伝って一緒に残ってくれていた。

46: 2011/07/05(火) 01:11:14.62 ID:LtNhm7zhO
唯「ねえ和ちゃん、ここはどうするの~?」

和「ここは……こう。糊で貼り付けちゃっていいから」

唯「りょーかい!」

和「……」ペタペタ

唯「……」ペタペタ

和「……いつもありがとう、唯」

唯「……えへへ、こちらこそありがとう、和ちゃん」

お礼を言ったのに、お礼で返すなんて変な子だ。
手伝わなくていいって言っても聞かないし、やっぱり唯はロクでもない。

49: 2011/07/05(火) 01:17:12.02 ID:LtNhm7zhO
……

唯「今日でこの学校ともお別れなんだね……」グスッ

和「そうだね……」

唯「そういえば私たちってずっと同じクラスだったよね?」

和「うん。不思議な縁だね」

唯「私、和ちゃんと一緒にいれてすっごく楽しかったよ!」

和「私もだよ。これからもよろしくね、唯」

唯「うんっ!」

51: 2011/07/05(火) 01:20:27.29 ID:LtNhm7zhO
小学校の卒業式。
唯も含めてみんな泣いていたけど、私にはどうして泣くのかよく分からなかった。
みんな同じ中学に行くことになっていたし。

……でも、唯と小学校の色々な思い出を話しているうちに、私も涙を流していた。
唯と一緒にたくさんの時間を過ごした小学校。
そこにはもう行けないんだ、と思ったら何だかジーンとしてきて……。

和「……」グスッ

パシャッ

和「きゃあっ!」

唯「ぐす……あはは、和ちゃんの珍しい写真撮れた~♪」

和「こ、こら唯っ!」

人の泣き顔を写真に収めるなんて、唯は悪趣味でロクでもないヤツだ。

53: 2011/07/05(火) 01:26:25.51 ID:LtNhm7zhO
……

和「ん~……」

唯「和ちゃん、どうしたの?」

和「ああ、唯。ちょっと黒板に書いてある文字が見えづらいのよ」

唯「ほえ?もしかして視力悪くなったんじゃない?」

和「う~ん、そうかも……」

唯「コンタクトとかつけたほうが……」

54: 2011/07/05(火) 01:28:11.18 ID:LtNhm7zhO
和「コンタクト!?い、嫌よ!」

唯「ええ?何で?」

和「い、嫌なものは嫌なのよ」

中学に入ってから、急に視力が落ちた。
裸眼のままだと授業に差し支えるから、どうにかしないといけないと思っていたけど……。

目に何か入れるなんて恐ろしい行為を勧めてきた唯は、やっぱりロクでもない子だ。

55: 2011/07/05(火) 01:31:51.59 ID:LtNhm7zhO
……

唯「和ちゃんは眼鏡も似合うね~♪」

和「そうかしら?私は正直ちょっと……」

眼鏡を使い始めた時、私はあまりそれを気に入ってはいなかった。
『眼鏡をかけている自分』にどうしても違和感を覚えたし、何より目が疲れてしまうことがままあったからだ。

唯「私は好きだよ?眼鏡をかけた和ちゃん」

和「そ、そう?ありがとう」

唯「すっごく格好いいよ~♪」

和「格好いい、ねえ……」

この時唯に褒められたから、私は眼鏡をかけ続けている。
でも女の子の私に「格好いい」と形容するなんて、唯はロクでもない。

56: 2011/07/05(火) 01:37:44.56 ID:LtNhm7zhO
……

唯「和ちゃん、ぎゅ~っ!」ギュー

和「きゃっ!?ど、どうしたのよ唯」

唯「えへへ、和ちゃん分が足りなくなったので補給中~♪」

和「何よそれ……」

唯「和ちゃんあったか~い♪」スリスリ

和「も、もう……///」ナデナデ

中学に入っても唯のスキンシップ癖は治らなかった。
いや、むしろひどくなっていってしまったような気もする。

57: 2011/07/05(火) 01:42:03.17 ID:LtNhm7zhO
唯「和ちゃ~ん♪」ギュー

和「唯……あまりこういうとこで抱き着いて来るのはやめなさい」ナデナデ

唯「和ちゃん大好き♪
ギュウッ

和「ありがと。私も好きよ」ナデナデ

唯「のどかちゃああああんっ!」ダキッ

和「はいはい」ナデナデ

どんな場所でも唯は抱きついて来るため、最初は恥ずかしかった私も次第に慣れていってしまった。
人から羞恥心を奪ってしまう唯はロクなもんじゃない。

59: 2011/07/05(火) 02:02:27.31 ID:LtNhm7zhO
……

唯「む~」ペタペタ

和「何してるのあんた……」

唯「むっ!」ピクッ

和「唯?」

唯「……」ジーッ

和「えと、唯?」

唯「……」ジーッ

和「ど、どうかしたの?ねえ」

唯「……っ!」クワッ!

和「……」

60: 2011/07/05(火) 02:06:42.07 ID:LtNhm7zhO
唯「……和ちゃんってさあ」

和「私がどうかしたの?」

唯「……胸、大きいよね?」

和「はえっ!?」

唯「ずるいっ!私なんてずっと小さいままなのに~っ!」

和「そ、そんなこと言われても……。というか唯、あんたもそういうことを気にするのね……」

唯「当たり前だよっ!私だって女の子なんだから!」

和「そ、それもそうよね……。大丈夫よ唯、いつかおっきくなるから」

唯「そういう希望的観測は聞き飽きたんだよ!最近は憂もおっきくなって来てるのに~!おっOいをよこせーっ!」ガバッ

和「ひゃあああっ!?ち、ちょっと唯……!?///」

胸の大きさなんて気にしなくていいのに、これを境に何度か唯は私を恨めしい目で見てきたことがある。
……唯はそんなことに関係なくすっごく魅力的なのに。

当り前のことに気付かず無いものねだりをする唯は、ロクでもない子だ。

61: 2011/07/05(火) 02:10:20.60 ID:LtNhm7zhO
……

和「唯、進路どうするか決めた?」

唯「う~ん……」

中学三年の秋。
私はとっくに受験する高校を決めていたのに、唯はまだ決めあぐねていた。
その時期にクラスで決まっていないのは唯だけ。

和「早く決めちゃわないとダメだよ?」

唯「うん、分かってるけど……」

和「……」

唯「……」

和「ね、ねえ唯。よかったら私と……」

63: 2011/07/05(火) 02:12:46.66 ID:LtNhm7zhO
唯「ん?な~に?」

和「……ううん、何でもない」

唯「そう?う~ん……」

和「……」

唯「よし、決めた!私桜が丘を受験するよ!」バンッ!

和「えっ!?ほ、本当?」

唯「うんっ!やっぱり和ちゃんと一緒の学校がいいもん」ニコッ

和「そ、そう……よかった……」

64: 2011/07/05(火) 02:17:31.03 ID:LtNhm7zhO
唯「え、今なんて?」

和「何でもない。……唯、本当に受ける気なら今から猛勉強しないと難しいわよ?」

唯「うっ、それなんだよねえ……」

和「しょうがないわね……一緒に勉強しましょうか」

唯「うんっ!ありがとうごぜえます和ちゃんせんせーっ!」

和「ふふっ、何よそれ」

こうして私と唯は桜が丘に入学することになった。
中学校に上がった時と違い、高校は離れる子のほうが多い。
そんな中で唯と同じ高校に進めたこと、何より唯が私と同じ高校に行きたいと行ってくれたのはすごく嬉しかった。

……でも、そんな理由で進路を決めちゃうのはロクでもないことよ?

65: 2011/07/05(火) 02:20:09.44 ID:LtNhm7zhO
……

和「あ、もうこんな時間……」

アルバムを眺めていると、あっという間に時間が過ぎていた。
昼過ぎに片付けを始めたはずなのに、今はもう夕日が見える時間帯だ。

和「それにしても……ふふっ、本当に私って唯とずっと一緒だったのね」

中学の頃までだけでこれだ。
さらにこれは思い出のほんの一部。
一つの出来事を思い出すと、そこからまた新たな思い出が呼び起こされ、やがて私の頭の中をいっぱいに満たす。

66: 2011/07/05(火) 02:24:41.89 ID:LtNhm7zhO
和「……」

唯の顔、唯の声、唯の行動……。
べったりだった中学時代まで、唯は軽音楽、私は生徒会という打ち込めるものを見つけた高校時代。
私はあのロクでもない幼なじみと共に成長し、そして今の私がここにいる。

和「これは……次のお楽しみにしておきましょうか」

高校時代のアルバムからそっと手を離す。
このアルバムは今までのものより分厚く、今から見ていると間違いなく夜になってしまう。

和「片付け、終わらなかったわね」

和「……」

67: 2011/07/05(火) 02:27:09.15 ID:LtNhm7zhO
和「そういえば最近、唯と話してないな……」

前に話したのはいつだったか。
アルバムを見たせいか、無性に唯の声が聞きたくなっていた。
携帯電話を手に取り、電話帳の『唯』にカーソルを合わせる。

和「ふふっ、突然電話したらあの子なんて言うかしら?」

驚きながらも嬉しそうに弾む唯の声を想像する。
その想像だけで何故だか私も楽しい気分になってくる。
しかし。

和「……出ないわね」

何度コールしても唯が出ない。
遊びにでも行っているのか、はたまた長いお昼寝でもしているのか。

和「……ちぇっ」ピッ

和「唯の、ばーか」

70: 2011/07/05(火) 02:32:15.97 ID:LtNhm7zhO
携帯を机の上に放り、ベッドの上に倒れ込む。
私がこんなに話したいと思っているのに電話に出ないなんて、やっぱり唯は……。

ピンポーン

和「……お客さん?」

誰だろうか?
いや、こんな微妙な時間にアポもなく訪ねてくるのだ、どうせ勧誘か何かの下らない用件だろう。

ピポピポピポピポピンポーンッ

和「……」イラッ

居留守を決め込もうかと思った直後にこれだ。
誰がやってるのかは知らないが、文句くらいは言ってやる。

71: 2011/07/05(火) 02:36:11.64 ID:LtNhm7zhO
ガチャッ

和「はい、どちら様?」

唯「わあっ!和ちゃ~ん、久しぶり~♪」ギュウッ

和「へっ、ゆい?……唯っ!?」

唯「そうだよ~。えへへ、会いに来ちゃいました!」

和「ど、どうしたのよ一体……」

夢でも見ているのだろうか。
長期休暇でもないのに……私の一人暮らしの家に、唯がやって来た。
ついさっき、どうしても声が聞きたくなった本人が目の前にいる。

73: 2011/07/05(火) 02:43:30.76 ID:LtNhm7zhO
唯「和ちゃんの匂いだあ……」スンスン

和「やめなさいってば。唯、どうしてここにいるの?」

唯「えっとねえ、休みが重なったおかげで暇が出来たから、和ちゃん分を補給しに来たのです!」フンス!

和「ああそう……」

相変わらず訳が分からない。
でもそんな唯を見て、思わずくすくすと笑ってしまう私がいる。

唯「ねえねえ、上がっていい?」

和「ええ。どうぞ」

唯「わ~い、お邪魔しま~す♪」

74: 2011/07/05(火) 02:51:21.93 ID:LtNhm7zhO
和「ちょっと散らかっているけど……」

唯「本当だ、和ちゃんにしては珍しいね~。あっ、アルバム見てたの?私も見る~っ」

和「あっ、こら」

唯「うわ~、懐かしいね。あ、そうだこれお土産。あと何か飲み物貰えないかな?もう暑くって暑くって……」パタパタ

唯「久しぶりに和ちゃんの料理も食べたいなあ。もちろんデザートはアイスで!」ピョンピョン

和「……何だか妙に元気ね。何かいいことでもあった?」

唯「いいこと?うん、あったよ!久しぶりに和ちゃんに会えた!」ニコッ

76: 2011/07/05(火) 02:53:58.20 ID:LtNhm7zhO
和「も、もう、あんたって子は……」

唯「えへへ……」

唯が家に来て、一気に騒がしくなった。
まったく……アポなしで来て、チャイム連打なんて非常識なことをして、くるくると室内を動き回って……。
……会いたい、声が聞きたいという願いを叶えてくれて。

本当に私の幼なじみは、ロクでもない子だ。

大好きよ、唯。


おしまい

79: 2011/07/05(火) 03:01:43.89 ID:LtNhm7zhO
深夜に見てくれた人ありがとう。鬱展開とか書くの無理なんだ、ごめんね
おやすみ

80: 2011/07/05(火) 03:04:56.47
おつかれ、もっかい読む

81: 2011/07/05(火) 03:05:23.99

引用元: 和「ロクでもない幼なじみ」