1: 2012/06/19(火) 13:47:14.99
P「お疲れさまでしたー」

小鳥「はい、お疲れ様でした」

P「定時に上がれるなんて久しぶりですね」

小鳥「ふふふ、そうですね。みんな売れてきたからこれからますます忙しくなりますよ」

P「それは嬉しい悲鳴だなぁ」

小鳥「今日はこのまま帰られるんですか?その、よかったらゴハンでも……」

P「あ……すいません、今日はちょっと球撞きに行こうかな、と」

小鳥「玉……///」

P「違いますからね。ビリヤードにでも行こうかと」

春香「ジャーンジャーンジャーン!」

P「げぇ春香!」

春香「遊びに行くなら連れてってくださいよぉ~」

P「え?なに暇なのお前」

春香「そりゃあもう、こんなところで突っ立ってるくらいですから」

4: 2012/06/19(火) 13:54:41.39
P「本気で暇なんだな……。いいよ、一緒に行こうか。一人でやるのもアレだったし」

春香「う~、わっほい!」

小鳥「あ、じゃ、じゃあ私もいいですか?」

P「もちろんいいですよ。いやぁ同じ趣味の人が増えるのって嬉しいなぁ」

春香「チッ……」

P「え?」

春香「じゃあ行きましょうか!」

P「あ、うん。そこの駅ビルの地下にあるから」

小鳥「案外近いんですね。知りませんでした」

P「俺も最近知ったんですよ。オシャレな感じでいい雰囲気なんですよね」

小鳥「へー……、楽しみですっ♪」

春香「私やったことないんで教えてくださいね♪」

5: 2012/06/19(火) 14:00:21.55
事務所から10分ほど歩くと駅周辺に着いた。

帰宅途中のサラリーマンは皆どこか疲れた顔をしている。

煌びやかなネオンと対照的に悲哀を帯びた顔は、人生の無常さを物語っているようだった……。


春香「………………なんですか、その薄ら寒いポエムは」

P「え、ダメかな……。なんかワイルドでダンディーじゃない?」

春香「どっちかというと、コメディーですね。それもシュールな」

春香は意外と口が悪い。

女の子然としたイメージとは裏腹に結構毒舌だ。

だけど、そんなところが俺はなんとなく気に入っていた。

7: 2012/06/19(火) 14:05:01.21
小鳥「あはは……、私はなんとなくわかりますけどね……」

P「ですよねー!」


小鳥さんは優しい。

俺のくだらない軽口にもこうやって付き合ってくれる。

これでもう少しマトモな人だったら、俺は緊張してプライベートで口を聞くことも出来なかっただろう。


春香「もー、そんなのいいですから早く行きましょう!」

P「わかったわかった、そんなに引っ張るなよ」


グイグイと手を引っ張られた俺は苦笑いを浮かべてしまった。

すまないサラリーマンという名の戦友たちよ。

だが聞いてくれ。

たしかにこれは両手に花かもしれないが、

けっしてそういう関係ではないのだ。

少なくとも今のところは。

10: 2012/06/19(火) 14:09:04.35
防音用なのかやたら分厚い扉を開くと、カウンターが待ち構えていた。

P「2時間くらいでいいかな?」

一人のときは30分から1時間程度だ。

小鳥「2時間……ご休憩……」

漏れてる漏れてる。

P「小鳥さんってば」

小鳥「さ、3ピッ」

スパーン!

P「さ、早くしましょう。終電がなくなったら春香帰れませんから」

11: 2012/06/19(火) 14:13:40.38
大抵のビリヤード場は前払いである。

食い逃げならぬ撞き逃げがあったのだろう。

小鳥さんなら即座にヤリ逃げまで思考が飛ぶだろうな。


P「同じレベルとかじゃないですからね?」

小鳥「へ?な、なにがですか?」

P「独り言です」


あぶないあぶない。

時々考えてることが出てしまうのは、本当に小鳥さんと同じようだ。

心外である。


P「正直不名誉です」

小鳥「ピ、ピヨッ?」

P「なんでもないです」

13: 2012/06/19(火) 14:17:46.24
ケースに入った球とフリードリンク用のグラスを受け取って、指定されたテーブルに向かう。

穴場なのか宣伝がヘタなのか。ともかく俺たち以外の客はいなかった。

春香「ふわぁ……オシャレですね……。プロデューサーさんよく来るんですか?」
P「うん、週一くらいかな。と言っても2ヶ月前くらいからだけど」

薄暗い店内には、テーブルの上に吊り下げられたライトが、オレンジ色の光を放っていて幽玄な世界を作っていた。

P「映画みたいだろ?」

モノクロの映画を思い出す。

春香「はい……、プロデューサーさんには似合ってませんけど」

なんてことを!

P「ふ……、お子様にはわからないか……」

春香「小鳥さん、飲み物取りに行きましょ?」

小鳥「え、ええそうね」

所詮男のロマンは女子供には理解できないのだ。

俺は映画の主人公のようにタバコを咥えようとしたが、非喫煙者だったのでストローを咥えた。

P「シュコー……シュコー……」

違う映画になってしまった。

15: 2012/06/19(火) 14:23:38.41
二人ともまったくの初心者だというので、基本から教えた。

俺もかなり我流が入ってるけどまぁいいだろう。

P「じゃあキューを取ってこようか」

小鳥「きゅー?」

P「玉を撞く棒です。……いやもういいですからその妄想は」

春香に目配せをして小鳥さんを引っ張りあげてもらった。

あんまり脱線していては1ゲームもせずに時間が来てしまう。

春香「どんなのがいいんですか?」

P「長さや重心で色々違うけど、大きすぎなければいいと思うよ」

俺も適当に選びながら言う。

P「あ、でも先端の部分がなくなってるのは止めたほうがいいぞ。滑るらしいから」

春香「はーい」

16: 2012/06/19(火) 14:29:06.17
球をゴロゴロとテーブルの上に転がす。


P「キューはグリップのところならどこを握ってもいいけど、強く撞くときは下の方を握るんだ」

P「足は前後に開いて、キューが腰につくようにすると安定する」


春香と小鳥さんが俺の指示通りに体勢を変える。

意外と様になっていてなぜか悔しい。


P「左手はブリッジを作って安定させる」

実演しながら教えた。言葉だけでは伝わりにくいのだ。

P「親指と人差し指の間にキューを通す感じだな。……そうそう上手いじゃないか」

実に覚えがいい。優秀な生徒だ。


P「あ、小鳥さん。その卑猥な手つきは止めてください」

キューではなく右手の人差し指を抜き差ししていた。

17: 2012/06/19(火) 14:34:50.17
P「目線は下げて手玉をまっすぐに撞きます。狙った場所と一直線になるように」

二人とも真剣だ。
少しお茶らけたくなる。

春香「………………」

小鳥「………………」

P「……うっうー(裏声)」

キューで殴りかかってくるのはやめてください。


P「こんなもんかな、あとはゲームのルールだけだけど……あ」

大事なことを思い出した。

P「この緑の布……羅紗っていうんですけど」
P「扱いには十分気をつけてくださいね、傷つけると結構しますから」

壁に貼ってある紙をキューで示しながら言う。

【ラシャ破損1cmにつき5000円頂きます】

春香「うわぁ……。こ、怖いですね……」

P「普通にやってれば大丈夫だけどね。まぁ気をつけて」

小鳥「はいっ」

18: 2012/06/19(火) 14:44:25.18
何度か撞いてもらって練習はオシマイ。
いよいよゲームの開始だ。

と、言っても

P「9ボールしか知らないんだけど、それでいい?」

小鳥「はい、なんでもいいですよ」

春香「9番を落とせばいいんですよね?」

P「そうそう」


9ボールは①から⑨までの球を使う。
手玉と呼ばれる白い球を撞き、一番数字の小さい球に最初に当てる。
落ちる順番はなんでもいい。最終的に⑨を落とせば勝利だ。


春香「違う球に当たったらどうなるんですか?」

のヮの顔で春香が質問してきた。

P「ファールだよ。次の人が好きな場所に置いてプレイできる」

P「他にもいくつかあるけど……、最初だからあんまりうるさいことは言わないでおこう」


最初からギチギチに縛っては面白くないだろう。

19: 2012/06/19(火) 14:51:00.21
俺はトライアングルラックを使って初期配置を作る。
9ボールの初期配置は、①を手前に菱形になっている。
⑨はど真ん中だ。

P「オッケー。ブレイクやってみる?」
小鳥「んー、まだちょっと自信ないですね……」
春香「プロデューサーさんお手本ですよっ!お手本!」

P「ふふふ」

俺はいいところを見せようと腕まくりをして構える。
どっしりと腰を落として、キューの一番下を強く握った。
若干角度が付くように置いた手玉と①が並ぶように視線を合わせる。
キューを何度かしごき、ドンドン己の内面に集中していった。

春香・小鳥「………………」

二人とも緊張したまなざしで見ていた。

機は満ちた。

いくぞ!

心中で気合を入れて


スコーン!

ファールした。
ズコー、と二人がコケていた。

21: 2012/06/19(火) 14:56:42.89
P「こういうこともあるからチョークはちゃんと塗ろうね」

キューが手玉の上を滑り、牙突状態になってしまった。


春香はニヤニヤと、小鳥さんはクスクスと笑っていた。

汚名返上せねばなるまいて。

名誉挽回とは言わなかった。

挽回するほど俺の株は高くない。

その程度の自覚はあるのだ。

球と一緒に付いて来たチョークを先端部にこれでもか、と擦り付けて仕切りなおした。

22: 2012/06/19(火) 15:00:06.62
パカーンッ!


小気味いい音を立てて球が走る。
緑のフィールドをぶつかりながら拡散していく。
ゴトン、と音を立てて球が一つポケットに吸い込まれた。

P「お、一個入ったな」

春香「おー」

小鳥「すごいですねー」


落ちた球を確認すると4番だった。

P「ファールをせずにポケットした場合は連続で撞けるんだ」

春香「ファールして、やり直したのがポケットした場合はどうなるんですか~?」

ニヤニヤ笑いがむかついたので、こっそりチョークの粉を春香のドリンクに入れた。

P「あんまりイジワル言うと天罰が下るぞ」

すでに俺が下したが。
春香の腹までも下らなければいいのだが。
下らない言葉遊びも重なれば許してもらえるのだろうか?


なんてどうでもいい事を考えながら、次のショットを考える。

23: 2012/06/19(火) 15:06:41.40
次は①なのだが、ちょっと厄介な位置にあった。

P「うーん……」

小鳥「?どうしたんですか?簡単そうに見えますけど……」

P「そうなんですけどね……その次が……」


①を落とすのは簡単だ。

問題はその次の②の位置だ。

⑤⑥⑨に阻まれてファールせずに崩すのは難しい。


P「こうかな」

軽く付いて①に当てる。

ポケットせずに手玉と①は静かに位置を変えた。

春香「あー……。なるほど」

無理に連続ポケットを狙うよりも、こうして安全策をとったほうが有効なこともある。

春香「初心者相手に大人気ないですね……」

グサリと来た。

25: 2012/06/19(火) 15:13:41.54
次は小鳥さんの番だ。

小鳥「えと……こうかな?」

足を大きく開いた姿は、ミニスカートの絶対領域がまぶしい
カメラを持ってくれば良かった。

P「………………」

俺は今日一番の集中力を発揮して見つめ続けた。


目の前でリボンが揺れて集中が切れる。

春香「……どこ見てるんですか?」
P「誰もが夢見る地平線だ……」

詩的かつ婉曲的な表現でぼかした。

春香はジト目で俺を見ていた。

春香「そんなにミニスカート好きなんですか?」
P「嫌いな男はそんなにいないよ」

春香「…………私も履いてこようかな……」

P「あの色気はまだ難しいと思うぞ」


だからキューで殴るのは止めてください。

27: 2012/06/19(火) 15:17:29.37
小鳥さんは①に当てて、⑤⑥⑨の壁を崩すことにしたようだ。

狙いは綺麗に決まって壁が崩落する。


小鳥「わっ!わっ!」

小鳥さんはポケットしなかったのに嬉しそうだ。

はしゃぐ姿は微笑ましくて、ついつい

P「年を考えろ年を」

余計なことを言ってしまった。


腹筋スレを真面目にこなしていて本当に良かった。

28: 2012/06/19(火) 15:22:12.82
巡って春香の番だ。

ちょっと応援してやろう。

P「転倒とラシャとライトと後ろのガラスには気をつけろよ」

小鳥さんも苦笑いしていた。

春香はちょっとムッとしたが、すぐに集中しなおす。


P「あ、ちょっと待って」

キューが体から離れていた。

コレでは安定しない。

P「こうやってさ、もっとくっ付けて……」

手を取って教えてやる。


春香「……………………」

P「ん?春香どうした。耳が赤いぞ」

春香「な、なんでもないですよ!」

P「お、おう」

29: 2012/06/19(火) 15:27:09.56
春香は良く転ぶが運動神経が悪いわけではない。

ダンスも標準的なレベルだが無難にこなし、体力もある。

今回も俺の教えを忠実に守り、スマートに撞いた。


コーンッ


響く音で正面から当たったのがわかる。

①はサイドポケットに、更に走る手玉が③を捉えた。


ゴトン
           ゴトン
         

春香「やたっ!すごくないですか!」

小鳥「すごいすごい!春香ちゃん上手ね!」

P「へぇ……やるじゃないか」

エヘヘ……と頬をかく春香は割と可愛かった。

31: 2012/06/19(火) 15:33:40.45
次の的を真剣に狙う春香を見ていると、俺の中の悪魔がささやいた。


デビルP「妨害しようぜ!」

それを天使が止めに来る。イメージはあずささんだった。

エンジェルP「だめですよ~、女の子には優しくしないと~」

あずささんの言葉には逆らえないので、優しくすることにした。


P「春香」

春香「………………」

集中しているのか返事はない。

P「春香、凄く可愛いよ」


スコーンッ!


ファールした。

真っ赤な顔で殴りかかられた。

理不尽だ。

32: 2012/06/19(火) 15:38:52.49
痛む体を引きずり的を狙う。
②の奥に⑨があり、しっかり決めれば俺の勝ちだ。

P「これはもらったな……」

前髪をかきあげてクールに言った。

小鳥さんはトイレに、春香は携帯をいじっていた。

P「ちくしょう……」

呟きながら構える。

ボコッ

変な音がして予測とまったく違うほうへ球が走った。

ゴトン

P「………………」

スクラッチ……手玉が落ちてしまった。

いまならまだリカバリーは出来る。
そう判断して素早く手玉を回収し、顔を上げると


春香・小鳥「……………………」

めちゃくちゃ見られていた。

33: 2012/06/19(火) 15:41:12.20
みんな下手なのが良いな

34: 2012/06/19(火) 15:42:27.43
小鳥「これなら⑨も落とせそうですね」

小鳥さんは手玉の位置を調整しながら、勝利宣言をする。

これはマズイ。

まったくの初心者に負けてしまっては、俺の薄っぺらいプライドがズタボロになってしまう。


俺は禁断の技を使うことにした。

テーブルをぐるっと周り、⑨が落ちるであろうポケットの前に行く。

そのまましゃがみこんだ。


小鳥「……?プロデューサーさん?」

P「気にしないでください」

小鳥「はぁ……」


小鳥さんは腑に落ちない顔をしていたが、すぐにキリリと表情を引き締めた。

綺麗な構えをして熱い視線を的球と⑨に当てる。

本当にカメラがないのが惜しまれた。

35: 2012/06/19(火) 15:47:45.20
キューを静かに引いたタイミングで俺は勝負に出た。

P「デーンデン♪ デーンデン♪ デデデデデデデデデデ♪」

サメに襲われる恐怖映画のテーマと共に徐々に顔を出した。

緊張していることで沸点が低くなっていた小鳥さんは崩れ落ちた。
勝ったのだ。


小鳥さんは何度か集中しなおそうとしたが、その度に俺は顔を出す。

プライドを捨てた勝負だった。

P「伊織のモノマネをしまーすっ」

P「初日の出~~」

青い猫型ロボットの声がトドメだった。

震えた小鳥さんの手が動き、キューが軽く手玉に当たった。

小鳥「あ……」

少しだけ進むと手玉は勢いなく止まった。

ファールだ。


俺はガッツポーズを決めて小鳥さんに蹴られた。

39: 2012/06/19(火) 15:52:36.36
春香は……俺の事を極力見ないようにしているようだ。

俺は手を変えることにした。

正直ネタ切れだった。


P「春香」


呼びかけるが返事はない。

今度は聞こえてないわけではないのだろう。


P「あのさ、響はわかるんだけどさ」

これは危険な技だ。

俺は胸の中で十字を切って挑む。


P「雪歩も剛毛なの?」


スコーンッ!


犠牲の多い勝利だった。

40: 2012/06/19(火) 15:57:49.78
結局俺が料金を負担することで交渉は決着を見た。

P「痛いよう痛いよう……」

春香「腕があるだけマシだと思ってください」

小鳥「殺意の波動に目覚めるところでしたよ?」

P「スイマセンデシタ……」

春香「でもまぁ……面白かったですね」

小鳥「ふふふ……、そうね。また行きましょうね?」

P「は、はい」

今度は正攻法で勝とうと思った。

彼女たちの攻撃を耐えられるようにムキムキになるのよりは現実的だと思うから。


春香「早くしないと置いてきますよー!」

小鳥「今度はゴハンも行きましょうね♪」





おしまい

41: 2012/06/19(火) 15:58:44.65
ありがとうございました

たまには笑える話でも……と、思ったんですが難しいですね

鼻で笑ってやってください

ビリヤードは2回しかやったことがありません ゴメンナサイ

42: 2012/06/19(火) 15:59:08.79
いや、酷いPだったwww

43: 2012/06/19(火) 15:59:24.41
うっうー

引用元: P「今日はビリヤードでもしようかなぁ……」 春香「!?」