1: 2012/07/18(水) 09:46:02.82 ID:tih+VifJ0
「貴音、今日ラーメンを食べに行かないか?」

勤めている765プロの事務所で俺は彼女に問いかけた。

これが、姑息な事だと分かりながらも俺は口を閉じる事はしなかった。

「よろしいのですか?」

あぁ、と軽く答えた事にまた自己嫌悪に陥った。

彼女が食事の誘いを断るはずが無いとしりながらも、白々しく食事に誘っからだ。

しかし、これくらいなら……と自分に言い聞かせてしまう。

プロデューサーとして気持ちを伝える事はしない……だからプロデューサーとして一緒に食事を楽しむくらいならいいじゃないかと。

3: 2012/07/18(水) 09:59:46.68 ID:tih+VifJ0
「じゃあ、仕事が終わるまで待ってもらえるか?」

「わかりました、待っております」

「あっ、兄ちゃんがお姫チンをデートに誘ってる」

話を聞いていたのか真美が俺達の話に加わってきた。

「デートじゃないって、同僚にご飯誘うなんて普通だろ?」

「えぇーじゃあ真美も連れてってよ→」

それもいいかもしれないと思った。俺と貴音の二人でいくよりも真美も居た方が、間違いが起きないなと……

4: 2012/07/18(水) 10:07:01.19 ID:tih+VifJ0
「しょうが……」

しょうがないなと言いかけた、俺の言葉を遮ったのは意外にも貴音だった。

「真美。申し訳ありません。今日は私とPの二人でデートなのです」

「えぇーお姫ちんズル→い」

「こればっかりは、譲るわけにはいきませんよ」

ふふふ、と笑いながら貴音はそう答えていた。

7: 2012/07/18(水) 10:18:03.01 ID:tih+VifJ0
貴音が俺との食事を楽しみにしているのかと思うと、涙が出るくらい嬉しかった。

しかし、そんな思いが又自分を苦しめるものだと理解していた。

手に届かない物を望んでも辛いだけなのだ……

「って貴音もそんな事言わずにさ、真美も一緒に連れて行ってやろう」

俺は真美も誘うことを提案していた。

8: 2012/07/18(水) 10:38:11.34 ID:tih+VifJ0
「えっホント。やった→、ラーメンラーメン」

「ダメか、貴音?」

「いえ、Pがよろしければ私は……」

そう答える貴音は、俺には少し残念そうにしているように見えた。

だが、きっとそれは俺の願望なのだろう。貴音が二人っきりで食事に行きたがってた、なんて小学生のような考えがそう見せたのだろう。

「じゃ、俺の仕事が終わるまで二人とも待っててくれよ」

二人にそう告げ、俺は仕事に意識を戻した。

14: 2012/07/18(水) 11:02:21.70 ID:tih+VifJ0
仕事を終えた俺達はラーメン……ではなく、何故か居酒屋で食事をしていた。

「真美と貴音は、お酒頼んじゃ駄目だからな」

「お酒なんか頼まないよ→ん」

「……えぇ」

「もーPさんたらご飯行くなら私も誘ってくださいよ-」

居酒屋になった理由は彼女、765プロ事務員の音無さんのせいだった。

20: 2012/07/18(水) 11:32:38.05 ID:tih+VifJ0
「音無さんは仕事がまだ大変そうだったんで……」

「大丈夫です、Pさんからのお酒のお誘いなら仕事なんか投げ出して来ますよ」

「大丈夫じゃないじゃないですか」

「嘘ですよ……まぁ嘘でもないですけど」

音無さんは相変わらず駄目な大人だった。

「兄ちゃんもう注文すんよ?」

「おう、頼んじゃってくれ」

貴音の方を見ると、意外にもメニューを見てはおらずうつむき加減に下を向いていた。

食事の席で積極的でない貴音は新鮮であった、それ以上に不自然さを感じさせた。

22: 2012/07/18(水) 11:49:35.22 ID:tih+VifJ0
「貴音、大丈夫か?」

「は、はい」

「そうか……やっぱり居酒屋じゃあ嫌だったか?」

「いえ、ここも美味しそうな物ばかりで楽しみです」

そう言って笑った貴音は真美の持っているメニュー表に目を移した。

────────────────────────

「それじゃあ、貴音ちゃんと真美ちゃんはジュースだけど……カンパーイ」

音無さんの音頭に合わせて俺達4人はグラスで音を鳴らせた。

34: 2012/07/18(水) 13:30:06.18 ID:tih+VifJ0
音無さんはゴクゴクと美味しそうにビールを飲み、真美は不慣れな貴音に焼きそばをよそっていた。

俺もビールを一飲みして焼き鳥へと手を伸ばした。

「それにしても、この4人で食事なんて珍しいわよね」

「そういえば、そうですね。真美はいつも亜美と一緒だし、音無さんは大体、事務所だし」

「けど、ピヨちゃんは兄ちゃんとよくお昼行くじゃん」

「うーん、お昼だけね」

35: 2012/07/18(水) 13:36:48.20 ID:tih+VifJ0
「私も、Pに食事に誘っていただいています」

「えーいいな、真美は誘われないよ」

と真美は泣きまねを見せた。

「真美は遅くまで事務所に残ってないからな」

「じゃあ帰らないで、兄ちゃんが奢ってくれるまで残ってるよ」

「そこまでして、俺に奢らせたいのか……」

食事会は他愛もないような話で盛り上がり、時間は過ぎていった。

38: 2012/07/18(水) 13:50:15.05 ID:tih+VifJ0
時間が過ぎると共に、ビールの空き瓶の数は増えていった。

そこまで酔うつもりはなかったのだが、小鳥さんの飲む量に釣られて予想以上に飲む量が増えていた。

「Pさんは、どうなんですか~?」

小鳥さんは既に泥酔状態に出来上がっていた。

「何がですか?」

「だから~、Pさんはどんな娘がタイプなんですか~?」

41: 2012/07/18(水) 14:05:03.54 ID:tih+VifJ0
「え……」

音無さんは酔うとこういう所がある。なんというか恋愛話に持って行こうとする女の子みたいな部分が出てくる。

「どうなんですか~Pさん~」

「ち、近いですって小鳥さん」

そして妙にスキンシップになってくる、可愛い女性だから良い者の、これが年のいったおっさんだったらセクハラものである。

42: 2012/07/18(水) 14:13:48.11 ID:tih+VifJ0
真美と貴音も静かになって、こちらに目を向ける。

なぜ、こうも女性という物は恋愛話が好きなのだろうと考えてしまう。

「いや、タイプって……別にそんなのは無いですよ……」

「ぶー!!……じゃあ事務所の中の人では誰がいいですか?」

「いやいや、なんですかその質問!?」

無難に質問を返したつもりだったのだが、より一層答えずらい質問を返されてしまった。カウンターパンチを食らったような気分だ。

47: 2012/07/18(水) 14:47:27.25 ID:tih+VifJ0
「そ、そうだよ兄ちゃん、言っちゃえばいいじゃん。お、お姫チンも聞きたいっしょ?」

「……そうですね、少し気になりますね」

真美も貴音も居酒屋の雰囲気に呑まれたのか顔を少し赤らめて話した。

沈黙が続く中、3人とも自分の方向を注目していた。

真美の方向をみると、より一層顔を赤らませ俺から視線を外した。

貴音を見ると、視線を外さず自分をまっすぐに見つめた。

音無さんは……すでに目が据わっている、明日にはもうこの記憶は残っていないだろう。

51: 2012/07/18(水) 15:05:44.84 ID:tih+VifJ0
「俺は……」

そう俺が事務所で一番タイプなのは……いや、俺がこの世で一番好きな女性は……

「私もPさん大好きでーーーす!!」

俺の答えを遮ったのは、この質問をしたはずの音無さんだった。

「ちょ、抱きつかないで下さいよ音無さん」

俺に抱きつくというより、寄りかかってきた音無さんは俺に胸を押し付けるような体制になっていた。

52: 2012/07/18(水) 15:12:53.57 ID:tih+VifJ0
「た、助けてくれ」

「つーん、ニヤニヤしてる兄ちゃんなんて助けないよ→だ」

「そうですね、Pも喜んでいるようですし」

二人ともそう言って、またテーブルの料理に手を伸ばした。どうやる俺を見捨てられたようだ。

「どいてくださいよ音無さん」

「ダメですー。Pさんは私の抱き枕になってもらいますー」

「抱き枕ってシャレにならんですよ」

「本気ですよ、今日はPさんは私の部屋にお持ち帰りです」

55: 2012/07/18(水) 15:26:15.11 ID:tih+VifJ0
「大丈夫ですPさん、私はアイドルじゃないですから問題にはなりませんよ」

多分音無さんはこの事を覚えてはいなだろうが、大問題だ。

「小鳥嬢、Pも嫌がっています。 そろそろ辞めた方が離れた方がいいですよ」

そう言って音無さんを俺から離そうと俺の腕を引っ張った。

それでも、やだやだやだと子供のように駄々をこね音無さんは俺からほ離れてはくれなかった。

見かねて真美も音無さん側から引っ張る。

「も→、ピヨちゃんもいい加減に兄ちゃんから離れて→」

57: 2012/07/18(水) 15:37:56.80 ID:tih+VifJ0
俺と音無さんを境に綱引き状態で引っ張られて引っ張ってをやっていると、フッと急に音無さんが離れた。

本当に急だった為に、俺は止まることが出来ずに貴音を押し倒すような形となってしまった。

何とか右腕で体制を保ったので全体重を貴音に預けることはなかったが、顔以外は俺が貴音に押し付けてしまっている。

離れているとは言っても向かい合って数十cmしか距離はない。

はぁ、はぁと貴音の吐く息遣いが聞こえる。

胸の音も心なしか聞こえる気がする。

60: 2012/07/18(水) 15:52:36.52 ID:tih+VifJ0
ドク ドク ドク

その胸の鼓動は貴音の物ではなく、きっと俺の胸の鼓動なのだろう。

近くで見る貴音はとてもキレイで、ふんわりと女性特有の良い香りがした。

俺と貴音は視線を合わせ、どちらも視線を外そうとはしなかった。

このまま抱きついてたい、そんな衝動に駆られる……
だが理性に鞭を打ち、身体に起き上がるよう命令を送る。

「す、すまん。すぐにどくから」

61: 2012/07/18(水) 16:08:41.75 ID:tih+VifJ0
そう言い、身体を持ち上げようとした。

「えっ」

ふわりと背中が押され、俺は貴音に引き寄せられる。

最初は誰が押したのかと驚いたが、押している……いや、引き寄せているのは貴音だとすぐに気が付いた。

下になっている貴音が、俺の背中に手を回し抱きついているのだ。

「ど、どうした貴音?」

動揺を隠せるはずもなく、上ずりながらも声を絞りだした。

64: 2012/07/18(水) 16:15:37.18 ID:tih+VifJ0
さらにギュッと抱きしめられる。

俺はそのまま崩れ、貴音の顔の横に顔をくっつける。頬と頬が当り貴音の体温が感じる。

さっきよりも、より女性の香りを感じる。いや、貴音独特の香りを感じる。

「どうしたんだ?」

「なんでもありません」

そういって貴音はふふっと笑った。

69: 2012/07/18(水) 16:25:28.14 ID:tih+VifJ0
その体制で時間が経つ。

時計の針の代わりに、鼓動が時間が経つのを知らせる。

ドクン ドクン ドクン

このまま、ずっとこのままでなんて考えていると助けを呼ぶ声が聞こえてきた。

「兄ちゃん助けて→」

71: 2012/07/18(水) 16:41:37.25 ID:tih+VifJ0
その声が貴音にも聞こえたのだろう。背中に回していた手をスッと離れた。

名残惜しく感じながらも俺は貴音から身体を離し立ち上がった。

真美の声の方に視線を移すと、俺達と同じように真美が音無さんに押し倒されていた。

いや、音無さんは気を失っているのか真美は音無さんに全体重で押し倒されていた。

「助けて→重いよ→」

「大丈夫か、今出してやるぞ」

音無さんを持ち上げると真美はゾロゾロと這いつくばって音無ホールドから逃げ出した。

77: 2012/07/18(水) 17:02:18.10 ID:tih+VifJ0
「うーなんで真美がこんな目に……なんか顔真っ赤だけど、どしたの?」

俺の顔は真っ赤なのだろう。自分で頬が上気しているのが分かるほどに頬が熱を持っている。

「お姫ちんも顔真っ赤だし」

えっ、と思い俺は貴音の方に顔を向けるが貴音はすでに俯いていて顔を確認する事は出来なかった。

────────────────────────


「じゃあ、貴音と真美は一人で帰れるか?」

「うん、大丈夫だよ」

「私も大丈夫です」

78: 2012/07/18(水) 17:07:33.10 ID:tih+VifJ0
「でもピヨちゃんはどうすんの?」

「あぁ、もうグッスリだから事務所で寝てもらうさ」

「ふーん、ダメだよ兄ちゃん。ピヨちゃんをお持ち帰りしたら」

「しないって。真美もそんな事ばかり言ってないで早く帰れよ」

「分かったよ、じゃあね兄ちゃん、お姫ちん」

真美はそういって俺達から離れていった。

「じゃあ貴音も、気を付けて帰れよ」

「……はい」

そういって俺は貴音と分かれた。

81: 2012/07/18(水) 17:17:42.67 ID:tih+VifJ0
音無さんを事務所のソファーに寝かせ仮眠用の毛布を掛けて、俺は事務所を後にした。

俺も事務所に泊まるべきかと思ったが、男と女が一つ屋根の下で寝るのはどうかと思いメモだけ残してあとにしたのだ。

俺が事務所のビルから外に出ると同時に声を掛けられた。

「あなた様」

そこにいたのは、さっき分かれたばかりの貴音だった。

84: 2012/07/18(水) 17:25:51.44 ID:tih+VifJ0
俺は驚いて貴音に駆け寄った。

「どうしたんだ、何か事務所に用があったのか?」

貴音はその問に首を振る。

「もしかして……俺に用事か?」

貴音は少し迷い首を縦に振った。

何の用事なのだろう……

そう考えながらも、頭にはさっきの居酒屋の一軒が浮かんでいた。

86: 2012/07/18(水) 17:37:52.10 ID:tih+VifJ0
「そっか……じゃあ、とりあえず静かな所に行くか?」

そうですねと言い貴音は俺の横を歩き出した。

俺も貴音に合わせて歩き始めた。俺達は無言で歩きつづけ公園に入ったところで貴音が足を止めた。

俺も貴音に習い足を止めた。

貴音は振り返り、俺と貴音は向き合った。

88: 2012/07/18(水) 17:44:22.01 ID:tih+VifJ0
しばし、静寂が俺達を包み、貴音が口を開いた。

「先程の事なのですが、突然申し訳ありませんでした」

先程の事とは、きっと居酒屋での一件の事だろう。

「こっちこそゴメンな。ちょっと酔ってようだ」

「いえ、私が抱きついてしまいましたから」

「……急にあんな事をしたから俺もびっくりしちゃったよ」

「私も……何であんな事をしてしまったのか良く分からないのです」

89: 2012/07/18(水) 17:48:50.68 ID:tih+VifJ0
「……あなた様に触れあいたくなってしまったのです」

やめてくれ……

「初めて、こんな気持ちになりました……しかしこの気持ちの正体が何なのかはすぐに分かりました。これが……」

ダメなんだ……

「恋……なのだと」

91: 2012/07/18(水) 17:57:14.75 ID:tih+VifJ0
「私は、あなた様を好いているようです」

「出来れば私と一緒にずっと……一緒にいて貰えませんか?」

これが貴音の不器用ながらの、俺に対しての愛情の表現だった。

初めての気持ち、っと言っていた事から初めて告白をしたのだろう。貴音は少し震えていた。


俺は貴音の事をどう思っているか……

そんなの決まっている、好きだ、好きだ、大好きだ。この世で一番好きだ。

俺の答えは決まっているのだ。









「ごめん」

95: 2012/07/18(水) 18:06:38.20 ID:tih+VifJ0
俺はPだ。アイドルとの恋愛なんてありえてはいけない。

しかし、貴音ならアイドルを辞めてでも俺と付き合ってくれるかもしれない……

だが、それはもっとダメな答えだ。貴音はトップアイドルになれる逸材だ、俺なんかの為に夢を諦めるなんて事をしてはいけない。Pとしてもそんな事は出来ない。

それを聞いた貴音は空を見上げて呟いた。

「そう……ですか」

俺も追って空を見上げるが、そこに月はありわしなかった。

97: 2012/07/18(水) 18:12:08.02 ID:tih+VifJ0
数分、無言で空を見上げてから、貴音は俺に頼み事をした。

俺はその頼みを了承するかわりに、俺の頼みを聞いてもらうことにした。


「貴音 LOVE」

「私は、らぁめんの方が好きです」

それを聞いて俺達は、大きな声で笑いあった。

涙が出るほど大きな声で笑いあった。

100: 2012/07/18(水) 18:18:44.75 ID:tih+VifJ0
───────────────────────────


「おはようございます」

「あぁ、おはよう」

「昨日の疲れは残らなかったか?」

「えぇ、何も残っていません。すっきりしています」

「そうか……」



「貴音……」

「はい」

「一緒にトップアイドルを目指そうな」

「えぇ、当然です」

おわり

101: 2012/07/18(水) 18:20:18.22 ID:tih+VifJ0
遅筆ですいませんでした。
保守してもらった方には感謝ばかりです。
ありがとうございました。

102: 2012/07/18(水) 18:21:38.68
終わりにはまだ早い

103: 2012/07/18(水) 18:23:45.28

104: 2012/07/18(水) 18:26:18.02
嫌いじゃないぜ 乙

引用元: P「貴音 LOVE」 貴音「私は、らぁめんの方が好きです」