1: 2013/08/21(水) 21:45:50.88 ID:UCj5V9EP0
 王国の歴史は、200年前に魔族の長たる魔王を滅ぼし、
 民衆からの支持を得た一人の豪族が、自ら王となったことから始まった。

 しかし、およそ一年前に復活した魔王率いる魔王軍によって、
 王国は再び魔族との戦いを余儀なくされていた……。



─ 王国城 ─



国王「戦況はどうかね?」

軍団長「はっ、我が軍が優勢であります!」

軍団長「このままいけば、魔王城陥落の日も近いかと!」

大臣「ふふふ、当然だ。魔族など我々の敵ではない」

大臣「この200年で、我が王国がどれだけの進歩を遂げたことか!」

2: 2013/08/21(水) 21:51:26.32 ID:UCj5V9EP0
軍団長「ところが、気になることが一点だけございます」

軍団長「つい先ほど、魔王城から我が軍に一通の密書が届きまして」

国王「密書?」

軍団長「はい」

軍団長「魔術師によれば、この密書は魔法によって」

軍団長「陛下でなければ開封できないようになっているそうです」

軍団長「こちらです」スッ

国王「ふむ……」ガサッ

大臣「フン、おおかた降伏を申し出る書状ではないですかな?」

国王「…………」

国王「──こ、これは!?」

3: 2013/08/21(水) 21:55:59.82 ID:UCj5V9EP0
【 PART1 国王の依頼 】



─ 王国首都 郊外 ─



大臣「陛下、本当にこんなどこの馬の骨とも知れぬ男に、国の命運を託すのですか?」

大臣「勇者というのは、いったい何者なのですか!?」

国王「彼は世界中を股にかけて暗躍している、超A級のプロフェッショナルだ」

国王「この依頼をこなせるのは、世界中どこを探しても彼しかおらぬだろう」

大臣「……しかし、超A級のプロフェッショナルにしては」

大臣「ずいぶんと時間にはルーズのようですがねえ……?」

大臣「もうすでに待ち合わせ時刻だというのに、一向に現れない……」

勇者「落ち合う時刻は、ちょうど今のはずだが……?」ザッ

国王&大臣「!?」

4: 2013/08/21(水) 21:59:36.51 ID:UCj5V9EP0
大臣「い、いつの間に……!?」

国王「君が、勇者かね?」

勇者「うむ……」

勇者「用件を聞こうか……」シュボッ…

国王「おおっ、ミスター勇者!」スッ

勇者「俺は……利き腕を他人に預けるほど自信家じゃない……」

国王「!」ハッ

国王「そうだったな、すまなかった。君のことは勉強していたつもりだったんだが」

大臣「陛下の握手を拒否するとは……キサマ何様のつもり──」

国王「いやよいのだ、大臣。私が悪かったのだ」

大臣「くっ……!」

勇者「…………」

5: 2013/08/21(水) 22:05:45.48 ID:UCj5V9EP0
国王「さて、さっそく仕事の話に入ろう……」

国王「君に始末して欲しい標的(ターゲット)は……魔王だ」

勇者「…………」

国王「元々我が国は200年前、魔王を討伐した私の先祖によって建国された」

国王「200年の間に国政は安定し、このまま平和が続くと思われたのだが──」

国王「一年前に突如魔王が復活したことにより、情勢は急変した」

国王「もちろん、魔王は我が国に強い憎しみを抱いている」

国王「今まさに、我が国は魔王率いる魔王軍の攻撃を受けており」

国王「この窮地を脱するには、魔王を亡き者にするより道はないのだ……!」

勇者「…………」

8: 2013/08/21(水) 22:09:42.35 ID:UCj5V9EP0
勇者「俺は……王国軍と魔王軍の戦いは、王国軍が優勢だと認識しているが……?」

勇者「なぜわざわざ俺に依頼をする……?」

国王「!」ギクッ

国王「実は……ただ単に魔王を始末して欲しいのではなく」

国王「次の“二つの条件”を満たした上で、倒して欲しいのだ」

勇者「条件……?」

国王「まず一つ目が期限は一週間以内」

国王「そしてもう一つは……一太刀で魔王を殺害して欲しい、ということだ」

10: 2013/08/21(水) 22:14:28.87 ID:UCj5V9EP0
国王「ただ魔王を倒すだけならば、我が国の兵士でも十分可能だろう」

国王「しかし、この二つの条件を満たした上で、魔王を滅ぼせるのは……」

国王「世界中に君しかいないのだ!」

国王「どうか……引き受けて欲しい……!」

大臣「報酬はキャッシュで500万ゴールド出す!」カパッ

大臣「キサマのような一匹狼には、過ぎた金だろう!」

勇者「…………」

勇者「俺は依頼人の嘘や裏切りを許さない……」

勇者「もし俺を雇いたいのであれば……」

勇者「なぜその条件を満たさねばならないか、を説明してもらおう……」

13: 2013/08/21(水) 22:18:36.83 ID:UCj5V9EP0
国王「そ、それは……」

大臣「国家機密を頃し屋風情に話す義理はない! 黙って引き受けるといえ!」

勇者「…………」

勇者「……悪いが、この話はなかったことにしてもらおう」ザッ

大臣「な!?」

国王「…………」

国王「ま、待ってくれ! ミスター勇者!」

大臣「陛下!? ま、まさか──」

国王「分かった……全てを話そう」

大臣「へ、陛下……!」

国王「大臣、全ての責任は私が負う。王国のためには、彼の力が絶対に必要なのだ!」

勇者「…………」

14: 2013/08/21(水) 22:25:14.93 ID:UCj5V9EP0
国王「実は、先ほど話した我が国の成り立ち……これには大きな秘密が隠されている」

国王「元々、この地域では人間と魔族が共存していた」

国王「しかし、この辺り一帯の土地全てを欲した私の先祖、つまり初代国王は──」

国王「魔王や魔族たちを親睦会と称して、巧みに誘い出し──」

国王「集まった魔族を毒料理や矢の雨で壊滅させた……」

国王「もちろん世間には、変心し人間を滅ぼそうとした魔王を討伐したと発表し」

国王「その名誉をもって王となったのだ」

勇者「…………」

国王「現在においても、このことを知っているのは私やここにいる大臣を含めごく一部」

国王「そして、これから先もずっとそうなるはずだった」

国王「しかし、戦争で劣勢となった魔王が、三日前に密書を届けてきたのだ」

国王「“私は初代国王の魔族に対する仕打ちを証明する証拠を持っている”」

国王「“十日以内に降伏しろ”」

国王「“さもなくば、全てを公表する”といった内容だ」

15: 2013/08/21(水) 22:29:30.65 ID:UCj5V9EP0
国王「もし、そんなものが実在し、公表されれば──」

国王「これまで代々続いてきた王位の正当性そのものが、根底からくつがえってしまう」

国王「さらに我が国には王政に反対する一派が、水面下に根強く存在しており」

国王「彼らが魔族と手を結ぶであろうことは想像に難くない」

国王「そうなれば、この国は内乱状態となり、まちがいなく崩壊する……」

国王「それだけは絶対に避けねばならないのだ!」

国王「そして……宮廷魔術師の魔法による真偽調査によって──」

国王「魔王からの密書に一切嘘偽りはない、と判明した……」

国王「もちろんその後、魔術師の口は封じさせてもらった……」

勇者「…………」

18: 2013/08/21(水) 22:34:47.37 ID:UCj5V9EP0
勇者「話は分かった……」

勇者「それで……もう一つの条件“一太刀で”というのはどういうことだ?」

国王「実は……これも密書に書かれていたのだが、魔王には恐ろしい能力があるのだ」

国王「“自爆”という、な」

勇者「自爆……?」

国王「200年前に倒された時はだまし討ちだったため、使われることはなかったが」

国王「もし今度、命の危機に晒されれば、魔王はまちがいなく自爆する……」

国王「魔王が“自爆”をすれば、ヤツの暗黒の血が広範囲にわたって飛び散り──」

国王「その黒い雨によって、我が王国も確実に滅ぶ、と書かれてあった」

国王「ようするに、氏ぬ時はもろとも、という魔王からの警告だ……」

勇者「…………」

国王「そして、さらに悪いことに──」

19: 2013/08/21(水) 22:38:36.64 ID:UCj5V9EP0
国王「魔王は心臓を切り裂かねば氏なないのだが」

国王「ヤツはなんと、伝説の金属といわれるオリハルコンの鎧で武装しているのだ」

勇者(オリハルコン……)

国王「つまり、残り一週間という期限で、オリハルコンの鎧をまとった魔王を」

国王「“自爆”する暇も与えず一太刀で始末してもらわねばならない!」

国王「こんな不可能だらけのミッションをこなせるのは──」

国王「君しかいないのだ、ミスター勇者!」

国王「頼む、引き受けるといってくれ!」

勇者「…………」

22: 2013/08/21(水) 22:43:42.32 ID:UCj5V9EP0
勇者「分かった……やってみよう……」

国王「おおっ!」

大臣(なんだと!? てっきり断るものとばかり……)

勇者「こちらも準備がいるんでな……決行は六日後の夜、とさせてもらう……」

勇者「ところで、魔王城に侵入する手はずは……?」

国王「大臣が選りすぐった優秀なエージェント三名に当日、君をサポートさせる」

勇者「……承知した」

大臣「あの三人は、いずれも君に劣らぬ優秀な人間ばかりだよ」

大臣「本来、この程度の任務、彼らでもこなせるが陛下たっての希望なのでな」

勇者「…………」

勇者「…………」スッ…

大臣(ちっ……眉一つ動かさずに闇夜に消えよったわ!)

23: 2013/08/21(水) 22:47:31.20 ID:UCj5V9EP0
大臣「陛下! お気は確かなのですか!?」

大臣「国家の最重要機密を、あんな男に話してしまうなんて!」

大臣「それにあの男、あのまま金を持ち逃げしてしまう気では……!?」

国王「彼は超一流のプロフェッショナルだ」

国王「あの機密を利用したり、報酬を持ち逃げするような人間ではないよ」

大臣「し、しかし……」

国王「とにかく、これでサイは投げられた」

国王「我々は最善を尽くしたのだ」

国王「あとは……神のみぞ知る、といったところか」

大臣「…………」

25: 2013/08/21(水) 22:52:30.98 ID:UCj5V9EP0
【 PART2 最高の一太刀を求めて 】



─ スラム街 ─



徒弟「ん?」

勇者「職人はいるか?」

徒弟「おおっ、勇者さんかい!」

徒弟「他のヤツなら居留守を使うところだが、アンタなら別だ」

徒弟「さ、入ってくれ」ギィィ…

勇者「…………」ザッ

26: 2013/08/21(水) 22:56:33.66 ID:UCj5V9EP0
< 職人の家 >

キィィ……

徒弟「師匠、お客さんだ」

職人「なにをやっておるか! あれほど居留守を使えと──」

職人「!」ドキッ

職人「ゆ、勇者! アンタだったのかい……」

勇者「…………」

職人「分かってるさ……。どうせまた、難題を持ち込みにきたんだろう?」

勇者「……オリハルコンの鎧を切り裂ける剣が欲しい」

職人「対オリハルコンか……まぁ、三週間もあれば何とか──」

勇者「六日後の夕方までにな」

職人「六日!?」

31: 2013/08/21(水) 23:03:31.96 ID:UCj5V9EP0
職人「やれやれ……アンタの仕事は高いが、儲かってる気がまるでせんよ」

職人「今度はいったい、なにを斬ろうっていうんだね?」

勇者「オリハルコン製の……ダイナマイトだ」

職人「おおっ、クレイジー!」

職人「ま、アンタの無理難題は今に始まったことではないがね……」

職人「しかし、六日か……。材料を調達する時間はない、な」

職人「そこらの鉱物を使って、どこまで切れ味と強度を両立できるかがカギか……」

勇者「強度は不要だ」

職人「し、しかし……それだと一太刀浴びせたら使いものにならなくなるぞ……?」

勇者「一太刀だけ持てばいい……。二度斬ることはありえないのだ」

職人「…………」ゴクッ…

職人「わ、分かった……。アンタの注文に応えてみせようじゃないか……!」

32: 2013/08/21(水) 23:06:27.58 ID:UCj5V9EP0
職人「そうと決まれば、アンタはもうジャマだ!」

職人「とっとと出てってくれ!」シッシッ

勇者「…………」

職人「オイ徒弟、なにをボサッとしておる!」

職人「こうなったら、猫の手でもなんでも借りねばならん!」

職人「早く私を手伝え!」

徒弟「は、はいっ!」タタタッ

勇者「…………」ザッ

ギィィ…… バタン……

33: 2013/08/21(水) 23:11:25.35 ID:UCj5V9EP0
【 PART3 作戦前夜 】



─ 王国首都 ─



< 酒場 >

勇者「…………」グビッ

僧侶「ハァイ」

勇者「…………」

僧侶「あなた、この辺りじゃ見かけない顔ね」

僧侶「今、この国は魔族と戦争中だっていうのに、いったい何しに来たの?」

勇者「…………」

36: 2013/08/21(水) 23:15:57.13 ID:UCj5V9EP0
僧侶「もしかして……魔王を倒しに来た、とか?」

勇者「…………」ピクッ

僧侶「フフ、なぜお前がそのことを? って顔してるわね」

僧侶「私はね」

僧侶「明日あなたをサポートする、三人のエージェントのうちの一人よ」

僧侶「ホントは明日会う予定だったけど、どうしても今日会いたくなっちゃって」

僧侶「よろしくね、ミスター勇者」

勇者「…………」

僧侶「大臣はあなたのことを、私たち三人の一人一人に匹敵する、っていってたけど」

僧侶「実際にあなたを見てみたら、とんでもないわ」

僧侶「私たち三人がかりでやっとあなたと互角、といったところでしょうね……」

勇者「…………」

37: 2013/08/21(水) 23:20:27.48 ID:UCj5V9EP0
僧侶「ねぇ……」

僧侶「私たち、お互い明日は国の命運をかけたミッションに挑むのよ」

僧侶「優れたチームワークには、スキンシップが必要よ」

僧侶「互いのことをもっと、知っておくべきだと思わない?」

勇者「見たところ、お前は神に仕えている人間のようだが……?」

僧侶「フフフ……やっと口を開いてくれたわね」

僧侶「なにしろ、明日のミッションは神頼みでもどうにもならない難易度だもの」

僧侶「きっと神様も許して下さるわ……」

39: 2013/08/21(水) 23:23:31.98 ID:UCj5V9EP0
< 宿屋 >

僧侶「あああ~~~~~っ!」

僧侶「おおお~~~~~っ!」

僧侶「すごい、すごい、すごいわ!」

僧侶「私はもう、とうの昔に女を捨てたはずだったのに……」

僧侶「ここまで私を“女”に引き戻してくれるなんて!」

僧侶「あああ~~~~~っ!」

僧侶「もっと、もっと、もっとよ! あああ~~~~~っ!」

僧侶「私を女にしてぇ~~~~~っ!」

勇者「…………」

41: 2013/08/21(水) 23:29:44.35 ID:UCj5V9EP0
【 PART4 剣は完成した 】



作戦当日 夕刻──

< 職人の家 >

職人「出来たぞ!」

職人「あり合わせの鉱物ながら、徹底的に薄く、重く、切れ味を増すよう鍛えた」

職人「かなり重いが、アンタなら十分扱えるはずだ」

勇者「うむ……」ズシッ…

職人「そして前にも話したが……一太刀で刃はボロボロになっちまうだろう」

職人「そうなればもう、この剣はナマクラ以下の役立たずになる」

勇者「…………」

42: 2013/08/21(水) 23:33:24.60 ID:UCj5V9EP0
勇者「…………」チラッ

徒弟「ぐう……ぐう……」スピー…

職人「フッ、アイツもだいぶ鍛冶職人としてサマになってきたが」

職人「まだまだ体力が足らんな。ちょっと徹夜しただけであのザマだ」

勇者「…………」

勇者「職人!」

職人「?」

勇者「ありがとう……」

職人「ハハ、よしてくれ」

勇者「…………」スチャッ

職人「明日の朝刊を楽しみにしているよ!」

45: 2013/08/21(水) 23:39:27.58 ID:UCj5V9EP0
【 PART5 三人のエージェント 】



─ 魔王城近辺 ─



魔法使い「もうすぐ作戦決行時刻だけど……」

魔法使い「勇者が現れる気配はないね」

戦士「ふん、怖気づいたんだろうよ!」

戦士「オリハルコンの鎧をまとった魔王を一太刀で殺るなんざ」

戦士「仮に世界最高の名剣があったところで、王国一の剣士である俺でも無理だ」

戦士「しかも、仕留めそこなったら、間近で自爆を喰らうかもしれないんだからな」

僧侶「…………」

僧侶「いいえ、あの人は必ず来るわ……」

47: 2013/08/21(水) 23:43:29.75 ID:UCj5V9EP0
パカラッ…… パカラッ……

魔法使い「あの馬は──」

戦士「まさか……」

僧侶「勇者よ! 勇者が来たわ!」

パカラッ! パカラッ! パカラッ!

ザンッ……!

勇者「…………」

魔法使い「時間きっかり……だね」

戦士「こんなギリギリまで、いったいどんな準備をしてきたんだよ?」

勇者「そういう問いに対する答えを……俺は、用意したことはない」

勇者「さっそく本題に入ってもらおう」

戦士「ケッ、お高く止まりやがって!」

僧侶「それじゃ、作戦について説明するわ」

49: 2013/08/21(水) 23:47:32.27 ID:UCj5V9EP0
僧侶「まず、あそこにある巨大な城が魔王城」

僧侶「ほとんどの出入口が魔族の大部隊で固められてるけど……」

僧侶「一ヶ所だけ、小部隊だけで守られてる扉があるの」

僧侶「そして、一見まったく重要でないその扉こそが──」

僧侶「魔王の部屋に直通している扉だということが分かったのよ」

魔法使い「ろくに兵を置いていないのは、ボクらに重要だと悟らせないためと」

魔法使い「あとは守っても無駄だってのが分かってるからだろうね」

勇者「守っても無駄、とは……?」

魔法使い「あの扉には、固い封印が施されてるのさ」

魔法使い「わざわざ兵を置かなくても、ちょっとやそっとじゃ開かない」

魔法使い「だけど……僧侶は世界屈指ともいえる補助魔法の達人だから」

魔法使い「あの封印を解くことができる」

僧侶「かなり体に負担がかかる呪文だけど……扉は私に任せて!」

51: 2013/08/21(水) 23:50:35.99 ID:UCj5V9EP0
勇者「少数とはいえ、周辺の兵隊はどうするのだ……?」

戦士「そこで俺たちの出番ってわけだ」

戦士「俺と魔法使いの二人で、扉周辺の魔族をひきつける」

戦士「援軍を呼ばれないよう、わざといい勝負を演じながら、な」

魔法使い「魔族は互いの生命力や魔力を感じ取ることができるから」

魔法使い「下手に殺害しちゃうと、他の場所の大部隊に気づかれる恐れがあるからね」

魔法使い「ま、そこはボクら二人でちゃんとやるから、安心してよ」

勇者「…………」

僧侶「さあ、そろそろ時間よ」

僧侶「みんな、準備はいいわね?」

53: 2013/08/21(水) 23:55:07.11 ID:UCj5V9EP0
【 PART6 作戦開始! 】



─ 魔王城 ─



< 封印扉前 >

ザシッ! ボワァッ! キンッ!

魔族A「敵襲だ!」タタタッ

魔族B「敵はたった二人、人間の戦士と魔法使いだ!」タタタッ

魔族C「逃がすな、追えっ!」タタタッ

54: 2013/08/21(水) 23:59:31.02 ID:UCj5V9EP0
魔族D「隊長、他の持ち場から応援を呼びますか……?」

隊長「ふむ……」



ザシィッ! キィンッ! ズバッ! ボワァッ!

戦士「ちいっ! こっち来んな!」

魔法使い「ぐっ……強い……!」

ボアァッ! キンッ! ザンッ! ザシィッ!



隊長「見る限りあの二人組、力量はさほどでもなさそうだ」

隊長「とてもこの扉の秘密を知っているとは思えん」

隊長「おそらく功を焦って、警備が手薄なこの扉を狙ってきただけの愚か者だろう」

隊長「援軍を呼ぶまでもない」

隊長「あの程度なら、ここを守る我が部隊だけで十分倒せる」

魔族D「それもそうですね」

56: 2013/08/22(木) 00:07:26.81 ID:DhU4xYnZ0
ワァー……! ワァー……!

僧侶「扉ががら空きになったわ……」

僧侶「あの二人が、うまいことやってくれてるようね……」

僧侶「さ、行きましょ!」ダッ

勇者「…………」ダッ

僧侶「これが封印扉ね……」スッ…

勇者「…………」

僧侶「ヒィ~ルァ~ケ~……ゴゥマ!」

パキィィィ……ン……

僧侶「これで封印が解除されたわ! ──ぐっ!」ゴホゴホッ

勇者「…………」チラッ

僧侶「大丈夫よ……。だけど、魔王を倒す手伝いはできそうもないわね……」ゴホッ

僧侶「私は入口近くで待機しているわ……」ゴホゴホッ

57: 2013/08/22(木) 00:10:32.18 ID:DhU4xYnZ0
ワァァ……! ワァァ……!

キィンッ! ボアァッ! ザシッ! キンッ!

戦士「……どうやらアイツらは、無事侵入を果たしたようだな」

魔法使い「そだね」

魔法使い「あとはもう、あの勇者にかかっているね」

戦士「こんなとこで氏ぬんじゃねえぞ、魔法使い」

戦士「俺たちの仕事はまだ残ってるんだからよ!」

魔法使い「もちろん!」

58: 2013/08/22(木) 00:13:43.83 ID:DhU4xYnZ0
─ 魔王城内 ─



タッタッタッタッタ……

勇者「…………」タタタッ

勇者(あの封印扉から魔王の部屋へと至るこの廊下……やはり警備は皆無)タタタッ

勇者(封印を破れる人間などいない、という判断か)タタタッ

勇者(しかし、現実には一人の僧侶によってあっけなく解除された)タタタッ

勇者(200年の歳月で、人間と魔族の差はさらに開いた、ということか……)タタタッ

勇者「…………」タタタッ

60: 2013/08/22(木) 00:20:04.23 ID:DhU4xYnZ0
【 PART7 勇者と魔王 】



< 魔王の部屋 >

魔王(さあ、いよいよ明日が期限だ……)

魔王(かつて我らをだまし討ちにした忌まわしき男の末裔よ)

魔王(せいぜい悩み苦しむがいい)

魔王(“降伏”を選ぼうが、“証拠の公表”を選ぼうが、どちらにせよ──)

魔王(明日はキサマら王国の“敗北記念日”なのだからな!)

魔王(どちらでも、好きな負け方を選ぶがよいわ)

魔王(それがかつて私を滅ぼして誕生した王国への、せめてもの手向けだ)

魔王「フハハハハハハハハハハ……!」

61: 2013/08/22(木) 00:25:37.69 ID:DhU4xYnZ0
ギィィ……

魔王「何者!?」バッ

勇者「魔王、だな……?」ザッ

魔王「ふむ……なるほどな……」

魔王「あの国王は“第三の選択肢”を作り出した、というわけか」

勇者「…………」

魔王「しかし、それはもっとも愚かな選択だ!」

魔王「私が自ら氏を選べば、大規模な爆発が起こり──」

魔王「さらに私の暗黒の血が広範囲に飛び散り、王国中の人間を蝕むことになろう」

魔王「あの国王は保身のために、国民全てを犠牲にする選択をしたのだ!」

魔王「……もっとも、今のは暗殺者であるキサマに」

魔王「私に“自爆”を決意させるほどの力量があれば、のハナシだがな……」

勇者「…………」

62: 2013/08/22(木) 00:29:27.26 ID:DhU4xYnZ0
魔王「どうだ……」

魔王「キサマも単身こんなところにまで乗り込んできたということは」

魔王「腕には覚えがあるのだろう……?」

魔王「私がこの大地を奪い返したあかつきには、キサマにも半分くれてやる──」

魔王「──といったらどうする?」

勇者「…………」チャキッ

魔王「愚問だったか」

魔王「ならば、私自ら相手をしてやろう!」

魔王「我がオリハルコンの鎧に、その剣で傷一つぐらいつけられるか試してみよ!」

64: 2013/08/22(木) 00:33:32.85 ID:DhU4xYnZ0
魔王「地獄の炎に焼かれるがよい!」

ゴォアァァァァァッ!

勇者「…………」バッ

魔王「断罪の雷に撃たれるがよい!」

ピッシャァァンッ!

勇者「…………」ザウッ

魔王(危なげなくかわすとは! なんという反射神経!)

魔王(いや、それ以上にこの男の目、まるで自分を疑っていない!)

魔王(本当にこの私を自爆させずに倒せると思っているのか!?)

魔王「フハハハハ、面白い人間もいたものだ!」

魔王「来いィッ!」

勇者「…………」ダッ

65: 2013/08/22(木) 00:39:25.50 ID:DhU4xYnZ0
勇者「…………」チャキッ

魔王(なんの変哲もない無骨な剣……オリハルコン製ですらない!)

魔王「そんなもので我が鎧を、この私の怨念を切り裂けるものかァァァッ!」

勇者「…………」スッ…



ザンッ……!



魔王「な……!?」

魔王(一太刀で……鎧ごと我が心臓を……!?)

魔王(これではもはや、“自爆”することもでき、ぬ……)ゴフッ…

魔王(な、なんというヤツよ……)グラッ…

ドザァッ……

69: 2013/08/22(木) 00:45:01.48 ID:DhU4xYnZ0
パキィンッ!

勇者(剣も砕けた、か……)

魔王「フハ、ハハハ……」ガフッ…

魔王「みごと、だ……。みごとな剣、と腕、だ……」

魔王「最期にどうか聞かせて、くれ……キサマの名、を……」

勇者「……勇者だ」

勇者「俺が標的に名乗ったのは、これが初めてだ……魔王」

魔王「ゆ、勇者、か……」ゴフッ…

魔王(私は200年前の雪辱を晴らしたい一心で……地獄から舞い戻った……)

魔王(しかし、一騎打ちでこうも見事にしてやられては……)

魔王(もう復活することも、なかろう、な……)

魔王「覚えて、おこ、う……」ガクッ

勇者(…………)

71: 2013/08/22(木) 00:51:56.15 ID:DhU4xYnZ0
【 PART8 勇気ある者 】



─ 魔王城近辺 ─



勇者「…………」ザッ

僧侶「お帰りなさい、勇者……」

戦士「よくやってくれたぜ! すげえよ、アンタ!」

魔法使い「あなたが魔王を倒したおかげで、証拠は隠滅され、魔族は力を失った……」

魔法使い「この戦争、王国軍の勝利が確定したよ!」

勇者「…………」

魔法使い「それじゃ、さっそく──」

72: 2013/08/22(木) 00:56:35.76 ID:DhU4xYnZ0
魔法使い「“麻痺呪文”」パァァ…

僧侶「“麻痺呪文”」パァァ…

勇者「!」ビクッ

勇者「く……!」ドサッ…

魔法使い「ふふふ、悪いね……勇者さん」

魔法使い「“ここまで”がボクたちの仕事なのさ」

魔法使い「あなたは疲弊し、剣もボロボロだが、一方のボクらはすでに全快している」

魔法使い「まともにやっても勝てる自信はあったけど……」

魔法使い「念のため、呪文でリスクは最小限に抑えさせてもらったよ」

戦士「そういうことだ」

戦士「さすがのプロフェッショナルも、あれだけの大仕事をこなした後に」

戦士「こんな結末が待ってるとは思わなかっただろ?」

戦士「ま……安心しな」

戦士「苦しまねえよう、一発で首を叩き落としてやっからよ」チャキッ

78: 2013/08/22(木) 01:03:23.65 ID:DhU4xYnZ0
戦士「あばよ、勇者ッ!!!」ブオンッ

勇者「…………」ザウッ

戦士「かわした!?」

戦士(なんで……全身が麻痺してるハズじゃ──!?)

パシッ!

勇者「呪文と同時に……首を落とすべきだったな」チャキッ

戦士(しまっ、俺の剣を奪って──)

魔法使い「ま、まずいっ!」

僧侶「もう一度呪文を──」

ザンッ! ザシュッ! ズバァッ!

82: 2013/08/22(木) 01:08:36.83 ID:DhU4xYnZ0
魔法使い「が、ふっ……」ガクッ

僧侶「うぅ……っ」ピクピク…

戦士「て、てめえ……なんで……麻痺呪文が効いてねえんだ……」

勇者「呪文を受けた瞬間……体のある“ツボ”に針を刺しておいた」

勇者「そうすれば、数秒で麻痺の症状は緩和される」

勇者「俺は魔法は使えないが……」

勇者「魔法によって起こる、さまざまな心身異常については」

勇者「下手な魔法使いより、俺は詳しい……」

83: 2013/08/22(木) 01:12:50.11 ID:DhU4xYnZ0
戦士「だからって……いくらなんでも、準備がよすぎ、る……」

勇者「お前たちの裏切りのことは、事前にあの男から知らされていたからな」

勇者「この作戦は最重要機密──」

勇者「生き残る人間は三人より一人だけの方がいい、という判断だろう……」

戦士「ち、くしょう……大臣のヤロ、ウ……」ガクッ

勇者「…………」

勇者「大臣、か……」

84: 2013/08/22(木) 01:17:45.79 ID:DhU4xYnZ0
僧侶「ふふ……鮮やかだったわ……」

僧侶「魔王を一太刀で仕留め……」

僧侶「しかも、私たちの裏切りをも想定して、対策を怠らず……」

僧侶「さらに……“裏切りの首謀者”まで、巧みに聞き出す、なんてね……」

僧侶「私たち三人がかりであなたと互角……なんて、とんだ思い違いだったわ……」

勇者「…………」

僧侶「あなたこそ……真のプロフェッショナル……」

僧侶「いかなる困難な依頼にも立ち向かう……勇気ある者、だわ……」

僧侶「さ、さすが……私の……愛した、男……」ガクッ…



勇者「…………」

ザッザッザッ……

88: 2013/08/22(木) 01:23:52.90 ID:DhU4xYnZ0
【 PART9 報告 】



─ 王国城 ─



兵士「陛下! 急報です!」

兵士「昨夜、魔王が何者かの手によって殺害され、魔王軍は力を失い──」

兵士「我が軍の勝利が確定的となりました!」

兵士「おそらく魔王軍内で、なにか内紛があったものと……」

大臣「おお、そうか! それはめでたい!」

国王(やってくれたか……勇者……!)

兵士「はっ! では失礼いたします!」

90: 2013/08/22(木) 01:28:06.58 ID:DhU4xYnZ0
国王「本当は勇者を主役として、豪勢な祝勝会でも、といきたいところだが……」

国王「この任務は極秘中の極秘……そうもいかんだろうな」

国王「それに勇者は、依頼人に二度会うことを好まない、と聞いている」

国王「彼の功績は救国の英雄と呼ぶに相応しいものだというのに……残念なことだ」

大臣「なあに、どちらにせよ陛下がヤツに会うことは二度とありませんよ」

国王「?」

国王「大臣、どういうことだ……?」

大臣「いえいえ、なんでもありません。下らないひとりごとでした」

大臣「では私も、少し席を外させていただきます」スッ…

国王「…………」

93: 2013/08/22(木) 01:33:49.00 ID:DhU4xYnZ0
国王(今回の件では、かろうじて我が国は滅亡の危機を免れた……)

国王(だが、再び魔族を犠牲にするという選択は、本当に正しかったのだろうか……?)

国王(いや、国家のトップとして、私は最良の選択をしたのだ)

国王(一国の王が国の存続を最優先に動くことは当然のことであり)

国王(そこに疑問を差し挟む余地はない……)

国王(しかし──)

国王(卑劣と評せざるをえない事件を経て、成り立ってきた我が国の歴史……)

国王(人の目はあざむけるかもしれぬが、神の目まではあざむけぬ)

国王(いつの日か、裁きが下る日が……来るかもしれん、な……)

95: 2013/08/22(木) 01:40:25.02 ID:DhU4xYnZ0
【 PART10 もう一つの報告 】



< 大臣の部屋 >

大臣「さてと、報告を聞かせてもらおう」

斥候「はっ」

斥候「魔王城周辺は現在、混乱の極みに達しておりますが──」

斥候「大臣のおっしゃられていた“人間の氏体”を、無事確認できました」

大臣「フフフ……そうだろう、そうだろう」

大臣「国家機密を知った人間をむざむざ生かしておくほど、ワシは甘くない」

大臣「ヤツは一人寂しく、野垂れ氏にしていたことだろうよ」

斥候「は……? 私が発見した氏体は、全部で三体でしたが──」

大臣「え……?」

斥候「屈強な戦士と、若い魔法使いと、女性僧侶の三体でした」

大臣「な……!?」ガタッ

97: 2013/08/22(木) 01:46:46.39 ID:DhU4xYnZ0
大臣「バ、バカな……! あの三人が……そんなバカなことがっ!」

斥候「どうしました、大臣!? 急に青ざめて──」



勇者『俺は依頼人の嘘や裏切りを許さない……』



大臣(ワ、ワシは……っ!)ガタガタ…

大臣(ワシは……いったいどうなるんだっ!?)ガタガタ…

大臣「あああああっ……!」







<END>

105: 2013/08/22(木) 01:49:57.65
乙!面白かった!

106: 2013/08/22(木) 02:30:59.45

渋い勇者様でした

引用元: 勇者「用件を聞こうか……」国王「おおっ、ミスター勇者!」