1: 2012/07/03(火) 17:31:26.53
P「あれ~? 地図だとこの辺なんだけどなぁ……」 テクテク

P「しかし合格するとは思わなかったな」トコトコ

P「アイドル事務所、765プロダクションか……」ポクポク

P「でもプロデューサーってなにするんだろう?」テケテケ

P「あ、すいません。765プロというのは……」

―――――――――

P「ありがとうございます」 ペコリ

P「なんだやっぱり近いんじゃないか」

P「……………………」

P「え?ここなの?マジで?」

2: 2012/07/03(火) 17:34:11.81
空き地の片隅に765プロは慎ましく存在していました。

トタンのプレハブを見て連想するのは、あばら屋、ウサギ小屋、筋肉ハウス……。

社屋はどうひいき目に見ても零細企業でした。

P「だ、大丈夫なのかな……」

社会人1日目にして自社の行く末に暗雲が立ち込めているのを見つけてしまいました。

できれば偉い人になるまでは気が付きたくありませんでした。

3: 2012/07/03(火) 17:36:12.33
P「そういうものなのかな……」

大学で専攻した現代芸能史を思い出します。

21世紀初頭に成立した法案は、凋落しつつあったCDメディアにとどめを刺しました。

非難の多い商法と相次ぐスキャンダルがそこに拍車をかけて、アイドルはすっかり廃れてしまったのです

5: 2012/07/03(火) 17:38:28.27
代わって台頭してきたのが、出所不明のヴァーチャルアイドルでした。

ネット配信をメインにほとんどのコンテンツを無料で公開する彼女たちは
瞬く間に絶大な支持を受けるようになりました。

僕が斜陽産業であるところの芸能関係を志したのは、
このオンボロな765プロがヴァーチャルアイドルと深いかかわりがあると聞いたからなのです。

P「やっぱりデマなのかな……。胡散臭いにもほどがある」

太陽光を過剰に吸収したプレハブは、目玉焼きが焼けそうなほど熱くて真夏と勘違いしてしまいそうです。

6: 2012/07/03(火) 17:41:24.08
コン コン

インターフォンもありませんでした。

なるべく鉄板に触らないように手首をきかせてノックします。


高木「おお!君かね!待っていたよ。ささ入りたまえ」

P「お、おはようございます社長」

高木「うむ、挨拶は大事だね。うん」

そういう割りに社長は挨拶をしてくれませんでした。


プレハブの中はエアコンが利いていてとても快適です。

職場環境に1点加点しました。

7: 2012/07/03(火) 17:44:40.48
高木「あぁそれでどうかね。わが社は」

社長は少しせっかちなようです。

茶色のネクタイを何度もいじりながら早口で聞いてきました。


P「え、えぇと……」

来たばかりでわかることなどしれています。

P「エアコンが涼しいです」

褒める要素はそこしか見つかりませんでした。


高木「うむ、気に入ってくれたようで何よりだよ、うん」

でも社長は僕の返答を気に入ったみたいでした。

変わった人のようです。

8: 2012/07/03(火) 17:50:04.10
僕からも質問をすることにしました。

これでも勤労意欲はあるのです。一応。


P「あの、僕はここで何をすればよろしいのでしょうか?」

高木「うむ、それはだね。うん」

うむとうんを付けないと喋れないのでしょうか。

高木「うーむ、難しい質問だよキミ。うん」

P「は、はぁ……」


一言で言うのが難しいということなのでしょうか。

高木「うむ、まぁ初日なんだからゆっくりしていたまえ。そのうちわかるようになるよ。うん」

ほんまかいな。

危うく関西弁でツッコミそうになりました。

9: 2012/07/03(火) 17:55:39.49
事務所の中は事務用のデスクが4脚とそれぞれに4台のパソコンが設置されています。

小さな給湯室と僕たちが座っているソファーで、事務所にはもう見るものがなくなってしまいました。

P「他の社員の方は営業ですか?」

最低でもあと二人はいるはずですが。

高木「いや?ここの社員は私と君だけだよ」

P「え?でも、デスクが……」

ガチャッ

プレハブのドアが開いて騒がしい声が聞こえました。

11: 2012/07/03(火) 17:59:41.60
ちっちゃん「めっめっ」

ちひゃー「くっ、くっ」

ぴよぴよ「ぴっぴー」

P「な、なに?なになに!?」

30センチほどの小さな生き物が、特徴的な鳴き声を発しながら入ってきました。

高木「おお、来たようだね。彼女達がわが社のアイドルだよ」

P「へ?こ、この……これ……いやこの子達が?」

形容に苦しみます。


はるかさん「………………」

P「え、えぇと……はじめまして」

春香「……かっか!」

P「いたたたった!ちょっと!」

リボンの付いたアイドル?に甘噛みされてしまいました。

肩に涎がべったりとついて反応にも苦しんでしまいます。

13: 2012/07/03(火) 18:03:03.85
高木「はっはっは、さっそく懐かれているようだね」

P「えぇ~……」

高木「その子の名前ははるかさん。主にアイドルたちのリーダーを務めている」

P「じゃ、じゃあこの子は?」

僕の頭をペシペシと叩いているアイドルを指差します。

高木「ちひゃーだね。それも気に入った相手にしかしないのだよ。うん、私の目には狂いはなかったようだ」

リアクションに苦悩します。

社長は愉快そうに笑うだけで助けてくれそうにありません。

16: 2012/07/03(火) 18:06:48.96
ちっちゃん「めっ、もー!」

メガネのちっちゃんが二人を剥がしてくれました。

P「ありがとうね、ちっちゃん」

ちっちゃん「めっ……めっ……」

照れながらちっちゃんはデスクの上に登りました。

見れば他のアイドルも同じようにしてパソコンを起動させています。

高木「始まるようだね。見ておきなさい、彼女達のステージを」

パソコンはよくよく見れば、どれもハイエンドモデルで
僕の持っているノートパソコンのうん十倍の処理能力です。

彼女たちは小さな体を躍動させてキーボードを叩き続けていました。

19: 2012/07/03(火) 18:10:35.95
P「ん?んん!?」

モニターに表示された3Dモデルは、ここ数年ですっかりお馴染みになったネットアイドルです。

アイドルがキーボードの上で踊ると、ネットアイドルも同じように踊りました。

P「そんな馬鹿な……」

ぴよぴよ「ぴっ ぴっ」

高木「おおありがとう。君も飲みたまえ」

P「ありがとうございます……」


湯飲みを受け取ったまま呆然と見守っていると、、
ネットアイドルが衣装を変え、ダンスをして、その後ろでステージが構築されていきました。

最後にどこから出したのかディスクをセットして楽曲が流れ始めます。

湯飲みのお茶は温かいままでした。

20: 2012/07/03(火) 18:15:16.81
はるかさん「かっか、かっか!」

手の空いたはるかさんが足によじ登ってきました。

高木「今わが社から世間に出ているミュージックビデオはすべて彼女達の手によるものだ」

P「そう……なんですか」

僕も社長も何もしていません。

驚いているだけで終わってしまいました。


P「それじゃあ僕は何をすれば……」

利益はPVに応じてスポンサーから料を貰っているそうです。

契約更新だけなら数ヶ月に一回もあれば十分でしょう。

高木「いや、そちらは私の担当だ」

ますますわからなくなりました。

21: 2012/07/03(火) 18:20:05.13
高木「君の仕事は彼女達の遊び相手になる事なのだよ」

P「……………………へ?」

高木「幸いとても好かれているようだからね。期待しているよ」

P「は、はい」

僕をジャングルジムに見立てて遊びまわるアイドルをあやしながら、引きつった笑顔で返事をしました。

呆然とモニターを見れば、完成したばかりの動画にコメントが流れていました。



【ぷちめも】

アイドル達はとても頭がよいです。

ニッチなニーズにもピタリとお答えする高度なリサーチ能力と高い技術を有しています。



第一話 おしまい

24: 2012/07/03(火) 18:24:37.93
【第二話】


765プロに定時はありません。

出社も退社も気分次第です。

とはいえ入社して2週間もしないうちから怠惰に過ごすのも抵抗があります。

仕事が楽なだけに余計に真面目にしなくちゃいけません。

でないとどこまでも堕落してしまいそうです。


雨がぽつぽつと降ってきました。

この天気では、はるかさんはお休みでしょう。

はるかさんは水に濡れると分裂してしまうのです。

僕は普通の人間なので、足の交差する速度を上げて対応しました。


事務所に付くころには本降りになっていました。

トタン屋根に雨が当たりパタパタと楽器のようです。

25: 2012/07/03(火) 18:28:49.86
P「おはようございます」

ドアを開けながら新人らしく爽やかに挨拶をしました。

一番下っ端なので色々と気を使うのです。


ゆきぽ「ぽ、ぽえー」

ゆきぽの人見知りはけっこう重症で、まだ慣れてくれません。

僕の姿を見るとお気に入りのダンボールに隠れてしまいました。

スーツの水滴を払って、ソファーに座り込みます。

29: 2012/07/03(火) 18:31:28.71
P「社長はまだ来てないんだね」

狭い事務所は誰がいるのか一目瞭然です。

今日は

ゆきぽ「ぽー……」

あふぅ「あふぅ……zzzzz」

まこちー「ヤーヤー」

やよ「うっうー!」

この四匹……もとい四人だけです。

32: 2012/07/03(火) 18:36:41.46
アイドル達は来たり来なかったりで全員そろうことは滅多にありません。

謎が多く、どこから来てどこへ行くのかは社長も知りませんでした。

それでも事務所に顔を出しているときはなんらかの業務をこなすことが多いのですが

やよい「うぅ~……」

今日はその様子もありません。


P「んー?どうしたんだ?」

ペチン ペチン

まこちーのパンチを両手で受けながら聞きます。

あふぅ「なの!なの!」

P「うんうん」


ゆきぽ「ぽえ、ぱぅー……」

P「あー、なるほどね」



さっぱりわかりませんでした。

34: 2012/07/03(火) 18:42:38.05
彼女たちはこちらの言葉を理解できるようですが、僕たちは大まかにしか汲み取れません。

あれだけの知性を持っているのだから、筆談なりなんなり出来そうにも思えます。

高木『どうやらアレは彼女達の本能らしくてね。それ以外のベクトルに知性が傾いたところを見たことがない』

だ、そうです。


まこちー「ヤー!ヤー!」

思い出したようにまこちーが封筒を持ってきました。

どうやら僕宛のようです。


ピリピリ

中身を破らないように丁寧に上辺をちぎっていくと、封筒と同じくらい味気ない紙が入っていました。

P「社長から?」

やよ「うっうー!うぅ!」

社長の名前を出した途端にやよが興奮しだしました。

なにがあったのでしょうか。

36: 2012/07/03(火) 18:49:27.79
高木『おはよう! 私だ! 急なことですまないが今日は帰らせてもらうよ!
   それというのも、給湯室にあったお茶菓子をつまんでしまったのだよ。あっはっはっは!
  
   ……アイドル達がすごく不機嫌になってしまってね。申し訳ないが彼女達のテンションを上げて
   仕事をするよう説得してもらいたい。なに!君ならできる!期待しているよ☆』


妙に多い感嘆符が社長の能天気さをよく表していました。

最後の星はなんなのでしょうか。

P「……………………」

手紙を丸めてゴミ箱に放り投げます。

高く放物線を描いて綺麗にシュートが決まりました。

まこちー「ヤー」

パチパチパチ

まこちーが褒めてくれました。

37: 2012/07/03(火) 18:54:13.96
P「どうすればいいんだ……」

困ってしまいました。


いつもやる気のないあふぅ。

あふぅ「zzzzzz」


気弱すぎてまともにコミュニケーションが取れないゆきぽ。

ゆきぽ「ぽぇ……」


元気がありすぎて空回りのまこちー。

まこちー「ヤー?」


がんばりやさんのやよも食べ物の恨みは恐ろしく、なんだか不機嫌です。

やよ「うぅ!うぅー!」

38: 2012/07/03(火) 18:58:37.62
ここのアイドルのお仕事に納期はありません。

その気になれば数十分で完成させてしまうので、スポンサーも特にうるさいことを言わないのです。

でもそれでいいのでしょうか?

P「いいわけないよね……」


実態は遊び相手だとしても、僕はプロデューサーなのです。

アイドルの管理も立派なお仕事。

彼女達のモチベーションを上げるために出来ることをしなければなりません。

P「みんな、ちょっといいかな」

ソファーの上に順番に並んでもらいました。

咳払いをして話を始めます。

アイドル達はぼややんと聞いてくれました。

41: 2012/07/03(火) 19:05:23.51
P「社長のしたことはたしかに極悪非道で許しがたい犯罪行為だ。極刑に処してもなお足りない。
  懲罰的損害賠償には僕も賛成だ」

うんうんと一斉に頷きます。


P「でもだからと言って仕事を放棄するのは感心しないぞ」

今度はしょぼんとうなだれてしまいました。


P「……待ってる人がいるんだ。とても楽しみにしてて、毎日学校や仕事で疲れたときに君たちの曲を聞いて
  明日も頑張ろうって人がいるんだよ。……僕だってその一人だよ」

アイドル達は目を潤ませて一生懸命話を聞いています。


P「僕が出来ることなんてたかが知れてるけど……。それでも、一緒に頑張ろうよ!みんなに歌を届けようよ!」


昨夜見た熱血ドラマのせいでものすごく恥ずかしいセリフになってしまいました。

42: 2012/07/03(火) 19:08:54.38
それでも彼女達は感銘を受けてくれたようです。

ゆきぽ「ぽえ!ぽえー!」

あふぅ「なの!なの!」

まこちー「ヤーヤー!」

やよ「うっうー!うぅー!」

まこちーにいたっては敬礼までしています。


トコトコとゆきぽがくっついてきました。

珍しいこともあるものです。

43: 2012/07/03(火) 19:13:42.44
P「ゆきぽ?どうかしたの?」

ゆきぽ「ぽえ……」

P「?」

ゆきぽが小さく可愛らしいガッツポーズを決めました。

ゆきぽ「ぽ、ぽえ!」

今度はちゃんと伝わってきました。

P「うん、頑張って!」

ゆきぽは真っ赤な顔をしてデスクの上に陣取りました。

45: 2012/07/03(火) 19:18:09.39
アイドル達はいつもの調子を取り戻して、楽しそうに踊り始めました。

でも時折こちらをチラチラと見ています。

P「どうかしたの?」

あふぅ「なの……?」

あふぅは衣装で悩んでいるようです。

P「うーん……これだったら、ピンクのほうがいいかな」

あふぅ「なの!」

衣装は瞬く間に色を変えてイメージよりもずっと綺麗になりました。

47: 2012/07/03(火) 19:21:06.64
まこちー「ヤー!ヤー!」

今度はまこちーです。

P「はいはい、ダンスの部分だね。
  んー……その前の動きは溜めて、両手の動きを大きくしたらいいんじゃないかな?」

まこちー「やー!」


ゆきぽ「ぽ、ぽえ」

やよ「うぅ……」

大忙しでした。


でもプロデューサーらしい仕事が初めて出来て、僕はとても充足感を覚えたのでした。

48: 2012/07/03(火) 19:26:41.05
P「………………………………」

僕はソファーで小さくなっていました。

僕の監修したPVはイメージと違いすぎると、スポンサーからクレームの電話が入ってきたのです。

765プロには珍しいリテイクでした。


あふぅ「な、なの!なの……」

まこちー「ヤー、ヤー」

あふぅとまこちーが肩をたたいてくれます。

ゆきぽ「……………………」

ゆきぽは僕と一緒に小さく丸まっていました。

49: 2012/07/03(火) 19:32:14.74
やよ「うぅ……、うぅ!」

P「……え?いいの?」


やよが差し出したのは割れたクッキーでした。

伸ばした手が震えています。


P「いや、いいよ。やよが食べて」

やよ「うぅ!うぅ!!」

ぐりぐりとほっぺたに押し付けられました。

P「わ、わかった、わかったよ……」


クッキーは湿気っていてボロボロです。


でも

P「うん……すごくおいしいよ。ありがとうね、やよ」

やよ「うっうー!」


今までで一番おいしいクッキーでした。

50: 2012/07/03(火) 19:34:02.31
【ぷちめも】

アイドル達はとても感受性の高い生き物です。

人の気持ちに敏感でとても優しいのです。

こちらも優しい気持ちで接してあげましょう。





第二話 おしまい

60: 2012/07/03(火) 19:54:32.56
【第三話】

みうらさんがこたぷーんと入ってきました。

みうらさん「あらー?」

ボロボロになった社長……はスルーして、元気のないみんなの頭をなでて回っています。

こあみ「とか……」

こまみ「ちー……」

悪戯好きの二人も元気がありません。


原因は前回のPVでした。

高木「今までが上手く行き過ぎていたのだよ……」

復活してきた社長が説明を始めます。

お詫びとばかりにお菓子を抱えてきた社長は、アイドルの襲撃で大変な目にあったのでした。


P「すいません……」

失態を詫びて頭を下げます。

61: 2012/07/03(火) 19:59:35.62
高木「いや、責めているわけではないのだよ。ここまでではないにしろ以前も同じようなことがあってね」

アイドルは楽しい度によって出来不出来が左右されるそうです。


P「楽しい度……ですか」

高木「うむ。自身が楽しい、あるいは楽しんでくれる人が多ければ多いほど彼女たちは活性化するのだ」

いお「キー!キー!」

ゲシゲシと足を蹴るいおを持ち上げて隣に座らせました。


P「反対に楽しくなくなってくると沈滞化する……と?」

高木「その通りだよ。放置しておけば負のスパイラルが起きて取り返しの付かないことになるだろうね」

P「そんな……」


アイドル達は長く伸びて寝そべっています。

こんな状態が続けば情報の早い現在社会ではあっという間に忘れられてしまうかもしれません。

63: 2012/07/03(火) 20:04:23.59
危機感を募らせて社長に詰め寄りました。

P「どうすればいいんですか!?」

高木「落ち着きたまえ!」


一喝されて腰がすとんと落ちました。

高木「君がそのように慌てていては、アイドルに影響が出るではないか」

P「………………」

高木「大丈夫だよ。これから私の言うとおりにしたまえ」

P「は、はい!」

64: 2012/07/03(火) 20:09:37.17
~~~~♪

事務所には陽気な音楽が流れています。


天井から壁にかけて伝っているのは折り紙のリング飾り。

金色と銀色も惜しみなく使ってとても綺麗です。

あいてる壁にはクリスマスツリーのペーパークラフトが貼り付けられ、
ミニ鯉のぼりとかぼちゃのランタンが交差しながら作りたてられています。


僕はスカーフにキャンディーを編みこんだリースを玄関に飾り、お茶の用意をしました。

今日だけはデスクの上にキーボードはありません。


ジャムの乗ったクッキー、イチゴのショートケーキにアップルパイ。

ちょっと変ですが、社長の指示通りおにぎりとたくわんもあります。

飲み物は炭酸が2種類にスポーツドリンク。紅茶に牛乳に玉露をそろえました。

66: 2012/07/03(火) 20:15:22.09
こあみ「とか!とかかか!」

こまみ「ちーちー!」

みうらさん「あらあらららあら」

アイドル達は大興奮していました。


あの気難しい、いおでさえも

いお「もっ、もっ……にひひ♪」

ワクワクしているようです。

P「パーティするよ!」


事務所が膨らむほどの歓声でした。

67: 2012/07/03(火) 20:20:34.35
クラッカーが鳴り響き、三角帽子と鼻眼鏡がどこからともなく出てきました。


はるかさん「かっか!かっか!」

P「あれ?はるかさんいつの間に……」

見れば他のアイドルも来ているようです。


高木「楽しい空気は伝染するのだよ。きっと虫が花に寄せられるように来てしまったのだろうね」


ぴよぴよ「ぴーぴー」

ぴよぴよは食べ物がなくなりそうになると奥からドンドン運んできます。

いお「にひひっ!」

いおは中央に座ってご満悦のようでした。


社長の手品にみんな食いついて見ています。

ちひゃー「くっ!?くっ!?」

ちひゃーが不思議そうに社長の腕にぶら下がっていました。

69: 2012/07/03(火) 20:24:22.30
ガツガツガツ……

P「ん?」

社長の手品に見入っていると後ろから物音がします。


ちびき「だぞっ……だぞっ……」

たかにゃ「しじょっ……しじょっ……」


えーと


P「…………誰?」

こんな子は見たことがないのですが。

銀髪の子がサラサラと紙に書き付けました。


【美味】


非常に達筆でございました。

71: 2012/07/03(火) 20:31:27.19
ちびき「はいさーい!」

ポニーテールの子が叫びます。

社長「おお、新しいアイドルが増えたようだね」

P「自然に増えるものだったんですか!?」

高木「うんうん……。一度に二人も増えるなんてよほどこのパーティーが楽しかったようだ」

P「………………はぁ」

追求するのは諦めました。

社長はまるで気にしていないようですし、
それになにより知りすぎてしまうと彼女達がいなくなってしまうような気がしたからです。


宴もたけなわになり、用意した飲食物が底をつきそうになりました。

ちっちゃん「めっ!めっ!」

ちっちゃんの指示でデスクが綺麗に片付いていきます。

高木「おお……そこまでだったのかね」

P「? 何が始まるですか?」

社長はにやりと笑うだけで何も答えてはくれませんでした。

72: 2012/07/03(火) 20:32:03.98
P「? なにが始まるんですか?」

74: 2012/07/03(火) 20:38:16.29
こあみ「とかー!」

デスクの上に全員が横一列に並びました。

スタンドマイクが各々の前にあります。

モニターには生放送の文字が写り、テクスチャの張られたアイドルが表示されます。

世界中が見守る中ライブが開催されました。



アイドル『  CHANGIN' MY WORLD!!
     
              変わる世界 輝け
 
        CHANGIN' MY WORLD!!
  
             私の世界 私のモノ CHANGE!!』


綺麗な歌声です。

架空のステージを踊るアイドルに合わせて高らかに歌声が響きました。

僕は彼女達の歌声に魅せられて、静かに涙をこぼしました。

作り物ではない、生きた歌が琴線に触れて感動が止まらなかったのです。

歌が終わり、揃って頭を下げた彼女達にいつまでも拍手を送り続けました。

76: 2012/07/03(火) 20:43:17.68
なんの告知もないゲリラ的な放送にもかかわらず、生放送の来場者数は7万人を数えました。

この時の動画は再生数が3000万回を超えて途方もない大ヒットになりました。

僕はその光景を一番近くで見られたことがとても誇らしくなりました。



アイドル達はいつものようにいつの間にか消えていました。

後片付けを終えて社長に挨拶をして、プレハブを眺めればひっそりとしています。

胸のうちの熱を大事に大事に抱えて歩き出しました。


しかし終わってしまえば夢のようで、寂寞とした気持ちがやってきます。

夜道を歩いていると自分の足音だけがよく聞こえました。

77: 2012/07/03(火) 20:47:05.10
P「ただいまー……」

誰もいないのに挨拶をするのは癖です。

返事がないと余計に寂しくなってしまうのにどうしても止められませんでした。


今日も口に出してから「またやっちゃったな」と自戒していると

はるかさん「かっか!」

なぜかはるかさんがいました。

78: 2012/07/03(火) 20:49:00.00
P「え?えぇ!?」

奥からもゾロゾロとアイドルが出てきます。

みうらさん「あらー」

ちびき「だぞ!」

たかにゃ【帰宅】

ちっちゃん「めっめっ」

P「あはは……」


ちひゃーが頭にのぼってきます。

やよは料理をしているようです。

こあみとこまみはゲームで盛り上がっていました。

ゆきぽはお茶を飲んで、まこちーはテレビを見ながら踊っています。

あふぅとぴよぴよが重なるように寝ていて、いおがそこに布団をかけていました。


僕は自然と緩む頬を押さえて、これからの楽しい生活を思いました。

どうやらアイドルが衰退するのはまだまだ先のようです。

79: 2012/07/03(火) 20:49:38.93
【ぷちめも】

アイドルたちは楽しいことが大好きです。

人を楽しませることが出来るととても喜びます。

そして、自分達のために頑張ってくれる人にはとても懐きます。





おしまい

80: 2012/07/03(火) 20:50:22.32
ありがとうございました

本日はコレにて終了です

衰退成分が少なくて期待してた方には鷹揚に謝罪します   すまんかったな

81: 2012/07/03(火) 20:51:35.42
大儀であった

引用元: P「アイドルは衰退しました」