1: 2010/08/30(月) 09:52:26.77 ID:iSdzGiGo0

律「あー……学校行きたくねー」

澪「へ?」

律「だから、学校いきたくねーんだよ」

澪「そりゃまた唐突だな……何でだよ? 何か面白くないことでもあったのか?」

律「ないよ、全然。だけど、面白いことも全然ない」

澪「まーな。学校って楽しみに行くようなところでもないしさ……割り切るしかないのかもな」

律「とか言ってる澪は毎日楽しそうじゃん」

澪「そう見えるか? まぁ、楽しくないと言えば嘘になるかな」

律「文芸部だろ。お前最近文芸部の話ばっかしてくるから」

澪「まぁな。文芸的な活動はあんまししてないんだけど……
  あいつらと放課後の時間を過ごすのが、すっごく楽しいんだ」

律「あんな根暗そうなやつらと?」

澪「そりゃ偏見だ。色んな個性の奴らが居て、一言では括れないんだぞ」

律「へーへー、そうですかい」

3: 2010/08/30(月) 09:55:32.63 ID:iSdzGiGo0
澪「そういや、律ってなんで部活入ってないんだ?」

律「御存知の通り、りっちゃん隊員は、集団行動が苦手なんですわ。
  あの女子高特有の面倒くさい人間関係調節だけでさえうんざりするっつうのに、
それを何故に放課後まで引きずらあかんのですかい」

澪「んー……でも、私は部活入った方がいいと思うけどな。それが私の学校に行く一つの目的になってるし。
みんな口揃えて部活楽しいって言うよ」

律「みんなはみんな、あたしはあたし」

澪「何なら文芸部に来ないか? 今なら私含めて部員4人だから、律が途中で入ったとしても、すぐ馴染めると思うし」

律「お気づかいあざーす、澪先輩。御心配なさらずとも、私は文芸部なんかには行かないんで」

澪「な、なんか、とはなんだ!」

律「はは、冗談冗談。そいじゃ、今日も1日頑張れよ」


澪「…………」

4: 2010/08/30(月) 10:00:15.31 ID:iSdzGiGo0
律(何も最初から部活に入りたくなかった訳じゃない。
  でも、軽音部の再設立を失敗してから、次の一手が何故か打てずにいた。
  まさか私以外入りたい奴が誰もいないなんて、あの時は考えられもしなかったな。
  んで、ジャズ研とかもいいかなー、って思ったけど、その当時私がやりたかったのはロックで。ジャズにドラムは要らないし。
  そうこうしてる内に、1年の夏休みになり、2学期が来て、冬が来て、春が来て、私は2年生になってしまった訳だ。
  考えてく内に、本当に自分が音楽やりたいのかっつうことさえ疑問に思えてきて、何かしら動くのも面倒になった。
  そのたびに部活生を嫉妬したりもした。今でも澪を多少嫉妬したりもしてるけど。

律(でも、いい加減このままじゃ何もせずに高校生活終わっちまうぞ)

律(しかし、1から人間関係作るの面倒臭い、っていうのはあながち嘘じゃない)

律(……畜生、でも、このまま漫然と生きてくと、いつか絶対に不登校になる。毎日がつまらなすぎる!)

律(ん………どうしよう…)


5: 2010/08/30(月) 10:03:52.86 ID:iSdzGiGo0
律(こんなはずじゃなかったんだけどな……)

律(本当は軽音部に入って、みんなでダラダラしながらも練習して、時には喧嘩して、でもまた仲直りして、毎日が青春って言葉を体現してる。
  そんな生活を送る予定だったんだけどな……)

律(……今となっては、何するにも面倒臭くなるよ…何かしたいけど、何もしたくない)

律(……どうしてこうなった)

―――
――


7: 2010/08/30(月) 10:06:49.14 ID:iSdzGiGo0

?「りっちゃん! りっちゃん!」

?「りっちゃん起きて!」

律「……ん、な、なんだ…」

?「何だじゃありませんよ、律先輩! 何でそんなに爆睡してたんですか?」

律「へ……ここ、どこ……?」

澪「何言ってるんだよ律、ここは軽音部の部室に決まってるじゃないか!」

律「え、何いってんの澪ちゃん?」

?「それはこっちの台詞ですよ先輩……まぁ、試験前で現実逃避したくなる気持ちもわかりますが」

?「りっちゃんったら、おもしろーい」

律「え? てことは何? ここ軽音部だってこと?」

澪「当たり前だ! さ、早く練習しようぜ! お前のドラムがないと始まらないんだ!」

律「お……おぅ!」

10: 2010/08/30(月) 10:09:33.20 ID:iSdzGiGo0
律(またあの夢を見てしまった)

律(どれだけ部活……てか軽音部に未練があるんだ、私)

律(………クソっ、もし昨年の4月に軽音部に部員が入っていれば…)

律(今何もないこの茫漠とした生活から抜け出せたんじゃないか?)

律(あの、夢みたいに。あの夢の中の軽音部みたいに……)


律(それにしても……あの夢の中の面子、いつも同じだな)

律(何も考えてなさそうな茶髪と、ツインテールで可愛い黒髪と、おっとり金髪……あと澪)

律(決まってあの面子だ。キャラも口調も外見も、それぞれの夢で同じ)

律(……何なんだろうな)

13: 2010/08/30(月) 10:12:34.16 ID:iSdzGiGo0
澪「え、私が? 夢の中で軽音部に?」

律「そうなんよ。しかもそれが毎回だから」

澪「ん……偶然、じゃないのか? お前友人少ないし、律が頭の中で描ける登場人物って、私くらいのもんだろ」

律「ひどい言われようですが、敢えて突っ込んだりはしないわよ」

澪「でも、他の出てくる子も共通ってのは、不思議だな……」

律「でしょ? でしょでしょでしょ? 何かの予言みたいでしょ?」

澪「予言かどうかはさておき、微妙に気になるところではあるな。お前、その人達と会ったことはおろか、喋ったことさえないんだろ?」

律「はい、ないと思われます」

澪「………不思議だな。前世での親友たちがお前の夢の中にあらわれてる、とか……これ次の小説のネタになるかも」

14: 2010/08/30(月) 10:17:36.37 ID:iSdzGiGo0
律「そだ、おい澪」

澪「ん?」

律「その子たち、探してみようぜ」

澪「……え? 今何て言った?」

律「だから、あたしの夢の中に出てくるお前以外の3人を探してみるっつってんの」

澪「…………お前、何言ってんだ? とうとう鬱病の初期症状が始まったか?」

律「誰が鬱病じゃい! いや、根拠はないんだけど、あまりにもリアルだから、実在するんじゃないかなー、
  って思って……って、おい何だ澪、その顔は」

澪「ん……何というか、馬鹿にするというか、お前がそういうこと言うのが意外でさ」

15: 2010/08/30(月) 10:23:16.05 ID:iSdzGiGo0
律「あー、あたしでも何でこんなこと言ってんのかわかんないよ。ただ、面白そうだからさ。他にすることもないし」

澪(律がいつになく輝いてる、かも)

澪「でも、どうやって探すんだ?」

律「まぁそれは、今日の放課後じっくり話し合おうぜ」


放課後

澪「じゃまとめると、
  一人目は茶髪で馬鹿っぽいけど一緒に居たら和みそうな奴、身長は私よりちょい下
  二人目は金髪でおっとりしてる、金持ちっぽい。眉毛が特徴的
  三人目は黒髪ツインテールの後輩、可愛い、けどしっかり者っぽい」

律「うん、だいたいそんな感じ」

澪「……これだけの情報で探すの、多少無理ないか?」

律「そうだね、無理ありありだね!!」

澪(……あー、なんで私こんなのに付き合ってるんだろ)

16: 2010/08/30(月) 10:28:12.78 ID:iSdzGiGo0
律「あ、でも大丈夫! みんな桜高の制服は着てたから!」

澪「そういう問題じゃない! 学校の中でも、この3人の条件に当てはまる人だったら、一杯いるだろう!」

律「てへ☆ あ、でもあたしが見たら分かると思うから、無問題だぜ」

澪「だからそこに至るまでのプロセスがだな……」

19: 2010/08/30(月) 10:31:32.75 ID:iSdzGiGo0
和「あら澪、教室に残ってるなんて珍しいわね」

澪「あ、和。生徒会は休みか?」

和「今日直の仕事が終わったとこ。これから生徒会よ。学祭も近いしね」

澪「そうなのか。あ、律。この子は和。私のクラスメイトだ」

律「……ど、ども。田井中律です(あー、生徒会長か)」

和「いっつも澪と一緒に学校来てるの見てるから、知ってるわ。仲がいいのね」

澪「小中高と一緒だと、嫌でも仲好くなるよ」

律「おい何かあたしに不服なことでも」

和「そんなことより、二人で教室に残って何やってるの?」

澪「あー……それはだな」

澪(駄目だ、こいつの夢に出てくる人間を探すだなんて、和に言ったら鼻で笑われるに違いない)

20: 2010/08/30(月) 10:36:11.76 ID:iSdzGiGo0

澪「ち、ちょっと、人探しをしてるんだよね。こいつの小学校時代の友人が、桜高に居るらしくて。」

律(嘘ってバレバレじゃねぇか澪ちゃん)

和「何々……(概要を書いたノートを見る)……、え?」

澪「いや、こんな抽象的すぎる概要で人探しなんて出来る訳ないんだけどさ。でも、小学時代の記憶ってさ、ほら、曖昧じゃん?」

律「………(もう澪喋らないでくれ)」

和「私、この子知ってるかも」

律・澪「へ?」

24: 2010/08/30(月) 10:41:08.73 ID:iSdzGiGo0
澪「和の話によれば、彼女の名前は平沢唯。桜高2年3組、だそうだ」

律「2年3組……って、あたしと同じクラスじゃん! こんなの居たっけっか……」

澪「お前、無気力学生でも自分のクラスメイトの名前くらいは覚えとくもんだぞ」

律「ん……聞いたことあるっちゃあるかも……あ、そうだ! この子……道理で覚えてない訳だ…」

澪「ど、どうしたんだ律?」

律「この子、不登校児だよ! 始業式の日から一回も学校来てない!
だからウチのクラスには、いっつも空いてる席が一つあるんだ」

澪「そうなんだ……不登校してる子が和の友人って…
まぁ、あいつは世話焼きだから、あながち間違ってもいないか…」

律「じゃ、早速会いに行こう!」

澪「おいちょい待て」

26: 2010/08/30(月) 10:47:05.25 ID:iSdzGiGo0
律「どーしたよ? 折角誰か分かったんだから、この機を逃してどーすんだよ」
澪「よく考えろ律。まず、あってどうすんだよ。相手は不登校の子だぞ。
普通じゃないんだ。ただでさえ人間関係不器用なお前が、そんな子とコミュニケーションとれるのか?」
律「ノリでなんとかする!」
澪「………それに、その子に何て言って会いに行くんだ?
夢の中でいっつもあなたが出てくるんです! って言うのか?
私が平沢さんなら、お前を痛い子認定してお引き取り願うな」

律「……うぐ…」

澪「しかも、そいつがお前の言ってる夢に出てくる子とは限らないし」

律「うるさい! んなもん会ってから確認すりゃいいだろ!!
さぁそうと決まったら担任に住所貰いにいくぞ!」

29: 2010/08/30(月) 10:52:00.45 ID:iSdzGiGo0
和(……本当かしら、唯と田井中さんが小学時代の知り合いっていうの。だとしたら、私も田井中さんを知ってることになるけど…)

和(まぁ良いわ。あの子に友人が増えるなら、それに越したことはないしね)

*

さわ子「え、平沢さんの住所?」

律「はい、山中先生。もう平沢さん長いこと学校来てないじゃないですか。だから、大丈夫かなって思って。
平沢さんだって、毎日一人で居たら寂しいと思うんです。だから、平沢さんの家に会いに行きたいんです!」

澪(怪しすぎる……)

さ「うーん………知ってると思うけど、平沢さんはちょっと今大変な状況なのよね……、すっごくいい子なんだけど」

律「そんなの関係ありません! だって私と平沢さんは、クラスメイトですから!」

澪(あー何かいたたまれなくなってきた…)

さ「まぁ、田井中さんが平沢さんに会いたい、って言ってくれるのは私としても凄く嬉しいんだけど。あの子、今は誰に対しても怯えちゃうから。
ほら、1年生の時のいじめのせいで。ちょっとした問題になったでしょう?」

澪「あ……あの事件ですか」

律「え、いじめ? 何それ?」

34: 2010/08/30(月) 10:58:41.11 ID:iSdzGiGo0

澪「何でお前知らないんだよ!」

律「えー、何でって言われても……」

さ「まぁ兎に角、平沢さんは1年生の時にひどいいじめを受けて……自殺未遂までしてしまったの。
  それから、1度も、ただの1度も学校へ来てないわ」

律「あー、何かそんな話あったようななかったような」

澪「隣のクラスの子に聞いた話では、。机の上に落書き、弁当に埃を混ぜられる、椅子と机を隠される、教科書を水で濡らされる、殴られる、蹴られる、
  お金を巻き上げられる……その他色々えげつないことされたとか」
律(なんで澪こんなに詳しく知ってんだろ……)

さ「……そうよ。そして自殺未遂。妹さんに止められて何とか致命傷には至らなかったんだけど。
  けどそれから、妹さんとさえ口を利かなくなってしまったらしいの。
  私も週に1度家庭訪問に行ってるんだけど、顔を見たことはおろか、喋ったことさえないわ」

38: 2010/08/30(月) 11:04:30.32 ID:iSdzGiGo0
律「わお……こいつぁ、強敵ですなぁ、澪ちゃん」

澪「だから私はやめといた方がいいって」

律「でもあたしは会いたいです! 平沢さんに! 妹さんや先生で駄目でも、
  新しいクラスメイトである私には心を開いてくれるかも知れない!」

さ「…………わかったわ。明日、平沢さんの家に行く日だから、放課後私のところに来なさい。
  一緒に乗せてってあげるわ」


律「あー、まさか1日でここまで行くとは思わんかったなー」

澪「おいちょっと待て律! 本当に平沢さんに会うのかよ!」

律「ここまで来たら会うしかないっしょ。それに何かほら、いじめで心に傷を受けた子が、
  私たちの手によって徐々に立ち直ってくって、何か青春ドラマみたいでかっこいいじゃん?」

44: 2010/08/30(月) 11:09:51.62 ID:iSdzGiGo0
澪「そんな簡単な問題じゃないんだよ! 相手は生身の人間だぞ?」

律「はーいはいはい。ま、正直私も、最初は澪との話のネタ程度にしか思ってなかった夢の話が、ここまで発展してることに驚いてるよ」

澪「だったら、もう冗談は止めにして、明日からまた普通の生活に戻ろう? な?」

律「……まぁまぁ。普通の生活に戻る前に、もうちょっと遊んだっていいじゃん。別に氏ぬわけじゃないんだし。
  もうちょっと付き合ってくれよ、澪ちゃん」

澪「…………もう、私は知らないからな」

律(……馬鹿野郎)

律(普通の生活に戻っても、私には何もねぇんだよ)

律(ただ朝起きて、学校行って、適当に授業受けて、帰って、ネットやって、テレビ見て、寝る。この繰り返しだ)

律(だからたまに、ちょいとばかり遊んだって、いいじゃねーか)

46: 2010/08/30(月) 11:15:23.17 ID:iSdzGiGo0
―――
――


律「ういっす」

?「りっちゃん、遅いよ!」

律「あ、ごめんごめん 。今日生物の追試でさ」

?「流石りっちゃんだね!」

律「……おい、お前も明日数学の追試だってこと、わかってるんだぞあたしは」

?「げ? 流石りっちゃん隊員抜かりないで御座いますね」

?「そんなことより、りっちゃんもお茶飲みましょ」

律「お、サンキュ、 。今日のお菓子は何なんだ?」

?「ショートケーキよ」

律「おー、ラッキー! 元祖にして最強のショートケーキ!」

?「いっただっきまーす」

律「おいちょっと待て ! それあたしの苺!」

50: 2010/08/30(月) 11:21:09.02 ID:iSdzGiGo0

?「へへへ……油断するほうが悪いんだよりっちゃん…」

律「このやろー!!」

?「こんにちはー、………って先輩方、また練習しないでお茶なんて飲んで……練習しましょうよ」

?「あ、    ! 今日のお菓子はショートケーキだよ!」

?「え、そ、そうなんですか! で、でもそれと練習は関係ないです……」

律「そんなこと言ってたら、 のケーキ食べちまうぞー!」

?「だ、駄目です! 律先輩、いじきたないですー!!」

律「なんだとー! 部長をいじきたないとはなんだーこのーこの口が悪いのかー」


――
―――

53: 2010/08/30(月) 11:27:51.95 ID:iSdzGiGo0
律(はいはい、毎朝恒例のほどよいこの鬱加減)

律(何故に夢の中の軽音部は、あんなに楽しそうなんだろ……)

律(私もあんな部活に入れたらな……こんなつまらない生活とはオサラバなのに)

律(……ま、自分が能動的に動かなかったのが悪いんだけどね)

律(……………何だこの違和感)


さ「ここよ、平沢さんの家」

澪「結局付いてきてしまった……」

律「ありがとうございます、山中先生」

さ「いいのよ。もしかしたら、平沢さんも新しい友人になら次第に心を開いていってくれるかも知れないしね」

澪「心配だな……絶対迷惑だと思うんだけどな」

57: 2010/08/30(月) 11:33:08.19 ID:iSdzGiGo0
さ「憂ちゃーん」

?「あ、山中先生。毎週本当にありがとうございます」

さ「とんでもない。担任たるものとしての務めだわ。で、調子はどう?」

?「お姉ちゃんなら、相変わらずです。声も聞こえないし、会ってもくれません。
  部屋の前に置いておいたご飯と水は無くなってますし、夜中にトイレに行く足音も聞こえるんで、居ることはわかるんですけど……」

さ「そうなの……わかったわ。憂ちゃんは、元気かしら?」

?「ありがとうございます、私なら大丈夫です」

59: 2010/08/30(月) 11:37:38.01 ID:iSdzGiGo0
律「あの子が平沢さん……かな?」

澪「いや、違うだろ。平沢さんは部屋から出てこれないって、山中先生が言ってただろ」

律「それにしても、あの子、めっちゃ顔色悪いなー。眼の下に、ほら、でっかい隈」

澪「そうだな……姉が引きこもりだと、妹も大変なんじゃないか……?」

?「で、そちらの方は」

さ「あぁ、紹介が遅れたわね。この子たちは、唯ちゃんのクラスメイトよ」

律「ども、田井中律です」

澪「……秋山澪です」

?「あ、こんにちは……………平沢唯の妹の、平沢憂です」

律「ういちゃん、ね。初めまして」ニッコリ

憂「は、初めまして。ところで、どういった御用件ですか」

律「あぁ、ちょっとお姉ちゃんがずっと学校に来ないから、心配でさ」

憂「………本当ですか? お姉ちゃんの、友達なんですか?」

律「そうさ。平沢さんとは小中高と同じクラスだったからな!
  メールしても何しても音信不通だから、心配で心配で」

64: 2010/08/30(月) 11:44:34.21 ID:iSdzGiGo0
澪(……じゃ、苗字じゃなくて名前で呼んどけよそこは……)

律「じゃ、ちょっとお姉ちゃんに会わせてもらっていいかな?」

憂「そ、それはちょっと……」

澪「そうだぞ律。駄目に決まってるじゃないか」

さ「田井中さん。いきなりはちょっと駄目だと思うわ。唯ちゃんは憂ちゃんにさえ口をきいてくれないのよ。
  いきなり他の人に会うのは、刺激が強すぎるんじゃないかしら」

律「で、でも……」

律(そりゃそうだよな。何故こんな会ったことないような奴に会う為に必氏になってんだ?)
律(不登校児だぞ。いじめられて、色々と面倒臭そうな奴だぞ。話せる訳ないじゃん)
律(……)
律(…………訳わかんないけど、ほんと訳わかんないけど、これは私がやんなきゃいけない気がするんだよね)


67: 2010/08/30(月) 11:47:54.59 ID:iSdzGiGo0
律「そんなの、やってみないとわかんないじゃないですか」

憂「!?」

律「それに、唯はあたしの友人です。だから、会って話がしてみたいんです。
  結果として話せなかったとしても、唯に話しかけたいんです」

澪(今こいつ「唯」って言った?)

澪「……ちょっと律」

憂「わかりました。お姉ちゃんに話してみます」

律「………ありがとうございます」

律(え? なんで私こんなに熱くなってるんだろ? ………流れ的にか? 訳わからん)

69: 2010/08/30(月) 11:51:03.00 ID:iSdzGiGo0
憂「おねーちゃーん、おなかすいたー?」

唯「…………」

憂「よるごはん今作るから、もうちょっと待ってね」

唯「…………」

憂「それと、今日はお姉ちゃんのお友達が来てるよ」

唯「…………」

憂「お姉ちゃんと話したいんだって」

唯「…………」

憂「田井中さん、秋山さん、あそこがお姉ちゃんの部屋のドアです。ドアは絶対に開けないであげて下さい」

律「わかった、ありがとう」

74: 2010/08/30(月) 12:00:02.93 ID:iSdzGiGo0
澪「…………何か怖いな」

律「だいじょーぶだって、澪ちゃん。ほら、相手が何もしゃべらないなら、何も気に病むことはないさ」

澪「だって………」

律「いいからいいから、行くぞ澪」

律「こんにちはー、平沢さん」

唯「…………」

律「あたし同じクラスの田井中律って言うんだ! よろしくな!」

澪「わ、私は秋山澪……です」

唯「…………」

律「唐突に来てごめん。いや、何だか会わなきゃいけないような気がして」

唯「…………」

律「平沢さんって、茶髪で、ちょっと馬鹿っぽいんだけど、ぽえっとしてるんだよな?」

唯「…………」

75: 2010/08/30(月) 12:06:04.90 ID:iSdzGiGo0
律「そんでもって、あとは……ギター上手いんだよな?」

澪「え?」

唯「……」

律「……あ、ごめん。何かそんな気がして」

律「めっちゃ怪しいよな、あたし達。いきなり押しかけてごめんな」

澪「達って私も入ってるんかい」

唯「…………」

律「いやー、変な話。何も話すことなんてないんだ。学校で特に何が起こるわけでもないし、転校生が来たわけでもない」
律「そういやもうそろそろ学祭だけど、その準備で内輪でわいわい盛り上がってるって感じで」
律「私みたいな奴は、クソも面白くないわけ。まーあんまクラス馴染めてないしな。当然っちゃ当然かもだけど」
律「平沢さんも、そう思わない? 学祭なんて消えちまえばいいのになーって。授業受けてた方がまだマシだって」

唯「……」

78: 2010/08/30(月) 12:11:04.74 ID:iSdzGiGo0
律「でも……なんつーか、こう、たまにさ。期待とかしちゃうんだよね。わかるかなー、この気持ち」

律「ジャズ研とか演劇部とか吹奏学部とかがさ、ステージの上でやるわけじゃん、演奏とか演劇とか、まぁ色々」

律「それ見たり、そのことを思ってみると、何というか………こう、嫉妬というか、切なさというか、不思議な気持ちに囚われるんだ」

律「あー、何であそこに立ってるのがあたしじゃないんだろうなー、って」

律「あたし、軽音部に入りたかったんだ。けど、部員が誰も居なくて」

律「最初あたしが立て直そうかなーって思ったけど、結局誰も来なかった。ははは」

唯「……」

律「あ、変な話してごめんな。ちょい色々思い出しちゃって」

澪(律……何かいつもと違う。何が違うのかは言えないけれど……何なんだろう)

律「あぁ、今日は帰るわ。妹ちゃんに迷惑かけてもマズイし。また来て良いかな?」

唯「………」

澪「……」

律「……ありがとな」

80: 2010/08/30(月) 12:17:08.76 ID:iSdzGiGo0
―――
――


唯「りっちゃん」

律「ん、何だ唯?」
唯「何かたまにさ、今すっごい幸せだなー、って思う時ってない?」

律「あー、そりゃたまにじゃなくて頻繁にあるけどもさ。それがどうかしたか?」

唯「あたし、軽音部に入ってから、すっごい楽しいし、幸せ!」

律「何をいまさらぁ! 恥ずかしい奴だなぁ」

唯「へへへ、でも、本当のことだから、しかたないよ!
  みんなと会えて、すっごく幸せ!」

律「……確かに。このメンバーで会えたのも、ちょっとした巡りあわせみたいなもんだもんな」

?「何の話してるんですか?」

唯「あ、    ! いや、このメンバーで居れて、すっごい幸せだってことだよ!」

?「な……まぁ、そうですね。私なんてジャズ研行ってた確率もありますし、外バン組んでたかもしれませんしね」

律( の場合、言葉に現実味があって怖いな)

81: 2010/08/30(月) 12:23:03.76 ID:iSdzGiGo0
唯「      、本当に軽音部に来てくれて、ありがとーう!」

?「だ、抱きつかないで下さい、暑苦しい! 学祭近いんですから、早く練習しましょうよ!」

律「へーへー。練習いたしまちょーねー。その前に、 の紅茶とお菓子食べてからな」

?「どうやってまた脇道にそれる……」

唯「え、     食べたくないの?」

?「…………食べたい…ですけど……」

律「えー、 は練習するんだろー」

?「そ、そうですよ! でも……あぁもう、律先輩も唯先輩も、いじわるです!」

唯「     かわいー!」

?「うう………」


――
―――

82: 2010/08/30(月) 12:26:46.78 ID:iSdzGiGo0
律「よう、平沢さん。今日も来ちゃった」

唯「…………」

律「てか、昨日平沢さんが来て良いって言ったよな? 来てよかったんだよな?」

唯「…………」

律「あ、因みに今日は澪は居ないんだ。澪ってのは、昨日一緒に来てた子のこと。あいつ全然喋ってなかったからわかんなかっただろうけど」

唯「…………」

律「澪の奴、ひどいよな。今日は文芸部があるからーって。部活とあたし、どっちが大事なんだっつうの」

唯「…………」

律「まぁ、あいつとも中学までは結構親しかったんだけどもさ。高校入ってから、ちょっと壁を感じるというか……あいつが冷たくなったのかな…」

唯「…………」

律「わかんないけどね。一緒に学校は行ってるんだけどね。それは家近いから、あっちに断る理由がないからなのか、それとも何も考えてないのか」

唯「…………」

84: 2010/08/30(月) 12:29:33.25 ID:iSdzGiGo0
律「まー、あたしは今でも澪のこと好きだから、良いんだけどさ。
  でも、自分の部活の話ばっかすんのは、やめて欲しいんだけどね」

唯「…………」

律「何がいいんだろ、あんな根暗な奴らが最後に行きつくような、吹き溜まりみたな部活」

唯「…………」

律「ま、あたしはその吹き溜まりにも行きつくことが出来なかったんだけどね」
律「あたしのせいってわかってんだけど。それはしゃーないか。だから、ちょっと澪が羨ましいんだ」
律「俳句甲子園とか、高文連とか、文芸キャンプとか、何が楽しいのかは今一つわからないけど」
律「けど、あいつが部活について喋ってるの見てるとさ、あー、澪本当に部活の奴らが好きなんだなー、って思っちゃって」
律「………嫉妬しちまうんだよな」

唯「……」

律「あ、ごめんな。何話せばいーかわかんなくて」

唯「…………」

律「本当のことを言うとさ、ここに来た理由なんだけど」

唯「……」

律「平沢さんが毎日夢の中に出てくるんだ」

85: 2010/08/30(月) 12:31:17.39 ID:iSdzGiGo0
唯「…………」

律「夢の中で、私たちは軽音部で、まぁあんまし練習はしないんだけど、兎に角楽しくダベってるんだ。
  あたしと澪と平沢さんと、あと2人居るんだ。一人はおっとりしてて、まぁ平沢さんとは違う方向のおっとりで、
  もう一人はしっかりした後輩! ツインテールですっごい可愛い! けどまぁ練習練習うるさいんだけどね」

唯「……」

律「まぁ、そんな馬鹿みたいな理由でここに押しかけちゃったわけです」

唯「………」

律「じゃ、今日は帰るわ。また来ていいかな?」

唯「………………うん」

律「ありがと。んじゃまた来るわ」

89: 2010/08/30(月) 12:35:30.29 ID:iSdzGiGo0
―――
――


律「おぉ、何だ今日は唯一人か」

唯「あ、りっちゃん。今日は紬ちゃんは学校おやすみしてるんだ」

律「へー紬が。またスウェーデンとか行ってんのかねー」

唯「そーかもね。あたしも行きたいなー、すうぇーでん」

律「唯さん、スウェーデンって何かわかってらっしゃいます?」

唯「だから、今日はお菓子もお茶もナシだねー」

律「だなーちくしょー、あぢー、あたしもロシアとか行って涼まりてー」

90: 2010/08/30(月) 12:37:16.38 ID:iSdzGiGo0
唯「………ねぇりっちゃん」

律「ん-なにー」

唯「もしあたしたちがいなくなったら、どうする?」

律「何だよ突然。いなくなるわけねーじゃん」

唯「そうなんだけど……そうだよね!」

律「いなくなっても、あたしがみんな探してやるから、大丈夫だって!」

唯「ありがとう! じゃ、手始めに紬ちゃんを捜しに行こう!」

律「おおともよ! 行くぜ唯隊員!」

唯「ラジャ、りっちゃん隊員!」


――
―――

91: 2010/08/30(月) 12:40:37.63 ID:iSdzGiGo0
律「こんばんは、憂ちゃん」

憂「田井中さん、今晩は。いつも、有難うございます」

律「いやいや-。こっちこそ勝手に毎日来て、申し訳ない」

憂「とんでもない! お姉ちゃんもきっと喜んでると思います」

律「まぁ、そうだといいけどさ」

憂「ところで、宜しければ、今日夜ごはんとか食べて行きませんか?」

律「え、いいの? ありがとう憂ちゃん! あんたは出来た子やー」

憂「いえいえ、こちらこそ。私も誰かと一緒にご飯食べたかったんです。一人じゃ気が滅入ってくるんで」

94: 2010/08/30(月) 12:46:20.88 ID:iSdzGiGo0
律「なぁ唯、憂ちゃんのご飯とか、めっちゃ美味しいんだろうなー。いかにも家庭的って感じだもんな!」

唯「……」

律「てか、唯って呼んでいいよな? 何かそう呼びたい気分なんだな、唯!」

唯「……」

律「そんでさー。まぁ今日も相変わらず話すことなんてないんだけど」

唯「…………」

律「今日も澪は一緒に来てくれなかったぜ……冷たいというか、都合良い時だけ来てくれるというか」

唯「…………」

律「いや、私が変だってのわかってるから別に良いんだけどさ」

唯「…………」

律「あー唯ー。たまに憂ちゃんとご飯食べてやれよー。憂ちゃん苦労人なんだぜ」

唯「……」

律「まぁ、知ってると思うけど、いやなんかごめん」

95: 2010/08/30(月) 12:51:18.02 ID:iSdzGiGo0
唯「……」

律「そういや、夢の中のお前、結構楽しい奴なんだぜー。
  まぁお勉強は出来ないんだけど、ギターすっごく上手くてさ。
  軽音部のマスコット的存在なんだ!」

唯「………」

律「こないだ練習した曲も、結構うまかったぜ……ほら、なんて言ったかな…」

唯「……」

律「ごめん、夢だからあんまし覚えてないんだ。あ、いや何かあたし馬鹿みたいだな。
  夢のことなのにな。しかも夢の中の平沢唯と、ここに居る唯が同一人物なんて確証もないのにな」

唯「……」

律「ほら、あたしにばっか話させてると、だんだん鬱話になってくるだろ! 何か唯も話せよー」

唯「………」

律「わかってるって。そこに居るのは何となくわかるから、何も話さなくていいよ」

唯「……たいなか…さん?」

律「え?」

96: 2010/08/30(月) 12:54:34.07 ID:iSdzGiGo0
唯「…………たいなかさん…であってる…かな?」

律「う……うん」

唯「……………私は、平沢唯」

律「そ、そうかそうか。すりゃーよかった」

唯「……ありがとう、……いつも来てくれて」

律「あ……あぁ、全然大丈夫! ほら、あたし、暇だし? 全然何もすることないし!
  だから、24時間年中無休のりっちゃん隊員、いつでもどこでもあなたの要請があらば!!」

唯「………ふふっ」

99: 2010/08/30(月) 13:00:25.78 ID:iSdzGiGo0

憂「田井中さーん、夕飯できましたよー」

律「あ、はーい、ありがとう!」
律「てな訳で、ちょっと憂ちゃんと夕飯食べてくるわ、今日はここでさよならだ」

唯「…………」

律「まだ来ていい…かな?」

唯「………うん」

律「サンキュ」


憂「お姉ちゃん喋ったんですか!」

律「あぁ、あれはあたしもちょいとばっかしビビったわ」

憂「それが本当なら……あぁ…今日は何て嬉しい日なんでしょう…」

律「憂ちゃん? ちょっと憂ちゃん? 目が明後日の方向を向いてますけれども?」

憂「は! すみません。この半年の間、一度も口をきいてくれなかったので」

律「そうなんだ……憂ちゃんも苦労してるんだな…」

憂「苦しくないと言えば嘘になります。けれど、田井中さんが来てくれてから、精神的に大分楽になりました」

100: 2010/08/30(月) 13:06:58.64 ID:iSdzGiGo0
律「そうかい? あたしは憂ちゃんに逆に気を遣わせてないか、心配だったんだけどもさ」

憂「滅相もないです。いつもありがとうございます」

憂「お姉ちゃん、周囲のみんなに合わせるのが苦手で」
憂「何をするにも、ちょっとテンポが遅いんです」
憂「一つのことに熱中しだしたら、誰にも負けないんですけれど……興味がないことに対しては、てんで駄目と言いますか」

律(アスペルガー……ではないよな、多分)

憂「だから、高校ではいじめのターゲットになっちゃって……」

律「ほぉ。そうなんだ」

憂「私はその時まだ中学生ですから、詳しくはわからないんですけど。
  高校入ってから、お姉ちゃん口数が減っていって。何かあったのって聞いても、  
  大丈夫だよ、うい、心配しないで、の一点張りで」

律(まぁ、家族にいじめられてることを知られたくはないからな。心理的に)

101: 2010/08/30(月) 13:08:31.33 ID:iSdzGiGo0
律「ま、そんなことより、このカレーめっちゃ美味しい! 信じられないくらい!」

憂「有難う御座います! 料理には、多少ながら自信があるんです!」

律「いや、お世辞とかじゃなくて本当にうまいわ、これ。毎日食べられる唯の奴が羨ましいぜ!」

憂「田井中さん、もし宜しければ、これから食べにいらっしゃいますか?」

律「いやー、流石にそれは悪いから遠慮しとく。ウチの親に説明すんのも面倒だからさ」


ピンポーン

憂「あ、お客さんみたいです。ちょっと出てきますね」

律「はいはーい」

102: 2010/08/30(月) 13:13:35.00 ID:iSdzGiGo0
律(あー本当に良い妹さんやなー)

律(唯には外見は似てるけど、内面はなんま似てない……のかな)

律(ま、あって二週間弱の人を似てる似てない判断出来る訳もないんだけどね)

律(……あれ、唯の外見って、どんなだっけか?)

律(まぁいいや。とにかく、いい妹さんってことで)

律(んで、唯も喋ってくれたことだし、今日は良い日だなー!)

律(え、でも私の最終目標って何なんだろ?)


憂「あ、梓ちゃん! どしたの?」

?「いや、ちょっと近く通ったから、ちょっと寄ってみたんだ」

103: 2010/08/30(月) 13:16:28.53 ID:iSdzGiGo0
憂「ありがとう! 梓ちゃんもご飯食べてく!」

?「それはパス。憂って、お母さんみたいだな」

憂「へへへ、あながち間違ってもいないかも」

?「ところで憂、明日は学祭の準備これそうなの?

憂「ごめん梓ちゃん。明日は何とか行けると思う」

?「そっか。あと学祭まで1週間だから、なるたけ出ておいた方がいいかな、と思って」

憂「本当ごめんね、心配かけて」

?「うんうん、全然大丈夫。憂は憂で大変ってこと、わかってるから」


律(……え、この声……もしかして)

律(………………もしかすると、もしかしたりして)

104: 2010/08/30(月) 13:19:53.24 ID:iSdzGiGo0
?「でさ、この先輩がさ、すっごく面白い人なんだ」

憂「へー、私も会ってみたいな……、あ、田井中さん」

律「おっす憂ちゃん………………あ、」

律(やっぱり……黒髪、ツインテール、桜高制服、気が強そうな目、低めの背、そして声。
  何から何まで夢と同じだ。まさかこんなところで会えるとは…………)

律(てかこれマジで現実なのかな……現実とかけ離れすぎてる気がしないでもない)

律(……痛い、ほっぺ痛っ! やっぱし現実か)

105: 2010/08/30(月) 13:22:12.09 ID:iSdzGiGo0
?「誰? この人」

憂「あぁ、この人は田井中律さん。お姉ちゃんのお友達だよ」

?「お姉ちゃんのお友達って……、憂のお姉さんは今、」

律「あー、まー、そこは何と言いますか、複雑な事情がありましてな。ねー、憂ちゃん?」

憂「? まぁ、えぇ、そうなんです」

?「………初めまして、憂の友人の中野梓です」

律(なかの……あずさ。あずさ……なかの…)

律「おぉ……やっぱし」

梓「? な、何がですか?」

律「いや、……何でもない。何でもないんだけど……」

106: 2010/08/30(月) 13:26:30.47 ID:iSdzGiGo0
梓「……じゃ、憂。もう遅いから帰るね」

憂「わかった。気をつけてね!」

律「じゃーねー」

バタン

律「って、じゃーねー、じゃねぇっつうの!!」

憂「!? 田井中さん?」

律「ごめん、憂ちゃん! ちょっと用事思い出した! カレー御馳走さま!!」

律(と、勢いよく外に出たは良いものの………)

律(いない……まるで幻のように消えてやがる…)

律(トホホ………ま、いっか。桜高の制服だったし、1年の教室探せば居るだろ)

律(私………なにやってんだろ)

108: 2010/08/30(月) 13:29:24.98 ID:iSdzGiGo0
―――
――


澪「きみをみてると、いつもハートどきどきー」

澪「ゆれる思いはマシュマロみたいにふーわふわ」

澪「いーつもがんーばるー」

澪「きーみのよこーがおー」

澪「…………」

澪「我ながらよく出来てるかも」

律「何書いてるんだー澪ー!」

澪「うわっ! ちょっと律! いきなり出てくんよ!」

律「へー何々、君を見てるといつもハードどきどき……」

澪「うわ、音読すんな!」

律「……うひょー、こりゃまた、背中痒くなって参りましたぜ」

?「澪ちゃんりっちゃん、こんにちは」

109: 2010/08/30(月) 13:32:40.27 ID:iSdzGiGo0
律「お、紬! ちょっと見てくれよ、この歌詞!」

紬「え、何ですか?」

澪「わー律のばかやろー! 紬見ないでくれぇ……」

紬「ふむふむ…………これ誰書いたんですか?」

律「我らがアイドル、秋山澪たんさ!」

澪「……もう埋めてくれ…」

紬「すっごく良いじゃないですか!」

澪「!?」

律「なん……だと…」

紬「特に『とっておきのくまちゃん出したし、今夜は大丈夫かな』ってとこが、何かこう、胸がキュンとします」

律(違う意味でな)

113: 2010/08/30(月) 14:04:29.50 ID:iSdzGiGo0

澪「そうだよね? あー、分かってくれる人はいるんだ……よかった…」

律「そこでどや顔しないで頂けませんかな」

紬「私、これに曲つけます! そして、もし私の曲を皆さんが気に入ってくれたら、学祭のステージでやりませんか?」

律・澪「え、本当に?」

律・澪「いいの?」 律(多分澪と私の言葉は、ニュアンスが全然違うと思うけどな)

紬「ええ、こんな良い歌詞だもの、みんなに発表しないと勿体ないわ!」

澪「有難う紬!!」

紬「いいえ、私、頑張る!」

律(……あー…予想だにしなかった事態だ…)


――
―――

114: 2010/08/30(月) 14:05:20.48 ID:iSdzGiGo0

律「君を見てると、いつもハートどきどき」

澪「!?」

律「なーんちって。え、どした澪、顔色悪いぞ?」

澪「……律お前………私の秘密ノート…見た?」

律「ひみつのーと? 何それ?」

澪「とぼけんな! お前がそれ知ってるってことは、他のやつも見たのか?」

律「? え、いや、本当にわからないから! 本当に! てか他のやつもあんのかよお前!」

律(現実の澪も、恥ずかしい詞書いてたんだ……いや詞というか詩というかわからないけどさ…)


115: 2010/08/30(月) 14:08:33.96 ID:iSdzGiGo0
律「てなわけで、中野梓さんを探しに行こうと思う」

澪「………あー、私はパス」

律「澪、お前最近冷たいぜ」

澪「……あのな律、これは友人としてのアドバイスだが。
  夢と現実の区別くらいちゃんとつけといた方が良いぞ。  
  いくらお前が毎日がつまらないとか言っても、他人に迷惑かけるのはどうかと思うし。
  それに、お前自分から毎日変えようとしてるか? いくら文句ばっか言ったって……」

律「うっさいよ! いいっていつもの説教は!」

澪「…………」

律「いーのいーの。ほっといてくれよ。これはただの遊びなんだから、ほっといてくださいまし」

澪「……遊びって言っても」

律「ほっといてくれって言ってんだろ!」

澪「!?」

律「………ごめん」

澪「…………こちらこそごめん。部活行ってくる」

117: 2010/08/30(月) 14:13:21.54 ID:iSdzGiGo0
さるさん怖いから、見てる人居たらなるたけ支援頼んます

律(わかってるんだって。自分がおかしいことしてるってことくらい)

律(けど……何て言うんだろ…夢の中の私に近づきたいから?)

律(こういう風に動いて、何かが変わるのかな?)

律(……中野梓さんに会ってから、その後どうすんだ?)

律(唯の件もそうだ。だんだん喋るようになってきたと言っても、まだ顔も見せてくれない。けど……)

律(……今は、やれるとこまでやってみよう。どこまで行っても、氏にはしないだろうから)


律「……お、案外簡単に見つかるもんだな…てか憂ちゃんにクラス聞いとけばもっと早かったかも知れない」

律「中野さーん!」

梓「!? あ、昨日の…何の用ですか」

120: 2010/08/30(月) 14:15:54.44 ID:iSdzGiGo0
律「ちょっと話したいことがあるのですが……お時間よろしくて?」

梓「……大丈夫ですけど」

律「じゃ、立話も何だし、ちょっと談話室にでも行きましょっか」

梓「何ですか一体。手短にお願いします」

律(うわ……嫌そうな顔してる。当然か。私が逆の立場なら、絶対こんな奴についてかないよ)
律(しかも、何話せばいいのかわかんね……どうするりっちゃん…)

律「な、中野さんは、ギターとか弾くの?」

梓「ギターですか? ギターなら弾けますけど…」

律「お、本当に? なら、軽音部とかに興味ない?」
律(いや、何言ってんだ私……脳で考えて喋ってないヨ…口で考えて口で喋ってる感じだヨ…)

梓「軽音部ですか……すみません。私、もう外バン組んでるので」

律「そ、そうなんだ、そりゃそうだよな-、中野さんギター上手いって有名だもんねー」

梓「!?」

律「え、何かあたし、変なこと言った?」

121: 2010/08/30(月) 14:20:16.84 ID:iSdzGiGo0
梓「桜高の人には誰も、私が外バン組んでることは言ってないはずなのですが……田井中さん…でしたっけ?
  ライブハウスとかよく来る人なんですか?」

律「う、う、うん! まぁ、毎日は行かなくても3日に一回は行くね!」
律(駄目駄目だ! 何言ってんだ! 怪しすぎだろ! 色々終わってるよ私!)

梓「……まぁとにかく、私は軽音部には関われません。
  この学校に軽音部はなかったはずですから、今から立ちあげるんだと思いますが、
  頑張って下さいね。それでは、失礼します」

律「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って! あとちょっとだけ待って!」

梓「もう! 何ですか! しつこいですよ!!」

律「中野さんのギターの名前はムスタング!」

梓「!」

律「中野さんはジャズ研に入ろうと思ったけど、見学の時しっくりこなくてやめた!」

梓「………」

127: 2010/08/30(月) 14:26:27.92 ID:iSdzGiGo0
律「中野さんは、両親の影響でギター始めた! 小中高と弾いてきてる!」

梓「……」

律「中野さんは、」

梓「もういいです」

律「あたしは、中野さんを知ってるんだ!」

梓「私は知りませんし、あなたの関わりたくもありません! 失礼します!!」

律「ちょっと待って! …………はぁ…」

律「………疲れた…」



律「こんな感じだったんだけどさ」

唯「……」

律「やっぱし無理があるよな……夢で見たから、あなたのことを知ってますよー、なんて。言えないよなー」

唯「………」

129: 2010/08/30(月) 14:28:07.26 ID:iSdzGiGo0
律「まぁ、唯には言ったけどね。何か唯だと信じてくれそうな気がしたんで」

唯「………うん」

律「あー、もう澪も冷たいしよ。夢の中だったら、もっと優しいんだぜ? 澪のやつ。
  そんなに文芸部が良いのかよ。な? あたしが嫌いなんだったら、だったら一緒に学校行ってくれなくても良いんだぜ、ってな」

唯「………」

律「……今のは言い過ぎた」
律「けど、中野さんも澪も、勿論唯ともあと一人の子とも、夢の中ならすっごい仲良いんだぜ!」
律「まぁ、中野さんとは限りなく初対面に近いから、仕方ないんだけどさ……」

律「あーあ。ゆめのなかーなら、ふたりのきょーりー ちぢーめらーれるのになー」

唯「………ああ かーみさまおねーがい ふたりだーけーの どりーむーたいむ くだーさいー」 

律「そうそう。お気に入りのうさちゃん抱いて、今夜もお休みしたくなる……って、え?」

唯「……」

131: 2010/08/30(月) 14:31:43.34 ID:iSdzGiGo0
律「なんで知ってるの、それ?」

唯「…………ふふ」

唯「……わたしも、りっちゃんと、おんなじ夢みるんだ」

唯「………夢の中のわたしは、もっとかがやいてて」

唯「…………まいにち学校に行くのが楽しみで」

唯「……りっちゃんや、みおちゃんや、むぎちゃんや、あずにゃんと一緒に、ケーキ食べたり、おしゃべりしたり、たまに練習したりして」

唯「………すっごく、すっごく楽しいんだ」

唯「……………すっごく、すっごく」

唯「……すっごく、楽しいんだよ、っえぐ、……うわあああああああああん!!!」

133: 2010/08/30(月) 14:34:37.14 ID:iSdzGiGo0
唯は泣いていた。
すすり泣きなんてものではない。わんわんと、声をあげて泣いていた。
唯は泣いた。
唯は、ひたすら泣いた。
唯は、ただひたすらに泣いた。
ドアを挟んでも、彼女の泣き声は、しっかりと私の耳に響く。
そして、それは私の涙腺さえも刺激する。

唯「…………どうして、こんなことになっちゃったんだろうね」

律「……わたしたち、もしかしたら、去年の4月に、会えたかも知れないんだよな」

唯「…………何で、会えなかったんだろ……何で………
  ……苦しいよ……苦しいよ、りっちゃん……っえぐ……」

律「……唯」

唯「…………っ……」

律「………」

唯「……」

律「……今日は帰るわ。また来る」

唯「…………」

135: 2010/08/30(月) 14:36:35.21 ID:iSdzGiGo0
律(…………)

律(……わけわからん)

律(……自分が何をすべきなのかも)

律(…………状況がどうなってるのかも)

律(………唯は私と同じ夢を見てるけど、澪は見てない。おそらく中野さんも)

律(そして、もう一人の彼女……名前なんつったっけか……は、まだ会えてさえいない)

律(……どうしろっつうんだよ、誰か教えてくれよ)


―――
――


137: 2010/08/30(月) 14:38:40.61 ID:iSdzGiGo0

澪「おはよう、律!」

律「……おっす」

澪「どうした律、今日は元気ないな」

律「まーな……ちょい色々あってな」

澪「どうしたんだ。私でよければ、話を聞くぞ」

律「み……み…みおちゃーん!」

澪「な、なんだよやめろ!」

律「いてててて……いや、澪がいつもよりあまりにも優しいから、つい」

澪「お前……私はいつも通りだぞ」

律「……うーん、そうなのかな……そう言われてみればそんな気もする」

梓「律先輩、澪先輩、おはようございます!」

141: 2010/08/30(月) 14:43:07.30 ID:iSdzGiGo0
澪「おぉ梓、おはよう」

律「………梓もいつにも増して明るく、いい子に見える」

梓「何言ってるんですか律先輩、私はいつも通りじゃないですか」

律「……いつも通りって何だ、いつも通りって」

律「…………ごめん、最近ちょっと悩み事があって」

澪・梓「どうしたんだ」「どうしたんですか?」


――
―――

142: 2010/08/30(月) 14:44:46.21 ID:iSdzGiGo0
律(……ん…朝か…)

律(……最近夢の中で、現実での悩みを引きずってる気がするな…)

律(それにしても、夢の中の澪と中野さんは優しいよなー)

律(羨ましいなー、夢の中の私)

律(ん、でも、夢の中の私は、夢を見ている私であって……)

律(だとしたら、ずっと夢を見ていればいいんじゃないか?)

律(そしたら、現実を見なくて済む、いや、夢が現実になる)

律(………なんちって。いくらなんでもそりゃないっしょ)

律(………学校行くか)

146: 2010/08/30(月) 14:47:42.21 ID:iSdzGiGo0
律「おはよー澪」

澪「あぁ、律、おはよ」

律「なぁ澪、もしあたしが居なくなったら、どうする?」

澪「ん? ……なんだいきなり。また何か変なこと考えてるのか」

律「いやいやー、仮の話仮の話」

澪「そうだな………、悲しいだろうな」

律「そんで?」

澪「……すっごい悲しいと思う」

律「………それから?」

澪「うん、悲しいんじゃなかな」

律「……そんだけ?」

澪「そんだけって何だよ。お前が氏んだら悲しいよ」

律「…………ま、そうだよな! 悲しいっすよねー、悲しいっちゃ悲しいっすよねー」

澪「? 変な奴……」

150: 2010/08/30(月) 14:53:32.63 ID:iSdzGiGo0
律(そして今日も授業が終わった……)

律(……さて、帰るか…)

律(……あー、学祭まであと3日か…全然関われてないな…)

律(…………学祭なんてなくなっちまえばいいのに…)

律(……全てが面倒臭いな)

律(あ、そういや)

律(元々あった軽音部の部室って、今どうなってるんだろ)

律(うわー、懐かしいな、音楽室。ここで4月一杯は一人で部員待ってたなー」

律(誰もこなかったけれどもさ)

律(まぁ、それは良い。で、この中って、どっか部活使ってるのかな…)

152: 2010/08/30(月) 14:57:54.42 ID:iSdzGiGo0
ギィ

律(誰も居ない。学祭期間中なのに)

律(……何か誰も居ない教室って、不気味だな)

律(黒板に、隅に寄せられた机……他は何もない)

律(…………去年の4月と何も変わってない)

律(お、この部屋、もうひとつ部屋があるんだ)

律(なになに……音楽準備室、か)

律(……何か気になったら止められない性格は、損ですよねー)

律(まぁ、何もないだろうけど、お約束ということで、開けちゃいますか)

律(………うわ、埃臭っ)

律(……………レコード、楽器……うわー、色々詰まってるなー)

律(足の踏み場もねぇや)

律(ん………奥の方に何か、ある。……何これ?)

律(え……、え? てか人? しゃがんでるけど、人……だよな?)

154: 2010/08/30(月) 15:02:53.81 ID:iSdzGiGo0
?「……!?」

律「!!」

?「り……っちゃん?」

律「え?」

?「りっちゃん……じゃない。どうしてここに。そうだ、あなたも気づいて、」

律「いや、別にこれと言った理由はないといいますか、てかあたしの名前を御存知で」

?「………そっか。こっちのりっちゃんは、私のこと知らないんだもんね」

律「……夢?」

?「とにかく、準備室の外に出ましょう」

律「…………あ、あなたは」

?「あ、初めまして、というのも変だけど……、私は紬。琴吹紬よ」

律「見たことある。てか、夢の中で会ったことがある。あなたが、琴吹紬さん、ですか」

律(……ほぉ、改めてみると、すごい可愛い……いや、高貴だ…
  ほっぺたとか微妙に触りたい気分…いや冗談)

156: 2010/08/30(月) 15:08:40.70 ID:iSdzGiGo0
律「まぁ色々聞きたいことは山ほどあるんだけど、まずどうしてこの部屋の中に居たの?」

紬「……居たかったから、かな」

律「そうかー、いたかったからかー」

紬「そうなのー、いたかったからなのよー」

律「はははは、って展開にはなりませんよね、琴吹さん」

紬「……ごめんなさい」

律「で、本当のところは」

紬「…………………」

律(お、ものっそい目がうるうるしてる。え、私女の子泣かしてる? でも質問してるだけだし……
  なんだこの罪悪感……)

157: 2010/08/30(月) 15:13:31.12 ID:iSdzGiGo0
紬「……信じてくれないとおもうけど…」

律「もう信じるも信じないもないから大丈夫、最近」

紬「私は、この世界じゃないところに住んでるの」

律「…………はい?」

紬「音楽準備室の隅の穴から抜けた先には、もう一つの世界があるの」

律「………………突っ込んだら負け?」

紬「りっちゃん、これは事実なの。事実なのよ。私も最初は信じられなかったけど」

律「ちょっと待ってストップ!!」

紬「!?」

律「………何か頭おかしくなりそうなんだけど。何? 異世界? 何それ、おいしいの?
  もう何か最近訳分かんないんだよね。同じ夢ばっかみたり、夢と現実が微妙にリンクするけど完全にリンクしてなかったり。夢のせいで現実がカスみたいに見えたり
  あげくの果てには、誰かと共通の夢を見てたりさ」

紬「………」

律「もう沢山。もう沢山だよ。もうそういうのはイイ。退屈な世界も悪くない。退屈だけど、誰も傷つかない。
  ただ劣等感と無能感に堪えてれば、それで毎日が過ぎてく。けど、ここ1・2週間、何かを知る度にあたしは傷ついていく」

162: 2010/08/30(月) 15:22:02.35 ID:iSdzGiGo0

紬「……………」

律「なんか、もう、疲れた、かな」

紬「……りっちゃん待って。あと少しだけ耐えて」

紬「百聞は一見に如かずだと思う。ちょっとだけ行きましょう、あっちの世界に」

律「………」

結論から言うと、琴吹さんの言うことは
準備室の隅っこにある人が一人やっと通れる程度の穴を抜けた先には、左右対称のもう一つの準備室があった。
そして、その準備室を抜けた先には……

紬「今部屋を出ちゃだめ」
律「おぅ!」

琴吹さんに思いっきり体を掴まれる。正直、結構痛い。

紬「みんなが来るわ」
律「みんな?」
紬「静かにして」
律「…………」

紬「……………」
律「…………………」

律「………………! え?」

167: 2010/08/30(月) 15:25:03.22 ID:iSdzGiGo0
「みおちゃーん、りっちゃーん、あずにゃーん」

「お、唯。何だよ今日も遅いじゃん」

「はぁ……はぁ…………やっと追試が終わりまして…今日からあたしは自由です!!」

「おぉ、良かったな!これでやっと学祭に向けて練習できるな!」

「おめでとうございます!」

「うっしゃあ、ボーカル兼ギター復活だ! あ、でもまだ紬は来てないみたいだな」

扉の向こうから、声がする。
聞いたことのある、声がする。

紬「驚きたい気持ちはわかるけど、お願い、今は声出さないで」
琴吹さんに、口さえも塞がれる。いや、そこまでしなくても……
そこまでされないと、私は大声で叫びだしていたに違いない。

澪の声。唯の声。中野さんの声。そこまではわかる。
何故接点のない3人がこんなに親しそうに戯れているのかとか、
唯が何故学校に来ているのかとか、
澪が練習できるとか言ってるのは、文芸部のことなのかどうなのかとか、

一番重要なのは、壁の向こう側から、ひとつ、耳慣れない声がすること。
嫌な予感がした。体中から汗が噴き出る。
嫌な予感がした。嫌な予感がした。

168: 2010/08/30(月) 15:27:53.57 ID:iSdzGiGo0
わかっていた。
そこに居るのは、私だ。


田井中律が、そこに居る。


律「……もう聞きたくない」
紬「…………そう」
律「…………苦しい」

本当に苦しかった。
胸が前後からきりきりと万力でしめられていくような感覚。

紬「……りっちゃんも音楽準備室に来たってことは、気付いてきた訳じゃないの?」

律「………気づくって、何にだよ…」

紬「……………いや、良いわ」

「そこに誰かいるのか?」

紬「…大変、りっちゃんが気付いちゃったみたい! りっちゃん、あっちに戻って早く!」

律「戻るって、どうやって……うぉ」

琴吹さんに尻を蹴られ、私は隅にある穴の方向へ飛ばされる。

169: 2010/08/30(月) 15:30:24.81 ID:iSdzGiGo0
「わっ!」

「うわ、びっくりした!」

「わーい、紬ちゃんだ!」

「ごめんなさい。みんなを驚かせようと思ったんだけど、出るタイミングを失っちゃって」

「あー、でも十分効果的だと思うぜ。なー、澪……って、おい澪?」

「……………」

「駄目だ、気絶してるみたいだ」

「澪せんぱーい、起きてくださーい!」

律「…………………」

これ以上聞きたくはなかった。
一刻も早く穴を抜け、元の誰も居ない音楽室へと急ぐ。

息が切れている。動悸がする。吐き気もする。
何だ、これは。
何なんだ、これは。

世界が、もうひとつ存在する。
澪が、唯が、中野さんが、もう一人ずつそこには存在する。
いや、まだ確証はない。ただ、声は同じだったというだけだ。確証はないんだ。

170: 2010/08/30(月) 15:33:28.24 ID:iSdzGiGo0
だがしかし。
突き飛ばされる刹那、視界の隅に移ったのは………
鏡と写真以外では見たことのない、あの顔。自分の、顔だった。

律「うぉ……えええええええええ………」
猛烈な吐き気。耐えきれずに、吐いてしまう。

どうなってるんだ。これは、本当にどうなってるんだ。
知らない世界があって、私がもう一人いるって。
信じられない。誰でも信じられないに違いない。一番信じていないのは、当の私だ。

律「どうしよう……これから、どうすればいいんだろう」
頭の中がぐるぐると回りだす。ぐるぐるぐるぐるぐるぐると。
律「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……………どうすればいいんだよ…」

夢。唯。もう一人の自分。澪。冷たい澪。同じ夢。
穴。準備室。リンク。声。学祭。軽音部。ふわふわ時間。

律「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

172: 2010/08/30(月) 15:40:19.19 ID:iSdzGiGo0
―――
――


律「その悩みっていうのがさー」

澪・梓「うん」「はい」

律「最近、同じ夢ばっかり見るんだよね」

梓「同じ夢、っと言いますと?」

律「同じ夢は同じ夢さ。それもひっどい夢でさ。
  私はすっごい淡泊な生活を送ってるの」

澪「淡泊? 律が淡泊な生活? 信じられないな」

律「一番信じられないのは私!
  でも、夢の中の私は、軽音部にも、何部にも入ってなくて、
  それで澪も冷たくて、梓とは知りあいでさえないんだ」

梓「うわ……何か嫌な夢ですね」

175: 2010/08/30(月) 15:47:25.67 ID:iSdzGiGo0
律「モンスターに追いかけられるとか、ナイフを突きつけられるとか、
  そういうアメリカホラー映画系怖さじゃないんだけど、じわじわくる怖さというか……
  梓はおろか、唯や紬もいないからな……」

澪「心配ごとでもあるのか? 意識的にせよ無意識的にせよ、心になにか抱えてる時は、
  それが夢に反映されるって言うぞ」

律「それが、これと言って思い当たらないのが悩みって言いたいくらいで。
  もうそろそろ唯の追試も終わるだろ? 学祭に向けても、比較的順風満帆だし」

梓「おかしいこともあるもんですね」

律「だな。まーたかが夢だし、気にするのも野暮だけど、流石に毎日はきついんだよな……」

―――
――

178: 2010/08/30(月) 15:54:12.82 ID:iSdzGiGo0
次の日。
学祭の2日前。
私は学校を休んだ。
滅多に学校を休まない私が調子が悪いというので、両親と弟は過剰に気づかってくれた。
その気遣いが、今は嬉しい。熱もなく、風邪をひいている訳でもないのだが、兎に角誰とも会いたくなかった。

そして、頭の中を整理したかった。
あの後、よたよたと保健室へ行き、3時間程寝てから家へ帰った。唯に会いにも行かなかった。
その時は、ただひたすら寝たかった。夢を見たくもなかった。何も考えず、頭を空にしたかった(結果として夢を見てしまうことにはなったが)。

一つの仮説を立てた。
私の夢は、あちらの世界の自分が見ている世界なのではないだろうか。
私が寝ている時に、断片的にあちらの世界の自分が見ている日常、
例えばどうでもいい会話とか、軽音部でドラム叩いてるとことか、唯と澪からかってるとことか、等々が夢として自分の脳裏に入り込む。

その仮説が正しいとすれば。
いや、そんな非現実的な仮説を認めたくはなかったが、やむを得ない。
最近の訳分からない事柄に説明をつけるには、非現実的な仮説で対応するしかないのだ。

律(……これって、私が狂ってきてるってことなのかな? 私には周囲の世界が狂って見えるっていうアレ……)

狂人にとっては、周囲の世界は狂って見えているらしい。
狂人は、自分が正しいと思い込もうとする。世界が狂っていると思い込む。

律(……だとしても)
だとしても、私は、自分が与えられている情報を信じるしかないのだ。

180: 2010/08/30(月) 15:59:13.26 ID:iSdzGiGo0
今の「同じ夢」を見始めたのは、つい3週間前くらいからだ。
最初は偶然かと思ったが、今まで途切れることなく、その夢を見続けている。

律(……その周辺にあったことはと言えば…)
律(………いや、特に何もないな。)
律(でも…その夢が微妙にこっちの世界にリンクしてるってことに気付き始めたのは…)
律(唯に会おう、って私が澪に提案して、実際に唯に会ってからだ…)
律(そこから、何だか自分にも歯止めが利かなくなって…)

知らなくても良いこと、というものは確実に存在する。
それを身をもって知らされた。

律「んで、こういう風にあたしは考えてるんだけどさ、唯」

唯「………」

律「ま、あほらしいって笑ってくれても良いぜ。自分でもあほらしいと思うし」

唯「…………」

律「でもあたしの仮説はさておき、あたしが経験してきたことは全て本当。
  もう一人の自分がそこに居たってのも本当。あ、そこにお前も居たぜ」

唯「………………」

律「すまん、誰かに話してないと、やってられなくてさ。こんな馬鹿らしいこと」

唯「………ねぇ、りっちゃん」

181: 2010/08/30(月) 16:04:41.13 ID:iSdzGiGo0
律「ん、何だ?」

唯「……なんで…なんで、紬ちゃんは居なかったんだろう?」

律「なんでって……そりゃ、琴吹さんは穴を通ってこっちの世界に来てたからだろ?」

唯「………ごめん。私が言いたいのは、………紬ちゃんは「どっちの世界の」紬ちゃんかってことは、わからないってことだよ」

そういえば。
世界が二つあるならば、人物も二人居るはずだ。
こっちの世界の琴吹さんと、あっちの世界の琴吹さん。

律「……まぁ、そりゃまだわからないわな」

唯「………」

律「でも、いきなり何でそんなことを言い出すんだ?」

唯「………」


律「………でも、それは問題じゃない気がするぞ。
  あたしが会った紬があっちの世界の紬だったとすれば、こっちの世界の紬とあたしはまだ知りあって居ない。
  あたしがあった紬がこっちの世界の紬だったとしたら、あっちの世界の紬は、多分まだ音楽室に来ていなかった
  そういうことじゃないのか?」

唯「……………これ見て」

184: 2010/08/30(月) 16:12:37.42 ID:iSdzGiGo0
ドアの隙間から差し出される、A4用紙。
文字と写真が印刷されている。YAHOOとかgoogleとかで普通に見れる、ニュースサイトのレイアウト。
これを読めということだろうか。

律「なになに…………」


女子高生殺害 他殺の可能性高し

○月×日( )、桜ケ丘高校グラウンド脇にて、生徒である琴吹紬さん(17)が遺体で発見された。
氏因は絞殺で、首にひものようなもので絞められた跡が見られた。
○○警察は、詳しい氏因と犯人の行方を調査している。

その記事の横には、昨日目にした琴吹さんの写真。
妙に神妙な彼女の面持ちが、昨日の彼女の印象と一致する。
しかし。夢の中の彼女は、もっと柔らかい印象だった………。

律「ってえ? うそ、ちょ、何、何コレ? 何なの、ちょっと唯!」

唯「………………」

188: 2010/08/30(月) 16:17:50.39 ID:iSdzGiGo0
○月×日は、昨日。
氏亡時刻は記事に書かれて居ないものの、少なくとも、私が会っていた時に、琴吹さんは氏亡していたことになる。

律「………………もうやめてよ、こういうの」

唯「……りっちゃん、落ち着いて」

律「もう嫌だ。もう嫌なんだって。もうやめよう。もう普通の生活に戻してよ。気持ち悪いよ。もうやめてやめてやめて」

唯「りっちゃん!!」

律「!?」

唯の鋭い声で、我に帰る。

唯「……今は、落ち着こうよ。ね、りっちゃん。
  疲れてるのは分かるよ。りっちゃん今まで頑張ってきたもんね。
  けど、今はちょっと我慢して」

律「…………ごめん」

唯「……いや、正直あたしも、いっぱい話すの慣れてなくて、疲れるんだけどね。ははは」

194: 2010/08/30(月) 16:25:38.78 ID:iSdzGiGo0
唯「この記事と、りっちゃんの紬ちゃんに会ったっていう話は、一見矛盾してて変だけど……だけど、」

律「………」

唯「ふたつの世界が存在してる、っていう紬ちゃんの話が仮に正しければ、りっちゃんの話も紬ちゃんが氏んでるっていうこの記事も、何の矛盾もなくなるよね」

律「……つまり、」

唯「『どっちかの世界の紬ちゃんは氏んでるけど、どっちかの世界の紬ちゃんは生きてる』ってこと。意味わかる?」

律「………なるほど。って、全然現実感も何もないんだけど、取り敢えず理論の上では合ってる、気もする。
  あたしも澪も唯も中野さんも、あっちとこっちの世界に一人ずつ居るんだから、仮にこっちの世界で一人氏んでも、あっちの世界から一人来れば……」

唯「そういうこと………………つかれちゃった」

律「あー、お疲れ唯。唯がいきなり話すから、多少びっくりしちゃったよ」

唯「…………りっちゃん」

律「なんだ、まだ何かわかるのか、探偵ゆい」

唯「……明日、音楽準備室に行こう」

律「……………え?」

198: 2010/08/30(月) 16:33:09.49 ID:iSdzGiGo0
―――
――


律「大分イイ感じになってきた! この分だと学祭まで遊んでもいいくらいだぜ!」

澪「唯、お前追試勉強であんま練習できなかったのに、腕が全然落ちてないな」

唯「へへー、実は家で勉強しないで練習してたんだ」

梓「って先輩! 試験の方は大丈夫なんですか?」

唯「わかんない、けど何か、ギー太弾きたくてたまらなくなって」

律「……恐るべし天才肌、ギター中毒」

紬「私もスウェーデンまでピアノ持って行って、弾いてたよ、唯ちゃん」

律「……もう何も言うまい」

澪「でも何はともあれ、あとはさわ子先生の衣装が完成すれば……完成…しなければいいのに…」

199: 2010/08/30(月) 16:34:57.58 ID:iSdzGiGo0
唯「へへー、衣装楽しみだねー」

律「てか、いよいよ明後日なのに、まだ完成してなくて大丈夫なのか?」

梓「あの人なら何とかするでしょう……だって、さわ子先生ですもの…」

唯「さわちゃんなら、きっと何とかしてくれるよ! だってさわちゃんだもん」

律「まぁさわちゃんだしな!」

澪「……………そうだな…」

律「ちょっと澪ちゃん! 暗くならんといて! さ、次いくぞ、ふわふわ時間やろうぜ!!」

唯・梓・紬「おー!!」

―――
――


201: 2010/08/30(月) 16:43:08.24 ID:iSdzGiGo0
律(あっちの世界も学祭が近いみたいだな……)

律(時間までリンクしてるのか? まぁ今まで注意払ってなかったからわからないけど)

律(私も学祭ライブやりたいな……)

律(てか、あっちの世界に移住したい……もうこんな訳わかんないのに構ってたくない…)

律(いや……でも、行かなくちゃな。あとちょっと、頑張りますか)


律「え、今日学校休み?」

澪「知らなかったのか律? ほら、隣のクラスの琴吹さん、殺されたって言うだろ。だから、今日は学校休みだ」

律「あたしは昨日学校休んだから……いや、でもメールの1通くれたっていいじゃない」

澪「ごめん、つい知ってると思ってさ」

律(昨日一緒に学校行ってないもん、私が学校休んでるの知ってるだろ、こいつ)

律「じゃ、帰るわ。まぁどっちにしてもラッキーだしな」

澪「なぁ律」

律「んだよ」

澪「この頃お前、やっぱりおかしいよ」

203: 2010/08/30(月) 16:51:09.72 ID:iSdzGiGo0
律「ん、何が?」

澪「夢の話した時辺りから、突飛なこと言いだしたり、何かいつもイラついてたり……怖い。
  目つきがさらに悪くなってるしさ。何か悩みあるなら、共有しようよ」

律「……どの口がそんなこと言ってんだ」

澪「!?」

律「………今まで全然親身でもなく、ただ一人で学校行きたくないから私をお伴にしてただけの癖に。
  全然私に構ってもくれないしさ。変わったのはお前の方だろ、中学の頃からさ。
  文芸部文芸部言ってさ。挙句の果てに、昨日はメールもくれないし。一体何考えてるんだ、お前?」

澪「…………ごめん」

律(……何か言い返せよ、やりづらいから…)

律「……帰るから」

澪「…………」
  

律「ゆいー! 来たぞ! お前学校行きたいんだろ!」

唯「…………りっちゃん…ちょっと待って」

204: 2010/08/30(月) 16:52:35.87 ID:iSdzGiGo0
ドアが音を立てて開く。
埃が舞う。形容の出来ない、思わず鼻をつまみ顔をしかめてしまう程の臭いが、鼻をつく。

そして、暗闇から、出てきたのは、紛れもなく、平沢唯だった。
白い肌はさらに白くなり、髪は腰のあたりまで伸びている。清潔感のかけらもない。
前髪が伸びているので、目を見ることはできない。けれど、その口元と輪郭から、私にはわかった。
ピンク色のパジャマの上下を着た、とても細身の少女。
彼女は、平沢唯だと。

唯「……お待たせ」

律「おぉ………久しぶり」

唯「………りっちゃんに会うの、初めてなんだけどね」

律「まぁ何と言うか……私もあんまし久しぶりって感じではないな」

唯「……いっつも夢で会ってるからね」

律「ですよねー!」

唯・律「はははは!!」

律「でも、流石にその格好じゃ、外に出ちゃいけないわ。
  ちょっと憂ちゃんにも頼んで、身づくろいしてから行こう」

206: 2010/08/30(月) 16:59:18.58 ID:iSdzGiGo0
憂ちゃんは、はしゃぎまわりながら唯の身だしなみを整えるのを手伝ってくれた。
一緒に風呂場に入って体洗ったり、自分の服の中からおしゃれな服をチョイスしてくれたり……
てか、学校行くんだから、服チョイスしてもらってもあんまし意味ないよ!

律「うっし、あとは学校行く途中に美容院に行けば、一丁上がりってところかな」

唯「……りっちゃん、実はまだあんま外に出る心の準備が、……そこまで出来てなかったりして」

そういえば、半年引きこもって口の聞いてなかったのに、ここ2週間でいきなり外に出るのは、
唯にとっても大変だろう。
それほどまでに唯を駆り立てるものって、一体何なんだろう?

美容室に行った後(夢の中の唯と全く同じ髪型になった)、私たちは学校へ向かった。
唯は、とてもゆっくりと歩いた。私はそれに歩調を合わせる。
一歩一歩踏みしめるように歩き、桜高に着いたのは、午後1時をちょっと過ぎたくらいの時間。

唯「……誰も居ないね」

律「…………そりゃ今日学校休みだからな」

唯「でも、パトカーが居るね」

律「……見つからないように入れってことか」

209: 2010/08/30(月) 17:08:36.97 ID:iSdzGiGo0

しかし、案外忍び込むのは簡単だった。
琴吹さんの遺体はグラウンドで見つかったらしく、校舎の中まで警察は入ってきて居なかったのだ。
それは詰めが甘いとしか言えない、と私たちは彼らに詰め寄りたくなる気分になるのだが……。

私たちは今、音楽室の中の、音楽準備室に居る。
一昨日と、何も変わっていない。
私の吐瀉物までそこにあった……

唯「なんかゲロ臭いね」

律「だって、そこにゲロあるもん、しゃーないじゃん」

唯「まー、そうなんだけど」

唯は肩で息をしている。音楽室に至るまでの階段を昇るのが苦しかったらしい。
人が沢山居たら来れたかさえもわからない、と言う。

唯「……人自体が、怖いんだ。憂とりっちゃんとかは大丈夫なんだけど」

律「そういや、お前の不登校に至る経緯とか……聞いてなかったな…」

唯「……………ごめん、きいてほしくないんだ」

律「わかってるって! で、何でここに来たかったんだ、唯?」

唯「それは……」

214: 2010/08/30(月) 17:13:49.96 ID:iSdzGiGo0
唯は私を真っすぐに見据える。

唯「あっちの世界に、行ってみたいんだ」

律「そんな予感はしてました」
 そうじゃないと、ここに来ようとは言わないだろうし。

律「……正直、私はそこまで気乗りしないんだけどな」

唯「ごめんねりっちゃん。私、りっちゃん居ないと、ここまでさえ来れないだろうから」

律「憂ちゃんに頼めばいいじゃん」

唯「憂に変な話して、これ以上困らせたくないんだよ」

律「……それもそっか。で、何であっちの世界に行きたいんだよ。
  正直、私はあんまし行きたくはないよ。だって、自分がもう一人居る世界なんて、奇妙で奇妙で、
  正気を保ってられるかわからない」

唯「……私、生まれ変わりたいんだ」

律「………ん?」

唯「そこの窓、見て」

216: 2010/08/30(月) 17:17:43.35 ID:iSdzGiGo0
また何かがあるのか、と指差された方の窓に目をやると……

律「いや、どこにでもある普通の窓だけど」

唯「いや、その窓の下の方」

律「…………ん?」

確かに、何か傷ついたみたいな跡が……何か引きずったみたいな、いや、側面に?
でも………その赤黒い跡は……駄目だ、わからない。

唯「あれ何か分かる?」

律「分からないけど」

唯「……この窓の下、何があるか分かる?」

律「何って、グラウンド…………あ」

唯「………そういうことだよ」

頭の中で整合性を持たなかった情報が、今整列した。

律「じゃ、紬の遺体は、この窓から……」

唯「誰が投げたかっていう明確な証拠はないけど……、けど、「推測する」ことは出来るよね
  あれが音楽室から氏体を投げる時に引っかかっちゃった跡だってことくらい」

218: 2010/08/30(月) 17:23:10.97 ID:iSdzGiGo0

律「もう、言わなくていい」

唯「………」

だいたいわかったから。
だいたい唯がしたいことが、わかったから。
恐らく、恐らくだけど、琴吹さん……紬がしたことは、唯としたいことと同じなのだろう。

律「………じゃ、行くか」

音楽準備室のドアに手をかける。
これからどんなことが起こるのか、私は知らない。
音を立てて開くドア。

唯「……うん」

二人で中に入る。

そして、雑多に置かれ、つみあがった物の奥に、私たちはその穴を見る。
しかし、その穴からは微かな光も見えなかった。いや、比喩的な意味ではなく。
どんなに暗いところでも、ちょっとでも光があれば、目がその光をとらえて穴の輪郭を浮かび上がらせるはず。

律「ま、取り敢えず行ってみましょっか」

222: 2010/08/30(月) 17:28:49.42 ID:iSdzGiGo0

穴に頭から入る。そして、奥行き30センチ程度のその穴を抜けようと試みるが……

律「痛っ!」

頭を思い切り何かにぶつける。
何これ、何か置いてある? それとも、

唯「どうしたの、りっちゃん」

律「いや……穴が、塞がれてるみたい」

律(ベニヤ板……か? それだけじゃなさそうだけど……とにかく、何かであっちから塞がれてるみたいだ)

唯「……………」

律「………どうしよ」

唯「…………………」

律「……わかったよ、何とかするよ」

唯の視線を後ろに感じながら、私は穴に手を入れる。
そして、満身の力を入れて、穴を塞ぐ「何か」を押す。押す。押す。
パンチしてみる。何度も何度も。

223: 2010/08/30(月) 17:33:45.40 ID:iSdzGiGo0

6回くらいの試みで、それは少し壊れた。微かな光が私の目を捉える。
ただの板だ。もっと塞ぐなら頑丈なものでしないとな。

律「おい唯、この部屋に鋸とか無かったっけか?」

唯「……ない、んじゃないかな。ごめん」

律「勿論持ってる訳もない、っと」

唯「…………ごめん」

律「わかったよ、蹴り壊しますよ」

ガツガツガツガツガツガツガツガツ

と、何度も何度も蹴っている内に、板が後ろに倒れた。どうやら両端から釘か何かで打ちつけられていたらしい。
塞いだ人、詰め甘っ!

いや……でも、ただでさえ暗い音楽準備室で、塞がれた小さな穴に気付く人って…
塞ぐことが狙いじゃなくて、気付かせないことが狙い?

律「ま、良いんだけどね。行こうぜ、唯」
唯「……静かにね。誰か居るかも知れないから」

227: 2010/08/30(月) 17:41:03.62 ID:iSdzGiGo0
そして、「あちら側の世界」の音楽準備室に到達。
もう後戻りは出来ない、のかな。今なら引き返せるけど。

律「……外から音はしないな」

唯「そうだね」

律「誰も居ないのかな」

唯「…………」

ドアを少しずつ、ゆっくりと、音がしないように開ける。
恐る恐る覗き込むと、そこは、音楽室だった。
私たちの世界と、間取りと奥行きは全く同じの音楽室。
しかし、そこに存在する物品は、全くの別物。

ホワイトボード。沢山の落書き。「学祭頑張ろう!」の文字。
二つ連結した生徒用机の周囲に配置された椅子6つ。
黒板の周囲には、ドラム。キーボード。
壁に立てかけられている、ベース。

人は誰も居ない。助かった……のかな。

律「誰も居ないみたい」

唯「……そっか…よかったよー」

229: 2010/08/30(月) 17:46:51.53 ID:iSdzGiGo0
唯がへなへなと体勢を崩す。

唯「…………疲れがどっと出てきちゃった。猛烈に眠いよ、りっちゃん」

律「ちょっと今寝られるとまずいっす、唯隊員」

唯「わかってるますですよー、りっちゃん隊員」

「おぉ、律に唯、先来てたのか」

唯・律「え!」

視線をドアの方向へ。
そこには、……澪が居た。
正真正銘の、秋山澪だ。
あー、もう目にしちまった。澪が居るのを目にしてしまった。
自分の姿を視線の隅で見るってのと訳が違う。言い逃れは出来ない。
これで、あっち側の世界が存在するってのは「確定」って訳だ。

澪「どうしたんだ、二人とも。何か怖いものでも見たみたいな顔してるけど」

唯「……い、いやぁ、みおちゃん、これはですね、その、

律「あぁ、唯の奴が私のケーキ食べやがるから、ちょっとお仕置きしてやろうと思ってたんだけどさ、
  でも唯の野郎抵抗し始めて、そんでちょっと取っ組み合いしてたんだー、はは、ははははは」
何度も夢に見た、このシチュエーションが、そのまま役に立つなんて。

234: 2010/08/30(月) 17:50:45.38 ID:iSdzGiGo0
澪「? ……ん、ま、良いけどさ」

疑問が残るようだが、そのまま澪は椅子に座った。

澪「あー、明日学祭ライブ本番なんて、信じられないよなー」

律「……あ、あぁ、そうだな」

唯「そ、そうだね。全然、しんじられない、よねー!」

何故か片言で話す唯。私も似たようなものだが。

澪「……二人とも、何だかおかしいぞ。どうしたんだ」

唯「いや、これはですね……ちょっと緊張してしまいまして、ほら、明日学祭のライブだし? ね、りっちゃん」

律「あぁ、そうだな。それに澪、今私は猛烈にトイレに行きたいんだ。いや、唯もトイレに行きたいんだよな。なぁ、唯?」

唯「う、うん、そうなんだよみおちゃん、今結構やばい状態なんだよ、ちょっと行ってくるね!」

と言うや否や、私と唯は、猛スピードで音楽室の外に出る。
そして、猛スピードで1階のトイレへと駆け込み、どちらが示し合わせることもなく、同じ個室に入った。

245: 2010/08/30(月) 17:58:37.00 ID:iSdzGiGo0
律「あー、びっくりしたびっくりした、氏ぬかと思ったー」

唯「…………氏ぬ、ってか氏ぬ寸前まで行ったよ、アレは……」

お互いに息絶え絶え。そして、お互いに笑う。

律「ははははは、澪の奴、何も理解できてないって顔だったぞ! まさに「ポカンとした」って表現がぴったり!」

唯「そうだねそうだね! あんなにポカンとしたみおちゃん、始めてかもしれない!」

律「けど唯、お前澪と知りあいじゃないだろう!」

唯「……いや、まぁ…その、りっちゃん……ん…まぁ、夢で会ってますし、ね?」

律「ん? ま、そうですか」

それにしても。今後どうすればいいんだろう。

律「なぁ、唯。私はお前がしたいこと、だいたい推測はできてるんだけど、
  具体的にどうするのか、とか、段取り、とかは一切聞いてないんだ」

唯「……そうだね。でも、その前に、ちょっとだけ休ませて」

律「……うん、わかった……って、ちょっと待って唯、ここで寝るのかよ!
 寝るんなら、あたしが出て行った後、自分で鍵閉めてからにしてくれよ!」

247: 2010/08/30(月) 18:05:44.50 ID:iSdzGiGo0

唯は微かに微笑みを浮かべた

私は唯に感じている違和感。
それは、今私の目の前に居る唯は、夢の中の唯とは性格が違う、ということ。
外見はほぼ全く同じ(目の前の唯は、結構痩せて色が白いけど)、声も同じ、
服装も(夢の中の制服を着ている唯と)同じ。

だが、性格は大分異なる。
夢の中の唯は、何というか、もっとぽえっとした感じ。
頭もそこまで切れないし、もっと単純だし、もっと子供だ。
だけど、温かみがあった。人を惹きつける温かみが。

一方、こちらの唯は。
頭の回転が速い。私が提示した情報で、すぐに結論を導き出す。
喋り方も、幾分知的だ。
だが……、冷たい。目に宿る温かさも、消え失せてしまっている。
私は、夢の中の唯と目の前にいる唯を、別人と捉えてることが出来る。

そんなことを言えば、澪だって少し違う気もするが、基本は同じだ
(中野さんは会って日数が浅いので、わからない)。

なのに、何故唯はここまで違うのだろう。

250: 2010/08/30(月) 18:13:37.28 ID:iSdzGiGo0
なんてことを考えながら、廊下を歩いてみたりする。

生徒でごった返している。みんな楽しそうに笑って、大道具を作ったり、
劇の練習をしたり(わざわざ衣装まで着て!)、衣装を作ったり、
屋台の宣伝ポスターを作ったり。1年前に経験した学祭も、こんなんだったっけか。
勿論、あまり関わっていなかったので、良い思い出はないけれど。

またブルーな気持ちになる。
でも、ひとまず、だ。
知人に会ってはいけない。特に軽音部の面子とは。あと、「自分」と会っては駄目だ。
それこそ大問題。私はここには居られない(まぁあちらの世界に帰ればいいんだけど)。
けど、唯の願いを叶えてやるまでは、こっちに留まらないといけないからな。
あんま人目につかないところに行きたいところではあるな。

?「あ、りっちゃんじゃん」
律「ん?」

全然知らない女子。ジャージの色からして、私たちと同じ学年か。

?「軽音部の練習行ったんじゃないの?」
律「あー、そ、そうだったんだけど、ちょっと用事が出来ちゃって」
?「そうなんだ。その用事って何?」

笑顔で問い詰められる、私。笑顔で問い詰める、相手。
何なんだ、この構図は。

252: 2010/08/30(月) 18:21:56.33 ID:iSdzGiGo0
律「な、何って言われても」
?「大事な用事じゃなかったら、クラスのお化け屋敷手伝ってよ」
律「………んー」

これは、大丈夫なのかな?
もし軽音部のメンバーとか居たら……面倒なことになるな。
そこに唯とか紬とか居たら……特に紬は面倒なことになる。
あと、私とか居たら、大惨事。

?「あ、その顔は大丈夫ってことだね。じゃ、はい来る来る」
律「あ、ちょっと」

引っ張られるがままに、クラスへ。
クラスの中に引っ張られていく私。
中には、ジャージ姿で作業しているクラスメイト多数。
きょろきょろ見渡すが、幸いなことに軽音部の皆さまは居ない……らしい。

様々な角度から、クラスメイトが私に声をかける。
?「え、りっちゃん何で制服なの?」
?「またりっちゃんサボろうとしてたでしょ」
律「え、制服なのはちょいジャージが洗濯中だからで、サボるってのは、
  いや、軽音部の練習の時間がずれたの、サボりではない!」
?「まーたそんなこと言って」
律「あー、まー、本当かどうかはわからないんだけどね」
と、小さなこえで付け加えておく。

257: 2010/08/30(月) 18:29:18.07 ID:iSdzGiGo0
?「唯ちゃんと紬ちゃんは?」
律「し、知らねーけどな。買い出しとかじゃね?」
買い出し、とそれっぽい言葉をつけておけば、ごまかせるかも、という安直な考え。

?「じゃ、早速だけど、手伝ってね。そのすずらんテープ、そっちにつけて」
律「は……ははぁ…」
と、何となく断れない流れを形成されてしまう。私、こういうの断るの苦手なんだっけ。

漫然と作業をしていく。クラスメイトとの会話を楽しみながら。
……会話を楽しみながら? 何て私らしくない言葉!
高校入ってから、クラスメイトと会話を楽しむなんてことがあったっけ?
最も、周囲から言葉なんてかかってこないから、別にこちらから会話を投げ返さなくて良いし、楽なんだけどさ。
それでも、少しだけ、楽しくなった。学祭の準備。
このクラスには、私が顔を知ってる奴らもちらほら居た(勿論話したことある奴は稀だけど)。
けれど、その話したことない奴らでさえも、私に話しかけてくれる。

律(これは……)

これは、こっちの世界の私が、クラスに溶け込めるってことなんだろうな。
お調子者で面白いりっちゃん、って感じ。
中学までは私もそんなんだったから、懐かしい気分。

そして、ちょとtこっちの世界の私に嫉妬。

と。
ふと時計を見ると、17時ちょっと過ぎ。

258: 2010/08/30(月) 18:33:31.51 ID:iSdzGiGo0
作業始めてから1時間は経ってるじゃん。我に返る。
駄目だ! 温かさと懐かしさに埋没していた。
ここに居ることで、どんどん知りあいに会う確率が上がってくじゃん!

律「ごめん、今度はまじで軽音部の練習あるんだ! 明日ライブだから、勘弁しておくれ!」
とか言い捨てて、私は教室を出る。
皆、何やかんや言いながらも、「頑張れー」「ライブ楽しみにしてるよー」とか優しい言葉をかけてくれた。
優しい言葉を。

あー、本当にもう、わけわかんない気持ちにさせられる

早足で1階女子トイレに向かう。唯を起こす為だ。
無駄な動きなく唯が眠っているはずの個室へと、向かう。
向かうのは、良いが。

ノックする。
返事がない。
律「ゆーいー」
返事がない。

激しくノックしていると、気付く。
このドア、鍵がかかっていない。ということは。
急いでドアを開ける。
そこには、誰も、居ない。
誰もいないということは、唯が居ない。

そこは、確かに唯と私が別れた個室だった。
唯が、疲れたから眠る、と言って別れた個室だ。

259: 2010/08/30(月) 18:39:01.73 ID:iSdzGiGo0
……どうしよ。
あー、こんな可能性もあるってどうして事前に予測できなかったんだろう!
ずっと唯と一緒に居ればよかった!
もしくはこれが唯の狙い? 私の役目は別の世界まで連れてくるところまでですかい?

律「………わかんないけど」
取り敢えず、今は安全なところに身を隠そう。
学校を出よう。明日が学祭ライブなら、軽音部メンバーは遅くまで練習に励む……はず。
だから、ここは元の世界に戻った方が安全だ。

……しかし。
冷静に元の世界とかこっちの世界とか考えている自分にも多少戦慄を禁じ得ないが、そんなことより。
世界の間の出入り口が、音楽準備室にあるんなら、軽音部が練習している限り、元の世界へは帰れないじゃん。

……ため息を一つ。
兎に角、学校から出よう。どっか喫茶店でも入ろう。そこで色々考えよう。
話は、それからだ。

260: 2010/08/30(月) 18:45:33.84 ID:iSdzGiGo0
学校の近くのファーストフード店(この世界は地理は全く元の世界と同じ。学校の構造も然り。
違うのは人間が置かれている境遇だけか?)で、時間を潰す。

取り留めもなく考える。
唯の目的は、恐らくこの世界の自分の殺害。
そして、この世界の自分にすり替わって、何事もなかったかのように、この世界で生きる。
「生まれ変わりたい」ってことはそういうことだろう?
加えて、紬はもうそれをやってる、はず。
あの窓の血痕は、わざわざ紬がこっちに氏体を持ってきて、捨てたことの証拠。
そして、現にこっちで紬の遺体が発見されている。
……完全犯罪だよなー。自分が自分の殺人者なんて。
尚且つ自殺じゃないって、新しすぎるよ、犯罪の形体が。

そして、私の目的って何だ?
それは、最初からわからなかった。
私に、明確な目的がない。
唯をここに連れてくるってのは達成したけど、それからのことを全く考えていなかった。
……いつもの悪い癖だ。
私も唯や紬みたいに、自分を頃して、ここで生活するか?
それもありっちゃありかも知れない。
元の世界の自分なんて、氏んでるようなものだし。

それもいいな。
それもいいかも知れない。

264: 2010/08/30(月) 18:51:44.00 ID:iSdzGiGo0
と、考え込んでる内に寝てしまったみたいだ。
店内の時計を見る。22時ちょっと過ぎ。
やばい、寝すぎた。どうしませう。

学校へ戻ろう。そして、元の世界に帰ろう。安全なところで考えるのが先だ。
帰ってくる必要が出れば、また帰ってくれば良い。……また塞がれてたらどうしおう。
ここは危険すぎる。

唯や紬が、私を頃す危険もない訳じゃない。

背筋が凍える。殺される。文字にすると仰々しいが、それはあくまで「リアルな」言葉。
現に、一人氏んでいる。

小走りで学校へと向かう。日は当たり前ながら完全に沈んでおり、街灯の明かりが点々と歩道を照らしている。

「じゃ、また明日ねー」
「……おぅ! 風邪引くなよ、唯!」
「ひかないよ!」
「風邪ひいて憂ちゃんを替え玉にするとか、しないよな」
「あ、それもありかも」
「ありかも、じゃないですよ!」
「じゃーね、みんなー!」

と。
何てタイミングの悪い。
軽音部御一行様のお帰りだ。

268: 2010/08/30(月) 18:57:32.84 ID:iSdzGiGo0
横断歩道を挟んで、私の方の歩道に、唯と中野さん。
向こう側の歩道に、澪と……田井中律、つまり私。
紬は居ないみたいだ。

梓「いよいよ明日なんですね、ライブ」

唯「あずにゃーん、緊張してるの? 私が緊張ほぐしてあげる!」

梓「うわ、抱きつかないで下さい!」

唯「えー、だってあずにゃん抱きつき心地がいいんだもーん」

梓「ん……そんなこと言ってる唯先輩が一番緊張してるんじゃないですか?」

唯「……ばれちった、てへ☆」

梓「そうだったんですか……」

やばい、何も考えられない。逃げられない。
どんどんこっちに向かってくる二人。もうこれは、覚悟するしか。

唯「あ、りっちゃん」

梓「あれ、律先輩、どうしてこっちに? 澪先輩はどうしたんですか?」

270: 2010/08/30(月) 19:01:40.04 ID:iSdzGiGo0
唯「あ、りっちゃん」

梓「律先輩、どうしてここに? 澪先輩はどうしたんですか?」

律「あ、な、なんといいますか、これは、その」

唯・梓「?」

律「澪は疲れたから眠りたいって言ってたんだけどさ、
  わ、私は何か緊張しちゃって、もうちょっと、みんなと話したいな、
  っていうか、……ん、」

唯「あー、りっちゃんも緊張するんだねー、いがいー」

梓「……いえ、律先輩が澪先輩の次くらいに、隠れて緊張している
  タイプかと踏んでいましたが、まさか本当にそうだとは」

律「う、うっさいな! 誰だって緊張くらいするわ!」

唯「そうだよねー、ライブの前って、いっつもご飯食べられなくなるくらい
  緊張しちゃうよねー」

梓「……立話も何ですし、公園でも行きましょうか?」

律「そ、そうだな。それがいいな、ははは、ははははは」
(これは……ごまかせた、のか?)

276: 2010/08/30(月) 19:08:47.46 ID:iSdzGiGo0
近くの公園へ。
勿論、私たち以外は誰も居ない。
唯と中野さんと私。一つのベンチに座る。
少しだけ肌寒い。

唯「この3人って、何か珍しい組み合わせかもー」

梓「言われてみれば、そうかもですね」

律「…………」

唯の顔を見る。そして、確信する。
これは、元の世界の唯じゃない。「ここの」世界の唯だ。
喋り方も違うし、言葉の節々に怯えが感じられない。
私が毎日夢に見ていた唯だ。

唯「りっちゃん、ねぇりっちゃん」

律「ん? なんだ、なんだ唯?」

梓「……律先輩、相当緊張してるみたいですね、ふふふ」

律「ふふふって何だよ? し、仕方ないだろ!」
あなたがた思ってることとは違う意味で緊張してるんですけれどもね。

律「……そりゃ、緊張もするさ。こんな状況だとさ」

梓「………まぁ、そうですよね」

278: 2010/08/30(月) 19:11:52.96 ID:iSdzGiGo0
梓「覚えてますか、先輩。今年の4月のこと」

律「4月?」

唯「勿論覚えてるよー、あずにゃん。あずにゃんが軽音部に入ってきてくれたんだよね!」

梓「まぁそれもありますが」

唯「そんで、わたしたちがふまじめだったから、あずにゃん怒っちゃったんだよね…
  あの時はごめんね、あずにゃーん」

梓「そんなこともありましたね……けど、私が言いたいのはそれじゃないです」

律「………」

梓「新歓ライブのことですよ」

唯「新歓ライブ……」

梓「前も言いましたけど、先輩方の演奏が、すっごくかっこよくて。
  あ、上手! っていうのじゃなくて、かっこいい! って感じでした」

律「それを区別する必要ってあるのかよ」
思わず突っ込んでしまう。

281: 2010/08/30(月) 19:18:20.41 ID:iSdzGiGo0
梓「すみません。けど、私が言いたいのは、上手くなくたって良いってことです。
  上手くなくなって、カッコいい演奏が出来れば、それで良いんです。
  変に気負う必要はない、魂込めた演奏が出来れば、それで十二分です」

中野さんは……梓は、私に向かって微笑みかけた。
目を細めて。首を少し傾げて。
その笑顔を街灯が照らし出す。
無音。自分の心臓の鼓動しか、聞こえない。

律「……梓」

梓「す、すみません、偉そうに語ってしまって……
  けど、律先輩と唯先輩に、ライブの前に伝えておきたくて…」

唯「あずにゃーん……ありがとうぅ……」

梓「うわ、ゆ、唯先輩、何故にここで泣くんですか?」

唯「だって、何か感動しちゃってー! 私は絶対カッコイイ演奏するよ! 歌詞も絶対間違えない!」

梓「そこからですか!」

唯「基本は大事だよー、ってあずにゃんが言ってたんじゃんー」

梓「それはあまりにも基本すぎます!」

287: 2010/08/30(月) 19:24:02.41 ID:iSdzGiGo0
2人は、楽しそうに笑う。
屈託なく、笑いあう。私も、つられて微笑んでしまう。

そして、何故か泣きそうになっている。意味もわからず。
ただ、ただ、この人たちは、特別なことは言っていないはずなのに。
ただ夢の中で話すように、楽しそうに話しているだけなのに、何で。

律「……なぁ、梓」

梓「はい、なんですか……って、律先輩まで泣いてるよ…」

律「な、泣いてなんかいないやい、これは汗だい!」

梓「はいはい。で、何ですか?」

律「あのさ、」

律「もしも、だよ」

梓・唯「………」

律「もしあたしがさ、突然消えたら、どうする?」

293: 2010/08/30(月) 19:29:33.32 ID:iSdzGiGo0
梓「絶対そんなことはさせません」

唯「りっちゃんは消えないよ」

即座に、二人とも、同時に答えた。

梓「もし消えても、探します。探して探して探しまくります」

唯「だって、りっちゃんが消えたら、すっごい泣いちゃうもん、わたし。
  だから、りっちゃんは消えたりしないの」

律「………ははは、二人とも、全然支離滅裂じゃん!」

梓「そ、そんなことないですよ!」

律「だって梓、私が消えるんだから、探しても見つからないの!」

梓「でも探すんです! 見つかるまで探すんです!」

唯「あずにゃん、わたしも探す! あずにゃんと一緒に探す!!」

律「じゃ、私が氏んだら……」

静か。とても、静か。

律「私が氏んだら、どうするよ?」

297: 2010/08/30(月) 19:37:39.84 ID:iSdzGiGo0

梓「……………」
 黙り込む梓。
 目に涙を浮かべて、口を一の字に結ぶ。

梓「な、なんでそんなこと聞くんですか、なんで……」

唯「だから、りっちゃんは、氏んだりなんかしないよ、私は信じてる!」

唯の声は、明るい。ように聞こえる。しかし、それは確実に震えている。

唯「だって、りっちゃんは、みんなの頼れる部長だもん。
  だから、みんなを悲しませたりなんかしないんだよ。
  りっちゃんは意地っ張りだから、氏にそうになったとしても、
  どうでもないよう顔で学校に出てくるの。そして、またお菓子食べたり、
  ドラムたたいたり、みんなで笑ったりするの
  ね、りっちゃん、そうだよね?」

律「…………」

梓「もし律先輩が氏んだら……許しません」

律「……」

梓「律先輩が氏んだら、私が先輩を許しませんからね。
  絶対氏なないで下さいね、消えるとか言わないで下さいよ、
  …………うわあああああああああああん!!」

298: 2010/08/30(月) 19:43:12.51 ID:iSdzGiGo0


唯「でも、なんかりっちゃんが氏ぬとか、考えたこともなかったね。
  考えるだけで、なんか、なんか、なんか、かなしくなるよ」

唯「りっちゃん、きえたらやだよ」

唯「絶対だよ、ぜったい消えちゃいやだよ?」

律「……わかった。わかったから、二人して抱きつかないでくれるか?」

ベンチに3つの影。
中央の影は私の影。
両脇に、唯と梓。
わんわん泣いてる、唯と梓。
誰か居たら……恥ずかしいけど、ま、いっか。

何で、この人たちは、人のことを思って、泣けるんだろう。

律「……ごめんな、唯、梓。変なこと言って」

律「………あたしは消えないから。安心しろ。
  ただ、ちょっと怖くなっちゃってさ。色んなことが」

律「……だけど、もう大丈夫。あたし、決めたから」


律「ありがと」

306: 2010/08/30(月) 19:51:10.04 ID:iSdzGiGo0
―――
――


澪「……なー律」

律「ん、何?」

澪「明日のライブ、楽しみだな」

律「あー、確かになー!
  私たちの調子も絶好調だしな!」

澪「……なぁ、律?」

律「ん?」

澪「いつも、ありがとな」

律「な、な、なにオッシャッテルノミオチャン?」

澪「……いっつも言う機会がないからさ」

律「……ハイ」

澪「ありがとう。お前と居ることができて、幸せだ」

律「へ、へーん、ありがとうって言われたからって
  こっちからありがとうって返すと思ったら、大間違いなんだからな!
  淡い期待してんじゃんーぞ、このばかみお!」

308: 2010/08/30(月) 19:52:19.45 ID:iSdzGiGo0
澪「……ふふ、わかってるよ、りつのばーか」

律「………ははは」

澪「ははははははは」

律「よっしゃ、あの夕日に向かってダッシュだ!」

澪「もう真っ暗だよ! 夕日のゆの字も見えないよ!」

律「馬鹿野郎! 根性だ、少年!元気があれば、何でもできる! 澪、ありがとう」

澪「…………ふふふ」

律「じゃ、みおの家まで、最初に着いた方が勝ちね」

澪「え、私の家、律の家より近いんだけど」

律「関係ねぇやい! じゃ、位置について、よどん!!」

澪「よどんって何だよ、あーもう、律のばーか! ばーか! ははは!!」


――
―――

312: 2010/08/30(月) 19:56:59.75 ID:iSdzGiGo0
結局、梓と唯と別れた後、私は公園のベンチで眠った。
夢では澪と私が青春してた……ん、羨ましいというか、背中痒いというか。
兎に角、今日が学祭ライブの日。

公園の時計を見る。午前10時。こんな大事な日に何時まで寝てるんだ、私。
いますぐ学校へ行かなければ。

学校へ行く。唯が唯を頃すのを止める。
あいつらのライブを成功させる。
それが、私の務めだ。

私はベンチから起き上がり、地面に立つ。
もう2人の温かみは残っていない。しかし、気付かされたことは、未だに心に残っている。
温かい。とても、温かい。
私が、ずっと欲しかったもの、なのかも知れない。

320: 2010/08/30(月) 20:05:39.91 ID:iSdzGiGo0

学校は生徒と一般客でごった返していた。
当然か。桜高の学祭は、地元客からの評判も高い。

律(それにしても、こんなに人が居たら、また軽音部の連中に会いそうで怖いな……)

いや、単体だとごまかせるんだけど、こっちの世界の自分と一緒に居たら、一発アウト。

律(まぁ、昨日の別れ際、梓と唯には「このことは恥ずかしいから他のみんなには言わないで」と
  言っといて良かったな……あの時は、ただ単に恥ずかしいからって理由で言い放ったけど)

そして、今一番会いたい人物が、「元の世界の唯」。
何とかして説得しないと。
あいつの狙いが「生まれ変わる」ことならば、その狙いを叶える為に、こっちの世界の唯を頃すことは、ほぼ確定的。
それを通じて、この世界で、充実した生活を送る。元の引きこもった、鬱屈とし、人にも会えない自分を脱ぎ捨てて。

しかし、それにしても、元の世界の唯は、人間恐怖症だったはずなんだが……大丈夫なのかな、違う意味でも。

ひとまず、学内の目立たないベンチに腰をおろして、待つことにする。
……腹減った。焼きそばでもかってこよっかな。

憂「あ、律さん。お久しぶりです」
そして、これだよ。焼きそばの列の前に、憂ちゃんが居るよ。

323: 2010/08/30(月) 20:12:39.76 ID:iSdzGiGo0
律「お、おぉ、憂ちゃん、久しぶり」

憂「お昼ご飯ですか!」

律「そ、そうなのよ! ライブもうすぐ始まっちゃうから、オリンピックで食べないと、間に合わなくて」

憂「あれ、変だな……お姉ちゃん、ライブは16時からって言ってたけど」

ミスった。綺麗にミスった。まぁ、知らないから間違えて当然なんですけどねー。

律「あたしにとって、16時ってのはすぐの範疇なんだよ。長いように感じるとか言う人も居るけど、
  本当に一瞬なんだ。だから、景気づけに昼食食べとこっかなー、っと思ったり」

憂「そうなんですか! 実は私も昼食買いに来たんです!」

律(深く追求してこない! 出来た子や、このこ出来た子や!!)

憂「では、一緒に食べませんか?」

律「ハイ?」

憂「つ、都合悪いですか……律さんのファンっていう子が居て…
  律先輩とご飯食べれたらなー、って言ってたんですけど…」

律(断る口実断る口実……くそ、思いつかねっ)

327: 2010/08/30(月) 20:19:20.51 ID:iSdzGiGo0
?「どうぞ、これは私からのおごりです! 食べて下さい!」

律「はぁ、どうも……」 
(3パックですか……ありがた迷惑……)

憂「すみません、この子感情が行動に表れてしまうところがあって」

?「あ、私ジャズ研1年の鈴木純で言います! 律先輩のファンなんです!」

律「は、初めまして。あたしは田井中律って言います」

純「も、もし宜しければメルアドとかくれませんかね?」

律「メルアド、ですか?」
律(いきなり何だよ……あった、けど……)

律「圏外……」

純「どうかしました?」

憂「純ちゃん、いきなりメルアド聞くのは失礼だよー」

純「は、すみません! ちょっと調子に乗っちゃったみたいで!」

律「いや、全然いいんだけどさ」
 (そっか、元の世界の携帯は、ここでは使えない、という訳ですね)

律(………え、でももしかして)

律(…………可能性としては、有り得る。五分五分ってとこかな)

328: 2010/08/30(月) 20:24:20.45 ID:iSdzGiGo0
律「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

純・憂「は、はい……」

律(……っと、逃げ切ったところで。あのなんちゃらって子はともかく、憂ちゃんと居るのは危険だからな)

律(…………あった。こっちに来る前に聞いておいた、「元の世界の唯」のケー番!)

律(これで、あいつに連絡出来る! 大分楽になったかもしれない)

ブー ブー ブー ブー 

律(携帯のバイブ?)


新着メール1件

差出人:平沢 唯

内容:









邪魔しないでね。

335: 2010/08/30(月) 20:33:54.36 ID:iSdzGiGo0
律(………何これ)

律(……やっぱ素直に元の世界帰ろっかな、私)

律(いやいやいやいやいや、駄目だろそこは)

律(ここが正念場、頑張れ田井中りっちゃん!!)

律(そうだよ、このメールが「元の世界の携帯であれば圏外でも通じる」って証拠になってる!)

律(……さて)

律(……電話するか。正直気が進まないけど)


律「…………………」

律「……もしもし」

唯「……………」

律「もしもし、唯か?」

唯「……………………なに?」

律「……いや、んーっと、その、話したいことがあるからさ、今どこに居るか教えてくれないかなー、
  なんて思ったり思わなかったり」

336: 2010/08/30(月) 20:35:11.66 ID:iSdzGiGo0

唯「話したいことなら、今この電話ですればいいんじゃないかな」

律「……いや確かに。確かにそうなんだけど、ちょっと会って話したいんだよ唯。
  な、10分かそこらで良いからさ?」

唯「………邪魔しないでよ、りっちゃん。お願いだから、邪魔しないで。
  わたし、りっちゃんにひどいことしたくないんだ。
  りっちゃんには感謝してるから。
  わたしにきっかけをくれて、ここまで引っ張り出してくれたりっちゃんには、感謝してる。
  だから、だから、りっちゃん、お願い」

唯「邪魔しないで」

律「…………」

律「…………いつ唯を頃す」

唯「………………ライブの直前」

律「え、ちょ、ちょっと待て唯!」

ツーツーツーツーツー

律(……切れた………)

律(探すしかないってことか)

341: 2010/08/30(月) 20:40:19.44 ID:iSdzGiGo0
その後、私はひたすらに桜高の中を捜しまわった。
たまに私に声をかけてくるものもあったが、生返事だけ返して、あとは駆けずり回って探した。
しかし、どこにも唯は見当たらない。

律(でも、待てよ……)

律(もし本当に唯が唯を頃したいなら、私に本当の唯を頃す時間なんて教えないんじゃないか?)

律(……そうだ! それこそライブ前に唯を頃して、入れ替わったとしても、元の世界の唯は上手にギターが弾けるのか?
いや、弾けるはずがない。それは混乱を引き起こす。それは後々氏体を前の世界に運ばなきゃいけない唯にとっても不都合なこと!)

律(つまり、唯は「ライブの後に唯を頃す」っと考えてもいいのかな……全然確証ないけど…)

律(でも、唯を探さなきゃいけないってことに変わりはないか)

351: 2010/08/30(月) 20:47:33.04 ID:iSdzGiGo0
律(で、結局15時30分……まだ見つからない)

律(やばいな、本当にやばい。どうしようどうしよう)

律(落ち着けりっちゃん、数々の修羅場を乗り越えてきた私なら、このくらいのこと出来る!)

律(……でもその修羅場も運で乗り越えてきたんだけどね、てへ☆)

律(………自信無くなってきたな)

律(…………あ、)

廊下の奥に、軽音部の面子が見えた。
何故こんな人ごみの中で見えるのか。
それは、「派手」という形容詞がこの上なく似合う衣装が身につけて居るからに他ならない。

律(うわー……、これ作ってんの山中先生だっけか?)

律(他に時間使うことないのかよ……ん?)

メンバーは、澪、梓、律(もう律と呼ぶことにする)。

2人足りない。

2人………唯と紬。

364: 2010/08/30(月) 20:55:30.02 ID:iSdzGiGo0
駄目だ。これは、最悪なパターンだ。

何とかしてどちらかの唯を見つけ出さないと……紬が居ないってのも、危ない臭いがする。

どうする。どうする律。どうすれば良い………。

………危ないけど、ここまで来たら仕方がないか。

私は、前髪を下ろす。前髪が目にかかって、前が見えづらい。
だけど、これなら、何とかなるかも知れない。

澪や梓(と律)の居るところまで走る。

私(律)「す、すみません」

澪「ん、どうしたんですか?」

私「唯先輩どこに居るか知りませんか?」

律(この世界の)「唯か? 唯なら、トイレだと思うけど……」

私「ど、どこのトイレですか?」

律「どこの、って言われても……体育館に近いから、1階とかだと思うけど、
  それにしても、どしたんだ」

私「いえ、ちょ、ちょっと憂に、唯先輩に届け物頼まれてて……それでは!」

365: 2010/08/30(月) 21:01:06.11 ID:iSdzGiGo0
ダッシュで遠ざかる。
まぁ狐につままれたような顔してるけど、それは仕方ないってことで。
前髪下ろし+裏声だけで一時的になんとかなるとは、人間は人のどこをもって人間と認識してるんだ?

いや、それは良い。早く1階のトイレへ!

そして。辿りついた。1階のトイレ。
個室は全て空いている、ただし一つを除いて。

律(これで人違いだったら赤っ恥だけど……今はそんなこと考えてる場合じゃないっ)

律「唯ー、早くしろ、ライブ始まるぞー」

ノックしながら唯(恐らくこっちの世界の)に呼びかけるが、反応がない。

気配さえもない。耳を澄ませても、息さえも聞こえない。
しかし、鍵はかかっている。

……嫌な予感。
本当に嫌な予感。

緊急だ。上から昇って入るしかない。

無理矢理個室によじ登って、鍵がかかった個室へ入る。

律「…………………」

律「………嘘だろ」

369: 2010/08/30(月) 21:07:18.28 ID:iSdzGiGo0
律「………嘘だろ」

律「………………なぁ、おい、ちょっと、唯!!」

唯が、目を閉じて、個室に倒れこんでいる。
その唯は、元の世界の唯ではない。こちらの世界の唯だ。
ちょっとふっくらとした頬、目の下には隈もなく、見てて和むほうの唯だ。
目は固く閉じられて、壁にもたれている。

律(あれ?)

律(ちょっと待った)

律(息は……してるよ)

律(つまり、寝てるってことか?)

律(……………一瞬取り乱して損した)

律(けど、何故ここで寝てる………)

律(何だか昨日とデジャブだが………個室で、寝てる理由……)

律(……ライブが終わった後にゆっくり頃す為、とか………)

律(ははは………そんな陳腐な理由)

有り得るよな。
有り得る。おおいにあり得るよ。
まぁ元の世界の唯がギター弾けて歌えるかってのは疑問だが、それは不可能ではない。

372: 2010/08/30(月) 21:14:16.56 ID:iSdzGiGo0
律(てか、今更ながら、この唯制服なんだな……あの派手な衣装じゃなくて…)

律(衣装着替えに行ってくる、って言って。そこで襲われた、とか…?)

律(今こいつを起こすのが得策か否か………)

律(下手に起こして、この唯を外に出したら、パニックが起こるかもしれない…)

律(だがしかし……えーい、やってやるわい、見てろや唯と唯! りっちゃん本気だしちゃうぜ!)


唯「みんなー、お待たせ」

澪「おい、遅いぞ唯」

律「もー、いっつも唯はぎりぎりさんだなー、このーこのー」

唯「へへへー、みんな、ごめんなさい」

梓「結果オーライですよ、唯先輩」

唯「あずにゃーん……あずにゃんはわたしの味方だ!」

律「はいはーい、お決まりのパターンは後でねー」

377: 2010/08/30(月) 21:22:08.07 ID:iSdzGiGo0
紬「………………」

澪「紬、今日は無口だな」

紬「わ、わたし、ちょ、ちょっと緊張しちゃって」

律「へー、紬、大丈夫だって、観客の顔全員唯だと思えば万事解決だって!」

紬「………そ、そうね。ありがとう」

澪「? 流石の紬でも緊張するんだ」

律「あたしはそんなもん、したこともないけどな☆」

梓(どの口が言ってるんですか、そんなこと)

和「軽音部のみなさん、楽器の準備お願いします」

澪・律・紬・梓・唯「はーい!!」


私(律)「あー、何とか間に合った……」

唯「え、だから何がどうなってるの、誰かさん」

私「いいからシャベラナイデー。あとで全て説明するからサー」

379: 2010/08/30(月) 21:26:18.45 ID:iSdzGiGo0
唯「えー、なんかおかしいよー」

私「ほら、これ持って、みんなに合流しておいで」

唯「これ……なんで持ってるの?」

私「頼む、頼むから気にしないでくれ! この通りだから! あと私の顔凝視しないでくれ頼む!
  それじゃ、私時間だから行くワ! さらばだ少女!!」

唯「わ、ちょっと待って!」

一気に女子トイレから駆け出す。そして、向かう先は決まってる。

軽音部室だ。

もうこれは賭けだ。勝てる確率のものすごく低い賭け。
でも、零じゃない。
たぶん30パーセントくらい……もうちょっと高いかな…そう信じたいところだけど…

私の読みが当たっていれば、元の世界の唯は、ここに戻ってくるはず。

何故って、………そりゃ、ね。

あれがないと、演奏できないもんね。

381: 2010/08/30(月) 21:33:06.82 ID:iSdzGiGo0
唯「あれ?」

梓「どうしたんですか、唯先輩?」

唯「ギー太が、見当たらないんだけど」

澪「本当かよ……唯らしいっちゃ唯らしいけど」

律「和、まだ時間ある?」

和「5分あるわよ」

律「5分あれば間に合う! 唯、走ってとってこい!」

唯「……え、えー、とってくるってどこに」

律「どこって、部室しかないだろ! お前今日朝は確実に持ってきてたから、絶対そこにある!」

唯「でも……」

律「急げっ!」



律(私)「……お、演奏聞こえてきたきた」

389: 2010/08/30(月) 21:39:07.87 ID:iSdzGiGo0

唯「……………」

律「最初っから君への恋はホッチキスかぁ。選曲誰だよ、紬かな、案外澪かもなー」

唯「………」

律「なぁ、お前はどう思うよ、唯」

唯「………なんで…」

律「ん?」

唯「……なんで……一体どうやって…」

律「あぁ、隙間時間あなどるなかれってこと。
  お前が軽音部に合流して、ステージにギター運んでくだろ?
  んで、一回楽器おろしてみんな喋り出すんだよな。鏡見て衣装直したり、髪直したり、
  緊張ほぐすために喋ったりしてる。
  その時に、こっそり私がそこに忍び込んで、唯のギターを取って、女子トイレに帰る。
  そして、こっちの世界の唯に渡す」

唯「………………」

律「最初は無理かと思ったし、今でも無理だと思ってるけど、
  何というか、宝くじにも当たりくじは必ずあると言いますか、まぁできちゃった訳ですよ」

唯「……………っ」

律「まぁ、一番驚いてるのは、お前じゃなくてあたしなんだけどな」

397: 2010/08/30(月) 21:51:22.47 ID:iSdzGiGo0
唯「………ねぇ、じゃましないでって言ったよね?」

律「言われたっけか? りっちゃん忘れちゃったかも☆」

唯「…………いいよ。まだ時間はあるからさ。ライブ終わった後でも、まだタップリ時間はあるから。その時に、」

律「ちょっと待てって唯。話聞いてくれ、あたしの話」

唯「…………どうせ、下らないお説教でもするんでしょ? そういうの、イイから」

律「……まぁ、そんな感じだけど、けど、本当に伝えたいことが」

唯「本当に伝えたいことって、何? 陳腐な言葉でその場だけの涙を流させる気でしょう?
  馬鹿、ばっかじゃないの? 私にとっては、自分の生活のほうがずっとずっと大事なの!
  あなたは自分のことじゃないから、正義のヒーローきどって駆けずり回ってるんでしょうけど、
  私は、わたしは、」

唯「わたしは、自分で幸せな生活を手に入れることにしたの! だから、わたしは、もうにげるのを止めたの!
  だから、りっちゃんからこの世界の話を聞いた時、絶対にこっちの世界にきて、軽音部に入って、
  笑顔で過ごせる生活を送るって決めたの!! だから、じゃましないでよ! ねぇ!!」

律「…………」

406: 2010/08/30(月) 21:56:35.93 ID:iSdzGiGo0
律「………こっちの世界の唯の気持ちは、どうすんだよ」

唯「……………」

律「…こっちの世界の唯だって、生きてるんだぜ?」

唯「うるさい」

唯「りっちゃんだって、わたしと同じことやろうとしてたくせに」

律「そ、そんなこと」

そんなこと、なくは、ない。そんなこと、あった。

でも、私は。私は、変わったんだ。そう、今の私は、あの時の私じゃない。

律「……………」

唯「あ、りっちゃんにひとつ言っておきたいことがあったの」

律「………?」

唯が、ニヤリと笑った。唯は、ニヤリとなんか笑わないはずなのに。
唯が、目をそむけたくなるような笑いを浮かべた。

唯「昨日の夜、こっちの世界のあたしとあずにゃんと、公園に居たでしょ?」

律「!? 何でそれを……」

唯「ふふふー、わたしもそこに居たからね」

408: 2010/08/30(月) 21:57:12.84 ID:iSdzGiGo0
背筋が、ゾクゾクとした感触に内震える。
体が小刻みに震える。

唯「でさー、その時あずにゃんとあたしが、りっちゃんが氏んだらどうするかって話してたじゃん。
  その時に、りっちゃんが氏んだら許しませんよー、とか、りっちゃんが氏んだら悲しくて泣いちゃうー、っとか2人は言ってたじゃん?」

もういい。もう言葉を発さないでくれ。頼むから。



唯「でも、その言葉ってさ、
  
  りっちゃんにかけられてるんじゃなくて、『この世界のりっちゃん』にかけられてるって、知ってた?」




413: 2010/08/30(月) 22:03:13.83 ID:iSdzGiGo0
律「…………」

唯「……………じゃ、わたしは行くから。
  あ、次見かけたら、今度はどうなるかわからないよ」

律「………」

唯「じゃーね、『ここの世界にいない りっちゃん』」

律「…」

唯「わたしは、この世界にしか、居場所がないんだよ」




律(あーあ……)

律(………もー、なんか…)

律(どうでもよくなってきた……)

律(………………確かに唯の言う通りだよなー)

律(この世界で居場所を作ろうとしない限り、私に居場所はない)

律(………帰ろっか。まぁ、帰っても居場所なんてないんだけどね)

律「……ははっ」

416: 2010/08/30(月) 22:08:18.18 ID:iSdzGiGo0
律「ははは」

律「はははははははははは……っく…………っく……」

律「一番居場所が欲しかったのは、あたしなんじゃないか!」

律「だから元の世界でも、色んなところを駆けずりまわって、ほじくりまわして、でも結局得たものは何もない!」

律「そんでこっちの世界でも色々頑張ってみたけど」

律「………駄目。駄目。駄目。駄目」

律「……………私の居場所なんて、もうどこにもないんだなー」

律「ま、それが私にお似合いなのかもねー」

 ……何か音がする。

 …………何の音だろう。

 ……歓声。微かだけど、確かに聞こえる。

「……まで……っきり………す。……! …わ………いむ!!」

422: 2010/08/30(月) 22:15:37.75 ID:iSdzGiGo0
軽快なギターソロ。それに呼応するような手拍子。
続いて入るベース、ドラム、キーボード、違うギター。


きみをみてるといつもハートどきどき

ゆれるおもいはマシュマロみたいにふーわふわ

いつもがんばる いつもがんばる
きみのよこがお きみのよこがお
ずっとみてても きづかないよね

ゆめのなかなら ゆめのなかなら
ふたりのきょーりー ちぢーめられるーのになー

423: 2010/08/30(月) 22:16:20.52 ID:iSdzGiGo0
律「…………行こう」

行こう。しかし、どこへ?
どこへ行くっていうんだ?

律「……行かなきゃ。あたしには、やんなきゃいけないことがある」

みんなとの距離を縮められなくたっていい。
そんなのは、夢の中だけで十分だ。

居場所なんかなくたっていい。
でも、あとちょっとだけ何かが出来るなら……

田井中律は、それをやりたい。

428: 2010/08/30(月) 22:25:27.19 ID:iSdzGiGo0
走った。走った。走った。
体育館へ、必氏に走った。
こんなに走ったのいつぶりだろう。
なりふり構わず、走る。
長い、体育館までの距離。それでも、走る。

歌に導かれるようにして、走った。

体育館に着く。まだライブは続いている。

ふわふわタイムだ。一番後ろからでも、みんなの顔が見える。

あー、唯、間に会ったんだ。お前制服じゃねーか、一人だけおっかしーな
澪、お前……そんなに溌剌と歌えるキャラだったっけ?
私……輝いてるなー、すげーよ私。
梓、そんなにキラキラした顔でギター弾いてたら、多分体育館全体明るくなっちゃうんじゃないか?
そして、紬………笑ってる。微笑んでる。

唯「もういっかーい!」

ああ かーみさま おーねがーい ふたりーだーけーの
どりーむたーいーむ くだーさーい
おきーにいりーのうさーちゃん だいてー
こんやーも おーやーすみー

あぁ、ライブが、ライブが、私たちのライブが、終わる。

436: 2010/08/30(月) 22:31:26.85 ID:iSdzGiGo0
最後のギター、ベース、ドラム、キーボード。
音が全身に伝わってくる。最後まで全力だ。

そして、私が、最後のドラムを叩いた。


歓声、歓声歓声。

拍手、拍手、拍手。

大歓声。

なりやまぬ、拍手。

いつまでもいつまでも、その歓声は鳴り響く。

私は、恍惚としていた。
ステージ上で、みんなが微笑む。
何か唯が喋ってるみたいだけど、私の耳には届かない。

437: 2010/08/30(月) 22:32:51.54 ID:iSdzGiGo0
ライブは、成功した。

ここで、学祭における、放課後ティータイムの物語は、一旦終わり。

そして、あと少しだけ、私の物語は続く。

439: 2010/08/30(月) 22:40:58.99 ID:iSdzGiGo0
律「………結局、できなかったんだ」

唯「……………」

律「……そりゃ、出来ないだろうね」

唯「……」

律「…………気持ちはわかるよ」

唯「……………嘘つき」

律「……嘘じゃない。嘘じゃないさ」

律「あのステージには、あの唯の居場所しかないんだ。
  あの唯、あの澪、あの律、あの紬、あの梓」

律「……唯の居場所も、勿論あたしの居場所も、ないんだ」

律「それを、完膚無き程に示されたって訳だよな」

唯「でも、紬ちゃんは違うでしょう?」

律「いや、……、あたしはこう考えてるんだが…」

ちょっとだけ逡巡する。

449: 2010/08/30(月) 22:48:19.39 ID:iSdzGiGo0

律「あまりにも唯の要領が良すぎるから、ちょっとばかし疑ってみたんだが。
  こういうのも有り得るよな。
  紬を頃したのは、唯だっていうのも」

唯「…………」

律「何も引きこもりだからって、外に出られないって訳じゃない。
  それは自分で作り上げた「外に出ないであろう」という信頼であって、絶対のものではない」

唯「………」

律「勿論、「あたしたちの世界の紬」は氏んだ。
  あたしは恐らくその紬に会った。そんで、紬はその日の内に氏んだ。
  記事に氏亡時刻は書かれて居なかったから、紬は「その日」の内なら、いつでも氏んでもつじつまは合う」

律「あたしはあの世界から出てきて、吐いて、すぐ保健室へ行った。その間になら、唯に紬は殺せるよな?」

唯「………随分無理矢理な推理だけど」

律「あぁ、無理矢理さ。でも一番の根拠は、『新聞記事出すところから、窓の血痕を指摘するところまで、全てが流暢すぎる』ってこと。
  その辺、あっちの世界の唯と、こっちの世界の唯は、別人だわ。こっちの唯は要領が良すぎ」

458: 2010/08/30(月) 23:00:07.14 ID:iSdzGiGo0
唯「………………別に必要があった訳じゃないんだけど。ただ、その方がリアリティ出るかな、って思って」

律「でも、私が言う前に知ってたのかよ。夢の世界が本当に存在するってこと」

唯「だって、夢に見た世界なんだから、取り敢えずこっちの世界の部室に行ってみたくなるじゃない。
  そしたら、見つけるっていうパターン。夢は3週間前から見始めたから、多分紬ちゃんもそうなんだと思う」

律(だとしたら、早く見つけてたら私が氏んでたってこともあり得た……かも…)

461: 2010/08/30(月) 23:02:25.90 ID:iSdzGiGo0

唯「で、りっちゃん。これから、どうするの?」

律「いや、何するっつっても……取り敢えず、部活だろ」

唯「部活?」

律「そこ聞き返すところか……軽音部だよ。まずは部員集めないとな」

唯「………こっちの世界で?」

律「あったり前じゃないですかっ。もうあっちの世界には行かない。
  あたしは、こっちの世界の人間だから」

唯「……………」

律「なぁ、ところで唯、お前」

唯「わたしを責めないの?」

律「は?」

唯「わたしは人頃しだよ? こっちの紬ちゃんを頃したんだよ?
  あっちのわたしのことも、殺そうとしてたんだよ?」

463: 2010/08/30(月) 23:04:31.40 ID:iSdzGiGo0

律「……んー、っつってもなぁ」

律「あたし、そういうの良くわかんないし……罪とか本当に許されるのかとか…」

唯「……………」

律「それはお前の問題だ。けど、どうしても氏にそうになったら、あたしんとこ来いよ」

唯「……………」

律「あ、あたしはもうお前の家行かないからな、通いづめだったから」

唯「…………………」

律「こんどはあたしの家にこいよな」

473: 2010/08/30(月) 23:14:58.66 ID:iSdzGiGo0
―――
――



「りっちゃん、りっちゃん」

「何だよ、いきなり」

「お礼を言いに来たの」

「りっちゃん、本当にありがとう。」

「まぁ、そりゃ、こんくらいのこと、当たり前じゃん!」

「いや、本当にさ。別に敬われたいか思ってやった訳じゃないし」

「………ちょっとかっこつけさせてもらえるなら、

「だって、そりゃあたしは、       」



――
―――


475: 2010/08/30(月) 23:16:40.82 ID:iSdzGiGo0
律「みおー」

澪「おぉ、何だ律か。何かやけに元気だな」

律「なぁみお、バンドやろうぜバンド!」

澪「バンド?」

律「軽音部だよ軽音部! 今あたしともう一人、ギターしか居ないんだ! お前、ベース弾けただろ!」

澪「そりゃ弾けるっていっても、中学のころちょっといじってたくらいだし……」

律「じゅうぶんっすよ! ささ、これ入部届けだから、ささっとサインしちゃって…」

澪「って、もう名前も書いてるし!」

律「あー、兼部とか全然構わないから。そこんとこ宜しく! じゃ、あたしは他に用があるんでー」

澪「なーにわけわかんないこといってんだよ律! おいちょっと待て!」

477: 2010/08/30(月) 23:17:43.13 ID:iSdzGiGo0




律「そりゃあたしは、部長だからな」
              END

480: 2010/08/30(月) 23:20:04.44


ペース良かった

481: 2010/08/30(月) 23:20:13.52
ムギが不憫だ……おつ

490: 2010/08/30(月) 23:22:13.25

とてもよかった!

498: 2010/08/30(月) 23:27:23.51 ID:iSdzGiGo0
律・紬・唯、夢を見始める

(この時点で唯と律、初接触の可能性)

紬、部室に行ってみると穴発見

(この時点でも唯と律、初接触の可能性)

唯も発見

(この時点で紬は夢と別世界の仕組みについて理解している)

紬、律と穴で出会う

紬、律が穴の仕組みに気付いてると思って「やっぱ気付いて……」発言

律、早めに脱出(脱落)

唯、穴へ

紬が穴から出てくるか(この確率の方が高い)、紬と一緒の別世界で殺害

穴をふさいだのは唯か紬
どちらがふさいだかは謎

506: 2010/08/30(月) 23:35:24.71 ID:iSdzGiGo0
誤字脱字多くてスマンカッタ 
アニメとリンクさせてみようとか思ったけど、流石に無理だった

紬・唯関係のロジックは、余韻が残った方が楽しいかな……っと思ってというのは言い訳
詰め切れてないことろあるわ、申し訳ない

「律」っていう字がゲシュタルト崩壊起こした

あとりっちゃんは俺の宝です

引用元: 律「そりゃあたしは、部長だからな」