1: 2020/06/15(月) 21:39:05.425
男「……ん」

女「?」

男「髪型変えたか?」

女「よく分かったね! ほんのちょっといじっただけなのに!」

男「恐ろしく小さな変化……オレでなきゃ見逃しちゃうね」

男「いつもお前を見てたかいがあったってもんだ」

女「もう……」ポッ



女(そう……私の彼はどんなものも見逃さない)

2: 2020/06/15(月) 21:42:31.107
女「今日はいい天気だね~」

男「ああ」

女「昔陸上やってたし、こういう時はちょっと走りたくなっちゃう!」タタタッ

男「あんまりはしゃぐなよ」

女「大丈夫だって~」タタタッ

男「! 危ない! 止まれ!」

女「え!?」ピタッ

男「犬のフンが落ちてやがる」

女「危なかった……」

男「恐ろしく小さなフン……オレでなきゃ見逃しちゃうね」

4: 2020/06/15(月) 21:45:17.522
女「暑くなってきたね~、もう夏だね」

男「……!」ピクッ

女「?」

男「そこだ」パチンッ!

女「いきなりどうしたの?」

男「恐ろしく速い蚊……オレでなきゃ見逃しちゃうね」

女「……やるう」

5: 2020/06/15(月) 21:48:25.879
ガヤガヤ…

女「このあたりは混んでるね」

男「ああ」

少女「……」

男「ん」

男「お嬢ちゃん、大丈夫か」

少女「あたし、パパとママとはぐれちゃったの……」グスン

女「よく気づいたわね……」

男「恐ろしく小さな迷子……オレでなきゃ見逃しちゃうね」

6: 2020/06/15(月) 21:51:39.771
父「おおっ、よかった! 見つかった!」

母「ありがとうございます!」

男「どういたしまして」

少女「ありがとう、お兄さん……。お礼にこれあげる」スッ

男「こいつはどうも」

女「なにをもらったの?」

男「恐ろしく綺麗な花……オレでなくとも受け取っちゃうね」

7: 2020/06/15(月) 21:52:34.762
なんだこれ

8: 2020/06/15(月) 21:55:53.943
眼科医「さあ、いらっしゃいいらっしゃい!」

眼科医「無料で視力検査を実施していまーす!」

眼科医「もし、この検査で満点を叩き出せたら、素敵な景品を差し上げまーす!」



女「なんだか妙なイベントやってるわね」

男「恐ろしくオレ向きなイベント……暇だから参加しちゃうね」

女「頑張って!」

9: 2020/06/15(月) 21:59:07.347
眼科医「お、挑戦するのかい?」

男「ああ」

眼科医「よーし、これ!」サッ

男「右」

眼科医「これ!」サッ

男「左」

眼科医「くっ……これ!」サッ

男「上」

女「すごい……どこを指されても見逃さないわ!」

10: 2020/06/15(月) 22:02:53.804
眼科医「ハァ、ハァ、ハァ……バカな……! ことごとく当てるなんて……!」

男「さあ、どうする?」

眼科医「これはどうだァ!」サッ

男「……」

男「上でも下でも左でも右でもない……ただの丸だね」

眼科医「ぐっ……!」

男「恐ろしく狡猾なトラップ……オレでなきゃ見逃しちゃうね」

眼科医「参りました……」ガクッ

女(ちなみに景品は視力検査で使う目隠しでした)

12: 2020/06/15(月) 22:06:37.538
女「新作のゲーム買ったからやろう!」

男「かまわないよ」

女「じゃあまず私から……」

ズガーン! ドゴーン! ズガガガッ!

女「うう……このボス強い! 全然勝てなーい!」

男「右端にずっといるといいよ」

女「あ、ここなら敵の攻撃が飛んでこない!」

男「恐ろしく狭い安全地帯……オレでなきゃ見逃しちゃうね」

14: 2020/06/15(月) 22:10:30.235
女「あなたのおかげで、だいぶゲームが進んだわ!」

男「なかなか面白いゲームだったね」

女「さてと、今日はマツタケご飯作ったよ」

男「ほう、オレの好物だ」

男「……む」

女「どうしたの?」

男「恐ろしく小さな松茸……オレでなきゃ見逃しちゃうね」

女「松茸は高いんだから許して!」

…………

……

15: 2020/06/15(月) 22:13:26.207
女(私の彼は、地元の消防団に所属している――)



団長「通報が入った! 三丁目の民家で火災が発生した!」

男「ほう」

団長「すぐ出動するぞ!」

男「火災は恐ろしい災害……オレでなきゃ怖がっちゃうね」

団長「フッ、頼りにしてるぞ」

16: 2020/06/15(月) 22:16:36.592
ウーウー… カンカンカン…

ブシュゥゥゥゥゥ…

ザワザワ… ガヤガヤ… ワイワイ…



団長「ふぅ……」

団長「とりあえず……火は消せたな。氏者も怪我人もなかった」

男「延焼が防げてなによりだったね」

団長「だが、この火の勢い……これは明らかに異常だ。単なる火事じゃない」

男「ああ……放火に違いない」

団長「放火……!」

17: 2020/06/15(月) 22:20:56.623
団長「放火犯は犯行を繰り返すというし、また事件が起こるかもしれないってことか……」

男「いや、起こさせないね」

団長「どうやって?」

男「放火した奴ってのは、“炎の成果”を確認に来ると相場が決まってる」

団長「だとするなら――」

男「ああ、犯人はこの中にいるはずだ」

団長「この中に……! だが、この大勢からどうやって探せば……!」

ザワザワ… ガヤガヤ…

18: 2020/06/15(月) 22:23:19.920
放火犯「……」チッ

放火犯(消し止められちまったか……つまんねえ)

放火犯(まぁいい。次こそ――)

男「恐ろしく小さな舌打ち……オレでなきゃ見逃しちゃうね」

放火犯「な……!?」

団長「こいつが放火犯だ! みんな、捕まえろ!」

団員A「おうっ!」ダッ

団員B「おうっ!」ダッ

19: 2020/06/15(月) 22:27:09.215
放火犯「くそっ!」

放火犯「どけえっ!」ドカッ! バキッ!

「うわっ!」 「ぎゃあっ!」 「いでえっ!」

団長「こいつ……強い! 武術をかじってるのか!」

男「ならオレに任せてもらおう」

放火犯「あとはお前を倒せば!」シュッ

――ガシッ!

放火犯「なに……!?」

男「恐ろしく速い手刀……オレでなきゃ見逃しちゃうね」

20: 2020/06/15(月) 22:30:58.921
放火犯「は、放せっ!」グイグイ

男「放さないね」

男「放火は恐ろしい犯罪……オレでなくとも見逃せないね」シュッ



ドゴォッ!!!



放火犯「ぶぎゃあっ!」ドサッ

23: 2020/06/15(月) 22:33:32.029
団長「よくやった。さすが消防団のエースだ」

男「この程度、どうってことないね」

団長「これからもこの調子で町の安全を守っていこう」

男「ああ。よろしくな、団長」

団長「……うっ」

団長「ごほっ、ごほっ!」

男(……団長?)

…………

……

25: 2020/06/15(月) 22:37:21.103
男「今度の週末は、二人で一泊旅行にでも行こうか」

女「賛成!」

男「どこに行きたい?」

女「電車でのんびり、ひなびた温泉地なんてのはどう?」

男「悪くないプラン……オレでなくとも同意しちゃうね」

女「決まりね!」

27: 2020/06/15(月) 22:40:30.386
当日――

タタタッ…

女「ハァ、ハァ、ハァ」

男「ハァ、ハァ、ハァ」

女「えぇっと、今すぐあの電車に乗ればいいのね!?」

男「ああ、あれを逃すと、一時間のロスになる」

女「絶対乗らなきゃ!」

男「恐ろしく短い乗り換えチャンス……オレでなきゃ見逃しちゃうね」

タタタッ…

28: 2020/06/15(月) 22:44:17.145
ガタンゴトン… ガタンゴトン…

女「乗れた~、あとはのんびり電車の旅ね」

男「そうだね」

妊婦「……」

男「どうぞ」スッ…

妊婦「あ……ありがとうございます」

男「恐ろしく大きなお腹……オレでなくとも見逃さないね」

女「妊婦さんに席を譲るなんて、優しいじゃない」

男「見逃さなかっただけさ」

29: 2020/06/15(月) 22:47:57.416
旅館に到着――

女将「ご予約のあったお二人ですね。いらっしゃいませ」

女「わぁ~。実物を見ると、写真で見るよりずっと綺麗な旅館だわ!」

男「恐ろしく穴場な旅館……オレでなきゃ見逃しちゃうね」

女将「ありがとうございます。さ、こちらへどうぞ」

女「はい!」

男「お邪魔しちゃうね」

30: 2020/06/15(月) 22:51:18.084
男「ふぅ~、いい温泉だったね」ホカホカ

男「……ん」

女「気持ちよかった~、寿命が延びた気がするもん」ホカホカ

男「……」ジーッ

女「どうしたの? 私をじっと見つめちゃって」

男「恐ろしく色っぽい浴衣姿……オレでなくとも見逃せないね」

女「そんなこといわれたら、さらに火照っちゃうってば」

31: 2020/06/15(月) 22:54:23.300
女「星がキレイだね~」

男「ああ」

女「こうやって、誰かとずっと一緒に星を眺められたら幸せだろうなぁ~」

男「恐ろしく分かりにくいアプローチ……オレでなきゃ見逃しちゃうね」

女「う……」

男「だからオレははっきり言わせてもらう」

男「だったらオレとずっと一緒に眺めよう」

女「え、それって……」

男「結婚しよう」

女「は、はい……!」

…………

……

32: 2020/06/15(月) 22:58:04.582
団長「――そうか! ついに婚約したのか……おめでとう!」

男「ありがとう、団長」

団長「結婚式にはぜひ呼んで――」

団長「……」

男「?」

団長「ごほっ! げほっ、ごほっ!」

男「団長!?」

団長「う、ぐ……」ドサッ

男「恐ろしく危険な症状……オレだからすぐ救急車を呼ぶね!」

33: 2020/06/15(月) 22:58:46.332
見逃せなくなってきた

34: 2020/06/15(月) 23:01:38.902
……

医者「どこにも異常はありませんねえ……」

団長「そうですか……」

男「……」

男(いや、こんなことはありえない。絶対見逃されてるはずだ)

男「団長、念のため、俺の知り合いの医者にも診てもらいましょう」

団長「ああ……よろしく頼む」

35: 2020/06/15(月) 23:04:10.675
恐ろしく急な展開
俺でなきゃ見逃しちゃうね

36: 2020/06/15(月) 23:04:59.845
名医「最新機器で全身くまなく検査したが、どこにも異常はなかったよ」

男「……」

団長「やはり、ちょっと体調が悪かっただけなんだろう」

男「いや、写真やカルテをもっとよく見せてくれ」サッ

名医「かまわないけど……」

男「……」

男「……む」

男「ここ……おかしなものがある」

名医「……え?」

37: 2020/06/15(月) 23:07:06.601
男「ほら……一見健康な臓器に見えるが……」

名医「ほ、本当だ! なんだこれは……!?」

男「恐ろしく分かりにくい異常……オレでなきゃ見逃しちゃうね」

名医「本当だよ、君がいなければ手遅れになるところだった!」

名医「今すぐ手術だ! こいつを取り除く!」

団長「お願いします……」

38: 2020/06/15(月) 23:10:42.116
……

男「お見舞いに来たよ」

女「調子はどうですか?」

団長「おかげさまで順調に回復しているよ」

団長「名医さんによると、世界でも数人しか例のない病態だったらしい」

団長「こうして生きてるのはお前のおかげだ。本当にありがとう」

男「恐ろしくまっすぐなお礼……オレでなきゃ照れちゃうね」

女「退院したら、私たちの結婚式にもぜひ来て下さいね!」

団長「ああ、もちろんだ!」

40: 2020/06/15(月) 23:13:39.213
結婚式場にて――

女「……ねえ、見て。ウェディングドレス」

女「どう?」フワッ

男「……!」

男「恐ろしく美しい花嫁……オレでなきゃ結婚しちゃうね」

女「今から結婚するんでしょうが!」

男「オレとしたことが……緊張してやがる」

41: 2020/06/15(月) 23:17:17.237
団長「二人ともおめでとう!」

司会者『ではこれより、ケーキ入刀を行います!』

パチパチパチパチパチ… パチパチパチパチパチ…

女「ふふっ……じゃあ一緒に切ろうか」

男「恐ろしく大勢が集まった結婚式……オレでなきゃ感涙しちゃうね」ウルッ



女(消防団の団長さんの命を救った私の夫を、今ではみんなこう呼んでいる)

女(“団長の腫瘍を見逃さなかった人”と――)







おわり

43: 2020/06/15(月) 23:19:48.413
イイハナシダナー

44: 2020/06/15(月) 23:22:25.720

このSS俺でなきゃ見逃しちゃうね

45: 2020/06/15(月) 23:25:26.296
お邪魔しちゃうね

46: 2020/06/15(月) 23:26:24.702
乙しちゃうね

引用元: 男「髪型変えた?」女「よく分かったね!」男「オレでなきゃ見逃しちゃうね」