2: 2012/05/01(火) 09:56:06.96
春香「そういえばプロデューサーさんって今何歳なんですか?」

事務所で一通りの書類整理が終わり、一息付いているとソファーでクッキーを摘まんでいた春香が声をかけてきた。
集中して作業していたせいか気を使っていてくれたのだろう。ありがたい事だ。

P「俺か? 今17歳だけど」

その一言で事務所内に戦慄が走った。
俺と音無さんと春香。たった三人しかいない事務所の空気が一瞬にして凍りついたことに俺は驚きを隠せない。

小鳥「プ、プロデューサーさん……熱でもあります?」

口に咥えていたせんべい、机に落としてますよ。音無さん。

春香「ま、またまたぁ! そんなジョークじゃ私、騙されませんよっ?」

いや、ジョークじゃないんだけど。

3: 2012/05/01(火) 10:04:18.63
P「いや、17だけど。あ、そーいや……そろそろ免許取りにいかないとなぁ。来月誕生日だし」

今まで営業、レッスン会場に行くにも公共の交通機関を使ってた。
けど免許さえあれば事務所の誰も乗ってない車を使えるしな。問題は取りに行く時間があるかどうかだ。
社長も人手不足ならもう少し人材増やしてくれてもいいと思うんだが……。

春香「17って私達と同い年じゃないですかっ!」

P「だからそう言ってるだろーに。本当は高校にでも行ってる年頃なんだけどな」

コーヒーを口にしながら言う。この苦味にも大分慣れたものだ。最初はココアばっかり飲んでて音無さんから「可愛い」とか言われてたっけ。

4: 2012/05/01(火) 10:10:01.09
小鳥「本当だ……プロデューサーさんって見かけによらず若かったんですね」

従業員のファイルを開いて音無さんは漸く理解してくれたみたいだ。
春香も音無さんの開く話ファイルを覗き込んで「本当だ……」と唖然している。

P「そんなに老けてるかな……俺」

年相応の顔かと思ったら周りからはそうは思われてなかったなんてな。
同年代のみんなは高校に行って、部活をして、恋愛をして青春を謳歌している頃に俺は何でこんな寂れた事務所でプロデューサーをやっているのか。
今となっては思い出すと大変だったなぁ、と思う事ばかりだ。

6: 2012/05/01(火) 10:22:22.28
元々貧しい家庭の子だった俺は中学を卒業と共に家から出た。
理由としては簡単だ。俺以外の家族が交通事故で亡くなった。ただそれだけ。
勿論引き取ってくれる親戚はいっぱいいたが、丁重にお断りした。
両親が残してくれた僅かなお金で細々とやりくりする毎日。安いアパートを借りて、働いては寝て、働いては寝ての繰り返し。
別にそれが嫌だったわけじゃない。自分で働いて得たお金で生きていくことに充実感があったし、思ったより働き先の人たちは良い人ばかりで働いていて苦にならなかった。

――ところがある日、転機が訪れる。
俺のバイト先に765プロの社長を名乗る人からスカウトが来たのだ。

高木「君にピンと来るものを感じた。是非ともうちでアイドルを育ててみないか?」

P「えっ、俺にですか?」

高木「頼むよぉ。うちの事務所、人手不足でさ」

P「は、はぁ……」

高木「勿論、アルバイトじゃなく正社員でだ。給料もそれなりに出すよ?」

流石に初対面の人に正社員にスカウトされるような凄い事をした覚えも無い為、最初は丁重にお断りしたがそれ以降毎日職場に現れるようになった。
毎日現れてはスカウトの話とアイドルの話。根気強いな、と称賛に値するが俺の心は揺らがなかった。あの一言を聞くまでは。


8: 2012/05/01(火) 10:39:40.18
高木「最近ね、私の事務所に新しいアイドルが入ってきたんだよ」

P「へぇ、そうですか。今度はどんな子が?」

ビールとつまみを正面のカウンターに置き、話を聞く。人の少ないこの時間帯に社長は良く来た。
社長はぐいっと一杯、ビールを口に運び、一日の疲れを忘れる。だいぶ見慣れたが、今でも良い飲みっぷりである。

高木「それが不思議な子でなぁ・・・・・。綺麗な銀髪で、御淑やかでなんと言うか……月から来たお姫様、と例えるのが一番しっくりくるかな」

P「綺麗な銀髪ですか……」

何となく、その人物が俺の知っている大切な人にそっくりな気がした。
でもまぁ、あの人がアイドルやるとは到底思えないし……。

高木「出身地の事を聞くとね、『くに』としか言わないんだ。それ以上は『とっぷしーくれっとです。乙女には誰にも言えない秘密が一つや二つある物ですよ、高木殿』なんて言うんだよ、彼女。いやぁ実に面白いね……って、どうした君? 漸く我が社に来てくれる気になったのかい?」

P「……えぇ、漸く興味が湧いてきました」

高木「本当かい!? ただ、アイドルとの恋愛はご法度だからね。ま、君みたいな寡黙な人間には問題なさそうだ。私の眼には狂いはないからね!」

こうして俺は765プロに入社することが決まった。
今までお世話になった店主さんや他の従業員と離れ離れになるのは寂しくはなかった。だって、新しい仕事先は今の仕事先の真上にあるんだからな。

9: 2012/05/01(火) 10:53:16.86
P「新しくこの765プロで働くことになりました、Pと申します。皆さんの力になれる様全力で務めさせて頂きます。どうぞよろしくお願いします」

小鳥「あ、貴方確かたるき亭の……。社長が言ってた気になる人材って彼だったんですね」

高木「そうだよ音無君。彼ならきっと、この765プロからトップアイドルを世に出してくれるさ」

P「入社初日から凄いプレッシャーですね。これならたるき亭で働いてた方がよかったかも」

高木「君……そんな事言わずに頼むよ! 君は我が765プロの救世主なんだから」

辺りを見回してもどこにもアイドルと呼べるような子が見当たらない。
確かに音無さんも綺麗な人だが、この人は昔からよくたるき亭に来てたしアイドルじゃないってのは分かってる。

P「で、この事務所のアイドルは……?」

小鳥「流石にこの時間帯に来る子はあまりいないですよ。みんな学業も掛けもちですから」

学生時代かー、と一人懐かしそうに窓の外を見る音無さん。それもそうか、今は朝の9時。普通なら学校に行ってる頃だ。
売れっ子アイドルばっかりならまだしも社長は入社前に「うちのアイドルたちはまだ雛鳥だからねぇ……」とぼやいてたことがあった。まぁ、そんなもんだろと思っていた。
しかし一人、例外を除いて……。

貴音「おはようございます。今日も良い清々しい朝ですね、小鳥嬢、高木殿」

10: 2012/05/01(火) 11:03:53.62
銀髪の髪、人形のような整った顔。何処となく王女様と例えるのが一番しっくりくる雰囲気を放つ女性が玄関から現れた。

貴音「おや……そこの殿方は、ん?」

P「は、初めまして四条さん。俺は……」

高木「四条君。彼は新しい君たちのプロデューサーだ。これから君たちは彼の下で働いてもらうことになるよ」

貴音「……」

P「よ、よろしく……」

沈黙。

そして沈黙。

小鳥(何かタダならぬ雰囲気ね……)

凛々しい目がじっと俺の眼を見つめる。
俺が何者なのか、探るような目で。普通なら初対面の人間にここまで見つめられる事は無いだろう。――初対面ならな。

貴音「ちょっとこの殿方を借りて参りますね、高木殿」

P「えっ、ちょっ!?」

腕を掴まれ、無理やり外へと連れて行かれた。
掴まれた手は少女にしては力強く、逃がさないと、身体で俺に伝えていた。

12: 2012/05/01(火) 11:25:54.22
まぁ、振りほどく気も無いわけで。
彼女の方から俺を連れ出してくれたのはありがたかった。俺から声をかけるには少しばかり恥ずかしいし。

765プロの屋上は何処か都会にしては物静かで、考え事をするにはとても良さそうな場所だった。
今度から使わせてもらおう。

貴音「……どうしてあなたがここにいるのか説明して頂きたいものですね」

彼女は力強く掴んだ手を漸く離し、俺と向き合う。
成長したな、と思える箇所が多くて最初は別人かと思ったが当たり前だ。歳月は人を変える。……俺だってその一人じゃないか。
だが、彼女の特徴である銀色の長髪だけは何一つ変わらない。目に焼き付いていた美しさは変わることなく残っていた事に少しばかし安堵する。

P「どうしてって……これも運命のめぐり合わせかな? ――貴姉(たかねぇ)」

ちょっとキザくさい台詞だったかもしれない。言った後に少しだけ後悔する。
表情一つ変えずに貴姉は俺をじっと見つめる。

貴音「確かに。あなたと離れ離れになって、私の心がどれだけ苦しい思いをしてきたか、あなたに分かりますか?」

無表情の気迫とはこれほどまでに凄い物なのか。喋ることを許されない圧迫感が俺を包み込み、黙らせる。

貴音「幾多の日を待ちながらもあなたは現れなかった。風の知らせでは親戚にも身を寄せず、一人で上京したと聞くではありませんか」

貴音「どうして私に相談しなかったのですか?」

貴音「どうして私に一言も言わずに去って行ったのですか?」

貴音「どうして私に文の一つも寄越してはくれなかったのですか?」

貴音「どうして……どうしてっ」




13: 2012/05/01(火) 11:43:36.29
言葉と共に吐き出される苦悩の思い。
それらが全て、俺に対しての物だという事。
そしてこの涙も、俺に対しての物だという事。

貴音「貴方は姉不幸者でございます……!!」

何だよ、姉不幸者って。
けど、俺の事をここまで思ってくれていただなんて。照れくさくて貴姉の眼が見れない。
こんな美人さんに涙目で罵られるだなんて、ある種の人たちからしたらご褒美かもしれない。俺はただただ困るだけである。

P「――久しぶり、貴姉」

貴音「この、姉不幸者っ! 姉不幸者っ!! ……っああぁあっぁああ!!!」

胸に飛び込んできた貴姉。
柔らかい体を俺の身に寄せてくる。それをギュッと、抱きしめ――たいところではあるが!!

P「た、貴姉。俺、プロデューサー。貴姉、アイドル。わかる?」

初日早々、高木社長と交わした約束を破るなんて俺には……。

貴音「……グスッ。あなたは、これ以上、そのアイドルの顔を涙で歪めたいのですか?」

P「Oh……」

そう言われてしまうとどうしようもないですよ……ね、社長。これくらいはノーカンにしてくださいね。
俺はそっと、震える肩を抱いた。

14: 2012/05/01(火) 12:05:37.69
P「落ち着いた?」

貴音「グスッ」

P「取りあえず再開を祝いたいところではあるんだけど……どうして貴姉はアイドルになんて」

貴音「あなたに連絡が取れず早数年、私は耐え切れずあなたを探す為に色々な手段を講じました。しかし、あなたは見つからず仕舞い。そこで私は……」

P「あー、わかった。貴姉の事だ。テレビで『P~!! 私、四条貴音でございます!元気でやっておられますか! 文の一つくらい寄越しなさい!』とか言うためだけにわざわざアイドルになろうとか考えたんだろ?」

びくっ、と体を震わせる辺り図星だったのだろう。
貴姉の事だ。そんな事だろうとは思ってたよ。

貴音「あなたはいけずです」

むすっ、と不貞腐れる。

P「貴姉の事をそれだけ理解してるってことだよ。で、当の目的は果たされちゃった訳なんだけど……どうすんの? アイドル辞めるの?」

貴音「も、勿論それだけの目的のためにあいどるをやっているのではありません! 食い扶持を無くした私を助けてくださった高木殿に恩を返すために……」

P「……ちょっと待て、食い扶持を無くしたってどういう事だよ?」

貴音「お、お恥ずかしながら私。上京した際に東京の各所にある美味ならぁめんの食べ歩きを続けておりまして気が付いたら所持金が……」

P「……」

貴音「い、今は違いますよっ!? 一人で暮らすには十分の収入も得ているつもりです……たぶん」

この調子だと三食カップラーメンで過ごしてると見た。
あと給料日にはご褒美にラーメン屋でラーメンとか。不憫なのか、単なる馬鹿なのか……。

P「貴姉は高校、行ってないの?」

貴音「えぇ。今の私はアイドルとしての道を往く身。他の者達より遅れを持つ以上、それ以上の努力を掛けて追いつくしか無いと思いまして」

P(他のアイドル達は勉学も両立してると思うけどな……)

16: 2012/05/01(火) 12:53:35.46
P「話は大体理解した。貴姉……事務所では俺との関係を話すなよ?」

貴音「どっ、如何して!?」

依然とは違って喜怒哀楽がはっきりと顔に出てて面白いな、貴姉。
からかいたくもなるが、仕事上問題になりそうな事は事前に排除しておきたい。
新しい職場、新しい環境、新しい仲間。それに慣れるにも一苦労掛るのだから。

P「仮にもアイドルとプロデューサーな訳だし、それに俺は入ってきたばかりの新人なんだ。変な誤解を招きたくない」

貴音「誤解!? 誤解とは何の事ですっ? 私達は……」

P「ただの幼馴染。貴姉とは幼少の頃ずっと一緒にいて、一人っ子だった俺の姉のような人だ」

貴音「っ……」

P「確かに俺も久しぶりに会えて凄い嬉しい。そもそも765プロに入社を決めたのも貴姉がいると聞いたからなんだ」

貴音「それはまことですかっ……?」

P「うん。社長から特徴だけ耳にして直感でね。だからこそ、このことは内密にしておきたいんだ。大切にしておきたい二人だけの秘密としてね」

P(こうでも言わないと納得しないからな……。他のアイドルに知られたら少なくとも良い印象は持たれないだろう。俺がプロデューサーじゃなきゃ話は別だけどさ)




17: 2012/05/01(火) 13:38:24.00
P「少なくとも今は新しい環境に慣れたいんだ、貴姉。だから頼むよ」

貴音「仕方ないですね・・・・・。あなたがそういうのなら、仕方がありません。それに、あなたが私をプロデュースしてくださるなんて思ってもいませんでしたし」

貴音「ここ、765プロのみんなはあなたを快く迎え入れてくれると思いますよ。私が保証いたします」

えっへん、と。無駄にデカくなった胸を張る。
何て言うか、久しぶりに会った時よりも印象が昔の時みたいに戻ってきてる気がする。こっちが本来の俺が知ってる貴姉だなぁ。
仕事で忙しかった時、一緒に遊んで過ごした貴姉。俺が落としたアイスクリームを自分が食べていたのに俺にくれた貴姉。眠れない時一緒に寝てくれた貴姉。
あの頃と比べると、変わる事が多すぎたけど……変わらないでいてくれた物が目の前にある。そして、また共に過ごせる。俺はこの天の巡り会わせに感謝した。

P「ありがとう、貴姉。俺、頑張って貴姉と、この765プロのみんなをトップアイドルにしてみせる。絶対に……」

貴音「出来ますよ、あなたなら。絶対」

一度だけ、軽くハグして貴姉は先に事務所に戻っていった。
段々と外で人の通りが増えていく中、その人たちに負けぬよう頑張ろう。貴姉に負けないように。

春香「あっ、あなたが噂の新しいプロデューサーさんですかっ? 私、天海春香って言います! 17歳の高校生です。よろしくお願いしま……あっ!」

P「危ないっ!」

転びそうになった二つのリボンを髪に付けた少女に駆け寄り、転ばぬよう体を支える。
17歳と言うと……同い年か。最近の女子高生ってのはこういうドジッ子がまだいるのかな。何か色々と

春香「わ、私ったら初対面の人にまたドジな事を……。ご、ごめんなさいっ」

慌てて離れ、頭を下げて謝罪をする。純粋に可愛い子だなと思う。

P「アイドルやってるんだから気をつけなきゃ。で、大丈夫かい?」

春香「ぁう……///」

千早「まったく春香ったら……。あ、自己紹介が遅れました。私、如月千早と言います。プロデューサー、これからよろしくお願いします」

P「こちらこそよろしく。如月さん」

貴姉とは違う大人の雰囲気をこの如月さんからは感じる。天海さんは俺の中じゃドジッ子という印象で固まってしまったのは黙っておこう……。

21: 2012/05/01(火) 14:22:24.32
春香「プロデューサーさん。私、春香でいいですよ」

P「え、そんないきなり……」

春香「これから一緒に働く仲間なんだし、まずは名前からですよっ! プロデューサーさん」

千早「確かに一理あるわね。私も千早でいいですよ、プロデューサー」

P「お、おう。分かった……。それなら敬語じゃない方がいいかな」

春香「はいっ! よろしくお願いしますねっ!」

小鳥「ピヨピヨ。早速アイドルたちを口説くなんて流石ですね~」

「口説く」という言葉に過剰に反応する人物が事務所に一人。
彼女の言葉で例えるとするなら……。

P(何て、面妖な)

貴音「……」

P「あは、あははは! そんなことは無いと思うですよ~! あはは!(貴姉顔が強張ってるよ……)」

貴音「申し遅れました。私、四条貴音と申します。以後、お見知りおきを」

まぁ! 先程とはうって変わってご機嫌斜めですわね貴音お姉さま!
……お願いです、その冷めた目は止めてください心が砕けそうです。

高木「うむ、私が見込んだ通りだね。この調子でまずは他のアイドルとも仲良くなってバンバン仕事を取ってきてくれたまえ!」

P「が、頑張ります……」

23: 2012/05/01(火) 14:49:01.45
響「はいさーい!! 今日も頑張るぞー」

真「おはようございます―……ってあれ、見た事ない人いますね」

雪歩「真ちゃん、早く事務所入ってよ……ってうあっっ! お、男の人ですぅぅぅぅー!!」

真「あっ、ちょっ! 雪歩ー! 待ってよー!」

ショートカットのボーイッシュな子はもう一人の子を追ってまた外へ向かっていった。
男で反応した辺り、男性恐怖症なのだろうか……? 取りあえず次会った時は気を付けよう。

響「ホントだ。男の人が居るぞ。珍しい」

P「あぁ、君達もアイドルの……」

響「自分は我那覇響! どんなことも完璧に熟す765プロのアイドルさー! で、君は?」

P「俺か? この事務所でプロデューサーをすることになったPだ。よろしくな、響」

手を差し出すと喜んで掴む響。

響「おおっ、765プロにも律子に変わるプロデューサーの誕生かー! よろしく頼むぞ、プロデューサーっ!」

ポニーテールを揺らしながら元気に響は俺に挨拶をしてくる。こういう子は接しやすくて助かるなぁ。

貴音「おはようございます響。今日は学校では無かったのですか?」

そういえば昼前にアイドルが集まり始めるなんて、そんな大きな仕事があるのか?
その疑問に答えるように響は元気に貴姉の質問に手を挙げて答える。

響「今日から春休みなんだよ、貴音。今日はその終業式なんさー!」

P「あ、成程」

春香「どこの学校もそんなものだよねー。校長先生のお話が長くて眠くなっちゃったり……」

響「わかるわかる! もっと面白い話とかすればいいのにね。あとダンス」

千早「我那覇さん、終業式にダンスする校長先生とか怖いわ」

貴姉「成程。羨ましい限りですね」

貴姉は高校行ってないんだっけか。俺も同じだけど。何かいいよなぁ。こういうの。俺は何か一足早く大人になってしまったみたいな、寂しい気分になるけど。

24: 2012/05/01(火) 15:06:05.41
真「た、ただいまです……。ほら雪歩、大丈夫だから!」

雪歩「ひ、ひぃぃ」

P「えぇーっと、確か菊池真さんと萩原雪歩さんだよね? 俺、今日から765プロでプロデューサーをすることになったPです。よろしく」

警戒されないように笑顔で一言。近づいてもらえないならそれで仕方ないけど話だけでも出来るようにしないと今後に支障を来すからな。気を付けないと。

真「新しいプロデューサーですか! そうです、僕が真。こっちが雪歩です。あ! 勘違いしないでほしいんですけど僕、女の子ですからね?」

P「知ってるよ。……で、萩原さん。そんなに警戒しなくても何もしないから」

資料を見たからな。
そして、菊池さんの背後に隠れて脅える萩原さん目に涙をためる姿はまるで小動物のようだ。
愛くるしい表情に思わずきゅんとなる。この子は何か凄い物を持ってる……気がする。

雪歩「……雪歩でいいですぅ」

真「僕も真でいいですよプロデューサー! ビシバシお仕事取ってきてくださいね」

春香「掴みは上々ですね、プロデューサーさん」

千早「そうかしら……。萩原さん、凄く脅えてるけど」

響「あれが雪歩の表現方法なんじゃないかなー? 自分には到底真似できないぞ……」

ぐぬぬ、と悩む響を見て思ったことが口に出る。

P「ある意味個性だよな……ありゃ」


25: 2012/05/01(火) 15:30:26.25
貴音「おや、時間になっても美希と真美の姿が見えませんが……」

千早「そういえばそうね……。美希ならともかく真美は遅れるなら連絡入れてくるはずだけど」

噂をすれば何とやら。
話題に出た途端、事務所のドアが開く音が聞こえる。今日は立て続けにこの音を良く聞くなぁ。元気が良いのは良い事だと思うぞ。

美希「千早さんそれは聞き捨てならないの!」

真美「あー、ミキミキに負けちった→」

小鳥「二人ともー。事務所のドアは静かに開け閉めしてね……。壊したら給料から天引きだからね」

ぼそっ、と恐ろしい事を言ったなこの人。
まぁ、元気が良いからってものを壊して良いってわけじゃないしな。俺も気を付けよ。

美希「その前に直さないのが悪いの」

確かに脆いの気づいてるなら直すべきだとは思うけどな……内情を知ってる人間からしたらこう答えるしかないだろう。

小鳥「そこまで経費が回らないのよ~」

切実で模範的な回答である。

真美「で、この兄ちゃんは誰→?」

くりくりとした目で俺を興味深く見る真美。確かこの子は双子の亜美という妹がいるんだったな。資料だけじゃ分かりづらいな……。

P「俺か? 今日から765プロでプロデューサーになったPだ。よろしくな真美、美希」

真美「兄ちゃん良く亜美と間違えなかったね→! よく観察していらっしゃるなぁぐへへへ……」

P「俺はそこらへんにいる工口親父か!?」

美希「へぇ……。新しいプロデューサーね。ま、よろしくなの。どうせ長く続かないと思うけどね」

春香「こら美希っ!」

美希「つーんなの。美希、お昼寝するから何かあったら起こしてね」

P「……」

27: 2012/05/01(火) 16:01:16.74
小鳥「後の竜宮小町のメンツは今日は現場に直行なので今日は事務所に来ません。あとやよいちゃんは家庭の事情で来られないのでまたあらためて後日、紹介しましょうね」

P「はい、よろしくお願いします」

美希の態度に何か引っかかるものがあったが……まぁ、初日だしこんなものだろう。徐々に打ち解けてくれればそれでいい。
この日はアイドルたちへの挨拶と、音無さんとの事務所回りについての話と今後のプロデュースについての方針で業務は終わった。
みんな特徴のあるアイドルたちばかりで、売れてないという事実にとてもびっくりした。この素晴らしい原石たちを美しくしてやるのがこれからの俺の仕事だ。

P(心機一転、頑張りますか)

事務所を出る頃は日も暮れ、アイドルたちも既に事務所から去って行った。わざわざ俺が入社したくらいで全員集める必要あったのだろうか?
終始雪歩にはビビられ、美希は寝てたし。あとやよいって子が気になるが、家庭の事情か。春香に聞いた限りご家族の財政難で家の家事全般を熟しながらアイドルもやってるらしい。凄いな。
まだ出会えてない事務所のアイドルがどんな子達なのか期待しながら帰路に就く。初日にしては良かったんじゃないか? 俺が評価すべきところではないか。

貴音「お仕事は終わりましたか?」

電柱の陰から銀髪の女王が姿を現した。

P「うわぁっ!? 貴姉、どうして此処にいるんだよ! みんなと帰ったはずじゃ……」

貴音「えぇ、一度自宅に帰宅してまた戻って参りました」

片手にベージュ色のボストンバッグを持つ貴姉。……とても、嫌な予感がする。

P「大荷物じゃないか……。これから他のアイドル達とパジャマパーティーか? 気を付けて行k……」

がしっ、と腕を掴まれる。本日二回目。

貴音「何を言っているのですか? あなたの家に向かうに決まっているでしょう?」

P「随分、行動力の高い事で……」

貴音「暫く厄介になります」

当たり前のように振舞う。流石アイドル。その強引さは良いとは思うが真意を隠してる事はバレバレだぜ。

P「ちょっと待て。ちょっと待て。暫くぅ? 厄介ぃ? あんたは一体何を言っているんだ……?」

貴音「弟のように共にいたあなたの生活を監視するためです」

ほう、表情一つ変えないか。流石だぜ、貴姉。

P「嘘こけ。そもそも家から出てかなりの月日が経ってるし俺はどっかの誰かさんみたいに生活のやりくりに困ってないぞ。さぁ、言え。今なら許してやるから」

貴音「グスッ……家を追い出されてしまったのですっ」

P「何をした!? 一体何を仕出かしたというの貴姉ェ!!」




28: 2012/05/01(火) 16:20:19.34
P「……」

唖然とした。
家賃滞納。食費で全部消える。取り立てが怖くて午前中から事務所に居座る。
ガス水道も止められ退去通知まで届いていた。
どうしてこうなった。誰がこうしてしまった。俺の知ってる御淑やかで何でも熟す貴姉は何処へ消えた?

貴音「あ、あなた……?」

P「分かった。暫くは居ていい。暫くは」

貴音「ほ、本当でございますか!?」

泣いたり笑ったりとご苦労な事だ。
けどここで甘やかしては駄目だ。お金は考えて使う物。こんなことを繰り返しさせる様じゃトップアイドル以前に人間として独立出来ない。

P「あぁ。但し条件がある。今後の貴姉の給料は俺が管理する。必要な物に関しては全て俺に言え。金が必要ならその都度俺に言え。そして使ったらその分の領収書を渡せ。その条件がのめるなら良いよ」

貴音「そんな殺生な……」

P「あと俺、カップラーメン食わないから。買い貯めとか絶対するなよ。一つでも破ったら直ぐにでも追い出すからな。どうする?」

貴音「か、買い貯めしなければ食べてもいいって事ですね?」

P「週一くらいは許してやるよ」

貴音「なんと……」

P「いいか? 今回のは自分が招いた種だぞ? それでも助けてやろうとしてるのにまだわがまま言うのか?」

貴音「それでも私の生活が……」

P「弟よりまともな生活送ってないとか、アイドルとして最悪だろ……」

この場に及んでまだ言うかこの駄姉は。

貴音(最悪……最悪……)

P「……ホラ行くぞ。急がないと近所のスーパー閉まっちまう」

貴音「……」

そんなにショックだったのかよ……。
まぁ、いささか言い過ぎな気が気もしなくもないが、心を鬼に……鬼に………ああああああああああああああ!! もう!!

P「あー、今日はラーメンでも食べたい気分だなー!! ラーメンでも作るかー!! 材料買わないとなー!!」

貴音「さぁ、参りましょう。らぁめんが待っておりますよ」

ケロッと元に戻りやがったよこの策士が。


29: 2012/05/01(火) 16:43:53.68
俺の住むアパートは事務所から徒歩20分程度のところにある。
自転車を使えば10分もしないだろうが、慣れてくるとその必要性を感じられなくなってくる。
それに歩くのは嫌いじゃないしな。

貴音「今夜は月が綺麗ですね、あなた……」

P「……ったく、調子がいいな。そうだ、暫く住まわせてやるんだから765プロのアイドルについてとか業界についてとか教えてくれよ。生のアイドルの主観からさ」

貴音「ふふっ、お任せなさい。夜が明けても語り終わらない程の765プロの魅力、この私が語りつくして差し上げましょう」

良く考えてみたら一緒に住む→アイドルに手を出す→P、アウト―!\デデーン!/ に繋がるのでは……?
事務所外、勤務時間外だからってやっぱこれヤバいんじゃ……。今更駄目だ、なんて言ったらどうなるかは想像したくない。

貴音「他の者達にばれるかどうか心配しているのでしたら無用ですよ? 取り立て屋との戦いで得た察知すきるが私にはありますので」

えっへん。と言うが何も誇らしくないぞ、貴姉。寧ろ情けないわ。
俺も他の人に気づかれないように注意をしなければ……。

P「成程な。竜宮小町はそんなに凄いのか」

今日会えなかった秋月律子さんが率いる大人気ユニット「竜宮小町」。其処に所属するアイドルである水瀬伊織、三浦あずさ、双海亜美。4人の説明を受け終わった辺り、でスーパーには辿り着いた。
今の765プロの大黒柱であり、現在急成長を遂げてるユニット。俺らの当分の目標は事務所内の仲間である竜宮小町に追いつくことから始めないと駄目だな。
そういえば……事務所から歩いて30分くらいか。大分歩いたけど貴姉は大丈夫か?

貴音「これかららぁめんの具材を仕入れるのですね、あなた!」

P「お、おう」

特に問題は無さそうだ。寧ろこれからといった生き生きとした表情。
そういえば一人、まだ聞きそびれた子がいるな……確か。

貴音「やよい。こんな時間に何をしているのですか?」

やよい「あ、貴音さん! うっうー! こんばんはですー!」

そうそう、やよいって子だ。確か口癖がうっうー……って。

P「」

うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!

30: 2012/05/01(火) 17:13:41.83
やよい「奇遇ですねー、貴音さん。あ、今日は事務所行けなくてごめんなさい……」

貴音「良いのですよやよい。人には其々やるべき事がある物です。あなたは偶々今日は家族の為に尽くさなければならなかっただけの事。それだけです」

P(金無いから午前中から事務所に入りたびる奴が言うような台詞かよ……)

貴音(何か仰いましたか? あなた)

P(いえ、何でも)

やよい「あれ、そこの男の人は貴音さんのお知り合いですかー?」

貴音「紹介が遅れましたね、この者は私のおt」P「初めまして。俺765プロの新しいプロデューサーを務めることになったPだ。宜しくな」

やよい「プロデューサー? うっうー! 凄いですー! これでお仕事バンバン来て給食費いっぱい払えますー!」

P「期待に応えらえるように頑張るよ。で、やよいはこんな夜遅くに何をしにスーパーに来たんだ?」

やよい「私の弟の長介が今日熱を出しちゃったんです。食欲があまりなさそうだったからゼリーでも買ってきてあげようかなって」

P「やよいは兄弟いるのかー。何人だ?」

やよい「6人ですー! 毎日賑やかなんですよー?」

P(こんな小さい子が兄弟の面倒を見てるだなんてなんて健気な子なんだ……期待に応えるぞ、やよい! 仕事いっぱい持ってきてやるからな!)

P「やよい、よかったら俺らと一緒に買い物しないか? ゼリーくらいなら俺が出してやるよ」

やよい「えぇっ!? 良いんですかぁ?」

P「やよいとやよいの家族が元気になるなら安いものさ。それに早く一緒に仕事したいしな」

やよい「うっうー! ププロデューサーさん、ありがとうございます―! 長介たちもきっと喜びますっ!」

貴音「じゃあ私はこの『舌でとろける! ぱーふぇくとでりしゃすごーるどばななぷりん』を所望します。定価230円ですか、安いですね」

P「返して来い」


31: 2012/05/01(火) 18:31:42.84
P「やよい、本当に家まで送っていかなくて大丈夫か?」
 
やよい「はい、家近いんで大丈夫です―!」

貴音「やよい、気を付けて帰るのですよ?」

やよい「うっうー! また事務所で会いましょう、プロデューサー。貴音さん! お休みなさいー」

そう言ってやよいは家族分のゼリーをビニール袋に入れて闇の中、去って行った。
本人がああ言うんだし問題はないと思うが……。

貴音「ふふっ、やよいでしたら心配は不要です」

P「どうしてそう言い切れるんだよ」

貴音「女の勘、という奴でしょうか。やよいは私達765プロの中でも一位二位を争う程出来る子ですから」

P「まぁ、貴姉がそう言うのなら大丈夫だとは思うんだけど、やっぱり心配なもんは心配だよ。家族が病気で寝込んでるってところもな」

貴音「あなたが不安に思っている以上にやよいはしっかり者ですよ、ほら」

そういって貴姉は携帯に表示されたメールを俺に見せてくれた。

『さっきはありがとうございました! 新しいプロデューサーのメールアドレスが分からないので一緒にいた貴音さんにちゃんと家に付いたって報告しときますー! ゼリー美味しく頂きますね』

P「ほっ、良かった……」

夜道を中学生一人に歩かせるとか気が引ける。今度からは俺も付いて行ってやろう。
家も近いみたいだし何か力になってやれるかも。

貴音「で、私のぷりんはいつになったら買っていただけるのでしょうか……?」

P「ラーメンで飽き足らずプリンまでご所望とはいいご身分ですなぁ、貴姉。良いぜ? 別に買っても。ただ、今のその贅沢が今後出来る事が無いようにしてやるけどな」

悪魔のような笑顔で言う。
これからは飯の管理もしてやらなきゃならない。いくら食べても太らない体質だからって限度という物がある。しかもその大食いのせいで自身の経済状況を破綻させているというのなら尚更だ。

貴音「あぁ、ぷりん。美しきぷりんよ。またとない出会いに感謝しつつ、今回は名残惜しいですが再び会える日を信じておりますゆえ……」

P「……」

結局20分くらい今のような一人寸劇に付き合わされた挙句、俺が折れて買ってしまった。甘いというか上手く操られてるというか……。先が思いやられるな。

32: 2012/05/01(火) 18:47:48.16
家に着き、鍵を開けると貴姉が我先にと入っていった。

P「そんな慌てなくても……」

そして荷物を置き、後を追って入ってくる俺に向けてこう一言。

貴姉「お帰りなさいませ、あなた。そして、これから『も』……よろしくお願い致します」

上目使いで俺を見る。
やっぱり年月という物は凄い物であの貴姉をこんなに綺麗な美人さんに変えてしまうだなんて。
けれど、俺みたいな奴と貴姉じゃ今後釣り合うことも無いだろう。これから貴姉はどんどん売れるトップアイドルになる。いつかは俺の下を去って、それ相応の地位や権力、人間性を持つ人と結ばれなきゃならない。
俺が出来るのは、今まで良くしてくれた分の恩返しだけだ。その為にも今だけ――今だけこの喜びを味わっておこう。

P「ただいま、貴姉。それと、これから……よろしく」

この時はそう思っていた。それが一番いいんだって決めつけてたし、それが俺の答えだった。
けれど、運命というのはこれだけじゃ満足できないみたいで、俺の日常をかき乱していくことになる。

33: 2012/05/01(火) 19:21:43.31
――俺が765プロに就職して早1週間が経った。

響「プロデューサー! 今日は自分も弁当作ってきたんだー。味見してみてよ!」

春香「あっ、響ちゃんずるい! 私のもどーぞ、プロデューサーさんっ」

P「どれどれ……おっ、響のアスパラガスのベーコン巻き美味いな。春香の肉じゃがも煮崩れしてなくて美味しいぞ? 今度レシピ教えてくれよ。料理はするんだが結構簡単のしか手付けたことなくてな……」

春香「任せてくださいっ! 私もお母さんから教えてもらったんですけどやっぱり誰かに教わって作る初めての料理って難しいですよねー……」

響「あ、それ自分も分かる! 初めて作ったサーターアンダギーも味が凄く辛くてなー」

P「それはただのミスだろ」

昼休みに特に営業やレッスンが無い子達と他愛もない会話をしながら、お互いに作ってきた弁当を分け合うというのが流行っていた。
何せ男っ気が殆ど無いこの事務所で歳が若い男というのは俺しかおらず、彼女達からしても俺という存在は新鮮みたいで積極的に接してきてくれる。――彼女を除いては。

P「……美希は今日弁当じゃないのか?」

美希「プロデューサーには関係ないの」

この一週間。美希との関係だけは特に進展はない。寧ろ悪化の方向を辿っているような気がしないでもない。
美希は元々竜宮小町に入るのを希望していたようでレッスンや営業、多彩な番組に出演し、頑張っていたようなのだが、律子から「竜宮小町にメンバーを追加する予定は無いわ」と言われてしまい、ショックで現在に至るとのこと。
他のアイドル達から話を聞いたところ、昔の美希も今みたいな感じだったけど最近は凄い頑張ってたと称賛を与える者が多かった。
どうして頑張ることを止めたのか。――簡単だ。美希は現実を知ってしまったんだ。

P「美希、今日は四条さんと響でレッスンだ。先生待たせてるんだから遅刻するなよ」

美希「……言われなくても分かってるの」

P「……」

正直、俺は美希みたいな子が苦手だ。
プロデューサーとしては扱いにくいという点が。俺個人としては簡単にあきらめる様ならアイドルには向いてないと思ってしまう点。
それに比べて貴姉や響は助かる。
彼女ら二人はただ一点の事に集中する力に長けているからだ。
そして事件はダンスルームで起こった。

トレーナー「っ、星井さん。今のターンはもっと手を伸ばすって言っているでしょう?」

美希「……」

響「美希……大丈夫か? 休憩、するか?」

本日5度目のミス。ダンストレーナーに怒られて下を向く美希がどんな表情をしているのかは俺がいる位置からは確認できない。
響が心配して駆け寄ってくる。肩に手を掛けようとした瞬間、美希の思いは爆発した。

34: 2012/05/01(火) 19:35:15.61
美希「っもう!! みんなウザいの!! 煩いの!!」

パシン、と乾いた音が響く。
響の手を振り払った美希の眼は――涙で一杯だった。

美希「ミキ、頑張ったよ? 律子が『美希も頑張れば竜宮小町みたいなユニットの一人になれるかもねー』って言うからミキ、必氏に頑張ったんだよ!? レッスンも、営業も、撮影も!! でも結局竜宮小町には入れなかった!!」

今までの苦痛を全て吐き出すかのように美希はぶちまける。

美希「ミキ、いつまで頑張ればいいの? ずっと頑張り続けなきゃ駄目なの? ねぇ、答えてよ!! 誰かっ!!!!」

美希の言っていることは分からないでもない。
でも、この業界に入ってから1週間の俺でもわかることはある。美希の言っていることは、ただの甘えだ。
そんな美希に貴姉が近寄っていく。

P(貴姉……一体何を?)

貴姉の事だ。きっと美希の事を優しく慰め、事の収束を図ってくれることだろう。そう期待していたのだが……。

貴音「美希、顔を御上げなさい」

美希「貴音には分からないよっ! ミキのこの苦しい気持ち!!」

パシン。

美希「……えっ?」

綺麗な一閃を描いた平手打ち。
美希の頬に貴姉の手形がクッキリと赤く残るくらい強く。

P「た、貴姉っ!!」

貴音「甘えるな、この根性無しっ!!!」

美希「っ!!!」

貴音「美希。確かにあなたの実力は誰もが認めますし、それ相応の努力も積み重ねた事も誰もが知っております。ですが、貴女の努力を認める相手は私達じゃないでしょう? それを評価するのが、私達を思ってくださるふぁんの皆様だという事を、貴女は忘れているのですか?」

35: 2012/05/01(火) 19:50:14.29
響「た、貴音……」

貴音「響は黙っていてください。美希自身が吹っ切れなければいけない事は承知の上ですが……いつまでもこれではらちが明きません」

美希「……ひっぐ、っぐ」

貴音「みんなあなた同様にとっぷあいどるを目指して日々鍛錬を積み重ねております。それでも、誰しもが竜宮小町のような素晴らしいグループになれる訳ではいのです」

美希「……っぐ、ひっ」

貴音「それでも尚、諦めない。てっぺんを上るまで諦めない。その気持ちの持ち様こそが真のトップアイドルへの道のりだと、私は思うのですよ。美希」

貴音「美希、一度落ち着いて考えてみてください。あなたがどうしたいか。アイドルとして、どう進んでいきたいのかを」

貴姉の真剣な答えを聞いて美希と響は黙り込む。
その場にいたトレーナーさんもどうしたらいいか慌てているようだが、ここは当の本人たちに任せる他無い。

貴音「……どうやられっすん終了の時間のようですね。私と響は先に事務所に戻るとしましょう。行きますよ、響」

響「えっ、ちょっ貴音! 美希あのままでいいのかー!?」

貴音「後の答えは美希自身が決めなければならない事。ここで諦めるのならその程度だった、という事です……。お疲れ様でした」

そう言って去って行った貴姉と響。トレーナーさんも次の予定があるとかで颯爽と引き揚げていった。……うちのアイドル達が飛んだご迷惑をお掛けしました。
で、残されたのは頬を未だに赤くし、涙を流す美希と、先程までの状況に一切関与しなかった俺だけ。
美希とはあまり仲良くなかったしこの場に取り残されるのは少々キツイ所ではあるがもしかしたら……貴姉は俺に託したのかもしれない。プロデューサーとして美希に出来る事を。俺にしか出来ないことを。

P「美希、ほっぺ大丈夫か?」

美希「……」

P「くっきり手形付いちゃってるなこりゃ。貴……じゃなかった、四条さんも加減を考えてほしいよなーって。――美希、悔しいんだろ」

美希「……」

P「四条さんの一言を言い返せなかったのが悔しかったんだよな。……分かるよその気持ち」

美希「プロデューサーにミキの何が分かるのっ!!!」

36: 2012/05/01(火) 20:32:55.42
P「分かるか。俺はアイドルじゃない」

そう言って泣きじゃくる美希の額にデコピンをかます。

美希「痛いの……体罰で訴えるの」

P「やっと話を聞けるくらいの冷静さが戻ってきたな。美希、立ってるのも疲れるだろ? 座れよ」

美希は黙って言うことを聞く。
俺は冷えたミネラルウォーターを差し出し、美希に飲ませた。

P「俺はさ……努力する人間って心の底から凄いなって思うんだよ」

美希「……」

P「毎日生きていくので必氏でさ、同年代の子達が青春送ってる傍らで俺はバイト三昧。出会いもないし楽しみなのは図書館で借りる本くらいだったよ」

P「美希みたいな年頃の女の子からしたらつまらない日常だと思う。でも、その日常を暫く変えなかったのはどっかで気に入ってたからなんだろうなぁ」

美希「ミキ、プロデューサーが何が言いたいのか……わからない」

P「美希。諦めるならどうして律子からメンバーとしては迎え入れられないって言われたときに事務所を辞めなかった?」

美希「!?」

P「それと――初めて俺と会った時。どうしてお前は一瞬期待したような目で俺を見た?」

美希「ミキ、別に見てないもん……」

P「いーや、見てたね。あの後な、みんなからお前の事を聞いたんだ。最近の美希は凄い、見てるこっちが頑張りたくなるくらいに。ってみんな褒めてた。俺も聞いてて嘘じゃないんだなって思うくらいの熱弁だったぞ」

P「お前はもう頑張りたくないって言ってるけどさ……。そんな事、言うなよ」

P「俺はお前みたいに直向きに頑張る奴が好きだ。俺がもってないものを持ってるし、それが魅力にも感じる。それを引き出すのが俺の仕事なら、俺はなんだって出来る気がするよ」

P「美希、お前を輝かせる事が出来るのは律子じゃない。お前たちのプロデューサーである俺の使命だ。……約束する。お前たちをトップアイドルにしてみせるって」

P「だから――ここで諦めるのは待ってくれよ。俺に、チャンスをくれ」

俺は土下座をした。

37: 2012/05/01(火) 20:43:53.15
美希「――いいよ」

P「美希……」

美希「けど、条件があるの」

P「何だ?」

美希「プロデューサーはミキにアイドル続けてほしいんだよね?」

P「あぁ。そうだよ」

美希「それってミキの人生をプロデューサーに預けるってことになるよね?」

P「ま、まぁそうだな。それくらいの覚悟がある、ってことだ」

美希「じゃあ、トップアイドルになれなかったら美希の人生どうしてくれるの?」

P「そりゃその……、うん。美希に戻ってほしかった一心であまり考えてなかった。けど、適当に考えてたわけじゃないぞ? 俺は本気でお前をトップアイドルにする」

美希「そういう暑苦しいのはもうわかったからいいの」

P「は、はい……」





美希「もしトップアイドルになれなかったら……その時はプロデューサーの人生をミキにちょうだい?」





P「え」

P「え」

P「え」

P「御免美希良く聞こえなかった」

美希「そういう風に言われると辞めたくなるの」

P「いやその……俺の人生をあげるって、お前どうするつもりだよ」

美希「一生こき使ってやるの。そりゃあ『ひー! 鬼嫁や! 鬼嫁がおるでー!』って言っちゃうくらいに」

P(自頃しろとかでも言うのかと思った自分を殴りたい)

39: 2012/05/01(火) 21:00:56.85
P「それ以外の条件は……?」

美希「飲まないの♪」

P「……」

ここで断れば美希のテンションはがた落ち。事務所を辞めかねない。そしてその止めは俺がさした事になって→首
トップアイドルになれなかったら一生美希の奴隷→鬼嫁って言ってる辺り、美希は結婚を望んでいる(?)→将来的な保険としては十分

P(まぁ……前者はありえないんだけどな)

P「分かった。その条件飲むぞ。……ただ、俺は本気でトップアイドル目指してるからな?」

美希「当たり前なの。それ前提で挑まなきゃもしなれなかった時の保険に価値がなくなっちゃうの。あはっ☆」

P(うまく誘導された気がしないでもないが……こんな些細な約束でやる気を取り戻してくれたのなら充分だろ。そん時になりゃ美希もどうせ考え変わってるだろうし)

P「じゃあ……改めて、よろしくな。美希」

美希「よろしくお願いしますなの! プロデューサー……いや、ハニー!」

P「」


こうして美希との絆(?)を得た俺には事務所に戻った途端第二の地獄が待ち受けていた。
そりゃあもう、恐ろしい位の恐怖。もっと別の方法を模索して美希を丸め込むべきだったと後悔するくらいに……。

美希「たっだいまーなのっ!!」

響「美希! 大丈夫だったか?」

美希「響、さっきはごめんね? ……手、怪我してない?」

響「このくらい大丈夫さー!! 気にしないでよ!」

美希「ありがと、響。……貴音」

貴音「美希、答えは出たのですか?」

美希「うん。貴音も美希が答え出すの待っててくれたんだよね?」


40: 2012/05/01(火) 21:15:35.62
他の子達は既に帰宅しており、事務所にいるのは俺と美希以外は響、貴姉、律子、音無さんだけだった。
沈黙が事務所を支配する。律子と音無さんも事情は知っているのだろう。今は美希が貴音に伝えるべきことを伝える時だ。

貴音「えぇ。先程までの暗い表情とは一転して吹っ切れた、曇りなきいつも通りの美希の表情に戻っておりますね」

美希「ミキね、決めたの。もう少し、もう少しだけ頑張ることを止めないって。みんなと一緒に、トップアイドル本気で目指すって、決めたの……!」

貴音「美希……良くぞ言えました。美希のその覚悟、称賛に値致します」

貴姉も美希が吹っ切れた事に対してとてもうれしそうにしていた。
やはり同じ事務所の仲間としては誰一人欠けて欲しく無かったんだろう。あんな無茶な約束を交わしたが、結果的に美希のやる気が貴姉に通じて良かった。

美希「それに……プロデュ――違った、ハニーが約束してくれたの♪ トップアイドルになれなかったら、ミキの物になるって☆」

響「は?」

律子「へ?」

小鳥「ぴよ?」

P「」




貴音「……美希、その話もう少し詳しくお聞かせ願いたいのですが」




美希てめえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!
普通他人に言わず胸に秘めとくだろそこはあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!馬鹿あああああああああああああああ!!

41: 2012/05/01(火) 21:27:12.21
律子「プロデューサー殿?」

そのレンズの奥にある瞳は何を見ているんだい? 俺だわ。

小鳥「プロデューサーさんって……意外と草食系?」

いやそこじゃないから。突っ込むところ。
そもそも草食肉食今関係ない。取りあえず音無さんは無視だ。

響「プロデューサー……どういう事か詳しく自分も聞きたいぞ」

やー響。
そんなに怒っちゃせっかくの完璧フェイスが台無しだぜっておいそんな目で俺を見るな俺は悪くない仕方なかったんだ!!

P「美希っ!! お前!!」

美希「つーんなの。美希は悪くないもーん。じゃ、ハニー! これからビシバシ宜しくねっ♪」

美希はそう言い残して事務所を去って行った。
おい、お前がいなきゃ弁明する意味ないじゃん。何帰ってんだよお前!

P「美希さんー!? 星井さん!? 帰ってきてー!!」

貴音「さぁ、弁明を聞きましょうか? ……あなた?」

俺にだけ聞こえるように呟く貴姉の顔は笑っている。怖い位に笑っている。
俺は他意は無いと必氏に弁明を重ね、取りあえず理解してもらえるまでに2時間は有した。
事務所のみんなでこれだ。家に帰ってみたらだなんて……想像したくもない。

43: 2012/05/01(火) 21:48:54.48
P「つ、疲れた……何もしてないけど精神的に疲れた」

貴音「……」

あれから帰路に付くまで貴姉は黙ったままだった。ラーメンを食べさせたら機嫌でも治すかなと思ってラーメンを夜食に出しても黙って完食。
ずっと浮かない表情でベッドに座ったままだ。

P「貴姉?」

貴姉の後の風呂に入り終わった俺。今にでも寝たいところだったが、目の前にある問題を残したまま眠るわけにもいくまい。

貴音「………あなたは美希を立ち直らせましたね」

P「それが狙いだったんじゃないの? 俺と美希、あんま仲良くなかったし」

風呂上りの麦茶を一杯。豪快に飲み干す。うん、美味い。

貴音「それに、はにぃなんて恋人同士のような呼び合いまで……」

P「あれ美希しか言ってないからな? 勘違いするなよ?」

貴音「まさか敵を増やしてしまうだなんて……私としたことが」

P「おーい、貴姉ぇ? 聞いてますかー?」

貴音「――それですっ!!!」

P「何が!?!?」

44: 2012/05/01(火) 22:02:51.53
貴音「ずっと引っかかってはいたのですが、どうして事務所では私の事を四条さんなんて他人行儀な呼び方をするのです!? 他の者達は下の名前で呼ぶというのに……!」

P「いや、だって、はずかしいじゃん」

こうしてプライベートで十分顔合わせてるんだから別にいいじゃん……。それに変に勘ぐられるよりかは良いだろ。
レッスン中に呼んじゃったのは焦ったがな。

貴音「いいえ、なりません! 名前とは、お互いがお互いを認識し合う為に用いる必要不可欠な物! あなたは私との絆をそんな適当に済ませる程度の物と考えてるのですかっ!?」

P(うわぁーめんどくせぇー)

確かに貴姉は美人だしいい匂いするし一緒にいて誇らしく感じる時もあるけどさ、こういう時は凄い面倒なんだよなぁ。
てか今日の美希に似てる気がするぞ何か。

貴音「別にあなたの私に対する呼び方は何も問題ないではないですか」

P「は?」

貴音「私の下の名は『貴音(たかね)』。あなたの呼び方は『貴姉(たかねぇ)』。えがぇになっただけで特別な呼び方ではないじゃないですか」

P「そう言われてみれば……傍から見たらただ下の名前読んでいるようにしか聞こえないわ」

貴音「なら決まりですね。明日からは家で呼ぶのと同じように私を呼ぶのですよ」

P「あ、はい……」

納得してくれたのか、満足そうに貴姉は俺のベッドで眠りに落ちていった。
最近床で座布団敷いて寝ることが多いせいか中々疲れが取れない……。次の休みに敷布団でも買うか。
取りあえず転機の一日でもあり、波乱の一日だった。明日は何事も無く過ごせればいいな……。

47: 2012/05/01(火) 22:23:51.64

春香「貴音さん、貴音さん! プロデューサーさん私達と同じ17歳なんですって! 何か親近感湧いちゃいますねっ」

昼になってもこの話題で持ちきりだ。
そんなに俺って老けて見えるのかな……ちょっとショックだぞ。

貴音「プロデューサーが何歳であれ、私達をトップアイドルに導いてくれる事に変わりはありません。そうでしょう? プロデューサー?」

P「お、おう。貴姉の言うとおりだ。変な事言ってないで今週のスケジュールの確認済ませとけよ」

誰も貴姉と呼んでも突っ込んでこない。良かった良かった。
美希が背後から抱き着いてきて「ハニー成分注入なの~!」とか言ってるが何を言ってるんだこいつは。
一番恐れている貴姉はどうやら黙認しているようで。まぁ、それくらい広い心を常に持っている方がいいよ。うん。でもそろそろ美希を止めてほしいかな。

真美「何か、みきみきって少し前のみきみきに戻った感じするね。真美も兄→ちゃんと遊んでこようかな」

千早「真美、あんまり迷惑掛る事しちゃ駄目よ」

響(そりゃあもう色々とあったからなー……でも満更でもない顔してるぞ、プロデューサー)

千早(胸の大きい子が好きなのかしら、プロデューサーは……)

今日ものんびりと過ごせるかなぁ……とか思ってたりするとあら不思議。こんな事を呑気に考えている時に限って暇は逃げていくのですねこれが。

小鳥「もしも、こちら765プロですが……あ、律子さん。お疲れ様です。え、プロデューサーさんに? はい、ちょっと待っててくださいね。プロデューサーさん、律子さんからお電話です」

律子から電話だなんて珍しいな。携帯に掛けてこないなんて、どうしたんだろうか。

P「律子が……? 電話代わったぞ」

48: 2012/05/01(火) 22:37:56.90
律子『プロデューサー殿!? 良かったぁ……事務所に居てくれて』

P「どうかしたのか?」

その声からは慌てているように聞き取れる。
普段の律子からこんな慌てる一面が受話器越しから聞けるとは……また新しい一面が知れたわけだが、今はそんなのんきな話をしてる場合ではなさそうだ。


律子『それが……今日の生放送、間に合わないんです』


P「えっ」

律子『私つい最近免許取り終えたばかりで今日の収録は車で向かうことにしたんですが……案の定渋滞に巻き込まれる始末で』

P「今何処なんだよ?」

律子『今は局から6km位でしょうか。動いてくれればそんなに掛らないんですが、公衆電話から掛ける余裕があるくらい混み合ってまして。なんかタンクローリーの横転事故とかなんとからしいです』

P「お前携帯どうしたんだよ!」

律子『それがお恥ずかしながら電池が切れちゃいまして……」

P「何やってんだか……。まぁいい。局には事情を説明しとくよ。そっちは取りあえず様子見てくれ」

律子『申し訳ないです……それでは』

美希「どうしたのハニー? 律子、さんからの電話でしょ?」

P「あぁ……どうやら今日の生の収録、竜宮小町は出られそうにもないって。タンクローリーの横転事故だってさ」

貴音「竜宮小町の皆は無事なのですか!?」

P「あぁ、無事は確認できてる。今から局に電話してくるからちょっと静かにしてくれ」

53: 2012/05/01(火) 23:23:05.93
P「はい、私765プロのプロデューサーを務めておりますPと申します……はい、その件でのお電話です。はい、ええ。こちらも間に合わせたいのは山々なんですが彼女達も巻き込まれてましてはい……。え、ちょっ待ってくださいよえ? ちょっと保留しますねすいません」

真美「兄ちゃんどったの?」

美希「ハニー……?」

P「ありえねぇ……。マジであり得ん」

こんなドッキリみたいな事あり得るのか? いや、しかしこれはある意味チャンスじゃないのか?

雪歩「ぷ、プロデューサーっ、こんな時は落ち着いてお茶ですぅ」

P「お、おう雪歩……ありがとう。助かる」

雪歩は少しずつ俺に慣れてきてくれてる。
そしてこうしてお茶を汲んでくれるまでに至るわけで……って今は感心してる場合じゃない。でも今の雪歩の積極性なら……。

響「プロデューサー、それで何かあったのか?」

P「ふぅ……。うむ。さて、お前らにとーっても重要な話が参りこんできた」

竜宮小町が渋滞に巻き込まれて番組に出れない時点で大問題。この子たちにとっても不安の種になるだろう。けど今からいうことはそれを遥かに上に行く内容だ。

真「ゴクリ」

やよい「重要な話ってなんですかー? まさか、給食費が払えなくなるとかっ!?」

P「やよいは可愛いなぁ。けど違うんだよ。――お前ら765プロ全員に緊急のオファーだ」

小鳥「え?」

一同「ええええええええええええええええええ!?」

54: 2012/05/01(火) 23:45:57.52
P「竜宮小町以外にも出演者に穴が空いてるみたいでな……最悪緊急特番に差し替えする方向で今は出ているんだが、新人アイドルオールスター歌合戦と大大に銘打ってる番組名だけに今それを特番に差し替えると結構な損失になっちゃうみたいで」

貴音「――そこで私達に出演してほしい、と?」

P「あぁ。番組の趣旨には合ってるからな。お前らが出ても何ら問題は無いんだ」

P「問題なのは――お前らが熟せるかどうか。収録じゃなくて生放送なんだ。この番組」

春香「生、放送……?」

美希「ミキ達持ち歌あるけど肝心の衣装が無いよ、ハニー」

P(皆の持ち歌や踊りは一通りこの間通しで見せてもらった。しかし、肝心の衣装はこの事務所で見た覚えがないんだよな……)

小鳥「それなら心配ないですよっ! プロデューサーさん!」

P「音無さん……?」

小鳥「何故ならぁー……この前プロデューサーさんが取ってきたお仕事で衣装が必要そうだと判断した私が独断と偏見で事務所のへそくりを使って衣装を既に発注しておいたのです!! サイズも大丈夫だと思いますよ?ピヨヨ」

ジャジャーン、と取り出すのは複数の段ボール。いや、何処にそのサイズの段ボールを仕舞うスペースが机の下にあるんだよ……。

P「音無さんすげえええええええええええええええええ!!」

響「ピヨコ……普段はせんべいばっか食べてるけど、ちゃんと仕事してたんだな」

千早「我那覇さん……それはあまりにも音無さんが可愛そうだわ(私も同意見だけど)」

やよい「うっうー! 小鳥さん凄いですー!」

P「曲もある、衣装もある! お前らの振り付けはこの前見させてもらった限り完璧! これなら……っ」

受話器を取ろうとした時、誰かが俺の腕をつかみ、静止した。

春香「待ってくださいよ……まだ全員、出るだなんて言ってないですっ」

真「春香っ!?」

声の主は……あんなにも頑張って振り付けを覚え、歌を歌っていた春香だった。


55: 2012/05/02(水) 00:05:10.10
P「春香、何を……」

春香「だって生ですよ!? しっぱいしたらそのまま流れちゃうんですよっ!? 私、そんなの……怖いですっ」

P「でもな春香………」

貴音「春香」

俺と春香の間に貴姉が割って入ってきた。
その顔はこの前の美希と話した時と同じ……真剣な眼差しだった。

貴音「春香、貴女は可愛いですね」

春香「へぇっ!?」

突然の発言にたじろぐ春香。

貴音「春香は良く転びますよね。けど、それが駄目だなんて此処にいる者達は誰一人思ってはおりませよ?」

春香「で、でもっ」

貴音「でもじゃありません。それに、私たちはいずれ飛び立つ定めなのです。これはまたとない機会ですよ? 皆と共に飛び立てるだなんて」

千早「……そうよ、春香。アイドルをやっている以上、デビューする定めからは逃げられないわ。けど、そのデビューが一人じゃないって素敵じゃない?」

雪歩「わ、私も頑張ってみたい……です。みんながいるなら、やれそうなきがするんですぅ」

真「雪歩……」

やよい「うぅうー!! 生放送、みんなで出れば、怖くないですー!」

真美「やよいっち……流石にその一言は緊張感にかけるよ→」

響「春香、やろう!」

美希「ミキ、これはまたとない機会だと思うの。このチャンス、逃したくない……って思うな。もし春香が失敗してもミキ達がカバーすればいいだけなの☆」

春香「みんな……」

P「どうする春香。あとは……お前だけだ」


61: 2012/05/02(水) 09:41:26.88
春香「私には……無理だよぉ……」

身を震わせる、今までにない春香の一面を俺は見る。
いつも頑張っている春香がこれ程までに脅えることが在るだなんて。

美希「春香……」

春香「ごめん、みんなっ」

そう言って春香は事務所を飛び出していった。
去り際の春香の眼には恐怖による涙が瞳に溜まっているのが見えた。
けどそれは恐怖なのか、それとも自分が何もできないと思ってる不甲斐なさによるものなのか。

貴音「はい、えぇ。その件は私達がお受けいたします。はい、今から早急に向いますゆえ」

P「貴姉何してんの……?」

貴音「プロデューサーに代わって電話を受けてただけです。私たちの答えは変わらないですよ」

響「でも春香が……」

貴音「一人の責任でみんなのチャンスが崩れるのは、去った春香が一番望まないでしょう。――私たちは今出来ることをしなければならないのでは?」

千早「……」

やよい「貴音さん………」

真「僕も貴音の意見に賛成だ。引き受けたからにはやり遂げなきゃ」

雪歩「ふぇぇ……」

貴音「それと、春香は来ますよ」

美希「奇遇なの貴音。美希もそう思うの。――だって」

貴音「プロデューサー、春香は任せても宜しいですね?」

62: 2012/05/02(水) 09:56:31.07
貴姉は俺を信頼している。
きっと、春香を連れてくるって。出なければあんな無謀に近い仕事を引き受ける訳がない。誰かが先導してこの選択に至らなかったらきっと俺は無理だと判断し、今回の仕事は断っていただろう。
これは賭けだ。765プロの将来と、この子達アイドルの今後を左右する。
―――だからこそ、俺は俺の期待に応えてくれるアイドル達の期待に応えてやらなきゃならない。

P「任せろ、俺が必ず春香を連れてきてみせる。みんなででっかく全国デビューだ!!」

一同「「「「「「「はい!!」」」」」」」」

小鳥「プロデューサーさん、この子達は私が責任を持って局まで送り届けます! だから春香ちゃんを・・・・・お願いしますね?」

P「じゃあ行ってきます。みんな、後で合流だ」

貴音「いってらっしゃいませ、あなた」

P「……みんなを頼むよ、貴姉」

俺は春香を追って事務所を出て行った。

63: 2012/05/02(水) 11:04:43.92
P「と、言っても俺まだ事務所に入ってから日が浅いし春香が行きそうなところなんて……ん?」

近くの公園のブランコに佇む一人の女性。
服装と髪型からして春香だ。こうもあっさり見つかるとは。

P「春香」

春香「……プロデューサーさん。あははっ、見つかっちゃいましたか」

目が赤く腫れ、さっきまで泣き続けていたのだろう。

P「隣、良いか?」

春香「みんなのところに行かなくていいんですか……?」

P「信頼してるからな。それに、俺とみんなの意見が合致して今ここに俺はいる」

春香「……本当は私も、みんなと歌いたいんです。でも、身体が上手く言うことを聞いてくれないんですよ……歌詞を間違えたら、振り付けを間違えたらって思うと、体の震えが止まらないんです」

P「まぁ、誰だってそう思うよ。人前で歌ったり踊ったりするのは恥ずかしいって思うところはあると思う」

春香「私、いつもドジばっかやってるから……。こういう大事な時も失敗しちゃうんだろうなぁって」

P「春香はドジっ子だからなぁ。でも、俺は良いと思うよ」

春香「えっ?」

P「確かに生放送で間違えるのは問題だけどさ、今までの積み重ねでたくさん失敗してきただろ? だから春香は絶対成功させるよ。その為に色々な失敗をしてきたんだから」

春香「プロデューサーさんは私を買いかぶり過ぎですよ」

P「そんなことないぞ。それに、買いかぶるかどうかは……これからの春香次第だろ」

春香はじっと下を向き、考える。
俺が決めることではない。俺は、導いてやることしか出来ないから。

P「一つ、俺の昔話をしようか」

64: 2012/05/02(水) 12:47:36.74
P「俺の幼馴染にまぁ、不思議な女の子がいたんだよ」

P「子供の癖に大人でさえ寄せ付けないような雰囲気でさ。どっかの国のお姫様かと思うくらい綺麗で当時の俺はちょっとその人の事が怖かった」

P「けど話してみると意外に普通の人でな。兄弟のいない俺にたくさん優しく接してくれて本当の家族みたいに過ごしてくれたんだ」

P「その過程の中で色々と失敗しまくってな。間違えて俺のお菓子食べちゃったりとか俺のおもちゃ壊したりとかな」

春香(ただのはた迷惑……)

P「いくら失敗してもさ、めげずに俺のところに寄ってくるんだよ。しつこい位に」

P「でもそれくらい、思ってくれてたってのは今になったら漸く理解できるよ。春香だって、まだ少ないファンのみんなに精一杯の笑顔を届けたいって思ってるだろ?」

春香(でも……)

P「その気持ちが重要なんじゃないかな。しつこい位に想う気持ちが。失敗は、気持ちと仲間がカバーしてくれるよ。勿論、俺も最大限サポートする」

P「まぁ、同い年の俺が言っても説得力無いかもな……あはは」

春香「私……」

春香「みんなの気持ちに応えたい。自分の気持ちにも、応えたい! 失敗に脅えたくないっ!」

目に輝きが戻り始める。
決意にも似たその表情に安堵を覚える。やはり春香はこうでなくては。

春香「……グスッ、すいませんプロデューサーさん。――行きましょう、生放送まで時間無いですよっ!」

P「分かってるよ。行くぞ!」


66: 2012/05/02(水) 14:31:15.26
D「急で申し訳ないね、765プロさん。まさか本当に来てくれるとは思ってなかったよ……」

小鳥「いえいえ、こちらもチャンスを頂けたということで。それにしても春香ちゃんとプロデューサーさん………まだかしら」

貴音「小鳥嬢。二人は必ず参りますよ」

小鳥「貴音ちゃん……」

貴音(あなた……)

D「放送5分前ですー! スタッフのみなさん、準備お願いしますー!」

真「やっぱ春香、間に合わないかな……」

美希「真君、そういうのは言わない方がいいと思うの。来なかったら来なかったで、ミキ達はするべきことをするだけなの」

雪歩「でもやっぱり心配ですぅ……」



ガチャッ。



P・春香「「遅れて申し訳ありませんでしたー!!」」

67: 2012/05/02(水) 14:43:21.42
千早「春香っ!!」ダキッ

春香「うあっ!? 千早ちゃん、く、くるしぃ……」

千早「はっ! ご、ごめんなさい・・・・・・嬉しさのあまりつい」

真美「はるるん、おかえり!」

やよい「春香さん、待ってましたよ! うっうー!」

真「春香! 間違っても、僕たちがサポートするから!」

雪歩「春香ちゃん、間違える時はみんな一緒ですぅ!」

美希「雪歩・・・・・・そりゃないの」

貴音「春香」

春香「貴音さん、私……」

貴音「いいのです。こうして、皆が集った事に今は喜びを感じましょう。そしてその喜びを届けましょう!」

春香「――はいっ!!」

68: 2012/05/02(水) 15:11:55.36
小鳥「プロデューサーさん、どんな魔法でも使ったんですか?」

興味深く音無さんは俺に詰め寄ってくる。

P「魔法ってそんな大げさな……。ほら、同年代だからわかる事ってのもあるんじゃないですか? 心を割って話せる親近感、みたいな?」

小鳥「どーせ私は三十路間近ですよぉーっだ!! ……でも見てくださいよ。みんな、竜宮小町の代役ってのも考えずに自分たちの精一杯を披露してますよ」

P「元々あいつ等には才能がありましたからね。今まで引き出す機会と場が無かっただけですよ」

小鳥「それに至るにはプロデューサーさんの存在が不可欠だったと私は思いますよ? 美希ちゃんの件や、今回の春香ちゃんの件。……みんな、頑張ってはいますがまだまだ支えてもらえる人が居ないと」

P「そうですかねぇ……」

踊って、歌って、笑って。
アイドルってただちやほらされる人気者なだけだって俺の中では思っていたけれど、こんなに間近で見るアイドル達の光景というのは、言葉では表しがたい凄いオーラを持っているとこの時の俺は思った。
誰かを元気にする、笑顔にする。それが彼女たちの仕事であり、使命。
その彼女たちの力になれたのかと思うと、自然と俺の中に達成感と喜びが湧いてくる。

P「音無さん」

小鳥「何ですか、プロデューサーさん?」

P「俺、この仕事……自分の生き甲斐に出来そうな気がしてきました」

小鳥「ふふっ、わかりますっ。その気持ち」

69: 2012/05/02(水) 16:49:56.06
無事生放送は終わり、大成功に終わった。
放送終了後、伊織達竜宮小町は出れなかった事を悔しがってはいたが、彼女たちの知名度が上がるきっかけになった筈だと伝えたら照れながら伊織は「そ、それならいいのよそれなら!」とか言っていた。
肝心の春香はというと放送終了後俺に泣きついて来て暫く離れなかったのは凄かったな。
一番の頑張り屋さんが一番頑張った瞬間だったからな。今日ぐらい大目に見てあげよう。

美希は珍しく自分に厳しい評価を与えていた。
振り付けも歌唱力もこの中やかなり上の筈なのにまだ上を求めるか。その意気込みや良し。
帰りに千早と響と歌と振り付けの考察を行っていた辺り、やる気に満ちてる美希の成長には期待していいとプロデューサー視点からは感じ取れたな。

他の皆も一段飛び越え、アイドルユニットとしての自覚が強く芽生え始めたみたいで何よりだ。
流石に疲れたのか、車内にいる皆から会話の声が消え、俺は起こさないよう静かに律子と話す。

律子「えっ、プロデューサー殿って私より年下だったんですか!?」

P「そうだよ? だから最初は敬語使ってたのにさ。敬語使うなって言うから使わなかったけど肝心の律子が敬語じゃなぁ」

律子「そうね……じゃあ、先輩としてビシバシこれから鍛えこんであげるわ、プロデューサー!」

P「お、お手柔らかに……そういえば律子、さんはいつの間に免許を?」

律子「あー、なんか美希みたいになってるわよ。特別にプロデューサーだけは前のまま接してもいいわよ。それの方が気が楽だし」

P「そうか。で、いつの間に?」

律子「免許取ったのはつい最近よ。仕事の合間を見てちょこちょことね。使ってなかった会社用の車を今日初めて仕事に使ってみたんだけど案の定事故の影響に巻き込まれるとは……とほほ」

P「まぁ、そのおかげであいつらには良い切っ掛けが出来たよ。ありがとな、律子」

律子「良いのよ。実際貴方達が間に合わなかったら番組は中止になるところだったわけだし。結果的には助けられたわ」

P「そういや律子は……」

律子「ん?」

P「元アイドルなんだろ? 俺がプロデュースしてあげようか」

律子「ばっ、馬鹿! 今の私は竜宮小町一択なの! 自分がアイドルなんてする暇無いの! この話は終わり、わかったっ?」

P「はいはい」





貴音「……」

70: 2012/05/02(水) 17:33:30.66
生放送の番組に出てから早数日。まさかの仕事の入り様で事務所は大忙しだった。
音無さんの受話器、俺の携帯、律子の携帯が休む間もなく鳴り響く。仕事が入ってくるのは嬉しいが、ちょっと限度が……ってそんな事言ってられるか!
オファーのラッシュが落ち着いてきたのは夕方になってからだ。ダンスレッスンを終えた春香、やよい、響、真、美希が戻ってきていた。竜宮小町の面子は今日は事務所で今後の活動方針について練っているらしい。
他の面子はこのオファーラッシュが誰のものなのか全く理解していないのかのんびりと事務所内でくつろいでいやがる。……少しは竜宮小町を見習え。

P「はぁ……漸く、一息付ける」

雪歩「お疲れ様ですぅ。プロデューサー」

P「お、お茶入れてくれたのか雪歩。サンキュー」

美希「ハニー! 今日もミキ、ダンスレッスンいっぱいいっぱい褒められたのー♪」

P「そうかそうか。お疲れさん」

そう言って髪の毛をわしわししてやると美希は「あはは~なの」とか言いながら喜ぶ。最近美希は何処か犬っぽいなって思うようになった。

真美「兄ちゃん、そんなに疲れた顔してどったの→?」

響「ピヨコと律子もくたくたーな顔してるぞ?」

小鳥「そりゃあもちろんオファーの連絡よ……」

律子「正直こんなに来るだなんて……。竜宮小町結成の時はあんなに苦労したのに」クッ

やよい「お仕事いっぱいで嬉しいです―!」

春香「うん、これからだもんね……」

千早「私は歌えるのなら何でも……」

貴音「………」

71: 2012/05/02(水) 17:49:11.84
様々なオファーが入る中、徐々にアイドルとしてテレビに映る機会が多くなっていく765プロの面子。
次第に周りの目を気にしなければならない時期がやってきている中、貴姉は帰宅後唐突に俺に話があると告げた。

P「何だよ貴姉。話って」

貴音「……」

P「何か最近貴姉と事務所でも家でもあんま話してないよなぁ。何か他人行儀というか」

貴音「そんなことは……無いと思います、よ?」

P「そう? それならいいんだけどさ」

事務所の皆と仲良くなっていく傍ら、皆の間で「プロデューサーと貴音は実はあんまり仲良くない?」という疑問が湧いていた。
あの事務所で会話しない相手がいるというのはかなりの問題なのだろう。雰囲気的にも事務所というよりっは家に近い765プロ。そこに勤めるアイドルと事務員、プロデューサーは最早家族のような絆で結ばれている………と彼女達も思っていたのだろう。
異変に気付いたのは2日前の俺と貴姉の些細な会話からだった。最近の貴姉はどうも元気がない……ということを美希に言われ、声をかけてみることにした。

P「貴姉、今日は昼飯どうしたんだ?」(俺が作りそびれたんだけどな……)

貴音「いえ、別に……」

P「い、今からコンビニ行こうと思うんだが何か買ってこようか? それとも一緒に行くか?」(カップラーメンでも食べれば元気でるだろ)

貴音「いえ、遠慮しておきます」

P「そ、そうか。取りあえずアイドルは体力が重要だ。しっかり管理しろよ」(おかしいな……お金は俺が管理してるから俺と行かないと昼飯買えんだろうに)

貴音「……」

そう良い残し、俺はたまには牛丼でも食べるかということで牛丼屋に行った。
そして昼休みも終わる頃、事務所に戻ると少し困った表情の春香が俺に近づいて貴音に聞こえぬよう話を始めた。

春香「プロデューサーさん、貴音さんに何かしたんですか?」

P「えっ、何が?」

春香「貴音さん、プロデューサーさんと話した後普通にコンビニに行ってカップラーメン買ってきてましたよ?」

P「えっ……」

春香「まさかプロデューサーさん、貴音さんに………嫌われてるんですか?」

P「」

73: 2012/05/02(水) 19:36:07.68
P「そそそそそそんな馬鹿な!!!!!」

春香「顔が怖いです」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

P「で、は話ってなんだよ」

本当に嫌われてるのか。それともあの時のは偶々なのか。偶々だろう。偶々。連呼するこのじゃないなこれ。
貴姉は暫く沈黙した後、重々しく口を開く。

貴音「……私、アイドルを辞めたいのです」

P「……」

P「………」

P「…………」

P「は?」

74: 2012/05/02(水) 21:01:08.03
貴音「……だから、アイドルを辞めたいと申したのです」

P「…………どうしていきなり、そんな事を」

諦めるのが一番嫌いな貴姉がいきなり諦めるだなんて……。
何か、あったのか? まったく心当たりがないぞ。

貴音「そもそも私の目的は既に果たしているのです。……これ以上、求める物は無いのです」

P「トップアイドルになる目的は不要だというのか?」

貴音「――私は、アイドルとしての四条貴音ではなく、あなたの姉としての四条貴音に戻りたいのですっ!!」

P「今でも貴姉は俺の姉ちゃんみたいなもんだよ。いつでも頼りになるけど、何処かほっとけないところも……変わっちゃいないよ?」

貴音「違う、違うのです……!!」

P「違うってなんだよ! まさか、そんなにラーメンが食えない生活が嫌なのか?」

貴音「違うのですっ!!!!!」

P「!?」

75: 2012/05/02(水) 21:26:39.05
P「じゃあ何なんだよ……それじゃあわからないって」

貴音「あなたは美希と、春香を立ち直らせ、無事765プロを高みへと登らせるきっかけを作りました」

貴音「私としても誇らしいですし、嬉しくも思います」

P「だろ? なら何も問題ないじゃないか」

貴音「あなたは分かってないのですね……私の気持ちを」

P「はぁ? 流石に意味が分からないぞ」

貴姉の気持ち? みんなと一緒にトップアイドルを目指す目的があったのに急に姉に戻りたいとか言われても分かるわけがないだろ……。
せめて口にしてくれないと分からないって。

貴音「……」

P「……何だよ。俺は何も間違ったことを言ったつもりはないぞ、貴姉」

貴音「もう、良いです」

そう言って貴姉は眠りについた。
一体何が言いたかったのか。本当に貴姉はアイドルを辞めるのか。残る疑問も多いが今は連日の疲れが溜まってて今すぐにでも眠りたい……。
明日にでもなれば機嫌の一つや二つくらい治っているだろう。

76: 2012/05/02(水) 22:25:36.82
――翌朝。

P「ふぁあぁあ……。おはよう貴、姉ぇ………?」

P「貴姉?」

P「何だよこれ……どういう事だよ」

テーブルの上に一通の手紙。
何故か開きたいとは思わない。でも、これはどう見ても貴姉が俺に対して送った手紙。開かないわけにはいかないが……先が何となく読める気がする。
開くとそこに書かれた文字が、眠気を払う。


『おせわになりました、くににかえります  貴音』



P「………くにってどこだよ」

77: 2012/05/02(水) 22:54:41.75
貴姉が俺に預けた通帳とカードも抜かれている。
まぁ野垂れ氏にまでは無いだろう。デビューを飾ってからの仕事はそれなりにギャラの高い物ばっかりだったし、俺が無駄使いを許さなかったからそれなりに貯まっているはずだ。
それにどうせ、事務所に行けばいるだろ。あんな変なところで音をあげるような人じゃない。大丈夫だ、きっと。
俺は慌てて準備する。ひげを剃るのを忘れるくらい焦りながら。

事務所に着くとそこには千早と春香と美希しかいなかった。
美希はソファーで寝ており、春香と千早は二人で雑誌を見ている。

春香「あ、プロデューサーさん。おはようございます」

P「……あぁ、おはようみんな。そ、そういえば貴姉は見なかったか?」

千早「四条さん、ですか? 今日は見てないですけど……。そもそも今日仕事入ってましたっけ?」

俺は咄嗟にスケジュール表を確認しに行く。
千早の言う通り貴姉は今日はオフだった。じゃあどこに行ってるんだ? 携帯に電話をかけてみる……繋がらない。メールを送る……エラーが帰ってくる。
暫く業務に集中しようにも頭に入ってこない。雪歩が入れてくれたお茶も、美希がくれた苺ババロアも、響のサーターアンダギーも喉を通らなかった。
焦りが募りに募り、律子からは不振がられ、真からは帰宅を促される。やよいと真美にも心配される辺り、今の俺はとてつもなくヤバく見えているのだろうか。

P(何処にいるんだよ連絡寄越せよ連絡……!!)

小鳥さんにも念を押され、今日は早退することになった。タダの口実だ。
俺はそのまま急いで駅に向かった。

78: 2012/05/02(水) 23:14:47.77
駅であずささんと出会う。
どうやら竜宮小町の収録にこれから向かうところらしい。
そしてまさかの目撃情報を聞くことになる。

あずさ「そういえばさっき、貴音ちゃんに見かけまして……暗い表情をしながら駅前のラーメン屋さんに入っていくところを視ましたよ? って、プロデューサーさん? あらぁ~……慌ててたけど大丈夫かしら」

俺は疾風の如く入ってきた改札口を戻る。
プロデューサー業をしてからというものの、疲れが溜まる仕事ばかりで少し全速力するだけで息が上がるくらい身体機能が低下していた。
今の姿を貴姉に見られでもしたら「情けない」と一蹴されるだろう。そらそうだ、職種が違うんだから。

P「糞っ、何処いるんだよ!!」

店主さんに聞いたところ良い食いっぷりで去って行ったという。あの外見なら記憶に焼きつく事間違いなしだろうに。
もう少し話、聞いてやりゃあ良かったんだ。俺はプロデューサーの前にあの人の弟なんだろ? なら親身になって困ってる事があるなら理解するまで話を聞いてやるべきだろ!
疲れを言い訳にめんどくさがった俺は馬鹿だ!!

携帯を開き、周辺のラーメン店の場所を一通りチェックし、一軒一軒向かう。
確かに目撃証言はあるのだが……どこも俺が来た頃には消えていた。逃げ足が速いのか、偶々なのか。
虱潰しに探した後、考えられるところと言えば一つくらいしかない。

P(ったく……!! 行くしかないか)

辺りは暗くなり、帰宅時間の会社員が溢れ返る時間帯になる。
駆け足で電車に乗り込み、いくつもの電車を乗り継いて俺はとある場所へと向かう。

P(頼む……いてくれよ)


80: 2012/05/02(水) 23:29:39.39
数時間掛けて着いたのは星が見える丘。
たくさんの木々に囲まれ、人気が全く無いところだ。どうして此処に来たのか、貴姉が来そうなところと言えばここくらいしか思い当たらなかったからだ。
『くににかえります』という文面。あんたの国は日本だろ、と突っ込みたかったが一つ、記憶の底から一つの思い出を掘り起こすことに成功したのだ。
以前、この丘に来た時は家族に報告もせず貴姉が連れて行きたいと言って俺を無理やり連れて来たことがあった。
その時は警察も総出で探索作業を行うくらいいろんな人たちに迷惑を掛けてしまったわけだが、その時貴姉はこんなことを言っていた。

貴音「ここをわたくしとあなただけのくにとしましょう」

P「くに?」

貴音「そう、くにです。あなたとわたくしのおもいでがつまったこのばしょをだれにもしられないために。いいですね? だれにもいってはなりませんよ?」

何処に行っていたかは頑なに答えなかった貴姉。それを見てか俺も約束を守り、誰にも言わなかった。
勿論その後こっぴどく怒られたわけだが……。

P「はぁっ……はぁっ、ここ、にもいないか」

着いてみても人のいる気配もない。
ましてやこんな月明かりしかない場所で人探しとか無謀にもほどがあるだろ……。ただの骨折り損のくたびれもうけだ。

P「糞……貴姉ぇ……どこにいるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

誰もいないのだから叫んでも聞こえないだろ。
もっと気にかけてやるべきだったんだ。今更遅いのかもしれないけど、な……。チャンス、欲しいなぁ。叶えてくれよ、流れ星よぉ。

81: 2012/05/02(水) 23:54:05.34
???「そこで何をなさってるのですか……?」

P「何って……大事な人に謝りに一日奮闘して、疲れを癒してるところだよ」

―――――流れ星、お前ってやつはまさか本当に叶えてくれるとは。

貴音「それはさぞかし大変だったでしょうね。どんな気持ちでしたか?」

P「携帯にも出ない、メールも送れないとなっちゃ心配するに決まってんだろ、馬鹿」

貴音「けど、それくらいの事をしないとあなたはいつもの事だろう? と言ってあしらっていたでしょうに」

P「それは……言い返せないな、うん」

貴音「でも、この場所を覚えていたことには嬉しく思います」

俺の隣に腰を降ろし、肩に寄り掛かる。
吹く風が少し肌寒く感じるが、どうも胸の一部の高鳴りが大きく、熱を帯びている。

P「あんな変な書置き起こすから、今日仮病で早退しちまったぞ」

貴音「それはそれは。さぞかし皆には迷惑かけた事でしょうね」

P「ったく……で。結局アイドル辞めるってのはどうしてそう思ったんだよ。ちゃんと理解するまで聞くから、話してくれ貴姉」

82: 2012/05/03(木) 00:11:09.43
貴音「あなたがぷろでゅーさーとして働き、皆の信頼を勝ち得ていくにつれて私の心の中の何かがもやもやし始めて来たのです」

貴音「美希に春香、千早に真、雪歩や響、真美とやよい。あなたのぷろでゅーすしているあいどるは皆、少なからずあなたに好意を抱いているはず」

P「そんな馬鹿な。まぁ、美希には好かれてるってのは流石に分かるけどさ……」

貴音「そこであなたが美希と交わした約束。あの約束を知った時、私の中のもやもやが徐々に黒くなっていったのです」

トップアイドルになれなかったら責任とって、ってやつか。どうせ美希なりのジョークだろうしそんな気にしなくても……。

貴音「あなたとはこうして仕事の後共に帰宅し、ぷらいべぇとも共に過ごしているのに……私とあなたはあいどるとぷろでゅーさーの関係のまま。どうしたら前のような関係に戻れるのかずっと悩んでおりました……」

貴音「そこで思ったのです。私があいどるを辞めて、あなたの姉に戻ればいいと。そうすればあなたはもっと私を思ってくださるのではないかと……そう思ったのです」

P「……」

貴音「勿論、高木殿の恩は忘れてはおりませんよ? ――でも、そろそろ頃合いかと思うくらい私の心の中ではあなたで埋め尽くされて……」




P「ばっかじゃねーの?」




俺はブチ切れた。
女相手に何切れてんだみっともないと言われても仕方ないだろう。傍から見た人は。
けど、俺にとっては重要だった。貴姉のその言葉に、怒りを抑えきることは無理だった。

90: 2012/05/04(金) 15:54:20.64
貴音「え……?」

P「俺の知ってる四条貴音は一つの愛の為に全てを捨てる女だったのかよ」

貴音「そうでございますっ!! 私がどれだけ辛い思いをしながらあなたが去った日々を過ごしたか、あなたには到底分からないのです。……こうして再び運命の巡りあわせによって再会出来たというのに、あなたは私と同じ感情を抱いてはくれないのですか!?」

P(貴姉に会いにプロデューサーになったんだから同じに決まってんだろ)

P(でも……)

P(こんな貴姉に愛されても、俺は嬉しくない)

P「俺はな、今の貴姉が嫌いだよ」

一言。

貴音「――!?」

その一言が引き金となったのか、貴姉の頬から一筋の涙が零れ落ちる。
けれど、これから話す事を全て聞いてもらわなきゃ俺の気持ちは最後まで伝わらない。その場から逃げ出そうとする貴姉の手を掴み、引き寄せて両肩を掴む。
顔と顔を向け合うと貴姉の泣き顔が正面に映る。綺麗だ。
この涙は俺を想ってくれた上で流したもの。いつまでも流させるわけにはいかない。

P「さっき自分で言ってただろ。事務所のみんなが俺に少なからず恋愛感情を感じ始めてるって」

P「それなのに一人抜け駆けか?」

P「自分の昔からの思い人だからといって他人の感情を無視して奪い取るのか?」

P「確かにそれも愛の形の一つだろうけどな………俺はそんな事容易く認めるほど軟な奴じゃないよ」

P「765プロに入ってからの俺は今までと違ってただひたすら業務を熟すのとは別に、一つの目標が出来たんだ」

P「みんなをトップアイドルにする。一番輝けるステージを俺が作り上げるって。それが出来てから毎日お前らアイドルと仕事するのが楽しくてさ」

P「まだ弱小プロダクションなのに夢見すぎだろ? って他人からしたら思う子供染みた夢だけどさ……俺は出来ると確信してるんだよ」

91: 2012/05/04(金) 16:16:05.46
P「誰一人欠けることなく、それを成し遂げる。それが、俺が765プロで見つけ出した目標でもあり使命なんだ」

P「勿論、恋愛なんてご法度な業界だし。それを知っての上であいつらはアイドルを目指した」

P「そんな辛い枷を掛けられてるのに、貴姉は一人それを無視して逃げ出すの?」

P「好きな人と一緒に居たいから。その理由に悪いことは無いさ。でもな――始まりかけたトップアイドルへの道を捨ててまで俺と一緒にいて欲しくない」

P「久しぶりに会った時は俺も似たような事思ってたさ。けど、次第に気持ちは変わっていった。……俺、アイドルやってる貴姉も好きなんだよ」

貴音「……」

P「でも、貴姉の言ってる事が本当なら俺はあいつらの気持ちを無視したくない。正面から受け止めて、自分の気持ちと向き合って決める。それが、あいつらに対しての礼儀だと俺は思う」

P「俺もアイツらと接することで感情が変わっていくかもしれないしな。業界のルールを破ってまでそんな感情を持つんだ。それ相応の覚悟も必要だ」

P「――だから俺は今、ここで貴姉の愛情には答えられない」

貴音「ならその手を放してくださいませ!! これ以上、これ以上……あなたの言葉は聞きたくありませんっ! こんなにも心が苦しくなるのでしたらいっその事、アイドルなんてっ」

P「最後まで聞けっ!!!」

貴音「!?」



P「貴姉。俺を想う気持ちがこれからもずっと、永遠にあるというなら………誰にも負けないトップアイドルになって俺の心を奪って見せろっ!!!!」



P「いくら色仕掛けをしようが、泣こうが、喚こうが俺の気持ちは変わらない。それでも俺の気持ちをモノにしたいなら………わかるよね、貴姉?」


俺は貴姉が好きだ。
美味しそうにご飯を食べてる貴姉が好きだ。髪をとかしている貴姉が好きだ。辛いとき傍にいて何も言わずにいてくれる貴姉が好きだ。
アイドルをしている貴姉も、俺と一緒に幼少期を過ごした貴姉も。全て。

だからこそ、こんなところで折れて欲しくない。俺のただの我儘だけどな。
楽しそうに歌い、楽しそうに踊る。沢山の人の為に向ける笑顔を、今ここで俺は全て奪いたくない。
もっともっと輝かせて、世界のみんなに伝えたいんだ。「俺の好きな人は、こんなにも凄いアイドルなんだよ」って。

92: 2012/05/04(金) 17:23:11.94
貴音「……っ!」

P「貴姉っ!?」

貴姉は答えを口にはしてくれず、そのまま駆けていき姿を消した。
追っていったところでこれ以上何を言えばいいのか思い浮かばなかった俺は、ただただ立ち尽くすしかなく……。
夜空に光る星々の光が凛々と輝く夜。流れ星が叶えてくれた再会の答えは、再び会う時に告げてくれると信じる他なかった。


――貴姉が家から消えて二日が経った。
貴姉の所有物全てが部屋から消え、閑散とした部屋に虚無感を感じつつも今日も事務所に向かう。今では事務所だけが唯一の居場所に感じるほどに寂しさだけが残っていた。
事務所にも姿を現さず、アイドルたちも不安に思う中、事態は一つの急変を迎える。
予想だに出来なかった展開に俺は雪歩が注いでくれた湯呑を事務所の床に落とし、割ってしまった。
けれど、そんな事も気付かない位に気が動転していたのだ。



テレビ『961プロ緊急会見! 765プロより移籍が確定した新進気鋭のアイドル、四条貴音さんの緊急会見をこれから生中継でお送りいたします!』



美希「こ、これって………貴音、だよね?」

響「い、一体どういう事なんだプロデューサー! 自分達、何も聞いてないぞ!?」

俺も聞いていない。
社長は黙ったままだ。俺は問い詰めた。どうして貴姉が居なくなったのか。どうして移籍したのか。
俺の問いかけに暫く沈黙を続け、覚悟を決めたのかゆっくりと話し始めた。
その内容は全て俺と貴姉の間に出来ていた秘密が関係する事。
俺と貴姉の幼少の頃からの関係、そして今でもその関係は続いており、つい最近までは同棲までもしていた事。
それが961プロの社長である黒井から765プロ社長高木へと直接伝えられた事。……勿論写真等の証拠を全て揃えた上で。
黒井社長がこの事実をマスコミに流さない条件として、四条貴音の765プロ離籍と961プロへの移籍の要求。
その場に同席していた四条貴音は迷う事無く離籍を受け入れた。高木社長は制止を試みたが彼女自身の頑なな意志によるものだと彼女自身がそう告げ、高木社長にはどうする事も出来なかった。

高木「済まないね……私が無理に君をスカウトしたのがそもそも最初の間違いだったのかもしれないね」

P「いえ、社長が俺を気に入ってくれたからこそ、また出会う事が出来たんです。感謝してもしきれません。でもルールを破った以上、クビの覚悟は出来てるつもりです」

高木「……」

やよい「プロデューサー……なんか可愛そうです」

真「961プロめ! こんな卑怯な手を使ってまで売れたいのかっ!!」

伊織「ちょっとそれは違うんじゃないかしら?」

紅茶を口に運ぶ伊織から冷静な一言が飛び出す。

春香「伊織?」

伊織「だって、全てはそこの駄目駄目変態男が引き起こした結果でしょう? その事実を公表されなかっただけマシだわ。今、漸く波に乗ってる765プロがこんな事実を公表されちゃ、信用がた落ちだし。事務所も、其処に所属するアイドルたちもね」

真「伊織っ! そんな言い方ないだろ!」

P「真、良いんだ」

事実だからな。こいつらも仲間がいなくなって気が動転してるんだろう。

真「でもっ……」

P「社長が説明した通り、俺と貴姉は姉弟みたいに育った仲なんだ。とある事情で離れ離れになって漸く再会し、家賃滞納して追い出された行く当てのない貴姉を暫く居住まわせてただけだ。深い意味は無いし、何もしていない」

千早「言い訳がましいかとは思ってしまいますがそういえば四条さん、一時期ご飯もろくに食べずに倒れた事が何度かありましたね……。その度に皆が外食に連れて行ってあげてましたが」

響「貴音ぇ、そんな事情があったのかぁ。ハム蔵を口に運ぼうとしてた時は食べ物との見分けもつかない位苦しんでたんだな……」ウルウル

P(お前らあの大食いに飯おごるだなんてなんて心の広い奴らなんだ……)

93: 2012/05/04(金) 20:03:28.70
その記者会見の翌日。一通の封筒が俺のアパートのポストに投函されていた。
送り主に関して考えられるのは一人しかいない。俺は心を落ち着かせて読むために部屋へと入った。
誰もいない部屋の中、ベッドに腰を掛ける。つい最近まで貴姉が寝ていたせいか貴姉が去ってからもベッドでは寝ていない。
ゆっくりと封を切ると、中には当たり前のように手紙が入っている。
深呼吸し、手紙を広げる。

『あなたがこの手紙を見ている頃には、私は既にあなたの家を去っている事でしょう。
これから語る事は私からの本心です。どうか、心を落ち着かせてお読みください。

あの場所で、あなたに嫌いと言われてから早数日。あの後のあなたの述べた本心からの言葉を胸に、私は色々と悩み、考えました。
その時です。961ぷろの社長、黒井殿に話を持ち掛けられたのは。
そこからは既にあなたも高木殿から話を伺っている事でしょう。けれど黒井殿をどうか責めないであげて欲しいのです。
黒井殿は私とあなたの同居生活を盗撮したぱぱらっちが961ぷろにその情報を売り込みに行き、それを黒井社長が買い抑え、情報の漏えいを防いで下さったのです。
大丈夫だ、とあの時の私はあなたに自信を持って保障いたしましたが……自分が情けない限りです。
何故そこまでして頂けるのか……彼もまた、私と似た過去をお持ちのようでして。私はその御恩を返すのと同時に765ぷろに被害が及ばないよう、身を移した次第です。
決して……決してあなた達と共にとっぷあいどるを目指す事を諦めた訳ではありません。勿論、あなたの事も。

しかし私は、ほとぼりが冷めるまでという考えを持って移籍を決意した訳ではないのです。
このまま私はあなたの下でとっぷあいどるを目指していけば、勿論なれる可能性は十分にあるでしょう。
けれど、それではあなたに相応しい私になるには足りないと思ったのです。私は思った以上に弱い。
とっぷあいどるを目指す過程の中、これから辛い事、苦しい事が沢山あるでしょう。そう言った時、私はすぐあなたに甘えてしまいそうな気がするのです……。勿論、これを書いている今も。
たとえ道は違えど、目指す場所は同じ。
私は暫く、765ぷろを離れとっぷあいどるを目指すとします。
そしていつか必ず、あなたの姉……いや、あなたに相応しい女として隣りに立てる様、新たな一歩を踏み出してまいります。

765ぷろの皆にはご迷惑をおかけしましたと、あなたから伝えておいてください。
次にあった時は皆はらいばるですからね……ふふっ。
成長した私が戻ってきた際は、皆と共にらいぶをしたいものです。

最後に、私はとっぷあいどるになるまであなたに会いに行くことは無いでしょう。
しかし、昔みたいに黙って消えていなくなる、というのは絶対に止めて戴きたいのです。ですから毎月一通だけ私に文を戴けないでしょうか?
住所は下記に記載しておきます。
それでは、お元気で。身体を壊さぬ様気を付けるのですよ。

あなたの姉 四条貴音』


俺は手紙を読み終え、封筒にしまった。
そして誰もいないこの部屋で、貴姉が寝ていたベッドに顔を埋め、一人涙した。

94: 2012/05/04(金) 21:19:39.80
俺は貴姉の手紙を皆に見せた。
貴姉からの本心を伝えてやらないと皆も気になったまま仕事にならないだろうし、きっと貴姉も許してくれるだろう。
皆も貴姉が離籍したのには真意があるというのと、トップアイドルへの道は変わらない事に喜び、よりアイドル業に対して真剣になっていった。

其処からの彼女達はやる気と比例するように営業、ライブ、フェスを全力で熟していき、短期間ながらかなりの知名度を上げて行った。
春香と真美はバラエティなどに多く出演し、千早はソロで歌手活動も並行して行うようになった。
雪歩と真は舞台に出演が決まってから演技力などに磨きがかかった。雪歩に至っては大分男嫌いが治ったようで俺も安堵している。それでも若干まだ距離を感じると男性の監督とかからはぼそぼそと言われるが。
美希は雑誌のモデルや化粧品などのCMに抜擢されることが多くなった。千早同様にソロでも活動の幅を広げていき、今ではトップアイドルの地位を物としている一人である。
やよいは意外な路線をアイドル業と並行して走っている。アニメの声優だ。彼女の声にはその種の人を引き付ける魅力があったらしく、出ているレギュラーアニメ番組は映画化が決定しているほどだ。
律子率いる竜宮小町は更に知名度を増やし、様々なところで引っ張りだこ。律子に至っては新しいアイドルの原石の発掘をする為に立ち上げた新企画「シンデレラプロジェクト」なんてものも並行して行っており、俺も負けてはいられない。

春香「そういえばプロデューサーさん?」

P「何だ春香? 久しぶりの休日だってのに事務所にいるなんて勿体ないなぁ」

春香「プロデューサーさんがいるからですよっ」

P「ははは……」

貴姉の手紙を見せてからというものの、アイドルとの関係を改めて考え直してほんの少しだけ距離を取ろうかなぁとか思ったのだが、貴姉が俺に好意を寄せてる事を知ったアイドル達は今まで以上に近く感じるというか……。

春香「で、プロデューサーさん。今更なんですけど……プロデューサーさんって貴音さんの名前呼ぶ時ってたか(↑)ね、じゃなくてたかねぇ(↓)なんですね」

P「ま、まぁな。昔からそうやって呼んでたよ」

美希「うー……ミキもハニーに美希姉ぇって呼ばれてみたいの」

P「何言ってんだ美希。じゃ、春香くつろいで行けよ。行くぞ美希、今日は雑誌の取材だろ」

美希「そうだったの! じゃあねー春香~」

春香「いってらっしゃい~。……あーあ、今日はずっとプロデューサーさん居ると思ったんだけど。ざんねんっ」

95: 2012/05/04(金) 21:47:13.14
美希「ハニー」

P「何だ?」

俺も律子を追うように免許を取った。
自宅には駐車スペースが無いから自分の車は買ってはいない。乗る機会と言えば営業やアイドルたちの送り迎え位だしなぁ。
今回は取材と撮影を兼ねた仕事なので長引きそうだな……。

美希「ミキ、トップアイドルになっちゃったね……」

P「そうだな。今じゃ人気者だ。あの頃とは全然見違えるくらいに」

美希「ミキね、今になって凄く後悔してる事あるんだ」

P「どうしたいきなり?」

美希「あの時の、約束。トップアイドルになれなかったらじゃなくて、なれたらにすればよかったなって」

P「美希……」

美希「わかってるの。ミキも。ハニーが貴音を想ってること位。でも、ミキも想いつづけてて良いよね? ハニー」

P「……あぁ」

美希「ありがと、ハニー」

取材が終わるまで美希とは言葉を交わすことは無かった。

107: 2012/05/17(木) 01:20:06.92
美希「ハニーはさ、もう少し自分に素直になるべきだと思うよ」

事務所に帰る間、イチゴオレが入ったパックのストローを吸いながら唐突に言う美希。
美希から見たら俺はそんなに素直には見えないのか。

P「素直に……? 別にいつも素直だと思うけど」

美希「どこがなの。貴音に会いたくて会いたくて仕方ないくせに」

鋭い所を突く。
美希に勘ぐられるくらいバレバレだったのか、それとも美希の感が鋭くなったのか。
美希の言う通りにするなら、この言葉が今思う素直の全てだろう。

P「そりゃあ…………会いたいけどさ」

あれから数か月が経ち、月一の文通が俺と貴姉を繋ぐ唯一のやり取り。
ごくまれにテレビ局で会う時があるが、お互いに目も合わせない。
次第に会って話したいという気持ちが心の中で積もっていくが、気持ちを塞き止める為に俺は仕事に集中する。
そのせいで自分の気持ちに素直になれてないというならそうなんだろうな。

美希「なら会えばいいの。貴音だってもうミキと同じSランクなんだし、実質トップアイドルなの。ハニーは何時まで待つ……いや、待たせるつもり?」

P「待たせる、俺が?」

美希「うん。だって、貴音はトップアイドルになるまでハニーと会わないって決めてるんでしょ? 貴音の事だから歯止めが利かなくなってまだまだトップアイドルじゃないとか思ってるんじゃないかな」

P(有り得そうだから困る)

美希「一方のハニーも貴音が来るまでずっと待つ、とか考えてたりするんじゃない?」

P(ギクッ)

美希「はぁ……やっぱり。どっちも我慢馬鹿なの。それじゃあいつまで経っても結ばれないと思うよ? ハニー」

美希「ミキからしたら別にこのままでも良いんだけどね……」ボソッ

P「そうかな。ちょっと考えてるよ、美希。ありがとな」

美希「……ううん、いいの。もし貴音に振られたりでもしたらその時は美希の所に来てくれれば」ニコッ

P「ははは、はは……」

109: 2012/05/17(木) 01:23:49.79
今日の業務も終わり、家へ着く。
いつもなら軽い食事でも作って一人淋しく食すが、今日は食欲が湧かず、風呂に入って直ぐにベッドに横たわった。
美希の言う通り、俺達は似た者同士で強情っぱりなんだろうか。
携帯を広げ、メールを送ってみても届きはしない。分かってはいながらも時々こんな無駄な事をしてしまうのは寂しいから……だろうな。

P「手紙、書くか」

テーブルの上に置かれた冷めたコーヒーが今日の俺の相棒。
その日、俺は眠りにつく事を忘れて何十枚も書き直し続け、書き終えた時は既に朝になっていた。
毎回書き始めるとまとまるまで苦労するのだが、今回は今まで以上に苦労した。

P(……)

言いたいことが上手く伝えられない人の気持ちが良く分かる。もどかしいというか、気持ちが上手く固まらないんだよな。
心の中にたくさんの選択肢が広がり過ぎてどれを選べばいいか分からなくなるんだ。

仮眠を取ろうにも今寝たら確実に遅刻する。
取り敢えず朝風呂を浴び、適当に朝食を済ませて行く途中にあるポストに書き終えた手紙を投函し、誰もいない早朝の事務所へ向かう事にした。
早朝の事務所はいつも賑やかな雰囲気とはうって変わって穏やかな

P「流石にいないわな……みんな来るまで、寝るか……ふぁあ」

無事手紙を投函出来た事への安堵感が眠気を促進し、美希が良く使うソファーへとダイブ。
疲労塗れの意識を眠気と共に身を任せた。

110: 2012/05/17(木) 01:24:19.71
律子「プロデューサー! 起きなさいっ! 起きなさいったらぁ!」

P「んぁ……律子? どうした、朝からそんな形相で。皺寄るぞ……?」

ソファーに横たわってたせいか身体の節々が痛い。
身体を伸ばし、眠気を取る。律子が来たって事はそろそろ仕事しなきゃな。

律子「だまらっしゃい! 取り敢えず顔洗ってからこっち来なさい!」

P「ふぁあ……わかったよ」

台所まで行って顔を洗い、掛けられたタオルで顔を拭く。よし、大分眠気が取れた気がするぞ。

P「さてと、仕事でも始めますか」

律子「プロデューサー。仕事に入る前に聞かなきゃならないことがあるわ」

P「もしかして寝てた事か? 徹夜しちゃってさ、取り敢えず早く事務所来ておけば寝坊しないかなって」

律子「その心がけは良し……とは言わないけど、話はこれよ」

律子は一冊の雑誌を俺に手渡してきた。

P「これって……って、週刊誌?」

律子「ここの特集よ」

パラパラとページを開く律子。既に何度も読んでいるのかページが少し皺になっている。
律子の緊迫した表情が今から見せるページの重要性を物語っている気がする。

P「何だ……これ」

そこに書かれた記事は、徹夜までして手紙を書き終えた俺の達成感をぶち壊す内容であり、俺の眠気を覚ますには十分すぎる物だった。

『銀色の女王 四条貴音。熱愛発覚!! お相手はなんと、同社有名アイドルグループの天々瀬冬馬!?』

律子「これ、本当なの?」

P「……俺が知るわけないだろ」

律子「唯一765プロで貴音と連絡取れてるのアンタしかいないんだから何か知ってるんじゃないの?」

P「……」

知る筈も無かった。
今まで文通してきた内容の中でこんな事が書き記された内容なんて一通も無かった。
恐らく一緒にいるところをパパラッチに撮られただけのほんの些細な内容の筈なのに、どうしてこうも心が揺らぐのか。
暫く顔と顔を合わせて話もしていないせいか、この写真一枚に焦りと恐れが産まれる。

P(天々瀬ならあの貴姉も……って、俺は何を言ってるんだ)

邪念を振り払い、記事に目を通す。
どうもとある番組の撮影の日の翌日の写真らしい。都内から外れた一際人気のないマンションで二人が出ていくところを撮影したとかなんとか。
マンション? マンション? え?

律子「ちょ、ちょっとプロデューサー! 気をしっかり持って!」

P「お、おう……」

しかもその自宅マンションでの密会をここ最近数回にわたって行われている所をカメラは捉えていたらしく……バタッ。

律子「ちょっ、プロデューサー? 何気絶してんのよ、冗談でしょ? って本当に気絶してるしっ!!」

美希「おはようなのー! ……ってハニー!?」

律子「美希、プロデューサーをソファーに運ぶの手伝って!」

美希「良く分からないけど分かったの!」

111: 2012/05/17(木) 01:26:31.23
ここは、何処だ?
確か俺は事務所で寝てて律子に起こされて……そうだ、貴姉のスキャンダルを見たんだ。
何だろう、嘘だって確信はある筈なのに何処かそれを否定できない自分がいる。
俺に対して愛想尽いたのか。
ただの偶然なのか。
その答えは直接本人に聞いてみるしかない。

貴音『あなた、大丈夫ですか?』

何処からか現れた貴姉。その姿は何も変わり映えも無く、俺の知っている貴姉その人だった。

P「貴姉!? この記事、本当なのか!?」

貴音『あなたには会って直接お話ししたかったのですが、私……天々瀬冬馬と共にこれからの人生を歩んでいこうかと』

悲しそうに言う反面、これからの将来に希望を持っているかのような表情。
そんな目で俺を見るな。残念そうな目で俺を見るな……!!

P「おい、嘘だろ……冗談だろ……頼むよ、嘘って言ってよ」

貴音『時の流れとは残酷な物ですね………でも大丈夫ですよ、私は何時までもあなたの姉ですから』

貴音『いつまでも……いつまでも』

P「嫌だ、嘘だ……こんなの、絶対に嘘だ!!」



P「嘘だあああああああああああああああああああああああ!!!」



美希「は、ハニー!?」

律子「プロデューサー!!」

P「っは……!! ――夢、だったのか」

気が付くと再びベッドの上に居る俺がいた。
心配そうな表情で覗き込む律子と美希。どうやらあの記事を読んで気絶して、二人に介抱されてたみたいだ。
なんと情けない……。こんな姿、みんなに見られてたら溜まったもんじゃないぞ。

美希「ハニー。大丈夫……?」

P「あぁ、美希。ありがとな。律子も心配かけたみたいで悪いな」

律子「私の事は別にいいけど……こっちの事はこのままじゃ駄目でしょ」

P「さっき、夢の中で貴姉が天々瀬と婚約する夢を見た」

美希(ミキ的には理想の展開だけど、あの記事読んで気絶する位ショックだったって事はそれほど貴音はハニーに思われてるんだね……悔しいなぁ)

P「現実じゃ、無いよな……?」

律子「現実じゃないわよ。てか、現実になってたまるもんですか」

美希「ハニー。それが現実になるかどうかはこれからのハニー次第だって、ミキは思うな」

律子「美希……」

美希「ミキ、正直このままハニーには貴音の事忘れて欲しいよ。でもね、それが駄目だっていうの分かってるんだ。ハニーが傷ついて、ハニーがミキを選んでくれるとも思わないし、そんな事で選ばれても嬉しくないの」

美希「だからハニー。もう良いんじゃないかな、貴音を迎えに行ってあげても」

美希「いい加減ハニーが貴音を捕まえてあげないと、愛想尽かせて逃げちゃうよ?」

P「美希」

美希「何? ハニー」

P「……お前、ちゃんと成長してるんだな」

美希「当たり前なの! でも、もし貴音に振られたりでもしたらその時はミキが慰めてあげるから」

律子「何ちゃっかりアピールしてるのよ。ったく……プロデューサー。善は急げよ。貴音に会いに行く準備しなさい」

112: 2012/05/17(木) 01:28:38.19
P「会いに行くって……俺、貴姉のスケジュールとか居場所とか知らないぞ」

律子「そりゃあ私だってそうよ。でも、ちょいマチ」カタカタカタ

美希「律子、さん?」

P「何やってるんだ?」

律子「んー? 何って、ハッキング?」

P「」

美希「何それ?」

律子「おおざっぱに言ってしまうと情報を盗んでるってところねー。お、見っけ見っけ」

P「何処だ!?」

律子「ちょっ、近いって……。今日は収録が2件あるみたいね。同じ放送局みたい。時間的に直帰ねこりゃ。狙うなら帰り際か……」

美希「律子、さん何かストーカーみたいなの……」

律子「だーれーがストーカーじゃー! で、どうすんのよプロデューサー」

P「どうするって……決まってんだろ。――待ち伏せだ」

美希「ハニーも言動がストーカーみたいだね……」

P「俺はストーカーじゃないぞ! ただ貴姉に会いたいだけだ」

美希(狂信的なファンが言いそうな台詞と何ら変わらないの……)

P「って事で律子。俺今日営業無いから俺の事務仕事頼んだ」

律子「えーっ!? そりゃないわよ……私だって竜宮小町の仕事あるのに」

P「其処を何とかお願いしますよ。センパイ」

律子「こういう時だけ後輩面するのね……まぁ、良いわ。私も気になるし、協力するわ。でも貸し一つだかんね」

P「分かってる分かってる。助かるよ、律子」

美希「ハニー、ミキもミキに出来る事あるなら協力するから!」

P「ありがとな、美希。……あと、俺みたいなやつ好きになってくれてありがとな」

美希「うぅん、いってらっしゃい。ハニー」

ガチャッ

美希「行っちゃった、か」

律子「ん……ちょっとまて? 別に終わる時間帯に行けば良いんじゃ? ア・イ・ツぅうぅぅぅぅ逃げたなぁー!!!」

美希「律子、さん。大目に見てあげて欲しいの。今日だけは」

113: 2012/05/17(木) 01:30:31.13
P「律子に仕事押し付け出来たしこれで貴姉がいつ出てきても怖くないぜ」

安いセットに付いてきたコーヒーを飲みながら向かい側の放送局が見れる位置に座る。
ウォークマンのイヤホンを耳に付け、貴姉の歌う曲のメドレーを耳に流す。
こうして聴いてみるとやっぱりいい声だな。当の本人の声は最近聞けてないんだけども。

~1時間後~

P「ユメノーナカデマーター」ボソボソ

~2時間後~

P「カァーザァーハーナー」ボソボソ

~3時間後~

P「zzz……」

???「おい、そこのあんた」

P「zzz……貴姉ぇ……」

???「おい、あんただよあんた!」ユラユラ

P「んぁ……って俺、寝てたのか!?」

???「疲れてんのは分かるけどよ、せめて涎は拭いた方が良いと思うぜ。おっさん」

P「おっさんってお前、失礼だぞ! 俺はまだ未成年だ!」

???「……」

P「ん? どっかで見た事あるような……あぁ!!?? 天々瀬冬馬ぁ!?」

冬馬「ばっ!? 馬鹿っ、声でけぇよ馬鹿!」

P「す、すまん……つい」

冬馬「いや、気にしてねーよ。隣いいか?」

P「あ、あぁ」

時計を見るとまだ律子が教えてくれた撮影時間内だった。
一日ファーストフード店で寝てて貴姉と会えなかったなんて律子に報告なんてしたら命がいくつあっても足りない。
そして隣に座る天々瀬冬馬。人気絶頂のアイドルグループ「ジュピター」の彼がこんなところに居るなんて……偶然か?。

P「で、何だそのオタクっぽい恰好は」

冬馬「し、失礼だなあんた! 服は着れれば何でもいいんだよ俺は!」

何ていうかその……アニメのキャラクターのTシャツとポロシャツを羽織ってる天々瀬冬馬。
黒縁のメガネを掛け、帽子を深くかぶっているにも関わらず彼が天々瀬冬馬だって見抜けたのは朝見た週刊誌の影響だろうか。
それにしてもこの姿はなんとも奇妙と言うか何というか……。

P「ただのカッコいいオタクにしか見えない……」

冬馬「それって褒めてるのか……?」

P「いや全然」

冬馬「……」

P「……」

P(なんでこいつがここにいるんだよ)

114: 2012/05/17(木) 01:32:23.24
冬馬「あんた、765プロのプロデューサーだろ? もう一人のプロデューサーの方にアンタがここにいるって聞いてな」

P(律子が……?)

P「放送局で数回顔合した程度なのによく覚えてたな」

冬馬「芸能界に所属してる奴の顔は大体記憶するようにしてるからな。それにライバル事務所なら尚更だ。……で、ここにアンタがいるって事はあの週刊誌の記事読んだんだろ?」

P「……あぁ」

冬馬「どうだ? 俺の事、殴りたいか?」

P「最初は気絶するほど驚いたさ。けど君みたいなやつに貴姉が惚れる訳がないって今この場で確信した。殴る必要も無いわ」

冬馬「スゲェなあんた。俺があんたの立場なら四の五の言わずに殴りかかってるぜ」

P「アイドルが軽々しく問題沙汰起こすようなことするなよ」

冬馬「あんたの立場だったら、って話なだけだ。自分の立場位わきまえてるっての」

そう言いながら天々瀬は冷えたドリンクのストローに口を付け、静かに吸う。ストローから透けて見えるドリンクの色から見るに、中身はメロンソーダか。子供っぽいな。

冬馬「何だよ。メロンソーダ美味いだろ」

P「意外と子供っぽい所もあるんだな、君。……で、君がここで呑気にハンバーガーセットを食べてるのは偶々か?」

冬馬「いんや、違うぜ。ある人からあんたに伝えなきゃいけない事があってな」

P「ある人……? 貴姉か?」

冬馬「残念だが……うちの社長からだ」

P「――黒井社長から?」

冬馬「あぁ。本当はオッサンがアンタに伝えるはずだったんだけどな。あの記事の誤解も解きたくて俺が代わりに出向いたって訳さ」

P「成程、な。じゃあまず先にあの週刊誌の記事についての真相を教えてくれよ」

冬馬「あぁ。順を追って話していく。まず先にアンタが今いった週刊誌の件についてだ。今、四条貴音は961プロが用意したマンションに身を寄せてる。俺も実は近所でな。ちらほら近所で買い物してるところを見かけてはいたんだが、アイツ何を買ってたと思う?」

P「……ラーメン?」

冬馬「流石幼馴染は伊達じゃないな。爆ぜろリア充。……で、アイツがカップラーメン五種をダンボールで纏めて買おうとしてるところを見た俺は流石に制止した」

P(何か今爆ぜろとか言われたんだけど……最近のアイドル怖い)

冬馬「流石にアイドルが朝昼夜カップラーメンとかヤバいと思った俺はアイツに暫くの間手料理を振る舞う事にした。おせっかいって奴だな」

冬馬「作っては駄目だしされの連続だったがな。『あの方の料理の方が美味しいです』とか『あの方の味付けの方が私好みです』とか。だったらソイツに作って貰え、ってキレたらよ……アイツ悲しい顔して箸止めるんだよ」

冬馬「まぁ、暫く俺が料理作ってやって、765プロの話とかアンタの話とか聞く相談役として俺はアイツとよくつるんでた。ただそれだけだ」

P(ほっとしたようなしてないような……)

冬馬「そこで帰り際にあの写真を撮られた。あれは迂闊だったぜ……。もっと気ィ使ってればあんななことにはならなかったんだがな」

P「あんなこと?」

冬馬「それが次の内容だ。あの写真を撮ったのは、アンタが以前アイツと同棲してた頃の写真を撮った奴と全く同じ奴だ」

115: 2012/05/17(木) 01:33:43.45
P「……何だって?」

冬馬「奴は疑問に思ったんだよ。あんな大スクープを目の前にしてマスコミに公表する事もせず、ましてや四条貴音を自分の事務所に引き入れ、自分自身のパパラッチとしての活動に制限を付けられたことに」

P「制限? 黒井社長がそのパパラッチからあの写真を買収して俺らの関係をマスコミからばらさない様に取り計らってくれたのは知ってるが……活動に制限ってなんだよ」

冬馬「マスコミに多大な影響力を持つ961プロが圧力を掛けたんだ。あのパパラッチの持つ情報に関しては一切取り計らうな、ってな」

P「どうしてそこまで……」

冬馬「さぁな。黒井のオッサンの考える事なんか俺には知ったこっちゃない。オッサンの圧力も成功し、そのパパラッチも活動には収まりが付いてきたと思ってた矢先にこれだ。しびれを切らした奴は強硬手段に出た」

冬馬「流石に週刊誌もこれ以上圧力に屈するか、とか思ったんだろうな。人気絶頂のアイドルグループ、ジュピターの天々瀬冬馬と移籍したばかりの期待の新人アイドル、四条貴音。この二人が組み合わさったネタには流石に食いつきを我慢できなかったんだろう」

P「成程な……。そういう意図があったのか」

冬馬「この一件は俺が原因でもある。アンタには面と向かって詫びを入れたかった。本当に、すまねぇ」

P「いや、君が貴姉に飯を作ってあげてなかったら多分まともな食事が取れてなかったと思う。逆に助かったよ。飯に関しては移籍してからずっと気がかりでさ」

冬馬「意外と過保護なんだな。アンタ」

P「いや、そうせざるを得ないんだよ……。食べ物に関しては自制出来ない人だから」

冬馬「分かるぜ、その気持ち……」

P「ふふふ」

冬馬「あはは」

P・冬馬「何だ、君(あんた)良い奴じゃないか」

P「で、これからの話だな」

冬馬「世に流れちまった情報をこれ以上隠ぺいするわけにもいかねぇ。事実を否定して暫く様子を見るしかねぇな」

P「――いや、それじゃ駄目だ」

冬馬「ん? どうしたいきなり……」

P「結局パパラッチに目を付けられた以上この件が終わったとしても今後色々と嗅ぎまわされるだろう。だったら……」

冬馬「だったら?」

P「天々瀬……いや、冬馬。男同士の頼みがあるんだ」

冬馬「ま、まぁ……あんたには色々と迷惑掛けちまったみたいだし。俺に出来る事なら協力してやるよ」

P「耳を貸してくれ」ゴニョゴニョゴニョ…

冬馬「アンタ……すげぇな!! 俺もその話、乗らせてもらうぜ」

こうして俺は天々瀬冬馬という強力な助っ人を得た事により、一世一代の暴挙に出る事を決意する。

124: 2012/05/26(土) 10:27:18.16
冬馬から得た情報を元に、まず先に律子が得た今日の貴姉のスケジュールと照らし合わせ、間違いないか確認。
間違いは無い。この情報が一番重要だったりする。ここで冬馬の助力は大きかった。
収録が押さなければあと数時間で貴姉は放送局から出てくるだろう。
それはその前に一つの準備をしなければならない。
先ずは協力者である律子に電話だ。

P「律子、今事務所か?」

律子『えぇ、いますけど?』

P「もしかして……怒ってらっしゃりますか?」

律子『えぇ、そりゃもう。と、言うかあんた。収録終了予定時刻に行って待機してればいいじゃない! 何よこの量!』

P「悪い悪い。何か溜まっててさ。で、ちょっと協力してほしいんだ」

律子『何よ!! これ以上何を協力させようとするのよ!!』

P「頼むからヒステリックにならないでくれ……」

律子『だ~れ~のせ~い~よ~!!』

P「俺です。で、だな……」

律子『スルーかいっ!!』

P「今朝俺に見せた週刊誌あっただろ?」

律子『えぇ。あったわね。どっかの誰かさんが気絶したやつ』

P「それはもう忘れろ……忘れてくださいお願いします。でだな、あの記事書いたの――何時ぞやかの俺と貴姉のスクープ写真撮ったパパラッチらしいんだ」

律子『………何ですって?』

P「961プロのジュピター、天々瀬冬馬から聞いた。裏で色々と動いてたところを黒井社長が圧力かけてくれてたみたいなんだ」

律子『え!? あのウィウィ五月蝿くていけ好かない社長が!?』

P「何じゃそりゃ……。その圧力を振り切ってそのパパラッチと週刊誌が組んであの記事を出した、と」

律子『それが事の真相ってわけね。で、私はどうすればいいの?』

P「いい案を出してくれ」

律子『はぁっ!? あんた考えも無しに出てきたの!?』

P「いや考えてたんだけど……何かこんな状況下で本当にこれでいいのか考えてみると不安でさ」

律子『ったく……あんたって人は、ってちょっ、美希!?』

美希『あっ、ハニー? ミキだよ』

P「美希か、どうした?」

美希『ミキね、すっごい良いアイデア浮かんだの!! 貴音も……ハニーも、巻き込まれたジュピターの人も、765プロのみんなも幸せになれるスッゴイアイデア!!』

P「……一応話を聞こう」

125: 2012/05/26(土) 10:28:27.34
律子「美希、あんたあれで本当に良かったの?」

電話を終えた美希に問う。
明らかに美希にとってはメリットが無く、寧ろこれからの芸能人生を棒に振る計画内容だった。プロデューサーも反対する声は受話器から聞こえてたが美希が頑なに譲らず、プロデューサーが結局折れる形となった。

美希「確かにファンのみんなからしたら良いようには聞こえないかもしれないし、これでミキのファン辞めちゃう人も出てくるだろうけど」

美希「今のハニーにミキが出来る事ってこれくらいだしね。それにこの程度でお仕事辞めさせられるほど今のミキは弱っちくないよ?」

律子「……あんたがあいつの力になる為に選択したのなら無理には止めないわ。でも、もし失敗したらそん時は私がなんとかするから」

美希「気持ちだけ受け取っておくの。……じゃあミキはミキで準備始めるから、律子、さんもよろしくね!」

律子「分かってるわよ」

美希と分かれ、私は目的地へと車を走らせる。
既に手筈を整え、あとは実行に移すのみ。食いつくか食いつかないか。いや……食いつくはずだ。
それにしてもよく考えたものね、あの馬鹿。
あんな思いっきりがあった方がもっと楽しく生きれるのかしら。

律子「恋は人を変える、とでもいうのかしらねぇ。……今度涼で試してみようかしら」

試すだけでわかるものならとっくにやってるか。

律子「さて…………ここね。待ち合わせ場所は」

美希が立てた作戦の後、私は例のパパラッチのアドレスを手に入れた(あんな手やこんな手を使ってね)
その後、得た宛先にこんなメールを送りつける。


-------------------------------
[件名:情報提供]
本文:
あなたに渡したい情報があります。
961の例の情報を流した今、この情報があれば波に乗れるのではないかと。
勿論、疑う気持ちもわかります。けれど、お互いに利害が一致する物だと思いますよ。
是非一度、お会いしたいです。
本日6時。喫茶店〇〇でお待ちしてます。

秋月律子

-------------------------------


あのパパラッチの事だ。既に私の事も知っているだろう。
こんな目的も分からない、そんなに価値のある情報なのか分からない物に釣られるかどうか正直言うと分からない。
けれど、情報と事実を食い扶持としている職業相手に情報をチラつかされて興味が湧かないとは否定しがたい。
メールに対しての返信は来なかったが、取り敢えず私は待ち合わせの喫茶店で待機する。

126: 2012/05/26(土) 10:29:56.68
――そして約束の時間になる。
辺りを見てもそう思わしき人物は居ない。時間にはルーズな私からしたら遅刻なんてものは許されるものじゃない。
駆け出しのアイドル時代の美希には相当迷惑を掛けられたものだ。
そんな事を、コーヒーを口に運びながら思っていると黒いハンチング帽を被った中年の男が私の向かい側の空いている席に座ってきた。

パパラッチ「よう、あんたがメールくれた秋月さんだな? こうして間近で見るのは初めてだ」

律子「返事も寄越さず、待たせるとはいい度胸ね」

パパラッチ「どうせアンタは俺が来るまでここで待ってる予定だったんだろ? すぐにでも帰るようなら俺はあんたを信用しなかった。その程度の情報か、ってな」

律子(危なかった……これ飲み干したら帰るところだったわ)

律子「先に聞いておきたい事があるわ。どうして最初の貴音のスクープを記事にしないで961に売ったの?」

パパラッチ「そっちの方が金になると踏んだからだ。961は765に只ならぬ因縁があるみたいだったしな。こっちもいつものギャラよりたんまり儲けさせてもらったよ」

パパラッチ「まぁ、その後あそこまで仕事を妨害されるとは思ってもいなかったがな。そのスクープで得た金もパチンコで爆ぜちまったし、こっちも情報(ネタ)で生きてる身でね」

律子(……)

パパラッチ「で、がっつくようで悪いがその情報とやらは何だ?」

律子「明け渡す前に条件があるわ」

パパラッチ「ほう……? 一応聞いておこうか。分け前の話なら――」

律子「そんなものいらないわ。あんたらみたいな手段で金稼ぎなんて私はごめんよ。この情報を記事でもなんでも取り上げてくれればいいわ」

パパラッチ「こりゃ失敬。まぁ仮にも商売敵だしな。けど有難く頂戴しておこうか」

律子「情報と言うのは……あなたが以前撮影したプロデューサーの事よ」

パパラッチ「ほぅ……今度は仕事仲間を売るのか」

律子「人聞き悪いわね。私は真実を述べるだけよ? ――彼、星井美希に結婚を申し込まれたのよ」

パパラッチ「……は?」

律子「言葉のとおりよ。事務所で星井美希は彼に対して執拗なアプローチを掛けているし、何より本人が言った程だしね。それとこの写真を見て貰えれば理解してもらえると思うわ」

以前事務所内で撮った写真がこんな形で活かされるとは。
確かに赤の他人から見てもこれはそう思わざるを得ない光景だ。只でさえこの写真を撮った時の他のアイドルたちの表情が険しくなってたのを私は知ってる。
あの場に貴音が居たら非常に怪しい事になっていただろう。

パパラッチ「こりゃぁまたとんでもないネタを……。こんな情報、出所バレるレベルだぞ」

律子「いいのよ別に。私以外にもこの情報流そうと考えてる子なんていくらでもいるしね」

パパラッチ「どうしてこんな情報を?」

律子「こっちが必氏に仕事熟してるのにあの二人が事務所でいちゃこらしてるなんてあんたどう思う? こっちだってねぇ……出会いも無く、仕事が恋人ですって言うのが当たり前だと思われるくらい仕事してんのよ!? リア充爆氏しろって感じよまったく!!」

律子「それにまんざらでもないみたいだしね、アイツ!! 貴音とのスクープあんたに撮られて次は美希かよこんちきしょー!!!!」ドンッ

パパラッチ「あんたは居酒屋で酔ったいきおくれか……」

律子「んなわけでよろしくね。良い記事を期待してるわ」

パパラッチ「明日のスポーツ紙一面をこれで飾ってやるよ。じゃあな、嬢ちゃん。まだまだ若いんだから婚期、逃すなよ?」

律子「うっさいわ!! あ、お勘定あんたが持ってよね。遅れた罰よ」

これで種は植え付けた。
後はこれがどう咲かすか。咲かした後の彼の行動が上手く行くかですべてが決まるだろう。私が出来る事は此処まで。
あとは彼がどうにかしてくれるだろう。如何にかしなければぶっ飛ばす!

律子(頑張りなさいよ、プロデューサー!)

127: 2012/05/26(土) 10:32:18.30

冬馬と別れ、俺は必要な物を揃え時を待った。
今になって思えばもう少しマシな考えがあったんじゃないか? どうしてこんな馬鹿な事してんだ? と心の中で疑問が生まれ、後悔に変わる。
けれど、今となっては後には引けない。

P(もう少し冷静になって考えればよかったああああ)

……それでもやっぱり引きたい時はある。

P「冬馬にも言っちまったしなぁ……。腹を括るしかない」

この18年間、強請る事無く必要最低限の物だけで生き、大きな欲も持たなかった俺が初めて感じたこの欲望。――みすみす失いたくない。あの時の様に。
そして放送局から貴姉が現れる。
傍に付き添いやマネージャーが居ない辺り心配だが、その心配もすぐに消える。
貴姉がドアを開け、座席に静かに座る。

貴音「自宅までお願いいたします」

P「……」

貴音「……?」

特に言葉を交わすことなく、俺は車を出す。
そう、冬馬に協力を依頼したのは961プロの車を借りる為だった。多分、面と向かって連れて行こうとしても気まずい雰囲気になるだけだし。
暫く車を動かしていると貴姉が住むマンションとは違う方向に向かっている事に流石の貴姉も気付いた。
ルームミラーからわずかに見える表情から感じ取っただけだが、貴姉は口にしなかった。
そして、目的地へと辿り着く。

P「ここに来たのも久しぶりだな……貴姉が961に移籍する前に来た時以来だ」

貴姉が『くに』と称した星の見える丘。

貴音「矢張り……あなたでしたか」

P「こうでもしなきゃ、ついてきてくれないだろ?」

貴音「私は高みを目指す身。今は現を抜かしている時ではないのです。車を戻してください」

P「やだよ」

貴音「何故です……」

P「外、出ようか」ガチャッ

貴音「……」ガチャッ

P「綺麗だなぁ……相変わらずここの景色は」

貴音「――えぇ」

P「俺さ、貴姉が冬馬とのツーショット撮られた記事見た時気絶する位焦ってさ」

P「内心揺らいでたんだよ。もしかしたら本当に冬馬に惚れてるんじゃないかって」

貴音「彼は――私の世話を焼いてくださっただけです。私の、大切な仲間です」

P「知ってる。良い奴だよな、アイツ。少ししか喋ってないけど」

貴音「どうせここへ連れてきたのも冬馬の力を借りたのでしょう?」

P「何故バレた」

貴音「あなたが車を強奪できるほどの根性を持ってない事は百も承知です」

P「そもそもそんな事したら捕まるわ!」

貴音「ふふっ」

P「あっ、やっと笑ってくれたな。テレビ局ですれ違った時はロボットみたいな顔してたのに」

貴音「……」


128: 2012/05/26(土) 10:35:15.16
P「そう言えばさ、前に行ったよな? 『俺の心を奪って見せろ』って。Sランクアイドルになった今でも、その気持ちはまだ持ってくれてるのか……?」

貴音「――当たり前です。あの時の言葉、あの時の気持ちは今でも鮮明に覚えています。その気持ちを胸に今日まで走り続けてきたのですから」

P「でも、走り過ぎて俺から離れるのもどうかと思う」

貴音「一周してあなたに追いつこうと考えたのですよ、私は」

P「俺だって追いつこうと前に進んでるんだ。これ以上続ければ一生会うことは無いかもしれないってな」

P「それに、心なんてとっくに奪われてるんだよ、俺」

貴音「あなた……」

P「だからと言って俺は走るのを止める訳じゃないぞ? ……スピードを貴姉に合わせる為に俺はここに来たんだ。これ以上離れてったら俺の心が消えちまうって思ってな。……何こんなクサい台詞言ってんだろ、俺」

P「961でトップアイドルになったんだ。次は765でトップアイドルに俺が導かせて欲しい。だから――」

貴音「その必要はありません」

P「……は?」

貴音「本日限りで私はアイドル業と共に961プロを卒業させていただきましたから」

P「……え、ちょ? 卒業――っておいっ!?」

貴音「明日からは女優業に専念したいと思いまして」

P「ど、どうしていきなりっ!? 少しは俺に相談しても――」

貴音「自分で決めた道です。進むべき道は常に自分で選びとってきましたから。黒井殿もしぶしぶ了承してくださいましたし」

貴音「次は女優業で私をトップまで導いてくれるのでしょう……? あなた」

P「何ていうかまぁ……相変わらず自由奔放だな、貴姉って」

貴音「それが私の売りでもあります。ふふっ」

P「ったく……。まぁいいや。貴姉はどっちかというとアイドルより女優業向きな気は前々からしてたし」

貴音「そうですか?」

P「あぁ、そうだよ。歌とかダンスとか頻繁に見れなくなるのは少し悲しいが、やっぱり演技力の方が勝ってる気がする。そっちの方がもっと輝けるんじゃないかなって前々から少し思ってた」

貴音「……照れますね。特にあなたに言われると」

P「それとさ」

貴音「……? 何ですか?」




P「結婚、しようか?」




130: 2012/05/26(土) 10:36:43.20
貴音「……」

貴音「………」

貴音「…………えっ?」

P「だって俺、もう18歳なったし」

P「女優業に専念するならまたファン層も変わってくるだろうし、結婚しても問題ないかなーとか……いや、問題ではあるんだけどさ」

P「って、なんで泣いてるんだよ」

貴音「うぐっ……うっ…………」ダキッ

P「た、貴姉?」

貴音「ようやく………………ようやく、叶いましたっ」

貴音「もう、離れなくてもいいのですよね?」

P「あぁ。けど、大変なのはこれからだぞ? 周りからバッシングやら報道やら、最悪仕事が来なくなるかもしれない。それでも俺と一緒に結婚してくれるのか?」

貴音「一度は頂点を取った身。もしこれからも仕事が出来ないのでしたら別の仕事で頂点を取るのみです。……その時はあなたも手伝ってくださるのでしょう?」

P「まぁ、そうだけどさ」

P「けどそんな事はさせない。貴姉には貴姉にふさわしい場所がちゃんとあるんだ。俺がもっと輝かせてやる」ギュッ

P「……これからはずっと一緒にいて欲しい。だから、俺と結婚してくれ」

貴音「……喜んでっ、お受けいたします」

P「それとこれ、指輪。サイズは合うと……思う。あんまり自信ないけど。何か、渡すタイミング間違えたのは気にするな」

貴音「まぁ……安月給のあなたでも買える指輪があったのですね」ニコッ

P「どっかの誰かさんとは違って貯蓄の心得はあるんだよ! いらないなら返せっ」

貴音「いーやーですっ。……これから一生、肌身離さず付けますので」

銀色の指輪の輝きはまるでこの人の為だけに作られたような、そんな輝きを見せていた。
一世一代の大告白はあっけなく成功に終わり、俺達のこれからの未来に硬い約束を結びつけた。
……けれど、まだ最後の〆が残っている。
俺達の間の問題が解決した今、残る問題はマスコミや世間に対する問題のみ。
暫く二人星空を見上げ寄り添った後、俺と貴姉は一度765プロの事務所へと戻る事にした。

131: 2012/05/26(土) 10:39:09.27
高木「どういうことだいぃぃ君ぃいい!!」

P「社長、ホントすいませんッ!!!」

高木「もう少し私を頼ってくれてもいいじゃないかぁぁ!!」

P「首でもなんでも覚悟……ってはい?」

高木「我々も随分と君達の恋路を邪魔してしまったみたいだしねぇ……。私に出来る事があるならどんどん頼ってくれたまえ!」

P「じゃあ首にしないで貰えるとうれしいです」

高木「分かった!!!!」

P(テンション高っ!?)

高木「いやぁ……それにまた四条君がうちに戻ってきてくれるとは感無量だよ!」

貴音「私も高木殿とまた一緒に仕事出来るとは光栄です」

事務所に戻ると、夜遅くにも関わらず765プロ所属アイドル一同が勢揃いしていた。
料理や飲み物が机に並べられ、壁一面の装飾と共に出迎えてくれたアイドル達は祝福の意を示していた。
響は鼻水を垂らし、泣きじゃくりながら貴姉の胸へと飛び込み、そんな響を横から弄る亜美と真美。他のみんなも久しぶりの再会に心を躍らせていたようだ。
そんな喜びの空間を横から避け、窓際にいる律子の下へ歩み寄る。

P「律子」

律子「あ、プロデューサー。お帰りなさい」

P「どうだった?」

律子「あの調子だと明日の記事の一面は飾れるんじゃないかしら。後で調べてみたらあのパパラッチ、結構な借金背負ってるみたいでね。961プロから貰ったお金も底を突いたみたいだし」

P「そうか。事務所に影響来なきゃ良いんだがな……」

律子「何言ってんのよ。来るに決まってんでしょ。それに、ここの全員がそれを望んだのよ」

P「へ?」

律子「あんたが貴音を連れ戻す為に今単身で動いてる、って言ったらあの子たちも協力するって聞かなくなってね。流石に結婚うんぬんかんぬんの事はまだ言ってないけど……どうだった? 成功したの?」ヒソヒソ

P「あぁ、おかげさまで」ドヤァ

律子「あ、何か今凄いムカッと来た。今世紀一ムカッと来た」

P「これも律子先輩のおかげですよ」

律子「それはおだてた内に入らないわよ……。まぁ何がともあれ肝心な部分は成功したようで何よりね。フラれてたら可愛いアイドル達がアンタを慰めてくれただろうに」

P「もう俺だけのアイドルが居るから問題ない」キリッ

律子「うわぁ殴りたい。酒でも飲んで殴りたい。無性に殴りたい!」

美希「ハニー! それに律子、さん。何か律子、さんの顔怖いけどハニー何かしたの?」

P「お、美希か。まぁ……律子も頑張ってくれたんだって話をだな」

律子「おいその憐れむ目止めなさい。それに誰の助けがあって上手く行ったと思ってるのよ~!」

P「……冬馬?」

P「りづござんでつ」←ぼこぼこにされた。

律子「分かればいいのよ分かれば。一か月昼飯おごりだかんね」

132: 2012/05/26(土) 10:40:35.71
美希「で、ハニー。肝心のプロポーズは?」

P「……美希のおかげだ。ちゃんと言えたよ。良い返事ももらえた」

美希「そっか……。おめでとっ、ハニー! もし貴音に飽きたらミキの所に来てもいいからねっ」

P「あぁ、ありがとな。美希。それと、俺はこれからお前に凄い迷惑をかけるかもしれない」

美希「うん、わかってるよ。それに美希が望んでやった事だから負い目に感じないで? ハニーにはありのままのハニーで居て欲しいからっ☆」

美希「それに折角貴音も帰ってきておめでたい雰囲気なんだから今のうちにさっさと報告しちゃいなよ、ハニー!」

P「お、おう! 何か緊張すんなぁ……」

P「みんな……集まってくれー!」

真美「何々兄ちゃん? 一発芸でもやってくれるん?」

亜美「まじで→? 亜美期待しちゃうよぉ?」

真「亜美、真美。プロデューサー困ってるって」

千早「多分重要な事よ。ちゃんと聞いてあげて」

貴音「えぇ、まこと重要な話を皆には伝えなければなりません」

響「やっと貴音が戻ってきたのにぃー!」

雪歩「これからの事かな……?」

皆の視線が俺と貴姉へと集まっていく。
貴姉にプロポーズした時より緊張するのはやっぱり、恥ずかしいからだよなぁ……。
若干頬を赤く染めている貴姉が隣で俺の袖を掴んでいる。可愛い。
俺も男だ、はっきりと伝えるべきことは伝えなくては! 同じ事務所の仲間なんだし。

P「えー……、まぁみんな知っての通り貴姉は961プロから戻ってきたと同時にアイドルを引退する事になったわけだが」

P「今後は女優業として売っていく方針が決まった。みんな、宜しく頼むな!」

やよい「えー!? 貴音さんアイドル辞めちゃうんですかぁ!?」

伊織「まぁ皆がずっとアイドルやっていくって訳でもないしね。それに女優業でも貴音は輝けるわよ」

あずさ「一緒にステージに立つ機会も無くなるのは寂しいわねぇ」

春香「芸能界辞めるって訳じゃないんですからもっと明るくしましょうよっ!」

一同「あはは!」

貴音(……伝えるべきことを聊か間違えている気がするのですが?)ガシガシ

P(止めて。ヒールで足踏むの止めて痛いごめんなさい肝心なところでビビりでごめんなさい!)

P「それと、だな……」

美希(頑張れ、ハニー!)

P「えっと、そのですね。俺と、貴姉……結婚する事にしたんだ」

春香「」

千早「」

雪歩「」

133: 2012/05/26(土) 10:42:22.38
真「えっ、プロデューサー結婚するんですか!? しかも相手は貴音ぇ!? お、おめでとうございますっ!!」

あずさ「あらあらぁ~御めでたいですねぇ!」

小鳥「ピヨヨ……先を越されました」カベナグリ

やよい「うっうー! おめでたですー!」

響「本当なのか!? 貴音?」

貴音「えぇ。もう弟と姉のような関係とはおさらばです」

響「二人共おめでとおおおおおおおおおおおおお!! プロデューサー、浮気は許さないからな!!」

P「あ、ありがとな響。それと俺は浮気する程甲斐性無しじゃないぞ」

春香「エ、ウソデショ」

千早「ウソジャナイミタイ」

雪歩「アナァ……アナァ」

真美「ねぇ、亜美」

亜美「うん。真美」

真美「失恋って怖いね」

亜美「亜美はまだ子供でいいかなー」

伊織「あんたら能天気ね……。あそこの三人は当分立ち直れそうになさそうだし」

真「まぁ慕ってただけにねぇ……ショックだったんだね。よしよし、雪歩」

真美「で、兄ちゃん」

P「何だ、真美?」

真美「確かにめでたいのは分かるけどさ、これからどうするの? マスコミとかさ~」

P「おう、それを今から話す」

亜美「なーんか嫌な予感と言うか何というか……」

P「明日、マスコミに向けて記者会見を開く」

伊織「でしょうね。でも、この前のスクープと言い今日の週刊誌の記事の問題とかはどうするのよ」

P「それも考えてはある。先に伝えると、恐らく明日のスポーツ紙一面に俺に美希が抱き着いている写真が大々的に載るだろう」

響「ちょっ、プロデューサー!! 言った傍から不倫かよっ!!」

真「女たらしですね……」

P「いや、そういう事じゃなくてだな……。あのパパラッチに一度ぎゃふんと言わせたいんだよ」

134: 2012/05/26(土) 10:43:23.57
伊織「確か……961プロが圧力掛けてたっていう、あのパパラッチの事?」

P「そうだ。今日の週刊誌の記事を書けたのは貴姉……いや、貴音と冬馬の話題性を知っててなお、そのスクープをみすみす逃すわけにはいかないって事で961プロの圧力を無視して強引に刊行したみたいなんだ」

P「そこで律子に頼んでそのパパラッチに情報を流した」

真美「う→ん、どうしてわざわざそのペペロンチーノに情報渡あげちゃうわけ?」

P「パパラッチな。週刊誌の記事なんて大抵良い印象を持たせる記事は無い。芸能人の恋愛だとか、不倫だとか。一般人じゃ到底お目にかかれない情報を流すからこそ、存在意義がある」

P「その手を逆手にとって逆に利用させてもらうのさ。散々迷惑掛けさせられたんだ。これくらいしても誰も文句は言えない」

伊織「で、その美希とあんたがいちゃこらしてる写真ってどんなのよ?」

律子「これよ」ササッ

亜美「あぁー……あれかぁ」

真美「お姫ちんの顔が阿修羅みたいになってるよぉ……」

貴音「あなた、あとでお話を」

P「う、ぅぅ……まぁ、弁解は後にして。この写真を流す事でどんな印象が生まれると思う? 伊織」

伊織「あんたが女たらしで駄目な変態野郎って印象ね。ファンからしたら好きなアイドルに手を出すプロデューサーなんて氏刑確実よ」

P「グサッ、と今のは来た……が、そう思われるだろう。美希にいる場所がもし音無さんに代わってたらパパラッチも何にも興味は持たないだろ?」

小鳥「何ででしょうね……今のはグサッと来ましたよ」

P「Sランクアイドルの美希だからこそ、話題性が生まれる。アイドルとプロデューサーの関係は仕事のパートナーとしてだけで十分なはずだ。ファンからしたらな。それを俺が独り占めしてるとなるとファンはどう思う?」

亜美「ずばばーっと首飛ばしに事務所に乗り込んでくる~!」

P「あり得るから怖い」

伊織「そもそもアンタ、貴音とくっ付いてる時点でアウトなのに、其処に美希も追加してるなんてバレたら芸能界で生きて行けるわけないじゃない。どうしてわざわざそんな氏にに行くようなことを……」

P「ここからが正念場なんだ。あのパパラッチはさっきも言った通りあの写真と律子の発言から記事を書くだろう。Sランクアイドル、星井美希! 事務所のプロデューサーと熱愛発覚!?ってな」

P「そこで俺らは記者会見を開くとさっき俺は言ったな? でもただの記者会見じゃない」

やよい「何か凄い事でもするんですか?」

P「あぁ、名付けて! 『結婚記者会見』だ!!」

春香「」

千早「」

雪歩「」

135: 2012/05/26(土) 10:44:47.48
律子(追い打ちをかけるようにずばずばと言うわね……。いっその事今日呼ばない方がこの子たちの為だったかも)

美希「企画者はミキだよ! この前のお仕事で式場の宣伝のお仕事やった時にね、そこのオーナーさんがミキの事すっごく気に入ってくれてね! この話をしたら是非とも手伝わせてほしいって言ってくれたの!」

伊織「そんな急に式場とか披露宴の会場って確保できるものなの!?」

美希「大人の権力、って奴だよ? デコちゃん」

伊織「デコちゃんゆーな! ってかあんた私と同い年じゃないッ!!」

美希「デコちゃんはまだ子供だもん」

伊織「でもこの作戦、穴空きまくりじゃない」

美希「何処が?」

伊織「だって相手はスポーツ紙の一面を飾るって言ったんでしょ? 発行して販売まではあっちの方が早いし、朝のニュース番組で取り上げられる可能性だってあるでしょ?」

P「その心配はない。既に対策済みだ」

あずさ「プロデューサーさん、どういうことですか……?」

P「はい。今日のうちに全部根回しはしておいてもらったんです。一社いつも贔屓にさせてもらってる放送局に掛け合ってな。朝一番の生放送の枠を貰ってるんだ!」

高木「律子くん、私はなんて恐ろしい人材をプロデューサーとして迎え入れてしまったんだろうか……」

律子「知りませんよ。これに懲りたら『ティンと来た!』とか言ってスカウトしてこないでくださいね」

真「朝から生で電撃結婚会見をするって事ですね?」

P「そういう事だ。その後そのまま結婚式って形になるんだが、其処にはみんなにも参加してもらいたい。他には貴音の両親や961プロのジュピターを呼んである」

伊織「そりゃあ構わないけど……そもそも記者会見開いたからって解決する事じゃないでしょうよ」

P「いや、765プロだからこそ出来る事がそこにはあるんだよ」


136: 2012/05/26(土) 10:48:10.70
真美「兄ちゃん意味わかんないよ」

P「そうだなぁ……。朝ってその日の新聞が発行されるだろ? それもスポーツ紙」

亜美「そだね」

P「同時間帯に俺らが結婚会見を開く。真美ならどっちが本当の事言ってるように聞こえる?」

真美「真美新聞読まないし、いちおー芸能人なんだけど……普通の人からしたら目の前で話してる方を信じるんじゃないかなぁ」

P「勿論スポーツ紙の方を信じる人も少なからずいるだろうさ。けどそれを記者会見の内容でこっち側に取り込む」

P「美希との仲は確かに良いが、これは765プロのみんなにおいても一緒であり、俺とアイドルは仲間であり家族のような仲。ってのをまず伝える事が第一」

P「第二に美希が俺にべったりな事を貴音は黙認してる事も明かす。出ないと一つ目の話が成り立たなくなるからな」

P「そして最後に『冬馬と貴音の一件の真相と、美希と俺の写真による報道の真相を明かす事で報道した側が過大に騒ぎ立てただけ』っていう印象を残すんだ」

真「それならそう、普通に記者会見でも開いて答えればいいんじゃ」

P「真、お前が一般人だとして貴音と冬馬が二人で家に居たなんて知ったらどう思う?」

真「付き合ってるのかな……? とか思いますね」

P「だろ? それじゃあ駄目なんだよ。冬馬に近しい女が居るっていうのはファンからしたら一大事なんだ。ジャ〇ーズとか見てみろよ。未だに結婚させて貰えない人達だっているだろ? 女性ファンってのは男性ファンよりおそろしいものなんだ」

P「それほど印象ってのは力になるんだよ。それはただの記者会見じゃ全然拭えない」

貴音「この度の件では彼ら961プロには数えきれない助力を戴きました。せめて私が去る事でかかる迷惑を薙ぎ払うこと位が今の私が出来る彼らへの恩返しかと」

伊織「敢えて刊行を差し押さえないのは真っ向から対立する為って事ね。確かにいちいち隠ぺいなり、差し押さえなんてしてればいつかは人手に伝って広がっていく可能性とか出てくるしこっちの方が堂々としてていい感じよね」

亜美「兄ちゃんとお姫ちんのらぶらぶっぷりを見せつけてあまとうへの疑惑を晴らすって作戦だね? んふっふ~亜美ちゃん燃えてきましたよぉ→!」

P「そういう事だ。それに、刊行した後すぐに俺らがこの会見を行うのは印象操作としては十分な力を持つ。何せあっちは一度出したら訂正出来ないんだからな」

真美「でもさでもさ? 結局兄ちゃんがお姫ちんと結婚する事は何ら変わらないんだからファンのみんなにぶーぶー言われるのは確実だよね→?」

P「アイドルだって女性だ。いつかは結婚するし、いつかは子供を産む。そこはまぁ……芸能界にいる者の定めだよ。ファンに否定されるのはな」

P「俺だけに悪意が向けられれば良いんだけど……」

貴音「あなた、これからは辛い事も苦しい事も一緒に乗り越えていく。それが夫婦という物です。一人で抱え込むのは無しですよ」

P「貴音……」

真「いいなぁ貴音は。僕も早く良い人と巡り合いたいよ……」

やよい「何か貴音さんお母さんみたいですー」

伊織「はいはい、ノロケ話はこれくらいにしてそろそろお開きの方が良いんじゃないの? 明日早いんだし」

P「いっけね、もう11時じゃないか。終電逃してるのは……春香だけか。春香、ホテルの予約でも取るか?」

春香「チハヤチャン、キョウオウチトメテ」

千早「イイワヨ」

P「すまんな千早。それに春香も」

千早「キニシナイデクダサイ」

律子(やっぱ呼ばない方がよかったわね……)

P「じゃあ解散! みんな……明日はよろしく頼む」

137: 2012/05/26(土) 10:48:44.84
長い一日を終え、再び二人そろって部屋に戻れる日が来た。
これからはずっとこのままでいれる。そう思うとどうしてか眠気が体中に駆け巡る。
風呂を浴びてからというものの、大した会話も無く俺と貴音は狭いシングルベッドで二人身を寄せ合っていた。
話しかけてくる貴音に返答はするものの、いつまでこの意識が持つかは分からない。……会見が終わったらゆっくり話そう。今までの事や、これからの事を。

貴音「結婚としては少しばかり急ぎ過ぎな気もしますが」

P「まぁね」

貴音「でも、嫌ではないですよ」

P「俺も」

貴音「父と母も喜んでくれましたし。あとはファンの方に伝えるべきことを伝えるのみですね」

P「うん……うん」

貴音「ふふっ、お疲れのようですね。……ではそろそろ眠るとしましょうか。明日は良い日になりますように」

その言葉を最後に俺は眠気と安らぎに包まれ、眠った。


138: 2012/05/26(土) 10:49:43.10
律子との会談後、パパラッチは即座に記事を仕上げ、あとは翌朝の見出しを待つのみだった。
勝利の美酒を味わうかのようにパパラッチは付き合いの長いその新聞編集部の編集長の家で共に祝勝を挙げていた。

パパラッチ「いやぁホント、お前には助けられてばっかだな」

編集長「今回のは良いスクープだ。まさかの星井美希が熱愛とはな。しかも同じ事務所の人間からの情報提供なんて話題性充分じゃないか」

パパラッチ「このまま765プロが崩壊していく様を想像すると申し訳なく感じるが、今のうちに甘い汁は吸えるだけ吸っておくべきだな」

編集長「けどまぁ961の圧力振り切ってよくここまで動けたなぁ。実はお前、大したやつだったのかもな」

パパラッチ「なぁに、褒めるのは社会の反応を見てからにしてくれ。今は勝利の美酒を祝おうじゃないか。ははっ」

編集長「765プロには悪いが今は楽しませて貰おうとするか。……乾杯」

パパラッチ「乾杯」カラン

パパラッチ「さぁ、朝まで飲み明かそうぜ。今日は気分が良い」

編集長「お財布も大分温まったからか?」

パパラッチ「何だよ? 奢らんぞ?」

編集長「へーへー。取り敢えず飲もう。せっかくの酒が台無しだ」

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――――――――――――――――――――――――――――

パパラッチ「……うぃいzzz」

編集長「ちっとばっかし飲み過ぎたな……今何時だ? あぁ、7時か。どうせ今日は休みだ。暫くは……」トゥルルルル

編集長「携帯? 糞っ、頭に響くなぁ。――はい、もしもし俺だ」

編集長「……テレビを見ろだって? 騒々しいな。ちょっと待て」ピッ

編集長「何だ、これは……おい、起きろ!」

パパラッチ「んだよぉ~まだ寝かせてくれよぉ」

編集長「まんまとしてやられたぞこりゃあ………」

139: 2012/05/26(土) 10:52:26.03
編集長が寝ぼけ眼でテレビをつけ、電話越しから指示されたチャンネルへと変える。
するとそこには自分たちが利用した人物たちが勢揃いしており、何やら会見を行っていた。
目をこすり、見据える。
そして見えたのは「電撃結婚! 四条貴音、長年募らせた思いをついに成就!」というテロップと幸せそうな表情を浮かべる二人の男女。

記者『今朝のスポーツ紙一面に飾られてた星井美希さんとの熱愛報道はどうなんでしょうか? 結婚を申し込まれたとか』

P『熱愛って……大げさな。まぁ、僕からしたら美希は妹みたいなものですよ。な、美希?』

美希『うん。プロデューサーは美希たちの事良く見てくれてるし面倒見も良いんだよ? 765プロのみんなにも優しいし、家族同然って感じなの! 確かに結婚したいとは言った事はあるけど……プロデューサーには貴音がいるし、からかっただけだよ?』

記者『じゃあスポーツ紙のあの情報は間違いだと?』

美希『仲が良いのは間違いじゃないよ? でも、プロデューサーはずっと貴音の事が好きだってミキも知ってたし。今のミキは仕事が恋人なの! あはっ☆』

記者『じゃあ四条さん、ジュピターの天々瀬冬馬さんの件については?』

貴音『彼と私は同じ事務所で共に技量を磨き合った仲間です。プロデューサー……私の今の旦那から離れ、一人修行の為に単身961プロに身を寄せた時、困っている所を冬馬が手助けしてくれたのです』

P『ファンの方は知らないとは思うんですが実は彼女、私生活では全く料理をしないんですよ。961プロに移ってからというものの、食べてるのはカップラーメンばかりだったみたいで』

記者『そこで見かねた天々瀬さんが料理をしてあげたと? ……本当にそれだけですか?』

冬馬『えぇ。パパラッチの方や記事を書かれた人には申し訳ないですが。何せ彼女……せっかく俺が作った料理をそこの彼と比較して散々罵るんですよ? 酷くないですか? そこで一気にイメージ代わりましたね』

貴音『私は嘘など言いませんので。ふふっ』

P『とりあえずまぁそんなところです。正直週刊誌の記事を見た時気絶してしまったんですがね……ははっ』

冬馬『まったく、週刊誌ってのは過大に事を広げるから困りますよねー(棒)」

美希『今朝のスポーツ紙に765プロのみんなは仲が悪いって書かれてるけどそんなことは無いと思うな! みんなで頑張ってきたのに誰かを嫌うだなんて有り得ないの!』

記者『でもプロデューサーさんに嫉妬した人が居るってのはあながち間違いではないのでは? でないとこの記事がどうして出回ったのか理由が分からないのですが……』

美希『だってこの写真、美希たちがわざと渡したやつだもん』

記者『え?』

美希『竜宮小町のプロデューサーの秋月律子、さんに頼んでパパラッチさんにお願いしたの! ミキたち765プロは皆仲が良いって事を記事にしてほしいって。その中でミキの写真が一際目立ってたんだね!』

美希『そしたらこんな熱愛報道に変わってたの。ビックリだよね?』

P『こら美希、その辺にしておけ。別にパパラッチさんや新聞社さんを訴えるとかそういう気は無いですよ? むしろ感謝してるんです。彼女と冬馬の記事が無ければ長年募らせてた思いを伝える踏ん切りがつかなかったと思いますから』

貴音『そもそも私はすくーぷというもので騒ぎ立てられるのはあまり好きではないのですが、彼らのお蔭でこの方と漸く結ばれたと考えれば、彼らはこの場にお招きすべき私達のきゅーぴっとだったのかもしれませんね。うふふ』

記者『まぁ確かにこんな賑やかな会場を見せつけられては本当に不仲とは思えないですね……不思議です。一部落ち込んでいる方々もいらっしゃるようですが』

貴音『時には喧嘩もしますが、それを含めて765プロの皆とは固い絆で結ばれているのです』

貴音『そして本日、この場で私と彼の結婚をお伝えさせていただいたわけですが、これから私、四条貴音は765プロの一員として再び新たな活動を始めたいと思っており、それを本日皆様にお伝えさせていただきます』

記者『それはアイドルをお辞めになるという事でよろしいのでしょうか?』

貴音『えぇ。そう捉えて戴いて構いません。今後、私は女優業に専念したいと考え、真に勝手ながらこの場でファンの皆様にお伝えしなければならないと思いこのように朝から大勢のマスコミの方々にも来ていただきました』

P『関係者各位に多大なご迷惑をお掛け致しますが、私Pと四条貴音は今後の人生を共に一番近くの場所で支え合いながら末永く生きていきます。どうか、暖かく見守っていてください。本日は朝から来て頂き誠にありがとうございました』

140: 2012/05/26(土) 10:53:17.41
編集長「糞っ、してやられたか」

一部始終の生放送を見た二人。
唖然としていたパパラッチは声が出なかった。まさかこんな形で出し抜かれるとは思いもしなかったからだ。
これじゃあまるで良いように利用されただけ。いつも芸能人を良いように利用している側が利用されるだなんて、無様だ。

パパラッチ「……」

編集長「あぁ、俺だ。なにぃ? 訂正分? んなもん書くか馬鹿! どうにかしとけじゃあな!」

編集長「せっかくの休日なのに飛んだ災難だ。おい、こっちはお前の情報で散々だよ」

パパラッチ「まんまといっぱい食わされたって訳か」

編集長「今回はこっちにも非があるから追及はしないが……当分765とは関わるな。今回みたいな恥をかくのは懲り懲りだ。ったく……」

パパラッチ(良いように利用されちまったみてぇだな。当分は仕返しできそうにもねぇわなこりゃあ。まっ、今は末永くお幸せにとでも言っておこうか)

――その後の調べで分かったのは、プロデューサーの彼と四条貴音は幼少の頃からの幼馴染で二人は姉と弟同然の関係で育ってきたらしい。
しかし、彼の方の両親が亡くなってからは単身東京に上京したらしく、離れ離れになってしまったとか。
そして四条の方が彼を探す為に親の制止を振り切って彼と同じく単身上京し、アイドル活動をする事で彼のとまた会えるのではないかと考え、今の事務所に入ったらしい。
パパラッチは成程な、と思った。まるで人の恋路を邪魔する奴はなんとやら、だ。
普通一般的な芸能人だったら週刊誌の流したスクープには一切応対せず、平然を貫くだろうがまさかここまで食いついて、挙句の果てには上手く出し抜くとはやられたものだ。
恨みや憎しみよりも、悔しいという感情の方が多いのは個人的感情なのか、それともこの職業故のものなのか。
ただ、今になってみると分かる事が一つある。
961プロに情報を売った時点で負けていたのだ。彼らに提供するのではなく、自らパパラッチとしてそのネタをスクープ素材として世に出せば良かったのだ。
その前に仕入れていた765と961の因縁から金に目がくらんでああいった手段を取ってしまったのは実に愚かだ。

パパラッチ(……俺もまだまだだな)

141: 2012/05/26(土) 11:00:13.45
冬馬「で、まぁ……なんていうか、ノロケ乙?」

P「おい冬馬ノロケって何だノロケって。いつまでもゲームとかフィギュアに恋してちゃ駄目だぞ? なっ、貴音?」

貴音「そうですよ冬馬。あ、あなた。口にクリームが付いてますよ」フキフキ

P「ありがと。気が利くなぁ貴音は」

貴音「ふふっ、これからは姉ではなく妻としていいところを見せて行かなければなりませんからね」

P「充分良妻だよ」

貴音「あなたっ///」

P「貴音っ///」

冬馬「俺帰って良い……?」

律子「駄目よ。あんたも付き合いなさい。私だけじゃとても精神が持たないわ……」

P「律子と冬馬って何かお似合いじゃないか? 律子も何だかんだでオタク知識あるしさ」

冬馬「マジかよ!? 何かあんた堅物なイメージしかなかったから意外だぜ……」

律子「ちょっ!? あんた何ばらしてんのよ!! それに何よ堅物って! こう見えても心は乙女なのよ!?」

P「まーまーいいじゃないですか、ねぇ貴音?」

貴音「あなた、次は私にもんぶらんを食べさせてくださいませ」

P「はいはい。ほれ、あーん」

貴音「あーん。ふふっ、あなたから食べさせてもらうもんぶらんは格別ですね」

冬馬「糞っ、糞っ!! 俺にも生き別れの義理の妹や姉が居ればこんなことにはっ!!」

律子「あんたが同じことしてる光景何て想像したくも無いわ……」

142: 2012/05/26(土) 11:01:06.46
あの記者会見を終え、無事結婚式も済ませ、婚姻届も提出して晴れて夫婦となった俺と貴音。
今となっては貴姉と呼んでた頃が懐かしく思えるが、大して時期が経っている訳も無く、今は仕事で大忙しだ。
あの記者会見以降貴音に女優業の仕事のオファーが殺到し、連日その対応でろくに夫婦としての生活やその……営み(?)も熟せず、生活的には大して変わり映えは無かった。
依然と違うとするならそうだな……距離感かな。挙げるとするなら。
前よりもより一層近く感じれるようになったというか、前以上に大切に思えるようになったというか。まぁそんな感じの心理的変化はあった。
あんな滅茶苦茶な会見を開く事を提案した俺にもなぜか仕事のオファーが来るようになり、夫婦そろってバラエティに参戦したのは自分の事なのに驚きが未だに褪せない。
超ご長寿番組「節子の部屋」にまで呼ばれたのは一生の思い出になるだろう。緊張してうまく話せなかったが、隣にいた貴音が精いっぱいカバーしてたのは可愛かった。今となっては情けなくて申し訳ない気持ちで一杯だが。
そして一番驚いたのはファンからバッシングよりも、歓迎されるメッセージが多かったところだ。
アイドル=恋愛はご法度、な固定概念が強い芸能界だが、あまりにも神秘的、かつミステリアスな貴音に対してファンは「そもそも結婚するのか」「貴音ちゃんが相応しいと思う男っているのかな」と、逆に貴音が持つ恋愛観というのに興味を持っているファンが多かったようで、それがはっきりとした今、ファンの人達も安堵しているようだった。
ファンからしたら元々手の届かない存在というイメージが強かったのだろう。だからこその人気だったのかもしれない。
人妻となった今では「何か前はお姫様って感じで愛らしかった部分も多かったけど今は工口い」だとか「お尻ちん!お尻ちん!」とか騒ぐファンもいるみたいだが一応俺の奥さんだからな! 渡さないぞ?

協力してくれた美希に対してのバッシングは意外にも少なかった。どちらかと言うと仲の良い兄弟のような印象でも持たれたのだろうか。
美希があんなことをしたよりも俺と貴音の関係性の方が多く話題を呼び、大して話題にならなかったのかも。それに美希は誰にでも懐く犬みたいなイメージがあるしな。
何故か春香と千早と雪歩は暫くの間俺と話す時、上の空になっていたがどうしたのだろうか? アイドルは体調管理も仕事だから気を付けて欲しい。

冬馬「ケーキバイキングに行くつったのにこの面子でとは聞いてなかったぜおい」パクパク

律子「私はあんたが居るって事以外は何となく察してたけどね。二人で一人みたいな組み合わせだし」

P「照れるなぁ」

貴音「妬いているのですか? 律子」ニヤッ

律子・冬馬「「爆発しろバカ夫婦!!」」

まぁ、こうして変わるところもあれば変わらない日々がまた続いていく。
これからは離れない、そう誓い合った今は何も恐れるものは無い。今はただ、この幸せを、掛け替えのない彼女と共に味わっていけたらなと思う。

貴音「あなた?」

P「ん?」

貴音「時々はその……貴姉って昔みたいに呼んでもいいんですよ?」

P「ったく……、甘えんぼさんな姉だな」

P「――大好きだよ、貴姉。これからもずっと、な」ギュッ

貴音「私もですよ、あなたっ!」チュッ



END


143: 2012/05/26(土) 11:06:11.35
書き始めが5月1日からだったのですがまさか一か月も期間掛けて書き終わるなんて……。
長編(なのかな?)SSは書くの初めてで色々と苦労しました。
貴姉が移籍するあたりの流れで実はどうまとめようか悩んでまして、其処で延ばし延ばしになってしまった感じです。
今思い返せば突っ込みどころ満載だな……と。そこは書き手の技量が足りなかったからだと思います。申し訳ない。

いつか再編集なりしてノベマスとかにしてアップしたいなぁとか考えてます。余裕あれば。
貴音が姉だったら色々苦労する反面、凄く愛おしく感じちゃうなぁとか思いつつ書いてました。貴音SSもっと増えろ。


感想、保守ありがとうございました。
SS書くうえで凄い励みになりました。

次は響辺りで何か書きたいと考えてます。
最後まで呼んで下さった方に感謝を。そしてお姫ちん最高!!

引用元: P「貴姉……」