1: 2010/07/11(日) 00:06:42.18
周りの誰にも聞こえないよう、私―秋山澪―はそう呟いた。

梓「また練習もせずにじゃれあって・・・」

紬「まぁまぁ、いいじゃない」

私の後ろで大切な軽音部の仲間である、ムギと梓が話す。

そして私の前では、別の二人がじゃれあっている。

2: 2010/07/11(日) 00:08:46.57
唯「そんなことないよー!りっちゃん可愛いよー!」

同じく軽音部の仲間である、唯と、

律「辞めろってマジで!こんなの私の柄じゃないから!恥ずかしいっての!」

私にとって誰よりも大切な人―田井中律―が。

4: 2010/07/11(日) 00:11:07.11
律「頼むからカチューシャ返せって!」

唯「だって前髪下ろしてるりっちゃん可愛いよー?」

前髪を下ろして涙目で頬を染めた、律。

澪(本当だよ律、唯の言う通り可愛いよ・・・)

そんなことを思っていたら、

律「んな訳ないだろ!私にはこんなの似合ってない!」

そう言いながら律がこちらを見た。

5: 2010/07/11(日) 00:14:25.66
澪(!)

律と目が合う。

その瞬間、自分でも頬が紅潮していくのがわかる。

その気恥ずかしさから私はすぐに目を逸らしてしまった。

律「!」

その瞬間に律の動きが止まった。

律は俯き加減で立ち尽くしたまま微かに震えている。

6: 2010/07/11(日) 00:16:31.23
これはまずい。

唯「りっちゃん、どうしたの?」

唯がそう話しかけると、

律「わ、私は前髪下ろすのなんて柄じゃなくて・・・」

律「こんなの本当に似合わなくて嫌なんだよ・・・」

律の目から大粒の涙が零れ始める。

7: 2010/07/11(日) 00:18:51.60
唯「り、りっちゃん!?」

紬「りっちゃん!?」

梓「律先輩!?」

澪「・・・・・」

律の涙を見ていると、罪悪感で押し潰されそうだ。

10: 2010/07/11(日) 00:21:53.02
予め言っておくと、律が前髪を下ろした姿は全くおかしいことなどない。

いつものカチューシャをつけている律も元気一杯で可愛いが、

前髪を下ろした姿はそれはもう絵に描いたような美少女で、きっと誰もが放っておかない。

だからこそ私はあの時、とっさに嘘をついてしまった。

そしてきっと、律は未だにその嘘に囚われてしまっている。

12: 2010/07/11(日) 00:24:59.71
―――――――――中学生時代

澪「・・・」

律「・・・」

澪「ふぅ」

律「あ、宿題終わった?見せて見せて」

澪「駄目」

律「別にいいじゃんよケチー」

澪「自分のためにならないだろ」

13: 2010/07/11(日) 00:27:30.04
律「ぶーぶー」

澪「わからないところは教えるからちゃんと自分でやりなさい」

律「ちぇー」




律「澪、早速わからん」

澪「早っ!」

14: 2010/07/11(日) 00:29:35.16




律「終わったー」

澪「お疲れ様」

律「喉渇いたー、ご褒美に何か飲ませてー」

澪「結局私が殆ど教えただろうが・・・」

そうは言いながらも、すぐに飲み物をとりに行こうと部屋を出る私は甘いんだろうな・・・。

律「・・・」

15: 2010/07/11(日) 00:32:10.29
澪「律、飲み物持って来たぞー」

律「う、うん。ありがとう」

澪「?」

何か変だな、律。

こっちに背中向けてるけど本を読んでるって訳でも無さそうだし・・・。

16: 2010/07/11(日) 00:34:03.12
律「実は澪にもご褒美があります!」

唐突に律が言った。

澪「ど、どうした急に」

律「という訳で!じゃーん!」

そう言うと、律が振り返った。

17: 2010/07/11(日) 00:37:17.10
澪「―――」

思わず、息を呑む。

初めて逢った時から、いつもカチューシャをつけて前髪を上げていた律。

その律が初めて私の前で髪を下ろしていた。

律「どうだ?美少女りっちゃんのイメチェンは?」

18: 2010/07/11(日) 00:39:36.95
返す言葉が出てこない。

その程度の驚愕を私に与える程、前髪を下ろした律は可愛かった。

いつもの活発な感じとは違って、とても女の子らしい清楚で可憐な可愛さ。

できることなら今すぐにでも抱きしめたくなるような。

とりあえず律、私が飲み物を置いてから振り返ったのは正解だ。

いきなりそんなに可愛いお前を見せられていたら私の部屋のカーペットは今頃紅茶まみれだ。

19: 2010/07/11(日) 00:43:13.85
律「な、何で何も言わないんだよ・・・」

律の一言で我に返る。あまりに可愛いから見とれてしまっていたようだ。

澪「わ、悪い」

律「自分でも結構似合ってると思うんだよなー、どう?」

なんて言いながらその場でくるっと回ってみせたりする。

何て可愛いんだ律。今すぐ抱きしめてキスしたい。

・・・まぁ臆病な私にそんなことできる筈も無いんだけど。

21: 2010/07/11(日) 00:46:08.14
律「澪に感想聞いて良い感じだったら今後はこの髪型にしようかなと思っててさー」

・・・え?

いや、待て律。それはまずい。それは非常にまずい。

今まででもかなりモテていたのに、その髪型に変えてしまったら・・・。

律「なぁーどうなんだよ澪ー」

余計に悪い虫(男女共に)共が寄って来てしまうじゃないか・・・!

それは困る、非常に困る、すごく困る。

私はいつだって律と一緒に居たい、律の一番で居たいんだ・・・!

23: 2010/07/11(日) 00:50:37.54
律「なぁ澪ってば

澪「そ、そんなの駄目だ!」

律「え・・・」

澪「や、やっぱりいつもの髪型の方が律らしくて断然いいと私は思う!」

今の髪型、すごく似合ってて可愛いけど

澪「そういう髪型って律の柄じゃないしさ」

本当に誰より可愛いと思うけど

澪「正直あんまり似合ってないと思う!」

私以外の人間に律の可愛い姿を見られたくない!

24: 2010/07/11(日) 00:52:50.06
律「・・・」

思ってることを素直に伝えられるなら、それはどんなに素敵なことなんだろう。

律「だ、だよなー・・・、やっぱりいつもの髪型の方が私らしいもんな!」

澪「う、うん!」

な、何とか阻止できたか。

25: 2010/07/11(日) 00:55:13.80
律「ごめんなー、急に変なこと聴いちゃって」

澪「ぜ、全然構わないよ。むしろ先にその髪型見せてくれて嬉しかったよ」

いきなりそれで学校なんて行かれたら私にはどうしようもなかったからな・・・。

律「澪に感想言ってもらえて助かったよ、じゃ私はそろそろ帰るわ」

澪「え?律?」

口を開くなり律はすぐに部屋を出て行ってしまった。

26: 2010/07/11(日) 00:59:10.57




やっぱりあんな言い方は不味かったよな・・・。

自分でも結構似合ってると思うなんて言ってたのに、柄じゃないとか似合わないとか言っちゃったもんな・・・。

澪「律のこと、傷つけちゃったかな・・・」

明日の朝、律が気にしてるみたいだったら謝ろう。

29: 2010/07/11(日) 01:02:31.71




律「おう澪、おはよー」

澪「お、おはよう」

呆気にとられてしまった。

会ってみればそこにはいつもと全く変わらない、笑顔の律が居た。

30: 2010/07/11(日) 01:04:36.84




律「でさー、昨日のあの番組でさー・・・」

昨日の話題については全く触れようともしない。

私の思い過ごしだったのか・・・。

我ながら自意識過剰だったのかもしれないな。

31: 2010/07/11(日) 01:06:30.65
律「澪?聞いてるか?」

澪「あ、悪い。ボーっとしてた」

律「ちゃんと聞けよー、全くー」

澪「ごめんごめん」

それに正直、こっちから昨日の話題を掘り返したくはない。

33: 2010/07/11(日) 01:11:02.11
前髪を下ろした状態で色んな人の前に出て欲しくはないし、

かと言って私にはその理由を素直に言うことなど到底出来はしないだろう。

我ながら辟易するが、これが秋山澪という人間だ。

律も気にしていないようだし、この話題はもう終わりだ。

いつも通り律と一緒に居る時間を精一杯楽しもう。

――――――――――――――――――

34: 2010/07/11(日) 01:14:52.47
なんて事が、中学生の時にあった。

あの時は気にしてないように振舞っていたけど、やっぱり本当はショックだったんだな・・・。

そもそもいつも律はそういう奴じゃないか。

人が落ち込んで居たら放っておけない癖に、人には心配かけるからってそういうところを見せようともしない。

そんなのわかりきっていたことだって言うのに・・・

ああもう、本当に情けない。本当にどうしようもないぞ私。

律はまだ泣いている。

理由がよくわからない唯やムギや梓は慌てている。それも当然だ。

35: 2010/07/11(日) 01:18:14.62
澪「律」

私が立ち上がってそう発すると律は身を震わせた。

他の皆も驚いたようにこっちを見る。

あくまで律があの時のことで傷ついている、なんてのは私の想像でしか無い。

これで違っていたら相当な自意識過剰女だ。

普段の私だったらそんな勘違いをされることを恐れて何も言えなかっただろう。

36: 2010/07/11(日) 01:21:36.07
でも、

それ以上に、

律が泣いていることの方が私には辛い。

泣き虫な私が泣く度に、私のことを慰めてくれる誰よりも優しいあの少女が泣いている。

それは普段情けない自分の心を奮い立たせてくれるには充分すぎた。

澪「律、本当にごめん!」

私が頭を下げてそう叫んだと同時に辺りは静寂に包まれた。

皆事情が呑み込めず固まっているのだろう。

40: 2010/07/11(日) 01:26:40.18
澪「中学の時、律が前髪下ろした姿を似合わないなんて言っちゃったけど、あれは嘘なんだ!」

律「・・・」

律は、何も言わない。

やっぱり私の勘違いなのかもしれないな

・・・なんて言ったらあの時と何も変わらない。

律は皆が思っているより繊細な少女だ。何も思わなかった筈なんて無い。

あの時だってそんなこと気付いていた筈なのに、私は逃げた。

だから今は精一杯、私の思いの丈の全てで、精一杯律に謝ろう。

41: 2010/07/11(日) 01:28:54.67
澪「本当にごめん!とっさにあんなこと言っちゃって!しかもあの時はそんなこと何も言わないで今更になって・・・!」

唯「え?どういうこと?」

梓「澪先輩、私達の存在思いっきり忘れてますよね・・・」

紬「まぁまぁ(百合の匂いがするわね・・・!)」

澪「今更になって謝罪するなんて都合が良すぎるかもしれないけど・・・本当に反省してる!」

律「・・・何だよ、それ」

42: 2010/07/11(日) 01:33:04.95
ようやく律の口から出てきたのは、当然だが私を非難する言葉だった。

律「私はあの時、本当にショックだったんだぞ!」

律「あんまりあんなことしないけど、折角可愛くなれたと思ったから澪に見て欲しくて!」

律「私は他の誰でもない!澪に!似合ってるって、可愛いって言ってもらいたかっただけなのに・・・!」

唯「しゅ、修羅場?これ修羅場?」

梓「完全に私達空気ですよね」

紬「うふふふふふふふふふ」ツー

43: 2010/07/11(日) 01:37:25.03
律から浴びせられた言葉に、私は泣き出しそうになってしまう。

でも耐えろ、耐えるんだ秋山澪。

悪いのは私なんだから、ここで泣いちゃいけない。

それよりもするべきことが、言わなきゃならないことが私にはある筈だ!

44: 2010/07/11(日) 01:39:34.66
澪「本当はすごく似合ってた!」

律「え」

澪「前髪を下ろした律を見た時、あまりにも可愛くて、抱きしめたいとか、キスしたいとかそういうことだって思った!」

律からは何の言葉も返って来ない。

澪「でも、律が今度からそういう髪型にしようかなって言ったの聞いて」

でも、それでも今は素直に気持ちを伝えるんだ。

45: 2010/07/11(日) 01:41:27.32
澪「律のこんな可愛いところ誰にも見られたくないって思って・・・」

唯「わーりっちゃん顔真っ赤ー」

澪「こんな可愛い律を見られたら律をとられちゃうんじゃないかと思って・・・」

梓「私砂吐きそうです」ザー

唯「もう吐いちゃってるよ、あずにゃん」

澪「あの時、ううん、今でも律の一番近くに居たいからそんなの絶対嫌だって思って」

梓「ムギ先輩鼻血出過ぎです、これ使って下さい」ザー

紬「あら梓ちゃん、ありがとう」ボタボタボタ

47: 2010/07/11(日) 01:45:44.13
澪「だからとっさに似合わないなんて言っちゃって・・・!」

まだ律は何も言ってくれない。

澪「私の勝手な我侭で、それで律を傷つけちゃって・・・本当に本当に反省してる・・・」

流石に律に嫌われてしまったのかもしれない。

澪「ごめん、律・・・私本当に反省してるから・・・」

自業自得なんだから仕方ないのに、わかってるのに。

澪「だから・・・お願い、律・・・私のこと嫌いにならないで・・・」

ここで泣いちゃ駄目だっていうのに、涙が出るのを止められない。

49: 2010/07/11(日) 01:49:28.72
律「み、澪!?」

澪「ごめ、ごめんなさい・・・もう絶対こんなことしないから・・・」

律「わ、わかった!もう気にしてないから泣き止め!」

澪「本当・・・?」

律「ああ、本当だって!澪は私の言うこと信じられないのか!?」

澪「ううん・・・」

澪「律の言葉なら信じるよ、私律のこと大好きだから」

律「うん、私もだよ、澪」

50: 2010/07/11(日) 01:53:06.37
唯「何か今日はいつにも増してすごいね二人共・・・」

紬「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」ボタボタボタボタ

梓「ムギ先輩鼻のティッシュ変えて下さい、既に詰めたティッシュの先から滴り落ちてます」ザザー

紬「あらありがとう、それにしてもりっちゃんも澪ちゃんも大胆ねー。あんなこと大声でお互い言い合って・・・」ポタ・・・

律澪「「え?」」

51: 2010/07/11(日) 01:55:55.64
紬「あら二人共必氏だったから記憶に無い?こんな時のために録音しておいたのよー」

唯「流石ムギちゃん!」

梓(絶対個人的な理由だ・・・)





ボイスレコーダー再生中・・・

53: 2010/07/11(日) 01:57:41.34




唯「と、いう訳で」

梓「落ち着きましたか二人共?」

澪「はい・・・」

律「おう・・・」

54: 2010/07/11(日) 02:00:16.33
私は机に突っ伏したまま動けないでいる。

さっきは律に許してもらうことに必氏だったから気にしてなかったけど、色々とんでもないことを口走っちゃっていたからだ。

唯「さっきはすごかったよねーりっちゃん。『澪に可愛いって言って欲しかっただけなのに!』なんてさー」

梓「澪先輩も返す刀で『あまりにも可愛かったから』、『私が一番で居たいから』ですもんね。思い出すだけで砂吐きそうです」ザー

唯「また出ちゃってるよあずにゃん」

二人共お願いだからあまり掘り返さないで欲しいなあ・・・。

というか、何より・・・もう私の気持ちが律にばれちゃったよなあ・・・。

57: 2010/07/11(日) 02:02:43.51
紬「あれだけ言っちゃえばね~」

澪「心を読まないで下さい」

紬「ふふふ」

でも、そうだよな。あれだけ言っちゃったんだ。

だったら今日は勢いに任せて、大事なことをきちんと伝えるべきなのかもしれない。

いつも律に頼ってばかりじゃなくて、私から動くんだ。

58: 2010/07/11(日) 02:06:10.42
澪「律!」

そうと決めると私は勢いよく跳ね起きた。

律「な、何?」

律も同じ状態だったらしく、私に驚いて跳ね起きる。

皆もびっくりしたみたいで、私に注目している。

それでも私は、誰から見られていようともどうしても伝えなければいけない言葉を紡ぎだす。

澪「私、律のことが―」


fin

60: 2010/07/11(日) 02:07:20.25
おまけ



澪「あの、ムギさん、お願いがあるんですけど」

紬「あら何?二人共改まって」

律「さっきのボイスレコーダー、消していただけませんか?」

紬「あらいいわよ」

澪「え!?」

律「本当に!?」

紬「勿論よ。二人に確認させる為に、って言ったじゃない?」

澪「よ、良かった・・・!」

律「あれが残ってたら辛いものがあるからな・・・!」

紬「あらそんな事無いのに」

澪「と、とにかくありがとうムギ!」

紬「別に(もう一つ録音してあるから)いいのよ~」

梓(ボイスレコーダー、一つじゃないんだろうなあ・・・)

62: 2010/07/11(日) 02:16:54.61
支援して下さった方、どうもありがとうございました。

りっちゃんが髪下ろすとあんなに可愛いのに「おかしーし」とか言うのは、
澪が何か言ったからに違いないと思って書いてみました。

見てくださっている方が居るならりっちゃん視点でのこの話も書いてみたいと思っています。

・・・りっちゃん視点は需要はあるでしょうか?w

69: 2010/07/11(日) 02:24:01.08
需要が0ではないようなので、お言葉に甘えて書かせていただきます。

下書きがあった澪視点より時間がかかると思いますが、お付き合い下されば幸いです。

71: 2010/07/11(日) 02:29:19.95
ちくしょう、油断した。

まさか唯にアレをとられるなんて。

梓「また練習もせずにじゃれあって・・・」

紬「まぁまぁ、いいじゃない」

向こうでムギと梓がそんなことを言っている。

梓よ、これはじゃれあってる訳じゃない。

唯はどういうつもりか知らないが、私にとっては大切な問題だ。

72: 2010/07/11(日) 02:32:21.88
唯「そんなことないよー!りっちゃん可愛いよー!」

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、唯が人のカチューシャを掲げて騒いでいる。

律「辞めろってマジで!こんなの私の柄じゃないから!恥ずかしいっての!」

アレとはカチューシャのことだ。カチューシャを唯にとられた私はかなり狼狽している。

律「頼むからカチューシャ返せって!」

唯「だって前髪下ろしてるりっちゃん可愛いよー?」

73: 2010/07/11(日) 02:36:11.62
そんな訳ないだろう!前髪を下ろした自分が似合わないなんてことはとっくの昔にわかってるんだよこっちは!

律「んな訳ないだろ!私にはこんなの似合ってない!」

その気持ちを言葉に出して、私は私の大切な幼馴染――秋山澪――の方に視線を向ける。

その刹那、澪と目が合う。

律「!」

目が合った瞬間に、私は澪に目を逸らされてしまった。

だから言ったのに・・・!私はこんなの似合ってなくて、こんな姿を澪に見られたくないのに・・・!

あ、やばい。これはひょっとしなくても無理だ、我慢しきれない。

74: 2010/07/11(日) 02:41:57.73
思わず私は動きを止めてしまった。

唯「りっちゃん、どうしたの?」

そんな私を心配した唯に話しかけられると、

律「わ、私は前髪下ろすのなんて柄じゃなくて・・・」

律「こんなの本当に似合わなくて嫌なんだよ・・・」

やっぱり駄目だった、我慢しきれず私の目から涙が零れ始める。

76: 2010/07/11(日) 02:46:14.25
唯「り、りっちゃん!?」

紬「りっちゃん!?」

梓「律先輩!?」

澪「・・・・・」

澪は先ほどと変わらず、こっちを見てくれようともしない。

だから私はカチューシャを外したくなくて、前髪を下ろしたくなんてなかったんだ。

昔、髪型を変えてみるのもいいかななんて思って一度だけ挑戦したこともあった。

でも、その結果私は自分にそういうのが似合わないなんてことを痛感させられてしまった。

そう、昔一度だけ、大好きな澪に前髪を下ろした自分を見せたあの時以来――

77: 2010/07/11(日) 02:48:41.22
―――――――――中学生時代

澪「・・・」

律「・・・」

澪「ふぅ」

お?澪宿題終わったかな?

78: 2010/07/11(日) 02:49:56.70
律「あ、宿題終わった?見せて見せて」

澪「駄目」

律「別にいいじゃんよケチー」

澪「自分のためにならないだろ」

律「ぶーぶー」

澪「わからないところは教えるからちゃんと自分でやりなさい」

律「ちぇー」



律「澪、早速わからん」

澪「早っ!」

いつも通り、本当にいつもと変わらない会話を澪と交わす。

79: 2010/07/11(日) 02:51:50.86




律「終わったー」

澪「お疲れ様」

律「喉渇いたー、ご褒美に何か飲ませてー」

澪「結局私が殆ど教えただろうが・・・」

そうは言いながらも、澪は飲み物をとりに行こうと部屋を出る。

80: 2010/07/11(日) 02:55:20.02
律「・・・」

澪は見かけは綺麗で近寄り難い感じもするんだけど、本当はすごく優しい奴だ。

さっきみたいに勉強だって何だかんだ言いながら教えてくれるし、

私がこうやって甘えると文句を言いつつもやってくれることが多い。

素直じゃないからいつも一言多いんだけど、それがまた澪の可愛いところだったりもする。

82: 2010/07/11(日) 03:01:55.92
律「・・・さて」

澪が飲み物を取りに行ってる間に私はしておきたいことがあった。

さっきも言ったように、澪は本当に可愛い。

すごく女の子らしいし、顔もそこら辺のアイドルなんかよりよっぽど可愛いと思う。

けどその幼馴染の私と言えば、まず女の子らしくなかった。

正直、澪とこんなに仲良いのが不自然だと思うくらい。

83: 2010/07/11(日) 03:07:42.36
そんな時、お風呂上りに気付いてしまったのだ。私って髪下ろしたら結構女の子らしいんじゃないかってことに!

これだったら澪と一緒に居てもおかしくないだろうし、私だってきっとアイドル顔負けじゃん!?

・・・なーんて言ってみたけど、正直そんなことはどうでも良かった。

澪はいつもの私が良いって言ってくれるし、アイドルがどーのなんてことも全く興味は無い。

84: 2010/07/11(日) 03:11:05.14
カチューシャを外して前髪を整え始める。


ただ、私は髪を下ろしていつもより女の子らしくなった自分を見て思っただけなんだ。

これなら、澪が私のこと可愛いって言ってくれるんじゃないかなーって・・・。

ああ、こんなの私の柄じゃないかもしれない。

髪下ろして考え方までちょっと変わっちゃったか私?

87: 2010/07/11(日) 03:15:11.40
そんなことを考えながら髪を整えていると、階段を登る澪の足音が聞こえた。

急いで前髪を整えた後、私は慌ててドアの方に背を向けてしまった。

あんなこと考えてたから顔が赤いぞ私。早く治まってくれ。

そして足音がドアの前までやって来た。

澪「律、飲み物持って来たぞー」

88: 2010/07/11(日) 03:21:21.19
律「う、うん。ありがとう」

まだ顔が赤い。早く、早く治まれ。

澪「?」

背を向けている私を不思議に思ったのか、澪は少しの間立ち尽くしていた。

その後、澪が飲み物をテーブルの上に置いた。そして私もそのタイミングで平静を取り戻した。

よし!頑張れ田井中律!

89: 2010/07/11(日) 03:26:20.21
律「実は澪にもご褒美があります!」

澪「ど、どうした急に」

私が言うと、澪は驚いたようだった。

律「という訳で!じゃーん!」

そう言いながら、私は振り返った。

90: 2010/07/11(日) 03:29:38.56
澪「―」

澪は振り向いた私を見て、動きを止めた。

というか、そんな止まらないでくれ。やってる私も恥ずかしいんだからさ。

律「どうだ?美少女りっちゃんのイメチェンは?」

反応を促すように言葉を続けてみる。

相変わらず澪からは反応が無い。

92: 2010/07/11(日) 03:35:04.02
律「な、何で何も言わないんだよ・・・」

流石にかなり辛くなってきた。澪、お願いだから何とか言ってくれって・・・。

澪「わ、悪い」

よ、ようやく反応してくれたか!

しかも澪さん、ちょっと顔が赤いですよ?これはやっぱり似合ってるってことかな?

律「自分でも結構似合ってると思うんだよなー、どう?」

澪の反応を見て、調子に乗ってくるっと回ってみせたりする。

93: 2010/07/11(日) 03:39:48.01
律「澪に感想聞いて良い感じだったら今後はこの髪型で行こうかなと思っててさー」

澪がそんな反応してくれるんだったらもうこの髪型の私こそがりっちゃんってことでいいな!

ありがとうカチューシャ!今まで頑張ってくれた君のことは忘れない!

律「なぁーどうなんだよ澪ー」

更に調子に乗って畳み掛けてみる。

94: 2010/07/11(日) 03:43:00.05
律「なぁ澪ってば

澪「そ、そんなの駄目だ!」

澪が叫んだ。

律「・・・え」

95: 2010/07/11(日) 03:47:22.69
澪「や、やっぱりいつもの髪型の方が律らしくて断然いいと私は思う!」

た、確かに私は澪と逢った頃からあの髪型だけど・・・

澪「そういう髪型って律の柄じゃないしさ」

確かにあんまり普段は女の子らしくないかもしれないけど、偶にはこんな髪型だって・・・

澪「正直そこまで似合ってるとは言えないと思う!」

・・・ただ私は澪に、そういう髪型も似合うとか、言って欲しかっただけなのに・・・。

96: 2010/07/11(日) 03:49:18.44
律「・・・」

やばい、駄目だ。泣きそうだ。

律「だ、だよなー・・・、やっぱりいつもの髪型の方が私らしいもんな!」

精一杯の空元気を振り絞って私は言う。

澪「う、うん!」

律「ごめんなー、急に変なこと聴いちゃって」

澪「ぜ、全然構わないよ。むしろ先にその髪型見せてくれて嬉しかったよ」

99: 2010/07/11(日) 03:54:47.46
澪は優しい奴だからそんな風に言ってくれたけど、その優しさが却って今の私には辛かった。

律「澪に感想言ってもらえて助かったよ、じゃ私はそろそろ帰るわ」

無理だ、これ以上この場に居たら私は泣き出してしまう。

澪「え?律?」

澪の言葉をこれ以上聞いてしまう前にそそくさと澪の部屋を出た。

100: 2010/07/11(日) 03:57:26.63




部屋に戻るなり私はベッドに飛び込んだ。

律「酷いよ澪・・・」

その瞬間、今まで何とか抑えていたものが溢れ出た。

律「私は澪に可愛いって言ってもらいたかっただけなのに・・・!」

そのまま暫く私は泣いていた。

101: 2010/07/11(日) 03:59:39.16


律「・・・」

泣いて冷静になった後、私は考えた。澪は普段、あんなことを言う奴じゃない。

その澪があんなに言うくらいなんだ。本当に私にあの髪型は似合ってなかったってことなんだろう。

律「なのに一人で舞い上がっちゃって・・・馬鹿みたいだな私・・・」

もう一度私はベッドに突っ伏して泣いた。

102: 2010/07/11(日) 04:04:28.31






律「おう澪、おはよー」

澪「お、おはよう」

いつも通り、本当にいつも通り、私は澪に話しかける。

104: 2010/07/11(日) 04:06:05.81




律「でさー、昨日のあの番組でさー・・・」

いつも通りの他愛無い話題を澪に振る。

しかし、当の澪からは返答が無い。

105: 2010/07/11(日) 04:08:07.19
律「澪?聞いてるか?」

澪「あ、悪い。ボーっとしてた」

律「ちゃんと聞けよー、全くー」

澪「ごめんごめん」

澪はいつも通りの澪だった。

昨日の私の帰り際の態度について問いただされるかとも思ったが、そんなことも特に無く普段通りの会話が交わされた。

106: 2010/07/11(日) 04:10:07.59
・・・私としては、正直昨日の話題を掘り返したくはない。

あんな風に言われたのはかなりショックだったけど、掘り返して気まずくなるのも嫌だったし、

何より私は泣いてるところや落ち込んでるところを人に見せるのなんて柄じゃない。

澪のことを素直じゃないなんて言ったけど、私も相当素直じゃないな。

我ながら辟易するけど、これが田井中律という人間なのだから仕方が無い。

澪もこの話題に触れて来ないし、こんな話はもう終わりだ。

いつも通り澪と一緒に居る時間を精一杯楽しもう。

――――――――――――――――――

107: 2010/07/11(日) 04:12:41.08
なんて事が中学生の時にあった。

その時以来、私は人前で前髪を下ろしたりしなかったのに・・・。

かと言って、唯はそんな事情は知らないし唯が悪いなんて言うつもりは無い。

むしろ急に泣き出して困惑させてしまって、私が悪いとすら思う。

だから今回も泣いたりなんてしないでいつも通りやり過ごせば、良かったのに・・・。

108: 2010/07/11(日) 04:15:10.94
ああもう、本当に情けない。本当にどうしようもないぞ私。

まだ涙は止まってくれない。

理由がよくわからない唯やムギや梓は慌てている。そりゃそうだよな。

澪「律」

そんな折、澪がそう言いながら立ち上がった。

109: 2010/07/11(日) 04:17:19.09
私は思わず怯えたように身を震わせてしまった。

他の皆も思わず澪の方に向き直る。

澪はいつになく真剣な表情だ。

これから何を言われるのか、検討もつかず私がうろたえていると

澪「律、本当にごめん!」

澪がそう叫びながら頭を下げた。

110: 2010/07/11(日) 04:19:47.27
私も含めた皆、皆事情が呑み込めず固まっている。

すると澪が次の言葉を紡ぎ出した。

澪「中学の時、律が前髪下ろした姿を似合わないなんて言っちゃったけど、あれは嘘なんだ!」

律「・・・」

・・・え?ちょっと待って、澪さん。いきなり何を言い出すの?

113: 2010/07/11(日) 04:22:49.52
さっき以上に訳が分からなくて固まっていると、澪から更に言葉が出てきた。

澪「本当にごめん!とっさにあんなこと言っちゃって!しかもあの時はそんなこと何も言わないで今更になって・・・!」

唯「え?どういうこと?」

梓「澪先輩、私達の存在思いっきり忘れてますよね・・・」

紬「まぁまぁ(百合の匂いがするわね・・・)」

澪「今更になって謝罪するなんて都合が良すぎるかもしれないけど・・・本当に反省してる!」

114: 2010/07/11(日) 04:26:40.36
律「・・・何だよ、それ」

本当に今更すぎるよ・・・!

律「私はあの時、本当にショックだったんだぞ!」

私があの時どんな気持ちだったかわかってるのかよ!

律「あんまりあんなことしないけど、折角可愛くできたと思ったから澪に見て欲しくて!」

なのに!柄じゃないとか、似合わないとか言われて!

律「私は他の誰でもない!澪に!似合ってるって、可愛いって言ってもらいたかっただけなのに!」

他の誰でもない、澪にだけはそんなこと言われたくなかったのに!

115: 2010/07/11(日) 04:29:54.72
唯「しゅ、修羅場?これ修羅場?」

梓「完全に私達空気ですよね」

紬「うふふふふふふふふふ」ツー

普段だったら私が絶対言わないような言葉を澪にぶつけてしまった。

澪は臆病だからこんな風に大きな声出されるのがすごく怖い筈だ。

そんな風にわかっていても、感情が抑えきれない。私にとってはそれ程のことだったんだ・・・!

116: 2010/07/11(日) 04:35:03.83
澪「本当はすごく似合ってた!」

律「え」

続けて何を言ってやろうかと思っていた私の出鼻は、澪の一言に完全に挫かれた。

澪「前髪を下ろした律を見た時、あまりにも可愛くて、抱きしめたいとか、キスしたいとかそういうことだって思った!」

な・・・!何を急に言い出すんだこいつは・・・!?

117: 2010/07/11(日) 04:36:23.51
澪「でも、律が今度からそういう髪型にしようかなって言ったの聞いて」

今更そんな訳のわからない言い訳が・・・!

澪「律のこんな可愛いところ誰にも見られたくないって思って・・・」

あ・・・うあ・・・。

唯「わーりっちゃん顔真っ赤ー」

118: 2010/07/11(日) 04:38:51.21
澪「こんな可愛い律を見られたら律をとられちゃうんじゃないかと思って・・・」

こ、これは恥ずかしいなんてもんじゃ・・・!

梓「私砂吐きそうです」ザー

唯「もう吐いちゃってるよ、あずにゃん」

澪「あの時、ううん、今でも律の一番近くに居たいからそんなの絶対嫌だって思って」

み、澪さん・・・。わ、わかったから・・・。

119: 2010/07/11(日) 04:41:31.65
梓「ムギ先輩鼻血出過ぎです、これ使って下さい」ザー

紬「あら梓ちゃん、ありがとう」ボタボタボタ

澪「だからとっさに似合わないなんて言っちゃって・・・!」

澪「私の勝手な我侭で、それで律を傷つけちゃって・・・本当に本当に反省してる・・・」

も、もういいって澪・・・!

120: 2010/07/11(日) 04:44:08.38
澪「だ、だから・・・お願い、律・・・私のこと嫌いにならないで・・・」

うわあああ何だよこれ!?殆ど愛の告白じゃないかよ!?

澪「ご、ごめん、律・・・私本当に反省してるから・・・許して・・・」

なんて思っていたら、澪が泣き出してしまった。

律「み、澪!?」

私は慌てて澪の元に駆け寄る。

121: 2010/07/11(日) 04:46:16.32
澪「ごめ、ごめんなさい・・・もう絶対しないから・・・」

律「わ、わかった!もう気にしてないから泣き止め!」

私は澪の泣き顔なんて見たくないんだよ!

澪「本当・・・?」

律「澪は私の言うこと信じられないのか?」

澪「ううん・・・」

澪「この世界中の誰より信じてる、律のこと大好きだもん」

律「うん、私もだよ、澪」

122: 2010/07/11(日) 04:47:05.06
唯「何か今日はいつにも増してすごいね二人共・・・」

紬「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」ボタボタボタボタ

梓「ムギ先輩鼻のティッシュ変えて下さい、既に詰めたティッシュの先から滴り落ちてます」ザザー

紬「あらありがとう、それにしてもりっちゃんも澪ちゃんも大胆ねー。あんなこと大声でお互い言い合って・・・」ポタ・・・

律澪「「え?」」

紬「あら二人共必氏だったから記憶に無い?こんな時のために録音しておいたのよー」

唯「流石ムギちゃん!」

梓(絶対個人的な理由だ・・・)




ボイスレコーダー再生中・・・

123: 2010/07/11(日) 04:49:48.60



唯「と、いう訳で」

梓「落ち着きましたか二人共?」

澪「はい・・・」

律「おう・・・」

私は机に突っ伏したまま動けないでいる。

さっきは感情任せに喋っていたから気にしてなかったけど、色々とんでもないことを口走っちゃっていたからだ。

124: 2010/07/11(日) 04:51:52.51
唯「さっきはすごかったよねーりっちゃん。『澪に可愛いって言って欲しかっただけなのに!』なんてさー」

梓「澪先輩も返す刀で『あまりにも可愛かったから』、『私が一番で居たいから』ですもんね。思い出すだけで砂吐きそうです」ザー

唯「また出ちゃってるよあずにゃん」

お願いだから二人共、あんまり掘り返すなよ・・・。

澪の言葉を恥ずかしいだの何だの言っておいて、私の方が澪より先に恥ずかしい事言っちゃってるじゃないかよ・・・。

125: 2010/07/11(日) 04:56:13.47
紬「あれだけ言っちゃえばね~」

澪「心を読まないで下さい」

紬「ふふふ」

そんなことを考えているとふと澪とムギの会話が聞こえてきた。

何気に今澪がとんでもないことを言ってたような気がするけど気のせいか?

しかし、今後澪と会話する時はどうしよう・・・。

126: 2010/07/11(日) 05:03:19.10
あんなことお互い言っちゃった後だし、私も澪も素直じゃないからすごくぎこちなくなっちゃいそうな気が

澪「律!」

そんな私の思考を遮る様に、澪が叫んだ。

律「な、何?」

驚いて、慌てて身を起こすと澪は真剣な目でこちらを見つめている。

その表情を見て、私は懲りずに期待してしまった。

きっと今から澪は私に何かを言おうとしている。

そしてその何かは、今私が澪に一番言って欲しいと思っていることだって――

澪「私、律のことが―」


fin

128: 2010/07/11(日) 05:07:10.87
今度こそ終了です。

澪視点を先に考えていたので、
りっちゃん視点はちょっとまとまりが悪かったかもしれませんけど楽しんで書かせていただきました。

支援して下さいました皆様方、改めて本当にありがとうございました。

129: 2010/07/11(日) 07:22:40.10

130: 2010/07/11(日) 07:28:04.92

いい澪律

引用元: 澪「やっぱり私のせい、だよな・・・」