1: 2011/03/14(月) 03:25:10.06 ID:/mvecuxQ0
杏子(…)ガリ
杏子(変だな)
杏子(……)シャク、シャク
杏子(…ん)
杏子(やっぱ、変だ)
杏子(変だな)
杏子(……)シャク、シャク
杏子(…ん)
杏子(やっぱ、変だ)
2: 2011/03/14(月) 03:25:31.89 ID:/mvecuxQ0
杏子(妙だな)ジー
杏子(林檎はこんなに熟れてんのに)
杏子(甘くねえ)ガリ
杏子(林檎はこんなに熟れてんのに)
杏子(甘くねえ)ガリ
3: 2011/03/14(月) 03:26:21.22 ID:/mvecuxQ0
さやか『あんた、その林檎はどうやって手に入れたの?』
さやか『お店で払ったお金はどうしたの?』
杏子(……)シャク、シャク
さやか『言えないんだね』
杏子(…)シャク
さやか『お店で払ったお金はどうしたの?』
杏子(……)シャク、シャク
さやか『言えないんだね』
杏子(…)シャク
4: 2011/03/14(月) 03:27:00.63 ID:/mvecuxQ0
杏子(知るもんか)
杏子(食わなきゃ生きていけないんだ)シャク
杏子(金がなんだ。道徳がなんだ)シャク
杏子(そんなもん、飢えの前じゃ屁みたいなもんさ)ゴクン
杏子(腹の足しにもなりゃしない)
杏子(アイツは甘いんだよ)
杏子(食わなきゃ生きていけないんだ)シャク
杏子(金がなんだ。道徳がなんだ)シャク
杏子(そんなもん、飢えの前じゃ屁みたいなもんさ)ゴクン
杏子(腹の足しにもなりゃしない)
杏子(アイツは甘いんだよ)
5: 2011/03/14(月) 03:28:23.59 ID:/mvecuxQ0
さやか『言えないんだね』
杏子(……)
さやか『ならあたし、その林檎を食べられない』
さやか『貰っても嬉しくない』
杏子(……ふん)
杏子(……)
さやか『ならあたし、その林檎を食べられない』
さやか『貰っても嬉しくない』
杏子(……ふん)
6: 2011/03/14(月) 03:29:57.12 ID:/mvecuxQ0
杏子(言ってろ)
杏子(そんでもって餓えちまえばいいんだ)
杏子(どーぞお好きに、おキレイなものだけ食って、
おキレイな言葉だけ吐いて)
杏子(勝手に、腹、鳴らしてりゃいいんだ)ガリ
杏子(ばあか)
杏子(ばーか、馬鹿女)
杏子(……)シャク、シャク
杏子「…酸っぱいなあ」
杏子(そんでもって餓えちまえばいいんだ)
杏子(どーぞお好きに、おキレイなものだけ食って、
おキレイな言葉だけ吐いて)
杏子(勝手に、腹、鳴らしてりゃいいんだ)ガリ
杏子(ばあか)
杏子(ばーか、馬鹿女)
杏子(……)シャク、シャク
杏子「…酸っぱいなあ」
7: 2011/03/14(月) 03:31:26.41 ID:/mvecuxQ0
杏子「もう、いいか」コト
杏子(残りは明日食おう)
杏子(中途半端に食ったから、茶色くなっちまうなあ)
杏子(見た目が悪いと、どうもなあ)
杏子(味は別にいいんだけどさ)
杏子(なんか、腐っちまったみたいで)
杏子(なんとなく鉄っぽいし)
杏子(残りは明日食おう)
杏子(中途半端に食ったから、茶色くなっちまうなあ)
杏子(見た目が悪いと、どうもなあ)
杏子(味は別にいいんだけどさ)
杏子(なんか、腐っちまったみたいで)
杏子(なんとなく鉄っぽいし)
8: 2011/03/14(月) 03:33:10.07 ID:/mvecuxQ0
ボフッ
杏子(あたしだって)
杏子(普通に家族がいて、普通に生活してたら)
杏子(そしたら)
杏子(そしたら、もしかしたら)
杏子(もっとさあ)
杏子(……)ゴロン
9: 2011/03/14(月) 03:34:35.62 ID:/mvecuxQ0
杏子(…なんてな)
杏子(ふん)ゴロ
杏子(だってそんなの、ナンセンスじゃないか)
杏子(考えるだけエネルギーの無駄)
杏子(カ口リーの無駄)
杏子(もうとっくにやめたんだよ)
杏子(カワイソウゴッコなんて)
杏子(あほらし)
11: 2011/03/14(月) 03:36:13.16 ID:/mvecuxQ0
杏子(この世に王子はいないし、ヒーローもいない)
杏子(奇跡も起きない)
杏子(あたしは魔法少女)
杏子(魂はガラクタ)
杏子(ハンプティ・ダンプティ)
杏子(普通なんかじゃないんだ)
杏子(だから普通なんて)
杏子(いらないんだよ)
杏子(奇跡も起きない)
杏子(あたしは魔法少女)
杏子(魂はガラクタ)
杏子(ハンプティ・ダンプティ)
杏子(普通なんかじゃないんだ)
杏子(だから普通なんて)
杏子(いらないんだよ)
12: 2011/03/14(月) 03:38:38.60 ID:/mvecuxQ0
――次の日
杏子(はは)テクテク
杏子(意外も意外)テクテク
杏子(結構、グサッときてるらしい)テクテク
杏子(あたしらしくもねーや)テクテク
杏子(あンの色惚け新米め。ズケズケ言ってくれちゃって)テクテク
杏子(第一後から入ったくせに生意気なんだっての)
杏子(人が折角……)テク
杏子「……ん?」ピタ
杏子(はは)テクテク
杏子(意外も意外)テクテク
杏子(結構、グサッときてるらしい)テクテク
杏子(あたしらしくもねーや)テクテク
杏子(あンの色惚け新米め。ズケズケ言ってくれちゃって)テクテク
杏子(第一後から入ったくせに生意気なんだっての)
杏子(人が折角……)テク
杏子「……ん?」ピタ
13: 2011/03/14(月) 03:40:28.23 ID:/mvecuxQ0
杏子「なんだこれ」ヒョイ
杏子「財布じゃねーか」ズッシリ
杏子(……)キョロキョロ
杏子「…どれどれ」チラッ
杏子「いち、にい、さん……おお、入ってんなあ~」
杏子「へっへ、らっきーらっきー」
杏子「これで美味いもんでも買おう」イソイソ
杏子「そんで思いっきり食ってやるんだ。
腹がはち切れるまで目一杯詰め込んでやろう」
杏子「ふふん」
杏子「鯛焼きだろー、大判焼きだろー」テクテク♪
杏子「んあー、今川焼もいいなー」テクテク♪
14: 2011/03/14(月) 03:42:19.74 ID:/mvecuxQ0
さやか『言えないんだね』
杏子 ピタ
杏子(……またかよ)
さやか『貰っても嬉しくない』
杏子「はあ…」
杏子(またアイツかよ)
杏子(どうしてあたしの邪魔をする)
杏子(なんであたしに割り込んでくる)
杏子(邪魔、すんなよ)
杏子(偽善者め)
杏子(分からず屋)
杏子(色情魔)
15: 2011/03/14(月) 03:45:25.46 ID:/mvecuxQ0
さやか『あたしはね、高すぎるものを支払ったなんて思ってない。
この力は使い方次第でいくらでも素晴らしいものにできるはずだから』
杏子「……」
杏子「……あーあ」クルッ
杏子「興が削がれちまった」テク、テク
杏子「バッカバカしー」
杏子「脳内さやかめ、消えろ消えろ、さっさと消えちまえ」
16: 2011/03/14(月) 03:47:01.98 ID:/mvecuxQ0
――交番前
杏子 キョロ、キョロ
杏子「はぁ」
杏子(サイアク)
杏子(なんであたしがこんなこと)
警官「あれ」
杏子「!」ギクッ
警官「どうも、こんにちは」
杏子「あ、あっと」
警官「どうしたのかな。学校は?
君、中学生だよね? 制服はどうしたのかな?」
杏子「あー……そのー」アタフタ
杏子(あ~~、だからヤなんだよ~こういうのはよぉぉ)
17: 2011/03/14(月) 03:48:24.36 ID:/mvecuxQ0
杏子「えーっと……」シドロモドロ
警官「うん?」ジロ
杏子(早く、早く逃げよう)
杏子(マジ怪しまれてるって)
杏子(さっさと押し付けて、早いとこ逃げるんだ)
杏子「その…」
杏子「…ッ!」ゴソゴソ
杏子「これっ、落ちてたんでっ」サッ
杏子(言えた)
警官「これ、ああ!落し物か!」
杏子 コク
警官「わざわざ届けてくれたんだね。ありがとう」ニコッ
杏子「ッ……」
警官「うん?」ジロ
杏子(早く、早く逃げよう)
杏子(マジ怪しまれてるって)
杏子(さっさと押し付けて、早いとこ逃げるんだ)
杏子「その…」
杏子「…ッ!」ゴソゴソ
杏子「これっ、落ちてたんでっ」サッ
杏子(言えた)
警官「これ、ああ!落し物か!」
杏子 コク
警官「わざわざ届けてくれたんだね。ありがとう」ニコッ
杏子「ッ……」
18: 2011/03/14(月) 03:50:06.25 ID:/mvecuxQ0
杏子(ああああああぁ!)
杏子(柄でもねえええぇぇ)
杏子(はっずかしいいいい!)
杏子(いっそ埋まっちまいてええぇぇ!)
杏子(埋めろ!埋めてくれ!)
杏子「そ」
警官「そ?」
杏子「そ、それだけ、それだけなんで」ギクシャク
杏子「あの」
杏子「帰り、ます」ペコッ
杏子「~~」クルッ
19: 2011/03/14(月) 03:51:41.59 ID:/mvecuxQ0
警官「あ、ごめんね」
杏子 ビクッ
警官「もう少し待っててくれるかな。
こういうの、調書を取らなくちゃいけなくてね」
杏子「…調書?」ドクン、ドクン
警官「何処で拾ったかと、あと、君の名前とか。
一応、住所と連絡先も教えて貰えるかな。
できれば保護者の方のも」
杏子「え、え」
警官「ごめんね、少し時間掛かるかもしれないけど、
学校にはこっちから連絡しておこうか?
この時間じゃもう遅刻だろうし」
杏子(まずい)
21: 2011/03/14(月) 03:53:58.08 ID:/mvecuxQ0
杏子「や、大丈夫、です」ジリ…
警官「大丈夫って?」
杏子(住所なんてないようなもんだ)
杏子(空部屋に潜り込んで、勝手に住みついてるだけで)
杏子(鼠みたいなもんで)
杏子(連絡先も)
杏子(ましてや、保護者なんて)
杏子(大体あたし、氏んだことになってるのに)
杏子(親父とかと一緒に)
杏子(どうしよ)
杏子(ヤバい)
警官「大丈夫って?」
杏子(住所なんてないようなもんだ)
杏子(空部屋に潜り込んで、勝手に住みついてるだけで)
杏子(鼠みたいなもんで)
杏子(連絡先も)
杏子(ましてや、保護者なんて)
杏子(大体あたし、氏んだことになってるのに)
杏子(親父とかと一緒に)
杏子(どうしよ)
杏子(ヤバい)
22: 2011/03/14(月) 03:55:44.07 ID:/mvecuxQ0
警官「大丈夫だいじょうぶ。
こういうのは形式上っていうか、そういうもんだから。
すぐに終わらせるから、まあとりあえず中に入って」
杏子「…っ…」
杏子(――逃げちまうか)ジリ
杏子(……)ジリ、ジリ
杏子(…こんなんなら)
杏子(こんなんなら、いつもみたいにパクっちまえばよかった)
杏子(気まぐれなんて起こしたからだ)ギリ
杏子(あたし、やっぱ馬鹿だ)
こういうのは形式上っていうか、そういうもんだから。
すぐに終わらせるから、まあとりあえず中に入って」
杏子「…っ…」
杏子(――逃げちまうか)ジリ
杏子(……)ジリ、ジリ
杏子(…こんなんなら)
杏子(こんなんなら、いつもみたいにパクっちまえばよかった)
杏子(気まぐれなんて起こしたからだ)ギリ
杏子(あたし、やっぱ馬鹿だ)
23: 2011/03/14(月) 03:58:33.99 ID:/mvecuxQ0
警官「最近はこうやって拾得物を届けてくれる人も減ってきてねえ。
君みたいな子がいてくれて嬉しいなあ」
杏子(…)
警官「きっとお父さんお母さんの躾がいいんだろうね。
うんうん。いい大人になるよ」
杏子(…逃げよう!)
杏子「あ、あたし!」
警官「ん?」
杏子「学校っ、遅刻するんで、これでッ――」ダッ
君みたいな子がいてくれて嬉しいなあ」
杏子(…)
警官「きっとお父さんお母さんの躾がいいんだろうね。
うんうん。いい大人になるよ」
杏子(…逃げよう!)
杏子「あ、あたし!」
警官「ん?」
杏子「学校っ、遅刻するんで、これでッ――」ダッ
25: 2011/03/14(月) 04:00:28.40 ID:/mvecuxQ0
ドンッ!
杏子「あ!?」ヨロッ
老婆「あら! あら、あら」ヨロ、ヨロ、ペタン
警官「ああぁ! 大丈夫ですか!」バタバタ
杏子「いってぇ……」
老婆「あたたた…ごめんなさいねえ…」
警官「どうぞ、掴まって」スッ
老婆「すいませんねえ」ムク…
警官「ほら、突然駆け出したりしたら危ないじゃないか。
遅刻は大丈夫だから。こっちから連絡すれば無下にはされないよ。
ちゃんと周りをよく見て…」
老婆「いえいえいえ、いいんですよ。
私が声を掛けるのが遅かったからねえ。
ごめんなさいね、お嬢さん」
杏子「あ、ああ……」
26: 2011/03/14(月) 04:02:37.53 ID:/mvecuxQ0
杏子(なんなんだよ、この婆さんは)
杏子(逃げ遅れちまったじゃんか)
杏子(タイミング、完璧逃した)
杏子(最悪だ)
老婆「お怪我はない? ぶつかってしまったわねえ」ポンポン
杏子「だい、じょぶ」…コク
老婆「そうなの、そうなの。
ごめんなさいねえ。おばさん、慌てちゃっててねえ。
ええ、そうね、落ち着かないと。
焦っちゃだめね。まったく、どうもそわそわしちゃって。
ほんと、ごめんなさいよ」
杏子「……」
杏子(怪我なんかないって言ってんのに)
杏子(お人好し)
杏子(騙されやすそ)
27: 2011/03/14(月) 04:03:46.53 ID:/mvecuxQ0
警官「お婆さん、どうかしましたか?」
老婆「ああ、お巡りさん。
そう、ちょっとお尋ねしたいんだけれど、
この辺りでお財布届いてないかしら。
布地が赤くてね、お魚の刺繍が入っているお財布」
杏子「!」
杏子(それって、まさか)
警官「もしかして……これですか?」ソッ
老婆「あら! まあまあまあ! 届いてたの!」
杏子(そっか、この婆さんの)
老婆「ああ、お巡りさん。
そう、ちょっとお尋ねしたいんだけれど、
この辺りでお財布届いてないかしら。
布地が赤くてね、お魚の刺繍が入っているお財布」
杏子「!」
杏子(それって、まさか)
警官「もしかして……これですか?」ソッ
老婆「あら! まあまあまあ! 届いてたの!」
杏子(そっか、この婆さんの)
28: 2011/03/14(月) 04:06:38.58 ID:/mvecuxQ0
老婆「驚いたぁ。
まあまあ、お財布さん、私より早く来ちゃってたの」
警官「いえ、それがですね、
この子がたった今届けてくれてたところだったんですよ」
老婆「そうだったの。おやまあ、有り難いことだ。
若いのに感心だねえ」
杏子「~…」
杏子(やっぱ、落ち着かねぇ)
杏子(こういうのは性に合わねえよ)
杏子(胸ン中が痒い)
まあまあ、お財布さん、私より早く来ちゃってたの」
警官「いえ、それがですね、
この子がたった今届けてくれてたところだったんですよ」
老婆「そうだったの。おやまあ、有り難いことだ。
若いのに感心だねえ」
杏子「~…」
杏子(やっぱ、落ち着かねぇ)
杏子(こういうのは性に合わねえよ)
杏子(胸ン中が痒い)
30: 2011/03/14(月) 04:08:52.15 ID:/mvecuxQ0
警官「一応、中身を改めましょうか?
あ、いや。君を疑ってる訳じゃないんだよ。
あくまでこういうのはね、当人同士の前で、誤解のないように」
老婆「いいえ、いいの、いいの。
このお財布さえ戻ってくればそれで」
警官「はあ」
老婆「中身なんていいのよ。外身が大事でねえ。
ああ、本当に有り難いわぁ。
何せお財布でしょう。お金も入ってるし、物騒な世の中だからねえ。
てっきりもうなくなったと思ってて。
お婆ちゃん、あのお財布は諦めましょう、なんてね。
嫁も口を酸ーっぱくして言うもんだし」
警官「ええと、その、まあお婆さんさえ宜しいのであれば…」
老婆「ええ、ええ」ニコニコ
あ、いや。君を疑ってる訳じゃないんだよ。
あくまでこういうのはね、当人同士の前で、誤解のないように」
老婆「いいえ、いいの、いいの。
このお財布さえ戻ってくればそれで」
警官「はあ」
老婆「中身なんていいのよ。外身が大事でねえ。
ああ、本当に有り難いわぁ。
何せお財布でしょう。お金も入ってるし、物騒な世の中だからねえ。
てっきりもうなくなったと思ってて。
お婆ちゃん、あのお財布は諦めましょう、なんてね。
嫁も口を酸ーっぱくして言うもんだし」
警官「ええと、その、まあお婆さんさえ宜しいのであれば…」
老婆「ええ、ええ」ニコニコ
31: 2011/03/14(月) 04:10:28.93 ID:/mvecuxQ0
杏子(変な婆さん)
杏子(あたしが中身くすねてたらどうするつもりだろ)
杏子(厚みもあるし、さっき見た限りじゃ中身も相当入ってた)
杏子(一枚くらい抜いてたって分かりゃしないだろ)
杏子(それなのに、こんなに喜んじゃって)
杏子(…とってないけどさ)
杏子(…………今回、は)
老婆「ね、ね、お嬢さん」
杏子「え」ビクッ!
33: 2011/03/14(月) 04:13:09.77 ID:/mvecuxQ0
老婆「ほんにありがとうね。
わざわざ届けてくれて、さぞご足労だったろうねえ」
杏子「いや、ええと」シドロモドロ
杏子(ご足労ってなにさ)
杏子(ただ持ってきただけだし)
杏子(それも気まぐれだし)
杏子(いつもならも、っと)
老婆「学校もあっただろうにね。
こんなボロの為に寄ってくれたんだろう。
本当に、心根が優しい子なんだねえ」ナデナデ
杏子「あ…」
杏子(撫でられた)
わざわざ届けてくれて、さぞご足労だったろうねえ」
杏子「いや、ええと」シドロモドロ
杏子(ご足労ってなにさ)
杏子(ただ持ってきただけだし)
杏子(それも気まぐれだし)
杏子(いつもならも、っと)
老婆「学校もあっただろうにね。
こんなボロの為に寄ってくれたんだろう。
本当に、心根が優しい子なんだねえ」ナデナデ
杏子「あ…」
杏子(撫でられた)
34: 2011/03/14(月) 04:14:38.38 ID:/mvecuxQ0
杏子(婆さんの手、かさついてる)
杏子(指なんて枯れちまった枝の先っぽみてえだ)
杏子(ごつごつして、がっさがさで。
髪に絡まって痛い。いてっ、また引っ掛かった)
杏子(……がっさがさなのに、あったかいんだなあ)
杏子(血はちゃんと通ってんだなあ)
杏子(…変な婆さんだ)
杏子(指なんて枯れちまった枝の先っぽみてえだ)
杏子(ごつごつして、がっさがさで。
髪に絡まって痛い。いてっ、また引っ掛かった)
杏子(……がっさがさなのに、あったかいんだなあ)
杏子(血はちゃんと通ってんだなあ)
杏子(…変な婆さんだ)
35: 2011/03/14(月) 04:16:58.78 ID:/mvecuxQ0
老婆「このお財布は昔、敬老の日にね、孫から貰ったお財布なの。
ちょうど孫があなたくらいの歳のときだったかしらねえ。
あなたも随分可愛らしいお嬢さんだけれど。
今じゃもうおっきくなっちゃって、ろくに顔も見せないし、
噂じゃ悪いことばーっかりやってるって話だけど」
杏子「…」
老婆「最近はお金をねだりに来るくらいだけれど、
やっぱり可愛いから、どうも駄目なの。
うちの子にも、ああ、娘なんだけれどね、よく怒られるのよ。
母さんは甘やかし過ぎよって。もう、目をこんなにして怒るの。
そうかしらねえ。甘やかし過ぎかねえ。
……おやおや、ごめんなさいよ。これから学校だったね」
ちょうど孫があなたくらいの歳のときだったかしらねえ。
あなたも随分可愛らしいお嬢さんだけれど。
今じゃもうおっきくなっちゃって、ろくに顔も見せないし、
噂じゃ悪いことばーっかりやってるって話だけど」
杏子「…」
老婆「最近はお金をねだりに来るくらいだけれど、
やっぱり可愛いから、どうも駄目なの。
うちの子にも、ああ、娘なんだけれどね、よく怒られるのよ。
母さんは甘やかし過ぎよって。もう、目をこんなにして怒るの。
そうかしらねえ。甘やかし過ぎかねえ。
……おやおや、ごめんなさいよ。これから学校だったね」
37: 2011/03/14(月) 04:19:09.50 ID:/mvecuxQ0
杏子「いえ……」
杏子「……す…ませ…」ボソ
老婆「何を謝ることがあるかね」ニコニコ
杏子(……)
老婆「本当に、ありがとうよ。
これ」ゴソゴソ、クシャッ
杏子「?」ギュッ
老婆「少なくてごめんなさいね。いいから、とっときなさい」
杏子(……?)…カサ
杏子「……す…ませ…」ボソ
老婆「何を謝ることがあるかね」ニコニコ
杏子(……)
老婆「本当に、ありがとうよ。
これ」ゴソゴソ、クシャッ
杏子「?」ギュッ
老婆「少なくてごめんなさいね。いいから、とっときなさい」
杏子(……?)…カサ
38: 2011/03/14(月) 04:21:30.98 ID:/mvecuxQ0
杏子(!!!)
杏子「あ、あ」フルフル
杏子「これ……こんな、いいです」
老婆「いいの、いいの」
杏子「でも、こんなに、あたし別に、そんな」
老婆「ほんのお礼。孫にあげるようなものよ。
年寄りってのはね、あげたい病なの。若い子と話してるとね、元気になるのよ。
婆さんからのお小遣いだと思って、あなたの好きに使ってちょうだいな。
お財布ありがとう、ありがとうね」
杏子「……」ジッ
杏子「…っ」ダッ
タッタッタッタッ
警官「あっ!君!」
警官「……遅刻、大丈夫ですかねえ。連絡してあげたのに」
老婆「おやおや、せっかちさんだねえ」ニコニコ
杏子「あ、あ」フルフル
杏子「これ……こんな、いいです」
老婆「いいの、いいの」
杏子「でも、こんなに、あたし別に、そんな」
老婆「ほんのお礼。孫にあげるようなものよ。
年寄りってのはね、あげたい病なの。若い子と話してるとね、元気になるのよ。
婆さんからのお小遣いだと思って、あなたの好きに使ってちょうだいな。
お財布ありがとう、ありがとうね」
杏子「……」ジッ
杏子「…っ」ダッ
タッタッタッタッ
警官「あっ!君!」
警官「……遅刻、大丈夫ですかねえ。連絡してあげたのに」
老婆「おやおや、せっかちさんだねえ」ニコニコ
39: 2011/03/14(月) 04:23:17.61 ID:/mvecuxQ0
――路地裏
杏子「はあっ、はあっ…」
杏子(――二万)
杏子(二万も、貰った)
杏子(なにそれ)
杏子「はあ…はあ…」
杏子(落ちてた財布拾って)
杏子(近くの交番に持ってって)
杏子(それで、そんだけで二万)
杏子(あんなボロ財布を? 駅前の交番で?)
杏子「……はあ…」
41: 2011/03/14(月) 04:24:54.49 ID:/mvecuxQ0
杏子(他人の監視を必氏にかいくぐって)
杏子(服の袖の裏とか、上着のポケットとか)
杏子(おっきめのトートバックとか、わざわざ持ってって)
杏子(食いたいだけ詰め込んで)
杏子(防犯ベルが鳴ったら、とにかく走って)
杏子(もし途中で捕まったら殴り倒してでも)
杏子(だってあたしは命賭けてんだから)
杏子(食わなきゃやってられないんだから)
杏子(そうやって、ようやく手に入れた林檎だって)
杏子(千円もしない)
杏子「……」
杏子「…あたし、何やってんだろ…」
42: 2011/03/14(月) 04:27:20.74 ID:/mvecuxQ0
杏子(信じろ、信じろ)
杏子(人の善意を信じろって)
杏子(親父は何度だって叫び続けた)
杏子(そうすれば、必ずいつか報われるんだって)
杏子(だから皆、自分を信じましょう、周りを信じましょうって)
杏子(正論ばっかり、綺麗事ばっかり言ってた親父)
杏子(あたしも、それを信じてたはずだったのに)
杏子(それを信じたから、だから皆も聞いてくれれば分かるって)
杏子(親父の言ってたことが正論だと思ってたから)
杏子(だからこそあたしは、魔法少女になったのに)
杏子(ちっぽけなガラクタの、オモチャになったっていうのに)
杏子「なにやってんだろ…」
杏子「……なに、やってたんだろ…」
杏子「馬鹿、だよなあ……あたしって…」
杏子(結局、あたしが一番信じ切れてなかったんじゃん)
杏子(人の善意を信じろって)
杏子(親父は何度だって叫び続けた)
杏子(そうすれば、必ずいつか報われるんだって)
杏子(だから皆、自分を信じましょう、周りを信じましょうって)
杏子(正論ばっかり、綺麗事ばっかり言ってた親父)
杏子(あたしも、それを信じてたはずだったのに)
杏子(それを信じたから、だから皆も聞いてくれれば分かるって)
杏子(親父の言ってたことが正論だと思ってたから)
杏子(だからこそあたしは、魔法少女になったのに)
杏子(ちっぽけなガラクタの、オモチャになったっていうのに)
杏子「なにやってんだろ…」
杏子「……なに、やってたんだろ…」
杏子「馬鹿、だよなあ……あたしって…」
杏子(結局、あたしが一番信じ切れてなかったんじゃん)
43: 2011/03/14(月) 04:29:10.01 ID:/mvecuxQ0
さやか『いくらでも素晴らしいものにできるはずだから』
杏子「……はは」クシャ
杏子「弱ったなあ」
杏子「あんな色惚けに、あたしがやられるとはね」
44: 2011/03/14(月) 04:30:14.03 ID:/mvecuxQ0
――表通り
杏子「鯛焼き二つ」
店員「300円でーす」
杏子「…これで」ペラッ
店員「一万円預かりしまーす。…一万円入りまーす!
九千七百円のお返しでーす。
お熱いのでお気をつけてお持ちくださーい」ガサッ
杏子「…」ポフ
店員「ありがとうござぁしたぁー」
杏子「…ども」
杏子 テクテク
杏子 アム
45: 2011/03/14(月) 04:31:33.88 ID:/mvecuxQ0
杏子「! うンまっ!」ピタ
杏子(何これ、超美味いじゃん)
杏子(皮はパリパリ。中はほくほく)
杏子(もしかしてあの店、鯛焼きの名店?)
杏子(いい店見つけた)アグアグ
杏子(また行こ)モグモグ テクテク
杏子(二個買ったけど、一個で十分)
杏子(やばい)
杏子(満足、かも)
杏子「あー」
杏子「晴れてんなー」
46: 2011/03/14(月) 04:32:04.94 ID:/mvecuxQ0
ピタ
さやか「あ」
杏子「あ」
47: 2011/03/14(月) 04:36:28.26 ID:/mvecuxQ0
さやか「……」
杏子「……、よう」
さやか「…」プイ テクテク
杏子「おいおい、無視かよ。つれないじゃん」
さやか「なに。まだあたしに用なの」
杏子「ほらよ」スッ
さやか「?」
杏子「やるよ、鯛焼き。まさか食えないって訳じゃねえだろ?」
さやか「…いらない」
杏子「粒あんよりこしあん派、とか?
人の善意は素直に受け取るもんだよ。ましてや、食いモンなら尚更だ」
さやか「いらない。食べたくない。
あたし、あんたの盗みの片棒なんて、担がない」
杏子「……はは」ポリ
杏子「やっぱ、それなりにクるね」
杏子「……、よう」
さやか「…」プイ テクテク
杏子「おいおい、無視かよ。つれないじゃん」
さやか「なに。まだあたしに用なの」
杏子「ほらよ」スッ
さやか「?」
杏子「やるよ、鯛焼き。まさか食えないって訳じゃねえだろ?」
さやか「…いらない」
杏子「粒あんよりこしあん派、とか?
人の善意は素直に受け取るもんだよ。ましてや、食いモンなら尚更だ」
さやか「いらない。食べたくない。
あたし、あんたの盗みの片棒なんて、担がない」
杏子「……はは」ポリ
杏子「やっぱ、それなりにクるね」
49: 2011/03/14(月) 04:38:44.91 ID:/mvecuxQ0
杏子「そう言うなよ、新米魔女っ子。
これは正真正銘、あたしの金で買ったもんだ。汚い金じゃない。
あんたの大好きな、綺麗事と道徳の産物ってワケ」
さやか ジト
杏子「だからさ」グイッ
杏子「あんたに食べて貰わないと、困るんだわ」
さやか「…なんでよ」
杏子「はは。なんでかな、あたしにだって分かるもんか」
杏子「でも、そうだな、たぶん」
杏子「…あんたと、もうちょっと歩み寄ってみたいから、かな」
さやか ジッ
杏子「ほら。よく言うじゃねえか」
杏子「同じ釜の飯を食う仲とか、なんとかってさ。
考えてみりゃさ、あたしらも同じでしょ。
同じ悪魔にそそのかされた仲じゃない」
さやか「……ふん」
これは正真正銘、あたしの金で買ったもんだ。汚い金じゃない。
あんたの大好きな、綺麗事と道徳の産物ってワケ」
さやか ジト
杏子「だからさ」グイッ
杏子「あんたに食べて貰わないと、困るんだわ」
さやか「…なんでよ」
杏子「はは。なんでかな、あたしにだって分かるもんか」
杏子「でも、そうだな、たぶん」
杏子「…あんたと、もうちょっと歩み寄ってみたいから、かな」
さやか ジッ
杏子「ほら。よく言うじゃねえか」
杏子「同じ釜の飯を食う仲とか、なんとかってさ。
考えてみりゃさ、あたしらも同じでしょ。
同じ悪魔にそそのかされた仲じゃない」
さやか「……ふん」
50: 2011/03/14(月) 04:40:55.63 ID:/mvecuxQ0
さやか「……はあ。…分かったよ」
杏子「ん?」
さやか「食べるよ。その代わり、ちゃんと聞かせなさいよね。
もし、万が一、それが妙な出どころのお金だったりしたら
そのときはタダじゃおかないから」
杏子「おー、怖い怖い」ヒラヒラ
杏子「分かったよ。ったく、疑り深いなぁ。
あたしはもう逃げも隠れもしないよ。
ま、座りなよ。食べながら喋るくらいは許してくれるんだろ?
『マナーが~』なんて綺麗事は言ってくれるなよ。
あたしは、さ。アンタと話していたいんだよ。
もっと、もっとだ」
杏子「ん?」
さやか「食べるよ。その代わり、ちゃんと聞かせなさいよね。
もし、万が一、それが妙な出どころのお金だったりしたら
そのときはタダじゃおかないから」
杏子「おー、怖い怖い」ヒラヒラ
杏子「分かったよ。ったく、疑り深いなぁ。
あたしはもう逃げも隠れもしないよ。
ま、座りなよ。食べながら喋るくらいは許してくれるんだろ?
『マナーが~』なんて綺麗事は言ってくれるなよ。
あたしは、さ。アンタと話していたいんだよ。
もっと、もっとだ」
51: 2011/03/14(月) 04:42:17.30 ID:/mvecuxQ0
終わりです。
お付き合い頂きありがとうございました。
そして支援して下さった方も本当にありがとうございます。
杏子とさやかが好きです。
まどか愛なほむほむはマジほむほむ。
そしてマミさんはフォーエバー。
またなんか時間を見つけて書きたいと思います。
52: 2011/03/14(月) 04:43:17.21
おつかれ!
引用元: 杏子「この林檎、まっず」
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