1: 2020/05/30(土) 19:32:07.376 ID:6TT2GVAJ0
女「ハァ~……」

女(彼氏とは別れるし、会社では怒られるし、最近ろくなことないわ……)

女「……ん?」

おっさん「……」

女(なにあの小汚いおっさんは……。あんな目立つところにいるのに、みんな知らんぷりだけど……)

おっさん「おや?」

女「え」

おっさん「キミは……ボクが見えるのかい?」

女「見えない! 見えない見えない見えない見えなぁぁぁぁぁい!」

4: 2020/05/30(土) 19:35:18.290 ID:6TT2GVAJ0
おっさん「やっぱり見えるんだね」

女「ひっ!」

おっさん「嬉しいねえ、ボクを見れる人間はなかなかいないからね」

女「こっちは嬉しくない……」

おっさん「あっちのベンチで一休みしようじゃないか」

女「まあ、いいけどさ……」

6: 2020/05/30(土) 19:38:20.783 ID:6TT2GVAJ0
おっさん「ベンチに座ってワンカップ酒!」グビグビ

おっさん「ぷはーっ! うまい!」

おっさん「キミもどうだい?」

女「いりません」

おっさん「どうして?」

女「真昼間からベンチでワンカップ酒なんて……そこまで落ちぶれたくないわよ!」

おっさん「別に落ちぶれてるつもりはないが、落ちてみなきゃ見えない景色もあるよ」

女「そんなもん見たくもないわ!」

7: 2020/05/30(土) 19:41:08.561 ID:6TT2GVAJ0
女「ところで、あんたはなんなの?」

おっさん「んー、ボクは町の精霊みたいなもんだね。あるいは守り神」

女「せ、精霊……? 守り神……?」

女(どっちかっていうと疫病神でしょうが)

おっさん「町で人知れず人助けをするのが使命さ」

女「人助けぇ? たとえば?」

おっさん「たとえば……」

8: 2020/05/30(土) 19:44:21.129 ID:6TT2GVAJ0
通行人「……」スパー…

通行人「……」ポイッ

女「あ、あいつ! ポイ捨てしたわ! サイテー!」

おっさん「……」ササッ

女「あ、おっさん!」

女(捨てられた吸い殻を……)

9: 2020/05/30(土) 19:46:45.819 ID:6TT2GVAJ0
女「偉いじゃない、おっさん! 見直したわ!」

おっさん「よしよし、まだ十分吸えるな」

おっさん「……」スパー…

おっさん「うまい」

女「シケモク吸うんかい!!!」

12: 2020/05/30(土) 19:50:14.779 ID:6TT2GVAJ0
おっさん「一服したらちょいと打ちたくなってきたな」

女「なにを?」

おっさん「あれさ」

チーン ジャラジャラ…

女「本当におっさんね……。てか、精霊のくせにパチンコ打てるの?」

おっさん「あそこの店は波長が合うんでね。台に触ることができる」

女「どういう理屈よ」

13: 2020/05/30(土) 19:53:21.453 ID:6TT2GVAJ0
おっさん「うーむ、全然ダメだな」

おっさん「キミがやってみるかい?」

女「パチンコなんかやったことないんだけど……」

おっさん「ボクが教えてやるからさ」



ジャラジャラジャラ…

女「ヒャッホウ! 大当たり~!」

おっさん「ビ、ビギナーズラックだ……」

14: 2020/05/30(土) 19:56:26.180 ID:6TT2GVAJ0
女「あー、楽しかった」

おっさん「こっちが誘っておいてなんだけど、若い娘さんがハマっちゃいけないよ」

女「分かってるって。パチンコは今のが最初で最後!」

女「あ、おっさん。まだワンカップ酒あるなら、くれない?」

おっさん「いいけど」

女「……」グビグビ

女「ぷはーっ! うまい!」

おっさん「ハハ、だいぶ元気になってきたね」

女「まあね~」

16: 2020/05/30(土) 19:59:14.289 ID:6TT2GVAJ0
女「ありがと、おっさん! 今日は楽しかったわ!」

おっさん「元気になってくれてなによりだ」

女「おっさんはいいよね、悩みなんかなさそうでさ」

おっさん「そんなことないさ。おっさんにはおっさんなりの悩みが……」

女「え、そうなの?」

おっさん「ま、キミが気にすることじゃない。じゃあね~」スゥゥゥゥ…

女「……消えた」

女(おっさん……本当に町の精霊だったんだ……)

17: 2020/05/30(土) 20:01:18.315 ID:6TT2GVAJ0
女「さっきまでホントがっくりきてたのに、すっかり元気出ちゃった」

女「ありがとね、おっさん」

女「よーし、頑張るぞー!」



…………

……

18: 2020/05/30(土) 20:02:19.845
いいおっさんだった

19: 2020/05/30(土) 20:06:18.350 ID:6TT2GVAJ0
……

女「ハァ~……」

女(今日も散々な一日だったわ……私としたことがあんなミスを……)

女「……ん?」

銀髪「……」

女(なによ……あの美少年は……)ドキッ

銀髪「あれ?」

女「え」

銀髪「キミは……ボクが見えるのかい?」

女「見える! 見える見える見える見えまぁぁぁぁぁす!」

20: 2020/05/30(土) 20:08:17.637 ID:6TT2GVAJ0
銀髪「久しぶりだな……ボクが見える人に会えるなんて」

女「えへへ……」

女(見れば見るほど美しいじゃない。絶対逃がさないわ!)

女「よかったら……なにかご馳走してあげよっか?」

銀髪「ホント? 嬉しいな」

女「よっしゃ! じゃあタピオカ! タピオカ! タピオカにしよ!」

銀髪「う、うん」

21: 2020/05/30(土) 20:11:04.379 ID:6TT2GVAJ0
女「どう? おいしい?」

銀髪「おいしいよ。どうもありがとう」

女(一緒にいるだけで癒やされる……こんなこと初めてだわ)

女「どう? もっと飲む?」

銀髪「いや、もう三杯も飲んだから……」

女「あらそう。じゃあ次は……」

女(こんな機会二度とないわ! 絶対お友達になってやる!)

22: 2020/05/30(土) 20:14:42.693 ID:6TT2GVAJ0
おっさん「おーう」

女「あら、おっさん! どうしたの? こんなところで……」

おっさん「いや、町をぶらついてたら、キミの姿が見えたもんでな」

女「今度はこっちが見つけられちゃったわけか。だけどあいにく、今デート中で……」

銀髪「……」

女「どうしたの?」

銀髪「……父さん」

女「へ?」

24: 2020/05/30(土) 20:17:07.977 ID:6TT2GVAJ0
おっさん「お前……」

銀髪「父さん……」

女「あなたたち父子だったの!?」

おっさん「うん、まあね」

女「全然似てないじゃない!」

おっさん「ハハハ……」

銀髪「父さん……」ハァ…

25: 2020/05/30(土) 20:20:34.621 ID:6TT2GVAJ0
銀髪「またそんな薄汚い格好でうろついて」

銀髪「ボクたちは町の精霊……守り神なんだよ? 父さんがうろつくとその品位が落ちちゃうじゃないか」

おっさん「そ、そんなことないだろ」

銀髪「そんなことあるよ。まったく……恥ずかしいんだから」

おっさん「これまた手厳しいな……」

女(あれ、あんまり仲良くないのかな?)

26: 2020/05/30(土) 20:23:33.012 ID:6TT2GVAJ0
銀髪「町を見守るとかいって、やることは酒飲んだり、タバコ吸ったり……」

銀髪「これのどこが町の守り神だよ。なんの神秘性もありゃしない。もっと高貴に振る舞ってくれよ」

おっさん「す、すまん……」

銀髪「父さんのせいで、ボクがどれだけ恥ずかしい思いしてるのか分かってるの?」

銀髪「父さんなんかなんの役にも立ってない。ただのどうしようもないダメ精霊に過ぎないんだよ」

銀髪「存在自体が恥なんだよ、父さんは。はっきりいって消えて欲しいよ」

おっさん「ハ、ハハ……」

銀髪「笑いごとじゃないよまったく」

28: 2020/05/30(土) 20:26:17.914 ID:6TT2GVAJ0
銀髪「このお姉さんにも声かけたようだけど、どうせスケベな目的で話しかけたんだろ?」

おっさん「いや、そんなことは……」

銀髪「お姉さんがどれだけ幻滅したか、どれだけ迷惑したか、ボクにはよく分かる」

銀髪「こんなステキなお姉さんに、父さんは似つかわしくない。二度と姿を見せちゃダメだ」

銀髪「ああ、できればボクの前にも……」





女「ちょっと待てや」

29: 2020/05/30(土) 20:30:32.515 ID:6TT2GVAJ0
女「さっきから聞いてりゃ、好き勝手ほざきやがって……」

銀髪「え?」

女「おっさんはおっさんなりに……ちゃんと町を見守ってくれてんだよ!」

銀髪「お姉さん、なにいって――」

女「私はね、こないだおっさんに助けられた」

女「私生活で色々あって落ち込んでるとこを、このおっさんの小汚さ下品さに救われたんだよ」

女「品位? 神秘? 高貴ィ? そりゃ結構でしょうよ、だけどそれだけじゃダメなんだよ!」

女「おっさんみたいに、一緒に酒飲んで笑ってくれるような守り神だって必要なんだよ!」

女「それをお前、ちょっとツラがいいだけの小僧が……」

女「そこまでボロクソに言う権利があると思ってんのかアアアアアアアッ!!!」

銀髪「ひ、ひいいいい……!」

30: 2020/05/30(土) 20:33:13.167 ID:6TT2GVAJ0
おっさん「……それくらいにしてやってくれ」

女「!」ハッ

銀髪「……」ドキドキドキ

おっさん「息子よ、ボクも悪かった。これからはもう少し、精霊らしく振る舞ってみるよ」

銀髪「いや、ボクの方こそごめん……」

女「えぇと、なんかごめんなさい……」

おっさん「ハハ、今のはボクまでビックリしたよ」

おっさん「そうだ! せっかくだから、ウチに来ないか?」

女「じゃあ……お邪魔します!」

33: 2020/05/30(土) 20:36:04.875 ID:6TT2GVAJ0
おっさん「ここは人間界と精霊界のはざまにある世界さ」

女「うわ、大木が家になってるなんて……オシャレ~!」

おっさん「ただいま!」

銀髪「ただいま」

女「お邪魔します」

おばさん「あら、お客さんが来るなんていつぶりかしら。おばさん嬉しいわ」

女(おおっ、美人!)

34: 2020/05/30(土) 20:39:40.877 ID:6TT2GVAJ0
女「おばさん、あなた超美人ね!」

おばさん「あら、お上手なんだから」ウフッ

女「あんたよかったわね~! 母親似で! 父親似だったら悲惨だったわよ! ギャハハ!」

銀髪「う、うん……」

女「ていうか、もはや托卵を疑うレベルなんだけど! ホントにおっさんの子なの?」

おっさん「ケツのホクロの位置は一緒だからな。間違いないさ」

銀髪「ちょっ、やめてよ父さん!」

アハハハハハハ…

35: 2020/05/30(土) 20:42:22.398 ID:6TT2GVAJ0
おばさん「私たちのご飯です。人が食べても大丈夫ですので……」

女「わぁっ、おいしそう!」

女「いただきまーす!」モグモグ

女「おいしい~!」

おっさん「おっ、口に合ってよかった」

銀髪「タピオカをご馳走してくれた分、たっぷり食べてね」

女「ありがとう!」

37: 2020/05/30(土) 20:45:34.369 ID:6TT2GVAJ0
女「おっさんとおばさんは、どっちからプロポーズしたの?」

おばさん「私なの……」ポッ

女「ええっ!? 信じられない!」

おっさん「そうなんだよ。知り合ってから、熱烈なアプローチを受けちゃって……」

おばさん「大好きよ、あなた」ギュッ

女「いよっ! お熱い! ヒューヒュー!」

女「あんたもいい精霊相手、見つけなきゃダメよ~」

銀髪「う、うん」

アハハハハ… ワハハハハ…

38: 2020/05/30(土) 20:48:40.284 ID:6TT2GVAJ0
女「じゃあ、私はこれで」

おっさん「キミのおかげで……久々に家族だんらんできたよ」

おっさん「町の精霊であるボクが、キミに助けられてしまったな」

女「私はなにもしてないって。あの子も元々おっさんのことが嫌いじゃなかったはずよ」

女「きっと、ちょっとした反抗期だったのよ」

女「じゃあね~!」



銀髪「……ステキな人だね」

おっさん「ああ、この町には彼女のようなステキな人がたくさんいる」

おっさん「これからもボクたちで見守っていこうじゃないか」

銀髪「うん!」



…………

……

39: 2020/05/30(土) 20:52:07.384 ID:6TT2GVAJ0
……

女(しばらく経って、私には新しい彼氏ができた)

女(郷土史なんかに造詣の深い人で、今のところ交際は順調だ)



男「こんな話聞いたことある?」

女「?」

男「この町には守り神が住んでて、困ってる人をさりげなく助けてくれるんだって」

女「へぇ~」

男「いったいどんな守り神だと思う?」

女「うーん、そうだなぁ……」

41: 2020/05/30(土) 20:56:02.407 ID:6TT2GVAJ0
女「もしかすると……神秘的な外見な少年かもしれないし……」

男「うんうん」

女「もしかすると……ワンカップ酒が似合うおっさんかもしれないね!」

男「ハハ、それも面白いね」



おっさん「はーくしゅっ!」

銀髪「はーくしゅっ!」

おばさん「あらあら、二人揃ってクシャミしちゃって。仲がいいわね」








―おわり―

42: 2020/05/30(土) 20:56:36.340
おつおつ

43: 2020/05/30(土) 20:59:50.477

いい話だった

引用元: おっさん「キミは……ボクが見えるのかい?」女「見えない!見えない見えない見えないッ!」