2: 2014/12/24(水) 19:08:22.67
白。


“白”のなかに、私は居た。

3: 2014/12/24(水) 19:09:30.98
手を伸ばし、触れてみる。


さく、と音を立てて“白”が削れた。

4: 2014/12/24(水) 19:10:28.85
ふらり、立ち上がって、周囲を見渡す。


胸元で金属の触れ合う音。


懐中時計が鎖に繋がれて、首に掛かっている。

5: 2014/12/24(水) 19:11:29.23
手に持ち、盤を見つめる。


先程まで動いていなかった針が、かちこちと秒を刻み始めた。


途端、心に強い意志を得たかのように、顔が前を向く。


一歩、踏み出す。

6: 2014/12/24(水) 19:22:34.14
歩く。一歩。



アイドル事務所に入った。


弱虫で、臆病な自分を変えられたら。



歩く。一歩。


ちく、たく。


時計の針が進む。

7: 2014/12/24(水) 19:37:44.04
歩く。一歩。



彼と出会う。


男性が苦手だと言った私に、彼は優しく微笑んだ。


…やっぱり、どういう風に何を話していいか分からなくて、緊張する。



歩く。一歩。


ちく、たく。


時計の針が進む。

8: 2014/12/24(水) 19:39:38.26

“白”を削る足が、2つから4つに増えた。


隣で一緒に歩く彼は、私の歩調に合わせてくれていて。

10: 2014/12/24(水) 20:34:34.65
歩く。一歩。



彼が机に突っ伏している。


…見かね、お茶を淹れて彼に出した。


とても喜んでくれて、嬉しい。



歩く。一歩。


ちく、たく。


時計の針が進む。

11: 2014/12/24(水) 20:36:58.13
歩く。一歩。



デパートの屋上でミニライブ。


なかなかお客さんを集められなくて、ステージの途中で泣きそうになる。


けれど、遠くから彼が見てくれているのを発見して…。


最後までステージから逃げずに、歌いぬく。



歩く。一歩。


ちく、たく。


時計の針が進む。

12: 2014/12/24(水) 20:38:43.16
歩く。一歩。



……レッスンをサボってしまった。


彼からの着信もメールも、最初の一回以外は無視している。悪い子。



暫くの小休止。


ちく。たく。


それでも、時計の針は進む。重くゆっくり。

13: 2014/12/24(水) 20:53:25.88
歩く。一歩。



始めて、事務所への近道を使ってみる。


存在は知っていたけれど、犬がいるかどうかの確認が出来ていなくて使っていなかった。


そして…案の定、大きな犬が。声も出せず固まっていると、後方から私を呼ぶ彼の声…と、悲鳴。


どうやら、彼も犬が苦手らしい。2人で、ぎこちなく脱出。



歩く。一歩。


ちく、たく。


時計の針が進む。

14: 2014/12/24(水) 21:01:50.01
歩く。一歩。



今日は、ダンスレッスン。彼が付いてきている。


動作が間に合わず、悔しくて穴を掘ろうとした私を、彼が宥める。


今は失敗すればいい、悔しい思いをすればいい。
だけど、それをきちんと受け止めて、ほらもう一回。


涙を拭い、手を足を動かす。



歩く。一歩。


ちく、たく。


時計の針が進む。

15: 2014/12/24(水) 21:11:26.29
歩く。一歩。



新曲を貰った。『First Stage』。


片想いをしている、内気な女の子の歌。


私に重なるところもあって、笑みが零れる。



歩く。一歩。


ちく、たく。


時計の針が進む。

16: 2014/12/24(水) 21:20:36.89
歩く。一歩。



彼と収録スタジオに向かっているところで、ファンに遭遇。


興奮した様子で声を掛けられ、身体が固まる。


彼が対応している時間が、無限のように長く思われた。



歩く。一歩。


ちく。たく。


時計の針がゆっくり進む。

17: 2014/12/24(水) 21:35:33.76
歩く。一歩。



彼とカフェで打ち合わせ。


珈琲は飲めないのだと言って、ココアを注文している。


そういえば、珈琲を飲んでいる姿を一度も見たことがない。


お茶請けの話で過ぎてゆく時を想いつつ、日本茶を淹れることが出来て良かったと思う。



歩く。一歩。


ちくたく。


時計の針が跳ぶように進む。

18: 2014/12/24(水) 21:44:12.08
歩く。一歩。



私の初めてのライブステージ。


袖から、観客席を覗き込む。


大丈夫。もう怖くない。



歩く。一歩。


ちく、たく。


時計の針が進む。

19: 2014/12/24(水) 21:53:24.75
歩く。一歩。



わあああ、と歓声が私を包む。


閉じていた目を開けて、そして。


大丈夫。


光の波が、私を後押ししてくれる。



大丈夫。一歩、踏み出す。


ちくたく。


時計の針が鼓動のように弾む。

20: 2014/12/24(水) 21:58:17.53

隣で、共に歩いている彼に笑いかける。


けれどそこには、元から誰も居なかったかのように、何もなくて。


必氏に“白”のなかで目を凝らす。



見つからない。


足が、止まる。

21: 2014/12/24(水) 22:01:39.51

どうしたらいいか分からなくて、座りこんでしまう。


“白”が、空へ舞った。


ずっと、どこまでも続いていた“白”は、いつの間にか暗闇に変わってしまっていて。


ぽろぽろと涙が“白”に落ちる。

22: 2014/12/24(水) 22:13:13.30

暗闇のなか、俯きながら彼の言葉を思い出す。


失敗したっていい。
時を戻せるわけじゃないけど、でも、終わりではないのだから。

ほら、笑って。

23: 2014/12/24(水) 22:14:38.72

涙を零しながら、けれど確かに笑う。


彼に褒められた笑顔。


ぽたり、新たな涙粒が“白”に吸われていった。

24: 2014/12/24(水) 22:15:04.42

瞬間、涙の粒は光の筋へと変わり…、暗闇の先を示す。


かちこちと聞き慣れた針の音。


時計を目の高さに上げて盤を見遣り、思わず目を見開く。


ずっと、動いていた。


私が歩みを止めていた間も、この時計は、ずっと。

25: 2014/12/24(水) 22:15:36.61

立って、少し、歩いてみる。


ちょっとだけ、振り向く。


ずっとずっと続いている、足跡。


“白”の上に残っている、私と彼が歩いてきた足取り。



一歩。歩く。


ちく、たく。


心なしか重かった針が、軽快に進む。

26: 2014/12/24(水) 22:16:08.56

もう一度、振り返る。


手をついて転んだところも。


焦って、方向も定めぬまま、がむしゃらに進んでいたところも。


座って、休んでいたところも。


先を確かめながら、ゆっくりと歩いていたところも。


全部全部、ちゃんと“白”に刻まれていて。


大丈夫。
踏み出せた。


大丈夫。
歩いてゆける。

27: 2014/12/24(水) 22:17:11.39
歩く。一歩。


そして、また、出会う。


また、二人で。


まだ、一歩ずつ。


ちく、たく。


時計の針が進む。

28: 2014/12/24(水) 22:17:39.45
お粗末様でした

クリスマスプレゼントにチクタク雪歩ソロください

雪歩、誕生日おめでとう

それでは

29: 2014/12/24(水) 22:20:23.55
乙です

引用元: 雪歩「ちく、たく」