1: 2011/03/05(土) 20:36:36.19
むか~し昔ある所に、姫子といちごが住んでおった。
ある日、いちごが山へ芝刈りに。姫子が川へ洗濯に行った時のことじゃった。
 
姫子「ふんふ~ん♪」ゴシゴシ
 
ドンブラコ…ドンブラコ
  
姫子「ん?…なっ…桃!?」ジャバ
 
姫子「でかいな…しかしなぜこんな大きな桃が流れてきたのかしら」
 
姫子「スンスン…甘い…良い匂いだな。よし持って帰ろう」
 

2: 2011/03/05(土) 20:38:12.75
ガチャ
いちご「おかえり」
 
姫子「ただいま。ねぇいちごこれ見てよ」
 
いちご「なにそれ?桃?」
 
姫子「うん。川で洗濯してたら流れてきた」
 
いちご「ふ~ん、スンスン…良い匂いね」
 
姫子「でしょ?早速食べてみようよ」
 
いちご「うん」
 
姫子「いくよ…せいあっ」スパァン
 
いちご「相変わらず見事な手刀ね」
 
姫子「いちごの足刀ほどじゃ……ん!?」
 
赤ん坊「うんたん♪うんたん♪」
 
姫子「赤ちゃん!?」

5: 2011/03/05(土) 20:41:25.96
いちご「…桃の中から赤ちゃん…珍しいこともあるものね」
 
赤ん坊「うんたん♪うんたん♪」
 
姫子「くすっ…可愛い。ねぇ私たちで育てようよ。この子」
 
いちご「…別にいいよ」
 
姫子「やった♪じゃあ名前決めなきゃね…桃から生まれたから…」
 
いちご「…」
 
姫子「唯よ!あなたの名前は唯!」
 
いちご「いやなんでよ」
 
唯「うんたん♪うんたん♪」
 
姫子「ふふっ…可愛い。天使みたい」ニコニコ

7: 2011/03/05(土) 20:44:05.41
[1年後]
 
姫子「せあっ」スパァン
 
姫子「チェリア!」スパアン
 
姫子が林の中で竹を手刀で切りまくっていた時じゃった。
 
姫子「ん?…なんだあの竹…でかい!そしてちょっと光ってる…?」
 
姫子「なんだか不思議な竹…まぁいいや切ってみるか」
 
姫子「すぅぅ~…はぁぁ~…チェストォア!!」スパーン!!
 
姫子「!?」
 
赤ん坊「ばぶー」
 
姫子「竹の中に…赤ちゃん!?」
 
唯に妹が出来た瞬間じゃった。

9: 2011/03/05(土) 20:46:31.50
[15年後]
 
姫子「あ!ねぇいちご今日の新聞見てよ!」
 
いちご「ん?」
 
姫子「また鬼が出たんだって!」
 
姫子「今度は西の都に鬼出現!またもキャベツ、出店のやきそば、左利き用の楽器等奪われる!…だってさ」
 
いちご「毎度微妙な物ばかり奪って行くわね」
 
唯「ねぇねぇ鬼ってなんなの?」
 
姫子「とっても強い生き物よ。人間の天敵よ」
 
唯「へ~!憂より強いの?」
 
姫子「憂より?それはないわね。さすがの鬼も憂には敵わないと思う」
 
いちご「…」
 
ガララ
憂「ただいま戻りました~」
 
唯「あ、おかえり~」

10: 2011/03/05(土) 20:48:04.88
姫子「おかえり憂。どうだった?」
 
憂「ふふっ、今夜は熊鍋が出来そうですよ」ニコッ
 
姫子「まぁ、また熊倒してきたの!」
 
いちご「これ隣山の主じゃないの」
 
唯「憂は本当に強いねぇ~」
 
憂「えへへ~」
(お姉ちゃんが喜ぶ顔が見たいんだよ)
 
唯「あ、そうだ!憂!私と一緒に鬼退治に行こうよ!」
 
憂「鬼退治?」
 
姫子「また鬼が出たらしいのよ。ほら、この新聞」
 
憂「まぁ…!」

11: 2011/03/05(土) 20:49:36.41
唯「ほら、都の人たちを助けてあげようよ!」
 
憂「でも…」チラッ
 
姫子「ふふっ…良いわ。2人とも行ってきなさい。可愛い子には旅をさせろって言うし」
 
唯「わぁ!ありがとう!」
 
姫子「それに憂がいれば大丈夫でしょ」
 
憂「分かりました。行ってきます」
 
いちご「ちょっと待って」
 
憂「?」
 
いちご「憂なら鬼にも勝てるだろうけど…[金獅子のムギ]には気をつけて」
 
憂「金獅子のムギ?」
 
いちご「奴だけは別格だわ。拳王・信代でも勝てなかった最強の鬼よ」
 
憂「…分かりました。心してかかります」
 
唯「ねぇねぇ早く行こうよ~!」
 
憂「あ、じゃあ行ってきます」
 
姫子「頼んだわよ!憂!」ーーーこうして唯と憂の旅が始まった。

12: 2011/03/05(土) 20:51:07.36
[森の中]
 
唯と憂が歩いていると、どからともなく音楽が聞こえてきた。
 
チャラら~ら~♪(翼をください)
 
唯「ねぇ憂、聞こえる?」
 
憂「うん、あっちの方だね」
 
唯「行ってみよう!」
 
ーーーーーーーーーーー
 
森の泉の近くで、3人の少女たちが音楽を奏でていた。
いつの間にか唯と憂はその少女たちに魅入り、音楽に聞き入っていた。
 
ちゃらんららん…
 
しばらくして音楽が終わった。

14: 2011/03/05(土) 20:52:00.86
唯「わあぁ~」ぱあああ
 
憂「…」
 
律澪紬「ん?」
 
律「ああ、旅の人かな?どうだった?良かったら感想聞かせて貰えないかな」
 
唯「なんていうか…その…言葉にしにくいんですけど…!」
 
律「うん」
 
唯「あんまり上手くないですね!」
 
律「バッサリだー!」
 
唯「でも凄く楽しそうでした!私も仲間に入れて下さい!」
 
憂「ちょっ…お姉ちゃん!?」

15: 2011/03/05(土) 20:54:14.99
唯「私、唯っていいます!でこっちが妹の憂!」
 
律(ふふっ…知ってるよ…唯)くすっ
澪(唯…)くすっ
紬(唯ちゃん…)くすっ
 
唯が名乗った瞬間、律、澪、紬は穏やかに微笑んだ。
しかしその微笑みは、どこか切なげで、どこか寂しげでーーーー
まるで遠い過去を懐かしむようなーーー(それも想像を絶する年月を経た過去を)ーーー
楽しかった思い出に浸るようなーーーーそんな優しい微笑みだった。
 
憂「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!!」
 
律「よ~し、唯か!ちょうどギターが1人欲しかったんだ!お前は今から私たちの仲間だ!」
 
唯「わぁぁぁ!」
 
憂「待ってお姉ちゃん!!」
 
紬「唯ちゃん、ケーキがあるわよ?」ニコッ
 
唯「わーい!」ダダッ

16: 2011/03/05(土) 20:56:12.51
憂「待って!!!」
 
律「さすがムギ!準備良いなぁ!」
 
憂「お姉ちゃんちょっと待って!!私たちの目的忘れたの!?私たちは鬼退治に……ハッ!」
 
律澪紬「!」
 
憂(待って今…!あの人…!ムギって言わなかった…!?)
 
唯「わーい」キャッキャッ
 
澪「ふふ、たくさん食べろよ!唯!」
 
憂(金獅子のムギ…!!)
 
憂「駄目ッ!!お姉ちゃん離れてッ!!その人たちは鬼だよ!!!」
 
紬「…」ゴゴゴゴ

18: 2011/03/05(土) 20:59:04.17
唯「え?なに?憂どうしたの?怖い顔して」
 
憂「お姉ちゃん離れて!!」
 
紬「みんな…唯ちゃんを連れて…先に島に帰っててくれるかしら」
 
律「わかった」
 
澪「行こっ!唯!」
 
唯「あれ?憂は?」
 
律「憂ちゃんは後から来るよ」
 
唯「そっか!じゃ、憂!先行ってるねー!」
 
憂「…!」
(今すぐお姉ちゃんの元に駆け寄りたいけど…こいつから目を離せられない…目を逸らしたらやられる…!)
 
紬「……」ゴゴゴゴゴ

20: 2011/03/05(土) 21:01:07.41
憂「…」ゴゴゴゴ
 
紬「…」ゴゴゴゴ
 
憂「この私からお姉ちゃんを奪おうなんて…良い度胸じゃない…金獅子のムギ…!」
 
紬「ごめんなさい…私たちにはどうしても唯ちゃんが必要なの」
 
憂「なぜ…お姉ちゃんをどうする気…!?」
 
紬「あなたには関係ないわ」
 
憂「…絶対にお姉ちゃんは渡さない」
 
紬「…どうしても?」
 
憂「どうしても」
 
紬「…そう」
 
紬「力ずく…って言葉がこの国にはあったと思うけど」
 
憂「…」ぐぐぐ…
 
ふいに、憂の腰がゆっくりと落ちて行く。
臨戦態勢に入ったのだ。

21: 2011/03/05(土) 21:02:35.97
憂「…」ゴゴゴゴ
 
紬「…」ゴゴゴゴ 

大気に満ちていた紬の気と、憂の気とが、二人の間の空間で、じわりと重なりあった。
どちらも獣の気、獣気であった。
吠え声もあげずに、二頭の犬が、お互いの牙を噛みあわせたようなものだった。
 
力量は、どちらが上ともまだ分からない。
 
ひゅお~と風が憂と紬の髪をなびかせた直後ーーーー
 
憂の身体が動いた。
真横の木に向かって跳躍し、一瞬で木を登ると風のように枝の上を走り出した。
信じられない速度だった。まるで漫画の忍者のようだった。
細い木の枝の上を走り、跳躍し、また走った。唯が向かった方向に。
 
憂の狙いはーーー
 
溺愛する姉、唯だった。
 
紬「!」
(とりあえず唯ちゃんを…ってわけね。させないわよ)

同じスピードで、紬が、地面の上を走った。

22: 2011/03/05(土) 21:04:13.85
憂が次の枝に飛び移ろうとした時、憂に向かって、紬の身体が疾った。
 
憂「!」
 
暴風のように、紬の右脚が地を蹴って跳ね上がる。大気を裂いて、引き締まった脚が唸った。
 
紬の、鬼の全身のパワーを込めた凄まじい跳び回し蹴りだった。
その脚の直撃を常人がまともに受ければ、内臓破裂であっさりあの世へ行ってしまうだろう。
 
身体が宙にある以上、憂には、それはかわしようがなかった。
頭や、手足を狙ってきたものなら、どうにかかわしようもあろうが、紬は、憂の身体の真ん中を狙ってきたのである。
 
手か腕でその攻撃を受ければ、受けた腕の方がどうにかなり、なおかつ脚は憂にぶつかってくる。
 
しかし、憂の格闘センスは、尋常ならざるものだった。
 
憂は、膝を抱え込み、宙で身体を丸くした。
自分にぶつかってきた紬の攻撃を、憂は、なんと両足の裏で受けたのだ。
 
紬の攻撃に、憂は逆らわなかった。
攻撃してきた右脚の力を両足裏で吸収し、パワーの方向にそのまま跳ばされた。
まるで紬が巨大なボールを蹴ったかのようなシルエットだった。
そのまま宙で2回転し、憂は、地に降り立った。

24: 2011/03/05(土) 21:11:53.56
紬「やるじゃない」  

言いながら紬は烈風のように憂に向かって走り出した。
憂は、紬と同じ速度で後方に走り出した。バック走の形である。
そのまま後ろ向きに樹の幹を駆け上がった。
 
憂が、樹の幹を蹴って、紬の真上の空間に浮き上がった。
 
紬「ふんっ!」
唸りながら、紬が頭上の憂を目掛けて跳躍した。
同時に右足の爪先を思い切り上に跳ね上げる。
紬の右足の爪先は空を裂いた。空気に焦げ臭い摩擦痕を残すような、強烈な一撃であった。
 
蹴りが、空を切った。
 
紬は右脚で空を切ったまま、後方に一転した。
サッカーで言う、オーバーヘッドキックの形である。
 
一転する瞬間、樹の梢にぶら下がっている憂の顔が見えた。
真上から襲うと見せ、空中で樹の枝に掴まったのだ。紬の裏をかいたのである。
ざっと梢が鳴った。
 

25: 2011/03/05(土) 21:15:32.75
着地寸前の紬めがけ、憂の身体が、頭上から槍となって襲いかかった。
 
紬「!」
紬は、身体の急所だけをかばい、着地と同時に横に転がった。
 
どどどど…!と鈍い音が響いた。
紬は背中にふたつ、急所をかばった両腕にひとつずつ、合わせて四つの強烈な打撃を受けていた。
憂が空中から仕掛けた足蹴りの打撃であった。
 
紬「ちぃっ」
紬は舌打ちをしながら距離をとった。
憂の攻撃力が予想以上に強かったからだ。
 
だが憂はさらに追い討ちをかけた。
 
憂「オラァッ!」
半歩を詰め、紬の脇腹に向けて、鞭よりもしなやかな蹴りを叩き込んだ。

26: 2011/03/05(土) 21:18:04.87
紬「ぐぅっ」
憂の鋭い蹴りが紬の脇腹に突き刺さった。
だが紬はひるまずに、間をおかずに反撃した。
左脚を思い切り跳ね上げた。
憂の下顎を下から打ち抜くつもりだった。
 
憂「!」
 
憂は後ろにのけぞりそのままバック宙をして回避した。
間髪入れずに紬の身体が動いた。
後ろへ飛んでいる憂を追った。
まだ宙にいる憂に向かって、遠慮のない右の蹴りを、下から跳ね上げてきた。
真下から浮き上がってきたその剛脚を、憂は、先ほどと同じように揃えた両足の底で受けていた。
受けると同時に、思い切り両脚を伸ばしていた。
ぐん、と憂の身体が、高い空中に、斜めに跳ね上がった。

27: 2011/03/05(土) 21:20:08.47
高い宙に浮いた憂を、紬が、さらに追った。
両足を蹴って、身体の伸びた憂に向かって、いったん引いた右足を、紬がもう一度跳ね上げた。
今度は、真下からではなく、真横から、紬の足が、憂のボディを襲う。
絶妙の連続攻撃であった。
 
伸びきった身体を、憂が、宙で膝を抱えて小さく丸めていた。
縮んだ憂の身体の下を、紬の右足が疾り抜けた。
 
憂の番だった。
 
憂「シッ!」 
憂は、縮めた両脚を伸ばし、地に立ちざま、紬の左腿を、右足で蹴りにいった。強烈なローキックだった。
紬が、左膝を立てて、それを受けた。
ゴッ…という骨と骨がぶつかる音がした。
2人が離れた。 
睨み合った。

睨み合ったのは一瞬、憂が間髪いれずに紬に向かって疾った。

28: 2011/03/05(土) 21:22:49.67
憂は一瞬で間合いを詰める。
美しい弧を描いて、憂の右脚の爪先が、紬のこめかみに伸び上がる。
 
憂の右足の甲が、紬の左のこめかみを貫く寸前、紬は、左肘をあげて、憂の蹴りをかろうじてブロックしていた。
 
ドゴォ…!
そのブロックごと打ち砕く勢いで、憂の右足が、紬の肘を叩いていた。とてつもない威力だった。
 
紬「くぅ」
 
紬が、横に大きくのけぞっていた。
憂の右足に叩かれた己の肘で、紬は自分の頬を打ったのだ。
 
揺らいだ紬の左脇腹があいた。
そこへ向かって、いったん跳ね戻った憂の右足が、もう一度跳ね上がる。
ストロボの閃光が、一瞬の間に二度閃くのを見るようであった。
異常な瞬発力を有さなければ出来ない強烈な2連蹴りだった。
 
左肘を下げて、紬がそれを防ごうとする。しかし、そこにわずかの隙間が残っていた。
その隙間へ、見事に憂の右脚が潜り込んでいた。
肉が肉を打つ鋭い音が響いた。
体重を乗せた、強烈な一撃であった。

29: 2011/03/05(土) 21:25:49.38
すでにバランスを失っていた紬の身体が、吹っ飛んでいた。
紬の身体が、右肩からどっと土の上に落ちた。
一転して紬が起き上がる。
 
紬「!」
 
憂「」
 
起き上がった時には、眼の前に憂が立っていた。
憂の首がすっと回転して、後頭部が見えた。
 
紬(後ろ蹴り!?)
 
ずどん…!という重い音がした。
憂の右脚の踵が、紬の腹の真ん中にめり込んでいた。
 
紬が、身体を“く”の字に折った。
下がった紬の右頬を、憂の左膝が下から斜め上方に突き上げた。
 
ごしゃっ…!
 
憂は遠慮のない膝蹴りを、紬の顔面に叩き込んだのだ。
 
紬「…!」ふらっ…
 
紬が崩れ落ちた。

30: 2011/03/05(土) 21:30:57.49
憂が右足を大きく振り上げた。
倒れた紬に止めの一撃をぶつけるつもりだった。
全体重を乗せた右足の踵を紬の後頭部へーーーー
 
憂「!?」ばっ
 
攻撃を中断して、ふいに、憂は大きく後方に跳んでいた。
反射的に跳んでいたのだ。
倒れた紬の体内に、固形物のような、何か異様な気が生じたのを感じたからだ。
 
紬「…」ゴゴゴゴゴ
 
紬がゆらりと…ゆっくりと立ち上がった。瞬間、森から鳥や小動物たちが一斉に遠くへ逃げた。
 
憂「…!?」 
 
憂にしてみれば、連撃を叩き込む絶好のチャンスだ。
しかし、憂は、次の攻撃に踏み切れないでいた。
紬の肉体に育ちつつある異様なものの気配を、憂は捉えていたからである。
 
憂「……!!」 
ぞろりと、憂の背のうぶ毛が、今にも立ち上がってきそうであった。

32: 2011/03/05(土) 21:33:19.62
紬「…」ゴゴゴゴゴ
強大な圧倒的オーラが、紬の全身からほとばしっていた。

憂「てめぇ…」
 
本来ならば、憂がこんな隙を見逃すはずがなかった。
たて続けに怒涛の攻撃を仕掛けているところであった。
それが出来ないのだ。
 
紬の肉体の中に、かつて、憂が体験したことのない、圧倒的なパワーが生じていた。
 
憂(なるほど…最強の鬼…か…)
 
そして憂は悟った。
先ほどまでの紬は全力ではなかったのだと。
 
紬「何年振りかしら…私が本気を出すのは…」ゴゴゴゴゴ
 
風が吹いてるわけではないのに、紬の髪がゆらゆらと揺れていた。
 
憂「上等…!」
 
憂が紬に向かって疾りーーーそして高く跳躍したーーー

33: 2011/03/05(土) 21:36:37.36
[鬼ヶ島]
 
がちゃ
紬「ただいま」
 
律「おーすムギ、遅かったな」
 
唯「ムギちゃんうぃっす!ってムギちゃん!?どうしたの!?顔アザ出来てるよ!?」
 
紬「ああ、来る時に転んじゃったの」ニコッ
 
律澪(…憂ちゃん…只者じゃないな…)
 
唯「大丈夫!?あ、あれ?憂は?」
 
紬「ああ、憂ちゃんは途中でなんか用事思い出したって言って…」
 
唯「あ!鬼退治!」
 
紬「そうそう、鬼退治してから来るって言ってたわ」
 
唯「私も行った方が良いかな~?」
 
律「ま、大丈夫だろ」
 
唯「ん~そだね、憂は凄く強いし、大丈夫か!」
 
紬「ええ!憂ちゃんはと~っても強いから…心配いらないわ」ニコッ

34: 2011/03/05(土) 21:38:43.13
[森の中・夜]
 
倒れた樹の横に、ボロボロになった少女がうつ伏せで倒れていた。
満月の蒼白い光が、少女を優しく包み込んでいた。
 
憂「…」スゥ
 
憂「…ん…」
 
憂「…ここ…は…」
 
憂「ハッ!お姉ちゃ…!!」ガバッ
 
憂「…くぅ…!!!」ズキン
 
憂は戦闘のダメージで立ち上がれなかった。
 
憂「…」ドサッ
 
再びうつ伏せに倒れた。
 
憂(そっか…私…負けたんだ…)

35: 2011/03/05(土) 21:43:36.43
憂「…うっ…うっ…」
 
憂は左頬を地面につけながら泣いた。
 
憂「う…うっ…うぅ…」
(お姉…ちゃん…)
 
憂「うっ…うっ…うっ…」
 
ーーーーーーーーー
『ふふっ…唯ちゃんは私たちのものよ』
ーーーーーーーーー
 
憂「……」
 
ーーーーーーーーー
『唯ちゃんは私たちと一緒にいた方が楽しいの』
ーーーーーーーーー
 
憂「お…姉…ちゃん…」
 
ーーーーーーーーー
『ふふっ…もう一度言うわ…唯ちゃんは私たちのもの』
ーーーーーーーーー
 
憂「お姉ちゃん…」ギリッ

36: 2011/03/05(土) 21:49:03.01
ーーーーーーー
『唯ちゃんは』
ーーーーーーー
 
憂「…」ギリッ
 
ーーーーーー
『唯ちゃんは』
ーーーーーーー
 
憂「…ッ!」ギリッ!
 
ーーーーーー
『私たち』
『私たち』
『私たち』
 
『私たちのもの』
 
ーーーーーーー
憂「…ッ…ッ」ズガァ!
憂はその場で拳を握った。手の平が地面についていた為、地面に指の跡を穿った。
 

38: 2011/03/05(土) 21:51:41.06
憂「ま…まだ…」ゆらり
 
憂はゆっくりと立ち上がった。立ち上がれる体ではなかった。だが精神力のみで体を動かした。
 
憂「まだ…ま…だ…ッ!」よろっ
 
ふらつきながらも、憂は完全に両足で地面に立っていた。そしてーーーーー
 
憂「まだ終わってねぇぞムギィィィィィィィィィィィア!!!!!」
 
それは獣の雄叫びだった。
満月に向かって吠える獣そのものであった。
大気を揺さぶる凄まじい咆哮だった。
 
憂「…ッ…ギリッ」フーッ!フーッ!
 
憂は血の涙を流していた。
しばらく満月を眺めたあと…
 
憂「…」ふらっ…ドサッ
 
憂「…ち…くしょう…」
(必ず…この借りは…)
 
憂は再び気を失った。
 
第一部 完

39: 2011/03/05(土) 21:56:20.66
憂「…ん」
 
憂は、ふと目を覚ました。見知らぬ天井が見えた。
 
憂「…」
 
「目覚めたようね」
 
憂「!」
 
声のした方向へ視線だけ向けると、そこには眼鏡をかけた知的な顔立ちの女が座っていた。
 
憂「ッ!」
 
憂はがばっと体を起こしかけた。
途端、体のあちこちに激痛が跳ね、慌てて体をもとに戻した。
それで、自分が柔らかい布団の上に寝ていることがわかった。
 
「無理しないで。大怪我してるのよ。だいぶうなされていたけど、大丈夫?」
 
憂はそれにきちんと答える余裕はなく、ただ、首を回して辺りを見た。
狭い部屋だった。
 
憂「…あなたは…誰…?」
 
和「私は和。大丈夫、あなたの味方よ」

41: 2011/03/05(土) 21:59:38.70
和「あなた…ムギと戦ったんでしょ」
 
憂「…うん…どうして分かったの」
 
和「森から物凄い叫び声が聞こえたからね…行ってみたらあなたが倒れてたってわけ」
 
憂「…ありがとう…助けてくれて…」
 
和「まっ…助けたのは私じゃないけどね」
 
憂「…?」
 
和「私の仲間よ。今隣の部屋でご飯を作ってるわ」
 
ガチャ
純「和さん!ご飯出来たよ!…お!」
 
憂「…」
 
和「紹介するわ。純よ。この子があなたを助けようって言い出したのよ」
 
憂「ありがとう…」
 
純「いいってことよ!」
 
和「ところで…あなたの名前はなんていうのかしら?」

42: 2011/03/05(土) 22:05:44.69
和「…そう…でも…なぜあなたのお姉ちゃんをさらっていったのかしら?」
 
憂「…分からない」
 
純「…まっ!でも…私たちの目標が一緒ってことは分かったね!」
 
憂「?」
 
和「…私たちも鬼退治が目的なのよ」
 
憂「!」
 
和「…私の一族はね…先祖代々キャベツを作ってきたの。キャベツ農家ね」
和「でも、先日現れた鬼が全部…理不尽に…!奪っていったわ…!」
和「私たち一族の誇りを…!いとも容易く…!蹂躙していった…!」ギリッ
 
憂「…」

43: 2011/03/05(土) 22:12:31.57
純「私の家はね、ジャズクラブをやってるんだけど、突然現れた鬼に楽器を奪われたの」
純「鬼の狙いはなぜか左利き用の物だけだった。右利き用は全く被害に合わなかった…」
純「でもね…不幸にも…両親含むウチで働いてた演奏家たちの半分以上が左利きだったの。」
純「おかげでウチは破綻。家族もバラバラになったの…」
 
和「だから…私たちは復讐を誓ったのよ」
 
純「必ず…鬼を倒す」
 
憂「…」
 
憂「私も…何がなんでも…何をしてでも…お姉ちゃんを取り戻す」
 
和「…」
 
純「…」
 
憂「…」
 
和「…決まり…ね」
 
純「…かな」
 
憂「うん…行こう!一緒に!鬼を倒しに!」

45: 2011/03/05(土) 22:18:54.16
「これでちょうど3対3になったわね」
 
純「各々の相手に集中してやれるね」
 
和「ええ。私がカチューシャとやるわ」
 
純「私が黒髪ロング」
 
憂「私が…ムギ…!!」
 
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
 
憂、和、純。
この3人が出会ったことで…
 
今、ひとつの運命に向かって、自分たちが進みつつあることを、まだ、この時の彼女たちは知らない
 
この戦いが…やがて思わぬ方向に転び…
 
そして壮大な物語の幕開けとなることを…
 
この時の彼女たちには、知る由もなかったーーーーー。
 

48: 2011/03/05(土) 22:25:52.25
[一週間後]
 
憂、和、純の3人は、小船に揺られていた。今にも雨が落ちてきそうな曇り空だった。
 
和「見えてきたわ。鬼ヶ島よ」
 
前方にうっすらと島が見えた。
 
純「それにしても憂の回復力凄いな。あんな大怪我してたのにもう完治してるし」
 
憂「うん。なんか知らないけど、私、怪我治るの凄い速いんだ。お姉ちゃんもね」
 
純「お姉ちゃん…無事だと良いね」
 
憂「無事だよ…お姉ちゃんは」
 
純「分かるの?」
 
憂「うん。なんとなく…としか言えないけど…直感のようなものかな…無事だよ」
 
純「ふぅん。ま、良かったね!無事で!」
 
憂「うん…」
(今は…ね…)

49: 2011/03/05(土) 22:30:35.00
鬼ヶ島・紬の別荘]
 
唯「あはははは!これがチョーキングか~!あははははは!」みょ~ん、みょ~ん
 
澪「そ、そんなにツボ?」
 
律「……」
律は窓から外の海辺を眺めていた。
そして…
 
律「……来たぜ」
 
澪「!」
 
ムギ「…何人?」
 
律「3人だ」
 
ムギ(もう…さすがね…憂ちゃん…)
ムギ「…行きましょう」
 
律「ああ」
 
澪「うん」
 
唯「え?え?なになに?どうしたの?」

50: 2011/03/05(土) 22:35:06.43
律「唯…悪いがここで待っててくれ」
 
唯「えっ!3人で遊びに行くの!?やだ!私も行く!」
 
澪「唯…違うんだよ」
 
唯「やだやだ!私も海で泳ぐ!」
 
紬「唯ちゃん」ぎゅっ
 
紬は正面から優しく唯を抱きしめた。
 
唯「えっ…む、ムギちゃん!?」
 
紬「お願い唯ちゃん…言うことを聞いて…?」
 
そして体を離し両手を唯の肩に置き、まっすぐに唯を見据えた。
 

51: 2011/03/05(土) 22:40:31.65
紬「唯ちゃん…唯ちゃんは…私たちのこと好き?」
 
唯「うん!好きだよ!大好き!だから仲間外れになんかしないでよ…!」じわ
 
紬「私も唯ちゃんが大好きよ。りっちゃんも澪ちゃんもみんな唯ちゃんが大好き」
 
紬「だから…唯ちゃんを危険な目に合わせたくないの」
 
唯「危険…?」
 
紬「今は詳しいことは言えないわ。だけど時期が来たら必ず話すから…」
紬「だからお願い。言うことを聞いて」
 
唯「……!!」
 
唯は紬の…いや律、澪の…3人から発せられる尋常でない雰囲気を感じ取った。
なにか只ならぬ決意が篭った…ピリピリした殺伐とした空気。
 
唯「…わかったよ」

53: 2011/03/05(土) 22:46:00.23
紬「ありがとう」にこっ
 
紬「それと…この部屋に入る為の合言葉は覚えているよね?」
 
唯「うん…放課後ティータイム」
 
紬「そう。もし、誰かがこの部屋に入って来ようとしても絶対に開けちゃだめよ?」
紬「呼びかけに反応してもだめ」
 
唯「うん。ノック2回のあと放課後ティータイム…でしょ?」
 
紬「そう。開けて良いのはその合図があった時だけ」
 
唯「うん。わかった」
 
紬「じゃあ…私たちは行くから…必ず言われた通りにしてね?」
 
唯「わかったよ。ムギちゃんたちも…早く帰ってきてね」
 
紬「くすっ…ええ」にこっ

54: 2011/03/05(土) 22:51:07.35
[廊下]
 
玄関へと続く長い廊下を、3人は歩いていた。
 
律「しかし大丈夫か?唯を1人にして…デスデビルは…もう動いてるんだろ?」
 
紬「ええ…本当は私が部屋に残りたいけど…憂ちゃんの回復力を読み誤ったわ…憂ちゃんは私しか止められない」
 
澪「この場所までは…まだ悟られてないんだよな?デスデビルに」
 
紬「今のところはね…けど見つかるのも時間の問題ね」
 
律「ったく…あの人間共も私たちに感謝しろっつーんだよ」
 
紬「仕方ないわ。人間はデスデビルの存在を神話やおとぎ話でしか知らないんだもの」
 
澪「あの3人の人間と…協力することは…出来ないのかな」
 
紬「それも考えなかったわけじゃないけど…無理ね。人間にとって私たちは憎悪の対象でしかないわ」
 
律「だったら…仕方ないな…」
 
紬「ええ…唯ちゃんを守るためにも…」
 
澪「…」
 
紬「全力でぶちのめす」

56: 2011/03/05(土) 22:54:59.11
[浜辺]
 
どんよりとした灰色の曇り空をバックに、3人の少女たちが小船から降りた。
 
そして3人はゆっくりと歩いて行く。
その強い意志が宿った双眸が見据えていたのは…
 
海風に髪をなびかせて静かに浜辺に佇む、3人の可憐な鬼たち。
 
ザッ…ザッ…ピタ…
 
憂「…」
 
紬「…」
 
ーーーーー
和「…」
 
律「…」
ーーーー
純「…」
 
澪「…」
ーーーー

少し冷気を含んだ海風が、6人の少女たちの髪をバサバサとなびかせていたーーー
 

58: 2011/03/05(土) 23:00:19.11
憂「…お姉ちゃんを取り戻しにきたわ」
紬「…」
 
憂「…」
紬「…」
 
憂「なんか言えや」
紬「…ねぇ…デスデビルって知ってるかしら」
 
憂「…デスデビル?」
 
和(…?)
純(…?)
 
紬「知らないようね」
 
憂「ごちゃごちゃうるせーよ。お姉ちゃんを返せ」
 
紬「いやだ…って言ったら?」
 
憂「…ぶっ潰す」
 
ざっ…ざっ…
ゆっくりと、和と純が横に移動して憂から離れていく。
視線は、片時も自分の相手から離さない。
律が、和と同じ速度で、和にぴったりとついていく。
澪も、純と同じ速度で、純にぴったりとついていく。
そして、充分な距離が開けた。
それぞれの戦いが…始まった。

59: 2011/03/05(土) 23:04:04.56
和「ひとつ聞きたいことがあるんだけど…」
 
律「ん?」
 
和「あなたは…農家の人が丹精込めて育てあげたキャベツを奪うとき…」
和「なにを考え、なにを感じているの?」
 
律「別になにも」
 
和「」
 
和の頭の中が怒りで赤く染まった。
 
和「クズめ…」すちゃ…
 
和は眼鏡を外した。
 
和「氏で償え」
ゆらゆらと、和の体からオーラが真上に燃え上がった。
 
律「やれやれ…」ポリポリ
 
律はポリポリと右手で頭をかいた。
 
律(なにも知らねーくせに…)
 
律「いいぜ…来な」

60: 2011/03/05(土) 23:07:22.57
和「覚悟しなデコ」シャッ 
 
先にしかけたのは和の方だった。
ほとんど予備動作なしに、和の身体が動いた。
律に向かって和の肉体が疾った。
 
律「ふっ!」
 
瞬時に、律の肉体が反応していた。
自分に向かってきた和に向かって、右足を跳ねあげた。カウンターのハイキックだった。
その足が宙を薙いだ。 
和の肉体が通るはずの空間を、律の足が大気を裂いて疾りぬけていた。
 
律「ちいっ」
 
和の肉体が消えていた。
いや、消えたのではない。和の肉体は、平べったくなって、地に沈んでいたのである。
 
獣を真似た四つん這いの姿勢ではない。和の肉体は、それよりもさらに低く沈んでいた。
腹が、砂に触れそうな程だ。
獣というよりは、蟲の姿勢であった。蜘蛛に似ていた。
 
すぐに、律は次の攻撃に転じていた。
虚空に疾り抜けた右足をひねり、もどしながら、その踵を蜘蛛の背に打ち下ろしたのである。
どのような拳法の理論にもない動きーーー律らしい、強引な力技だった。
律の真骨頂がそこにあった。
がーーーーー。
 
踵は砂にめり込んでいた。

61: 2011/03/05(土) 23:10:07.88
和が地に伏した状態で避けたのである。
律がすかさず次の攻撃に転じようとした瞬間ーーーーー。
 
地面から、強烈なバネとスピードを秘めたものが跳ね上がってきた。
それは、槍のように、律の真下から、律の顎に向かって突き刺さってきた。
ぞくりと、律の背を、なにかが走った。
 
律「ちいいっ」
 
律は、後方にのけぞるようにしてそれをかわそうとした。
が。
 
それは、後方にのけぞった律の後を追って、蛇のようになお深く律の顎の下に入り込んできた。
 
律「おらァ!」ガッ
 
律は、顎を垂直に立てて、右手首をその跳ね上がってくるものに当て、外側にはじいた。
 
律の顎の数ミリ先を、それが天に向かって疾り抜けた。
それだけで、顎の先に火ぶくれが出来るような一撃であった。
 
天を向い律の眼に、曇り空が見えていた。
その中に、まず踵が、続いてつま先が伸び上がっていく。
いましがた、律の顎の先をすり抜けたものだ。
和が両足を揃え、逆立ちの姿勢で下から槍と化した踵を律の顎に向かって跳ね上げたのである。
 

62: 2011/03/05(土) 23:14:48.87
律「!!」
 
律の視界の中で、天へ抜けたその足が、くるりと翻った。
 
ぞくり、
と、律の背に冷たいものが走った。
 
のけぞらせて、まるで無防備のまま空気にさらした喉に、次の瞬間にはその足が叩き込まれてくるのが分かったからだ。
 
律が常人であったなら、この瞬間に、勝敗は決していたであろう。
さすがの鬼も、喉を蹴られたらひとたまりもない。
 
しかし、律もだてに鬼をやってるわけではなかった。
 
律「どるァ!!」
 
律は、宙で翻り、今、律の喉を襲ってきている和の足に攻撃をしかけたのである。
律は、跳躍した。
跳躍しながら、斜めに下りてくる和の足に向かって、おもいきり右肘を打ち込んでいた。
 
ごっ…!!!
鈍い音がした。律の肘と和の足が衝突した音だった。 
肉と肉、骨と骨がぶつかる音だ。

65: 2011/03/05(土) 23:20:21.72
律(…のヤロォ…!)
律は、宙から、怒りの篭った双眸で和を見下ろしていた。
 
和は、砂浜に両手をつき、逆立ちの姿勢で、ぎらりと律を下から睨んでいた。
 
律(普通喉元狙うか!?…ちょっとムカついたぜ!!!)
 
上から落ちざまに、和の顎に全体重を乗せたつま先を落とせば、それで決着がつく。
 
律「悪く思うなよ!」
律の体が、左足のつま先から和の顎に向かって落下した。
 
しかし、和もまた常人ではなかった。
逆さになった自分の肉体の前面を落下しつつある律に向かって、両膝を打ち込んできたのである。
常人になしうる動きではなかった。
 
律「!」
両腕をクロスさせて、律はその膝を受けた。
また、ごっ…という音が響いた。律の身体が、宙で押されて動いた。
 
和は、両腕のバネを使って砂浜から体を浮かせ、後方に身を転じていた。
 
律「オラァ!」
その顎の先を、落ちてゆく律の左足が追った。律は落下中にもかかわらず蹴りを放ったのである。
しかし、その蹴りは和の顎の先をかすめただけだった。
 
律「」シュタッ
律が砂浜に両足をついて立っていた。
その時には、和もまた律の眼の前に立っていた。

66: 2011/03/05(土) 23:25:04.64
律と和は再び睨みあった。
律「けっ…真面目そうな顔して…随分えげつねぇ真似してくれんじゃん…おい」
 
和「…」
律「ま、それでいいんだよな…戦いってのはさ」
 
和「…」
律「だがそっちがそう来るなら…それなりの覚悟しとけよ?」
 
和「うるさいわね。鬼ってのはみんなあなたみたいにおしゃべりなのかしら」
律「ふっ…」ぐぐぐ…
律がゆっくりと腰を落とした。
ーーーー
こっちでは、澪と純が対峙していた。
 
純「ひとつ聞きたいことがあるんだけど」
澪「なに?」
 
純「あなたは…人が大切にしている楽器を奪うとき…なにを考え、なにを感じているの?」
澪「別になにも」
 
純「」
純の頭の中が怒りで赤く染まった。
 
純「クズめ…」
怒りのオーラが揺らめいた。
純「氏で償え」ザッ
 
純が澪に向かって疾った。

69: 2011/03/05(土) 23:29:03.83
そしてここでは、紬と憂が対峙していた。
 
憂「ひとつ聞きたいんだけど」
 
紬「なにかしら」
 
憂「あんたは、人のお姉ちゃんを奪うとき…」
憂「なにを考え、なにを感じているの?」
 
紬「別になにも」
 
憂「」
 
憂の頭の中が怒りで赤く染まった。
 
憂「クズめ」ゴオオオオォ
怒りのオーラが天に向かってほとばしった。
 
憂「氏で償え」

憂「」ぐぐ…
 
紬「」ぐぐぐ…
 
2人が腰を落とし、今まさにどちらからともなく攻撃をしかけようとしたーーーーー
その時だったーーーーーー
その場に、とてともなく巨大な異変が起きたのであるーーーー

71: 2011/03/05(土) 23:32:30.61
ず ん 
 
紬律澪「!!!!!」
 
憂和純「!!!!!」
 
6人は、まるで地震が起きたのかと思った。
しかし違った。
揺れたのは、震えたのは、大気だった。
 
そして砂浜の大気が、明らかに異常だった。
重くのしかかってくる、そんな禍々しい空気。
 
紬律澪(まさかっ!!!!)
 
そして鬼側3人が、その異常事態の原因に気付く。
 
紬「」ばっ!
 
紬が、上空を向いた。
 
憂も、紬と同じ方向を向いた。
 
憂の目に入ったのはーーーー空中に浮かぶ、4人の女たちだった。
 

73: 2011/03/05(土) 23:34:44.38
紬「デスデビル…!!」
(くっ…もう見つかるなんて…!)
 
憂「デス…デビル…?」
(これが…)
 
律「くそっ!!!」だだっ
律が和そっちのけで紬の方へ走り出した。
 
和「!?」
 
澪「そんな…!!」だだっ
澪も走った。
 
純「…!!」
(なに…あいつら…浮いてる…!?)

キャサリン「…」
 
クリスティーナ「…」
 
ジェーン「…」
 
デラ「…」
 
デスデビルの4人が、不適な笑みを浮かべながら、見下ろしていた。

74: 2011/03/05(土) 23:38:21.55
キャサリン「さてムギちゃん…お取り込み中のところ悪いんだけど」 

そしてデスデビルのリーダー格だと思われるキャサリンが、口を開けた。
 
紬「…!!」ゴゴゴゴ
 
キャサリン「これから言う質問に正直に答えてちょうだい」
 
憂「…!!」ゴゴゴゴ
 
キャサリン「… ユ イ エ ル は…どこかしら?」
 
憂「!!!」
(…ユイ…エル…?)
 
紬「…」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
 
キャサリン「…」ゴゴゴゴゴゴ
 
憂「…」ゴゴゴゴゴ
 
海風がーーーその場にいる全員の髪をーーーなびかせていたーーー
 
この日ーーー
憂はーーーーー
己の宿命の敵とも言える存在とーーー
邂逅を果たしたのであるーーーーーー
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーTO BE CONTINUED>>

76: 2011/03/05(土) 23:46:18.07
ーーー次回予告!---
 
『大人しくユイエルを渡しなさい』
ーー突如現れた 最 凶 の 敵 !!!---
 
『敵の敵は味方…ってわけね』
ーー人類最強と金獅子がまさかのタッグ!?----
 
『唯先輩!逃げるです!』
ーーこのツインテールの少女はいったい!?----
 
『久しぶりねキャサリン…』
『私たちの可愛い娘に…随分なことしてくれてんじゃないの』
ーーーあの2人が参戦!?----
 
『氏海文書に記された7大天使はあとアズニャエルとジュンダルフォン』
『よくも…お姉ちゃんを…』
『8番目の…天使…!?』
『ギー…太…?…なんだっけ…それ…』
『ぴゅあぴゅあ波ァーーーーーッ』
『ついにこの日が来たわ!ユイエルの覚醒よ!』
ーーー 物 語 は 加 速 す る !!!---

『澪のことか…澪のことかぁーーーーーーっ!!!!』
『唯ぃいいいいいいい!!!!!』
『もう…これで…終わってもいい…だから…ありったけを…』
『奴らの目的はマッディ・キャンディを起こすことよ』
『…ぶっ潰す』
ーーー乞う、ご期待!!!!

77: 2011/03/05(土) 23:51:12.73
かきふらい「…と、ここからバスタードみたいに黙示録も絡めて行こうかなと」
 
担当「…お前最近夢枕獏の小説読んだろ」
 
かきふらい「はい。参考にしました」
 
担当「参考ってレベルじゃねーぞ。戦闘シーンほとんど丸写しじゃねーか」
 
かきふらい「まぁ細かいことは置いといて…どうです?春から再開するけいおんはこういう路線で行こうかなと」
 
担当「これけいおんのキャラでやる必要あんの?」
 
かきふらい「けいおんだから良いんですよ。憂が唯を想う気持ち、HTTの絆も、もう皆知ってるじゃないですか」
 
担当「ふ~む…」
(ツッコミ所はいくつかあるが…下手に大学編とかやってグダグダになるよりは…)
(それにこういう萌え系本格ハードアクションも良いかも知れない…)
(クレイモアみたいに女剣士の戦いはありがちだが…女の子の素手ガチバトルは斬新かもな…)

担当「わかった!ちょっとこれでやってみようか」
 
かきふらい「やった♪」
 
ーーーーーーおしまい

79: 2011/03/05(土) 23:54:24.50
乙うい

引用元: 憂「…ぶっ潰す」