魔王「天使がいた物語」【前編】
344: ◆cZ/h8axXSU 2015/01/01(木) 21:25:28.11
……


「ぐ、ああ……」


「辺りを見れば骸の山か」

「魔族の雑兵などこの程度だ」

「ん、来たぞ」

「ああ、待ちくたびれた」



魔王「見つけた……相も変わらずの二人組だな」

側近「増援も引き連れてこないとは。舐められたものですね」



345: 2015/01/01(木) 21:26:14.61
「まっていたぞ、マリーフィア」

「裏切者めが。本格的にそこの魔族と行動を共にしていたとは。恥を知れ」


天使「恥じるべきは貴方達です!いつまで下らない権力争いの犬を続けるのですか!!」

「黙れ」

「我らの聖戦を侮辱するとは、甚だしい」

魔王「怖いね、自ら聖戦とか言っちゃってるけど」

側近「ここまで勘違いしてしまっているとは、上の人達の脳みそはどうなっているのでしょうか。案外スポンジのように穴だらけなのかもしれませんが」

「減らず口を……」

側近「こんな安い挑発に乗るという時点で程度が知れてますね」



346: 2015/01/01(木) 21:26:44.25
「まぁいい。マリーフィア、数年前も同じことを言ったが……」

天使「聖剣は渡しません。貴方達に渡ってしまえば、この世界は……」

「お前の神に何と予言で言われたかは知らぬが、その聖剣は我ら天界の者に破滅をもたらす危険がある」

「故に、回収かまたは破壊を命じられた。我らが神の予言でな」

側近(予言……)

魔王(どいつもこいつもそんな不確定なものにどっぷり浸かっちゃって)



347: 2015/01/01(木) 21:29:38.60
「聖魔の交わり、生まれ変わりし醜穢なるその姿、地の底から現れる」

天使「それはッ!」

側近「これは予言……!でも……」

「集いし聖剣に重ね、廻る時代に勇者は堕ちる」

魔王「勇者……?」

「朱き血を鋭き刃に変え神々を刺頃し、聖戦に集いし戦士を屠り。魔の刃は朽ち、未来は閉ざされる。そして残るは混沌の時代」

「予言はそこで終わっている。我らは聖剣を回収せねばならん」

側近(私の聞いた予言に似ている……けれどこれは)



348: 2015/01/01(木) 21:31:05.26
「マリーフィア、その聖剣が勇者の手に渡れば我が神が滅ぶだけでは済まない」

「原初の混沌が始まり、全てが終わる」

「我々の目指す未来こそが真実」

「我が神が新たに予言した希望の未来がある。さぁその為に、聖剣を……」


天使「私が聞いたものとは違う……貴方達の都合のいいように改変した予言など!なんの抑止力にもならない!!」

天使「その絶望の未来の先にある希望の為に……私は最後まで足掻く!!いつかこの地に現れる勇者様にこの聖剣を届ける為に!!」

魔王「それが君の……本当の」

側近(平和なんて物は連中は望んでいない……恐らく勇者が現れた場合、連中の都合の悪い事が起きるために天使さんを狙っているのだとしたら……)

側近「賢人様あの予言は……一体」



349: 2015/01/01(木) 21:31:33.53
天使「戦います……魔王様、お下がりください!」

側近「帰天は……通用しなさそうですね。転移結界をしっかり張ってきたようで」

魔王「すまない、任せるよ」

「来い、地に堕ちし愚かな天使よ」

「私の相手は魔の者か……あの時の礼はさせてもらうぞ」

側近「そんなものいりませんので、とっとと消えてください」

天使「"来たれ聖剣……光れ刃よ"!!」



350: 2015/01/01(木) 21:32:06.19
「どうしたマリーフィア!腕が落ちたのではないか?」

天使「ッ!万全だというのに!!」

「所詮貴様はその程度だ。兄の陰に隠れ愚行を行い匿われ続けた鳥籠の者よ」

天使「兄さんを悪く言うな!!」


「やるではないか、魔族にしておくのは勿体ない……」

側近「それはどうも、でしたら天界に私をスカウトしてみます?」

「犬畜生扱いなら構わんが?」

側近「冗談……ッ!!」



351: 2015/01/01(木) 21:32:52.52
魔王(不味いな、側近はともかくとして、彼女が押され気味だ)


天使「どうしてこうも!!その力を誰かの為に使えないのですか!!」

「神の代弁者たる私が何故そのような事を?」

天使「こんな誰かの気持ちも分からないような奴に私は……!!」


魔王(悔しいな……こんな時でさえ君を守れないなんて)



352: 2015/01/01(木) 21:33:21.16
「このッ……小娘が!!」

側近「甘く見過ぎではないですか?私、さっきから手加減をしているのですけれど」

「ふん、強がりを言うな。恐怖で震えているのではないか?」

側近「自分の手がその恐怖とやらでどうにかなっているのではないですか?ずっとカタカタと刃が音をたたていますが。別にいいんですよ、跡形も残らない程度に消し炭にしてあげても。こちらとしては聞きたいことがあるから生け捕りにしようとしているだけですし。温情ですよ」

「図に乗るな!!ウグッ!?」

側近「どっちが……」



353: 2015/01/01(木) 21:33:54.46
「終わりだ!!」

天使「ッ!!」

魔王「ッ!させない!!」

「ぬぅ!?」

天使「ま、魔王様!?」

魔王『僕もこの姿ならば戦える!……武器は持てなくなってしまうけれどね』


側近「チッ……また元の姿に!」

「……?奴は……」



354: 2015/01/01(木) 21:34:20.51
側近「あ、待て!」

「しばらくコレと戯れていろ」

側近「ッ!降霊魔法か!」


「おい、あの化け物……」

「ん、ああ……ああ!見覚えがあるぞ!」


魔王『なんだと?』

天使「どうして貴方達が魔王様の姿を……」



355: 2015/01/01(木) 21:34:46.39
魔王『僕は人前ではこの姿を晒した事はあまりなかった気もするが……何故僕の姿を知っている』

「フッフフ……知っているも何も」

「なぁ?」

魔王『勿体ぶらずに教えろ!お前たちは何を知っている!!』

「少し古い話になるな……かつてこの地に野蛮な二匹の怪物がいた」

「奴らは罪なき者を頃し、大地を荒らし、人々の平穏を打ち壊した」



356: 2015/01/01(木) 21:35:33.43
「我ら二人は天より命を受けこの地に降り立ちその害獣共の駆除にあたった」

「地上にて竜騎士を名乗る勇者たちと、魔界のゴミ共と共にな」

魔王『……!!お前たちは……!!』

天使「ま、魔王様?」

「ああ、アレは苦労したな」

「本来我々が手を下す必要が無かったことだが、奴がしぶとく氏なず、影の力を受けて蘇ったのが事の発端だというのに」

「かつての同胞と思い、ああ忍びない気持ちはあったかな?」

「自業自得だ。我らが神を否定する者はああなる運命なのだから。堕天使など以ての外だ」

天使「堕……天使……?」



357: 2015/01/01(木) 21:36:10.15
「ん?その者から何も聞かされていないのか?」

「おかしいな、共に行動していたと我々は記憶していたのだが……」

天使「え……どういうこと……?堕天使って……魔王様?」

魔王『奴らの言葉に耳を貸すな!立って剣を構え直せ!!』

「あの時確かに頃したと思っていた奴が生き返ったのには驚いたが……」

「今度は封印さえしてしまえば確実だ」

「だから我々は」

「封印したのだ、奴の魂を」

天使「誰の……魂……を?」

魔王『それ以上何も言うな!!』



358: 2015/01/01(木) 21:37:00.18
「貴様の兄、ナツァル・ヴァルディだ。マリーフィア」

天使「ッ!?」

魔王『やめろオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


「おっと危ない」

「だが、その程度で我々を捕える事は出来ん」


天使「兄さんが……氏んでいた……?」

魔王『耳を貸すなと言っているだろう!!早く立て!!』

天使「魔王様は……知っていたのですか?」

魔王『……』

天使「それじゃあ魔王様が探していた友人と言うのは……なんとか言ってくださいよ……魔王様」



359: 2015/01/01(木) 21:37:37.44
「フッフフフフ、本当に何も教えていなかったのか」

「お前はこの数年、兄は生きているとでも誑かされていいように使われていたのだろう、まったく哀れな女だ」

天使「魔王様……魔王様!!」

魔王『……君の兄さんが封印されたその場所を、僕は探していた』

「封印とは名ばかりで、少々手荒いものだった故、魂はとっくに消滅している可能性は高いがな」

天使「ッ!!」

魔王『三千年も待たせてしまった……彼の魂を見つけて解放する事……僕が地上に出たもう一つの理由……だ』

天使「ずっと私に騙していたのですか……私がナツァルの妹だと知っていて……兄さんが氏んでいたのを黙っていて!!」

魔王『すまない……言えなかったんだ……彼という希望を持っていた君に……こんな事実を……』

天使「なんで……どうしてそんなことを……」

魔王『すまない……』



360: 2015/01/01(木) 21:38:10.36
側近「いい加減にッ……!」


「ッ!」

「ふん、まぁいい。時間はまだある、引くぞ」

「癪だがしかたあるまい……また次に会うとき、貴様たちがどうなっているのか、見ものだな」


側近「チッ、逃げ足は随分早い……」


天使「……」

魔王『……僕は、君を……』

天使「触らないで!!」

魔王『……ッ』



361: 2015/01/01(木) 21:39:19.73
天使「……魔王様、この数年間の事は、全て偽りだったのですか?」

魔王『違う、僕たちが過ごしてきた時間は決してそんなものでは無い!』

天使「楽しかったですか?私を騙して、私と戯れて、私をいいように使って?」

魔王『それは違う!!君が彼の妹だと分かったから僕は君を守ろうと……』

側近「ッ!バカ!そんな言葉を……!」

天使「私がナツァルの妹だからですか……?そんな言葉聞きたくも無かった!!」




362: 2015/01/01(木) 21:39:52.58
天使「魔王様にとって私は仲間ですか?私は貴方の仲間でいられたのですか?」

魔王『当然だ!それ以外に何がある!!』

天使「本当にそう思っているのなら……私を信じてくださっていたのなら、貴方の口から全てを聞きたかった」

魔王『……』

天使「なんとか……言ってくださいよ……いつもみたいに……私をからかって……」

魔王『本当に……すまない……』

天使「……」



363: 2015/01/01(木) 21:40:19.16
天使「もう、いいです」

魔王『え?』

天使「貴方を……信じたかった。信じていたかった……でも、もう私には無理です」




「信じたいさ!!だがもう信じる事が出来ない!!」




魔王『……』

天使「魔王様……」





天使「さようなら」



364: 2015/01/01(木) 21:40:51.30
……


魔王『……』

側近「……」

魔王『……』

側近「いつまでそうしているつもり?」

魔王『……』

魔王『……僕は……』

側近「ウジウジと……らしくもない」



365: 2015/01/01(木) 21:42:05.36
側近「怪我人はもう収容したし、骸も回収し終えている。あとは貴方だけなのだけれど」

魔王『……』

側近「……」

魔王『ナツァル……僕は……』

側近「……」

側近「……フュリク、顔上げて」

魔王『……ッ!』

側近「私に貴方を打たせないで……貴方が何を思って、何を感じているのかを話して。それとも、私では話せない事?」

魔王『……』



366: 2015/01/01(木) 21:43:08.11
魔王『僕は……ナツァルと約束したんだ。あの日交わされた約束の為に、僕は今までこうして国を作ろうとしてきた』

魔王『彼に妹がいたことは、話聞いていたから知っていた。いつか、世界の統一が出来たときに妹を迎えに行くから、お前も付き合えって言われた』

魔王『彼は妹の話ばかりしていた。そして彼に影響されてか、いつしか僕にも誰かを守るという心が芽生えていたんだ』

側近「……うん」

魔王『それは形を変え、妹として君を守るという思いになった。そして彼女と出会い、彼が本当に守りたかったもの……彼女を守るという思いに変わった』

側近「……」



367: 2015/01/01(木) 21:45:39.06
魔王『こんな僕に何の疑いも無くついてきてくれた彼女を……いつしか僕は自分の意思で護りたいと思えるようになっていた。誰の事も関係なく、ただ僕は彼女を……』

魔王『いつのまにか、彼女を愛するという感情に変わっていた』

魔王『でも……言えずに終わってしまった。まだ……彼女の本当の名前さえ……聞いていないのに』

側近「貴方はどうしたいの?」

魔王『僕は……』

側近「ハッキリしろフュリク!」

魔王『ッ!』

側近「……今のキスは頭なのでノーカンって事にしとく」

魔王『……セピアメイズ』

側近「天使さんが待っていた言葉は"誰か別の人の為"のものなんかじゃない。鈍感な私だって分かるくらいだよ?

側近「中途半端な貴方は一番嫌い、だから……」

側近「早く、連れ戻してこい。ちゃんと言いたいこと伝えて玉砕でもしてこい」

魔王『……』

魔王「うん……!」



369: 2015/01/01(木) 21:47:02.64
――――――
―――



側近「以上が事の発端と、その結末です」

オーク「……天使の目的はこの地に現れる勇者にあの剣を届ける事、そして魔王がやらかした……と」

竜爺「やはりこうなってしまったか」

側近「やはり?竜爺様、知っていたのですか?」

竜爺「知っていたのは奴が天使に肩入れする理由の方だ。とはいえ、薄々はそうでないかと思っていただけの事。奴は全てを語ったワケではなかったからな」

竜爺(そして、ワシの罪も……)



370: 2015/01/01(木) 21:47:45.98
オーク「天使の事は、そりゃまぁ気の毒だが、魔王が本人にそのことを言わなかった気持ちも分かる」

側近「事実を告げて彼女を傷つけるよりも、隠し通した方がいいと踏んだのですね。しかし、これでは」

竜爺「いずれ告げるつもりでいたのだろう。その為に奴はその友人とやらが封印された場所を探していた」

オーク「生きているかどうかも分からん奴を迎えに行くために……"生きている"と信じて希望を持つことが、アイツの糧になっていたんだろう」

竜爺「事実はどうであれ、天使はその希望を打ち砕かれた。本来奴の口から伝えなければいけないことが敵によって情報をもたらされ、さらに魔王が否定しなかったというタチの悪い最悪の結果でな」

側近「……」

オーク「……」



371: 2015/01/01(木) 21:48:20.40
オーク「それで、魔王は?」

側近「天使さんを探しています。一応私の作った魔道具の発信機を持たせているので大まかな位置は分かりますが」

竜爺「一人にさせてよかったのか?また狙われたりでもしたら……」

側近「何かあればこちらから分かるので、私が転移魔法ですぐにアイツの所に飛びます。一回きりの魔法ですが、それで十分かと」

オーク「アイツが抱えた問題だ。俺たちが首を突っ込むことじゃねぇ。天使を想っているのならなおさら、アイツが自分でケリを付けなきゃならん事だ」



372: 2015/01/01(木) 21:49:13.21
側近「竜爺様、一つお伺いしたいことがあります」

竜爺「どうした?」

側近「賢人様の予言は、一体どういった原理に基づいたものですか。神兵たちが口にしていた予言と私が受けた予言の一部が一致していましたが」

竜爺「ふん……未来予知など、原理なんてある訳ないだろう。同じような予言と言ったが、何か違いがあったのか?」

側近「私が受けたものは、希望へ進むためのものでした。ですが、彼らが語ったものはまるで絶望へ向かうもの……」

竜爺「賢人の予言は数多に分岐した未来の一つを見通すものだ。それも、奴は好んで救いのあるものを見る傾向がある」

竜爺「予言が絶対でないのはそれ故、行い次第で人はどんな未来にも変える力を持っているからな」

側近(勇者に聖剣が渡らなければ待つのは恐らく混沌。仮に渡ったとしても道を誤れば奴らが口にした絶望へ……でも)

側近(彼らの予言には……私が聞いたものと違い、その先が無かった)

竜爺「所詮はあくまで気休め程度だ、それがどうかしたのか?」

側近「いえ、ありがとうございました」

側近(これを信じるかどうかは私次第か……)



373: 2015/01/01(木) 21:50:03.78
オーク「だがどうする、天使がもし戻ってこなかったら」

側近「その時はその時です。別に彼女がいなくても国は回りますし」

竜爺「魔王、落ち込むぞ」

側近「切り替えて貰わなければ話になりません。最悪の事態を想定するより、今はアイツが天使さんを連れ戻してくるという事を信じて待ちましょう」

オーク「そうだな、それが一番いい」

竜爺「……変わったな、お主」

側近「それと、もし魔王が使い物にならなくなった場合はこの領は私が乗っ取りますが構いませんね?振られて帰ってきた精神不安定のイカレポンチを立てておくわけにもいきませんし」

オーク「何で最悪の事態の話をしているんだアンタ!?」

竜爺「そこだけは矯正不可能だったか……」

側近(本当に乗っ取るつもりでいるから……早く連れて帰って来い、バカ魔王)



374: 2015/01/01(木) 21:50:36.17
……


天使「……」

天使(兄の事を黙って、ずっと私を騙す形になっていたことは許せない……)

天使(けれど、魔王様は機を見て私に伝えるつもりだったのだろう。生きているかどうかさえ分からない兄さんの封印を見つけた後に……)

天使(私を傷つけない為にしていたことなんて、少し考えれば分かる……でも、口に出さなかったという事は、私はそこまで魔王様に信頼をされていなかったという事)

天使(魔王様は"必ず生きている"なんて私に希望を与えて、その希望を奪ったのもまた魔王様……)

天使(そして、一番許せない事は……)


魔王「……」

天使「ッ!魔王様……」

魔王「や……やっと見つけた……」



375: 2015/01/01(木) 21:51:08.80
天使「何をしに来たのですか」

魔王「君を迎えに来た!」

天使「……どうしてここにいると分かったのですか?」

魔王「分かったって言うか、心当たりを全部探すつもりで走り回ってて辿り着いただけだよ」

天使「どうしてそういうところで嘘をつかないんですか……」

魔王「アハハ……三日探し続けていたんだ、誤魔化したってすぐに嘘だってバレちゃうよ。ここの花畑を後回しにしたのは失策だったね」

天使「……」

魔王(ここで逃げないって事は、話をしてくれるって事かな)



376: 2015/01/01(木) 21:51:36.06
魔王「僕の話を……聞いてくれるかな?」

天使「どうぞご勝手に」

魔王「うん、ありがと。まずは……そうだね、始めに僕の名前を預けておくよ」

天使「え……?」

魔王「僕の名前はフュリク・ヴィルディ、かつて偉大な天使が僕にくれた名前だ」

天使「ヴィルディ……」

魔王「君と、君の兄さんの姓から少し変えて受け取ったものだよ」

天使「兄さんが魔王様に……」



377: 2015/01/01(木) 21:52:08.65
天使「何故そんなことを始めに?」

魔王「そんなこと、なんて言葉で片付けないで。前にも言っただろう?真名の契り。君にはちゃんと明かしておきたかったから」

天使「……」

魔王「この行いが信用に値するかは君が決めてほしい。とにかく、話を続けるよ」

天使「弁解は……聞く気はありませんよ」

魔王「うん、しない。これ以上はまた君を傷つけるだけだって気づいたから。でも、まずは彼に何があったかは伝えておきたい」

天使「……いつもの長台詞ですか?」

魔王「ま、いつもの事だと思って聞いていてよ」



378: 2015/01/01(木) 22:46:11.20
魔王「僕は昔、数千年前、魔界での戦いに疲れ逃げ出したんだ。仲間たちを捨てて、自分だけ地上へ」

魔王「でも、その地上であったのは平穏とは言い難い生活。化け物と蔑まれ、恐れられ、虐げられて……」

魔王「力でねじ伏せるなんて僕には出来なかった。そうされて当然の行いも今までしてきたんだ」

魔王「そうして生きてきたある日。空から一つ、妙なものがポトリと落ちてきたんだ」

魔王「大剣背負った天使様……それがナツァルだった」

天使「……」



379: 2015/01/01(木) 22:47:00.22
魔王「重傷を負っていたから放っておけもせず、僕は彼を介抱した。何日も何日も、目を覚ますまでずっと」

魔王「数日経ってようやく彼は目を覚ました。僕を見るなり驚いた顔をしていたよ、魔族に天使を助けるような奴がいるなんてって言われた。アハハ、そこじゃないだろうに」

魔王「彼が落ちてきた理由は聞かなかった。大体天使が落ちる理由なんて堕天以外には考えられなかったからね。同時に、彼も僕が地上に上がった理由は聞かなかった。たった一言、"お前に戦いは向いていない"って言われたっけな。彼なりに察してくれたみたいだ」

魔王「僕たちが打ち解けるのは早かった。お互いに性格が似ているところがあったから、話も合ったし。何より、彼は僕と同じ考えを持っていた」

天使「世界の統一化……」

魔王「そうだね、彼と僕が求めた夢物語……天界も地上も魔界も……全てを一つにすることで、お互いを理解し、分かりあえるそんな世界」

魔王「バカみたいだろう?出来る訳も無いのに……僕と彼はそんな優しい世界を語り合った。やれ天使は地上と魔界を見下しすぎだからもっと謙虚に、やれ魔界は好戦的すぎるから戦力を削減するようにって。地上は……まだあの頃は無力だったから言及は無かったね」



380: 2015/01/01(木) 22:47:50.19
魔王「そうして、僕たちは地上を見て回ることにしたんだ。二人がまだ知らない世界だったからこそ、それを知る為の旅を」

魔王「長い旅だった……彼が僕を守り、僕が彼を支え、意見の食い違いから口論になったり殴り合いのけんかになったり。ま、僕が彼に勝てるハズも無かったんだけど」

魔王「地上の人達の醜さ、優しさ……彼らの持つ可能性を知っていく中で、僕たちはある決心をした」

魔王「長い生命の旅路で、僕たちが出来る事をする。いつか誰かが成し遂げる、世界を一つにするための物語を綴り続ける事を」

魔王「僕たちの代じゃなくったって構わない。僕たちがダメならばその次が、またその次が……この意志と思いが潰えない限り、僕たちの夢は決して終わることなく続いていくんだ」

魔王「二人で、この世界から始めようと。いつか来るべき日の為に、後に続く者達の為に、僕らが礎になろうと彼と誓った」



381: 2015/01/01(木) 22:48:17.16
魔王「しかし、そうは上手くはいかなかった。彼がまだ生きていると知った天使たちが、彼を始末するために僕たちを襲ったんだ」

魔王「きっとその中に、君を襲った二人組もいたんだろう。ナツァルは僕を足手まといになると洞窟に閉じ込め、一人で戦いに出た……数十人という天使の軍勢を相手に」

天使「兄は神から危険視されていた身。地上で目立たずに始末する限界まで絞った人数だったのでしょう。本来なら兄はその程度の人数に負けるハズが無い」

魔王「ああ、彼は翼をもがれ、長い地上暮らしの影響で本来の力も発揮できず、持っていた大剣も折られ……そして」

天使「……」

魔王「事は既に終わっていた。あの時ほど自分の無力さを呪ったことはない……彼の肉体は、既にズタズタに引き裂かれていた」

天使「兄さん……」



382: 2015/01/01(木) 22:49:04.28
魔王「……彼が氏んだという事実を、僕は受け止める事が出来なかった。だから僕は……禁忌を犯した」

天使「禁忌……?」

魔王「完全に魂が天に還る前に、僕は契約魔法と呼ばれる魔法で彼の魂を無理矢理肉体から引き剥がした」

魔王「そして、僕が魔力で操る"影"で新たな身体を創り……そして彼の魂と同化させた」

魔王「僕は……命の理を無視し、彼の命を弄んでしまった」

天使「兄は……どうなったのですか……ッ!」

魔王「彼は息を吹き返した……とは言い難いが、新たな生命体としてまた生を受ける事が出来た……ほとんど賭けのようなものだったけれど、成功してしまった」

魔王「あのまま氏んでしまっていた方が……彼にとっては楽だったのかもしれなかったのに」



383: 2015/01/01(木) 22:50:17.25
天使「それはどういう……?」

魔王「……話を続けよう。身体が馴染むまでの期間、また二人でリハビリも兼ねて旅をしていた」

魔王「この頃になると、僕も魔法で今のような人の姿に変身して、迫害を受ける事もなくなった」

魔王「彼は彼で、見た目が真っ黒に変わってしまった以外は特に変化は見られなかった。幸い、記憶が飛んだりするような事は無かった」

魔王「そうして天使に見つからず、今まで通り過ごしていけると思っていた。でもやはり上手くはいかなかった」

魔王「今度は僕を狙って魔界から刺客が現れた。彼に僕たちの種族の力を渡した事が気に入らなかったみたいだ。僕を狙って僕と同じ種族が動き出した」

魔王「それが、セピアの両親だ」

天使「ッ!確か、側近さんの両親は……」

魔王「そう、僕が頃すことになるのだけれど、それはまだずっと先の話」



384: 2015/01/01(木) 22:51:08.03
魔王「彼らは地上の、その時代の勇者を裏で操り、僕たちを陥れようとした。危うくお互いを信じられずに同士討ちをするところだった」

魔王「彼と僕は戦う事を決意し、彼らに挑むことにした。だが、それすらも計算の内だった」

魔王「本当に裏で操っていたのは、かつて彼を頃した天使たちだった」

魔王「生きているのがバレていた。天使たちはまた彼を殺そうとしていたんだ、魔族の力を得て醜く歪んだと彼を侮辱し……!!」

魔王「そして……戦いが始まる前に、僕と彼は分断されてしまった。僕は同族に取り押さえられ、そのままずっと囚われてしまった」

魔王「しばらくして同族に伝えられた、"あの紛い物の影は天使たちが封印した。いや、消し去った"と……」

魔王「人質に取られた僕を救うために、ほとんど無抵抗のまま彼は……」

魔王「……僕は、彼に守られっぱなしで何もしてやれなかった。最後の最後まで……彼に迷惑をかけてしまった」

天使「……兄……さん……」



385: 2015/01/01(木) 22:51:51.61
魔王「これが、僕たちが辿った地上での出来事だ。結局、僕は友人を救う事も守ることも……約束を果たす事も出来なかった」

天使「兄さんは……貴方を守る為に……氏んだのですね……」

魔王「彼は生きている!!」

天使「ッ!」

魔王「僕は諦めてはいない!彼は必ずこの地のどこかで僕を待っている!……必ず!」

天使「魔王様……」

魔王「今度は僕が彼を助ける番だ……そして、あの日の約束を果たす為に……僕は!」



386: 2015/01/01(木) 22:52:34.96
天使「泣かないでください……魔王様」

魔王「……」

天使「兄は立派に戦い……貴方を守ったのです。それが分かっただけでも、私は救われました」

魔王「君の兄さんがこうなったのは僕の責任だ。君は僕を責める権利がある」

天使「兄はそんなことは望みません」

魔王「ッ!……そうか、そうだね……」



387: 2015/01/01(木) 22:53:03.06
天使「兄の事は感謝します。ありがとうございます、最後まで傍に居てあげてくれて」

魔王「救われたのは僕の方だ……」

天使「そして、魔王様。私に話したかった事は、それだけですか?でしたら私はこのまま貴方の目の前から消えます」

魔王「それは困る!君を迎えに来たんだ、今の話は最低限君が知っておかなきゃいけなかったことだ。僕の事とは関係ない!」

天使「それを知って安心しました。また長台詞ですか?」

魔王「ああ、もう少し付き合ってほしい」

天使「……もう少しだけですよ」



388: 2015/01/01(木) 22:53:31.31
魔王「うん、それじゃあ今度は僕の事の話」

天使「魔王様のですか?」

魔王「君にちょっと肩入れし過ぎているって前にオーク君に言われてね。それの原因を話そうかと思って」

天使「……私を連れて帰る気があるんですかー?」

魔王「アハハ……最後まで聞いてくれたら分かるよ」

魔王「僕は魔界に強制送還されたあと、数千年ほど幽閉されたんだ。己を戒めよって感じでさ」

魔王「その時に出会ったのが、僕が後にセピアメイズと名付ける事になった彼女だよ」



389: 2015/01/01(木) 22:54:21.31
魔王「戦争の人手が足りなくなって、解放された僕も戦地へ駆り出されることになって、ナツァルを嵌めたあの二人の同族が僕と彼女を使って一旗上げようとしていたんだ」

魔王「でも、僕は完全な私怨で後ろから彼らを殺害。完全に両親の操り人形だったセピアは彼らが氏んだ時点で沈黙した」

魔王「あの時の僕には彼女がとても可哀想に見えたんだ。生み出されたその命は自由を知ることなく誰かに縛られて……」

魔王「その時僕はナツァルがよく君の話をしていたことを思い出した」

魔王「彼と同じ感情に共感し、愛しみ、僕は彼女を妹に見立てて育てることにしたんだ」

天使「魔王様って残酷なことをするのですね」

魔王「え……?」

天使「いえ、何でもありません」

天使(側近さんの気持ちを考えたら、貴方には妹として見られたくは無かったのではないでしょうか)



390: 2015/01/01(木) 22:55:09.12
魔王「彼女をそのままにしておくには僕にもリスクが高すぎた。僕より体は大きいし、連れて歩くには適さない、また誰かに奪われて利用されるかもしれない」

魔王「だから、魔界に迷い込んできた人間の非力な少女の姿に似せて、彼女の身体を魔法で変化させることにした。本来の強さを抑える目的も兼ねてね」

魔王「結果はまぁ……色々失敗だったのだけれど」

天使「滅茶苦茶強いですよね、あのままでも」

魔王「うん、あそこまでとはまったくの盲点だったよ……それに、悪い事もしてしまった」

天使「悪い事?」

魔王「無理に身体の構造を作り替えた結果、欠陥が生じてしまい彼女は魔法の扱いが極端になってしまったんだ」

天使「前に話していましたね、魔法は一回しか使えないと」

魔王「どんな小さな魔法でも一度に魔力を最大まで消費してしまうんだ。最近はマシにはなったとは言っていたけど」

天使「それであまり使わないのですか……」



391: 2015/01/01(木) 22:55:42.60
魔王「話が逸れたね。そうして数百年、彼女と過ごしながら僕はまた地上に出る機会を伺っていた」

魔王「そして、僕の意志を継いでくれる後継者を連れて、再び地上へ出る事が出来た」

天使(そうか……魔王様は側近さんを後継者にするつもりでいたのですね)

魔王「オーク君と出会って竜爺と出会ってお城で生活して……夢物語を叶えていくなかで、やがて……君と出会った」

天使「やっと私が登場ですか」

魔王「そうくたびれた顔をしないで。回り道をしてしまったけど、ここからが僕の伝えたいことだから」



392: 2015/01/01(木) 22:56:30.74
魔王「君の口からナツァルの名前が出て、僕の感情は一気に高ぶった。目の前に彼が残した意志が現れたと悟ったのだから」

魔王「彼が守りたかったもの……君を守る事が、僕がここに在る意味へと変わったんだ」

天使「結局、私がナツァルという人の妹だから、魔王様は私を守っていたのですね……」

魔王「始めはそうだった。義務感さえ持っていた」

天使「……」

魔王「君と一緒に行動し、君と同じ景色を見て、一緒に笑って泣いて怒ってまた泣いて」

魔王「そうしている内に……アハハ、なんだろうな、僕の方が君に魅せられてしまっていたんだろうね」

天使「!」

魔王「剣を持つには甘すぎて、そして優しすぎる君を、心から護っていきたいと、僕の想いは形を変えた」

魔王「彼の妹だからじゃない。本当の、僕の気持ちを……今君に伝えるよ」

魔王「僕は君を愛している。一人の女性として、嘘偽りなく。今度こそ、僕の本当の言葉を君に届けたかった」



393: 2015/01/01(木) 22:57:07.63
天使「……」

魔王「結局、国の名前を決めようとしたあの席でこの思いを伝えたかったけれど。まぁ結果がアレだ、タイミングが悪すぎた」

魔王「そして、君に失礼な事も行ってしまった。彼の妹だから……って。僕が言いたかったのはそんな事じゃなかったのに」

天使「……」

魔王「あ、ゴメン。迷惑だったよね、突然こんな話。返事は今じゃなくてもいい、僕は全てを受け止めるつもりだから、君がどんな答えを出しても……」

天使「え……ぐっ……」

魔王「え?ええ!?ちょっ!?な、何で泣き始めるの!?ねぇ!?」



394: 2015/01/01(木) 22:57:34.37
天使「だ、だっでまお゛うざま……わだじ……えぐぅ」

魔王「お、落ち着いて、深呼吸深呼吸……」

天使「ぐずっ……魔王様に言ってほしかった言葉……本当に言ってくれたんだもん……嬉しいよ……」

魔王「君は……」

魔王「改めて言うよ。長台詞だからよく聞いていて……僕は……」


天使「結 婚 し て く だ さ い !!」


魔王「うん、君は今僕の一晩寝ずに考えた一世一代の口上を全て無駄にしたね?」

天使「だって話長いんですもん!」

魔王「……フフ、そうだね」



395: 2015/01/01(木) 22:58:12.90
魔王「……また、もう一度僕と同じ道を歩んでくれないかい?国を作って、統一を目指して、君の兄さんを見つけて……」

天使「私は、もう以前のように貴方を信じる事は出来ません。ですが……また私を信用させてください、これからの貴方の行いで」

魔王「承知の上だよ。そして、君の本当の役目……共に勇者を探そう」

天使「魔王様……」

魔王「よく分からないけど、勇者が見つからないとこの世界が危ないんだろう?だったら、僕も協力するよ」

天使「ですが、魔王と勇者は相容れぬ関係……貴方にとっては敵となるかもしれないのに」

魔王「君だって僕たちを信用しきれていなかったんじゃないかい?話てくれていれば僕達も強力で来た事だ」

魔王「それに、僕の魔王なんて名前は形式的なだけのものだよ。名乗れって言ったのはナツァルだし」

天使「兄さんが?」

魔王「そっちの方がかっこいいだろう?ってさ」

天使「……フフ、兄さんらしいですね」

魔王「僕もそう思うよ」



396: 2015/01/01(木) 22:59:04.45
天使「では、魔王様。貴方が私に名を預けたように、私も貴方に名を預けます」

天使「ナツィア・ヴァルディ、それが私の本当の名です」

魔王「ナツィア……ああ、いい名前だ」

天使「今度はちゃんと……呼んでくださいね?」

魔王「アレ?気づいてた?」

天使「はい、だって魔王様、一度だって私の事を"天使"とも"マリーフィア"とも呼んだことが無いんですもの」

魔王「アハハ……始めから意識していたのかな、君を偽りの名で呼びたくなかった」

天使「もう……らしいと言えばらしいですけど!」

魔王「……それじゃあ、帰ろう。ナツィア!」

天使「はい、フュリク!」



397: 2015/01/01(木) 22:59:37.86
――――――
―――



魔王「色々あったけど、こうしてちゃんと連れて帰ってきたよ。今度は僕の隣にいるように……」

竜爺「ふん、ノロケ話などどうでもいいわ。にしても帰ってくるのにも数日掛かりおって、何をしておった」

魔王「え?そりゃ昨日はお楽しみ……」

天使「ワー!!ワー!!」

竜爺「……魔王、捕まえた女は泣かすなよ。後悔するぞ」

魔王「経験者は語る……かい?僕はそんなことはしない、もう彼女の涙は見たくはない」

天使「フュリク……」

竜爺「分かっているのならいい、だったら早く側近の所へ行け」

魔王「側近?どうかしたのかい?」

竜爺「外にいる……色々大変な事になっておるぞ、まったく」

天使「?」



398: 2015/01/01(木) 23:00:04.06
……


側近「諸君、私は戦争が好きだ」


「「「スキダー」」」


側近「諸君、私は戦争が大好きだ」


「「「ダイスキダー」」」



魔王「」

天使「」



399: 2015/01/01(木) 23:00:42.27
魔王「えっと、側近……これは何のマネだい?」

側近「あ、帰ってたんだ。どうだった?ビンタ何発喰らった?」

魔王「オイオイ……」

天使「わ、私はちゃんと帰ってきましたよー!!」

側近「チッ、つまらない」

魔王「今なんつった!?」



400: 2015/01/01(木) 23:01:24.80
魔王「それで、これはどういう状況なの?」

側近「どうもこうも、貴方がこっ酷く振られて精神ズタボロで帰ってきても国の運営なんて出来っこないだろうと思って、私がすぐにでも乗っ取りやすいように彼らを洗脳していたのだけど何か?」

魔王「何で連れてこられない前提なのかなー?」

側近「あーあー、貴女がいるのならもう私の計画丸つぶれじゃないですか。どうしてくれるんですか、こんな無駄な時間過ごして」

天使「言いがかりですよ!?」

魔王「ハァ、何でこんなことに……」

オーク「……」

魔王「あ、オーク君も何か言ってやってよ」

オーク「アカルイミライヲー」

魔王「」

側近「強化し過ぎたか」

天使「強化!?」



401: 2015/01/01(木) 23:01:54.30
オーク「っつーのは冗談で」

魔王「ああ、本当にビックリした……」

側近「ともかく、お帰りなさい。二人とも」

オーク「随分と心配したぞ。二人がいない魔王城ほど寂しいもんはねぇからな」

魔王「……ああ、ただいま。そしてゴメン、心配をかけて」

天使「私も、我が儘で皆さんを巻き込んでしまい、すみませんでした。そして、また迎え入れていただいて、ありがとうございます」

側近「セピアメイズ」

天使「え?」

オーク「クァル・シークルだ」

天使「えっと……」



402: 2015/01/01(木) 23:02:55.62
側近「名を預けます。こうなってしまった以上は不本意ですが、私も貴女の事を信用していかなければならざるを得ません。その期待に応えられるように努めてください。私もまた貴女に信頼を寄せますので、王妃様」

天使「王妃様!?」

オーク「俺もだ。名前を隠すほど大した身分じゃあねーけど、今後ともアンタら二人について行く。だからこそ名乗らせてもらう」

天使「二人とも……」

側近「魔王様、貴方も」

魔王「様って……ええ!?」

側近「私達は今までのような関係ではいられなくなります。関係の無い女性にため口を使われるなど、貴方も不都合でしょう」

魔王「なんか変な感じだなぁ」

オーク「頭として示しつかねぇだろ、そういうこった魔王"様"!」



403: 2015/01/01(木) 23:05:26.41
側近「さて、丁度そこには私が洗脳するために集めた貴方の部下たちと、貴方を慕う村や町の人々が集まっています」

魔王「な!?やけに数が多いと思ったらそういう事か……」

側近「……始めてください。貴方がこの地上で成した事、思いを全てここに吐き出して」

天使「フュリク」

魔王「……うん」


魔王「……今ここに」

魔王「私、魔王の名の下に!!新たなる国家を築き上げる事を宣言する!!」



404: 2015/01/01(木) 23:05:56.57
魔王国ナツァリア

僕の愛する妻と、そして掛け替えのない友人からもらった名前

そして、彼が帰ってきたとき、一目で彼が分かってくれるように付けた名前

平和と統一を願う僕らの想い……


数多くの期待の眼差しは、やがて大きな歓声へと変わった

僕達が築き上げ、そしてこれから作り上げていく一つの形

あくまでそれは第一歩でしかない

これから先語り継がれていく夢物語を紡ぐために

守り続けていこう……君と二人で、そして

君たちと共に……



405: 2015/01/01(木) 23:08:58.30
――――――
―――



側近「はい、これ全部承認のサインをお願いします」

魔王「ま、まだあるのか……」

側近「当然です。それと、内容についてはしっかり目を通しておいてください。一応私も全て確認はしましたが、承認したら不味いものも混ざっている可能性があるので。あ、そこ誤字があります、訂正してください」

魔王「叫んでいいかな……?」

竜爺「それは嬉しい悲鳴かな」

魔王「竜爺もそんなまったりしてるくらいなら手伝ってよー」

竜爺「阿呆が、お主がやらねば意味が無かろうて」



406: 2015/01/01(木) 23:09:46.38
魔王「国を作ってもう一年になるけど、出来る事とやらなきゃいけない事が増えすぎてどうにもこうにも……」

竜爺「一国を築き上げてゴール、ではないとお主が一番よく知っているだろう。その先に続いてゆくように維持しなければ意味が無い」

魔王「分かっているけどさー……ハァ、税収も少し高めに取ってしまっているのが気になるし、食糧の供給も全土には行き届いていない、開拓が思いのほか進んでいない、城の人手が足りない、お城で働きたいという志願者も少ない……」

側近「あ、願書が山のように届いていますよ。大体が不満爆発させた内容ばかりですが」

魔王「アバババババババババババ」

側近「まだ壊れないでください。やることやってからなら好きなだけぶっ壊れてもいいですから」



407: 2015/01/01(木) 23:11:11.97
側近「まったく、各地の開拓もあまり進んでいないというのに」

魔王「貴族から巻き上げた土地には君が育てた者達を置いているから、管理自体は問題ないだろう」

竜爺「地理の詳しさ故、その貴族たちもまだ領地で働かせておる。食い逸れたくなければそうせざるを得ないのだが……まぁ今度はワシも目を光らせておるから大丈夫だとは思うが」

魔王「当初の目的だったナツァルの封印のありかの捜索と勇者の捜索も全然進んでないし、神兵達の動向も気になる……あーもう何だよコレ」

側近「あの天使達には常に警戒を払っています。捜索の方も私の部下にやらせていますので、魔王様はどちらも考えなくて結構です。それよりも目の前の仕事を片付けてください、手が止まっていますよ」

魔王「……側近、何だか前より冷たくなった?」

側近「貴方が知らなかっただけで、私は誰にでもこういう対応をしますが何か」

魔王「いいよいいよ、どうせ僕は君の操り人形だよ。裏で国を操ってほくそ笑んでいればいいよ」

竜爺「……お主も卑屈になったものだな」

側近「よく他人に甘えるようになった、と思った方がいいでしょう。それはそれで構いませんよ、今まで私が甘えてた立場でしたし」

魔王「アハハ、可愛い事言うじゃないか」

側近「黙れ、手を動かせ」

魔王「……はい」



408: 2015/01/01(木) 23:11:54.31
天使「コソー……」


側近「ん?」


天使「ハッ!?」


側近「……何をしているのですか王妃」

天使「い、いえ、魔王様はお仕事終えられたかなー……と」

魔王「ナツィア!うん、すぐ終わらせるよ!どうしたんだい?」

天使「いえ、久しぶりに二人で食事でもどうかなーって……」

魔王「そうだね、しばらく時間が取れなかったから。わかったよ、いいかな側近?」

側近「ダメです、仕事を優先してください」

魔王「鬼め!!悪魔め!!」

側近「はい悪魔です、いいからとっとと手を動かせボンクラ腐れ魔王」

魔王「ヒィィ!?」

竜爺(立場的に引き締め役なせいで以前に増して厳しくなっておるのう……)



409: 2015/01/01(木) 23:12:39.19

天使「そ、そうだ!側近さん!私にも何か手伝えることは……」

側近「ありません、魔王様の政務の邪魔になりますので王妃はお部屋にお戻りください」

天使「お、王妃である私に対して何たる無礼!一体どうした罰を与えようか!」

側近「あ゛?」

天使「ごめんなさい、調子に乗りました許してください」

魔王「ゴメンよ、僕が不甲斐ないばかりに」

天使「いいえ魔王様!貴方は悪くありません!私たちの運命という巡り合わせが悪かっただけなのです……!!」

魔王「ナツィア……」

天使「フュリク……」

側近「ここで殺されたいか貴様ら」

魔王「申し訳ないとは思っている」

天使「調子に乗り過ぎましたすみません」



410: 2015/01/01(木) 23:13:10.52
側近「まったく……国の名前に王妃の名前を捩って付けるくらいです、惚気る理由も分からないことも無いですが」

天使「キャー!!恥ずかしー!!」

魔王「"魔王国ナツァリア"……この名前を付けた理由はただそれだけではないよ」

側近「はいはい、貴方が語り始めるとただただ長くなるだけですので早く仕事をしてください」

魔王「上手く逃げ切れると思ったのだが……ダメだったか」

竜爺「王妃よ、魔王は見ての通り忙しい。しばらくワシの話し相手にでもなってくれんか。いい暇つぶしにはなるだろうて」

天使「あ、はい。では魔王様、竜爺様とお話をしていますのでお仕事の方、頑張ってください!」

魔王「アハハ……夕食までには済ませるよ」



411: 2015/01/01(木) 23:14:17.84
側近「……」

魔王「ハァ、王っていうのはここまで忙しいものだったのか。ちょっと舐めすぎていた」

側近「そりゃ人手不足ですし、王の手が空いているくらいならとことん扱き使った方が時間と労力を有意義に使えますので」

魔王「ちょっと待てそれ別に僕がここまで奮闘しなくても問題ないって風だなオイ」

側近「同じ仕事が出来る人間が少なすぎるのです。貴方の手も借りないと回らないくらいにはウチは切迫しています、いい加減慣れてください」

魔王「とはいえ、こんな量の仕事を平然とこなせる奴なんて世界中どこ探したっていないと思うよ」

側近「私もそう思います。が、案外そういうのはひょっこり現れたりするのかもしれませんけどね」

魔王「……君とか?」

側近「私は出来るのが前提ですから。私に出来ない事を魔王様にやらせるような事はいたしません」

魔王「そうですか……」



412: 2015/01/01(木) 23:15:12.96
オーク「おう、邪魔するぜ魔王様」

魔王「オーク君!久しぶりだね!」

側近「オーク護衛隊長、遠征ご苦労様です。地方はどういった状況でしたか?」

オーク「おう、早速仕事の話か。少しはゆっくりさせてくれよ……」

側近「時間が惜しいので手早くお願いします。貴方も早く休みたいでしょうに」

オーク「分かったよ。あっちはやっぱ強い魔物が多いな、そのくせ資源を多く取れそうな森林が広がっているからどうしても押さえておきたいとは思うんだが」

魔王「分かった、近くの町にはすぐに武器と魔王城から兵を手配しよう。自警団だけでは辛いだろうし」

側近「ダメです、魔王城から兵は出せません。ただでさえ人数カツカツなのにそう易々と放出は出来ません」

魔王「あーもう、アレもダメこれもダメ……分かった。オーク君、冒険者ギルドの方に依頼を出してくれ。森林の魔物の討伐、報奨金は……この程度でイイかな?」

側近「ふむ、妥当ですね。各地から冒険者も来ているのです、せっかくウチもギルドの加盟国になっているのに利用しないのは損です」

オーク「分かった、それで出しておく……本当はウチで軍を持って討伐体を組めば一々委託する手間も省けるんだがな。それにタダじゃあねぇ、下手したら私兵を動かすより金がかかることもあるんだ」



413: 2015/01/01(木) 23:16:13.11
魔王「軍は……まだ持たないよ。まだその時じゃない。今軍を持つという事は他国に敵意を向けるも同義、戦争が無いのならまだ必要は無い」

側近「もしも、があるかもしれないですから私もオーク護衛隊長に賛成なのですが……これだけは曲げないのですね」

魔王「当然だよ。戦わなければいけない時は腹を括るが、避けられる戦いがあれば積極的に避けるベきだ」

オーク「おかげで魔王様を護衛するから"護衛隊長"って名前の役職貰ってんのに各地に飛び回るハメになってんだけどな、俺は」

魔王「アハハ……その分給料弾んでおくよ」

オーク「俺が今欲しいのは金より休暇だけどなー。んじゃ後で報告書にまとめておくから、今はもう休ませてくれ……」

側近「はい、お疲れ様です。報告書は明日の夜までで結構ですので、今日はもうお休みください」

オーク「ういー……やっと眠れる……」

魔王「ふむ、みんな忙しそうだね。やっぱり、少し全体的に休みを与えるべきなんじゃないかな?僕も含めてさ」

側近「お前は手を動かせ出来損ない魔王」

魔王「はい……」

側近「ほら、私も手伝います。貴方はしっかり出来るヒト何ですからこのくらいは出来るハズです。それに夕食までには終わらせるんでしょう?」

魔王「君の落として上げる育て方には何ともまぁ感服するよ」



414: 2015/01/01(木) 23:17:28.74
……

魔王「辛い……辛すぎる……」

天使「フュリク、貴方が選んだ道なんですから、泣き言は許されませんよ」

魔王「うん、分かっているよ。分かっているけどさ……君の前くらいでは弱音を吐かせてよ」

天使「私は皆の前で弱音を吐いている貴方しか見ていないのですがそれは」

魔王「ま、竜爺も言っていたけれどコレは嬉しい悲鳴ってやつだよ。忙しいのに側近はちゃんと僕に君と夕食を取る時間を作ってくれたんだしさ」

天使「私は先ほど側近さんに裏に連れ込まれて文句と言われ続けましたけどねーアハ、アハ、アハハハハハハハ」

魔王「彼女はやっぱり君に対しては他より厳しいみたいだね」

天使「その理由も分かりますけどね。私は何も言いません」

魔王「なんかゴメン。彼女に対しては僕の態度がずっと中途半端だったからこうなってしまったようなものだし」

天使「それを聞いたら"自惚れるな単細胞"って言われそうですね、フフ」

魔王「よく分かっていらっしゃるようで……」



415: 2015/01/01(木) 23:18:40.52
天使「クァルさんも忙しそうですね」

魔王「魔物被害については彼に一任してしまっているからね。実際今ウチで二番目に戦力的に強いのが彼だし」

天使「本当は傍に居てほしいのではないですか?」

魔王「その為に護衛隊長の役職を与えたのだけど……そう上手くはいかないね。僕のせいだけど」

天使「軍を持たない事は竜爺様からも苦言されていますね」

魔王「まだ国としての歴史も浅い。実際は人員的にそんな余裕も無いだけなんだ。無理してでも周りを固めろって側近に言われているけど、無理をするくらいならまだいらないよ」

天使「でしたら自分の身は自分で守らなければいけませんね!側近さんに稽古をつけてもらいましょう!せっかく魔剣なんて大層な物を持っているんですし」

魔王「それを口に出したら地獄の1000本組み手が待っているから絶対に嫌だ」

天使「アレは……悲しい事件でしたね……」

魔王「経験者は語る」



416: 2015/01/01(木) 23:19:27.92
天使「そうだ。フュリク、ちょっといいですか?」

魔王「ん、なんだい?」

天使「王国から来週パーティの招待が来ていましたよね?一緒にクァルさんや竜爺様も連れて行ったらどうでしょう?」

魔王「……ゴメン、パーティなんて初耳なんだけど」

天使「なんやて!?」

魔王「側近め……自分と君だけで行ってあたりさわりの無い対応してやり過ごすつもりだったな……」

天使「oh...側近さんならやりそうですね」

魔王「そういう社交の場でこそ王である僕が行かなきゃダメだろう」

天使「お飾りの私を盾に話を進めるつもりだったという事でしょうね」

魔王「よし!ならば出発だ!!僕だってまだ腐っていないという事を側近に証明して見せる!!」

天使「はい!その意気ですよ魔王様!!」

魔王「見ていろセピア!!君に言われっぱなしの僕じゃない!暴言を連発されるこっちの身にもなってみろ!今度こそ言い返してやるからな!!」



417: 2015/01/01(木) 23:20:00.51
――――――
―――



側近「などと言っていたそうですが」

魔王「ごめ゛んなざいも゛う許してぐだざい、殴らな゛いでぐださい」

天使「魔王様カッコ悪いです……」

側近「魔王様、貴方はあまりこういう場を好まなさそうなので私は誘わないようにしていたのです」

オーク「煌びやかなパーティといってもお互いの腹の探り合いだ、偉くなればなるほどギスギスした空気になる」

魔王「覚悟はしているよ、特にあっちの王は以前に一度個人的に話をしたことがある。裏表の激しそうな人だった」

側近「貴方は騙し合いという事が出来ません、ですから私だけが行くべきと思ったのです」

天使「私をデコイか何かにするつもりだったでしょ」

側近「はい」

天使「少しは否定してくださいよ!?」



418: 2015/01/01(木) 23:20:27.72
魔王「竜爺は……来なかったね」

天使「お祭りごとが結構好きだと思ったんですけどねー」

側近「身内でやるのが好きなのでしょう。あのヒトの事は私もよくは分かりませんが」

オーク「一人だけ名前を名乗らなかったしな。ま、あんまり知られたくも無いんだろうから触れないけどよ」

魔王「さて、快適な馬車の旅も終わりだ。このまま会場へ入ろう」

側近「やれやれ、御守りの相手が増えたのは計算外でしたね」

天使「おーい、増えたってのはどういうことですかー」

オーク「その中に俺も含まれてんじゃないだろうな……」



419: 2015/01/01(木) 23:21:46.44
……


「こんにちは、魔王様」

「ごきげんよう魔王様」

魔王「ああ、こちらも」


オーク「開始早々、中々の人気っぷりだ。どいつもこいつも腹に一物持ってそうだ」

天使「魔王様に近づく方々は取り入ろうとしている方ばかりなのでしょうか」

オーク「他意は無い人もいるだろうがこういう席だからな。新参者とはいえ一代で国を築き上げた猛者だ、関係は作っておいても損はないって思ってんだろう」

側近「どいつもこいつも敵にしか見えなくなってきましたね。数が多すぎてプチプチ潰してやりたくなってきました」

オーク「やめッ……やめような?そんな物騒な事言うの。ストレスでも溜まってんのか?」

側近「ええ、どこぞの魔王のせいで」



420: 2015/01/01(木) 23:22:59.16

側近「護衛隊長、警戒は解かないでください、魔王様が狙われたら面倒この上ないですから。ハァ、せめて剣もまともに振れるならこんな気を張らずに済むのですが」

天使「あ、あの、ちょっと大袈裟じゃないですか?」

オーク「まぁ権力者共に護衛は付いてるんだから、ウチの魔王様に付いていたっておかしくはないさ。当初の予定通り俺は王妃様を、側近は魔王様を頼む」

側近「了解です。私の予想を超えない行動を周りがしない限りは大丈夫でしょうけど」


国王「久しぶりだな、以前の会食以来だな」

魔王「ジスト国王、お久しぶりです。私にお声を掛けていただけるなど、光栄の至り」

国王「其方の国はまだ歴史は浅いが、それでも一国の王。立場はあれど私にそう畏まる必要は無い、顔を上げてくれ」


天使「あ、あの方が国王様ですよ」

オーク「ん?予想していたより遥かに若いな」

側近「まだ成人は迎えていないそうです。これからの国を担っていく若い力として期待されているようで。ウチのと違って未来があります」

オーク「確かに、これからの出方が見ものだな、力強さを感じる。ウチのと違ってやり手ってのが伝わってくる」

天使「サラッと魔王様を落とすのはやめてください」



421: 2015/01/01(木) 23:23:27.70
国王「……魔王、一つ話があるのだが」

魔王「話?私にですか?」

国王「耳をかせ」

魔王「はい……え?」


側近「まったくあんなに接近して、あの人たちはそっち系ですか、ボーイズなんとかってやつですか」

天使「ダメです魔王様!!私という妻がありながら!!あ、でもちょっと気になるかも」

オーク「ちょっと落ち着こうな?」

賢人「若いね、貴方達も」

天使「あ、えっと……」

側近「ッ!賢人様!」



422: 2015/01/01(木) 23:24:03.22
天使「こ、この方がですか?」

賢人「久しぶりだね、小さな魔人さん」

側近「……お久しぶりです」

賢人「あれからどうでした?」

側近「いえ、特には何も」

賢人「そうかい。まぁその様子を見るに、貴方も思うところはあったんだろうね」

側近「どうでしょうか」

賢人「気付いている癖に、自分の変化に……それより、あのヒトは来なかったんだね」

天使「あのヒト……?」



423: 2015/01/01(木) 23:25:01.68
賢人「まぁいいさ、ゆっくりこのパーティを楽しんでいくといい。ウチの連中はあまりいい持て成しは出来ないだろうけどね」

側近「こちらも護衛があるのでそうも言っていられません。賢人様は護衛を付けていないようですが……」

賢人「こんな枯れた婆さんにそんなもの必要ないよ。欲しいのは人肌さね」

オーク「お、おう?」

賢人「旦那が恋しいって事だよ言わせんな恥ずかしい!」

天使「……想像していたキャラと随分違いますがこれは一体」

側近「予言しているときは真面目なんです。予言しているときだけは」

賢人「あぁ、柔らかいねぇ」

オーク「賢人様、ヒトの腹の肉つまむのやめてくれねぇかな」

天使(物凄く竜爺様と行動が似てるんですが)



424: 2015/01/01(木) 23:25:52.09
賢人「さぁて、それはともかくとして。大局を見据えていても小さな綻びには気が付かなかったようだね、魔王の国の人達」

天使「え?」

オーク「……あッ!!」

側近「……来る前に散々意気込んでいたウチのスカタン魔王はどこへ行ったのでしょう」

オーク「アイツ……パーティ最中に消えるか普通……」

天使「やってくれましたね魔王様」


「お、おい、あれって確か魔王の国の……」

「なんかヤバいぞ、今近づいたら殺される空気だぞ、何があった……」


「ウチの国王が消えたぞー!!」

「またかよ!!あの人何回消えるんだよ!!」


賢人「おやおや、やるねぇあの坊主たち」

側近「目を離した私の不手際ですね。やれやれってやつです」

天使「オークさん馬車を出してください、心当たりがあるので」

オーク「あいよ」

側近「私もこの場を鎮めたらすぐに向かいます……あの野郎……」



425: 2015/01/01(木) 23:26:45.53
……


国王「たっはー!!やっぱこういう安酒が一番美味いわ!」

魔王「同感、あんな見掛けだけ豪華な堅苦しい所でなんかやっていられないよ」

国王「でもアンタ奥さん連れて来ていたんだろ?よかったのか置いてきて?」

魔王「大国の王の誘いを断れる訳もありません、まぁ彼女も彼女で僕がいるとピッタリ後ろについて回っちゃうからね。少しは独りで動いて交友関係を広げないと。その為に護衛を連れてきたんだから」

国王「悪いな、文句言われたら俺のせいにでもしておいてくれ。注意されるのも怒られるのも慣れてるからよ」

魔王「……こうしていられるのも今の内だけだからね、もっと時間が経ってしまうと、自分の背負う責任の大きさから何も出来なくなってしまうからさ」

国王「ハハハ……俺も笑えねぇや」


ドワーフ「テメェら……」

魔王「ん?」

国王「どうしたオッサン?」



426: 2015/01/01(木) 23:27:15.06

ドワーフ「何 で ウ チ 来 て 飲 ん で る ん だ よ 馬 鹿 野 郎 共 !!」

国王「そう怒鳴るなよ」

魔王「そうそう、一緒に飲もうって言ったのは貴方じゃないか」

ドワーフ「おかしいだろ!!テメェら今国同士の関係から考えて抜け出していい立場者ねぇだろ!!」

国王「ん、会場から二名消えただけだろ」

魔王「うん、個人で飲みたかったし」

ドワーフ「いつのまに仲良くなってんだよ……」

国王「お?嫉妬か?」

ドワーフ「 氏 ね 」

国王「冗談だよ冗談。だからハンマーを掲げるな、頼む、謝る、ごめんなさい」



427: 2015/01/01(木) 23:27:59.36
ドワーフ「ったく、隠れ蓑にしやがって……適当に時間を潰したら帰れ」

国王「へいへい」

魔王「忙しいところ申し訳ないね。僕達に回してくれる武器を作ってくれているのに」

ドワーフ「どれだけ作っても足りないくらいだからな。だが、好きなものを作れるって言うのは俺にとってもありがたい話だ」

国王「自国に武具を入れない非国民めが」

ドワーフ「刎ねられたいか?」

国王「OKOK、振りかざしたその刃を納めてくれマイフレンド」



428: 2015/01/01(木) 23:28:57.10
国王「しかし、アンタもよくやるな。貴族から領地を見事に乗っ取り、資金難も起こさずここまで来れるなんて」

魔王「その代り人員不足だよ。外から人を入れたいけれど、ウチの強みって言ったら鉱山くらいしかないからね。出稼ぎの来る人か偶然立ち寄った冒険者くらいしか入国しないし。他国から無理矢理技術者をスカウトするような度胸も無い」

国王「海を越えた貿易を広めてみろ、せっかくアンタの所も海があるんだ。海外から来る人の流れを操作してやるだけで安定した収入になるぞ」

魔王「ありがとう、確かにそこまでは気が回らなかったな……側近に相談してみるよ」

ドワーフ「国のトップの会話ってのは一国民にとっちゃワケの分からん話だな」

国王「ンなもんガキの頃から沁みつけられた知識だ、単純な事でしかねぇ」

ドワーフ「今でも十分ガキだろうが」

魔王「成り上がりの僕にとっては、十分凄い事だと思うけどね」



429: 2015/01/01(木) 23:29:37.47
国王「それより聞いたぜ、アンタ勇者を探しているんだって?何でも世界各国あらゆる所から。新しい商売でも思いついたか?」

魔王「あ、いや、まぁ訳ありでね。古今東西どのような人物が勇者になりえるかってのを調べようと思って」

国王「ふぅん、魔王を名乗っているから勇者を潰すのかと思ってたけど」

魔王「僕のは名前だけだし、それに勇者と戦う魔王ってのは世界を脅かす存在で、その魔王との戦いの後に勇者という称号が初めて与えられるんだから、今の世の中は色々と矛盾しているよ」

国王「勇者を名乗るのも自由、魔王を名乗るのも自由な世界になっちまってるからな。ま、自分の名前を売りたい奴ほどそう名乗るんだが」

魔王「アハハ……僕も同じ理由だから何とも言えないな」



430: 2015/01/01(木) 23:31:02.46
国王「俺は俺で勇者の名前を利用して一つ面白い事を考えているんだ」

魔王「面白い事?なんだい?」

国王「勇者って言うのは一つのブランドみたいなもんだ」

魔王「あー……まぁ惹かれるものはあるだろうね」

国王「それでだ、国一番の手練れを勇者として選出して各地各国へ旅にでも出させて活躍させれば、他国へのいい宣伝と国の士気向上になると思わねぇか?」

魔王「ん、なるほど……国の代表を勇者として祭り上げれば期待できることが大きいか」

国王「悪評集めちまった場合のリスクがとんでもなく大きいけどな」

魔王「一長一短だね。いや、しかし悪くはない。勇者を名乗らせるのは言い考えかもしれないね」



431: 2015/01/01(木) 23:32:11.56
国王「時期を見てさ、勇者育てる専門の学校とか作って、そこから優先していい就職場所に斡旋したりそのまま国の兵士になってもらったりして、上手く次の世代を回していけると思うんだ」

魔王「勇者を一つの目標とするか……うん、悪くないんじゃないかな!」

国王「ヘヘ……何だか俺の考えをこうやって聞いてくれる奴がいるってのは新鮮だな」

魔王「誰も聞いてくれないのかい?」

国王「真面目に取りあってくれるのは賢人様だけだ。ま、全部話し終わった後に小馬鹿にして終わるだけなんだがな」

魔王「君は、信頼して話ができる家臣や友人を傍には置いていないのかい?」

国王「友人ならそこにいるだろ、城を出て行っちまったけどな」

ドワーフ「……ふん」

国王「皆俺についてきた者達ではなく、家柄や役職で古くから王家に付き添った連中ばかり。上辺だけの関係だ」

国王「……そういう意味ではアンタが羨ましいよ。信頼できる人達で一緒に作った国なんだ、楽しかっただろうな」

魔王「全ての感情を共有出来たのは本当にありがたかったよ。そう思うと僕は恵まれているんだね」

国王「恵まれすぎだっての!どういうことかあの竜爺が味方についたんだからさ!」

魔王「竜爺を知っているのかい?」



432: 2015/01/01(木) 23:33:31.14
国王「ウチの古くからの関係者なら全員知っているんじゃないか?そもそもずっとあの領地の管理人だったわけだし」

魔王「放置してたけどね。そういえば前に貴族の後ろ盾って言ってたけど、それも関係しているの?」

国王「ああ、実際あの人達がどんな仲かは知らんが、竜爺には手を出せない、出してはいけないってのが暗黙の了解だったんだ。それを突き崩したのがアンタ達ってワケ」

魔王「ただ者じゃないとは思っていたが、そこまでとは……」

国王「今はもう何とも言われていないな。賞味期限が過ぎたか、それとも竜爺を畏れる事はないと判断したか……」

魔王「賞味期限て……」



433: 2015/01/01(木) 23:52:31.27
ドワーフ「おい、そろそろお開きだ」

魔王「え?なんで?」

国王「まだこれからだってのに、ちょっと早すぎるんじゃないか?」

ドワーフ「魔王、窓の外見ろ」

魔王「えー?外に何が……」



天使「ウフフ」



魔王「オウフ」

国王「滅茶苦茶良い笑顔で見てるぞオイ」

ドワーフ「ツケが回ってきたな、お前も覚悟しておけ」

国王「oh...」



434: 2015/01/01(木) 23:53:16.59
天使「コレはどういう事でしょう魔王様」

魔王「いえ、その……何とも言えないです」

国王「俺は俺で帰ろうかなーっと……」

天使「国王様ー?お城の人達から許可は貰っていますので私と一緒に賢人様の前まで行きましょうねー?」

国王「いやああああああああああ!!」

ドワーフ「わざわざご苦労だな、こんなところまで」

天使「いえいえ、おじ様にも苦労をおかけします」

ドワーフ「おじ様て……まぁいい、とっととそいつらを連れて行ってくれ。俺ももう寝るからな」

国王「感づかれたのアンタのせいだからな、ったくもう少し飲んでたかったのによ」

魔王「そう言われても仕方がないじゃないか。妻は何かと感がいいんだから僕も隠し事は出来ない……」

天使「お二人とも静かにしましょうね?」

魔王「ヒィィ!!」

国王「あっはい」



435: 2015/01/01(木) 23:53:42.34
……

魔王「夜も更けて良い月だ」

側近「話を逸らすな恥知らずの畜生魔王」

魔王「君ホント貶す言葉のボキャブラリーが多いね」

天使「会場がそこそこの騒ぎになったんですよ!ちょっとは反省してください!!」

魔王「君と側近から顔面にグーパン喰らいましたので猛反省しています」

側近「身体に染み込ませないと覚えないのですね、分かりました次回からそうします」

魔王「」

オーク「自業自得だよ馬鹿野郎」



436: 2015/01/01(木) 23:54:11.83
魔王「勝手な事をしてすまない。言い訳をすると、王の誘いを無下にする訳にもいかなかったんだ」

側近「そうですね、あちらの国王も自分に責任が行くことを承知で誘ったようですし、我々はお咎め無しでした」

魔王「それに、彼という人物を知ることが出来た……収穫としては上々だよ。今後の付き合い方も考えていける」

天使「楽しかったですかー?私を放っておいて?」

魔王「……ゴメン、穴埋めはするからさ」

天使「はいはい、私を蔑ろにするのはいつもの事ですからねー」

魔王「耳が痛いな」



437: 2015/01/01(木) 23:54:39.76
側近「さて着きました。王国が用意した宿ですね。中々立派です」

オーク「ここまで歩かせやがって、こんな寒い夜中にさ。王妃様、迷うんじゃないぞ」

天使「目の前のなのに!?それに先ほど荷物を先に置いたので場所は分かりますよ!!」

魔王「あっちから護衛を付けてくれてもよかったと思うんだけどな」

側近「それは私がお断りしました。人件費の無駄遣いですので」

魔王「ああ……まぁ君がいるなら必要ないよね」

天使「あれ?あんなところに露天が出てますよ?」

オーク「ん?こんな人気のない場所にか。しかも机一つて」



438: 2015/01/01(木) 23:55:06.31
「……」


魔王「……なんかこっち見てるね」

天使「何のお店でしょうか?ちょっと気になります」

側近「お二人とも、私の後ろへ。何かあってはいけませんので」

魔王「考えすぎだよ」

オーク「アンタの事をよく思っていない連中もいるんだ。ここで刺されでもしたらたまったもんじゃねぇ」

天使「そうですよ魔王様、ここはお下がりください」

魔王「ん、君が言うのなら……」



439: 2015/01/01(木) 23:55:39.14
「……」


オーク「おい、机持って直接こっち来たぞ」

側近「間抜けな構図ですね。本格的に危険人物っぽいのでヤっちゃいますか」

魔王「またそんな物騒な事を……」

天使「ひょっとしたらフレンドリーな方かもしれないじゃないですか!ここは元気よく……」

側近「貴女は無警戒過ぎます。もう少し物事を考えて……」


「ハロー!貴方たちこんな夜更けにお散歩?ちょっと私のお店に寄っていかないかしらー?」


側近「……」

天使「ほらみろ!!ほらみろ!!」

側近「……性格が魔王様に似てきましたね」

天使「いやぁそんなぁ」

側近「貶しているんですよ」



440: 2015/01/01(木) 23:56:36.83
側近「何者ですか。この方々が王族だと知っての狼藉ですか?」

「あらー、それは知らなかったわ!失礼失礼、ゴメリンコ☆」

オーク「なんか……何だ?」

側近「イメージしていたのと随分違いました。そんなフードを深く被ってないで顔を見せてください」

「んもう疑り深いんだから!ホラこれでいい?」

魔王「ん」

オーク「おっと」

天使「わぁ、美人さん」

「それはどうもー」

側近「……?」



441: 2015/01/01(木) 23:57:02.30
魔王「どうした側近?」

側近「……いえ」

側近(……この顔どこかで……?)

「私ねー占い師をやってるんだけど、どうも最近客入りが少なくてねー」

天使「そりゃこんな場所でやってるからですよ」

「んー、この宿お金持ちさんしか出入りしないからいい稼ぎになると思ったんだけどなー」

オーク「人の流れの無さを考えろっての」



442: 2015/01/01(木) 23:57:31.62
「どうどう?お安くしとくからさ!いっちょドカーンとやってみない?」

天使「ドカーンとですか!?」

「そそ、私の占いは結構当たるんだから!」

側近「いりません、皆さん早く宿に入りましょう。こんな胡散臭い人のいう事を聞く必要はありません」

「あーんいけずー!ちょっとくらいいいじゃない!」

側近「私に触るな抱き着くな頬擦りするな腹を摘まむな」

天使「あら積極的!」

魔王「ちょ、ちょっと馴れ馴れしすぎないかなーと思うんだけど……」



443: 2015/01/01(木) 23:58:04.56
天使「でもいいじゃないですか。私はやってみようと思います」

魔王「んー……君がそこまで言うのなら」

オーク「俺は興味無いが、まぁ二人がそういうのなら残るが」

「あとは貴女だけよー?損はさせないからさー!おーねーがーいー!!」

側近「耳に息を吹きかけるな。ハァ、私は先に宿に入っておきます。オーク護衛隊長、二人を頼みます」

オーク「ああ、アンタは一番疲れているだろうから先に休んどけ」

天使「えー、側近さんも……」

側近「不愉快です。おやすみなさい」

魔王「まったく……まぁ、貴女もやり過ぎです、控えてください」

「ごめんなさぁい。私ああいう可愛い子を見るとどうしてもイジワルしたくなっちゃうから」

魔王「分かるよその気持ち」

オーク「共感するなよ」



444: 2015/01/01(木) 23:58:34.56
オーク「さて、それで何を占ってくれるって言うんだ?こっちも金を出すんだ、下らない事だったら……」

「言ったわよ?損はさせないって。私はオールジャンル、その人の未来を見通して適切なアドバイスをしてあげるの」

魔王「アハハ、この国には予言者が居るっていうのに大きく出るね」

「それじゃあそこの天使さん?貴女から見るから、そこに座って」

天使「ワクワク」

「……」

天使「ど、どうでしょう?」

「貴女も可愛いわね」

天使「キャーーーーー!!恥ずかしーーーー!!」

オーク「テメェいい加減にだな……」

「ジョークジョーク!軽いジョークだってば!」



445: 2015/01/01(木) 23:59:12.87
「……」

天使「あのー、それでどうなんでしょう?」

「聖と魔の懸け橋となる幼子、受け継ぎしその意志は潰えることなく未来へ繋ぐ」

「あるべき未来を守る為、例え残酷なる運命が待ち受けようと、託されたその力を勇ましき者へ届ける為、その命を燃やすだろう」

天使「ッ!?」

「流れに逆らう事も出来る、貴女はそれで幸せになれるかもしれないけれど……それは大きすぎる犠牲を払う事になる。貴女にとってとても大切なものを失う」

「これから貴女が辿る道のりは決して楽なものでは無いわ。けれど見失わないで、貴女が信じる者の為に動き続ける事が出来れば、きっと明るい未来が待っているから」

天使「これは……占い……ですか?」

「そうよ!!通信教育で習った占いよ!!明日の天気さえも自在に操る占いの力を思い知りなさい!!」

オーク「それもう占いの域超えているだろ!?」

天使「……」

魔王「どうした?何か思い当たることでも?」

天使「……いえ!何だか思っていたより真っ当なものだったので……」



446: 2015/01/01(木) 23:59:49.07
「お次は……」

オーク「パスだ。胡散臭すぎる。それで金取られたってんならたまったもんじゃない」

「あら残念、じゃあ最後に……」

魔王「……僕かい?」

「ええ、なんか簡単そうだし」

オーク「ひでぇ理由だ」

「それじゃあ……ぬぅん!」

魔王「……」



447: 2015/01/02(金) 00:00:45.47
「……見えたわ!!貴方の未来は……」

魔王「ああ、言わないで」

「へ?なんで?」

魔王「貴女のその占いとやらが正しいか正しくないかは別として、僕はこれから自分の歩む未来を誰かに決定づけられるつもりはない」

「……これはあくまで指標、目安でしかないわ。それを信じるか信じないかは貴方次第だけれど」

「それでも、知っておいてもいいんじゃなくて?リスクを回避できる事もある……かもしれないんだから」

魔王「そんなものは未来じゃない。なにも見えないからこそ僕たちは明日を作るんだ」

天使「……」

魔王「それに、僕はこれから起こる事全てを受け入れるつもりでいる。例えそれがどんな結末であったとしても……ね」

「……素敵な事を言うのね。あのヒトとは大違い」

天使「?」



448: 2015/01/02(金) 00:01:11.93
「まぁいいわ。よいしょっと、そんじゃまぁ店仕舞いでもしますかねー」

オーク「オラ、代金だ。もうこんな押し売りみたいなマネするんじゃねぇぞ」

「いらないわよそんなの」

オーク「何だと!?」

「安くしておくって言ったでしょ?私は私のしたいように他人の運命を見るだけ。ま、何度も言うけれどそれを信じるかどうかは貴方達次第かな」

天使「……」

魔王「そうか、ではおやすみなさい。僕達ももう宿に入るよ」

「ええ、お元気で。身体に気を付けてね、魔王様」



449: 2015/01/02(金) 00:02:11.68
オーク「……何だったんだよ一体」

天使「不思議な人でしたね……」

魔王「さ、ともかく休もう。側近も待たせているし」

オーク「そだな、よく分からんが」

天使「……命を燃やす……」

魔王「君も、身体に障るよ」

天使「はい。あ、フュリク……」

魔王「ん?なんだい?」

天使「あ、いえ……何でもないです!さぁ今日はもう眠りましょう!明日のに備えて!!」

オーク「明日はもう帰るだけだけどなー。あー、報告書まとめなきゃなー、結構溜まってらぁ」

側近「魔王様!」

魔王「?側近、どうしたんだい?先に部屋に行っていたんじゃ……」



450: 2015/01/02(金) 00:02:38.42
側近「緊急事態です、私は直ちに国へ帰還します」

魔王「ッ!何があった!」

側近「辺境の村にて神兵が現れました。謎の生物と交戦中とのことです」

天使「神兵!?しばらく音沙汰が無かったと思ったら……」

魔王「最悪だな。僕達が国を離れている時に……」

オーク「で、なんだよその謎の生物ってのは」

側近「それが分からないから謎なのです。魔王様は……」



451: 2015/01/02(金) 00:03:35.79
魔王「僕も向かう!すぐに馬車を!」

オーク「場所はどこだ!国に帰るとしても数日かかるぞ!」

側近「必要ありません、転移魔法のマーキングをしてある場所の近くですので」

魔王「ならばすぐに!それとナツィア、悪いがついてきてくれ。セピアの身体の事は前に話したよね」

天使「はい、戦力が必要になるのなら」

オーク「悪いな、こっちはアンタらを守らなきゃならん立場なのに」

側近「チッ、やむを得ないですか……では、飛ぶ準備をしますのでしばらく待っていてください」



452: 2015/01/02(金) 00:06:16.43

「……」

「貴方達の運命の歯車は大きく動き出したわ」

「ここから先、決して逃げる事の出来ない悲劇が待ち受けている」

「それを乗り越えて……未来へ繋ぐことが出来れば、貴方達の目指すものを掴み取る事が出来る」

「この予言は時として凶器にもなりえる……国としての強大な力なのに、勝手に他人に予言の力を使ったら国の重役たちに怒られちゃうからこんな場所でわざわざ待機していたけれど……」

「さぁて、またいつものお婆ちゃんの姿に戻ってお城に戻らなきゃね。いつまでも留守にしておくと国王の坊やに逆に文句を言われちゃうし」

「……暴王よ、貴方が目を掛けた彼らがどこまでやれるのか。私も遠くから確かめさせてもらいます」

賢人「ねぇ……アナタ」



453: 2015/01/02(金) 00:07:33.98
――――――
―――



魔王「報告があったのは確かにこの先だな!?」

側近「間違いありません、村の自警団が謎の生物ごとまとめて応戦中らしいです。こっちも動かせるだけの人材は向かわせていますが……」

オーク「間に合わんとみていいだろうな!」

魔王「クソッ、被害状況はまだ分かっていないのか!?」

側近「現在調べさせています、しかし魔王様、何も貴方達は前に出なくとも。ただのパーティだったとはいえお疲れのハズです」

魔王「規模が分からないとはいえ、指揮をとる人間は必要だ。君こそ休むべきだ、もう魔力がほとんど無いんだろう?」

側近「一戦交える程度には大丈夫です……が、確かに貴方が後ろにいてくれれば助かります」

天使「私も可能な限り前に出ます。今は王妃と言われる状況ではないですから!」

側近「……任せます」



454: 2015/01/02(金) 00:08:01.57
ドクンッ

天使「ッ!」

魔王「ん?どうした?」

天使「い、いえ……」

天使(何、この感じ……聖剣が何かを伝えようとしている……?)

側近「別に私だけでも最悪戦えますが……無理はしないでください」

天使「だ、大丈夫です!」



455: 2015/01/02(金) 00:08:33.71
オーク「ここか!!」

魔王「ッ!!これは……」

天使「酷い……」

側近「遅かったか……」

魔王「……生き残りを探そう。救助が優先だ」

オーク「クソッ……!!」



456: 2015/01/02(金) 00:09:16.23
天使「フュリク……」

魔王「神兵がまだいるかもしれない、警戒を解かないで」

天使「……はい」

魔王「単純な魔物被害……ではなさそうだ、爪や牙の跡が残っている訳でもない。村人は全員斬りつけられた傷がある」

側近「神兵が手を下したと見て間違いはないでしょう」

天使「何故罪の無い彼らにそんなことを……許せないッ!」

オーク「その怒りは次に対面した時にぶつけてくれ。……だが、もうこの近くには居なさそうだ」

魔王「一体彼らはここへ何をしに来たんだ……」



457: 2015/01/02(金) 00:09:43.50
側近「自警団も……全滅か」

オーク「俺はあっちを見てくる、側近は反対側を」

側近「はい。魔王様、王妃様、貴方達は」

魔王「僕らはここを真っ直ぐ見てくるよ。最悪、大声でも出せばすぐにお互いどこにいるかは分かるだろう」

天使「行きましょう」



458: 2015/01/02(金) 00:10:29.23
魔王(しかし妙だ……彼らは何の目的があってこんな辺境の場所を襲った)

魔王(それに、正体不明の魔物の事も気になる。自分の国に生息している魔物くらいは僕も把握している。発見されていない新種が出た……と言うのなら話は別だが、その線もまず無いだろう)

魔王(あるいは外来種……?いや、だとしても正体くらい分かるはずだ)

魔王(まてよ?神兵がここに来た理由がその魔物が出現したから……という事が考えられないか?だとしたら何故村人達まで頃す必要があった?)

天使「……?フュリク、この遺体を見てください」

魔王「……ん?傷が無いな」

天使「争った形跡も見られません、これは……」



459: 2015/01/02(金) 00:11:13.47
魔王「随分衰弱している……だが自然氏とは考えにくいが……ッ!!これは!?」

「―――!!!」

天使「ッ!離れてください!!"来たれ聖剣"!」

「――――――!?」

天使「ごめんなさい!!"光れ刃よ"!!」

魔王「あ、ああ……」

天使「確かに生きてはいなかったハズなのに……グール化する要素も無かった。それに身体から出てきた黒い霧のようなものは一体……」

魔王「間違いない"影"だ……!僕やセピアと同じ力……どうして……!!」

天使「ええ!?」



460: 2015/01/02(金) 00:12:09.88
天使「フュリクと側近さんは我々と共に行動していたのでまず間違い無く関係は無い……ですよね?」

魔王「ああ、それは間違いない。彼女はこの力の使い方は知らないハズだ、それにもう僕らの種族は生き残りなんていない。最後の一人を手にかけたのもまたセピアだから……」

天使「だったら……」

魔王「……!!一人だけ……いる……でも……」

天使「一人……?誰なんですか!!」

魔王「かつて命を散らし、そして僕の力で蘇らせ同じ力を得た……君の兄、ナツァルだ」

天使「ッ!」

魔王「信じたくはないがそれしか考えられない。神兵達が狙うのも納得出来る」

天使「探しましょう!!討たれていないのならばまだ近くに居るかもしれません!!」



461: 2015/01/02(金) 00:12:37.65

魔王「ナツァル!!僕だ、フュリクだ!!近くに居るのなら出てきてくれ!!僕達は君の味方だ!!」

天使「兄さん、兄さん!!私ですナツィアです!!出てきてください!!私はここにいます!!」


「……ッ!」


魔王「ッ!そこの家の瓦礫のした……誰かいるのか!!」


「ッ!」


天使「兄さんかもしれない……今助けます!!待ってて!!」



462: 2015/01/02(金) 00:13:05.62
少女「くぁ……クッ……」

魔王「女の子……?」

天使「ッ!!貴女は……」

少女「どこの……誰かは……存じませんが……ありがとう……ございます……」

天使「アキさん!私です!昔あの花畑で出会った……!!」

魔王「あの時の盲目の子か!」



463: 2015/01/02(金) 00:13:31.46
少女「ごめん……なさい……もう……耳もあまり……聞こえな……」

天使「そんな……!回復魔法!今貴女を助けます!!」

魔王「ナツィア、まて。もうダメだ、これ以上は彼女を余計に苦しめるだけだ……この傷では助からない」

天使「でも!……こんなの……ないよ……!」

少女「これ……は……魔法……?」



464: 2015/01/02(金) 00:14:00.35
天使「そうです!必ず助けます!だから……だから……」

少女「……あの子……を」

魔王「ッ!まだ誰か居るのか!」

少女「……私の……子……」

天使「子供……子供が居るのですか!!」

魔王「探してくる……君は彼女の傍にいてあげてくれ」

天使「……はい」



465: 2015/01/02(金) 00:14:27.28
少女「……」

天使「せっかくまた会えたのに……こんな形になってしまうなんて」

少女「あの子を……」

天使「大丈夫です、助けます。必ず……私たちが!」

少女「強く……生き……て」

天使「ッ!……おやすみなさい……アキさん……」



466: 2015/01/02(金) 00:14:54.83
魔王(……ここか!)

魔王「ッ!ベッドの下とは……身体くらいやはり鍛えておくべきだったな、この程度持ち上げるだけで疲れるとは」

「……」

魔王「良かった……生きていた……傷だらけだが大丈夫そうだ。おいで、僕たちは君の味方だよ」

「……」

魔王「震えないで……怯えなくていい、さぁこちらへ」

「……」



467: 2015/01/02(金) 00:15:22.21
天使「フュリク……」

魔王「……彼女は」

天使「……」

魔王「そうか、後はこの子だけだが。気絶してしまった」

天使「引っ張り出せますか?」

魔王「頼むよ、僕じゃベッドを持ち上げるだけで精いっぱいだ」

天使「はい……大丈夫、貴方は私が守るから……絶対に」



468: 2015/01/02(金) 00:16:02.05
「……」

天使「ッ!!」

魔王「?どうした?」

天使「あ、ああ……そんな……そんな!!」

魔王「ナツィア?」

天使「なんで……何で……!!」

魔王「一体何が……ッ!?なッ!似ている……でも!」



469: 2015/01/02(金) 00:16:29.32
「……」

天使「間違いない……私が見間違えるわけがない……」

魔王「魂の鼓動が……同じだ……彼と……この少年は」



天使「兄さん!!」

魔王「ナツァル!!」



470: 2015/01/02(金) 00:17:00.12
天使「ッつぅ!!」

魔王「今度はどうした!?」

天使「嘘!?聖剣が!?」

魔王「光って……聖骸布が取れた……これは?」

天使「……勇者……様?」

魔王「何だって……?」

天使「間違いない……見つけた……ああ、見つけた……兄さん……勇者様……」

魔王「この子が……勇者……ナツァルが?」



471: 2015/01/02(金) 00:19:09.61
――――――
―――



魔王「……あの子はまだ目を覚まさないのか」

竜爺「医療自体に問題は無い……が、不自然だな」

魔王「まさかとは思うが、聖剣が何かの原因では?」

側近「考えられますね。きっと、聖剣と共鳴した時に何かがあったのでしょう。しかし、命を奪うような事は無いとは思いますが」

竜爺「やれやれ、今度は子供の御守りか。まったく面倒事を……」

魔王「すまない、だが今回は大目に見てほしい。事情が事情だ」

竜爺「今回"も"の間違いだろうて」



472: 2015/01/02(金) 00:20:32.15
側近「事後処理はオーク護衛隊長に任せていますが、神兵により無関係の人々の被害が出た以上、もう手を打たない訳にはいかなくなりましたね」

魔王「ああ、僕たちだけの問題では無くなってしまった」

竜爺「……ワシは天界絡みの事は協力せんぞ。連中の狡猾さはよく知っているからな」

側近「……」

竜爺「そんな目で見ても考えは改めん」

側近「頑固者め」

竜爺「ふん、何とでも言え」



473: 2015/01/02(金) 00:21:10.69
側近「魔王様、王妃様は?」

魔王「あの少年に付きっきりだ。仕方がない」

側近「何かあったのですか?あの少年に」

魔王「それについては……ああ、分からないことが多すぎて僕も何が何やら」

魔王「ともかくすまない、様子を見に行ってもいいかな?彼女とも話をしておきたい」

側近「仕事を終えてから……と言いたいですが、事が事ですので。分かりました、残りの政務は私が引き受けます」

魔王「ん、助かるよ」

側近「結構疲れているみたいだから……早く行ってあげて」

魔王「うん……」

魔王(ナツァルの事は彼女達には黙っておこう。まだ僕にも分からないことだらけだ)



474: 2015/01/02(金) 00:21:38.08
天使「……」

天使(この子は……本当に兄さんなのでしょうか。いいえ、もうそうとしか考えられない)

天使(一緒に育った私が顔を見間違えるハズが無い。フュリクも同じ魂だと言っていた、ならそれで間違いない)

天使(やっと会えたというのに……こんなこと……)

魔王「ナツィア、様子はどうだい?」

天使「フュリク……」



475: 2015/01/02(金) 00:46:28.93
天使「あれから目を覚ましません。余程目の前で辛い事が起きたのでしょう、そのショックかもしれません」

魔王「側近とも話をしたが、聖剣が原因とも考えられないのかい?」

天使「ありえますが……今は何とも」

魔王「聖剣もあれからどういう訳か、刃が消え柄だけになってしまった……」

天使「……聖剣が形態変化を起こして待機状態になったと考えていいでしょう。使い手が持てば再び姿を現すことになると思います」

魔王「……彼は、ナツァルだと思うかい?」

天使「思います、いくつか根拠もあります」

魔王「ん、それが聞きたかった。話してみて」



476: 2015/01/02(金) 00:47:40.24
天使「天使の魂は輪廻転生に入らず、氏した場合再び仕えるべき神の下に召集され、新たな生を受け復活を待ちます。本来ならその姿を変えて」

魔王「……言っちゃ悪いが、碌な制度じゃないね」

天使「コレは戦時中のみの話です。本来なら神とてこの世界の理に背く行為は許されません」

魔王(神とて……か。神もやはり僕らと同じルーツなのだろうか。だとしたら……慢心だな、連中も)

魔王「彼の魂は回収され、そして新たな身体となった訳だ……だが、君の話を聞くにおかしい話だ」

天使「はい、姿は兄の顔のまま、そして生まれ変わったのは天界では無くこの地上……」

魔王「彼が氏ぬ前に何かをしたという事は?」

天使「ありえます。最期の間際に魂の形を無理矢理変え、神の目を欺き輪廻転生に入る事も出来ます。さらに姿を保ったままにするにはかなりの無理が必要になりますが、恐らく兄程の力を持つものなら可能かと」

天使「兄は……兄も天界での戦いに疲れていたのでしょう。なにも知らない人間に生まれ変わりたいと思っていたのでしょうか」

魔王「彼はこの地上が好きだったからね。そうなのかもしれない」



477: 2015/01/02(金) 00:48:20.83
天使「……」

魔王「すまない、結果的にまた君を騙すことになってしまって」

天使「いえ、もういいんです。確かに兄が生きていた証を……そして、再び生まれ変わった兄に会えたのですから」

魔王「そうだ、この奇跡を大事にしたい。だからこそ、彼を守っていかなければ」

天使「はい……」

魔王「それと、村を襲った"影"と神兵の事だが」

天使「何か分かったのですか!?」



478: 2015/01/02(金) 00:48:58.96
魔王「憶測だが……影はこの子が呼び出したものの可能性がある。何か危険を察知して咄嗟に」

天使「……あの家の周辺にだけ、その"影"と呼ばれるものに殺されたと思われる遺体があったそうですね」

魔王「事故とみるしかないよ。この子は何も知らないんだから」

天使「それで、神兵は?」

魔王「2つ説がある。まずは偶然勇者を見つけた事、これは彼らにとっては真っ先に消さなければいけない対象のようだからだ」

天使「ありえません、彼らにはこの子が勇者だと分かる要素がありません。分かるのは聖剣を持つ私だけです」

魔王「そうか。ならもう一つ、影を見つけた事」

天使「影を……?何故?」



479: 2015/01/02(金) 00:50:21.33


魔王「彼らにとって影はかつて自分たちが始末したナツァルの残滓だ。存在していると分かれば彼らも放置は出来ないだろう」

魔王「僕らが影を操ることは知らないハズだ。セピアの両親も、協力関係にあったとはいえ自分たちの種族の特徴や力まではまず言わない」

魔王「同時に、誰かに影を見られるのも都合が悪い。どこで報告されるかわかったものじゃないからね。自分たちの立場を守る為に……」

天使「村の人達を……」

魔王「そう考えるのが自然だ」

天使「……絶対に許せない」

魔王「オーク君の言葉を繰り返すが、その怒りは次の機会にぶつけてくれ」



480: 2015/01/02(金) 00:50:47.46
魔王「本当に運が良かった。そしてとんでもない偶然が重なった」

天使「兄と勇者様が同時に見つかるとは思ってもみませんでした」

魔王「嬉しい誤算……とは言えないね」

天使「多くの犠牲を払う事になりましたから……喜ぶことは出来ません」

魔王「ああ……」

天使「……」



481: 2015/01/02(金) 00:51:19.36
「……ぅ」

魔王「ッ!気が付いたか!」

天使「大丈夫!?ボク?」

「……だれ?」

魔王「流石に覚えていないか……僕は、そうだね。君の味方だよ」

「……?」

魔王「ああ、不安がらなくていいんだ……何も……」

天使「よかった……目を覚ましてくれて……」

「おねえちゃん……くるしい……」

天使「お姉ちゃん……か。不思議な感じがします」



482: 2015/01/02(金) 00:52:08.54
魔王「ボク、君のお母さんやお父さんはワケがあって今ここには来れないんだ。しばらく僕らと一緒にいる事になるけど、我慢できるかな?」

「……?」

天使「ああ、ちょっと分からなかったですね。ボク、お姉さん達と少しだけ一緒にいようか?ちゃんとみんなの所に連れて行ってあげるから……」

「おかあ……さん?」

天使「……え?」

魔王「ッ!まさか……!」

魔王「すまない!君、自分の名前は言えるかい?」

「え……?あ……分からない……なんで……」

天使「ッ!?」

魔王「……何てことだ」

「なんで……なんで……」



483: 2015/01/02(金) 00:53:27.54
――――――
―――


魔王「……彼は?」

側近「王妃様と遊んでいます……と、言っていいのか。王妃様だけが奇行を繰り返していてそれを冷めた目で見ていますね」

魔王「うん、仕方がない。彼はどうも上手く感情を表に出すことが出来ないようだ。彼女の奇行は置いておくとして」

側近(あの子……私と同じだ)

魔王「ナツァルと勇者の捜索は打ち切り、その分各地へ人材を回し衛兵の練度を上げ、神兵について備えておいてくれ」

側近「簡単に言わないでください。だから軍を持てばそれもスムーズに行くというのに」

魔王「……考えておくよ」

側近「しかし、何故今になってご友人の捜索の中止を?まさかとは思いますが……」

魔王「そのまさか、だよ」

側近「……分かりました」




484: 2015/01/02(金) 00:54:21.02
魔王「それと、彼を養子にするという話だけど……」

側近「ダメです。王である貴方が養子を取る事は、後々に置いて非常に面倒な事となります」

魔王「ハァ……王位継承は僕の血族では行わない事、彼には僕の氏後王族としての遺産は分与しないという条件でもか?」

側近「問題が多すぎます。世継ぎは貴方達の実子のみ、遺産については全てそのまま子に引き継ぎです。でなければ国民や部下達は納得をしないでしょう」

魔王「……参ったな。そうだ、オーク君は……」

側近「ただでさえ激務なのに、彼もそんな余裕はありません。それに、そんな事を話したら無理をしてでも引き受けようとしますよ、あのヒトなら」

魔王「それじゃあ君は……」

側近「お断りします、私は子供が嫌いです。竜爺様も同じ答えでしょうね」

魔王「むぅ……」



485: 2015/01/02(金) 00:55:46.16
側近「例え勇者である事を加味しても……手元に置いておきたいというのは流石に無理があります」

側近「こんな場所にいても、遅かれ早かれ神兵に気が付かれる可能性もあります」

魔王「奴らがこの地を中心に動いているのは明白だ。確かに傍に置いておくのは危険だが……それでも!」

側近「あんな何も知らない、それも記憶喪失の子を巻き込むのですか?貴方のエゴに」

魔王「……僕の、僕と彼女の手で、彼を救わなきゃいけないんだ」

側近「戦いに巻き込まないことが一番なのではないのですか?あの子にとってはそれが」

魔王「……」



486: 2015/01/02(金) 00:56:14.21
……


天使「秘儀!!瓦20枚割りィッ!!」

「……」

天使「お、おかしい……どうしてこれで笑わない……!!ならば!!」

天使「究極奥義!背中に生えた翼をそのまま折り畳み両手を捻じるように前へ突き出した後身体を3段階屈折させ……」

魔王「……何をしているんだい君は」

天使「キャーーー!!魔王様に変なところ見られたーーー!!」



487: 2015/01/02(金) 00:56:48.13
魔王「それはともかく、えっと……」

「……アキ」

魔王「ん?」

「このお姉さんがそう呼んでる」

魔王「どういう事?」

天使「名前が分かるものが一切無かったので……ですから、あの家に残されていた唯一の名前をこの子に」

天使「母親の……アキさんの名前を」

魔王「そうか……それじゃあアキ、その名前を大切にするんだよ。これからもずっと……」

「……」



488: 2015/01/02(金) 00:57:19.09
天使「それで魔王様、どうなさったのですか?」

魔王「いや、この子はもうここには置いておけなくなったからね」

天使「……」

魔王「仕方がない事なんだ。これ以上この子を僕らの行動に巻き込むことはない。それに皆にも反対された」

天使「そう……ですね。もうこの子は戦う必要なんて……ないのですから」

「……どうして?」

天使「え?」

「どうして……泣いているの?」

天使「ッ!……ううん、何でもないよ。何でもないんだよ……」

魔王(ナツァル……すまない。僕は君に何もしてやれなくて……)



489: 2015/01/02(金) 00:58:58.22
側近「……」

竜爺「お主も部屋の中に入ればいいじゃろう。こんな扉の前で盗み聞きとは、関心せんぞ」

側近「私は子供と話すと大抵泣かれてしまうのでいいです。それに、私はあの子と特別接点がある訳ではないので」

竜爺「その割には随分と気になっているようじゃが?」

側近「腑に落ちない点がいくつかありまして」

竜爺「お主が受けた予言のと勇者の事、食い違いが出ているという事だろう?」

側近「はい、彼が勇者と言うのならば予言の者に合致しないので。彼が聖と魔、生まれ変わり、光と闇というにはこじ付けすぎます」

竜爺(……あの二人は何も言わんが、生まれ変わりという点については合致しておるがな。ワシの記憶違いでなければ)

竜爺「ふむ、そうだな。だが仮にも神が見定めた者、偽りという事も無かろう。しかし、お主は予言など信じておらんのではなかったのか?」

側近「今の彼らを見ていたら……そんなものにでも救いを求めようとする気持ちが分かるからです。アテが外れればそれでいいですけれど」

竜爺「随分と成長したものだ」



490: 2015/01/02(金) 00:59:46.09
魔王「ん、側近、竜爺、来ていたのか」

竜爺「む、バレたか。なにこっそりそこの子を泣かせてやろうと画策していたのだがな」

天使「子供相手に何しようとしていたんですか!?」

魔王「やれやれ、竜爺も困ったお方だ」


側近「……」

「……」

側近「私に何か?」

「……」

側近「……」

側近(この眼……まるで虚無を見ているよう。人間の物とは思えない、歪んでいる)



491: 2015/01/02(金) 01:01:00.40
魔王「それより、彼を引き取ってくれそうな所、どうしようか」

竜爺「国内は避けた方がいい。出来るなら隣国のジストがいいだろう、あそこは天使の連中もそうそう踏み込めん」

天使「確かに大国ならば多少は安全だと思いますが、何故あそこを?」

竜爺「ふむ、天使によってもたらされた力を使いあの国は発展した。ある程度の信用も出来ている故に、奴らも手出し自体は出来まい」

側近「王族に預ける……のも危険を伴いますね。出来る限り一般に、それもある程度経済的に余裕のある家庭と見つけにくい所に」

魔王「んー……あ、一つあるよ」

側近「では馬車を出しましょう。なるべく穏便に事を進める為に極秘で、アキさん……でよろしいでしょうか、行きますよ」

「……」

側近「……」

魔王「アキ、行こうか」

「……はい」

側近「……これだから子供は嫌いだ」



492: 2015/01/02(金) 01:02:11.46
――――――
―――



ドワーフ「 氏 ね 」

魔王「 生 き る 」

ドワーフ「ともかく断る!!テメェウチを何だと思ってんだ!?託児所じゃあねぇんだぞ!!」

魔王「無理を承知で言っているのは理解している、だが貴方以外に適任がいないんだ!」

ドワーフ「探せばもっといるだろうが!事情も説明できないようなガキを俺に預けるなんざテメェ頭どうかしちまったか!?」

魔王「養育費はこちらで負担する!だから……この通りです!」

ドワーフ「今回ばかりは頭下げられても聞けねぇ。人ひとり養うってのはそう簡単な事じゃあねぇんだ、まだガキ一人作ってないお前にゃ分からんだろうがな」

魔王「……」

ドワーフ「頭上げろ、んで帰れ。何言われても俺は変わらんぞ。ただでさえ大目に見て武具の取引してやってんだ、これ以上俺に負担を掛けさせんじゃねぇ」



493: 2015/01/02(金) 01:04:05.49
魔王「信用できる人は貴方しかいないんだ……だから!」

ドワーフ「そこまで言ってくれるのは嬉しいが、俺はそんな聖人でも無い。自分がいかに無茶を言っているか考えてみろ」

魔王「考えた結果がこれなんだ!だから……ん?アキ?」

「……」

ドワーフ「あ?オイ坊主、何してやがる!そっちに寄るな!怪我するぞ!!」

「……」

ドワーフ「聞いてんのかオイ!!」

「……剣……」

魔王「アキ、触っちゃダメだよ。オジサンも危ないって言ってるんだ」

ドワーフ「……お前、コイツに興味あるのか?この剣に」

魔王「貴方は……」

ドワーフ「お前は黙ってろ、この子と話をしているんだ俺は」



494: 2015/01/02(金) 01:04:48.92
ドワーフ「どうなんだ?もっと他に強そうなのが沢山飾ってるが、その剣が気に入ったのか?」

「うん」

ドワーフ「……そいつはただの何もない短剣だ。だが、他人の命を簡単に奪う事が出来る」

ドワーフ「その剣を手に取ったお前は、何を頃す?自分を襲う魔物か?それとも剣を持った同じ人間か?」

魔王(試しているのか……?だがこんな幼い子供にするような質問じゃないぞ)

ドワーフ「答えろ坊主、その剣でお前は何を……」

「ころさない」

魔王「?」

ドワーフ「……何故だ?」



495: 2015/01/02(金) 01:06:45.92
「この剣はほかのとはちがって……あったかい」

「だから、何もころせない」

魔王「アキ、君は……」

ドワーフ「……ふん、じゃあその剣は本来の用途で使われることなく埃でも被って棚の奥に仕舞い込むってか?冗談じゃねぇ、それじゃあ作られた意味がねぇ」

「……」

「……まもる」

ドワーフ「あん?」

「だれかをまもるために……べつのをころす」

「だから、この剣は……意味がある」

ドワーフ「……驚いた。魔王、お前このガキに何を吹き込みやがった」

魔王「僕は何も言っていないよ……だが、彼の潜在意識の中にそういったものがあったんだろう」

ドワーフ「とても4、5歳の子供が感じていい感性じゃねぇぞ。矛盾したその回答はヒトとして狂ってやがる」

魔王「記憶が無いとはいえ、この子が目の当たりにした残酷な風景が何かを見せたんだろう」



496: 2015/01/02(金) 01:07:24.06
魔王「それで、ドワーフさん」

ドワーフ「快くとは言わんが、しばらくウチで預かってやってもいい。興味が湧いた」

魔王「……お願いします」

ドワーフ「共同生活が無理だと判断したらすぐに送り返す、いいな?」

魔王「はい、貴方が途中で投げ出すようなヒトではないという事はよく分かっていますので」

ドワーフ「ケッ、今そんな話はしてねぇっての」

魔王「出来る事なら、この子に関する事は内密にお願いします」

ドワーフ「訳ありなのは理解した、だが俺が預かる以上は何も文句は言わせんぞ」

魔王「分かっています」



497: 2015/01/02(金) 01:08:02.46
「……魔王……様」

魔王「大丈夫、僕はずっと君の味方だ。何があったって、君がどんな道を進もうとしても、僕はずっと……君の傍に居るよ」

「……はい」

ドワーフ「坊主、名前はなんていうんだ?」

「……アキ。天使のお姉さんが付けてくれた、お母さんの名前って」

ドワーフ「よしアキ、その短剣お前にくれてやる。俺がずっと昔、一番初めに造った剣だ。お前は見る目がある、そいつは戦いには向いていない」

ドワーフ「そして……今日からここがお前の家だ。俺のいう事をよく聞くんだぞ」

「はい……」

ドワーフ「よし、いい子だ」

魔王(……ああ、貴方に預けて正解だったかもしれない)



498: 2015/01/02(金) 01:08:34.94
……


側近「もうよろしいのですか?」

魔王「ああ、今生の別れという訳でもない。惜しむ気持ちもあるが、今の僕らにはあの子を引き受ける事は出来ない」

側近「うん、私もそれでいいと思う」

魔王「聖剣は何かあった時の事を考えてこちらで保有する。ナツィアも今武器を失うのは辛いと思うし」

側近「急いで剣から刃が無くなった原因を調べます。聖骸布が取れた事で私達魔族でも問題なく触れられるようになったので」

魔王「……さて、本格的に動き出そうか。これ以上神兵を野放しにしておくわけにはいかなくなった」

魔王「僕の国に攻め入った報い……受けてもらうよ」



499: 2015/01/02(金) 01:09:21.96
――――――
―――


オーク「報告は以上だ。中々上手くはいかないな、連中さん見つかりやしない」

魔王「仕方がない話だ。神兵の為だけに人員を割く訳にはいかない。国としての歴史が浅い以上、まだ発展に注力するのは当然のことだ」

オーク「だが、恐ろしい事にここら周辺で見たって報告も上がってやがる。警戒レベルは上げた方がいいんじゃねぇか?」

魔王「そうだね。しかし、彼らも立場上の顔がある。迂闊に国の長となった僕らに直接手を出すことは出来ないだろう……前の事は別の要因があったとはいえ、ね」

魔王「さて、どうするべきか……」

側近「魔王様、貴方はあの少年と出会ってから少し抑え気味になっているように思えますが」

魔王「抑え気味?何に対してだい?」

側近「まさか、当初の目的を忘れたなんて言い出さないですよね?」

魔王「……忘れている訳ではないよ。無理して僕の代でする必要が無くなっただけで」



500: 2015/01/02(金) 01:10:22.73
側近「まだあの子供に拘るか……彼が貴方の意志を継ぐとでも?」

魔王「そう、今の僕達とは違う道で彼は統一を目指してほしいと思っている。なんたって、世界を救う未来の勇者なんだから」

側近「納得が出来ないですね。私は貴方が成し遂げるのを見る為についてきていたのに」

魔王「100年200年程度で出来たら苦労はしないよ。現に、数千年前に行動を起こそうと思ってようやくここまで形に出来た事なんだ。僕が考えていたよりもずっと難しかった」

側近「護衛隊長はそれで納得できますか?」

オーク「ん?俺に振るなよ……まぁ出来れば魔王様にやってほしかったが、出来ないってんなら仕方ないだろう。俺は今でも十分充実しているからな」

魔王「後継の事については既に考えてあるし、もう数百年は安泰って言いたいけど。本人が首を縦に振ってくれるかどうかだが……」

側近「……?」

オーク(こっちもこっちで気付いてないか。魔王、側近を後継にすることをギリギリまで黙っておくと後で雷が落ちるぞ)



501: 2015/01/02(金) 01:13:54.22
側近「しかし後継か……ふむ、このままでは埒があきませんね。手っ取り早く子孫を10人くらい作っちゃいましょう」

魔王「話飛んだよ!?何でいきなりそんなことを言い出した!?言え!?」

側近「いついかなる時も血を絶やさぬために王は女性を囲い込むそうです。そしてその子供たちと母による王位争奪の血みどろの戦い……ッ!」

魔王「君、前に自分が言った事覚えてる?」

側近「外部から何の血の繋がりの無い人間を入れるよりもずっとマシだと思いますが。ま、子供の事なんて御免こうむりたい話ですが」

オーク「お前毎回どこからそんな変な知識仕入れてくるんだよ……」

側近「竜爺様が毎週読んでいる"週刊 王とは何か"を私も購読させていただいています。他にも妾の落とし方や追い出し方なんかも……」

魔王「オーク君、発行元を調べて今すぐ販売を停止させてほしい。それと、竜爺をここに」

オーク「あいよ」

側近「何を言っているのですか、あんな私の為に用意されたような素晴らしい書物を止めさせようなどと……」



502: 2015/01/02(金) 01:14:50.58
竜爺「呼ばれた気がした!!」

魔王「竜爺?ドアを破壊して部屋に入ってくるのはやめてくれないかな?」

竜爺「最近バリアフリーというものが流行っておるらしいぞ」

魔王「うん、地下に監禁して介護生活でも送らせてやろうか?」

竜爺「そっきーん!魔王がいじめるー!」

側近「おーよしよし、可哀想な竜爺様」

オーク「竜爺、アンタギャップ萌えっての狙ってんのか?」

竜爺「バレたか」

オーク「やかましい」



503: 2015/01/02(金) 01:15:26.60
竜爺「しかしな魔王、子供はいいぞ。荒んだ心を癒してくれる。それも我が子となれば別格だ」

魔王「ん、竜爺って子供居たんだ」

竜爺「ああ、6人ほどな。ほとんど妻に任せきりだったからワシに懐いていた訳では無かったが……」

側近「結婚していた事の方が驚きです」

竜爺「こんな輩でも嫁が貰えたんだ。人生何が起こるか分からんな……いや、竜生か?」

魔王「そのお子さんたちは今どこで何を?貴方の子供だ、さぞ立派になられたんだろう」

竜爺「ふん、皆氏におったわ。戦で氏に、病で氏に、人間である妻の血が濃い故老いて氏に……」

オーク「……身内を失うのは辛かっただろう。それも自分の子だ」

竜爺「……あの頃のワシはどうかしておったよ。他人の氏に無頓着だった、例えそれが我が子であろうと」



504: 2015/01/02(金) 01:16:15.84
竜爺「今にして思う、もっとどうにかしてやれなかったのかと。奴らに何をしてやれたのだろうかとな」

側近「竜爺様の人生は後悔だらけですね。そんなような話ばかりですが」

竜爺「ああ、だからワシを反面教師にしろ。ワシの失敗談を全てお主らに話してやる、お主らが同じような道を進まんようにな」

魔王「参考にさせてもらうよ。自分の子供は大切にしろって事でしょ?」

竜爺「血が繋がらずとも、子は国の宝だ。これからの未来を担っていく者達だ。それを引っ張って行ってやるのが我々大人の仕事だ」

オーク「ああ、分かるぞその考え。町中でガキを見る度に俺も考えるんだ、コイツらに何をしてやれるのか、何を残してやれるのかってな」

側近「あれだけ数が多いとプチプチ潰してやりたくなりますね、フフフ……」

魔王「き、君、子供と何かあったのかい……?」

側近「いえ、大したことではありません。私が近づくだけで泣き喚き叫びそして腰を抜かし動けなくなる者、その場から脱兎の如く消える者……フフフフフフフフフ」

オーク「子供ほど感受性が高く素直だって言うしな……うん、まぁ納得だ。お前は子供には精神的に刺激が強すぎる」



505: 2015/01/02(金) 01:17:23.40
「魔王様、失礼い致します」

魔王「ん?おっと、君は王妃の侍女だね。せめてノックくらいはしてほしかったけど」

「あ、いえ……ドアが無くなっていたもので」

オーク「オイジジイ」

竜爺「わしゃ何にもしらーん」

魔王「それで、どうかしたのかい?」

「王妃様がお呼びです。直接お話ししたいことがあると」

魔王「彼女が?なんだろう」

側近「あちらから来ればいいものを。やれやれ、嫁いでから人の使い方を覚えたからといって」

魔王「こら、口が過ぎるよ。わかった、行くよ」

「では、失礼します」



506: 2015/01/02(金) 01:17:58.20
オーク「何かいいことでもあったんじゃないか?」

魔王「どうしてそう思う?」

竜爺「ヒトの顔くらいよく見ておけ。あの侍女、表情が綻んでおったぞ。きっと王妃にとっていいことがあったのだろう」

魔王「そか、んじゃあしばらく席を外すよ」

オーク「おーうイッテラ。こっちは適当に切り上げておくぞ」

側近「では私も仕事に戻ります。魔王様、なるべく早く戻るようにしてください」

魔王「了解了解」



507: 2015/01/02(金) 01:18:32.59
魔王(彼女が僕を呼び出すって一体なんだろうな……話なら別に後からでも出来るのに。急ぎなのかな?)

魔王(にしても、確か彼女は今日医者にかかると言っていたが、まさかどこか体調を崩したか?いや、朝は元気だったし……)

魔王(それなら僕の顔をすぐに見たい……てのも納得できるか。でもなぁ、それじゃあ……)

天使「魔王様!」

魔王「!ナツィア、今君の部屋に向かおうと思っていたところだけど……」

「王妃様!そんな走られてはいけません!!」

天使「あ、エヘヘ……ごめんなさい。やっぱりいても立ってもいられなかったから」

魔王「やっぱりどこか具合でも悪くなったのかい?ワザワザ僕を呼ぶなんて」

天使「ンーッフッフフ!それがですねー……」



508: 2015/01/02(金) 01:19:11.02
天使「出来ちゃいました!!」

魔王「え?何がだい?まさか悪性の腫瘍が……ッ!?」

天使「魔王様も中々に天然ですよね」

魔王「えっと、ちょっと整理させてほしい!まず君に何があったんだい?」

天使「赤ちゃんが出来ました!」

魔王「……それは……僕の子で間違いないよね?」

天使「当然です!」



509: 2015/01/02(金) 01:19:41.06
魔王「ああ……こ、こんな時ってどんな反応をしていいのやら」

「素直にお喜びになられるのがよろしいかと」

魔王「そうだ、そうだよ。僕に子供が出来たんだ、喜ばなきゃおかしいよね、えっと……」

天使「魔王様、ここで笑顔になってくれないと私も困りますよ?」

魔王「突然の事でね、アハハ……そうか、アハハ!アハハハハハハハハ!!」

魔王「そうか、僕と君は人の親になるのか、そうか、そうだよ!!ナツィア!!おめでとう!!ありがとう!!」

天使「はい!フュリク!」

「もう、お二人とも私の目の前で名前を言っちゃって……」

魔王「ぃやったあああああああああああああ!!」



510: 2015/01/02(金) 01:20:19.48
オーク「噂をすれば影って言うが……まさかこのタイミングとはな」

側近「仕込んだのはパーティ前くらいでしょうか。まったく、お盛んな事で」

オーク「お前もっと他にいう事は無いのかよ……」

側近「言う事があればこんな物陰に隠れず堂々と彼らに告げます」

竜爺「何にせよ、おめでたい事だ。後で魔王もワシらに報告するじゃろう。その時にまた一緒に喜んでやればよい」

側近「世継ぎが出来たことは喜ばしい事ですね。ともかく、男の子であれば尚良しです」

オーク「お前もうちょっとこう……な?」

側近「どうせ私には懐きはしないんです。いっそスパルタに教育でも促してどうやって苛め抜いてやろうか考えているところです」

オーク「oh...」



魔王「本当に、本当にありがとう!」

天使「フュリク、苦しいですよー」



511: 2015/01/02(金) 01:20:52.34
……ああ、やっと君が産まれるんだね

僕の大切な子

僕の一番大切な子

僕は君に、何をしてやれるだろうか

僕は君達に、何を残してやれるだろうか……



512: 2015/01/02(金) 01:21:19.44
――――――
―――



オーク「……」

天使「あら?オークさんこんなところで何をしているのですか?」

オーク「王妃様か……いや、普通に墓参りだな。まぁここは墓所だから当然だが」

天使「お知り合いの方が無くなられたのですか?」

オーク「まぁそうっちゃそうなんだが……神兵の奴らに殺された連中だ」

天使「……」



513: 2015/01/02(金) 01:22:08.92
オーク「こっちは始めの襲撃の時の奴ら。付き合いこそ短かったが志を同じにした奴らだ、この地上じゃ身内もいないから、こうして誰かが墓の面倒見てやらなきゃいけないだろ」

オーク「で、あっちは前の襲撃で犠牲になったウチの城から派遣されてた自警団の奴ら。こっちは仲が良かったな」

天使「……引き金を引いたのは、私なのですね」

オーク「そういう星の下に生まれてきたんだ、受け入れろ……って言われてもまぁ無理な話だが。俺も前線に出ている以上はいつこうなるかは分からねぇ、覚悟くらいは決めておかなきゃな」

オーク「ま、アンタが気に病むことじゃない。コイツらは自分で選んだ道を進んだだけだ、逃げ出す事も出来た。だがそうしなかった、勇ましい英雄たちだ」

天使「はい……」

オーク「それで?王妃様はこんな場所に何の用かな?」



514: 2015/01/02(金) 01:22:50.52
天使「兄さんの墓参りを」

オーク「……封印は見つかっていないが、もう氏んだって事でいいのか?」

天使「……もう望みも無いかと。ですからこうして、形だけでもと思ったのです」

天使「例え魂がここに無いとしても……私の心はそれで救われますから」

オーク「妻になって母になって……アンタも強くなったな」

天使「まだまだですよ」



515: 2015/01/02(金) 01:23:35.31
天使「よっこいせっと、それじゃあ今度はこっちの方のお墓に……結構離れてるから不便ですよねー」

オーク「ん?そっから先は無名の墓だが……」

天使「あ、いえ、こっちも形だけなんですけどせめて報われるようにーと思いまして」

オーク「誰の墓だ?」

天使「はい!魔王城に始めに在ったワケの分からない量の骸のお墓です!!」

オーク「よ く 覚 え て た な そ ん な の」

天使「定期的にこうやってお掃除しに来てるんですよー?」

オーク「ああもうそんなの俺がやっとくから!アンタ身重なんだから!」

天使「アハハ……ありがとうございます」



516: 2015/01/02(金) 01:24:15.87
オーク「ここも管理人でも設けるかな。もう俺の手だけじゃ回らなくなってきやがった」

天使「そうですね。求人でも出して見ましょうか、お墓に理解のある方って触れ込みで」

オーク「なんか妙だがまぁそれでいいか……さて、帰りましょう。今の時期の風は冷たい、体に障るぞ」

天使「え!?触るんですか!?いやん」

オーク「……」

天使「はい、ごめんなさい。それじゃあ帰りましょうか」

オーク「はいよ、適当に足を調達するから待っててくれ。妊婦なんだからここに来るまでも結構苦労したろうに」

天使「飛べるのなら楽なんですけどねー。もしもの事を考えて飛行は禁止されてますので」



517: 2015/01/02(金) 01:24:55.87
天使「……」

天使(兄さん、私に子供が出来ました。貴方と共に同じ夢を見たフュリクの子です)

天使(私は今、とても幸せです。夫がいて、気のいいお兄さんみたいな人がいて、お爺ちゃんがいて……気難しい友人がいて)

天使(……せめて、この子を産んでから、私は使命を全うしようと思います)

天使(この命を、勇者様の為に燃やします……貴方がフュリクを守ったように)

天使「……私は……」



518: 2015/01/02(金) 01:25:41.36
……


魔王「んー、いや違うな。これでも無い、いやしかしこれでも無い」

側近「さっきから書類をほっぽり出して何をしているのですか」

魔王「うん……うん!うん!よし!ナツィアに相談しよう!」

側近「どうせお世継ぎの名前を考えていたのでしょうが、そろそろ貴方の口癖も鬱陶しく感じるようになってきましたね」

魔王「口癖?」

側近「喋りだしの初めに"うん"または"ん"を付ける。文面で書きだすと非常に喧しいです」

魔王「うん、そう言われればそうだね」

側近「ほら」

魔王「あー……まぁそれはともかくだ」



519: 2015/01/02(金) 01:26:30.35
魔王「何かいい案は無いかな?僕だと凄い名前になってしまいそうだよ」

側近「私によく分からないセピアメイズと名前を付けるくらいですからね。例えば候補としては?」

魔王「ハァンヒーター。温かそうな名前だろ?そう、まるで春を連想させるような……」

側近「逆に冬ですよそれ。そんな微妙に誤字ってる名前を付けられた子が不憫でなりません」

魔王「む!じゃあ君だったらなんて付けるんだ?」

側近「決めるのは貴方達でしょうに……まぁいいでしょう、私のセンスに恐れ戦くがいい」



520: 2015/01/02(金) 01:27:48.61
命名
【シャドウアイズ・フォールエンジェリック・ドリーマー・ザ・ミルフィーユ】

側近「まぁお二人の事と貴方達が持つ夢を考えてこういった素晴らしいものになりますね」

魔王「これは恐れ戦く」

側近「決まりですね。これ以上の名前は恐らく出てくることは無いでしょう」

魔王「ちょっと待てよミルフィーユはどこから出てきた」

側近「何ですか、嫉妬ですか見苦しいですね。もっと私のように美的感覚を磨いてから物を言ってください」

魔王「え?マジで言ってるの?」



521: 2015/01/02(金) 01:28:22.54
側近「……それはそれで冗談として」

魔王「良かったよ、君にまだ良心というものが残っていて」

側近「チッ、仕事を先に終わらせてください。考えるのはその後でもいいでしょう」

魔王「今の舌打ちが何を意味しているのかは分からないけれど。そうだね、そうするよ」

天使「魔王様、ただいま戻りました」

魔王「ん、ナツィアお帰り。早かったね」

オーク「俺と鉢合わせになったからな、ついでに馬車を走らせてきたって訳よ」



522: 2015/01/02(金) 01:29:06.10
魔王「こんな季節なんだ、あまり外出はしてほしくは無かったな。もうすぐなんだし、何かあったらと思うと心配でならない」

天使「魔王様!妊婦と言えどまったく動かないというのは体に悪いんですよ?定期的に運動して、栄養も取らないと赤ちゃんが育たないんですから!」

魔王「そ、そうなのかい?」

側近「私に聞くな」

オーク「そういうもんなのよ。だがまぁ誰も付けずに動くのは勘弁な、本当に何かあった時に困るからよ。さっき怒られてたろ」

天使「エヘヘ、申し訳ない」



523: 2015/01/02(金) 01:29:53.03
側近「じゃあ魔王様はそのまま書類のサインをお願いします。いつまでも遊んでいないでとっとと仕事をしてください」

魔王「わ、分かったよ……」

側近「オーク護衛隊長も持ち場に戻ってください、魔王様の傍にいたら話し相手になってしまいますので」

オーク「だな、それじゃあ俺はこれで」

側近「王妃様は私がお部屋にお連れします。侍女の方は王妃様の部屋の掃除をしていると思いますので」

魔王「君だって仕事せずに遊んでるじゃないかー!!」

側近「私の仕事は貴方の仕事が進まなければ出来ません。わかったらとっとと手を動かせウスラトンカチ」

魔王「厳しいんだな君は……」

天使「魔王様、頑張ってください!」

魔王「その言葉が僕の唯一の癒しだよ……さ!生まれてくる子の為にも頑張らなきゃな!」

側近「この分厚い書類にも追加でサインをお願いします」

魔王「」



524: 2015/01/02(金) 01:30:22.33
天使「……」

側近「……」

天使「あの、側近さん。部屋に戻るくらいなら大丈夫ですよ?魔王様の傍についていて上げてください」

側近「私も私で、魔王様といるとつい喋り出してしまうので。あの人は一人で作業していた方が捗りますから抗した方がいいんです」

天使「そんなものですかね?」

側近「そんなものです」



525: 2015/01/02(金) 01:30:57.17
側近「最近張り切り過ぎのようで、嬉しい気持ちも分かりますが、どうも自分の事を顧みていません」

天使「前までは私がよくお菓子や軽食を差し入れていたので、それが原因かもしれませんね。ほら、食事は元気の源ですから!」

側近「また私の知らないところで勝手な事を……まぁいいですけど」

天使「妊娠してからは調理場にも立たせてくれなくなっちゃいましたからね。また作ってあげたいですけど、中々機会も無くて」

側近「大人しくしていてくれた方がこちらも余計な心配はしなくて済みますが……」

天使「あ!じゃあ側近さんがお料理作っちゃいますか?」

側近「私がですか?」



526: 2015/01/02(金) 01:31:26.53
側近「私は料理など作った事はありませんよ。どうせ碌なものが出来上がりません」

天使「要領がいいから側近さんならすぐにでも作れると思ったのですが……そうだ!なら今度一緒に作りましょうよ!」

側近「お断りします。そういう何だか分からない手料理だの真心だのと鳥肌が立って仕方ありません」

天使「そ、そこまで言いますか……ですが!そうですね、例えば大切な人を想って作れば作るほど相手に気持ちが伝わるものです!レッツチャレンジ!」

側近「 嫌 味 か ? 勝 者 の 驕 り か ? 」

天使「た、たとえ話ですよたとえ話……」



527: 2015/01/02(金) 01:32:07.27
側近「……予定日はいつ頃でしたっけ」

天使「来週にはもう。そっか……もうすぐ会えるんだね」

側近「名前は決めましたか?それで魔王様が四苦八苦しておられたので」

天使「男の子ならばこの国と同じ名前、ナツァリアを。女の子なら……私の慕う女性の名を。これは魔王様に話を通した方がいいですが」

側近「出来れば男の子が生まれてほしい所ですね」

天使「あ、はい。やっぱり世継ぎとか……ですよね?」

側近「円滑に進める為だったら、始めは男子、以降は女の子が一番なのですが」

天使「アハハ……事務的ですね」

側近「子供は魔物です。魔族以上に手強いです。奴らは群れでやってくる……ッ!!」

天使「子供に泣かれた事がよっぽどトラウマだったんですね……」



528: 2015/01/02(金) 01:33:22.74
天使「……でも、皆さんには悪いですが、私はこの子が魔王様の跡を継がなくてもいいと思っています」

側近「一部の者が暴動を起こす可能性がありますよ、私とか」

天使「筆頭!?」

天使「ともかく……この子が元気に育ってくれればそれでいいと思っています」

側近「……母親というものはよく分かりませんね」

天使「貴女もいつか分かりますよ。こうして愛する者が出来れば」

側近「隣人愛、家族愛……竜爺様にもそういえば言われましたね、そんな事」

側近「私は……今はまだ分かりませんが、そういう人が現れてくれたら、貴方達のようになれるのでしょうか」

天使「セピアさん……」



側近「夜な夜な貴方達のように愛を囁き合いベッドの上でプロレスごっこをする愚かしき愚民に」

天使「キャーー!!キャーー!!」

側近「初心ですね。いつまで経っても」



529: 2015/01/02(金) 01:33:56.35
側近「それでは私はこれで、出産も近いとのことなのでもう部屋で安静にしていてください」

天使「はい、それじゃあ」

側近「……」

天使「?どうかしましたか?」

側近「いえ、お腹……」

天使「……フフ、触ってみますか?」

側近「……はい」



530: 2015/01/02(金) 01:34:28.20
……

魔王「側近ー、側近ー?どこー?」

天使「あ、フュリク」

魔王「あれ、部屋の扉開けっ放しじゃないかどうしたんだい?」

天使「側近さんをお探しですか?」

魔王「うん、土地の貸し出しでその期間と徴収金に不鮮明なところがあったから聞こうと思っていたんだけど……」

天使「しーっ、静かに」

魔王「おっと……」



531: 2015/01/02(金) 01:35:43.79
側近「……んぅ」

魔王「まぁ珍しい、こんな時間に眠るなんて」

天使「私のお腹に耳を近づけたらそのままストンと。フフ、子供みたい」

魔王「僕らの年齢から考えたら彼女はまだ子供だよ。普段からこうして子供っぽい所でも見せてくれたら可愛げがあるんだけどね」

魔王「……ねぇナツィア、僕も産まれてくる子の名前を考えたんだけど……どうも上手く決まらなんだ、だからさ」

天使「私が決めていいんですね?」

魔王「うん、そうして欲しい。僕じゃセピアが考えたのと同じような名前が飛び出てきそうだ」

天使「側近さんも考えてくれていたんですね。フフ、どんな名前でしたか?」

魔王「聞かない方がいいよ、絶句しちゃうから」

天使「ならそうします。もうすぐだからね……あなたを産んであげられる……」

魔王「楽しみにしているよ……君に会えるのを」

側近「ん……私……も……」

魔王「あら」

天使「フフ……」



532: 2015/01/02(金) 01:36:25.95

―――
――――――


「勇者とは名ばかりだったな……俺達を裏切ったのはお前か!!」

「……何とでも言え。元を辿れば貴様らが存在していることが悪なんだよ。この地上に貴様らの居場所は無い!!」

「認めない……俺は認めない!!お前のような者を!!」

「ふん……天使達よ、これでよかったのだろう?」

「よくやったと言っておこう、地上の勇者よ」

「後は我々が……」

「やはり手を引いていたか……お前たち!」



533: 2015/01/02(金) 01:37:15.80
「頃す事は適わん……が、苦しめる事も出来よう」

「ただで封印されると思うなよ?ナツァルよ」

「覚えていろ……いつか必ず俺はこの地に戻る。あの日交わした約束を守る為に……妹を守る為に!!」

「そして……お前たち愚かな者共に裁きを!!然るべき処遇を!!苦しみを!!絶望を!!俺の味わった何倍もの!!何倍もの!!」

「……」

「その顔……決して忘れんぞ……決して!!」



「ジストォオオオオオオオオオオオ!!」



534: 2015/01/02(金) 01:38:03.06
――――――
―――


竜爺「……ッ」

魔王「……」

オーク「……」


側近「男性陣、ソワソワし過ぎです。特に魔王様」

魔王「だ、だって……」

側近「当人以外は何もできないのが出産というものの辛い所です」

魔王「さっきからナツィアのうめき声が……ああ!!代われるものなら代わってやりたい!!」



535: 2015/01/02(金) 01:38:35.12
オーク「しかし、俺達まで立ち会ってよかったのか?流石に部外者だぞ」

魔王「今まで付き合いの一番長い君たちだからこそ、一緒に立ち会ってほしかったんだよ」

竜爺「……」

側近「二人とも、竜爺様を見習ってください。微動だにしないあの構えを」

魔王「……オチは読めてるんだけどさ」

オーク「……寝てるよな、アレ」

側近「喚くよりマシです」



536: 2015/01/02(金) 01:39:15.99
「魔王様!」

魔王「ッ!君は侍女の……彼女は!?」

「お生まれになりました……元気な女の子です!!」

魔王「よかった……!!すぐに会えるかい!?」

「しばらくお待ちください。今医者が準備をしておりますので」

オーク「女の子か……こりゃ二人に似て可愛い子になるな」

竜爺「うむ!将来安泰じゃな!!」

オーク「突然起きるのやめろよ……」



537: 2015/01/02(金) 01:39:46.00
側近「……」

魔王「君は見に行かないのかい?そんな一人離れて……」

側近「私は後から遠くで見させてもらいます。私が近づいたら泣かれますので」

魔王「まぁ無理強いはしないけど……」

「準備が出来ていますよ皆さん!」

竜爺「よし!早く行くぞ魔王!」

オーク「奥さんが待ち惚けているぞ!」

魔王「うん、分かっているよ」



538: 2015/01/02(金) 01:40:57.53
天使「フュリク……」

魔王「よく頑張ったね、ナツィア」

天使「はい!男の子では無かったですが……それでも貴方の」

魔王「うん、僕の子だ。間違いなく、僕と君の血を継いだ子だ」

オーク「おーおー、可愛いなぁお前さんは」

竜爺「玉の様にめんこい子だ、おめでとう、王妃よ」

天使「ありがとうございます」



539: 2015/01/02(金) 01:41:38.78
オーク「名前はもう決めてんのか?」

魔王「ああ、彼女に任せていたから僕はノータッチだけど……それで、聞いていなかったね。女の子の場合は……」

天使「ハルモニア……私が仕える女神様の名をお借りしたいと思います」

魔王「ハルモニア……うん!ハル!今日から君はハルモニアだ!」

魔王「ありがとう……僕達の下に来てくれて……」

オーク「大人が泣いてるんじゃねぇよ。ったく……」

天使「オークさんも目から何かが出ているようですけど?」

オーク「うるせぇ!これは汗だ!目から噴き出る不思議な液体だ!!」

竜爺「漢泣きもする人物によっては滑稽じゃのう」

オーク「なにおう!?」


側近「……おめでとうございます、王妃」



540: 2015/01/02(金) 01:42:12.47
天使「セピアさんももっとこっちへ来たらどうですか?」

側近「子供は壊れやすいので、私は迂闊に近づけません」

魔王「割れ物注意!?」

天使「子供はすぐ泣くものですよ。貴女が原因でなくとも、泣くときは泣きます。抱き上げてみてはどうですか?」

側近「ですが……」

天使「私が見ていますから、ね?さきっちょだけ!先っちょだけ!」

側近「何ですかそれは。嫌ですよ、大体私は子供が……」

天使「あッ!手が!」

魔王「!?」

オーク「だああ!?」

竜爺「!」

側近「ッ!危ない!!」



541: 2015/01/02(金) 01:44:38.10
天使「なーんちゃって。やっとその子を抱えてくれましたね」

側近「……図りましたね。危ない事を……」

天使「こうでもしなきゃ機会なんて作れないと思いまして、エヘヘ」

側近「エヘヘじゃない。まったく……」


魔王「し、心臓止まるかと思った……」

オーク「俺もだぞ……ん?竜爺?」

竜爺「」

魔王「し、氏んでる……!?」



542: 2015/01/02(金) 01:45:06.29
天使「どうですか?赤ちゃんを抱いた感想は」

側近「怖くて動けません」

天使「アハハ……まぁ確かに始めはそうですね」

側近「この子……泣かないんですね」

天使「あら、側近さんの腕の中が気に入ったみたいですね。さっきまでぐずってたのに大人しくなって」

側近「結構、温かいのですね、子供と言うのは」

天使「はい、赤ちゃんは体温が高いですからね」

側近「……」



543: 2015/01/02(金) 01:46:21.12
側近「そぉい」

天使「あちょっと!?何大きく動いてるんですか!?」

側近「それでも泣きませんか。よく訓練されている事で」

天使「訓練て……側近さん、あのですね!いくらあなたでもやっていい事と悪い事が」

側近「あ……」

天使「あ……笑った……?」

側近「何で……笑うんですか……この子は」



544: 2015/01/02(金) 01:47:18.08
天使「フフ、側近さん、今ハルを遠ざけようとしてたでしょ?」

側近「はい、出来ればすぐにこの状況を脱したかったので。貴女に咎められてそれで終わり、というのを想定していたのですが」

天使「この子は貴女が大好きなんですよ?だからこうして貴女に始めて触れて、それでいて笑顔になって……赤ちゃんって言っても、知らない人に抱かれれば違和感で泣きだしちゃうんですから。この子はまだ産まれたばかりですけど」

側近「貴女は……私の無茶でも着いてきてくれるんですね」

天使「あ、また笑った」

側近「……」

天使「フフ、この子は貴女の本質が見えているんですよ?他の子たちはあなたを怖がるかもしれないけれど、でもこの子はしっかり懐いている」



545: 2015/01/02(金) 01:48:01.30
側近「初めて……命というものに触れた気がします」

側近「誰かを好きになるってこういう事なんですね」

天使「え?」

側近「今なら……今なら少しだけ私でも分かる気もします。誰かを愛し、新しい命を繋いで、そしてこの子もいずれ誰かを愛して……」

側近「温かい、この温もりが……誰かを愛するという事なんですね」

天使「そうです!それが誰もが持つ心なんですよ!」

側近「ああ、そうか……こんなにも簡単な事なんだ……」

側近「ハル、おめでとう。そして……私も貴女にありがとうを言わなければいけませんね。こんなにも優しい気持ちにさせてくれた貴女に」

側近「この小さい命は……私の命に代えても貴女を守っていきます。ずっと、ずっと……」

天使「セピアさん……」



546: 2015/01/02(金) 01:49:01.17
竜爺「……側近よ、予言の事は覚えておるか?」

側近「聖と魔の交わり……そうか、この子が……」

側近「けれど、そんな事はもうどうだっていいです。フフッ」


魔王「しかし、これで僕も父親か……人の親になれるなんて思いもしなかった」

天使「ハルモニア……ハル、これから貴女は私達とずっと一緒にいるんだよ?」

オーク「おめっとさん。悪いな、俺達までその子の名前を聞いちまって」

魔王「構わないよ、君たちだからこそこの子の名を預けられるんだ……」

魔王「セピアメイズ、クァル、竜爺……この子を支えてやってくれ、これからもずっと」

側近「はい、こんな私でよければ」

オーク「おうよ!任せとけ!」

竜爺「まだ代替わりは早いぞ魔王」

魔王「アハハ、そうだね……うん、これからだ。これからなんだ!」



547: 2015/01/02(金) 01:49:48.39
――――――
―――



「見つけたか」

「ああ、原因はここに在ったか」

「ただちに封印を強めるぞ……それと、面倒事が増えた」

「面倒事?」

「この国の王妃が子を成したようだ」

「……マリーフィア。天界の面汚しが」

「聖と魔の象徴……まさかとは思うが」

「可能性はある。こちらも手を打たねば」

「聖剣の回収もだ。奴らの命を奪うだけではもう足りん」

「不安要素は全て排除する……形振り構ってはいられん、このまま時を重ねれば」

「我らが神より裁きが下る……我ら自身へな」



548: 2015/01/02(金) 01:51:09.42
小休止
次で最後だけど大幅修正があるのも次からだから少し時間が空きます

550: 2015/01/02(金) 23:45:05.44
再開

551: 2015/01/02(金) 23:45:34.75
――――――
―――


魔王「……」

側近「海外への貿易、上手くいっていますね」

魔王「ん?ああ、やはり海の向こうと交友関係が持てるのは大きいね。収益もかなり期待できそうだ」

側近「ですね。今後の事も考えると海路の開拓は必須ですし、何より仕事の種類が増える事で無職者が減るのは国としてはありがたい事です」

魔王「……」

魔王「それと、王国と真っ先に仲良くなったことでこの国の賛同者も増えている。完全に軌道に乗れたことは幸運だったね」

側近「それは一重に貴方の頑張りがあったからですよ」

魔王「……」

魔王「……あのさ」

側近「はい?」



552: 2015/01/02(金) 23:46:05.57
魔王「なんでさっきからずっと君がハルを抱っこしてるのかな?」

天使「側゛近゛ざぁーん!!がえじでぐだざーい!!」

魔王「ほら、泣いちゃってるし」

側近「おーよしよし。王妃様の代わりに面倒を見ているのです、何かと大変でしょうし」

魔王「君は君の仕事をしてほしいのだけれど」

側近「チッ、分かりましたよ返せばいいんでしょ返せば」

天使「側近さん、この子の事を好きでいてくれるのは物凄ーくありがたいのですけど、私の子供ですからね?」

側近「この子はこの国の子供です。この国の宝です、貴女一人の物ではありません。よって私の腕の中にいても問題ではありません」

魔王「暴論だよオイ!?」



553: 2015/01/02(金) 23:46:37.78
側近「私がその子にしてあげられるのはそうやって抱いてあげる事しかないので。出来るだけ長い時間そうしてあげようと思っていたのですが」

天使「大丈夫ですよ、ちゃんと貴女の想いはこの子に伝わってますから」

魔王「そうだ、だったら料理でも作ってあげたらどうかな?」

天使「魔王様?まだこの子はおっOいしか飲めませんよ?」

魔王「アハハ、これからの事を考えてだよ。君がハルの事を想ってくれているのなら、君がやりたくもないと言い切った料理をしてこの子を喜ばせてほしいな」

側近「……まぁ、考えておきます」

天使「側近さんってハルの事が絡むと途端に素直になりますよねー」

側近「そうですか?」

天使「そうですよー」



554: 2015/01/02(金) 23:47:05.33
オーク「おーい、魔王様ー、そろそろ準備してくれー」

魔王「ん、もうそんな時間か」

天使「今日は市の会合でしたね」

側近「魔物被害についての議題もありますので私とオーク隊長も出席します。城を開けてしまいますが……」

竜爺「ああ、ワシがおるから安心せい」

魔王「貴方はいつもどこからともなく現れるね」



555: 2015/01/02(金) 23:47:38.85
魔王「それじゃあもう出るよ。使い魔を君に着けておくから、何かあったらすぐにコイツを飛ばしてくれ」

天使「はい、フュリク。ハルも帰りを待っています」

側近「少し遠い場所なので、時間に余裕を持たせた方がいいです」

オーク「結構大きい規模だからな。魔物被害の事だから俺が駆り出されるのも仕方ないが……」

魔王「ま、城の方は竜爺がいるから問題はないね。頼むよ」

竜爺「言われんでも。ワシの家はワシが守る」

魔王「アハハ……了解、それじゃあ」

天使「行ってらっしゃい、フュリク。あ、側近さん」

側近「はい」

天使「帰ってきたら、一緒にお料理の勉強でもしましょうか」

側近「いいのですか?」

天使「勿論です!」

側近「ありがとうございます。では帰ってきたらまた……じゃあね、ハル」

天使「約束です!いってらっしゃい!」



556: 2015/01/02(金) 23:48:06.69
竜爺「ふむ、行ったか……さ、王妃、部屋に戻れ。その子もお主も冷えてしまうぞ」

天使「そうですね、では……」

竜爺「……王妃よ、一つ訪ねたい」

天使「何でしょう?」

竜爺「時々、お主はどこか怯えたような顔をすることがある。その子が産まれてから頻度も増えている。何かあったのか?」

天使「い、いえ……」

竜爺「この老いぼれに隠し事はしないでくれ。お主の面倒は……む、もう6、7年ほど前か?見ないと言ったが、どうも放っておくことが出来なくてな」

天使「フフ、歳のせいですか?」

竜爺「ふん、まぁそうかもしれんな……それで、何を懸念しておるか」



557: 2015/01/02(金) 23:48:39.72
天使「……竜爺様は、運命という物を信じますか?」

竜爺「そんなもの、自らの手で切り拓くものだ。ま、ワシの場合は都合の悪い忠告を無視して突き進んできた結果がコレなのだが……信じるも信じないもその時々だな」

天使「私が神から承った使命は果たされました、勇者様を見つけること。でも今は完全な状態ではありません」

竜爺「聖剣か……神器を持つと碌な事にならん。増長に増長を重ねた挙句、待っているのは破滅だ。それがどうした?」

天使「いえ、いつかこの剣は……勇者様の手に渡ることになると思うのですが」

竜爺「……お主の兄の生まれ変わりにか」

天使「ッ!知っていたのですか?」

竜爺「……そんな感じがしただけだ、他意は無い」

天使「人が悪いなぁもう……それで、勇者様に聖剣が渡ったその時、私はどうしているのかなって」

竜爺「……ふむ、自らの身を案じるか。当然だな、ヒトとして、家庭を持って子を持って……こんなところで果てたくも無かろう」



558: 2015/01/02(金) 23:49:25.16
天使「前にパーティで王国へ行って、たまたま出会った占い師さんに占ってもらったときに、今の自分に思うところを言い当てられたんです」

天使「命を燃やす時が来るだろう、って」

竜爺「とんでもない詐欺師だのうそいつは。そんなもの、誰にでも言えることだ。魔王も側近もオークも、いずれ氏ぬ。そしてこのワシもな」

竜爺「何も気に病むことは無い。お主はお主の居場所を守ることに専念しろ、そうすれば間違いはない」

天使「フフ、何だか竜爺様と話すとホッとします。年長者ってやっぱり頼りになりますね」

竜爺「……」

天使「竜爺様?」

竜爺(言えぬ……多分ワシの方が年下だなんて言えぬ……!!)

天使「?」



559: 2015/01/02(金) 23:49:53.57
竜爺「まぁよい。さて、部屋に着いたようだしハルも眠ったな、何か温かいものでも持って来よう。お主は休め」

天使「ありがとうございます。それじゃあ飛びっきり甘いココアをお願いできますか?」

竜爺「お安い御用だ。少しばかり待っておれ」

天使「はい」

天使「……」



560: 2015/01/02(金) 23:50:20.59


「あるべき未来を守る為、例え残酷なる運命が待ち受けようと、託されたその力を勇ましき者へ届ける為、その命を燃やすだろう」



天使「……あるべき未来……か」

天使「ハル、私は貴女が辿る未来を守れるかな……?これから貴女が歩む世界を……」


「随分と悦に浸っているようだな、マリーフィア」


天使「ッ!!お前たちは!!」



561: 2015/01/02(金) 23:51:01.35

「久しいな」

「それがお前の産んだ子か……ふん、魔族の血など受け入れおって、汚らわしい」

天使「どこからここへ来た!何をしに来た!!一国への干渉は天界も黙認はしません!」

「隠ぺいなどいくらでもできよう」

「ここの兵達は眠っている。なに、殺さなければ証拠も残らん」

天使「あの村の人達を皆頃しにしたくせに……ッ!」

「ともかくだ。聖剣の回収、並びにその赤子の命を貰いに来た」

天使「ッ!!なぜ!この子は関係ない!!」

「それが、そうとも言えん」



562: 2015/01/02(金) 23:51:37.35
「我々が受けた予言に聖と魔の子というワードがある」

「いずれその者も、勇者などと下らん肩書きを持ち天界に仇成すだろう」

「芽を摘むのもまた一つの手だ」



竜爺「どうした王妃!!何があった!!」


「ん?」

「貴様は……」

竜爺「ッ!天使……」



563: 2015/01/02(金) 23:52:15.20
「ああ、姿を変えているが以前会ったことがあったな……名は、思い出せんな」

「それ程取るに足らん存在なのだろう。だが、お前は我々の協力者のハズだ」

天使「え?……竜爺様?」

竜爺「クッ……」

「我々には刃向えまい」

「その女から聖剣と赤子を取り上げこちらに持て。さぁ早く」



564: 2015/01/02(金) 23:52:43.04
竜爺「無駄だ、聖剣はここには無い」

「何だと?」

「どこへ隠した」

竜爺「隠した訳ではない。形態変化を起こしたため、ここではなく別の遠い研究所で調べている」

天使「ッ!そうです、ここには無い!」

「それならそれでいい、ならば赤子を寄こせ」

竜爺「それも出来ん!尚更だ!!」

「何?」



565: 2015/01/02(金) 23:53:34.97
「貴様……恩を忘れたか」

「我らとの契約を破棄すると?正気か、貴様が今まで築き上げてきたものすべてが呪いにより崩れ落ちることとなるぞ」

天使「契約……?一体それは」

竜爺「そんなもの……とうに全て失ったわ!!ワシは今目の前のこの命を守る!お主ら外道のいい成りになどなりはせぬ!!」

「ハッ外道?笑わせる!貴様が言えたことではない!」

竜爺「……ッ」

「聞けぬならば……氏ね」

竜爺「グゥッ!?」

天使「竜爺様!!」



566: 2015/01/02(金) 23:54:18.73
竜爺(盟約によりこの者達には反撃は出来ん……だが!この命を使えば二人を守ることは出来るだろう!)

竜爺(ワシにはその……義理がある!!)

「ふん、いつまで持つかな」

竜爺「ウグウウ!!!」

天使「くっ……」

竜爺「何をしている早く逃げろ!!その子の為に!!」

天使「ッ!はい!」

「チッ!」

「逃がすか!」

竜爺「まだワシは倒れてはおらん!!」

「邪魔だ!!」

竜爺「ガアアアアアアアア!!」



567: 2015/01/02(金) 23:54:56.30
天使「ハッ……ハッ……!」

天使(守らなきゃ!私が守らなきゃ!!)

「諦めろマリーフィア!」

天使「クソッ!!精霊よ!!」

「グッ!?」

「小癪な!」

天使(この程度じゃダメだ!剣が振えなければ戦えない!)



568: 2015/01/02(金) 23:55:33.05
天使「キャア!!」

「貰った!!」

「フフフ……赤子を離したな」

天使「ハルモニア!!その手でその子に触れるな!!」

「ふん!!汚らわしい!!」

「神の名を混血の魔族につけるなど笑止千万!!」

「せめて苦しまずに頃してやろう……!!」

天使「ッ!!」



569: 2015/01/02(金) 23:55:58.93
天使「今その子を手にかければ貴方達は破滅する!!」

「何?」

「出まかせを……言ったハズだ、芽を摘むだけだと。我々には関係の無い話だ」

天使「聖剣は既に勇者様の手に渡る手筈になっています」

「何だと!?」

「ではこの者は……」



570: 2015/01/02(金) 23:56:37.28
天使「貴方達が何を勘違いしているかは分かりません、ですが勇者様は別にいるのです」

「根拠は」

天使「聖剣はその子に反応したのではなく、貴方達が襲撃した村に居た生き残りの少年を選んだ」

「……あの村か」

「チッ、ここの連中に悟られていたか」

天使「その子を手にかければ……聖剣は貴方達の知らない場所にいる勇者様に届けられます。そうなれば、遅かれ早かれ絶望の未来が貴方達を襲う」



571: 2015/01/02(金) 23:57:38.88
「構うな、始末するぞ」

天使「その勇者の名は……ナツァル!!」

「ッ!?」

「何だと!?奴は……」

天使「兄は最後の力を振り絞り、神々の目を欺きこの地に同じ姿のまま転生した……別のものとはいえ、聖剣を扱っていた彼が聖剣に選ばれるのもまた道理!」

「あの村に影が蔓延っていたのはそういう事か……ならば納得がいく」

「それならそれでいい。ナツァルはどこにいる」

天使「今すぐには連れてくることは出来ない……けれど!」



572: 2015/01/02(金) 23:58:13.18
「まぁいい、信憑性は無い……が」

天使「ッ!ハル!!」

「ならばこの赤子は預からせてもらう」

「この城の南東の森にて待つ。とりあえずだ、聖剣をもって一人で来い」

天使「……どうするつもりだ!」

「知れた事、聖剣さえ取り返せば勇者が現れようと関係の無い話になる。奴の命を刈り取るのはその後でもいい」

「この赤子の命を助けてやろうというのだ。聖剣と引き換えにな」

天使「卑怯者……!」

「さらばだ、愚かな女よ」

「勇者か我が子か……フフフ、好きな方を選ぶといい」



573: 2015/01/02(金) 23:58:51.72
天使「……」

天使「クソ!!」

竜爺「ぐ、うう……」

天使「竜爺様!!」

竜爺「聖剣は……」

天使「ここに……。ありがとうございます、竜爺様が嘘を言ったおかげであの場はやり過ごす事が出来ました、しかし……」

竜爺「役にてたなくて済まない……カハッ……奴らは約束など……守らん……!例え聖剣を渡したところで……」

天使「存じています、ですが!」

竜爺「魔王たちを呼び戻せ……ぐ、時間は掛かるがまだその方が可能性は……」

天使「……」

天使(ダメだ……それでも待っていられない!)



574: 2015/01/02(金) 23:59:20.19
竜爺「まて……どこへ行く……!」

天使「魔王様に使い魔を飛ばします。私はすぐに南東の森へ」

竜爺「待てと言っているだろう!!」

天使「待てません!!あの子はまだ弱い赤子です!!あんな乱暴に扱われたら……!!」

竜爺「グッ……だが!」

天使「竜爺様、私達をお守りしていただき、ありがとうございました」

天使「……さようなら」

竜爺「お主、まさか……グアアア!!」

天使「……」

天使(行かなきゃ……)



575: 2015/01/03(土) 00:00:31.85
……


魔王「……?」

側近「どうしました?」

魔王「いや、何だか妙な胸騒ぎが……ッ!!」

オーク「ど、どうした?」

魔王「な、なんだ……これは……この感じ……魔剣!?」

側近「魔剣がどうかなさったのですか?」



576: 2015/01/03(土) 00:01:36.88
(聞こえるかァ?偽物魔王)

魔王「お前は……誰だ!?」

(ああ、問題ないみたいだな。ヒヒッ、俺の本来の使い手が現れた事でちょこっとだけだが封印が解けたみてぇだ)

(そうだな、冥途の土産に一つだけいい事を教えてやるよ)

魔王「ッ?」

(俺を手にした奴が、人並みの幸せなんざ送れると思うなよ?待つのは……氏だ。それも苦しみ、足掻いた末の……絶望!!例えそれが自分に降りかかるものでは無いとしても……な)

魔王「何が……言いたい!!」

(早く戻れ!じゃなきゃ、俺の本来の使い手が氏んじまう……話はそれだけだ)



577: 2015/01/03(土) 00:02:04.63
魔王「ッ……今のは……?」

オーク「お、オイ魔王!!アンタの使い魔だ!」

魔王「何!?」

側近「これは……何かあったに違いありません!運転手、城に戻ってください!緊急事態です!!」

魔王「何なんだ……一体……」



578: 2015/01/03(土) 00:02:31.06
――――――
―――


「……ふん、赤子というのはどうしてこう」

「煩いぞ、黙らせろ」

「とっとと頃してもよかったが……もしもの事もある」

「聖剣さえ手に入ればこちらはそれでいいのだがな……ククク」

「……そうだ、いいことを思いついたぞ」

「ん?言ってみろ……フフフ、なるほどな」



579: 2015/01/03(土) 00:02:58.18
天使「……」


「ん、来たな」

「よし、聖剣は持ってきたか」

天使「ここに」

「なるほど、形態変化したというのは嘘ではなさそうだな」

「聖骸布もあるな……よし、こちらに渡せ」



580: 2015/01/03(土) 00:03:23.81
天使「先にその子を渡してください」

「ん、ああ構わん」

「そぉら!」

天使「ッ!!」

「ふん、上手く受け取ったか」

天使「お前たちは……ッ!!」

「そう怖い顔をするな、約束は守ってやったろう。さぁ、聖剣を」

天使「……」

「よし、間違いはなさそうだ」



581: 2015/01/03(土) 00:03:59.92
「しかしまぁ……神の啓示よりも我が子を取るとは」

「勝手な奴だ、己が課せられた使命も果たせぬとは」


天使「……」

天使(申し訳ありません、女神様……私は……自分の子を……見捨てる事なんて出来ませんでした)

天使(ごめんなさい、兄さん……私は、貴方を盾にしてしまった……)


「そう身構えるな。これで取引は終わりだ」

「どこへなりとも行くがいい……もう用済みだ」



582: 2015/01/03(土) 00:04:26.25
天使「もう二度と……私たちの前に現れないでください」

「ああ、約束しよう」

「神に誓って……フフ」


天使「ハル……ゴメンね。帰ろう……」

天使「……これはッ!!」


「馬鹿め!!」

「雷よ!!」



583: 2015/01/03(土) 00:04:52.88

天使「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ハハハハハ!!気を取られ過ぎたなマリーフィア!!」

「その赤子に施された呪印に気が付かぬとは、随分と腑抜けたものだ」


天使「あ……ぐ……」


「ん、まだ生きていたか」

「しぶとい奴め……」

「しかし、皮肉なものだな。お前もこの場所で氏ぬことになるとは」


天使「な……に……?」



584: 2015/01/03(土) 00:05:43.33
「ああ、そんな事も知らなかったか」

「ここは、我々がお前の兄を封印した場所でもある。まぁもっとも、生まれ変わりが現れた以上は氏んでいるとは思うがな」

天使「……ッ」

「この場所の地下だ。大規模な魔法ゆえに苦労はしたが……まぁ、奴の顔を見ずに済むようになるのなら安いものだ」

「奴の残滓が溢れ出たせいで、危うく多くの影が暴れまわるところだったが、小規模で済んだようだ」

天使(あの村の……事か……)

「もしかしたら、その生まれ変わった者に何らかの障害が見て取れるのではないか?」

「完全な復活では無かったハズだ、ありうるな……例えば、記憶障害……なんか」

天使「ッ……」

「図星か」

「これは愉快だ!」



585: 2015/01/03(土) 00:06:26.03
「先ほど、ある術式により封印を強いものに変えた。これで中にまだ残滓が残っていたとしても、まぁ大丈夫だろう」

「外に知れたら我々の名声に傷がつく……ふん、天の御使いの犠牲となれたのだ、あの者達も本望だろう」

天使「外道……ッ!」

「さて、トドメと行こうか」

「お前もすぐに天に送ってやろう……だが、もう転生できぬようにしてやらねばな」

天使(ハル……よかった、ハルにはあの雷の呪印の影響は無かった……)

「ああ、その娘から頃してやろう」

天使「ッ!」



586: 2015/01/03(土) 00:06:52.75
「フフフ……"集いし聖剣"」

天使「その……呪文は……!」

「"輝け刃よ"……!ふん、お前の女神が仕込む解放呪文の法則など容易く考えられる」

「喜べ、自らの守り続けた刃で我が子が殺されるのだ。これも、大いなる神の意志……」

天使「掛かった……!」

「何!?」

「ぐああああああああああああああ!!」

「な、なんだ!?」



587: 2015/01/03(土) 00:07:19.31
天使「聖骸……布!愚かな……略奪者を……食う!!」


「くそ!!クソ!!」


天使「もう……遅い……お前は……氏……ぬ」

「氏ぬのはお前たちだ!!」

天使(もう一人が聖剣を奪った!?)


天使「ハル……ッ!!」



588: 2015/01/03(土) 00:07:56.32
ザシュッ


「ぬぅ!?」

天使「あ……ああ……」

天使「よか……った……ハル……」


「自らを盾に……フフフ!フハハハハハハ!!」

「グゥ……聖骸布、これほどとは……腕を切り落とさねば食われていたな」

「何、片腕をもがれた程度ではないか。そのくらい上に戻ればどうとでもなる。それより見てみろ!!」

「ん?ああ、やはり庇ったか。愚かな女だ」



589: 2015/01/03(土) 00:09:03.09
「先ほど我らが施した封印はその娘の生命に連動している。つまりだ」

「フフ、その赤子を殺さねば勇者……奴の生まれ変わりとやらは完全な形で復活することは決して無い!!」

「我らがその赤子を殺せる訳がない!それと同時に、もう勇者がこの世に完全な形で現れる事は無くなったという訳だ!」

「もっとも、その赤子をお前たちの手で殺せば……話は変わるがな。フッハハハハハハ!!」


天使「フフ……何も知らない……顔をして……貴女は……それでいい……何も知らなくて……」


「残念だ、もう聞こえてもいないか」



590: 2015/01/03(土) 00:09:43.28
天使「ゴメン……ね……もう……傍に……いて……あげられ……なくて」

天使「バチが……当たったんだね……兄さんを、勇者様……を、盾になんか……して」

天使「女神……様、申し訳……ありません……貴女の下には帰れ……そうに……ありません」

天使「聖……剣……私の……命を吸って……決して……間違った道へ……進まない様に……」

天使「ハル……フュ……………リ………ク…」



591: 2015/01/03(土) 00:10:21.05
「ふん、このまま引き抜いて……ッ!!」

「……居ない時を見計らったのだがな」


魔王「…………」


「貴様は……!」


魔王「……」

(チッ、胸糞悪いとこ見ちまったな……今回だけテメェに力貸してやるよ)



592: 2015/01/03(土) 00:10:46.51
魔王「"唸れよ魔剣"……」

「抜けんか……!ならばこのまま……ッ!?また聖骸布だと!?そ、そんな!!うぐう!?」

魔王「……"轟け"」

「くそッ!!放せ!!離れろ!!」

「間に合わんか!!」

魔王「"刃よ"おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「うごああああああああああああああああああああああああああああ!!」



593: 2015/01/03(土) 00:11:34.02
「軌道が読めなかった……それに首を一撃で!何という威力だ!あれが魔剣だとでも言うのか!」

魔王「離れろ……」

「ッ!?」

魔王「ナツィアから離れろォッ!!」

「チィッ!!」

魔王「君を護る剣が……君を貫くとはね……ナツィア……今抜いてあげるよ」

魔王「ッ!?グゥ……」

(解放状態の聖剣に触れればその布ッきれが反応して腕に絡みつくか……まぁいい、お前はそっちを使ってろ)

(ああ、やっと会えた……まだこんなガキだが、俺を使うにふさわしい奴……お前は俺を使ってどんな殺戮を見せてくれるか……フフッフフフフ!アッハッハッハッハ!!――――――)

魔王「やっと……煩い声も消えたか……」



594: 2015/01/03(土) 00:12:21.44
魔王「満身創痍だな、貴方も……それほどまでに魔剣の余波は強かったか?」

「ッ!足が……!!」

魔王「聖剣よ……僕の腕位なら何本だってくれてやる……お前が本当に守らなきゃいけなかった人を殺めたお前の刃……」

魔王「正しく使って見せろ……ッ!!」

「クソッ!!クソォ!!」

魔王「……往生際が悪い……呆れて何も言えないよ」











魔王「何も」



595: 2015/01/03(土) 00:12:55.67



――――――――――――
―――――――――
――――――
―――




596: 2015/01/03(土) 00:13:24.45
魔王「……」


側近「……魔王様、ハルモニア様に異常は見られないそうです。先に城へ送り届けました」


魔王「そうか、ありがとう」


側近「……」


魔王「……」


側近「腕……」


魔王「構わないよ。こんなもの、彼女が受けた苦しみなんかよりずっと軽い」



597: 2015/01/03(土) 00:14:07.45
側近(フュリクの腕まで食いちぎった聖剣の聖骸布……お前が本当に守りたかったものは……何なんだ)


魔王「……ナツィア、僕はね、君と……君の兄さんと一緒に歩いて行ける、優しい世界を目指したいんだ」

魔王「これからどんな事があるか分からない、途中で挫折してしまうかもしれない。君が傍に居てくれたら……そんな事にもならないと思ったんだけど」


魔王「僕は信じられないんだ……君がいなくなってしまったことが……君を失ってしまった事が……」

魔王「またいつものように、朝起きれば君がとなりに居て、一緒にご飯を食べて仕事をして、そして城に帰れば君が出迎えてくれて……」

魔王「ひょっとしたら、こうして話している間にも、またひょっこり君が起き上がって僕を窘めてくれるんじゃないかって思えるんだ……でも」

魔王「でも君は……もう……こんなにも冷たい……」


側近「ッ……」

側近「……フュリク、帰ろう。ナツィアさんはちゃんとお城に連れて帰るから」

魔王「うん……うん、大丈夫だよ、僕は……僕は強いから、強く在るから……だから、ナツィア、悲しまないで」



598: 2015/01/03(土) 00:14:35.78
側近「……私は先に……行くね」

側近「……」



天使(約束ですよ!)



側近「……」

側近「……嘘つき」



599: 2015/01/03(土) 00:15:08.19
オーク「……情けないなぁ、本当に。情けねぇ」

オーク「こんな時に、俺は何にもしてやれねぇ」

オーク「やっと見つけた俺の居場所も、大切な家族も。こんな形で無くしちまうなんて」

オーク「俺は何にも出来やしねぇ……」

オーク「悔しいなぁ……本当に悔しいよ……」



600: 2015/01/03(土) 00:15:45.04
竜爺「……」

賢人「……」

竜爺「何故だ……何故"お前"は傍に居たハズなのに……そんな若い姿になってまで城を抜け出してきたのに!!何故止めなかった!!何故助けなかった!!」

賢人「……それが、私の予言したものだったから。私が止められるワケないじゃない」

竜爺「何故……あの娘が氏ななければならなかった……何故……!!」

賢人「……自分の子供の氏に涙しなかったのに、他人の為に泣くことが出来るのですね」

竜爺「本当の引き金を引いたのはワシだ、あの娘じゃない……あの時、堕天使と悪魔を裏切ったワシがあの者達を守らねばならなかった……なのに……なのに……!!」

賢人「……私には、貴方の心が分かりません……」

竜爺「うう……ワシは……何という取り返しのつかない事を……!!」

賢人「暴王ジスト……貴方は……」



601: 2015/01/03(土) 00:16:25.45

魔王「……そろそろ行こうか」

魔王「……帰ろう、ナツィア」










                       ハルが、待ってる








602: 2015/01/03(土) 00:16:58.43
神器は持つ者に絶大な力、富、名声、そして幸せを与え
その役目を果たすと、所有者を破滅へと誘う

魔剣は持つ者に強大な力、狂気、争い、そして勝利を与え
志半ばで所有者の大切な物を奪う


二つの呪いが、彼女を襲った

彼女は、彼女自身が神から受けた予言が、いずれ自身の身を亡ぼす事を、始めから知っていた

知っていたからこそ、聖剣を手放さず、その役目を全うして勇者に渡すつもりでいた

でも、最後に我が子の命を天秤にかけられ、そして揺れてしまった

だが、彼女はその役割を果たし、天に還った

僕達を残して……



……それでも

それでもまだ

僕にはやるべき事がある

彼女の残した意志を繋ぐために……



603: 2015/01/03(土) 00:17:27.01
――――――
―――



「グスッ……エグッ……」

「泣くな……ここでジッとしていろ」

「お父様……お父様……」

「……」



604: 2015/01/03(土) 00:17:54.76
魔王「ッ!ハル!!」

「ッ!お父様!!」

魔王「どうしてこんなところまで出歩いたんだ!!」

「ッ……ごめんなさい……教会に……来たくて……」

魔王「一人で行くなとあれほど教えただろう!!ああ、でも、無事でよかった……」

「お父様ッ!」

「……」



605: 2015/01/03(土) 00:18:20.81
魔王「……君は」

「失礼する」

魔王「待って、アキだね?」

「……」

「お父様!このお兄ちゃんが魔物から助けてくれたんです!」

魔王「彼が……?」

「……」



606: 2015/01/03(土) 00:18:47.83
魔王「ありがとう、礼を言うよ。娘を助けてくれて……」

「礼は……いりません」

魔王「……僕を、覚えているかな?」

「……」

魔王「まぁ、どっちでもいいか。こっちに来ていた事は君のお義父さんから聞いていたし」

「……」



607: 2015/01/03(土) 00:19:23.51
魔王「それにしてもどうしてこの教会に?結構見つけにくい場所にあるのだけど、よく入る気になったね」

「ここは、魔物が寄り付かない。どういう訳か」

魔王「アハハ!それはね、ここは僕の妻に守られている場所だからだよ!」

「お母様……?」

魔王「そうだよハル、この教会はね、君のお母さんが君に命を与えた場所でもあるんだ。だから僕はここに教会を建てた、彼女が信仰していた神様の教会を……」

「お母様の事、よく知りません……」

魔王「だよねー……君まだ生まれたばっかりだったし」



608: 2015/01/03(土) 00:19:52.87
「……長居はしたくありません、"人がいるのなら"私は失礼する」

魔王「仕事の都合かい?君が王国で人に言えないような仕事をしているのは知っているよ」

「……それが?」

魔王「ああ、気にしないで、君を引き留める為の方便だから」

「……」

「……?」

魔王「ハル、君は気にしなくてもいいよ。そうだ、外でみんなが待ってくれている。先に行っててくれないか?」

「竜爺も?隊長も?セピアも?」

魔王「うん、みんなだよ」

「はい!では先に行って来ます!」

魔王「ああ、いい子だ」



609: 2015/01/03(土) 00:20:50.89
魔王「……人払いは出来たよ。僕に用があるんだろう?」

「……これを」

魔王「書状か……なになに?同盟の件承った……か。やれやれ、建国してから同盟まで随分と時間がかかったものだ」

魔王「うん、しかし彼らしいシンプルな返答だ。ありがとう、届けてくれて」

「……」

魔王「少し、君と話がしたいのだけれどいいかな?」

「構いません」



610: 2015/01/03(土) 00:21:48.74
魔王「かつて……この地に平和を望んだ二人の天使が居たんだ」

「長くなりますか?」

魔王「アハハ……話の腰を早速折られるとは思っていなかったよ。僕の長話の癖ってあっちの国にも伝わってるのかな?」

「手短にお願いします。次の仕事がありますので」

魔王「うん、手短に言うよ……君は、勇者に憧れないかい?」

「……」



611: 2015/01/03(土) 00:22:28.42
「勇者は、勇ましき者、この世界に革命をもたらす者。私はそう父から教えられている。それが国に伝えられている伝承」

魔王「君の考えでいい、答えてくれ」

「そんな者はいない。形だけなら誰であろうとなることは出来る、偽りの勇者なら誰にでも……」

「真に勇者がいるとしたら、私のような人間はこの世にはいない。人の皮を被った化け物と呼ばれ、蔑まれ貶され、石を投げられ……」

魔王「……」



612: 2015/01/03(土) 00:23:15.67
魔王「……君に、渡しておきたいものがある」

「これは……剣の柄?」

魔王「うん、流石に鍛冶屋の息子だからこのくらいは分かるか。受け取ってくれ」

「受け取れません、コレは……見た事があります。あの時私を助けた……」

魔王「……だとしたらこそだ。受け取ってほしい、君以外には恐らく使う事は出来ない」

「……」



613: 2015/01/03(土) 00:23:56.89
魔王「その剣の名前は"聖剣マリーフィア"……正真正銘、君の剣だ」

「私の……?」

魔王「いずれ、その剣を君は振う事になるだろう。その力を使い、君は何を成すのかはまだ分からない……けれどね」

魔王「きっと、その剣は君の力になってくれる。君の、守りたいものを守る為の刃になるハズだ」

魔王「勇者が持つべきこの聖剣は、必ず君を導いてくれる」

「ならば、尚更私が持つことは……無い」

魔王「真の勇者がいないのならば……君が勇者になればいい」

「……ッ!」

魔王「と、言っても、刃が無ければただの柄だけどね!アハハ!」

「……意図は分かりません。が、お受け取りします」

魔王「よし!聞き分けのいい子は好きだぞ、僕は!」



614: 2015/01/03(土) 00:24:50.80
魔王「グッ……!」

「ッ!」

魔王「だ、大丈夫……ちょっと持病でね。片腕が無ければ身体もボロボロ、ハハ……不摂生が祟ったね」

「……貴方は」

魔王「アキ、忘れないでほしい。その剣の為に氏んでいった者達の事を」

魔王「突然こんなことを言われても、君には何のことか分からないだろうけど、それでも時々でいいんだ、その剣に込められた意思を……感じ取ってくれ」

魔王「君には、それが出来るハズだよ」

「……」



615: 2015/01/03(土) 00:25:51.44
「お父様……?」

魔王「ん、ハル。先に行っていなさいって言ったろう?どうしたんだい?」

「隊長がもうご飯作ったから早く帰って来いってセピアが言ってた」

魔王「お!隊長の料理も久しぶりだなぁ!分かった、じゃあ帰ろうか!」

「はい!」


「……」


「あ……またね!お兄ちゃん!」


「……」

「失礼する」


魔王「うん、いつかまた……」

魔王(……ナツァル、君は君の信じる道を進んでくれ。今度は僕が……君を護るから)



616: 2015/01/03(土) 00:26:26.00
勇者を見送った

その剣で彼はきっと、僕達とは違う方法で同じものを目指すだろう

その時が来るまで待とう、その時が来るまでにセピアとハルを……



ああまだだ、僕はまだ……終われない


あの日交わされた約束の為に、後戻りはもう出来ない

この胸に刻む永遠の中に、優しい世界を探して


彼らと夢見た世界の為に


あと……もう一つだけ……



617: 2015/01/03(土) 00:27:00.22
――――――
―――



魔王「……ハルモニア、セピアメイズ」

側近「ここに」

「参りました、お父様」

魔王「フフ、随分とらしくなったね」

「いえ、お父様に比べればまだ」



618: 2015/01/03(土) 00:27:42.34
側近「戴冠式ですが、滞りなくハルモニア様に王位継承が出来ました……ご立派でしたよ」

魔王「ああ、見に行けなくて残念だ。せっかくの君の晴れ舞台なのに」

「……私は未だに納得が出来ません」

魔王「確かに、僕は前まではセピアを推薦しようと思っていたのだけれど……」

側近「お断りします、私は王の器ではありません」

魔王「そうだね、何回も言われた」

側近「真に王に相応しきお方は……貴方もよく知っているハズです」

魔王「ハル……君は」

「私も、セピアを推していました!お父様と同じく!」

側近「ハル!」



619: 2015/01/03(土) 00:28:31.58
「やはり私には荷が重すぎます……お父様が築き上げてきたこの国を、私が背負う事は……」

魔王「もう泣き言は言わない約束だよ、ハル」

「お父様!」

魔王「……今まで二人を見て来て、思ったんだ。民たちは何を求めているか、そして君たちは何を持っているかを」

魔王「今この国に必要なのは僕の様に甘い言葉を吐くだけの王ではない。誰に対しても厳しく、そして対等に接する事の出来る者、誰かの痛みを分かる者だ」

魔王「それはハル……君が一番それが出来る」

「私は……」

魔王「……よろしく頼むよ、君にしか出来ない事なんだ」

側近「大丈夫、フュリク。誰が着いていると思っているの?」

魔王「アハハ……頼もしいよ、本当に」



620: 2015/01/03(土) 00:29:03.31
魔王「……さて、君たちをここに呼んだのは他でもない。もうすぐ僕は……氏ぬ」

「ッ!」

側近「……今日が山場と聞きましたが、随分と元気そうですね」

魔王「蝋燭は燃え尽きる間際によく燃えるという、つまりそういう事なんだろう」

側近「最後の最後まで、貴方らしい事で……」

魔王「病っていうのは怖いね、ただでさえ弱っていた身体に追い打ちをかけてくるんだから、たまったもんじゃないよ、アハハ」

「……」



621: 2015/01/03(土) 00:29:30.36
魔王「……今日から、君は立派な魔王だよ」

「お父様……」

魔王「僕の跡を継ぐんだ、泣いてなんていられないよ。魔王は泣かない」

「分かって……います」

魔王「……大丈夫、手助けしてくれる仲間が君にはいる……だからもう、泣いちゃダメだ」

「……はい。泣きません、だから……」

魔王「そろそろ……お別れだ」

側近「……」

魔王「ハル……僕の可愛い娘……」



622: 2015/01/03(土) 00:30:36.21
声が遠くなる

二人が僕に呼びかける声が……

今思ってみれば竜爺と同じで後悔だらけの人生だったな……いや魔生か?

無茶苦茶な条件から国を立ち上げて、訳の分からないままに運営して

果てぬ夢物語を追いかけ、そして彼女と出会い、恋に落ち

友人の生まれ変わりを見つけて未来を託し、そして僕は今氏ぬんだろう


アハハ、何だ、結構満喫していたじゃないか



623: 2015/01/03(土) 00:31:52.71
コレは、始まりの物語に過ぎない

僕の残した意志は、未来へ繋がっていく

彼らでダメならその次の代で

それでダメならまた次へ……

決して潰える事はない、優しい世界を求める限り


これは僕が見ていた過去の中、僕を変えた彼らの話

二人の……天使がいた物語

ハル、どうか幸せに……


ナツァル、ナツィア……君たちとは同じ場所にはいけないけれど……

うん、改めよう!後悔はない!僕は悔いなく生きてきた!間違いない!

次に目覚める事があるのなら……君たち二人と一緒がいいな


ああ、その時は、三人で花が咲き誇る道を歩いて行こう!君たちが愛してやまない花々を見ながら!

ナツィアが作ったお弁当を君と僕が取りあって……アハハ、想像しただけでも楽しみだ!

そうしよう……それがいい……

うん、それが……



624: 2015/01/03(土) 00:32:44.18
――――――
―――



勇者「……」

魔王「……」

側近「またここに居たのですか、魔王様、それに勇者さんも」

勇者「やっ、こんにちわ」

魔王「側近か。いいだろ別に、お前もよく来ているんだから」

側近「一々城を抜け出されるのも困るのだけど」

魔王「フフン!仕事はとっくの昔に終わってるぞ!今日はあと魔王軍の練度を調べる為に私直々に稽古してやるくらいだな!」

側近「オーク隊長の立場を奪う事になるのでやめてあげてください」



625: 2015/01/03(土) 00:33:23.35
魔王「……お父様が残したこの国を守っていかなきゃいけないんだ、私が引っ張っていかないでどうする」

側近「そうですね、その情熱をもっと他国との交流に向けてくれたら嬉しいのですが」

魔王「い、いいだろ別に……適材適所だよ!」

側近「やれやれってやつですね、まったく」

勇者「いいんじゃない?僕は君のそういうところが好きなんだし」

魔王「すっ!?う、うるしゃい!!人をいちいちからかうな!!」

勇者「ハハ、魔王は可愛いなぁ」

側近「チッ、相変わらず、甘ったるすぎて反吐が出る……おや?」



626: 2015/01/03(土) 00:33:52.62
リザード君「魔王様ー!昼飯用意してるぜー!」

エルフちゃん「はやくー!」

オーク隊長「おう!俺が腕によりをかけたんだ!冷めちまう前に早く来てくれ!」

竜爺「飯はまだかのう?」

科学者「貴方はまたボケて……魔王様!!早くしてくださいよ!」



627: 2015/01/03(土) 00:34:27.68
勇者「お、昼食のお誘いだね」

側近「さて、いつものメンツが呼んでいますよ。というより勇者さん、貴方他国の人間なんですからそろそろ自重してください」

魔王「フフ……愉快な連中だな、ホントに」

魔剣『まったくだな、俺もあいつらにはほとほと手を焼いてだな……』

魔王「お前は出てくんな!!お父様の形見じゃなかったらとっとと粗大ゴミとして出してたってのを忘れんなよ!」

魔剣『へいへい、何とでも言いやがれ』

魔王「……お父様、って……こう何度も墓に語り掛けるのもおかしな話だけど」

魔王「これからも私は、お父様の残したこの国を守ります。そしていつかお父様が目指したものを……私も同じ道を進もうと思います」

魔王「報告終わり!!お前ら待ってろー!!私を差し置いて昼食とは何事だー!!私は魔王だぞー!!」



―――そう、それは

―――未来へ繋がる物語



魔王「天使がいた物語」 完


引用元: 魔王「天使がいた物語」