1: 2012/09/26(水) 01:12:12.70 ID:nZCefTvu0
律「髪、黒に戻そうかな」

別に理由なんてない
年頃の乙女は得てして気分屋というものだ

律「ブラシ、何処にしまったっけ」

律「…あった」

ふと、鏡の中の自分と目が合う
我ながら面白くもなんともない顔だ

律「…明日は学校行かなきゃな」

そう呟くのが、今の私には精一杯だった

3: 2012/09/26(水) 01:17:03.46 ID:nZCefTvu0
律「…寒い」

まだ9月なのに朝の通学路は随分冷えていた
…マフラー持ってくれば良かったな

律「みんな心配してただろうなぁ」

脳裏に軽音部の仲間達の顔が浮かぶ

律「…心配してただろうなぁ」

私は少しだけ歩くスピードを落とした

5: 2012/09/26(水) 01:23:05.35 ID:nZCefTvu0
見慣れた学校の廊下
ここの階段を上がれば教室はすぐそこだ

律「…」

理由は分からないけど足取りが重い
いや、本当は分かってる…でも

律「行くか」

私は二段跳びで階段を駆け上がり
教室の戸に手をかけた

6: 2012/09/26(水) 01:28:13.69 ID:nZCefTvu0
律「おっす、みんな!」

唯「りっちゃん!?」

紬「嘘!?」

律「おう!世紀の美少女、田井中律だぞ!」

唯「りーーーっちゃーーーん!!」

律「うおお!?」

唯が私にダイブをかます
超痛いっつーの!

唯「久しぶりだねりっちゃん!もう元気になったの?」

律「うん、心配掛けたな」

紬「良かったぁ…」

8: 2012/09/26(水) 01:33:13.10 ID:nZCefTvu0
唯「私達、もうりっちゃんが学校に来ないんじゃないかって
  ずっと心配してたんだよ?」

紬「そうよりっちゃん」

律「へへ、もう大丈夫だよ」

二人は心底嬉しそうに私の顔を覗き込んでいる
するとムギが「おやっ?」とした表情で私に話し掛けてきた

紬「りっちゃん…」

律「ん?」

紬「髪、黒くなってる」

9: 2012/09/26(水) 01:38:38.34 ID:nZCefTvu0
唯「あ、本当だ!」

唯、お前が一番最初に気付けよ
いのいちに跳びかかったのはお前なんだから

律「染めたんだ、イメチェンって奴」

唯「へぇ~、似合ってるよりっちゃん!」

律「ありがとー!唯ー!」

紬「…」

ムギがなんとなく心配そうな顔で私を見ている
…やっぱり変かな?

10: 2012/09/26(水) 01:43:56.06 ID:nZCefTvu0
律「ムギ」

紬「な、何?りっちゃん」

律「私の髪…変?」

紬「ううん、そんなことない!」

紬「とっても素敵よりっちゃん」

そういうとムギはいつもの柔らかい笑顔に戻る
でもちょっと不自然な気がした

律「そっか、良かった」

律「…唯、いつまで乗っかってるんだ。重いだろ」

唯「おお、ゴメンゴメン」

唯「でも、重いは言い過ぎじゃないかな…」

12: 2012/09/26(水) 01:49:34.92 ID:nZCefTvu0
唯が一人ごちる
へへーんだ

紬「ふふ、ドンマイよ唯ちゃん」

唯「ムギちゃんまで…しどい」

律「少しは痩せたらどうだ?」

唯「ちょっと前までは幾ら食べても平気だったのになー」

そんなたわいもない話をしてるうちに授業の開始を告げる鐘が鳴った
勉強は嫌いだけど、今日は少し楽しみかも

15: 2012/09/26(水) 01:55:33.86 ID:nZCefTvu0
さわ子「ここはこの公式を当てはめることで…」

数学の時間
さわちゃんが一生懸命に黒板に何かを書いてる
…全く持って理解不能

律「(…頭がゴチャゴチャしてきた)」

ノートに目を落とすと紙はまだ真っ白だった

律「(…イタズラ描きでもしようかな)」

シャーペンをしまい、ボールペンを取り出す

17: 2012/09/26(水) 02:00:04.28 ID:nZCefTvu0
律「ふーふん…ふふん♪」

軽やかにペンを走らせる私
やっぱ勉強よりこっちの方が楽しい

律「ここがこーなって…」

律「梓は…こう!」

しばらくすると、真っ白だった紙には
軽音部のみんなの絵が出来ていた

律「ぷっ…似てらぁ」

18: 2012/09/26(水) 02:05:59.82 ID:nZCefTvu0
お茶を飲んで嬉しそうな唯
それを咎めるプンプン梓
楽しそうに眺めるムギ
美味しそうにケーキを頬張る私

律「我ながら凄い完成度だな」

チラッと自分が描かれた絵の隣を見る
そこには呆れ顔でベースを弾く…

さわ子「田井中さん?」

律「!」

さわ子「授業中に何をやってるのかな?」

律「あ、あはは…」

あとでミッチリ怒られたのは言うまでもない

20: 2012/09/26(水) 02:10:18.79 ID:nZCefTvu0
唯「りっちゃんお弁当食べよー」

律「いーよー」

気が付けば太陽は既に真上に昇っていた
珍しく朝ご飯を抜いたからか、私のお腹はとっくにスカスカだ

唯「どこに座る?」

律「窓側安定だろ」

唯「だよねぇ」

23: 2012/09/26(水) 02:14:42.79 ID:nZCefTvu0
唯「いただきまーす」

律「いただきます」

唯「うーん…美味しい!やっぱり憂のお弁当は世界一だよ」

律「自分も料理覚えたらどうだ?」

唯「たまに挑戦はするんだけどね…」

唯の顔が曇る
ははぁ、大体想像出来たぞ

唯「お察ししていただきたい!」

律「胸を張って言うな胸を」

24: 2012/09/26(水) 02:19:13.52 ID:nZCefTvu0
唯「りっちゃんはお料理出来て良いよねぇ」

律「まぁねぇん♪」

唯「…頭の良さは同じくらいなのになー」

律「どーゆー意味だよ!」

唯「ねーねー」

律「無視かい」

唯「どうやってお料理覚えたの?」

どうやって…?
うーん…

27: 2012/09/26(水) 02:27:31.39 ID:nZCefTvu0
先生のとこは適当に脳内補完して


律「気が付いたらかな?」

律「ほら、私の家って家事は当番制だからさ」

律「やってくうちに色々覚えた」

唯「ほうほう」

唯「それだけ?」

それだけってなんだ
何を期待していたんだ

律「そんだけ」

29: 2012/09/26(水) 02:32:37.58 ID:nZCefTvu0
唯「ふーん…つまんない」

唯「そこは好きな人の為にお料理を覚えたとかさ」

唯「こう…ドラマチックなエピソードをね」

律「あるかよそんなもん」



「凄い、これ律が作ったのか?」

「…美味しい!料理上手なんだな」

「なぁ、今度はもーっと美味しいのを作ってくれないかな//」



…あるかよそんなもん

30: 2012/09/26(水) 02:39:35.48 ID:nZCefTvu0
午後の授業…この時間は外のグラウンドで体育だ
体を動かすのは嫌いじゃない。けど今日は…

唯「寒いです!りっちゃん隊員!」

律「寒いです!唯隊長!」

紬「この冷え込みは異常ね…ぶるっ」

朝からこの街を包んでいた冷気がより一層強くなっていた

唯「こんな日にランニングなんて正気の沙汰じゃないよ…」

唯「ムギちゃん、手触らせて~…」

紬「はい、どうぞ♪」

31: 2012/09/26(水) 02:45:23.84 ID:nZCefTvu0
唯「おおう…いつ触ってもムギちゃんの手はあったかあったかだね!」

紬「喜んで貰えると嬉しいわ」

唯「りっちゃんも触らせて貰いなよ~」

律「よーし!むぎゅー!」

紬「ひゃっ!りっちゃんの手、凄く冷たーい」

勢いよくムギの手を握る
なるほど、これは確かに暖かい

律「暖ったけぇ…ムギは人間カイロだな!」

紬「褒めても何も出ないわよ?//」

34: 2012/09/26(水) 02:51:01.67 ID:nZCefTvu0
律「あったかあったかー」

律「…?」

ふと、自分の手に目を落とす
すっぽりと隠すようにムギの手を包んでいる私の手はさながら…

律「…」

紬「りっちゃん」

律「何?」

紬「ちょっと…痛い」

律「あ、ごめん!」

意識せずに思いっきりムギの手を強く握ってしまってたみたいだ

36: 2012/09/26(水) 02:56:09.14 ID:nZCefTvu0
唯「駄目だよりっちゃん、ムギちゃんは大切にしなきゃ」

律「はは…ごめん」

紬「気にしないでりっちゃん」

ムギは笑顔で私を赦してくれる
いつもこの甘さに甘えちゃうんだよな

ピッ!

唯「お!」

遠くで集合のホイッスルが鳴った
…なんかやる気出ないや

37: 2012/09/26(水) 03:01:12.09 ID:nZCefTvu0
紬「りっちゃん、今日部室に行く?」

帰り支度を始める私にムギが問い掛ける

律「うーん…今日は良いや、明日から行くよ」

紬「そう…」

ムギが残念そうな顔をする
しかしすぐに表情が戻った

紬「なら、せめて梓ちゃんに顔だけ見せてあげて」

紬「りっちゃんが学校を休んでいる間、一番心配してたの梓ちゃんだから…」

あの梓が…?
人には意外な面もあるもんだ

39: 2012/09/26(水) 03:07:55.64 ID:nZCefTvu0
紬「…どうかな?」

律「分かった、行くよ」

紬「良かった…きっと梓ちゃん喜ぶわ」

…嬉しそうなムギ
正直、この時のムギの顔は反則レベルに可愛いと思う

紬「私と唯ちゃんは教室を掃除してから行くから」

律「ん」

そう言って鞄を肩に背負い、私は教室を出た

40: 2012/09/26(水) 03:13:24.66 ID:nZCefTvu0
部室前の階段の踊り場に差し掛かると
階段の上からギターの音が漏れてくる
梓はもう音楽室にいるみたいだ

律「…また上手くなってるな梓」

もともとそういう才能があるのだろう
久々に聴いた梓のギターはかなり進歩していた

律「…」

しばらくそこで立ち聴きしていると不意に音が止んだ
…?

41: 2012/09/26(水) 03:17:47.54 ID:nZCefTvu0
梓「唯センパイ!驚かそうとしても無駄ですよ!」

梓「足音でバレバレです!」

いきなり音楽室の戸が開け放たれたかと思うと
梓が開口一番にソレを叫んだ

梓「…って、あれ?」

律「よう」

梓「え…?」

梓「律センパイ…!?」

44: 2012/09/26(水) 03:25:52.60 ID:nZCefTvu0


梓「お茶です、ムギセンパイのほど美味しくないですけど」

律「いや、ありがと」

梓から温かい紅茶の入ったティーカップを渡される
ぶっちゃけ味の違いなんて分からないし暖まればそれでいいや
そんな失礼なことを考えていると、梓が心配そうにこちらを見てきた

律「…なんか私の顔についてる?」

梓「いえ!そんなことは!」

梓の手が猛スピードで顔の前を往復する
…少し笑える

46: 2012/09/26(水) 03:30:22.63 ID:nZCefTvu0
梓「…髪、黒くしたんですね」

律「ああ、似合わない?」

梓「似合わないですね」

…ハッキリ言うな

梓「心境の変化…ですか?」

律「…まぁ」

梓「それってやっぱり…」

梓が目を伏せる
…その意味は理解したくない

47: 2012/09/26(水) 03:35:49.65 ID:nZCefTvu0
律「深く考え過ぎー、イメチェンだよ」

梓「そうですか?…それなら」

それでも梓は心配そうだ
その態度にちょっとだけ私は不機嫌になる

律「…そんな目で見るなよ」

梓「!」

梓「…ごめん…なさい」

少し辛い言い方だったかもしれない

48: 2012/09/26(水) 03:42:39.40 ID:nZCefTvu0
梓「…」

律「…」

部室の空気が重い
それと同時に梓に大して申し訳ない気持ちが増してくる
彼女は私を心配してくれただけなのに…

律「…ごめん帰るわ」

律「また明日な」

そう言い残して私は逃げようとする

梓「ま、待って下さい!」

律「…何?」

梓「久しぶりに律センパイの顔が見れて嬉しかったです」

49: 2012/09/26(水) 03:46:07.89 ID:nZCefTvu0
梓「また明日、部室で…」

梓が私に笑い掛ける
…ありがとうな

律「私も梓の顔が見れて嬉しいよ」

律「またな」

私は足早に部室を出て行った



梓「律センパイ…」

梓「なんだかまるで…」

50: 2012/09/26(水) 03:52:42.74 ID:nZCefTvu0


律「ただいま」

返事は無い

律「…誰も帰ってきてないのか」

そうぼやくと私は自室に向かう
いつもは気にならない階段の軋む音が今日はやけに響いた気がした

律「あー…疲れた」

律「とおっ」

鞄を床に投げ、ベッドにジャンプ!
顔に当たる毛布が心地いい

51: 2012/09/26(水) 03:58:45.86 ID:nZCefTvu0
時計を見るとデジタルの数字は午後4時を示していた

律「今日の洗濯当番私だっけ」

律「取り込まなきゃ」

律「…でも面倒臭いな、体ダルいし」

律「なんだか熱っぽいんだよな」

今朝からの寒さで風邪を引いたかもしれない
…今日の家事は聡に押し付けよう、うん

律「今はベッドでお休みだー」

律「ふふーん♪」

55: 2012/09/26(水) 04:03:32.30 ID:nZCefTvu0
ベッドに入り、枕の位置を整える
寝る準備は万全だ。が、しかし…

律「…寝れない」

体は重いが脳はハッキリ冴えている
これまた面倒臭い状態になってしまった

律「うー」

律「悪化したらどうすんだよ…」

律「羊でも数えてみようかな」

56: 2012/09/26(水) 04:09:06.72 ID:nZCefTvu0
律「羊が一匹…」

律「羊が二匹…」

律「羊が三匹…」

律「羊が…」

紬『ぴょ~ん♪』

律「ムギが四匹…」

律「っておい!」

何故か頭の中に羊になったムギのイメージが浮かぶ
…結構似合ってる

律「はぁー、やめたやめた」

律「…」

律「…ムギ、心配してたな」

59: 2012/09/26(水) 04:16:23.87 ID:nZCefTvu0
一日を頭の中で振り返ってみる
今日は色んな人に気遣われた日だ
ムギや梓、クラスのみんな…

唯だけは殆ど変わりなかったように見えたが
あれも気遣ってくれてのことだろう

律「みんな心配し過ぎだよな」

律「元通り元気なりっちゃんになったってのに」

律「…」

元通り…?

61: 2012/09/26(水) 04:20:01.98 ID:nZCefTvu0
律「そう、元通り…」

唯が居て、ムギがいて、梓が居て、私が居て…
全部元通りの軽音部に…

律「…違う」

足りない
元通りなんかじゃない

だって

律「澪が居ない」

63: 2012/09/26(水) 04:23:24.33 ID:nZCefTvu0
居ないんだ、澪が

朝の通学路に

昼の学校に

放課後の部室に

夕暮れの帰り道に

澪が居ない

律「…なんで?」

律「なんで澪が居ないの?」

ベッドから起き上がる

66: 2012/09/26(水) 04:27:48.94 ID:nZCefTvu0
私に足りない欠片
澪がどこにも居ない

律「なんで…」

律「!!!」

脳裏に映像がフラッシュバックする
そうだ…澪は…

律「う…」

律「おえええぇ…!」

胃の中が逆流し
つん、とした臭いが鼻をかすめる

律「~!」

68: 2012/09/26(水) 04:32:04.12 ID:nZCefTvu0
私は急いで階段を駆け下り、洗面所へ向かう
この不快感を止めたいからだ

律「おえっ…!けほっ…」

律「かほっ…!」

しばらく俯いたのち、水道の蛇口を捻る
水の音だけが周りに響いた

律「はぁ…はぁ…」

律「…」

69: 2012/09/26(水) 04:36:36.31 ID:nZCefTvu0
三十分はこうしていただろうか
水道を止め、顔を上げる

律「…」

ふと、鏡の中の自分と目が合う
私はそっとカチューシャを外す

律「…!」

そこには、鏡の中には澪が居た

70: 2012/09/26(水) 04:40:50.17 ID:nZCefTvu0
律「澪…?」

…そっと鏡に手を触れる
鏡の中の澪も同じように返す

律「澪…澪!」

律「私だ!律だ!」

割れるんじゃないかという勢いで鏡を叩く
鏡の中の澪は困ったように笑っているように見えた

律「なぁ、なんか喋ってくれよ!」

律「聞こえてるんだろ!?」

72: 2012/09/26(水) 04:45:24.91 ID:nZCefTvu0
律「澪!」

律「なぁ澪!」

何度も何度も鏡を叩く
たかが鏡のくせに私と澪を遮るこの鏡が憎かった

律「みお!」

パリン!

律「痛っ!」

とうとう鏡は白旗を上げ、その破片を撒き散らす
その一部が私の頬を切り裂いた

律「つぅ…」

73: 2012/09/26(水) 04:49:43.45 ID:nZCefTvu0
痛みに顔をしかめつつ顔を上げる
残された鏡の破片に映っていたのは、なんてことはない


ただの自分の顔だった


律「は…あはは…何やってんだろ私」

律「バッカみてぇ…」

76: 2012/09/26(水) 04:55:05.61 ID:nZCefTvu0
律「…」

…散らばったガラスの一つを手に取る
…まるでナイフみたいだ

律「も、いいや…」

律「要らない」

律「澪の居ない世界なんて要らない」

律「要らない」

律「澪の居ない世界に私は要らない」

そっとソレを首に向ける
…きっと一瞬だ

78: 2012/09/26(水) 04:57:51.09 ID:nZCefTvu0
律「ごめん」

何に対しての「ごめん」かは分からない
でも…

律「ごめん…」

手に力を込める



「律!」

79: 2012/09/26(水) 05:01:39.67 ID:nZCefTvu0
律「ん…?」

澪「いつまで寝てる気だ!遅刻したいのか」

律「あれ…私…」

澪「寝ぼけてるのか?」

澪「さっさと顔を洗え」

律「う、うん…」

ベッドから起き上がる
澪は眉間に皺を作って仁王立ちしていた

81: 2012/09/26(水) 05:06:01.40 ID:nZCefTvu0
律「カチューシャどこやったっけ…」

寝起きの頭で机の上を探すけど見つからない
あれー?

澪「カチューシャならココ、はい」

澪がカチューシャを差し出す
おお、澪が持ってたのか

律「サンキュー」

律「流石、みおしゃん」

82: 2012/09/26(水) 05:10:09.72 ID:nZCefTvu0
澪「お前のお母さんじゃないんだぞ」

澪「私が居なかったらどうする気だ」

律「そんなの考えられないね」

律「だってずっと一緒だろ私達!」

澪「…」

律「澪?」

澪「…それは無理だよ」

澪が悲しげに笑う

律「澪…?」

83: 2012/09/26(水) 05:14:01.66 ID:nZCefTvu0
澪「お別れだ律」

律「…なんでそんなこと言うんだよ」

澪「気付いてるだろ」

澪「…気付かなくちゃ」

律「何…を…?」

嫌だ、聞きたくない

澪「律」

澪「私はもう居ないんだ」

84: 2012/09/26(水) 05:17:11.02 ID:nZCefTvu0
何を言ってるのか分からない
分かりたくない

澪「…受け入れなきゃ」

律「嫌だよ…」

律「嫌だよそんなの…」

澪「私は氏んだんだ」

律「違う!澪は…!」

澪「違わない」

澪「氏んだんだ」

85: 2012/09/26(水) 05:20:55.07 ID:nZCefTvu0
律「嫌…!」

澪の体が透けていく
待って、置いていかないで

澪「きっと大丈夫」

澪「私が居なくても律はやっていけるよ」

無理だ
私には澪がいなきゃ駄目なんだ。怖いんだ

86: 2012/09/26(水) 05:25:32.15 ID:nZCefTvu0
律「そんなの無理だ!」

律「もっと澪と一緒に居たいよ!」

律「一緒に笑って居たいよ!」

律「澪と…一緒に…あぁ…」

頬を涙が伝う

澪「律…」

律「み…お…」

澪が私の肩を抱き寄せる
懐かしい…澪の匂いだ

88: 2012/09/26(水) 05:30:48.68 ID:nZCefTvu0
律「お願いだから行かないで…」

律「一緒に居てよぉ…」

澪「…ワガママを言うな」

澪「お前がそんなんじゃ安心して行けないだろ」

律「だって…」

澪「大丈夫だよ、見えなくても私は一緒に居る」

律「…そんなの気休めだ」

澪「嘘じゃない、本当だ」

89: 2012/09/26(水) 05:38:44.75 ID:nZCefTvu0
澪「律、人は二回氏ぬ…って話を知ってる?」

律「…何?」

澪「一つ目の氏はその身が朽ちた時」

澪「そして二つ目の氏は…」

澪「人に忘れられた時だ」

律「忘れられた…時…」

澪「…私は凄い恐がりなんだぞ」

澪「お前は私を二回も氏なせたいのか?」

律「…どういう意味だよ」

澪「…律には生きて欲しい、『私は要らない』なんて言わないで」

澪「生きて…私のことずっと覚えていて」

90: 2012/09/26(水) 05:47:30.13 ID:nZCefTvu0
律「…」

澪「私が居なくても笑っていてね」

澪「律は律だけに笑っていて」

澪「お願い…」

澪の体がより透けていく
きっともう…

律「うん…!笑うから…覚えてるから…!」

澪「約束だぞ?」

律「約束する…!」

91: 2012/09/26(水) 05:51:10.17 ID:nZCefTvu0
澪「ありがとう」

澪「私の大好きな…」

澪「 」

聞こえない
ねぇ、なんて言ったの?

もう一度聞かせてよ
ねぇ…澪…

律「澪!!!」


92: 2012/09/26(水) 05:55:41.57 ID:nZCefTvu0
律「う…」


紬「…りっちゃん?」

唯「…起きた?」

梓「…律センパイ!?」


律「ここは…?」


唯「りっぢゃああああああああん!!!」

律「ぐえっ!」

あれ、デジャブ…

94: 2012/09/26(水) 06:00:55.95 ID:nZCefTvu0
唯「起ぎだあああ!りっちゃんが起ぎだあああ!」

紬「良かった…本当に良かった…!」

梓「り…りづセンパイまで居なくなったら…私…!」

みんな顔がグシャグシャだ
どうしたんだよ

律「唯…苦しい…」

唯「バカ!りっちゃんのバカ!バカバカバカ!」

紬「バカ!」

梓「バカです!」

95: 2012/09/26(水) 06:05:49.21 ID:nZCefTvu0
バカ…?

唯「なんで相談してくれなかったのさ!」

梓「後追い自殺なんてバカのすることです!」

紬「そうよ…!」

後追い…ああ…そっか私…



律「…」

唯「りっちゃん!」

紬「せ、先生を呼んで!」

96: 2012/09/26(水) 06:14:28.87 ID:nZCefTvu0
あの時、私はどうやら首を切って倒れていたのを
帰ってきた聡に発見されて病院に運ばれたらしい

出血がかなり酷く、一時は氏の危険性もあったものの
なんの奇跡か、ギリギリ一命を取り留めた

医者は本人の生きたいという願いが命を繋ぎ留めたと言うけど…
私は澪が助けてくれたんだと思う

だって約束したから…生きるって

97: 2012/09/26(水) 06:21:13.60 ID:nZCefTvu0
1ヶ月後

紬「りっちゃん、病院の庭を散歩してみない?」

紬「お医者様から外出許可は貰ってるんでしょ?」

律「んー…そうだな、そうするか」

唯「一緒にサンドイッチ食べようよ!」

梓「駄目ですよ…病院食があるんですから」

唯「そっかー、残念だねりっちゃん」

律「ムカつくな…」

紬「ふふ、ほら行きましょ?」

98: 2012/09/26(水) 06:26:45.59 ID:nZCefTvu0


律「…」

律「気持ちいい風だな」

紬「そうね…」

唯「ねぇねぇ、あそこに蝶が飛んでるよ!」

梓「本当だ…もう冬になるのに」

唯「ようし、捕まえよう!」

唯「行くよあずにゃん隊員!」

梓「こ、子供ですか!?ちょ、引っ張らないでくだ…」


律「何やってんだか」

紬「楽しそうね~」

99: 2012/09/26(水) 06:33:03.15 ID:nZCefTvu0
紬「よし、私も捕まえに行く!」

律「ムギまで…」

紬「二人共待って~!」


律「…」

律「普通、病人置いていくか?」

律「ま、アイツららしいけど」


律「…なぁ澪、聞いてる?」

律「あたしさ…」

律「!」

ヒュウウウウ…!

風が私を襲う。まるで喋るなと言わんばかりだ

100: 2012/09/26(水) 06:34:52.91 ID:nZCefTvu0
律「…言わなくても分かるって?」

律「流石みおしゃん」

律「でもさ、これだけは言わせてよ」

102: 2012/09/26(水) 06:40:40.87 ID:nZCefTvu0
律「私、生きるよ。澪の分まで」

そう 僕らは旅立つんだ

律「忘れたくないから…忘れさせたくないから」

キレイな淋しさのひとつを抱いて

律「だからさ」

僕は僕だけに笑えればいい


律「…さよなら」

今は君に手を振ろう



おしまひ

103: 2012/09/26(水) 06:44:20.87
ご苦労様

104: 2012/09/26(水) 06:46:22.17
うむ

引用元: 律「今はそっと手を振ろう」