1: ◆cZ/h8axXSU 2014/12/31(水) 04:02:23.01
君が産まれるずっと前

いつか見た世界の中で

僕らは旅を続けていた

優しい世界を歩くため……

君が産まれる前、君はどこで何をしていたんだい?

分からない……?そうか、そうだよね

僕が何をしていたかって?そうだね、僕はね……




魔王「進路よし、風向きよし!それじゃあ、魔王としての第一歩を踏みだそう!」

側近「……」

魔王「何か言いたげだね、側近?」

側近「配下も大した数を従えず、仮住まいの城を手に入れたからって何が魔王なんだか」

魔王「ハハ、それは言わない約束だよ」




2: 2014/12/31(水) 04:02:40.61
側近「貴方がどうしようと私は付き合うけれど、王を名乗るのならばもっとらしい事をしてからにして」

魔王「"王"ではなく"魔王"だよ、僕は」

側近「どう違うんだか……まったく」

魔王「地上の世界で名を挙げた者たちは皆こぞって魔王を名乗るそうだ。だから僕もそれに肖ってね、それにこっちの方が強そうだしさ」

側近「魔を統べるからこその名前だと思うけれど。貴方が従えているのはお情けで着いてきた私と、そこら辺で拾ったオーク一匹」

魔王「それから、お城と一緒についてきた竜のお爺さんだね」

側近「……」

魔王「ろ、碌なのが居ない!」

側近「そんな貴方が一番碌でもない」



3: 2014/12/31(水) 04:03:08.96
オーク「おーいアンタら何やってんだい、出発するぞー!!」


側近「ほら、一番の配下が呼んでいる」

魔王「一番は君だと思うんだけどなぁ」

側近「今言ったばかりだけれど、私はお情けで着いてきているの。頭数に入れないで」

魔王「ハハ、はいはい分かっているよ」

側近「まったく……」



4: 2014/12/31(水) 04:03:36.81
オーク「しかし何だな、突然馬車を用意させるなんてどうしたんだ?わざわざ近場の牧場まで買いに走らせやがって……」

側近「ご苦労様です。私も理由は分からないのでそこの自称魔王に聞いてください」

魔王「酷い言いぐさだなぁ」

オーク「で、どうしたんだ?」

魔王「誰も僕に敬語を使ってくれない。それはともかくとして……」



5: 2014/12/31(水) 04:04:17.80
魔王「少し前に、ここからちょっと遠くで天界から何かが落ちてきたみたいなんだ」

側近「そんなの分かるの?」

魔王「昔、同じような事があったからね。前兆程度なら」

オーク「信用できるのか?」

側近「さぁ。しかし、基本的にこのヒトに従う方針なので私は止める気はありませんが」

オーク「ま、いいか、どうせ拒否権なんざ俺には無いし。とっとと乗りな、全力で飛ばしてやるよ」

魔王「うん、お願いするよ。オーク君」



6: 2014/12/31(水) 04:06:12.57
――――――
―――



魔王「あだっ!」

側近「馬車の動きが随分と荒いですね。もっとどうにかならないのですか」

オーク「そう言わんでくれ、俺は馬の扱いなんざ慣れてないんだからよ。それにどういう訳かここら辺一帯の地面がかなり荒れてやがる」

側近「でしたら注意して進んでください。こっちはお尻が痛いんですから」

オーク「ちぇっ、知るかっての……」

側近「それより、もうすぐ目的の場所に着くけれど……気になるね」

魔王「何がだい?」

側近「話の流れから察しろ。天界からの落とし物の事」

魔王「珍しい事なの?」

側近「……貴方、魔界から地上に来るときにこっちの知識くらい付けろって私言わなかったっけ?」

魔王「珍しい珍しくないってのは分かるけど、僕にとってはこういうの2回目だから」

側近「2回の遭遇だとしたら結構な確率になると思うけれど」

魔王「へぇ、やっぱそれくらい珍しいんだ」

側近「貴方が全然話を理解していない、というのを理解した」

魔王「ゴメンね、あんまり頭はよくないからさ」



7: 2014/12/31(水) 04:06:52.05
側近「本来天界に棲む神は自分の所有物の紛失は極端に嫌う、と文献で読んだのだけれど」

魔王「ふむ、それで?」

側近「天界から落ちてくるとしたら、まず考えられるのは彼らが所有する"神器"と呼ばれるマジックアイテム」

側近「戦いか、はたまた迂闊だったか。理由は定かではないが、地上に落ちてしまう事例があるようで」

魔王「うん、実物を見た事があるから知っているよ。ちょっと経緯は違うけど」

側近「天から零れ落ちたその神の御業たる器を手に入れた者は、世の権力者となるとも言われている」

魔王「そうだね、本当にそんな力があるのなら一度は見てみたいね」

側近「ハァ……実物を見た上でそんなことを言えるのなら多分迷信でしょうね」

魔王「強い力を持つ事には違いは無いけれど、確かに迷信の類だと思うよ。僕が本当の力ってのを知らないだけかもしれないけど」



8: 2014/12/31(水) 04:07:20.74
側近「それを手に入れる為に、今こうして行動しているのではないの」

魔王「まさか、僕は誰かも知らないヒトの力を使おうなんて思いもしないよ」

側近「"悪魔だから天界の力なんて使わない"の間違いじゃなくて」

魔王「悪魔だの神だのと、そんなものは僕にとっては些細な事でしかないよ。上下関係はあれどみんな平等!頼るのは信頼できる仲間!」

側近「大よそ魔族とは思えない発言をありがとう。まったく、何で私はこんな人に着いてきたんだか……」

魔王「それと、多分今回落ちてきた物は神器ではないと思うよ?」

側近「なんですか、それじゃあ神だか天界の住人が真っ逆さまに上から落下してきたとでも言うの。ありえない」

魔王「ありえないなんて事は無いよ。まぁ神様が落っこちるのはどうかと思うけどね」

側近「あんなプライドの塊の連中が自分たちから地上に降りるなんて決断をするはずがないでしょうに」

魔王「言っただろう?昔同じような事があったって」



9: 2014/12/31(水) 04:07:46.89
オーク「お、オイ魔王!側近!!大変だ!!空からヒトが!!」

側近「ハァ?」

魔王「ほらみろ!!ほれみたことか!!」

側近「そんなことはどうでもいい。何が起こっているんですかオークさん」

オーク「こっちは馬車で"逃げる"ので精いっぱいなんだ!!オメェら窓の外見て確認しろ!!」

魔王「逃げる?穏やかじゃないね」

側近「ッ!アレは……」



10: 2014/12/31(水) 04:08:14.10
天使「―――!!」

「―――」

「―――」



魔王「て、天使だ!」

側近「本当に地上に降りてきているなんて。このヒトの言っていることが本当だなんて認めたくない」

魔王「何で君はそう僕に対して酷い事言えるのかな?」

オーク「それよりもしっかりどこか捕まってろ!!舌噛むぞ!!」

魔王「おわっと!?何で逃げる必要があるんだ!!」

オーク「連中をよく見ろ!!」



11: 2014/12/31(水) 04:08:52.79
天使「―――ッ!」

「―――」

「―――」



魔王「戦って……いる?」

側近「違う、一方的に魔法を撃ち込まれているだけ」

オーク「何か守るように抱えているが、あれのせいで反撃出来ないんじゃねぇか?」

側近「ともかく、今は厄介事に巻き込まれるのも避けたいです。もっと速度を上げてください」

オーク「さっきからやってるよ!ヒトの気も知らんでよく言ってくれる!!」

魔王「……」

側近「?どうしたの」



12: 2014/12/31(水) 04:09:23.97
魔王「助けよう!」

側近「……はぁ」

オーク「お、オイ魔王!!……あーあ、飛び出しちまったぞ。あんな派手にコケちゃってもう」

側近「まったくあのヒトはもう。貴方はこのままここで待機、不味いと思ったら構わず逃げてください」

オーク「え、ウソだろオイ!?アンタも行っちゃうのか!?」

側近「あの自称魔王、物凄く弱いんですよ。誰が守ってやらなきゃいけないと思ってるんですか」

オーク「だよなぁ……ま、折を見て逃げさせてもらう事にしようかね」



13: 2014/12/31(水) 04:09:51.10
魔王「痛たたた……カッコよく飛び出すもんじゃないね、コレは」

側近「何がカッコいいんだか。身体が頑丈でよかったものを」

魔王「あれ?来ちゃったんだ。無理して付き合う必要は無いのに」

側近「心配して来てやったのに何言ってるの……ッ、来た」

魔王「あの天使ッ!かなり傷ついているじゃないか!」

側近「同族であるのに容赦が無いようで。追われているのは堕天使かもしれない」

魔王「堕天使……」



14: 2014/12/31(水) 04:10:25.73
「逃がしはしない」

「裏切者めが」

天使「ッ!!」

「ここまでだ。何日も戦い続けたその身ではもう持たないだろう」

「終わりだ」

天使「ッ!!私は……まだ……」

「……落ちていったか。もう生きてはいまい」

「抜かるな。聖剣を回収するまでが我々の仕事だ」



15: 2014/12/31(水) 04:10:55.20
側近「あ、落ちた」

魔王「そんな悠長に言わなくていいから!!間に合え!!」

側近「どう考えても間に合う距離じゃないでしょうに。ちょっと失礼」

魔王「え、何で僕の後ろで構えてるの?」

側近「そぉい」

魔王「ちょ!?うわあああああ!?」

側近「意外、ヒトの身体というものは蹴り上げただけで案外飛ぶものなんだ」



16: 2014/12/31(水) 04:11:26.29
天使「……」

天使(ここで、終わってしまうのだろうか……)

天使(私は役目を果たさなければいけないというのに……)

天使(この聖剣を……この地に現れる勇者様へ……そして)

天使(……兄さん……)


魔王「うおあああああああああああああ!?」

天使「ッ!?」



17: 2014/12/31(水) 04:12:05.89
魔王「ギ、ギリギリ……セー……フ?」

天使「クッ……つぅ……ッ!」

魔王「よ、よかった、間に合ったみたいだ。大丈夫かい?上手く掴んだつもりだけど、どこか怪我はないかい?って、元々怪我だらけか……」

天使「……」

魔王「あれ?気絶しちゃってる……無理もないか」


「……」

「……」


魔王「そしてお出ましか」



18: 2014/12/31(水) 04:12:36.08
「……貴様、何者だ」

魔王「何者でも構わないだろう。しかし、大の男が二人がかりで女性を襲うなんて、ただ事じゃないね」

「貴様には関係あるまい。その女と女の持つ剣を渡せ、そうすれば見逃してやろう」

魔王「見逃す?随分と上から物を言うんだね、貴方達は」

「フッ……」

「フフ……」

魔王「……僕は、今何か可笑しい事でも言ったかな?」



19: 2014/12/31(水) 04:13:03.31
「見たところ貴様、地上人の皮を被っているが魔界の者か」

「下賤な種が。我ら神に選ばれし種の言葉の重みも知らぬとは」

魔王「貴方達がどのような人達かは僕は分からないし、分かるつもりもない。余計な事に首を突っ込んだ非礼も詫びる、だけれども」

「そう思うのなら、余計な事は言わず早く女を渡せ」

「貴様ら魔界人は生まれついての忌むべき存在。天の御使いである我らがこうして自ら地に降りてまで言っているのだ。聞かぬとは言わせんぞ」

魔王「ッ!天だ地だなどと関係などあるものかッ!!」

「!」



20: 2014/12/31(水) 04:13:41.57
魔王「この世に生を受け育みそして地に還る!その営みの中に居る僕たちに何の違いがある!!」

「ある」

「生まれながらにして既に優劣は着いている。論点をずらすな、下賤な種よ」

魔王「暮らす場所の違い、種族の違い、生まれの違いで優劣なんて付けられてたまるか!!それに、僕は貴方達に彼女を渡す気なんてサラサラないね!!」

「何の関係も無い貴様にその者を庇う義務など無い」

「何故そうまでして拒むか」

魔王「貴方達のようなヒトが嫌いだから嫌がらせをしたくなったんだよ!ベーッ!!」

「……」

「……」



21: 2014/12/31(水) 04:14:07.63

「……気が変わった」

「ああ、私もだ」

魔王「な、なんだよ!」

「消え失せよ」

「この世界から跡形もなく」

魔王(始めからそうするつもりだった癖に)



22: 2014/12/31(水) 04:14:35.27
「それでは……」

「逝ね……」

側近「させない」

「ッ!!」

「何者!?」


魔王「少し遅いんじゃないかい?」

側近「近くで様子を見ていたから。貴方が天使相手に啖呵切るなんて思っても見なかったけど」

魔王「アハハ……余計な火種を作ってしまったね」

側近「ホント、考えられない……でもこの際それはいい」



23: 2014/12/31(水) 04:15:07.29
「神の代弁者たる我々に……」

「何たる仕打ちを!」

側近「で、この自分を神と同等だと思い込んでいる哀れな天界の方々にはどういったお仕置きが必要だと思う」

魔王「そうだね、それじゃあ……ここからご退場願おうか」

側近「はいはい」

「貴様!」

「何を!?」

側近「遠い所からはるばる地上に降りてきてもらって悪いのですが、天界へ帰ってもらいます」

「ぬぉ!?この術は!」

「帰天の術かッ!」

側近「天使を天界へ、魔を魔界へ送り返す"だけ"の術ですが……まさか使う日が来るだなんて思いませんでしたよ」



24: 2014/12/31(水) 04:15:37.75
魔王「……」

側近「……転送完了」

魔王「ふぅ、いやぁ助かるよ。強制送還のトンデモ魔法!こんな奇妙な術を使えるのは君くらいだからね!」

側近「煽てて気を逸らそうとしない。自分から危ない事に首を突っ込んでおいて最後は私頼みって……後で折檻」

魔王「……はい」

側近「天の大穴の周期の関係上、しばらくは天界と地上を行き来出来ないハズだからしばらくは安全だと思う……けど」

側近「ともかく、そのヒトをお城まで運ぼう。治療してあげないと危ないかも」

魔王「君の回復魔法でどうにかならないのかい?」

側近「今の魔法で魔力がスッカラカン」

魔王「ああ、君は……そうだったね、ゴメン」



25: 2014/12/31(水) 04:16:05.79
オーク「おーい!生きてるかー!」

側近「おや、オークさん。逃げなかったのですか」

オーク「まぁ不味いと思う場面は特に無かったからな、側近も居たから安心してた」

魔王「僕に対する信頼ではないんだね、うん」

オーク「それより早くその美人さんを乗せな!城までかっ飛ばすからよ!」

側近「お願いします。魔王、貴方はこのヒトに回復魔法をかけ続けて。微弱な貴方の魔力でも無いよりはマシなハズだから」

魔王「了解。あんまり得意じゃないけれど頑張ってみるよ」

天使「……」



26: 2014/12/31(水) 04:16:33.29

―――
――――――


天使(ねぇ、兄さん)

(どうした?)

天使(兄さんは、地上の人達の事をどう思っているの?)

(別に何とも……ま、俺たちよりも愚かというのは理解してるが)

天使(そ、そうなの?)

(俺たちよりもずっと弱く、儚く、そして脆い……ま、個体によるんじゃないか?俺は興味無いからそんなものは知らん)



27: 2014/12/31(水) 04:17:07.99
天使(私ね、兄さん。地上に行ってみたいの)

(地上に……何でまた)

天使(私たち天界の住人は、地上の人達からは尊い神のような存在だと思われているけれど、でも彼らにとっての神様ってもっと違うものだと思うの)

(まぁ、そうだろうな。奴らは自分たちの都合のいいビジョンをやけに俺たちに押し付けたがる)

天使(うん!だからね!私が地上の人達とお話して色んな誤解を解きたいの!そうして、一緒に暮らしていけるような関係になりたいの!)

(そんな大それた話になるか……)

天使(でも、みんなそんなことを言うと、私を怖い目で見るの……悪い子なのかな、私)

(いや、いい子だ。お前は)

天使(えへへ……兄さんの手、大きいなぁ)

(一緒に暮らしていける世界……か)



28: 2014/12/31(水) 04:18:01.21
――――――
―――



側近「ねぇ。彼女、どう思う」

魔王「んー?どうって?」

側近「天使兵から追われる身であり、そして裏切者と言われていた」

魔王「うん、何か込み入った事情があるみたいだね」

側近「所持していた金目の物と言えばあの布で幾重にも巻かれた剣のような物だけ」

魔王「聖剣って言われていたね。痛くて僕じゃ触れなかったよ」

側近「魔を頃す術でも掛けられていると考えるのが妥当か……私も触ることが出来なかった」

魔王「ふむ、魔界の住人だと触れられないのかも。オーク君と竜爺は持てるようだったし」

側近「それでもあの巻かれた布は解けなかったけどね」



29: 2014/12/31(水) 04:18:33.36

オーク「おーい、お二人さん」

側近「オークさん、その後何か変わったことはありましたか」

オーク「ああ、あの美人さん目を覚ましそうだぜ」

魔王「本当かい?よし、早速行こう!」

オーク「お、おう……そんな足早にならなくったっていいじゃねぇか。なぁ側近の嬢ちゃん、魔王の奴どうしたんだ?やけにあの美人さんに目を掛けるじゃないか」

側近「さぁ、惚れたんじゃないですか」

オーク「おーおー、色恋沙汰かぁ!魔王も男ってこったなぁ!」

側近「……」

オーク「どした?」

側近「いえ、何も。今後の事に支障をきたさなければ何でもいいでしょう」

オーク「??」



30: 2014/12/31(水) 04:19:00.94
……


天使「……ッ」

「ん、お目覚めかな」

天使「ここは……」

「ここは魔王城。と言っても、かつて破棄されて誰も寄り付かなくなった城を改装しただけの物だが……」

天使「貴方は一体……?」




竜爺「ワ シ じ ゃ よ」

天使「誰ッ!?」



31: 2014/12/31(水) 04:19:28.20
側近「はいはい、竜爺様はとっととご退場お願いします」

竜爺「えー、こんな美人さん後にも先にも間近で見れないじゃろ?だったらもうちょっとだけでも……」

オーク「爺さん年甲斐もなくそんなこと言わんでいいから、ほら真面目な話したいからちょっと俺と外出てような?」

竜爺「ワシと話しているときは真面目じゃないとでも言うのかぁ!!泣くぞぉ!!」


魔王「おはよう、身体はどうだい?」

天使「貴方は……貴方が助けて下さったのですね。ありがとうございます、まだ傷が痛みますが、このくらいなら大丈夫です」

魔王「助けたという程僕は何もしていないよ。それより、無事でよかった。丸一日目を覚まさないから焦っていたよ」



32: 2014/12/31(水) 04:19:56.74
天使「ッ!私を追ってきた二人の天使は!それに剣も!」

魔王「ああ、それなら彼女が天界へ送り返したよ。剣もそこに置いてある」

側近「……」

天使「よかった……でも、貴女みたいな子供が……」

側近「この姿は地上の人間を模しているだけです。子供ではありません」

天使「あ、ごめんなさい……」

魔王「そう言われるのも、もう慣れっこだよね?」

側近「うるさい」



33: 2014/12/31(水) 04:20:24.40
天使「……どうして」

魔王「ん?」

天使「どうして私を拾ってくださったのですか?見たところ魔族の方とお見受けしますが、なるべく天使との接触は避けたいハズですのに」

魔王「いや、なに。君をここまで連れてきたのはただの善意だよ。他意は無い」

天使「そうですか……変わったヒト……。ありがとうございます、本当に……」

側近「……」

天使「……あ、そちらの方もありがとうございます。私の代わりに戦わせてしまったばかりか、怪我を魔法で治して頂いて」

側近「私はそこの自称魔王の命令でやっただけです。その言葉はいりません」

魔王「"自称"はいらないッ」



34: 2014/12/31(水) 04:20:53.29
天使「魔王?」

魔王「あ、そうそう。僕、魔王なんだ。まだ新人だけどね」

天使「……」

魔王「どうしたの?険しい顔をして」

天使「いえ、何も……」

側近「魔王と名乗れば誰でも同じ反応するでしょうに」

魔王「む、そうなの?まぁいいや。ともかく、全快するまでもうしばらくウチで休んでいくといい。なにもない所だけどね」

天使「そんな!そこまで貴方方にご迷惑はおかけできません!何なら今すぐにでも……」

魔王「気にしないで。さっきも言ったけど善意だから」

天使「しかし……私はその対価すら支払えないのですよ」



35: 2014/12/31(水) 04:21:23.39
側近「……それでは、その身体で支払いますか?」

天使「え!?」

魔王「ちょっと側近!!」

側近「冗談です。この大馬鹿者はこういう性格ですから。厚意は素直に受け取っておいてください」

天使「は、はぁ……」

側近「それにどの道、天使に喧嘩を売ってしまった以上、あちらから何かしらのアクションを起こすでしょうし。まぁしばらく地上へ戻ってくることも出来ないでしょうが」

天使「……ごめんなさい」

魔王「君が謝ることじゃないよ。僕が勝手にやった事なんだから」

天使(事実、あまり身体は動かせそうにない……この人達の真意はどうあれ、しばらくはここに残る選択肢も視野に入れるべきか)



36: 2014/12/31(水) 04:21:50.92
側近「それで、起きたところ悪いのですが、一応貴女の置かれた状況の確認だけさせていただきます。こちらも把握しておいた方がいいと思いますが」

天使「……」

側近「ま、例え借りがあると言えど話せませんか。当然ですね、他人に言えることならばこんな状況にはならなかったハズでしょうし」

天使「ごめんなさい……」

魔王「そんな棘のある言い方だと尚更喋れなくなるだろ?僕が話すから、君は見ていてくれるだけでいい」

側近「ハァ……分かりました、では私はここで失礼します」

魔王「え?聞いていかないの?」

側近「誰がどう聞こうと結果は同じだと思うけれど……ま、精々頑張って。それと天使さん、そいつが鬱陶しいと思ったらすぐにでも突っぱねてもらっても構いませんよ」

魔王「おい!?」

側近「では失礼します」



37: 2014/12/31(水) 04:22:17.98
魔王「……もう!」

天使「ふふッ」

魔王「あ、ゴメン。変なところを見せてしまって」

天使「いえ、仲がいいのですね」

魔王「完全に下に見られてしまっているけどね。悲しいかな」

天使「私にはとても仲のいい兄妹のように見えましたけど?」

魔王「いやはやお恥ずかしい」



38: 2014/12/31(水) 04:22:44.34
魔王「さて、それはそれとして。君がどうして彼らに追われていたのか……だけど」

天使「……」

魔王「言えない事なんだね?その剣に関係する事かい?それだけでも答えてほしい」

天使「はい、ですがお答えは出来ません」

魔王「そっか、ならそれでいいよ」

天使「……それ以上言及はしないのですか?怒ったりはしないのですか?」

魔王「僕が?どうして?」

天使「巻き込んでしまった以上、私にも責任はあります。彼らも貴方達を狙うのは間違いないでしょうし」

魔王「勝手に首を突っ込んだのは僕なんだし、それに見つからなければそれでいいよ。天界からここへ来るだけでも相当時間は掛かるし、隠れる時間もある」



39: 2014/12/31(水) 04:23:11.43
魔王「……君には君の事情がある、僕には僕の考えがある。だからこうして君を助けた、君はそれを受け入れた。それでいいじゃない」

天使「……本当に、変わったヒトですね」

魔王「よく言われるよ。まぁ、君はそれを儲けものだと思ってしばらく安静にしていればいい」

天使「はい、しばらく甘えさせてもらいます」

魔王「うん、いい子だよ。君は」

天使「……ッ」

魔王「おっとゴメン、側近なだめる時にいつも頭を撫でるからつい……」

天使「いえ、それは構いません……魔王様」

魔王「ん?」



40: 2014/12/31(水) 04:23:48.24
天使「……実は」

天使「実は、兄を探しているのです」

魔王「……話してもいいのかい?」

天使「あ、いえ……私が追われている事とは別件ですので……」

魔王「そっか、別に話したいことなんだね。続けてもらってもいいかな?」

天使「はい」



41: 2014/12/31(水) 04:24:15.60
天使「かつて、兄は天界において最強とまで謳われる戦士でした」

天使「強く、優しく、誰よりも誇り高く」

天使「そんな兄でしたが、妹の私にはすごく甘い人でした」

天使「……そんな優しいヒトだったからこそ、兄は……」

魔王「……」

天使「地上こそ、我々が還るべき場所。そして最も尊き者達の生きる世界だと、兄は唱えていました」

天使「元々、上の方々……姿を見せない神からは、その力が危険視されていたことに加えて、反逆の意思まで見せるような事をしたのです。当然上も黙ってはいませんでした」



42: 2014/12/31(水) 04:25:13.85
天使「神に仕える天使兵……神兵達。口では言いませんが、自分たちを神と同等と信じて疑わない彼らは、兄を武力で抑えつけ、私を人質としました」

天使「誰も、兄にも私にも味方をしませんでした。私たちの仕える神に、秘密裏に処理される形で……」

天使「そうして兄は私を庇い、地上へと堕とされ……堕天しました」

魔王「……」

天使「魔王様?どうなさいました?」

魔王「いや、何でもないよ。それは……どのくらい前の話なんだい?」

天使「はい……三千と少しですが」

魔王「随分前なんだね。名前は……」

天使「名はナツァル。真っ黒でボサボサの長い髪の毛と真っ赤な目が特徴で、一回見たらそうそう忘れられないかと」

魔王「そうか……ナツァル……ああ、いい名前だ。うん、絶対に忘れられそうにない」

天使「ひょっとしたら、偽名を使っていたかもしれませんが……それを言い出すと切りがないですね」



43: 2014/12/31(水) 04:25:43.31
魔王「……それで、君は別件で地上に降りたついでに、そのお兄さんを探したいと。そう考えている訳だ」

天使「いえ。堕天した天使は地上で平穏に暮らせるワケも無く、天界から通常の天使兵や神兵が刺客として送られます。ですのでもう……」

魔界「諦めているのかい?」

天使「はい、ここまで音沙汰がないのなら、裏で処理されてしまったか、或はどこかで誰も知らない場所で一人でいるか」

天使「探す、というよりも、兄がこの世界で生きていた"証"を確かめたかっただけです」

魔王「その顔を見るに、随分と難しいのかい?」



44: 2014/12/31(水) 04:26:15.66
天使「神兵は狡猾です。もし彼らが手を下したのなら、地上への干渉の痕跡と証拠を揉み消すことも彼らからすれば容易いかと」

魔王「堕天使の討伐は箔がつくんじゃないかい?それなら、彼らが見下す地上人に隠す必要も無い」

天使「確かに、神に取り入るには良い口実と名誉になります……まだどこかに情報は在るかもしれない、と?」

魔王「ああ、君は最悪のケースしか見据えていないようだ。今のことと言い、今後の事といい」

魔王「希望を持つことも大事だよ。ヒトはそれを糧として生きていくことも出来るんだ、"必ず生きている""必ず会える"そう思って行動していた方が気が楽だろう?」

天使「でも、その希望が失われたときは……」

魔王「失われなんかしない。また新たな希望に繋げればいいのだから」

天使「私は……そんなに強くありません」

魔王「君の持つ使命と、そのお兄さんへの想いで戦う君は強いよ。僕はそう感じる」



45: 2014/12/31(水) 04:26:41.79
魔王「そこでさ、僕からの提案があるんだけど」

天使「提案ですか?」

魔王「そ、君を僕ら魔王一味の仲間に加えたいと思うんだ」

天使「え……えぇ!?ホワイ!?なんで!?」

魔王「僕らも狙われている、君も狙われている。君はお兄さん探している、僕は各地へ視察によく出回る。君の行動範囲も出来れば聞いておきたいのだけど」

天使「わ、私は……私の本来の目的でも、この区域一帯が行動範囲になりますが……」

魔王「うん、ならデメリットと行動範囲を共有できるのならば、悪い話ではないと思うよ?ここは十分な隠れ蓑になると思うし」

天使「そう言われるとそうなのですが……そんな滅茶苦茶な」

魔王「ハハ、人手が足りなくてね。それにさっき君は対価を支払いたいみたいな事を言っていただろう?」

天使「しかしさっきは善意と……」

魔王「打算的な善意だよ。偽善ってやつかな?」

天使「あー……」



46: 2014/12/31(水) 04:27:07.63
魔王「……いいよ、勿論君には拒否する権利がある。本来の目的が何なのかこちらが分からない以上、これ以上の譲歩は出来ないけど……検討してほしいな」

天使「譲歩してないじゃないですかー!……そうですね。ごめんなさい、少し時間をください」

魔王「うん、それで構わないよ」

魔王「それじゃあ僕もそろそろ行くね。何か必要なものがあったら遠慮なく言って、最低限のものは用意するから」

天使「はい、ありがとうございます」

魔王「それじゃあね」

天使「……」

天使(んー……どおりで美味い話だと思った。でも)

天使(あのヒト、ちょっと兄さんに似てたな……信用出来るかもしれない)



47: 2014/12/31(水) 04:27:38.02
……


魔王「……」

竜爺「おい、魔王」

魔王「あ、竜爺。ひょっとして今の聞いてた?」

竜爺「ずっと外で待機しておったからな。どういうつもりじゃ?」

魔王「何が?」

竜爺「あの娘を引き入れるとは、何を考えておる」

魔王「何も」

竜爺「嘘をつくな。怪我が治るまでは置いてやる、が、その後すぐに追い出すとワシと約束しただろうて。城はまだワシの所有だと言っておるのに厄介ごとを持ち込みおって」

魔王「そうだっけ?まぁいいや、ゴメンその約束は守れそうにない」

竜爺「話を戻せ、ワシを納得させるだけの理由を話さんか」

48: 2014/12/31(水) 04:28:08.75
魔王「今、僕たち魔王一味はとてもじゃないけど人手不足だ」

竜爺「言われんでも分かっておる。3人じゃぞ3人、これで国を作ろうなどと甚だしい」

魔王「竜爺を含めれば4人だよ?」

竜爺「ワシを含めるな馬鹿者が!」

魔王「同じような物でしょ。あと魔界から賛同者の募って呼び出したけど、到着は魔界と地上を繋ぐ"地の大穴"の関係で2、3年先になりそうだし、ともかく人材が欲しかった。これが一つ」

竜爺「最もじゃがヒトを選べ、次」

魔王「聞いていたなら分かると思うけど、彼女と僕たちが抱えてしまっているデメリットは共有している。ならば一緒に行動しても邪魔な存在にはならない」

竜爺「阿呆、あの娘を追い出してこっちはとっとと隠れればいい話じゃ。それに天使兵がまた降りてくるのには時間が掛かるのならなおさらの事。論外」

魔王「ダメかぁ……最後」

魔王「彼女の力になってあげたいんだ」

竜爺「色に狂ったか」

魔王「違うよ、そんな事じゃない」



49: 2014/12/31(水) 04:28:40.14
魔王「今の彼女は独りだ。例えここを離れたとしても、上手くやっていける保証はない」

竜爺「それがどうした。面倒まで見てやる理由は無い」

魔王「かつての僕がそうだった。魔界の在り方に異を唱え、地上へと追い出された先で、右も左も分からずに彷徨い続けていた」

魔王「幸い、僕は同じ境遇のヒトと出会って、共に行動して世界を知った。そういう経緯があるからこそ、僕には彼女を放ってはおく事は出来ない」

竜爺「感情論だな。それで納得しろと?……いや、まて。お主……」

魔王「……」

竜爺「ふん、お主にはその"義理"があると言いたいのだな?」

魔王「どう取ってもらっても構わないよ」



50: 2014/12/31(水) 04:29:06.54
竜爺「分かった、ほぼお主の我が儘じゃが認めてやる。だがワシが面倒見ると言ったのはお主と側近の嬢ちゃんだけだ。あの娘についてはワシは一切触れん」

魔王「ありがとう。あと出来ればオーク君も面倒見てほしいんだけれど」

竜爺「奴は茶飲み友達じゃ。お主らより格上じゃ」

魔王「なんだそりゃ!?」

竜爺「ともかく、責任は持てよ。お主がそう言ったのなら、最後までな。この約束を反故するようならワシもお主を見限る」

魔王「うん、そのつもりだよ、僕は」

竜爺「よろしい。ならばあの娘の選択を座して待つがよい」

魔王「仕事があるから座ってもいられないけどね!さぁ今日も張り切って行こうー!!」

竜爺「調子のいいやつだ、まったく」



60: 2014/12/31(水) 21:55:07.77
――――――
―――



オーク「隣村に支援要請でも出すか?と言っても、今の俺たちの勢力じゃ見向きもされない上に、村単位での支援なんざたかが知れてる」

側近「とはいえ、まずは近隣からでも信頼関係を築くのが第一かと。今はなるべく多方面に声をかけ、お互いに理になる取引が出来るまでには整えていかなければなりません」

魔王「んー、でも村程度の大きさの所と仲良くなっていっても国としてやっていくのはちょっと難しいんじゃないかな?」

側近「だったら酷な選択も用意してある。竜爺様の伝手で貴族や権力者との掛け合いもいつでも出来る」

オーク「脅しをかけて追い出す事も土地や財産の乗っ取りも出来るぜ、相手が言って聞く連中ならな」

魔王「な、なるべくゴタゴタは避けていけないかな……」

側近「貴方が初めに嫌と言ったからこの選択肢は出さないでおいたけれど、独立するためには人もお金も必要なの。そろそろ動かないと貴方が言い出した建国さえ満足に出来ない」

オーク「幸いここら辺の土地は貴族の所有で国持ちじゃない箇所が非常に多いから正直やりやすい」

魔王「ふむ……」

側近「ともかく視野に入れておいて。このままだと何百年経っても進展しないから」



61: 2014/12/31(水) 21:55:40.78
天使「コソー」


側近「ん?」


天使「ハッ!?」


側近「……天使さん、何をしているのですか」

天使「お、お茶をお持ちしました!どうぞ!それでは失礼します!」

オーク「どうしたんだあのヒトは」

側近「流石天界の住人、怪我の治りが早いですね。あれだけのケガと衰弱で一週間程度でもう出歩けるくらいにはなりましたか」

魔王「彼女仕事が欲しいんじゃないかな?ほら、数日前に話しただろ?」

オーク「あのヒトを引き入れるって話だったな……ありゃマジだったのか」

魔王「うん、大マジ」

側近「ハァ……また面倒な事を」



62: 2014/12/31(水) 21:56:53.15
天使「ジー……」ジー


オーク「手伝いたいのならこっちに来て話に参加すりゃいいじゃねぇか」

側近「昨日今日で入ってきた人では私たちの話については来れませんよ」

オーク「そりゃそうか。聞くタイミングが欲しくてあんな扉越しにこっち見てんのね」

魔王「二人とも、彼女の加入には反対しないんだね」

オーク「俺からは拒む理由が無い。襲ってきた天使の件も、俺たちも狙われているからチャラとして、人手が増えるのはむしろ喜ばしい」

側近「貴方は一度決めたことは基本的に撤回しないから。彼女もその話を受け入れたのならば、それ以上私がいう事は特には無し」

魔王「うん、聞き分けのいい子だ」

側近「やめろ、その手を頭に乗せるな。殴るぞ」

魔王「ハハハ、こやつめ!」

側近「ふんッ」メキャッ

魔王「」



63: 2014/12/31(水) 21:58:09.44
天使「あ、あの……私は何をすればいいのでしょうか」

側近「特に今してほしい事は無いので待機していてください」

天使「は、はぁ……」

オーク「魔王の回答次第でそのうちに忙しくなるさ、多分な」

魔王「カフッ……か、考えておくよ」

天使「しかし……」

側近「大人しくしていろ、と言った方がいいですか。ともかく、今貴女が出張ったところで邪魔でしかないので」

魔王「そんな言い方しなくてもいいだろう」

側近「本当の事でしょう」

オーク「確かに言い方は悪いが、まぁ出来ない事を押し付けるつもりも無いしな。本当に手伝う気があるのなら後で俺を含めて誰かしらが教えると思うから、それまで待機していてくれ」

天使「はい……」



64: 2014/12/31(水) 21:58:59.57
オーク「ありゃ……行っちゃった」

魔王「側近、君は彼女に対して少しキツイようだけど?」

側近「私は基本的に誰に対してもこんな感じだから。よく知ってるでしょうに」

魔王「う、まぁ……そうだけど。彼女は病み上がり何だからもっとこう……」

側近「特別扱いしろと?私は人を選んで態度を変えるという器用な事は出来ないから。それじゃ、隣村まで行くために馬車の用意をしておくから。貴方達も準備しておいて」

魔王「おい!まだ話が……もう何なんだよ」

オーク「察してやれ、お前さんがあんまり天使さんに構うもんで嫉妬してるんだろ」

魔王「……彼女がそんな娘に見えるかい?」

オーク「……あー、悪い。見えんわ」



65: 2014/12/31(水) 21:59:57.41
天使「ハァー……」

竜爺「……」

天使「はぁ~~~」

竜爺「お主……ヒトの隣に来ておいて突然なんじゃ」

天使「いえ、竜爺様のお傍になら何かお手伝い出来るような事が転がり込んでくるんじゃないかなーと思ったのですが」

竜爺「人を要介護人扱いするでないぞ!?」

天使「違いますよ!何かアドバイスをしてほしかっただけですから!」

竜爺「ならば口に出さんか!あと馴れ馴れしい!」



66: 2014/12/31(水) 22:01:13.84
天使「ご、ごめんなさい!ここ数日話し相手になってくれたのが竜爺様だけでしたので嬉しくてつい……ご迷惑でしたよね」

竜爺「ふん、ワシも暇だっただけじゃ。そんなことは気にせんでいいが」

天使「仕事をくださいッ!」

竜爺「話に脈絡を付けてくれ……そんなことより、お主はこれでよかったのか?」

天使「魔王様に付いたことでしょうか?」

竜爺「うむ。既に追われている身、どこかに所属するのは悪い選択肢ではない。じゃが、お主にも目的があって地上に来たのだろうて」

天使「それは……魔王様に従事していても出来る事です。この命があれば……」

竜爺「そうか、それならワシも何も言わん」



67: 2014/12/31(水) 22:01:41.09
竜爺「で、ワシから何のアドバイスが聞きたい。下らん事だったら火を噴くぞ」

天使「今の私に出来るお仕事を教えてください!何でもします!」

竜爺「ワシからいう事は特には無い」

天使「えー、聞いていいって言ったのにー」

竜爺「お主、随分とラフな性格しておるのじゃな」



68: 2014/12/31(水) 22:02:33.78
天使「魔王様たちは目標をもって行動されています。ですが私にはまだ詳細は伝えられていません」

竜爺「うむ、まだ言うべきではない事だからな。今はお主は云わば研修期間のようなものじゃ」

天使「側近さんにもハッキリと邪魔と言われてしまったので……」

竜爺「ああ、真面目な話をしているときにウロチョロされたら邪魔じゃろうな」

天使「私の命を助けてくれた彼らに出来るだけの恩返しをしたいというのも事実です」

天使「今の私に出来る事なんて限られていますからなおさら……」

竜爺「そう、今のお主に出来る事なぞ限られておるじゃろ。だったらその範囲で出来る事があるじゃろ。考えるより動け、それでダメなら教えを乞え……いや、乞ってダメだから動くべきか」

天使「お掃除とか、お料理とか……ですか?迷惑ではないですか?」

竜爺「別に、お主の行動に文句を言う奴はここには居らんよ。よっぽど変な事をやらかさん限りはな」

天使「……は、はい!それじゃあ励んでまいりまする!」

竜爺「ああ、まぁ程ほどに頑張って来い」



69: 2014/12/31(水) 22:03:22.80
天使(なるべく皆さんが帰ってくる前に事を終わらせておけば私へのポイントは中々に高まりますね、うん)

天使(あ、あとこの人数ですし、買い出しに行けばお夕飯も量的には問題なさそう)

天使(そうと決まれば、魔法で精霊を召喚して手伝ってもらって……)

天使「よし!じゃあ張り切ってこの通路の掃除から……って」

天使「えぇ――――――……」



70: 2014/12/31(水) 22:04:12.85
……


魔王「何というかまぁ、酷かったね」

オーク「満足に食糧の調達も出来ず、装備も行き届いていないおかげで魔物への対策も危うい」

側近「支援なんて言っている暇も余裕も無い村でしたね。悲惨そのものです」

魔王「あそこの領主は何をしているんだ。あの地域の魔物は他と比べたらレベルが違う。武具の供給の不届きは農家への被害へ直結する、なのに」

側近「お金も人員も、あればあるだけ自分へ宛がう。余れば他の貴族や隣国へおべっかと一緒に配って回って機嫌取り」

オーク「一周回って清々しいくらいのクソっぷりだ。あの村の連中は文句言う気力もなくなっている。生きていくのに精いっぱいだ」

側近「辺りの魔物だらけの環境と貧困のせいか、あの土地から離れて暮らせる事も出来ず、ただ淡々と貴族に搾取されるだけ」

魔王「ハァ……あんな状況を救うには、君たちの言う通りに竜爺に取り入ってもらうしかないか」

側近「決めるのが遅すぎ。地盤を作るのもまずは土地を手に入れてからじゃないと始まらないから最初からそうすべきだったの」



71: 2014/12/31(水) 22:04:51.81
魔王「ともかく、竜爺に頼んで話し合いの場を設けさせてもらおう。現状、ああいった村は他にも沢山あるハズだ。早めに手を打たないと」

側近「うん、利用価値がなくなる前には何とかしなければいけない」

魔王「だから君はどうしてそう……」

オーク「魔族なのに他者の事を優先するアンタが変わってるんじゃないか?」

魔王「偏見だァ!魔族馬鹿にすんなァ!」

オーク「そんな涙目にならんでも……さて、方針が決まった所で今日はお開きかね。明日も他の村を見て回るんだ、今のうちに休んでおかなきゃな」

側近「……おや」

オーク「どうした?」

側近「何だか違和感がありませんか」

オーク「違和感?っつっても、いつもの城内となんら変わりは……ん?」

魔王「これは……」



72: 2014/12/31(水) 22:05:20.50
天使「あ、お帰りなさい皆さん」

魔王「ただいま。これは……君がやったのかい?」

天使「はい!」

側近「ふむ、ここの廊下だけではなく。部屋の方もある程度片付いてますね」

天使「城内がものすごーく汚かったので、今日一日かけて清掃をさせていただきました!」

オーク「なるほどな。いつもと違うと思ったらある程度綺麗になってたって事か」



73: 2014/12/31(水) 22:05:54.21
側近「一人でやれる量ではないですが、何か魔法を使ったのですか」

天使「はい、降霊魔法で精霊を呼び出して手伝ってもらいました」

魔王「上位魔法か、凄いね。この城全体の清掃の規模を考えるとかなりの数を召喚した筈だ。大した実力だよ」

天使「いえ!これしか取り柄がないもので!」

側近「それを掃除に使うとは、素晴らしい才能のなんというか無駄遣いと言うか」



74: 2014/12/31(水) 22:06:22.94
天使「そうだ、皆さん!夕食も用意しました、お口に合うかどうかは分かりませんが、よろしければそちらもどうぞ!」

オーク「おお!マジか!助かるよ、いつも俺が作ってるんだが今日は疲れていてな」

魔王「ハハ……僕があんまり料理が出来ないからずっとオーク君に頼りっぱなしだったからね。ありがとう、貰うよ」

側近「……」

天使「あ、側近さんも」

魔王「そうだね、貰ったらどうだい?」

側近「私は構いません。あまりお腹は減っていませんので」

天使「そうですか……もしお腹が空いたら仰ってください、また私が作りますから!」

側近「……では失礼します」



75: 2014/12/31(水) 22:06:51.06
魔王「やれやれ、困った子だな。あの子も」

オーク「協調性が無いってのは色々となぁ」

天使「あんまり馴れ合う事が好きではない方なんですね」

魔王「そうそう、それで僕はいつもぞんざいに扱われて……トホホ」

天使「ですが、彼女からは貴方達の事をとても大切に思っているのは伝わりますよ」

オーク「まぁ慣れだな慣れ。あんなのでも気は使ってくれるしよ。言葉の端々に容赦のない罵倒があるが」



76: 2014/12/31(水) 22:07:26.87
魔王「でも、どうしてまた掃除や料理なんかを?言わなきゃ得に誰も気にも留めなかった事なのに」

天使「私なりに、そして私が出来る範囲の事をしただけです。どうしても、皆さんのお役に立ちたかったので……と、その前に」


天使「城 内 に い つ の 物 か 分 か ら な い 骸 の 山 が 誰 も 気 に も 留 め な い 事 な ん で す か!?」


オーク「あー、まー白骨だらけだったのは常々何故かと疑問には思っていたが誰も触れないからよ、作り物だと思って俺も何も言わなかった」

魔王「アハハ、本物だって事は知ってたけど竜爺なりのインテリアかと思ったよ。いい趣味してるなと思ったんだけど、勿論褒めてるけどね」

天使(やっぱ感性がちょっとズレてるなーこのヒト)



77: 2014/12/31(水) 22:08:02.83
……


オーク「美味い……ッ!!美味いッ……!!」

竜爺「おぉ……女神じゃぁ……ワシらの荒んだ食生活の前に潤いを与える為に舞い降りた女神の料理じゃぁ……ッ!!」

天使「そ、そんな大げさな……」

魔王「二人はともかく、僕の種族はこういう文化は無かったから、ホント今まで碌な食事をしていなかったんだなぁと感じるよ」モッキュモッキュ

天使(あ、食べ方可愛い)

オーク「今まで動物を捕まえては生で食ってたんだったか?」

魔王「そだね。捌く事もしなかったからそのまま齧ったり丸のみしたり」モッキュモッキュ

天使「oh...」

竜爺「ワシ地上生まれでよかった」

オーク「アンタ魔物の部類だろ。それくらいしろよ」



78: 2014/12/31(水) 22:08:34.62
魔王「ご馳走様、美味しかったよ」

天使「はい、お粗末様です。よろしければ、私が毎日ご飯を作りましょうか?」

竜爺「マ ジ で ?」

オーク「おーい、ありがたいけどコレ一応俺の仕事ー……」

魔王「まぁまぁ、オーク君には他にやってほしい事はあるんだし、楽出来ると思ってさ」

オーク「楽しんでやってたんだけどねぇ」

竜爺「まぁお主の飯も嫌いでは無いが、それ以上に適任の人材が現れてはのう」

オーク「チクショウ」



79: 2014/12/31(水) 22:09:30.93
天使「お酒も用意していますので、よろしければこちらもどうぞ」

竜爺「おお!よし興が乗った!オークよ、酒に付き合え!」

オーク「おう、竜爺さんがどのくらい飲めるかは知らんが、明日に支障が無い程度には付き合ってやるよ」

天使「魔王様は?」

魔王「ううん、僕は今日はいいよ。そんなに強くは無いから、明日に響きそうだし」

竜爺「では、今宵はワシらだけで楽しむとしよう!ウッヒョー!!」

オーク「あー……程ほどにな」

魔王「じゃあ、僕はこれで」

天使「あ、魔王様。もうお休みですか?」

魔王「うん、少し出歩いてからね。おやすみなさい」



80: 2014/12/31(水) 22:09:57.30
……


側近「……」

魔王「……やっ、側近。どうしたのこんな所で」

側近「夜風に当たりに来ただけ。貴方は」

魔王「ん、僕もだよ。気が合うね」

側近「城内で私を探し回ってたくせに」

魔王「ゲッ、バレてた?」

側近「カマかけただけ」

魔王「酷いなぁもう」

側近「それに……」

魔王「んー?」

側近「気付いていないのならいい」



81: 2014/12/31(水) 22:10:25.83
側近「それで、私に何の用」

魔王「彼女の事を、あまりよくは思っていない様に感じてね」

側近「天使さんか……魔界の者と天界の者、相容れぬ存在が一緒に居る事はあまり好ましくない。貴方の決定ならば従うけれど、正直私は上手くはやっていける自信は無い」

魔王「感性の違いからかい?それとも、魔族としての教えから?」

側近「私個人の見解でしかない。でも、それを彼女に対して正面から口に出す程子供でもないから、気にしないで」

魔王「態度に出ている時点で十分子供だよ」

側近「いつまでも私を子ども扱いしないで」

魔王「フフ……はいはい」

側近「ふん……」



82: 2014/12/31(水) 22:10:54.62
魔王「でもね、側近……セピア」

側近「なに」

魔王「種族の違いで上手くやっていけない、なんて事は無いよ」

側近「それを否定してしまえば、貴方のやろうとしている事全てが無駄になるのは分かっている。でも根拠は」

魔王「僕はかつて、君の生まれるずっと前に地上に出たことがある……って言うのは前に話したよね?」

側近「耳にタコが出来るくらい聞いた」

魔王「ハハ、失敬。僕はその時に、生涯の友と呼べる人物と出会ったんだ」

側近「いい機会だし、貴方の考えをもう一回聞かせて」

魔王「うん、語るつもりだよ」



83: 2014/12/31(水) 22:11:33.00
魔王「種族は違えど、僕たちは共感し、共に旅をし、そして同じ夢を見た」

側近「……」

魔王「世界の統一!皆、姿形は違えど、この広大な地上に生まれ、そして別れていった同じルーツの生き物なんだ!」

魔王「お互いの主義主張が違うのも分かっている、長き時の遡行の中であった数々の戦いの記憶で完全な和解にも時間がかかることは分かっている、でもね」

魔界「果てしない時間の中を生きる事を許された僕たちだからこそ、そんな事を考え想い行動したっていいんじゃないかな。長寿なのは意味のあることなんだ、きっと」

魔王「ゆっくりと、それでいて着実に」

魔王「僕たちでダメなら次の世代へ、それでもまたダメなら次の世代へ」

魔王「この意思は消えない、絶やしたりなんてしない!」

魔王「そうやって、僕と彼は同じものを目指した」



84: 2014/12/31(水) 22:12:19.02
側近「ありがと、説明する手間が省けた」

魔王「んー?」

側近「それで、その友人とやらはどうしたの。同士なのなら力を借りる事も考えにあるんじゃないの」

魔王「うん、だから探している。丁度いい機会にも恵まれたしね」

魔王「……最後に、別れる時にお互いを守ることが出来なかったから……また会えると信じて、彼との邂逅を目指して……」

側近「夢を見るのはいいけれど、とりあえず現実を見て。今は成り上がることを優先で、手を汚すことも視野に入れて……ね」

魔王「わ、分かってるって……急に現実に引き込まないでよ」

側近「……」

魔王「あ、今笑ったでしょ」

側近「……笑ってない」

魔王「笑った!クスッて笑った!」

側近「うるさい、殴るぞ」

魔王「ごめんなさい」



85: 2014/12/31(水) 22:13:01.22
側近「さて、私はそろそろ部屋に戻ります」

魔王「食事はいいのかい?」

側近「さっきも言ったでしょ、お腹は減ってない。あと、その物陰に隠れているヒトのフォローもお願い」

魔王「え?」

「ひぅん!?」

側近「バレバレですよ、天使さん」

天使「あー……やはり手練れですね側近さん」

魔王「い、いたのかい!?いつから……」

側近「最初から。着けられてたのに気が付かないとは……平和ボケも大概にしておいて」

魔王「精進します……」



86: 2014/12/31(水) 22:13:30.73
側近「それじゃあよろしく」

魔王「あ、うん……」

天使「そ、側近さん私の事が嫌いなのでしょうか……」

魔王「天界そのものにあまり好くない感情があるみたいだ。魔族としての宿命か、彼女の偏見かは知らないけど」

天使「上手くやっていけるのでしょうか……」

魔王「時を経れば彼女も君の良さが分かるよ」

天使「魔王様は私の良さを分かっているのですか?一週間程度の付き合いなのに」

魔王「分かるよ、僕は何でもお見通しだ」

天使「フフ、そういう事にしておきます」



87: 2014/12/31(水) 22:14:20.96
魔王「それで、図らずとも僕の夢物語を聞いてしまった君は、僕に何を感じ、何を思った?幻滅した?それとも呆れた?」

天使「いいえ、とても立派な思想を持っていると私は感じました」

魔王「お世辞かい?」

天使「意地悪ですね、魔王様」

魔王「ゴメンゴメン、続けて」

天使「はい。私も、まだ幼いころに魔王様と同じ考えを持っていました」

天使「天界の教えから口には出せませんでしたが、天界も魔界も地上も、何の垣根も無い平和な世界を」

天使「誰も争わないそんな世界を、そんな夢物語を想像していました」



88: 2014/12/31(水) 22:15:18.99
天使「でも、難しいですね。天界は天界の人間同士で頃し合いをします。今も、上では戦争の真っ最中です」

魔王「君はその混乱に乗じて地上へ?」

天使「はい。私の仕える神から信託を承り、こうして地上へ馳せ参じた故」

魔王「戦争中なんだ、さぞ重要な事なんだろうね」

天使「はい、とても……」

魔王「どこも、誰もが同じなんだね。自分たちの居場所を作る為に、そして守る為に争う。やっぱり、上も下もここも同じなんじゃないかな。仕方がない事だ」

天使「争いは許容する……と?」

魔王「うん、だって生きているんだもの。ヒトが二人居れば争いは起こる。けれど、分かりあう事も出来る」

魔王「こんなくだらない事を夢見る僕を、君は笑うかい?」

天使「いいえ、笑いません。私の兄と同じ志を持つヒトを私は決して笑いません」

魔王「……うん、ありがとう。君の兄さんもその言葉を聞いたらきっと喜ぶよ」

天使「……はい」



89: 2014/12/31(水) 22:15:55.22

―――
――――――


(それでお前、名前はなんというんだ?)

魔王(僕……?名前は……無い)

(何だ、魔人ってのは名を持たんのか?)

魔王(僕の種族は……名を持たない……持っていても……呼ばない)

(寂しい連中だな。見た目が化け物なだけに、本当に魔物となんら変わらん)

魔王(僕は……魔物なんかじゃ……ない)

(分かっている。こうして俺と話す事が出来るんだ。他と違うのは一目瞭然だ)



90: 2014/12/31(水) 22:16:46.59
(そうだな、これから一緒に行動してやるんだ。呼ぶのに不便だ、名前を付けてやろうか)

魔王(君が……僕に……?)

(ああ、同士よ、ありがたく思え!……そうだな、姓は俺の物を少し変えたものでいいか。そしたら名前は……)

魔王(あ……)

(ん?どうした?)

魔王(雪……)

(ああ、この白いのか。博識だな、俺はこれの名を知らなかった。上ではこんなものは降らんからな)

(雪……冬か。冬の地上……うん、いい名前を思いついたぞ)

(心して聞け!お前の名前は―――)



91: 2014/12/31(水) 22:17:14.78
――――――
―――



魔王「ッ!」

魔王「……」

魔王「フフ、彼女に充てられて感傷に浸り過ぎたかな」

魔王「懐かしい夢だ……」

魔王「とても……」



92: 2014/12/31(水) 22:17:47.87
……


天使「魔王様、準備の方は出来ています」

魔王「ありがとう、それじゃあ出発しようか」

オーク「ん?天使さん、アンタついてくるのか?」

天使「はい、しばらく城内のお仕事に従事していましたが、私としても各地を回った方が私の目的を果たしやすいので。それに、魔王様の身の回りのお世話をしていた方が暇な時間も無くなりそうですから!」

側近「暗にトラブルメーカーだと言っているのですね。分かりますよ、とても」

天使「違いますよ!?」

魔王「ここ一か月ずっと頼りっぱなしだったからね。彼女も彼女の目的があって僕たちに同行するんだ、構わないだろう?」

側近「……貴方が言うのなら」



93: 2014/12/31(水) 22:19:08.06
竜爺「では今日はワシは一人で留守番か」

魔王「貴方の伝手で、町の方で貴族との話し合いをした後に野暮用で隣国へ向かう。しばらく帰れないので留守をお願いするよ」

天使「竜爺様!帰ってきたら私がたっぷりと話し相手になりますから!」

側近「ご当地ゲテモノ料理のお土産も買ってきます」

オーク「仕事の書類も全部渡す」

魔王「ついでに領収書も竜爺の名前で出すよ」

竜爺「全部いらんわ!?とっとと行って来い!!」

天使「私は本気だったのになー」

竜爺「独り身の年寄り扱いをするな!?」

オーク「事実じゃねーか」



94: 2014/12/31(水) 22:19:34.24
……


天使「……」

魔王「どうしたんだ、窓の外をじっと見て」

天使「いえ、もう一か月にもなるんですね。私がここに来て」

魔王「早いものだね。いや、地上に来てからは時の流れ全てがゆっくりに思えるくらいだ」

オーク「やっぱ魔族とか天使ってのは時間の流れが地上の俺たちと違うのか?」

側近「貴方は前を向いて馬車の運転をしてください、ただでさえ荒いんですから」

オーク「わ、話題に参加させてくれたっていいだろ……」



95: 2014/12/31(水) 22:21:06.98
魔王「ハハ、そこまで酷な事を言わなくたっていいだろう?意識の違いかな、時間の感じ方って言うのは」

天使「長いと思えば長いですし、短いと感じればまた短く感じます」

側近「地上でも長寿の生物は眠ることで長い時を過ごす者もいるとか」

魔王「竜なんかがそうだね。竜爺は時間がもったいないって言って夜以外はずっと起きているけど」

オーク「居眠りはするがな」

側近「会議の後に向かう国の辺境に竜が棲む洞窟があるそうだけれど、観光名所と化しているようで。帰りに寄っていこうか」

魔王「懐かしいな。数千年前に地上に出たときにその竜にあった事があるんだ、使い魔越しだったけどね。行ってみてもいいかもね」

オーク「や、やめてくれよ……あそこまで行くのにどれだけ時間がかかると思ってんだよ……ウチから隣国の首都に向かう距離の何倍もあるんだぞ」

側近「冗談ですよ流石に」



96: 2014/12/31(水) 22:21:45.27
オーク「よし、もう目的地だ。降りな」

魔王「んー!長時間座りっぱなしだったから身体が痛いや」

側近「さ、荷物をもって。ここの領主の貴族の屋敷に真っ直ぐ向かうから」

オーク「町ン中は馬車移動禁止ってのがネックだな」

魔王「危ないから仕方がないね。さ、行こうか」

天使「あ、魔王様。荷物は私が持ちます」

魔王「そうかい?じゃあお願いしようかな」

側近「ダメです。貴女はここに残ってください。あとオークさんも」

天使「え?」



97: 2014/12/31(水) 22:22:15.73
オーク「俺もか?なんでだ?」

側近「オークさんはこの町の治安の確認と貴族に対する情報を集めてください。話し合いなんて今回だけでは終わらないでしょうし、それ自体が武器になるかもしれません」

天使「えっと、私は……」

側近「正直話し合いの場に出られてもすることがありませんので、宿でも探しておいてください」

天使「わ、わかりました……」

魔王「ほら、そんなにしょ気ないで。側近も、君が君の目的の為に行動しやすいようにそういう仕事を与えてくれたんだよ、きっと」

側近「いえ、特にそのような事は考えていません。時間が余っているのでしたらお好きに使ってください」

魔王「あー……まぁ機会は逃さないようにしなきゃ、ね?」

天使「はぁ……」



98: 2014/12/31(水) 22:22:54.72
魔王「それじゃあ、二人とも頼むよ」

側近「では、お願いします」

オーク「ああ、了解だ」

天使「行ってらっしゃいませ、魔王様、側近さん」

天使「……ハァ」

オーク「そんな顔すんなって。適材適所って言葉もあるんだ、俺たちは俺たちの仕事をしようや」

天使「オークさんはいいんですか?大事な話し合いなのに参加出来ないなんて」

オーク「俺は頭も良くは無いし駆け引きなんて以ての外、その上熱くなりやすい。外交なんてのは不向きだ、だからこうして動き回った方が性に合っている。そっちの事ははあの二人に全部任せられる」

天使「とても信用なさっているんですね。付き合いも長いからですか?」

オーク「いや、俺はアンタに毛が生えた程度の期間しか付き合いは無いぞ」

天使「え?そうなんですか?」



99: 2014/12/31(水) 22:23:35.74
オーク「そう思うと竜爺も同じくらいだな。大した時間は一緒にいない」

天使「オークさんはどうして魔王様についたのですか?」

オーク「ん、あぁ……なんつーか俺もまだまだ青いというか」

天使「ふむ?」

オーク「連中と出会う前の俺は食うに困っていてな。俺の出身で辺境にある集落の連中も、長として養ってやらなきゃいけないから山賊紛いの事をやっていたんだ」

天使「お、長をやっていたのですか」

オーク「朦朧とした年寄りしかいない所だったからな。若いの働き手は俺くらいなもんだったし、誰かがやらなきゃ集落自体が潰れちまう」

天使(若いって、結構老けて見えるけどこのヒト何歳なんだろう……)

オーク「おいアンタ今結構失礼なこと考えたろ」



100: 2014/12/31(水) 22:24:47.46
オーク「山賊って言っても、相手は違法な手段で商売しているような奴や悪どい冒険者くらいしか襲ってなかったけどな。まぁそれが免罪符になるかと聞かれたらそうとは言えんのだが」

天使「そうですね、いくら生きる為といっても誰かを犠牲にすることはよい事とは言えません」

オーク「まぁな……だが、氏ぬのを待つよりは俺は戦う事を選んだ。そこで出会ったのがあの二人だ。丁度冒険者を襲っているときに出くわしてな」

天使「止めに入られたのですか?」

オーク「いや、"そいつは私たちが狙っている賞金首ですので横取りは許しません"って言って側近にぶっ飛ばされた……俺も食い下がったんだがまったく歯が立たなくてね」

天使「あー、ご愁傷様です」



101: 2014/12/31(水) 22:25:18.13
オーク「目を覚ました時には魔王に物凄く謝られたな。こっちは山賊なんだ、そんな謝る必要無いってのにな」

オーク「んで、二人は丁度資金稼ぎの為に冒険者ギルドから指名手配されている賞金首を狩りまくってったって話だったんだが、これがまた凄くてな」

オーク「数日で登録されていた賞金首を全員とっ捕まえやがって、完全に英雄扱いだったな」

天使「凄いですね、あの二人……」

オーク「まぁ戦っていたのは側近だけだったみたいだが」

天使「あ、はい、そんな事だろうとは思っていました」



102: 2014/12/31(水) 22:25:59.66
オーク「本当は俺みたいな山賊も捕まった以上は刑罰を受けなきゃいけなかったんだが、二人が口を利いてくれてすぐに釈放。集落の連中も、賞金の一部で村に移り住むことが出来たんだ」

天使「そんなにしてくれたのですか?」

オーク「ああ、お人好しと言うか何というか……魔王と話している内に俺がアイツと共感して、そんでアイツがその好だってポンと金を出してくれたんだ。勿論側近には嫌味を言われまくったけどな」

オーク「その恩を返す為に、魔王の理想を実現させるために、俺は二人に下働きとしてついていくことにしたんだ。そんな理由があって俺はここにいる」

天使「貴方も魔王様に魅せられたんですね」

オーク「そんな所かな。惚れこんだ以上は尽くす、これが俺の流儀だ……貴方"も"?」

天使「フフ、何でもないですよ!さ、オークさん!早く情報収集と宿の手配をしましょう!」

オーク「お、おい。アンタは宿探すだけだろ。情報は俺が集めるから、自分の役目ってのをやらなくちゃダメだろ。それに兄貴も探してるんだし……」

天使「それはついでに出来る事だからいいんですよー!」

オーク「ついでってアンタなぁ……」



103: 2014/12/31(水) 22:26:35.94
――――――
―――



魔王「……クソッ」

オーク「落ち着け、らしくも無い」

側近「ハァ……頭が痛い」

天使「お、お水をどうぞ」

側近「ありがとうございます……ふぅ」

オーク「で、何があった?」



104: 2014/12/31(水) 22:27:05.45
側近「土地の譲渡の拒否と契約の破棄……といったところでしょうか」

天使「契約?と、言いますと」

側近「そこは順を追って説明しましょう」

魔王「土地の譲渡については渋られても仕方がないとは思っていたけどね。そこは仕方がない」

オーク「そりゃ突然現れて土地の権利を譲れなんて言われても誰だって納得は出来んだろ。完全に俺たちは侵略者だ」

魔王「そうだね。でも、コレは過去に竜爺が交わした契約の上に成り立ったものなんだ」

側近「元々、ここらの土地の全ては竜爺様個人の所有物だったそうです」

天使「ぜ、全部ですか!?あのヒトは一体何者なんですか……」

魔王「多くは語らないけれど、どこかのお偉いさんだったらしい。立ち振る舞いとか見るによく分かるよ」



105: 2014/12/31(水) 22:27:41.97
側近「竜爺様が現役を引退なさるときに、信用出来る数十名に非常に多くの、それもどの国にも属さない土地を"貸し与えました"」

オーク「貸しただけ、か」

側近「契約内容としては。"領地を治める者は、民を蔑ろにするべからず。共存関係の上で成り立つ事、これを忘れるべからず"、"争いによる領地侵略行為を互いに防ぐため、その土地により新たな国を作ることを禁ず。決して他の者から土地を奪う事を許さない"」

側近「"新たに領を持つに相応しき者が現れた場合、民との話し合いの末どちらが土地を治めるに相応しいかを決め、我にその内容を示せ"」

側近「他にも色々と制約はありますが省略します。そして最後に、"以上を守れぬ者。侵略行為、および略奪行為。民を飢えさせ、私腹を肥やす者が現れた場合、例外無く全ての権限を剥奪し、我が力をもって裁きを下す"と記されています」

オーク「あの爺さんこんな文書けるのか」

天使「そこですか!?」

魔王「彼らは時を経て力を持ち功を上げ他国との交友で貴族となり、領主として代々土地を収めてきた。でも、皆近年になって先代の教えに背き、立場を利用して傍若無人に振る舞っている」

天使「はい、町で集めた情報もネガティブなものばかりでした」

側近「おや、貴女には情報収集をしろだなんて言っていませんけど」

天使「あ、そ、それは……」

オーク「構わんだろう。男の俺だと手が回らん事もある、だから手伝ってもらった。それでいいだろう」

天使「オークさん……」

側近「そうですか。勝手な事をしたオークさん後で折檻ですね」

オーク「何で!?」

魔王「まぁまぁ、悪手ではないんだからそこまで厳しくしなくても」

側近「ま、その話は後にして。話を戻しましょう」

天使(ごめんなさい!ごめんなさい!!)

オーク(いいってことよ……うう……)



106: 2014/12/31(水) 22:28:38.91
側近「こちらとしてはなるだけ穏便に済ませるという魔王の意向で、今の生活は出来なくなる代わりに不自由はしないという条件を出したのですが」

魔王「あろうことか、契約書を突きつけても彼らは知らないと頑なに認めやしない。彼らも対応する同じ書を持っているハズなのに」

側近「この契約が履行されていなければ彼らに得は無いのに。古い者にそんな権限はないなどと、まったくほとほと呆れますね」

魔王「僕が怒っているのはそこだけじゃない。領主はこの地に住む人々を自らの為の機械の歯車と呼んだ、飼っているとも言った。彼らは人間だ!貴方を動かす為に働いている訳ではない!!」

オーク「それについてだが、税収も無意味に高く、ショバ代もジワジワ上げているみたいだ。その巻き上げた金の行方は……お察しだ」

天使「国の管理ではない事を利用して、本当に好き放題やっています。他にも人身売買さえ平気でやっているとか。まるで同じヒトを家畜扱いしている」

オーク「機械だの家畜だのと、傲慢をそのまま形にしたような奴だな。独裁国家気取りでも度を越えてやがる」

魔王「さらに、この町を出るとすぐに未開拓地が広がっている。自分たちの土地なのにどうしてこう先を見据えないんだ。交通の便のせいで商人、旅人、冒険者が通えない地域は廃れ消えていく」

側近「その通り。交易も盛んではなく、大枚叩いて趣向品を多く仕入れているようで……先代の遺産を食いつぶして豪遊。崩壊秒読み」



107: 2014/12/31(水) 22:29:21.16
側近「こちらで手引きして早めに破滅させる事も出来るけれど……そうすれば権利が正式に"何も言わない"竜爺様に戻るハズだから、こちらも手に入れやすくなるけれど」

魔王「それではダメだ。その間に町への徴収が酷くなる。迅速に乗っ取る方向で行く」

側近「ふーん……"乗っ取る"んだ」

魔王「奴らは人間じゃない、魔物だ。容赦はしないさ」

天使「……魔王様?」

魔王「ん、ゴメン。らしくないね」

側近「……」



108: 2014/12/31(水) 22:29:49.86
魔王「今日はもう早めに眠ろう。明日の朝には出発しなきゃいけない」

天使「え?もうここを出るのですか?話し合いは……」

魔王「長丁場になることは見越していたんだ。竜爺にも言われたしね」

オーク「元々言って聞くような連中じゃないってのは分かってたんだ。ま、こっちも頭冷やす時間は必要だ」

魔王「うん……」

天使「魔王様……」



109: 2014/12/31(水) 22:30:16.81
側近「天使さん、早く部屋に戻りますよ。それとも、魔王に添い寝でもする気ですか」

天使「ちょっ!?え!?」

側近「冗談ですよ。真に受けないでください」

天使「すみません……」

魔王「ハハ、君みたいな美人さんに添い寝をしてもらえるなら、僕もすぐに楽に慣れるんだけどね」

天使「はうあ!?」

魔王「ハハハ、ホント可愛いな君は」

天使「二人揃って私をからかうのはやめてください!」

魔王「冗談じゃないんだけどなぁ」

天使「ほぐぅ!?」

側近「バカやってないで行きますよ。おやすみなさい」

魔王「ああ、おやすみ。二人とも」

天使「そ、それではまた明日ー!」



110: 2014/12/31(水) 22:30:48.60
オーク「……」

魔王「……」

オーク「ところで魔王、まだ聞いていなかったが隣国にはなんの用事があるんだ?」

魔王「本当にくだらない野暮用と……国としての体制を学びに、かな」

オーク「嘘つけ、野暮用はともかくそんなもん竜爺に聞けばいい話だろう。あのヒトは物知りだろう」

魔王「本当だよ、竜爺は僕に多くは教えてはくれない。教えてくれるのは生きていく方法だけ」

オーク「それも立派な国の成り立ちの話だろうに」



111: 2014/12/31(水) 22:31:28.68
魔王「本当はね、竜爺が隣国の先代の国王に掛け合ってくれて、会ってくれることになったんだ。一人限定って事で」

オーク「ほう、そいつぁスゲェじゃねぇか」

魔王「うん、でも会うのは僕じゃない。側近だ」

オーク「どうしてまた……」

魔王「……恐らく、僕の代では何も変えることは出来ない。ギリギリ、国を作ることくらい……かな?」

魔王「そして、僕の跡継ぎとして彼女に王として動いてもらおうと思っている」

オーク「まぁ確かにアイツなら出来るかもしれんが……人は着いてこないと思うが」

魔王「彼女の良さは僕が一番分かっている。だから大丈夫、きっとみんな彼女に着いていくよ」



112: 2014/12/31(水) 22:31:56.10
魔王「彼女には今の内に色々な事を見て聞いて学んでもらって、そして僕の意思を未来へ繋げてほしい」

魔王「この思いを絶やさなければいずれ……きっと事は成せるはずだから」

オーク「そっか、お前の代で無理なら、俺もその夢の実現は見れねぇか」

魔王「ゴメンね、大見得きって君を連れ出したのにこんな事を言ってしまって」

オーク「構わねぇよ。色んな覚悟を決めてアンタらについていったんだからよ」

魔王「うん、ありがとう。だからこそ、君には出来る限りの事をしてあげたい」

オーク「俺に?」

魔王「うん、君に。何でも言ってよ、君が望むものを。僕に出来る事ならば用意してみるからさ」

オーク「ん?いま」

魔王「まて、男二人の空間でそれは危ない!」

オーク「へへ、冗談だよ」



113: 2014/12/31(水) 22:32:34.63
オーク「俺の欲しい物はアンタにゃ用意出来ないよ」

魔王「おやおや、天下の魔王様に用意出来ない物とは。大きく出たね」

オーク「なーにが天下だっての……俺が欲しいのはな、家族だ」

魔王「家族……」

オーク「本当に心から笑いあえて、アンタみたいに自分の意思を後継に繋げてくれるような子供を持って」

オーク「壊さないように大切にして、そしてそいつらに囲まれて氏んでいきたい。それが俺のささやかな願いだ」

魔王「……ああ、そんな大きなものは僕にはプレゼント出来そうにない」

オーク「おうよ!自分で掴みとってナンボの物だからな!」

魔王「……さて、お互いそんな大層な願いを持っているけれど……」

オーク「まずは国をつくらなきゃ意味がねぇ!ってな」

魔王「その通り!丁度今日のイライラも忘れられたところでお開きにしようか」

魔王(……家族か。僕にもいつか持てるかな、そんなものを)



114: 2014/12/31(水) 22:33:39.57
――――――
―――



側近「私は待ち合わせの場所に直接向かうけど」

魔王「うん、よく話を聞いて学んできてね。それと失礼のないようにね」

側近「先代国王……今では賢人とまで呼ばれる人だそうだけど」

魔王「とても強い予言の力を持っているそうだ。年寄りと侮ること無かれ、何気に凄い方だよ」

側近「それより、どうして私なの。本来長である貴方が向かうべきだと思おうけれど」

魔王「僕は長時間話を聞いても覚えられない病なんだ……」

側近「ああそれは重病。帰ったら同じ内容の話を数倍に薄めて延々と聞かせてあげるから覚悟しておくように」

魔王「アハハ……お手柔らかに」

側近「それでは行って来ます」

魔王「うん、いってらっしゃい」



115: 2014/12/31(水) 22:34:17.29
オーク「おい魔王。側近にはホントの事言わんのか?」

魔王「彼女にあんな事を伝えたら怒られてしまうからね。もっと自覚を持てとか、実現させるための今までの行動なんだから最後まで責任持てとかね」

オーク「……それ過去に言われたんだな」

魔王「うん……お説教喰らったよ」

天使「わぁ!大きい町ですね!」

魔王「ん、ああ。この国の首都であり最大の城下町だ。治安もとても安定していて、何より物作りが盛んで人の出入りも多い。経済的にも安定している」

オーク「この国はお手本みたいなもんだな。見ていて安心できる」



116: 2014/12/31(水) 22:34:47.56
魔王「さて、側近が戻るまでかなり時間があるし自由行動と行こうか」

オーク「あぁ、俺はもう長時間の運転でクタクタだぜ……しばらく休むよ」

天使「……」

魔王「そうキョロキョロしないで。田舎者だと思われるよ」

天使「す、すみません!地上に来てからは珍しい光景だったので」

魔王「それじゃあ僕と一緒に見て回る?少し寄りたいところがあるし」

天使「は、はい!お供させていただきます!」

オーク「なんだよデートかよ」

天使「違います!」

魔王「ハハ、だそうだよ?」

オーク「へいへい、イッテらイッテらー」



117: 2014/12/31(水) 22:35:13.88
天使「それで魔王様、どちらへ向かわれるのですか?」

魔王「ん、ちょっと鍛冶屋にね」

天使「武器の調達ですか?それとも整備?」

魔王「少し違うかな。僕の持っている剣について調べてもらおうと思ってさ」

天使「剣……そのいつも腰に掛けている訳の分からない形をしたものですか」

魔王「君だっていつも剣を背負っているじゃないか」

天使「いえ、そっちじゃなくてですね……」



118: 2014/12/31(水) 22:35:41.70
魔王「この剣はあの城を訪れた際に手に入れたものなんだ。竜爺には触るなって言われたんだけど、抜いちゃったものは仕方がない」

天使「どこかに突き刺さっていたんですか」

魔王「うん、玉座に向かってね。刀身の方に一人、そして柄に付いている刃にもう一人、骸が貫通していたよ」

天使「よくそれを引き抜こうと思いましたね!?」

魔王「ハハ、魔王として行動するんだ。何か曰つきっぽい品が欲しかったしね。様になってるでしょ」

天使(ダメだ、このヒト色々とハイセンスすぎる……)



119: 2014/12/31(水) 22:36:13.39
魔王「この剣を見たときにね、何とも言えない寒気を感じたんだ。そして引き抜いてみろって声も聞こえた……気がした」

天使「気がした?」

魔王「うーん、側近が傍に居たんだけど何も聞こえなかったって言うし、それ以降特に剣が喋ったりすることは無かったからね。本当に僕の思い過ごしかもしれない」

魔王「でもその時に言われた、"お前ではなかったか"って言葉が凄く気になってね」

天使「魔王様、それって呪いの品の類では……」

魔王「まぁともかく鍛冶屋へ向けてレッツゴー!だよ!」

天使「はあ……なんか魔王様って何に関してもポジティブですね」

魔王「危機感無いとはよく言われるよ。ハハ」

天使「それ笑いごとじゃないですよー」



120: 2014/12/31(水) 22:36:40.92
……


魔王「……クソッ」

天使「魔王様、それ昨日も聞きましたよ」

魔王「どこの鍛冶屋も分からないだの専門外だの!都会ってこんなに冷たい所なのかチクショウ!」

天使「魔王様、その剣が機械仕掛けだから鍛冶屋さんでは専門外な気がするのですけど」

魔王「え!?鍛冶も機械も同じものじゃないの!?」

天使「あぁ、根本的に世間知らずだった」



121: 2014/12/31(水) 22:37:55.69
魔王「ともかく、見てもらえる鍛冶屋に当たるまで歩くしかないか」

天使「確かに見た事も無いような機械ですけど……一応剣と類ですが、見てもらえる人は限られそうですね……っと、路地裏にまで来てしまいましたね」

魔王「ふむ……ここら辺はあんまり治安が良くなさそうだ」

天使「繁栄しているといっても、発展途上国の裏側ではよく見られる事ですね」

魔王「貧困層……とまではいかないけれど、少しアウトローな感じはするね。気を付けて進もう」

天使「あ、魔王様。あそこ鍛冶屋じゃないですか?」

魔王「ん、それっぽいね。あそこでダメだったらもう諦めようか」

天使「ですねー、切りが無いですし」



122: 2014/12/31(水) 22:38:23.86
魔王「お邪魔しまーす……」

ドワーフ「……」

魔王「あれ、聞こえなかったかな?お 邪 魔 し 」

ドワーフ「ッるっせえな!!聞こえてるわ!!」

魔王「ヒィッ!!」

天使「魔王様……」

魔王「そんな目で僕を見ないでおくれ」



123: 2014/12/31(水) 22:39:07.10
ドワーフ「何だ?新聞の勧誘か?何かの押し売りかぁ?興味ねぇからとっとと帰れ!俺ぁ忙しいんだよ!」

魔王「ち、違います!僕は客です!ほら、この剣をちょっと見てもらいたかっただけですから!」

ドワーフ「剣だぁ?その機械に刃がくっ付いただけなのが剣だぁ?ふざけんな畑違いだ!帰れ!!」

天使「ああ、やっぱり同じ反応ですか……」

魔王「本当に少しでいいんです!他の鍛冶屋さんには全部断られて、もうここしかないんです!お願いします!」

ドワーフ「ふん、それでこんな薄暗い場所に辿り着いたって訳か。こんな寂れた所よりもさぞいい所の鍛冶屋を先に周りに回ったんだろうな」

魔王「返す言葉もございませぬ……」



124: 2014/12/31(水) 22:39:48.09
ドワーフ「……」

天使「な、なんですか?私をじっと見つめて」

ドワーフ「……まぁいい、見るだけ見てやる。条件付きでな」

魔王「ほ、本当ですか!?すまない、僕の為に犠牲になってくれ!」

天使「この話題の流れでどうしてそうなるんですか!私が何かされてしまう事前提ですか!」

魔王「流石にそれは冗談だけどね。それで、条件というのは?こちらが呑めない事を啓示された場合は素直に諦めるけれど」

ドワーフ「そこのベッピンさんが持っている剣。そいつも俺に見せてくれ」

天使「ッ!」

魔王「これを?」

ドワーフ「ああ、そうだ。それが条件だ」



125: 2014/12/31(水) 22:40:14.67
魔王「ふむ……」

天使「……」

ドワーフ「どうした?アンタの持ってる機械仕掛けの方を見てほしいんじゃなかったのか?」

天使「あのっ!」

魔王「分かった、じゃあ帰ろうか」

天使「え……」

ドワーフ「……」



126: 2014/12/31(水) 22:40:45.71
魔王「君がその剣を大切にしているのは分かっている。なるべく誰にも触らせないようにしていたのもね」

天使「ですが……」

魔王「それに、なに、僕のはただの剣だ。君のとはワケが違う……と言い切れないけれど。君の意思を無視してまで調べることでも無いしね」

魔王「すみません、そういう事で。じゃあ行こうか」

天使「だ、大丈夫です!」

魔王「え?」

天使「み、見せるくらいなら……その、奪ったりしなければいいです!」

魔王「君は……」

天使「魔王様にはお世話になっていますし、それに何やら只ならぬ物を感じているようですし、やっぱりちゃんと見てもらった方がいいと思うのです。そのくらいなら、私の仕える神も許してくれると思いますし」

ドワーフ「いつまで甘ったるい話を続けている、くだらん。早くせんか」

魔王「アンタ鬼か!?」

ドワーフ「ドワーフだ。どうでもいい、早くその機械仕掛けの方を出せ」

魔王「あ、ああ……」



127: 2014/12/31(水) 22:41:23.47
ドワーフ「ふん。手間を増やしやがって。どんだけふんだくってやろうか……」

天使「あのぅ……こっちの剣の方は……」

ドワーフ「もういらん、興味が無くなった」

天使「エー……」

魔王「あ、アハハ……結果的にはよかったのかな?」



128: 2014/12/31(水) 22:41:50.39
ドワーフ「その辺に座って待っていろ、邪魔くさい」

魔王「あの、どのくらい時間が掛かるか教えていただけますか?」

ドワーフ「人に頼んでおいて急かすなガキ!」

魔王「ヒィッ!」

天使「魔王様……」

ドワーフ「なーにが魔王だよったく……」

魔王(怖いヒトだなぁ)

天使(魔王様の態度にも問題ありだと思いますけど)

ドワーフ「……」



129: 2014/12/31(水) 22:42:31.72
魔王「にしても暑いねぇ」

天使「工場ですから仕方がありませんね」

魔王「だねー。でもこうした鍛冶場があれば何かと便利かも。竜爺に許可でもとって作ろうかな」

天使「あ!いいですねお城の多様化!最近台所の方も不便かなーと思ってたところなんですよ、一緒に改装しちゃいません?」

魔王「いいね、それなら今はまだ必要ないけど訓練場の整備もして」

天使「それとお庭に畑なんかも作っちゃいましょうよ!それなら自給自足が出来ていいんじゃないですか」

ドワーフ「う る せ ぇ ぞ テ メ ェ ら イ チ ャ イ チ ャ す る ん じ ゃ ね ぇ !!」

魔王「ヒィィ!!」

天使「ごめんなさーい!!」

ドワーフ「ったく……」

魔王(ダメだ、やっぱりこのヒト怖いよ)

天使(なるべく息を頃して静かに丸くなっていましょう。食い殺されてしまいます)

ドワーフ「おーいお前ら、そんな部屋の隅で何やってんだー……」



130: 2014/12/31(水) 22:43:02.25
ドワーフ「……」

天使「ジィー……」

魔王「じぃー……」

ドワーフ「ジッと見られるのも慣れてねぇんだ。あと声に出すな、やめろ」

天使「は、はひッもうしわけありませぬ!」

魔王「申し訳ありませんでございます!」

ドワーフ「言語が大変なことになってるぞオイ」



131: 2014/12/31(水) 22:43:57.18
ドワーフ「珍しいか?こんな鍛冶場は」

天使「いえ、珍しいというか……」

魔王「見た事が無かったですから」

ドワーフ「そうか、そうだな。それが普通だ」

魔王「この国は物作りが盛んですが、国王がそう言った方針を?それとも仕事の都合がよくてそういう人が集まってきたとか?」

ドワーフ「国の方針だな。今の代になってからこういった鍛冶を中心に盛んになっている。他国への輸出が国の収入の大半だ」

魔王「へぇ……」

天使「でも素敵ですね!物を創造しそしてそれを広めていく……人間として何かを生み出す行為はとても美しいと思います」

ドワーフ「何が美しいもんか。人頃しの道具を作って、それを顔も知らねぇ奴らが使って血みどろになって戦うんだ。こんな氏神商売あってたまるか」

天使「あ……」

魔王「……」



132: 2014/12/31(水) 22:44:47.72
魔王「それは違う」

ドワーフ「何が違うんだ」

魔王「貴方は誰かを頃す為に鍛冶をしているのですか?」

ドワーフ「そうだな、間接的ではあるが俺は誰かを頃しているも同然だ」

魔王「でも、同時に貴方の武器は使い手を守ってもいる」

ドワーフ「ほう……」

魔王「争い事は仕方がない。生きているんだ、血が流れる事もある。だけれども、武器は人を助ける事も出来る道具なんだ」

魔王「憎い人を頃すのも、大事な人達を守るのも、それは使い方次第かな」

天使「……」



133: 2014/12/31(水) 22:45:33.41
魔王「なーんて言うけどさ、実際は生き物を頃す為に作られたんだから何を言っても言い訳にしかならないよね」

天使「早速全否定ですか!?」

魔王「でも、こういった事で悩むくらいなら、誰かを守る為に作っているって考えた方がいいだろう?」

魔王「誰かを守って意思を、希望を未来へ生かす為に武器は振われる、そうすれば気が楽になる」

ドワーフ「頃す為の刃ではなく生かす為の刃か……変わっているな、お前さん」

魔王「うん、よく言われるよ」



134: 2014/12/31(水) 22:46:07.61
ドワーフ「そういうのは嫌いじゃねぇ。俺は俺の創る物に誇りを持っている。だからこそ自信をもって送り出せる」

ドワーフ「その武器も、その使い手もな。なるほど"生かす"か……ああ、いい言葉だ」

魔王「うん、自分でも良いこと言ったって思っているよ」

天使「魔王様、その一言で全てが台無しになりましたよ?」

ドワーフ「ああ、それと。この剣の点検は終わったぞ」

魔王「ああ、ありがとう。何か分かった事があったら言ってほしいのだけれど」

ドワーフ「ガッハッハッハ!!率直に言おう、そいつは魔剣だ。バリバリの人を頃す事だけを目的とされた最悪の刃だ!!」

魔王「」

天使「」



135: 2014/12/31(水) 22:47:10.95
ドワーフ「銘が入っていたが、恐らくこれは百十数年前に実在した伝説の鍛冶師ヴォーグの作品だ」

ドワーフ「そいつは人頃しとしても有名でな、近隣の国で大暴れしやがった挙句に持っていた魔剣で自害したそうだ。聞いた形と一致している、多分その魔剣がコレだ」

ドワーフ「今は力の大半が眠っているようで、俺もそれ以上は分からないんだが。正直持っていても何の得にもならんだろうな。なんたってそういう逸話があるからこそ"魔剣"と呼ばれているって事だ」

ドワーフ「あん?どうした?」

魔王「」

天使「すみません、魔王様が若干立ち直れないでいます」

ドワーフ「あんな説教かました後でコレだからな。同情はしてやる」



136: 2014/12/31(水) 22:47:55.18
……


天使「色々とありがとうございました」

ドワーフ「いや、構わん。俺も久々に楽しめたからな。魔王、また来い、今度は酒でも飲みながら話そうや!」

魔王「アハハ……楽しみにしておくよ」

ドワーフ「ま、よっぽど悩むくらいだったら早い所破棄するんだな。いくら貴重な物とはいえ魔剣は魔剣だ」

魔王「うん、まぁ。僕が手に入れたという事は何かきっと意味があることなんだろうとは思うけど……考えておくよ」

天使「それではこの辺で……」

ドワーフ「ああ、それと。嬢ちゃん」

天使「はい?」



137: 2014/12/31(水) 22:49:29.77
ドワーフ「嬢ちゃんの持っている剣、どういった経緯で手に入れたかは知らんが。そいつ、神器だろ」

天使「……」

魔王「見て分かるんですか?」

ドワーフ「これでも目には自信がある。他の神器も見た事があるからな。鍛冶師としては神器を触ることはこれ以上ない名誉でもある。ちょっと触ってみたかったがまぁ強要はしねぇ」

ドワーフ「……覚えておいてくれ。神器は決して富や名誉、力だけを与えるものでは無い」

ドワーフ「その先にあるのは"破滅"だ。長い間一個人が持ち続けた場合は、確実にその人物の全てを奪う呪いの品だ」

天使「……存じています」

魔王「え……」

天使「もし窮地に立たされた時に、神器を手放すことが出来た人間こそが全てを得ることが出来る……そうとも教えられています」

ドワーフ「そうか……なるほどな。呪いは祝福の裏返しと言ったところか」

天使(ですが、私がこの剣を手放す時は、それは新たな所有者が見つかった時だけ……それまでは決して放す訳にはいかない)

魔王「……」



138: 2014/12/31(水) 22:51:03.20
――――――
―――



魔王「側近、どうだった。賢人様は」

側近「変な人だった」

魔王「うん、そういう事を聞いているんじゃなくてだね」

側近「とても変な人だった」

魔王「うん、だからね」


天使「オークさん沢山買い込みましたねぇ」

オーク「おう、ほとんど料理本だけどな!」



139: 2014/12/31(水) 22:51:28.90
魔王「何か身になる話でもあったかい?」

側近「それは勿論。夫とのノロケ話から始まり、国の成り立ちを説明され、そして夫のノロケ話で終わった。エンドレスする話題の中、私が有用と見出したものはほんの一部の話だけだった……ッ!」

魔王「お、おう」

側近「……」

天使「側近さん?何かあったのですか?」

側近「……いえ、特には」

天使「そうですか?」



140: 2014/12/31(水) 22:52:22.71
オーク「一晩この宿で泊まって、もう明日の朝には出発するから今回も早く寝ておけよー。移動にも数日かかるし、厳しいッたらありゃしない」

天使「はーい!」

魔王「中々のハードスケジュールだね……正直キツイよ」

オーク「馬車の運転が控えている俺のがキツイっての」

天使「それにしても賢人様?でしたっけ、先代の国王様の」

魔王「うん、先代といっても前国王ではなく、何代か前の王で今は相談役をやっているそうだけど」

天使「予言の力を持っていると仰っていましたね。まるで私達を束ねる神々のような力を持っておられるのですね」

魔王「へぇ、やっぱり神っていうのはそういう力も持っているのか」

側近「……」

魔王「側近?どうしたの、さっきからおかしいよ?」

側近「……大丈夫、何でもない」

側近「……」



141: 2014/12/31(水) 22:53:12.69
――――――
―――



側近「ただいま戻りました」

竜爺「おかえり、もう少しのんびりすればよかったものを」

側近「手早く行動したいので、そう悠長にはしていられません」

竜爺「限られた時間を大切にするのはいいことじゃ。して他の者は?」

側近「皆さん長旅で疲れて各自部屋で寝込んでいます」

側近「それよりも……」

竜爺「賢人に合ったか」

側近「はい。他のヒト達には相談できそうになかったので、竜爺様を選ばせていたが来ましたが、ご迷惑でしたでしょうか」

竜爺「構わんよ。さしずめ、あの者に何か予言でもされたのだろう」

側近「はい、その通りです」

竜爺「ああ、やはりな。奴は未来を見通す力がある。奴め頼んでもいないのに勝手に予言しおる」

側近「……」



142: 2014/12/31(水) 22:54:07.91
竜爺「何を言われた?明日の夕飯か?明後日の天気か?奴は下らんことまで言いふらすからな」

側近「私は……私が、この世界に革命を起こす者を"導く者"だという事を伝えられました」

竜爺「導く者……のう。また大きく出たものだ。そして革命者の方を指名するわけでもなく導き手に声を掛けるとは」

側近「私が謁見に来るという事を知っていた上での発言だったのですか?ギリギリで彼と替わる事を王国側に伝えたのですが」

竜爺「それも奴ならお見通しだろうな」

竜爺「で、内容は?奴は嘘も混ぜて話をする、それに予言もこれからの行い次第では外れる事もあるからあてにもならん。有用ではあるのだがな」

側近「……」



―――
――――――


側近「先代国王、無礼ながらも謁見の許しを感謝いたします」

賢人「そう畏まらなくてもいいよ。私はもう隠居の身、堅苦しいのは嫌いだ……待っていたよ貴女を」

側近「私を……」

賢人「ええ、ずっとね」



143: 2014/12/31(水) 22:54:41.28
側近「今回、我が主の代わりにこちらへ遣された身です。貴重な経験になると、そういう話で」

賢人「ああ、そうだね。それもあるが……まぁ聞いてほしい、貴女の今後の運命にかかわる話だ」

側近「……?仰る事の意味が分かりかねます」

賢人「私は予言者、かつてこの国を予言で導き繁栄をもたらした魔女」

賢人「そして今、そんな私の目の前に世界の革命を起こす者の導き手となる少女が現れた。伝えずにはいられますか」

側近「話が飛躍しすぎです」

賢人「簡単に言うよ。私は未来を見た、そしてその未来は決して明るいものでは無い」

賢人「地は混沌に戻り、天は裂け、地下深くから魑魅魍魎が溢れかえりそして世界は……滅びるだろう」

側近「……」



144: 2014/12/31(水) 22:55:16.60
賢人「おや、まるで信じていないって顔だね」

側近「お言葉ですが、抽象的すぎてついていけません」

賢人「そりゃそうだ、誰だって信じることが出来ないだろうねこんな事。私だって信じない」

側近「……」

賢人「いよいよ胡散臭くなってきたって風だね、まぁ仕方がない。そんなもんさ」

側近「顔に出してしまった非礼をお許しください」

賢人「いいよ、気にしてない」



145: 2014/12/31(水) 22:56:24.30
賢人「老人の戯れだと思って聞いておくれ」

賢人「私が見た絶望の未来。どうにか変えようとあらゆる可能性を考慮し、そしてまた予言を始めた」

賢人「幾度となく失敗を繰り返す中で私が唯一見る事の出来た光……この地に生まれ出勇者の姿だ」

側近「勇者……」

賢人「聖と魔の象徴、生まれ変わりしその姿、光と闇の中から出でる」

賢人「その者こそが世界を変える革命者となり、そして絶望の未来を回避しこの世をひっくり返すことが出来る」

賢人「朱き血を鋭き刃に変え、邪なる者を撃ち天を統べ。聖と魔を両手に携え大いなる存在と対峙し、未来へ繋ぎ。そして地上に残された彼の者は世界を見つめただ佇む」

賢人「貴女は……その勇者を導く運命の子だ。貴女が正しく道を記せば勇者は光となり、邪な心を持って接すれば影にもなる」

側近「何者なのですか、その勇者というのは」

賢人「さぁね……ハッキリとは見えない。単一の存在かもしれないし複数人かもしれないし、人間なのかもしれないし動物なのかもしれない。もしかしたら、まだこの世に生まれていないのかもしれない」



146: 2014/12/31(水) 22:57:33.20
賢人「私に見えたのは、その者はこの地より生まれる……ということくらいかね。もしかしたら貴女の国かもね」

側近「我々はまだ国を運営するに至ってはいません。やはり、その予言を信じることは出来ません」

賢人「ここまで言っておいてアレだけど、まぁ信じる信じないは貴女に委ねるとしようかね。しかし、そう遠くは無い未来で貴女は決断を下さねばならない時が来る。それを忘れないで」

側近「覚えておきます」

賢人「その勇者にとって、貴女は唯一無二の存在となるでしょう。それは掛け替えのない友人か、互いに認め合う主従関係か、それとも無償の愛を育む者か……」

側近「……私が誰かを愛する?ありえない」

賢人「何故?そう言い切れる?」

側近「お言葉ですが、私は誰からの愛情も受けずに生きてきました、親の愛も知らず家族の情も知らず」

側近「地上に来てからも、誰かに身を寄せるその感情を理解することは出来ませんでした。そんな私が人との出会いというちっぽけなものでそんな感情を得るなどとは考えにくいです」

賢人「貴女は変わります、貴女自身が変わらなければならない時が来るのです」

側近「……理解が……出来ません」



147: 2014/12/31(水) 22:58:14.10
――――――
―――



側近「……」

竜爺「ふん、奴は自分の感情論までぶつけてきたか。はた迷惑な奴だ」

側近「その後、終始夫との馴れ初めから何まで全てを聞かされることになりました。正直眠かったです」

竜爺「余計な話を……」



148: 2014/12/31(水) 22:58:48.69
側近「いずれ地上に訪れる危機とは……」

竜爺「ハッタリかもしれんし、本当かもしれん。奴を信じきるのは骨が折れる事だ」

側近「私は……この地上がどうなろうと知った事ではありません。故郷でさえ何の情も持たない私が、どうしてそんな選択を迫られるのか」

竜爺「……何、この場所が消えてしまえば、魔王の夢も潰える」

側近「それは……嫌だ」

竜爺「フフフ、そう考えれば守りたくもなるだろうて」

側近「はなから予言など微塵も信用はしていませんが。もし、そんな選択を迫られたとき、私は正しい選択は出来るのでしょうか」

竜爺「魔王もおる、オークもおる、それに天使も。何よりワシが傍についてやる、お主の行く道が逸れぬようにな」

側近「……」



149: 2014/12/31(水) 22:59:25.89
側近「竜爺様、もう一つだけ……誰かを愛するという事はどういう事なのでしょうか」

竜爺「……なんだ、本当にお主が聞きたかったのはそっちか」

側近「生の感情を出す事が……私には理解できません」

竜爺「ふん、人を愛する行為に理解はいらんよ。隣人愛か、家族愛か、兄弟愛か、それとも色欲かただ動物を愛しむだけのものなのか」

竜爺「生けるものが産まれ備わったものだ、お主も十分それを持っておる。ただ気が付かんだけでな」

側近「気が付いていない……私が」

竜爺「ああそうだ。お主は周りの感情には敏感な癖に自分の事となるととことん鈍感だ、そんなのだから天使に無意識に嫉妬心を出しているんじゃぞ」

側近「……治すようには善処します。が、天使さんに嫉妬する理由がありません。彼女に対しては警戒しているだけです」

竜爺「ああ、そういう事にしておけ。ワシからはもういう事も無い。お主が予言を受け入れるのならそれでよし、そうでないのなら知らん、好きにせい」

側近「はい、そうさせてもらいます」



150: 2014/12/31(水) 22:59:52.86
側近「あ、最後に」

竜爺「なんじゃ?」

側近「先代国王……賢人様は、"我が最愛の夫へよろしく"と、仰っておりましたが。誰の事でしょうか」

竜爺「……知らんな、想像もつかん」

側近「そうですか、では私は失礼します。相談に乗っていただきありがとうございました」

竜爺「ふん、自らの在り方が分からんようならまた来い。魔王にもそう伝えておけ、お主らはワシを頼ってもよいとな」

側近「はい、ありがとうございます」



151: 2014/12/31(水) 23:00:20.34
――――――
―――



天使「~♪」


魔王「今日は洗濯物日和だね」

竜爺「うむ、良い天気じゃ。外でこうしていると眠くなるのう」

魔王「うん、僕とチェスしてる最中なんだけど、眠くなるってどういう事かな?」

竜爺「お主とやっててもつまらんからのう。チェック」

魔王「まった」

竜爺「7回目じゃぞ」

魔王「まった」

竜爺「ホイホイ」



152: 2014/12/31(水) 23:00:48.83
天使「お洗濯終わりましたよ~。フフ、お二人とも楽しそうですね」

魔王「ん、ありがと。んー……よし、これだ!」

竜爺「馬鹿者、チェック」

魔王「まった」

竜爺「ほれみろ」

天使「魔王様ーちょっとは頭使いましょうよー」

魔王「君まで僕を馬鹿にするのかァ!?」



153: 2014/12/31(水) 23:01:27.38
竜爺「チェスの盤面は軍事の入門、軍を動かすには必要とされる基礎的な知識にもなりうる」

魔王「そうかなぁ?こんな小さな盤面で戦局を支配出来るのなら誰も苦労はしないよ」

竜爺「確かに、あくまでもこれは遊びだからな。定石を踏まえ先を読み、相手の思考を探ることが重要……という事だ。こうしたゲームと違い、実戦では不測の事態も起こりうるじゃろうて」

魔王「僕は戦争はしないよ。今のところはね、だからそういう知識も必要ない」

竜爺「そうも言ってはいられん。争いを許容する王ならば身につけねばならん知識だ。そうでなくともいつ争いの火種が点くか分かったものでは無いしな」

魔王「……それが、領主への個人間の争いだとしても、かな?」

竜爺「ふん、話は側近から聞いておる。契約自体を反故にされたそうだな」

魔王「まぁね……竜爺からは彼らに何も言わないの?あの土地に住んでいる人々は苦しんでいるというのに」

竜爺「……すまない」



154: 2014/12/31(水) 23:02:56.70
竜爺「ワシは……身内可愛さに奴らの子孫である今の貴族たちには何も言えんでいる。その為にあの契約書に強制力などないのだろう」

竜爺「あそこまで増長させてしまったのは今の今まで放置していたワシの責任だ」

魔王「本当に可愛いと思っているのなら言うべきじゃないかな。貴方は優しくはあっても甘いヒトではない」

天使「竜爺様、私が言うのも差し出がましいとは思います。ですが、貴方から声を掛けていただければまた進展もあるかもしれません」

竜爺「何度も言わせんでくれ。ワシには何も言えんし、奴らも聞く耳を持たぬだろう。本来早めに、もっと前の代で土地を取り上げるべきだったのだが……もう奴らはワシの事を知らん」

天使「何か手は無いのですか?」

竜爺「……魔王よ、お主は正面から徹底抗戦する気はあるか?例えば、直接乗り込み奴らを潰す……という馬鹿な選択などと」

魔王「やれと言われてもやらないよ。それじゃあ意味が無い」

竜爺「だろうな。いっそ、そうしてくれればワシも角を立たせずに終われるのだが」

魔王「それは甘えだね。でも手は一応打ってあるよ。成功するかは今後の働き次第か」

竜爺「既に事を始めておったか……お主はどう動く」

魔王「あくまで真っ当に、出来れば穏便に。どうしても時間がかかるから、彼らの土地に住む人々にはもう少し耐えてもらうことになるけれど」



155: 2014/12/31(水) 23:03:33.06
竜爺「……さて、ワシはそろそろ部屋で休むとしよう」

魔王「まだお昼過ぎだよ。もっと僕と遊んでよ」

竜爺「居心地が悪くなっただけじゃ。察しろ」

魔王「うん、ワザと言っただけ。今は考える時間も必要だろうから、ゆっくり休んでよ」

竜爺「まったく、タチの悪い男だ」

魔王「ああ、よく言われるよ」



156: 2014/12/31(水) 23:04:10.30
天使「それで魔王様、どのようにして現状の打開を?」

魔王「ともかく今は土地が欲しいんだ。一定以上の大きさの土地を保有していなければ、そもそも他国からは認められないだろうし。他国からの同意は一番重要だ、今後の関係性にも関わる」

天使「地上で建国する場合のシステムはどうなっているのですか?皆さんのお話を聞いていてもよく分からないのですが」

魔王「建国自体は簡単だよ。宣言すればいいだけだから」

魔王「本来侵略、占領や独立からなるものだけど。今の僕たちにはそんな力は無いし、独立はともかく、侵略なんて多分出来てもやらない」



157: 2014/12/31(水) 23:04:39.22
魔王「今のうちにどこの国も保有していない土地を抑えて大きくしておく必要もある。他者に侵略されても大丈夫なように余裕を作っておくためにね」

魔王「だから、僕は隣国を利用させてもらう」

天使「隣国を?以前立ち寄った国の事ですよね?」

魔王「うん、僕がただあの国に遊びに行っただけだと思っていたかい?」

天使「はい」

魔王「oh...」

天使「え!?違うんですか!?」

魔王「違うよ!?本気で思っているのだとしたら君ちょっと天然じゃないかな!?」



158: 2014/12/31(水) 23:05:29.64
魔王「と、ともかく、以前あの国へ行ったのは側近に先代の国王の話を聞いてもらうって言うのが目的の一つ。政治的にもう一つ目的があって、あの国と仲良くしておこうって事」

天使「コネクションを作る為ですか?」

魔王「そうだね、いざという時に守ってもらうためにね。一つ将来的に賄賂を渡す約束をしたんだ。そうでもしなきゃ他から横やりを入れられそうだし」

天使「賄賂ってッ!魔王様不正ですか!?」

魔王「表向きは綺麗にしていても、裏で汚い事しなきゃやってられないんだよ。許容してくれないかい?」

天使「ん、むぅ……そうせざるを得ないのならば仕方はありませんが」

魔王「ありがと。正直ここで賛同を得られなかったらまた僕の心が揺らぐところだったよ」

天使「魔王様、武力での解決は嫌うのにお金で解決するのは躊躇いが無いのですね」

魔王「アハハ……せめてそのくらいは認めろって側近に怒られてね……話も進まないし」

天使「でも将来的ってよくそんな事で約束出来ましたね。確定ではないのに」

魔王「相手も"可能なら"程度に考えているだろうし、そうでなくても僕のビッグマウスでね」

天使「あまり褒められた事じゃない様に聞こえますよ」

魔王「フフフ、話術は重要なのだよ!」



159: 2014/12/31(水) 23:05:56.70
魔王「あの国はここらでは一番大きい国だ、あそこが首を縦に振れば他国もそれに合わせざるを得ないだろうからね。一応他国の弱みは握っておく程度の事はしておくけど」

天使「無理矢理認めさせるとは、中々にエグイ話でもありますねー」

魔王「さ、その為にもまずは土地を手に入れる事から始めないとね。机上論ばかり語っていても動かなければ意味が無い」

天使「あ、お出かけですか?」

魔王「うん、そろそろ側近もいつも忙しなく働いているし、僕も動かなきゃと思ってね」

天使「では支度をしてまいります」

魔王「……これから僕たちの行動範囲は広がっていく。君の目的を果たす事と、それにお兄さんを探す機会も増えるだろう」

魔王「それでも君は僕に、僕たちについてきてくれるかな」

天使「今更確認を取らなくても、私はそのつもりですよ魔王様」

魔王「そうか……そうだね、ありがとう。じゃあまずはまた近くの村や町へ向かおう。彼らからの信頼を得て、今後の行動に生かしていこう」

天使「はい!」



163: 2015/01/01(木) 03:06:51.47
――――――
―――



側近「はい、これが以前交渉に成功した領地の資料」

魔王「ん、ありがと。長い時間を費やして話し合った甲斐があったよ」

側近「元々運営は上手く行っていなかったみたいだし、手放さざるを得ない程切迫してた」

オーク「そこで生活の最低限の保障を持ちかけたら全部譲ってくれたってワケだ。まぁ始めから狙い目の場所だったからな」

魔王「うん、疲弊しているのは知っていたからね。多少ならお金は出せる。だからこそ、そういったところから取っていかないとね」

天使「しかし、そんな土地を受け取っても我々が運営するのも厳しいのではないですか?」

側近「ハァ……少しは頭を使う事を覚えたらどうですか」

天使「なぬ!聞き捨てなりませんね側近さん!」

魔王「側近、彼女はそういうことはからきしなんだ。そうは言わないで」

天使「魔王様も中々に辛辣な事で」



164: 2015/01/01(木) 03:07:52.75
魔王「ここの土地はね、開拓を進めて行った末に運営資金が底をついたんだ。民の為に使った立派なお金だよ」

側近「突き詰めて言ってしまえば、使い方が下手だったという事ですが」

天使「貴族にもそういう人もいるのですねぇ」

魔王「誰しもが醜い訳ではない、だからこその地上人と言ったところか。そのおかげで僕が動きやすくなったのだけれど」

天使「と、言うと?」

側近「他の領地の貴族はその開拓した土地をいたく欲しがっているとの事です」

魔王「竜爺の契約を無視している彼らでも、侵略行為を行うにはそれなりのコストとリスクを背負う。攻め込んだ最中に自分の土地が他の貴族に奪われるかもしれないからね」

側近「国という形を成していないため、やったやられたで仲裁を行う立場の者がいない以上無法地帯でしかありません。自分の身は自分で守る。争いを起こす程愚かなヒトはいなかったと喜ぶべきでしょうか」

魔王「隣の土地が欲しくても、彼らは腹の探り合いでそういった方法に出られなかったんだね」

天使「……ああ!それで貧困の領を買い取って、それを元手に他の領地を!」

魔王「うん、その通り!彼らは他の領地を喉から手が出るほど欲しがっている!」

側近「隣の芝は青い、とはよく言ったものだと思う」



165: 2015/01/01(木) 03:08:37.21
オーク「それで、今向かっている領の領主は広大な土地で田畑を欲しがってる。連中が保有する未開拓地+αを交渉で交換することが出来れば今回は成功という事だ」

側近「直接交渉するのは私ですけれど。頭の悪い人達ばかりですのでもっとちょろまかそうと思っています」

魔王「程ほどにね。今後の動きもある、大体的に知られたら上手く行くものも上手く行かなくなってしまうから」

側近「了解、ギリギリまでは粘るから」

天使「それで少しずつこちらの土地を増やしていくのですね。わらしべ長者みたいですね」

魔王「長者になるか、目論見がバレた末に貴族から攻撃を受けて全てを失うかは僕ら次第だ」

側近「魔王、貴方は途中の村へ。用事があるんでしょ」

魔王「お言葉に甘えてそちらに行かせてもらうよ。それと、住民の移民についてだけど……」

側近「それも交渉しておく。彼らは駒を手放す程度にしか思わないだろうけど、私達からすれば貴重な働き手だから」

魔王「うん、お願いね」



166: 2015/01/01(木) 03:09:16.14
オーク「よーし、着いたぞ。魔王、降りな」

天使「ここですか……なるほど、ものの見事に未開拓ですね」

魔王「この土地は既に譲渡が決まっている。後は今回の交渉で判を貰うだけだ」

側近「私達はこのまま領主の館に向かいます。天使さんは特にすることも無いので魔王について回っていてください」

天使「は、はい!!」

側近「とはいえ、貴女の今回の役目は魔王の護衛です。貴女と行動を共にしてからそろそろ1年は経とうとしています。何度か手合せしているのでその腕はよく知っています」

側近「魔王に万が一の事が無いようにお願いします。それくらいしか貴女には出来ないのですから、キリキリ働いてください」

天使「はい、魔王様は私が御守りします!」

側近「……」

魔王「行こうか、調べたいことは沢山あるからね」

天使「では行ってまいります!」

魔王「そっちは任せたよ」



167: 2015/01/01(木) 03:09:41.48
オーク「それじゃあまた馬車を飛ばすぞ」

側近「……お願いします」

オーク「なんだお前さん、ずっと二人を見て。嫉妬してんのか?おっと、こんな事言ったらまた嫌味の一つでも飛んでくるな」

側近「……」

オーク「……側近?」

側近「どうなんでしょうね」

オーク「は?」

側近「さ、行きましょう。ゆっくりしている時間は貴方の毛髪程ありませんよ」

オーク「お、おう!俺の髪はゼロだけどな!ってオイ!?」

側近「……」



168: 2015/01/01(木) 03:10:12.56
……

魔王「とりあえず、近くに小さい村があるからそこに立ち寄ってから辺りを見て回ろう」

天使「どうして村の近くに馬車を止めてもらわなかったのですか?」

魔王「岩場が少しキツくて馬車じゃとてもじゃないけど入り込めなくてね」

天使「あー、なるほど」

魔王「整地しないと交通の便が酷くてね。僕は何度も来ているから慣れているけど。ま、それはこの場所に限った話じゃない」

天使「あ、見えてきましたね」



169: 2015/01/01(木) 03:10:41.74
天使「よいしょっと……小さい村ですね」

魔王「場所が場所だからね」

天使「しかし魔王様、何故魔王様が交渉へ向かわずこちらへ?」

魔王「ちょっと我が儘を言ってね、前に君にも話さなかったっけ?友人を探していてね。この近くにいるかもしれないから側近に代わってもらったんだ」

天使「ご友人ですか」

魔王「うん、とても大切な……」



170: 2015/01/01(木) 03:11:39.15
「ようこそいらっしゃいました、魔王様」

魔王「こんにちは、村の様子は……」

「いつも通りです。あまり良いとは言えませんね」

魔王「そうだね……でも、以前より活気はある」

「はい、それはもう。魔王様がこの場所を買い取っていただけると聞いて、村の者達もやる気を出しております」

天使「魔王様、この方は?」

魔王「ここの村長さんだよ。流石に僕も友人を探す為だけに政務を放っておくことは出来ないからね、視察もかねて……ね」

魔王「少し込み入った話をするからキミはてきとうに時間を潰していてくれないかい?」

天使「はい、分かりました」



171: 2015/01/01(木) 03:12:07.59
天使「……」

天使(はぁ、結局私は役に立てないか……ううん!落ち込むな私!出来る事から始めろって竜爺様にも言われたろ!)

天使(それに、私は私の目的の為に動かないといけない!よし、ここ一度探してみようかな)


「……」


天使「……?あれ、あの人……」


「きゃッ!」


天使「ッ!危ない!!」



172: 2015/01/01(木) 03:12:41.31
少女「いッ……アレ?」

天使「だ、大丈夫ですか!?転びそうになってましたけど」

少女「ええ、大丈夫、ありがとうございます……貴女は?」

天使「はい?私ですか?」

少女「聞いたことのない声でしたので。この村の人ではないですよね?」

天使「ええと、はい。お仕事でこちらに来ましたので」

少女「ああ、やっぱりそうだ!こんな綺麗な声の人は初めて会いましたから!」

天使「エヘヘ、そんな綺麗な声だなんてー……ッ!貴女、目が……」

少女「はい?」

天使「……いえ、何でもありません」



173: 2015/01/01(木) 03:13:18.51
少女「あ、気になさらないでください。そういう事を言われるのは慣れています」

天使「ごめんなさい逆に気を遣わせてしまいましたね」

少女「いいえ、理解なさってくれるだけでも嬉しいですよ」

天使「フフ、ありがとうございます」

少女「それにしても、どうしてこの村へ?お仕事にしても商人さんが来るのは今日ではないですし……」

天使「あ、交易ではないですよ。難しい話なので私は参加させてもらっていませんけど、頻繁にここに来るようなそんな仕事だそうです」

少女「あ、そうだ!今お暇ですか?少しお話ししませんか?」

天使「え、ええ!?今しがた出会った私にデートのお誘いですか!?そ、そんな心の準備が……」

少女「フフフ、女の子同士ですよ、私達」

天使「ハッ!?そうでした!!では喜んでお付き合いいたしまする!」

少女「アハハ、面白い人ですね!そうだ、着いてきてください、とっておきの場所を教えてあげます!」

天使「あ、ちょっと!?そんな結構素早く動いて大丈夫なんですか!?またすっ転びますよ!?」

少女「キャ―――――!!」

天使「あーあー……彼女もまた私と同じ属性持ちか……」



174: 2015/01/01(木) 03:13:44.83
……


少女「ここですよ」

天使「わぁ……綺麗」

少女「辺り一面の花畑。近場でこんなにお花が咲き誇っている場所なんて他にはありませんから。私と私の大切な人の秘密の場所です」

天使「おやおや?彼氏さんですか~?」

少女「えへへ……」

天使「そんないい場所、私に教えちゃってよかったんですか?」

少女「この村は私と同じような歳の子がいないから、誰かと話す機会も無くて。だからせっかく出会った貴女に見せたかったの」

天使(あ、アハハ……私実はあんまり地上人に言いたくない年齢なんですけどね……)

少女「……?どうかしましたか?」

天使「いえいえ!こっちの話です、こっちの!」



175: 2015/01/01(木) 03:14:17.51
少女「彼は仕事であまり家には帰れないから、あんまり私はここには来れないんです。だからそういう意味でもここに来たくて」

天使(なるほど、ここに来るにもサポート必須みたいですしね)

少女「それじゃあお話しましょう、貴女は魔王様のお付きの人ですよね?」

天使「あれ、知っていたんですか?」

少女「こんな所に頻繁に来る人なんて、魔王様くらいしかいませんから。魔王様はこの村の人達に良くしてくれています、それにたまに来る他の村や町の商人さんも魔王様のお話をよくしています。それに貴方達付き人さん達の事も」

天使「へぇ、どんなお話ですか?」

少女「変な人達だって」

天使「うん、知ってた」



176: 2015/01/01(木) 03:15:03.04
少女「でも、すごく親身になってこっちの不満を聞いてくれたり、改善するために動いてくれていたり……私は魔王様とは直接会ったことは無いですけど、とても優しい人だって事は伝わってくるから」

天使「うんうん!ちょっと頑固なところはあるけど、いつもニコニコしていて、丁寧で上品で。それでいて優しくて……あ、少し情けない所はありますけど」

少女「貴女は魔王様の事がお好きなんですね」

天使「あー、まぁ好きと言うか何というか……好きなんですかね?」

少女「違うのですか?」

天使「どうなんでしょうか。少し兄さんに似ていて、私の場合は憧れに近いかも。魔王様のように優しくありたい、強くありたいと」

少女「お兄さんが居るんですね。でもお兄さんとは違って意識することはあるんですよね?」

天使「えっと、もう結構長い事傍にいますからね、ずっと見ていますからその分良い所も悪い所も……ハッ!?意識している!?コレは恋なのでしょうか!?」

少女「フフ、恋なんじゃないですか?」

天使「あわわ……そう考えると顔から血が噴き出そうです……!!」

少女「ん?火じゃなくて?」



177: 2015/01/01(木) 03:15:31.00

天使「わ、私の事はもうこの辺でいいでしょう!貴女の事を聞かせてください!」

少女「フフ、分かりました。なにが聞きたいですか?」

天使「そうですねぇー。貴方の彼氏さんの事を聞かせてください!馴れ初めから今に至るまで!お返しです!」

少女「いいですよ。恥ずかしい事なんてありませんから」

天使「あらあら熱い事で」

少女「私の旦那様は泥棒さんです」

天使「……はい?」

少女「泥棒さんです」

天使「お、おう?」



178: 2015/01/01(木) 03:15:56.87
少女「私はある国の第2王女として生まれました。生まれつき身体が弱く、目も見えません」

少女「お城の人達からも家族からも疎ましがられながら生活をしていました。そのうち政略結婚の為に使われるだろうとも言われ続けていました」

天使「……」

少女「そんなある日、私の部屋に一人の泥棒さんが現れたのです。それが今の私の旦那様」

少女「旦那様は私を憐れんで、盗むことも忘れて毎日私に会いに来てくれました。毎日楽しいお話をしてくれました」

少女「しかし、穏やかに過ぎていく日々の中で私の結婚が決まってしまいました。王様の命令は絶対、私は反抗は許されません、誰も何も言いません」

少女「でも、泥棒さんは違いました。結婚前夜に私を連れ去ってくれたんです!」

少女「国中は大騒ぎ、相手国もカンカンでもう滅茶苦茶!怒る人、泣いてしまう人、呆然とする人……沢山いたそうです

少女「今まで育ててくれた御恩もあります、国を発つのも名残惜しく思いました。それでも、私はもう寂しくありません、何もいりません。私を本当に見てくれる人はもうずっと傍にいてくれるのですから」

少女「そうして時は流れ、誰も私たちを知らない土地で、こうして慎ましく生活しています……親切な方々に囲まれて」



179: 2015/01/01(木) 03:16:29.51
天使「……」

少女「……どうしました?」

天使「うぐゅ……言い話でずねぇ゛……感動じでじまいまじだ……」

少女「フフフ、もしこれが作り話だとしたら、怒りますか?」

天使「何ですと!?」

少女「半分冗談で半分本当ですよ。どこまでとは言いませんけど」

天使「人が悪いですよもー!」



180: 2015/01/01(木) 03:17:20.51
少女「……私は自分の幸せの為に国を捨てた、非情な女です。きっと、ちゃんと始めから国に従がっていれば、もっと他にやりようはあったハズですから」

天使「大きな力の前では人は誰しも無力になります。今のお話は……どこまでが本当か嘘化は分かりませんが、個人の力ではどうしようもない事です」

少女「そうですね。でも、何が正しくて、何が間違っていたのか……私には分かりませんでした」

天使「……誰かの為に尽くす事と、自分の為に生きる事とイコールではありませんよ。どちらが正しい事かなんてのは、その時になってみなければ分かりません」

少女「ヒトの正しい在り方って何なんでしょうね。誰かに言われた事を忠実に守る事?それとも、自分の為に全力を尽くす事?」

少女「確かに私は褒められた生き方をしてはいません。けれど、後悔をしない選択をしたつもりです」

天使「それでいいんですよ。それが人としての在り方ですから」

天使(……兄さんは後悔しない選択をして堕天した。そして私も……)

少女「フフ、何だか不思議な会話ですね」

天使「私もそう思います」



181: 2015/01/01(木) 03:18:25.91
天使「それで、彼氏さんは今泥棒中と言うところですか……ってああ!それダメじゃん!!今までの話台無しですよ!!許されません!!」

少女「今はもう足を洗って普通に働いていますよ。村の討伐隊に参加していつも守ってくれています。償いは……これから二人でしていくつもりです」

天使「あ、それなら安心……していいのかな?こんな美人さんをほったらかしにして……」

少女「今はお仕事が厳しいみたいですから……でも、魔王様がここを治めてくれるのなら、少しは楽できますよね?」

天使「……もちろんです!」



182: 2015/01/01(木) 03:19:04.84
魔王「ん、こんな所に居た。おーい!話は終わったよー!」


天使「あ、魔王様!」

少女「噂をすれば」

天使「うぅ……なんか意識しちゃって恥ずかしくなってきた」

少女「フフ、頑張ってくださいね」

天使「あ、行っちゃうんですか?」

少女「二人の邪魔をする訳にもいきませんしね」

天使「それなら送っていきます、一人だと辛いでしょう」

少女「大丈夫ですよ、慣れてますから!」



183: 2015/01/01(木) 03:22:07.45
少女「では私はこの辺で」

天使「あ!最後に名前だけでも……」

少女「私の名前ですか?私は"アキ"、東方の国の言葉だそうですよ」

天使「アキ……アキさん!それではまた!」

少女「はい!今度はもっとゆっくり出来るといいですね!」


魔王「えっと、彼女大丈夫かい?目が見えていないみたいだけれど」

天使「魔王様。そうですね一応一緒に行って来ます。すぐにこちらに……」



少女「キャアアア―――――――――――!!」

「うわあああ!!上からなんか落ちてきたぞ!!」

「またお前か!!だから一人で出歩くなって言ってるだろ!!」

少女「エヘヘ……すみません」



天使「……またって、毎回落ちてんですかい!!」

魔王「アハハ、何だか楽しい子だね」



184: 2015/01/01(木) 03:27:42.55
ドクンッ


天使「ッ!!」

魔王「ん、どうしたんだい?」

天使「い、いえ……気のせい……かな?」

魔王「?」

天使(どうして……?今確かに聖剣が反応した……でも何に?)

魔王「まぁいいや。それより、この先に見ていきたいものがあるんだけど、ちょっと付き合ってくれるかい?」

天使「はい、分かりました。すぐに支度しますのでお待ちください」

魔王「うん、待っているよ」

天使(……もしかしたら、この村か近くに?もう少し調べてみる必要がありそうですね)



185: 2015/01/01(木) 03:28:16.95
……


魔王「ん、ここら辺のハズなんだけどなぁ」

天使「魔王様、どちらまで向かわれるのですか。結構歩いていますが……」

魔王「友人探してるー」

天使「友人て……こんな山の奥に居るんですか?」

魔王「山か平地か海の底か、どこかは分からないけれどとりあえず探しているんだ」

天使「そんな滅茶苦茶な……」

魔王「お、ここかな?」

天使「洞窟ですね」



186: 2015/01/01(木) 03:29:13.07
魔王「さっきの村で聞いた情報だと、ここには過去に大きな封印があったらしいんだ。僕の友達はそこに居るかもしれない」

天使「封印の中にですか?でしたらあんまりよろしいお友達ではない気もしますけど」

魔王「他の人達がどう思おうと、彼は僕にとって掛け替えのないヒトだから。だから僕は何があっても彼を見つけ出す、そして……」

天使「では入りましょう。ワケがあるのならば私はそれ以上追及はしません、魔王様がそう仰るのでしたら、私も魔王様を信じます」

魔王「うん、ありがと」

魔王(……そして、それは君にも関係がある事でもあるんだよ)



187: 2015/01/01(木) 03:29:51.83
天使「中は真っ暗ですねー」

魔王「一応明かりは村から借りてきたから、ある程度地下に潜って、何もなければ引き返そう。流石に危ないからね」

天使「そうは言っても足を滑らせたりはしない限り……ッ!魔王様、下がってください」

魔王「どうしたんだい?」


グゥルルルルル


魔王「魔物……こんな場所に生息しているのか」

天使「岩獣ですね。純度の高い鉱石を糧にして生きている種の魔物です」

魔王「摂取している鉱石によって耐性が変わったりしているんだよね、確か。でも総じて弱点となる魔法は存在しているハズ、ならば僕が魔法で……」

天使「こんな狭い場所で魔法なんて使わないでください!!」

魔王「だよねー……」



188: 2015/01/01(木) 03:30:20.59
魔王「すまない、任せていいかい?」

天使「はい、魔王様下がっていてください。足元は大穴だらけです、落ちたら大変なことになります。巻き込まれないように注意していてください」

魔王「アハハ……ゴメンね、戦力外で……」

天使「一時的に開放をします。"来たれ聖剣"……」

魔王(剣の解放は初めて見るな……この一年、側近との手合せで何度か実力は見させてもらっているけれど、もう一度その力を見極めさせてもらうよ)

天使「"光れ刃よ"!!」


ゴガアアアアアアアア!!!



189: 2015/01/01(木) 03:40:27.59
魔王「……」

魔王(剣に布が巻かれたままか……取らない、いや、まさかとは思うが"取れない"のか?)


天使(この岩獣ッ!よほどエサがいいのか思ったよりも強い……それに、足場が悪すぎる!)

天使(私の魔法では強すぎてこんな場所では使えない、それに魔王様へ注意が向かないようにしなければいけない……)

ガアアアアア!!


魔王(側近には一度も勝ててはいないが、彼女も文句なしに強い。悲しいかな僕よりもね)

魔王(だが、彼女の戦い方はその豊富な魔力を存分に使う豪快なものだ。ここでは狭すぎる)

魔王(思うように剣を振えていないようだ。やはり、威力を抑えた攻撃魔法でサポートするべきか……)

魔王「"逆巻け、ほの……"」

天使「魔王様!!余計な事はしないでください!!」

魔王「ご、ごめんなさい!?」

魔王「……だよねー」



190: 2015/01/01(木) 03:41:06.39
ギャアアアア!!

天使「よし!」


魔王「決まったか」

天使「命までは奪う事は無いしょう。この獣も、自分の家の侵入者を追い払おうとしてここまで戦ったのです」

魔王「本当は、獣に情けをかけるつもりはないけど……君が言うのなら、仕方がないね。このままにしておこう」

天使「……」

魔王「お疲れ様、どうしたんだい?何か言いたげな顔をしているけど」

天使「いえ、魔王様って時々冷酷というか……容赦がないというか」

魔王「僕たちは"ヒト"として生きている、だからヒトに危害を加えるものに愛しむ感情は持たないようにしている」

魔王「優しいのと甘いのは違うよ、君のは甘さだ」



191: 2015/01/01(木) 03:42:07.94
天使「望まれて廻り生まれてきた生命、この獣もまたその理の中にいます。そしてそれはまた新しい命を繋ぎ、世界を創っていきます」

天使「その過程である……大なり小なりでも、命を紡ぐという行為は悪い事なのでしょうか」

魔王「いいや、それが君の掲げる"平和"なのだろう。良い考えだと思うよ、僕は否定しない」

天使「……魔王様は、やっぱりお優しいですね。自分の考えを頭ごなしには押し付けたりはしない、そして否定はしない」

魔王「フフン、こういうのはね、柔軟性が大事なんだよ!僕には僕の考えがある、けれど君の言う事ももっともだ」

魔王「僕の目指すもの、君が信じるもの。これが合わされば最強に見えるだろう?」

天使「最強って何ですか!?」

魔王「そうやって、今の僕たちだけでも少しずつその意見も感情も取り入れていけば、一つの大きな力として纏まっていけるからね。僕も君もその中にいるんだ」

魔王「だから、僕は君の事を認めるし、君に僕の事を認めてほしい。勿論、君のその甘さによって引き起こされてしまう事態は、身をもってすべて責任を取ってもらうことになるかも、だけどね」

天使(……この一年、貴方にお仕えして、貴方の周りに人が集まる理由が改めて分かった気がします、魔王様)



192: 2015/01/01(木) 03:42:37.91
魔王「じゃあ先へ進もう。穴に落っこちないように注意してね。それとも、僕がエスコートしようか?」

天使「そ、そんな滅相も無い!私が前を歩いて安全確認をするので魔王様は後ろに隠れていてください!!」

魔王「お、男として女性に守られるってのはちょっとなぁ」

天使「でしたら少しは強くなってください。せっかく魔剣を携えているのですから!」

魔王「ハハ、争いの時代が来たら考えるよ」


グゥ……


魔王「ッ!アイツまだ!!」

天使「え?」




193: 2015/01/01(木) 03:43:04.47
ゴガアアアア!!


魔王「ッ!?危ないッ!!」

天使「魔王様!?いけない落ちる!!」

魔王「間に……ぐあぁ!!」

天使「ッ!!キャアアア―――――――」

魔王「うわああああああああ――――――」



194: 2015/01/01(木) 03:43:32.85
……


天使「ッ……う……」

魔王「ん、大丈夫かい?」

天使「な、なんとか……魔王様は?」

魔王「うん、君の下敷きになったおかげで手足が変な方向向いちゃってるよ、アハハ」

天使「きゃあああああああああああ!?」

魔王「うん、大丈夫。仮の身体だし、この程度なら魔法で完全復活するから。とりあえず僕の上から降りてもらえるとありがたいんだけど」

天使「し、失礼しました!!」

魔王「あと回復魔法をお願いしてもいいかな?僕の回復魔法はちょっと弱くてね」

天使「合点承知!!」



195: 2015/01/01(木) 03:44:16.78
魔王「痛たたた……君の方は怪我は無かったかい?」

天使「目の前に重傷者が居るのにおめおめと怪我をしましたなんて言えません」

魔王「ん、よかった」

天使「……それよりも魔王様、どうして私を助けようとしたのですか。あの獣を生かしたのは私の責任です、その責任を負うのは私の役目……貴方がそう言ったじゃないですか」

魔王「なに、月並みな言葉だけど、仲間を見捨てるような王なんて価値は無いとは思わないかい?」

天使「理由になりません!私の自業自得でしかないのに、貴方がそれを背負う事は……」

魔王「うん、だったら今回の事で一つ学んだでしょ。今度から気を付ければいい。僕からは……ッ以上だ」

天使「……はい」



196: 2015/01/01(木) 03:44:54.56
魔王「ともかく、現状の把握をしよう。僕たちは大穴に落ちて……どのくらい落ちた?」

天使「軽く見て……40メートルほど転がり落ちたようですね」

魔王「よく生きてたな僕ら……ッ」

天使「?」

魔王「……僕たちは、元々が頑丈な種族だから良かったけど」

天使「私は魔王様が抱えてくれていたおかげで大丈夫でした」

魔王「ともかく上るのは不可能か……君が空を飛ぶにも狭すぎるしね。道は続いているようだし、少し休んでからしばらく歩こう、それでダメなら……助けを待つしかないね。数日は覚悟しておいた方が……いいかな」

天使「……魔王様、背中を見せてください」

魔王「ハハ、いやだなぁ、どうしたんだい?ここで僕を襲う気かい?君も好きだねぇ」

天使「変なところで無理をしないでください!失礼します!」

魔王「ッ!」



197: 2015/01/01(木) 03:45:22.37
天使「ッ!酷い……」

魔王「アハハ……隠そうと思ってたけど……ッ!無理だったかー」

天使「この傷は毒ですか。魔法防御は!」

魔王「咄嗟の事で……出来なかったよ。ハハ、未熟なのが祟ったね」

天使「魔王様……!」

魔王「ほら、そんな似合わない顔しない。美人さんが……台無しだ」



198: 2015/01/01(木) 03:46:28.89

魔王「解毒は……出来るかい?」

天使「タチが悪い事に、あの岩獣の持つ特殊鉱石による毒です。私の魔法ではとても……」

魔王「クッ……幸い、僕は魔族だ。毒の回りも遅い……元の姿に戻れば……もっと進行を遅らせて……少しづつでも……中和出来るかも……しれないけれどッ」

天使「迷ってはいられません……精霊よ!」

魔王「降霊魔法……何を……」

天使「精霊伝いに助けを呼びます。あまり遠くに飛ばすことは出来ませんが、あの村の誰かに気づいてもらえれば……」

魔王「掃除に使う程度の短時間なら……ともかく……長時間に渡って出現させるのは君も魔力が持たないだろう。それに、僕への回復で既に魔力も少し使っている……止めるんだ……」

天使「こうなった責任を取れと……貴方が言ったじゃないですか!」

魔王「……魔力切れで君が倒れたら……共倒れもいいところだ……それに、君をこんなところで失いたくは……ない」

天使「私だって魔王様を失いたくはありません!!」

魔王「僕は……大丈夫だから……ウッ……グ」

天使「ッ!魔王様!!」

魔王「……グゥ……」

魔王「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

天使「ッ!!」



199: 2015/01/01(木) 03:48:11.53
天使「あ……ああ……」

魔王『……あまり、見ないで欲しいな……』

天使「そのお姿は……」

魔王『僕の……元の姿、だよ。見せるのは……魔界に居た頃を除いて……君で二人目……だ』

天使「……」

魔王『まるで、化け物……だろう?でも、ゴメン……このままで……いさせて……楽なんだ……こっちの方が……』

魔王『まともに動けたら……ッ、君を連れて無理矢理ここを登っていけるだけの身体能力は……あるのだけれど……』

天使「魔王様……」

魔王『……やめてよ、こんな姿の僕に……抱き着かないで』

天使「ごめんなさい……見せたくない姿を晒すまで、貴方を追い詰めてしまって……」

魔王『うん……次から気を付ければ……いいから……』

天使「私は……また同じ過ちを……ッ!!」

魔王『同じ……?』



200: 2015/01/01(木) 03:48:39.22
天使「兄が堕天したとき……兄は私を庇って……傷を負って……罪を被って……だから!!」

魔王『優しい……お兄さん……だったんだね……』

天使「ごめんなさい……ごめんなさい……」

魔王『……』

魔王(本当に謝らなければいけないのは……君に真実を隠している……僕の方だ)



201: 2015/01/01(木) 03:49:17.29

―――
――――――


(何のつもりだ……?)

(大人しく降伏せよ)

(貴様の妹は反逆の罪で捕えた。もう逃げ場はない)

天使(兄さん……!)

(お前……!!妹は関係無い!!その薄汚ない手を放せカス共が!!)

(そうはいかん)

(こやつは貴様の増長の手助けをした)

(今更無関係とも言えん)



202: 2015/01/01(木) 03:49:47.07
(クソッ!!)

(可愛い妹を目の前にすれば、お前とてただの兄)

(さぁ、今こそ我らに下れ……)

天使(兄さん!!ダメ!!)

(……ああ、分かっているよ。俺だって兄貴だ。たった一人の家族を……見捨てられるワケが……無い)

天使(兄さん……)

(随分としおらしいな)

(いい傾向だ、さて……)



203: 2015/01/01(木) 03:50:13.51
(とでも……言うと思ったかぁ!!)

天使(グッ……!?)

(コイツ!?)

(自分の妹を!!)

(クッフフ……アッハッハッハッハッハ!!この出来損ないに人質としての価値があると思ったか馬ァ鹿共が!!)

天使(兄さん……なんで……)

(このまま首の骨ェ!!へし折ってやるよ、役立たずが!!もう利用価値もありはしない!!)

(その次は貴様らだ!!ここをすぐにでも戦場に変えてやる!!俺の持つこの聖剣でなァ!!)



204: 2015/01/01(木) 03:50:42.61
(仕方がない……)

(このまま焼き払え)

(あの女も用済みだ。やれ)

(一斉砲火!!)


(フッ……これは、耐えられるかな。少しハードだったかもしれんな)

天使(兄……さん……?)

(―――――――――――――――――ッ!!)



205: 2015/01/01(木) 03:51:08.52
(ふん……あっけなかったな)

(……まだ息はあるな)

(こっちの女もだな……使い物にもならなかった)

天使(……)

(丁度、地上への扉も開いている。下へ堕としてやれ)

(天からこの者がいなくなれば、我らが主もお喜びになられるだろう)



206: 2015/01/01(木) 03:52:05.26
(クッフフ……馬ァ鹿が)

(何!?)

(目覚めただと……!距離を取れ!!)

(まだ戦う気か、往生際の悪い)



(なぁ……聞こえるか?)

天使(……)

(……まぁいい、もし聞こえているならでいい、よく聞け)

(こんな方法でしか……俺との関係を断ち切る事でしか、お前を守ってやる方法が思いつかなかった。こんな兄ですまないな)

(もうじき、俺たちの仕える女神が救援を送ってくるハズだ。お前だけでも保護してくれるように頼んでおいた。俺は犯した罪が大きすぎて庇いきれないと言われたがな)

(ハッ、何とも慈悲深い事で……まぁ、俺は自分で撒いた種だ。笑う者は力でねじ伏せ、刃向う奴はこの手にかけた、だが後悔はしない。それしか俺は方法を知らなかったからだ)

(……せめて、争いのない場所で、いい男でも見つけて……幸せに……)

(じゃあな……俺の大切な……たった一人の……)



207: 2015/01/01(木) 03:52:33.01
――――――
―――



天使「……」

魔王「……目が覚めたかい?」

天使「ッ!魔王様……私は……」

魔王「眠っていたよ。ご苦労様、ずっと僕に回復魔法を掛け続けてくれて。それに精霊も未だに呼びっぱなしなんだろう?」

天使「……気絶してたんだ……私。それより魔王様、身体は!」

魔王「大丈夫、変身できる程度には回復出来た。身体は動かせないけれどね」

天使「良かった……って言ってもいいべきか」

魔王「命の危機は去ったから、それでいいんじゃないかな?」



208: 2015/01/01(木) 03:53:00.67
魔王「いやぁ、僕もまさか生氏の境を彷徨うとは思っていなかったよ、ハハハ」

天使「……」

魔王「ほら、そこは"それどころの騒ぎじゃないですよ!?"って突っ込むところだよ?ってコレ僕に言わせないでよ」

天使「魔王様、私は……」

魔王「いつまでも、ウジウジしている君の顔は見たくない。そんな君は嫌いだよ」

天使「はい……申し訳ありません」

魔王「ふぅ……ま、責任感があるって事はいいことだよ。でも、そんな事じゃ、君の大好きな兄さんに笑われてしまうよ」

天使「ッ!」



209: 2015/01/01(木) 03:53:27.30
天使「ハァ――――――……」

魔王(アレ!?地雷踏んだ!?)

天使「……いえ、大丈夫です!魔王様、改めて申し訳ありませんでした!!」

魔王「あー、うん。もう大丈夫そうだね」

天使「はい!今回の失態は、全て今後の行動で挽回していきたいと思います!!」

魔王「その意気その意気!いつもの君が一番好きだよ、僕は」

天使「はうあ!!す、すすすす好きと申しましたか!!」

魔王「うん。仲間として、君を信用しているよ」

天使「あはは……仲間ですよねー……」

魔王(からかうのも楽しいなぁ君は)



210: 2015/01/01(木) 03:53:56.47
魔王「さてと、それじゃあそろそろここを出る準備をしなきゃだね」

天使「準備ですか?でも、魔王様はまだ体を動かせないですし……」

魔王「大丈夫、すぐそこまで来ている」

天使「来ているって……ヒャア!?」



オーク「おおっと、随分手荒く洞窟ぶち抜いちまったな」

側近「まったく、丸一日かけて探したこちらの苦労も考えてもらわないと困りますね」


魔王「ほらね」

天使「な、何で来るってわかったんですか……」

魔王「僕と側近の同種によるシンパシーってやつかな?近くにいないと感じないけど」



211: 2015/01/01(木) 03:54:29.82
側近「面倒な手間かけさせないで、バカ」

魔王「ゴメンゴメン、色々訳アリでさ」

オーク「何はともあれ無事でよかったよ。オラ、背負うからとっとと乗りな」

魔王「いつも悪いね、オーク君」

天使「どうしてここが分かったのですか?」

オーク「アンタの遣わせた精霊の導きだよ、ほれ」

天使「あ……ちゃんと連れて来てくれたのですね……ありがとうございます、精霊さん」

側近「……」



212: 2015/01/01(木) 03:54:56.86
天使「……側近さん、私―――ッ!!」

側近「ふざけないで!!」


魔王「なッ!?」

オーク「おいおい、今のはいい音しすぎだぞ……」


天使「……ッ」

側近「頬を打たれて痛いですか?痛いでしょうね、そうしたんですから」

側近「魔王を守るのは貴女の役目でしょう……近くに居たにも関わらず何ですかこれは!!」

魔王「やめろ!彼女には僕がもう……」

側近「煩い!!」

魔王「んな!?」



213: 2015/01/01(木) 03:55:22.57
側近「貴女とは何度か手合せをして、その腕を信用して護衛につけたのです」

側近「なのに貴女はそれを裏切って……!!」

天使「ゴメン……なさい……」

側近「謝った所で好転はしません。それに、魔王の傷。見たところ酷い毒性を感じるけれど」


オーク「うぇ!?マジか!?」

魔王「あーゴメン。言い忘れてた、うつるかも」

オーク「いやあああああああん!!」



214: 2015/01/01(木) 03:56:11.79
側近「鉱毒か……早く手当しないと、本当に半身不随になるよ。この程度で済んだのは……元の姿に戻ったでしょ」

魔王「あー……正解」

側近「チッ……何故他者に私達の、あの醜い本当の姿を晒せられるの」

魔王「僕は僕の一面を、大切な仲間に見せただけだよ」

天使「……」

側近「金輪際、貴女に魔王の護衛は任せません。魔王は常に私と行動するようにします」

魔王「今回の事は遡れば僕の我が儘が原因なんだ。今後気を付ければいい事だろう」

側近「今後があったからよかったものを、下手をすればもう貴方はこの世にいない。その傷の毒性にも気づかず、あまつさえ守るべき対象である貴方に手傷を負わせた。貴女は一体今まで何をしてきた!そんな役立たずに利用価値など無い!!いっそ、何なら今すぐここから……」

魔王「口を閉じろセピアメイズッ!!」

側近「ッ!!」



215: 2015/01/01(木) 03:57:00.17
側近「……」

魔王「……彼女への処罰は僕への魔力の提供と、降霊魔法の酷使という形でもう済ませている、それ以上は僕が許さないよ。セピア、君はそんなに聞き分けの悪い子じゃないだろう」

側近「貴方が……そう言うのならば……」

魔王「うん、いい子だ……少し過激すぎたけど、側近も間違った事は言っていない。幸い相手が僕だから良かったものを、これが本当に君の大切な人だったら……君の驕りで氏なせてしまったかもしれない」

魔王「だから、何度も言うけれど、この件で学び次に生かしてくれればいい、それでいいんだ……」

天使「……はい」

魔王「それじゃあ帰ろう。この洞窟は少し気になることがあるからまた後日調べよう。それじゃあオーク君!馬車までゴー!!」

オーク「お、おう!!何だか知らんが俺がこの場を盛り上げにゃならん気がするがゴー!!でいいんだな!!」

魔王「ゴー!!でいいんだよ!!」



側近「……」

天使「……」



216: 2015/01/01(木) 03:57:26.14
天使「弁解はしません、出来ません」

側近「でしょうね。あのバカは甘すぎます、いっそ犬畜生と同じように人を見られればいいのに」

天使「それでは……魔王様ではありません」

側近「貴女にアイツの何が分かる」

天使「分かります。少しだけですけど、貴女ほどでもないですけど、分かります」

側近「……もういい不快です。喋らないでください」

天使「……はい」



217: 2015/01/01(木) 03:57:55.81
オーク「……おっかねぇなぁ。あんな側近始めてみたぞ」

魔王「僕も」

オーク「言っている事はもっともだが、駄々こねている子供にしか見えんのが何とも」

魔王「……困ったもんだね。あんな癇癪持ちだったとは、ああいう風に育てた覚えはないんだけどなぁ」

オーク「ま、天使の方も褒められたもんじゃないけどな」

魔王「もうそれは言いっこなしだよ。大人数で同じことを責めたてるより、一番立場の上の僕が言う方が効果はある。もうそれも済ませた」

オーク「なぁ魔王、二人の接し方は考えろ。お前は天使に甘過ぎるし、側近の事は放任過ぎる。このままだとまた同じような言い争いになるぞ」

魔王「……」



218: 2015/01/01(木) 03:59:20.46
――――――
―――



側近「遅い。基本的な動きに身体が付いていけてない。次」

天使「は、はい!!」

側近「今度は斬り込みが甘い。脇下に隙をワザと作ったのにそんな所も見抜けないのですか貴女は」

天使「はいィ!!」



オーク「おー、なんか激しいことしてんな」

魔王「やぁオーク君。あの洞窟の件、どうだった?」

オーク「ああ、アンタの言った通り、立派な鉱山だったよ。開拓していきゃ金になるぜ、アレは」

魔王「怪我の功名と言うべきか。あれほど強い岩獣が棲んでいたんだ、エサにしていた鉱石も良い物でなければおかしいからね」

魔王「それに、あの地に住む人々のいい仕事先にもなる。先に村の周囲の開拓を進めてちゃんとした生活のできる環境にするのを優先するけど」

オーク「貴族が後からそれを知って土地返せって言ってきたが、まぁ突っぱねといたよ。土地を減らして戦力ダウンしてる事を他の領地の連中に言いふらしてやろうかって脅しを掛けたら黙ったけどな」

魔王「うん、それでいいよ。武力行使に出るのならこっちも相応の反撃をするけどね」

オーク「おっかないおっかない……」

魔王「ここまで来たんだ、僕ももう甘い事は言っていられないよ」

魔王(しかし、同時にあの場所は"ハズレ"でもあった……封印はあそこにはいなかった)



219: 2015/01/01(木) 04:00:08.06
側近「貴女のその無駄に長い手足は飾りですか。バネの利かない剣など弾の入っていない銃と同じです。次」

天使「ヒィィ!!」



オーク「で、何してんだよあの二人は」

魔王「側近が本格的に彼女に稽古を付けてるんだよ。前回みたいなことが無いようにね」

オーク「護衛については認めてくれたのか?」

魔王「そうだね、人手不足でどうしても側近と僕は別行動を取る機会も多くなる。結局、僕の剣になってくれる人は必要だしね。それを理由に話を付けたよ。こうして毎日稽古するって約束でね」

オーク「毎日やってんのか……別に、俺が傍にいてやってもいいんだぞ?自分で言うのもアレだが、俺も弱いワケじゃねぇからな」

魔王「花が無い」

オーク「ひでぇ」



220: 2015/01/01(木) 04:00:34.04
竜爺「その花を愛でながら飲む緑茶は美味いのぅー」

オーク「ああ爺さん居たのか」

魔王「あまりにエスカレートした時に僕じゃ止められないから竜爺にも見てもらっているけど……」

竜爺「茶がうめぇ」

オーク「完全に御くつろぎモードに入ってるな」

魔王「こうなったが最後、竜爺は事が起こるまではボケ通すだろうね」

竜爺「メシはまだかのうぅ」



221: 2015/01/01(木) 04:01:32.09
側近「そぉい」

天使「ギャアアアアア―――――!!」



オーク「容赦ねぇなー。ってか側近ってなんであんなに強いんだよ」

魔王「彼女は理由の無い理不尽な強さだからね。幼いころから育ててきた僕もビックリだよ」

オーク「常々思ってたんだがよ、お前と側近ってどんな関係なんだ?兄妹ってワケでも無いんだろう?他には……」

魔王「うん、恋人関係に見えるかい?」

オーク「熟年夫婦って感じには見えるが。まぁ話から察してもそうではないだろう?」

魔王「そうだね。まぁ言ってしまえば赤の他人だけど、僕には彼女を育てる義理がある」

オーク「義理ねぇ」

魔王「彼女の人生の一つの可能性を潰してしまった僕だからこそ、その義理を果たさなきゃいけないんだ」



222: 2015/01/01(木) 04:02:11.36
魔王「まぁ、側近もそのことについては気にしていないみたいだし、聞きたかったら本人に聞いてみなよ。僕が言う事じゃない」

オーク「ああ、そうか。特には興味ないけどな」

魔王「うん、それならいいや」


竜爺「そこまで!!お主らやり過ぎじゃ!!」


側近「ぬ、もう止めに入りますか。この程度でへばるなどと、軟弱極まりないですね天使さん」

天使「」


魔王「って竜爺いつの間にか真面目モードになってるし」

オーク「仕事はキッチリするヒトなんだよなぁ」



223: 2015/01/01(木) 04:03:24.08
天使「魔王……様……助……けて……」

魔王「おー、凄い手足がプルプルしてるね。生まれたての小鹿のようだ」

側近「まったく……これだから岩獣如きに後れを取るのです。情けない」

魔王「こらこら追い打ちを掛けない。それに、君はあの魔物と戦っていないからそんな事が言えるんだ、あれはね……」

側近「あの後私が同種と思われるものを洞窟内で十数匹ほど駆逐したけど何か」

魔王「いえ、何でもないです。ご苦労様です」

竜爺「お主が一番情けないのう」

オーク「それより、問答無用の訓練って言ってたのにどうして魔法を使わなかったんだ?得意なんだろ確か?」

側近「いえ、ワケあって魔法は一回しか使えませんので。もしもの時の為に温存しているのです」

天使「一回?」




224: 2015/01/01(木) 04:03:53.42
オーク「まぁいいか。よーし、それなら魔王。俺たちも一戦行くとするか。ほら俺に続けー」

魔王「え?ちょっ待てよ!?僕は戦うヒトじゃないよ!?戦闘は君たちに任せっきりって決めてたんだよ!?」

オーク「知る馬鹿!!そんな事より特訓だ!!」

魔王「誰か助けてぇえええええ!!」

側近「ま、たまにはいいんじゃない」

竜爺「精進しろよ」

天使「あ、お疲れ様です。私もう上がりますね」

魔王「嫌ぁあああああああん!!」



225: 2015/01/01(木) 04:04:20.26
側近「まったく相変わらず騒がしい」

天使「アハハ……でもあれから元気になられたようで安心です」

側近「あ?」

天使「し、失礼しました!!私のせいでしたよね……」

側近「分かっているならよろしい」

竜爺「……フフ」

側近「……竜爺様、何がおかしいのですか」

竜爺「いや、なに。お主も、始めのころより少しは丸くなったと思ってな」

側近「不名誉ですね。まるであの魔王に近づいたと言いたいようで」

竜爺「そこまで酷な事は言わんよ。奴はいらぬところまで丸すぎる」

天使「お二人とも、失礼大爆発してますね」



226: 2015/01/01(木) 04:04:48.73
天使「そうだ、お二人に聞きたいことがあったのですが、ちょうどお二人が揃っているいい機会ですし聞いてしまってもいいですか?」

側近「何ですか、下らない事でしたら折檻しますよ」

天使「酷い!?」

竜爺「よい、言ってみろ。暇つぶしにはなるだろうて」

天使「あ、はい。お二人はどうして魔王様についていこうと思ったのですか?もうお付き合いも長いのにそこら辺が不鮮明でしたので」

竜爺「ワシは奴について行ったわけではない。奴が勝手にワシに纏わりついてきただけだ」

側近「……」



227: 2015/01/01(木) 04:05:23.64

天使「えー、でも竜爺様って結構魔王様に甲斐甲斐しくしてますよね?」

竜爺「ワシは奴の女房役でもあるまいし、そんな言葉を使うでない恥ずかしい!」

側近「事実でしょう。それに、私も気になっていました。話してくれてもいいのではないのですか、纏わりついても振り落とさなかった理由くらいは」

竜爺「ふん、奴が天地の統一などという途方もない夢物語を語るから付き合ってやっているまでの事。そうして失敗し、挫折した姿を笑ってやろうという趣味の悪い暇つぶしでしかない」

天使「ツンデレさーん♪」

竜爺「だまらっしゃい!!」

天使「そんな大馬鹿な魔王様に魅せられたから、お城貸したり入れ知恵をしていたりするんですよね?フフ、竜爺様も何だかんだ言って魔王様の事大好きなんですね~」

竜爺「お主の思っておるようなそんな生っちょろい事ではない。元々がその器ではないと分かった時はワシは奴を見限る、そのつもりでおる」

天使「それを今すぐに貴族の方たちにでもしてくれればもっと事を荒立てずに住んだんじゃないですかー?」

竜爺「耳が痛いが、まぁワシは今更どうこうしようなどと思わん。もうそっちで勝手にやっていろ」

竜爺(魔王に肩入れする理由など、魔王も知らぬ義理があるなどと言えるわけが無かろうて)



228: 2015/01/01(木) 04:05:53.44
天使「側近さんの方は……」

側近「面白い話ではありませんよ。私はただあのヒトに拾われ育てられたから、その恩で着いてきているだけです」

天使「拾われた……」

側近「もう一度言いますが、面白い話ではありませんよ」

天使「是非聞かせてください!!」

側近「察 し ろ」

天使「痛い!?頭グリグリは禁術ですよ!?痛い!!」

竜爺「少しは空気読むことを覚えんかお主は」



229: 2015/01/01(木) 04:06:48.33
天使「ですが、志を同じくして魔王様の下に集った者同士、知っておきたいと思ったのですが……」

側近「では貴女は何故あの胡散臭い男についてきたのですか。貴女の持つ使命とやらは、別に魔王の傍に居なくても出来る事と私は感じるのですが」

天使「それはそうですが……助けて貰った恩もあります、私側の打算もあります。でも、それ以上に魔王様の持つ理想に魅入られたから、私はついて行こうと決めたのです」

側近「あのバカバカしい話で着いてくるなんて、貴女チョロイですね。チョロインです」

天使「チョロインって何ですか!?」

天使「……それに、何だか魔王様ならシレッと実現させていそうで。そんなあの人をもっと間近で見ていたいと、そう思ったからです」

竜爺「それではお主が承った使命を果たせんではないか。それはおかしい話だ」

天使「魔王様は、その長い寿命に意味があると言っていました。私や魔王様は数千年生きる長寿の種族、その中のたった一欠片を魔王様の為に使ってもいいかなって、そう思えるのです」

天使「それに、私の"探し物"は今すぐに必要なものでは無いので。ゆっくりと、時間をかけて見つけていきます」

竜爺「探し物とな?」

側近「形があるものなのですね。今初めて知りました」

天使「はぅあ!?極秘中の極秘なのに漏らしてしまった!?忘れてください!!今すぐに!!」

竜爺「お主、極まってるのう……」



230: 2015/01/01(木) 04:07:15.49
側近「……ハァ、そこまで貴女のバカが突き抜けているとは思いませんでしたよ」

天使「なにおう!?」

側近「分かりました、どうしても聞きたいようですので教えてあげます。私が彼についてきた理由を。教えない理由も無いですし」

天使「ワクワク」

竜爺「ドキドキ」

側近「竜爺様も割かしノリがいいですよね」



231: 2015/01/01(木) 04:07:44.06
側近「簡潔に言いましょう、私の両親は魔王に殺されました。その罪悪感から魔王は私を引き取り育てたという事です。恩義で仕方なくつい来ています、以上」

天使「え?」

竜爺「……」

側近「膨張表現は一切していませんが何か」

天使「え、魔王様が……え?頃しを?」

側近「驚くことではありませんよ。私たちの種族の争いなんて珍しい事でもないので」



232: 2015/01/01(木) 04:08:33.63
側近「私達、この地上で言う"幻魔"と呼ばれる種族ですが、同族頃しの種族として魔界でも有名な生物です」

側近「普通の生物とは違い、心臓となる部分にはとても強い魔力を秘めた核を持っています。そして、同族の核を破壊することにより力を得ると同時に寿命を延ばすことが出来ます」

側近「故に同族頃し。力を得ようとすれば必然的に頃し合いが始まります。そうしていく中で弱気ものは淘汰され、強き者も氏に絶え、そしてその数を減らしていきました」

側近「私の両親は、私を"創造"し、同族頃しを円滑に進めるために道具として私を育てました。その時の事は理性も無かったのでよく覚えていませんが」

側近「そしてどういう訳か、魔界一の変人である彼がそんな私を見て哀れだと思い、両親を殺害し私を解放したという訳です。魔王は核を自分の為に使わずにそのまま破棄した為弱いままでしたが」

側近「結局、他所で潰し合いが激化し幻魔の生き残りは私と魔王だけになり、誰にも狙われる事も無くなりました。めでたしめでたし」

天使「……」

竜爺「……想像していたのより重かったぞ」

側近「だから私は彼に着いてきた。他の居場所も無く、彼もまた私の傍以外に居場所が無いと思っていたから」



233: 2015/01/01(木) 04:09:00.27
側近「けれど、もうそんなこともありませんでした」

天使「?」

側近「……いえ、なんでも無いです」

天使「でも、やっぱり魔王様は優しいですね。力が目当てならば側近さんも手にかけるハズですし。でも、それでは……」

竜爺「やむを得んだろう、殺るか殺られるかの世界の中だ、野暮な事は言わんが」

側近「種を絶やさないようするために、子供を産ませるために私を引き取ったのだと思いましたが、そこまで鬼畜では無かったみたいですね」

天使「最後の最後で話をぶち壊してきましたね!?」

側近「私はそれでも構わないですが」

天使「……」



234: 2015/01/01(木) 04:09:33.12
天使「やっぱり側近さんって、魔王様の事が大好きなんですね」

側近「好きという感情は私には分かりません。今まで必要のない事でしたので」

天使「フフ、それじゃあこれはどうですか?私の事、好きですか?」

側近「嫌 い で す」

天使「知 っ て た」

側近「前ほどはマシとはいえ……私は貴女を信用出来ません。理由は分かりませんが、それはきっとこれからもずっと……」

天使「アハハ……私はそれでも構いませんよ!いずれ嫌って思う程私の事好きにさせて見せますから!!あ、コレ告白?キャーーー!!」

側近「私は今そんな話をしていないのですが……やっぱり貴女とはかみ合いません」



235: 2015/01/01(木) 04:10:30.00
魔王「つ……疲れた……」

オーク「おおう!いい汗かいたぜ!」

側近「あっ魔王……」

天使「おかえりなさい魔王様!どうですか?私の気持ちが少しでも分かりましたか?」

魔王「こ、考慮しておきます。それにしたってオーク君!少しは手加減してくれたっていいじゃないか!!」

オーク「あれ以上手加減したらデコピンだけで戦うことになるぞ」

魔王「なん…だと…?」

天使「フフフ、精進しなきゃですね!魔王様!」


側近「……」



236: 2015/01/01(木) 04:11:16.85
竜爺「何か、思うところでもあるのか?」

側近「今の彼に必要なのは私ではなく、彼女なのですね」

竜爺「疎外感を感じるなど柄にもない……そうは思わん。皆が居て奴がおる、そして奴がいて皆がおる」

側近「全体で見た場合はそうでしょう。ですが、個で見た場合は私は必要とはされていません」

竜爺「……何故魔王がお主を賢人に合わせたかが分かっていないようじゃな」

側近「国の発展の為です。私は彼創る世界の手足として働かなければなりませんので」

竜爺「やれやれ、ここまで堅物だと実現もまだ先になりそうだな」

側近「頭の堅さなら貴方も相当でしょう、竜爺様」



237: 2015/01/01(木) 04:11:57.05
竜爺「お主はもう少しだけでも自分の感情に気づくことは出来んか。魔王に何故ついてきたか、天使を何故嫌っているか。同時に、人の心が分からんようでは今後やっていけんぞ」

側近「元々、私の生きる理由は彼しかないです。他に生き方を知らないだけです。天使さんを嫌いっているのは、単に大きな種族の違いからくる警戒心です」

竜爺「ならば、お主自身はどうなんだ。既に魔王がいなくとも生きてゆけるだろう、天使は警戒を解きお主と接しているだろう。それ以上をお主はどうしたい?」

側近「私は……」


天使「側近さーん!休憩にしましょう!お茶菓子用意してきますからー!」

魔王「胃が受け付けない……」

オーク「お、お前ちょっと貧弱すぎないか?」


側近「……私は、別にどうもしません。ただ魔王に従い、彼を取り巻く人達に付き添うだけです。それ以外の何かを求める事はしません」

竜爺「ふん、漠然と生きているだけで自主性が無いのも問題だな。それでは予言も何もあったものでは無い」

側近「何度も言いますが、始めから信用はしてませんから、そんなものは」



238: 2015/01/01(木) 04:12:44.40
魔王「……ん?」

天使「どうしました魔王様?まさか本当に胃が!?た、大変ですオークさん!胃薬を!!」

オーク「いや明らかにそんな雰囲気じゃないだろう。どうした魔王」

魔王「魔王城の入り口に僕の張った結界に何か引っかかった。誰か来たのか」

オーク「客人か?今日は別に領主や村や町の代表と約束なんて無かったろ」

魔王「大人数だな……側近、何か心当たりはあるかい?」

側近「あると言えばある。貴方も知っているんじゃなくて」

魔王「……それにしても少し早すぎやしないかい?」

側近「何事にもイレギュラーは付き物だと思うけれど。とりあえず行ってみれば分かる」

オーク「何だってんだ一体?」

天使「ともかく行ってみましょう」



242: 2015/01/01(木) 15:22:31.36
……


オーク「お、おい魔王……なんだよこりゃ」

天使「あわわ……大行進ですよ大行進!!」

竜爺「また大所帯を……」

側近「驚いた……貴方にここまで賛同していた者がいたとは」

魔王「うん、結構集まったね。予想以上だ」


「"影"の長よ……いや、今は魔王と呼ぶべきか」

魔王「君が引き連れて来てくれた代表かい?」

「は!力を持たぬ者、下の世界での争いを良しとしない者、そして貴方の意思に賛同し志を同じくする者が今ここに集っております」

魔王「ご苦労様、ここまで集まってくれた君たちに感謝するよ」

「勿体ないお言葉を……」



243: 2015/01/01(木) 15:23:26.89
天使「えと……魔王様?結局これはどういう事ですか?」

魔王「君には言っていなかったね。魔界から僕の力になってくれそうな者達を集めていたんだよ。長い時間をかけて魔界を回った甲斐もあって、今こうして彼らは地上へ出てきてくれた」

側近「どういう事ですか、魔界と地上を結ぶ"地の大穴"が開く周期はもう少し先だったハズ。なのに時期早々に出て来て……」

「最近になっての事ですが、大穴の周期に乱れが出て来ておりまして、それで不安定になったところ偶然行き来が出来るレベルの大きさになったため予定を早めた限り」

オーク「よ、よく分かんねぇが、これ全員魔王の味方ってのでいいんだよな?」

魔王「うん、僕を討とうとする者がいなければ全員味方って事でイイかもね」

天使「凄いです魔王様!ざっと見て500はいますよ!軽く民族大移動ですよ!!」

魔王「この規模をどこの勢力にも見つからずに移動させたのかい?」

「いえ、大穴前に待機していた魔王様の部下の情報により、各々少数に分かれてここへ参りました」

側近「……そんなの居たんだ」

魔王「アハハ……一応僕の使い魔を置いていったんだ。僕の賛同者が来たときは導くようにって伝えてね」

側近「聞いてない」

魔王「ん、言ってないからね。グェ!?」

側近「そういう大切な事は先に言えバカ」

天使「鳩尾入りましたよ!?」

オーク「まぁ大丈夫だろ、いつもの事だし」

(……魔王様がド突かれてる事に突っ込んだ方がいいのだろうか)



244: 2015/01/01(木) 15:24:03.33
「しかし、長い旅でしたので途中で逸れてしまった者達もいましたが……」

魔王「グフッ……か、彼らはコンタクトが取れ次第合流しよう。今は余裕が無いから後回しになってしまうけど、仲間を放っておくわけにはいかないからね」

側近「でも、ちょうどよかった。これから出来る事が増えていくから、人手が増えて助かる」

オーク「そうだな、俺たちだけじゃ手が回らなかった地方への支援と開拓もこれで出来るようになる」

竜爺「見たところ宿無しのようだが、住むところはどうする。別にこやつらを城に入れても問題ないくらいには広いが、碌に準備は出来ておらんだろう」

「雨風凌げるのならこちらで手筈は出来ます」

天使「城内のお掃除ならば怠ってはいないので、すぐに使える部屋は多いですよー!」

「感謝致します」



245: 2015/01/01(木) 15:25:04.17
「それで魔王様、ここで貴方の言葉を彼らに。ここまで貴方を頼りにしてきた者達です、彼らは貴方の言葉を求めています」

魔王「うん、そうだね……こうして集まってくれた彼らに労いと激励の言葉でも掛けようかな」

オーク「出るか?魔王特有の長台詞!」

魔王「アハハ……僕の話ってそんなに長いかな?」

側近「士気向上には打ってつけの場だけど、ヘマしないように。以後舐められても困るから」

魔王「ならば君が号令をかけるかい?」

側近「冗談、それが貴方の役目でしょう」

魔王「ま、僕はどちらでもいいけどね……しかし、大きな節目がこんなところで来るなんてなぁ、練習くらいしておくんだった。それじゃあ、オホン」

魔王「……この魔王の下に集いし勇敢なる同胞(はらから)達よ!よくここまで来てくれた!簡単な形式ながら魔王として礼を言う。ありがとう、私の下へ来てくれて」

側近「……」

オーク「……」

竜爺「……」

天使「……」



246: 2015/01/01(木) 15:26:08.81
魔王「まずは長旅ご苦労。しばらく身体を休めた後、各々適性のある仕事についてもらう。急で悪いがこちらも余裕が無い、君たちの今後の働きを期待する」

魔王「……ここに居る者達は、それぞれの決意や思惑、葛藤があっただろう」

魔王「魔界での生活を名残惜しみながら捨てた者、愛する者を失い戦いの先に何もないと気付いた者、一攫千金を夢見る者、戦う事を好まぬ者」

魔王「それぞれが違う理由でここに在る、しかし同じ場所に集った仲間だ!我々はいつか一丸となるだろう!」

魔王「世界の統一……天も地も全てひっくるめて、どんな種族とも共に歩んでいける世界を創る!」

魔王「馬鹿だと笑ってくれても構わない、無謀だと呆れてくれても構わない!だが、私の夢は、意思は受け継がれてゆく!その為に」

魔王「そんな夢物語の実現に、皆の力を私に、私の残す意思に貸してほしい!」

魔王「もう一度言う……ありがとう、私の下に来てくれて!」


オーク(お互い、せっかく形になりそうな所まで来たんだ。覚悟決めてずっとついて行ってやるよ)

側近(……私の居場所は、貴方の傍しか無いから)

竜爺(魔界からの増援……不安はあったが問題はなさそうだな。さて魔王よ、お前への義理立てでここまで手を貸してやったつもりだったが……どこまで成し得る事が出来るかな)

天使(魔王様のターニングポイントは今なのですね……沢山の人達に慕われ、そして敬われる。兄さんも、やり方さえ違えば仲間を作ることが出来たのでしょうか……)



247: 2015/01/01(木) 15:26:44.63
……


魔王「うん、緊張した!!超緊張した!!」

側近「はいはいご苦労様」

天使「カッコよかったですよ魔王様!!」

オーク「だが、これで俺たちも少しは楽が出来るな。仕事の分担が出来るしよ」

側近「何を言っているのですか。来たばかりの彼らに外交などさせられるものですか。ただでさえ現状内輪揉めでしかないのに。まずは全員開拓地へ、他は知識を付けさせてからにしてください、使えるかどうかはその後に判断します」

オーク「oh...」



248: 2015/01/01(木) 15:27:30.08
魔王「しかし……」

天使「何か気になる事でも?」

魔王「地の大穴の周期が変わったって事は、次元自体に何か不都合があったって事か……」

天使「それがどうかしましたか?」

側近「やれやれってやつですね。平和ボケもここまで来ると呆れます」

天使「なぬん!?」

魔王「君、ここで一年以上過ごしていて少し迂闊になっているんじゃないかい?大穴の周期が変わったと僕は言ったんだよ?」

天使「……あッ!」

魔王「察しの通り、天の大穴にも異変があったかもしれない」



249: 2015/01/01(木) 15:29:03.93
側近「私も4、5年降りてこられない事を見越して帰天の魔法で連中を飛ばしましたが、不安ですね。まぁまた飛ばせばいい話ですが。最悪始末しますし」

天使「彼らは慢心さえなければ私よりも強いです!側近さんだけでは……」

側近「何か問題でも」

天使「あ、いえ……」

魔王(問題なく一人で片づけてしまいそうだな……)

側近「ともかく、足のある者を各地へ均等に置きましょう。異変を見つけ次第素早く報告できるように」

魔王「そうだね、表的は僕ら3人だろうし。自分たちの評判もあるから迂闊には他者に手は出さないだろう」

側近「純粋な魔族は保障しかねますが、見た目からして魔族と分かる者達も少ないのでまだ大丈夫でしょう」

魔王「僕たちは見た目がコレでも気配ですぐ魔族だって察知されちゃうしね」



250: 2015/01/01(木) 15:29:44.63
天使「神兵の追手……私は、生き残れるだろうか……」

魔王「……震えているよ」

天使「ッ!こ、これは武者震いです!!血肉沸き踊っているのです!!」

側近「血沸き肉躍る、ですよ」

天使「そ、それがどうした!!これでも一端の兵なんです!負けていられません!!」

魔王「大丈夫だよ」

天使「え?」

魔王「どんな事があっても、君は僕が守るから」

天使「~~~~!?」



251: 2015/01/01(木) 15:30:12.42
天使「はぅあ……ぁぅぁぅぁ……」

オーク「あ、煙噴き出した」

側近「貴方の方が弱いのにどうやって守るつもりなのか」

魔王「そりゃあアレだよ!また盾になってだね!」

側近「それで私が彼女と揉めたのだけれど。もう一回彼女をひっぱたく?」

魔王「やめて」


竜爺「おやおや、口説きに来たか魔王め」

魔王「あ、竜爺。彼らは?」

竜爺「奴らには城の概要と今後の事について簡単に説明しておいてやった」

側近「そんなことは竜爺様の仕事ではありません。私たちがやることです」

竜爺「ふん、この城を好き勝手使われたくないだけだ。そのついでだ」

魔王「ありがとう、感謝するよ竜爺」

オーク「とんだお節介焼きだ事で」



252: 2015/01/01(木) 15:31:04.79
天使「ど、どどどどうしましょう!私は守られてしまいます!魔王様を守る立場なのに!!」

側近「落ち着けぃ」

天使「あぐぅ!?」

オーク「当て身!?」


魔王「……」

竜爺「そんなにあの娘が心配か」

魔王「まぁね。彼女は何としても守らなきゃいけないし」

竜爺「お前はどうしてそこまであの娘に肩入れする。大方察しはつくが、どんな義理があるというのだ」

魔王「貴方が僕に力を貸してくれた理由を言ってくれないのと同じで、今は僕もそれを口には出せない。彼女を困らせてしまうからね」

竜爺「秘匿主義者めが」

魔王「それは貴方も同じだろう?竜爺」

竜爺「……」



253: 2015/01/01(木) 15:31:37.24
魔王「さて、それじゃあこれから食事にでもするとしよう。僕が直接スカウトした魔界の料理人がみんなに料理を振る舞ってくれるってさ」

オーク「へぇ、魔界料理か。食う機会なんて無いし楽しみだな」

天使「私もです。一度どんなものか食べてみたかったんですよ」

竜爺「ほほう!マジか!美味いものが食えるのか!出せ今すぐ!!」

側近「あ、私はいいです。それでは失礼します」

魔王「えー、連れないなぁ。ま、いいか。それじゃあみんな行こうか」



254: 2015/01/01(木) 15:32:14.44
……


魔王「んー、美味しいなぁやっぱり」モッキュモッキュ

天使「」

オーク「」

魔王「どうしたんだい二人とも?食べないなら僕が貰うよ?」モッキュモッキュ

竜爺「うむ、ワシは平気じゃが、これは地上の者が食うもんじゃないな。側近め、知っていて逃げたな」


側近(まぁ、私の味覚は普通ですので)コソッ



255: 2015/01/01(木) 15:32:41.31
――――――
―――



天使「魔王様、お疲れ様です。交渉の方は……」

魔王「上手くいったよ。彼らに必要な土地を譲渡し、余分な土地を受け取る。そして着実に僕たちの領地は増えて行っている……さて、もう少しで爆弾を爆発させられるところまで持ってきたけど」

天使「爆弾?」

魔王「ん、何でもないよ。君は引き続き僕の護衛を頼むよ」

天使「はい」

魔王「……それにしても、また君が僕の護衛になれてよかったよ」

天使「といいますと?」



256: 2015/01/01(木) 15:33:38.42
魔王「側近の事だ、本来魔界から援軍が来た時点で君を解任して他の仕事に当てるつもりだったんだろう」

天使「そうですね、その話を何度か持ち掛けられましたが……」

魔王「幸いと言うか何というか、魔界から来た者達に君よりも強い者がいなかったからね」

天使「結局私が適任という判断になりましたからね。側近さんも忙しいので魔王様のお傍に居られませんし」

魔王「よかったよ、僕としても君を傍に置いておきたかったからね」

天使「もう魔王様!!そんな歯が浮くようなセリフを言うのはやめてください!!勘違いしちゃいますよ!!」

魔王「ハハ、君は可愛いなぁ」



257: 2015/01/01(木) 15:34:36.67
魔王「しかし、鉱脈が多々発見されたおかげで資金的に随分余裕が出てきたな。とはいえまだまだだけど……そろそろこっちも武器に出来そうだ」

天使「今まではお金はどこから出ていたのですか?昔賞金稼ぎをしていたようですが、それでは明らかに足りませんよね?」

魔王「ある程度は竜爺に工面してもらったよ。ちゃんと返しているし、このまま行けば問題は無いんじゃないかな」

天使「何だかんだで竜爺様便りですねぇ」

魔王「嫌味は言えど頭は上がらないよ。彼がどうして僕にそこまでしてくれるのかは分からないけれど、利用していいと言われたからそうさせてもらった。勿論恩は返したいけどね」

天使「魔王様って排他的だったり情に厚かったり、安定しないですね」

魔王「排斥なのはこんなご時世に揉まれたからかな。甘い考えではやっていられないって思い知らされたよ」

天使「甘い魔王様も素敵でしたよ?」

魔王「ん、ありがと。でも今はそうはしていられない」



258: 2015/01/01(木) 15:35:06.91
天使「あ、魔王様。今日は他にご予定は在りますか?」

魔王「後は城に帰るだけだけど、どうしたんだい?どこかに寄りたいのかい?」

天使「はい、あの鉱山のある村へ少し」

魔王「了解、理由は聞かない方がいいかな?」

天使「えっと……そうですね。一応友達に会いに行くという名目でお願いします」

魔王「うん、いいよ。そういう事にしておく」



259: 2015/01/01(木) 15:35:52.46
魔王「すまない、城に帰る前に少し寄り道をしてくれ。場所は地図で言うと……ここだね」

「分かりました、魔王様」

魔王「……なんか、馬車を運転するのがオーク君じゃないって言うのも寂しいね」

天使「オークさんはオークさんで指示役に回ってますからね。4人で行動することもあんまりなくなっちゃいましたね」

魔王「これも仕方ないさ。丁度軌道に乗っているんだし、今は自分たちに出来る事を頑張ってもらおう」

天使「そうですね!」

「そういう話されると専属の馬車引きとしてはちょっと寂しい気もしますよ魔王様」

魔王「も、申し訳ない……」

天使(他の部下の方からもダメ出しされる魔王様とは一体……)



260: 2015/01/01(木) 15:36:47.70
……


魔王「到着!っと」

天使「わぁ……随分と」

魔王「うん、すごく活気づいているよ」

天使「もう村を通り越して町になっていますね」

魔王「ここは我が領地の重要な拠点だ。鉱脈からお金を掘り起こしているようなものだし、随分と助けられているよ」

天使「あの生活苦だった状態から随分と回復したのですね」

魔王「まぁあれからかなり日が経ってるしね。用事があるのなら行って来なよ、僕は適当に視察してくるからさ」

天使「はい!」



261: 2015/01/01(木) 15:37:14.84
天使(まずはあの子に会いに行こう。それからでも遅くは無いし)

天使「……あ、でも私あの子の家を知らないや……どうしよう」

天使「あ、すみませんそこの道行く人!」

「は、はい?」

天使「えっと、少し前にこの辺に住んでいた盲目の……アキっていう女の子ってどこにいるか分かりませんか?」

「ん?ああ、コウヨウのとこの嫁さんか。だったらもうここにはいないよ」

天使「え!?」



262: 2015/01/01(木) 15:38:14.77
「あの子体調を崩したみたいでね。お金にも余裕が出来たからここから離れた町に引っ越すって言ってたな」

天使「ば、場所は分からないですか!?」

「さぁ、何にも言わずに出て行っちゃったからね。何か訳ありみたいだし、あんまり他人に足取りを知られたくないって噂もあったから」

天使(泥棒さんって話……本当だったのかな)

「とにかくそれ以上の事は知らないね」

天使「はい……ありがとうございました」



263: 2015/01/01(木) 15:38:42.31
天使「……残念だなぁ。またお話出来ると思ったのに」

天使「でも、領地内にいるなら、多分また会えるよね……?」

天使(よし、じゃあ本来の目的だけ済ませよう)

天使(あの時、確かにあの場所で聖剣は何かに反応した……あの場所へもう一度行けば何か掴めるかもしれない)

天使「確かここだったハズだけど……」

天使「お花畑……小さくなっちゃったな」



264: 2015/01/01(木) 15:39:18.11
魔王「……」

天使「あれ?魔王様、どうなさったんですかこんな場所で?」

魔王「ん、君か。いや、前に見た花畑が気になってね。僕もここに来てみたんだ……開発が進んじゃって前よりは小さくなっちゃったけど」

天使「丘の上に小ぢんまりと残っただけになっちゃいましたね」

魔王「うん、もう少し気を遣うべきだったかな」

天使「気を遣う?」



265: 2015/01/01(木) 15:39:57.90
魔王「自然の中で生まれ育ち、色とりどりに力強く咲き誇り、ヒトの心を和ませる」

魔王「僕の友達は、この花々を平和の象徴と言ったんだ。どんな生物たちが栄えたとしても、これだけは残さなきゃいけないって彼は言っていた」

天使「素敵な考えを持っていたのですね、魔王様のお友達は。私の周りにはそういう事を気に留めるヒトはいませんでしたから」

魔王「あれ?君のお兄さんは花が好きではないのかい?」

天使「兄ですか?兄は私の前では温厚でしたが、一度剣を手に取れば鬼神の如き猛者となっていましたので……あんまり花には関心は無かったかと。なぜ私の兄が花が好きだと?」

魔王「……なるほどね。いや、何でもないよ。花のように綺麗な君のお兄さんなんだ、きっとそういったものを愛でるのは手馴れていると思ってね」

天使「も、もう魔王様ったらまた!」



266: 2015/01/01(木) 15:40:44.57
魔王「……僕はね、その友人と約束したんだ。花の咲き誇る優しい世界で、また旅に出ようって」

天使「旅に……」

魔王「その友人とは旅の途中で離れ離れになってしまったけれど、僕はまだ約束を覚えている。そして彼もきっと……」

天使「魔王様はそのご友人が本当に好きなんですね」

魔王「ああ、大好きだよ。僕に名をくれた彼が……そして、彼が残したものも」

天使「何だか妬けちゃいますね、魔王様がそんなに心酔しているなんて」

魔王「心酔って言うか……あの頃は、僕には彼しかいなかったからね」

魔王「今は側近がいて、オーク君がいて竜爺がいて、僕の下に集ってくれた仲間たちがいて、そして君がいる」

魔王「……そうした中で、また彼と出会えることを信じて、僕は彼を探し続ける。それが無茶だと分かっていても……」

天使「きっとまた出会えますよ。魔王様が約束を覚え続けている限り、きっと」

魔王「うん、そうだね。いつか必ず……」



267: 2015/01/01(木) 15:41:16.29
魔王「ところで、君はどうしてここへ?」

天使「私は本来の役目の事で。もしかしたらここにヒントがあるのかもしれないと思いまして」

魔王「ああ、もしかして邪魔だった?だったらすぐに消えるとするかな」

天使「いえ構いません!出来ればもう少し魔王様とゆっくりしていたいというか何というか……はうあ!?何言ってんだ私!?」

魔王「ハハ、じゃあもう少しゆっくりしていようかな。帰っても側近の小言に付き合うだけだし」

天使「で、では失礼して……」

魔王(聖剣を掲げた……何をするつもりだろうか)



268: 2015/01/01(木) 15:41:43.77
天使「……」

天使(やっぱり何の反応も無い……でもどうしてあの時……)

魔王「ずっと気になってんたんだけどさ」

天使「はひん!?」

魔王「ああゴメン驚かせて。で、気になってたんだけど質問いいかな?」

天使「は、はいお答えできる範囲ならば!!」

魔王「どうしてその剣は常に布が巻かれているの?前に振ったときも決して取ろうとはしなかったけど」



269: 2015/01/01(木) 15:42:42.07
天使「これは……私が正しい所有者ではないからです」

魔王「正しい?」

天使「はい、この布も聖骸布という一つの神器なのですが、本来の解放呪文を唱えて聖剣を振るった場合、この聖骸布に食われてしまうのです」

魔王「要は防犯用ってところか、ひょっとして魔族である僕が触ることが出来ないのもその神器のせいだったりするの?」

天使「そうです、聖骸布自体が所有者を守る為の防具であり、魔と戦う事を想定して創られたものです」

天使「私が以前唱えた解放呪文は仮のもので、女神様が自分の身や誰かを護る場合に使ってもいいと仰っていたのであの時使わせていただきました」

魔王「敵対種族である僕を守るなんて、君も変わってるね」

天使「私を保護した魔王様が一番変わっていますよー」



270: 2015/01/01(木) 15:43:20.63
魔王「それで、君は今ほとんど君の目的の答えを言ってしまったようなものだけど、よかったのかい?知られたいことではないんだろう?」

天使「……ハッ!?しまった!?」

魔王「え、ちょっマジか!?」

天使「フフ、冗談ですよ。魔王様なら教えても大丈夫だと思ったので、この程度なら」

魔王「ビックリした、ここにきて天然炸裂したのかと思ったよ」

天使「わ、私でも神様の勅命をそう軽々しく口にはしませんよ!!」

魔王(つまりだ、あの剣は本来彼女のものではなく、地上の誰かに渡す為にわざわざ天界から来たと言ったところか。誰にって聞いても流石にそこは言いはしないと思うけど)

天使「魔王様、そろそろ帰りましょうか」

魔王「ん、そうだね。もう日が暮れそうだ。城に着くころにはちょっと遅くなっちゃうね」

天使「たまにはいいじゃないですか、こういう時間も」

魔王「……そうだね」



271: 2015/01/01(木) 15:43:46.64

―――
――――――


(……)

魔王(なんだいそれは?)

(花束だ)

魔王(花……)

(村を救った礼といって、少女から渡された。下らん)

魔王(でも、綺麗だね)



272: 2015/01/01(木) 15:44:19.25
(綺麗……か)

魔王(君はそうは思わないの?)

(俺は一度たりともこんなものを愛でたことなどない。そんな暇も余裕も、戦い詰めの上では無かったからな)

魔王(でも、君にその花束を渡した女の子。すごく嬉しそうな顔をしていたよ)

(そうだったか?)

魔王(そうだよ、だからその花束には嬉しい気持ちがいっぱいあるんだよ)

(……確かに、静かで穏やかな場所に咲いているのを見かけたりはするな)



273: 2015/01/01(木) 15:44:55.42
魔王(きっと、これが地上の人達の言う……えっと……なんだろう)

(平和……)

魔王(そう!それだよ!)

(平和の象徴か……ふん、こんな淡い色をしただけのものが何になる)

魔王(……でも、あの子から花束を受け取った時の君の顔も……とても穏やかだったよ。きっと花にはヒトの心を和ませるものがあるんだよ)

(……そうか?)

魔王(君は今、どんな気持ちでいるんだい?)

(……)

(悪くない。ああ、悪くはない。もしかしたら、これが俺たちの目指すものなのかもしれんな)

魔王(……君って案外短絡的なんだね)

(うるさい!もう行くぞ、さっさと準備しろ馬ァ鹿が!)

魔王(アハハ、はいはい)



274: 2015/01/01(木) 15:45:51.15
――――――
―――



側近「……」

魔王「おや、調べものかい?」

側近「魔王……」

天使「どーも側近さん!」

側近「チッ……天使さんですか。どうしましたか、書庫に来るのは珍しいですね」

天使(露骨に舌打ちされた!?)

魔王「少し時間が空いてね。竜爺が持ち込んだって言う本の数々を見に来たけど……凄い量だね」



275: 2015/01/01(木) 15:46:28.59
側近「竜爺様が所有して保管していた書物を全てこの城に移したそうで」

天使「これ全部ですか……本棚が全部埋まっちゃってますね」

側近「はい、大きい図書館が開けるほどの量ですので。今一つ一つを検閲しています」

魔王「君一人でかい!?」

側近「それが何か。もう半分終わっているけれど」

魔王「い、いや……つくづく君のスペックがとんでもないという事を思い知らされるよ」

側近「別に、地上の知識がまだまだ大したことが無いからこうして仕事がてら蓄えているだけ。一石二鳥とかいう言葉だっけ」

魔王「うん、まぁ関心関心!」

側近「頭を撫でるな、張り倒すぞ」



276: 2015/01/01(木) 15:46:59.83
側近「そもそも、貴方が魔界から来た方々に読み書きや一般常識、歴史を教えろと言ったのを忘れたの?」

魔王「いや、覚えているけどそこまでやれとは言っていないよ」

側近「一度始めたら最後までやり通す、これも貴方から教わった事だけど」

魔王「限度ってものがだね……」

天使「でも、素直に尊敬しちゃいます。本来言語が違う魔界出身なのに、地上のあらゆる言葉を読み書きして」

天使「それでいて全て身になるように応用もなさるんですから……私には出来ません」

側近「やろうとしないからでしょう。なにも私が特別なのではありません、やる気があるかどうかです」

魔王「また君はそうやって……」

天使「いいえ、誰にでも出来る事ではありませんよ」

側近「?」



277: 2015/01/01(木) 15:47:28.99

天使「本来、人は出来る事の限界というものがあります。生まれや育ち、そして人柄で変わっていくもの」

天使「でも、貴女はそれを覆す程のものを持っています。魔王様のサポートの中で見て聞いて学んで……そして魔王様をお守りして」

天使「その中で貴女は日々成長してまた新しい事を身につけていきます。それは誰にでも出来るものではなく、それは一重に貴女が努力して磨き上げてきたものです」

天使「私がどれだけ努力をしても貴女には追いつけそうにありませんから……エヘヘ、何だかこういうのも照れくさいですね」

魔王「側近、彼女が僕らの為に努力をしているのはよく知っているだろう?それでも届かないものがあるんだ、君がしている当たり前のことは、僕らにとっては到底出来る事ではないんだよ」

天使「はい!だからこそ私は側近さんを尊敬します!フフン!」

魔王「なんで君が威張っているのかな?」

側近「……」

天使「どうしました?」



278: 2015/01/01(木) 15:48:07.77
側近「いえ……その」

側近「ありがとう……ございます。そこまで言われたら悪い気は……しないです」

天使「……」

魔王「……」

側近「……何か?」

魔王「側近が!?」

天使「デレた!?」

側近「お二人ともそこで正座してください。一発ずつ殴ります」



279: 2015/01/01(木) 15:48:47.31
天使「前が見えねぇ」

魔王「本当に殴る事ないんじゃないかしら?」

側近「今恥じらいと言うものを覚えただけ。照れ隠しの一環として受け取っておいて」

魔王「そういうことにしておくよ……しかしまぁ、竜爺もこんな量の書物をどこから仕入れたのかね」

側近「あのヒトがますます私達とは違う存在だという事を思い知らされる。ワケも無くポンと寄付したのだから」

天使「今側近さんが読んでいるものは何ですか?」

側近「隣国……ジスト王国の成り立ちというものです」

天使「ああ、そんな名前でしたね、隣の国」

側近「一応ウチとは貿易国になるんですから、そのくらいの事は頭に入れておいてください。一般常識の欠如程恥ずかしいものは在りませんよ、頭空っぽなんですか?その方が夢を詰め込めると思ったら大間違いです」

天使「アハハ……少し打ち解けたと思ったのですがコレですか」



280: 2015/01/01(木) 15:49:19.19
魔王「ふむ……初代国王は天の使いと共に"大いなる影"を封印する事で世界に平穏をもたらした……か」

天使「へぇ、天使が手引きしたのですか。何だか変な感じですね、私欲で動く人ばかりなのに」

魔王「き、君は自分の種族が嫌いなのかな?」

天使「ええ、まぁ」

側近「この大いなる影と言うのは私達と似たような種族ですね。書かれている特徴が所々一致しますが」

魔王「……」

天使「魔王様?」

魔王「いや、しかしここに書かれているのは不定形の影とも書かれている。僕たちと似ているようでまた違う種族なのだろう。それはいいから次の頁を読み進めよう」

側近「?そう、貴方がそういうのならそういうのならそうだと思うけど」

天使(……否定から入るなんて、魔王様らしくないなぁ)



281: 2015/01/01(木) 15:50:21.88
側近「初代王はこの時に富と名誉を天使たちから与えられ、そして見事な采配により国を作り上げ繁栄させていったようですね」

魔王「ほほう、ひょっとしたらこの本を読んだら僕も同じような事が出来るかもしれないな」

側近「貴方とは大前提が違うから、こんなものを参考にしたら余計変な事になるからやめて」

魔王「はい、すみません」

天使「奥様の事も書かれていますね……えっと、その時"影"の討伐に参加していた女性が後の国王ジストの伴侶となる」

魔王「彼女はその功績を認められ、神からの加護を授かり未来を見通す眼を宿す事となった……か」

天使「凄い!つまりは予言の力ですよ!これがあれば将来安泰なんてものじゃないですからね!女神様も地上に私を遣わすなら何か一つくらい特殊能力をくれてもよかったのに」

魔王「君の信仰心は欲望に塗れているね……」

側近「予言……」

魔王「そういえば、王国の賢人様も同じような事が出来るね。きっとその直系の子孫で受け継いでいたんだろう」



282: 2015/01/01(木) 15:51:25.53
側近「あ、注釈で真名の契りも書いてある」

天使「真名の……なんですかそれ?」

魔王「この地方の高位も者に広く伝わる文化だよ」

側近「と言うより私が貴女の事を天使さんと呼んでいるのに違和感を覚えなかったのですか?大丈夫ですか正気を疑いますよ、普通ありえませんよ」

天使「あうん!?そ、そこまで言いますか……」

魔王「僕が本名を知っているのにセピアの事を"側近"と呼び続けているのはこの契りに従ったものなんだ」

側近「名前を思いっきり明かすな」

魔王「もう彼女の前で何度も呼んでいるからいいだろ?」



283: 2015/01/01(木) 15:52:24.44
側近「元々魔術的攻撃から身を守る為に本名を明かさないという風習ですね」

魔王「名を口にしたり書きこむことで発動する魔法も過去に存在したからね。だから王族なんかは名を隠したそうだ」

天使「あー、思えば私皆さんの本名知らないですしね」

側近「私達も貴女の名前を知りませんよ」

天使「あ、天界にも似た風習があって、神兵クラスになると神より新たな名を与えられそれを名乗るように言われるんですよ。私だったら"マリーフィア"という名前ですね」

側近「……」

魔王「……」

天使「あれ?どうしたのですか?」

魔王「いや……君」

側近「神兵だったのですか」

天使「勅命を承るくらいですよ!!失礼しちゃいます!!」

魔王(驚いた、結構高い位だったんだ)

側近(見掛けによらないとはこのことですね。通りで並の魔族じゃ相手にならないハズだ)



284: 2015/01/01(木) 15:53:04.84
天使「でも、本名で呼べないとなると少し寂しいですね。親からもらった大切な名前なのに誰にも知られないなんて……」

魔王「そうでもないよ。特別に親しい友人、身内、部下、そして生涯の伴侶となる者には名を明かさなければならないんだ」

側近「互いに共有し合う事で護りあうと言った意味を持つらしいですが、弱点を増やしているだけのようにしか思えません」

天使「へぇ、それじゃあいつか私にも魔王様の本名、教えてくれるんですね?」

側近「ッ!?」

魔王「ふぇ!?え、えっと……それはどういう意味でだい?」

天使「え?勿論貴方に仕える者として、いつか本当に信用される時がくるんじゃないかなーって……私変な事言いましたか?」

魔王「い、いや、アハハ、そうだね!そりゃそうだよね!」

側近「……ハァ、動揺しすぎ。私も一瞬勘違いしたけど」

魔王「う、うるさいな!」

天使「?」



285: 2015/01/01(木) 15:53:43.07
魔王「ま、そうでなくても僕はもう君の事は信用しきっているよ。だから、国を立ち上げる事が出来たときに僕の名はみんなに明かすつもりだよ」

天使「エヘヘ、じゃあ私が名前を預けるのもその時ですね!楽しみにしていますよ!」

側近「私の方は貴女には教えませんけど」

天使「セピアさん♪」

側近「ふんッ!!」

天使「目がぁぁぁぁぁぁぁ!!」

魔王「アハハ、今のは擁護できないな」



286: 2015/01/01(木) 15:54:13.93
側近「随分話が逸れましたね。初代王はその後戦争を繰り返し、領地を広げ勢力を着実に拡大させていったそうな」

魔王「戦争か……やはり、大国になった場合はそれも避けられないか」

側近「侵略目的の争いだから、貴方はそうはしないでしょう?」

魔王「うん、よく分かっているね」

側近「生っちょろい」

魔王「そして君の心の中が見据えたよ」

側近「しかし、その快進撃も長くは続かなかった……だって」

天使「国自体がかなりの大きさになったのにですか?ほら、ここの色が変わっている場所、全部王国の土地ですよね?」

魔王「ふむ、続けて」



287: 2015/01/01(木) 15:55:42.48
竜爺「国王は傲慢過ぎた、民の声を顧みず戦を続け、民たちは疲弊し不満を募らせた」

側近「あ、竜爺様」

天使「毎度毎度突然現れますね。竜爺様も調べものですか?」

竜爺「なに、騒がしいと思って覗いてみただけじゃ。してみれば、こう古い書物を読んでおる者達がいただけだ」

魔王「竜爺は初代王の事を知っているのかい?」

竜爺「よく知っておる。奴は愚かで大馬鹿者で……妻の抑止さえ振りほどき、独りよがりの政策を続づけ、力こそが世界を変えることが出来ると信じて疑わなかった。だからこそ、民の声は奴には届かなかった」



288: 2015/01/01(木) 15:56:44.36
竜爺「長きに渡る戦いの中、戦う事を良しとせぬ者達が反乱を起こした。奴は刃向う者も全てその手にかけ、暴王とまで呼ばれるようになる」

竜爺「だが、そうした中で国自体が維持する事さえ困難となり、戦う牙さえも無くし、やがて王は全ての責任を被ることとなった。まぁ当然の結果だ」

竜爺「しかし、馬鹿な事に、奴は戦いが終わり打ち滅ぼす者がいなくなった時に初めて振り返ったのだ。自分が壊してきたもの、自分のせいで失われたもの……」

竜爺「戦後処理の復興や支援に力を尽くしたものの、もう時すでに遅し。誰も奴を信用などしなくなっていた」

竜爺「だが、国を作ったのも奴、復興に尽力したのも奴。その恩赦として、奴を国から追放することですべてが丸く収まった。そうして奴の妻が周りからの反対を押し切り新たな王となり、見事国は今の形を保ち平穏なものへと姿を変えた……」

竜爺「民が王を捨てる事で平和になる世界……そんなもの、国を作った功労者とは言うが、始めから欲など出さねば失われる命などは無かった。故に愚王、奴は国を去る時最後にそう呼ばれた」

魔王「……典型的な悪いお手本だね」

竜爺「ああ、決して真似するな。こんな反吐が出る話、ワシも聞きたくはない」



289: 2015/01/01(木) 15:57:32.94
天使「竜爺様って物知りなんですねー」

魔王「やっぱり、貴方の話は僕らの糧になる」

側近「この書物に書かれている事をそのままそっくり口に出しただけですけどね」

魔王「……」

天使「……」

竜爺「バレちった☆」

魔王「バレたじゃねーよ」

天使「感心して聞き入っていた時間を返してください」

竜爺「年寄りを寄ってたかって虐めるなぁ!!蹴るな!踏むな!」

側近(おや、愚王の下りは書いてなかったですね)



290: 2015/01/01(木) 15:58:16.44
側近「他には特に壮絶な事は書いていないですね。つまらない国」

魔王「それでいいんだよ!?ことあるごとに大事件起こしていたらそれもそれでおかしいからね!?」

竜爺「ともかく、そこに記された事は教訓として頭の片隅にでも記しておけ。欲をかいても碌な事にならんとな」


オーク「お、いたいた。ってなんか全員揃ってるな」

魔王「ん、オーク君!久しぶりだね!」

天使「ホントですね!何日ぶりですか?」

オーク「かれこれ2か月はまともに顔を合わせてなかったんだが……」

天使「えぇ!?」

魔王「マジで!?」

オーク「やっぱアンタらと俺じゃあ時間間隔違うんだな……」



291: 2015/01/01(木) 15:58:57.09
側近「お互いに忙しかったですしね。魔王と天使さんは各地へ出ずっぱりでしたし」

オーク「俺は魔王が連れてきた連中の管理だ。確かにしょうがないな」

魔王「それでオーク君、誰かに用があったんじゃないのかい?」

オーク「ああそうだった。魔王、"アレ"の設置、終わったぜ。後はお前の仕込み次第だ」

魔王「随分早かったな。わかった、じゃあ急ぐよ。数日中に最後も落ちるハズだからさ」

天使「アレ?落ちる?何の話ですか?」

側近「悪巧み、じゃないのですか」

竜爺「……何をするかは察しがついている。自業自得と割り切っても、ワシからは何とも言えんな」

天使「?」



292: 2015/01/01(木) 15:59:27.51
――――――
―――



魔王「さて、我が魔王一行初期メンバー、集まったね」

天使「集まりましたー!」

オーク「おうよ!」

側近「そのネーミングはどうにかならなかったのか」

竜爺「ワシを含めるなワシを」

魔王「ではこれから最重要会議を始めようと思います!」



293: 2015/01/01(木) 15:59:57.14
魔王「今日集まってもらったのは他でもない、数日前に仕込みが終わったからその報告をしようと思っただけだよ」

天使「あ、言ってましたね。一体何をしたのですか?」

魔王「僕たちがこれまで貴族から領地を買い取っていたのは知っているよね?」

オーク「こちらの保有するあちらさんが欲しい土地と金、そしてあちらさんはこっちが欲しい土地と+αで交換って形だけどな」

魔王「彼ら自体がほぼ敵対し合っているおかげで、僕らの動向が疑われずにスムーズに進んで助かったよ」

側近「情報の操作はいくつかしたけれど、その必要もあまりなかったみたいだし」

天使「???」

魔王「アハハ……まぁ順を追って説明するね」



294: 2015/01/01(木) 16:00:30.60
魔王「例えば、貴族が喉から手が出るほど欲しい土地を僕たちが持っているとする」

天使「ふむふむ」

魔王「貴族はどうしてもそこの土地でやりたいことがある、田畑を広げたり山を切り拓いたり」

魔王「それで、僕たちが彼らに交渉をする。"貴方の持つあそこの土地が僕たちも欲しいので交換しましょう"」

魔王「でもそれだけでは僕たちにとっては損しかない。どう考えても土地としての価値が釣り合わないからね」

側近「基本的に私たちの欲する土地の方が安価で、交換に出す土地の方が高価です」

魔王「そうそう、そこでだ。僕たちは少しだけ吹っかける、"貴方達の他にいらない土地をもっと譲ってほしい"」

オーク「相手さんにしてみりゃ使い道が無かったり飽和しているような場所だ、需要がねぇから案外ポンと条件に上乗せしてくれたりするもんだ」



295: 2015/01/01(木) 16:01:14.77
側近「相手は相手でいらないものの処分と考えれば悪い話ではないです、何としてでも欲しい土地ですし」

魔王「武力行使で強引に僕たちの土地の乗っ取りに出られないのは以前話した通り。貴族同士の腹の探り合いのせいで、寝首をかかれないためにどこにも攻めることは出来ない」

側近「そういう訳で、安全に着実に、同じ方法で多くの貴族たちと交渉を繰り返してきました」

魔王「途中で鉱山が見つかったのは嬉しい誤算だったけどね。あそこの土地も元々交換用にキープしておくつもりだったし」

竜爺「馬鹿者、愚策だ。鉱脈が無くとも、あの土地の豊かな資源の事を考えれば後々の事を考えて残しておいた方がいいだろうに」

魔王「あ、アハハ……竜爺みたいに近辺の土地の情報にそこまで詳しくはないから……運がよかったね」



296: 2015/01/01(木) 16:02:07.09
天使「でも、これって確かに土地は増えていきますけど、大した数にはならないのではないですか?それに、いらない土地を貰っても資源には期待は出来ませんし人も集まりませんよ」

魔王「有効活用は出来るんだな、これが」

側近「近年、植林や農業を目的とした事以外でも土地を欲しがっているヒトは増えています。なので多少荒れていたとしても他の事で活用できる人達に土地を"貸し与える"のです」

天使「貸すって……そんな所になにを……」

魔王「需要と供給だね。幸いなことに、違う世界から次元を超えてよく機械類なんかがこの世界に落ちてくる事があるんだ」

オーク「よく分かんねぇが、鉄の車だったり綺麗な写し絵だったり。それを研究したり開発したりする場所が欲しいんだと」

魔王「僕の持つ魔剣のような精密な機械仕掛けの……と言えば伝わりやすいね。隣国のジスト王国が今力を入れているらしくてね。ああ、土地貸しはいい商売になるよ」

側近「貸しているのは王国側に面した土地だけですので、"もしも"があった時はすぐに対処も出来ますし」



297: 2015/01/01(木) 16:02:36.17
オーク「そこに一つ研究所なんて建てちまえば周りにはそこに生活するために人が集まってくる」

側近「研究者の家族、商売人、冒険者、移民……活気付けば時間とともに一つの町になり豊かさを取り戻し、結果的に我々へ大きなリターンとなります」

魔王「君が僕たちと出会ってからしばらくして始めていたことだから、もうある程度には形になっているよ」

天使「なるほど……たった数年で地上人はそこまで繁栄出来るのですね」

竜爺「ああ、お主らと行動を共にしてもう数年経つのか。中々、実のある生活を送っているな」

魔王「それはどうも……それでね、君は交換していった土地の数を大した数にはならないって言ったけど、そうでも無かったりする」

天使「そうなんですか?」

魔王「そうなのです!」



298: 2015/01/01(木) 16:03:09.71
側近「必ずしも貴族全員に一回だけ話を振る、という事ではありませんので」

天使「……ああ!ひょっとして何度も!」

魔王「ご明察、その都度彼らが欲しい土地と消費していくだけのお金を渡して、残った彼らの他の土地を僕らが買い取っていくってワケ」

オーク「そこでだ天使さんよ、手元の資料を見てくれるか?」

天使「点々と丸を描いた箇所以外の大半は色が付けられていますね、これって……」

魔王「この数年で僕たちが獲得した土地だよ。全部貴族から買い取った箇所だ」

天使「こ、こんなに!?」

魔王「塵も積もれば何とやら。苦労したよ、貴族たちも自分たちの所有する土地が小さくなっているのに気付いているのに止めやしない」

側近「搾り取るだけ搾り取りました。しかし、これ以上は流石に気づかれるのでストップしましたが」

オーク「人間も減って収入が無くなってるからな。国じゃないから人の出入りも自由な分、一度こっちが場所を提供してやればまぁこう流れてくるわな」



299: 2015/01/01(木) 16:03:54.29
魔王「だが、僕はここでやめるような聖人でもない。やるからには徹底的に、お金の無い人の気持ちになってもらわないとね」

天使「と、いうと……」

オーク「そこで俺が以前設置したってブツだ、それがここに書いてある通り!」

天使「えっと、関所……関所!?」

魔王「貴族の保有する土地の周りはものの見事に僕たちの物となっている。だからそこに繋がる道全てに、それも貴族の子飼いの商人なんかに高い通行税を設けると」

側近「他に貴族の土地に行く理由も無いですし、こっちの民は誰も傷つきません」

魔王「これが僕が用意した爆弾だよ。ま、要するに完全に個人に対する嫌がらせだね。これで音を上げて僕に泣きついてくるもよし、そのまま野垂れ氏ぬのもよし」

竜爺「どちらにせよ、土地の権利は書類上はお主が格安で買い取るかワシに帰ってくる……という事か」

魔王「そそ」



300: 2015/01/01(木) 16:04:59.76
天使「貴族の所に残された方々は……」

魔王「全てを救う事は出来ないし、ある程度は切り捨てるしかない。とは言っても、かるーく援助はしているけどね」

側近「何が軽くだ、しょっちゅう炊き出し開いてる癖に」

魔王「犠牲になってもらっているんだ、そのくらいはいいだろう」

オーク「あちらさんも、炊き出しについては文句は言ってこないな。今頃になって大事な大事な市民だって事に気が付いてるからよ」

天使「……」

魔王「腑に落ちない顔だね」

天使「はい、それでも苦しんでいる人は出てしまっているので。何とかしてあげられないかと思ったのですが」

側近「言うだけならタダですね。綺麗ごとだけじゃ済まないし、それは随分と安い言葉ですよ」

魔王「セピア、言い方があるだろう?」

側近「……ふん」

竜爺(おや、ただ従うだけではなくなったか。これを成長と取るべきか、生意気になったとみるべきか……)

側近「何か言いたい顔をしていますね、竜爺様」

竜爺「そう見えるか?」

竜爺(……小生意気なのは元々か)



301: 2015/01/01(木) 16:05:32.23
魔王「これから貴族たちの土地からかなりの人々が流れ込んでくるだろう。だったらせめて彼らを全力で助けようと思うよ。それじゃあダメかな?」

天使「……いいえ、私が少し子供でした。だったら、私も全力で彼らの保護をサポートします。それならば私も納得がいきます」

魔王「うん、ありがとう。そうしてもらえると僕も助かるよ」

魔王「……とは言ったもののだね」

天使「はい?」

魔王「関所についてはまだ正式に置くことにはなっていないんだ。あくまで情報だけ流して貴族に危機感を持たせようとしている」

天使「何故そのような事を?」

オーク「最後のチャンスってやつだ。これで奴らがどう出るか……それによって処遇も決めさせてもらうって魂胆だろ?」

魔王「うん、その通りだよ。まぁ国を運営もしていないのに個人の土地で関所を設けるなんて何事だって話でもあるけど」



302: 2015/01/01(木) 16:06:12.26
魔王「設置はその後、正式に国として名乗りを上げた後にするよ」

天使「いよいよですね……」

魔王「ああ、案外短かったけど、随分遠回りした気分だよ」

竜爺「それは建国した時に言え。ともかく、説明はよく分かった。ワシも異存はない」

オーク「自分で手を下すのは嫌な癖に、他人なら連中がどうなってもいいのかい?」

竜爺「それも考え物だが、お主らは他人ではない。信じておるから奴らの処理を任せられる」

魔王「フフ、それはどうも」

側近「それでは、"第一回 天使さんに現状の事を伝えよう会議"を終了とすることにしましょう」

天使「何ですかそれ!?いつ題目変わってたんですか!?」

魔王「まぁほとんど僕らの行動のおさらいだったしねぇ?」

オーク「知らないのお前さんだけだぜ」

天使「ナンテコッタイ」

竜爺「婆さんや、飯はまだかのう?」

天使「ああもう竜爺様までボケモード入っちゃうし!もう何なんですか!!」

魔王「アハハ!」



303: 2015/01/01(木) 16:06:50.70
オーク「あー終わった終わった。あ、そうだ、連中にも現状の事ある程度説明しなきゃな」

魔王「助かるよ。皆君を慕っている、だから全て任せられる」

オーク「……そうやって、本気で全部俺に押し付けてんだろ」

魔王「バレた?」

オーク「テメェこの野郎!!」

天使「アームロックはダメですよ!?ああ入ってる入ってる!!」

魔王「があああ!」

天使「それ以上いけない」

側近「いつまで突っ込み不在のボケをしているのですか。それぞれ仕事に戻ってください、やらなければいけない事は山積みです」

天使「あの、私突っ込んだつもりだったのですけど」


竜爺(……纏まっておるな、この者達は)

竜爺(いくつかこちらで案を用意して手引きしてやろうと思ったが、その必要はなさそうだ)

竜爺(ワシとは違う、と言ったところか……ふん、ここまで来たんだ。頓挫したり破綻でもしてみろ、全員食い頃してやる)



304: 2015/01/01(木) 16:07:19.30
――――――
―――



魔王「えっと、王宮には報告した、貸し出しの許可の申請はした。後は……」

天使「魔王様、武器の」

魔王「ああ、そうか。武器の仕入れ!本当はこういうのは国として成り立ってからの方がいいんだけど……」

天使「もう国と言っても問題ない規模ですから、王国側も認めてくれたじゃないですか」

魔王「そだね、それじゃあ……」

天使「数も必要になりますから、大きな工場で契約できるかどうかを確かめましょう」

魔王「ん、そうだね。でも、せっかくまた王都に来たんだからもう少しゆっくりしていこう。君とも話がしたいし」

天使「もう魔王様ったらまた……!!」

魔王「アハハ、いいじゃない。たまにはさ」

天使「たまにどころかよくある事なのですが」



305: 2015/01/01(木) 16:07:47.87
魔王「しかし、やはりと言うか、この国はいいね。人の流れが大きいし、工業が発展していて、それでいて海にも面しているから交易も盛んだ」

天使「位置にも恵まれていますね、南へ行けば暖かく、そして北へ行けば雪の降る地域もあるとか」

魔王「資源の関係で環境の変化があるのはありがたい事だね。僕たちの領地も一応四季はあるけれど」

天使「結構極端な位置にありますから本当に一応ですけどね」

魔王「……おや、そうこう話している内に」

天使「迷っちゃいましたね」



306: 2015/01/01(木) 16:08:14.61
魔王「大通りから離れちゃったな。さて、こんなところに鍛冶場は無いと思うけど、どうするかな」

天使「そんな事は無いですよ、魔王様。ほら」

魔王「うん?……ああ」

天使「ね、せっかくですしまた寄っていきましょう」

魔王「そうだね、迷惑にならない程度にね」



307: 2015/01/01(木) 16:08:41.74
……


魔王「お邪魔しまーす……」


ドワーフ「……」


魔王「お 邪 魔 !!」

ドワーフ「ッ る せ ぇ な 聞 こ え て る わ ボ ケ ェ !!」

魔王「ヒィィ!?」

ドワーフ「ん?お前らは……」

魔王「こ、こんにちは」

天使「お久しぶりです」



308: 2015/01/01(木) 16:09:22.79
ドワーフ「なんだ、酒を飲みに来たのか?だったら、まだ時間が早すぎるんじゃないか?」

魔王「アハハ、まぁそんな所ですが……調子はどうですか?」

ドワーフ「ふん、ここ最近めっきり売れんな。基本的に王国が欲しているのは大手の、それも量産が利く装備だ」

ドワーフ「それに、商売相手にしていた国外の貴族共がこぞって縮小しやがったせいで私兵用の物も趣向品の装飾剣なんかもサッパリだ」

ドワーフ「おかげでこの路地裏鍛冶同盟、大手に負けねぇ大きな規模を持っているってのに皆下請けばっかりだ。やれやれ」

魔王「あー……」

天使「それは何というか……」

ドワーフ「笑いたきゃ笑え。ったく戦いが無いなら無いでいいが、この仕事はそれじゃあ食っていけん」

魔王(僕らのせいだと伝えたらどんな事言われるか……)



309: 2015/01/01(木) 16:10:44.63
魔王「って、路地裏鍛冶同盟?なんですかそれ」

ドワーフ「ああ、大手に属さず個人で鍛冶屋を経営してる連中の集まりだ。で、俺が会長。腕は確かだが協調性が無いから業界からは爪弾き者にされている連中ばかりだ」

魔王「淘汰もされない人達か。要はフリーの鍛冶師を集めたって事かな?だったらキチンと商売人を介せば儲けは出るのでは?」

ドワーフ「この国は物作りが自由だからこそ、無名の、それも個人が伸し上がっていくにはちと辛過ぎる。店にすら並びゃしねぇ、並んだとしてもその他大勢の内の一つだ」

ドワーフ「だからこうして俺たちだけで別でコミュニティを作って、個人で別の仕事をしながら組織立った大きな仕事を分担して請け負っているんだ。そうじゃなきゃ食っていけねぇ」

魔王「商売って難しいんだねぇ」

ドワーフ「俺たちは国を介さず冒険者ギルドの商人を通して販売しているから、儲けは個人に多めに来るし、何より安く相手に売れる。だが、国外向けだから儲けは出ているが、これは個人団体でしかギルドが受けてくれないし、国内だけで商売するならむしろ年会費で損だ」

ドワーフ「辛うじてギルドからの収入で同盟は成り立っているが、国内じゃまず個人に仕事は回ってこないから困りもんだっと」

天使「冒険者ギルドは世界各地にある冒険者支援団体でしたね。国に食い込むほどの権力があるとは……」

ドワーフ「贔屓にしてくれる旅商人でも現れりゃ、風の便りで広まっていったりするがな。かの鍛冶師ヴォーグも着物を着た東洋の旅商人に腕の良さを広めてもらったそうで」

魔王「この魔剣を作った鍛冶師か……」

ドワーフ「お前まだ捨ててなかったのかよ!?」

魔王「捨てたら捨てたで逆に呪われそうで怖いから手放せなくなった」

ドワーフ「おいおい……」



310: 2015/01/01(木) 16:11:13.14
ドワーフ「お前さんも……」

天使「あ、私ですか?大丈夫ですよ、私はちゃんと神器は手放す予定ですので」

ドワーフ「そうかい。これでもお前さんたちの身を案じて言ったんだ。気を悪くしないでくれよ」

魔王「構いませんよ、特に気にしてはいないので」

天使「魔王様、それより……」

魔王「ん、どうしたんだい?」

ドワーフ「なんだなんだ?またイチャ付きやがって」

天使「ち、違います!!」



311: 2015/01/01(木) 16:11:40.86
天使「魔王様、この方に武具を作ってもらえるようにお願いしたらどうですか?今の下請けのお仕事、不満そうですし」

魔王「えー?でもこの規模じゃ……」

天使「路地裏なんとか同盟の規模は凄く大きいみたいじゃないですか」

魔王「まぁ確かにここでお願い出来れば、他方で作ってもらうより安くなるかもしれないけど……」

魔王「……いや、それならさっきの話からして、貴族たちの商品を取り扱っている商人とコンタクトを取れるか……なら彼らを抱え込んで一気に四面楚歌にしてやるのも……うん、よし、交渉してみよう」

天使「魔王様?随分と物騒な事を呟いていますが、追い打ちかけるつもりですか?」

ドワーフ「話し込んでいるなら俺は仕事に戻るぞ。ったく量を要求する癖に給料吊りあいやしねぇぜ……ん?」

魔王「どうかしましたか?……おや」

「あ、あの……」

天使「お客さん……にしては身なりがいいですが」



312: 2015/01/01(木) 16:12:07.84
ドワーフ「ッ!!テメェ!!何しに来やがった!!」

「うわ!!い、いいじゃないか別に!!」

魔王「えっと……」

天使「誰ですか?」

「まて!言うな、絶対に言うな!!」

ドワーフ「うるせぇ!!コイツはこの国の国王だ!!ったくまた城から抜け出してきたか!!」

魔王「えぇ!?」

天使「王様ですって!?」

国王「あー、もう……あー……」



313: 2015/01/01(木) 16:12:33.83
国王「何でいうんだよ、こんな所で歩いているって国民に知れたら色々と問題があるだろう」

ドワーフ「だったら王宮から出てくんなカスが!それにコイツらは他方からの旅人だ」

国王「それ国民に知られるより不味いだろ!!」

魔王「彼が……この国の長」

天使「随分とお若いですね」

ドワーフ「こいつはまだ即位して日が浅い。駆け出しのヒヨッコだ」

国王「オッサンそんな言い方無いだろう」

ドワーフ「政務サボって出歩いている奴に言われたくはないな!」



314: 2015/01/01(木) 16:14:35.47
魔王「一体どういうご関係なんですか?一国の長と知り合いだなんて」

ドワーフ「昔ちょっとな」

国王「ん、失礼。彼は昔、王宮専属の鍛冶師だったのだ。その縁で私も良くしていただいて……」

魔王「専属……凄いじゃないか!」

天使「そんな名があるのならすぐにでも売りだせるじゃないですか」

ドワーフ「言うなよボケが!!」

国王「お返しだオッサン。どうせ俺が仕事回さなきゃ碌に食っていけないんだろ?だったら早く城に戻って来い。俺はアンタを必要としている」

ドワーフ「余計なお世話だ!!今ちょうどテメェから回された下請けの仕事をキャンセルしようと思ってたところだ!!丁度納品分もこれが一区切りで最後だからな!」

天使「えぇ!?仕事無かったんじゃないんですか!?」

ドワーフ「うるせぇ店仕舞いだ!!テメェら全員帰れ!!」

国王「オッサン……俺はただオッサンに帰って来て欲しいだけなんだよ。だからこうして城を抜け出してだな……」

ドワーフ「俺をサボりの口実に使うんじゃねぇ!!」



315: 2015/01/01(木) 16:15:03.58
魔王「やれやれ、トンデモ無いタイミングに出くわしてしまったな」

天使「出直します?」

魔王「そうだね、それもいいけれど……僕はあえて進もうかな」

天使「へ?」


魔王「でしたら、私と取引をしませんか?鍛冶屋さん」

ドワーフ「何ィ?」

国王「そ、それはどういう……」



316: 2015/01/01(木) 16:15:54.03
魔王「申し遅れましたジスト国王……私は貴方の国の隣の領地で小競り合いをしておりました魔王と申します」

国王「魔王……?今噂の魔王か!」

ドワーフ「あん?なんだよその噂ってのは」

国王「知らないのか?隣の領地に現れた魔王って話題、国中で騒がれ続けているのを」

ドワーフ「知らんな、新聞も読みゃしねぇからな。状勢には疎い……ん?おいまて、この国の隣は貴族たちが抱え込んでいる国に属さない土地だったろ」

国王「その魔王がほとんどを差し押さえたんだ。今じゃほぼ全域が魔王の領地になっているって話だ」

魔王「その通りです、流石は国王様」

国王「そんなおべっかはいらん。して、其方は何故この者に取引など申し出た」

魔王「単純な事、我が領地には人も武具も不足しております。まともに稼働する鍛冶場もあまり多くはなく、ノウハウも無い。他国からの補助が必須となります」



317: 2015/01/01(木) 16:16:34.59
国王「それは分かっている。私は何故一個人でしかないこの者にそんなことを依頼するのだと聞いている」

魔王「彼は路地裏鍛冶同盟という大規模の組織の長だと聞きます。依頼するには十分な理由かと」

国王「まだそんなもんやってたのかよ……」

ドワーフ「そんなもん俺の勝手だろ」

国王「だが、輸出の話になればまた話は変わるぞ。其方の領地はまだ国を名乗っていない、そんな者達に武具など売れる訳がない」

魔王「彼らは国から認可されていないフリーの集団です。それは私の交渉次第……では?」

国王「大国の長を目の前にしてよく言う。適当な大義名分をつけて、其方の領地を侵略することなど容易いのだぞ」

魔王「貴方は先人が築き上げてきた国を自らの行いによって崩すのですか。初代の暴王のように」

天使「なッ!魔王様!!失礼が過ぎます!!」

国王「必要ならば、な」

ドワーフ「テメェ!精根腐ったか!!先代様たちが守り続けてきた物を自らの手で崩すだと?自惚れんな!!」



318: 2015/01/01(木) 16:17:34.26
国王「なんて、俺にそんな勇気と権力があればな。あーあ」

ドワーフ「は?」

魔王「口が過ぎました。お許しください」

国王「構わん、自分の無力さを再実感しただけだ。ハァ……」

天使「え、えー?」

国王「どう考えたって今無意味に戦争でも侵略行為でも起こすのは愚策だ、何十年と争いの無い国を続けている、士気も上がらんし実戦における練度も足らん、オマケに俺の国民人気も地に落ちる」

国王「ハァ……ったく、ンなもん分かってるっての。それに、実権なんて賢人様が握っているようなもんだし、成り立て王様の俺にそんな権限は無い。告げ口しようにも賢人様はどういう訳だかアンタら贔屓、大臣たちも全力で止めるだろうな。アンタ分かってて色々吹っかけたろ」

魔王「試すような真似をして申し訳ありませんでした。貴方という人間を見ておきたかったので」

国王「戦争大好きな国だったら、今ここでアンタの首刎ねられてるぞ」

魔王「これでも下調べはして人と成りを見て発言しています。貴方はそのような人間ではないと知っていたからこそです」

国王「ま、こっちも土地の貸し出しの件で助かっている節もある。国としてこれから成り立っていく勢力だ、今後とも仲良くはしていきたい。今の発言は全部忘れる、あともう普通に喋れ。堅苦しくて仕方がない」

魔王「うん、ありがとう」

天使「こ、これは解決したって事でいいんですか?」

ドワーフ「国際問題になりそうな事を内で話してんじゃねぇよ。トンデモねぇ連中だ……ったく」



319: 2015/01/01(木) 16:17:59.85
国王「それで?オッサンに交渉なんかしてどうすんだ?テコでも動かんようなヒトだぞ」

ドワーフ「失礼な奴だな」

魔王「彼の仕事がめっきり減ってしまったのは僕のせいでもあるからね。その責任も兼ねて……」

ドワーフ「いらん、やらん」

魔王「だよね、言うと思った。だから、貴方が動いてくれそうな口実を今考えたよ」

ドワーフ「即席かよ。言うだけ言ってみろ」



320: 2015/01/01(木) 16:18:43.92
魔王「今、僕の領には武具を必要としている人が沢山いる。今までの貴族達の意向で、民たちに武器は持たされていなかった」

ドワーフ「そりゃ、災難だったな。じゃあ大手に頼みな」

魔王「それがそうもいかない。こちらの財布事情の関係で国を跨いで安定した供給を受けることが出来ない」

魔王「鉱脈を多く持つが、他にも回さなければいけない関係でまだすぐにはお金に換える事は出来ない。取れた素材を加工する技術も無い。彼らは日々魔物被害に怯えながら生きている」

ドワーフ「そんで?」

魔王「貴方が国外に自分の作ったものを流す理由は何だい?儲けがいいから?違うだろう。だったら、王宮専属という肩書でそんなものはどうにでもなる」

魔王「前にも言っていたろう、自分の武器は誰かを生かすものだって。そう考えれば気が楽になれるって」

ドワーフ「その通り。だが俺を理由にするな、まだいう事があるだろう」

魔王「そして、貴方たの作るものが必要になるんだ。家族を守るため、隣人を守るため、仲間を守るため、彼らと、そして僕らに戦う力が必要なんだ」

魔王「この通りです……お願いします。貴方の作る武具を、僕の作る国に出していただきたい」

国王「……国王となるものがそう易々と頭を下げるな」

ドワーフ「口を出すな、それがお前とコイツの違いだ。いいだろう、その仕事請け負おう」

魔王「本当ですか!?」



321: 2015/01/01(木) 16:19:22.46
ドワーフ「意固地になっていたが、まぁ断る理由も無い」

国王「俺の提案は無しなのかよ!?」

ドワーフ「つーか俺ぁただ単に王宮に戻りたくないだけだし」

国王「何でよ!?」

ドワーフ「自分の好きなものが作れないからな。ずっとあんな小奇麗な場所に閉じ込められて窮屈で仕方ない」

国王「だーかーらー、待遇くらい変えてやれるっての」

ドワーフ「ともかくだ、先にお前が俺に頭下げてちゃんと頼めばこうはならんかった。ちっとは腰を低くしろ、王とて今は友人同士、人でしかない」

国王「ぐぬぬ……考えとく。てか国王に向かって言う事かぁ?」

ドワーフ「素直じゃねぇな相変わらず。今は友人だって言ったのが聞こえなかったのか?ええ?」



322: 2015/01/01(木) 16:19:56.31
天使「魔王様の紳士的な思いが通じたのですね」

魔王「フフン、これが僕の交渉スキルってやつさ」

ドワーフ「あんな幼稚な理由と喋りで動くかよ。素直に頭下げれるかそうでないか確かめただけだ。土下座でもしてりゃ即決だったがな!ガッハッハッハ!」

魔王「……だそうだよ」

天使「魔王様カッコ悪いです……」

魔王「詳細は、あー……建国してからでもいいですか?」

ドワーフ「こっちも仕事だ、なるべく早く頼む。同盟の方に詳細情報を渡しておきたい」

魔王「了解……ま、貴族たちの出方次第かな」



323: 2015/01/01(木) 16:20:38.77
国王「アンタも難儀だな。あそこら辺の奴ら、相当タチ悪いだろう」

魔王「知っているのかい?」

国王「大本は23家全員ウチの国の出身者だそうだ。国に属さないのと、後ろ盾のおかげでまぁ好き勝手やってくれて……こっちとしても目障りだったところだ、寧ろ今の状況を作ってくれたアンタを抱きしめてやりたいくらいだ」

魔王「アハハ、遠慮しておくよ。でも、後ろ盾って?」

国王「ああ!それじゃあ俺はこの辺で。そろそろ戻らないと賢人の婆ちゃんにどやされちまう……」

魔王(普通に流されたぞオイ)

国王「魔王、今度は正式な場でお互い合うはずだ。その時は」

魔王「うん、同じ長として、よろしく頼むよ」

国王「こちらこそ」


天使「いいですねー、男の友情ってのも」

ドワーフ「お前さん勘違いしているようだが、ありゃ腹の探り合いだぞ。今回、お互いがどの程度の輩か見てたんだろう」

天使「その結果は?

ドワーフ「お互いまだまだってとこだな」

天使「そんな複雑な話ですかね?」



324: 2015/01/01(木) 16:21:07.42
ドワーフ「ともかくだ、仕入れは安いといっても数を多く引き取ってもらうぞ。こっちもお得意様潰された分取り戻さなきゃいけねぇからな」

魔王「ああ、願ったりかなったりだ。同じ値段で安く仕入れられるのならば僕も大歓迎だ」

天使「それじゃあ今日はこの辺で」

魔王「そうだね。詳細は追って使者を出して伝えるよ」

ドワーフ「おう、今度こそゆっくり酒でも飲める準備でもしておけ」

魔王「そうだね、その時は貴方を我が国に招待しようかな?」

ドワーフ「おっと、引き抜きはご法度だぜ。腐っても俺はこの国の住人だからな」

魔王「フフ、国を愛する思いは本物か」

ドワーフ「ま、困ったことがあれば言ってくれ。筋さえ通っていれば聞き入れてやるよ」

天使(……やっぱり魔王様の言葉はしっかり通っていたんじゃないですか。素直じゃないヒトですね)



325: 2015/01/01(木) 16:21:41.25
……


魔王「さてと……もうやり残したことは無いか……うん、馬車を待たせているし、早く向かおうか」

天使「魔王様ー」

魔王「んー?」

天使「魔王様はこの世界を、どう思いますか?」

魔王「難しい質問だね、どう思うか……僕にはどんな風にも見えるよ、酷く醜く、歪んで見える」

天使「そして儚くも美しく、どんなものよりも尊くも見える……ですよね?」

魔王「うん、そんな世界だから、僕は守っていきたい。全てを一つにしたいんだ」

天使「居場所を守る為に頑張る人がいる。誰かの為に盾になる人がいる。愛する人の為に戦う人がいる、愛する人を待つ人がいる」

魔王「上で戦争をしている者達がいて、下で終わりなき争いをしている者達もいる。地上でもずっと小競り合いをしている者達がいる」



326: 2015/01/01(木) 16:22:32.63
天使「どこも変わらず、そして変わらないから美しい」

魔王「それが、ヒトが生きているという事だと思うよ」

天使「魔王様って、この手の電波会話にはすごく乗ってくれるんですよね」

魔王「ああ、自分で電波って言っちゃうんだ。でもどうしたんだい急に?」

天使「いえ、先ほどの国王様を見ていて思ったのです。一つの国を治めるのにも、色々な方法があるんだって」

魔王「いくら大国と言えど、彼には彼の、国には国の思惑がある。僕たちと目指す道は違えど、彼らとの関係は大切にしていくべきものだよ」

天使「それはもう……ですが、その関係もまた一瞬で崩れ去る事も在るのです」

魔王「……さっきの僕を咎めているのかい?」

天使「はい……余計なお世話かもしれませんが。自身が戦争を目の当たりにしているので、私もその辺は少し敏感になってしまっています。魔王様は、そんな事をする怖い人にはならないでください」

魔王「……」

天使「撃って撃たれて、頃して殺されて……私の理想と魔王様の理想って少し違うんですよね。魔王様が目指すのは世界の統一による大きな平等、私が求めるものは争いの無い世界を」

天使「その中で誰かが傷ついていくのは……何かおかしい事だと思います」

魔王「……優しいんだね、君は」

天使「自分が傷つきたくないだけです。自分勝手な理想ですよ、私のものは」

魔王(間違っていないよ。君のその思想も僕が目指すものも、全部同じだよ。ただ、過程が違うだけで……)



327: 2015/01/01(木) 16:23:28.50
魔王「上は戦争中だっけ……仕方ないよ、切っ掛けはどうあれ、命が掛かれば誰しもが必氏になる。余裕なんてなくなる」

天使「私も……あとどれだけ戦い続ければいいのでしょうね」

魔王「君は……」

魔王「……出来れば、君には戦ってほしくないな」

天使「わ、私は魔王様の護衛ですよ!?私が戦わずして誰が魔王様をお守りするのですか!と言うか今の私の存在理由否定しないでください!?泣きますよ!」

魔王「ゴメンゴメン、そういう意味で言ったわけじゃないけど!」

魔王「……君は、戦うには少し優しすぎる。命を愛しむ心が強すぎる、前の岩獣だってそうだ」

天使「アレは……私のミスです。結局、本当に守りたいものが守れなかった。でも今度は……!」

魔王「ううん、いいんだ。君は変わらなくていい、そのままでいればいいんだ」

天使「魔王様?」



328: 2015/01/01(木) 16:24:10.80
魔王「無理に変わる必要は無い。君は君の信じるものがある、僕に合わせてそれを捨てる事はない。君との付き合いでそれは理解できた」

魔王「君がかける命は、本当に大切なものの為に取っておくんだ。僕の為なんかじゃない、これから出来る君の大切なものだけに」

天使「魔王様ー?前と言っている事変わってますよー?」

魔王「アハハ、僕も柔軟な発想ってのが必要になってきたと感じたからね、と言い訳しておく。でも、今はまだ護衛は続けてもらうよ。流石に氏にたくはないからね」

天使「そのつもりですよ。だからこうして、私も貴方に刃を預けるのですから」

天使「魔王様は決して私を裏切るような事はしないですから……ですよね?」

魔王「フフ、善処するよ」

魔王「……」



329: 2015/01/01(木) 16:24:43.33
魔王(不思議だな……前から気にはなっていたけれど、僕が彼女を気に掛ける"彼"の事があったからだと思っていたのに)

魔王(いや、始めはそうだったんだろう。義務感で彼女を僕の傍に置いて、世話を焼いていた)

魔王(側近と喧嘩する度に、彼女を優先して庇ってしまっていた。それは、"彼"から彼女の話を聞かされていた僕に芽生えた、セピアと同じ家族愛だったのかもしれない)

魔王(でも、今は……多分違うんだろうな)


天使「魔王様?早く行きますよー!運転手さんにまた文句言われちゃいますよ!」

魔王「うん、それは勘弁だね。それじゃあ走ろうか?」

天使「んー……魔王様とゆっくり街並みを見てたいのでやっぱりゆっくり行きましょう」

魔王「君も言うようになったじゃないか」

天使「エヘヘ!」


魔王(これはきっと、産まれて初めての感情なんだと思う)

魔王(僕は、君の事を……)



330: 2015/01/01(木) 16:25:22.69

―――
――――――


(俺を……裏切ったか!!――――!!)

魔王(僕は君を裏切らない!!裏切るものか!!)

(ならば何故あの村の者を!!あの少女を頃したァアア!!)

魔王(村を襲ったのは君じゃないのか……よかった。であれば僕じゃない!!僕であるはずがない!!)

(あの村の跡には"影"の気配を感じ取れた!!そんなものを纏うなどと、俺とお前以外に誰がいる!!)

魔王(君は……僕を信じる事が出来ないのか……?)

(信じたいさ!!だがもう信じることが出来ない!!氏した者達は帰ってこん!!本当にお前でないのなら……俺を信じさせて見せろォ!!)



331: 2015/01/01(木) 16:25:51.96
魔王(……分かった。だったら僕の身体の一部を君に渡そう)

(これは……まて、何をする気だ……お前の得物を俺に渡してどうする気だ)

魔王(まさか、自分の鎌で自分の首を刎ねる事になるなんて思っても見なかったよ)

(何で……ウソだろ?)

魔王(その鎌で僕の首を刎ねろ。君に殺されるのなら本望だ)

(お前……どうしてそこまでする)

魔王(僕は、僅かだが、本当に僅かだが君が村を襲ったのではないかと疑った。君が僕を裏切るハズが無いのに)

魔王(その罰だよ。仲間を信じられもしないやつが世界の統一?笑わせるな、反吐が出る)

魔王(これで僕を信じてくれるのなら、喜んで命を差し出そう……あとは任せるよ――――)



332: 2015/01/01(木) 16:26:30.21
(矛盾している……ここで俺が首を刎ねたら!卑怯な事を……するな……俺にそんなことが出来るハズが無いだろう)

魔王(……僕たち二人の行動をよく思わない連中がいると見て間違いないだろう。きっと僕と同じ種族が絡んでいる。影の出現もそれなら納得がいく)

(……もう、以前のようにお前を無償で信用することは出来ない)

魔王(うん、それで構わない……それが、ヒトとして普通なんだとおもう。だから、その鎌は君が持っていてくれいつでも僕の首を刎ねられるように)

(もうやめろ!!俺にお前を殺させるようなことを言うな!!)

魔王(……行こう、僕のいう事が真実ならば、僕たちを嵌めた連中はまだ近くにいる)

(もう俺の傍を離れるな……そっちの方が都合がいい)

魔王(ああ、そうさせてもらうよ……)

魔王(ナツァル……)



333: 2015/01/01(木) 16:27:04.11
――――――
―――



魔王「で、結果はどうだい?」

側近「……」

オーク「ゴクリ」

天使「ゴックンチョ」

側近「何ですかその擬音は。結果発表ー、8家が大人しくこちらの要求を呑んでくれました。残り14家は全部突っ張ってます」

オーク「あっちゃー、頑固だねぇあちらさんも」

魔王「んー、まぁこんなもんでしょ。あっちもプライドはあるわけだしさ」

側近「これで9家の貴族の土地は完全に我々が抑えたという事になりましたね。ここまでこればもう武力行使でもいいんじゃない?」

魔王「あっちも氏に体だから氏体蹴りまではする必要無いでしょ」

側近「そ、ならとっとと建国の宣言して関所を稼働させればいい」



334: 2015/01/01(木) 16:27:35.31
竜爺「いよいよという訳か」

魔王「何だか締まりもなく随分あっけない形になっちゃったね」

竜爺「物事と言うのはこんなものだ。して、国の名前は決めておるのか?」

魔王「ああ、それについてだけど皆に相談したくてね」

天使「まだ決めていなかったのですか?」

魔王「あ、ああいやそういう訳じゃないんだけど。ちょっと恥ずかしくてさ」

側近「恥ずかしい?魔王の自己満足長台詞語録より恥ずかしいものがあるの?」

魔王「ハッハッハ、言いおる」



335: 2015/01/01(木) 16:28:01.52
魔王「そうだね、実は建国と一緒に君に伝えたいことがあってね」

天使「?私ですか?」

魔王「うん、君にさ」


オーク(おっと?)

竜爺(コイツはまさかの……?)

側近「……」



336: 2015/01/01(木) 16:28:28.60
「ま、魔王様ー!!」


天使「キャー!!ビックリした!!」

魔王「ッ!突然何事だ!」

「第四開拓区にて天使が現れました!!我が兵が交戦中です」

天使「ッ!!」

側近「第四開拓区……すぐそこですね」

オーク「とうとうお出でなすったか!!」

魔王「クソッ!こんな時に!」



337: 2015/01/01(木) 16:28:56.22
側近「すぐに足を用意してください。私が向かいます」

魔王「僕も行こう!」

側近「足手まとい、邪魔」

魔王「oh...」

天使「私も……ッ!」

側近「分かりました、天使さんは着いてきてください」

魔王「ッ!だったら尚更僕も行く!!」

天使「ま、魔王様?どうしたのですか?」

側近「魔王……チッ、勝手にしろ」



338: 2015/01/01(木) 16:29:23.93
オーク「俺は残るぞ、指揮する人間が城からいなくなるのは不味いだろう」

魔王「ああ、そうしてくれ」

天使「竜爺様は……」

竜爺「ワシには関係の無い話だ。お主らで勝手にやっていろ」

オーク「こういう時に途端に薄情になるんだな」

竜爺「……」

魔王「そういうな、係わりが無いのは事実だ。では急ぐぞ、留守を頼む」



339: 2015/01/01(木) 16:29:59.44
天使「申し訳ないです、こんな最悪なタイミングで」

魔王「ああ、最悪だ、ホントにもう……!」

天使「……」

魔王「あ、ああ!君に対して言ったわけじゃなくてね!!」

側近「遅い、早くしろ」

魔王「すまない!よし、出発だ!!」

天使「はい!」


続き:魔王「天使がいた物語」【後編】

引用元: 魔王「天使がいた物語」