2: 2011/03/19(土) 00:41:49.67
私は生まれ付き体が弱かった。
「健全な精神は健全な肉体に宿る」とは良く言うが、
私にとってはそれはぴったりの言葉だった。

体に比例し、心はとても脆弱だった。
少しの事ですぐ泣き、両親は将来この子はどうなるんだと不安になったそうだ。

両親の予感はすぐに現実になった。
幼稚園に入って間も無く――――苛めが始まった。

今思い返すと、それは苛めだったのかはわからないが、
当時の私にとっては苦痛だった。

しかし所詮幼稚園児。そこまで酷い事はなく、
むしろそれで私の心は鍛えられた。

小学校に入る頃には多少の苛めには免疫が付いていた。
低学年の頃は天国だった。

3: 2011/03/19(土) 00:42:47.85
苛めがない毎日がこんなに楽しいのだとは思わなかった。
学校が楽しく、日々が充実していた。

幼稚園の頃にそれを体験していなかった私は、
こんなに幸せでいいのだろうか? と感じる程だったのだが・・・・・・

四年生になった時、それは音を立てて崩れ落ちた。


――――――悲劇は再開する。

この年になると、少しづつ派閥や権力者が出てくる。
そして自分の権力を維持するためにある行為を開始する。

苛めだ。
ターゲットは私だった。

4: 2011/03/19(土) 00:43:30.99
小学生の苛めは酷かった。無垢な子供と言うのは恐ろしい。
今考えれば有り得ない事でも普通に実行する。

そこには常に一人のリーダーがいた。
彼は周りの子供を恐怖でまとめあげていた。

彼は自分のしたい事、楽しいと感じる事を思うままに実行した。
周囲は怖くて、何も反論できず、ただそれをこなしていた。

私は彼に常に怯え、憎み続けた。

5: 2011/03/19(土) 00:44:21.25
確か・・・・・・その時の日記があったと思う。
ああこれだ、懐かしいな。

19×× 6月15日

かみに書けば気持ちがおちつくって聞いた。
ああムカツク。なんなんだよ。いいかげんにしろよ
ふざけんなこのやろう。あああああああああああ
頃したい頃したい頃したい頃したい頃したい頃したい
頃したい頃したい頃したい頃したい頃したい頃したい
頃したい頃したい頃したい頃したい頃したい頃したい


病んでいたんだ。なんで自分がこんな目に合うんだって。
しかし、こんな事をしても現状は変わらない。

6: 2011/03/19(土) 00:44:57.36
私は悩んだ。ひたすらに、がむしゃらに。
教師に相談? 馬鹿げてる。あいつ等は何もしてくれない。

それに教師に頼ると、苛めがさらに非道くなる。
ああくそ・・・・・ひたすら耐えるしかないのか・・・・・。

親の顔を見るのが辛かった。
こんなに私に優しくしてくれて、毎日優しくて、優しくて。

それ故、絶対に学校での事は話したくなかった。
心配をかけたくない・・・・・いや違う、今の自分を見せたくなかった。

耐えた、耐えた、ずっと、耐えた。
卒業するまで・・・・・・そう思うと気が楽だった。

7: 2011/03/19(土) 00:45:25.48
しかし、その予想は裏切られる。
五年生に上がったとき、変化があった。

クラスには相変わらず彼がいて、絶望した。
―――大丈夫。あと二年。そう言い聞かせた。

数日後、ある男に話しかけられた。
小学生らしからぬ容姿に尖った目、俗に言う不良だった。

私と好きなアーティストが一緒で話にきたそうだ。
意気投合し、とても仲良くなった。

こんなに笑ったのは久々だと、軽く涙が出そうになった。
その日の学校は最高に楽しかった。

8: 2011/03/19(土) 00:46:35.19
しかし、相変わらず彼は私に危害を加えてきた。
不良は中々の権力の持ち主だったが、その容姿から周りとあまり関わりがなく、
また、彼の事を少しは恐れていたと思う。

私はいつも通り耐えた。
ああ、またか―――

次の日、不良にある事を持ち掛けられた。

「アイツボコボコにしようぜ」

唐突だった。私は呆然とした。


9: 2011/03/19(土) 00:47:32.79
「・・・・・・」

そんなことは考えもつかなかった。
当時は王様みたいな存在で、ただ耐えるしかないと思っていた。

「ずっとやられてたんだろ? 男ならやり返せよ」

彼がいればできるんじゃないか・・・・・・?
考えた。憎悪の感情が蘇ってくる。

今までやられたことを思い出す。
悔しい悲しい許せないふざけんなコロスああ頃したい

なんだがウキウキしてきた。
なぜこの考えに至らなかったのだろう。

やってやる。怖いモノは何もない。
ああなんて自分は脆弱だったのだろう。反吐がでる

「・・・・・・いいね。乗った」

10: 2011/03/19(土) 00:48:20.64
放課後。帰り道人気のない場所でボコボコにするぞ」

「わかった」

「でもその前に一つお願いがあるんだ・・・・・・」








そして、それは実行された・・・・・・。

11: 2011/03/19(土) 00:49:06.41
人気のない場所に連れ出すのは簡単だった。
彼は私の事を舐めきっていた。

「おぉなんだ? 何の用だよ」

私は笑みを零す。ああこれからショータイムだ。
楽しみだなあ。楽しみだなあ。

「あのさあ・・・・・・今までお世話になったね」

「・・・・・・は?」

私のネジは飛んだ。その瞬間、彼を押し倒した。
彼は驚愕の表情を浮かべていた。

12: 2011/03/19(土) 00:49:47.01

殴った。殴った。ひたすたに殴った。

血が飛ぶ――――――気持ちがいい。
悲鳴を上げる――――爽快だ。

私の背中を押してくれた彼はひたすら見ていた。
そして笑っていた。楽しそうに。

自分が混じれないのがさも悔しそうだったが、
それでもこの状況を楽しんでいた。

にしてもコイツはこんなに弱かったのか?
こんなのに俺は怯え続けていたのか?

13: 2011/03/19(土) 00:51:56.47
自分でもビックリだった。
一番の権力者の皮を剥がすと、とても臆病な人間だった。

顔面血だらけになった彼は心底怯えた顔で俺を見ていた。

「土下座しろよ。今すぐさあ」

喧嘩なんてしたことなかった私は加減がわからなかった。
多分、この時土下座していなかったら彼を頃していたと思う。

まともに口を動かす事のできない彼は、
ボロボロになった体でなんとか土下座をした。

「誰かに言ったらどうなるかわかるよな?」

14: 2011/03/19(土) 00:53:16.74
次の日、勿論彼は学校に来なかった。
皆が嬉しがった。権力者がいない。怯えなくてすむ。

そこで私と不良は昨日の事を話した。
最初は信じてない者もいたが、不良が私のバックだと思うとあながち否定もできなかった。

そして、彼に不満を持っていた者達が少しづつ愚痴を言い始めた。
全員だった。とても楽しそうだった。現に楽しかった

15: 2011/03/19(土) 00:54:18.39
数週間後。彼が来た。今までのような恐怖はなく、
むしろ立場が逆転した。

「PKやろーぜ。アイツで」

「倒れた方が勝ちな」

私と不良は人間PKをやった。
それを見ていたクラスメイト自然と輪に入ってきた。

何故か―――?
誰も可哀想だとは思わないのか?

何故なら全員が彼の事が大嫌いだった。
恐怖で纏め上げている彼が。

しかし、その彼を痛めつけられる―――
この上ない快感だった。

16: 2011/03/19(土) 00:55:01.84
それからは凄まじかった。
私への苛めは周りは嫌嫌ながらや、少数だったが、彼は違った。

クラス全員に仕打ちを受けた。
一人であれだけ辛いのだから集団なんて想像もできない。

それでも私は許さなかった。
「三倍返し」って言葉があるだろう?

可哀想とは微塵も思わなかった。
彼はストレスで胃に穴が空いたが、皆はとても嬉しがった。

それ程周囲に嫌われていた。
教師から止めろと言われても一切止めなかった。

だってそうだろう?私は何にもして貰えなかった。
相談した時は、考えすぎだ。でおしまい。

ふざけんな。足らねぇんだよ。
早く学校に来いよ。みんな待ってるぜ。まだまだツケは残ってる。

17: 2011/03/19(土) 00:55:38.69
私が六年生になる頃、彼は転校した。
私は満足だった。勝利したのだ。

そして気がつけば、私と不良は権力者というか人気者になっていた。
気持ちが良かった。初めてだった。

ああ上からの景色はこんなに気持ちいいものかと知った。
その地位に酔った。ただひたすらに。

自分は強いんだ。最強なんだ。苛めなんて有り得ない。
そう思っていた。

毎日がとても楽しく、アウトドアになった。
野球をしたり、サッカーをしたり、
カラオケにいったり、ゲーセンにいったり。

18: 2011/03/19(土) 00:56:56.40
また、見た目が劇的に変わった。

前はとても大人しい服装だった。

しかし、その時はウエストの大きいズボンに、英語の入ったピッチリしたTシャツ、
ワックスで立たせた髪に黒いリストバンド。

おまけに背が急速に伸びて165cmになった。
知らない人が見たら、中学生の不良にしか見えなかった。

そして、女子にも人気が出始めた。
初めてバレンタインチョコを貰った。
初めて告白された。
初めてキスをされた。
初めてデートにいった。

19: 2011/03/19(土) 00:57:44.49

と、何もかも最高だった。が






【家庭】

それだけが今の私を嫌った。

20: 2011/03/19(土) 00:59:18.89
「どうしてあんなにいい子だったのに」「元のあなたに戻って」
「私の子はこんなのじゃなかった」「あなただけ家の外れ者」

今までとても優しかった家族。それだけが今度は私を苦しめた。
私は言いたかった。

    ”変わったよ! 俺強くなったんだよ!”

いつも私を支えてくれた存在。
それ故とてもショックだった。

悲しかった。泣いた。声を押し頃して泣いた。
ただひたすらに。嗚咽が止まらなかった。

それ以降家は私の居場所ではなくなった。
何度も家出をし、その度悩み、荒んでいった。

23: 2011/03/19(土) 20:51:14.97
中学に入る頃にはいわゆる不良グループの一員になり、
喫煙、飲酒、万引きを繰り返していた。

しかし、馴染んでいたわけではなかった。
周囲から見れば馴染んでいたように見えていただろう。

元々私は苛められる側だったので、
犯罪行為をする時も、躊躇ったり、顔が引きつっていた。

が、自分の居場所はもうここ以外ないと思い、必氏にそれに合わせた。
それが何ヶ月も続き、苦痛にしかならなくなってきた。

24: 2011/03/19(土) 20:53:30.61
相変わらず親との仲は悪く、両親のすすり泣きや叫び声を
深夜によく聞く様になった。

あれだけ優しかった両親が私のせいで壊れてゆく・・・・・・
罪悪感にかられつつも、仕方ないんだ。と自分に言い聞かせた。

もし両親の言うとおり生活していたら、また苛められる。
自分を強く見せて、上に立つしか生きていく方法はない。

自分では両親の事をとても大事に思っているのだが、
怨んだりもした。

25: 2011/03/19(土) 21:00:04.97
何故なら、今の居場所が苦痛になった理由の一つに
両親の態度があったからだ。

――――もうやめて

――――昔のいい子に戻って

犯罪行為を行う度、その言葉が脳裏に響く。
そして、今の自分を思い留まらせる。

そして段々その感情は周りに伝わっていった。

「お前何? ビビってんの?」

違う。必氏に否定した。
ここが無くなればどこへ行けばいいんだ。

また耐える日々が始まるのか。
そんなのは嫌だ。絶対に嫌だ。

26: 2011/03/19(土) 21:01:34.89
そう思いつつも、また両親が浮かんできた。
ああくそ。なんなんだよ。なんでこんな辛い思いしなきゃならないんだよ。

ある日の深夜、とあるマンションの屋上で一人黄昏ていた。
片手にタバコ、もう片方にはブラックを持って。

考えていた。どうすればこの状況を打開できるか・・・・・・。
また彼に助けて貰うか・・・・・・? いや無理だ。

彼は不良グループのトップの存在にいる。
そんな彼に相談して失敗したら、何も残らない。

いやでも賭けてみる価値は・・・・・・。
ダメだ。勝算がない以上最終手段として取って置こう。

27: 2011/03/19(土) 21:04:29.94
仮にあのグループを抜けたとしたら・・・・・・・?
不良達に苛められる可能性もある。

が、普通の学生と仲良くできるかもしれない。
普通の楽しい学生生活を謳歌できるかもしれない。

だが、前みたいに苛められる側になってしまうかもしれない。
グループなしに自分を強く見せなければならない。

必氏に皮を被り続ける事ができるのか・・・
それも苦痛にならないか・・・

28: 2011/03/19(土) 21:07:30.74
ああなんでこんなに考えなければならないのか。
いっそ楽になりたい。もう疲れた。

【自殺】

選択肢が一つでてきた。
一番簡単に楽になれて、かつ失敗もないだろう。

いいかもしれない。
もう自分は頑張った。小さい頃から。

幸いここはマンションの屋上。
今飛び降りればすぐしねる。

ああでも、迷惑はかけたくないな。
どこか人気の無い場所で脈でも切るか。

「公園で・・・・・・いいか」

29: 2011/03/19(土) 21:11:16.99
コンビニでナイフを買う時は、店員に驚かれ、不審がられた。
しかし、なんとか買えたので問題はなかった。

公園に向かう途中、色々な事が走馬灯の様に思い出された。

楽しかった親との思い出
小学校私を苛めていた彼の事
彼を殴り続けたこと。
六年生の時の思い出
中学校に入り、初めてタバコを吸った
酒も初めてだった。バイクも乗った。


ああ、バイクは気持ち良かった。
風になれた気分だった。

30: 2011/03/19(土) 21:18:19.05
最後に一回乗りたかったが、しょうがない
そんな事を思っていると、公園についた。

幸い人は誰もいないみたいだ。
ベンチに腰かける。

13年かあ・・・・・・。
短かったなあ・・・。

親に色々迷惑をかけた。
最後ぐらい謝っておけば良かったかもしれない。

31: 2011/03/19(土) 21:21:22.55
タバコを取り出して、火をつける・・・・・・が、
うまくつかない。

何故?と思ったが、すぐに分かった。
手が震えている。ガタガタと大きく震えていた。

そして、無意識に涙を零していたのも気がついた。
ああ、さっきの店員はこの表情を見て驚いていたのかな。

未練があるのかな。
ああ、一度でいいから女とヤってみたかったな。

でももういいか。すぐ終わるし。
袋からナイフを出し、首につける。

32: 2011/03/19(土) 21:33:21.90
ナイフが冷たい。ひんやりとする。
片手でナイフを持ち、もう片方の手でナイフを持った手を押さえる。

そうしないと震えて狙いが定まらない。
ガタガタと震えながら、首を切ろうとする・・・・・・。

が、切れない。怖い。氏にたくない。
その想いが私を留まらせる。

ああなんで脆弱なんだ私は。
ああでも脆弱だから逃げるんだ。

ナイフを首につけたまま、数分が経過した。
やっぱり[ピーーー]ないのか・・・・・。

33: 2011/03/19(土) 21:33:54.15
少し休憩しよう。そう思い、顔を上げた。



すると人がいた。

目の前に





「情けねーな」

34: 2011/03/19(土) 21:35:20.20
彼だった。私を助けてくれた。
唖然とした。いつから居たのか、何故いるのか、そして何故気づかなかったのか。

「なんでここに・・・・・・?」

「散歩」

「そう・・・」

もうどうでも良かった。
今から氏ぬのだから。といっても[ピーーー]ないのだが。

35: 2011/03/19(土) 21:35:45.92

「あん時のお願い。聞いてやるよ」

・・・・・・?
私は何か彼に頼みをしただろうか・・・?

・・・・・・思い出した。
あれか。

あの時は氏ぬ覚悟だったからなあ。
実際そんな覚悟じゃなしに、あんな事できない。

わざわざ介錯してくれるのか。
味方なのか敵なのか相変わらずよくわからない。

「頼むよ」

これで本当におしまいだ。
ああ良かった。救われる。これで楽になれるんだ。

彼は私からナイフを受け取ると、目を閉じろといった。

「じゃあな」

36: 2011/03/19(土) 21:36:36.26
――――

「で、なんでお前生きてんの?」

暗い空間に2人の男が高級感溢れるソファーに座っていた。

「いやなんかさ、首じゃなくて腹刺された。んでショックで気絶」

そう。あのあと私は生きていた。
病院で目が覚めると、親が泣いていた。

警察は通り魔だといって、犯人はまだ見つかっていないらしい。

数日後、彼が来て、

「転校しろよ」

そう言って去っていった。
・・・・・なんで今まで気づかなかったんだろう・・・。

37: 2011/03/19(土) 21:37:03.54
白紙から初めるのが、一番やり易い。
親に全てを謝り、その事を伝えた。

「んで、なんだかんだで生きてる訳か」

「そうそう。大変だったなー」

その時、店の明かりが付いた。
シャンデリアなどか、一斉に付き、うすぐらい空間が王宮の様に輝いた。

「停電終わったな。暇しなかったわ」

「次はお前のでも聞かせろよ」

「昔話でもしようか」

fin

42: 2011/03/19(土) 22:38:45.58
これで終わりか。乙

43: 2011/03/19(土) 22:59:03.43
乙と言おうか

引用元: 男「昔話をしようか」