1: 2018/11/02(金) 07:57:23.99
ヴィーネの匂いがする。
ふんわり甘い洗剤の匂いと、ほんのり灼けた日光の匂い。
ヴィーネの服と同じ匂い。
ヴィーネが洗った、私のTシャツ。
顔にTシャツを近づける。
私の感覚と、ヴィーネの匂いが、ぐるぐる巻きついて、一つになる。
こうすることでしか、もうヴィーネと触れ合えない。
3: 2018/11/02(金) 07:59:37.01
ヴィーネが病気になった。
「急性天使アレルギー」だそうだ。
ヴィーネの体は既に天使力に侵されていて、もう意識もない。
だからお見舞いに行こうとした。
でも、できなかった。
私が、天使だから。
ヴィーネは、突然、私の前から、いなくなった。
4: 2018/11/02(金) 08:00:35.39
ヴィーネ、会いたいよ、ヴィーネ
もうネトゲもしない。
宿題も自分でやる。
なんなら、料理だって作りに行ってやる。
だからヴィーネ、お願い、戻ってきて
『いいのよ、ガヴは何も悪くないのよ』
違う、ヴィーネ、違う、私が悪いんだ
そう思っていないと、壊れてしまう。
5: 2018/11/02(金) 08:01:29.52
ヴィーネは病気と闘っている。
私には、ヴィーネの病気と闘える力はない。
せめて、そばにいて、手を握って、空間を共有していたい。
それさえも、できない。
ただ、ヴィーネの足跡に縋って、まるで氏んだみたいに、虚像を作り上げることしかできない。
情けない、無力だ。
役立たずな涙が溢れた。
6: 2018/11/02(金) 08:02:28.73
『お前は、最後の日、ヴィーネになんて言った?』
私は、なんて言ったかな。
堅固に閉ざされた記憶の扉を開こうとする。
……
…………
………………!!!!!!
やめろ!やめろ!やめろ!
思い出すな!思い出すな!思い出すな!思い出すな!思い出すな!思い出すな!
「出てけよ!お節介悪魔!」
7: 2018/11/02(金) 08:03:32.13
……
…………
………………ふざけるな
ふざけるな…………ふざけるな……ふざけるな、ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!
たかだかケーブル1本のために、お前は唯一無二の親友を言葉で傷つけた!
在りし日の最後の顔に、涙を浮かばせた!
挙句ちっぽけなプライドのために、最後まで謝らなかった!
8: 2018/11/02(金) 08:04:33.76
絶対に許さない、絶対に許さない…………
……○してやる。
そうだ。
この包丁を、自分の腹に突き刺すだけで、ヴィーネを苦しめた憎い自分への復讐を果たすことができる。
私は、きっと続く永遠の苦しみから逃れられる。
ヴィーネに許してもらえる。
「やめて!私はそんなこと望んでない!」
9: 2018/11/02(金) 08:05:29.21
……
…………
………………
馬鹿だ、私は。
ヴィーネは、私が氏んだなんて聞いたらどう思うか、少し考えればわかるはずだ。
ヴィーネは、きっと私なんかのために泣いてくれる。
ヴィーネは、きっと私を許さない。
……
……
……ヴィーネ。
私もう、何もわからないよ。
10: 2018/11/02(金) 08:06:07.78
……これで、何日目だろうか。
昨日も、「ヴィーネ」が感じられるTシャツを握りしめて、一晩中泣いていた。
最近はこの調子で、最近はほとんど寝ていないし、ヴィーネのこと以外は何も考えていない。
このTシャツを中心に、生活が回っている。
だけど、それさえも、神様はゆるしてくれなかった。
11: 2018/11/02(金) 08:06:46.17
今日も今日とて、Tシャツのヴィーネと混ざり合う。
しかし、Tシャツを顔に近づけたとき、違和感に気づいた。
洗剤の匂いが薄くなっている。
ヴィーネの匂いが消えかけている。
ヴィーネが、どこかへ行ってしまう。
12: 2018/11/02(金) 08:07:28.90
ねえ、待って、ヴィーネ、行かないで、私はヴィーネがいないとダメなんだ、お願い、行かないで、行かないで…………
私は、親に縋る赤ちゃんのように、一晩中、声をあげて泣いた。
明くる日の朝、Tシャツの「ヴィーネ」は、ほとんどさっぱりなくなってしまっていた。
13: 2018/11/02(金) 08:08:47.71
ヴィーネの番号に電話をかける。
トゥルルル、と、呼び出し音がなる。
ガチャ、と、通話に応答する音は永久に聞こえないことくらい、私もわかっている。
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
14: 2018/11/02(金) 08:09:42.17
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
ごめんなさい、
15: 2018/11/02(金) 08:10:58.13
1日が終わった。
今日はずっとヴィーネと電話していた。
これで、「ヴィーネ」のいない夜を乗り切ることができる。
なんとか夜を乗り切った。ベッドの上でじっと座っていた。
涙は出なかった。Tシャツはゴミ箱に捨てた。眠くはない。
この日、先日ヴィーネが息を引き取ったと電話が来た。
16: 2018/11/02(金) 08:11:49.01
かれこれ一週間は同じ生活をしている。
寝なくても眠くないし、食べなくてもお腹は空かない。
ただ、ヴィーネのことを考えるだけ。幸せだ。
17: 2018/11/02(金) 08:12:45.36
「ガヴ」
今日もヴィーネと電話をしていると、目の前にヴィーネが現れた。
なんだ、やっぱりヴィーネは生きてたんだ。
私はしばしヴィーネと抱き合い、ひどいことを言ったことを何度も何度も謝った。
ヴィーネは照れくさそうに笑って許してくれた。
じゃあ、行こうか。
ヴィーネと2人でいられる場所へ。
18: 2018/11/02(金) 08:13:51.11
ヴィーネが私の手を引く。
私も遅れないようについていく。
もう、絶対に離さないから。
ヴィーネと私は、どこまでもどこまでも、高く高く、昇っていった。
19: 2018/11/02(金) 08:17:10.19
おわり
一か所重複してしまった、申し訳ないです
20: 2018/11/03(土) 02:11:13.16
おつ
引用元: ガヴリール「ヴィーネの匂い」
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