1: 2011/03/29(火) 21:05:37.65
 夢を見た。ついこの間のようなずっと昔のことのような記憶。
森の中の花畑で、『少女』はそう笑っていたのだ。
世界中の何処を探したって、もう二度と『ジャギ』には抱きしめられない『少女』は。

ジャギ「ちっ……」(むくり)

ジャギ「妙な夢見たぜ。 なんか、胸の辺りがおも……」(ちらっ)

ジャギ「あ?」

 顔に当てた手が細い。両の胸には柔らかな膨らみが二つ。

ジャギ「え?」

 視線を巡らす。殺風景な部屋の片隅に放置された鏡に目を止める。
そこに映っていたのもが信じられず、目をこすった。
鏡の中の像も、同じ動きをする。

ジャギ「嘘、だろ」

 酷く傷を負った顔。ボサボサになった金の髪。胸に刻まれた七つの傷。
それは『ジャギ』のものだ。けれど、それ以外の部位は。

ジャギ「女になってるーーーー?!」(がびーん)


※この物語は、『北斗の拳』及び『ジャギ外伝 極悪ノ華』の設定を取り入れつつ
 オリジナル設定を混ぜ込んだ残念なSSです※

※VIPに立てられなかったのでこちらに※

2: 2011/03/29(火) 21:07:14.04
ジャギ「えーっと落ち着け俺。落ち着いて昨日のことを思い出すんだ」

ジャギ「昨日は起きて、飯食って、人頃して、飯奪って、人頃して、飯食って、寝た」

ジャギ「うん、いつも通りの一日だったな」

ジャギ「寝てる間に妙な秘孔でも突いたか?」

ジャギ「いやそれはねぇか。筋肉を強化するならともかく、性別を変えるなんざ……」

部下A「ジャギ様ー、おはようございまーす」(バーンッ)

ジャギ「うぉっ!?」

部下A「ジャギ様?」

ジャギ「(やべえ! この姿をどう説明すりゃいいんだ!)」

部下A「珍しいですね、起こしに来る前に起きてるなんて」

ジャギ「ぬぁにぃ~?」

部下A「ひっ! でっ、出過ぎたことを言いました、すいやせん!」(バタンッ)

ジャギ「……気が付かなかった?」

ジャギ「ラッキー……なんだろうが釈然としねぇ」

3: 2011/03/29(火) 21:08:00.53
ジャギ「(とりあえず、飯食いに降りてきてみたが)」

部下ABC「(がやがや)」「(ざわざわ)」「(ヒャッハー)」

ジャギ「(どいつもこいつも、俺の体が女になったことに気付いてねぇ?)」

ジャギ「おい、テメェら」

部下ABC「へい?」

ジャギ「あー、その、なんだ。今日の俺は、妙だと思わんか?」

部下A「いえ」

部下B「特には」

部下C「いいからとっとと略奪に行きやしょうぜー」

ジャギ「おっ、おう?」

ジャギ「(クソッタレ、どうなってやがるんだ)」

ジャギ「(……俺ぁ、とうとう、どっかイカレちまったのかよ)」

部下A「どうしたんすかジャギ様ー」

ジャギ「……今日は気分がノらねぇ。テメェらだけで好きに暴れて来い」

部下ABC「ヒャッハー!」(どたばた)

4: 2011/03/29(火) 21:09:15.97
ジャギ「ちぃっ!」(げしっ)

ジャギ「何がどうなってこんな体になっちまってんだ!」

ジャギ「まさか……」(シュッ)

(ごしゃっ)

ジャギ「よし、壁くらいなら余裕だ」

ジャギ「北斗神拳まで使えなくなってる、なんてこたぁねぇか」

ジャギ「当然だ。俺は『北斗神拳伝承者ジャギ様』だからな……!」

ジャギ「しかし、結局理由はわからん」

ジャギ「こういう時はバイクでぶっ飛ばせばスカッとすんだろうが……」(ちらっ)

ジャギ「……この格好で表を歩いたら、ただの変態野郎だ」

ジャギ「む。今は野郎じゃなくてアマか」

ジャギ「……確認してみたのは、上だけなんだよな……」

(かちゃかちゃ…じーっ……そっ……じーっ……かちゃかちゃ)

ジャギ「……うん、下もだ下も」

ジャギ「ってぇ、何なんだこの居た堪れなさは! 俺の体だぞ!」

ジャギ「大体他の女の体だって見てきてんだ、今更どうってことねえだろ!」

ジャギ「ああくそっ、気分悪ィ! もう一眠り……」

ジャギ「ん? 待てよ、そういや今朝は妙な夢を見たんだったな」

ジャギ「あの夢に、なんか原因があんのか?」

ジャギ「あれに……出て来たのは、アイツは」

5: 2011/03/29(火) 21:10:21.32

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

幼ジャギ「アンナー」

幼アンナ「なーに、ジャギ」

幼ジャギ「ボスの姿が見えねぇけどどうしたんだ? もう夜中だぞ」

幼アンナ「大丈夫だよ。ボスもアタシも、夜型だから」

幼ジャギ「そういうもんなのか?」

幼アンナ「そうそう。あ、それともジャギはお子ちゃまだから、もう眠たい?」

幼ジャギ「おっ、お子ちゃまって言うんじゃねえー!」

幼アンナ「お子ちゃまだよ。ほら、ここんとこすりむいてるじゃん」(ぺろん)

幼ジャギ「ーーーーーーーっ、舐めるなー!!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


アンナ「アタシ、ココが好き」

アンナ「ジャギには、ココみたいに大切な場所ってある?」

ジャギ「あるさ! あの星!」

アンナ「星が夢、かぁ」

ジャギ「なっ、何だよ笑うなよ」

アンナ「ううん、笑わないよ。アタシも、星は好きだもの」

アンナ「太陽はあんまり好きじゃないんだ」

ジャギ「? なんで?」

アンナ「(それは言えないよ)」

アンナ「(それが言えないから。私の夢は、半分しか叶わない)」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


6: 2011/03/29(火) 21:11:44.06

ジャギ「アンナ。そうだ、思い出した。アンナだ」

ジャギ「何で、今まで忘れちまってた」

ジャギ「アンナ。アンナ、アンナ」

ジャギ「なんでだ、何で忘れちまってた。あいつは、何処に……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「嘘」

「やだ」

「起きて」

「嘘だよね」

「目を開けて」

「名前を呼んで」

「お願いだからぁ」

 長い長い石段の途中。力尽きた姿。抱き止めたのは弟。
瞼の裏に鮮烈に甦った光景。慟哭で、憎悪で、染まる心。
その瞬間に、何かが音を立てて崩れた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


7: 2011/03/29(火) 21:12:44.37
ジャギ「あ」

ジャギ「あ」

ジャギ「アアアアアアアアアアアッ?!」

ジャギ「そうだっ、そうだった、『アンナ』は、あの時、居なくなっちまったんだ!」

ジャギ「誰のせいだ、誰のせいだ、誰のせいで氏んじまったんだっ」

ジャギ「あいつらだ、あいつらが、頃した……ッ!」

ジャギ「なのに、俺は、全部忘れちまってたっ!」

ジャギ「……女の体だとか、そんなことは、関係ない」

ジャギ「奴らを、頃してやる」

ジャギ「いいや、奴らだけじゃねえ。全部、全部、だ、全部[ピーーー]!」

ジャギ「……あぁ、俺はイカれちまってんだな」

ジャギ「だから、自分の体が女なんかに見えるんだ」

ジャギ「『アンナ』の体に見えちまうんだ。は、はは、ひゃはははは」

ジャギ「ヒャハッハハハハハハハハハハハハハ……………」

 ショットガンを手にとって、皆が出払った古いビルの中で、『ジャギ』は笑う。
己は狂っているのだ、と。そうして一しきり笑った後、その声は消えた。

8: 2011/03/29(火) 21:15:37.87
男「…………」

男「ちっ、うるせぇ笑い声で目が覚めちまった」

男「まだ日が照ってるじゃねぇか……」

(ガシャアアン)

ジャギ「よぉ、ボスぅ」

ボス「……」

ジャギ「だんまりかよ」

ボス「……余計なことを言うな、つって俺を檻に入れたんだろうが」

ジャギ「あぁ? そうだったか?」

ジャギ「まぁ、んなこたぁ、どうだっていいんだ」

ジャギ「ちょいと付き合えよ」

ボス「何処へ行くつもりだよ」

ジャギ「アンナの仇討ちだよ」

ボス「ッ! お前、記憶が……」

ジャギ「情けねぇなぁ。アイツを頃した奴らを部下にしてたなんてよ」

ジャギ「奴ら頃して、そんで、他の人間も[ピーーー]」

ジャギ「アイツが氏んだのに、のうのうと生きてるなんざ、許せねぇんだ」

ボス「馬鹿! そんなことして、アイツが喜ぶとでも思ってんのかよ!」

ジャギ「なぁ、ボス。今の俺の姿、どう見える?」

ボス「何?」

ジャギ「あんたに、いつも見えてた姿と変わらないのか、って聞いてんだよ」

ボス「……変わらない。俺が見ていた、お前の姿だ」

ジャギ「ひひっ、だろう? でもなぁ、俺ぁ違うんだ」

ジャギ「この体が、アンナの姿に見えるんだよ」

ジャギ「アンナがさ、殺せって言ってんだ、きっと」

ボス「……」

ジャギ「ついてきてくれるよな、ボス」

ジャギ「アイツを失った悲しみを分かち合えるのは、ボスだけだ」

ボス「……」

9: 2011/03/29(火) 21:19:23.62
部下A「あべらばべばーっ!」(パーン)

部下B「げぼーっ!」(ぐしゃっ)

部下C「ひっ、ひぃーーーーーっ!」

ケンシロウ「おい待て。貴様には聞かねばならんことがある」

部下C「いっ言いますから! 何でも言いますからっ! いっ、命だけは!」

ケンシロウ「これと同じ胸の傷を持つ男の居場所を教えろ」

部下C「じゃっ、ジャギ様のことですねっ!」

ケンシロウ「ジャ、ギ?」

部下C「えっ、ええ、そうです!」

部下C「ジャギ様なら、この先のアジトに……うべらげっ!」(ぼんっ)

ケンシロウ「銃弾か」

(ドルルンドルルルン)

ケンシロウ「バイクのエンジン音?」

(ドルンドルンドルン……ブォン)

ジャギ「あぁ? 何だぁ、テメェは」

ジャギ「……ちっ、コイツら頃しちまったのかよ」

 破裂した部下共の氏体を持ちあげ、地面に叩き付けた。

ジャギ「俺が、この手で頃してやろうと思ってたのに」

 手についた血を舐める。その味に嫌悪を抱かない自分に、少しだけ驚いた。
そこまで狂っているのか、とちらりと頭の片隅を過った。

ジャギ「こいつらの氏に方、覚えがあるなぁ。なぁボス、そう思わねぇか?」

ボス「……『ジャギ』と同じ技じゃねえのか」

ジャギ「あぁ……そうか。これぁ、北斗神拳だ」(じろり)

ジャギ「そうだ、テメェには、覚えがある」

ジャギ「その七つの傷も、その顔も、その技も」

ジャギ「ひっ、ひひっ、ヒャハハハッ! 久しぶりじゃねぇか」

ジャギ「なぁおい、ケンシロウ!」

ケンシロウ「……」

ジャギ「ケンシロウ……! 俺の名を言ってみろぉおおおおおお!!」

10: 2011/03/29(火) 21:20:10.09
ケンシロウ「誰?」

ジャギ「えっ」

ケンシロウ「えっ」

ジャギ「えっ」

19: 2011/03/30(水) 22:17:57.42
ジャギ「ふっ、ふざけんじゃねぇえええええ!!」

ジャギ「テメェ、この『ジャギ様』のことを忘れやがって!!」

ジャギ「そんなに、俺のことがどうでもいいってのか!!」

ジャギ「弟のクセに、ふざけてんじゃねぇええええ!!」

(だきゅーん)

ケンシロウ「(スッ)」

ケンシロウ「……テメェが誰かは知らん。だが、これだけは言える」

ケンシロウ「テメェは、ジャギじゃない」

ジャギ「黙れぇえええええ! そんなわけあるかぁあああああ!!」

ジャギ「俺はっ、俺は、『北斗神拳伝承者ジャギ様』だぁあああああ!!」

 指先が、ケンシロウへと一直線に伸びる。ケンシロウは何の苦もなく避ける。
再度振りかぶろうとしたその拳が、止められた。

ボス「もうやめろ!」

ジャギ「ボスっ、くそっ、離せっ!」

ボス「もう、やめるんだ」

ジャギ「離せっつってんだ! 邪魔すんじゃねえよ、ボス!」

ケンシロウ「おい、アンタ」

ボス「あ?」

ケンシロウ「そいつの動きは、確かにジャギによく似ている」

ケンシロウ「だからこそ、解らない。答えてもらおうか」

ボス「なんだよ」

ケンシロウ「……アレでも、普通の人間よりはジャギは余程強かったはずだ」

ケンシロウ「そのジャギと同じ動きをするそいつを、何故片手で止められる」

ジャギ「!」

20: 2011/03/30(水) 22:19:55.94
ボス「……吸血鬼、って知ってるか?」

ケンシロウ「おとぎ話の類だろう」

ボス「表向きは、な。だが実在する」

ケンシロウ「アンタがソレだというのか」

ボス「ああ」

ジャギ「何言ってんだよボス。吸血鬼が、日の下を歩けるわけがねぇだろ」

ボス「俺達は……俺と妹は、先祖返りを起こした人間だ」

ボス「遠いジジイだかババアだかが吸血鬼だったせいで、その力を持って生まれた」

ボス「日の下を歩けるくせに、人間の血を美味いと感じる」

ボス「腕の力だって、常人にゃ負けねぇ」

ジャギ「嘘だっ、じゃあなんで、あの時奴らに負けたんだ?!」

ボス「普段はな、暗示の力で抑え込んでるんだ」

ケンシロウ「暗示?」

ボス「力を出せない、と自分へ強い暗示をかけちまったら、その通りになる」

ボス「本来は、他人へ使う催眠術なんだが、俺と妹はそれを自分に使った」

ボス「妹は優しい奴だった。誰かを傷つけたくないから、その暗示を使っていた」

ジャギ「そんな暗示かけてたせいでっ、アイツは氏んじまったんじゃないか!」

ボス「違う」

ジャギ「違わない! 暗示さえかけなきゃ、力さえ、抑えてなきゃ」

ジャギ「そうしたら……っ」

ボス「もうよせ。それ以上責めるのは」

ジャギ「でも……っ」

21: 2011/03/30(水) 22:21:48.52
ボス「ジャギが氏んだのは、お前のせいじゃあない」

ジャギ?「は?」

ジャギ?「おかしなこと言うなよ、ボス」

ジャギ?「ジャギが氏んだ? 何馬鹿なこと言ってんだよ」

ジャギ?「じゃあ、俺は、誰だってんだ。今ここにいる俺は」

ケンシロウ「……核が落ちた直後。俺は道場へ続く階段でジャギを見つけた」

ジャギ?「何を、言ってやがんだ。やめろ、やめてくれ」

 聞きたくない、と脳が叫ぶ。
けれど、ケンシロウのその悲しげな言葉に耳を防げなかった。
その悲しげな視線から目をそらせなかった。

22: 2011/03/30(水) 22:23:36.23

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ケンシロウ「ジャギ……? どうしたんだ、しっかり……!」

ジャギ「父さん? 父さんなの、そこにいるのは」

ケンシロウ「?! 違う、俺は師父じゃ、父さんじゃない、気を確かに持て!」

ジャギ「父さん、ぼくね、まもりたいおんなのこがいたんだ」

ジャギ「でもね、だめだったよ。あのこ、アンナ、しんじゃった」

ジャギ「ぼくね、かたき、とろうとおもって、さ」

ジャギ「あいつらのとこに、のりこんだんだ」

ケンシロウ「(ジャギがやられた? 伝承者候補だぞ)」

ケンシロウ「(有象無象に負ける程弱いはずは……!)

ケンシロウ「お前、その傷……」

ジャギ「……ばくはつで、ほのおで、やけど、してて」

ジャギ「北斗神拳、うまく、つかえなかった」

ジャギ「ごめんなさい、とうさん、ごめんなさい」

ジャギ「つかっちゃだめっていわれてたのに」

ジャギ「とうさんの、拳で、まけたく、なかったのに」

ジャギ「ごめんなさい、とうさん、ごめんなさい、ごめんなさい……」

ケンシロウ「ジャギ! ジャギ、しっかりしろ! 俺は父さんじゃない!!」

ジャギ「ごめん、ごめん、ゆるして、アンナ。まもれなくって、ごめん、ごめん……」

ケンシロウ「しっかりするんだ! 今師父を探してくる!」

ジャギ「」

ケンシロウ「……ジャギ? おい、ジャギ、ジャギ!!」

少女「ジャギ? ジャギが、そこに、いるの?」

ケンシロウ「っ」

少女「ジャギ、私は、大丈夫だよ。頑丈に出来てるから」

少女「えっと、ちょっとひどい顔になっちゃったけどさ」

少女「氏んでないから、ね。謝らなくていいんだよ」

ジャギ「」

少女「ジャギ?」

少女「嘘」

少女「やだ」

少女「起きて」

少女「嘘だよね」

少女「目を開けて」

少女「名前を呼んで」

少女「お願いだからぁ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

23: 2011/03/30(水) 22:26:22.66

ジャギ?「ああああああああああああ!!」

 長い長い石段の途中。力尽きた彼の姿。抱き止めたのは彼の弟。
瞼の裏に鮮烈に甦った光景。慟哭で、憎悪で、染まる心。
その瞬間に、何かが音を立てて崩れた。

 自分の顔には、醜い傷があった。
(それはケンシロウに負わされたものだと信じていた)
(実際は、暴行された時に負った傷跡だったのだけれど)
だから、ずっとヘルメットや布で隠していた。
おかしいと思うべきだった。部屋に鏡があることを。
あの鏡に向かって、自分は毎夜何をしていた?

ジャギ?「俺の姿に疑問を持つな、って、暗示をかけてたんだ」

ジャギ?「部下にも、誰より、俺自身にも」

ボス「だが、その暗示は同じ力を持つ俺には通じなかった」

ケンシロウ「ジャギを、この腕の中で看取った俺にも」

ジャギ?「その後、こいつの腕からジャギを奪い取って」

ボス「……飲んだ」

ケンシロウ「血を、か?」

ジャギ?「一滴も、残さず」

ボス「心から思う相手の血を、氏後、一滴残さず飲み干せば」

ボス「そいつの魂と肉体の記憶を全て受け継ぐことができる、っつー伝承があってな」

ジャギ?「俺は、それに賭けたんだ」

ジャギ?「そして……あの時から、俺は……『ジャギ』になった」

ボス「自分自身が『ジャギ』だと信じてるこいつに、俺の言葉は届かなかった」

ジャギ?「ようやく思い出した。俺は……アタシは、ジャギじゃなかったんだ」

ボス「そうだ。だから、もういいだろ」

24: 2011/03/30(水) 22:29:08.61
ジャギ?「よくないよ」

ボス「何?」

ジャギ?「アタシの中には、ジャギの記憶があるんだ」

ジャギ?「ジャギは、ケンシロウを憎んでた」

ジャギ?「後から来たケンシロウに、居場所を奪われたって!」

ジャギ?「だから、だからアタシは、俺は、ケンシロウをこのまま見過ごすことなんて出来

ない!」

(ばしっ)

ボス「しまっ……」

ジャギ?「[ピーーー]ぇえええええええええ!!」


北 斗 羅 漢 撃 !!



ケンシロウ「むんっ!」(ドスッ)

ジャギ?「何でっ、受け止められる! ジャギの、一番得意な技をっ!」

ケンシロウ「……北斗羅漢撃は、怒りを、憎しみを、怨みを、全て無くして初めて完成する

技」

ケンシロウ「そう、父さんに習ったはずだ、ジャギは」

ケンシロウ「ジャギが俺を怨んでいるというなら、その技は、ただのスローな突きだ!」

ケンシロウ「いつまでもジャギの亡霊に囚われるな……!」

ジャギ?「うっ、うっ」

ボス「もうやめようぜ。お前が人を頃しても、ジャギは喜ばねぇよ」

ジャギ?「うっ、ううっ」

ボス「なぁ……、アンナ」

ジャギ?=アンナ「うあぁああああん、あっ、うっ、ひぐっ、あぁああああああん」

 荒野のビル街に、少女の泣き声が木霊する。
あの時から隠し続けていた涙が、悲しみが、木霊する。
少女は、元は余り泣かないタチだった。だから、今泣いてしまうのはきっと、
大好きだった『泣き虫の男の子』の魂を、その身に宿しているからなのだろう。


25: 2011/03/30(水) 22:32:17.35

 古びたビルの中。ボスが紙の束をケンシロウに手渡す。
あまり丁寧とは言えない文字に、『二人とも』見覚えがあったがそれを口にはしない。

ボス「これが、攫った人間を売り飛ばした先のリストだ」

ケンシロウ「いただいておこう」

ケンシロウ「友人が、妹を『七つの傷を持つ男』に攫われて、行方を捜している」

ボス「……もしかして、アイリっつー嬢ちゃんか?」

ケンシロウ「知っているのか」

ボス「向かいの牢に入れられてた」

ボス「攫われてきたのが相当ショックだったらしい。もう何も見たくない、つってた」

ケンシロウ「それで、どうした」

ボス「あのままじゃ自分の目を潰しかねなかったんでな、暗示で目を見えなくしてやった」

ケンシロウ「暗示で、か」

ボス「ああ。だからま、ちょっと暗示を解いてやりゃあすぐ目が見えるはずだぜ」

ケンシロウ「そうか」

ボス「……ありがとよ、アンナを殺さないでくれて」

ケンシロウ「……」

ボス「アイツがやってきたことは、到底許されることじゃねぇ」

ボス「殺されたって、文句は言えなかった」

ケンシロウ「夢を見た」

ボス「夢?」

ケンシロウ「あの階段にいる夢。そこには、ジャギが立っていて、こう言われた」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ジャギ「お前が、北斗神拳を継いだんだろう」

ジャギ「お前が、俺が継げなかった、父さんの拳を継いだんだろう」

ジャギ「お前に……お前にしか、あいつを救えないんだ」

ジャギ「頼む、アイツを、止めてやってくれ」

ジャギ「お前は、世紀末救世主様なんだろう!?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ボス「そっか」

ケンシロウ「アンタらは、これからどうするんだ?」

ボス「さぁなぁ。ま、あんたが気にすることじゃねぇよ」

ケンシロウ「そうだな。では、俺はもう行く。日も暮れそうだしな」

ボス「ああ、あばよ」

26: 2011/03/30(水) 22:34:44.10

 ビル街の片隅。そこで、アンナはそっとヘルメットを脱いだ。

アンナ「ジャギ」

 呼びかけて、ことり、と地面にそれを置く。
傷を隠すようにして、顔にはバンダナを巻いている。

アンナ「私の夢はね、ジャギと一緒に幸せに暮らすことだったよ」

アンナ「ジャギと一緒に、って部分は、やっぱり駄目になっちゃった」

 あの頃は、自分に流れるバケモノの血のせいで傍に居られないと思っていた。
今は、一緒に居たいと願った相手を失ってしまった。

アンナ「でもね……幸せには、暮らせるように、頑張るよ」

 細い手を、そっと胸に当てる。
服の下には、彼を忘れまいと刻んだ七つの傷が今も残ったままだ。

アンナ「血まみれの手で、こんなこと言っちゃだめなんだろうね、本当は」

アンナ「それでも……、ジャギの分まで、生きて生きて、生き抜くから」

 少女は空を見上げた。日は暮れ、空には星が輝いている。
彼が『夢だ』と言った七つ星が、キラリと瞬いた。

アンナ「あの星が輝く限り、ジャギはアタシの傍にいる」

 愛しげに己の体を、その内に宿したもう一人の魂ごと抱きしめる。

アンナ「そう思って、幸せに、なるよ」



27: 2011/03/30(水) 22:42:29.27
以上で終了です。誰得って俺得だよ。オチはやや投げやりになったよ!
でもいいんだよ俺得SSなんだから! 感想ありがとうございました!!

わかりにくいとこ勝手にFAQ

Q:トキは? ラオウは?
A:その内適当に解るんじゃねえの?!

Q:アミバは?
A:知らん! 核の炎に焼かれて氏んだりとかしてんじゃね?!
  そもそも極悪ノ華で一切出てこないからねアミバ

Q:どういう流れだったの?
A:核落ちる→※ジャギ核の炎で焼かれる→アンナさらわれる
→アンナ暴行される→※アンナ怪我をし仮氏状態に→※ジャギ、アンナが氏んだと思い込む
→※ジャギ、アンナをさらった奴らの下で暴れるが致命傷を負い逃げる
→※アンナ復活、ジャギ探す→※ジャギ、ケンシロウに看取られ氏ぬ→※アンナ狂う
→※アンナ、ジャギの血を飲み干して記憶を全て受け継ぐ
→※アンナ、自身をジャギと信じるよう自他共に暗示をかける→※アンナ、ボスを幽閉
→※アンナ、以降『ジャギ』として悪逆非道の限りを尽くす(アイリさらったり)
→※色々あってSS冒頭部分

※印の部分がSSオリジナル設定

こんな感じでした! 以上! 終わり!

28: 2011/03/30(水) 22:50:48.67
乙華麗

29: 2011/03/31(木) 17:35:16.11
乙乙

30: 2011/03/31(木) 22:05:33.62

綺麗にまとまったな

31: 2011/04/01(金) 21:43:03.42
アミバ「氏が、罰か」

※余韻台無し一発ネタ※

※構想・製作時間携帯でポチポチ打って50分
 どうせスレ空いてるんだし投下しちゃえ系のがっかりクオリティ※

32: 2011/04/01(金) 21:43:57.03

 嘘つきには報いを。
血まみれの両手。ちぎれた両手。確かに氏んだはずだった。

アミバ「……あれは、きっと悪い夢だったんだろうな」

アミバ「俺は天才でも何でもねぇし」

娘「父さん? どうしたの?」

アミバ「ああいや、何でもないさ」

アミバ「(……そうさ。俺は四十前のただの農夫で)」

アミバ「(もうすぐ氏んじまいそうな、ただの哀れな男だよ)」

娘「やっぱり…具合悪いの?」

アミバ「苦労をかけるな…俺がこんな体でなけりゃ、お前を嫁に出せたのに」

娘「やだ、父さんが気にすることないわ」

アミバ「(娘も、立派に育ってくれた)」

アミバ「(あの夢の中の『アミバ』に比べりゃあ随分マシな人生だ)」

33: 2011/04/01(金) 21:45:00.49
娘「……ねぇ、父さん」

アミバ「ん?」

娘「私、この間隣村に行ったでしょう?」

アミバ「ああ」

娘「そこでね、噂を聞いたの」

娘「色んな怪我や病気を治してくれる人が住む――奇跡の村の話を」

アミバ「奇跡、の、村?」

アミバ「(聞いた気がする……だが思い出せん)」

娘「ね、父さん、そこへ行ってみましょう?」

アミバ「だが、俺は歩けん…」

娘「私が背負っていくわ」

アミバ「そんな苦労は…」

娘「私は、父さんが元気になるためだったら何だってするわ」

アミバ「……すまん」

34: 2011/04/01(金) 21:45:47.86
 辺りは砂漠。昼はとてもではないが歩けない。故に二人は夜を進む。

娘「父さん父さん辛くはない?」

アミバ「ああ、大丈夫だ」

娘「父さん父さん喉が乾いてはいない?」

アミバ「ああ、大丈夫だお前が飲みなさい」

 親子は二人、夜を進む。この苦労の先に、きっと幸せがあると信じて。
そして二人は、辿り着く。

35: 2011/04/01(金) 21:47:07.72
娘「ここが奇跡の村…」

アミバ「(やはり…見覚えがある?)」

アミバ「(そうだ、あの夢の中で)」

男「おや、お嬢さんどうかなさいましたかな?」

娘「父さんが重い病気なんです」

男「それはいけない…どれ見せてご覧なさい」

娘「お医者様ですか?」

男「似たようなものです」

 男が、顔を覗きこむ。父は、悲鳴を上げそうになった。
喉から声が漏れる前に、男の指先が喉を突く。

男「ふむ、砂漠で体力を消耗したようだ」

娘「まあなんてこと、父さんしっかりして」

アミバ「あ…あ…(俺はいいから、逃げろ)」

男「お嬢さんも疲れているでしょう…あの建物で少し休みなさい」

アミバ「あ…ああ…(やめろ、行くな、戻って来い!)」

 娘は建物の中へ消える。そして聞こえてきたのは、悲鳴。

男「馬鹿な女だ…こんなご時世で他人を信じるなど」

アミバ「あ…あ…ああああ……」

体が動いた。身を起こし、建物へ駆け寄る。
扉を開けば、暗闇に倒れ伏す娘。

アミバ「おいっ、おいっ、しっかりしろっ!」

娘「ひどいよぉ…痛いよぉ…」

娘「助けたかっただけなのに、どうしてこんな酷いことするの?」

 腫れた瞼や頬。四肢は腐り蛆が湧いている。
娘の両手がなじるようにアミバの顔に伸ばされ…ボトリ、とちぎれてとけた。
 いつの間にか、男が再度覗きこんでいる。その口元が耳まで裂ける。

アミバ「何で……何で、こんな酷いことを……」

男「酷いこと、だと?」

男「……これが……貴様がやってきたことだろう……?」

 男のその顔は――彼とそっくり同じもの。

アミバ「ああああああああああああ!」

36: 2011/04/01(金) 21:49:31.23

 嘘つきには報いを。
血まみれの両手。ちぎれた両手。
ギリギリ氏体になっていない男が、地面に転がっている。
傍らに佇む少女が一人。

アンナ「全部、嘘だけどね」

 全ては彼女の見せた幻。

アンナ「自分がどんな罪を背負って、その罰として氏ぬのか」

アンナ「それがわからないまんまって正直腹が立ったんだよね」

アンナ「だから、あんたに悪夢を見せてやった」

アミバ「……氏が、罰か」

アンナ「……まだ生きてたんだ」

アミバ「一つ…勘…違い…して…る」

アンナ「え?」

アミバ「……娘は、いな、かった。だま、され、て、しんだ、俺の、娘は」

アミバ「それ、が、わか、た、から……安、心、して、[ピーーー]る」

アンナ「え…」

アミバ「その、程度で、改心、しや、しないさ……」

 男は瀕氏のまま、不敵に笑う。

アンナ「……氏が罰にならなかったんだ」

アンナ「本当は、さ。私も似たようなもんだし、罰を与える立場になんてないんだよね」

アンナ「でも、嘘をつきたかった」

アンナ「何でかわかる?」



アンナ「今日が四月一日だからエイプリルフールネタ便乗したくて」

アミバ「ああ…しがつ…ばか…」


37: 2011/04/01(金) 21:50:17.99
……うん、正直すまんかった。

38: 2011/04/02(土) 12:09:32.70
乙乙
エイプリルフールなら仕方ないね

39: 2011/04/02(土) 19:13:03.02
何だか超展開だなあ
結構好きだけどね乙

引用元: ジャギ「女になってる……」