1: 2011/06/29(水) 03:12:12.86 ID:MnhYg8bro
律先輩への一年越しの想いが実ってはや一ヶ月。
三月も後半を迎え、春の陽気が訪れようとしていた。
N女子大に無事合格を決めた律先輩。
実家通いは厳しいということで、一人暮らしを始めることにした。
今日は引っ越しの日。私は律先輩のお手伝いに来ていた。
2: 2011/06/29(水) 03:13:08.05 ID:MnhYg8bro
梓「先輩、これどこに置いたらいいですか?」
律「あ、それはここに」
梓「分かりました……よいしょ」
律「ふー、これで荷物は全部運んだな。ありがとう、後はやるから大丈夫だよ」
梓「あの、よろしければ荷物整理も手伝いたいんですが」
律「でも整理まで手伝ってもらっちゃったら大変だし……それに、帰りが遅くなるぞ」
梓「大丈夫です、是非手伝わせてください!」
律「そっか。それじゃお願いするよ」
梓「はい!」
まだ、律先輩と離れたくない。
3: 2011/06/29(水) 03:14:50.47 ID:MnhYg8bro
律「机はここで、テレビはここ」
梓「コンポはこの辺りで大丈夫ですか?」
律「うん、そうだな。それから……」
律先輩と私は顔を見合わせる。
律「ドラムはここ」
梓「ですね」
十畳近いワンルームの半分以上を占めてしまうドラムセット。
持ってくるのは一番大変だったし、大きさという点でも厄介ものだが。
律先輩の相棒として、一番必要なものだった。
4: 2011/06/29(水) 03:16:29.65 ID:MnhYg8bro
律「やっぱり場所とるなあ。騒音もあるから夜中は叩けないだろうし」
梓「でもちゃんと練習しておいてくださいよ。来年、絶対バンド組むんですから」
律「分かってるって」
律先輩はあまり物を持たない性格だ。
必要最小限の家電と生活品だけが置かれた一室は、がらんとしている。
その中でドラムは異様な存在感を誇っていた。
律「ぜってー上手くなってやるからな。来年バンド組んだときに驚くなよ?」
梓「くすっ……楽しみにしてます」
5: 2011/06/29(水) 03:17:30.09 ID:MnhYg8bro
荷物整理の中で一番大変だったドラムの設置が終わると、後の作業はスムーズに進んだ。
律「それじゃ皿とかコップはそこに並べて」
梓「はーい」
律「フライパンとか料理器具一式はここだな」
梓「自炊も大変ですね」
律「全くだ」
梓「面倒臭いからって外食やコンビニ弁当ばかりじゃダメですよ。健康に悪いから」
律「大丈夫だって。何とかやっていくよ」
梓「……心配です」
律「ばっか、私の料理スキル知ってるだろ? 料理はお手の物だよ」
梓「律先輩の手料理かあ」
何度かごちそうになったことはある。
中でも、軽音部みんなで食べたハンバーグは絶品だった。
6: 2011/06/29(水) 03:18:30.68 ID:MnhYg8bro
グゥー
梓「……!」
律「何だ、お腹空いたのか?」
梓「だ、だって!」
律「もう夕飯の時間だもんな」
律先輩はにやにやとした顔を近づけてくる。
律「片付けも終わりそうだし、そろそろ帰るか?」
梓「!」
律「ご両親も心配してるだろうからな」
梓「うぅ~~」
律「へへ、そんな顔するなよ。冗談だって」
梓「意地悪っ!」
律先輩は私の頭をわしゃわしゃと撫で回した。
律「よし、大分片付いたし、夕食の材料でも買いに行こうか」
梓「はい!」
7: 2011/06/29(水) 03:19:42.36 ID:MnhYg8bro
季節はすっかり春になったとはいえ、夜になるとまだまだ寒さが厳しい。
突然吹き荒れる冷たい風が肌を突き刺した。
梓「くしゅんっ」
律「寒くないか?」
梓「大丈夫です」ズズ
律「鼻水垂らしてるやつが言うことじゃないっての。そんな格好してるから」
梓「私、寒さには強いんですよ」
律「強がるなって……ほらよ」
律先輩は自分の上着を脱いで、私に着せてくれた。
梓「……ありがとうございます」
そっと手を触れてみる。
まだ律先輩の温もりが残っていた。
8: 2011/06/29(水) 03:21:36.07 ID:MnhYg8bro
律「風邪ひかれちゃ親御さんに顔向けできないしな……そういえば、ちゃんと連絡はしたのか?」
梓「はい、律先輩のところにいるから遅くなるって」
律「そっか。よかった」
梓「先輩によろしくって」
律「助かってるのはこっちだけどな」
そのとき再び、風が吹く。
律「くしゅんっ」
大きなくしゃみをした律先輩は、ばつの悪そうな顔を浮かべていた。
梓「上着、返します」
律「いいっていいって」
梓「律先輩が風邪ひいちゃ元も子もないじゃないですか」
律「大丈夫だよ」
梓「でも……」
律「それじゃあさ」
律先輩は私の手を取った。
律「手だけでも温めてもらおうかな」
梓(……ばか)
握った手から、律先輩の温もりが流れ込んできた。
9: 2011/06/29(水) 03:23:22.74 ID:MnhYg8bro
私たちの間で言葉がとぎれる。
言葉が無くなると、私の頭には余計な考えが浮かび上がってくる。
桜ヶ丘から律先輩の家までは一時間半、あまり気軽に会いに行ける距離ではない。
律先輩は大学生活で忙しいだろうし、私も部長の仕事や受験で忙しくなってしまう。
顔を合わせる機会が少なくなれば、すれ違いが生まれるというのはよくある話だ。
このままどんどん会う時間が少なくなると、お互いの気持ちが離れてしまいそうで怖い。
10: 2011/06/29(水) 03:24:15.12 ID:MnhYg8bro
大学生になれば交友関係が格段に広がる。
いつも笑顔で明るい律先輩。話もとても面白いし、一緒にいるとすごく楽しい。
きっと、友達がたくさんできるだろう。
それだけじゃない。
律先輩はあれでいてかなり美人だ。性格だって良い。
男性からの人気もかなり高いはずだ。
もしも男の人から告白されたとき、律先輩はきちんと断ってくれるだろうか。
私と付き合っていると、声に出して言ってくれるだろうか。
……何だかすごく気が重い。
数ヶ月後には、「別れよう」って言われてしまうような気がして。
律先輩に限って、そんなことありえないのに。
信じていますとはっきり口にすることができない。
11: 2011/06/29(水) 03:24:55.92 ID:MnhYg8bro
律「……お、こんな所にコンビニがあるんだ」
律先輩が口を開いた。
急なことだったので、返事ができなかった。
律「これからお世話になるだろうな。あ、こっちには喫茶店が」
律先輩はあちこちに目を移している。
新しい自分の町に胸が躍っているようだ。
律先輩は、不安じゃないのかな。
律「おお、向こうに楽器店が!」
梓「ちょっと先輩! スーパーここですよ!」
律「あぁ、また今度……」
名残惜しそうな律先輩の手を引っ張って、私はスーパーに足を踏み入れた。
12: 2011/06/29(水) 03:25:26.53 ID:MnhYg8bro
律「何食べたい?」
梓「ハンバーグがいいです!」
律「よし、りっちゃん特製のハンバーグを作ってあげよう」
梓「やったあ! 何が必要ですか?」
律「挽肉だろ、野菜だろ……米は持ってきたのがあるから、後は味噌ぐらいかな」
梓「はい、それじゃ順番に買っていきましょう」
13: 2011/06/29(水) 03:26:25.08 ID:MnhYg8bro
梓「このレタスどうですか?」
律「キャベツがいいなあ」
梓「ハンバーグにはレタスですよ」
律「そんなことないぞ、私の家では……」
梓「レタスでしたよ」
律「あれ、そうだっけ?」
梓「よく覚えています。先輩、ハンバーグとレタスの相性は抜群だーって言ってたじゃないですか」
律「忘れちゃった」テヘッ
梓「お肉見に行きましょう」スタスタ
律「ああん、きゃべつぅ!」
梓「もう、行きますよ……あっ」スタッ
律「きゃべ……むぎゅっ」
梓「……」
律「梓?」
14: 2011/06/29(水) 03:27:18.33 ID:MnhYg8bro
男「この魚がいいんじゃないか?」
女「こっちも良さそうよ」
男「それじゃそっちにしよう。次、行こうか」
女「うん!」
新婚さんだろうか。仲睦まじいカップル。
手を握りしめて笑顔を交わす様は、傍から見てもとても微笑ましい。
私と律先輩では、仲の良い女友達か、せいぜい姉妹というぐらいにしか見られない。
他人の目なんかどうでもいいはずなのに、何だか悔しい。
15: 2011/06/29(水) 03:28:17.68 ID:MnhYg8bro
律「どうした、梓」
梓「……律先輩。カチューシャ、取ってください」
律「何だよ急に。髪下ろしたら変になるから嫌なんだって」
梓「変じゃないです。とても似合っています。だから、お願い……」キュッ
律「梓……」
律「分かったよ。これでいいか?」スッ
梓「はい!」
前髪を下ろした律先輩は、文句なしに格好いい。
そこらの男の人なんかより、ずっと。
梓「……律先輩」ギュッ
律「何だよ、甘えん坊」
梓「いいじゃないですか、少しだけ」
律「仕方ないなあ」
16: 2011/06/29(水) 03:28:58.60 ID:MnhYg8bro
女「見て、あの子腕にしがみついちゃって」
男「本当だ、よっぽど仲がいいんだろうね」
律「なあ梓、周りの視線が気になるんだけど……」
梓「私は気になりませんけど。先輩は嫌なんですか?」
律「べ、別にそういう訳じゃないけど」
梓「ならいいじゃないですか」
律「うぅ……」
今の私はかなりわがままだと思う。
だけど、意地でも律先輩の腕を放したくなかった。
律先輩に触れていると、何だか安心するから。
この手を放したら、すぐに不安になってしまうから。
17: 2011/06/29(水) 03:29:52.93 ID:MnhYg8bro
会計を済ませて、買った物を袋に詰め込む。
律「カチューシャ、もう付けていいか?」
梓「はい、いいですよ」
律「ふーよかった、やっと落ち着ける」
梓「わがまま言ってごめんなさい」
律先輩がカチューシャをあまり取りたがらないのは私自身よく分かっているはずだった。
それなのに、私は半分強引に取らせてしまった。
……今さらながら、少し反省。
律「いいよ、別に。カチューシャ取ってほしい理由があったんだろ?」
梓「……はい」
やっぱり律先輩は優しい。
18: 2011/06/29(水) 03:31:09.03 ID:MnhYg8bro
律「じゃ、帰ろうか」
梓「あ、荷物半分持ちます」
律「いいって、重いだろ」
梓「大丈夫です!」
律先輩から買い物袋を引ったくるようにして受け取った。
律「おっと、変な奴だなぁ」
梓「その代わり」
律先輩の空いた方の腕に目をやって、すかさず抱きつく。
律「……なるほど、これがしたかった訳ね」
梓「えへへっ」
だって、律先輩と腕組むの好きだもん。
19: 2011/06/29(水) 03:31:48.84 ID:MnhYg8bro
律「……で、いつまでこうしてるんだ」
梓「お家に着くまでです」
律「構わないけどさ。買い物袋、重くないか?」
梓「大丈夫です。だから、このままでいさせてください」
律「はいはい」
重いものは律先輩が全部持ってくれたから、左手一本でも全然堪えない。
それに、こうやってくっついていると、とても暖かくてほっとする。
後少しでこの不安も消えると思うから、もうちょっとだけ甘えさせてください。
20: 2011/06/29(水) 03:32:55.37 ID:MnhYg8bro
律「よし、できたぞ!」
お皿の上にジュウジュウ音を立てるハンバーグがのせられる。
梓「わぁ、すごくおいしそう」
律「しばらく料理から離れてたけど、腕は落ちてないな」
梓「ね、ね、早く食べましょうよ」
律「慌てるなって、野菜盛りつけないと」
梓「それじゃ早く盛りつけましょう!」
律「はいはい……って、野菜はお前の係だろ」
梓「あ、そうでした……」
21: 2011/06/29(水) 03:34:04.66 ID:MnhYg8bro
ご飯、味噌汁、漬け物、ポテトサラダに、人参とコーンが添えられたハンバーグ。
豪華な夕食がずらりとテーブルに並べられた。
どれも目移りするほど美味しそうで、思わずよだれをすすってしまう。
律「じゃあ、そろそろ」
梓「はい!」
私がご飯茶碗に手を伸ばしたそのとき。
律「おあずけ」
梓「!」
律「……」
梓「……」
律「……」
梓「うぅ……」ソワソワ
律「ぷっ、くくっ」
梓「もう、律先輩!」
律「ごめん、ちょっとやってみたかったんだ」
律先輩はいたずらっぽく笑う。
もしかして私をペット扱いしてないだろうか。
梓「むーー」
律「悪かったって。ほら、早く食べよう」
梓「……はい!」
22: 2011/06/29(水) 03:34:44.39 ID:MnhYg8bro
梓「この味噌汁すごく美味しいです」
律「そっか、よかった」
梓「もやしと味噌汁ってこんなに合うんですね」
律「もやしは万能の材料だからな。安くて、簡単に料理ができる」
梓「へぇ~」
律「一人暮らしの必需品だ!」
自信満々に答える律先輩を横目に、メインディッシュに手をつける。
箸で切れ目を入れた瞬間、湯気と一緒に肉汁が溢れでてきた。
ちょいちょいとケチャップをつけて、口の中に運ぶ。
梓「……」
律「どう、上手くできてるか?」
梓「はい、とても美味しいです。親に作ってもらったのより……」
律「おいおい、褒めすぎだって」
梓「だって本当ですもん」
23: 2011/06/29(水) 03:35:12.90 ID:MnhYg8bro
両親が共働きの我が家では、手間のかかる料理はそれほど頻繁に出ない。
その中でもハンバーグは滅多に出るものではなかった。
出たとしても、スーパーで売ってるような焼くだけのタイプのものだ。
美味しいけど、声に出して美味しいって言うほどのものでもない。
だから、ずっと前に律先輩の家で食べたハンバーグは。
……律先輩の作ってくれたハンバーグは、私の心に深く残っていた。
24: 2011/06/29(水) 03:36:07.99 ID:MnhYg8bro
梓「久しぶりに食べたけど、本当に美味しいです」
律「そこまで喜んでもらえたら作ったかいがあるな」
梓「また、食べたいなぁ」
律「しみじみ言うなって、別に最後の晩餐って訳じゃないんだから」
梓「……」
律「また今度来たら作ってやるよ」
梓「……今度っていつになるんでしょうか」
律「うん?」
梓「な、何でもありません」
うっかり口を滑らせてしまった。
消えたと思っていた不安はまだ残っていた。
慌ててその場は取り繕ったが、律先輩は怪訝な表情を浮かべていた。
25: 2011/06/29(水) 03:36:43.39 ID:MnhYg8bro
夕飯を食べ終えて、テーブルの上はきれいさっぱり片付けられた。
時計の針は既に八時過ぎを指している。
梓「……」
律「なぁ、梓」
梓「……」
律「そろそろ帰らないとまずいんじゃないか?」
梓「……」
律「梓ってば」
梓「見えない聞こえない」
律「たくっ、仕方ないやつだな」
26: 2011/06/29(水) 03:37:22.15 ID:MnhYg8bro
梓「外は真っ暗ですよ」
律「だな、あっち帰る頃は深夜近くになってるよ」
梓「恐いなあ、変質者に襲われたらどうしよう」
律「職質されないように気をつけろよ」
梓「麗しの女子高生がこんな時間に出歩いていたら襲われますよ!」
律「誰が麗しいって?」
梓「むっ」
律「それに、駅まで送ってやるから大丈夫だよ」
梓「むー……」
27: 2011/06/29(水) 03:37:59.56 ID:MnhYg8bro
梓「今日ここに泊まりたいな」
律「だーめ」
梓「けちっ、何でですか!」
律「明日部活あるだろ?」
梓「……あります」
律「しかも、新しい軽音部として最初の部活だったろ?」
梓「……そうです」
律「じゃあ、早く帰って寝ろ」
梓「そうですけど! ……お昼からだから、朝帰れば大丈夫です」
律「遅刻したらどうすんだ」
梓「……」
律「お前は新しい軽音部のリーダーだろ」
梓「リーダーだったら、わがままも言えないんですか」
律「ばか言ってんな」
梓「……」
律先輩の言うとおり、今の私はどうしようもない子だ。
でも、今日だけはわがままを許してほしかった。
律先輩とまだ離れたくないから。
28: 2011/06/29(水) 03:38:49.41 ID:MnhYg8bro
律「私が言いたいのは、リーダーなんだから去年よりずっと責任が重いってことだよ」
梓「……」
律「遅刻したら、憂ちゃんたちに申し訳が立たないだろ」
人の上に立つリーダーの責任は重い。
そんなこと分かってたし、覚悟してたつもりだけど。
何だか理不尽だなって思う。
今の私は部長失格だ。
梓「……だったら」
律「うん?」
梓「明日、朝一で帰ります」
律「……」
梓「これなら絶対遅刻しません」
律「……」
梓「だから、泊めてください。わがまま言うのは今日だけにしますから!」
律「……」
29: 2011/06/29(水) 03:40:13.69 ID:MnhYg8bro
律「……分かったよ、泊めてやる」
梓「本当ですか?!」
律「ただし、条件が一つ」
梓「!」ゴクリ
律先輩の言葉の続きを、固唾を呑んで待つ。
律「……両親に、連絡すること」
梓「はいっ!」
大きく返事をしたと同時に、嬉しくて思わず律先輩の胸に飛び込んだ。
律「ととっ」
梓「律先輩だいすき!」
律「現金なやつ」クスッ
30: 2011/06/29(水) 03:40:42.55 ID:MnhYg8bro
梓「お泊まりお泊まり嬉しいな」
律「小学生かよ」
梓「りーつせんぱいっ」
律「なんだ?」
梓「……」ギュウゥ
律「いっ、締めすぎだって」
律先輩はあったかい。
38: 2011/06/30(木) 00:40:34.76 ID:4puGWY2lo
律「お風呂わいたぞー」
梓「お先にどうぞ」
律「いいよ、梓が先に入っちゃいな」
梓「えっ、でも」
律「いいからいいから」
梓「うーん……」
家主より先にお風呂というのは少しためらいがある。
私がうんうん唸っていると。
律「じゃあさ、一緒に入ろっか」
梓「へっ? そ、それは」
律「別に合宿のときに一緒に入ったじゃん」
梓「あのときは大勢だったから……」
律「それにもう付き合ってるんだし、いいだろ?」
梓「あ、うぅー……」
律「やっぱ恥ずかしい?」
梓「……」
39: 2011/06/30(木) 00:41:35.81 ID:4puGWY2lo
かぽーん。
梓「案外広いお風呂ですね」
律「だろ? 立派な風呂がある物件を選べって教わったからさ」
梓「足をまっすぐ伸ばせて快適です」
律「あー私も早く入ろ」
そう言って律先輩は髪を洗いはじめる。
梓「い~い湯だな」
律「あははん」
梓「い~い湯だな」
律「おほほん」
梓「ここは上州、り~つの湯」
律「……私の湯ってなんだよ」
梓「何かえOちいですね」
律「バカなこと言ってないであがれ、髪洗っちゃる」
梓「えっ、いいですよ」
律「遠慮すんなって、サービスだ」
梓「……じゃあ」
40: 2011/06/30(木) 00:42:02.10 ID:4puGWY2lo
律「……」ワシャワシャ
梓「ふんふ~ん♪」
律「力加減はいかがですか、お嬢様」
梓「ちょうどいいですよ」
律「かしこまりました」
41: 2011/06/30(木) 00:43:01.02 ID:4puGWY2lo
律「……」ゴシゴシ
梓「頭があわあわ~」
律「……」ピタッ
梓「? どうしたんですか?」
律「梓の髪はきれいだな」
梓「へっ?」
律「長くてつやつや、羨ましい」
梓「そ、そんなことないですよ」
律「謙遜すんなって、本当にそうだから」
梓「うぅ……」
律「私の髪じゃ、伸ばしてもこうならないよ」
そのとき、律先輩はちょっとだけ寂しそうな目をした。
42: 2011/06/30(木) 00:43:35.26 ID:4puGWY2lo
梓「……私は律先輩の髪、好きですよ」
律「……梓」
梓「さらさらで柔らかそうで。それに、ショートカットは元気な先輩にぴったりです」
律「ふふっ、ありがと」
律先輩はいつもの明るい笑顔を浮かべた。
律「よっしゃあ、ラストスパートだ!」ワシャワシャワシャ
梓「きゃー♪」
律「おらおらおらおら」ゴシゴシゴシ
43: 2011/06/30(木) 00:44:16.46 ID:4puGWY2lo
風呂から上がると、買っておいた牛乳を一気に飲んで喉を潤した。
テレビのバラエティを見たり、律先輩と何気ない話をしたりして寝るまでの時間を過ごす。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので、気がついたらもう日を跨ぐ時間に差しかかっていた。
44: 2011/06/30(木) 00:44:48.64 ID:4puGWY2lo
梓「……」
律「梓、もう寝るぞ」
梓「もう少し起きていたいです」
律「夜更かしは体に悪いぞ。それに、めぼしい番組も終わったろ?」
梓「起きてるだけでいいんです」
律「明日朝早いんだから、早く寝ないと」
梓「そうですけど」
律「約束したろ」
梓「……分かりました」
45: 2011/06/30(木) 00:45:17.17 ID:4puGWY2lo
律「よし、電気消すぞ」
梓「はーい」
暗くなった部屋の中で、一枚の布団に律先輩と並んで寝ころぶ。
律「おやすみ」
梓「おやすみなさい」
46: 2011/06/30(木) 00:46:29.71 ID:4puGWY2lo
一日の終わりに布団の中で、その日の反省をすることは私の習慣だった。
律先輩との楽しい一日。
引っ越しを手伝って、ハンバーグをごちそうになって、一緒にお風呂に入って。
本当に楽しかったなぁ。
こんなに楽しい日が次に来るのは、一体いつになるだろう。
楽しい一日の終わりというのは、どうしても感傷的になってしまう。
まるでその時を狙いうちにしたかのように、不安がよみがえる。
律先輩と過ごした高校生活。
私があと一年残すなかで、律先輩は一足先に卒業した。
明日からは文字通り、律先輩のいない部活がスタートする。
律先輩だけじゃない。唯先輩も、澪先輩も、ムギ先輩もいない。
私が軽音部を引っ張っていかないといけない。
新しい軽音部への不安と、律先輩と離れてしまう不安。
二つの不安が私につきまとう。
47: 2011/06/30(木) 00:47:47.51 ID:4puGWY2lo
梓「先輩、起きてますか?」
律「んー、どした?」
梓「……眠れません」
律「目つぶって深呼吸してみな」
梓「……」
律「……」
梓「……やっぱり眠れません」
律「不眠症か」
梓「普段はもっと寝付きがいい方なんですけど」
原因は分かってる。不安で眠れないんだ。
この不安はどうしたら消えてくれるのか。
48: 2011/06/30(木) 00:48:53.18 ID:4puGWY2lo
そもそもどうして私はこんなに不安になってるんだろう。
律先輩は私より一個年上、卒業で離ればなれになることなんて当たり前だ。
とっくの昔に分かっていた。
そんなこと覚悟の上で、告白したはずなのに。
あのときの私は、ほんの一年我慢すればいいって甘く考えていた。
その一年がどれほど辛いものになるかなんて分からなかった。
どうして私と律先輩は同い年じゃないんだろう。
律先輩が一年遅く生まれていれば……私が一年早く生まれていれば、こんな思いをせずにすんだのに。
49: 2011/06/30(木) 00:49:41.17 ID:4puGWY2lo
やっぱり律先輩と離れるのが恐い。
きっと、私と律先輩との間に何もないからだ。
律先輩はどちらかといえば消極的だ。
最初のキスを除けば、今まで何もなかった。
多分私の気持ちを第一に考えて、焦ることはしないんだと思う。
その心遣いはすごく嬉しい。
でも今は、確かなものが欲しい。
離れていても安心できるように。
50: 2011/06/30(木) 00:51:24.18 ID:4puGWY2lo
もんもん悩む私の頭の中に一つだけ、正解らしきものが思い浮かぶ。
その瞬間、頬が熱っぽくなったのが分かった。
それはあまりに唐突で、しかも大胆なものだった。
でも、今の私にはこれ以外の解答は思いつかない。
だから、言うしかない。
心を決めた私はゆっくりと起き上がって、律先輩を見つめる。
51: 2011/06/30(木) 00:51:49.97 ID:4puGWY2lo
律「どした、梓」
梓「……律先輩」
律「うん?」
梓「お願いがあります」
律「なんだ?」
52: 2011/06/30(木) 00:52:17.62 ID:4puGWY2lo
心臓が鼓動を速める。緊張して手に汗をかく。
体全体の温度が上がったように感じて、心なしか目頭が熱い。
呼吸のペースが上がる。
53: 2011/06/30(木) 00:53:14.46 ID:4puGWY2lo
梓「……」
律「梓?」
声が裏返らないようにゆっくり慎重に口を動かす。
胸が張り裂けそうだった。
それは、私にとって初めての体験。
絞り出すようにして、言葉を発する。
54: 2011/06/30(木) 00:54:03.32 ID:4puGWY2lo
梓「……抱いてください」
その一言が物音一つない暗がりの部屋に溶けこんでいく。
律先輩にはっきりと聞き届けてもらうために。
梓「私を、抱いてください」
もう一度、繰り返した。
55: 2011/06/30(木) 00:55:15.68 ID:4puGWY2lo
暗やみにすっかり慣れた私の目は、律先輩の鋭いまなざしを捉える。
驚いているような怒っているような、とにかく真剣な瞳をしている。
律「……梓」
律先輩はゆっくりと近づいて、腕の中に私をすっぽりと収める。
高鳴る胸を手で押さえて、私は覚悟を決めた。
梓「好きです、律先輩」
自分への確認のためにつぶやく。
この人で間違いない、私の全てを預けていいんだ。
律先輩の胸に体を傾けて、私は静かに口を結んだ。
56: 2011/06/30(木) 00:55:49.03 ID:4puGWY2lo
暗い部屋には私と律先輩の二人だけ。
こんなことは初めてだった。
お互いの家に泊まりに行ったことはあるけど、その時は家族がいた。
一つの部屋に二人きりで夜を過ごすのは初めて。
付き合った以上、いつかは体の関係を持たなければならない。
あるのは、早いか遅いかの違いだけ。
今日がその日なんだ。
次にいつこういう日が来るかは分からない。
だからいいんだ、きっと。
57: 2011/06/30(木) 00:56:30.37 ID:4puGWY2lo
律「梓……」
律先輩と視線が重なる。
律「目、つぶって」
律先輩の指示に従い、私は両目を閉じた。
ただでさえ暗かったのが、完全な闇に閉ざされる。
何も見えないのは少し恐いけど、今は律先輩の腕の中にいる。
だから別に、何も心配しなくていい。
私が感じるのは律先輩の温もりだけ。
58: 2011/06/30(木) 00:57:12.50 ID:4puGWY2lo
唇に柔らかいものが触れた。
触れただけで、それはすぐに離れた。
二回目のキスだった。
一回目は告白したときで、あのときは私から。
律先輩からしてもらったのは初めて。
大好きな人とキスができて嬉しい。
でも、この先に進むのが恐い。
嬉しさと切なさが入り混じったよく分からない感情にとりつかれる。
律先輩に任せれば大丈夫という私。
やっぱり恐いという私。
二人の私が現れた結果、心の中がますます不安定になっていく。
目尻に何かが溜まって、やがてそれは頬を流れていった。
私は不安を押し頃して、律先輩の次の行動を待つ。
だけど、いくら待っても何もされなかった。
59: 2011/06/30(木) 00:58:01.81 ID:4puGWY2lo
梓「律先輩……?」
おそるおそる目を開けてみると、律先輩が苦笑いを浮かべている。
律「今日はここまで」
律先輩はあっけらかんと答えた。
梓「な、何でですか?」
律「何でって、そりゃ……梓にはまだ早いかなって」
梓「別に早くないです、今日がその日なんです!」
律「何を焦ってるんだよ」
梓「っ……ち、違います」
律「こういうのは、梓が大学入ってからでもいいだろ?」
梓「……」
律先輩の言うとおりだった。
私は何を急いでるんだろう。
一人で突っ走って、恥ずかしい。
60: 2011/06/30(木) 00:58:37.36 ID:4puGWY2lo
律「……それにさ」ギュッ
梓「にゃぅっ」
律先輩に抱きしめられる。
さっきよりもずっと強く、息もできないぐらい。
耳が律先輩の胸に当たって、心地よい心音が聞こえてくる。
力がどんどん抜けて、体全体を支えられているみたい。
されていることは乱暴なのに、なぜかさっきよりずっと安心する。
律「泣いているやつは抱けないよ」
梓「!」
慌てて目元をぬぐう。腕がぐっしょり濡れている。
61: 2011/06/30(木) 00:59:23.81 ID:4puGWY2lo
私、泣いていたんだ。
自分を騙していただけで、本当はすごく恐かったんだ。
気づいた瞬間どんどん涙が溢れ出てきて、止めることができなくなった。
律「よしよし」
律先輩に頭を撫でられながらその胸を借りて、ひたすら泣き続けた。
私は確かなものが欲しかった。
けど、それだけだった。
律先輩に抱いてもらいたいというより、ただ自分の中の不安から逃れたかった。
何も覚悟ができていなかったんだ。
62: 2011/06/30(木) 01:00:02.29 ID:4puGWY2lo
律「ほら、こうしたら安心するだろ?」
梓「はいっ」
たくさん泣いてようやく一段落つくと、私は律先輩と再び布団に寝ころがった。
さっきと違うのは、律先輩に腕枕をされていることだ。
律「梓が眠るまでこうしてやるよ」
梓「……ありがとうございます」
律先輩の側にいると、どうしてこんなに安心するんだろう。
心が落ち着いて、うとうとし始めたとき。
律先輩の歌声が聞こえてきた。
63: 2011/06/30(木) 01:00:36.59 ID:4puGWY2lo
「ねーんねーん ころーりよ おこーろーりーよー」
「あーずさーはー よいーこーだー ねんねーしーなー」
「あーずさーのー おもーりーはー どこーへーいったー」
「あーのやーまー こーえて さとーへーいったー」
64: 2011/06/30(木) 01:01:27.34 ID:4puGWY2lo
歌声に合わせて背中を優しくさすられる。
子供の頃、眠れないときによく歌ってもらった子守歌だ。
あの頃もこんなふうに、眠れるまで隣にいてもらったっけ。
何だかとっても懐かしくて、子供に戻った気分。
かっちこっちと時計の針が時間を刻む。
いつの間にか律先輩の子守歌は止んでいる。
すーすーと自分の寝息が聞こえる。
律「おやすみ、梓」
やっぱり律先輩はあったかい。
65: 2011/06/30(木) 01:04:12.60 ID:4puGWY2lo
朝。春のぽかぽかとした日光が窓から差し込む。
ベランダに出てすがすがしい空気に触れると、うーんと一度伸びをした。
梓「律先輩、朝ですよ~」
律「むにゃむにゃ……きゃべつぅ」
昨晩の大人な律先輩はどこへ行ったのやら。
髪をぼさぼさにしてパジャマをはだけさせ、だらしない格好で寝ぼけている。
でも、昨日は私が寝付くまでずっと起きててくれたんだ。
そう思うと感謝せずにはいられない。
66: 2011/06/30(木) 01:05:02.45 ID:4puGWY2lo
梓「起きてください!」
律「ん~~後ごふん……」
律先輩は朝に弱いらしい。
こんなことで大学が始まった後、一人で起きられるのだろうか。
梓「もう、一人で帰っちゃいますよ」
律「……」
心にもないことを言ってみた。
ほんの冗談のつもりだったんだけど、律先輩はすっくと起き上がると、すぐに洗顔と歯磨きに取りかかる。
67: 2011/06/30(木) 01:05:30.11 ID:4puGWY2lo
律「朝飯はどうする?」
梓「あっちで適当に食べちゃいます」
律「そ。じゃ、行こっか」
梓「はい。お邪魔しました」
今日はとてもいい天気で、さわやかな風が吹いてくる。
特に寒いことはないけど、私と律先輩はどちらからともなく手を握っていた。
68: 2011/06/30(木) 01:06:19.44 ID:4puGWY2lo
律「いよいよ今日から新しい軽音部のスタートか」
梓「暫定的ですけどね。四月中に一人だけでも新入部員を獲得しないと廃部ですし」
律「でも、憂ちゃんと純ちゃんがいるんだろ」
梓「……はい」
律「大丈夫、心配することないって。私たちのときと同じだから」
梓「へっ、そうなんですか?」
律「そうだぞ、最初は私と澪とムギの三人からのスタートだったんだ」
梓「へぇ~、唯先輩はいつから?」
律「唯が入ったのは本当に廃部寸前の四月末だったよ」
梓「そうだったんですか」
律「ま、別に私は廃部の心配なんかしてなかったけどな」
梓「何か当てがあったんですか?」
律「いんや、なんにも」
梓「……律先輩の能天気は筋金入りです」
律「うっせーし! でもさ……」
梓「……」
律「案外、楽観的な方が上手くいくもんだよ」
梓「そういうものですか」
律「そう! 前部長の経験だからな、信用できるぞ」
梓「ま、ほどほどに信用します」
律「梓てめぇ!」
69: 2011/06/30(木) 01:06:58.17 ID:4puGWY2lo
律「……ま、とにかくさ」
梓「えっ?」
律「梓の軽音部も、絶対上手くいくよ」
梓「……」
律「大丈夫だよ、安心しな」
梓「……ありがとうございます」
70: 2011/06/30(木) 01:08:06.10 ID:4puGWY2lo
梓「律先輩の今日の予定は?」
律「んー梓送って、家帰って……二度寝?」
梓「何もないってことですね」
律「いいだろ、大学始まるまでのんびりしてても。受験で苦労した分の骨休めだよ」
梓「でも、あまり怠けると大学始まってから大変ですよ」
律「うっ……分かった、じゃあ今日は勉強する!」
梓「勉強って何の?」
律「……ドラム」
梓「くすっ」
律「わ、笑うなー!」
梓「ごめんなさい、つい」
律「たくっ、お前がドラムの練習してろって言ったんだろ」
梓「そうでしたね」
71: 2011/06/30(木) 01:08:43.26 ID:4puGWY2lo
梓「……大学、頑張ってください」
律「ん、ありがと。大学の軽音部でも頑張るよ」
梓「来年私の席空けといてくださいね」
律「おう、了解。でも、憂ちゃんと純ちゃんはどうするんだ?」
梓「もちろん、三人で大学でもバンド組みますよ」
律「それじゃ兼任ってことか」
梓「そういうことです!」
72: 2011/06/30(木) 01:09:47.88 ID:4puGWY2lo
律先輩の家は駅からそう遠くない。
通学に使うのだから、駅から近いほうが好都合なのは当然だ。
でもその距離のせいで、律先輩との一時はあっという間に終わってしまう。
梓「……」
律「駅、着いたな」
梓「……」
律「ホームまで送っていくよ」
梓「……」
もうすぐ律先輩とお別れだ。
その時が刻一刻と迫る中で、改めてその事実が重く胸にのしかかっていく。
73: 2011/06/30(木) 01:10:39.52 ID:4puGWY2lo
律「おい梓、電車あと少しで出発するぞ」
梓「大丈夫です」
律「何がだよ、急がないと乗り遅れるって」
梓「一本遅らせますから」
律「へっ?」
梓「朝食も食べてないのに急に走ったら貧血になっちゃいます」
律「……」
74: 2011/06/30(木) 01:11:11.14 ID:4puGWY2lo
電車が出発する。しばらくして、別の電車が到着する。
律「電車が来たぞ」
梓「知ってます」
律「乗らなくていいのか?」
梓「混んでるんで次のにします」
律「つっても、次の電車も似たような感じだぞ」
梓「……」
75: 2011/06/30(木) 01:11:43.69 ID:4puGWY2lo
また別の電車が到着する。それを無言で見送る。
そのまた別の電車も。
律先輩もそのうち、何も言ってこなくなる。
ホームのベンチで二人並んで座っているだけ。
本当は色々話をしたかったのに、なにも言葉が浮かんでこない。
何本目かの電車が到着する。
降りてきた人が視線をちらりと投げかけてくる。
76: 2011/06/30(木) 01:12:36.05 ID:4puGWY2lo
このままここに居続けたって、何の解決にもならないのに。
体が動かない。言葉も出てこない。
そうしているうちに、時間はどんどん過ぎていく。
どのくらいの間そうしていただろうか。
気がつくと、そろそろ乗らないと間に合わない時間になっていた。
目の前で電車の扉が閉まる。
多分、次の電車が最後だ。
77: 2011/06/30(木) 01:15:41.66 ID:4puGWY2lo
律「梓、そろそろじゃないか」
梓「……」
せめて律先輩に何か言いたいのに。
このままじゃ、後味の悪い別れになってしまう。
そんなの嫌だ。でも、何も言えない。
また涙が出てきた。
肝心なときに泣き虫な私。
地面に落ちていく涙を無言で眺めることしかできない。
帰りたくない。離れたくない。
律先輩と別れたくない。
置いてかないでよ。
もっと一緒にいてよ。
一人にしないでよ。
律先輩、りつ先輩、りつせんぱい…………
78: 2011/06/30(木) 01:16:42.39 ID:4puGWY2lo
そのとき。
律先輩の腕が私の後ろに回って、そのまま肩を抱き寄せられる。
律先輩の温もりに包まれる。
梓「りつせんぱぁい……」
金縛りに遭ったようになっていた体がいつの間にか自由に動く。
口が、舌が、ちゃんと動かせる。
今を逃したら、もう二度と言う機会がない。
そう思った私は、初めて自分の中の思いを吐きだした。
79: 2011/06/30(木) 01:17:16.90 ID:4puGWY2lo
梓「……律先輩と離れたくない」
まるで鱗が落ちるように、言葉が口からこぼれ落ちた。
そうかと思うと、また何も言えなくなる。
律先輩に抱かれたまま、その胸に顔を埋めて泣き出してしまった。
80: 2011/06/30(木) 01:18:38.31 ID:4puGWY2lo
律先輩は私が泣きやむまで、ずっと抱きしめていてくれた。
やがて私が落ち着くと、真剣な表情になる。
律「そんなに離れるのが恐いか」
梓「はい、当たり前です」
律「別に一生会えなくなる訳じゃないだろ」
梓「そうですけど! このまま離ればなれになって、律先輩に……」
律「私に?」
梓「……そのうち別れを切り出されるんじゃないかって」
律「ばっか、そんなことするわけないだろ」
梓「不安になったものは仕方ないじゃないですか!」
律先輩は呆れたようにため息をつくと、頭をぼりぼりと掻いた。
律「梓、聞いてくれ」
両肩に手を置かれてまっすぐに見つめられる。
あまりに真剣な表情に思わずたじろぎそうになる。
こんな顔をする律先輩は一度しか見たことがない。
私の告白を聞いてくれたときだ。
律先輩は私と目を合わせて、ゆっくりと口を開いた。
律「約束するよ」
梓「……」
81: 2011/06/30(木) 01:19:59.00 ID:4puGWY2lo
律「私は絶対梓を裏切らない。梓と別れたくないから」
梓「……」
律「私は、これでもかなり梓に感謝してるんだぜ?」
梓「へっ?」
律「受験時代にすごく支えてもらったし、軽音部の部長としても色々助けてもらった」
梓「……」
律「何より、お前が……生意気でわがままだけど、可愛い梓が、その……好き、だから」
梓「律先輩……」
律「そんな梓を裏切るわけないだろ。第一、そんなことしたら澪たちに半頃しにされちゃう」
梓「……くすっ」
82: 2011/06/30(木) 01:20:25.76 ID:4puGWY2lo
律「それから、梓が不安にならないようにちゃんと連絡するよ」
梓「はい」
律「メールなり電話なりするし、どんなに忙しくても一月に一度は会おうな」
梓「はい、約束ですよ」
律「梓が忙しいなら私の方から会いに行くから」
梓「……」
律「だから、もう不安がったりするな」
梓「……」
83: 2011/06/30(木) 01:21:17.75 ID:4puGWY2lo
梓「ぷっ……くすくす」
律「な、何で笑うんだよ」
梓「だって律先輩、さっきから臭いことばかり言ってるから」
律「なっ! 私はお前のために……」
梓「似合わないです」
律「中野ぉ!」
梓「でも、すごく嬉しい」
律「……」
梓「ありがとうございます」
律「梓……」
84: 2011/06/30(木) 01:22:50.75 ID:4puGWY2lo
電車の到着を予告するアナウンスが鳴る。
私と律先輩は顔を見合わせる。
律「もう大丈夫か?」
梓「はい、元気いっぱいです!」
律「ふふっ、そりゃよかった」
ずっと向こうの方に電車が見えた。
ゆっくりと、着実に近づいてくる。
律「もうすぐだな」
梓「そうですね」
目を合わせると、お互いに微笑みを交わす。
律先輩に抱きしめられる。私も、抱きしめ返す。
短く汽笛が鳴って、まもなくの到着を告げる。
85: 2011/06/30(木) 01:23:22.12 ID:4puGWY2lo
律「梓はあったかいな」
梓「そうですか?」
律「うん、ちっちゃな体なのにすごくあったかい」
梓「ちっちゃいは余計です」
律「ごめんごめん。でも、本当」
梓「……律先輩だってあったかいですよ」
律「そうなのか?」
梓「はい!」
この温もりにどれだけ救われただろう。
律先輩に手を握られるのも、肩を組まれるのも。
腕を組まれるのも、抱きしめられるのも。
みんなみんな大好き!
86: 2011/06/30(木) 01:23:49.43 ID:4puGWY2lo
車両がプラットホームに入ってくる。
律「……あっ」
そろそろ体を放そうかと思ったとき、律先輩がつぶやく。
律「しまった、言い忘れてた」
梓「何をですか?」
首をかしげる私に向けて、にっこり笑う律先輩。
律「もう一つの約束」
87: 2011/06/30(木) 01:24:48.61 ID:4puGWY2lo
純「おっす、二人とも」
憂「純ちゃんおはよう」
梓「おはよ、純」
憂「これでみんな揃ったね」
梓「それじゃ、新生軽音部の初活動を始めますか! おー!」
憂「おー!」
純「お、おー」
88: 2011/06/30(木) 01:25:22.87 ID:4puGWY2lo
純「梓、気合い入ってるね」
梓「そう?」
純「それに、何だかすごくいい笑顔してる」
憂「さっきからずっとこんな感じなんだよ」
純「ふぅん」
梓「そ、そりゃ今日から新しい軽音部のスタートなんだし」
憂「それにしては、機嫌よすぎるよ」
梓「そんなことないよ」
憂「うぅん、さっきから顔がにやけっぱなし」
梓「へっ!?」
89: 2011/06/30(木) 01:26:24.34 ID:4puGWY2lo
純「こりゃきっと、何かいいことでもあったな」
憂「やっぱり純ちゃんもそう思う?」
梓「ふ、二人とも、練習始めるよ!」
純「まあ、梓の機嫌がよくなりそうな理由なんて限られてるけど」
憂「うんうん、り……」
梓「わーわー!!」
90: 2011/06/30(木) 01:27:10.04 ID:4puGWY2lo
気づいてみれば、何も難しくはなかった。
私はただ、絆を確認したかった。
そのための言葉を律先輩からもらいたかっただけなんだ。
律先輩はちゃんとこれからのことを考えていてくれた。
私との未来を思い描いていてくれた。
だから、何も心配ない。
大丈夫、約束したから。
もう、不安になったりしない。
91: 2011/06/30(木) 01:27:35.97 ID:4puGWY2lo
梓「ほら、早く楽器の準備して」
純「梓、その前に……」
梓「どうしたの?」
純「先にしようよ、ティータイム!」
憂「私も賛成!」
梓「……仕方ないなぁ、もう」
92: 2011/06/30(木) 01:28:04.55 ID:4puGWY2lo
律先輩とのデートも……キスも。
まだまだ数えるほどしかしてない。
私と律先輩の関係も、新しい軽音部も、まだまだこれからだ。
でも、私はどっちもマイペースでやっていこうと思う。
たとえそれが、ゆっくりと歩くような速さでも。
93: 2011/06/30(木) 01:28:31.52 ID:4puGWY2lo
憂「お茶入ったよ」
純「おぉ、さすが憂!」
梓「ありがとう」
憂「でも、ムギさんのティーセット勝手に使っちゃっていいのかな」
純「気にしない気にしない」
梓「……」ズズ
憂「お味の方はどう?」
梓「うん、美味しいよ」
憂「ありがと、ムギ先輩のお茶には敵わないと思うけど」
梓「そんなことないよ、すごく上手」
憂「えへへっ、嬉しいな」
94: 2011/06/30(木) 01:29:29.06 ID:4puGWY2lo
今年一年部長を頑張って、新入部員を獲得して軽音部を存続させて。
それから受験勉強もちゃんとして、必ずN女子大に合格します。
それが律先輩への約束。
律先輩にしてもらった大切な約束へのお返し。
95: 2011/06/30(木) 01:30:00.90 ID:4puGWY2lo
梓「じゃ、お茶も飲んだところで練習始めよっか」
純「よぉしっ」
憂「了解!」
梓「新歓ライブに向けて、頑張ろう!」
純憂「おー!」
96: 2011/06/30(木) 01:30:28.73 ID:4puGWY2lo
私、頑張ります。やってやります。
きっと達成してみせます。
だから律先輩も、ちゃんと約束守ってくださいね。
97: 2011/06/30(木) 01:30:57.98 ID:4puGWY2lo
――梓が来年合格して、卒業したら。
一緒に暮らそう。
Fin
99: 2011/06/30(木) 01:32:55.63 ID:4puGWY2lo
本編は以上です
只今ちょっとした後日談的なものを執筆中ですので
もう少しお付き合いいただけたら幸いです
只今ちょっとした後日談的なものを執筆中ですので
もう少しお付き合いいただけたら幸いです
100: 2011/06/30(木) 02:14:54.98
それは見逃せないな
98: 2011/06/30(木) 01:32:49.00
ほっこりした
この1年の間、2人に色んなドラマが生まれると考えると胸が熱くなる
この1年の間、2人に色んなドラマが生まれると考えると胸が熱くなる
102: 2011/06/30(木) 03:31:52.40 ID:4puGWY2lo
エピローグ
フライパンの上で音を立てるハンバーグを見つめる。
頃合いを見計らってひっくり返すと、きれいにこんがり焼き上がっていた。
梓「やったぁ!」
初めて上手くできたことが嬉しくて、思わず声を上げてしまう。
時計をちらりと見て、そわそわ落ち着きをなくす。
そろそろ律先輩がバイトから帰ってくる時間だ。
夕食の準備を終えると、私はテーブルに肘をついてこの一年をふと振り返った。
104: 2011/06/30(木) 03:33:14.77 ID:4puGWY2lo
私の軽音部は、最終的に二人の新入部員を獲得して存続を果たした。
新一年生は初心者からのスタートだったものの、徐々に上達していった。
文化祭ライブでは放課後ティータイムに負けないぐらいの演奏を披露し、見事大成功を収めた。
そして私は無事にN女子大に合格し、軽音部を二人に任せて卒業した。
卒業の日なんて、二人の後輩を軽音部に残していかないといけないことにポ口リときてしまったものだ。
先輩たちもこんな気持ちだったのかなぁ。
私たちが欠けて部員の足りなくなった軽音部が心配だったけど、何とか廃部は免れたようだ。
二人から時々近況を知らせるメールが届く。
105: 2011/06/30(木) 03:33:47.19 ID:4puGWY2lo
ところで、私と律先輩の間にはこの一年間、本当に色々なことがあった。
夏は海に行ったり、勉強の合間を縫って旅行に行ったり。
冬は律先輩の家で受験勉強をしたり。クリスマスも年明けも二人で過ごした。
もちろんケンカもたくさんしたし、悲しいことや辛いこともたくさんあったけど。
この一年間で私と律先輩の関係はずっと深まっていた。
人生山あり谷あり、楽あれば苦あり。
ケンカして仲直りするたびに、私と律先輩の絆は強まっていたように思う。
106: 2011/06/30(木) 03:34:22.36 ID:4puGWY2lo
受験に合格して一ヶ月もすると、もう私は律先輩と同棲を始めていた。
お互いの親には話を通していたし、何より私たち自身が待ちきれなかったからだ。
一年間も待っていたんだから、ちょっとぐらい気が早くても許されるはずだ。
こうして、私と律先輩はお互いの約束を守った。
107: 2011/06/30(木) 03:34:50.99 ID:4puGWY2lo
律「ただいまーっ」
律先輩の声が聞こえると、私は一目散に玄関へと出迎えに行く。
梓「おかえりなさい」
律先輩の姿を目にすると、思いっきり抱きついた。
律「おっと、ただいま」
梓「今日もお疲れさま」
律「いやー、バイト先で大分こき使われたぜ。疲れたーっ」
梓「ご飯できてますよ」
律「お、嬉しいな。今日の献立はこの匂いからすると……」
梓「うん、そう……」
私たちの声が重なる。
律梓「ハンバーグ!」
108: 2011/06/30(木) 03:35:28.62 ID:4puGWY2lo
律先輩と暮らし始めて少し経つと、徐々に役割分担ができ上がっていた。
主に律先輩がバイトで生活費を稼いでくれて、私は料理や洗濯、掃除など家事を担当する。
本当は私もバイトをしたかったのだけど、律先輩に反対されて断念せざるをえなかった。
一年生の間はバイトなんかせずに勉強に集中するべき! ……らしい。
律先輩はどうだったのかと聞いてみたら言葉を濁されてしまったけど。
という訳で、我が家の料理はもっぱら私の仕事になっている。
私の料理スキルなんて律先輩に比べたら全然で、そもそも実家では家事なんてほとんどしてこなかった。
だから最初のうちは失敗ばかりで、何度も律先輩に泣きついた。
カレーやスパゲッティですら失敗していた。
ハンバーグなんて、毎度真っ黒に焦がしてしまって。
今回上手に焼けたことがむしろ奇跡だった。
それでも何度も律先輩に教えられて叱られて、励まされているうちに少しずつ上達していった。
律先輩は私の手料理を食べられることがとても嬉しいらしい。
この前たまたま上手くできたシチューなんか、大喜びで食べてくれた。
109: 2011/06/30(木) 03:36:27.24 ID:4puGWY2lo
梓「ほら見て。上手に焼けたんですよ」
律「どれどれ……お、本当だ。こんがり焼けてるじゃん」
梓「たくさん練習したもん!」
律「どんどん上達してきてるみたいだな。よしよし」
梓「えへへっ」
こうやって頭を撫でられるとすごく嬉しい。
律先輩に褒められると、もっと頑張ろうって気持ちが湧いてくる。
110: 2011/06/30(木) 03:37:09.92 ID:4puGWY2lo
律「おぉ、こりゃ美味い!」
律先輩は満面の笑みを浮かべてハンバーグを食べてくれる。
梓「律先輩のには敵わないけど……」
律「んなことないって、梓のハンバーグの方が美味しいよ」
梓「お、お世辞なんか要りませんよ」
律「本当だって。私のために作ってくれたんだからさ」
梓「へっ?」
律「自分のために作ってくれた手料理が一番美味いもんだよ」
梓「うぅ……」
私は顔を真っ赤にしながらハンバーグの切れ端を口に放り込む。
結局あの時以来、律先輩のハンバーグをごちそうになったことは数えるほどしかない。
料理当番が私になった今では、律先輩の手料理自体食べられる機会がそうないだろう。
だけど、自分で料理をするようになって気がついたことがある。
誰がどんな料理を作るのかでなく、誰と一緒に食べるかが大切なんだって。
律先輩と一緒に食べる料理が、一番美味しい。
111: 2011/06/30(木) 03:37:36.87 ID:4puGWY2lo
律「お腹いっぱい、ごちそうさま」
梓「お粗末様です」
夕食を食べ尽くすと、私たちは二人して横になる。
梓「食べてすぐ寝ころがると、牛になりますよ」
律「お前も寝ころがってんじゃん」
梓「私は太らない体質だからいいんです」
律「ふぅん」
112: 2011/06/30(木) 03:38:05.61 ID:4puGWY2lo
ごろごろ転がって、律先輩の隣に体を寄せる。
律「……」
梓「ふんふ~ん♪」
律「……」
律「なぁ、さっさと皿洗っちゃおうぜ」
梓「もう少し後で」
律「このままだと眠くなるぞ」
梓「だったら眠っちゃいましょう」
律「おいおい、明日にする気か」
梓「それもいいですね」
律「汚れがこびりついて後々面倒になるぞ」
梓「別にいいもん」
律「……たくっ、仕方ねぇの」
113: 2011/06/30(木) 03:38:33.45 ID:4puGWY2lo
梓「ねー律先輩」
律「なに?」
梓「腕枕してください」
律「えーやだ」
梓「けちっ」
律「だってあれ腕が痛くなんだもん」
梓「むー……いいじゃないですか」
律「よくねーし。明日もバイトあんだからな」
梓「少しだけでいいですから……」
律「……」
梓「……」
律「そ、そんな目で見てもダメだぞ」
梓「……」ジー
律「うぅ、無視無視」
梓「……」ウルウル
律「ああもう、分かったよ!」
梓「やったぁ!」
114: 2011/06/30(木) 03:38:59.53 ID:4puGWY2lo
律「ちょっとだけだからな」
梓「分かりました」
律「しばらくしたら食器の後片付けするぞ」
梓「はーい」
律「じゃ……ほらよ」
梓「それじゃお邪魔します」
律「……」
梓「えへへ~」
律「……」
梓「律先輩、あったかぁい」
律「う、うっせー」
115: 2011/06/30(木) 03:39:49.25 ID:4puGWY2lo
律先輩の側はあったかくてほっとする。
こうやって触れていると、すごく安心する。
一年前の私は律先輩と離れることが不安で仕方がなかった。
長い片思いが実って浮かれる一方で、突然地の底にたたき落とされるんじゃないかっていう不安。
律先輩ともう会えなくなるんじゃないかっていう不安に取りつかれていた。
今から考えると、呆れるほど子供っぽい。
でもあのときは本当に必氏だったんだ。
少なくとも、律先輩に約束してもらうまでは。
もし、過去の自分にメッセージを送ることができるなら。
私は一年前の私にこんな言葉を送っているだろう。
大丈夫、今の私は幸せだから。
絶対幸せになれるから。
116: 2011/06/30(木) 03:40:57.49 ID:4puGWY2lo
梓「……」
律「……」
梓「ねー律先輩?」
律「今度は何だ」
梓「私……」
律「うん?」
梓「……いえ、何でもありません」
律「何だよ、変な奴」
梓「……」
私、とっても幸せですよ。
Fin
117: 2011/06/30(木) 03:47:35.21 ID:4puGWY2lo
以上です
ここまでお読みいただきありがとうございました
ちょっと季節外れのssでしたね、ごめんなさい
格好いいりっちゃんと可愛いあずにゃんは律梓の理想型だと思います
拙い描写で申し訳ありませんが、少しでもお伝えできたなら幸いです
また次回作でお会いしましょう
律梓は永遠!
ここまでお読みいただきありがとうございました
ちょっと季節外れのssでしたね、ごめんなさい
格好いいりっちゃんと可愛いあずにゃんは律梓の理想型だと思います
拙い描写で申し訳ありませんが、少しでもお伝えできたなら幸いです
また次回作でお会いしましょう
律梓は永遠!
118: 2011/06/30(木) 06:06:49.42
乙
これであと一週間は戦える
これであと一週間は戦える
119: 2011/06/30(木) 11:39:11.30
乙
鬱展開じゃなくて良かった
鬱展開じゃなくて良かった
引用元: 梓「大丈夫、約束したから」
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