1: 2017/09/30(土) 22:15:06
むかしむかし
とある大陸では、
人間族が治める連合国と
魔族たちのナワバリである魔王国が
いつ終わるとも知れない戦争を、長きに渡り続けていた
物語は、連合国の英雄“勇者”が
魔王国の総大将、“魔王”の暗殺を試み、
刃を交わした瞬間から始まる
とある大陸では、
人間族が治める連合国と
魔族たちのナワバリである魔王国が
いつ終わるとも知れない戦争を、長きに渡り続けていた
物語は、連合国の英雄“勇者”が
魔王国の総大将、“魔王”の暗殺を試み、
刃を交わした瞬間から始まる
2: 2017/09/30(土) 22:16:05
<プロローグ>
ズバン! ズバン!!
勇者「ィ痛ぅ、やったか!」
勇者(てか反撃のスピードがパネェ!)
魔王「クッ! わらわが剣撃を貰うとは……!」
魔王(こんな男がおったのか!)
ゥワアアアアアアアアアアアアアアア!!!
副官「なんてことだ!」
副官「衛生兵! エイセイヘーイ!!!」
3: 2017/09/30(土) 22:17:06
トロル「こいつ! いきなり現れて魔王さまを斬りつけるとは!!」
ガシッ!
勇者「放せ! この野郎!!!」
リザードマン「放すか、この人間族め! 大罪人は氏刑だ!!!」
妖精「魔王さま、お気を確かに!!!」
魔王「不覚をとったとは言え、ぐぅ……」
妖精「いけない、すぐに応急処置を」
副官「ヨロイとカブトで致命傷は防いだものの、出血がヒドイ…………!」
副官「すぐに、上級魔法師を呼べ! 大至急だ!!!」
ケンタウロス「はっ!」
4: 2017/09/30(土) 22:17:50
ミイラ「勇者よ、お前には全身の血液を吸い出され、干からびる氏がお似合いだ!」
吸血鬼「その血は俺に頂戴ね♪」
骸骨「いやいや、皮と肉をそぎ落とし、骨だけにするのがいいだろう!」
デュラハン「我らが女神を傷つけた罪を数えろ。首をスパッと落としてやる!」
勇者「うぅぅ、魔王さえ殺せば、あいつさえ氏ねば!」
勇者「こんな戦争は終わるってのに……!!!」
魔王「……」
5: 2017/09/30(土) 22:18:36
魔王「おい、皆のもの!」
魔物たち「はっ!」
魔王「わらわは暫し休む。後は頼んだぞ」
魔物たち「はいっ!」
魔王「それから、その人間族の男だが……」
エルフ「すぐに処分いたしますわ、魔王サマァ!」
魔王「いや、傷の手当てをし、あとでわらわの部屋に連れてこい」
魔物たち「ええっ!??」
勇者「????」
6: 2017/09/30(土) 22:20:17
魔王「その男、おそらく英雄の“勇者”」
魔王「我々にとって、大きな利用価値がある。有効に使いたい……」
副官「かしこまりました!」
勇者「魔王からの施しなんぞいるか!」
勇者「くっ、殺せ!!」
オーク「あーモウ、そういうのいいから」
7: 2017/09/30(土) 22:21:33
錬金術師「魔王様の命令なので、とりあえず、これを嗅いでくださいネ」
ぽふっ♪
勇者(このタオルに滲みこませた薬品は……!)
勇者(ク、クロロホルムっ……!!?)
ガクッ
8: 2017/09/30(土) 22:22:42
翌日・夜
勇者「…………」
勇者「はっ!」
魔王「おお、目覚めたか勇者どの」
勇者「なっ、お前は、魔王!??」
魔王「見ての通り、ここはわらわの部屋じゃ」
魔王「お互い、傷の処置は万全」
魔王「武器のたぐいも置いておらぬ。安心なされよ」
勇者「…………」
9: 2017/09/30(土) 22:24:31
勇者「魔王、お前って」
魔王「ん?」
勇者「最初は、ヨロイとカブトで気づかなかったが、」
勇者「女の子だったのかよ、しかもラビット族の……」
魔王「ラビット族と言うでない、うさぎ族と言え!!」
勇者「……うさぎ族の、女の子だったのかよ」
魔王「いかにも!」
魔王「わらわこそ、魔族10万人の頂点に君臨する、魔王である!」
勇者(うさぎなのに、魔王って)
10: 2017/09/30(土) 22:25:23
勇者「なんかもっと、魔王ってイカツイ奴だと思ってたが……」
勇者「あんま人間と変わらない、小柄な少女とは」
魔王「先代魔王はそうじゃの。わらわの大叔父でダークエルフだったが、」
魔王「半年前の合戦で、膝に毒矢を受けてしまってな、戦えなくなってしまった」
勇者「マジか。全然知らんかったぞ」
魔王「けっきょく、先代はひそかに引退」
魔王「王位継承順や本人の希望から、わらわが魔王に選ばれることになった!」
勇者「へー」
11: 2017/09/30(土) 22:26:45
魔王「おっと、花も恥じらう乙女とはいえ、侮るでないぞ!」
魔王「これでも国で10年に1人の剣術達人!」
魔王「魔王軍、当代最強の剣士なのだから!!!」
勇者「……」
魔王「なんじゃ、イマほんとかよって顔したな?!」
勇者「いや、別に」
勇者「斬りきれなかったし、俺もカウンター貰ったし、強いと思うぞ」
魔王「むふふふ♪」
12: 2017/09/30(土) 22:27:30
ー
勇者「ところで、俺を生かしてくれた様だが……」
魔王「あぁ、お主に頼みたいことがいくつかあっての」
勇者「……礼は言わねぇぞ」
魔王「構わんよ。むしろ、わらわも斬りつけたから、おアイコじゃ」
勇者「ところで、俺を生かしてくれた様だが……」
魔王「あぁ、お主に頼みたいことがいくつかあっての」
勇者「……礼は言わねぇぞ」
魔王「構わんよ。むしろ、わらわも斬りつけたから、おアイコじゃ」
13: 2017/09/30(土) 22:28:32
勇者「じゃぁ、俺に頼みって、何だよ」
魔王「う、うむ。それなんじゃが……///」モジモジ
勇者「?」
魔王「んとな、勇者どの……///」
魔王「わ、わらわのこと、どう思う///」
勇者「は?」
魔王「その、やっぱし頃したいほど憎んでおるか……?」
勇者「……」
14: 2017/09/30(土) 22:29:21
勇者「いや。『魔王』や『魔王国』そのものは憎いけれど」
勇者「お前みたいな女の子は、なんかもう斬る気にはなれねぇなぁ……」
魔王「おぉ、とりあえず嫌われてはおらんのか。よかった!」
勇者「……?」
魔王「あ、あのな///」
15: 2017/09/30(土) 22:30:15
魔王「勇者どの、わらわはお主のことが、好きになった!」
勇者「」
勇者「ええっ!!?」
魔王「わらわは強い男がタイプでのぅ……v」
魔王「お主が天井裏から飛び降りて、間髪入れずに近づき、」
魔王「わらわを斬りつけようとした刹那、想ったのじゃ!」
魔王「『この男を待っていた』、と///」
勇者「うえええええ」
16: 2017/09/30(土) 22:31:07
魔王「そしてその想いは、反撃に転じたが間に合わず、」
魔王「一太刀くらってしまった時、確信に変わった///」
魔王「『このムネの痛み、まさしく恋v』、と!」キャー///
勇者「……」
勇者「胸の痛みって、刀傷じゃねーの?」
魔王「なにをいう! 刀傷だけじゃないやい!!」
17: 2017/09/30(土) 22:31:55
勇者「で、俺は結局どうすりゃいいんだよ」
魔王「とりあえず、今日はもう遅いし……」
魔王「いろいろと大仕事が待っていて、忙しくなるし……」
魔王「その、わらわがお主に好意を持ち、敵意が無いこととか知ってほしいし///」
魔王「……な!」
勇者「だから何だよ」
18: 2017/09/30(土) 22:32:41
魔王「ええい、このトーヘンボクめ!」
魔王「乙女になんてことを言わすのじゃ!」
勇者「!」
勇者「おいおい」
魔王「むふふふ~///」
魔王「いいじゃろ、な♪」
勇者「……マジで?」
19: 2017/09/30(土) 22:33:38
梟「ホーホー」
雀「チュンチュン」
20: 2017/09/30(土) 22:34:51
翌朝
魔王「ムニャ」zzz
勇者「……やってしまった」
勇者「殺そうとしてた相手と、こんなことになるたぁ」
勇者「……この先、どうしよ。国に帰れない」
魔王「はっ!」パチクリ
21: 2017/09/30(土) 22:36:50
魔王「おぉ、おはよ。ダーリン♪」
勇者「ダーリン!?」
魔王「いやー、わらわはうさぎ族だが、」
魔王「ダーリンも中々に、××××だったなv」
勇者「……その言い方は止めてくれ。マジで!」
魔王「むぅ~。よいではないか」
22: 2017/09/30(土) 22:37:56
魔王「じゃぁ勇者殿、着替えて朝食を摂ろう」
勇者「んん」
魔王「そのあと大事な話がある。いいかな」
勇者「……あぁ」
23: 2017/09/30(土) 22:40:12
朝食後
勇者「ごちそうさんでした」
魔王「どうじゃ勇者殿、魔王城の飯は旨かったか?」
勇者「まぁ、あの材料でこの味は悪くねぇな」
魔王「うむ。なりよりじゃ!」
魔王「特に、雑草のサラダとかよかったろ」
勇者「おぅ」
魔王「だがホントはなー、ニンジンがあればな~」
勇者「にんじん」
魔王「戦争が長引いて、新鮮な野菜がもぅ手に入らん」
勇者「……あんたらも、苦労してんだな」
24: 2017/09/30(土) 22:41:21
魔王「さて、そこでじゃ勇者どの!」
勇者「えっ」
魔王「われわれ魔王軍は、お主らのいる連合国と和平を結びたい!」
勇者「……詳しく、話せ。理由は」
魔王「まずは、戦争第一で国が動いてるせいで、畑仕事もできず]
魔王「まともな食料を口にできん!」
勇者「……」
25: 2017/09/30(土) 22:42:16
魔王「先代魔王みたく、大物や有力武将も討たれて、軍力も弱っとる」
勇者「……」
魔王「民草も、戦争で身内を三つ四つ、二つ三つと失い、いくつもの村々も滅び」
魔王「部族ごとの滅亡も珍しくない。戦争当初とくらべ、厭戦気分も髙まっとる」
勇者「……」
魔王「戦争を続けられる状況じゃないし、わらわも、もう同胞を失うのはイヤなのじゃ」
魔王「お主ら、人間の国でもそうじゃろう?」
26: 2017/09/30(土) 22:43:01
勇者「まぁ、俺ら連合国でも似たようなもんだ」
勇者「魔王国の資源を狙って攻め込んだものの、戦争コストが割に合わねぇ」
勇者「氏傷率も高く、徴兵制で次々と若者が軍にとられるために、労働力も不足している」
勇者「増税に次ぐ増税で、庶民の生活はギリギリ。治安も悪化してる」
勇者「今日のパンを得るために、隣人をぶっ頃す事件も度々起きている」
勇者「こちらも、戦争はもうできない。俺も仲間を失うのは耐えられねぇ」
魔王「決まりじゃな!」
27: 2017/09/30(土) 22:43:56
魔王「勇者どの、そなた連合国の首脳に掛け合って、停戦の呼びかけを頼む」
魔王「わらわも、魔王軍を取りまとめ、すぐに停戦状態に入ろう」
勇者「……呼びかけはいいが、双方の主戦論者に信じて貰えるかね?」
魔王「いかにも。だから皆を納得させるため、儀式を行いたい!」
勇者「儀式?」
魔王「むふふv」
魔王「……結婚しよ、そなたとわらわで///」
勇者「ぶほっ!」
28: 2017/09/30(土) 22:45:25
勇者「まじかよ」
魔王「この血で血を洗う戦国の世、婚姻関係で同盟を結ぶのは鉄則じゃろ」
勇者「まぁ、確かにそうだけど……」
魔王「あ、もしかしてアレか、恋人とかおったりしたか??」
勇者「いや、俺はフリーだから…………もう、いいや」
勇者「いいぜ、和平でも結婚でも、戦争が終わるなら、なんでもする!」
魔王「ふぉぉぉぉ!」
29: 2017/09/30(土) 22:46:42
勇者「だけどまぁ、これはこれで生半な方法じゃねーぜ」
魔王「おうともよ!」
勇者「覚悟はいいか」
魔王「ガッテンしょうちじゃ!」
勇者「ん!」
30: 2017/09/30(土) 22:47:50
魔王「それからそれから、夫婦になるんだったらば……///」
勇者「だったらば?」
魔王「勇者殿のこと、やっぱ“ダーリン”って呼んでいいかのぅv」
勇者「……///」
勇者「いいぜ、好きにしな!」
魔王「わーいv ダーリン大好き~♪」ギュッ
勇者(なんか、戦いばっかの人生だったが)
勇者(……俺もこういうの、案外キライじゃねーのな)
勇者(生きるためには、敵を頃して身を守るしかないと思ってたが)
勇者(誰も殺さず、分かり合うことで、生きてくこともできるのかな……?)
31: 2017/09/30(土) 22:49:24
こうして状況は一変した
連合国と魔王国は、停戦に合意。
戦争は終結した。
いくつかイザコザがあったものの、
勇者と魔王の婚礼をして、同盟関係を構築。
32: 2017/09/30(土) 22:51:29
両国の住人は、戦争からの復興に着手
停戦から暫くは、いがみ合う状態がまだ続いたものの
徐々に、技術交流、経済支援、文化の相互理解も進み
婚姻同盟から10年後には、両国は合併
魔王を君主、勇者を元帥とする“連合王国”が設立した
争いのない、『戦後平和主義』に包まれた時代の中で、
国も、国民たちも大いに栄えた
<プロローグ、終わり>
33: 2017/09/30(土) 22:55:18
<本編>
物語は、連合王国の建国から五十年後の、
勇者没後から、さらに十年後
玉座の間から再び始まる
物語は、連合王国の建国から五十年後の、
勇者没後から、さらに十年後
玉座の間から再び始まる
34: 2017/09/30(土) 22:56:41
月末の金曜日 正午
伝令「伝令、デンレイです!」
側近「む、どうした」
魔王(88)「報告なさい」
伝令「はっ、連合王国の南方、ベイエリアで大規模な暴動が発生!」
伝令「さらに北部国境近くで、帝国軍と共和国軍の戦闘があったとの報告が!」
側近「なんだと!」
魔王「……」
伝令「伝令、デンレイです!」
側近「む、どうした」
魔王(88)「報告なさい」
伝令「はっ、連合王国の南方、ベイエリアで大規模な暴動が発生!」
伝令「さらに北部国境近くで、帝国軍と共和国軍の戦闘があったとの報告が!」
側近「なんだと!」
魔王「……」
35: 2017/09/30(土) 22:57:55
伝令「現地の行政官から、中央に支援要請が入っております」
伝令「元老院でも緊急会議が開かれる模様です」
側近「予兆はあったものの、この様な事態になるとは……」
魔王「……」
36: 2017/09/30(土) 22:59:24
伝令「また状況が入り次第、ご連絡いたしますが」
魔王「待ちなさい、対応は元老院で協議するのよね」
伝令「はい、そのようです」
魔王「ならば伝えなさい。君主の命として、」
魔王「『どんな事態が起きても、軍の出動はなりません』と」
伝令「はっ」
側近「!」
37: 2017/09/30(土) 23:00:31
側近「お待ちください魔王さま」
魔王「どうしたのです?」
側近「軍の派遣を禁止するのは、いささか悪手かと」
魔王「なんですって!」
側近「南部の暴動ですが、ここにきて人間族と魔族との対立先鋭化が原因と推測されます」
側近「早急に、軍事力を持って制圧せねば、他の各地にも広がる恐れが」
側近「また、北方で起きた帝国と共和国の戦闘。超大国同士の衝突は」
側近「流動的な状況を発生させ、軍でなくては対応が……」
魔王「ゼッタイになりません!」
38: 2017/09/30(土) 23:05:11
魔王「いいこと側近」
側近「はっ」
魔王「軍というのは、昔から災いを呼ぶ装置です」
魔王「我が連合王国も、昔は連合国と魔王国に別れて戦争し、多くの犠牲を出しました」
魔王「しかし双方は和解し、以来70年、国も民にも大いなる繁栄を手にしました」
魔王「これぞ、『戦後平和主義』がもたらした、素晴らしい功績!」
側近「……」
39: 2017/09/30(土) 23:06:04
魔王「……南部での、人間族と魔族の衝突も、」
魔王「北部での、帝国と共和国の戦闘も、きっと同じく」
魔王「話し合うことで、話し合うコトだけで、充分に解決できるものです!」
側近「……」
魔王「それが我々、連合王国が生み育てた、哲学。理想の姿!」
魔王「これまで70年、ずっとして来たのと同じように」
魔王「軍は動かさず、調停団を派遣するように指示なさい、いいわね」
伝令「はっ!」
側近(……これはマズイ)
40: 2017/09/30(土) 23:06:56
2時間後
伝令「申し上げます! 来客として、防衛大臣が参られました」
側近「防衛大臣が!」
魔王「私の孫が、どうしたのかしら?」
側近「お招きした方がよいかと!!」
魔王「そうね、久しぶりに彼女の顔が見たくなったわ」
伝令「では、お通しいたします!」
側近(よし、あの方なら魔王様を説得してくれるハズだ)
41: 2017/09/30(土) 23:07:52
衛兵「防衛大臣、おなーりぃぃぃ!!!」
防衛大臣「ご機嫌麗しゅう、おばあ様。いえ、魔王様!」
魔王「ほんとに久しぶりね、我が孫ナバちゃん。いえ、防衛大臣!」
側近(頼むぞ、ナバちゃん……!)
42: 2017/09/30(土) 23:11:04
魔王「すがすがしい日だわね。外は。小鳥は歌い、花は咲き乱れ……」
防衛大臣「こんな日こそは、ですね」
魔王「今日はどうしたの?」
防衛大臣「はい、近所に用事があったので、」
防衛大臣「ついでに、おばあ様の御尊顔を拝見しようかと」
魔王「あらまぁ」
防衛大臣「……いえ、時間もないため、もう単刀直入に申し上げます」
43: 2017/09/30(土) 23:12:33
防衛大臣「魔王様、どうか此度の一件、軍の派遣許可をお願いしたく!」
魔王「…………どうして?」
防衛大臣「まず、南部の暴動ですが、とっくの昔に調停団を派遣し」
防衛大臣「人間族、魔族双方のリーダーに自重を呼びかけているものの」
防衛大臣「対立が激しく、一向に収まる気配がありません」
魔王「お互いがお互いを、尊重することはできないの?」
防衛大臣「経済格差や文化の隔たりがあるため、難しいでしょう」
44: 2017/09/30(土) 23:13:39
防衛大臣「また、帝国と共和国の戦闘も看過できません」
防衛大臣「二国間の領土対立もあり、戦闘は不可避」
防衛大臣「片方が背後からの援軍を恐れ、我が国に侵攻してくることも予想されます」
魔王「……戦争が、始まるのね」
防衛大臣「……はい」
魔王「どうして、どうしてみんな戦うのよ……」
魔王「戦いや争いなんて、同胞や仲間を失うだけなのに……」
魔王「もう、『戦後平和主義』は、通用しないの……?」
防衛大臣「……」
45: 2017/09/30(土) 23:14:35
防衛大臣「軍事に頼らず、戦わず、双方が生き残る道を探る」
防衛大臣「この『戦後平和主義』が続いたのは、偉大な奇跡だったでしょう」
魔王「……」
防衛大臣「ですが、『戦後平和主義』を成り立たせていたのは」
防衛大臣「おばあ様世代の方々が持っていた、“戦争のトラウマ”が共有されていたから」
魔王「“戦争のトラウマ”……?」
防衛大臣「誰かを傷つけ、誰かから傷つけられ、家族を失う痛み」
防衛大臣「これを皆が知っていたら、誰もが戦うのを躊躇う、」
防衛大臣「不戦の契りが、社会全体で成立するでしょう」
魔王「ええ、その筈よね」
46: 2017/09/30(土) 23:18:28
防衛大臣「ですが、平和を享受できたおかげで」
防衛大臣「私たち戦後世代は、“戦争のトラウマ”、傷つけあう痛み を知りません」
魔王「……そう、戦後世代は、知らないわよね」
防衛大臣「一方、おばあ様世代の方々は年齢を重ね、着実に鬼籍に入ることに」
防衛大臣「その度に、国民の心全体から“戦争のトラウマ”が、毎年少しづつ消えていきます」
防衛大臣「また、毎年新たな命が生まれ若者が育つにおいても、“戦争のトラウマ”は薄まります」
防衛大臣「学校の教科書などには、歴史として載りますが、人々の心の中までは」
防衛大臣「現実感のある痛みが、伴なうことは、ありません」
47: 2017/09/30(土) 23:21:39
魔王「そうね……」
魔王「思えば、和平を結んだあの頃……」
魔王「当時を知るメンバーは、この城ではもう私1人になってるわ」
防衛大臣「…………」
魔王「“戦争のトラウマ”を知る者は去っていき、忘れ去られ」
魔王「私たちの『戦後平和主義』も、もう、同じく消え去る運命ということね」
防衛大臣「……心中、お察しいたします」
48: 2017/09/30(土) 23:23:29
防衛大臣「ですがいま、まさに訪れているのは、」
防衛大臣「いわば、正真正銘の“国難”!」
魔王「分かりました、軍の派遣を許可します」
魔王「トラウマに捕われた、悲しい平和主義には、どの道もう頼れないのよね」
防衛大臣「ありがとうございます、魔王様」
魔王「それに、戦って国民が殺されるのも真っ平だけれど、」
魔王「戦わずに国民が殺され、氏んでしまうのも、許容できないわ」
魔王「けれど、誰かを傷つけた痛みは、必ず自分に返って来るもの」
魔王「武力を用いるのは、最後の手段にして頂戴」
防衛大臣「はっ、私の命に代えても!!!」
49: 2017/09/30(土) 23:24:49
魔王「それから、軍の編成はベテラン中心でお願いね」
魔王「戦争当時は徴兵制を敷かれ、碌に訓練のない素人の新兵たちが」
魔王「戦場に出て、でもなすすべなく、氏んでいったものだから」
防衛大臣「はい、そちらも必ず!」
魔王「あと現場がどうなっているか、日々の報告も、包み隠さずお願い」
魔王「頼んだわよナバちゃん。いえ、イナバ防衛大臣!」
防衛大臣「ははーっ」
51: 2017/09/30(土) 23:26:19
――――――――――――
――――――
―――
魔王「……少し、疲れたわ」
側近「大丈夫ですか?」
魔王「申し訳ないけれど、今日はこれで休むことにするわ」
側近「はい、後のことはお任せを」
魔王「よろしくね」
52: 2017/09/30(土) 23:28:39
魔王「ただいま」
骨壺「」
魔王「あら、『今日はいやに早いじゃないか』って言いたそうね」
魔王「むふふ」
魔王「月末の金曜日だからね。プレミアムなフライデーというやつよ」
骨壺「」
53: 2017/09/30(土) 23:30:04
骨壺「」
魔王「……思い返せば、あの出会いがあった時の、」
魔王「魔王城に居たみんなは、もうとっくの昔にお墓に入っているのね」
骨壺「」
魔王「何だか寂しくて、片時も忘れたくなくて、骨壺として部屋に置いてる人もいるけれど」
骨壺「」
魔王「むふふ」
魔王「沢山居たはずなのに、当時を知る老人世代は」
魔王「気づけばもう、この世から居なくなりつつある」
54: 2017/09/30(土) 23:32:47
魔王「よし、貴方と共に、」
魔王「平和主義も、お墓に埋めましょう」
骨壺「」
魔王「2人が出会った、あの頃とは違った、」
魔王「戦わなければ、生き残れない時代になったのだから」
55: 2017/09/30(土) 23:34:30
魔王「でも、それでも」
魔王「私たちが出会えたことと、一緒に生きた70年の平和は」
魔王「決して、無駄じゃぁなかったわよね」
魔王「ねぇ、ダーリン……」
骨壺「」
56: 2017/09/30(土) 23:43:36
そういう時代なのかなーと思い、書きました。
以前書いたSSです。
こちらも良ければご覧ください。お願いします
ジン「選挙について教えてほしい?」ウォッカ「へい!」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1468023186/" >http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1468023186/
大臣「消費税ゼロで、この国を成長へ!」 男「よし、投票しよ!」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1506337085/" >http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1506337085/
58: 2017/10/01(日) 00:11:44
「戦争を知らない子供たち」って歌があったな・・・
59: 2017/10/01(日) 05:44:31
日本の戦争を知らない世代ってのは、二つに大別されると思う。
一つはこのSSで語られている様な痛みを忘れている者。
もう一つは極端に戦争を恐れている者。
日本では後者の教育に熱心だったが、周りの状況と
その教育の背後に何者が存在しているか知られつつある事で
状況が少しずつ変わってきたな。
興味深いSSでした。
一つはこのSSで語られている様な痛みを忘れている者。
もう一つは極端に戦争を恐れている者。
日本では後者の教育に熱心だったが、周りの状況と
その教育の背後に何者が存在しているか知られつつある事で
状況が少しずつ変わってきたな。
興味深いSSでした。
引用元: 魔王「平和主義も、お墓に埋めましょう」
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