1: 2016/03/04(金) 10:20:25 ID:1lyDVFKY


私は夢を見た。

2: 2016/03/04(金) 10:21:27 ID:1lyDVFKY
夢の中で目覚めるとそこは雪国であった。

一面、白の雪に覆われた銀世界。

それをじっと見ている。


ただじっと見ている。

雪に覆われた木があるのをじっと見ている。

3: 2016/03/04(金) 10:22:20 ID:1lyDVFKY
そうやって、雪と木を眺めていると恐怖を感じた。

生命を感じさせない雪の世界にいることが怖くなったのではない。


背後に、とてもとても恐ろしいものがいる気がしたのだ。


私は、おそるおそると振り返った。

4: 2016/03/04(金) 10:23:23 ID:1lyDVFKY
そこに居たのは父だった。

父は白い肌をしていた。

雪よりも冷たい白の色。

そして、それよりも冷たい赤の瞳で私のことを見ていた。

じーっと、ただじーっと見ていた。

5: 2016/03/04(金) 10:24:31 ID:1lyDVFKY
背後にいたのが父だとわかった私は恐怖した。

何をするでもなく木を眺めていたのを、父に見られていた。それだけのことに恐怖したのだ。

私にとって父は安心できる人ではなかった。

6: 2016/03/04(金) 10:25:29 ID:1lyDVFKY
耐え切れなくなった私はそこから逃げようとした。

父のいない方向に走ろうとした。


瞬間。


雪が全て黒に染まって、世界に闇が下りた。

クラヤミの世界。



そこに放り出されたところで、

7: 2016/03/04(金) 10:26:11 ID:1lyDVFKY
私は目が覚めた。

目を開いて見た自分の部屋はとてもとても暗かった。


クラヤミの世界が自分の部屋だとわかると、私はなんとなく悲しくなったのだった。

8: 2016/03/04(金) 10:27:06 ID:1lyDVFKY


私は夢を見た。

9: 2016/03/04(金) 10:27:58 ID:1lyDVFKY
そこは牢獄であった。

私の熱を全て奪うような、金属に囲まれた冷たい世界。

10: 2016/03/04(金) 10:30:30 ID:1lyDVFKY

そこに女がいる。

氏んだ目で横たわる女がいる。


氏んでいるわけではないのに、目に生気が無い女。


私はそれが気に入らなくて、蹴っ飛ばした。


床に転がる女は悲鳴をあげた。

夢の世界なので音はしないが、ひどく耳障りだと思った。

11: 2016/03/04(金) 10:31:06 ID:1lyDVFKY
氏んだような目をしているくせに、悲鳴だけは一人前にあげるんだな。

そういらいらした私は、もう一度蹴っ飛ばした。

悲鳴を上げた。鬱陶しい。

12: 2016/03/04(金) 10:32:33 ID:1lyDVFKY
蹴る。悲鳴を上げる。鬱陶しい。

蹴る。悲鳴を上げる。鬱陶しい。


そうやって蹴りつけるたびに、体が、心が冷えてく気がした。

部屋にすべてを奪われるような感覚すら覚えた。

13: 2016/03/04(金) 10:34:24 ID:1lyDVFKY
やがて怒りも冷たい世界に奪われたのだろう。

私は冷静になって、転がる女の顔を見た。



そこにいたのは氏んだ目で涎を垂らしている母だった。

14: 2016/03/04(金) 10:35:26 ID:1lyDVFKY
母だということを自覚した瞬間に吐き気を催した。

それは醜い姿の母への侮蔑からだったのか、それを蹴りつける自分への嫌悪からだったのか

はっきりしなかった。

15: 2016/03/04(金) 10:36:00 ID:1lyDVFKY
はっきりとしないまま目を覚ました。

夢の中の吐き気が現実に残っていた。


その夜は寝つけなかった。

16: 2016/03/04(金) 10:37:32 ID:1lyDVFKY



夢を見た。

17: 2016/03/04(金) 10:40:44 ID:1lyDVFKY
夕暮れの教室に少女がいた。

彼女の顔は、夕暮れに赤く染まって綺麗だった。

彼女の長い髪がたまらなく好きだった


だから愛してくれと言おうと思った。

18: 2016/03/04(金) 10:41:45 ID:1lyDVFKY
その瞬間、彼女の眼は赤く光った。

いつかの世界で見た、父の赤い目だった。


その目が怖くなって、私の告白は行き場を失った。


愛してくれなんていうのはおこがましい。

私はそう反省した。

19: 2016/03/04(金) 10:45:21 ID:1lyDVFKY
愛してる。

そう言おうと思った。


決意した私は、彼女の瞳を覗き混む。

20: 2016/03/04(金) 10:45:54 ID:1lyDVFKY

あの母の生気のない目がそこにあった。

私は彼女を殴らなければならないと思った。

21: 2016/03/04(金) 10:46:36 ID:1lyDVFKY


そう思ってしまった自分が怖くなった。


夕日は沈んで、教室は闇に包まれた。

私の告白も闇に飲まれてなくなった。

22: 2016/03/04(金) 10:48:05 ID:1lyDVFKY
目を覚ますと、目に涙がたまっているのに気づいた。


私はじっとして、涙が渇くのを待った。


しかし、涙は乾かないだろう。そんな予感がしていた。

23: 2016/03/04(金) 10:49:00 ID:1lyDVFKY
私は夢見ていた。


冷たく赤い目をした父も、

氏んだ目をした母もいない


みんなが優しく笑ってくれて

私も優しく笑っている

そんな世界を夢見ていた。

24: 2016/03/04(金) 10:50:00 ID:1lyDVFKY
現実を見てみれば



人に愛されることも

人を愛することも

全てをあきらめた自分が部屋に一人いるだけだった。

25: 2016/03/04(金) 10:50:46 ID:1lyDVFKY
おわり(^q^)

引用元: 男「夢を見た」