1: 2014/10/29(水) 22:34:06.33

忘れもしない。
あれは、今年の四月の新人歓迎会での事。
二次会の終わりを告げる1本締めが深夜の商店街に響き渡った。


新人一同「「「「「お疲れ様でーす! ありがとうございまーす!」」」」」

社長「じゃあ、みんなこの後は各自楽しんで」

専務「羽目を外さないようにな! 社会人としての自覚を持って三次会に挑め」

人事部長「はい、じゃあ3時会に行く人はこっち来てー」

後輩「……あ、どうしよう。同期は行く?」

後輩の同期(以下同期)「あー、帰りの電車なくなるから止めとくわ」

後輩「そっか、2時間はかかるもんね」

同期「なんでわざわざ本社に行かんとあかんのや……」ボソ

後輩「それは、まあしょうがないよ」

同期「はあ……それじゃ、お疲れ様デース」

後輩「またねー」

同期「ういーす」

課長「後輩行くでしょ? 行くよね? んー??」

後輩「ちょ、ちょっと支部長近いですっ」

人事部長「ひーふーみー、おい、マネージャーどこ行ったんだ?」

課長「そう言えば、いませんね」

人事部長「誰か、マネージャー見たやついないか?」

後輩(マネージャーって、確か色白で背が高くて……髪の毛フワフワの美人な人だよね)

課長「確か社長にお酌されて、飲んでませんでした?」

人事部長「本当か? 社長もあいつがお酒に弱いの知ってるだろうに」

課長「いやー、今年の新店舗立ち上げで、見事他店舗を上回る集客率を叩き出したから、嬉しかったんでしょうね」

人事部長「さっきの店でくたばったのかもしれん……携帯も繋がらん」

課長「後輩、ちょっと一緒に見に行こうか」

後輩「あ、は、はい」

人事部長「じゃあ、先に三次会の店に行っておくから、頼んだぞ」

課長「はい、分かりました」



2: 2014/10/29(水) 22:41:01.08
課長「さっきのお店に、まずは連絡っと」

後輩「お酒、弱かったんでしょうか……」

課長「ああ、マネージャーね、弱いのよー。一杯でもう顔真っ赤になるわ、頭弱くなるわ、ほんと弱い」

後輩「そうは見えませんでした……」

課長「強そうに見えるでしょ? 色々と……あ、かかった。こちら、先ほどまで利用させてもらった○○なんですが……え? あ、はい、はい、ああ、やっぱり……ええ、今向かっていますので、すいませんすぐに行きます」

後輩(いたのかな)

プツ

課長「いたわ……マジウケるんですけど」

後輩(……課長、今年でいくつだろう)

課長「もう、私に尻拭いさせるなんて、明日からこのネタでいじってやろ」

後輩「あはは……」

3: 2014/10/29(水) 22:48:48.90
とある居酒屋――


後輩「あ、寝てますよ……」

課長「マネージャー、起きて! ほら、ほら!」

マネージャー「……は、はい……。すいません、課長」

課長「立てる?」

マネージャー「立てます……、大丈夫です」ヨロ

後輩「わっ……」

ガシっ

マネージャー「あー、ごめん……」

後輩「足元に気をつけてください」

課長「こりゃ、あかんわ。あんた、いったい何杯飲まされた?」

マネージャー「……瓶ビール1本」

課長「あー、許容範囲完全に超えてるね……しょうがない」

後輩「……う、も、もう支えきれません……」プルプル

課長「そこに、座らせておいて」

後輩「はいっ」

課長「でっかい荷物を運んでもらわないと。タクシー呼ぶから、マネージャー何とか帰れる?」

マネージャー「はい、はいっ……」

課長「信用できんねー……」

マネージャー「課長、そんな……ホントに、大丈夫です」

課長「だいたい、喋りかけてるのさっきから全部後輩なんだけど」

マネージャー「え?」

後輩「あはは……」

4: 2014/10/29(水) 23:05:16.77
マネージャー「ごめん……でも、ほんとに大丈夫ですから」

課長「後輩ってさ、確かマネージャーと住んでるマンション同じだよね」

後輩「あ、はい」

課長「よし、マネージャー送ってもらっていい?」

後輩「はい、大丈夫ですよ」

マネージャー「いやいや、三次会ありますよね……?」

後輩「いえ、実は夜は弱くて……できたら抜けたいと思ってたんです」

マネージャー「そういうのは、行ったほうが……っう?!」

課長「気持ち悪いの堪えながら言われてもね……説得力なさすぎ」

後輩「あの、私お水買ってきます……」オロオロ

バタバタ――

課長「じゃあ、私タクシーに電話します……」にこ

ピポパポ――

マネージャー「……っう……」グッタリ

課長「あ、すいません商店街の入口の○○までお願いします。何分くらいかかります? あ、はい分かりました。あ、課長です。はい、お願いしマース」


5: 2014/10/29(水) 23:11:44.93
マネージャー「ほんとに、すいません。課長……」

課長「もー、いいって。だいたい悪いのは社長なんだし」

マネージャー「私って、なんで、こんな弱いんでしょうね……」

課長「普段が強いからじゃない?」

マネージャー「どういう意味ですか……あはは」

課長「そのまんまよ」

タタタタ――

後輩「あの、お水どうぞっ……はあっ」

課長「お、はやーい」

マネージャー「悪いね……」

課長「しかし、ろくに受け取れないのであった」

マネージャー「変な注釈入れないでください……」

後輩「あ、私持ってますから。大きめのカバン持ってきてるんで」

課長「よし、じゃあ、私は三次会に行きたい派の人間だから! 後は任せたよ、先輩!」

マネージャー「はい、任されました……」

フリフリ――

課長「タクシーあと五分もしないうちに来るから外出ときなさいよ」

マネージャー「はい……」

6: 2014/10/29(水) 23:17:49.89
後輩「お疲れ様です」

課長「おつかれー」

カツカツカツ――

後輩「……」チラ

マネージャー「っしょ」フラフラ

後輩「か、肩貸しましょうか?」

マネージャー「いや、平気……」

後輩(……なんていうか、我慢強いというか強情というか)

プープー!

後輩「あ、来ましたね、急ぎましょう……」

グイグイ!

マネージャー「ちょ、マジで今は押さないで……」ヨロ

後輩「あ、すいませんっ……」

ギュっ

後輩「こっちですよ……」

マネージャー「気持ち悪いから、手握んなくていい……」

後輩「何言ってるんですか……壁に激突する所だったのに」

マネージャーをなんとかタクシーに押し込む。

運転手「大丈夫? 吐く人?」

後輩「……えと」

マネージャー「吐きません、大丈夫です……」

運転手・後輩「……」

7: 2014/10/29(水) 23:26:20.63
後輩「えっと、南消防署横の川沿いのマンションまでお願いします」

運転手「分かりました」

ブロロロ――

後輩「マネージャー……あの、お水」

マネージャー「ん……」

キュルキュル――

後輩(蓋が、全然回ってない……)

マネージャー「……出ない」

後輩(それは、蓋が空いてないまま口につけたって出ないですよ……)

マネージャー「あれ? ……開けてもらっていい?」

後輩「はい」

ギュルギュル――パキリっ

マネージャー「……ありがとう」ゴクっ

後輩「帰ったら冷やしたほうがいいかもしれませんね」

マネージャー「うん……」

後輩(……この人、もっと怖いイメージがあったんだけど、けっこう普通の人だ)




9: 2014/10/29(水) 23:39:10.27
運転手「お客さん、到着しましたよ」

後輩「はい……」

マネージャー「……これ、渡して」

ペラ

後輩「タクシーの乗車券……」

なんと、9999円まで使える。
ここまでの運賃は2000円にも満たないのに。

後輩(なんだかもったいない……けど、まあいっか)

マネージャー「ありがとうございます」フラ

後輩「あ、待ってくださいっ……ありがとうございます」

バタン――



マンション内にて

後輩「マネージャーって、確か7階ですよね?」

マネージャー「そうだけど、いいよ。もう歩けるから……」

後輩「そうですか、じゃあ……」

マネージャー「うっ……やば、おえっ」

後輩「え?!」

マネージャー「……っ」ブルブル

後輩「と、トイレ……トイレすぐそこです!」

マネージャー「……間に合う?」ブルブル

後輩(いやいやいや……!)

マネージャー「っふぐ……」

後輩「ちょ、ちょっとだめええ!?」

マネージャー「さ、叫ばないで……」ヨロ

10: 2014/10/29(水) 23:43:09.34
トイレ――

後輩「……外で待ってますね」


無言。


後輩「……」


カツカツ――。



10分ほど経過。

後輩「……」

後輩(……怖くてお水を私に行けない)




30分ほど経過。

後輩「……遅すぎる」

後輩(何かあったのかな)


カツカツ――


後輩「マネージャー……?」ひょこ

マネージャー「……すー……すー」

後輩「……あ」

11: 2014/10/29(水) 23:48:17.69
マネージャー「……すー……すー」

後輩「……え、ええ……力尽きてる」

後輩「吐いた様子もないし……もしかしてずっと寝てた?」がくっ

後輩「……マネージャー、起きてください」

ユサユサ――

マネージャー「んっ……うんん」ハアっ

後輩(お酒臭い……)

ユサユサ――

マネージャー「……っん」

ガバっ

後輩「へ?」

ドタっ

後輩「あいったっ……いきなり何?」

マネージャー「……熱っ」

ギュウ――

後輩(せ、ぼねが……へしおれてしまうっ……!?)



12: 2014/10/29(水) 23:52:30.16
マネージャーを引きずりながら、トイレから出てエスカレーターに向かう。


後輩「何号室だっけ……確か、701? でしたっけ?」

マネージャー「うんん……」

後輩「っしょ……い、痛い痛い」

ギュウ――

後輩(確か、社会人のスポーツチームに所属してるって言ってたっけ……凄く引き締まってるなあ)

マネージャー「……ふざけんな」むにゃ

後輩「ひっ……すいません」

マネージャー「次、同じことやったらはっ倒す……」むにゃ

後輩「……わわっ!? お助けっ!?」

マネージャー「んっ……む」

後輩「はっ……」

後輩(寝言……か)

17: 2014/11/03(月) 21:38:27.73
701号室の前――

後輩「っしょ……」

ずるずる

マネージャー「んん……」

後輩「あの、マネージャー、鍵は?」

マネージャー「知らんがな……」むにゃ

後輩「え、ええっ?」

マネージャー「……」すー

後輩「……か、かばん失礼します」

ごそごそ――

後輩「これは、化粧ポーチだよね……財布に、ハンカチ……キーケースないし……ポケットかな」

ごそごそ――

マネージャー「っう……ん」

後輩「ええっ……ない。どうしよう」

マネージャー「……だから、何度言ったら!」むにゃ

後輩「ひいっ」

マネージャー「……」すー

後輩「……ひ、ひとまず私の部屋に」

ずるずる

18: 2014/11/03(月) 21:52:47.40
501号室――

ガチャ

後輩「マネージャー……重たかった」

ドサ

マネージャー「……っう」

後輩「あ、気がつかれましたか?」

マネージャー「いったっ……」

後輩「水、飲みますか?」

トタタ

キュッ――トポポ

マネージャー「ここ……?」

後輩「お水、どうぞ」

スッ

マネージャー「……?」

ソッ――スカ

ビシャア!

後輩「あ゛……」


19: 2014/11/03(月) 22:03:22.37
マネージャー「つめたッ!?」

後輩「す、すいません!? すぐに拭くもの持ってきます!」

ドタドタッ

マネージャー「……私、トイレにいたような」

後輩「へ、部屋の鍵が探してもなくて、いったん私の家に運んだんですッ……すいません、勝手なことして……あ、あのこれ」

マネージャー「そうなんだ……ありがと」

フキフキ――

後輩「ど、どうしましょうか。Tシャツ貸しますよッ……あ、いや、お風呂入ったほうがいいんでしょうかッ。そのままだと、風邪ひいちゃいますし……ッ」ワタワタ

マネージャー「あー、大丈夫……酔いも醒めたし」

後輩「良くないですって……」

マネージャー「自分の部屋帰るから……カバンカバン」

ゴソゴソ

マネージャ「ん?」

後輩「……あ、あります?」

マネージャー「……」

ごそごそ

マネージャー「……」

ごそごそ

マネージャー「……」

後輩「……どっかに落ちてしまったのかも」


20: 2014/11/03(月) 22:16:44.10
マネージャー「あった……じゃ、お世話になりました」

後輩「え、ええ? あったんですか」

マネージャー「まあ」

後輩「……見せてもらっていいですか?」

マネージャー「はあ? なんで」

後輩「あの、もしあるなら、見せてください」

マネージャー「見せる意味がわからんから……じゃ」

がしッ

後輩「ま、待ってくださいッ……どうしてそんな嘘つくんですか?」

マネージャー「嘘じゃ……」

後輩「だって、どう見たってありませんもんッ」

マネージャー「ああ、もー……ありがたいんだけどさ、世話になりたくないってこと。察してくれる?」

後輩「ええッ?」

マネージャー「寝カフェ行くから」

後輩「い、意味がわかりません……」

マネージャー「いい? 一応、私の立場上、後輩に世話になるわけにはいかないわけ。個人的にも」

後輩「個人的って言ってるじゃないですかッ」

マネージャー「先輩として後輩の世話になりたくない」

後輩(な、なんてめんどくさい人……)

21: 2014/11/03(月) 22:24:41.65
マネージャー「だから、さよなら。ばいばい。おやすみ。また会社で」

後輩「ま、待ってください! そんなこと言ったら、私だって人としてずぶ濡れの女性に外を彷徨かせるわけにはいきませんからッ……せ、せめてシャワーだけでも浴びて行ってください」

マネージャー「いや、だから」

後輩「マネージャーッ」

マネージャー「いや、ほんと」

後輩「せめて、シャワーを……ッ」

マネージャー「……はあッ」

後輩「……」

マネージャー「わかったから、シャワー借りるから……」ガクッ

後輩「ホントですか? ちょっと待っててくださいね」

とたとた

マネージャー「……」

22: 2014/11/03(月) 22:34:19.29
風呂場――

後輩「案外、意地っ張りな人だった……えっと、タオルと一応替えのパーカーとジャージ置いておこう」

後輩「いきなり印象悪くさせちゃったかもなあ……明日からいびられたりして」

後輩「こわッ……」

とたとた

マネージャー「誰がいびるって?」

後輩「わッ」

マネージャー「着替えなんていらな……わかった、わかったからその目止めて」

後輩「?」

マネージャー「……ありがと。いびったりなんてしないから」

後輩「良かった……」ほッ

マネージャー「……」

後輩「狭いですけど、ごゆっくり」

マネージャー「どうも……」

23: 2014/11/03(月) 22:39:31.49
リビング――

後輩「えっと、確かこっちが敷く方で、こっちは……掛ける方と」

ごそごそ

後輩「まさか、こんなに早く使うようになるなんて……彼氏用に作っておいたのに」

ばさッばさッ

後輩「お布団見ると……眠くなるなあ」

後輩「あ、歯ブラシ確か棚に一セットあったよね」

ガタガタッ

後輩「……あった」

後輩「ここまで準備しておいたら、まさか断るわけないよね」

後輩「……」

24: 2014/11/03(月) 22:49:32.43
約15分後――

マネージャー「は?」

後輩「じゃ、じゃーん」

マネージャー「……」

後輩「あ、これ歯ブラシですッ」

マネージャー「え、ああ、ありがとう……じゃないし!」

ぽいッ

後輩「ええ、放り投げなくてもッ」

とたとた――

マネージャー「誰が泊まるなんて言ったわけ? 頼んでないじゃん」

後輩「た、確かに」

マネージャー「確信犯だろ」

後輩「だ、だってお風呂上がりに外なんて出たら湯冷めして、それこそ体に悪いですから……」

マネージャー「そういう気遣いいらないから……」

後輩「ごめんなさいッ……私床で寝ますから、ベッド使ってください」シュン

マネージャー「……なんでそうなるの」

後輩「いいじゃないですか」

25: 2014/11/03(月) 22:58:57.37
マネージャー「……仮に100歩譲ってそうなったとして、私が床で寝るから」

後輩「……えいッ」

ぽふッ

マネージャー「?」

後輩「私の陣地です」

マネージャー「ちょっと」

グイッ

後輩「ふ、布団引っ張るの反則ですよッ」

マネージャー「……」

グイグイッ

後輩「え?」

グイグイ――ゴロ
マキマキ――ゴロ

後輩「あれ? なんで、いつの間に毛布に簀巻きにされて……」

マネージャー「っしょ……大人しく、ベッドで寝ててくれる?」

ヒョイッ

後輩「わ、わあッ?!」

ぼふッ(ベッドの上に)

後輩「うひゃッ!」

マネージャー「私が床で寝る……」

28: 2014/11/04(火) 22:11:39.20
後輩「素直じゃないんですね……」

マネージャー「うるさい簀巻き女」

後輩「マネージャーが簀巻きにしたんじゃないですか……」

ゴロゴロ

マネージャー「こっちくんな」

後輩「あの」

ゴロゴロ――ドン

マネージャー「なに、ちょ、いたッ、なんでぶつかってくんの」

後輩「ほ、解けないんですが」

マネージャー「……」


5分後――


後輩「……ありがとうございます」

マネージャー「いや……」

後輩「あの、マネージャーって、もっと怖い印象でした」

マネージャー「……でしょうね。別に、甘い人間に見られたいとも思わないし」

後輩「でも、案外子どもっぽいんですね」

マネージャー「喧嘩売ってんの?」

後輩「ち、違います違います」プルプル

マネージャー「……私は人に施されるのも弄られるのも苦手だし、誰かの指図を受けるのも嫌」

後輩「……」

マネージャー「それを子どもっぽいと言うなら、そうかもね」

30: 2014/11/04(火) 22:20:29.96
後輩「マネージャー……」

マネージャー「なに?」

後輩「なんだか、か、可愛いですね」

マネージャー「しばくよ?」

後輩「ええッ! 何でですかッ」

マネージャー「分かんないかな、そういうのが苦手なの。お世辞じゃないっぽいのもなお質悪いし」

後輩「うー……嫌なら言いません、すみません」

マネージャー「分かればいい」

後輩「所で、100歩譲ってくれたってことでいいんですか」

マネージャー「……」

後輩「えーっと、シャワー浴びてきマース」

とたとた

マネージャー「調子狂うわ……ほんと」

31: 2014/11/04(火) 22:34:39.75
バスルーム――

シャアアアア

後輩(はー……疲れたぁ)

後輩(……変な人)

後輩(でも、緊張してたの少し解れたかも……)

後輩(困ったときとか、相談に乗ってくれるかな……)

後輩(て、マネージャーって統括マネージャーだから、新店舗に行かないとなかなか会わないか)

後輩(あ、でもこの間研修で、たまに新人の様子見に来るって言ってたっけ)

後輩(会社ではもっと怖いのかも……)

後輩(大丈夫かな……私チキンだからな……怒られたら泣く)

後輩(怒られたら、今日の夜のこと思い出そ……)


32: 2014/11/04(火) 22:45:29.74
リビング――

マネージャー「……」カタカタカタ

後輩「……何されてるんですか?」

マネージャー「明日のメール作ってる」

後輩「……」チラ

後輩(そう言えば研修の時見たような。朝にいっつもメールボックスに届いてたっけ……昨日の実績一覧と今日も一日頑張ろう的な言葉があって……マネージャーが打ってたんだ)

マネージャー「見んな」

後輩「あ、すみませんッ」

マネージャー「……よし」

パタン―

後輩「終わりました?」

マネージャー「ん、もう遅いから寝るよ」

後輩「あ、私のことは気にせずにやってください。私明るくても全然いけますから」

マネージャー「寝る」

後輩「は、はい」




33: 2014/11/04(火) 23:08:32.71
カチカチ――

後輩「豆電球付けておきましょうか」

マネージャー「いいよ、大丈夫」

カチ

後輩「っしょ」

ごそごそ

後輩「寒いですね」

マネージャー「暖房つけたら?」

後輩「うわッ……リッチ」

マネージャー「寒いならつければいいだけでしょ」

後輩「今月、色々出費あったから……暖房なんて高価なもの。あ、もしかして、寒いんですか?」

マネージャー「いや、全然寒くないけど」

後輩「……我慢します」

マネージャー「そ。あのさ、さっき課長からメールあって鍵拾ったみたい。で、明日ちょっと早めに出るから。起こしたらごめん」

後輩「え?! えー!? 良かった、良かったですねッ!!」

マネージャー「ん、だから今のうちにいっとくけど……お世話になりました」

後輩「え……あ、いえいえ」

マネージャー「じゃ、お休み」

後輩「はい、お休みなさい」

37: 2014/11/05(水) 23:16:44.18
翌日――

ごそごそ

後輩「……」ボヤア

マネージャー「……しょ」

後輩(あ……行くんだ)ウトウト

マネージャー「……」チラ

後輩(こっち見た……?)ウトウト

マネージャー「……」ペコ

後輩(……り……ちぎ)カクン

39: 2014/11/09(日) 12:17:47.66
意外なことに、マネージャーとは本社で何度か挨拶くらいは交わすようになった。
朝礼に参加したりと、たまに本社には来ていたようだったけれど、自分自身、仕事を覚えていくので忙しく、話しかける余裕もなかった。

私の会社はいくつかの業種が混ざり合った特殊な業種形態をしている。
元々、健康食品、有機野菜の販売に力を入れていた所、今年から福祉施設のチェーン店のオーナーになり、人員もかなり増やした。統括マネージャーはそれらの各業種を効率よく本社と連携させたり、店舗運営のノウハウを各店舗の店長やスタッフに教えたりと、その職種性から一箇所に留まることがない。
私自身は本社の事務職員なので、朝礼以外ではたまに専務や社長に報告に来たマネージャーに「元気?」などとさり気なく様子を伺ってもらっていた。

会社での彼女は、厳しくも優しいお姉さんという感じで、飲み会の席とのギャップが何だかおかしかった。
私自身、その頃は彼女のことはただの上司という認識だった。

歓迎会から4ヶ月程経った頃のこと。


会社――

後輩「あ、同期、勤務表ってFAXで各店舗に送ったら良かったんだよね?」

同期「たぶん……ちょっと待って、それ、ハンコ押すとこ一つ多くない?」

後輩「ホントだ……担当者の横に、統括……って」

同期「マネージャーのことじゃない?」

後輩「ええ? マネージャー?」

同期「たぶん、新店舗立ち上げの時に、新しく作ったやつじゃない? 知らんけど。課長に聞いたら?」

後輩「うん」

ガタッ

タタタッ


40: 2014/11/09(日) 15:22:40.29
後輩「課長」

課長「ん?」

後輩「あの……ここの統括って枠の印鑑ってマネージャーのことですか?」

課長「そうね、そうそう。確か、マネージャーは夕方くらいにこっちよるからその時押してもらえばいいよ。それか、明日の朝礼には来るから」

後輩「分かりました。あちがとうございます」ペコ

課長「あ、どう? 慣れた?」

後輩「少しだけ……まだ、分からないことだらけですけど」

課長「それはもう最初はみんなそうだからね」

後輩「ですよね。頑張ります」

課長「一生懸命さが伝わってきて、こっちも頑張ろうって思うよ?」

後輩「そうなんですか? 自分では……スローペースだし、ドジだし……」

課長「いいのいいの。マネージャーも褒めてたよ?」

後輩「マネージャーがですか?」

41: 2014/11/09(日) 15:35:03.57
課長「後輩は、ホント仕事遅いし、気は遣えないし、挨拶する時はビクビクしてるし、目を逸らすし」

後輩「……そ、それ褒めてませんよ?」

課長「ふっふふ……でも、仕事をさ時間で働いたりしないし、妥協しないでしょう? そこは割と好きだって言ってたよ」

後輩「えっと、褒められたんですか……?」

課長「わかりにくいけどね。あの子、滅多に人にそういうこと言わないから」

後輩「……そうなんですか。よく見てくださってるんですね」

課長「マネージャーだからね」

後輩「今日は、ビクビクせずに挨拶してみます」

課長「そうそう、歓迎会の時の酔いつぶれた姿を思い出してさ」

後輩「それは、ちょっと可愛そうですよ」

課長「いやいや、あの子は上司でもこっちが段取り悪かったりミスすると平気で怒ってくるから、たまにからかってやんないと気がすまない!」

後輩(逆恨み……)

課長「あ、逆恨みって目したでしょ」

後輩「いえ……」クスクス

課長「もー、仕事に戻んなッ」プイ

後輩「はい」



42: 2014/11/09(日) 15:40:21.79
夕方――

課長「こうはーい」

後輩「はい?」

課長「下にマネージャー来てるみたいだから、持っていって。中央会議室ね」

後輩「分かりました。行ってきます」

ガタッ

同期「あ、後輩」

後輩「うん?」

同期「こ、これで炭酸水を……買ってきて欲しいです」

後輩「いいよー」

チャリ

同期「お釣りでなんか買ってきていいよ」

後輩「え、いいって」

同期「買いに行ってもらうんだからかまわんって」

後輩「んー、じゃあお言葉に甘えます」

43: 2014/11/09(日) 15:56:16.80
中央会議室前――

後輩「あー、間違えて苺ミルク押してしまうなんて……はあ」

後輩「あ、ここかな」

コンコン

後輩「……」

コンコン

後輩「あれ、いないのかな」

ガチャ―

後輩「し、失礼します……」キョロ

カツカツ――ピタ

後輩「あ、マネ……」


マネージャー「……ええ、はい。そうですか、じゃあまた後ほど」

後輩(……横顔、綺麗だな)

マネージャー「お疲れ様です」

ピッ

マネージャー「ごめん、印鑑だっけ」クル

後輩(はッ)

後輩「は、はい。お疲れ様です。わざわざありがとうございます」

ゴソゴソ

マネージャー「いや、ついでだったし……こほッ」

後輩「風邪ですか?」

マネージャー「ああ、乾燥してると出るだけだから、気にしないで」

カチャ――ポン

後輩「ありがとうございます。あの、良ければこれどうぞ」

トン

マネージャー「え、いらん」

後輩「ホントにいらないんですか?」

マネージャー「ホントにって何」

44: 2014/11/09(日) 16:09:50.81
後輩「す、すいません。もしかしたら、遠慮されてるのかなーって……」

マネージャー「なんで、そう思う?」

後輩「それは……」

マネージャー「?」

後輩「意地っ張りですし……」

マネージャー「その口に苺みるくねじ込んであげようか」

後輩「ご、ごめんなさいッ。あの、でも実は飲めないのに野菜ジュースと間違えて押しちゃって、もしお好きならもらってください」

マネージャー「アホじゃん」

後輩「アホです……」しゅん

マネージャー「……はぁ、いいよ。面倒くさいからもらう」

後輩「ホントですか、良かったッ」にこ

マネージャー「……あのさ」

後輩「何ですか?」

マネージャー「あの歓迎会の夜のことって、誰かに話した?」

後輩「え、話してませんけど」

マネージャー「絶対、誰にも言うな。わかった?」

後輩「は、はい」ビク

マネージャー「あと」

後輩「はいッ」

マネージャー「ここのスタッフ、配属先が違う」

後輩「ひえッ……ありがとうございますッ」ペコ

マネージャー「それから」

後輩「……は」ゴクリ

マネージャー「ありがと」

マネージャーの手が頭のてっぺんにポンと置かれた。
二回ほどべしべしと叩かれる。

後輩「え、い、いえ」

マネージャー「じゃ」


45: 2014/11/09(日) 16:14:58.00
カツカツ――ピタ

マネージャー「私もう出ないといけないから。直したら、また明日の朝持ってきて」

後輩「は、はい。お手数おかけします!」ペコ

マネージャー「……」フリフリ

ガチャッ
バタン――

後輩「……」ドキドキ

後輩「き、緊張した」

後輩「プレッシャーかな……マネージャーを前にするとなぜか動機が」

後輩「……ビクビクしないようにしないと」

46: 2014/11/09(日) 16:20:48.58
その日の夜――

マンションにて

後輩「……パソコンのし過ぎかな、肩こりと腰痛が……」フラフラ

ガサガサ――

後輩「今日は鯖の味噌にで、一杯だけ……やってしまおうかなあ」フラフラ

カツカツ

後輩(足音……)ビク

カツカツ

後輩(……も、もしかしてストーカー)

カツカツ

後輩(こ、怖い……お、お母さん)

カツカツ

後輩(……い、いざとなったらこのリキュールの瓶で)

カツカツ――

後輩(す、すぐ後ろに?!)

47: 2014/11/09(日) 16:28:35.85
ポン

後輩「ひいい!?」ビクビク

マネージャー「ちょ、なにッ」ギョッ

後輩「え?」

マネージャー「近所迷惑なんですけど」

後輩「あ、す、すいません! ストーカーかと思ってッ」

マネージャー「ストーカー? ないない」

後輩「あ、ひどいッ」

マネージャー「腰抑えながら、ふらふらしてぶつぶつ言ってる女に、誰が近づくの」

後輩(……い、いつから見てたんだろ)

マネージャー「……今日、残業?」

後輩「あ、はい。マネージャーは、あれですか、あの、社会人のバスケの夜練という奴ですか?」

マネージャー「そうだけど、あんたも体力なさそうだからやる? と言っても、その体じゃ無理かもね」

後輩「こ、これでも高校の時は陸上部だったんですよッ」

マネージャー「へえ」

後輩「マネージャーですけど……」

マネージャー「へええ」ニヤニヤ

後輩「……ッう」プルプル

48: 2014/11/09(日) 16:36:44.34
マネージャー「こんなちょろい体で、何言ってんの?」

ぷにぷに

後輩「や、ちょっと揉まないでくださいッ」

マネージャー「見たらわかるわ。運動してたかしてなかったかなんて」

ぷにぷに

後輩「走ったり、汗かいたりするのが苦手なんです……」

マネージャー「今はいいけどさ。将来、デブるよ?」

後輩「えッ」

マネージャー「本社の事務なんて、全然動かないでしょ。仕事の行き帰りも車だし。それなのに、食べる量は学生の頃と同じ。体重が増えれば、腰にも負担がかかって痛くなる」

後輩「……ぎく」

マネージャー「家に体重計あるの?」

後輩「あ、ありません。怖くて買えません」

マネージャー「へええ」ニヤニヤ

後輩「な、なんですか」

マネージャー「この後、家に来なよ」ニヤニヤ

後輩「ど、どうしてですか」

マネージャー「いいかいいから。面白いもん見せてあげる」ニヤニヤ

49: 2014/11/09(日) 16:41:25.18
後輩「いいですッ見たくないですッ」ブンブン

マネージャー「来ないなら、持って行ってあげるって」

後輩「ええッ」

マネージャー「拒否権とかないから」にこ

後輩「……マ、マネージャー」

マネージャー「ああ」

後輩「……」

マネージャー「私、やられたらやり返すから。それと、これで、貸し借りゼロね」

後輩(ぜ、全然返してない……)

50: 2014/11/09(日) 16:48:28.20
マネージャー「着替えたら、701号室前、集合」

後輩「……はい」ガク







701号室――


マネージャー「適当に座ってて」

後輩「は、はい」キョロキョロ

後輩(なんか、モダンな部屋。同じ間取りなのに、ここまで違うんだ。北欧って感じ)

後輩(かっこいいな。スウェットできちゃったけど、不釣合いすぎる)

後輩「なんだろ、これ」

コトッ

後輩(お友達かな? 二人で……旅行行った時の写真? パリかなこれ)

コトッ

後輩(……テレビおっきい)チラ

後輩(……ん?)

ジュ――

後輩「いい匂いが……」

51: 2014/11/09(日) 16:54:46.97
とたとた

後輩「あ、あの?」ヒョイ

マネージャー「座ってて」

後輩「え、あ、もしかして晩ご飯作ってくれて……ええッ?」

マネージャー「借りは返すって言ったでしょーが」

後輩「苺みるく一つでそんな……」

マネージャー「それじゃない……まあいいけど」

後輩「?」

マネージャー「ほら、テレビでも見てろ」

後輩「私も手伝いますよッ」

マネージャー「こんな狭い台所に二人もいたら窮屈」

後輩「……ああ、うう」

マネージャー「一人で晩酌する予定だったんでしょ?」

後輩「な、そ、そんなことは」

マネージャー「嘘つけ。さっきの袋の中に何か入ってましたけど?」

後輩「は、はい……」

マネージャー「どうせなら、そこの奴飲んでよ」

クイッ

後輩「え?」チラ

52: 2014/11/09(日) 17:03:05.76
そこには赤ワインが一本。

マネージャー「貰いものだから、捨てれない」

後輩「……」ゴクリ

マネージャー「飲める?」

後輩「……え、あ、いえ、飲めないことはないんですけど……そんなに強くないので」

後輩(……嘘、ホントはお酒もワインも大好きですッ。飲みだしたら止まらないから、自制してるだけですッ)

マネージャー「ふーん、じゃあげる」

後輩「ええ?!」

マネージャー「ちょびちょび飲めばいいじゃん」

後輩(そんな、生頃しみたいな飲み方……無理ッ)

後輩「じゃあ、一杯だけ」

マネージャー「そ、まあ残ったら料理に使うから」

53: 2014/11/09(日) 17:10:49.74
カチャカチャ――

後輩「お箸、ここですか?」

マネージャー「そお」

後輩「ムニエルいい匂い……」

コトッ

マネージャー「ワインは自分で開けてよ。はい、コルク抜き」

後輩「はいッ」

後輩(……こう、目の前にしてしまうと、全てがどうでも良くなってしまう……)

後輩「……っしょ」

キュ、キュ、キュ――ポンッ

トプトプトプッ

後輩「……いい香り」

マネージャー「……全部飲んでいいよ」

後輩「……い、いえ」

マネージャー「酔っ払ったらベランダに干しといてあげる」

後輩「本当にしそうな所が怖いです」

54: 2014/11/09(日) 17:18:30.98
数十分後――


後輩「……」ゴクッ

マネージャー「……」

後輩「……」ゴクッ

マネージャー「あのさ」

後輩「……」チラッ

マネージャー「もう止めとけば?」

後輩「……」ゴクッ

マネージャー「ベランダに干しといたらいい?」

後輩「何言ってるんですか、こんなに寒いのに!」

ダンッ――グラグラ

マネージャー「暴れんなアホ」

後輩「一杯だけで止めるつもりだったんですけどね……えへへ」

マネージャー「無理だろ」

後輩「無理でした……」ゴクッ

マネージャー「確か、この辺りにチーズが」

ゴソゴソ

後輩「え、ホントですか!?」

ガバッ――ノシッ

マネージャー「重い!」

後輩「はッ……すいません」フラフラ

55: 2014/11/09(日) 17:26:10.90
後輩「……マネージャー」

ゴソゴソ

マネージャー「なに? あれ、確かこの辺に」

後輩「一人暮らしされてるんですよね?」

マネージャー「見たらわかるだろ」

後輩「はい……寂しくないんですか?」

マネージャー「あんまり」

後輩「私は寂しいです……夜はしーんと静まり返るし、一人でご飯を食べると嫌でも感じますし」

マネージャー「一人だからね」

後輩「……だから、つい、一人で呑んじゃう日とかもあって……」

マネージャー「おっさんか」

後輩「ふわーってなって、寂しい気持ちとか不安な気持ちが和らぐんです」

マネージャー「……そ」

後輩「マネージャーは強いですよね」

マネージャー「……誰かいる方が、しんどい」

後輩「嘘ッ……意地っ張りですね。こうやって、私のこともてなしてくれてるくせに……」

マネージャー「ワインを処理してくれる人、探してたから調度良かったわ」

56: 2014/11/09(日) 17:35:48.61
後輩「……いいですよ。それでも」

マネージャー「はい、チーズ」

後輩「ありがとうございます……」モグモグ

マネージャー「……ハムスターみたい」

後輩「え?」

マネージャー「いや」

後輩「マネージャーは一人暮らし長いんですか?」

マネージャー「……うんん、少し前までは友人とシェアしてた」

後輩「もしかして、あの写真の方ですか」

マネージャー「そう」

後輩「小さくて、可愛らしい方ですね」

マネージャー「……うん」

後輩「この方は今はどこにいるんですか?」モグモグ

マネージャー「実家に帰ったよ。もともと、興味本位でシェアしてただけだから。些細なことで、よく喧嘩してた」

後輩「マネージャーと喧嘩できるなんて凄いッ」

マネージャー「はあ? ……ま、ホントくだらないこと、残業の時はどっちが洗濯するか食器洗うかとか」

後輩「可愛いですね……」モグモグ

マネージャー「全然可愛くない……ホント憎たらしい。自分が損しないようにしか動かない奴だった」

57: 2014/11/09(日) 17:43:53.72
後輩「でも、やっぱりシェアするくらいだから、信頼してたんですね……」

マネージャー「うん……まあ。昔からの友達だった」

後輩「いいなあ、私も友達呼ぼうかな……」

マネージャー「仮に、もし誰かと一緒に住むなら、相手のことちゃんと理解しようなんて思わないように」

後輩「え?」

マネージャー「私は理解しようとして、嫌われたから……」

後輩「何かあったんですか?」

マネージャー「いや、喋りすぎた……もう、こんな時間か」

後輩「あ……ホントだ」

マネージャー「部屋まで帰れそう?」

後輩「大丈夫ですッ」

マネージャー「そう、近いから大丈夫だろうけど、気をつけて」

後輩「はいッ」


58: 2014/11/09(日) 17:57:10.97
後輩「マネージャーも、戸締りしっかりしてくださいね」

マネージャー「お前には言われたくない」

後輩「えー、何でですか」

マネージャー「酔っぱらい」

後輩「むー……あ、それと」ふらふら

マネージャー「と、しっかり立って」

後輩「さっき、理解しようとして嫌われたって言ってましたけど……」

マネージャー「?」

後輩「マネージャーが嫌われるなんてないですよ」

マネージャー「なんでそんなことが言えるわけ」

後輩「だって、こんなに優しいですもん」

マネージャー「……恥ずかしい奴」

後輩「ホントのことですもん」

マネージャー「酔っぱらいの戯言だ……けど、ありがと」

59: 2014/11/09(日) 18:05:46.86
後輩「それじゃあ、お休みなさい」

マネージャー「お休み」

ガチャッ――バタン



後輩「……眠い」フラ

後輩「……ふわあ」

後輩(……頬っぺたあつう……)

後輩(……マネージャーのあんな顔初めて見た……)

後輩(きっと、親友だったんだろうなあ……)

後輩(でも、嫌いになって実家に帰るのって……ピンと来ない……一緒にいたら辛いからって方がしっくりする)

後輩(それって……でも、どういう状態だろう……)

後輩「……ま、いっか」

後輩(マネージャー、やっぱり口ではああ言うけど、寂しいんだろうなあ)

後輩(……今度は私が招待しようかな)

後輩(また、からかわれそう……)

60: 2014/11/09(日) 18:17:59.09
それから数週間程――

会社に一本の電話が入った。課長不在中に主任が電話を取ったのが事の始まりだった。

主任「まずい」

後輩「どうしたんですか?」

主任「非常にまずい」

後輩「えっと」

主任「ウチの担当がポカった」

後輩「……え」ドキッ

主任「同期だよ、今、お客様から見積書の件でクレームが入った」

後輩「……」ほッ

後輩(はッ、ほっとしてる場合じゃない)

後輩「どうしましょうッ?」

主任「つっても、同期どこ行った?」

後輩「今日、公休ですよ……」

主任「ちょっと電話して事情を……」

ピパピポ――

主任「ちッ……出ないじゃないか」




61: 2014/11/09(日) 18:28:04.26
後輩「あの、課長に……」

主任「待て……それもまずい」

後輩「なぜですか?」

主任「わからんのか。本来なら二重チェックがあり、ミスがあれば俺の所で止めるはずだったんだぞ……」

後輩「……それは」

主任「とにかく、今すぐ得意先に行って謝罪せねばならん。もし、こちらの作った見積書で向こうが発注を完了していた場合、かなりの損害になる所だった……が、肝心の同期がいないのであれば、後輩ちょっとお前一緒に来い」

後輩「え」

主任「お前、課長のお気に入りだからな。もしかしたら、お前がやったことにすれば課長からの処罰も和らぐかもしれん。ま、まず、相手方の出方を見てからだが」

主任は早口にそう言って、出かける準備を始めた。

主任「なに、ぐずぐずしてるんだ。急いで支度しろ!」

後輩は混乱する頭で、返事をした。

後輩「は、はいッ」

62: 2014/11/09(日) 18:33:56.62
営業車内――

主任「いいか、仮にお前がやったことにする。すると、同期は助かる。そして、俺がうまいことお客様を言いくるめることができたら、このミスはなかったことになる。そうなると、どうだ、どこにも被害が出ない」

後輩「で、でも」

主任「……同期の首が飛ぶようなことになってもかまんと言うのか?」

後輩「そ、そういうつもりじゃ」

主任「なあに、俺に良い案がある。任せな」

後輩「主任……やっぱり課長に、それか統括マネージャーに相談したほうが」

主任「大丈夫だって」

67: 2014/11/09(日) 19:43:19.81
得意先――


社員「あの、こういっちゃアレですがね、おたくどんな教育してるんですか?」

主任「本当に申し訳ありません。この度は本当にご迷惑をおかけしました」

後輩「も、申し訳ございません」

社員「そういうのいいですから。会社としてどう責任取るんですか? こっちは数千万って損害が出るところだったんですが」

後輩「……」

社員「それと、そちらのミスした子に誠意が足りないような気がするんですが」

後輩「えッ……あ」

主任「申し訳ありませんッ。ほら、きちんと謝れ!」

後輩「は、はいッ」

主任は後輩の頭を深々と下げさせる。

社員「まあ、いいですけど」

主任「失礼しましたッ」

社員「それなりの対応をして頂けるのでしょうね。おたくの会社のことはよく知っているつもりです。これまでの実績から言うと、これからも長くお付き合いしていきたいのですが」


主任「え、ええその件につきましては―――」




68: 2014/11/09(日) 19:56:00.20
―――

――


後輩(……)チラ

主任「そ、そうなんです。そういう経緯があって、はい、最後に述べさせていただいた対応をさせて頂ければと」

社員「……そうですか。あなた、本当に今回会社の代表で来られた方なんですか?」

主任「え、は?」

社員「先程からずっと、言い訳ばかり。くどくどと説明されて正直うんざりです。それに」

主任「……ッ」ゴクリ

社員「会社として、対応すると言う言葉が一切なく、まるであなたが個人の権限で対応してくださるようにきこえるのですが。違いますか?」

主任「そういうわけでは決して……」

社員「まさかとは思いますが、この案件を軽く見ているのですか? もしかしてそれが御社の方針ということでしょうか。だとすると、こちらも考え直さなくてはなりませんね」

後輩(……ど、どうなったの……)

69: 2014/11/09(日) 20:00:08.90
主任「か、軽くみているなどと、とんでもございません!」

社員「……キミ」チラ

後輩「は、はい」

社員「喉が乾いたので……向かい側の部屋の女性にコーヒーを頼んでもらっていいかな」

後輩「え、っと」

主任「は、はいただいま。後輩、行ってこいッ。すぐ、今すぐにだッ」

後輩「はいッ」

タタタタ――

70: 2014/11/09(日) 20:10:12.00
ガチャ――

後輩「……はあ」

タタタ――

後輩「あ、あの」

女性社員「はい?」

後輩「あの、コーヒーを入れてきてもらうよう、あちらの部屋の社員さんに言われたのですが」

女性社員「ああ……どうも」

後輩「よろしくお願いします」ペコ

女性社員「……」チラ

後輩「あの、何か」

女性社員「なにをやらかしたか知らないけど、噂だけどあのおっさん枕で有名だから気をつけてね」

後輩「え? 枕って」

女性社員「おっと、コーヒー淹れないと」

後輩「?」



71: 2014/11/09(日) 20:15:25.13
後輩(……よくわからないけど、やっぱり課長に連絡しよう)

後輩(……でも、同期が……)

後輩(マネージャーに先に連絡しよう……)

ピポパ――

プルルル――

後輩「……出ない」

後輩「お願い早く出て……」

ガチャ

主任「お、おい後輩。何をしているんだッ」

後輩「はッ……」

ピッ

主任「早く来なさいッ」

72: 2014/11/09(日) 20:23:23.04
―――
――

後輩「え、で、できませんそんな……」

主任「後輩、我々には拒否する権限はないんだよ」

社員「そんなことありません。これは任意で決めて頂くものなのですから、強制力などありませんよ」

後輩「でも、そんな卑猥な服で接待なんて……」

社員「ただ、やらなかった場合は……あなた自身でどうなるかを想像してもらえれば助かります」

主任「もう、後には引けん。頼む、後輩」

後輩(な、何を言ってるの……?)

主任「これも、仕事だッ。一日のうちの1時間でいいんだ」

社員「私も次の用事がありますので、できたらあと数分で決めて頂けないでしょうか」

後輩(や……怖い……助けて……マネージャー)

主任「お願いだ……後輩」

ススッ

主任(お、俺には家庭がある……ここで引き下がれば、俺の独断がバレて会社を首になる可能性だってあるんだ……。そうなったら、そうなったらな、おまえ責任取れるか?)コソコソ

後輩(そ、そんな……)

73: 2014/11/09(日) 20:28:49.10
主任はもう何をどう言っても折れるつもりはないようだった。
そんなことを言われても、責任など取れるわけがなかった。
後輩は、パニックになっていた。社員を待たせている、これ以上無謀なことを言われたくないという焦りが後輩の口を開かせた。

後輩「わ、分かりましたッ……」

主任「た、助かるよッ」

社員「はあ、では明日の夜に。主任さん、場所と時間は追ってご連絡します」

主任「分かりました。ありがとうございますッ。ほら、お前も」

後輩「あ、りがとうございますッ……」

社員「では、お引取りください。ご苦労様です。くれぐれも、この件を外部に漏らさないように重々注意してください」

主任「わ、分かっておりますッ」

後輩「……」ぼー


74: 2014/11/09(日) 20:34:24.00
主任「帰るぞ、後輩。よくやった」

後輩「……」

主任「いいか、俺たちは運命共同体だ。もし、この件がバレたら、お前も俺もお先真っ暗だぞ」

後輩「……はい」

主任「ふー……一時はどうなるかと思ったが、なんとかなったな」

後輩「……」

主任「そんな顔するな。1時間程、水着エプロンでお酌するだけだろ……あ、そうだ。今日は俺が夜に一杯奢ってやるよ」

後輩「……ありがとうございます」

主任「焼き鳥屋でいいだろう」

その後も、主任はマシンガンのように喋り続けた。
すっかり疲弊した私の耳には、その内容はほとんど入ってはこなかった。

75: 2014/11/09(日) 20:38:16.53
その夜――

501号室

後輩「……」

ピリリ――

後輩「メール……。主任からだ」

後輩「明日、駅ビルの3階に午後8時」

後輩「……」

後輩「……」

ぽいッ――ぼさッ

後輩「……」

天井を眺めていると、微かに目が染みた。

76: 2014/11/09(日) 20:44:22.60
後輩「電気消そう……」

カチッ

後輩「あ、そう言えば鍵かけるの忘れてた……ま、いっか」

真っ暗なベッドの上で体育座りして、両膝に顎を埋めた。

後輩「……」

後輩「明日、駅ビルの3階に午後8時……か」

後輩「目まぐるしくて、今日何があったかよく分かんない……」

後輩「でも、明日何が起こるのかは分かる……」

プルル――

携帯を見ると、着信が入っていた。
マネージャーだった。

後輩「もう、遅いですって」

ピッ

携帯を切る。

後輩「……さっき主任に奢ってもらった一杯、吐いちゃった」

後輩「もったないことしたな……」

ピンポーン――
ピンポーン――

77: 2014/11/09(日) 20:49:08.86
後輩「……」

プルル――

ピッ

後輩「もしもし――あ、お疲れ様です。鍵空いてますよ」

ガチャッ

カツカツ――カタッ

後輩「……」

トタトタ――

マネージャー「電気もつけないで何やってるの?」

後輩「……ちょっと、考え事を」

マネージャー「昼間の電話何?」

後輩「もう、なんでもなくなって……すいません、ちょっと仕事で聞きたいことがあったんですが主任が解決してくれたので大丈夫になりました」

マネージャー「……大丈夫になった? 全然、大丈夫そうな人には見えないんですけど」

後輩「あはは、電気つけましょうかね……」

78: 2014/11/09(日) 20:56:52.46
マネージャー「いい、そのまま何があったのか言って」

後輩「今言いましたよ」

マネージャー「主任が何をどう解決したのか、具体的に。経緯を話せって言ってんの」

後輩「ご、ごめんなさい。言えません」

マネージャー「は?」

後輩「でも、ホントに解決したから大丈夫ですから」

マネージャー「……」

カチッ――
マネージャーが蛍光灯のスイッチを入れた。

後輩「……」

マネージャー「顔がパンダになってるんですけど」

後輩「ドライアイで……」

マネージャー「はあ……いいから、さっさと話せっての」

後輩「……」

マネージャー「もし、今あんたが喋ったことで誰かが困るって言うなら、右手を上げて」

後輩「……」

スッ

マネージャー「……分かった。じゃあ、その困る奴の責任は全部私が取るから喋りな」

79: 2014/11/09(日) 21:09:00.48
後輩「なッ……」

マネージャー「これでも統括マネージャーなんでね、私の首は重い」

後輩「そんなこと……」

マネージャー「新入社員のあんたが黙秘したくらいで、何かの責任が取れると思ってんの? おめでたい脳みそだわ。一人のミスは会社のミスだ。そんなことも分からない?」

後輩「……ッ」カアッ

マネージャー「だからアホなんだ」

後輩「わ、私だって、こんなこと」

マネージャー「だから、あんたの責任も追うつってんの……後輩は何もする必要がないわけ。分かったら、はよ喋れ」

後輩「……ッ」

マネージャー「……いい? 報告は義務。会社の規律は守れ。窓から投げ落とされたいの?」

後輩「……う」

マネージャー「保身のためでも、誰かを助けるためでもいいから、黙秘する理由は何でもいい。知りたいのは、後輩が何を知っているのかだけだ」

後輩「……ッ」

マネージャー「私はそんなに信用ない……?」

後輩「ち、違います」

マネージャー「……」ニコ

後輩「……あ」

マネージャー「任せて、大丈夫。何とかする」

80: 2014/11/09(日) 21:13:58.23
その後、私はマネージャーに洗いざらい喋ってしまった。
そして、大いに後悔しつつ、マネージャーが無言のまま部屋を去るのを見送った。



翌日――

主任の姿は見えなかった。

後輩「……あれ」

同期「……ねえ」

後輩「なに?」

同期「や、やばい。見積書、この間出した分……桁数間違えてた」

後輩「……あ」

同期「か、課長に……」

ガタッ

後輩「ちょ、ちょっと」

タタタ――

同期「課長!」

課長「ん?」

同期「あ、あのこの見積書なんですけど……」

課長「ああどうしたの?」

同期「桁数をミスってしまっていて」

81: 2014/11/09(日) 21:20:00.41
課長「なにいい!? ちょっと、これもう先方発注してるんじゃないの?!」

同期「ど、どどうしたらいいでしょうかッ!」

課長「そら、もう、謝って済めばいいけど……もしかしたら、あんなことやこんなことを要求されるッ」

同期「え、ええッ……」オロオロ

課長「かもしれないけど、大丈夫……もう、主任が手を打ってくれたから」

同期・後輩「えッ?」

課長「……ね」ニコ

後輩「……え」

課長「さあさあ、仕事に戻んなさい。同期は後で、今後の再発防止策を考えて私のところに持ってきなさい」

同期「は、はい」

課長「さ、アリども散ってよし」


82: 2014/11/09(日) 21:29:23.82
後輩「か、課長あの……」コソ

課長「……ちょろっと、相手の不祥事を有効に利用させてもらっただけだから心配しないで」

後輩「へ……?」

課長「長く色々な仕事をしているとね、こういった時の切り札をいくつか持てるようになるから」

後輩「は、はあ」

課長「迷惑かけてごめんね」

後輩「い、いえ……」

課長「それと、これ」

スッ

後輩「何ですか……これ」

課長「さあ? このメモを渡してってマネージャーに言われたの」

後輩「……」

カサカサ

大きく『アホ』と書かれている。

後輩「……」

課長「なんて書いてあったの?」

後輩「あ、いえ……ッ」

83: 2014/11/09(日) 21:43:47.67
その日の夜、私はどうしても気になって予約しているお店を覗きに行った。
すると、そこには誰もいなかった。

後から主任から聞いた話だが、あの社員が、あの夜に主任に謝罪に来たそうだ。
そして、同期が自分のミスを発覚した後に、主任は課長にこっぴどく叱られた。

同期が自分のミスを一体どうやって発見したのかというと、なぜかもう一度、
商社の方から見積書のミスを指摘したメールが届いており、それを見て課長に報告したのだということだった。




後輩「……何が起こったんだろう」

同期「あー……気を付けよ」

後輩「うん、ほんと気を付けよ」

同期「今日、一杯付き合ってくれない?」

後輩「いいけど」

同期「やった」

後輩「……?」

84: 2014/11/09(日) 22:05:44.79
それから1週間程――


カツカツ

後輩「……あれからマネージャーに全然合わないな」

マネージャー「私が何?」

後輩「……マネージャー!」

マネージャー「?」

後輩「あ、あの、なんだか自分でもよく分からないんですけど、今回はありがとうございました」ペコ

マネージャー「ほんとに、ちょろい後輩を持つと苦労する」

後輩「……す、すいません」

マネージャー「何とかするって言ったじゃん」

後輩「はい……」

マネージャー「主任にはあまり近づかないように」

後輩「それは、はい、もう身に染みて……」

マネージャー「あれは自分のことしか考えてないから」

後輩「あはは……」

マネージャー「それと」

後輩「は、はい」

マネージャー「毎度、こうやって面倒見れるわけじゃない。次はないから」

後輩「はいッ……」シュン

マネージャー「……ッ」キョロキョロ

後輩「?」

マネージャー「……ごほんッ。私は後輩のことけっこう好きというか気に入ってるから、その、あー……仕事じゃあんたの代わりはいるけど、プライベートだと代わりは効かないんだし……無茶するな、バカ」

マネージャーは形容しがたい表情で、私にデコピンしてきた。

後輩「いたッ?!」

マネージャー「ほら、アリは散った散った」

後輩「……」ドクッ


カツカツカツ


後輩「……」ドクンッ

同期「こうはーい、お待たせ……」

後輩「あ……」ドクンッドクンッ

同期「顔赤いけど、熱でもあるの?」

後輩「え……?」

89: 2014/11/09(日) 23:28:48.36
―――
――



翌日、朝礼――

後輩「……」ぼー

マネージャー「珍しいじゃん、私の横に来るなんて」

後輩「え? あ、あれ」ドキッ

ささッ

マネージャー「なんで後ずさる」

後輩「な、なんとなく」

ささッ

同期「後輩? なんで、私の後ろに来るの?」

マネージャー「?」

後輩「あはははッ……」ドキドキッ



90: 2014/11/09(日) 23:51:47.94
昼休み――

課長「ねえねえ、これ見てー」

後輩「なんですか?」

同期「写真?」

課長「これさ、一年目のマネージャーで、これ四年目の私ね」

集合写真のようだ。社長と専務を中心に並んでいる。
桜がその周囲に咲き乱れていた。

後輩「どこでとったんですか?」

課長「一駅向こうの公園だったかなー。お花見のやつね。この頃って、ホントにマネージャー荒れててさ、この子の同期から「怖い」「どうにかして欲しい」って苦情が沢山出たっけ」

同期「へー……」

課長「甘い考えとか、諦めるとかってことを知らなくってさ……入ったばかりの新人には改善前の体制はキツかったと思うのに」

同期「改善前?」

課長「会社の体制というか待遇とか福利厚生とか、昔は良くなかったからね。今は、マネージャーや私とかが変えていったから前よりもラクになったよ」

同期「そうだったんですね……後輩?」

後輩「……」じッ

後輩(……うわあ、うわあ。むっちゃ可愛い……)



91: 2014/11/10(月) 00:03:59.23
課長「どうした、アリんこ?」

同期「そう言えば、よくマネージャーも私のことアリって呼ぶんですけど、なんのことですか?」

後輩(……え、同期も呼ばれてたの……課長はともかくとして……じゃなくて)

課長「働きアリのアリさんのこと。小さい体でも、たくさん仕事してくれるようにって想いを込めて」

同期「えー……なんかイヤです」

課長「えーって、後輩はイヤ?」

後輩「わ、私はむしろ……嬉しいです」

課長「後輩は嬉しいって」

同期「変なの」

後輩「あはは……」

92: 2014/11/10(月) 00:08:24.87
カタカタ――

後輩「……」

カタカタ――

後輩「……」

カタカタ――

後輩(あー……もう、頭から離れない)

キイ――ガタタンッ

後輩「ちょっと、お花摘みに行ってくる」

同期「ぶッ……あ、ああ、うん」

コツコツ

ガチャッ――バタン

93: 2014/11/10(月) 00:16:54.92
ジャー

後輩(この間の、マネージャーのデレた顔が……離れない)

後輩(もう、もう、もう……!)

後輩(仕事に集中したいのに……!)

後輩(マネージャーのせいだ……)

キュッ

フキフキ――

後輩(なんだろ……息苦しい)

後輩(……ワイン、また、飲みに行ってもいいかな)

後輩は鏡に映った自分を見つめる。

後輩「……」

94: 2014/11/10(月) 00:34:38.12
その日は、ありえないミスを三度程して、半べそで家に帰った。

ガサガサ――

後輩「……結局、買ってきてしまった。明日、休みだしいいよね」

カシュッ

後輩「……寂しい音」ゴクゴク

後輩(……今日、意味分からないくらい、マネージャーのことしか考えてなかったな)ゴクゴク

後輩(なんか、ごめんなさい、マネージャー)ゴクゴク

カシュッ

後輩(いや、別に悪いことしてるわけじゃないんだけど)ゴクゴク

ガサガサ――

パカッ

ヒョイッ

後輩「あ、このカルパッチョ美味しい……幸せ」モグモグ

カシュッ

後輩「……」ゴクゴク

ピンポーン!

後輩「……?」ヨロ

トタトタ――

後輩「はい……」

ガチャッ

103: 2014/11/11(火) 21:53:29.39
宅配の人「お届けものデース」

後輩「あ……はい」

宅配の人「ここに印鑑お願いしマース」

後輩「はい」

ポン

宅配「ありあーす」

後輩「……」

ガチャ――バタン

後輩「……」

後輩(はあああ……)

後輩(マネージャーかと思った……び、びっくりした)

後輩(いやいや、なに期待してるの)

後輩(そうそう来るわけないから、そういうのいいから……)

104: 2014/11/11(火) 22:08:45.64
ドサッ

後輩「……お母さんからだ」

後輩(ハム……お米……食料ばっかり)

後輩「……手紙?」

カサカサ

後輩「……『元気かな? お金足りてる? 次はいつ帰ってくるのかな? こっちは最近やっと写メールの送り方を覚えました。寒くなってきよるから、風邪に気をつけてね。湯たんぽあったかな? 無かったら近くのホームセンターとかにあると思うけんね。無理せんようにね』……」

後輩「……もう」

後輩(……子ども扱いして)

後輩(……ホントに、もう)

後輩(……)ジワ

後輩(……あ、やば)ポトポト

後輩(……)ポトポト

後輩「へへ……手紙、にじんじゃった」

 

105: 2014/11/11(火) 22:12:53.56
後輩「……」ズズッ

ピンポーン!

後輩「え、えッ……か、顔やばい、どうしよッ」

後輩「と、とりあえず吹かないとッ」

ピンポーン!

後輩「ああ、でも鼻赤くなってるッ、絶対なって」

ガチャッ

後輩(ええ!? 勝手に入ってきた!?)

マネージャー「こ……」

後輩「あ」

マネージャー「……」

後輩「こ、こんばんわ……」ズズッ

106: 2014/11/11(火) 22:23:20.81
マネージャー「なんで泣いてんの?」

後輩「こ、これは」アセアセッ

マネージャー「……なんかあった?」

後輩「あの……」

後輩(い、言えない。お母さんの手紙で涙腺緩んだなんて……)カア

後輩「何でもないんです!」ニコ

マネージャー「へえ、私にも言えないこと?」

後輩(……お、怒ってらっしゃる?)ギクッ

マネージャー「そっか、へえ、ま、別にいいけど」

後輩「お、怒らないでください……」

マネージャー「いや、怒ってないし」

後輩「怒ってますよ……」

マネージャー「しつこい」

後輩「な、なんでもいいじゃないですか」

マネージャー「……うん、なんでもいいよ。それと、これ」

ガサ

後輩「?」

マネージャー「ワイン、残りあげるから。あと、パスタ余ったから食べたかったら食べれば」

後輩「え……あ、ありがとうございます」

マネージャー「じゃ」

後輩「……え、ま、待って!」

ガシッ

マネージャー「……なに」

107: 2014/11/11(火) 22:32:49.79
後輩(お、思わず掴んじゃったけど……この後、どうすればいいの……?)

後輩「せっかく持ってきてくださったのに……良かったら一緒に飲みましょうよ」

後輩(って、マネージャー飲めないよ!)

マネージャー「私、飲めないけど」

後輩「……ですよね」

マネージャー「後始末してくれるんなら、飲むけど?」

後輩「後始末? ……あ、し、します!」

マネージャー「お前も、好きね。その辺り、課長に似てる」

後輩「課長に?」

マネージャー「飲んだくれな所とか」

後輩「私、そこまで飲んでませんもん……!」

マネージャー「はいはい、てか寒いから入れて」

後輩「あ、どぞどぞ」

マネージャー「ところでさ」

後輩「はい?」

マネージャー「……泣いた理由。何か悩みがあってとかじゃないってことでいいわけ?」

後輩「は、はい! もう、ホントに個人的な理由なんです……」カア

後輩(も、もう引っ張らないでください……)

マネージャー「そ。じゃあいいわ」

後輩(あ……心配してくれたのかな)

108: 2014/11/11(火) 22:40:14.12
後輩(ホント……優しいなあ)

トタトタ――

マネージャー「いつまで掴んでんの」

後輩「はッ」



――――
―――
――

トプトプ

マネージャー「ちょ、注ぎ過ぎ!」

後輩「大丈夫ですよー……」

トプトプ

マネージャー「言っとくけど、マジで飲めないからね」

後輩「吐くならトイレに行ってくださいね」

マネージャー「どんだけ飲ませる気だ、バカ」

後輩「これだけ」

ワイングラス、一杯を指で指し示す。

マネージャー「……ッ」

後輩「乾杯しましょうよ」

マネージャー「何に?」

後輩「……今週もお疲れ様みたいな」

マネージャー「はい、カンパーイ」

チン

後輩「え、早過ぎですッ……私、グラス持ってもなかったですよ!?」

マネージャー「はいはい」

後輩「もう!」


109: 2014/11/11(火) 22:48:51.11
マネージャー「てか、今日一人晩酌予定だったわけ?」

後輩「……は、はい」ギクッ

マネージャー「私、別にいらなかったんじゃないんですかー?」

後輩「そ、そんなことないですッ!」

マネージャー「寂しい奴」

後輩「ち、違いますッ。マネージャーの所行こうかなって迷ってる所だったんですッ……はッ」チラ

マネージャー「うわ、来るつもりだったの。止めてくれる? 酔っ払いなんてメンドくさいだけなんだから」

後輩「ひどい。私、けっこう上品に酔いますもん……」

マネージャー「上品も下品もある……?」

後輩「んー、なんだか、マネージャー酔っ払いに対して偏見が多いですけど……何か昔あったんですか?」

マネージャー「……」ギクッ

後輩「?」

マネージャー「課長に……」

後輩「課長に?」

マネージャー「……」

後輩「はやくー」

マネージャー「……はやくー、じゃないわ!」

ペシッ

後輩「あいたッ」

110: 2014/11/11(火) 22:55:56.26
マネージャー「飲んでから……話す」ゴクゴク

後輩「あ」

マネージャー「……ふー」

後輩「すごいですッ。頑張りましたね!」

マネージャー「上から目線やめてくれます?」

後輩「すごーい、すごーい」パチパチ

マネージャー「……」イラッ

グニ

後輩「ほ、ほっぺつねらはいでくらはい……」

マネージャー「酔ってんの?」

後輩「酔ってますません」

マネージャー「どっち……」

後輩「どっちでもいいじゃないですか……課長の続きが聞きたいです」

111: 2014/11/11(火) 23:01:15.34
マネージャー「課長ってさ、酔うと見境なく、誰にでもキスしてくるんだけど」

後輩「……ま、まさか」

マネージャー「私はされてない」

後輩「良かった……」ほッ

マネージャー「?」

後輩「あ、いえいえ……ッ」

マネージャー「キス魔はまだいいけど、脱ぎ魔が困る。その場で、暑いからパンツ一枚になる」

後輩「ぶッ…ごほごほ」

マネージャー「で、その後、寒いって言って誰彼構わず抱きついてくる」

後輩「……わあ」

マネージャー「……そして、相手の身包みも剥がしにかかる」

後輩「……ま、まさか」

マネージャー「それは……やられた」

後輩「ええ!?」フラッ

ドサッ

マネージャー「なにそのオーバーリアクション……そんなクオリティ求めてないけど」

112: 2014/11/11(火) 23:09:36.51
後輩「……すいません」

後輩(……なんだろ、よく分からないけど、ショック……)

マネージャー「課長に誘われたときは、気を付けなよ」

後輩「はい……」

むくり―

後輩(身包み剥がされちゃったんだ……)チラ

マネージャー「私は……それ以来、お酒に対して抵抗が増した」

後輩「はは……」

マネージャー「課長は、旦那がいるのにあのはっちゃけぶりだから……凄いわ」

後輩「え、課長旦那さんいるんですか?!」

マネージャー「オランウータンみたいなのが一匹住んでた」

後輩「ちょッ……動物飼ってるみたいに言うの止めてあげてくださいッ」

マネージャー「課長が自分で紹介する時なんてもっと酷いよ。『うちの猿見る? 餌やるの禁止ね』だから」

後輩「……ええ。そんなものなんですか?」

マネージャー「さあ。いないから分からないけど」



113: 2014/11/11(火) 23:17:25.92
後輩「マネージャーは……か、彼氏さんとかいるんですか?」ドキドキ

マネージャー「いや、いない」

後輩「……つ、作ったりしないんですか?」

マネージャー「正直、仕事が忙しくてできない……ってのは言い訳か」

後輩「マネージャーモテそうなのに……」

マネージャー「ん……でもさ、なんて言うか」

後輩「?」

マネージャー「男の人から告白されるより、女の人からの方がぶっちゃけ多い……」

後輩「……へえ」ドクンッ

後輩(……あれ? 何か、また、変な感じ……)

マネージャー「男っぽいからか……」

後輩「見た目は、すごく美人ですよね」

マネージャー「見た目はあ?」

ゴリゴリ

後輩「あ、ごめ、ごめんなさいッ……頭ゴリゴリしないでくださいッ」


114: 2014/11/11(火) 23:26:36.96
マネージャー「……性格のせいかな」

後輩「……マネージャーは、凄く可愛らしい性格だと思いますよ?」

マネージャー「……」

ゴリゴリ

後輩「え、ああ、いたッ……いたたたッ……!」

マネージャー「口が軽い女は嫌いです」

後輩「ほ、ホントにそう思ってますッ」

マネージャー「……」

後輩「マネージャーは、照れ屋で可愛いですッ」

マネージャー「年上に言うセリフじゃないわ……」

後輩「ホントなのに……」

マネージャー「後輩こそ、彼氏いないの?」

後輩「うーん……大学の時に……いましたけど、何だか気を使いすぎちゃって……別れちゃいました。難しいですよね……遠距離って……寂しいって一言が言い出せなかったんです」

マネージャー「なんで?」

後輩「……相手に、負担になるんじゃないかなって」

マネージャー「ふーん。まあ、それで別れるなら、その程度の相手なんじゃない。知らんけど」

115: 2014/11/11(火) 23:37:33.93
後輩「……そうかもしれないですね」

マネージャー「今でも、付き合いたい?」

後輩「いえ……それはないです」

マネージャー「吹っ切れたんだ」

後輩「みたいですね。まあ、私が一方的に遠慮しちゃっただけなんですけどね」ニコ

マネージャー「ふーん、まあ飲みなって。手が止まってる」

後輩「あ、はい」ゴクゴク

マネージャー「後輩は、いい女だと思うよ」

後輩「……ブッ……ゲホゲホッ!?」

マネージャー「ちょ、汚い!」

後輩「ず、ずいまぜん……けほッ」

マネージャー「私が男だったら、付き合ってる」

後輩「……」ビクッ

マネージャー「だから、ありのままでいたらいいよ」

後輩「……ッ」ドクンドクンッ

後輩(……呼吸………止まりそう…)

マネージャー「どうした?」

後輩「……いえ。ありがとうございます」

マネージャー「?」

後輩(……なにこれ……なにこれ)

116: 2014/11/11(火) 23:47:26.28
マネージャー「……どうし」

スッ――パシッ

後輩「……あ」

マネージャー「なんで叩いた? 殴りゃせんて」

後輩(……やばいやばいやばい)ドクドクドクッ

マネージャー「……水飲む?」

後輩「……」コクコク

マネージャー「コップ借りるよ」

スクッ――とたとた

後輩「あッ……す、すいませんッ……自分でやりますからッ」

ガタッ――ドタタッ

マネージャー「ちょ、危ない?!」

後輩「わッ……」

私は、思い切りマネージャーの体に突進した。
狭いキッチンで、なぎ倒しになった。

後輩「いったッ……」

マネージャー「おま……ふざけんな」

後輩「ごめんなさいッ……」

後輩(近い近い近い……氏ぬッ……心臓破裂して氏ぬ……)ドキドキドキッ

118: 2014/11/11(火) 23:58:49.58
マネージャー「……後輩?」

後輩(うわああん……耳元で喋らないで……)

マネージャー「……あー、もしかして嫌なこと思い出させた? ごめん」

マネージャーがそっと背中に腕を回す。

後輩(……だ、だめええッ、何が?! とにかく、ダメッ!)

後輩「や、やめ」

マネージャー「……後輩さ、なんか心臓むっちゃドキドキしてない? 大丈夫?」

ピト――

後輩「ひッ……あッ」カア

マネージャー「……え?」

後輩「……さ、触らないでくださいッ……」

マネージャー「はあ? 別に好きで触った……んじゃ……後輩、まさか」

後輩「え?」ドキッ

マネージャー「吐きそう?」

後輩「……」

マネージャー「ちょ、トイレ行けバカ」

後輩「……吐きませんよ」

119: 2014/11/12(水) 00:05:43.79
後輩(わ、私のドキドキ返してッ)

後輩(……じゃなくて……私、私、わた、わた……)

マネージャー「はよのけ」

後輩「……はい」

ガタッ

マネージャー「こうやって、男も落とすの?」

後輩「し、しませんよ! こんなの、こんなことって……」

マネージャー「ご、ごめんて。口が悪かった……」

後輩「いいですよッ……別にッ……全然、気にしてないですしッ」グスッ

マネージャー「なんで泣く……」

後輩「……し、知りませんよッ」ポロポロ

マネージャー「……はあ」

後輩「こっち見ないでくださいッ……恥ずかしいんですから!」ポロポロ

マネージャー「……はいはい」

後輩(気が動転しちゃって涙が……あ、頭おかしな子だと思われてる……絶対思われてる)


120: 2014/11/12(水) 00:18:23.71
マネージャー「外行ってようか?」

後輩「何でですか……ここにいてください」

マネージャー「すっごい気まずいんだけど」

後輩(……たじろいでるマネージャーも何だか可愛い)チラ

マネージャー「……」

後輩「……あ、あの、私」

マネージャー「うん」

後輩(……私、私、変……マネージャー抱きしめてキスしたいって思ってる……して欲しいって思ってる)

後輩「酔っ払ってしまったみたいです……」

マネージャー「知ってるけど」

後輩「……ちょっと、休憩します。あの、良かったらお風呂沸いてるので入ってください」」

マネージャー「あー……どうしよ」

後輩「あの、パーカーそこのタンスに……あるので、使ってください……」

マネージャー「じゃあ、借りるけど……水、飲んどいて」

後輩「……あ、はい」

マネージャー「コップ持てる?」

後輩「はいッ」

マネージャー「……一緒に持っておくわ」

後輩「……ッ」んくんく

マネージャー「なんか子羊みたい」

128: 2014/11/12(水) 23:06:44.33
後輩「……」ごくごく

マネージャー「大丈夫そう?」

後輩「あ、あんまり」

マネージャー「まあ、ゆっくり飲めばいいよ」

後輩(ごめんなさい……ホントは自分で飲めます……)

後輩(コップ持ってる手の上に……マネージャーの細い指が重なってるだけなのに……)ゾクゾクッ

後輩(なにやってるんだろう……)

後輩「……けふッ」

マネージャー「もういい?」

後輩「はい……」

マネージャー「……」じッ

後輩「な、なんですか」

マネージャー「いや、じゃあお風呂借りるわ」

後輩「はい」

トタトタ――

129: 2014/11/12(水) 23:27:24.35
後輩「……ッ」プハッ

後輩「つ、疲れた」

後輩(な、なんでこんなにドキドキするんだろ……わ、私……もしかして女の人でも大丈夫なのかな……)

後輩(で、でも今まで友達と宅飲みしたって……こんなことなかったのに)

後輩(し、しかも……唇ばっかり目に入って)

後輩(酔ってるせい……そうだ……きっと、そのせいだ)

後輩(だって、普通に考えて……おかしいし……)

後輩(マネージャーは、女性なのに……こんなの……知られたら……嫌われるよ)

後輩(マネージャーに……嫌われたくない。気のせい……だよ。マネージャーのこと大好きだから……緊張しちゃって……)

130: 2014/11/12(水) 23:43:34.82
後輩(……)

携帯を取り出す。

後輩(同性、ドキドキで検索、検索ッ)

後輩(……友達じゃなくなった、引かれた、距離を取られた……)

後輩(……怖いことしか書いてない……)

後輩(……なにこれ、絶望を味わった?)

後輩(こ、怖い……怖すぎるよ)

後輩(で、でも……もう少し希望を……はッ、だ、ダメダメ! 希望持っちゃダメだって……)

後輩(憧れを、好きと勘違いしているパターン……こ、これかな)

後輩(勘違い……だよね)

後輩(……だって、男の人にだって普通に恋愛感情持つし……)

後輩(落ち着こう……落ち着いて)ウトウト

後輩(……ねむい)ウトウト

131: 2014/11/12(水) 23:51:51.65
後輩(あ、お布団敷いておかないと)

とたとた――

ゴソゴソ――ボスンッ

後輩「……そう言えば、飲み会でマネージャーが泊まった時、ここで寝てたんだよね……」

後輩(この布団の上に、ちょっと頭が弱くなってたマネージャーが……)ドキドキ

後輩「……」ゴクッ

サワサワ――

後輩(い、いやいや、なんで布団撫でてるの? 馬鹿でしょ……)

ゴロン――

後輩(……うわ、転がっちゃったし)

ゴロゴロ――

後輩(恥ずかしい……恥ずかしすぎて、氏んじゃう……)

ゴロゴロ――ピタッ

後輩(……洗濯したからフローラルな匂いがする)




132: 2014/11/13(木) 00:08:25.05
後輩「……マネージャー」ボソッ

後輩(……今、お風呂に入ってるんだっけ)

後輩(……)ドキドキ

後輩(中学生じゃあるまいし……別に)ドキドキ

後輩(だ、だめだ……中学生だ……)ドキドキ

後輩(平常心、平常心)

後輩「……うッ」

後輩(なんで、家に上げちゃったんだろ……上げなかったらこんなことにならなかったんじゃ)

後輩「……あ、タオルも用意しないと」

トタタ――

脱衣所

シャアアア


133: 2014/11/13(木) 00:14:45.97
後輩(生々しい音が……)

後輩(……タオル置いておきますよー)

ぽふッ

後輩「……」チラ

シャアアア

後輩「湯気が邪魔して……」

マネージャー『後輩? なに?』

後輩「あッ? い、いえ!?」

ガタタッ――ズルッ――ズテンッ!

後輩「いッ……った!?」

ガラッ!

マネージャー「どうした?!」

ポタポタッ

後輩「……ひいッ!?」

マネージャー「……なんだ、転けただけか」

後輩「ま、前! 前くらい隠してください……」

マネージャー「いや、そんな余裕なかったから」

139: 2014/11/13(木) 21:40:38.46
後輩「と、とりあえずなんともないのでッ」

むくり

後輩「……風邪ひいちゃうから、戻ってください」

マネージャー「言われなくても」

ガラッ

後輩「……」

後輩(今年一番の衝撃映像が目に焼き付いて……離れません)

後輩(女の人の裸で興奮するなんて……ありえない……ありえません)

後輩「……はあッ」

私はしゃがみこんで頭を抱えた。

140: 2014/11/13(木) 21:47:05.81
リビング――

アナウンサー『明日の天気は晴れのち――』

後輩「……」ウトウト

トタトタ

後輩「……」カクン

トタトタ――ピタ

マネージャー「後輩」

後輩「……うあッ、はい」ビクン

マネージャー「ありがと、出たよ」

後輩「……はい……」

マネージャー「入らないの?」

後輩「あと、5分……」ウトウト

マネージャー「歯磨いて、風呂入ってから寝ろ……って、私しゃ、あんたの母親か」

ぺしッ

後輩「う……頑張ります」

マネージャー「ほら、行ってこい」

141: 2014/11/13(木) 21:51:01.51
風呂場――

後輩「……」ウト

ヌギヌギ

パサッ

後輩「……」ウト

ヌギヌギ

パサパサッ

後輩「あ」パチ

後輩(……さっき、マネージャーにノリツッコミされた?)ドキ

143: 2014/11/13(木) 22:00:34.82
――翌朝


後輩(……)

むくり――

後輩(緊張しすぎて眠れないと思ったけど……いつの間にか朝になってた)チラ

マネージャー「……すー」

後輩(ぐっすり眠るマネージャー可愛いい……)二ヘラ

後輩(……私の隣でこの人寝てたんだよね……しかも今回で二回目……)

後輩(今、顔気持ち悪い……考えてることが気持ち悪い……)

ソッ

後輩(寝顔見てみたい……でも、起きたらどうしよ……いや、まず、見るのなんだか恥ずかしい)

マネージャー「……すー」

後輩「ちょ、ちょっとだけ……」

ススッ

後輩「……」チラ

マネージャー「すー……」

後輩(……軽く手の平握ってる……赤ちゃんみたい)

後輩(無防備……です……卑怯ですよ……マネージャー)

ゴソッ

後輩「へ?」

グイッ

後輩「……ゃッ?!」




144: 2014/11/13(木) 22:08:16.53
マネージャー「……ん」

ギュウ――

後輩「ま、ままね……?!」

マネージャー「んん……」

後輩(吐息が……くすぐったいッ)

マネージャー「……に」

後輩(だ、抱きしめられてるううう……ッ)ドクンドクンッ

マネージャー「ごめん……」

後輩「え……?」

マネージャー「……知らなかった」

後輩「……な、に、え?」

ギュウ――

後輩「うッ」

マネージャー「……あ」パチ

後輩「……あ」ビク




145: 2014/11/13(木) 22:21:05.30
マネージャー「……」パチパチ

後輩「お、おはようございます……」

マネージャー「なに……?」

後輩「……え、えーと?」

マネージャー「……まあいいや、このまんまで」

ぎゅう――

後輩(ええええ?!)

マネージャー「温かい……安心する」

後輩(寝ぼけてるんですか……夢見てるんですか)

マネージャー「人の頭……抱えてるのって」

後輩(ッ……もしかして、私のことからかってるんですか……?)

後輩(って、それはないよッ)

マネージャー「……今日、日曜か」

後輩「そ、そうですね……」

マネージャー「ふわあ……」

後輩「あ……マネージャー」

マネージャー「なに」

後輩「さっき……寝言言ってましたよ……」

マネージャー「……」ピクッ

後輩「何言ってたか……言いましょうか?」

マネージャー「……いや、分かるからいい」

後輩(分かる……?)

146: 2014/11/13(木) 22:34:51.95
マネージャー「……」

後輩「……それって」

マネージャー「後輩には関係ないことだから」

後輩「……」ズキッ

マネージャー「忘れて」

後輩「……はい」

マネージャー「……なんて顔してんの」

後輩「マネージャーこそ……」

マネージャー「私は……いやなんでもない」

後輩「……?」

マネージャー「そろそろ起きるか」

後輩「あの、朝ご飯どうしますか?」

マネージャー「……ん、もし良かったらだけどモーニング行かない?」

後輩「いいですよ」

マネージャー「一駅向こうの桜並木が有名な公園の所にあるカフェなんだけど、まあ、味は悪くない」

後輩「行きたいです」

後輩(一駅向こうの……桜並木の公園って)

147: 2014/11/13(木) 22:46:30.17
マネージャー「じゃ、30分後には出る」

後輩「は、はいッ」

バタバタ――




――――

――


――マンション入口


マネージャー「行ける?」

後輩「大丈夫です」

マネージャー「車と電車どっちがいい?」

後輩「電車でもいいですよ。なんだか、プチ旅行みたいで楽しそうですよねッ」

マネージャー「……じゃ、電車にしよっか。徒歩5分くらいだし」

後輩「はい」

148: 2014/11/13(木) 22:52:16.52
テクテク――

後輩「こうやって、徒歩で行くの新鮮です」

マネージャー「そう?」

後輩「こっちで暮らし始めて、街並みをのんびり見る暇なんてありませんでしたから」

マネージャー「確かに私も来たばかりの頃はそうだったかもね」

後輩「あ、あそこのポスト可愛い。赤い電車ですよッ」

マネージャー「朝から元気良すぎ」

後輩「だって、楽しいんです」

マネージャー「徒歩が?」

後輩「違いますよー」

マネージャー「まあ、なんでもいいけど、電柱ぶつかる」

後輩「ええ?!」

ゴンッ――

149: 2014/11/13(木) 22:57:50.94
駅――

後輩「人少ないですね」

マネージャー「田舎の駅はこんなもんでしょ」

後輩「隣のパン屋から焼きたてのいい匂いがしますよッ」

マネージャー「これからモーニング行くけど」

後輩「う……分かってます」

マネージャー「後輩って、だいぶ食い意地張ってるけど、体重何キロ?」

後輩「絶対教えません!」

150: 2014/11/13(木) 23:06:13.32
――電車内

ガタン、ガタン――

後輩「市内電車って便利……」

マネージャー「そうね」

後輩「朝の日差しに包まれながら、電車に揺られるのもいいものですね」

マネージャー「詩人か。通勤ラッシュ時なら絶対思わん」

後輩「それはそれ、これはこれ」

マネージャー「はいはい」

後輩「なんだか、私のあしらい方慣れてきてません?」

マネージャー「後輩こそ、前はあんなにビクビクしてたのに、小生意気になったんじゃない」

後輩「マネージャーのせいですからね」

マネージャー「なんで」

後輩「マネージャーには、何だか負けたくないって思っちゃうんです」

マネージャー「何に対してか知らんけど、勝てると思ってる?」

後輩「いえ」キリッ

151: 2014/11/13(木) 23:24:04.47
公園――

ザアアアッ

後輩「ちょっと風が出てきましたね」

マネージャー「夕方から降るって行ってたから、ま、食べたら帰るし大丈夫でしょ」

後輩「あれ、白くて……小さな桜が咲いてますよ」

マネージャー「冬桜じゃない?」

後輩「へー……初めて見ました。寒くても桜って咲くんですね。凄いですね」

マネージャー「……」じッ

後輩「ちょっと儚い感じ……」

マネージャー「あの、煙突付いてる所、目的地」

後輩「わあ、ムーミンの家みたい」

マネージャー「あー、言われてみれば」

後輩「私、ニョロニョロ大好きなんです」

マネージャー「そう言えば後輩ってニョロニョロに似てるよね」

後輩「ええッ」

マネージャー「なにさ、好きなんでしょ」

後輩「どこが似てるんですか」

マネージャー「目」

後輩「目!?」

158: 2014/11/15(土) 14:37:22.03
店内――

店員「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

マネージャー「大丈夫です」

店員「もう暫くお待ちください」ペコ

後輩「はい」ペコ

マネージャー「……」

後輩「なんですか?」

マネージャー「いや、以前一緒に来てた友達と同じもの頼んでたから」

後輩「ベーグルはパンプキンで、ポタージュはほうれん草ですか?」

マネージャー「そう」

後輩「好みが似てるのかもしれませんね。どういうお知り合いの方なんですか?」

マネージャー「ルームシェアしてた子」

後輩「……ああ」ドキ

マネージャー「言ってなかったけど、出身地が同じでさ、会社の同期だった。もう、辞めて今はどこで何してるかしらないけど」

後輩「そ、うなんですか」

マネージャー「ほんと、あいつ今頃何してんだろ……」

後輩「な、仲が良かったんですね……」

159: 2014/11/15(土) 14:54:15.66
マネージャー「課長を除けば、あいつだけだったからね、私に近寄ってきたの」

後輩「そう言えば、課長が昔は同期にも怖がられてたって言ってました……」

マネージャー「あー、一度同期連中に厳しくし過ぎて、泣かせたことはあったかな。だから、今でも話しかけてくる奴は少ないし、平然と文句を言ってくるのもあんたと課長くらいだわ」

後輩「マネージャーって、もしかして元ヤンだったり?」

マネージャー「ヤンキーって程じゃないけど、まあ授業中に大人しく座ってるタイプの人間ではなかった」

後輩「髪の毛とかも金髪にしてたり……」

マネージャー「友達がしてたわ。めちゃくちゃダサかったけど。私自身も、親に迷惑ばっかりかけてたかな」

後輩「……そうですか」

マネージャー「引いた?」

後輩「いえ、意外な発見をして嬉しいです」ニヤニヤ

マネージャー「何にやついてんの。気持ちわる。後輩は学生の頃はどうだったわけ?」

後輩「私は大人しい少女でしたよ」

マネージャー「へー」

後輩「そんな興味なさそうに返事されると傷つきます!」

マネージャー「後輩ってさ、なんかいじられてそう。そんで、弄られてることにも気づかなさそう」

後輩「なんですか、それッ。マネージャーは、人を弄るのを喜々としてやりそうですよね」

マネージャー「分かってるじゃん」

後輩「……ええ、まあ」

160: 2014/11/15(土) 15:04:09.76
マネージャー「部活とか入ってなかったの?」

後輩「部活っていうか、ボランティア活動してました」

マネージャー「どんなの?」

後輩「子どもの教育とか環境保護イベントとかををお手伝いしたりです」

マネージャー「うわ、やってそうやってそう」

後輩「うわってなんですか、もうッ」

マネージャー「あははッ、なんでやってたの?」

後輩(……うわ、今の笑った顔、可愛い)

後輩「母親がやってたので、一緒に着いて行くうちにはまったって感じです」

マネージャー「世話好きに育つわけだ」

後輩「世話好きってわけでもないですけど……マネージャーは、と、特別ですからッ」

マネージャー「特別って?」

後輩(……はッ)

後輩「あの、いや、何でもないですッ」

マネージャー「……あのさ、後輩もしかして」

店員「お待たせしました。モーニングセットになります」

コトッ

161: 2014/11/15(土) 15:10:14.10
後輩「うわあ、すっごくいい匂いッ」

マネージャー「……」

店員「ご注文は以上でお揃いでしょうか?」

マネージャー「はい」

後輩「マネージャー、お皿もレトロで可愛いですね!」キャッキャッ

マネージャー「あ、うん……まいっか」

後輩「え?」

マネージャー「いや、食べようや」

後輩「はいッ」

後輩(……ほッ)

162: 2014/11/15(土) 15:22:42.58
―――
――

後輩「カボチャの甘さが堪らないですッ」モグモグ

マネージャー「キャロットのポタージュ飲む?」

後輩「はいッ。マネージャーもどうぞ」

マネージャー「ん」チラ

後輩(あ、何だか普通に接して……)

マネージャー「ぷッ、後輩口元」

フキフキ

後輩「ひえッ……」

後輩(普通、無理ッ……無理ッ)ドドドッ

後輩「じじ、自分でできますから」

マネージャー「そ、はい」

スッ

フキフキ

後輩(……これはこれで虚しいかも)

163: 2014/11/15(土) 15:37:33.07
―――
――


マネージャー「デザートあげるわ」

後輩「え、いいんですか?」

マネージャー「もう、入らん」

後輩「少食ですよね。でも、私もさすがにケーキ二個も食べたら……」ゴクリ

マネージャー「今さら1個2個も変わらん変わらん」

後輩「ですよねー」ガクッ

マネージャー「太れ太れッ」ニヤニヤ

後輩「あー、またお腹の浮き輪が……」

マネージャー「今日の夜練行く?」

後輩「えー、日曜の夜も練習あるんですね。す、凄い……そんな体力ないです」

ザクッ――

後輩「あむッ」モグモグ

マネージャー「甘そう」

後輩「激甘です」

164: 2014/11/15(土) 15:44:46.79
後輩「紅茶……カモミールでしたっけ」

マネージャ「うん」

後輩「香りが……落ち着きますね」

後輩(……幸せ)

マネージャー「鼻の穴、広がってるけど」

後輩「ちょッ」

ばッ――

マネージャー「うっそー」

後輩(もうッ……もうッ!)ドキドキッ

後輩「ひどいッ」

マネージャー「あははッ」

後輩(……でも、その笑った顔ですぐに許してしまう自分……情けない)

マネージャー「外さ、ちょっと曇ってきてない?」

後輩「え」チラ

マネージャー「予報より早いかな」

165: 2014/11/15(土) 15:59:40.39
―――
――




――ポツポツ

店員「ありがとうございましたー」

カランカラン

マネージャー「あー、降り出したか……」

後輩「ちょっと、冷えますね」ブルッ

マネージャー「そう?」

スッ――ぎゅ

後輩「な、なに?!」

マネージャー「手、冷たッ」

後輩「あったかー……」とろん

マネージャー「タクシー呼ぶか」

サスサス――

後輩(……さすられてるううッ)

166: 2014/11/15(土) 16:11:02.56
後輩「ま、マネージャーはこの後、もう帰られるんですか……」

マネージャー「そのつもりだけど」

後輩「……」

後輩(……こんなこと、ここで言うべきじゃないかもしれない)

後輩(でも、気持ちが……抑えきれない)

後輩(変なのはわかってる……分かってるから)

マネージャー「?」

後輩(なんで、先のことなんかどうでもよくなってるんだろう……)

後輩(今じゃなくていいじゃない……今じゃなくても)

マネージャー「タクシー呼ぶよ」

後輩「あ、はい……」

プルルル――

後輩(……ッ)ドキドキッ

後輩(だって、でも、こんなに優しくされて……期待するなって方が無理だよ……)

後輩(断られたら?)

後輩(軽蔑されたら?)

後輩(会社で話しかけられなくなったら?)

後輩(……それ、私、どうなっちゃうんだろう)

後輩(ううん、むしろ……一過性の気の迷いだったって……そう思えるかも知れないじゃない……)


167: 2014/11/15(土) 16:53:08.51
後輩(こ、こんなの断られるの前提だって……)

後輩(期待……するな。するな。するなッ)

後輩(よし、言ってしまおうッ……後悔するなら早いうちの方がいいし……)

後輩「あ……」

マネージャー「……なに?」

後輩「あの、私、マネージャーの事が……」

マネージャー「……うん」じッ

後輩「……」ごくッ

後輩(呼吸できない……)

後輩「こほッ……す、好きです」

マネージャー「……」ビクッ

後輩「へ、変ですよねッ……女同士なのにッ……気持ち悪いのは分かってるので、返事とかはいいですからッ」

後輩(……ああ、何言ってるんだろッ)

マネージャー「返事って……」

後輩「あ、あの」カアア

マネージャー「後輩……私、誰かと付き合う予定ないから、ごめん」

後輩「そ、そうなんですか! い、意外ですッ……あの今のは忘れてくださいねッ。たぶん、憧れとかそういうあれで……ホントにごめんなさいッ」

キキッ――

後輩「あ、タクシー来ましたよッ。早く入りましょうッ」

グイグイ

マネージャー「ちょ、後輩、聞いて」

後輩「……わ、私ッ、ちょっとその辺り散歩して帰りますからッ」

マネージャー「は?」

バタンッ

タタタタッ――

後輩「ごめんなさいッ」


168: 2014/11/15(土) 16:59:00.18
マネージャー「雨がッ」

運転手「乗るの? 乗らないの?」

マネージャー「すいません……乗らないです。これ、タクシー代です」

サッ

運転手「まいど……どうも」

マネージャー「……あのバカッ」

タタタタ――

169: 2014/11/15(土) 17:04:10.84
―――
――




マネージャー「冷たッ……」

マネージャー(……なんでこうなるかな)

バシャッ

後輩「来ないでくださいッ」

バシャッバシャッ

マネージャー「じゃ、止まれッ」

後輩「い、いや!」

マネージャー「いや、じゃないっつーのッ」

後輩「風邪引くから帰ってくださいッ」

マネージャー「こっちの台詞だし……だいたい、足で勝てるわけないじゃん」

タタタタ――ガシッ

後輩「きゃッ……ち、痴漢ッ」

マネージャー「誰が、痴漢だ」


170: 2014/11/15(土) 17:11:11.08
マネージャー「あーあ、びしょびしょ……」

後輩「離してくださいッ」

マネージャー(何がしたいんだか……)

後輩「い、今、自分でもびっくりするくらい……もう、ホントに……無理なんです」

マネージャー「……?」

後輩「マネージャーに酷いこと言っちゃいそうで……」

後輩「こんな、もっと……軽い話しにするつもりだったのに……」

マネージャー「意味が分からん……」キョロキョロ

後輩「私……」

マネージャー(タクシーもう一回捕まえるか……)

後輩「思ってたより、マネージャーのこと好きだったみたいです」ニコ

マネージャー「……ッ」ドキ

171: 2014/11/15(土) 17:22:30.24
マネージャー「とにかく帰るよ」

グイッ

後輩「やッ」

マネージャー「……やッ、て」

後輩「一緒にいたくないですッ」

マネージャー「人が親切でしてやってるって言うのに……」

後輩「それが、辛いんですッ……もうこれ以上期待させないでください!」

マネージャー「勝手に期待しただけじゃんッ」

後輩「そうですよッ……勝手に期待して勝手に落ち込んでるんですッ。もう、放っておいてください……うッ……ひッ」

マネージャー「はー……じゃあ、勝手にしろッ。私も勝手にするから」

グイグイッ

後輩「ど、どこにッ」

マネージャー「そこのラブホ」

後輩「え、ちょッ、まッ?!」

マネージャー「私のこと知れば、嫌いになるよ」

後輩「だ、だって私たち女同士だしッ……」

マネージャー「……怖いの?」

後輩「……だ、だって変じゃないですかッ」

マネージャー「そういう気持ちが残ってるなら、上等だわ」

172: 2014/11/15(土) 17:33:28.66
―――
――



ラブホテル――

とある一室


後輩「や、やだッ……止めてください!」

マネージャー「こういう事がしたかったんじゃないの?」

後輩「ち、違いますッ……私は」

ドンッ

後輩「いたッ……!?」

マネージャー「あー、ビショビショで透けてるわ、ブラウス」

後輩「やッ!?」カア

バッ

後輩「ベッドの上で隠したって無意味」

ギシッ

マネージャー「ホント、スキだらけ。後輩って、ちょろすぎる」

後輩「……ッ」

マネージャー「私さ、女に告白されるのって、もうウンザリなわけ」

後輩「……え」

マネージャー「嫌いになってくれた方がラクだわ」

後輩「マネージャー……ッあ」

後輩(こわいッ……こわいッ……やだッ)

173: 2014/11/15(土) 17:52:09.97
マネージャー「……一人暮らしで寂しかった?」

グイッ

後輩「……やッ、腕いたッ」

マネージャー「優しくされたのは初めてだったの?」

ギュウッ

後輩「……あぐッ」

マネージャー「後輩が惹かれたのは、私の中の男らしさなのかもしれない。それって、男でもいいんだよ。男でもさ。それなのに、自分に酔ってあえて女を選ぶから痛い目みるわけ……」

後輩(……確かに、私……自分のことしか考えてなかった)

マネージャー「食ってやろうか?」

後輩(……マネージャーがどう思うかなんてろくに考えもせずに、自分のことばっかりで……)

マネージャー「……私は彼女が欲しくて、あんたに優しくしたんじゃないッ」ギリッ

後輩「……ッあ」ズキッ

マネージャー「変だって、思ったって言ったよね? それが普通の人。先が見えない所に足突っ込むなッ」

後輩「ごめ、ごめんなさい……」ポロポロ

マネージャー「……あ」ギクッ

175: 2014/11/15(土) 18:06:28.32
後輩「……ッひく」

後輩(……もしかしたら、マネージャー……女性関係で何かあったんじゃ……)

マネージャー「そもそも……私と付き合ったってろくなことない」

後輩「……ッそんなこと」

マネージャー「男でも女でも……傷つけるだけだから。みんなさ、私の同期みたいに……怖がって離れてくだけだから」

後輩「……あ……ッ」ポロポロ

私はマネージャーの腕を握り締める。

マネージャー「……ッ」

後輩「ごめんなさいッ……変でも、いい……やっぱりマネージャーの事……大好きッ……です」

マネージャー「だからッ」

後輩「……うええッ……うぐッ……ごめんなさいッ……ひッく」

マネージャー「泣くな……」

後輩「は……はいッ……困らせてごめんなさいッ……まねええじゃああッ……」ズル

マネージャー「ちょっと、擦り寄ってくるなッ……きたなッ」

後輩「嫌いになりたくないッ……ひッ……でもッ……嫌いにならないでくださいッ……」

後輩「一人にならないでくださいッ……ひっく……そんな寂しいこと言わないでくださいッ」

マネージャー「そんなこと……言ってないしッ」

後輩「そう聞こえたんですッ……」

176: 2014/11/15(土) 18:18:35.57
マネージャー「……はあッ」

トサッ――ゴロン

マネージャー「なんか、疲れた……」

後輩「ええッ……」ゴシゴシ

マネージャー「大抵の子はこれで引いてくれたのに、なんなのお前」

後輩「……何なのって言われても」

マネージャー「一緒に暮らしてた同期なんて、私の頬に平手打ちして実家に帰るとか言って出てったけど?」

後輩「そ、そんなことがッ……」

マネージャー「これで諦めないとか……どうかしてるわ」

後輩「わ、私……マネージャーには負けたくないって言ったじゃないですか」

マネージャー「はッ……ホント、わけわからん奴。ははッ……あはっ……くくッ……あはは!」

後輩「……笑わなくたって」

マネージャー「なんでかなあ……」

後輩「マネージャー?」

マネージャー「昔さ、隣に住んでた大学生の女の人に恋愛感情を抱いてことがあった……」

後輩「……」ドキ

マネージャー「その人は、結構早くに両親を亡くして、当時中学生だった私は、幼心にこの人を守ってあげようって思ってた」

後輩「……」



177: 2014/11/15(土) 18:27:16.22
マネージャー「恋愛ごっこみたいなこともしたけど、その人は結局、普通の会社員と恋に落ちて結婚したわ」

後輩「……」

マネージャー「幸せになるなら、そっちの方がいいと思った」ツー

後輩「あ……」

マネージャー「結婚式で、上手く笑えなくてずっと泣いてた。みんな嬉しくて寂しくて泣いてると思っただろうね。本当は、悔しくて泣いてたっていうのに」

後輩「……そ、その後も連絡とってるんですか?」

マネージャー「……うん」

後輩「今でも……好きなんですか?」

マネージャー「……ん」

後輩「……そうですか」

マネージャー「上手くいかないんだよ……」

後輩「マネージャー……」

マネージャー「そういう風に……なってるんだろう」


その後、私たちは無言でびしょびしょになった服を脱いで一緒にシャワーを浴びた。
寂しい願いを抱いて、シャワールームの中で一度だけキスをした。

それだけだ。
それだけ。
他には何も。
それが最後みたいに。


178: 2014/11/15(土) 18:38:56.55
次の日―ー

本社――

マネージャー「おはよう」

後輩「おはようございます」

マネージャー「うわ、何その顔」

後輩「……マネージャーは何でそんな元気なんですか」

マネージャー「そりゃ、あんたよりは長生きしてるからでしょ」

後輩「……」

マネージャー「……後輩、コーヒー飲めるんだっけ?」

後輩「飲めますけど……」

マネージャー「今度淹れてあげるから、うちきなよ」

後輩「……なんで、そういうこと言うんですか」

マネージャー「嫌いじゃないって言ったじゃん」

後輩「はあ……そうですね、私も一後輩としてお邪魔しますから! 覚悟しておいてください!」

マネージャー「はいはい」

後輩「……まったく!」

マネージャー「じゃ」

カツカツカツ―ー

後輩「あの切り替えの早さはなんなの……はあ」

後輩「……」クル

マネージャーの後ろ姿は、惚れ惚れするほど格好良かった。
もう、二度と会わないようにとか。
無関係になれるわけなく。


最後のキスで私はまた惚れ直してしまった。
きっと、そんなものなのだろう。








終わり

180: 2014/11/15(土) 18:44:40.73
乙です!

引用元: マネージャー「うっ……やば、おえっ」後輩「ちょ、ちょっとだめえ!!」