1: 2011/02/05(土) 04:51:27.30
憂「お姉ちゃん....」





憂「わたしが...わたしがやったんだ...」



憂「....どうしよう...」


4: 2011/02/05(土) 04:55:45.47
三時間前


唯「ういーーただいまー」

憂「お帰りお姉ちゃん。早かったね、部活なかったの?」

唯「うん!なくなったんだー」

唯「澪ちゃんとりっちゃんが用事あるんだってー」

9: 2011/02/05(土) 05:03:19.69
憂「そうなんだ。」

唯「うん!ムギちゃんのケーキ食べてないから元気でないよう」

唯「アイスあるー?」

憂「お姉ちゃん。」

唯「うん?」

憂「話があるの。」




11: 2011/02/05(土) 05:09:00.76
唯「ほう!なになにー?憂元気ないよ?」

憂「あのね...」

唯「...」

憂「わたしお姉ちゃんが好きになっちゃったの」

唯「ほえ?」

憂「すごく苦しくて...」

唯「...」

憂「ごめんね...」



14: 2011/02/05(土) 05:14:15.30
唯「う、ううん!わたしも憂の事が大好きだよ!?ずっとずっと!」

憂「違うよ...お姉ちゃん」

唯「違くないよ!そんな風に言ってくれて凄く嬉しい!ありが」

憂「違うの!」

唯「え...」

16: 2011/02/05(土) 05:22:56.10
憂「お姉ちゃんの好きとは違うんだよ」

唯「そんなこと...」

憂「わたしおかしくなっちゃったみたいなんだ」

憂「お姉ちゃん見てるといけない事考えちゃうんだ...」

唯「憂...」

憂「もう我慢できないよ...お姉ちゃん」

唯「憂...泣かないで」

唯「よしよし」

憂「お姉ちゃんは...私とキスできる?」

唯「キ...キス?」

17: 2011/02/05(土) 05:28:26.97
憂「うん...恋人同士がするみたいなやつ」

唯「憂...あのね」

憂「ごめんねお姉ちゃん。わたしね、お姉ちゃんが寝てる時、たまにしちゃうんだ。」

唯「!」

憂「しかも...その...舌とかも」

唯「憂!」

憂「ごめんなさい...」

唯「憂...駄目だよきっと..それは...わたしたちは姉妹だから...」

憂「お姉ちゃん...」


30: 2011/02/05(土) 06:59:04.59
唯「憂の事、大好きだよ。でも..大好きで、大切だからこそ、それは駄目だと思うんだ...」

憂「お姉ちゃん...お姉ちゃんっ!」

唯「憂、わかって?ね?」

憂「わたし...小さい頃は、お姉ちゃんとずっと一緒なんだって思ってた。でも違ったんだ。」

憂「お姉ちゃんはこれからいろんな人と出会って、好きな人と結婚して...その人のためにご飯つくって、洗濯して。」

憂「その人にしか見せない顔で笑うんだよ」

憂「無理だよ...そんなの」

唯「わたしは...どこにもいかないよ?憂。ずっと一緒だよ!」

唯「憂が1番なんだよ!?」

憂「ううん。現に4月にはこの家にお姉ちゃんはいなくなる。私はもうすぐひとりぼっちなんだよ」

唯「憂の為なら1人暮らしなんてしない!したくないもん!」

憂「お姉ちゃん...ごめんね...」

憂「そんな小さな問題じゃないんだ。」

31: 2011/02/05(土) 07:15:14.34
憂「もう駄目...限界なの!!」

唯「う、うい...」

憂「離して!!」ダッ

唯「憂!!」

タタッ

唯「待って!!」

タタタッ
ガチャッ

唯「うい!!」




32: 2011/02/05(土) 07:16:11.27
唯「靴...なんていいや!待ってよ憂!!どこいくの!?」

ガチャッ

タタタッ


唯「ういーーーーー...!?」





キキーーーーーーーー!!!!!!!



ドンッ!!

33: 2011/02/05(土) 07:24:02.17
ドンッ!!!!





憂「...え?」


憂「お姉ちゃ...」




ーー振り返っちゃいけなかったんだ。

34: 2011/02/05(土) 07:25:43.27
唯トラはいりましたー

36: 2011/02/05(土) 07:39:20.80
運転していた人が電話に向かって必氏に叫んでいる。

もちろん119番だろう。

でも、きっとそれは無意味だ。

お姉ちゃんの下にはまるで黒い水溜りみたいに血が広がっているし、右手と右脚は明らかに不自然な方向に曲がっている。

もちろん、お姉ちゃんはピクリとも動かない。

私は、私の中に未だかつて感じた事のない、猛烈な恐怖が広がっていくのを感じた。

しかしこんな状況だというのに頭は異常に冷静だった。

私は、お姉ちゃんの手を振り払い家を飛び出した。
お姉ちゃんはすぐに私の後を追った。靴も履かずに。
そして、家をでてすぐに、右方から走ってきた乗用車にはねられたのだ。

38: 2011/02/05(土) 07:52:26.50
私は、この世で1番恐ろしい光景を、10m程離れた所から呆然と見ていた。




私がーー

そう。

憂「私がやったんだ...」

憂「お姉ちゃんを...私が...」


ーお姉ちゃんの笑顔を思った。ギターを弾いてるお姉ちゃん、アイスを食べてるお姉ちゃん、頭を撫でてくれるお姉ちゃん。
軽音部の皆さんと楽しそうに話すお姉ちゃん。ライブの時のお姉ちゃん。
風邪をひいた私の為に、お粥を作ってくれたお姉ちゃん。


私は一体何を求めていたんだろう?







39: 2011/02/05(土) 07:58:03.01
気づくと病室にいた。

最初は何が起こったのかわからなかったが、すぐに全てを思い出した。

あの後、きっと倒れでもしたんだろう。

病室には、他に誰も居ないようだった。


憂「お姉ちゃん....」



憂「わたしが...わたしがやったんだ...」



もうこの世界にお姉ちゃんはいないのだ。

だとしたら...私はこの世界にもう...


40: 2011/02/05(土) 08:05:57.71
しばらくして、ドアが開いた。

憂「おかあさん...」

母「憂、気がついたのね」


笑ったつもりだったのだろうか?
不自然に口尻を動かした母の髪はボサボサで、目は真っ赤に腫れている。
母はまるで別人のような姿になっていた。

それでも...それでも聞かずにはいられなかった。


憂「お姉ちゃんは...?」

42: 2011/02/05(土) 08:16:35.75
母「大丈夫よ...。大丈夫だからっ..」

母「うっ...」


大丈夫なのになぜ泣く必要があるのだろう。



母に...何と言えばいいんだろう。

お姉ちゃんを頃したのは私なのだ。


憂「お姉ちゃん...」

喋ると、口に塩気を感じた。
その時になって初めて、自分も泣いていた事を知った。




43: 2011/02/05(土) 08:29:54.44
時計は午前10時を指していた。
私は半日以上眠っていた事になる。

お姉ちゃんはもう天国に着いているのだろうか?

ぐずぐずしている暇はない。

お姉ちゃんは私がいないと何もできないのだ。

そして私もお姉ちゃんがいないと何もできない。


憂「...トイレいってくるね」

母「...大丈夫?一人でいける?」

憂「うん。私は大丈夫。」

母「そう。」

私は病室を出た。

憂「ごめんなさい...お母さん、許して...」

タタタッ

62: 2011/02/05(土) 13:17:43.46
1時間前

ーー頭が猛烈に痛い。
いや、頭だけではない。脚、腕、腰、首、挙げればきりがないくらいに、身体の至る所が強烈な痛みに襲われていた。


唯(私は...氏んじゃったの?)

目が冷めてから恐らく数十分がたっていた。
それなのに、自分が今生きているのか氏んでいるのか、よくわからなかった。

あいかわらず身体の痛みは凄まじかった。遠くのほうの物音も聞き取る事ができる。
すぐそばではピッピッ...という電子音が一定の感覚で鳴っている。

しかし、意識がこれほどはっきりしているのに、腕や脚を動かす事も、しゃべる事もできなかった。
それどころか、目を開けることすらできない。

呼吸をしている感覚もなかった。

これは一体、どういうことなんだろう?




唯(病院...なのかな?)

65: 2011/02/05(土) 13:43:23.64
唯(たぶん...病院。この雰囲気は病院だよ。)

唯(生きてるんだ...)

唯(わたし、憂を追いかけて...)

唯(きっと車にひかれちゃったんだ)

憂ーー

唯(憂は!?大丈夫かな...どこにいるんだろう)

憂に会いたい

唯(憂にひどい事しちゃったんだ。憂は本当の気持ちを伝えてくれたのに。)

唯(私はそれを受け入れてあげなかったんだ)

唯(世界でただ1人の妹のわがままを聞いてあげられなかった)



73: 2011/02/05(土) 16:25:09.49
すぐ近くで聞き慣れた声がした気がした。

余りの激痛に意識が飛んでしまったんだと思う。たぶん...ほんの数分間だ。

間違いない。母の声だ。どうやら父もいるらしい。

母「二度と意識が戻らないということでしょうか...」

母は泣いている

男「率直に言いますが、目を覚ます可能性は限りなくゼロに近い」

男「運ばれてきた時には既に脳を酷く損傷していました。最善を尽くしましたが..」

母「そんな...唯...唯」

唯(おかあさん!!)










81: 2011/02/05(土) 18:35:38.18
父「そんなバカな...そんな...」

男「現在の医術ではこれが限界...残酷なようですが...本来なら氏は免れない状況でした。正直、生きているのが奇跡なんです」

母「奇跡...?」

朦朧とする意識の中で母の嗚咽が響いた。

今すぐにでも母の胸に飛び込みたかった。
しかし、抱きつくことはおろか、しゃべる事も、その姿を見ることさえできなかった。

ーー目の前にいるのに、会えない

唯は言葉にできない程の絶望が広がっていくのを感じた。

84: 2011/02/05(土) 19:00:51.45
同日午前10時30分


ーー唯が事故に?

さわちゃんの表情を見る限り、ただ事ではなさそうだった。

ホームルームの時から問い詰めていたのに、今まで事故の事を話さなかったのもどう考えてもおかしい。


律「嘘だろ?車に轢かれたって...」

澪「...それで今はどういう状況なんですか!?」

紬「いつ!?いつ事故に!?」

さわ子「みんな落ち着いて...命に別条はないそうよ。親御さんも酷く取り乱していて、いつ事故に会ったのかはわからないわ...。」

澪「よかった...」

律「病院を教えてくれ!!」

紬「教えてください!!」

さわ子「あなた達...私も授業が終わったらすぐに病院へ向かうわ。だから一緒に

律「頼む!!」

いつの間にか、私は泣いていた。

85: 2011/02/05(土) 19:13:20.93
取り越し苦労であってほしかった。

病室についたら、ケロっと笑いかけてきてくれる、いつものあの笑顔で「みんなー!きてくれたのー?」みたいな。
その可能性もなくはなかった。

だけど、私は凄く嫌な予感がしていた。第六感ってやつだろうか?

二度と唯に会えない。ーーそんな気さえしていた。



86: 2011/02/05(土) 19:33:24.98
隣街の大学病院だった。

それくらいの距離ならバスで20分もあれば着く。

私たちは走って学校を飛び出し、走って500メートル程離れたバス停まで来た

澪「はぁ..はぁ....」

律「クソ!10分後だ!」

バスの到着は11時5分だった。



87: 2011/02/05(土) 19:34:36.51
紬「ねえりっちゃん」

律「どうしたムギ」

紬「みんなは...いいのかな?」

律「みんな?」

紬「梓ちゃんや、和ちゃんも...この事を知ったら、私たちと同じ事をすると思うわ。」

律「梓...和...」

そこまで頭が回らなかった。
私は、一刻も早く自分の目で唯の無事を確認する事。それだけを考えていたから。

律「仕方ない...申し訳ないけど...きっとさわちゃんと一緒にくるはずだ。」

私達は全員手ぶらで学校を飛び出して来てしまった。
皆ケータイはカバンの中だから、電話で知らせる事も出来ない。

澪「唯...唯なら大丈夫だよな」

紬「ええ。唯ちゃんだもの」

律「ああ...」

そう思いたかった。

89: 2011/02/05(土) 20:27:59.60
永遠の様に長い10分が過ぎ、ようやくバスに乗ることができた。

平日の昼間の車内はガラガラで、最初は三人で乗車口近くの席に座っていた。

だけどどうにも落ち着かない私は、立って待つ事にし、つり革につかまった。

発車して5分くらいだろうか?ちょうどいつも下校時に私と澪、唯と紬と梓で別れる所を通り過ぎた時だ。

私は見た。
一瞬だったけど、もちろん自分でも信じられなかったけど...
確かに見た。

律「唯!!!」

澪「!?」

律「唯だ!!!」

私はすぐにバスの後方部分に駆け寄った。


91: 2011/02/05(土) 20:52:55.46
私は最後部座席の背もたれに乗り出して何とか確認しようとしたが、すぐに唯と思われる後ろ姿は豆粒の様に小さくなり、やがて見えなくなった。

澪「どういうことだ!?」

律「唯が歩いてたんだ!!確かに見たんだ!!」

澪と紬は唯が歩いていた歩道とは反対側の座席に座っていたから、気づかなかったのだろう。

澪「落ち着け!律!そんなわけないじゃないか!!」

律「本当だ!信じてくれ!」

確かに、交通事故にあったばかりの人間が、こんな所を1人で歩いているなんてあり得ない事の様に思えた。




92: 2011/02/05(土) 20:54:28.32
見間違い。そう思われてもしかたなかった。

だけど...

紬「りっちゃん、本当なの...?」

確かに見た。一瞬だったけど、今もはっきりと思い出せる。唯は、寝間着みたいな服に、カーディガンを羽織っていた。

律「ああ、本当だ。とにかく、私はバスを降りて見てくる。」

澪「律!」

律「2人は先に病院に行っててくれ。私も確認したら、すぐ行くよ。」

私は停車ボタンを押した。

93: 2011/02/05(土) 21:09:28.63
本当は...本当はあの時、お母さんに抱きしめて欲しかった。
抱きしめられながら、涙が枯れるまで泣きたかった。

だけど、そんな事が許されるはずなかった。

私に泣く権利などあるはずないのだ。

私は...世界で1番愛している人を頃したのだから。

私がやらなければならない事は一つだった。

そんな事をしてもお姉ちゃんが私を許してくれるなんて事は、到底、あり得ない。

けれども、それ以外に選択肢はないのだ。

私は歩みを進める。








94: 2011/02/05(土) 21:21:48.91
あの病院へは何度か行った事があったから、自宅への道順は知っていた。

病院を出てしばらくは、お母さんが追いかけてこないか心配で小走りで進んだ。

歩いているうちにだんだんと見慣れた景色になってきた。

そういう景色を見ていると、お姉ちゃんとの思い出が容赦なく襲ってきて辛かった。

お姉ちゃんと手をつないで登校した事。
お姉ちゃんがプレゼントしてくれたマフラーを2人で巻いて登校した事。
お姉ちゃんがマラソン大会中にいなくなって、大騒ぎになった事もある。

それら全てが、有り得ない夢物語のように思えた。




97: 2011/02/05(土) 21:33:24.99
ずっと昔。お姉ちゃんに、『天国と地獄ってあるのかな?』と聞いた事がある。

お姉ちゃんは確か、『氏んだ人はみんな天国に行くんだよ。みんな!』と答えた。

本当だろうか?

もし、本当だとしたら、私はお姉ちゃんにまた会える事になる。

そんな事がもしあるのなら、私はお姉ちゃんにどんな顔をして会えばいいのだろう?

憂「違うよ...私が天国に行けるわけないよ。」

憂「もう二度とお姉ちゃんには会えない。」

それは当然だ。

だけど、その前にお姉ちゃんを少しでも、感じたい。

そう。私は最後の罪を犯す為に自宅へ向かっているのだ。

100: 2011/02/05(土) 21:47:46.96
律「唯!!!」


ーーえっ?

聞いたことのある声だ。

憂「律...さん?」


律「やっぱり唯だ!!はあ...はあ...やっぱり唯だったんだ!!」

姉の親友であり、軽音部の部長である先輩が駆け寄ってくる

律「唯!!心配したんだぞ!いやーよかった!」

律さんの目は潤んでいる。今にも泣き出しそうだ。

一瞬、何を言ってるのかわからなかったが、どうやら姉と私を間違えているらしい。
きっと髪を下ろしているからだろう。





101: 2011/02/05(土) 21:50:28.08
律「こんな所でなにやってるんだ!?唯!病院は!?」

憂「お姉ちゃんじゃない...です」

憂「私は...」



律「え...!?」

104: 2011/02/05(土) 22:01:19.73
どうやら私はとんでもない間違いを犯してしまったらしい。

改めて近くで見てみると、違う。
声も。唯じゃない。

律「憂...ちゃん?」


憂「...お姉ちゃんだなんて...ううぅっ...」

どうしよう...

律「...」



どういう訳か憂ちゃんはしゃがみ込んで泣き出してしまった。

105: 2011/02/05(土) 22:03:45.43


状況がサッパリだったが、自分がとてつもないヘマをしてしまったという事と、唯が、きっと憂ちゃんも、大変な状況に置かれている事は何となくわかった。

113: 2011/02/05(土) 22:42:03.51

母が出て行ってからも、父が側にいた。
母は『憂の様子を見てくるわ』といって出て行った。

父は泣きながら、ひたすらに私の名前を呼んでいた。

そこへ母がやってきた。

『憂がいなくなったの!!』

『何だって!?』

そういって2人とも私から離れて行った。


唯(憂が...いなくなった?)

それからしばらくの間、私は悪い頭をフル回転させて、状況を理解しようとした。


憂もおそらく入院しているのだろう。

あの時の状況からして、気絶でもしてしまったのかもしれない。

その憂がいなくなった...

憂は私の所へ来ていない...


悪い予感がした。

115: 2011/02/05(土) 22:56:24.00
唯(憂...変なこと考えちゃ駄目だよ......)


ーーそう。憂は私がこうなったのを、自分のせいだと思っている。

ひたすら自分を責めているだろう。

自分を責めて、責めて、責めて...


最終的に自殺。有り得なくはない。


唯(どうしよう...憂が!!憂が!!)


恐ろしかった。そこまで追い詰められた憂を想うと、頭がおかしくなりそうだった。

唯(何もできないの!?私は...お姉ちゃんなのに!!)


いつかと同じく...いや、それ以上に私は無力だった。

117: 2011/02/05(土) 23:14:02.87
バスの車内の私達は、殆ど言葉をかわさなかった。

目的地である大学病院に着いた時にも、澪ちゃんが『行こう』と言っただけだった。

私達は受付で平沢唯の病室を訪ねてから、5階に上がる為にエレベーターに乗った。

そしてついに、唯ちゃんの病室の前に到着した。

どうやらこの部屋に入院しているのは唯ちゃんだけのようだ。


トントン 澪ちゃんがドアをノックした。

ーー返事はない

トントン

ーー返事はない

眠っているのだろうか?御両親もいないようだ。

澪「入って大丈夫かな?」





119: 2011/02/05(土) 23:21:58.03
その時私は自分が病室に入る事を、少し恐れていることに気づいた。

理由はよくわからない。

だけど私は昔から勘が鋭かった。よく友達にテレパシー?と驚かれたものだ。



いや、そんな事を考えている場合ではない。
一刻も早く唯ちゃんに会いたかった。

紬「入りましょう」

私達は扉を開けた。


そこには、変わり果てた親友の姿があった。


122: 2011/02/05(土) 23:37:46.42
自分が何で泣いているのか、わからなかった。

律さんは私の横にしゃがみ込み肩を摩ってくれていた。

憂「うぅ...ごめんなさい..ひっく」

律「ううん。私こそ...その、ごめん。」

律「えっと、これから家に帰るの?」


そうだ。いかなくては。


憂「はい...ごめんなさい。私、その...急いでるんです...」


律「...そっか」



私は立ち上がり、律さんに頭を下げてから歩き出した。








123: 2011/02/05(土) 23:51:19.88
唯の容体など、聞ける雰囲気では無かった。

憂ちゃんは、私に背を向けて歩きだした。



ーー絶対におかしい。
憂ちゃんの服装はあまりに不自然だった。
寝間着にカーディガン。それにバスの中からでは気づかなかったが、なんと憂ちゃんが穿いているのはスリッパだった。

隣にしゃがんだ時に確認したら、唯が入院している大学病院の名前が書いてあった。


これではまるで、憂ちゃんが病人...
その上なんらかの理由で抜け出した、と考えるのが普通だろう。



律「憂ちゃん!」

私は勇気をだして呼び止める


126: 2011/02/05(土) 23:57:34.75
憂「はい...?」


律「家には、その...何しに帰るの?」


憂「えっと...着替えをとりに...」


律「そっか..。」

律「あっ、って事は今から病院戻るのかな...?もしよかったら、一緒に


憂「いえ、あの...今日はもう行きません。」


律「あ、そうだよね...ごめんね」


憂「いえ。では...」



ーー嘘をついている。そう思った。

130: 2011/02/06(日) 00:07:29.80
ただ、何故憂ちゃんが嘘をつかなければならないのか、とかそれ以上の事はさっぱりだった。

それでもやっぱり気になって、私は憂ちゃんの後を付けてみる事にした。


憂ちゃんが曲がり角を曲がったのを確認してから、小走りで追いかけた。

134: 2011/02/06(日) 00:19:33.09
頭を含め、身体のあらゆる所に包帯が巻いてある。右脚に至っては、元の太さの数倍にも包帯が膨れ上がり、それが専用の器具で吊るされている。
口には酸素マスクが付いているし、腕には点滴であろう管が刺さっている。

冷んやりとする沈黙に、ピッピッ...という規則正しい電子音だけが鳴っている。


澪「唯......!!」

紬「唯ちゃん...」



信じられなかった。

明るくて可愛らしい唯ちゃんに、それらはあまりにも不釣り合いすぎた。


135: 2011/02/06(日) 00:38:39.01
唯(澪ちゃん!!ムギちゃん!!)

唯(来てくれたんだ!)


唯(りっちゃんもいるのかな...あずにゃんは...?)

紬「唯ちゃん...寝てるわね...」

澪「...ああ」

どうやら2人だけのようだった。

唯(寝てないよ!!ムギちゃん!澪ちゃん!)

自分の右横に椅子があるらしい。
安っぽいパイプ椅子が軋む音がした後、ムギちゃんの匂いがした。

唯(何だか懐かしく感じる)


紬「唯ちゃん...早く、よくなるといいね」


澪「ああ。唯が戻るまで、ティータイムもおあずけだ。」

137: 2011/02/06(日) 00:54:46.79
唯(澪ちゃん...ムギちゃん...)

今日聞いた医者と思われる人の話を思い出した。

唯(わたし...一生、目が覚めないらしくて...だから、学校も行けないし...部活も...)


2人の声を聞いたら、自分の未来を考えてしまいそうになった。

違う。今はそんな事はどうでもよかった。

学校は、部活は、放課後ティータイムは、わたしにとってかけがえのない大切なものだった。





ーーそれでも、憂にはかなわなかった。

もう一度憂と会えるのなら、わたしはもう何もいらなかった。




139: 2011/02/06(日) 01:13:22.55
どれくらいの時間が過ぎただろう。

この部屋には時計が見当たらなかったから、10分経ったのか、20分経ったのか、私にはわからなかった。

唯ちゃんが目を覚ます気配はない。



もし、目を覚ましたら...
これほどの怪我だ。余程強力な鎮痛剤でも打たない限り、言葉では形容出来ない程の痛みが唯ちゃんを襲うだろう。

それを考えると、涙が出そうになった。

少なくとも、唯ちゃんは...そんな罰を与えられなければならない子ではないはずだ。

神様は...いないのだろうか。


澪「なあムギ...私達にできる事は何かな?」


紬「そうね...」


その時だった。


140: 2011/02/06(日) 01:25:55.60
澪「唯...!?」

紬「唯ちゃん...!」


唯の目からポロポロと涙が零れていた。


異様だった。よくよく考えれば唯はこの数十分間、寝返りどころか手の指一本動かしていない。

寝息を立てる事も、鼻を啜る事も、瞼を動かす事も...文字通り微動だにしないで眠っている。

そんな事が...あるのだろうか?


紬「唯ちゃん!!伝えたい事があるの!?」


澪「え!?ムギ...どういう」


根拠はなかった。でも...きっとそうだと思った。




141: 2011/02/06(日) 01:36:44.70
澪「唯!!」

紬「唯ちゃん!!」


2人で唯ちゃんの顔を覗き込む。

まだ、唯ちゃんの涙は止まらない。







...う...い......





えっ!?




144: 2011/02/06(日) 01:41:17.75

紬「今、ういって...」


澪「うん...!口が動いた...気がする!」


紬「憂ちゃんは!?憂ちゃんはどこ!?」

そもそも、何で憂ちゃんがここに居ないんだろう。絶対におかしい。唯ちゃんがこんな状態だったら、それこそ24時間側にいるはずだ。
憂ちゃんはそういう子だもの。


紬「何かあったんだわ!憂ちゃんにも!」



!!


澪「ムギ!!!」

紬「澪ちゃん!!!」





146: 2011/02/06(日) 01:50:39.26
私達はすぐに病室を飛びだした。


間違いない。今憂ちゃんはりっちゃんと一緒にいる。


りっちゃんは憂ちゃんを唯ちゃんと間違えたんだ!


憂ちゃんの身に何が起きたのかは分からない。


だけど、行くしかなかった。



紬「急ぎましょう」


澪「ちょっと、待って!」


澪ちゃんは、病院の入り口にあった公衆電話を手に取った。





147: 2011/02/06(日) 01:59:13.84
唯の家の前にいる。

足元のコンクリートを見つめている。

うっすらと円形状にシミができているような気がした。


ーー血?


気のせいかもしれなかった。


憂ちゃんはもう家の中に入っているはずだ。

しかし、ここからでは、もちろん中の様子はわからない。

少し躊躇った後で、慎重に、庭に足を踏み入れた。


158: 2011/02/06(日) 02:25:58.54
恐る恐る窓から覗いてみる。

ここからならリビングを見渡す事ができる。

憂ちゃんの姿はない。


自分の部屋に行ったのだろうか?

となると...二階ということになる。さすがにそんな所まで覗く事はできない。







160: 2011/02/06(日) 02:28:01.14
気にはなるがいつまでもここにいてもしょうがない。
病院に向おうか、と考えていた時だ。


憂ちゃんが、リビングに現れた。

格好はさっきのままだ。



ーーそして、手には包丁を持っている。



全身の毛穴が開いて、冷や汗がでるのを感じた。
律「やばいぞ!」


様子がおかしいとは思ったが、さすがにこんな事は予想していなかった。

161: 2011/02/06(日) 02:34:41.59
すぐに玄関にまわる。

音を立てないよう、ゆっくりとドアノブを引いてみる。

案の定、鍵はしまっていた。


庭に戻る。リビングを除くと、憂ちゃんの姿はなくなっている。


グズグズしている暇はない。


律「しょうがない...よな。」


私は後ろに転がっていた大きめの石を拾い、限界まで後退してから窓に向かって思いっきり投げた。

164: 2011/02/06(日) 03:03:44.18
1日振りの我が家。

まず私はリビングに向かった。

お姉ちゃんが脱いだ制服が、ソファにかかっている。床にはアイロンとアイロン台が出しっぱなしになっているし、カーテンも開けっ放しだ。

誰も入っていないのだから当然だけど、全てが昨日のままだった。

お姉ちゃん、と呼べばはーい、と返事がかえって来そうだった。


壊してしまったんだ。私が。
全部壊してしまった。






183: 2011/02/06(日) 12:57:07.59
2人とも出て行ってしまったようだ。


私が泣いていると言っていた。

だけどもちろん、私自身には泣いている感覚などなかった。

猛烈な痛みは相変わらず続いているはずだったが、気にならなかった。

憂、憂に会いたい。

唯(会いにきて!憂!!)


そう、私は2人に思いを伝える事ができた。
言葉を発していないのに、2人はちゃんとわかってくれたのだ!!

だったら...

だったら、憂に伝わらないはずない。
私達の心は常に繋がっている。
いつだって、憂には私の気持ちなどお見通しなのだ。


唯(憂、お願い。会いにきて。今すぐ、会いにきて。)

憂...!!

185: 2011/02/06(日) 13:05:36.28
ーーお姉ちゃんに呼ばれた気がした。


お姉ちゃんが考えている事が何となくわかる事は、今までにも何度もあった。

私を呼んでいる......?

あんな事をしたのに、お姉ちゃんはまだ私を必要としてくれているのだろうか?


そう考えるとたまらなく嬉しかった。

憂「今行くよ、お姉ちゃん。」



私はお姉ちゃんのベッドに寝転がりながら、かすかに聞こえる小鳥の音に耳を傾けていた。

186: 2011/02/06(日) 13:30:07.30
手首に刃を強く、押し付ける。

それから手前に思いっきり引いてみる。

憂「ごめんねお姉ちゃん。ベッド汚しちゃうね...」



ぱっくりと開いた傷口から、血がドクドク溢れ出す。

左腕を燃えるような痛みを感じたが、氏ねる気はしなかった。

今まで自殺なんて考えた事もなかったので、どうすればいいのかよくわからなかった。



その時、一階で何かが割れるような、大きな音がした。

続いて、聞き慣れた声が届く

律「憂ちゃん!!待ってくれ!!」

憂「律さん...?」







187: 2011/02/06(日) 13:35:22.63
どうやら一階には居ないらしい。

瞬時にそう判断すると、全力で階段をかけ上がる。


唯の部屋のドアが空いている。


律「憂ちゃん!!」


憂「来ないで!!」


憂ちゃんの左手首から血が止めどなく流れていて、それがベッドを赤く染めていた。

188: 2011/02/06(日) 13:45:54.68
憂「来ないで!...来ないでください。」

律「憂ちゃん...どうしちまったんだ!?一体、何があったんだ?」


憂ちゃんは喉に刃を押し付けている。
だから、迂闊に近寄る事はできない。
私は部屋のちょうど入口の所で立ち止まる。

どうやら、私の予想通り洒落にならない状況らしい。


律「とにかく...手当てしないと...救急車呼ぶよ。」


憂「お願いです...放っておいてください...」

律「そんな事できるわけないじゃないか!
包丁を下ろしてくれ憂ちゃん!」




189: 2011/02/06(日) 13:57:14.98
憂「お姉ちゃんが呼んでるんです...」


律「え...じゃあ、..それなら、病院に...」


律さんは、何も知らないようだった。


憂「お姉ちゃんは...私が、頃したんです。」

律「え...」

理解できないのだろう。律さんは口をポカンと開けたまま立ち尽くしている。


律「何言ってるんだよ...憂ちゃん...冗談はやめてくれ」

憂「冗談なんかじゃありません...私が頃したんです」


律「そんな...」

190: 2011/02/06(日) 14:07:28.45
憂ちゃんの言っている事がわからなかった。

冗談ではないのは、わかった。この状況でそんな冗談を言うなんて有り得なかった。

だけど、憂ちゃんが唯を頃すなんて...そんな事はもっと有り得なかった。


律「唯は交通事故にあったんじゃないのか...?」


憂「交通事故なんかじゃありませんよ...私が頃したんです。」


交通事故じゃないーー?
唯は...氏んだのか?

頭がおかしくなりそうだった。

192: 2011/02/06(日) 14:38:25.45
憂「私が...私の意識で頃したんです。」


ーーそうだ。薄々気づいてはいたが...私はこうなる事を望んでいたのかもしれない。



私は、お姉ちゃんが離れて行くのを恐れていた。


...お姉ちゃんが一人暮らしをする事になった時、止めようと思えば止められたはずだ。

だけど、そうはしなかった。

そんな事をしても、根本的な解決にはならない。早かれ遅かれ、お姉ちゃんは私から離れて行く。


それを防ぐには、方法は一つだった。


現にお姉ちゃんは、一人暮らしする事も、大学に行く事も、恋人を作る事も、結婚する事も出来なくなった。


私はそれを望んでいたのだろう。



193: 2011/02/06(日) 15:03:52.00
私はお姉ちゃんに恋愛感情を感じた事はない。
そんな目でお姉ちゃんをみた事はない。

あの時何故あんな事を言ったのかわからないが、もちろん、寝ている間にキスなどした事はない。

お姉ちゃんは私にとって、恋人とか、そんな低次元な存在ではなかった。

全ての生命が太陽を必要とするのと同じように、私にはお姉ちゃんが絶対に必要だった。


199: 2011/02/06(日) 16:05:33.79
唯が氏んだ・・・?

横になって、泣きながら髪を掻き毟りたい衝動に駆られたが、なんとか堪えた。


今は、憂ちゃんを助けなければならない。


見ると、憂ちゃんの喉には歯が食い込んでいて、今にも皮膚が切れてしまいそうな状況だ。


律「唯は絶対にこんな事望んでないぞ・・・!」

憂「いいえ。お姉ちゃんも、私を呼んでるんです・・・。わかるんです。」


私は、説得するのをあきらめた。

210: 2011/02/06(日) 18:20:03.19
今リビングで2ch開いて続き書くのはまずいんで
とりま、最後まで書いときます

あとで、まとめて投下してくのでどうかご了承を・・・


223: 2011/02/06(日) 22:26:37.21
私は頭で一通りシュミレーションしてから、冷静に、だが素早く憂ちゃんに近づき、憂ちゃんの腕を掴んだ、

律「憂ちゃん・・・!頼む!私に話を聞かせてくれ!」

もみ合いになりながら私は憂ちゃんに少しの迷いもないことを知った。

憂ちゃんは本当に全力で自分の喉を貫こうとしている。

私が少しでも力を緩めたら・・・大変なことになる。

憂「嫌あ!!離して!!」

その瞬間憂ちゃんはさらに力を強め、自分の喉に向けて腕を引いた。


ーー音はなかった。顔に生暖かい液体がかかるのを感じた。

224: 2011/02/06(日) 22:32:46.98
憂「ゲホッ・・・ゲホッ・・・」


どうやら失敗してしまったようだ。血は出ているが、きっと傷はそんなに深くない。

律さんのせいで、軌道が逸れてしまい、首の左側を切っただけになってしまった。

その上、包丁は律さんに取り上げられてしまっている。


律「憂ちゃん!大丈夫か!?」

そう言って律さんは私の肩を抱いた。
律さんの顔や服には血が飛び散っている。

状況は最悪だった。
このままでは私は中途半端な怪我をしただけで病院送りになってしまう。

225: 2011/02/06(日) 22:42:28.28
完全に気が動揺していた。


憂ちゃんが苦しそうに息をする。血が止めどなく溢れている。


とにかく・・・救急車を呼ばなくては。


確か、電話があるのはリビングだ。

今、憂ちゃんを一人にするのは躊躇われた。

しかし、こんな怪我を負っている憂ちゃんを抱いて一階まで行くのは無理なように思えたし、何より時間がなかった。

律「憂ちゃん、ここにいてくれ!!すぐ戻るから、ここで寝ててくれ!!」

そういうと、私はリビングを目指し、全力で駆け出した。

226: 2011/02/06(日) 22:48:14.73
澪ちゃんとムギちゃんが出て行ってから、わたしは自分の意識がだんだん遠のいていく感覚に襲われていた。


今度は痛みのせいではない。猛烈に眠い時のような・・・それともまた違うが、とにかく、今まで感じたことのない感覚だ。


唯(きっと何にも考えられなくなって、氏んだ人と同じになっちゃうんだ・・・。)

創に違いなかった。医者が言っていたように、今までわたしに意識があったのが奇跡だったのだろう。


ずっと聞こえていたピッピッ・・・という電子音も、今ではほとんど聞き取ることができない。


・・・うい・・・・・・

227: 2011/02/06(日) 22:49:29.86
澪ちゃんとムギちゃんが出て行ってから、わたしは自分の意識がだんだん遠のいていく感覚に襲われていた。


今度は痛みのせいではない。猛烈に眠い時のような・・・それともまた違うが、とにかく、今まで感じたことのない感覚だ。


唯(きっと何にも考えられなくなって、氏んだ人と同じになっちゃうんだ・・・。)

そうに違いなかった。医者が言っていたように、今までわたしに意識があったのが奇跡だったのだろう。


ずっと聞こえていたピッピッ・・・という電子音も、今ではほとんど聞き取ることができない。


・・・うい・・・・・・

230: 2011/02/06(日) 23:01:21.88
憂いと唯先輩の家が見えた。



ーー唯先輩が交通事故にあった。


4限と5限の間の休み時間にさわこ先生にそう聞かされてからずっと、私の心臓は痛い程に跳ね上がっている。

憂は今日学校に来ていなかった。私は風邪でもひいたのかと思いメールを送っていたが、返信はなかった。

おかしいとは思ったが・・・・まさかそんな理由だったとは・・・。


それに加え・・・憂にも何かあったらしい。

状況はイマイチわからなかったが、学校にいる澪先輩から連絡があったとのことだ。

澪先輩たちによると憂は律先輩と一緒にいるらしかった。

私とさわ子先生、それに和先輩(私と和先輩にも知らせるようにと澪先輩がさわ子先生に頼んでくれたらしい)は
5限には出席せずに、さわ子先生の車に乗り込んだ。

まず、私達は憂を澪先輩達が目撃したらしい場所ーーちょうど私達の通学路の辺りを探してみた。

しかし、そこには憂の姿も、律先輩の姿もなかった。

そこで私達は、憂の家に行ってみることにしたのだ。

232: 2011/02/06(日) 23:08:00.41
律さんはどうやら一階で電話をしているらしい。救急車を呼ぶのだろう。


ベッドはすでに大部分が血で赤く染まっている。



家の前で車が止まる音がした。


見ると、窓が開いている。

・・・そういえば昨日、お姉ちゃんが帰ってくる前に部屋の換気と、私が開けたのだ。



私はーー窓枠に手を掛けた。



下から、親友が私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

だが、私は止まらなかった。声の方を見ることもしなかった。



できるだけ頭から落ちるようになるよう体勢に気をつけながら私は・・・

飛び降りた。

235: 2011/02/06(日) 23:13:17.30
憂の家の前に着いた私は、車の中から信じられない光景を見た。


血だらけになった憂が、2階の窓から身を乗り出していたのだ。


梓「憂!!!!」


車のドアを開け私は叫ぶ。

しかし憂はこちらを向くことはなかった。


さわ子先生は車を飛び出し家、いや、庭のほうへ駆け出している。

たぶん、下で憂を受け止めるつもりだろう。


だけど・・・だめだ・・・間に合わない!!



憂は、下一点を見つめて・・・迷う様子も見せずに・・・2階の、たぶん、唯先輩の部屋から・・・

飛び降りた。

236: 2011/02/06(日) 23:19:00.17
憂「お姉ちゃん~ご飯できたよ~」


唯「はーい」タタッ

唯「今日は何かな~?」


憂「オムライスだよ」


唯「オムライス!しかもシチューがソースのやつだ!わーい」


憂「えへへ」


唯「よいしょっと。いただきまーす」


憂「いただきます」


唯「おいしい!おいしいようい!」モグモグ


憂「そう?よかったー」ニコッ


237: 2011/02/06(日) 23:22:31.83
唯「ごちそうさまでした!」

唯「食べすぎちゃったー!苦しい!」


憂「お姉ちゃんったら」クスッ


唯「洗い物してくるー」


憂「私がやるよ!」


唯「うー、じゃあ一緒にやろっ!」


憂「うん!ありがとう!」

憂「お姉ちゃん!」


唯「うん?」

238: 2011/02/06(日) 23:26:33.41
憂「大好き!」


唯「わたしも大好きだよ、うい!」


憂「えへへ。やったー!」


唯「どこにも行かないでね。憂」ギュッ




私達は、ずっと一緒だ。一秒だって離れることはない。
お姉ちゃんに抱きしめられながら、私は夢のような幸福を噛みしめた。

ーー誰にも邪魔されることのない世界。

二人だけの、完結した世界。私はついにそれを手に入れた。

239: 2011/02/06(日) 23:30:17.87
今日から春休みだ。

私は9時過ぎに目を覚ましたあと、パンを一枚だけ食べて、お昼前に家を出た。




バス停に行く途中で花屋に寄った。

まだ3月だというのにヒマワリの花が売っている。

それがなんだか唯の様に思えて、3本ほど(季節ではないからだろう、少し値が張った)買っていく事にした。

240: 2011/02/06(日) 23:36:06.90
病院に着くと、入り口近くの売店で見慣れた後ろ姿を見つけた。


律「み~お!」

澪「うわ!」


澪「律か・・・驚かすなよ・・・」

澪は頬を赤く染めて少し恥ずかしそうにしている。

律「驚きすぎだよ。てか澪も来てたのか。言ってくれれば一緒に来たのに。」


澪「いや、昨日来たばっかりだったから律は来ないと思ってさ。」


律「そりゃ来るさー!学校もないんだし。今病室には?」


澪「誰もいないよ。今日は平日だから、ご両親も仕事だしな。」

241: 2011/02/06(日) 23:38:08.59
律「そっか。早く行こうぜ!」


澪「待って、お昼食べてないんだ。買ってく。」


律「もう。じゃ先行ってるぜ。」

242: 2011/02/06(日) 23:44:11.80
誰もいないと言っていたが、一応、ドアをノックする。



律「おじゃまします」

そう言いながらドアを開ける。

買ってきたヒマワリをベッドの隣にある小さな机に置き、近くの椅子に座る。


律「はは、相変わらず幸せそうだな・・・。」


その時、携帯のバイブレーションが鳴った。

画面は弟の名前を表示している。

その時になって、私は今日弟と映画に行く約束をしていた事を思い出した。

律「あちゃー・・・」

私は、弟に謝罪の電話を掛けるために病室を出た。

250: 2011/02/07(月) 00:17:47.99
律のいなくなった部屋には、暖かい陽が差している。


カーテンがそよ風に揺られ、たなびいている。


それを受けて机の時々少し震える。


比較的広めの部屋の奥には、ベッドが二つ並んでいる。




そしてそこには・・・・




ほほ笑みながら眠る、世界一幸福な二人の少女の姿があった。







fin

251: 2011/02/07(月) 00:19:22.35
よかったね!

252: 2011/02/07(月) 00:21:04.25
すいません奇跡的なタイミングでさる規制くらいました
弟にpc借りて書いてます


最後まで読んでくれた方、本当にありがとうございました


自分的にはハッピーエンドのつもりなのですが・・・


次書くときはちゃんと書きだめしてからスレたてます


253: 2011/02/07(月) 00:22:14.76


月曜ということも相まって何とも言えない気持ちになった

254: 2011/02/07(月) 00:24:24.87
悪い出来ではないと思う

引用元: 憂「冷たくなったお姉ちゃん」