1: 2021/05/31(月) 22:00:19.771 ID:NXd/dy6p0
部下A「この件は強気な対応で……」

部下B「いやいや、そんな方法では相手を刺激してしまう……」

男「……」

男「あの……私の意見としては……」

部下A「あなたは黙ってて下さい」

部下B「ええ、そこで座ってて下さればいいんです」

男「そうだね……。すまない、黙ってるよ」

部下A「やはり、こうした方が……」

部下B「君の意見は性急すぎる……」

男「……」

3: 2021/05/31(月) 22:03:23.497 ID:NXd/dy6p0
男「ただいまー……」

妻「お帰りなさい」

男「晩ご飯は……」

妻「そこにあるでしょ。自分であっためて食べて」

男「ああ……ありがとう」

男「……」モグモグ…

6: 2021/05/31(月) 22:07:07.484 ID:NXd/dy6p0
男「おお、家にいたのか」

娘「……」

男「最近は……どうだ?」

娘「別にー、普通」

男「勉強の方は……」

娘「あ、電話。友達からだ」

娘「もしもしー、あ、アタシー、今? だいじょぶだいじょぶー! キャハハハッ!」

男「……」

7: 2021/05/31(月) 22:10:13.470 ID:NXd/dy6p0
息子「……」カチカチッ

男「またゲームやってるのか」

息子「……悪いかよ」

男「成績落ちてるって聞いたぞ。もっと勉強しないと……」

息子「うるせえな。後でやるよ!」

男「!」ビクッ

男「わ、分かった……ちゃんと後でやるんだぞ」

息子「ったく、邪魔すんじゃねってんだ」カチカチッ

息子「おっしゃ、レアアイテムゲットーッ!」

男「……」

8: 2021/05/31(月) 22:13:12.862 ID:NXd/dy6p0
男「ふぅ……今や我が家で気楽に話せるのはお前だけだ」

犬「……」

男「お手!」

犬「……」

男「お、て!」

犬「……」

男「お手っていってんだ!」

犬「ガウ!」

男「す、すまん!」

9: 2021/05/31(月) 22:14:41.462
ワロタ

10: 2021/05/31(月) 22:16:41.127 ID:NXd/dy6p0
男(たまには自分で買い物しよう。ジュースでも買うか……ここに並んで……)

客「……」スッ

男「!」

男「あ、あの……ここには私が最初並んでて……横から入るのは……」

客「あ?」ギロッ

男「あ、いや……お先にどうぞ」

客「ケッ!」

男「……」

11: 2021/05/31(月) 22:19:07.176 ID:NXd/dy6p0
男(やっと私の番だ)

男「すみません、これください」

店員「はい」

店員「お釣り」ポイッ チャリンッ

男「ちょっ……。君、投げるように渡すのは……」

店員「はい?」ジロッ

男「いえ、なんでもないです……」

12: 2021/05/31(月) 22:23:02.127 ID:NXd/dy6p0
男(私は誰に対しても、少し睨まれただけで何もいえなくなる)

男(いや、顔の見えないインターネットですら……)



『今の政治はほんと終わってるよな。俺がトップに立った方がマシだよ』

男『そんなことはない。素人が政治なんてできるもんじゃない』

『ハァ? なんなんだよてめえ! 素人ナメんな!』

男『なめてませんなめてません。すみませんでした』

『また論破しちまったぜ』



男(強い言葉を使われると、こんな風に委縮してしまう……)

13: 2021/05/31(月) 22:24:47.884
俺かな

14: 2021/05/31(月) 22:27:15.694 ID:NXd/dy6p0
男(このままじゃ、どうにかなってしまいそうだ……)スタスタ…

占い師「おやおや、そこのあなた。どこかで見た顔ですが……さては何かお悩みですね?」

男「いえ、悩みなんて……」

占い師「私には分かります。あなたが大きな悩みを抱えていると」

男「あの、ちょっと急いでるんで……」

占い師「安くしておきますから、一つ占わせて下さい」

男「じゃあ……ちょっとだけ」

男(断り切れなかった……)

15: 2021/05/31(月) 22:29:10.958 ID:NXd/dy6p0
占い師「ふむふむ、あなた……さては押しに弱いタイプですね?」

男「なぜ分かったんですか!?」

占い師「それは占い師の企業秘密というものです。さて、事情をお話し下さいますか?」

男「……そうなんです。職場でも家庭でもどこでも、私は押しに弱くて……」

男「これでも責任ある地位にいるんですが、いつもなにも言えず……」

占い師「心優しい方なのでしょうね」

男「ただ臆病なだけですよ」

16: 2021/05/31(月) 22:32:26.251 ID:NXd/dy6p0
占い師「しかし、自分の意見を言えない、意見が通らない人生ではストレスが溜まる一方でしょう」

男「おっしゃる通りです……」

男「どうすればいいんでしょう! 占い師さん、教えて下さい!」

占い師「簡単なことです」

占い師「押しに弱いというのは……ようするに、“他人から影響を受けやすい”ということです」

占い師「だからちょっと睨まれたり強く言われたりしただけで、すぐ自分を引っ込めてしまう」

占い師「逆にいえば、ちょっとの影響……たとえば暗示などで自分を変えられるということです」

男「おおっ!」

18: 2021/05/31(月) 22:35:19.749 ID:NXd/dy6p0
占い師「というわけで、さっそく暗示をかけてみましょう」

男「お願いします!」

占い師「あなたは……押せるようになる」

男「……」

占い師「あなたは押せる……あなたは押せる……あなたは押せる……」

男「……」

占い師「押して押して押して……押しまくれ……」

男「……」

占い師「押せッ!!!」

男「!」

19: 2021/05/31(月) 22:37:28.525 ID:NXd/dy6p0
占い師「いかがです?」

男「……」

男「今の私なら……押せるような気がしてきました」

占い師「それは結構です」

男「よーし、押すぞ……押すぞ……押すぞォォォォォ!」

21: 2021/05/31(月) 22:40:50.312 ID:NXd/dy6p0
男「ただいまーっ!」

妻「……」

男「おい、亭主が帰ってきたんだぞ! きちんと挨拶ぐらいしろ!」

妻「な、なによいきなり」

男「ところで晩ご飯はどうした?」

妻「そこにあるでしょ。勝手に温めて……」

男「こんなのレトルトじゃないか。ふざけるなッ!」

23: 2021/05/31(月) 22:42:32.753 ID:NXd/dy6p0
男「こっちは疲れて帰ってきてるんだ。ちゃんとしたご飯を用意しろ!」

妻「なんですって……」

男「……」ギロッ

妻「うぐ……」

妻「わ、分かったわよ……すぐ支度するわ」

男「……よろしい」

妻(急に押せ押せになって……どうしたのかしら)

25: 2021/05/31(月) 22:45:06.647 ID:NXd/dy6p0
娘「でさぁ、キャハハハ! マジでー? ダサすぎー!」

男「おいっ!」

娘「な、なによぉ、電話中に……」

男「いつもいつも電話ばかりするな! 家族ともっと会話しろ!」

娘「やだよ、めんどくさ……」

男「……」ギロッ

娘「ううっ……。ごめんなさい……」

26: 2021/05/31(月) 22:48:53.729 ID:NXd/dy6p0
息子「……」カチカチッ

男「ゲームばかりやってるんじゃない!」

息子「ちっ、うぜえな」

男「たまには勉強しろ!」

息子「うるせえ、ブン殴る――」

男「やってみろ」ギロッ

息子「あぐ……分かりました。勉強します……」

27: 2021/05/31(月) 22:51:10.475 ID:NXd/dy6p0
妻「ねえ、今日はどうしちゃったの? いつもと全然雰囲気違うじゃない」

男「私はね、生まれ変わったのさ」

男「“押せる男”にね」

妻「最初は面食らったけど、やっぱり今のあなた……ステキだわ」

男「だったらお前のことも押してやろうか」

男「こんな風に!」ガバッ

妻「ちょっと! もし三人目ができたら……!」

男「出来たら生めばいいさ! ハッハッハッハッハ……!」

28: 2021/05/31(月) 22:53:48.489 ID:NXd/dy6p0
男「じゃ、行ってくる!」シャキンッ

妻「行ってらっしゃい」

息子「オヤジ、急にどうしたんだ……?」

娘「ねー」

妻「元々あの地位まで上り詰めた人だったんだし、あのぐらいのポテンシャルは持ってる人だったのよ」

息子「そんなもんかねえ……」

29: 2021/05/31(月) 22:56:26.835 ID:NXd/dy6p0
部下A「もっと経済制裁を進めるべき……」

部下B「いやいや、穏便に……他国の目もある……」

部下A「悠長すぎる!」

部下B「そんなことはない!」

男(下らん会議だ……意見を述べる気にもならん)

男(私なら今議題になってる問題など、すぐにでも解決できる)

男(そう、“あれ”を押すことによって)

男(今の私なら押せる! 押せる! 押してみせる!)

男「失礼するよ」ガタッ

部下A「え!?」

部下B「会議中にどこへ!?」

30: 2021/05/31(月) 22:58:53.718 ID:NXd/dy6p0
男(今の私なら押せる――)

男(押せる、押せる、押せる、押せる、押せる、押せる、押せる、押せる、押せる、押せる)

男(押すッ! 押すッ! 押すッ! 押すッ! 押すッ! 押すッ! 押すッ! 押すッ! 押すッ! 押すッ!)

男「押すぞぉーっ!!!」





タタタタタッ!

31: 2021/05/31(月) 23:00:37.304 ID:NXd/dy6p0
部下A「まったく、会議中にどこ行ったんだ大統領は……」

部下B「核発射スイッチのある部屋に向かっていたという情報もあるぞ」

部下A「おいおい、あの人の権限ならば、独自の判断でスイッチを押せてしまうぞ」

部下B「なぁに心配いらないよ。あの人が押すわけないさ」

部下A「それもそうだな。この世にあれほど押しが弱い人もいないものな」

部下B「だから大統領にまで祭り上げられたところもあるほどだ」

部下A「ま、心配せず待っていよう。すぐ戻ってくるさ」







― END ―

32: 2021/05/31(月) 23:05:52.744

まさかの大統領

33: 2021/05/31(月) 23:48:48.188
占い師テ口リストだろこれ

引用元: 男「私は職場でも家庭でもどこでも、いつも押しに弱い……」