1: 2011/04/10(日) 00:16:20.18 ID:O7DilR5V0

 時は永祿五年。
 これは、見滝原を治める大名家『鹿目家』の騒動を描いた物語である。



 鹿目家の現当主、鹿目知久は民に善政を敷き、慕われる大名であったが、いかんせん戦下手であった。

 その鹿目家が周辺の国家から侵略されずに済んでいたのは、正室であるお絢の方や、優秀な家臣団のおかげであった。
 

 その中でも三勇将と呼ばれる3人の女武将と一人の名軍師、いわゆる『鹿目四天王』の力が大きい。



7: 2011/04/10(日) 00:17:57.17 ID:O7DilR5V0

 一人は『無双槍』こと、佐倉 杏子。

 類まれなる膂力と卓越した槍捌きで、一介の足軽からのし上がって来た武闘派の武将である。
 その戦働きには眼を見張るものがあり、他国の武将からは『鬼杏子』『見滝原の赤鬼』とも呼ばれている。 


 一人は『八百挺おマミ』こと、巴 マミ。

 見滝原の豪族、巴家の現当主であり、家臣団への影響も大きい重臣である。
 鉄砲の名手で、戦場では何挺もの鉄砲を携えて百発百中の腕前を見せたことからその字名が着いた。


 一人は『剣豪』こと、美樹 さやか。

 古くから鹿目家に仕える美樹家の武将で、奥汰比阿流の免許皆伝を持つ剣豪である。
 鹿目知久の娘『まどか姫』の乳母姉妹であり、あまり戦に出ることはなかったが、内から鹿目家を支えていたと言う。



 そして四天王の最後、『策士』こと、員 九兵衛。

 異国の血を引く白髪赤目の美丈夫で、その見た目から『赤目鬼』とも呼ばれた天才軍師である。
 彼の策により、兵数で他国に劣るはずの鹿目家は見滝原を守ることが出来たのであった。


 そして物語は、鹿目家に浪人の暁美ほむらが家臣として召し抱えられた所から始まる。

9: 2011/04/10(日) 00:19:34.67 ID:O7DilR5V0


 その日、鹿目知久の正室、お絢の方の娘であるまどか姫は、知久の居城『見滝原城』にて茶の湯の稽古を終えたばかりであった。


まどか「やっぱり、私って茶の湯の才能、無いのかなぁ」トボトボ

さやか「姫様! またこのような所で……」

まどか「あ、さやかちゃん!」

さやか「そのような格好で外に出られてはお風邪を召します。ささ、城内へ」

まどか「もう、そんな畏まらないでよ。幼なじみでしょ?」

さやか「ですが、私にも立場というものが……」

まどか「昔みたいな口調にしてくれなかったら、もうさやかちゃんとは口効かないんだから」プイッ

さやか「はぁ…… わかったわよ。これでいい? まどか」

まどか「うん! さやかちゃん大好き!」

さやか「うわっ!? もう、急に抱きついてこないでよ……」

14: 2011/04/10(日) 00:24:01.47 ID:O7DilR5V0

まどか「えへへ、ごめんね」

マミ「あらあら、仲がいいわね」

まどか「あ! マミさん!」

マミ「こんにちは、姫様」

さやか「マミ殿、登城されていたのですか。もしや何かあったので?」

マミ「えぇ、今日は新しく召し抱えられた暁美さんをお連れしたのよ」

さやか「あぁ、あの浪人ですか。あの者はどうも陰気くさくて好きませぬ」

ほむら「陰気くさくて悪かったわね」

さやか「!? 浪人……」

ほむら「私はお館様に召抱えていただいたのだから、もうその呼び方は止めてくれる?」

さやか「………」

マミ「まぁまぁ二人とも、家臣同士の喧嘩はご法度よ。暁美さん、城内の家臣へ挨拶は済んだかしら?」

17: 2011/04/10(日) 00:28:34.20 ID:O7DilR5V0

さやか「えぇ、滞り無く。ただ見滝原城は広く、まだ城内の見て回れてはおりません」

まどか「じゃあ私が城内を案内してあげる!」

さやか「ちょっ!? まどか!」

まどか「大丈夫だよ、暗くなる前に戻るから。いいよね? マミさん」

マミ「姫様がそう仰るのでしたら…… 護衛はお付けしましょうか?」

まどか「もう、マミさんは心配性なんだから。大丈夫だよぉ、城内だし」

さやか「でも……」

まどか「大丈夫大丈夫。いいよね? ほむらちゃん」

ほむら「はっ! 異存などあるはずも御座いませぬ」

まどか「それじゃあ行ってきます!」

マミ「お気をつけて」

さやか「…………」

19: 2011/04/10(日) 00:31:30.80 ID:O7DilR5V0
              
                   ◆

まどか「……それでね、和子さんがね――」

ほむら「そうなのですか」

まどか「そしたら―― たっくんが……」

ほむら「なるほど」

まどか「今度は母上が南蛮の酒を取り寄せてね!」

ほむら「それはそれは」

まどか「むぅ……」

ほむら「いかがされました?」

まどか「ほむらちゃん、さっきから全然笑わないね。相槌打つだけだし」

ほむら「私は、こういう性分ですので」

まどか「昔からそうなの?」

ほむら「昔は…… そうでもなかったかもしれません」

まどか「ふぅん……変わったんだね」

21: 2011/04/10(日) 00:36:01.77 ID:O7DilR5V0

ほむら「姫様は、お館様やお絢の方様がお大事なのですね」

まどか「うん! だって家族だもん」

ほむら「家臣たちとも仲が良いように見受けられますが」

まどか「皆、鹿目家の為に働いてくれてるし、いい人ばっかりだよ」

ほむら「その皆を、失いたくないとお思いですか? 大事だと、胸をはって言えますか?」

まどか「えっと……皆大事な人だし、居なくなったら悲しいよ……」

ほむら「そう思うのでしたら、私のように変わろうなどと思わぬことです。
     姫様が変わられることで、悲しむ者がいることを努々お忘れなきよう」

まどか「ほむら……ちゃん?」

ほむら「すみません。出過ぎたことを――」

杏子「お! 姫様じゃねーか!」

23: 2011/04/10(日) 00:39:05.19 ID:O7DilR5V0

まどか「杏子ちゃん!」

杏子「今日は新入りが居るって聞いて来たんだ」

まどか「じゃあ調度良かった。紹介するね、こちらが暁美ほむらちゃん」

ほむら「どうも」

杏子「へぇ、あんたが新入りかい。あたしは佐倉杏子。よろしくね」

ほむら「知っているわ。『無双槍』でしょう?」

杏子「あたしも有名になったもんだ。まぁ、戦の時は足を引っ張らないようにしてくれよ」

ほむら「えぇ、善処するわ」

杏子「へっ それならいいんだ。そんじゃーな! 姫様」

まどか「うん! またねー」


ほむら「姫様、日も落ちて参りました。そろそろ城内に」

まどか「えー、もうちょっとほむらちゃんとお話したかったんだけど……」

ほむら「美樹様も心配されているでしょう」

25: 2011/04/10(日) 00:44:00.72 ID:O7DilR5V0

まどか「そう……だね。じゃあまたね、ほむらちゃん!」

ほむら「えぇ、またお会いしましょう」

 タッタッタ


ほむら「まどか姫……か」

九兵衛「おや?」

ほむら「っ!」

九兵衛「貴女は、暁美ほむら殿……だったかな?」

ほむら「員九兵衛……」

九兵衛「僕のことを知ってるのかい?」

ほむら「白々しいわね。そんな容姿で目立たないとでも思ったの?」

九兵衛「それを言われたら仕方ないね」

26: 2011/04/10(日) 00:47:48.02 ID:O7DilR5V0

ほむら「………」

九兵衛「まどか姫に、何を吹き込んだんだい?」

ほむら「他愛ない話よ」

九兵衛「気になるなぁ」

ほむら「貴方に話す義理はない」

九兵衛「それもそうだね。ただ――」


九兵衛「まどか姫に下手なことをしたら……わかるね?」


ほむら「……肝に銘じておくわ」

九兵衛「分かってくれればいいんだ。それじゃあ僕はこれで」

ほむら「…………」

27: 2011/04/10(日) 00:48:38.71 ID:O7DilR5V0

 こうして家臣団の一員となった暁美ほむらはその後、主に内政や諜報活動に携わり多大な貢献を果たし、その地位を確固たるものとしていく。

 ただ、新参でありながら重宝される暁美ほむらを快く思わない者たちも居た。
 重臣、巴マミと美樹さやかもその一員。否、筆頭ですらあった。


 そして永祿6年7月。事件は起こった。


伝令「お館様!」

知久「どうしたんだい? そんなに慌てて。とりあえず茶でも一服飲んで落ち着いて――」

お絢「どう見たってそんな状況じゃないでしょうに。何があったの?」

伝令「敵の軍勢が、我が領内に侵入! 見滝原城を目指して進軍中です!」

知久「えぇ!?」

お絢「どこの国の兵だかわかる?」

知久「上條家の軍と見て、間違いありません!」

お絢「っ! ついに来たか……」

28: 2011/04/10(日) 00:54:20.96 ID:O7DilR5V0


 上條家は、見滝原の隣国を治める大名である。
 かつては互いに同盟関係にあったが、人質として鹿目家に来ていた上條家の嫡男恭介が事故で怪我をして以来、関係は険悪なものとなっていた。

 また、上洛を目論む上條家にとって、その進路上にある見滝原は目の上のたんこぶでもあったのだ。

 この進軍は起こるべきして起こったと言えるだろう。


伝令「既に支城が包囲されています。落とされるのも時間の問題かと……」

知久「後詰めを送らないといけないね。絢子さんはどう思う?」

お絢「そうさね…… 九兵衛! 九兵衛はいる!?」

九兵衛「ここに」

お絢「すぐに後詰を向かわせて。編成は貴方に一任するからさ」

九兵衛「御意」

29: 2011/04/10(日) 00:56:11.68 ID:O7DilR5V0

マミ「それで、私にお鉢が回ってきたのね?」

九兵衛「上條軍を退けられるのは君しか居ないんだ。頼まれてくれないかい?」

マミ「任せて頂戴。すぐに追い払ってやるわ」

九兵衛「ありがとう、マミ」

マミ「それで、何か作戦はあるの?」

九兵衛「任せてよ。軍師の力を見せてあげる」


■軍議

杏子「で、あたしは留守番かい?」

九兵衛「城の守りを手薄にするわけにはいかないからね。そこでもう一つ、暁美殿に出陣を願いたいんだ」

ほむら「私に?」

九兵衛「作戦はこうだ。敵は僕達の支城を五千の兵で取り囲み、残り一万を前方に、本陣に二千の守兵を置いている」

九兵衛「幸い地の利はこちらにあるから、山の地形を生かし巴殿が率いる別働隊三千で大将首に奇襲をかける」

九兵衛「別働隊が移動している間、暁美隊一万は前方の敵に当たって欲しい」

九兵衛「もし奇襲が成功したら城内からも兵を出すようなんとかして伝えておくから、混乱に乗じて敵を殲滅するんだ」

30: 2011/04/10(日) 01:02:53.76 ID:O7DilR5V0

マミ「……その攻撃隊は、佐倉殿ではダメなの?」

杏子「そうだよ、要するに前方隊をけちょんけちょんにしてやればいいんでしょ?」

九兵衛「だから、守りを強化するためにしっかりした戦力を残しておきたいんだよ」

さやか「城にならあたしだって!」

九兵衛「はぁ、あまり言いたくないんだけど、美樹殿はこの戦いに出せないよ」

さやか「な、なんで!?」

九兵衛「だって君は、上條家の嫡男、上條恭介と文のやりとりをしているじゃないか」

さやか「――!? そ、それは…… ただ歌の指南をうけているだけで」

九兵衛「そうだとしても、そんなやりとりをしていながら相手が攻めてきたのは何でだい?
      その文の交換で情報が全く漏れていないと、君は断言できるかい?」

さやか「――っ」

33: 2011/04/10(日) 01:08:27.47 ID:O7DilR5V0

 この時さやかの言っていることは嘘ではなかった。
 上條恭介の人質時代、最も彼と仲が良かったのは他ならぬさやかであった。
 その後も文のやりとりは続き、歌人としても有名であった恭介に、さやかは歌の指南を受けていたのである。


九兵衛「そういうわけで、今回の戦いに君は出せない。
     疑っているわけじゃないけれど、他の家臣に示しがつかないからね。分かってくれたかい?」

さやか「……えぇ」

杏子「ま、仕方ないさ。今回はあたしに任せな」

マミ「………」

九兵衛「さぁ、時間がない。今すぐ出陣しないと」

マミ「分かったわ」

ほむら「了解」

杏子「応ッ!」

さやか「……」

34: 2011/04/10(日) 01:10:48.90 ID:O7DilR5V0

                ◆

さやか「……はぁ」

まどか「さ~やかちゃん」

さやか「姫さ……まどか」

まどか「どうしたの? そんなに暗い顔して」

さやか「あたしって、ほんと馬鹿」

まどか「さやか……ちゃん?」

さやか「相手は敵だって分かってたのにね。何で、諦めきれなかったんだろう」

まどか「もしかして上條くんとの事……!」

さやか「うん。その所為で今回は留守番だってさ。はは、笑っちゃうよね」

まどか「…………」


35: 2011/04/10(日) 01:12:15.57 ID:O7DilR5V0

■支城裏手 山の頂上

マミ「あれが敵の本陣ね……」

家臣「いかがいたしますか?」

マミ「本隊が敵の先陣と交戦を初め次第突っ込むわ。いつでも出れるよう兵を待機させて」

家臣「かしこまりました」

マミ「頼むわよ……暁美さん」


 カッ ウオォォォォ ギンッ ギギンッ


マミ「! この音は――」

家臣「始まったようですね」

マミ「いまよ! 掛かれィ!」


兵「「「うおおおおおおおお!!!」」」


36: 2011/04/10(日) 01:15:54.01 ID:O7DilR5V0

 ドドドドド

敵大将「な、何事じゃ!?」

敵兵「敵襲! 敵襲!!」

敵大将「えぇい! 応戦しろ!」

敵兵「殿! 籠城していたはずの敵兵が、我らの方に打って出ました! このままでは挟み撃ちに!」

敵大将「あの旗印は……巴マミか!? くっ、こうなったら刺し違えてでも敵将の首を討る!」


■支城前方

ほむら「全軍! 敵を引きつけつつ応戦! まだ無理に突っ込むことは無いわ、奇襲が成功するまで時間を稼ぐのよ! ただし敵に奇襲を気取られないよう、いくつかの隊は突撃して敗走を装いながら一撃離脱!」

家臣「暁美様、敵の攻撃が激しく、損耗著しいとの報告が……」

ほむら「あと少しだけ耐えて!」

ほむら(まだなの? 士気が落ちてきている……このままじゃ……)

37: 2011/04/10(日) 01:21:18.11 ID:O7DilR5V0

               ◆

マミ「掛かれ! 掛かれェ!」

兵「うおおおおおお!!」

敵兵「あの黄兜に羽飾りは……! 『八百挺おマミ』!? 勝てるわけねぇ!」

マミ「鉄砲隊構え! てぇー!」

 ズドン ズドン ズドン!

敵兵「ぎゃあああ!」

敵兵「もうダメだぁ!」

敵大将「うろたえるな! 敵は少数、押しきれば勝て―― ぶべっ」ズドン

マミ「敵将、狙い撃ちよ」

敵兵「ひぃぃ!! 撤退! 撤退!」

マミ「決して逃がすな! 敵を追い立て、挟み撃ちにするのよ!」

マミ(九兵衛の言ったとおり、行ける! もう何も怖くない!)

兵「「「応ッ!」」」

39: 2011/04/10(日) 01:26:08.43 ID:O7DilR5V0

■前方隊

ほむら「伝令は……」

 「敵将! 討ち取ったりィィィィ!!」

ほむら「! やったの!?」


 「敵将、巴マミ! 討ち取ったりィィィィ!!」


ほむら「なっ―――!?」

兵「巴様が!?」

兵「そんな! もう勝てねぇよ!」

 ざわ… ざわ…

ほむら「敵の虚言に惑わされるな! 巴マミは生きている! かかれ! かかれー!」

ほむら(だめ…… 士気が目に見えて落ちてる)

ほむら(せめて奇襲隊がどうなったかさえわかれば……)

41: 2011/04/10(日) 01:31:07.82 ID:O7DilR5V0

伝令「暁美様!」

ほむら「奇襲隊は!?」

伝令「奇襲は成功。敵大将を討ち取り、現在城内の兵と共に攻め上がっています。 ただ……」

ほむら「まさ……か」

伝令「巴マミ様が、お討ち氏にされました……」

ほむら「くっ……」

ほむら「……………」

家臣「暁美様……」

ほむら「ここは任せたわ」

家臣「え?」

ほむら「敵大将は巴マミが討ち取った! 巴殿の次に手柄を上げたい者は、私に続けェェ!」

兵「「「おおおおおおお!!!」」」


ほむら「マミさん…… 仇は私がッ!」


44: 2011/04/10(日) 01:36:25.19 ID:O7DilR5V0

 この決氏の突撃により盛り返した暁美隊は獅子奮迅の活躍を見せ、別働隊との挟み撃ちで敵に多大な損失を与えた。
 ほぼ全滅状態の敵に対し、こちらの損害は2割程度。

 しかし、巴マミと言う有能な武将を失った事は、鹿目家に取って大きな影響を及ぼすことと成る。


さやか「あんたが! あんたがマミさんを頃したんだ! あんたがもう少し早く突撃してれば!」

杏子「落ち着けよ、さやか!」


 確かに、さやかの言うことは間違っていない。

 巴マミの隊は本隊の到着を待たぬまま攻め上がりすぎ、逆に敵の渦中へと突っ込んでしまったのだ。
 そこは八百挺と呼ばれたマミだ、何倍もの敵相手に無双の働きをしたが、多勢に無勢、あえなく討ち氏にとなった。

 確かにほむらが早く突撃していれば、マミを救うことは出来たかもしれない。だが、それは空論に過ぎなかった。
 言うなれば、これは互いの不和が招いた、コンビネーション不足故に起こった悲劇であった。


九兵衛「やれやれ、君達なら上手く連携してやってくれると思っていたんだけどなぁ」

 言う九兵衛の顔は、しかし無表情だ。
 彼はいつもこうである。明るい声音の割に、表情は能面のように変わらない。

 ほむらは、しかしそんな無表情の中に、暗い笑みが垣間見えたように感じたのだった。
 

45: 2011/04/10(日) 01:42:43.47 ID:O7DilR5V0

 それからというもの、ほむらに対する家臣たちの風当たりは強くなった。
 元々妬まれていたほむらだったが、今回の件で皆を完全に敵に回してしまったらしい。
 
 しかし、そんな彼女にこれまでと同じように接する者もいた。
 まどか姫だ。


まどか「ほむらちゃん」

ほむら「姫……」

まどか「ねぇ、今日もお話をきかせてよ」

 此頃まどかは、長い間様々な国を巡ってきたほむらの話を聞くのを楽しみにしていた。
 様々な主君に仕えてきたほむらの話は、時に楽しく、時に悲しく、またどれも教訓を与える物ばかりであった。

 勿論さやかはいい顔をしなかったが、
成り上がりであり、そういった事を気にしない杏子が間をとりなしてくれたことにより、二人は暇を見つけて会うことが出来た。

47: 2011/04/10(日) 01:47:48.89 ID:O7DilR5V0

 そして、ある日。

まどか「ほむらちゃん。私ね、上條家に嫁ぐことになるかもしれないの」

ほむら「!? それは――」


 前回の戦に於いて、両国は共に疲弊していた。
 この機に乗じて他国に攻められるかもしれない。それに対抗するため、再び同盟を結ぶ話が持ち上がっていたのだ。
 嫁入りすると言っても、体の良い人質であった。


まどか「だから、最後に見せたいものがあるの」

ほむら「見せたい物……ですか?」

まどか「来て!」


 言われ、連れてこられたのは見滝原城の天守閣だ。
 その中でも一部の者しか入れない、最上階の近く。

 見滝原城は山城だ。周りに遮るものは何も無い。
 だから、満天の星空がよく見えた。

 それを、まどかは見せたかったのだ。

50: 2011/04/10(日) 01:53:04.05 ID:O7DilR5V0

ほむら「すごい……」

まどか「私のお気に入りの場所。ほむらちゃんに知って欲しかったんだ」

ほむら「まどか姫……」

まどか「皆には内緒だよ?」

ほむら「はい……」

まどか「……マミさんの事。最近は皆話さなくなったね」

ほむら「あれから、もう何日も立ちます。辛い戦いでしたし、思い出したくもないのでしょう」

まどか「私も、忘れちゃうのかな……」

ほむら「………」

まどか「もしお嫁に行ったら、皆のことも、思い出せなくなっちゃうのかなぁ……」

ほむら「姫……」

まどか「私、忘れたくない! 嫌だよぉ…… うっ ぐすっ ずっとぉ……ここに居たいよぉ」ポロポロ

ほむら「ひめっ!」ダキッ

まどか「ほむら……ちゃん?」

53: 2011/04/10(日) 02:00:11.37 ID:O7DilR5V0

ほむら「私は忘れません! マミさんの事も、姫の事も!」ギュッ

まどか「うん! わたしも忘れない! ぐすっ ……絶対忘れないもん!」ギュッ

まどか「私達、ずっと一緒だよ」

ほむら「勿論です。姫様」

まどか「絶対に離さないから」ギュッ

ほむら「姫……」

まどか「まどかって、呼んで」

ほむら「まどかっ!」

まどか「ほむらちゃん……」

 
 星星が見守る中、二人は固く抱き合い、互いに誓い合った。
 だが、彼女の見滝原を離れたくないという願いは、ある意味最悪の形で裏切られることになる。


55: 2011/04/10(日) 02:04:03.47 ID:O7DilR5V0

お絢「上條家に、志筑家の娘が嫁いだってぇ!?」

知久「それは本当なのかい? 九兵衛」

九兵衛「私の放った間者が捉えてきた確かな情報です」

知久「そんな、志筑家は長年上條家と争っていたはずじゃ……」

九兵衛「何でも、仁美姫が、近頃家督を継がれた上條恭介殿の正室に入られるそうで」

知久「それじゃあまどかの縁談は……」

お絢「同盟も、これじゃあパァね ゴホッ ゴホッ」

九兵衛「仰る通りかと」

知久「ほら、無理をしないで、寝ているといい。ここは僕と九兵衛に任せて」

お絢「ごめんなさい……」

58: 2011/04/10(日) 02:08:25.78 ID:O7DilR5V0

 疲弊していたはずの上條家が、将軍家の血筋をくむ名門『志筑家』と縁談をまとめ、
こちらとの同盟を蹴るということは、つまりその二国が鹿目家に攻め入ってくると同義であった。

 それほど鹿目家と上條家の関係は悪化していたのだ。
 まさに、絶体絶命である。

 しかし悪いことほど連鎖するもの。
 それから程なくして、最悪の知らせが届く。


 美樹さやかの裏切りである。


 以前の上條恭介との文のやりとりで、蟄居させられていたことを不満に思っての離反と思われた。
 国境の支城に送られていたのも原因の一つであろう。さやかは有ろう事か、城ごと上條家へ寝返ったのである。


 そして――


伝令「敵の部隊が、我が領内に侵入! 敵の大将は美樹さやかです!」

まどか「そんな…… こんなのってないよ! あんまりだよ!」

64: 2011/04/10(日) 02:14:38.42 ID:O7DilR5V0

杏子「あの野郎……!! あたしが出る! 一発ぶん殴って絶対に連れ戻してやる!」

知久「杏子ちゃんいいのかい? 君達は仲が良かったじゃないか」

杏子「だからこそ許せねぇ! このままじゃ収まりがつかねぇよ!」

九兵衛「闘士は抜群といった所ですね。ここは任せてみてはいかがでしょう?」

知久「九兵衛が言うなら間違いないだろう。任せたよ、杏子ちゃん」

杏子「おうよ!」

九兵衛「それと、今回は大殿も出陣されてはどうでしょう?」

知久「僕がかい?」

九兵衛「相手は寝返ったとは言え、元は鹿目家の重臣。すべての兵が佐倉殿のように士気軒昂とは行かないでしょう。
     大殿自らご出陣されることで、兵達もさやか殿が敵だと納得するでしょう」

知久「確かにそうだね。九兵衛の言うとおりだ」

ほむら「あの、私は……」

九兵衛「暁美殿は城代を頼むよ。ここが襲われたらひとたまりも無いからね」

ほむら「………分かったわ」

66: 2011/04/10(日) 02:21:50.73 ID:O7DilR5V0

知久「それじゃあ戦支度を始めるんだ! 打って出るよ!」

杏子「応ッ!」

九兵衛「御意に」

ほむら「………」


 こうして、杏子率いる兵一万と、知久率いる一万五千の兵は出陣した。
 相手はさやか率いる四万の大群。しかしこちらには、軍師九兵衛の策があった。


 その時、美樹さやか率いる上條軍は見滝原目指して谷を進軍中だった。

 その谷は狭く、数の利を生かせない。しかし他の道を通れば大幅な遠回りになってしまう。
 元鹿目家の家臣であったさやかはその事を知っていたための、止む終えない進軍であった。

 狙うならそこしか無い。

 さらに、その谷には国の人間であっても地元民しか知らない。もちろん長らく城務めであったさやかは知る由もない、谷の切れ目があった。
 そこから敵の横槍を突くことで混乱させ、殲滅しようというのが今回の策である。


69: 2011/04/10(日) 02:27:14.63 ID:O7DilR5V0
■谷間 横槍隊

知久「敵はまだかい?」

家臣「間もなく、こちらに現れるかと」

知久「いいかい? 九兵衛が言った通りよく引きつけてから突撃するんだよ。そっちの方が混乱を誘えるからね」

家臣「ははっ!」

伝令「敵軍、こちらに向かって進軍中!」

家臣「なんだと!? もしや気づかれたか?」

知久「そんなハズは無いよ。ここは向こうからは絶対に見えないし、美樹さやかも知らないはずだよ。
    たまたま進路がずれただけだろう。待機だ」

家臣「しかし……」

 「敵襲! 敵襲!!」

知久「なんだって!?」

家臣「くっ! 応戦しろ! 佐倉様の援軍が来るまで持ちこたえろ!」

知久「なんで…… ここがバレるはず……」

九兵衛「そうだね、普通は巧妙に隠れたこの切れ目には気づかないよ」

70: 2011/04/10(日) 02:30:41.70 ID:O7DilR5V0

知久「きゅ、九兵衛?」

九兵衛「僕が教えてあげなかったら、さやかは一たまりも無かったろうね。彼女は指揮を採るのは苦手だから」

知久「裏切ったのか!? この卑怯者!」

九兵衛「訳がわからないよ。この乱世に於いて裏切り騙し討は常套手段だろう?
     君だって僕の策でこれまで何度もやってきたじゃないか」

知久「くっ……」

九兵衛「それじゃあね、鹿目知久。君はここで討ち氏にするけど、僕は氏にたくないから城に戻らせてもらうよ」

知久「ま、まて! 九兵衛! 九兵衛ぇぇ!!」


敵兵「居たぞ! 鹿目知久だ!」

知久「ひっ!」

敵兵「儂が手柄をあげるんじゃ!」

知久「く、くるなぁ! うわあああああああ!!」


 「鹿目知久、討ち取ったり!」


74: 2011/04/10(日) 02:34:25.63 ID:O7DilR5V0

■谷の先 杏子隊

杏子「くそっ! 何でバレたんだよ!? 間に合えっ!」

九兵衛「杏子!」

杏子「九兵衛! てめぇどのツラ下げて逃げてきやがった!」

九兵衛「無茶を言わないでくれよ。僕は戦いはからっきしなんだ」

杏子「だからって……!」

九兵衛「僕は、知久様からの伝言を預かってきてるんだ」

杏子「何だと?」

九兵衛「今は何とか持ちこたえている。すぐに救援に来てくれ だって」

杏子「よし分かった! 全軍突撃!」

兵「「「応ッ!!!」」」

九兵衛「…………」

75: 2011/04/10(日) 02:39:21.53 ID:O7DilR5V0

さやか「あはは! その気になれば、大名なんてこんな簡単に殺せるんだ!」

敵伝令「美樹様、こちらに佐倉杏子の隊が向かってきている様子」

さやか「杏子ぉ? いいよ、やっちゃおう」

敵家臣「しかし、あの鬼杏子ですぞ?」

さやか「ふん。杏子が何よ。兵数ではこっちの方が上。実力だってあたしは杏子なんかに負けない!」

敵家臣「ですが――」


 「おりゃあああああああ!!! どこださやか! 出てこい!」


敵家臣「ひぃぃい!!」

さやか「恐れるな! 敵は少数! かかれ!」

敵家臣「しかし、この狭い谷では数を生かせませぬ!」

さやか「いいから突撃よ! 最低でも相打ちなら数が多いこちらが勝つわ! かかれ! かかれ!」

敵兵「「「おおおおおお!!」」」

77: 2011/04/10(日) 02:44:31.83 ID:O7DilR5V0
 
           ◆

杏子「おらおら! 次はどいつだ!?」

敵兵「ぐへっ!」

敵兵「ぎゃあああああ!!」

杏子「氏にたいやつから掛かってこい! 佐倉杏子はここだ!」

兵「すごい。さすが無双槍!」

兵「我らも佐倉様に続くぞ!」

兵「応ッ!」

           ◆

さやか「なんでっ…… なんで押されてるのよ……」

敵家臣「お味方の部隊が壊滅! こちらにも迫ってきます!」

さやか「退却! 退却よ!」

敵家臣「退きゃk――ぐへっ!」ズバッ

杏子「おっと、逃さないよ」

79: 2011/04/10(日) 02:47:51.92 ID:O7DilR5V0

さやか「杏子!?」

杏子「久しぶりだね、さやか」

さやか「はっ! 今更何しにきたのよ」

杏子「お館様を助けにきたのさ。お館様はどこよ?」

さやか「ふっ あははははは! あんたってほんと馬鹿!」

杏子「なにぃ?」

さやか「九兵衛に騙されてるのも知らずにのこのここんな処まで来てさ。鹿目知久なら――」


 「――もう氏んでるよ」


杏子「てめぇ!!! どういう事だ!」

さやか「九兵衛が教えてくれたの。伏兵だなんて、なかなか小狡い手を使うよね」

杏子「………さやか。お前は、後悔してないのか?」

さやか「後悔? あははは! 後悔なんて、あるわけない! だってこれで恭介の役に立てるんだもん!」

81: 2011/04/10(日) 02:53:15.33 ID:O7DilR5V0

杏子「そうかい。残念だよ。あたしは結構、お前のことが好きだったんだけどな」

さやか「何よ、急に」

杏子「足軽だった頃のあたしにとって、あんたは憧れだった。家臣の鏡みたいなあんたに憧れてたんだ!」

さやか「鬱陶しいよ、あんた」

杏子「それなのに……後悔すら無い? そんなの、あたしが許さない!」

さやか「許さないから、なんだってのよ!」

杏子「お前はここで討つ。刺し違えてでもな」

さやか「はん! 地獄には一人で落ちなさい! 佐倉杏子ォ!」

杏子「そう云うな、地獄まで着いてきてくれよ。一人ぼっちは、寂しいもんなぁ…… 美樹さやかァ!」


 結果から言えば、この戦は鹿目軍の敗北であった。
 兵の半分以上が氏に。また、佐倉杏子を始めとする名だたる武将の悉くが討ち氏に。
 極めつけは、党首・鹿目知久の討ち氏にである。
 
 大敗以外の何物でもなかった。

 しかし、上條家も多くの損失を出す。
 兵の三分の二が討ち氏にし、負傷兵も多数。さらに攻撃軍の総大将であった美樹さやかも、討ち氏にした。

86: 2011/04/10(日) 02:59:19.96 ID:O7DilR5V0
■見滝原城

まどか「母上! 母上!」

お絢「ごめん、まどか…… 殿が亡くなったら。私が生きててもしょうがないかな、なんて……」

まどか「そんなことないよ! 嫌だよ! 母上!」

お絢「すぐに行くからね、知久……」

まどか「母上ぇぇぇぇぇぇ!!」

 以前より肺を患っていたお絢の方が、心労により病をこじらせ、他界。
 嫡男の鹿目タツヤも未だ幼い。もはや鹿目家は滅亡寸前であった。

九兵衛「まどか姫」

まどか「九兵衛……」

 九兵衛の裏切りは、それを知る者たちが悉く戦氏したため、未だ露見してはいなかった。
 なぜ九兵衛は転覆寸前の鹿目家に未だ留まって居るのか。
 それには理由があった。

九兵衛「今日は姫に大事な話があるんだ」

まどか「大事な……話?」


九兵衛「僕と契約して、戦国大名になってほしいんだ」

88: 2011/04/10(日) 03:04:02.11 ID:O7DilR5V0

                     ◆

ほむら「このままでは鹿目家は…… どうしたものか」

足軽「はぁ……はぁ……」

ほむら「!? どうしたの? 一体何が…… !? その赤揃えは杏子隊の」

足軽「はい、上條家の者に捕らえられていましたが、お伝えすることがあり、命からがら……」

ほむら「しっかりしなさい! 一体何を……」

足軽「九兵衛様は我らを裏切っています……」

ほむら「!? そんな……」

足軽「先日の戦で伏兵が看破されたのも、九兵衛様が……うぅっ 敵に情報を漏らし……て」ガクッ

ほむら(そういえば、マミさんが討ち氏にしたときのあの表情……)

ほむら(それ以外にも、怪しい点はたくさんある……)

ほむら(極めつけは絶対に気付かれないはずの伏兵が見破られたこと。そしてその作戦を考えたのは――)

ほむら「なんて事なの…… みんな九兵衛に騙されてる!」

                     ◆

89: 2011/04/10(日) 03:09:29.17 ID:O7DilR5V0

まどか「私が、大名に?」

九兵衛「そうさ、まどか姫。今鹿目家は滅亡の危機に瀕している。それを救う力が、君にはあるんだ」

まどか「私に?」

九兵衛「そうだよ。君が大名になって、上條家と和睦を結ぶんだ。何、難しいことは僕に任せてよ!
      どんな命令にだって従ってあげる!」

まどか「九兵衛……」

ほむら「騙されちゃ駄目!」

まどか「ほむら……ちゃん」

ほむら「そいつは裏切り者よ! まどか!」

まどか「えっ?」

九兵衛「おかしな事を言うのはやめてくれないか? 僕が裏切っているわけ無いじゃないか」

ほむら「騙されないで! そんな奴と契約しちゃ駄目!」

九兵衛「証拠はあるのかい? 僕が裏切っているという証拠は」

ほむら「それは…… でも本当なの! 信じてまどか!」

90: 2011/04/10(日) 03:15:16.25 ID:O7DilR5V0

九兵衛「話にならないね。さぁ、まどか姫、僕と契約を!」

ほむら「まどか!」

九兵衛「さぁ!」

まどか「私は――」


まどか「――ほむらちゃんを信じる!」


九兵衛「なぁ!? 何で? どうしてだよまどか!」

まどか「理由なんか無い! ただ私はほむらちゃんを信じたいって思ったの」

ほむら「まどか……」

九兵衛「はぁ、訳がわからないよ。折角君を傀儡にして、上條家への手土産にしようと思ったのに。
     そっちのほうが、統治とか色々楽だからね」

ほむら「本性を表したわね!」

九兵衛「隠していたつもりはなかったけどね。それじゃあ、僕はこれで」

ほむら「逃がすとおもったの?」

91: 2011/04/10(日) 03:18:49.54 ID:O7DilR5V0

九兵衛「そう簡単に捕まると思ったかい?」タッ

ほむら「まて!」

九兵衛「さようならまどか! 君とあえて嬉しかったよ!」タッタッタ

ほむら「くっ……逃げ足の早い奴」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「はっ! 姫、大丈夫ですか?」

まどか「うん……あのね、ほむらちゃん」

ほむら「なんですか?」

まどか「私、大名になる!」

ほむら「なっ!? もしやあんな奴の言葉を真に受けているのですか?」

まどか「ううん。確かに九兵衛は私達を騙していたけど、でも言っていることは正しいと思うの」

ほむら「ですが……」

まどか「ほむらちゃんは、私に着いてきてくれる?」

93: 2011/04/10(日) 03:20:26.88 ID:O7DilR5V0


ほむら「…………」



まどか「…………」





ほむら「……何なりと、鹿目まどか様」






94: 2011/04/10(日) 03:21:24.38 ID:O7DilR5V0

                  ◆


 再び、上條家の軍勢は鹿目家領へと侵攻を開始した。
 その兵数は実に七万。志筑家の援軍も含め、上條家の勢力のほぼ全てであった。

 対する鹿目家の兵三万。
 しかも名だたる家臣はほぼ討ち氏にしており、頼れる武将は暁美ほむらただ一人であった。

 瞬く間に支城は落され、戦火はついに見滝原城まで及ぶ。


■上條家 本陣

九兵衛「上條様。間もなく敵の本拠、見滝原城です」

上條「そうかい」

九兵衛「ようやく宿願が達成できますね」

上條「あぁ、疼く。あの時事故で動かなくなった右腕が疼く!」

九兵衛「敵に動きはなく、籠城していると見られます」

上條「城を包囲せよ! 使者は出さずともよい! 完膚なきまでに叩き潰せ!」

敵兵「「「「「「おおおおおおおおおおお!!!!」」」」」

95: 2011/04/10(日) 03:22:49.31 ID:O7DilR5V0

■城内

家臣「何としてでも耐え抜け! 決して門を開くなよ!」

兵「「応ッ」」

マミ隊家臣「皆の衆! 鉄砲の整備は済みましたか?」

マミ隊足軽「勿論です!」

マミ隊家臣「かつて巴様はおっしゃった。百発百中でなくとも、八百発撃てば百中はすると!」

マミ隊足軽「「「弾丸を詰めろ! 火蓋を切れ! 我ら八百挺の鉄砲なり!」」」

杏子隊家臣「佐倉様の無念、ここで晴らさずどこで晴らす!」

杏子隊足軽「我ら鬼の子! 『鬼母』佐倉杏子の子なり!」

杏子隊家臣「行くぞ! 決氏隊!」

杏子隊足軽「「「応ッ!」」」

97: 2011/04/10(日) 03:23:35.88 ID:O7DilR5V0

■敵陣

上條「敵の鉄砲や矢に怯むな! 攻め落とせ!」

九兵衛(おかしい…… 敵の数は三万。全てが籠城しているとしても反撃が散発的すぎる…… まさか!?)

上條「かかれ! かかれぃ!」

九兵衛「上條様」

上條「なんだい九兵衛。僕は今忙しいんだ!」

九兵衛「敵の攻撃が弱すぎます。おそらく罠――伏兵が居ると見て間違いないでしょう」

上條「伏兵? そんなモノがどうした! こっちは倍以上の兵が居るんだぞ!」

九兵衛「ですが……」

上條「わかった、わかったよ。それじゃあ兵を預けるから勝手に迎え撃てばいいだろ」

九兵衛「御意に」

九兵衛(はぁ、彼はいつもこうだ。自分が絶対的に正しいと思い込んでいる。訳がわからないよ)

99: 2011/04/10(日) 03:25:11.81 ID:O7DilR5V0
九兵衛「このあたり…… かな。他にこの状況で有効な場所は無い」

敵家臣「九兵衛様」

九兵衛「なんだい?」

敵家臣「斥候が山中に敵を確認しました」

九兵衛「…………」

敵家臣「不意をついて殲滅しますか?」

九兵衛「いや、迎え撃とう。それで十分なはずだ」

九兵衛(簡単に見つかりすぎだ。罠の可能性があるよね)


伝令「敵が山中より出現! 奇襲を看破され戸惑っているようです!」

九兵衛(考えすぎだったか)

九兵衛「数は?」

伝令「およそ3千です」

九兵衛「よし、そのまま押し潰しちゃえ」

九兵衛「さて、これで終りかな――」

100: 2011/04/10(日) 03:25:57.53 ID:O7DilR5V0

伝令「九兵衛様!」

九兵衛「なんだい?」

伝令「さらに伏兵が出現! その数5千! 斥候の報告ではまだ山中に控えているとの事」

九兵衛「はぁ? 本当に何がしたいんだい? 訳がわからないよ」

九兵衛「ともかく、その数ならもう少し兵が居るね。
     今城の中に敵兵は殆ど居ないはずだよ、上條様に兵を借りてきてくれるかい?」

伝令「御意!」


■本陣

伝令「上條様! 伏兵です!」

上條「伏兵は九兵衛に当たらせたはずだけど?」

伝令「それが、伏兵と言うにはあまりに数が多く……」

上條「分かった分かった、もう順番に踏み潰しちゃおう。城に最低限の兵を残し、他はそちらへ進撃!」

兵「「はっ!」」

102: 2011/04/10(日) 03:27:08.92 ID:O7DilR5V0

伝令「九兵衛様! 間もなく増援が来ます!」

九兵衛「……………」

伝令「九兵衛様?」

九兵衛「やられたっ! 早く兵を引き返させろ!」

伝令「な、何を……」

九兵衛「斥候は何をしてたんだ! あんなのは伏兵じゃない! 農民に具足をつけ、避難させているだけだ!」

伝令「なっ!?」

九兵衛「くそっ……! そういう事か、伏兵が効果的な場所がないなら、効果があるよう敵の配置を変えればいいだなんて!」


■本陣

上條「間もなく九兵衛の居る地点だ! 皆の者心してかかれ!」

 「敵襲! 敵襲!!」

上條「ふん、まだ効果のない奇襲を続けているのか」

 「後方から敵襲です!」

上條「な、なにぃぃぃ!!!」

104: 2011/04/10(日) 03:28:36.99 ID:O7DilR5V0


兵「「「うおおおおおお!!!」」」


敵兵「ぬあっ!」

敵兵「ぎゃっ」

上條「転身! 転身せ――」ズパッ

ほむら「敵将、討ち取ったり」


 こうして、見滝原城攻防戦は幕を下ろした。
 大将を失った上條軍は敗走。その後、党首を失った上條家は志筑家の傀儡となり、後にその血を途絶えさせた。
 その裏では、白髪赤目の策士が暗躍していたとか居ないとか。

 そして、戦に勝利した鹿目まどかは、世にも珍しい女戦国大名として歴史に名を残す事となる。
 
ほむら「まどか、ずっと一緒だよ」

まどか「うんっ!」

                                 鹿目家騒動記 終

105: 2011/04/10(日) 03:30:47.96 ID:O7DilR5V0
戦国と純愛と熱いバトルと腹黒策士と大人数戦闘とほむほむが書きたくて全部混ぜたらこうなった。
書いてて楽しかった。よんでくれてありがとう。

おやすみ。

106: 2011/04/10(日) 03:32:28.91
乙。発想の勝利だわwww
ちょっとラストが急いだ感じだから、もうちょっと後日談とか読みたかったかな

107: 2011/04/10(日) 03:33:49.77

117: 2011/04/10(日) 04:16:07.90 ID:O7DilR5V0
■設定が納得行かない人向けエピローグ(言われてみれば7万とか多すぎだねノブヤボ脳でごめんね)


マミ「というお話だったのさ。って事にしとかないとやってられないわ」

QB「まぁ登録した武将ほど討ち氏にしたり寝返ったりするのはよくあることだよね。信長の野望だと」

マミ「結局生き残って手元に居る武将は暁美さんと鹿目さんだけじゃない! どうなってんのよ!」

QB「ところでマミ」

マミ「何?」

QB「友達がいないからって、後輩の名前を勝手に登録して遊ぶのはどうかと思うな」

マミ「40人分」

QB「え?」

マミ「クラスメート40人分もきちんと登録してあるわ。みんなやるわよね?」

QB「Oh……」

マミ「集合写真を取り込んで顔グラも差し替えてあるわ。ふつうやるわよね?」


QB「……」
 

 おしまい☆

引用元: 九兵衛「僕と契約して、戦国大名になって欲しいんだ」