1: 2015/06/11(木) 13:24:47.38

世界は不思議で溢れている。

色んな国に色んな人。

不思議な国に不思議な人。







この物語りは

不思議な世界を旅する一人の盗賊のお話し。




https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1433996687

2: 2015/06/11(木) 13:27:04.45

門兵1「ご職業は?」

???「言わなきゃダメ?」

???「あんまり言いたくないんだけど……」

門兵1「国に入る際の決まりですので、お願いします」

???「えっと……盗賊、なんだけど」

門兵1「盗賊は……えー……あなが初めてですね」

???「(だろうな、普通は名乗らないだろうし)」



門兵1「では、あなたのナマエは『盗賊』になります」



3: 2015/06/11(木) 13:29:11.60

盗賊「……分かった」

門兵1「では、お通り下さい」

盗賊「え、いいのか?オレ、盗賊なのに」

門兵1「何か問題でも?」

盗賊「いや、ないけどさ……」

門兵1「では盗賊さん、お入り下さい」

ギギィ…

盗賊「……あんた、ナマエは?」

門兵1「門兵1ですが?」


盗賊「(ウワサ通り、職業がナマエになるのか)」



4: 2015/06/11(木) 13:30:46.09

盗賊「……ヘンな国だな」ボソ

門兵1「盗賊さん?」

盗賊「あ、いや。確かに盗賊だけどさ、本当に入っていいの?」

盗賊「あんた、怒られたりしないのか?」



門兵1「我が国に職業差別は存在しません。どうぞお入り下さい」



盗賊「ふーん、そりゃありがたいね」ザッ

ザッザッザッ

門兵1「……………」



ギギィ…バタンッ!



5: 2015/06/11(木) 13:32:55.39

ガヤガヤ…ザワザワ…


『兵士13、行くぞ』


『大工娘31、何食べる?』

『鍛冶屋息子8、これを運んでくれ』

『殺人犯2、まだ捕まんないのか、怖いな』



『こら、兵士41!!しゃきっとしろ!!」



6: 2015/06/11(木) 13:35:09.04

誰も彼もが職業で呼ばれてる。

誰も彼もが職業でナマエを呼んでる。

すれ違う奴みんな、番号まで振られてら……



つーか、服に番号書いてあるし。

うわっ、100番台とかもいんのかよ、呼びづらそうだな。


猫179「にゃあ」


……すげえ、猫にまで番号ある。

普通なら不満の一つでもありそうなもんだけどな。

て言うか、さっきからオレのこと見過ぎじゃねえか?


そんなに目立つ格好してねえんだけどな……


7: 2015/06/11(木) 13:36:56.07

盗賊「……こりゃ見られるわけだ」


いつの間にか、オレにも番台振られてら。

00か、門兵のおっさんも『盗賊は初めてです』とか言ってたしな。

どうやら、国に入ったら自動的に番号振られるみてえだ。



盗賊「なるほど、ナマエのない国か。さて、どんなもんだろうね」グゥ

盗賊「……(腹減ってるし、何か食うか)」スタスタ



8: 2015/06/11(木) 13:41:32.47

>>>>

看板娘25「いらっしゃいませ!!」ニコッ

盗賊「えーと、これと……あとこれ」

看板娘25「はい、少々お待ち下さい」ペコッ


盗賊「(番号は25、看板娘25か?呼びづれえだろうなぁ)」


看板娘25「お待たせしました」

盗賊「早いなあ。じゃあ、いただきます」

看板娘25「………」ジー


盗賊「ん?なに?」


9: 2015/06/11(木) 13:42:52.42

看板娘25「いえ、00なんて初めて見たので……」

盗賊「あぁ、そっか。やっぱ珍しいの?」

看板娘25「はい、とっても珍しいです」



盗賊「ふーん、あんまり気分良くねえけどなぁ」モグモグ



看板娘25「あ、あのっ、やっぱり外から来た方ですよね……」

盗賊「うん、そうだけど?」モグモグ

看板娘25「ナマエ、あるんですか?」



盗賊「そりゃあるさ」


10: 2015/06/11(木) 13:43:47.95

看板娘25「……羨ましいな」ポツリ

盗賊「変わった奴だな」

看板娘25「えっ?」



盗賊「いや、ナマエに疑問持ってる奴なんていないと思ってたからさ」



看板娘25「………」

盗賊「ごちそうさま。はい、これ」スッ

看板娘25「ちょうど、ですね。またお越し下さい」ペコッ



盗賊「おう、美味かったぜ。じゃあなー」



11: 2015/06/11(木) 13:45:01.31

看板娘25「……あ、あのっ!!」

盗賊「なんだ?」

看板娘25「ナマエ、訊いてもいいですか?」

盗賊「ナマエ?盗賊だけど?」

看板娘25「盗賊……あの、そうじゃなくて『あなた』のナマエです」



盗賊「あぁ、そっちか、オレは



定食屋34「おい、いつまで喋ってる。さっさと仕事に戻りなさい」

盗賊「親父さんが呼んでるぜ?オレはもう行くよ」



ザッザッザッ…



12: 2015/06/11(木) 13:50:40.73

看板娘25「あっ……」

定食屋34「まったく、よそ者に構うなと言ってるだろう?」

看板娘25「お父さん、ごめんなさい」シュン

定食屋34「気にするな、これからは気を付けなさい」

看板娘25「うん」

定食屋34「しかし……」

定食屋34「いずれ彼も、近い内に私達と同じになるのか。まだ若いのに、可哀想に……」



看板娘25「………」


13: 2015/06/11(木) 13:54:03.00

盗賊「……おかしいな」

オレはあの子に名乗ろうとしたのに、ナマエを言えなかった。



自分のナマエは分かるし、忘れちゃいない。

どういうわけか口に出せなかった。

歩きながら何度も口にしようとしたけど結果は同じ。

職業がナマエになる、か。

まさかナマエを盗まれるなんてなぁ……

取り敢えず、あのウワサは本当だったみてえだ。

まあ、誰かが何かをしてるんだろうけど……



此処にはいない人間に訊いてみるか。



14: 2015/06/11(木) 13:56:13.64

※※※※


大臣「王様、新たに入国しました」

王様「ほぉ、久方ぶりじゃ。で、今回は?」

大臣「盗賊です」

王様「なんじゃ盗っ人か。つまらん人間じゃのぉ」

大臣「しかし、今までの盗賊とは違うようですよ?」

王様「ふむ、申してみよ」



大臣「初日で奪名者に接触し、国の仕組みを暴こうとしているようです」


15: 2015/06/11(木) 13:59:55.45


王様「ほー、それは面白い。盗っ人にも頭の回る者はいたのか……」

王様「随分前に来た盗賊は呆気なかったからのぅ」

王様「出来れば名を失う前に、儂の所まで来て欲しいもんじゃ」



大臣「辿り着いた者は過去にも何名かいます」



大臣「あまり期待なされない方が宜しいのでは?」

王様「まあ、その時はナマエコレクションが増えるだけじゃからな」

大臣「……王様」

王様「大臣、儂は富も地位も生まれた時から持っておった」



王様「大した努力をせずとも欲しい物は手に入った」


16: 2015/06/11(木) 14:01:55.65

王様「そこで集めだしたのがナマエ、他人の人生じゃ……ふふっ…」

王様「人の名を奪うというのは、中々に楽しい」

大臣「………」






王様「その盗っ人のナマエは、なんじゃろうなぁ」ニタァ



20: 2015/06/11(木) 17:33:47.04

※※※※

盗賊「此処で間違いねえな。つーか陰気くせえ場所だな」

薄暗がりでジメジメしてらぁ。

まさか国の一画にこんな場所があるとはな……



奪名者

文字通り、名を奪われ居場所すら亡くした連中。

そいつ等を隔離してんのがこの場所だ。

ナマエのある奴は絶対に近付かない、国公認のゴミ箱。


21: 2015/06/11(木) 17:34:59.03

奪名者「……新入りか」ヌッ

盗賊「びっくりしたぁ!!いきなり出てくんなよ!!」



奪名者「00……お主、まだ名があるな?」

奪名者「ナマエ持ちが何故こんなとこに来た」

盗賊「この国の色々を知りたくて来たのさ」

盗賊「爺さん、何でナマエを盗られたか教えてくれねえか?」




奪名者「帰れ」クルッ



22: 2015/06/11(木) 17:36:30.98

盗賊「ち、ちょっと待った!!」

盗賊「オレのナマエも盗られそうなんだよ、何でもいいから教えてくれ」

奪名者「そうか、お主は余所者か……」

盗賊「分かんの?」

奪名者「奴は、王は余所者のナマエを優先的に奪うからな」

盗賊「王様ね……ふーん、そりゃまた何で?」

奪名者「人生に飽いているのだ」




盗賊「人生に飽きた?こんなにおもしれえのに?」



23: 2015/06/11(木) 17:37:53.84

奪名者「!!」

奪名者「……お主は、何者だ?」

奪名者「そんな目をした者は見たことがない」



盗賊「盗賊00さ、もうナマエは言えねえよ」



奪名者「そうか、もう其処まできているのか……」

盗賊「……なあ、爺さん」

奪名者「何だ」



盗賊「ナマエ盗られた奴は皆此処にいんのか?」



24: 2015/06/11(木) 17:39:24.63

奪名者「……そうだ」

盗賊「にしちゃあ少ねえけど?」

奪名者「…………」

盗賊「頃しだろ?」

奪名者「!!」

盗賊「やっぱりな、『殺人犯2』なんてナマエ、おかしいと思ってたんだよ」




奪名者「奴は、ナマエ欲しさに罪を犯す愚か物だ」


25: 2015/06/11(木) 17:42:11.72

奪名者「しかしナマエを失い、己が何者かさえ分からなくなる」

奪名者「そんな言い知れぬ恐怖、怯える日々から逃げ出したい」

奪名者「その気持ちは分からんでもないがな……」



盗賊「爺さん、あんたこそ何者だ?」



盗賊「そこらで寝転がってる奴等と違って、意識がしっかりしてる」

奪名者「このゴミ箱の中で正気を保っていられるのは苦痛でしかない」

奪名者「これは儂への罰」

盗賊「罰?」



奪名者「ああ、友を狂わせた……罰だ」



26: 2015/06/11(木) 17:42:56.68





盗賊「なあ、訊かせてくれねえか?爺さんの、人生をさ」






奪名者「!!」

奪名者「長くなるが……構わんか?」

盗賊「おう、何時間でも付き合ってやるよ」ニッ

奪名者「ふっ、ますます妙な奴だ」


27: 2015/06/11(木) 17:44:18.57





盗賊「なあ、聞かせてくれねえか?爺さんの、人生をさ」








奪名者「!!」

奪名者「長くなるが……構わんか?」

盗賊「おう、何時間でも付き合ってやるよ」ニッ

奪名者「ふっ、ますます妙な奴だ」


28: 2015/06/11(木) 17:45:58.19

※※※※※

殺人犯2「俺は兵士157だった、兵士157だったんだ」ユラァ

兵士41「ヒッ、や、止めてくれ!!」

殺人犯2「なあ答えてくれよ?お前も兵士なんだろ?」

兵士41「最近兵士になったばかりなんだ!!知らないよ!!」



殺人犯2「………なあ、俺を知らないか?」ズイッ



兵士41「くっ、来るなっ!!」

殺人犯2「お前、兵士だよな?」ジャキッ

兵士41「頼む、お願いだから、止めてくれ」


29: 2015/06/11(木) 17:46:57.03

殺人犯2「ああ、分かった、分かったよ」スッ

兵士41「……(た、助かった)」ホッ



殺人犯2「……お前のナマエを貰えばいいんだ……」



兵士41「え?」

グサッ…

兵士41「…お母……さ…ん…」ドサッ

殺人犯2「そう、俺は兵士。兵士だった……」ブツブツ





???「君、そこで何を……!!」


30: 2015/06/11(木) 17:49:12.38

殺人犯2「誰だぁ?」グルッ

兵士41「た…す………」

???「!!(まだ息がある、油断してる今なら……)」ダッ

殺人犯2「俺は兵士157だ、誰か、ナマエを呼んで

ドンッ

殺人犯2「がはっ…ナ…マエ…を…」ドサッ



兵士41「…げふっ…あ、あなたは…」

???「止すんだ、無理に喋るんじゃあない」

兵士41「………」コクン



???「よし、どうだ?何とか立てるかい?」


31: 2015/06/11(木) 17:52:50.49

兵士41「……」フルフル

???「なら私に掴まるんだ。ゆっくりでいい、立ちなさい」

兵士41「…あり…がとう…ございます」

???「礼はいい、早く行こう」ガシッ



グサッ……



???「ぐっ…!!」

殺人犯2「ちょうどいい、お前のナマエも、よこせ」

ザクッ…ザクッ…ザクッ……

殺人犯2「ナマエがあれば、いい。あんな場所は、イヤだ」

殺人犯2「ナマエは殺人犯2?兵士157?俺は……私は僕は?俺は…」ザッ


ザッザッザッ…





???「……娘……す……まな…い…」




33: 2015/06/11(木) 18:49:18.48

※※※※

盗賊「…あーあ…ふわぁ…」ノビー

奪名者「起きたか」

盗賊「おぉ…爺さんか、おはよう。昨日はありがとな」

奪名者「礼には及ばんよ……」

奪名者「しかし、良くこんな場所で眠れたな」

盗賊「爺さんの話しがいい子守歌になったのさ」ウン

奪名者「お主、寝ていたのか……」





盗賊「安心しろ、友達の目はオレが覚ましてやる」


34: 2015/06/11(木) 18:51:39.91

奪名者「!!」

奪名者「とぼけた顔して、よく分からん奴だ」

盗賊「へへっ、さてと……腹減ったしメシ食いに行ってくる」



盗賊「あ、そうだ、爺さんも一緒に来るか?」



奪名者「よいのか?」

盗賊「教えてくれた礼さ、気にすんな」

奪名者「……有り難い」


35: 2015/06/11(木) 18:53:35.66

盗賊「うっし、じゃあ行こうぜ」

奪名者「………」

盗賊「どうした?」

奪名者「いや……外は久しぶりでな」

奪名者「長らく此処から出たことがないのだ」

盗賊「……そっか…まあ、美味いもん食えば忘れるさ」

奪名者「お主は……」

盗賊「ん?」






奪名者「……お主は何故笑っていられる?」



36: 2015/06/11(木) 18:55:11.27

盗賊「はぁ?」

奪名者「名を失うことが恐くはないのか?」

盗賊「恐くない、わけじゃねえよ?」

盗賊「ただ……」

奪名者「?」

盗賊「ただ、それ以上に楽しいのさ」




盗賊「この状況も爺さんとの会話も、全部ひっくるめてな」ニッ


37: 2015/06/11(木) 18:56:31.18

奪名者「……お主なら、本当に変えられるかもしれんな」

盗賊「いや、変えやしない。盗むのさ」

奪名者「ぬ、盗む?」

盗賊「ああ、だってオレは盗賊だぜ?」

奪名者「し、しかし何を盗むというのだ」

奪名者「お主が期待するような金銀財宝などないぞ?」

盗賊「ある!!」

奪名者「だから、『ない』と言っているだろうが!!」

盗賊「へっ、あるじゃねえか」








        ナマエ
盗賊「国民全員の宝石がさ」



40: 2015/06/11(木) 20:30:19.30

>>>>

『二人共、滅多刺しだってな』

『殺人犯2か、外出は控えよう』

『しかし兵士まで殺されるなんて……』

『奴は元兵士って話しだ』

『奪名者……』

『ゴミ箱なんて作らず、殺せばいいんだ』

『だが、あの娘さんも……』






『奪名者になるだろうな、可哀想に』



41: 2015/06/11(木) 20:32:03.41

『娘さん、まだ若いのにねえ』

『兵士41、まだ入ったばかりなのに……』

『母親想いの良い子だったよ』

『故人1309か、まあ、番号貰えるだけマシだな』

『ああ、奪名者にだけはなりたくないね』







盗賊「……爺さん、ありゃあ何だ」

奪名者「おそらく、奴による殺人だ」


42: 2015/06/11(木) 20:34:19.33

盗賊「んなことは分かってるさ!!」

盗賊「定食屋の娘は、看板娘25はどこへ連れてかれる!?」

奪名者「それは……」

盗賊「……爺さん?」

奪名者「定食屋がなくなれば『看板娘』もなくなる」

奪名者「つまりは、その……彼女は己のナマエを失ったことになる」

盗賊「じゃあ、あの娘は…」






奪名者「彼女は、ゴミ箱行きだ……」


43: 2015/06/11(木) 20:39:28.66

盗賊「メシ食いに来て良かったぜ、くそったれが!!」ダッ

奪名者「待て、早まるな!!」

ピタッ…

盗賊「なあ爺さん、さっきも言ったけどオレは盗賊だ」



盗賊「オレはオレの盗みたいもんを盗む。それが何でもあれ盗むと決めたら盗む」



奪名者「!!」

盗賊「でもな……氏んだ奴からは何も盗めねえ」

盗賊「だから、どいつもこいつも生きてもらわなくちゃ困るのさ!!」ダッ



奪名者「まさか彼は……」


44: 2015/06/11(木) 20:41:39.04

>>>>

隊長7「行くぞ」

娘「……はい」

盗賊「お嬢さん、大丈夫かい?」

娘「……はい……えっ!?」

隊長7「なっ!?キサマ、何者だ!!」ジャキッ

盗賊「ナマエは盗賊00、この娘を盗みに来たのさ」グイッ

娘「きゃっ!!」




隊長7「……ふざけるなよ、フンッ!!」


45: 2015/06/11(木) 20:42:59.11

ガギンッ…

隊長7「(私の剣を短剣で受けた!?この男、何者だ?)」

盗賊「てめーこそ、ふざけんな」

隊長7「!!」ビクッ

盗賊「この娘が怪我したらどうすんだ!!」

娘「(盗む……ううん、助けに来てくれたの?)

娘「(ウチで一度ご飯食べただけ、ナマエも知らないのに?)」





隊長7「奴は手練れだ!!全員で囲んで捕らえろ!!」




46: 2015/06/11(木) 20:43:59.08

娘「!!」ビクッ

盗賊「安心しな」

娘「で、でも兵士がたくさんいます……」



盗賊「お前はオレの物だ、絶対に傷つけさせやしない」




娘「………」

盗賊「返事は?」



娘「はっ、はい!!」



47: 2015/06/11(木) 20:46:40.93

隊長7「待て……逃がしはせんぞ」ジャキッ

盗賊「あんた女だろ?」

隊長7「だったら何だ……」



盗賊「あんまり怖い顔すんな、綺麗なのに勿体無いぜ?」



隊長7「ッ、なめるな!!」ダッ

盗賊「よいしょっ……と」スッ

隊長7「なにっ…」グラッ

ガシッ…


盗賊「大丈夫かい?」ニコッ



48: 2015/06/11(木) 20:48:06.02

隊長7「黙れ!!くっ、離せ!!」ジダバタ

盗賊「さあ皆様方、道を開けたまえ」


ゾロゾロ……


隊長7「ぐっ、はな、せっ…」グイッ

盗賊「何もしやしない、だから暴れんな」

隊長「くっ……(線は細いのになんて力だ。びくともしない!!)」

盗賊「爺さん、まだいるんだろ!!早くこっちに来いよ!!」




盗賊「早く来ないと行っちまうぜ!?」



49: 2015/06/11(木) 20:49:18.95




『ちょっと、ちょっと退いてくれ!!』

ダダダッ…




奪名者「はぁ、はぁ、年寄りを、走らせ、るな」

盗賊「へへっ、わりぃわりぃ。爺さんは背中に掴まれ」

奪名者「あ、ああ分かった」

盗賊「よっしゃ、じゃあ行くか」

娘「え?行くって何処へですか?」

盗賊「いいからいいから」



盗賊「絶対にオレから離れるな、いいな?」



50: 2015/06/11(木) 20:50:34.61

娘「……はいっ」ギュッ

盗賊「あんたもだ、隊長さん」

隊長7「何故私

盗賊「さーて行くぜ!!」バシュッ

奪名者「ロープ、いやワイヤーか!?」

隊長7「ちょっと待て、私は高いのが苦手



盗賊「しっかり掴まってろ!!」

ギシッ…ギュラララ…



隊長7「苦手なんだああああ!!」ガシッ

娘「うわぁ、もう人が小さく見える……」



奪名者「……(抜け目なさ、視野の広さ、手際の良さ、やはり彼は……)」


55: 2015/06/12(金) 00:18:01.40

※※※※

大臣「王様、例の盗賊ですが……」

王様「なんじゃ?何をした?申してみよ」

大臣「隊長7と共に娘を連れ去ったようです」

王様「ほほう、中々面白い奴じゃな」

大臣「ですが王様、例の奪名者も共にいるようです」




王様「……そうか、奴も一緒か……」



56: 2015/06/12(金) 00:18:53.64

大臣「どうなさいます?」

王様「そうじゃなぁ……」

王様「お、そうじゃ、そうじゃった!!」

大臣「?」

王様「殺人犯2に名を与えよう」




大臣「彼は一度ナマエを剥奪された身、精神に異常があります」



57: 2015/06/12(金) 00:19:39.40

王様「それが良いのではないか、分かってないのぉ」

大臣「申し訳ありません、名は何としますか?」

王様「確か昔……」ペラッ



王様「これじゃ、快楽殺人00。こやつも中々面白い奴じゃったなぁ」



大臣「……それは、流石に危険なのでは?」

王様「今の奴には似合いの名だろう?」

大臣「は、はぁ……」





王様「では、新しい人生を歩ませてやろうではないか!!」


58: 2015/06/12(金) 00:21:50.47

※※※※※

隊長7「ウーン…落…ち…ウーン…」



奪名者「ゴミ箱へ逃げるとは、考えたな」

盗賊「今夜一晩過ぎれば見つかるさ、思ったより早く片付けねえと」

奪名者「……そうか、そうじゃな」

盗賊「しっかし、三人も担ぐのは流石に疲れたぜ」

娘「あの、ごめんなさい」






盗賊「気にすんな。親父さん、残念だったな……」



59: 2015/06/12(金) 00:23:59.12

娘「それが……」グスッ

盗賊「おい、どうした?」

奪名者「……おそらく、父の名を思い出せないのだろう」

盗賊「!!」

奪名者「名を奪われたのなら本人が消える」



奪名者「しかし氏して名を奪われた場合、記憶から消える」



盗賊「氏んでから奪われた?」

奪名者「いや、名が変わったと言うべきか……」




奪名者「定食屋は消え、故人1309へと変わったのだ」



60: 2015/06/12(金) 00:28:22.03

奪名者「父の記憶が故人1039へと変われば……」

盗賊「記憶からも消えちまうのか?何でそんなことを?」

奪名者「……悲しまない為、だろうな」

盗賊「つくづく馬鹿な野郎だな、お友達は……」

娘「盗賊…さ…ん」グスッ



娘「お父さんは消えたんですか?」

娘「お父さんは、私の中から消えたんですか?」

娘「思い出も声も、全部全部忘れちゃうんですか!?」





奪名者「……っ」



61: 2015/06/12(金) 00:31:03.09

娘「お父さんは、私のお父さんはっ…」グスッ

盗賊「消えやしないさ」

娘「…えっ、でも記憶から消えるって……」



盗賊「お前の親父さんは消えない、オレが消させない」

盗賊「オレが必ず取り戻す、だから泣くな」



娘「!!……はいっ…」グシグシ

隊長7「……随分、簡単に言うのだな」ムクッ



盗賊「あ、起きたの?早速だけど、もう帰っていいぜ?」


62: 2015/06/12(金) 00:32:52.49

隊長7「なっ、キサマ、どこまで馬鹿にすれば……」

盗賊「あ、そうだ忘れてた」

隊長7「……何をだ」

盗賊「殺人犯2って知ってるよな?」

隊長7「!!」

娘「お父さんを頃した、犯人……」

奪名者「(なる程、だから彼女も連れ去ったのか)」




隊長7「……知っている。私の部下だった男だ」



63: 2015/06/12(金) 00:34:06.59

隊長7「礼儀正しく、真面目な男だった」

隊長7「しかし、突然王に名を奪われたのだ……」

娘「そんなっ…」



盗賊「で、今はナマエを求める殺人犯か、救われねえな」



隊長7「……っ、何が知りたいんだ」

盗賊「ナマエを知りたい、口には出せなくても『書ける』だろ?」

奪名者「…………」




盗賊「この石で地面に書いてくれ」スッ


64: 2015/06/12(金) 00:35:15.98

隊長7「……分かった」

ガリッガリッ…

盗賊「そいつが殺人犯2のナマエか……」

隊長7「彼を、どうするつもりだ?」

盗賊「逝かせてやるのさ」



盗賊「殺人犯2としてじゃなく、本人のナマエでな」



奪名者「……殺人犯とは言え、元は彼もナマエを奪われた者」

奪名者「彼も人生を、人格を狂わされた男……」




娘「!!」


65: 2015/06/12(金) 00:36:59.53

娘「……私は…」

盗賊「ん?」

娘「私は誰を恨んで、誰を憎めばいいんですか……」

娘「この気持ちを、どこにぶつけたらいいんですか?」

隊長7「…っ」

盗賊「辛いか?」

娘「はい……辛くて、悔しくて、悲しいです」




盗賊「じゃあ、それをオレに寄越せ」



66: 2015/06/12(金) 00:37:58.94

娘「そんなの、無理です……」

盗賊「……いいか、それはお前のもんだ」

盗賊「お前だけが持つ物なんだ、誰にも手を出せねえ」

娘「………」



盗賊「だからそれだけは、お前が何とかしなくちゃならねえ」

盗賊「誰も恨むなとは言わねえ」

盗賊「だけどな、絶対に自分を壊すような真似はするな」



娘「………」コクン


67: 2015/06/12(金) 00:40:35.56

盗賊「……気の利いたこと言えなくて、悪いな」

娘「そんな、謝らないで下さい……あのっ」

盗賊「どうした?」

娘「私は盗賊さんが何をするか知りません」

娘「けど、やるべきことが全部終わったら……」

盗賊「?」

娘「全部終わったら、ナマエを教えて下さい」ニコッ




盗賊「ははっ、いいぜ……!?」ピクッ



68: 2015/06/12(金) 00:41:40.47

隊長7「どうした?」

盗賊「……隊長さん、娘と爺さんを連れて逃げろ」

奪名者「兵士か?」

盗賊「いや、違う。こいつは……」

ザッザッザッ…



快楽殺人「みーつけた」ニタァ



隊長7「兵士……157…」

盗賊「っ、ぼさっとしてねえでさっさと逃げろ!!」



隊長7「しかし!!」



69: 2015/06/12(金) 00:43:00.34

盗賊「あんたに奴は斬れねえだろう!?」

盗賊「いいからさっさと行け!!」

隊長7「っ!!」ギリッ

奪名者「この辺りの道は儂の方が詳しい、こっちだ」

隊長7「……頼む」

娘「盗賊さん!!」ダッ

隊長7「駄目だ行くな、一緒に来るんだ!!」グイッ




娘「盗賊さんも、盗賊さんも一緒に!!」



70: 2015/06/12(金) 00:45:37.25

盗賊「心配すんな、すぐ会えるさ」ニコッ

娘「盗賊さんっ!!」

隊長7「行くぞ!!」

奪名者「娘さん、急がんと彼の足手まといになるだけだ!!」

娘「っ……」

タタタッ…


快楽殺人「オウサマに新しいナマエもらった、これで安心安心」

盗賊「00、何の00だい?」

快楽殺人「快楽、殺人?」ニコッ





盗賊「……本当に、悪趣味な奴だな」


71: 2015/06/12(金) 00:46:32.83

快楽殺人「頃す職業、それがナマエ……」ダッ

盗賊「へっ、安心しな……」ダッ

ガギィッ…

盗賊「オレが逝かせてやる。そんで……」

快楽殺人「?」

盗賊「お前の痛み苦しみ、全部オレが盗んでやるよ」ググッ

ギャリッ…

快楽殺人「はじ、はじ弾かれた?」




盗賊「行くぜ……」ダッ



72: 2015/06/12(金) 00:49:02.97

快楽殺人「ぬがぁっ!!」ブンッ

ザシュッ…

盗賊「ちっ、はええな……」ブシュ

ボタボタッ…

快楽殺人「ひ、やはり血は良い、良い良い」ペロッ

盗賊「おいおい、そりゃあ『オレの物』だぜ?」

快楽殺人「!?」



ズズズ…

盗賊「盗賊足るもの、自分の躯くらい自由に出来ねえとな」



快楽殺人「ヒッ…はッ、エヒッ?」

盗賊「赤の剣、綺麗だろ?」ザッ

快楽殺人「…ヒッ、お前、お前の、俺のナマエは…?」ガクガク




ザッザッザッ……ピタッ…


73: 2015/06/12(金) 00:53:19.53



盗賊「お前のナマエは『ライモンド』だ」



快楽殺人「ソう……そう、そうだ、俺はライモンド……兵士だった男」

快楽殺人「……名を奪われて、それから、それからそれからそれから……殺、した?」

盗賊「……ああそうだ、お前が頃した…」

ライモンド「私はなんて、なんてことを、済まない済まない、済まないっ……」ガクン

ライモンド「頼む、私のままで、終わらせてくれ、頼む……」

盗賊「……ああ、任せな」

ザンッ…

ライモンド「あ…り……が…と…う」ズシャ

盗賊「礼は隊長さんに伝えとく」







盗賊「向こうでゆっくり休め。じゃあな、ライモンド……」


79: 2015/06/12(金) 08:34:15.90

>>>>

ザァァァァ…

盗賊「降って来やがった……」

盗賊「……まだゴミ箱の中にいるはずだ、急がねえと」ザッ

タタタッ…










隊長7「遅かったな……」

盗賊「……立てよ、座ってんじゃねえ」

隊長7「……済まんな、起きれそうにないんだ」


80: 2015/06/12(金) 08:36:00.48

盗賊「………」トスン

隊長7「……彼は、彼として逝けたか?」

盗賊「ああ、ライモンドは逝ったよ」

隊長7「……そうか、なら良いんだ」



盗賊「隊長さん、あんた、奴のこと好きだったんだろ?」

隊長7「分かるのか……意外に鋭いんだな」







盗賊「ナマエ書いてる時の顔、可愛かったからな」


81: 2015/06/12(金) 08:37:49.07

隊長7「ふっ…からかうな」

盗賊「からかっちゃいねえさ……」

盗賊「本当に好きだったんだな、奴のこと…」

隊長7「ああ、好きだったさ……」

隊長7「だがな、ナマエを呼べないんだ……」

盗賊「………」

隊長7「こんな、こんな時にさえ…」






隊長7「愛した男の名を呼んで泣くことすら出来ないんだ……」



82: 2015/06/12(金) 08:39:33.78

盗賊「なあ、隊長さん」

隊長7「?」

盗賊「自分のナマエ、まだ言えるかい?」



隊長7「ミレイアだ……確か、そんな名だった……」



盗賊「ミレイア、あんたはいい女だ」

ミレイア「?」

盗賊「娘、元・看板娘25の前だから、あんた堪えてたよな……」

盗賊「娘の前だから、擁護しなかった」


83: 2015/06/12(金) 08:40:39.33

ミレイア「………」

盗賊「それに、ナマエを奪われたライモンドを哀れんじゃいなかった」

盗賊「奴だって、同情されるなんてまっぴらだったはずさ」

ミレイア「……ああ、彼はそうだろうな…」

盗賊「ミレイア」

ミレイア「……何だ?」







盗賊「……きっと、ライモンドもあんたを愛してたよ」



84: 2015/06/12(金) 08:41:51.88

ミレイア「何故そんなことが言える?」

盗賊「簡単さ、俺が奴なら惚れてた」

ミレイア「ふふっ、そうか……」

盗賊「ああ、きっとそうさ……」

ミレイア「……もう行け……私のことは、いい……」

盗賊「………」






ミレイア「二人は、城へ……連れて行かれた」


85: 2015/06/12(金) 08:44:31.38

盗賊「……ああ、分かってる」

ミレイア「……守れなくて…済まない…な…」

盗賊「……謝んな、仕方ねえさ」

ミレイア「……盗賊」

盗賊「……何だ?」



ミレイア「彼のこと、あり…が……とう」



盗賊「……礼はいいよ」

ミレイア「………」

盗賊「……起きろよ」

ミレイア「………」




盗賊「……そんな満足した顔で、笑顔で氏ぬなよ」



86: 2015/06/12(金) 08:48:22.66

ザァァァァ…

ミレイア「…………」

盗賊「氏んじまったら終わりなんだぜ?」

ミレイア「…………」

盗賊「……なあ…」

ミレイア「………」

盗賊「……氏んでんじゃねえよ」

ミレイア「…………」

盗賊「…………」スクッ



ザァァァァ……









盗賊「…………」ザッ

ザッザッザッ…


89: 2015/06/13(土) 14:16:05.65

>>>>

王様「久し振りだな」

王様「こうして話すのは、いつ以来だ?」

奪名者「……さて、いつだったかな」



王様「……儂の唯一の友だった男が、時を経て儂の前にいる」



王様「まあ、椅子に縛られた状態で、だがな」

奪名者「…………」

王様「例えようのない、不思議な気分だ」


90: 2015/06/13(土) 14:17:34.89

奪名者「……満足か?」

王様「いやいや、満足などせんよ」

王様「様々なナマエを奪い、人生を垣間見ても尚、満たされない」

奪名者「……もう止せ」

王様「何?」



奪名者「ナマエ……人生を奪い、民を狂わせるのは止せ」



奪名者「そう言っているのだ」

王様「あの頃ならいざ知らず、今は名無し、奪名者……」


91: 2015/06/13(土) 14:18:11.69

王様「そんなお前が、儂に何を言える?」

奪名者「………」

王様「現に儂のナマエを呼ぶことすら出来ずにいるではないか」

奪名者「………」

王様「ふん、己のナマエを失った男が儂に何を説くというのだ?」

奪名者「勘違いするな、儂はお前に何かを説く気などない」





奪名者「ただただ、己の過ちを後悔しているだけだ」


92: 2015/06/13(土) 14:19:16.70

王様「過ち、過ちだと?」

王様「奪名者の分際で、何をおかしなことを……」

奪名者「お前には分からん、検討も付かんことだろう」









奪名者「そう、全てを忘れた……お前には……」


93: 2015/06/13(土) 14:24:27.69

>>>>

まだ王様が王様になる前

まだ皆にナマエがあった頃のお話しです。

王様には、とっても仲の良いお友達がいました。



身分も何もかもが違いましたが、特別で大事なお友達です。



二人は人の目を盗んで、隠れて遊んでいました。

王様はお友達と一緒にいると、王様であることを忘れられました。

お友達は王様と一緒にいると、貧しさを忘れることが出来ました。



密かな友情は、大きくなってからも続いていました。


94: 2015/06/13(土) 14:26:07.63

しかし王様のお父さんが倒れ

王様が王様になってから、会う回数は段々と減っていきました。

若くして王様なった為に、とても忙しかったのです。

お友達も、自分の生活だけで手一杯でした。



いつしか王様は、『王様』としか呼ばれなくなりました……



お友達はナマエで呼んでくれたのに……

城にいる誰もが……

いや、この国の誰も彼もが……









王様をナマエで呼ぶことはありませんでした。



95: 2015/06/13(土) 14:31:43.41

自分にもナマエある。

王様ではなく、自分だけのナマエがある。

王様はそれが寂しくて、それが苦しくて……

何より心が痛くて痛くて……

けれど王様は王様を続けました。

ナマエのない王様であり続けました。










しかし一日が過ぎ、また一日が過ぎていく

その中で、王様の心には少しずつ傷が付いていきました。


96: 2015/06/13(土) 14:34:08.30

時が経ち、王様が王様に慣れてきた頃

不思議な格好をしたお爺さんが、お城にやってきました。

そのお爺さんは、王様に不思議な本を見せました。





『その本を使えばナマエを取り換えられる』

『そうすれば、他人の生き方を体験出来る』





お爺さんはそう言いました。

王様はその本に惹かれて、お爺さんから不思議な本を貰いました。


97: 2015/06/13(土) 14:37:18.48

王様は王様の暮らしに

ナマエを呼ばれない毎日にうんざりしていたのです。



それからすぐ、王様はお友達を呼びました。

王様はお友達に本のことを説明して

一日だけナマエを入れ代えて欲しいとお願いしました。





貧しくとも、王様はお友達の生き方が羨ましかったからです。



お友達は王様の願いを快く受け入れました。



お友達も王様の生き方、裕福な暮らしが羨ましかったからです。



98: 2015/06/13(土) 14:49:23.29

二人は何度かナマエを入れ換えました。



ですがある日を境に

二人のナマエが入れ換わることは二度となくなりました。

それは、お友達が王様のナマエを奪ってしまったからです。




貧しい暮らしは嫌だ……

そうだ、だったらナマエを奪えば良いんじゃないか?

お友達は、そう考えてしまったのです。








きっと、お友達も王様と同じ……

長い間会っていなかったお友達の心も、

貧しさの中で、少しずつ少しずつ、傷付いていたのでしょう……


99: 2015/06/13(土) 15:06:59.02

こうして…

王様だった王様は

ナマエを失い、居場所も失ってしまったのでした……



ザァァァァ

盗賊「……」ザッ

兵士82「止まれ、こんな夜更け…お前は!!」

盗賊「……俺は盗賊00、『宝石』盗みに来たぜ」

兵士82「城には入れるな、兵士5、隊長達を呼んでこい!!」

兵士5「了解!!」ダッ

盗賊「………」

ザァァァァ…



『儂は、愚か者だ』

『友の人生を狂わせた、大馬鹿者だ……』



ザァァァァ…



『済まんな、つまらん話しを聞かせてしまって……』



ザァァァァ…



盗賊「……んなことねえよ」

盗賊「爺さん……娘……待ってな。今行くぜ!!」ダッ


103: 2015/06/13(土) 20:30:10.51

>>>>

娘「………」

兵士32「奪名間近の娘の見張りに回された時は腹がだったけど……」

娘「………」グタリ

兵士32「っ、いいオンナだ。カラダも顔も、僕の好みだ」ゴクッ

兵士32「僕のような男は相手にされないだろう……『普通』なら」

兵士32「……けど今なら、今ならこのオンナを好きに出来る」ニヤ






娘「…んうっ……えっ…?」



104: 2015/06/13(土) 20:31:45.30

兵士32「ハァ、ハァ…」ズイッ

娘「きゃっ!!」

ドンッ…

兵士32「いたいなぁ、足も縛れば良かった……」ジロ

娘「ひっ…」

兵士32「暴れないでよ、別に傷付けるつもりはないんだ」ニコッ

娘「!!」ゾクッ





兵士32「黙っていれば、すぐに、終わるよ」スッ


105: 2015/06/13(土) 20:36:52.07

娘「やめてくださいっ!!」

兵士32「動かないで?優しくするから、ね?」

娘「いやっ、やめて、来ないで!!」



兵士32「あぁ、そんな顔も可愛いなんて……」ガシッ



娘「やめて、お願い……」

兵士32「……ふ、ふふっ…」ゾクゾクッ

ビリッ…ビリビリッ…



娘「……っ、やめて…やめてください」グスッ


106: 2015/06/13(土) 20:37:55.73

兵士32「大丈夫、安心してよ」

娘「………」ガクガク

兵士32「結婚すれば兵士の嫁としてナマエが貰えるんだよ?」

兵士32「僕が、君の旦那さんになってあげる」

ギュッ…

娘「………」

兵士32「そうすれば、奪名者にならずに済むんだよ?」

娘「…い…で……」





兵士32「え、何だい?」


107: 2015/06/13(土) 20:46:55.66

娘「馬鹿にしないで!!」

兵士32「!!」

娘「ナマエの為に、それだけの為に……」

娘「あなたのような人に体を許すなんて出来るわけない!!」

兵士32「へえ、ゴミ箱で自我を失った奴等に犯される方がいいんだ?」

娘「!!」ビクッ




『お前はオレの物だ、絶対に傷付けさせやしない』





娘「……私は……奪名者になるのなんて怖くない!!」

娘「怖いのは、ナマエの為に私を捨てること!!」


108: 2015/06/13(土) 21:05:19.17

兵士32「へえ、見た目と違って気が強いんだね」

兵士32「でも吠えたところで結果は変わらないよ?」

娘「っ…」ギロッ



兵士32「君は、本当に綺麗だね……」



娘「触らないで!!」

兵士32「それは無理だよ」

兵士32「だって君は、もう僕のモノなんだから」グイッ





娘「…っ、あなたに何をされようと、私はあなたの物になんてならない」


109: 2015/06/13(土) 21:08:19.13

兵士32「もしかして恋人いるの?」

兵士32「でも、そんなことは関係ないよね?」



娘「私は……私の心は、あの人だけの物……」



兵士32「聞いてないや、まあいいけ

ズズンッ…

兵士32「な、何だ!?」

娘「!!」ピクッ

シーン……

兵士32「音が止んだ…何だったんだ?」

娘「………」






兵士32「あれ、観念したのかな?」



110: 2015/06/13(土) 21:10:21.54

娘「……」プイッ

兵士32「………ジュル…」

兵士32「怒った顔も可愛いなんて、物語りの中だけだと思ってたよ……」

盗賊「ああそうだな、オレもそう思ってたところさ」

兵士32「!!」ビクッ



娘「(盗賊さん、やっぱり来てくれたんだ……)」グスッ



盗賊「ったく、こんな分かりやすい小悪党がいるなんてなあ」

盗賊「遅れちまって悪い、怪我はねえか?」






娘「……はいっ…私、こんなの平気ですっ」グシグシ


111: 2015/06/13(土) 21:14:04.57

盗賊「……てめえ…」クルッ

兵士32「氏ねえッ!!!」ブンッ

盗賊「っと、ガキじゃねえんだ、やけになるなよ」



兵士32「氏ね!!氏ねえ!!僕の邪魔をするな!!」ブンッ

ガスッ…



兵士32「えっ?なんで…」

盗賊「お前は見たままの馬鹿だな……」

盗賊「こんな所で振り回せばそうなることぐらい分かるだろうが」




兵士32「うわあぁ!!!」ダッ


112: 2015/06/13(土) 21:16:51.82

盗賊「つーかさぁ……」タンッ

兵士32「!?どこにいっ

盗賊「オレのもんに気安く触んじゃねえ!!!」

ドズンッ

兵士32「たへぎッ!??」



盗賊「……馬鹿野郎が、そもそも間違ってんだよ」



盗賊「女が欲しいなら、女が欲しがるような男になりな」

兵士32「………」ビクビクッ

盗賊「ったく……おい、大丈夫か?」

娘「………」ブルブル



盗賊「……そのまま後ろ向いてな、今から縄解いてやる」

スルッ…


113: 2015/06/13(土) 21:18:39.16

盗賊「少し休め、オレも疲れ

娘「……盗賊さんっ!!」クルッ

盗賊「ちょっ…揺れてる!!見えてるから!!」

娘「えっ…あっ!?」バッ



盗賊「……これ着とけ」



娘「あっ…ありがとうございます…」

盗賊「濡れてるし、ボロいコートだけどさ」

娘「……あったかいです」

盗賊「はあ?んなわけねえだろ」






娘「……あったかいです…とってもとってもあったかいです」ギュゥ



114: 2015/06/13(土) 21:31:48.03

盗賊「そ、そっか……」

娘「………」

盗賊「(間が保たねえ、どうすっかなぁ…)」

娘「盗賊さん」クイッ

盗賊「ん?」

ギュッ…







盗賊「……大丈夫…じゃねえよな、怖かったろ?」



115: 2015/06/13(土) 21:35:11.74

娘「……」コクン

盗賊「遅くなって悪かったな」

盗賊「怪我させねえとか言っといて、こんな思いさせちまってさ……」

娘「謝らないでください、私なら大丈夫ですから」

盗賊「無理すんな、まだ震えてるじゃねえか」



盗賊「まあ…今はオレがいるし、もう怖くねえだろ?」



娘「(今は……やっぱり、何処かに行っちゃうのかな?)」

娘「(ずっと傍ににいてください、なんて言えたらいいのに……)」ギュゥ

盗賊「なっ、大丈夫だろ?」ニコッ







娘「(けど、この笑顔だけで十分だって思っちゃう……不思議な人……)」


117: 2015/06/13(土) 23:02:11.15

>>>>

ダダダッ…

娘は隠したし、下の兵士も大体片付けた。

後は爺さんを見付けて、本を盗めば終わりだ。

けど、さっきから静か過ぎる。



かなり登ったってのに兵士の一人も現れやしねえ……



逃げ出したわけじゃねえだろうし、何か策があるんだう。

オレを止める為の何かが居るに違いねえ。




上には『何が』待ってやがるんだ?



118: 2015/06/13(土) 23:10:21.06

あーあ……

螺旋階段ってのはやっぱり気が滅入る。

あんまり登ってる気がしねえし、やたらなげえし……

単純に面白くねえんだな、多分。

あ、まだ雨降ってるな。

もうじき夜明けなんだろうが、これじゃあ分かんねえや。






???「来たな」ヒュッ

盗賊「なっ!?」ブシュ


119: 2015/06/13(土) 23:12:04.80

ボタボタッ…

盗賊「……いるんだろ?出て来いよ」

スゥ…

盗賊「まーた00かよ、つーか透明人間とかいたんだな」

透明人間「……私は大臣、つい先程までは大臣だった!!」

盗賊「うるせっ…」キーン

透明人間「私は貴様の所為で、この姿に変えられた!!」

盗賊「王様なんかと一緒にいるからそうなったんじゃねえの?」

透明人間「黙れ盗っ人!!」






透明人間「貴様さえ現れなければ私はッ!!」



120: 2015/06/13(土) 23:14:54.61

盗賊「喚くな、うるせえんだよ!!」

透明人間「!?」

盗賊「間違いの上に乗っかって甘い汁吸ってた罰だ!!」



盗賊「『そうなる覚悟』もねえクセに『そっち側』に行くからそうなるんだろうが!!」



透明人間「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!」

盗賊「…………」

透明人間「黙れッ!!」






盗賊「だから黙ってんだろうが、アホかお前は」



121: 2015/06/13(土) 23:24:51.12

透明人間「お前を殺せば元に戻れる、ナマエを取り戻せる」

盗賊「なら、さっさと掛かって来いよ」

盗賊「てめえみたいな奴は嫌いだから一瞬で終わらせてやる」

透明人間「見えないのに、か?」ニヤ

スゥ…

透明人間「(奴に私は見えていない、首を掻き切ってやる)」

盗賊「(触ってる物まで消えてんのか?便利だな……)」

透明人間「(氏ね)」

ガシッ…





盗賊「はい、終わり」



122: 2015/06/13(土) 23:26:32.13

透明人間「な、なんで、見えてないはず

盗賊「お前みたいな奴は後ろから斬りつけるんだ……」

盗賊「自分が安全な場所からじゃねえと攻撃出来ねえからな!!」ガシッ

透明人間「ぐっ…はっ、離せ!!」

盗賊「いいから掴まれよ」



盗賊「今から、お前が見たことのない景色を見せてやるからさ」ニコッ



透明人間「正気か!?貴様も氏ぬんだぞ!?」

透明人間「馬鹿な、そんな真似、出来るわけが

タンッ…

盗賊「いいから来いよ」グイッ





透明人間「ヒッ!?ギャアアアア!!!」


123: 2015/06/13(土) 23:38:12.97

ヒュウゥゥ…

盗賊「やっぱり登るより落ちる方が楽だなぁ」

透明人間「はははせッ、離してくれええ!!」



盗賊「これがお前の大嫌いな『危険』ってやつだ!!覚えとけ!!」



透明人間「ヒッ、離ッ、ヒィアアアアッ!!」

盗賊「分かった分かった、離してやるよ」パッ

ギシッ…ギリリッ

盗賊「じゃあな、半端者」

透明人間「へ…?イヤだ!!ヒッ、アアアア!!!」


ズドンッ…




盗賊「……後は、ナマエのない王様二人か」

盗賊「仲直りしてお終いって風には、行かねえだろうな……」



127: 2015/06/14(日) 11:15:36.25

>>>>

盗賊「大体、階段で襲うこと事態間違ってんだよ」ブラン

盗賊「広い部屋とかで襲えば、楽に殺せただろうに……」

盗賊「まあ、殺されてやるわけにはいかねえけど」チラッ

透明人間「………」グチャッ

盗賊「……いや、ナマエを盗られて追い詰められてたのかもしれねえな」

盗賊「さて、行くか!!」バシュッ

ガギャッ…ギャリリリ…






盗賊「ったく、最初からこうして登ってりゃあ良かったぜ」



128: 2015/06/14(日) 11:17:08.37

ギャリリリッ…スタッ…

盗賊「……爺さんは此処か」

嫌な静けさだな、扉開けんのがこええ。



想像したかねえけど、爺さんが殺されててもおかしくねえ。

王様は『初めから』王様だと思ってるって言ってたしな……

しかも爺さん以外の人間のナマエも奪ってる。

そんで、奪った人生を体験してたわけだ。

なら、もう自分が何者かさえ分からねえんじゃねえか?





王様は王様を忘れたかったから、友達のナマエを借りた。

友達は裕福な暮らしがしてえから、王様のナマエを奪っちまった。


129: 2015/06/14(日) 11:19:25.74

皮肉なもんだな……

貧しさを抜け出して王様になったのに、自分のナマエを忘れちまってんだから。

まあいいや、行かなきゃ始まらねえし。

ガチャ…

広間か、暗いけどこんくらいなら見える。

誰も、いねえよな……

てっきり待ち待ち伏せしてるかと思ってたんだけどな。



爺さんは、此処にいないのか?



130: 2015/06/14(日) 11:20:06.18

???「………」チラッ

???「…………」コクン

カチリ…

盗賊「!!」ピクッ

???「(気付いたか、勘の良い奴だ。だが、もう遅い)」

盗賊「まずっ…!!」バッ

ドガガガガガッ…






盗賊「がっ…くっ…ってえ…」ガクン



131: 2015/06/14(日) 11:23:31.81

隊長17「……待ちくたびれたぞ、盗賊」

隊長9「どうだ?鉛玉はキクだろう?」ニヤ

盗賊「クソが……」



隊長17「突然の銃撃、動揺して当然だが……その程度なのか?」



盗賊「………」ググッ

盗賊「(9はそうでもねえが、17が厄介だな。つーか、銃の口径違うのか……)」

隊長17「銃の所持は選ばれた兵士のみ許されている」

隊長9「剣だのナイフだの、下っ端の奴が使う物なんだよ!!」

ガガガガッ…

盗賊「!!」ダッ





隊長9「はははっ、穴だらけのクセして上手く避けるじゃないか!!」



132: 2015/06/14(日) 11:24:51.09

盗賊「避けなきゃ氏ぬだろうが、アホか」タンッ

隊長9「なっ、跳ん

ガガガガッ

盗賊「………(浮いた所を狙われた)」ドサッ

隊長11「気を抜くな」

隊長9「はいはい、分かりましたよ」

盗賊「はぁ、はぁ……」ユラ

隊長9「まだ立つのか、凄いな」

隊長11「………」




盗賊「間抜けな相方と違っていい目してるぜ、あんた」


133: 2015/06/14(日) 11:25:45.56

隊長9「やれやれ、口の減らない奴だねえ」

隊長11「黙れ、隊長9……」

隊長9「うっ…」ビクッ



盗賊「……どうした?撃たねえのかよ?」



隊長11「奴はどうした」

盗賊「奴?誰のことだよ」

隊長11「私の妹、隊長7だ」






盗賊「……あんた、ミレイアの兄貴か?」



134: 2015/06/14(日) 11:29:22.30

隊長11「どうしたと訊いている、質問に答えろ」

盗賊「今囚われてる爺さんを守ろうとして、ミレイアは氏んだ」

隊長11「!!」

盗賊「今の話しを信じるかどうかは別として、取り敢えず言っとく」

隊長11「……何だ」



盗賊「オレはあんまり嘘吐かねえし、女は極力殺さないようにしてる」



隊長9「隊長7が奪名者二人守って氏んだだって?」

隊長9「はははっ、馬鹿馬鹿しい事を言うな」チャキ






盗賊「お前にゃ話してねえ、オレはミレイアの兄貴に言ったんだ」


135: 2015/06/14(日) 11:31:16.16

隊長9「ッ!!頃すぞクソガ

盗賊「氏ぬのは、てめえの方だ……」スッ


グサグサッ…


隊長9「ぎッあああッ!??」

隊長11「!!」

隊長11「(掌を突いた瞬間、床から赤い槍が……何だあれは…)」



盗賊「……ミレイア頃したのは、てめえだな?」



隊長9「なに言ってる、そんなわけ

盗賊「オレは爺さんとしか言ってない、奪名者とも言ってない……」





盗賊「なのにてめえは『奪名者二人』と言った。おかしくねえか?」


136: 2015/06/14(日) 11:32:55.85

隊長9「だから何だって言う

盗賊「ミレイアは銃で撃たれて氏んだ!!」

隊長9「他にも銃を持ってる奴はいる。隊長11、さっさと撃ってくれ……」

隊長11「…………」チャキ

盗賊「……なら、これをやるよ」スッ

カラン…



盗賊「それはミレイアを頃した銃弾。で、これが……」ズルリ

カラン…



盗賊「てめえの撃った銃弾だ」

隊長9「!?」


盗賊「よく見な、てめえの弾と同じ型だ」





隊長9「ぐっ…チクショウがあああッ!!」チャキ



137: 2015/06/14(日) 11:35:42.09

ガガガガッ…

隊長9「なっ…んで?…」ズルッ

隊長11「仇に銃弾を打ち込む、それに理由が必要か?」



隊長9「あいつの…言葉…を、信じるのか?」

隊長11「言葉ではない、証拠を信じただけだ」

隊長9「へ、ふはっ、兄妹揃って馬鹿にしやがって……」

隊長9「あの女の顔、見せてやりたかった

ザンッ…



隊長9「ぜッ!!?」

盗賊「喋り過ぎだ、さっさと地獄へ行きな」

ブシャッ…ゴロ…ゴロ…




盗賊「……あっ…やべえな…これ…」フラッ

ドサリ……

142: 2015/06/14(日) 21:43:12.94

>>>>

盗賊「ってて……」ムクッ

コツンッ…

盗賊「ん、何だこれ?」チラッ

隊長11「…………」ズーン

盗賊「うわっ!?」

盗賊「なっ、何だよ、いるなら何か言えよな!!」

隊長11「……考えていた」

盗賊「え、何を?」





隊長11「妹が何を思って貴様に組みしたか、考えていた」



143: 2015/06/14(日) 21:44:41.83

盗賊「あんた、アタマかてえなぁ……」

隊長11「…………」

盗賊「あのなあ、幾ら考えたって答えなんて出やしないぜ?」

盗賊「だって決めたのはあんたじゃなく、ミレイアなんだからさ」

隊長11「……そうだな、確かにその通りだ」

盗賊「でもさ、ミレイアを連れ去ったのオレだ……」

盗賊「だから、あんたに何をされても文句はねえ」





隊長11「何故貴様に、盗賊に協力したのか、それは確かに分からん」


144: 2015/06/14(日) 21:47:32.92

隊長11「ただ、氏に様がどうだったか知りたい」

盗賊「……生きてると、オレが嘘吐いてるとは思わねえのか?」

隊長11「生きていると信じたい、しかし……」

隊長11「私には、お前があの状況で嘘を吐くような男には見えない」

盗賊「……あんた、ヘンな奴だな」

隊長11「答えろ、妹は……どうだった…」






盗賊「笑ってたよ……」



145: 2015/06/14(日) 21:48:45.70

隊長11「…………」

盗賊「ライモンドとして逝かせてやったって言ったんだ」

盗賊「そしたら満足そうに笑って、逝っちまった……」

隊長11「元兵士157……確か妹の…そうか、そうだったのか……」

盗賊「これが、オレの見たミレイアの最期だ」

隊長11「…………」





盗賊「納得出来ないなら…いや、普通出来るわけねえよな」



146: 2015/06/14(日) 21:50:58.90

盗賊「……なんなら、撃っても構わねえ」

隊長11「そう言う割に、目は戦う気だな」

盗賊「まあな、此処で氏んでらんねえんだ」



盗賊「氏んだ奴、生きてる奴、泣いてる奴、笑ってる奴……」




盗賊「とにかく、そいつ等のナマエを取り戻すまでは氏ねねえよ」

隊長11「ナマエを、取り戻す……」






盗賊「ああ、取り戻すっつーか……盗むんだけどさ」ウン



147: 2015/06/14(日) 21:51:43.77

隊長11「その躯でか?」

盗賊「そりゃそうさ、この躯以外に使えるもんはねえからな」

隊長11「(笑っている。この状況で……不思議な男だ)」

隊長11「一つ訊きたい」

盗賊「何だ?」

隊長11「あれだけの銃弾を浴びて、何故生きていられる?」





盗賊「答えたら見逃してくれんのか?」



148: 2015/06/14(日) 21:53:23.63

隊長11「…………」

盗賊「やっぱダメ?」

隊長11「答えたら、王様の居場所を教えよう」



盗賊「いやいや、何でそうなるんだよ?」



盗賊「そんなことしてオレがやられたら、あんたがどうなるか分か

隊長11「負けると言うなら、この場で撃ち頃す」

盗賊「げっ、おいおい……オレは盗賊だぜ?」






盗賊「カミサマに愛された勇者様やなんかじゃねえんだぞ?」



149: 2015/06/14(日) 21:55:54.00

隊長11「……私は、妹が信じた男を信じる」

盗賊「!!」

隊長11「その男が負けるつもりならば、私がこの手で頃す」

盗賊「あんた、何でそこまで……」



隊長11「お前は、血を分けた妹が信じた男……」



隊長11「私が信じることに、何か特別な理由でも必要なのか?」

盗賊「へえ、格好いいこと言うじゃねえか……」

盗賊「分かったよ、あんたには教える」

隊長11「…………」







盗賊「オレはーーーー」



150: 2015/06/14(日) 22:23:01.99

>>>>

まだ上があったのか…

教えられなけりゃ気付かなかったな。

王様ってなんでこう、妙な造りにしたがるんだろうな。

王様と爺さんがいるのは、でっけえ時計のある部分だ。

言ってみりゃあ、屋根裏みたいなとこ。

もっと分かりやすい場所にいろよ、めんどくせえな。







まあ、すぐ会える場所に王様がいても妙なもんだけどさ……



151: 2015/06/14(日) 22:25:54.40

でも、高い所が好きなのは分かる気がする。

空が近くて、何処までも飛んでけるような気分になれるから。

王様は、何を考えて其処にいるんだろう……



……おっ、ようやく着いた。



あ、夜も明けてらあ。

さーてこっからが本番、盗賊としての仕事だ。

でも、盗賊が王様と戦うとか色々間違ってんだよな……

普通はささっと盗んで、華麗に去るもんだ。





こういうのには、もっと相応しい役がいんだろうがよ。



152: 2015/06/14(日) 22:26:57.37

それこそ勇者だ旅人だ魔法使いだの……

挙げればキリがねえくらいにさ。

今回は特別だ。

だから、目一杯暴れさせてもらうぜ?

ガチャッ…



ギイィィ……

王様「おお、良く来たな!!」

王様「どうじゃ、座って紅茶でも飲まんか?」

盗賊「いらねえ、爺さんはどうした」





王様「なんじゃ、つまらん奴のぉ……」



153: 2015/06/14(日) 22:28:00.34

盗賊「どこだって言ってんだよ、答えろ」

王様「ほれ、此処におるではないか」

盗賊「………ナメてんのか」

王様「ん?分からんのか?」

王様「まあ、お前には分からんだろうなぁ」

盗賊「………(本を使えばナマエを交換出来る)」






盗賊「(……本はナマエを奪う、本はナマエを与える……)」



154: 2015/06/14(日) 22:29:05.07

王様「そうじゃ、存分に考えるがよい」

盗賊「……まさか、てめえ…」

王様「もう分かったのか?素晴らしい……」ギシッ

盗賊「椅子にしたのか……」



王様「儂の椅子、玉座になれるのなら幸せじゃろう……」



盗賊「……気が変わった」

盗賊「てめえの命は盗まねえ、この世界から消してやる」ザッ








王様「……止まれ、ビト・アバスカル」



155: 2015/06/14(日) 22:31:16.07

盗賊「……ちっ、やっぱりか…」

王様「ほう、分かっていて来たのか!!益々面白い……」

盗賊「爺さんにナマエ奪うって聞いた時から、予想はしてたさ」



王様「なら何故来た?答えろ」



盗賊「例え何も出来なくても……」

盗賊「宝石を目の前にして逃げるのは盗賊じゃねえからな」

王様「……そろそろだな、お前のナマエは儂の物になる」ザッ

ザッザッザッ…ピタッ…







王様「最期に、何か言うことはあるか?」




156: 2015/06/14(日) 22:33:05.04

盗賊「……てめえの心は何処にある」

王様「何だと?」



盗賊「他人のナマエを貼り付けただけの、貧しい心は何処にある」



盗賊「そう言ったのさ」

王様「王に向かっ

盗賊「違う、王様を盗んだ貧乏人だ」

王様「王様は儂だ!!生まれた頃から!!」





盗賊「それはてめえの記憶じゃねえ」



157: 2015/06/14(日) 22:34:46.67

王様「っ…何故、何故儂が……」グラ

盗賊「次はオレの番、てめえは何故、この場所を選んだ?」

王様「此処が最上階

盗賊「残念、そうじゃねえ」

王様「!!」

盗賊「此処は、王様になったばかりの王様が寂しくて泣いてた場所」







盗賊「そして、友達と二人で何度も遊んだ場所だ」



158: 2015/06/14(日) 22:37:21.37

王様「ぐっ…うぅっ」ガクン

盗賊「思い出したか、王様のお友達君」

王様「違う、違う違う違うッ!!!」

王様「儂は王だ……お前なんぞ、ナマエコレクションに加えん……」

盗賊「最初から加わるつもりはねえよ!!」

ズドンッ…

王様「ぶへッ!!?」







盗賊「アホ、本当に何の策もないまま来たと思ったのか?」



159: 2015/06/14(日) 22:41:56.36

王様「何故動ける!!止まれ止まれ止ま

ドガッッ…

王様「はぎゃッ!!」

ドサッ…パタン…

盗賊「これが例の本か……」

ペラペラッ…… 

盗賊「早速ナマエを

???「返せ……」

盗賊「……ちっ、懲りねえ奴だなぁ」

盗賊「で、貼り付けたナマエは何だ?一応聞いてやるよ」








???「ビト・アバスカル」



160: 2015/06/14(日) 22:46:48.25

盗賊「ふーん、でも耐えれんの?」

ビト「なにをいっテイ…るがッ!?」



盗賊「オレのナマエは、オレだけのもんじゃないんだ」



ビト「何を、現に『お前』は其処に

盗賊「何つーかオレの親父、爺ちゃん、そのまた爺ちゃん……」

盗賊「全員が、ビト・アバスカルなのさ」

ビト「馬鹿な、そんなことガあるか!!」

盗賊「あるんだよ、確か…血の継承……だっけか」






盗賊「で?てめえが奪ったのは、どのオレだい?」



161: 2015/06/14(日) 22:51:41.24

ビト「ぐっ、ぬううっ…」ググッ

ビト「そうだとしてもナマエは奪った!!動けるわけがない!!!」

盗賊「そうだな、確かにナマエは奪われた」



盗賊「けど、もう一つの心は奪われちゃいない」



ビト「!!?」

盗賊「オレに預けてくれた娘の心、それがオレを動かしてくれる」

ビト「何故動け…な…い?(心…心?頭が、割れソ、う…だ…)」

盗賊「教えてやるよ王様、本当の盗賊ってのは……」ダッ











盗賊「見えない宝石を盗むのさ!!」



162: 2015/06/14(日) 22:54:03.99
おしまい

165: 2015/06/14(日) 23:16:28.00
ーーー
ーー


『トビアス隊長、どうしました?』

『ラッシの馬鹿……今日は隊長の妹さんの…』

『あっ、申し訳ありません!!』

『気にするな、それに……』

『?』

『何かあったんですか?』





『今日、この国に盗賊ビト・アバスカルが来る』



166: 2015/06/14(日) 23:19:36.11

『えっ、本当ですか!?』

『すげえ、生きる伝説じゃないですか!!』

『……私からすれば、ただの盗賊だがな』

『隊長も凄いっすね……』

『当たり前だ、隊長はあの夜の生き残りだぞ?』

『(あの夜…いや、全てが変わった夜明けか……)』




『……ラッシ、セリオ、行くぞ』





『『了解!!』』



167: 2015/06/14(日) 23:31:12.28

>>>>

『王様、入国したようです』

『会うのは久し振りだな』

『あの、本当に盗賊などと会うのですか?』

『儂にとって彼は盗賊ではなく友人、命の恩人だ……』

『ですが、ビト・アバスカルと言えば……』

『世界を騒がす盗賊かな?』





『私にはそうとしか思えませんが……』



168: 2015/06/14(日) 23:32:56.60

『それは間違いだ』

『えっ?』

『彼が盗むのは何も金銀財宝だけではない』

『では何を?』

『ふむ……』

『何でしょうか?』



『君は女性だから、会えばすぐに分かる』



『?』

『とにかく、盗まれないように気を付けたまえ』




『は、はい……』



169: 2015/06/15(月) 00:07:34.68

>>>>

『いらしゃいませ!!』

ガヤガヤ…ワイワイ…

『シェイラちゃん、今日も盛況だねえ』

『皆さんのお陰です』ニコッ



『シェイラちゃんの料理は美味しいなぁ』

『嫁に来て欲しいよ、家のは下手で下手で……』

『お前に嫁がいることが奇跡なんだ、高望みすんな』





『でも、シェイラちゃんってさ……』



170: 2015/06/15(月) 00:08:45.38

『言うな、分かってるから』



『『本当に可愛いよなぁ……』』



『でもさ、最近綺麗になってきたよな?』

『……大変な思いしたのに、健気だしな』

『分かるッ…分かるぞぉ!!』

『酔っ払い、嫁さんに殺されるぞ?』

『シェイラちゃあん、おかわりー』




『はーい(うん、みんな笑顔だね……)』



171: 2015/06/15(月) 00:11:37.73


『店長、あの……』

『トリシアちゃん、どうかしたの?』

『新しいお客様が来たんですけど……』

『?』




『シェイラを盗みに来た、とか言ってて…』





『!!』ダッ

『えっ?て、店長!?』

『(盗賊さん!!)』

ガララッ…



172: 2015/06/15(月) 00:15:12.35

『よっ、久し振

『ッ!!』

パァンッ

『……悪かった』



『いきなりいなくなって、いきなり現れて…』グスッ



『今日がいいかと思ってさ』

『あの時、ずっと待ってたのに……』

『………』

ギュッ…

『盗…ビトさん……ずっと、私の傍にいて下さい』

『ああ……』









「もう離さねえから安心しな』


173: 2015/06/15(月) 00:16:59.89
おしまい

175: 2015/06/15(月) 00:22:05.55

ええもん読ませてもろたわ

177: 2015/06/15(月) 00:40:03.11
乙!!

179: 2015/06/15(月) 20:06:17.45

文の中で説明しようとしたんですが
戦闘が二回続いてるのと、王様との最後は長くなりそうなので省きました。

血液を武器にする、または今までに盗んだ武器を血液の中に……
という説明をしようとしましたが、省略。

あまり考えずに設定を追加してしまった為
まとめのコメントでもあるように、かなり雑だったかと思います。

下手に設定を追加せず
最後まで盗賊として書けば良かったかなと思いました。




とても長くなりましたが、感想等ありがとうございます。


181: 2015/06/29(月) 23:15:04.24








盗賊と

   嗚呼、美しき、声なきウタヒメ 編









182: 2015/06/29(月) 23:16:54.13


盗賊「ふー、やっと撒いたか……」




あんなにしつこく追いかけ回されるとは思わなかったぜ。

たかが食い逃げで怒るなよ……

いや…まあ、大小関係なく罪は罪なんだけどさ。

よりによって財布を落としちまうとは……

中身は寂しいもんだったけど、デザインは気に入ってたんだんだよな。

随分と前のもんだから、きっともう何処の店にも置いてねーだろう。




まっ、仕方ねーか、財布のことは諦めよう。



183: 2015/06/29(月) 23:18:27.67

……しかし、走ったなぁ。

警官って、足はえーんだな……

必氏こいて逃げてたら、目的の街に着いちまった。

目的って言っても盗みに来たわけじゃない。

一人の女を捜して

その女の歌を聴きたくて、オレはこの街にやってきたんだ。









千年に一人の歌姫・ルジェナ



184: 2015/06/29(月) 23:19:57.38

彼女は最近、ここらの街で活動しているらしい。

歌が好きで、歌えるなら何処でも構わねーっていう根っからの歌手。

だからこそ、どんな場所でも彼女のコンサートは評判がいい。

それは勿論、手抜きをしないからだ。








どんな小さい場所でも

ヤニ臭い場所でも

酔っ払いの前でも……彼女は全力で歌う。



185: 2015/06/29(月) 23:20:58.11

歌声もさることながら

その美貌も高く評価されている……らしい。




なんせ、千年に一人と言われるぐらいだからな。

とある酒場の店主から聞いた話しによれば、だけど……

とまあ、こんな感じで彼女の噂を知って、興味を持った。

で、近くまで来たから一目見ようかと思ったわけだ。





まさか途中で追われる羽目になるとは思わなかったけど……



186: 2015/06/29(月) 23:22:29.92

でも何でだ?

あの警官の連中、街の手前で急に引き返したよな?



思えば、妙に焦ってたような気もした。

この街に入ったらいけねえ理由でもあんのか?

違う街だから捕らえるにもお偉方の許可がいる、とか?

盗賊「……まっ、いいか…」ノビー








せっかく来たんだ

千年に一人の歌声、聴いていくとするか。



187: 2015/06/29(月) 23:32:37.24

盗賊「…………」スタスタ

シーン…

盗賊「静かな街だ、てっきりお祭り騒ぎかと思ってたんだけど……」

盗賊「(騒がしいよりはずっとマシだけどさ。つーか、本当にこの街にいんのか?)」

盗賊「歌姫がいるってのに、こりゃあいくら何でも静か

ツンツン

盗賊「?」クルッ

少女「助け…て……」フラッ

ガシッ…





盗賊「あぶねぇなあ…おい、どうし…た…!?」



189: 2015/06/29(月) 23:40:07.00

ユラリ…グラリ…


盗賊「あの鐘、音が……壊れ…いや、違う……」

少女「お願い……ルジェナお姉ちゃんを助けて」

盗賊「……ルジェナ…?……ルジェナだって?!」

グラリ…ユラリ…

盗賊「…どうなってんだ……」




グラリ…ユラリ…

グラリ…ユラリ……






揺れる鐘……

その音は、いつまで待っても聞こえてこない。

どれだけ経っても届いてこない。

待てども待てども鳴りはしない。

揺らせど揺らせど鳴りはしない。







鐘の音は、もうとっくに期限切れ。



190: 2015/06/30(火) 00:01:58.94

>>>>

         コエ
美しい鐘の音は彼の物

小鳥の囀りから爺さんの欠伸まで……




         コエ
どれもこれもが彼の物




   コエ
君の心臓は大丈夫かい?

取られちゃいないかい?

彼は気に入った音は必ず手に入れる。

気付かぬ内に録られてしまう。

録音したら絶対に逃がさない。






蓄音機……

いや、録音奇怪は、狙った獲物を逃がさない。






ーー夜の奇怪な蓄音機の詩



193: 2015/06/30(火) 02:17:22.20
乙!

引用元: 盗賊と不思議な宝石