1: 2021/06/04(金) 18:11:18.551
男「あんた……さっき俺が助けた爺さん!?」
社長「君は命の恩人だ。ぜひともお礼がしたい。何でもいってくれたまえ」
誰もが一度はこんなシチュエーションに憧れ、妄想したことがあるだろう。
さて、ここに一人の老人がいる。
老人「う、うぐぐぐ……!」
老人「胸が……苦しい! あぐぐ……ぐぁぁ……!」
老人「うぐぁぁぁぁぁ……!」
ちなみにこの老人、いたって健康であり、まして偉くもなんともない。
社長「君は命の恩人だ。ぜひともお礼がしたい。何でもいってくれたまえ」
誰もが一度はこんなシチュエーションに憧れ、妄想したことがあるだろう。
さて、ここに一人の老人がいる。
老人「う、うぐぐぐ……!」
老人「胸が……苦しい! あぐぐ……ぐぁぁ……!」
老人「うぐぁぁぁぁぁ……!」
ちなみにこの老人、いたって健康であり、まして偉くもなんともない。
4: 2021/06/04(金) 18:14:41.832
老人「ううっ、ぐぐぐっ……!」
老人(ワシは今日、無理してちょっといいスーツを着ている……)
老人(観察眼のある奴なら“実は偉い人”と思い込むに違いない)
老人(そして、ワシを助けてお礼を期待する。……が、そこでネタばらし!)
老人(ワシの正体はただのしょぼくれジジイ。助けた相手はガッカリする、という寸法よ!)
老人(なぜ、こんなことをしているかというと――)
老人(ワシは若い頃、詐欺にあって大金を騙し取られて以来、人を信じられなくなった)
老人(そのせいでろくな仕事にありつけず、結婚もできず、今やカツカツ年金暮らしの身)
老人(だから人生の最後に、こういう嫌がらせをしてやろうと思い立ったのよ!)
老人(ワシは今日、無理してちょっといいスーツを着ている……)
老人(観察眼のある奴なら“実は偉い人”と思い込むに違いない)
老人(そして、ワシを助けてお礼を期待する。……が、そこでネタばらし!)
老人(ワシの正体はただのしょぼくれジジイ。助けた相手はガッカリする、という寸法よ!)
老人(なぜ、こんなことをしているかというと――)
老人(ワシは若い頃、詐欺にあって大金を騙し取られて以来、人を信じられなくなった)
老人(そのせいでろくな仕事にありつけず、結婚もできず、今やカツカツ年金暮らしの身)
老人(だから人生の最後に、こういう嫌がらせをしてやろうと思い立ったのよ!)
5: 2021/06/04(金) 18:16:06.349
思い立つなよ
6: 2021/06/04(金) 18:17:32.054
青年「あの……」
老人(ほら来た! 釣れた! 卑しい奴め!)
青年「大丈夫ですか?」
老人「ああ……ありがとう」
青年「今救急車を……」
老人「呼ばんでいい! 呼ばんでいい!」
青年「だけどだいぶ苦しそうでしたけど……」
老人「い、いや……もう治ったよ。ほらこの通り! いっちに、いっちに!」
老人(あぶねえ、救急車なんて呼ばれたら大騒ぎになってしまう)
老人(ほら来た! 釣れた! 卑しい奴め!)
青年「大丈夫ですか?」
老人「ああ……ありがとう」
青年「今救急車を……」
老人「呼ばんでいい! 呼ばんでいい!」
青年「だけどだいぶ苦しそうでしたけど……」
老人「い、いや……もう治ったよ。ほらこの通り! いっちに、いっちに!」
老人(あぶねえ、救急車なんて呼ばれたら大騒ぎになってしまう)
7: 2021/06/04(金) 18:20:25.506
老人「君には世話になったね……」
青年「いえ、そんな」
老人「なにかお礼をしたいし、連絡先を交換しないかね?」
青年「分かりました、いいですよ」
老人(下心が見え透いてるよ。きっとワシを大企業の社長かなんかと思ってるんだろう)
青年「私の連絡先は――」
老人「ワシの連絡先は――」
連絡先を交換し、二人は別れた。
青年「いえ、そんな」
老人「なにかお礼をしたいし、連絡先を交換しないかね?」
青年「分かりました、いいですよ」
老人(下心が見え透いてるよ。きっとワシを大企業の社長かなんかと思ってるんだろう)
青年「私の連絡先は――」
老人「ワシの連絡先は――」
連絡先を交換し、二人は別れた。
8: 2021/06/04(金) 18:23:28.525
老人「あーあ、金ねぇなぁ。仕事もねえ」
老人(おかげで今日もスーパーの終わり際に駆け込んで、安い惣菜ゲットしないと……)
老人(最近半額シール貼るの遅いんだよなぁ……)
プルルルルル…
老人「電話だ」
老人「もしもし」
青年『この間はどうも。よかったらもう一度会えませんか』
老人(バカが釣れたー!)
老人(きっとワシがものすごいジジイだと勘違いしとるんだろうなぁ)
老人(よーし、ここらでネタばらしといくか!)
老人(おかげで今日もスーパーの終わり際に駆け込んで、安い惣菜ゲットしないと……)
老人(最近半額シール貼るの遅いんだよなぁ……)
プルルルルル…
老人「電話だ」
老人「もしもし」
青年『この間はどうも。よかったらもう一度会えませんか』
老人(バカが釣れたー!)
老人(きっとワシがものすごいジジイだと勘違いしとるんだろうなぁ)
老人(よーし、ここらでネタばらしといくか!)
9: 2021/06/04(金) 18:26:26.795
老人(ここが待ち合わせ場所……)
老人(今日はスーツでなく、普段着で来てやったぞ。みすぼらしいことこの上ない)
老人(あの青年はガッカリするに違いない。『すごい爺さんなのを期待してたのに大したことねえ!』ってな)
老人(あ~、楽しみ!)
ブロロロロロ…
老人「ん? なんだ、あの高級車は」
ガチャッ
青年「どうも!」
老人「えっ!?」
老人(今日はスーツでなく、普段着で来てやったぞ。みすぼらしいことこの上ない)
老人(あの青年はガッカリするに違いない。『すごい爺さんなのを期待してたのに大したことねえ!』ってな)
老人(あ~、楽しみ!)
ブロロロロロ…
老人「ん? なんだ、あの高級車は」
ガチャッ
青年「どうも!」
老人「えっ!?」
10: 2021/06/04(金) 18:29:34.525
ブロロロロロ…
老人(なんなのこの青年、まさかこんな高級車で現れるなんて……)
青年「これから私のオフィスに行きませんか?」
老人「オフィス? 君が勤めてる会社かね?」
青年「そうですね。勤めてるというより……経営してますけど」
老人「経営!? ってことは君はまさか……社長さん?」
青年「そうです」
老人「えええええ!?」
老人(まさか……ワシを助けてくれた人は“実は偉い人”だったなんて!)
老人(なんなのこの青年、まさかこんな高級車で現れるなんて……)
青年「これから私のオフィスに行きませんか?」
老人「オフィス? 君が勤めてる会社かね?」
青年「そうですね。勤めてるというより……経営してますけど」
老人「経営!? ってことは君はまさか……社長さん?」
青年「そうです」
老人「えええええ!?」
老人(まさか……ワシを助けてくれた人は“実は偉い人”だったなんて!)
12: 2021/06/04(金) 18:32:14.443
青年「ここです」
老人「ふええ……立派なオフィスじゃないか」
老人「ちなみになんの会社?」
青年「医療機器メーカーです。亡くなった父が体が弱かったもので……それで医療に興味を持って……」
老人「泣かせる話だねえ」グスッ
老人(親の七光りじゃなく、しっかりした青年じゃないか……)
老人「ふええ……立派なオフィスじゃないか」
老人「ちなみになんの会社?」
青年「医療機器メーカーです。亡くなった父が体が弱かったもので……それで医療に興味を持って……」
老人「泣かせる話だねえ」グスッ
老人(親の七光りじゃなく、しっかりした青年じゃないか……)
13: 2021/06/04(金) 18:36:36.644
青年「これが我が社で最近開発した、AI搭載の診察マシンです」
老人「あ、テレビで見たことあるゥ!」
青年「……と、会社の説明ばかり聞いててもつまらないですよね」
老人「いや、そんなことないけどね」
青年「よろしければ、この後一緒に食事でもどうです?」
老人「しかし、持ち合わせが……」
青年「招待した側ですから、もちろん料金はこちら持ちですよ」
老人「こりゃどうも!」
老人(他人の金で食う飯ほどうまいもんはない)
老人「あ、テレビで見たことあるゥ!」
青年「……と、会社の説明ばかり聞いててもつまらないですよね」
老人「いや、そんなことないけどね」
青年「よろしければ、この後一緒に食事でもどうです?」
老人「しかし、持ち合わせが……」
青年「招待した側ですから、もちろん料金はこちら持ちですよ」
老人「こりゃどうも!」
老人(他人の金で食う飯ほどうまいもんはない)
15: 2021/06/04(金) 18:39:32.443
高級レストラン――
老人(なにこれ、このお肉超うまい!)モグッ
老人(口の中でとろけるぅ~。ふっわふわ~)
老人「と、すまんね。こんなにバクバク食べて。あまりにおいしいもんで」
青年「いえいえ、どんどん食べて下さい」
老人「じゃ、遠慮なく……」
青年「そうだ、ワインもどうです?」
老人「飲みます!」
老人(なにこれ、このお肉超うまい!)モグッ
老人(口の中でとろけるぅ~。ふっわふわ~)
老人「と、すまんね。こんなにバクバク食べて。あまりにおいしいもんで」
青年「いえいえ、どんどん食べて下さい」
老人「じゃ、遠慮なく……」
青年「そうだ、ワインもどうです?」
老人「飲みます!」
17: 2021/06/04(金) 18:42:22.963
ブロロロロ… キキッ
老人「ありがとうね、家まで送ってもらって」
青年「いえいえ」
青年「あの……これからも末長くお付き合いをして頂けませんか?」
老人「そりゃかまわんけど……」
青年「それじゃまた今度、食事をしましょう!」
老人「あ、ああ」
老人(今のは社交辞令だろうが、今時こんな立派な若者もいるんだな)
老人「ありがとうね、家まで送ってもらって」
青年「いえいえ」
青年「あの……これからも末長くお付き合いをして頂けませんか?」
老人「そりゃかまわんけど……」
青年「それじゃまた今度、食事をしましょう!」
老人「あ、ああ」
老人(今のは社交辞令だろうが、今時こんな立派な若者もいるんだな)
18: 2021/06/04(金) 18:47:36.256
数日後――
プルルルルル…
老人「ん?」
青年『また一緒にお食事しませんか?』
老人「え、かまわんけど……」
青年『それではまたお迎えに行きますので』
老人(てっきりあれっきりの仲かと思ったが、また誘われるとは)
老人(なんなのこの青年? まさかワシに気があるとか? だとしたらどうしよう……)
プルルルルル…
老人「ん?」
青年『また一緒にお食事しませんか?』
老人「え、かまわんけど……」
青年『それではまたお迎えに行きますので』
老人(てっきりあれっきりの仲かと思ったが、また誘われるとは)
老人(なんなのこの青年? まさかワシに気があるとか? だとしたらどうしよう……)
20: 2021/06/04(金) 18:49:25.474
青年「この店はいかがです?」
老人「うまぁい! 普段は200円を超える品は口にしてなかったからのう!」
青年「今お仕事はされてるんですか?」
老人「いや、無職だよ無職。年金だけじゃ苦しくて、バイトぐらいしたいが」
老人「ワシなんざ雇ってくれるとこなんてないからのう」
青年「ご結婚は……」
老人「してないしてない! できるわけないだろ!」
老人「それに……するつもりもなかったしな」
青年「どういうことです?」
老人「うまぁい! 普段は200円を超える品は口にしてなかったからのう!」
青年「今お仕事はされてるんですか?」
老人「いや、無職だよ無職。年金だけじゃ苦しくて、バイトぐらいしたいが」
老人「ワシなんざ雇ってくれるとこなんてないからのう」
青年「ご結婚は……」
老人「してないしてない! できるわけないだろ!」
老人「それに……するつもりもなかったしな」
青年「どういうことです?」
21: 2021/06/04(金) 18:52:34.160
老人「ワシは若い頃、詐欺にあったんだよ」
青年「詐欺に……どのような?」
老人「知り合いから、子供の手術費に大金がいる、と頼まれてな」
老人「ワシは同情して、全財産といっていいぐらいの金を貸してやったんだよ」
老人「そしたらそいつ、そのまま音信不通になってしまった」
老人「もちろん、金なんか一銭も返ってこない。ようするに全てデタラメだったんだ」
青年「ひどい話ですね」
老人「まったくだ。それ以来、ワシは人と深く付き合うことができなくなってしまってな」
老人「みんな詐欺師か何かに見えてしまって……こんなんじゃまともに人付き合いなんてできんし」
老人「ましてや恋愛なんて絶対無理だ。おかげでこの年まで独身だし、友達すらおらん」
青年「さぞ、その詐欺師を恨んでることでしょう」
老人「そりゃね。恨みまくりだよ」
青年「詐欺に……どのような?」
老人「知り合いから、子供の手術費に大金がいる、と頼まれてな」
老人「ワシは同情して、全財産といっていいぐらいの金を貸してやったんだよ」
老人「そしたらそいつ、そのまま音信不通になってしまった」
老人「もちろん、金なんか一銭も返ってこない。ようするに全てデタラメだったんだ」
青年「ひどい話ですね」
老人「まったくだ。それ以来、ワシは人と深く付き合うことができなくなってしまってな」
老人「みんな詐欺師か何かに見えてしまって……こんなんじゃまともに人付き合いなんてできんし」
老人「ましてや恋愛なんて絶対無理だ。おかげでこの年まで独身だし、友達すらおらん」
青年「さぞ、その詐欺師を恨んでることでしょう」
老人「そりゃね。恨みまくりだよ」
25: 2021/06/04(金) 18:55:24.317
老人「だがね、今にして思うとこうなったのは結局自分のせいなんだよ」
老人「詐欺にはあったが、まだ若かったし再起不能の大ダメージというわけではなかった」
老人「しかし、ワシは被害者ぶって……自分の殻に閉じこもってしまった」
老人「“一度騙されたぐらいでなんだ!”と奮起してれば、違う人生もあったはずなのに」
老人「それを怠ったから、こんな冴えない老後を送るはめになってしまったんだよ」
青年「……」
青年「仕事でお困りでしたら……」
老人「?」
青年「うちの会社で働きませんか?」
老人「へ?」
老人「詐欺にはあったが、まだ若かったし再起不能の大ダメージというわけではなかった」
老人「しかし、ワシは被害者ぶって……自分の殻に閉じこもってしまった」
老人「“一度騙されたぐらいでなんだ!”と奮起してれば、違う人生もあったはずなのに」
老人「それを怠ったから、こんな冴えない老後を送るはめになってしまったんだよ」
青年「……」
青年「仕事でお困りでしたら……」
老人「?」
青年「うちの会社で働きませんか?」
老人「へ?」
27: 2021/06/04(金) 18:58:19.480
老人「いやいやいや、無理だよ! ワシ、医療の知識なんてないし!」
老人「最近まで細菌とウイルスが同じものだって思ってたぐらいだし!」
青年「必要ありませんよ。社内の見回り程度の仕事ですから」
青年「しかし、それなりの給料を用意できると思います」
老人「だったら……お願いしちゃおうかな」
青年「はい、手続きをしたら、すぐ働いて頂きます」
老人「なんだか悪いねえ」
老人「最近まで細菌とウイルスが同じものだって思ってたぐらいだし!」
青年「必要ありませんよ。社内の見回り程度の仕事ですから」
青年「しかし、それなりの給料を用意できると思います」
老人「だったら……お願いしちゃおうかな」
青年「はい、手続きをしたら、すぐ働いて頂きます」
老人「なんだか悪いねえ」
28: 2021/06/04(金) 19:01:29.492
青年「それと、まだご結婚したいという気持ちはありますか?」
老人「え! そりゃないことはないけど……。相手も出会いもないよ……」
青年「今はご年配同士が婚活するケースも多いんです」
青年「そういったツテもありますので、よかったらチャレンジしてみませんか?」
青年「たとえ結婚までいかなくとも、交友関係は広がると思いますし……」
老人「そ、そうね。やってみようかな」
青年「では、こちらも手配しておきます」
老人「いやー、至れり尽くせりですみません」
老人「え! そりゃないことはないけど……。相手も出会いもないよ……」
青年「今はご年配同士が婚活するケースも多いんです」
青年「そういったツテもありますので、よかったらチャレンジしてみませんか?」
青年「たとえ結婚までいかなくとも、交友関係は広がると思いますし……」
老人「そ、そうね。やってみようかな」
青年「では、こちらも手配しておきます」
老人「いやー、至れり尽くせりですみません」
29: 2021/06/04(金) 19:04:26.774
それから――
老人(社内の見回り、見回り……)
社員A「こんにちは」
社員B「いつもお疲れ様です」
老人「お仕事頑張れよ!」
老人(この会社の社員は教育が行き届いていて、気持ちいい挨拶してくれるわい)
老人(給料は、と……)
老人「え、こんなに振り込まれてる!」
老人「いいのかなぁ、こんなにもらって。会社の中を徘徊してただけなのに……」
老人(社内の見回り、見回り……)
社員A「こんにちは」
社員B「いつもお疲れ様です」
老人「お仕事頑張れよ!」
老人(この会社の社員は教育が行き届いていて、気持ちいい挨拶してくれるわい)
老人(給料は、と……)
老人「え、こんなに振り込まれてる!」
老人「いいのかなぁ、こんなにもらって。会社の中を徘徊してただけなのに……」
30: 2021/06/04(金) 19:08:01.844
婚活も始め――
老人「ど、どうも」
老婦人「初めまして」
老人(ワシと同い年とは思えない美人じゃないか)
老人「恥ずかしながら、あまり女性と話したことなくて……」
老婦人「私も似たようなものですよ」クスッ
老人(結婚までいくかは分からんが、生涯付き合えそうな女性とは巡り合えた……)
老人「ど、どうも」
老婦人「初めまして」
老人(ワシと同い年とは思えない美人じゃないか)
老人「恥ずかしながら、あまり女性と話したことなくて……」
老婦人「私も似たようなものですよ」クスッ
老人(結婚までいくかは分からんが、生涯付き合えそうな女性とは巡り合えた……)
31: 2021/06/04(金) 19:11:26.761
青年「やぁ、どうも」
老人「おお、君かね」
青年「お仕事は順調ですか?」
老人「見回りとはいえ役割ができたからか、人生にハリが出てきたよ」
青年「もし何かあったらすぐにいって下さいね。対処しますから」
老人「う、うん」
老人(なに? なんなのこの子? いくらなんでもサービスよすぎで怖いよ……)
老人(ジジイ助けが趣味な変人なのか、それとも何らかの理由でワシを騙してるのか)
老人(こんな好青年を疑いたくはないけど……どこかで確かめねばならんな)
老人「おお、君かね」
青年「お仕事は順調ですか?」
老人「見回りとはいえ役割ができたからか、人生にハリが出てきたよ」
青年「もし何かあったらすぐにいって下さいね。対処しますから」
老人「う、うん」
老人(なに? なんなのこの子? いくらなんでもサービスよすぎで怖いよ……)
老人(ジジイ助けが趣味な変人なのか、それとも何らかの理由でワシを騙してるのか)
老人(こんな好青年を疑いたくはないけど……どこかで確かめねばならんな)
33: 2021/06/04(金) 19:14:38.603
ある日――
青年「これ、歌舞伎のチケットです」
青年「二人分ありますので、よかったらどなたかとどうぞ」
老人「じゃあ、遠慮なく」
老人「……」
青年「どうしました?」
老人「なぁ、君はなぜワシなんかにここまで尽くしてくれるんだ?」
青年「!」
老人「ワシは君を見たことすらなかったし、こうまで尽くされる覚えが全くないのだ」
青年「……」
老人「頼む、理由があるなら教えてくれ! 身に覚えがないから、かえって不安になってしまって……」
青年「これ、歌舞伎のチケットです」
青年「二人分ありますので、よかったらどなたかとどうぞ」
老人「じゃあ、遠慮なく」
老人「……」
青年「どうしました?」
老人「なぁ、君はなぜワシなんかにここまで尽くしてくれるんだ?」
青年「!」
老人「ワシは君を見たことすらなかったし、こうまで尽くされる覚えが全くないのだ」
青年「……」
老人「頼む、理由があるなら教えてくれ! 身に覚えがないから、かえって不安になってしまって……」
34: 2021/06/04(金) 19:18:05.365
青年「あなたは私を見たことがないといいましたが、本当ですか?」
老人「ホントだって!」
青年「私の顔……誰かの面影を感じませんか?」
老人「面影……?」
老人「……」
老人「あっ!」
老人「ワシを……騙したあいつ……(に似てるかも……)」
青年「そうです」
青年「かつてあなたから金を借り、行方をくらました男は……私の祖父です」
老人「な、なんだと!?」
老人「ホントだって!」
青年「私の顔……誰かの面影を感じませんか?」
老人「面影……?」
老人「……」
老人「あっ!」
老人「ワシを……騙したあいつ……(に似てるかも……)」
青年「そうです」
青年「かつてあなたから金を借り、行方をくらました男は……私の祖父です」
老人「な、なんだと!?」
37: 2021/06/04(金) 19:21:39.781
青年「祖父の息子……つまり私の父が幼い頃、大病を患っていたのは本当です」
青年「手術には莫大な費用がかかることも……」
老人「え、本当だったの!?」
青年「祖父があなたから借りたお金で、幼かった父は当時最先端の手術を受けることができ……」
青年「そして助かったのです」
老人「……」
青年「ですが、祖父にそれを返すあてはまるでなかった」
青年「素直にそれをいえばまた違う結末もあったのかもしれませんが……祖父は最悪の道を選んだ」
青年「あなたに合わせる顔がないと……逃げてしまったのです」
青年「祖父は氏ぬ間際まで、それを後悔していたそうです」
老人「……」
青年「手術には莫大な費用がかかることも……」
老人「え、本当だったの!?」
青年「祖父があなたから借りたお金で、幼かった父は当時最先端の手術を受けることができ……」
青年「そして助かったのです」
老人「……」
青年「ですが、祖父にそれを返すあてはまるでなかった」
青年「素直にそれをいえばまた違う結末もあったのかもしれませんが……祖父は最悪の道を選んだ」
青年「あなたに合わせる顔がないと……逃げてしまったのです」
青年「祖父は氏ぬ間際まで、それを後悔していたそうです」
老人「……」
38: 2021/06/04(金) 19:25:02.750
青年「祖父から得た手掛かりを元に、父もあなたを捜したそうです」
青年「しかし、時間が経ちすぎていて、やはり見つからなかった」
青年「やがて、病弱だった父も早くに亡くなり……」
青年「残された私は、祖父からの三代の恩を返すべく、あなたを捜しました」
青年「医療機器メーカーを建てたのは正解でした。おかげで人脈が広がり、人捜しの手段も増えた」
青年「そして……ついにあなたを見つけたのです」
老人「ってことは、ワシがうぐぐぐ言ってる時に話しかけたのは偶然じゃなく……」
青年「はい、最初からあなたのことを知ってました」
老人「そうだったのか……」
老人「ワシに色々と便宜を図ってくれたのも……」
青年「恩返しのためです。しかし、真実を話す勇気がなかなか出ず……困惑させてしまったようですね」
青年「申し訳ありませんでした」
青年「しかし、時間が経ちすぎていて、やはり見つからなかった」
青年「やがて、病弱だった父も早くに亡くなり……」
青年「残された私は、祖父からの三代の恩を返すべく、あなたを捜しました」
青年「医療機器メーカーを建てたのは正解でした。おかげで人脈が広がり、人捜しの手段も増えた」
青年「そして……ついにあなたを見つけたのです」
老人「ってことは、ワシがうぐぐぐ言ってる時に話しかけたのは偶然じゃなく……」
青年「はい、最初からあなたのことを知ってました」
老人「そうだったのか……」
老人「ワシに色々と便宜を図ってくれたのも……」
青年「恩返しのためです。しかし、真実を話す勇気がなかなか出ず……困惑させてしまったようですね」
青年「申し訳ありませんでした」
39: 2021/06/04(金) 19:27:56.442
青年「あなたの人生は祖父のせいで大きく狂ってしまった」
青年「今さら取り返しはつきませんが……私は償うためならばなんだってやるつもりです」
青年「なんならこのことを世間に公表してもかまいません」
青年「私にできることなら……なんでもおっしゃって下さい!」
老人「……」
老人「いや、君に償ってもらうことなど何もないよ」
青年「しかし……!」
老人「だってワシは、今とても幸せなんだからね」
青年「今さら取り返しはつきませんが……私は償うためならばなんだってやるつもりです」
青年「なんならこのことを世間に公表してもかまいません」
青年「私にできることなら……なんでもおっしゃって下さい!」
老人「……」
老人「いや、君に償ってもらうことなど何もないよ」
青年「しかし……!」
老人「だってワシは、今とても幸せなんだからね」
40: 2021/06/04(金) 19:30:31.138
老人「ワシがあの時金を出したおかげで、君の父は救われ、君という素晴らしい青年が生まれた」
老人「人生の終わり際に、ワシは自分が“実は偉い人”だったということが分かった」
老人「これほど幸せなことはないよ」
― END ―
老人「人生の終わり際に、ワシは自分が“実は偉い人”だったということが分かった」
老人「これほど幸せなことはないよ」
― END ―
41: 2021/06/04(金) 19:32:38.301
おつ
42: 2021/06/04(金) 19:36:14.591
乙
なんかぐっときた
なんかぐっときた
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります