4: 2011/01/06(木) 00:27:31.19
唯「あずにゃーん」

梓「えっ、唯先輩?どこ」きょろきょろ

唯「ここだよー」ブーン

梓「あ……唯先輩じゃない、虫だ」

唯「唯だよー」

梓「えっ、唯先輩?」

5: 2011/01/06(木) 00:30:07.87
唯「そうだよー」ブーンブーン

梓「にゃあ!虫が喋ってる!」

唯「あずにゃんは素でにゃあって言うんだね」

梓「ほんとに唯先輩なんですか!?」

唯「そうだよー」

梓「たしかに唯先輩の顔と声……」

唯「虫の顔なんてよくわかるね」

7: 2011/01/06(木) 00:39:09.47
唯「飛ぶの疲れるから手に乗らせてよー」ブーンブーン

梓「……」

唯「ねー」

梓「毒とかないですよね…?」

唯「ないよ……たぶん」

梓「たぶんて。私虫苦手なんです」そろそろ

唯「ごめんねー。よっこいしょ」

梓「ひゃあ」

8: 2011/01/06(木) 00:42:09.90
唯「ごめんね」

梓「あっ、ごめんなさい。大丈夫です」

唯「私が虫なばかりに……あずにゃんには苦労をかけるね」よよよ

梓「なんですかそれ」

唯「時代劇っぽい」

9: 2011/01/06(木) 00:45:01.88
梓「なんでこんなことになっちゃったんですか?」

唯「わからないんだよー。朝起きたらこうなっちゃってて」

梓「そうですか」

唯「鳥さんみたいに空を飛びたいっていう願いがかなったのかな!」

梓「虫ですけど」

10: 2011/01/06(木) 00:48:42.82
唯「あっ、あずにゃん、あっちあっち」ちくちく

梓「痛っ、ささないでください!」

唯「指でつっついただけだよ」

梓「もう。なんですか?」

唯「ちょっとそこの公園入ってくれる?」

梓「遅刻しちゃいますよ…」てくてく

唯「文句言いながらも頼みごと聞いてくれるあずにゃんはやさしいなあ」

11: 2011/01/06(木) 00:51:09.61
唯「水道!」

梓「のどかわいてるんですか」

唯「うん。私ひとりじゃ蛇口ひねれないし、お金持ってないからジュースも買えなくて」

梓「お金以前の問題です」

唯「というわけでよろしく」

梓「はい」きゅきゅ

13: 2011/01/06(木) 00:52:35.10
唯「おおー、ただの水道が滝のようだ。いっただっきまーす」

唯「わ、わぷ!うわあ!」

梓「唯先輩が流されちゃった!」

梓「ど、どどど、どうしよう」

梓「唯先輩!唯先輩!」

14: 2011/01/06(木) 00:54:02.57
子のスレにはなにも期待できない…

16: 2011/01/06(木) 00:57:00.75
純「ちこくちこくー!」

純「唐突に純ちゃんが出てきて困るかもしれないので説明しよう!」

純「いま私は遅刻寸前で猛ダッシュのスーパー純ちゃんなのだ!」

純「ふう……つかれるなあ」

純「あれ、あそこにいるのは梓?なにしてるんだろ」

純「なんで私こんなに説明口調なのかな。おーい、あずさー!」

17: 2011/01/06(木) 01:00:41.92
梓「ぐすっ、ひっくひっく」

純「なにしてんの遅刻するよ……えっ、えっ、どうしたの?」おろおろ

梓「うわああああああああん!」

純「こんなにマジ泣きしてる子幼稚園以来見たことないよ!」

梓「唯先輩がうわああああって水でびええええええええええええええん」

純「あずさ、落ち着いて!」

18: 2011/01/06(木) 01:03:52.18
梓「ひっくひっく」

純「ほら、この純お姉さんに何があったか話してごらん」

梓「唯先輩が……」

純「唯先輩が?」

梓「虫になっちゃって……」

純「は?」

梓「それで水に流されて……し、氏んじゃったかも、しれない」

純「(どうしようこの子。寝ぼけてんのかな)」

22: 2011/01/06(木) 01:10:03.84
紬「どうしたのー」しゃらんら

純「あっ、優等生のはずの紬先輩がこんな時間に公園に現れた。不自然な展開だ」

紬「巻くからねー。それでどうしたの二人とも」

純「実はかくかくしかじからしくって」

梓「ぐすっひっく」

紬「大変だわ!」

純「信じた」

23: 2011/01/06(木) 01:12:17.11
紬「あっ、もしかしてこれじゃない?」ひょい

唯「」

梓「ぐったりしてる……」

純「うわあ!本当に唯先輩が」

紬「本当ねー」にこにこ

純「幸せな笑顔だ、状況的になんて不自然なんだろう」

紬「巻くからね」

純「どういうこと?」

24: 2011/01/06(木) 01:14:24.82
唯は虫の息だった。

梓「唯先輩……唯先輩!氏んじゃやです!返事してください!」

純「あずさ……」

梓「やだよ……先輩……ひっく」ぽたっ

その時、奇跡は起こったのだ。

25: 2011/01/06(木) 01:15:58.21
ぽわぽわわぽわわ~ん!

純「あっ、唯先輩の身体が光に包まれてゆくまぶしい!」

梓「きゃあっ」

ばばーん!

唯「ふっかつ!」

梓「唯先輩!」

27: 2011/01/06(木) 01:18:51.70
唯「あずにゃんの愛の力でもとの身体にもどれたよ!」

梓「えっ」どき

唯「そして私もあずにゃんを愛してる!」だきっ

梓「ゆ、ゆいせんぱい///」

純「ぐすっ、なんか知らないけど感動してきちゃった」

紬「ハッピーエンドね」

唯「あずにゃーん」

梓「唯先輩!」

おわり

28: 2011/01/06(木) 01:26:19.87
梓『唯先輩ってくっつき虫みたいですね』


冬は嫌いだ。
冷たい風にさらされて白くにごった息は、いやな感情を固めて作ったように見える。

梓「あ、唯先輩……」

少し先の道に、先輩と憂が歩いていた。

梓「先輩またくっついてる……」

31: 2011/01/06(木) 01:30:47.73
唯「うーい」

憂「おねえちゃん、ちょっと歩きにくい…」

唯先輩が憂の肩にもたれかかる形でだきあったまま二人はよろよろと歩いている
憂は軽く抵抗して姉を引き離そうとするが、少し離れた場所からでもその横顔がまんざらでもない感情を浮かべているのが見てとれる。

梓「……」

冷たい風が吹いた。

32: 2011/01/06(木) 01:39:34.04
梓「先輩、憂、おはようございます」

少し駆け気味に近寄って挨拶をした。

唯「あ、あずにゃん!」

憂「梓ちゃん、おはよう」

顔の造形は同じなのに、どうして二人はこんなに違った笑顔を浮かべるのだろう。

梓「邪魔しちゃったかな?」

33: 2011/01/06(木) 01:42:46.69
憂「へ、なにが?」

唯「?」

わたわたと慌てて憂が手を振る。
今のはちょっと意地悪だったかもしれない。

梓「ううん、なんでもない」

憂「へんな梓ちゃん」

そんな顔しないでよ、憂。

35: 2011/01/06(木) 01:52:22.47
唯「ねえ、あずにゃん、これ見てこれ!」

梓「なんですか?」

唯「これ、写真!」

先輩はようやく憂から離れると、携帯を開いて差し出した。
画面には透明感のある茶色っぽいような、緑色のような何かが映っている。

ていうか近いなあ先輩。

梓「なんです、これ」

唯「ちゃばしら!」

ほれっ、と言って先輩が指差した先にはかすかなゴミのような何かがあった。

梓「茶柱、ですか」

唯「そ、茶柱!今朝お茶を飲んでたらこんなに立派な茶柱が立ったんだよー」

36: 2011/01/06(木) 01:58:07.64
カメラが寄りすぎててそもそも被写体がお茶だということもわかりにくいが、たしかにそんなふうにも見えた。

梓「……で、なぜそれを私に?」

唯「あずにゃんにも幸運をわけてあげようと思って」

梓「お気づかいありがとうございます」

唯「あっ、なんか冷たい」

梓「別にそんなことないですよ」

唯「言い方が冷たいよお」

梓「これが私の普通です」

37: 2011/01/06(木) 02:03:55.90
唯「そうかなあ」

唯先輩は大げさな動作で腕をくんで首をかしげた。

梓「そうですよ」

憂「ふふっ」

梓「なにかおかしい?」

憂「ううん、なんにも」

憂の頬は寒さのせいか赤くなっている。
きれいだな、と思う。

38: 2011/01/06(木) 02:12:16.53
唯「あ、そういえばさー」

先輩が何か話しているが耳に入らない。
私は憂に見とれていたのだ。

風が吹く。

冷たい風に身を震わせてマフラーに顔をうずめる動作。
唯先輩と同じ色の髪がやわらかく揺れている。

唯「あずにゃん?」

……いやだな、私。

39: 2011/01/06(木) 02:16:27.34
唯「あーずにゃん」

唯先輩が抱きついてきた。
思わずバランスを崩しそうになるのを、先輩の腕が支える。

唯「あずにゃん、どうしたの?」

梓「な、なにがですか?」

唯「元気ないよ?」

さっき変な顔をしてしまったのだろうか。
まるで心の中をのぞかれたような気がして、顔が熱くなった。

40: 2011/01/06(木) 02:20:36.30
梓「そんなことないですよ」

唯「えー、嘘だあ。なんかあったんでしょ?」

ぎゅ、と先輩は腕に力を込めて抱き締めた。
先輩の吐息が頭にかかる。

憂が心配そうにこちらをみていた。

なにも、なにもありませんよ唯先輩。

41: 2011/01/06(木) 02:35:05.64
先輩の腕の中は暖かかった。
暖房器具みたいだな、とばかなことを考える。

梓「……放してください。歩けないです」

42: 2011/01/06(木) 02:41:23.72
唯「あずにゃん…」

梓「先輩」

強い口調で言うと、ようやく先輩は離れた。

唯「あずにゃん、何か悩んでる?」

梓「悩みなんてないですって」

唯「私がそんなに信用できないのー?」

梓「……なにもないですって」

43: 2011/01/06(木) 02:47:31.42
いやだな。

私の中でどんどんいやな感情がふくらむ。

今、先輩が憂にアイコンタクトした気がした。

私に抱きついてる時より、憂に抱きついてる時の方が楽しそうだった。

べつにどうでもいいことなのに。

44: 2011/01/06(木) 02:50:44.34
梓「どうして……」

先輩のことを考えるとばかな子になってしまう私がいる。


憂はまだ不安げな顔をしている。
そんな顔、しないでってば。
憂からお姉ちゃんをとったりしないよ。

唯「え?なんていったの?」

梓「……先輩、ひとつ訊いていいですか」

45: 2011/01/06(木) 02:56:55.54
唯「なあに?」

梓「唯先輩って、どうしていつも抱きつくんですか?」

唯「ほえ?それがあずにゃんの悩み?」

梓「だから悩みなんかないですって」

唯「どうしてって言われても……」

うーん、と再び先輩は腕を組む。

46: 2011/01/06(木) 03:05:03.63
本当はあの腕にいつまででも抱かれていたいと思った。

けれどダメだ。
先輩に近づいてしまうと、私は彼女の存在によこしまな感情を寄せてしまう。

唯先輩の抱擁は、そういう意味ではないのだ。

憂が無言で先輩の手をつかんだ。

47: 2011/01/06(木) 03:08:41.78
唯「ほら、人とくっつくとあったかいから!」

憂「わっ、お姉ちゃん」

先輩は憂に抱きつく。
私に抱きついてる時より、憂に抱きついてる時の方が……


寒さに体が震えた。

48: 2011/01/06(木) 03:11:30.08
梓「唯先輩ってくっつき虫みたいですね」

唯「あっ、笑わないでよお」


胸の奥が静かに痛んだ。

先輩と憂は恋人同士だ。それがはっきりとわかるから。

65: 2011/01/06(木) 04:12:09.53
梓「ふつう暖かいからって人にくっついたりしませんよ」

唯「えー、ふつうだよー」

梓「どこがですか」

唯「ぎゅってしたら、体があったかいだけじゃなくて、心まで暖かくなれるでしょ」

梓「はあ」

唯「好きって気持ちをいっぱい伝えられるから!」

67: 2011/01/06(木) 04:15:56.43
梓「……」

憂が苦笑いしている。
この人は分かって言ってるんだろうか。

唯「あずにゃんもおいでよー」

本当にこの人は分かってるのかな……

梓「……はあ」

先輩に抱きついた。

68: 2011/01/06(木) 04:20:24.56
憂「!」

唯「ふぉぉ!あずにゃんが!」

二人とも目を丸くしている。

梓「何驚いてるんですか。先輩がやれって言ったんでしょ」

唯「へへへ。なんか嬉しいね、ほら憂も、むぎゅーっ!」

憂「きゃっ、おねえちゃ」

先輩は強引に私達を抱きよせて一つにくっつける。

唯「これであったかあったかだね!」

69: 2011/01/06(木) 04:24:40.11
梓「そうですね…ふふ、先輩」

唯「ん?」

梓「先輩ってばかですね」

唯「えええ!?」

梓「ばかですよ、ほんとに」

嫉妬するのもなにもかもばからしくなるくらい心が暖かい。
あったかあったかだ。

70: 2011/01/06(木) 04:30:14.87

憂「あずさちゃん……」

唯「ひどいよあずにゃあん!」

……。

梓「好きって気持ち、伝わりましたか?」

唯「…………うん!」

71: 2011/01/06(木) 04:34:34.53
きっと先輩はわかってない。
私の気持ちなんて、なにも。
私がどれだけ身勝手な気持ちを抱いているのかとか、
どんなふうに先輩を一人占めしたいと思っているのかとか。

だけど言おうと思った。

梓「先輩のこと好きですよ」

72: 2011/01/06(木) 04:37:30.94

唯「私もあずにゃんが大好きだよ!」

やっぱり、わかってない。けど、まあ、いいや。

梓「憂も大好きだよ」

いたずらっぽく言ってみる。

憂「私も……好きだよ」

それってどっちがかな、とかまた訊いたら意地悪なんだろう。

74: 2011/01/06(木) 04:43:11.77
心の中が満たされていく。これが望みだったわけじゃないはずなのに。

先輩からも、私への「好き」の気持ちが伝わってくる気がした。
そして憂から先輩への気持ちも。

それは悲しいもののはずなのに、なぜか、今はこれでいいのだと思えた。

梓「あったかあったかですね」

吐いた息が白く濁る。

私の息は二人の熱い呼吸と混ざって冷たい空気の中に消えていった。


end

75: 2011/01/06(木) 04:44:46.95

俺も布団の中あったかあったか

76: 2011/01/06(木) 04:53:17.71
お疲れー

77: 2011/01/06(木) 04:58:10.89
綺麗にまとめたな

引用元: 梓「唯虫」