1: 2015/09/09(水) 21:42:18.795 ID:BN2+MdCL00909
― 裁判所 ―

裁判官「さて、被告人よ」

裁判官「あなたは電車内において、この女性の尻をさわりましたか?」

男「さわりました」

裁判官「そちらの女性、あなたはさわられましたか?」

女「さわられてません」

男「ウソつくなァァァァァ!!!」

9: 2015/09/09(水) 21:45:25.971 ID:BN2+MdCL00909
男「さわっただろうが!」

男「たしかに俺はこの右手で、アンタの尻をさわった! なで回した!」

裁判官「――とおっしゃっていますが?」

女「いえ、さわられていません」

男「まだ言うかァァァァァ!!!」

14: 2015/09/09(水) 21:49:26.425 ID:BN2+MdCL00909
男「さわったんだ! 俺は! たしかに! この右手で!」

裁判官「しかし……被害者がさわられてないといってるのです」

裁判官「あなたがいかにさわったと熱弁を振るおうと」

裁判官「あなたの証言だけであなたを罰することはできませんなぁ」ニヤニヤ

男「な、なぜだ……!? なんでだよ!?」

16: 2015/09/09(水) 21:51:18.920 ID:BN2+MdCL00909
裁判官「疑わしきは罰せず」

裁判官「ようするにグレーじゃダメってことです。ブラックじゃなきゃね」

男「なに言ってやがんだァ!」

男「俺はブラック! 俺はドブラックだ!」

裁判官「見たところ、黄色人種で、甘党で、勤めてる企業もホワイト企業のようですが」

男「うるせェェェェェ!!!」

17: 2015/09/09(水) 21:54:16.855 ID:BN2+MdCL00909
男「おっ、おい! 検事さんよ!」

検事「ん?」

男「ん、じゃないよ! なんでさっきから何も言わないんだよ!」

男「アンタ……俺を起訴したんだよな? にっくき性犯罪者として!」

男「だったら証明してみせてくれよ、俺の犯行をさァ!」

19: 2015/09/09(水) 21:57:17.073 ID:BN2+MdCL00909
検事「不可能だ」

男「なっ……!」

男「どういうことだよ!?」

男「このままじゃ、俺の無罪が決まっちまうぞ! 裁判に負けちまうんだぞ!」

男「それでもいいのかよォ!」

検事「かまわん」

20: 2015/09/09(水) 22:00:20.842 ID:BN2+MdCL0
男「なにいってんだ! もっと粘れよ!」

男「もし、俺が無罪になったら」

男「アンタは無実の俺を裁判にかけた検事として、処分されちまうぞ!」

検事「無論、覚悟している」

男「くっ……!」

21: 2015/09/09(水) 22:03:19.238 ID:BN2+MdCL0
男「バカヤロウ! 諦めるんじゃねえよ!」

男「アンタ、なんのために検事になったんだ!?」

男「俺みたいな極悪人を、牢獄に叩き込むためじゃなかったのか!?」

検事「そんなわけがなかろうッ!」

男「!?」ビクッ

22: 2015/09/09(水) 22:06:12.101 ID:BN2+MdCL0
検事「検事とは、すなわち“剣事”!」

検事「いかなるものをも断ち切る剣の如く!」スパンッ

検事「“罪”という鎖に捕われてしまった人々を救うのが務めなのだ!」

検事「検事たる者、起訴した被告人は全て無罪にすべし! 罪を憎まず人も憎まず!」

男「ええい、お前はもういい!」

男「弁護士! 弁護士ィィィィィ!」

23: 2015/09/09(水) 22:09:15.623 ID:BN2+MdCL0
弁護士「なんだい?」

男「なんだい、じゃないよ!」

男「お前には高いギャラ払ってんだ! 仕事をしろ、仕事を!」

弁護士「仕事……過払い金の請求かい?」

男「ちげーよッ!」

24: 2015/09/09(水) 22:12:21.748 ID:BN2+MdCL0
男「今、俺が痴漢をしたかしてないかの裁判が行われている!」

弁護士「ほう、そうかい」

弁護士「あ、今のは法曹界とかけたダジャレね」

男「ハハッ」

男(くそっ、ちょっと笑っちまった!)

26: 2015/09/09(水) 22:15:32.728 ID:BN2+MdCL0
男「しかし、俺の無罪放免が確定しようとしている!」

男「何とかしろ! 俺を救え!」

弁護士「イヤだね」

男「なにっ!」

弁護士「なぜなら私の仕事は君を弁護して、無罪にすることだ」

弁護士「なんでわざわざ、無罪判決を得られる流れを変えなきゃならないんだい?」

男「き……詭弁だッ!」

28: 2015/09/09(水) 22:18:18.529 ID:BN2+MdCL0
男「いいからやれ! でないと金は払わねえぞ!」

弁護士「分かった、分かった。やるだけやってみるよ。どうせ無駄だけど」

弁護士「裁判官、異議があります」

裁判官「却下します」

弁護士「ね?」

男「もっと頑張れよォォォォォ!!!」

29: 2015/09/09(水) 22:21:28.894 ID:BN2+MdCL0
裁判官「さて、どうやら意見も出尽くしたようですし」

裁判官「そろそろ判決を言い渡しますかな」ニコッ

男「ま、待てっ! 待ってくれ!」

男「俺は……俺はたしかにやったんだよ! さわったんだよ!」

裁判官「あなたもなかなかしつこいですねえ」ニヤニヤ

30: 2015/09/09(水) 22:24:30.417 ID:BN2+MdCL0
検事「おっと、そういえば証拠品を出すのを忘れていた」

男「証拠!?」

検事「実は君が乗っていた電車に、一人変わった乗客がいてね」

検事「ちょうど君が痴漢をしたと主張する時刻に、車内をビデオ撮影してたらしいんだ」

男「おおっ!」

裁判官「その者はどうしましたか?」

検事「不特定多数の肖像権を無断で侵害したということで、独断で島流しの刑に」

裁判官「ふむ、素晴らしい対応です」

33: 2015/09/09(水) 22:27:21.628 ID:BN2+MdCL0
男「撮影した人の末路は気の毒だけど……今はそれどころじゃない!」

男「そのビデオを再生してみろ!」

男「俺の犯行の瞬間が映されてるはずだ!」

裁判官「それは面白い」

裁判官「検事、再生をお願いします」

検事「御意」

34: 2015/09/09(水) 22:30:15.989 ID:BN2+MdCL0
~ 映像 ~

男『……』

女『……』



男「お、俺だ! ほら見てろよ、これから尻をさわるからな!」

女「……」

裁判官「……」

検事「……」

弁護士「……」

37: 2015/09/09(水) 22:33:28.955 ID:BN2+MdCL0
男『……』

女『……』



男「ほら、いけっ! やれっ! 右手を出せっ! もしかしたら左手だったかも!」

女「……」

裁判官「ずっと腕を組んでいますね」

検事「……」

弁護士「……」

39: 2015/09/09(水) 22:36:25.060 ID:BN2+MdCL0
男『……』スタスタ

女『……』スタスタ



男「あれ!?」

女「……」

裁判官「結局、何もしないまま二人とも電車を降りましたね」

検事「……」

弁護士「……」

43: 2015/09/09(水) 22:39:18.148 ID:BN2+MdCL0
男「なんだこれは!?」

男「ちがうんだ! 俺はたしかにさわった! さわったんだ!」

裁判官「しかし、映像ではずっと腕を組んでいましたが……」

裁判官「尻をさわろうとする動作など、これっぽっちも行っていませんでした」

男「こんなものはCGだッ! 捏造だッ! イカサマだァァァ!」

45: 2015/09/09(水) 22:42:16.424 ID:BN2+MdCL0
女「だけど、それを証明することはできないわよね」

検事「うむ」

弁護士「今の映像で、我々の立場はますます有利になったねえ」

裁判官「これでまた一歩、あなたの無罪に近づいた、というわけですな」ニヤニヤ

男「く……くそっ! くそっ! くそぉぉぉぉぉっ!」

48: 2015/09/09(水) 22:45:19.243 ID:BN2+MdCL0
男「こうなったら!」ササッ

女「!」

男「もらった!」ナデナデ

女「……」

男「どうだ!? たった今! さわったぞ、尻に!」ナデナデ

女「……」

男「どうだぁぁぁぁぁ! これで現行犯! ハッハッハ、参ったか!」ナデナデ

49: 2015/09/09(水) 22:46:45.222
やりやがったww

50: 2015/09/09(水) 22:48:55.199 ID:BN2+MdCL0
裁判官「ちょうど目にゴミが入って、見てませんでした」ゴシゴシ

検事「消しゴムを落としてしまった……」ササッ

弁護士「立ちくらみが……」クラッ



男「なにィィィィィ!!?」

51: 2015/09/09(水) 22:51:22.551 ID:BN2+MdCL0
男「だったらァ!」ガシッ

男「これでどうだ!」モミモミ

女「……」

男「今度は胸だぁぁぁぁぁ! これは致命的ィィィィィ!」モミモミ

男「Dカップ……いや、Eカップはあるかな? ハーッハッハッハッハ!」モミモミ

女「……」

52: 2015/09/09(水) 22:54:17.222 ID:BN2+MdCL0
裁判官「合意の上ですか?」

女「はい、合意の上です」

裁判官「ならばよろしい」



男「なにィィィィィ!!?」

54: 2015/09/09(水) 22:57:38.100 ID:BN2+MdCL0
男「おいっ! いつアンタが合意した!?」

女「ついさっきです」

男「ウソつけ! してないだろ!」

女「しました」

男「合意してないっていわなきゃ、尻や胸以外もさわっちゃうぞ!」

女「どうぞ」

男「ちくしょォォォォォ!!!」

55: 2015/09/09(水) 22:57:57.573
わろた

56: 2015/09/09(水) 23:00:09.958 ID:BN2+MdCL0
男「傍聴席の皆さん!」

男「俺はやったんです! 信じて下さい!」



ブゥー! ブゥー! ブゥー! ブゥー! ブゥー!



男「!」

57: 2015/09/09(水) 23:01:16.563
静かに傍聴しろwww

58: 2015/09/09(水) 23:03:21.431 ID:BN2+MdCL0
「やってないんだろ!?」 「いい加減、潔白を認めろ!」 「見苦しいぞ、冤罪者!」

ブゥー! ブゥー! ブゥー!



男「なんでだよ……なんで誰も信じてくれないんだ! 俺はさわったのに!」



裁判官「静粛に! 静粛に!」カンカンッ

60: 2015/09/09(水) 23:05:57.807
それも合意の上か…

61: 2015/09/09(水) 23:06:35.297 ID:BN2+MdCL0
妻「あなた……」

少年「パパ……」



男「おおっ、愛する妻と一人息子よ!」

男「お前たちなら分かるよな!?」

男「なんの罪もない女性の尻と胸をさわった俺を許せないよなァ!?」

男「離婚したいよなァ! 親子の縁を切りたいよなァ!?」

65: 2015/09/09(水) 23:09:23.880 ID:BN2+MdCL0
妻「いえ……私はあなたのこと、信じてるから……」

妻「たとえ、不倫されても、家庭内暴力を振るわれても……信じてみせるわ」



男「疑えぇぇぇぇぇ!」

男「もっと疑うんだァァァァァ!!!」

67: 2015/09/09(水) 23:12:12.548 ID:BN2+MdCL0
少年「ボクもだよ!」

少年「もしパパが莫大な借金をこさえて氏んじゃっても、相続放棄なんかしないよ!」

少年「だってパパのこと……大好きだから!」



男「放棄しろォォォォォ!!!」

70: 2015/09/09(水) 23:14:42.623
愛されてるな

71: 2015/09/09(水) 23:15:43.708 ID:BN2+MdCL0
課長「やぁ、裁判はどうかね?」

男「課長! 来て下さったのですか!」

男「実はわたくし、痴漢の容疑で裁判にかけられておりまして……」

男「有罪になるかどうかは微妙なところですが、もうクビですよね!?」

男「裁判沙汰になった時点で、会社のイメージダウンに貢献してるんですから!」

73: 2015/09/09(水) 23:18:28.081 ID:BN2+MdCL0
課長「いや、クビにはならない」

課長「仮に君が有罪になろうと、無罪になろうと、クビになることはないのだよ」

課長「君のイスは残り続けるのだよ……永久にね」

男「なんですって!? なぜ!?」

課長「一日も早く、君が職場復帰することを祈っておるよ」

男「くっ!」

76: 2015/09/09(水) 23:23:25.808 ID:BN2+MdCL0
男「かくなる上は!」

男「傍聴席に、幼女発見!」ババッ

幼女「おじちゃん、なあに?」

男「ハグしてあげよう」ギュッ

幼女「きゃっ」

男「よっしゃ、事案発生!」

77: 2015/09/09(水) 23:26:17.716 ID:BN2+MdCL0
男「大の男がいたいけな幼女に抱きつく! これはもう事案でしょう!」

男「G・A・N! G・A・N! G・A・N! G・A・N!」

男「さぁ、皆さん! これでもう決定的です!」

男「この俺を罰して下さい!」

79: 2015/09/09(水) 23:29:21.298 ID:BN2+MdCL0
裁判官「……」

男「なんですか? 裁判官」

裁判官「もう……諦めるんだ」

男「!」

裁判官「いくらやっても無駄なんだ」

裁判官「帰りたまえ。君の愛する家族のもとに、君を待つ職場に……」

男「あ……あ……」

82: 2015/09/09(水) 23:32:37.572 ID:BN2+MdCL0
裁判官「判決! 被告人に無罪を言い渡す!」カンッ

検事「やったぁ!」

弁護士「勝訴だぁ!」

女「正当な判決ですね」

妻「おめでとう、あなた!」

少年「よかったね、パパ!」

幼女「わぁ~い」



男「……」

84: 2015/09/09(水) 23:35:28.273 ID:BN2+MdCL0
こうして、皆が喜びあう中、私一人だけうつむく形で裁判は終わった。



裁判終了後、私は職場に復帰し、愛する家庭に戻った。

そして、平凡ながら幸せな生活を送り続けている。不満は全くない。

しかし、それでも私は生涯言い続けるだろう。



男「それでも俺はやったんだ!」



――と。







おわり

87: 2015/09/09(水) 23:39:29.858

88: 2015/09/09(水) 23:40:07.952

狙いが読めない

89: 2015/09/09(水) 23:43:58.696
非常に皮肉が効いてて良い

引用元: 男「尻をさわりました」女「さわられてません」裁判官「やってませんな」