1: 2017/09/13(水) 14:42:13.877 ID:rENk/zsn0
ガヴリールドロップアウト

4: 2017/09/13(水) 14:45:34.693 ID:rENk/zsn0
「サターニャさんは、午後から雨が降る予報だと傘を持ってこない」

天気予報を見ていないのかもしれない

見ているけれど、降水確率で邪魔だから。と

持ってこないのかも知れない

その気持ちが私に分かるとはいえませんが

雨の中、傘を持たずに走っている大人を見ると、思う

サターニャさんも、同じ気持ちで持ってこないのだろうか。と

そう思うと、少しだけ切なく思う

私はサターニャさんの気持ちが理解できない、そう言われているようで

ガヴちゃんに聞いてみると

めんどくさいだけだろーと、暢気な声で言って

そういうの時々あるしと自慢げに笑って見せた

天使でも風邪は引くのだから、自慢するようなことではないと思うけれど。

でも、そうなのかもしれないと思った

5: 2017/09/13(水) 14:46:45.887 ID:rENk/zsn0
「10%の降水確率の時、私はいつも空を見る」

殆どの人が今日は振降らないだろうと傘を置いてくる中

私はただ一人、傘置きに私の名前を記した傘を差し込む

今日も雨が降るようにと、”呪い”をかけて。

絶対に降るときや、絶対に降らないとき

そう言うときに天気を操作していただくことは絶対に出来ません

それは、明らかな介入となるからです

けれど、もしかしたら。と言うときなら操作していただくことができる

でも、私はいつもしようか迷ってしない

曇り空の下、玄関口でサターニャさんが「降らなかったわね」と横を通り抜けていく

それでも私は傘を握り締めたまま、役に立たなかったそれを持ち帰る

何でだろうかと考えて

その”僅かな可能性”に迎え入れて貰えないなら何もかもがダメなんだと

そう思っていることに気づいた

6: 2017/09/13(水) 14:48:11.710 ID:rENk/zsn0
「朝から雨が降るという予報は嫌な気分になる」

いつもいつも、雨の日を楽しみにしているのに

朝から雨が降るというありふれた天気予報が聞こえると

私はあまり良い気分にはなれなかった

なんだ、そっちなんだ。と

意地悪な空を睨んではため息をついて、嫌がらせに力を込めたてるてる坊主を吊るす

そのせいか、80%の雨模様でも午後で止むことが多々あって

ガヴちゃんにはあまりやりすぎるなよ。と怒られてしまった

八つ当たりをしただけなのに

本気でやっているわけではないのに

でも、そう言うときには決まって

サターニャさんが「邪魔になったじゃない」と、

ただの荷物になった傘を憎らしげに見せてくる

7: 2017/09/13(水) 14:50:40.576 ID:rENk/zsn0
「2人で使うと、距離が縮まった気がする」

一本の傘の下、所謂相合傘を行うと当然のごとく距離は近いです

それはもう、0距離で肩と肩が触れ合うほどに

雨によって冷えた空気のせいか、ほんの少しだ毛触れ合う部分はとても暖かい

今使っているのは60cmの比較的大きな傘

これより小さい傘だったらどうなるのだろう

そんな悪戯を考えている間も、

サターニャさんは良く解らない表情のまま無口で隣を歩く

声をかければ返してくれる

でも、声をかけて着てはくれない

なのに、家に着くと、「いつも悪いわね」と、悪びれも無い笑顔で言う

次も持ってこないだろうと私は毎回思うのに

私は呼びの傘をもう一つ持って行くという考えは浮かばなかった

ううん、そんな考えは、初めから切り捨てていた

8: 2017/09/13(水) 14:51:03.584 ID:rENk/zsn0
「一回り小さい傘にしてみた」

久しぶりに来た午後からの雨

悪態をつきながら、傘を持って着ていなかったのに。というサターニャさんに傘を差し向ける

あんたは真面目ね。と

サターニャさんは嫌味っぽく笑って言う

今までは肩と肩が触れ合う程度だったのに、

一回り小さくしただけで、重なるような近さになった

サターニャさんもすぐに気がついたようで

今までよりも近くない? と不思議そうだったけれど

そんなことありませんよ。ととぼけると

そうかしら。と、納得はしていないけど、疑わなかった

肩が触れる。少しだけ

人が来ると、自転車が来ると、車が来ると

距離がもっと縮まって

濡れた私の肩を見て「悪かったわね」とサターニャさんは言う

なら、傘を持って来ては如何ですか?

なんて、誰かに対して意地悪なことは言わなかった

9: 2017/09/13(水) 14:52:49.958 ID:rENk/zsn0
「サターニャさんが傘を持ってきた」

午後から雨が降るという日

いつものように生徒玄関で佇んでいたサターニャさんに

私は後ろから「仕方がないですね」と、声をかけた

いつものように傘を持って、差し向けて

帰りますか? と、声をかける

けれど、振り返ったサターニャさんは傘を持っていた

一人分の、小さな折り畳み傘

それを見せて「これがあるのよ、ふふんっ」と

自慢気に傘を開いた

また明日。と、サターニャさんは一人で帰っていく

一人分の傘、でも、一人で使うには大きいと私はなぜか思った

一人分の足音、雨音でそこまで聞こえないのになぜか物足りなく感じた

いつもの別れ道、かけ合う声もなく追う姿もない

なのに、なぜか私は誰もいない道を見る

サターニャさんがいる気がして。

10: 2017/09/13(水) 14:58:40.052 ID:rENk/zsn0
「サターニャさん、傘を忘れました」

そう声をかけたのは、いつものような午後から雨が降るある日のこと

以前傘を持ってくるようになってから、サターニャさんは毎回持ってくるようになった

男の人が使うような黒い折り畳み傘

悪魔っぽくていいでしょ。格好いいでしょ

そう自慢してくるサターニャさんは格好良くなんて無かった

子供のように無邪気で愛らしかった

だから、私は傘を忘れました。と

降り頻る雨粒のカーテンの前で、サターニャさんに声をかけた

いつも持ってくるのに珍しいわね。サターニャさんは不思議そうに言った後

自分の傘と、外と、私を見て、また傘を見て開く

どうすればと立ち止まっていると、サターニャさんは「何してるのよ」と、手招いて

近付いて、重なって

この傘は小さいからもう少し。とサターニャさんは私を抱き寄せるように近づけた

雨の日の空気は冷たい

心なしか冷え冷えと感じる

だからそう、平熱でも身体は熱く感じてしまうのだろう

12: 2017/09/13(水) 15:00:28.286 ID:rENk/zsn0
「サターニャさんに家に誘われた」

止みそうもない雨の中、いつもの分かれ道

サターニャさんは唐突に私に声をかけてきた

ここからまだ距離があるんだから、一旦うちに着なさいよ

サターニャさんは私のことは見ないで言った

私は少し考えて、自分の濡れた肩に目を向けてサターニャさんを見る

こうしている今も、私もサターニャさんも少しずつ濡れていくから

仕方が無いですね。と、困ったように笑うと

サターニャさんも本当は嫌だけどと呟きながら

しかたがないわね。と、繰り返すように言って招き入れてくれた

でも、私は良くサターニャさんの家に行く

忍び込んでいた以前と違って、正式に

悪戯はしないという誓役書まで書かされた

でも、字が違うから、護る必要は無いと個人的に思っていますが。

13: 2017/09/13(水) 15:03:56.933 ID:rENk/zsn0
「少し寂しかったです」

カーディガンを脱いで、ブレザーを脱いで、乾かしながら

少しだけ濡れた髪を乾かして

サターニャさんが飲みなさいよ。と出してくれたホットカフェオレを一口飲む

冷たくても美味しいカフェオレ

温まったことで引き出されたミルクのじんわりと広がる甘みはコクがあって少し良いもの

コーヒーの深みの無い苦味と掠れた甘みは少しだけ安物感

コーヒー単体ではあんまり美味しいとは思えないけれど。

身体の芯に響くほんわかとした温かみは悪魔が作ったものとは思えなかった

その満たされていく感覚

背中を見せるサターニャさん

なにかに触発されたのかもしれない

私は「寂しかったです」と呟いた

サターニャさんは振り返って「何言ってんのよ」と苦笑する

15: 2017/09/13(水) 15:06:20.024 ID:rENk/zsn0
「好きです」

振り返るサターニャさんに、私は一人で帰るから。と追加した

一人で帰ることになるから、寂しいと

でも、思えば午後から雨の日だけ一緒に帰るのがおかしかった

でも、きっと

私とサターニャさんにとっては、何もおかしくないのだと思う

世間にとっても、天使と悪魔にとっても

何もおかしくないのだと思う

だからこそ、私とサターニャさんは午後から雨の日だけ一緒に帰る

普段では考えられないほどの近しい距離感で

時には重なり合って

だから、私が「午後から雨の日は好きです」と、言うと

サターニャさんは困ったように笑う

良く分からないけど。とサターニャさんは言って、私も別に嫌いじゃないわ。と呟いて

今日みたいに帰ればいいじゃない。と、サターニャさんは言う

16: 2017/09/13(水) 15:08:40.051 ID:rENk/zsn0
「何もかもが、偶然で」

私が傘を持たず、サターニャさんが傘を持っている初めての状況

そのように帰ればいいというサターニャさんの言葉

私は少し冷たくなったカフェオレと一緒にそれを飲み込んで一息つく

確かにそうだと思った

確かにそれなら、またこれを飲むことができるから

だから、私が「そうですね」と言うと、サターニャさんは「でしょ」と、言う

自慢げに。子供っぽい愛らしさの感じる笑みで

私は天使。彼女は悪魔

だから、近しい距離は偶然の産物であるほうが都合が良い

だから、私はサターニャさんにもたれかかって目を瞑る

眠くなってきましたと、呟きながら、寝息を立てる

背中に感じるぬくもりは、少しだけ揺れて私を支えてくれる

悪魔なのに、心地良い

悪魔だからこそ、心地良い

彼女だからこそ、心地良い

目が覚めたとき、夜になっているかもしれないけれど。

それはやっぱり偶然だから

「……仕方が無い」

二つの声が重なって、小さく響いて消えていく

少しだけ、サターニャさんが大悪魔なのだと認めてあげようと思った

18: 2017/09/13(水) 15:09:09.052 ID:rENk/zsn0
「おわり」

19: 2017/09/13(水) 15:25:14.451
ラフィかわいいな乙

20: 2017/09/13(水) 15:26:17.248

これはラフィが雨の日に思ってそうな心情
こういう形式でSS書いてみるのも一つの手だな

21: 2017/09/13(水) 15:51:13.820
乙乙
こういうの好き

引用元: ラフィエル「雨の日」