1: 2011/04/07(木) 19:12:23.08
○注意事項
・魔法少女まどか☆マギカを元にした二次創作SSです
・たまに誤字、人称の間違いがあるかもしれませんが指摘してくださればありがたいです
・オリキャラが出張りまくるので嫌な人はブラウザバック
・キャラが崩壊するかもしれませんがその辺は多分仕様です
・不定期更新です、期待しないように
・自分理論で設定がなんやかんやするのにもご注意
・途中で挫折しそうになったら自分でHTML化依頼出すのでご心配なく
・ほむほむ
2: 2011/04/07(木) 19:24:37.25
「さあ、願うんだ鹿目まどか。その願いは君に絶対的な力をもたらすだろう」
白く、奇妙な小動物が桃色の髪の少女―――鹿目まどかに告げる。
自身の目的の為に、契約を迫る。
「ね…がい……」
まどかは少しだけ迷ったように顔を俯かせたが、すぐに顔を上げて目の前の小動物に目を向ける。
その瞳には、力強い意思がこもっていた。
「まど、か……!」
強大な敵との戦いによって地面に落下しながら、黒髪の少女はまどかに呼び掛ける。
だが、声は届かない。
「私の、願いは――――」
声の後に、少女の体が光に包まれる。
そして。
「だ、めぇぇぇぇえええええええええええええええええええええっ!!」
ただ、無意味な叫び声が響き渡った。
3: 2011/04/07(木) 19:36:12.54
ここは、どこだろう
そうだ、わたし、魔女を倒して……どうしたの、かな
―――あ、あの髪の長い子、助かったんだ。
よかったぁ……でも、どうしてうれしそうじゃないんだろ、ほむらちゃん
あれ、今、名前……さやかちゃん、マミさん、杏子ちゃん
そっか、そうなんだね
ごめんね、ほむらちゃん
こんな姿になる前に気付いてたら、手伝ってあげられたのに
あ、でもわたしが手伝うのは嫌がるんだろうな
……また、戻るのかな
ああ、わたしももう駄目だな
壊したい、こわしたい、コワシタイ
……ねえ、神様
もし居るとしたら、みんなを助けてほしいな
もう、こんなことにならない世界が欲しいな
願い事はひとつって言われたのに、わがままだな、わたし
4: 2011/04/07(木) 19:46:09.62
黒髪の少女、暁美ほむらが魔法少女としての力を行使する。
時を遡るために。
彼女は何度でも繰り返す。
自分にとって唯一の親友を救うために。
その意思は、並大抵のものではない。
少なくとも、その願いは彼女の持つ力以上のエネルギー足りうるものである。
だが、だからこそ気付かない。
親友が氏ねば自分が悲しむのと同じように、自分が氏ねば親友が苦しむことに。
どれほど距離を置こうとも、それが変わることは無いということに。
―――その親友の願いもまた、時を遡るほどの力を持っているということに。
6: 2011/04/07(木) 20:03:21.75
「……ん」
光を感じて、目が覚める。
どうやら、自分はあの時より過去の時間にいるらしい。
「ここから、かぁ……ま、ほむらちゃんもこの辺りに戻ってくるんだろうしちょうどいいかな」
んん……と少女は伸びをし、そして、自分の姿に気付く。
「……この顔って、マズイよね」
仮にも使い魔なんだし、一般人からは見えないようにできるよね、と少し心配げに思うが、正直よくわからない。
「さてと……まずは移動しないといけないな、さもないと―――」
「………夢オチぃ?」
「やばっ!?」
慌ててベッドの下にもぐる。
そう、ここは鹿目まどかの部屋なのだ。
7: 2011/04/07(木) 20:16:16.86
(ふぅ……ヤバいヤバい、主に見られたら一番まずいでしょーよ)
そう思って、少し疑問が湧く。
自分を生み出したのはこの鹿目まどかのなれの果て―――クリームヒルト・グレートヒェンだ。
なら、自分は彼女を主と呼ぶべきなんだろうか、という無駄な考えなのだが。
そうこうしているうちに、バタン、と扉の閉まる音がする。
どうやら、考え事をしている間に主(仮)は部屋を出たらしい。
「……うーん、ま、今決めなくてもいいかな」
それにしても、と使い魔は溜息をつく。
「よりにもよってこの姿かぁ、ま、理由は大体わかるけど」
その姿は、まさに瓜二つだった。
この部屋に住んでいる、鹿目まどかと。
9: 2011/04/07(木) 20:34:32.20
魔法少女になる前は、自分を何もできない人間だと思い込んでいた鹿目まどか。
だからこそ、使い魔である自分は主と寸分と違わない姿になったのだ。
「なんでも簡単にこなして、みんなを助ける理想の自分がコンセプト、って感じかな」
そう言う使い魔の顔は笑っていた。
この顔は不便ではある。
だが、忠誠を誓うべき主と同じ顔、というのは実際うれしいものだった。
「……まずはどうしようかな」
自分の使命は主の願いを叶えること。
だがしかし、その願いが厄介である。
『みんなを助ける』こと、それは誰か一人が欠けてしまえば叶わない。
そこで、ふと気付く。
既に、自分と同じく未来を変えようとする者が居たことに。
「よっし、ほむらちゃんをストーキングしよう!」
主がパソコンしてる最中に窓から話しかけるストーカーをストーキングなんて面白そう、という動機も有った。
だが、使い魔はどのように立ち回れば効率的に助けられるか、という冷静な思考のもとに判断している。
10: 2011/04/07(木) 20:46:35.41
「そうと決まれば、出発進行!」
おー!、と右手を天に突き上げながら、使い魔は壁に突っ込んで――通り過ぎた。
いきなり生み出されたとはいえ、自分にどういう能力が備わっているかは大体理解できた。
ならば、あとはそれを使うのみ。
壁を抜け、外に出た使い魔は地面を踏み締めて、そのまま強く蹴る。
鹿目まどかがなりたいと願う『完璧な自分』。
その能力が、使い魔にはそのまま備わっていた。
そして、使い魔が主から託されたのは能力だけではない。
それは、願い。
儚くて、おぼろげで、切ない、それでも強い願い。
使い魔は進む。
その願いを叶えるために。
それが、自分の存在意義であるから。
16: 2011/04/08(金) 23:55:55.96
「―――暁美、ほむらさんですね?」
「はい」
職員室。
凛、という表現がピッタリな様子で、黒髪の少女が返答をする。
転入届であろうか、何やら名前を確認された教師に書類を渡している。
「あら、心臓の病気で入院ですか……体育とかは問題なく受けられるんですか?」
「はい、医師からは処方した薬を飲んでさえいれば問題無いと」
真面目な子だなぁ、いえいえ、緊張してるんでしょう、と周りの教師が噂をする。
無論、ほむらにも聞こえているわけだが、彼女にとってそれは気に留めることではない。
何故なら、彼女の目的は勉学に励むことでも、部活に熱心に取り組むことでもなく、
たった一人の友人を守る、ただそれだけだからだ。
だからこそ、周りがどう反応しようと、彼女にとっては何の意味も無いのだ。
「では、教室に行きましょうか」
「……わかりました」
―――それを窓から見つめる視線が一つ。
17: 2011/04/09(土) 00:18:01.43
「わお……一回目の主の記憶じゃあ内気な感じだったのに、随分なクールビューティーになっちゃって」
『まどか』の使い魔である。
彼女の姿は魔法少女、及びその素質がある者にしか見えない。
この学校でそういう人間は、まどか、さやか、マミ、ほむらだけなのだ。
たった4人から隠れることなど、使い魔の少女にとっては朝飯前だ。
少なくとも、隠れるべき相手の感想をゆっくり述べられる程度には余裕だった。
「にしても、どうやって接触しようかなぁ、今のほむらちゃんじゃ普通に警戒されるよね」
その言葉通り、暁美ほむらは一種の人間不信に陥っていた。
使い魔の自分なんかが接触すればヘッドショットとか決められるんじゃないかな、などと考えている内に、
「―――あ、いいこと思いついた!」
言いながら、ぐっと拳を握ってガッツポーズをする。
ここに誰かがいれば、少女のストッパーになっただろうか。
否、それはおそらく彼女の主、まどかでも無理だろう。
「ほむらちゃんの窮地を救っちゃおう!」
後先を考えないのは、主に似たのだろうか。
19: 2011/04/09(土) 00:38:55.14
だが、彼女は別段おもしろがってやっているわけではない。
ほむらの窮地にまどかと同じ顔の自分が駆けつければ、
『一度目』の主を思い出して好印象を持ってもらえるかも、という打算のもとの考えだ。
「さて、と……まあ問題は、窮地に陥りにくそうなんだよねー、ほむらちゃん」
そして、方法に対しての障害。
暁美ほむらは、魔法少女としては既にこの世界を『三周』しているのだ。
四周目に至っては、『ワルプルギスの夜』以外のほとんどの魔女に圧勝してしまっている。
そんな少女が、普通の魔女相手に追い込まれはしないだろう。
「……ま、いざとなれば主のピンチでもいいかな」
使い魔が主の危険を願う、というのもまた妙な話だった。
確かに、使い魔である彼女にとって主の安全は最優先事項の一つである。
だがしかし、主から課せられた使命を果たすことも、また最優先である。
最低限のラインを守れば、どちらかを達成するために、もう一方を犠牲にすることも仕方は無い。
さらに、彼女の主は自己犠牲である部分もあったので、どちらが優先されるかは容易に想像がつくものだ。
「とりあえず、ストーキング続行っと。機会はいずれ回ってくるだろうし」
20: 2011/04/09(土) 00:42:31.35
とりあえず一区切り
す、進まない…
諸々の確認の為に漫画版買おうと思ったけど売り切れだったよ
まあifだから本編とは違うものではあるんだが
それでは
24: 2011/04/09(土) 14:08:46.37
「―――ひ、」
声を上げると同時、小動物の体が弾け飛び、残骸が辺りに散らばる。
それを、どこまでも、どこまでも冷たく見つめるのは、暁美ほむら。
とん、と軽い音と共に、先ほどのものとまったく同じ小動物が地面に降り立つ。
ほむらがその方向に振り向くと同時、小動物は逃走の為に駆け出す。
追いながら、少女は魔力の塊を射出し、標的を仕留めようとする。
だが、いくら肉体が強化されていても、特殊な力を持っていても、中身がソレに追いついていない。
元が女子中学生なのだから、小さな、素早く動く目標を確実に仕留めるのは難しかった。
無論、困難であるだけで、不可能というわけではない。
それに、彼女には切り札がある。
この小動物一体相手に使うには、勿体無いほどのカードが。
だが、彼女の目的は殲滅ではなく防衛だ。
標的が特定の存在に接触するのを防ぐこと。
つまり、目の前の相手を確実に消す必要は無く、ただ追っているだけで問題は無い。
だが、彼女は失念していた。
標的もまた、切り札を持っていることを。
25: 2011/04/09(土) 14:27:37.80
ガゴォン!!という音と共に、床が抜け、その穴から小動物が落ちる。
チ、と舌打ちをしながら遅れて自らも穴に没する。
とん、と地面に降り立ち、顔を上げる。
「―――あ、」
思わず、声を上げてしまう。
そこに居たのは、
何よりも憎々しい小動物を抱き上げているのは。
自分が助けると誓った少女、鹿目まどかだった。
「……そいつから、離れて」
コツ、コツと靴音を響かせ、近付きながら呼びかける。
もしかしたら、初対面の小動物よりは、少しは話したことのある、
クラスメイトを信用してくれるかもしれない、という期待を少しだけ抱きながら。
だが、世界はそれほど優しくはない。
「ほむらちゃん……ダメだよこんなことッ!」
26: 2011/04/09(土) 14:43:13.96
「どいて、あなたを傷つけたくはないけど、どかないと言うなら―――」
「まどかッ!!」
ブ、シュゥゥウウ、という音と共に、白が撒き散らされる。
美樹さやかが、消火器を使って、薬剤を辺りに撒き散らしたのだ。
勿論、ソレは魔法少女はおろか、人間に対しても有効なダメージを与えられるとは言えない。
だが、隙を作ることはできる。
「く……!」
「逃げるよ、まどか!」
さやかがまどかの手を引き、全速力で走る。
「逃がさ、なーーー!?」
ほむらも追いかけようとするが、突如、周囲の空間が一変する。
「相手をしてる場合じゃないのに……ッ!」
魔法少女の敵、魔女の―――否、正確には使い魔の結界だ。
27: 2011/04/09(土) 15:09:53.96
(あっちゃあ、何やってんのほむらちゃん、このままだと印象最悪だよ?)
それとも、今回は嫌われながら進めてく感じなのかな?と思案もしてみる。
だが、それはあまりにも非効率的だ。
あの小動物―――キュウべえとまどかが接触してしまった今、契約を止められるのはほむらしか居ない。
もし契約を止めようとしても、信用が無ければ話を聞いてもらえはしない。
ならば、今回のはただのミスだろう、という結果に落ち着く。
もう少し物腰柔らかに、フレンドリーに他人と話せれば、ほむらが目的を達成するのは容易だろう。
だが、彼女の圧倒的な対人経験の低さを鑑みれば仕方のないことである。
そこで、まどかの使い魔は、もう一人近付いてきているのに気付く。
「魔法少女……マミさんかな、こりゃマズイや」
巴マミは孤独である。
ゆえに、キュウべえを友人として、パートナーとして好意的に見ている。
「せめてほむらちゃん自身が二人を助ければ、まだマシな結果に落ち着くんだけどなぁ」
だが、起きてしまったことは仕方ない。
それに、この程度ならばまだ挽回できる。
「さて、と……タイミングを逃さないようにしないと、ね」
28: 2011/04/09(土) 15:28:22.63
使い魔たる彼女の使命は、魔法少女、及びその素質を持つ少女たちの命、そして心を救うこと。
その為には、少女たちにいがみ合っていられては困るのだ。
彼女が使命を果たすには、多くの障害を越えなければならない。
ならば、常に最も効果的な一手を選ばねばならないのだ。
さらに、タイムリミットも、一気に詰むような敗北条件まであるのだ。
彼女が、ベターでなく、ベストの選択肢を選ばねばならないのは、仕方のないことだろう。
だが、彼女はまどかの使い魔だ。
主の記憶から、ある程度この先を予想できる。
巴マミは確かに優秀な魔法少女だ。
だが、その真価は本当の仲間が居ない今、発揮できるものではない。
そこに、付け入る隙はある。
それこそが最良の選択肢であることを、彼女は確信していた。
29: 2011/04/09(土) 15:46:06.13
―――数日後
病院に取り付いたグリーフシードを、まどかとさやかが発見する。
まどかがマミを呼びに走り、さやかがキュウべえと共にその場に残る。
(勇敢なのはいいけど……ま、やっぱり無謀な所があるよね)
それが、使い魔のさやかに対する評価。
美樹さやかが、他人に思いやることができるのは確かだ。
だが、それ以上にさやか自身の心が弱い。
さやかもまた、マミと同じく支えが無ければやっていけないのだ。
たたた、と足音が聞こえる。
まどかがマミを連れて、戻ってきたらしい。
そのまま二人は結界の中に入って行こうとする―――が、
「……またあなたね、暁美ほむら」
30: 2011/04/09(土) 16:05:22.95
「今度の魔女はこれまでとは訳が違う、だから―――」
「あなたに任せて手を退け、って言うの?そんなこと、信用できないわね」
瞬間、シュバァッ!!と四方から、マミの魔法がさながらリボンで飾り付けをするように、ほむらを拘束する。
「な……く、こんなことをしてる場合じゃ……!」
「おとなしくしてれば、帰りに解放してあげるわ―――行きましょ、鹿目さん」
「……はい」
「―――待ちなさい!」
ほむらの制止を聞かず、二人は駆け出す。
取り残されたほむらは、悔しそうに、顔を俯かせるだけだった。
魔女の結界が、辺りの景色を変えていく。
それと同時に、本来ここに居るはずのない、イレギュラーが乱入する。
―――まどかの使い魔たる、桃色髪の少女が。
31: 2011/04/09(土) 16:17:01.12
ほむらは先ほど『今度の魔女はこれまでとは訳が違う』、そう言った。
つまりそれは、巴マミ単体では、勝ち目が無いということ。
そして今、まどかも、さやかも契約をしてはいない。
巴マミは孤独のまま。
舞台は整った。
さあ、変革を、救済を始めよう。
ここが物語の始まり。
ここから先に悲劇などは無い。
何故なら、最悪の、最大の力を持つ者の願いがある。
だからこそ、その使い魔たる彼女に湧きあがるのは―――歓喜。
ようやく使命を果たすことができる、そのことに対する喜び。
それと共に、彼女は地に降り立った。
32: 2011/04/09(土) 16:27:13.81
降り立った人影にほむらが反応する。
その前に、使い魔は動いていた。
巴マミの魔法で出来た黄色のリボン。
それを馬鹿正直に千切ろうとするのは愚の骨頂だった。
ならば、支えを崩せばいい。
少女の動きは、まさに一瞬だった。
お菓子で出来ている、リボンの発生している箇所を砕く。
戒めの解けたほむらに、使い魔は、できるだけ好印象を持ってもらえるような笑顔を向けた。
しかし。
「あなた、は―――!」
だが、それはほむらを混乱させる材料にしかならなかった。
それもそのはず。
その顔は、鹿目まどかとまったく同じものなのだから。
33: 2011/04/09(土) 16:34:55.06
使い魔は、はぁ、と溜息をつく。
本当に、この顔は面倒だ。
もしかしたら、ほむらはまどかが契約したのか、と思っているかもしれない。
「まさか、まどか……ッ!」
ほむらの顔に、焦りが浮かぶ。
彼女にとって、まどかが契約するのは絶対に避けるべき事態だ。
もっとも、使い魔にとっては、ちょうど予想した反応が返ってきて面白いのが本音なのだが。
「ああ、違うよほむらちゃん。私は『鹿目まどか』じゃない」
「それは、どういう……」
「……そうだね、言うなれば私は―――」
34: 2011/04/09(土) 16:35:32.38
「――最悪の魔女の手下、その役割は救済」
35: 2011/04/09(土) 16:48:50.61
え、とほむらがあっけにとられた顔をする。
無理も無い。
いきなりまどかと同じ顔の少女が、「使い魔」です、などと言えば混乱する。
それに、最悪の魔女。
それは、前の世界で、ほむらがキュウべえから聞いた単語。
その情報を処理するのは、今、この瞬間では難しかった。
だからこそ、これ以上は語らない。
「―――早くしないと、マミさん、氏んじゃうよ?」
「ッ!」
その言葉で、ほむらが一気に現実へと帰ってくる。
だが、彼女は自分の正体を突き止めようと考えているらしく、こちらから目を離せない。
「……言っておくけど、助けるのは私じゃなく、ほむらちゃん。私はこれ以上行動するつもりは無いよ」
な、とほむらは言葉に詰まる。
目の前の少女の目的が何であるか、まったくわからなくなったから。
「続きはまたの機会に……じゃ、がんばってね!」
とん、と地を蹴りその場を離れる。
同時に、ほむらも結界の最奥へと駆け出した。
36: 2011/04/09(土) 17:08:06.30
使い魔は、ぐ、と力を込め、壁に思い切りぶつかる。
彼女は最悪の魔女の使い魔。
結界を破り、外に脱出するのは容易にできた。
「さて、と……うまくいけばいいんだけど」
そうは言っていても、使い魔には、ある種の確信があった。
まどか以外の犠牲は厭わない彼女が、わざわざ巴マミと魔女の交戦を避けたのだ。
巴マミを放置し、まどかに危険が及べば戦闘する。
その方が簡単な方法であるのに。
だから、問題は無い。
彼女たちはきっと、協力することができるだろう。
巴マミという仲間を持ちながら、まどかの契約を防ぐのに適したポジションに位置する。
今までの世界と比べて、良好な展開であるのに間違いは無い。
勿論、巴マミが生きることによって障害も発生する。
だが、それを超えなければ、主の願いは果たし得ない。
まだまだ、困難は始まったばかりだ。
だが、一つの大きな壁は超えられた。
使い魔は満足げに、病院をあとにした。
44: 2011/04/09(土) 20:41:24.89
「―――本当に、傍にいてくれるの?」
「はい、わたしなんかで良かったら……!」
涙を拭いて、しっかりと後輩になる少女を見つめる。
そう、自分はもう一人じゃない。
彼女が、鹿目まどかがいるのだから。
『―――マミッ!!』
キュウべえの切羽詰まった声が、頭に響く。
そうだ、しっかりしないと。
先輩として、この子を支えなきゃならないんだから。
「よぉし、わかったわ―――今日という今日は、速攻で片付けてやる!」
そのまま、マミの姿が変わる。
魔法少女としての、黄色が強調された装束。
「鹿目さん、早く決めないと、願い事はケーキになっちゃうよ!」
「え、ええぇぇえええっ!?」
45: 2011/04/09(土) 20:52:56.55
ふわり、と舞うようにマミは使い魔達の群れの前に降り立つ。
当然、気付いた使い魔は迎撃の為、飛びかかってくる。
だが、マミに焦る様子は無い。
彼女は瞬時にマスケット銃を生み出し、その銃身でもって、向かってくる使い魔を弾き飛ばす。
その勢いのまま、トリガーを引く。
外す道理は無い。
今の彼女に、迷いなど無いのだから。
使い魔を倒せば、また別の使い魔が向かってくる。
それも同じように弾き飛ばし、そのまま打ち抜く。
それは戦闘と言うより、一種のダンスのようだった。
「体が軽い……こんな気持ちで戦うなんて初めて」
再び銃を生み出し、遠距離の使い魔を仕留める。
その戦いには、自信が、安心が満ちていた。
「―――もう、何も恐くない!」
46: 2011/04/09(土) 21:02:23.16
使い魔を一掃し、まどかの前に降り立つ。
彼女がいれば、自分は一人ではないから。
だから、その手を引いて、最奥に向かう。
「―――マミさん、まどかっ!」
「ふふ、お待たせっ」
さやかが、心から安心した、という風な声を上げる。
いつも通りにマミが魔女を倒してくれる、そう思って。
「気を付けて、出てくるよ!」
キュウべえに言われるまま、出現した魔女の方を向く。
それは、ぬいぐるみのようだった。
このお菓子の世界の主にピッタリの外見。
「お出ましのところ悪いけど……!」
マミが、その魔女の降り立った足の長い椅子を、銃身で殴り付けて倒す。
48: 2011/04/09(土) 21:11:30.87
「一気に決めさせて―――もらうわよっ!」
落ちてきた魔女を壁まで吹き飛ばし、弾丸を撃ち込む。
地面に落ちても、追撃。
―――そして。
ぐぐ、とリボンが魔女を拘束し、中空に持ち上げる。
「いやったぁーー!!」
完全な、勝利パターンだ。
後は、決めるだけ。
巨大な銃―――最早大砲、と言うべきであろうソレを生み出し、叫ぶ。
「ティロ―――フィナーレ!!」
ドウン、と打ち出された弾は、魔女を貫き、そして、
「―――え、」
魔女の口内から出現した、巨大なモノがマミの目前に迫った。
49: 2011/04/09(土) 21:17:56.93
「あ……!」
「ひっ……!」
悲鳴を上げられたのは、後ろの二人だけ。
マミは、あまりの出来事に、目を見開くことしかできなかった。
魔女の口内から出現した異形が、大口を開ける。
そこには、まるで鋸の刃のような鋭い歯があった。
マミは、それに対応できない。
ただ、目前に迫る絶対的な『氏』に、身を委ねることしかできなかった。
そして、異形は、そのまま、
その頭に、かぶりついた。
52: 2011/04/09(土) 21:24:50.76
最初に異変に気付いたのは、異形自身だった。
思っていたより、口の中に入れてみると小さく感じるのだ。
その上、その場に落ちるはずの胴体も、そこには無い。
どういうことだ、そう考えた瞬間、
異形が、内側から爆ぜた。
「間に合ったわね」
「……え、暁美、さん?」
マミは、ほむらに横抱きにされたまま、近くの高台に居た。
「……立てる?」
「え、あの……」
そう、無理でしょうね、と呟き、ほむらが姿を消す。
53: 2011/04/09(土) 21:36:01.54
そして、ほむらが青いぬいぐるみの上に出現し、そのまま思い切り踏みつける。
爆発から立ち直ったらしい異形は、あからさまに嫌そうな顔をしながら、ほむらの方へ向かう。
ほむらは、この魔女を一度攻略しており、弱点については熟知している。
赤いぬいぐるみも、口内から出現する異形もフェイク。
本体は、青いぬいぐるみ。
ほむらから本体を守ろうと、異形が猛スピードで向かってくる。
だが、少女にどうようは微塵も無い。
それどころか、クスリ、と笑みまでこぼれる始末だ。
「ええ、そうね、お望み通り返してあげる―――」
ただし、と言いながら、異形の口内に、ぬいぐるみを放り投げる。
「手榴弾のファミリーパック付きで、ね」
その言葉の直後、轟音と閃光が響き、
魔女の残骸が、辺りに散らばった。
54: 2011/04/09(土) 21:37:35.31
そして、ほむらが青いぬいぐるみの上に出現し、そのまま思い切り踏みつける。
爆発から立ち直ったらしい異形は、あからさまに嫌そうな顔をしながら、ほむらの方へ向かう。
ほむらは、この魔女を一度攻略しており、弱点については熟知している。
赤いぬいぐるみも、口内から出現する異形もフェイク。
本体は、青いぬいぐるみ。
ほむらから本体を守ろうと、異形が猛スピードで向かってくる。
だが、少女に動揺は微塵も無い。
それどころか、クスリ、と笑みまでこぼれる始末だ。
「ええ、そうね、お望み通り返してあげる―――」
ただし、と言いながら、異形の口内に、ぬいぐるみを放り投げる。
「手榴弾のファミリーパック付きで、ね」
その言葉の直後、轟音と閃光が響き、
魔女の残骸が、辺りに散らばった。
55: 2011/04/09(土) 21:48:44.93
「す、すっご……」
圧倒的、と形容すべきであろう戦いに、さやかもそう言うしかなかった。
「ほむらちゃん……」
魔女が倒されたことで結界が消え、少女たちと、グリーフシードが残る。
ほむらはそれを拾い上げ、優雅に髪を風に流す。
「あ、ありがとう、ほむらちゃん」
「……あなたが感謝する必要は無いわ」
「ええ、そうね……」
ようやく立ち直ったマミが、ほむらに同意する。
「感謝するべきは私よ……ありがとう」
それと、とマミは感謝に加えて、
「あなたのこと誤解してたみたいね、ごめんなさい」
「別に、私は……」
56: 2011/04/09(土) 22:03:09.05
「……そうだ、うちにおいしいケーキと紅茶があるのよ」
唐突な発言に、ほむらは返答もできない。
何故いきなりそうなるのだろうか。
「祝勝会……っていうわけでもないけど、ちゃんとお礼がしたいから」
「必要無いわ、お礼なんて……」
むぅ、とマミが頬を膨らませる。
寂しがりやの彼女にとっては、にぎやかであればあるほどいいのだろう。
「ねぇ、鹿目さん、美樹さん、二人も来てほしいわよね?」
「え、えぇっと……」
さやかはやはり複雑なのか、返答をしかねる。
だが、まどかはそうではない。
「ほむらちゃん……マミさんの家、行こ?」
「わかったわ」
この間、コンマ一秒での即答。
やはりまどかが大事である。
61: 2011/04/10(日) 14:17:13.88
カシャ、と音を立てて紅茶の入ったカップをソーサーに置く。
こうして巴マミの部屋に来るのは一週目と二週目以来だ。
その時と違うのは、自分のカップの中身が砂糖たっぷりのウバ茶から、ダージリンのストレートになっていること。
美樹さやかがこの場にいること。
そして何より、まどかが契約していないことだった。
「……どうかしら」
「悪くないわ」
「そう、お口に合って良かった」
ふふ、とマミが満足げに微笑む。
実際、二週目では戦闘後のお茶会を楽しみにしていたところもあるほむらだ。
マミの紅茶が口に合うのも当然ではある。
ほむらの物言いが気に入らない者が一人だけいる。
美樹さやかだ。
いくら助けられたとはいえ、先輩に対して不遜ではないかだろうか。
それは生真面目が過ぎるさやかにとって気になる所ではあるのだが、触れないでおいた。
まどかやマミ自身が気にしていないなら、それでいいだろう、という考えだ。
62: 2011/04/10(日) 14:34:27.14
「あ、あのマミさん、契約のことなんですけど……」
そう切り出したまどかに、キッとほむらが視線を向ける。
ほむらにとって、まどかの契約を阻止するのは絶対に果たさなければいけないことだ。
その彼女が、契約に対し過剰に反応するのも仕方は無い。
「ええ、その話だけど……もう少し考えてもらえないかしら」
だが、マミの予想外の返答に目を見開く。
どういうことだ、と。
彼女の性格上、より多くの仲間を求めるはずであるのに。
「また、同じようなことがあれば鹿目さんを守れない……」
でも、とまどかは反論しようとする。
「私なら大丈夫、だって―――ね?」
ちら、とマミがほむらの方向を向く。
なるほど、と視線を向けられたほむらは納得し、
「……そうね、私が巴マミと共に戦う」
63: 2011/04/10(日) 14:50:05.06
実際、それは良好な選択肢ではある。
ほむらがまどかの代わりに戦えば、まどかが契約する事態にはならない。
その上、マミはワルプルギスの夜に相対するための戦力にもなる。
その返答に、ぱぁ、とまどかの表情が輝く。
巴マミが孤独でなくなったことへの喜びだろうか。
それとも、自分とマミが和解したことへの喜びだろうか。
ほむらはそこまで考えて『使い魔』のことを思い出す。
まどかと同じ顔の使い魔。
その上彼女が言い放った、『最悪の魔女、その役割は救済』という言葉。
最悪の魔女とはおそらくまどかのこと。
そして、その手下ということは―――――
「ほ、ほむらちゃん、そんなに食い入るように見つめられると恥ずかしいなって……」
64: 2011/04/10(日) 14:58:28.55
はっと我に返る。
目の前で頬を染めているまどかが実に可愛らしい。
少しずつ、顔の距離を詰めていく。
互いの息が顔にかかる。
あと数センチ。
まどかの肩を掴み、そのまま接近する。
そして、その柔らかな唇に、自身のソレを――――
「す、ストーップ!!」
66: 2011/04/10(日) 15:16:16.43
「て、転校生、アンタまどかにナニしようとしちゃってくれてんのーっ!?」
美樹さやかが、顔を真っ赤にしながら二人を引き離す。
まどかはというと、雰囲気に耐えきれなくなったのか、えへへ…とトリップ状態。
ほむらは不満げな表情をするも、すぐに納得したのか、
「……そう、まずはお友達からだったわね。スキンシップが急すぎたわ」
「そういう問題じゃないってーの!つーか転校生、アンタそんなキャラだった!?」
ぎゃーぎゃーと、ほむらの突拍子もない発言に軽くヒステリー状態のさやか。
だが、それを見ていたマミは、
「楽しそうね……仲間外れで寂しいわ」
「マミさんもズレてます、ズレてますってー!」
突っ込みが自分しかいない空間での苦労人さやか。
彼女の仲間ができるのは、もう少し先である。
そして、
「……訳がわからないよ」
ずっと放置されていた小動物が、ついに部屋から逃げ出した。
71: 2011/04/10(日) 18:48:44.01
さて、とほむらが切り出し、とりあえず場の空気を変えようとする。
直前に暴走しておいて、とさやかが白い目で見ているが、彼女が気にする気配は無い。
「魔法少女について、少し話があるわ」
話題がまともな物になり、さやかがほっと溜息をつき、まどかが現実に戻ってくる。
「魔法少女の力は、言わば兵器。力の扱い方を間違えれば、それは自分に牙を剥く」
そして、まどかに顔を向けながら、
「あなたは特に、ね」
「……え、わた、し?」
突然に話を振られ、困惑するまどか。
ほむらは構わず、そうね、と続ける。
「私や巴マミが拳銃だとすれば―――あなたは核弾頭、と言ったところかしら」
72: 2011/04/10(日) 19:05:56.37
「あ、はは、何言ってるのほむらちゃ―――」
さすがに誇張表現だ、とまどかには思えた。
だが、ほむらの、悔恨と、悲しみが入り混じった表情がその考えを否定した。
「確かに、あなたの能力は高い。異常なまでに、ね」
だけど、とほむらは否定の言葉を使う。
「それがマイナスの方向に働けば、最悪の結果になる―――それを、忘れないで」
「……うん」
最終的には、弱々しい、懇願のようになってしまった忠告。
まどかには、肯定以外の選択肢は無かった。
73: 2011/04/10(日) 19:24:46.24
ふぅ、と安心したように息を吐く。
ひとまずは安心。
後は、『奴』が事あるごとに契約を持ちかけるのにも対策が必要だろうか、と考えを巡らせる。
「あの、ほむらちゃん、全然関係ないことで悪いんだけど……」
「何かしら」
おずおず、といった様子でまどかが提案をする。
思考に没頭するよりまどかが重要なほむらは、即座に返答する。
「えっと、ちゃんと名前で呼んでほしいなって……」
遠慮がちな仕草に、思わず腕が抱きしめようとするが、必氏で抑える。
「よ、呼んでいるじゃない」
「その、フルネームとかじゃなく、ちゃんとした名前で、ね……?」
「どう、して……」
だって、とまどかは続けて、
74: 2011/04/10(日) 19:30:50.27
「わたし、ほむらちゃんともっと仲良くしたいから」
嗚呼、駄目だ。
これ以上は耐えられない。
ほむらはそう判断し、一気に前に踏み込む。
目的に気付いたさやかが、それを阻もうとする。
だが、遅い。
彼女では、到底追いつけはしない。
傍観者であるマミは、あらあらとただ微笑むばかり。
障害は無い。
ならば突き進むのみ。
そして、まどかに手を伸ばし、
そのまま、腕は背中に回し、
強く、強く抱きしめた―――!
75: 2011/04/10(日) 19:36:32.17
「ほ、ほむらちゃん、苦しいよ……」
「ごめんなさい、まどか……だけど、抑えきれないの」
その言葉に、まどかは、ただ、ただ笑って、
「ほむら、ちゃん……やっと、名前で呼んでくれたね」
彼女もまた、ほむらの背に腕を回し、
「嬉しい、よ」
その言葉と共に、彼女は夢の国に再び旅立った。
「まどかァ――――――――ッ!!」
美樹さやかの叫びが、空しく響いた。
勿論、近所迷惑である。
81: 2011/04/10(日) 20:40:30.02
同じ展開を繰り返す、というのは愚の骨頂である。
その内容が、悪ノリしすぎれば、尚更である。
だからこそ、今この時、ほむらの頭に巨大なたんこぶがあるのは当然と言えた。
「……正直、反省してるわ」
「してないでしょ……」
「そう、あなたって鋭いわ、その通りよ」
「否定しろよッ!?」
まるで漫才のようだが、これは二人の素である。
あらあら、本当に仲がいいわね、と笑うマミも素である。
もっとも、今までに比べれば、二人の関係は悪くないのだが。
84: 2011/04/10(日) 20:59:13.64
どちらもまどかの友人。
対話さえできれば、互いを信頼することもできるのだ。
だが、二人にとって、決定的な違いがある。
さやかは、契約してしまえば、後悔に心が耐えられない。
だが、ほむらにとって、契約は願いを叶える過程でしかなく、
その先に、自分自身の幸福を求めてはいない。
そこに据え膳があれば話は別だが。
だからこそ、ほむらはまどかほど重要視しないまでも、さやかの契約も阻止しようとする。
勿論、一番の理由はまどかを悲しませないためだ。
しかし、心の奥底には、ほむら自身も気付かない、他人への思いやりがある。
だから、彼女は忠告をする。
85: 2011/04/10(日) 21:10:13.19
「美樹、さやか」
「ん……何?」
むっとした様子で、さやかが返事をする。
「あなたは、契約しようと思っているのかしら?」
「え!?…えーと、そんなことは……」
はぁ、とほむらは溜息をつく。
この様子では、うっかり契約してしまいそうだ、と思いながら。
「契約すれば、きっとあなたは後悔する。だから……」
「……後悔、ってアンタはどうなんだよ。前に願いごとを聞いてもはぐらかされたけどさ」
その言葉に、ほむらの表情が一気に険しくなる。
彼女の願いを話しても、信じる者はいないだろうから。
たとえ、まどかであっても。
86: 2011/04/10(日) 21:23:48.43
「……そうね、契約したこと自体に後悔は無いわ。そうしなければ、私はここにはいないから」
それに、さやかはふぅん、と返す。
別に、失望や、落胆があったわけではない。
ただ、それ以上の感想を持ち得なかった、それだけだ。
「マミさんと同じ、か……それじゃあ参考にならないなぁ」
さやかに、深入りして聞こう、という気は無い。
そこまでは親しくないし、自分も大きな問題を抱えているから。
「……美樹さやか」
ん、と軽い返事で、さやかはほむらに向き直る。
「後悔は、後になって生まれるから後悔なのよ。物事の先に感じられるものじゃない」
「……肝に銘じとくよ」
「―――ねえ」
先ほどから、会話に入れないでいたマミがようやく話しかける。
「契約と言えば、キュウべえはどこに行ったのかしら?」
87: 2011/04/10(日) 21:34:45.62
「まったく……人間と言うのは本当に理解できないよ」
不満げな口調だが、その表情に、声色に、感情は感じられない。
「まさかイレギュラーの一度の行動で態度が変わるなんて……どうかしてるとしか思えないね」
呟きながら、歩を進めるのはインキュベーター。
「でもまあ、タイムリミットが来れば終わりだ。早くノルマを達成するに越したことは無いけどね」
その役目は回収。
撒き散らすのは絶望。
「悲劇を根付かせるためには、まずは種が必要だよね」
表情に、変化は無い。
だが、もしソレに感情があれば、不敵な笑みを浮かべていただろう。
「適役は―――佐倉杏子、かな」
95: 2011/04/11(月) 20:39:53.64
「……恭介!」
病院の一室に、元気な少女の声が響く。
だが、恭介、と呼ばれた少年は、対極的に陰鬱な表情を浮かべている。
「今日もCD持ってきたからさ、あとで聞いてよね!」
少年は、ただ、返事も返さずに俯く。
どうかしたの、と、少女が心配げに声をかければ、
「―――さやかは、僕をいじめているのかい?」
え、とさやかは固まった。
「なんで今でもまだ音楽なんて聞かせるんだ?嫌がらせのつもりなのか?」
「だ、だってそれは恭介が、音楽好きだから……!」
その返答に、少年の絶望と、憤怒がついに溢れだす。
「―――もう聞きたくないんだよッ!自分で弾けもしない曲なんて!!」
感情に任せて、CDを大切な左手で叩き割る。
97: 2011/04/11(月) 20:52:02.18
「こんな、腕……ッ!」
「や、やめてっ!」
少女が、少年の腕にすがり、必氏でそれを止める。
瞳には、涙さえ浮かべながら。
その涙は、少年の激昂への恐怖からのものではない。
ただ、純粋に、目の前の少年が苦しむことへの悲しみから来るもの。
「大丈夫だよ、きっと治る……諦めればきっといつか―――」
「諦めろ、って言われたのさ」
思わず、言葉に詰まった。
諦めろ、それはつまり―――
「今の医学ではどうしようもないって、ヴァイオリンは諦めろってさ」
少年は、自嘲気味に言う。
彼の夢が、未来が、生きがいが完全に断たれたことを自ら嘲り笑う。
「動かないんだよ、もう……奇跡や魔法でもない限り……!」
98: 2011/04/11(月) 21:01:43.25
奇跡、魔法。
契約、という言葉がさやかの脳内を駆け巡る。
だが。
『後悔は、後になってから生まれるから後悔なのよ』
謎めいた、冷たい口調の少女の言葉が突き刺さる。
だが、後悔とは何だろうか。
目の前で、愛しい少年が苦しんでいる。
自分が代償を払えば、そこから彼を救い出せる。
ならば、この状況では。
行動しなかった方が後悔するのではないだろうか。
少女は、少年に向き直る。
その瞳には、確かな、意思の光を灯して。
99: 2011/04/11(月) 21:04:23.36
「―――あるよ」
窓から入る風が、二人の髪を揺らす。
「奇跡も、魔法も、あるんだよ」
少女は、力強く言い放つ。
その姿を、一匹の小動物だけが見ていた。
100: 2011/04/11(月) 21:16:08.13
夜の街。
桃色の髪の少女と、黒髪の少女が歩いている。
「ふふ……それでね、ママったらパパにジャーマンスープレックスしちゃったの」
「本当に、アグレッシブな家庭ね……」
マミの家でのことで打ち解けたのか、まどかもほむら相手には積極的に話すようになっていた。
ほむらも、少しだけではあるが、笑顔を見せるようになっている。
「あれ、仁美ちゃんだ……この時間はお稽古のハズなのに……」
おーい、とまどかが駆け寄る。
だが、様子がおかしい。
「―――まどかっ!」
ぐい、とほむらがまどかの腕を引っ張る。
そのまま、耳元に口を寄せ、小声で話しかける
「……魔女の口づけよ」
101: 2011/04/11(月) 21:28:13.20
言われてみれば、仁美の首筋に妙なものがあった。
「あら、鹿目さんに、暁美さん。お二人もどうです?」
「どう、って……な、何が?」
「私達、これからいいところに行くんですのよ……」
私『達』、という言葉に眉をひそめるも、すぐに理由は察せられた。
周囲の人間も、仁美と同じような状態になっていたからだ。
「……ええ、ご一緒するわ」
「ほ、ほむらちゃん!?」
動揺するまどかに、ほむらは再び呟く。
「彼女たちが向かう方向に、魔女がいる……案内してもらった方が都合がいいわ」
でも、とまどかが戸惑うが、
「……あなたは帰りなさい、ここから先は危険だから」
102: 2011/04/11(月) 21:35:08.22
だが、返ってくるのは否定の言葉。
「それは駄目だよ、ほむらちゃんを一人にさせたくない……!」
ぐ、と言葉と共に手を握ってくる。
こうなってしまえば、まどかに制止は効かない。
「……私の傍を離れないで」
「……うんっ」
さらに強く、まどかは手を握る。
そのまま、仁美達とともに二人は歩きだした。
103: 2011/04/11(月) 21:52:23.59
着いたところは、寂れた町工場。
魔女を探そうと、ほむらは辺りを見回す。
今のところ、その姿は見受けられない。
どこかに擬態しているのか、それとも少し離れた場所か……
思案している最中、ガシャァァン!という窓の割れる音が響く。
目を向ければ、まどかが何かを窓の外に放り投げたようだった。
それが癪に障ったのか、周囲の人間がまどかを睨みつけ、襲いかかろうとする。
「……ッ!」
咄嗟にほむらは腕を引き、手近な部屋に駆け込む。
ガチャン!と素早くドアを閉めるが、ドンドン、と扉に物がぶつかる音がする。
「ど、どうしようほむらちゃん!?これじゃ時間の問題だよ!」
「……案ずることは無いわ」
その手にある指輪に意識を向けながら、ほむらは言い放つ。
104: 2011/04/11(月) 22:00:26.02
瞬間。
気味の悪い感覚が二人を襲った。
そう、魔女の結界。
テレビのような箱の魔女が、二人をその世界へ誘う。
まどかはそれに驚愕するが、ほむらに動揺は無い。
元々、魔女が目的でここまで来たのだ。
予測済みの展開に、感想を挟む必要は無かった。
そのままほむらは指輪に意識を集中させ、魔法少女へと変身する――――
その前に、
『青』が魔女に突き刺さった。
105: 2011/04/11(月) 22:05:51.24
突然の襲撃に、魔女の対応が遅れる。
そのまま、魔女を急襲した青い少女は標的を吹き飛ばす。
地面へと叩きつけられる魔女。
そして、追撃。
「う、おおぉぉぉぉおおおおおおおっ!!」
ズン…と重い衝撃が響く。
それと同時に、
魔女の結界も、崩壊を始めた。
107: 2011/04/11(月) 22:14:33.19
景色が元に戻る。
そこに佇む、その青は、
「さやか、ちゃん……」
「よっす、まどかと転校生!初めてにしては上出来でしょ、あたし!」
ニカッと、快活に笑う。
ほむらは何か言いたげにするが、思いとどまる。
過ぎてしまったことは仕方が無いから。
「……そうね、でも、まだまだ無駄な動きが多いわよ」
「む、感じ悪ぅー。どうせアンタやマミさんには敵いませんよーだ」
「ま、まあまあ二人とも……」
まどかが止めに入ろうとするが、別にそれは必要ではない。
彼女たちにとっては、喧嘩ではなく普通の会話であるから。
108: 2011/04/11(月) 22:28:24.99
「―――と、いうわけさ。この土地の魔法少女は協力関係にあるんだよ」
むぐ、とお菓子を頬張りながら、赤い髪の少女が怪訝な顔をする。
「なにそれ?ちょぉムカつく」
「僕にも理解しかねるんだよね……だからこそ、君を呼んだのさ」
「なるほど、ねぇ」
ぐぐ、とそのまま少女は伸びをする。
「夢見がちな馬鹿な奴らを、このアタシに教育しなおしてもらいたいってわけだ」
「彼女たちがあの状況だと、僕もいろいろと困るんだよね」
少女は納得しているが、それは小動物の真意ではない。
その証拠に、その白い動物は、質問を肯定も否定もしていないのだ。
「さて、ベテランとイレギュラーってのは面白いけどめんどくさそうだし……」
にや、と少女が笑う。
「手っ取り早く、新人サンからぶっ潰しちゃうか」
122: 2011/04/12(火) 21:34:56.33
「美樹さんが、魔法少女にね……」
「……はい、そうなんです」
うぅん、とマミが悩ましげな声を上げる。
当然の反応ではある。
さやかには、契約はきちんと考えてするように話はしていた。
だから、これほど早く契約に踏み切るのは予想外だったのだ。
「さやかちゃん、すぐ誰かとケンカしちゃったりするけど、優しくて勇気があって、誰かの為ならいつも必氏で……」
「―――魔法少女としては、致命的よ」
そこにほむらが口を挟む。
彼女にとってさやかの契約は好ましくないことだからか、少し疲れたような表情で。
「度を越した優しさは甘さに、蛮勇は油断となる。そしてどんな献身にも見返りは無い」
「でも……」
「だから、私たちが支えてあげないといけないわね」
123: 2011/04/12(火) 21:44:35.68
にこ、とマミが微笑みながら言い放つ。
「彼女は魔法少女としての日は浅い。きちんと私たちがサポートしてあげないと、ね? 暁美さん」
話を振られたほむらは、少しだけ躊躇するも、一応納得したのか、
「……そうね、あんな戦い方では無駄がありすぎるし」
二人の言葉に、まどかは心底安心して息を吐く。
そしてマミは、素直でないほむらを可愛らしく思いながら、まどかに告げる。
「鹿目さん、あなたもね」
「え、わた、し……?」
ええ、と肯定するマミに、まどかは疑問符を浮かべる。
魔法少女でない自分が、どうやってさやかを助けるのか、と。
124: 2011/04/12(火) 21:54:54.63
「確かに、私たちは戦いで美樹さんを守ることはできる。でも、『ここ』はそうじゃない。」
マミは、自分の胸に手を当てる。
「彼女の心を守れるのは多分、あなただけ。だから、あなたも美樹さんを支えてあげて」
そのまま、まどかの手を握る。
まどかは、不思議とマミに力をもらっているような感じを受けた。
「……はいっ! わたしも、さやかちゃんを守ります!」
「ふふ、良い返事ね、それじゃあ―――」
スッとマミが席を立ち、ほむらの方を向く。
「私たちは、パトロールに行ってくるわ。くれぐれも、美樹さんのことお願いね」
ほむらもそれに続き、まどかに意味ありげな視線を向ける。
「わたしは大丈夫だよ、ほむらちゃん……それじゃあ、行ってらっしゃい」
125: 2011/04/12(火) 22:10:01.03
鏡の中の自分を見る。
情けない顔だ。
不安がありありと表情にあらわれている。
ぱちん!と頬を叩き、気合を入れ直す。
それで、先ほどよりはまだマシになった。
「よし、行くよキュゥべえ!」
「……緊張してるのかい?」
ぐ、と図星を突かれてまた不安が増す。
「そりゃあ、ね。一歩間違えればお陀仏だし……でも、ま」
ぎゅ、と手を握りしめ、決意する。
「あたしが戦って、守れる人がいるんなら、やるしかないよ」
126: 2011/04/12(火) 22:23:41.99
たん、と外に足を踏み出す。
いつも見ている風景。
だが、今の魔女との戦いに赴こうとする自分にとっては違うものに見えた。
「……あれ、まどか?」
何故だろう、最近はよく転校生と一緒にいるのに、と考えて少しだけむっとする。
ほむらのことは、心底気に入らない、というわけではない。
言ってしまえば、馬が合わないということだ。
「さやかちゃん、これから……」
「そ、魔女探しのパトロールだよ!」
ふふん、と誇らしげに言い放つ。
対して、まどかはマミの言葉を思い出しながら、
「わ、わたしも一緒に行っていいかな……」
不安げに、提案する。
さやかは、驚いて口を開けたまま静止した。
127: 2011/04/12(火) 22:30:50.14
「だ、駄目かな、さやかちゃん……」
「……ありがとう、まどか。すっごく嬉しい」
す、とまどかの手を握る。
そこで、まどかがはさやかのその手が震えているのを知った。
「やっぱり、さ、心細いっていうのもあるからさ……」
思わず、さやかは苦笑いをこぼす。
親友にまで、こんな姿を見せて情けないと思いながら。
「……一緒に行こ、まどかがいればすごく心強いよ」
「……うんっ!」
言葉の後には、さやかの表情から、不安は完全に消えていた。
139: 2011/04/13(水) 21:40:32.12
街の路地裏。
そこにまどかとさやかは居た。
別に、それ自体はおかしなことではない。
ただ、その風景は気味の悪い緑色に染まっていた。
そこに、
「ぶうぅぅぅうううううぅぅん! ぶううぅぅうううぅぅうん!!」
子供が遊んでいるような声が響く。
見れば、落書きのような、妙な姿の使い魔がそこにいた。
だが、それは速かった。
二人の少女から逃げるように、使い魔は移動していく。
それを見逃すほど、危険な存在を放置するほど、美樹さやかは馬鹿ではない。
手に乗せたソウルジェムに、意識を集中させる。
そして、青い光が少女を包む。
それは、瞬時に魔法少女の装束へと変貌した。
140: 2011/04/13(水) 21:49:58.70
「………ふっ!」
ヴン、とさやかは自身の周囲に剣を生み出す。
先輩である、マミを真似たものだろう。
それを、
「はぁぁああああっ!!」
絶え間なく、使い魔へと連続で投げる。
その戦いは、マミに比べれば非効率的なもの。
だが、使い魔にとっては十分に有効な攻撃だった。
行く先を剣に阻まれ、使い魔の動きが止まる。
そのまま、追撃が飛ぶ。
止まっている使い魔に、それを防ぐ術は無い。
だが、
投げ出された剣は、使い魔の目の前で弾かれた。
141: 2011/04/13(水) 22:03:22.98
「なっ……!?」
完全な横槍だった。
使い魔へ届こうとしていた攻撃は、横からの妨害で防がれた。
「ちょっとちょっとー、何やってんのさアンタ達」
声の主は、赤い少女。
その手にある武器は槍。
おそらく先ほどの攻撃も、その槍で防いだのだろう。
「あれ使い魔だよ? グリーフシード持ってるわけないじゃん?」
鯛焼きを頬張りながら、面倒くさそうに少女は告げる。
「……来たね、杏子」
キュゥべえは、赤の少女を知っていた。
その声色に感情は感じられない。
だが、ソレがもし人間だったなら、不敵な笑みを浮かべていただろう。
142: 2011/04/13(水) 22:15:27.39
「―――あ、逃げちゃう!」
会話の隙に、使い魔は逃走を始めていた。
当然ではある。
その使い魔は、魔法少女に対抗するに及ばないほどの力しか持っていないのだ。
「追わなきゃっ……!」
「だーかーら、やめろっつーの」
ヒュン、とさやかの喉元に槍が突きつけられる。
「何すんの!? あれ放っといたら誰かが殺され……」
「当たり前だろ?」
な、とさやかは言葉に詰まる。
「四、五人喰わせて魔女にすりゃ、グリーフシードも孕むのにさぁ」
赤の少女は、呆れたように言葉を続ける。
片手間に鯛焼きを頬張りながら、さも余裕そうに。
「ったく……卵産む前のニワトリ締めてどーすんの?」
143: 2011/04/13(水) 22:26:01.50
「あんた……魔女に襲われてる人たちを見頃しにする気!?」
「……なんかさぁ、大元から勘違いしてるよねぇ、アンタ?」
「弱い人間を魔女が喰う」
「その魔女をアタシ達が喰う」
「それが当たり前のルールでしょ? ガッコーで習ったよねぇ、食物連鎖ってヤツ?」
「……まさかとは思うけど」
く、と嘲るように赤の少女は言葉を続ける。
「人助けだの正義だの、そんな冗談かます為に、契約交わしたワケじゃないよねぇ?」
その馬鹿にしたような物言いに、さやかの中で、何かが切れる音がする。
自分の願いを、最愛の人の夢を、汚されたような気がした。
さやかにとって、それは耐えがたい屈辱だった。
だからこそ、そのまま地を蹴り、赤の少女へと突撃したのは必然であった。
149: 2011/04/14(木) 18:35:13.39
ガ、ギィィン…!と剣と槍がぶつかる。
剣の主と、槍の主の表情は対極。
必氏と余裕。
「……ちょっとぉ」
赤の少女が、力を込める。
その声色に、怒りや憎しみは感じられない。
むしろそれは、子供の駄々に呆れたようなもの。
「何、すんのさっ!」
ぐ、とそのまま、赤い少女は剣を押しのけ、槍を振るう。
そこで、槍の鎖で繋がれた関節が露わになった。
そのまま、遠心力を利用して、さやかへと勢いよくぶつける。
咄嗟に、剣で受ける。
だが、衝撃を頃し切れない。
さやかは、そのまま、後ろに吹っ飛び、壁へと激突した。
「……ちったぁ頭冷やせよ、トーシロが」
用は済んだ、と言わんばかりに赤の少女は背を向ける。
150: 2011/04/14(木) 18:51:37.52
だが。
「……おっかしーなぁ、全治三カ月ってくらいにはかましたハズなんだけど」
さやかは、立ち上がる。
彼女の契約は、癒しの祈りによるもの。
それが、その異常なまでの回復を可能にしている。
「誰、が、あんたなんかに……」
「あーうぜぇ、チョーうぜぇ、大っ体口のきき方がなってないよねぇ、先輩に向かってさぁ」
「―――黙れぇッ!!」
再び、さやかが赤の少女へと駆ける。
だが、それは届かない。
「言って聞かせて分からねー、殴って聞かせても分からねー馬鹿となりゃ……」
「あとは、頃しちゃうしかないよねぇ!!」
151: 2011/04/14(木) 19:08:23.76
ジャラ、と鎖を利用し、槍を振り回して赤の少女はさやかを迎え撃つ。
両者の力に、速さに大きな違いは無い。
あるのは、経験によって培われた戦闘センスの差。
いくら至高の名剣でも、素人が使えば鉄の塊でしかないように。
いくら安物の剣でも、達人が使えば一騎当千の戦果を上げられるように。
基本的に、戦いの経験が多ければ多いほど、武器の性能を引き出せると言えた。
そして、今、両者の身体能力は互角。
魔法で生み出された得物にも、差はほとんどない。
その中で、戦闘の経験が多い赤の少女が、さやかを圧倒するのは当然と言えた。
再び、吹き飛ばされるさやか。
すかさず、赤の少女は空中へ跳ぶ。
「―――これで、」
そして、
「終わりだよッ!!」
標的へと、勢いよく突撃した。
152: 2011/04/14(木) 19:16:54.60
「……な、に?」
物理的におかしなことだった。
たしかに赤の少女はさやかに槍を振り下ろした。
だが、美樹さやかはそこにはいない。
そして、気付けば現れた、黒髪の少女。
「テメェの、仕業かッ!」
ヴン、と槍を少女に向けて振るう。
だが、既に少女はそこには居ない。
気配は、自分の背後にあった。
「―――そこまでよ、佐倉さん」
とん、とさらに少女が乱入する。
マスケット銃を構えたその少女は、巴マミ。
その瞳は、強く目の前の少女を見つめていた。
153: 2011/04/14(木) 19:25:02.92
「マミさん、転校生……!」
「美樹さん、下がってなさい」
「でも……!」
「下がってなさい」
強い言葉に、思わずさやかがたじろぐ。
「マミに、そっちの妙なのはイレギュラーってヤツか……」
「……佐倉さん、あなたが自分本位な振る舞いをするのは構わないわ」
だけど、とマミは冷たく赤の少女を見つめる。
「それを押しつけるために、私の友達を傷つけるのなら―――」
チャ、とマスケット銃を目の前の少女に向ける。
「そんなの、私が許さない」
154: 2011/04/14(木) 19:36:30.94
「へっ、まあ、ベテランに加えて手の内が見えないの相手はキツイし……」
ス、と上空を見上げる。
「今日のところは退いとく、さっ!」
地を蹴り、壁を蹴り、ビルの上へと跳ぶ。
少女の姿が見えなくなり、ゆっくりとマミが口を開く。
「美樹さん、彼女がいくら気に入らないからと言って、戦っていては魔力の無駄よ」
「……マミさんは、あいつのこと、知ってるんですか?」
「―――佐倉杏子」
今まで黙っていた、ほむらが口を開く。
「効率的に魔女を狩る、長生きしやすいタイプの魔法少女よ」
「まあ、別に悪いことではないんだけどね……」
156: 2011/04/14(木) 19:42:48.84
「そんな、マミさんは、グリーフシードを持っていないからって、使い魔を放っておいていいって言うんですか!」
「……そうじゃないわ、個人的には彼女とは合わない所がたしかにある」
だけど、とマミはさらに続ける。
「彼女は彼女で、精一杯、自分の為に生きてるだけなのよ」
「……でも、」
「そうね、彼女が使い魔を放置するのは問題だわ。でも……」
「その分、私たちが使い魔を倒せばいいじゃない?」
157: 2011/04/14(木) 19:51:15.81
え、とさやかは口を開けたまま静止する。
「彼女は彼女で、私たちは私たち。生き方が違っても仕方ないわ」
「わかり、ました……」
渋々と、一応納得したように引き下がる。
だが、ひとつ、気になることがあった。
「そう言えば、どうして二人はあんな絶妙なタイミングで割って入ってきたんですか?」
「ああ、それね……鹿目さんが、暁美さんに連絡してくれたのよ」
「……まどかが?」
ふ、とまどかの方を振り返る。
そこには、安心はしたけれども、不安の抜けないまどかの姿があった。
「さやか、ちゃん……」
不安げな、声。
自分が怒ると思っているのだろうか、と感じ、さやかからは笑みがこぼれる。
「……ありがと、まどか」
158: 2011/04/14(木) 20:00:33.26
だが、相容れぬ限り、人は衝突を続ける。
大きな家の門前。
家の中から聞こえるヴァイオリンの音色に、さやかは耳を澄ます。
「……何も言わずに退院するとか、幼馴染より音楽がそんなに大事かねぇ」
むぅ、と頬を膨らませるも、それは少しの間だけ。
別に、恭介の音楽馬鹿は今に始まったことではないのだ。
それに、彼が元気でいるのなら、さやかには十分であった。
「会いもしないで帰るのかい?」
バッ、と即座に振り返る。
そこには、先日の少女、佐倉杏子。
「ったく、こんな薄情な男の為に契約するなんてねぇ、男をモノにするにはもっと冴えたやり方があるだろーに」
「……何よ」
159: 2011/04/14(木) 20:06:36.24
「折角手に入れた魔法でさァ、坊やの手足を潰しちまって、アンタ無しじゃあ生きられない体にすりゃあいいのさ」
ぶちん、とさやかの頭の奥で、何かが千切れる音がする。
それは、理性だろうか。
堪忍袋の緒だろうか。
どちらにせよ、彼女を満たしている感情はひとつ。
「そうすry、身も心もアンタのものに―――」
「許さない」
キッと杏子を睨みつける。
「お前だけは絶対に許さない……!」
「そーかい、んじゃー場所を移そうか」
160: 2011/04/14(木) 20:07:39.02
「折角手に入れた魔法でさァ、坊やの手足を潰しちまって、アンタ無しじゃあ生きられない体にすりゃあいいのさ」
ぶちん、とさやかの頭の奥で、何かが千切れる音がする。
それは、理性だろうか。
堪忍袋の緒だろうか。
どちらにせよ、彼女を満たしている感情はひとつ。
「そうすりゃ、身も心もアンタのものに―――」
「許さない」
キッと杏子を睨みつける。
「お前だけは絶対に許さない……!」
「そーかい、んじゃー場所を移そうか」
161: 2011/04/14(木) 20:14:23.19
夜の歩道橋。
二人のほかに人影は無い。
「ここなら遠慮はいらないよねぇ、いっちょ派手にやろうじゃん!」
指輪の宝石が輝き、杏子の姿が変わる。
続けて、さやかもソウルジェムに意識を集中させる。
「待って、さやかちゃん!」
それを止める、声が響く。
「まどか……邪魔しないで!」
「駄目だよこんなの……絶対おかしいよ!」
二人の会話に、杏子は、はぁ、と溜息をつく。
「……ウザい奴にはウザい仲間がいるもんだねぇ」
「あら、随分言ってくれるわね」
162: 2011/04/14(木) 20:20:56.33
さらに、マミとほむらが駆けつける。
「マミさん、転校生……どいて! そいつは……!」
「駄目よ、美樹さん」
二人も加わり、さやかを止める。
だが。
「ふぅん……命令に逆らわない、都合のいい犬ってトコロかい?」
「ッ……舐めるんじゃないわよ!」
静止を振り切り、さやかが戦おうとする。
「―――さやかちゃん、ごめん!」
突如まどかがさやかのソウルジェムをその手から奪い取り、そして、
橋の下の道路へと、放り投げた。
163: 2011/04/14(木) 20:27:47.56
「……ッ!」
瞬時にほむらが魔法少女の装束を纏い、姿を消す。
通りがかったトラックの荷台に載ってしまった、さやかのソウルジェムを回収するために。
「まどか、あんた何、て―――」
「だって……え、さやかちゃん?」
フ、とさやかの目から輝きが消える。
そして、力なく、まどかに寄りかかった。
「お、おい……どうしたんだよ!」
即座にマミが首に手を当て、脈を測る。
だが、どこをどう探っても、結果は同じ。
「……氏んでる」
震える声で、マミが告げる。
「美樹さんが、氏んでる……っ!」
173: 2011/04/15(金) 22:49:24.48
「―――まったく、どうかしてるよねぇ、友達を放り投げるなんてさ」
気付けば、手すりの上に白い小動物がいた。
「どういう、ことだ……」
杏子がソレを睨みつける。
「君たち魔法少女が身体をコントロールできるのはせいぜい百メートルが限度、まあ、こういう事故は頻繁に起こったりしないんだが」
「百メートル……? 一体、どういうことだ!」
「嫌だよ……さやかちゃん、起きてよ……!」
はぁ、と心底呆れたようにキュゥべぇは溜息をつく。
「だからまどか、そっちはさやかじゃなくてただの抜け殻なんだって」
「―――だって、さやかはさっき君が捨てちゃったじゃないか?」
174: 2011/04/15(金) 23:01:41.88
「ただの人間と同じ壊れやすい身体のままで、魔女と戦ってくれなんてことは到底頼めないさ」
「魔法少女にとっては、元の身体なんて外付けのハードウェアでしかないんだよ」
「そして、その本体は魔力を効率よく活用でき、なおかつ安全な姿が与えられている」
「……僕の役目は、君たちの魂をソウルジェムに変換することなんだよ」
「―――てめえ」
ガシィ、と杏子がキュゥべぇの頭部であろう箇所をわしづかみにする。
「それじゃあ……魔法少女は、ゾンビだってことじゃねえか!!」
「むしろ便利だろう? 人体がいくらダメージを受けようと、ソウルジェムさえあれば何度でも再生できるんだから」
175: 2011/04/15(金) 23:10:29.22
「……ひどいよ、こんなのあんまりだよ」
「……」
マミと杏子は、あまりの衝撃に言葉が見つからない。
否、見つける気力も無いというのが正しいだろうか。
「……君たちはいつもそうだね、事実を伝えればいつも同じ反応をする」
「どうして人間はそんなに魂の在り処にこだわるんだい?」
「まったく、訳が分からないよ」
「―――ええ、理解されたくもないわ」
176: 2011/04/15(金) 23:20:54.70
声が聞こえまどかは顔を上げる。
「……ほむら、ちゃん?」
ほむらが青い宝石をさやかの手に置いた時、
微動だにしなかった少女の身体が、ピクン、と跳ねた。
起き上がり、辺りを見回す。
彼女には
まどかが涙を流している、
マミが茫然としている、
ほむらが息を弾ませている、
杏子がキュウべぇに掴みかかっている、
それらの中のどの理由も、
「―――なに?」
理解することはできず、
「何なの?」
それだけしか、言葉は出てこなかった。
184: 2011/04/16(土) 23:06:36.59
世界は絶えず変化する。
たとえ、少女たちが歩みを止めようが止めまいが。
理不尽な運命を、世界は少女たちに背負わせる。
少女たちの持つ選択肢は三つ。
自らの氏を持って、それら全てから逃れるか、
運命を、甘んじて受け入れるか、
―――それとも、立ち向かうか。
185: 2011/04/16(土) 23:18:18.58
「―――あら、あなたも居たのね」
食べ物を口の中に入れたまま、声の方に振り向けば、そこにいたのはマミとほむら。
「いいのかしら? 美樹さんが仕留めちゃうわよ?」
「……今日のアイツは魔女と戦ってる、無駄な狩りじゃないさ」
「意外だわ、そんな理由であなたが獲物を譲るなんて」
ふん、とそっぽを向く杏子が、ふと思い出す。
意外と言えば、相手もそうだった。
「アンタ達だって、昨日はどうして割り込んでこなかったんだい?」
「……なんのことかしら?」
「とぼけんじゃねーよ、アタシが教会にアイツを連れてったの気付いてたろ」
186: 2011/04/16(土) 23:29:35.92
「……そうね、まあ、強いて言うなら、あなたがいい子だからかしら」
ぽかん、と杏子は口を開けて固まる。
「は、はぁ!? 誰がいい子だって!?」
焦る杏子を、マミは面白そうにくすくすと笑う。
「だって、数秒前まで戦おうとしてた相手を心配するような子よ? 悪い子なわけないじゃない」
チッ、と杏子は顔をそらす。
その顔は、真っ赤に染まっていた。
「……手こずってんな、手伝ってやるか」
居心地が悪くなったのか、相手が話しかけてくる前に杏子は魔女の結界に入る。
「……そういうことをするから、いい子なんだけどね」
「―――巴マミ」
187: 2011/04/16(土) 23:41:13.03
「なにかしら?」
「……あなたは、平気なの?」
何が、とはあえて言わない。
何のことかは、わかりきっているだろうから。
「そうね、何も思わないと思ったらウソになる……」
でもね、とマミは続ける。
「私は元々氏んだようなものだし、それほど気にはならないわ……でも、美樹さんは別ね」
「……ええ、彼女は他人を救うために、人を捨ててしまった」
その言い方ならば、ほむらと杏子も同じだった。
だが、ほむらはその運命と戦う決意をした。
杏子は、自業自得と割り切った。
さやかは、それを受け入れた上で、戦おうとしている。
もっとも、それに心が耐えられるかは別の話だ。
「―――私たちも行きましょうか」
「……ええ」
188: 2011/04/16(土) 23:51:58.52
空中に魔方陣を生み出し、それを蹴って魔女へと突っ込む。
だが、それは無謀でしかない。
影の世界の主たる魔女は、背中から大木を生やし、さやかの突撃を防ぐ。
そのまま、大木は少女を飲み込むように成長していく。
「……さやかちゃんっ!!」
思わず、まどかがさやかの名を呼ぶ。
それに応えるように、斬撃が発生した。
十数ほどの一瞬で生み出されたそれは、大木を細切れにする。
とん、とまどかの目の前にさやかを抱えたまま、斬撃の主が降り立つ。
「……ったく、見てらんねーっつーの」
す、と優しくさやかを地に降ろし、槍を構える。
「いいからもうすっこんでなよ、手本を見せてやるからさ」
189: 2011/04/17(日) 00:01:14.23
「…………邪魔しないで、独りでやれる」
「お、おい……」
返事を待たず、魔女へと猛進する。
魔女が反撃を試みるも、遅い。
速度だけで言えば、さやかは魔法少女で最高峰のものを持っている。
ザン!!と祈る女性の影を横薙ぎに両断する。
それで、終わりではない。
両断された魔女が、無数の触手をさやかへと向ける。
至近距離の、複数方向からの攻撃には回避が追いつかなかったのか、さやかが攻撃をまともに受ける。
だが。
「あ、は―――」
「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは――――――ッ!!」
190: 2011/04/17(日) 00:09:27.77
「さやか……アンタ、まさか……」
「―――これは、どういうこと!?」
遅れて来た、マミとほむらがさやかの様子に驚愕する。
「まさか、痛覚を遮断して……」
「おい、もしそうだとしても、身体の方は……!」
「ええ、そうよ、だから回復力に魔力を大量に費やしているはず……!」
「そんな!? それじゃあ、ソウルジェムの穢れが……」
ええ、とほむらは歯を食いしばる。
「……このままだと、彼女は潰れるわ」
191: 2011/04/17(日) 00:15:41.61
「あはは……本当だぁ」
イタクナイ、ゼンゼンイタクナイ。
「その気になれば痛みなんて―――」
デモ、ナンデダロウ?
イタミナンテカンジナイハズナノニ、
「完全に、消しちゃえるんだ!!」
スゴクスゴク、ムネガイタイヨ。
「あはははははは、あっはははははははははははぁ!!」
ダレカ、ダレデモイイカラ、
コノイタミヲトッテヨ、ダレデモイイカラ、
……たすけて
192: 2011/04/17(日) 00:18:02.74
同じ人魚の言葉も、人間の少女の言葉も、人魚姫にとって慰めにもなりはしない。
想いは決して届きはしない。
人魚姫の心に届くのは、王子様の言葉だけ。
けれども、王子様に声は届けられない。
人魚姫に、そんなことはできはしない。
人魚姫は、想いを伝えられはしない。
193: 2011/04/17(日) 00:22:45.87
―――ならば、私が想いを届けよう。
私が救いへ誘おう。
呆れるほどの幸せな結末を、ハッピーエンドを創り出そう。
そこには、迷いも決意さえもいらない。
何故なら、
少女たちの救いそのものが、私の存在理由なのだから。
195: 2011/04/17(日) 00:31:50.49
部屋に響くのは、ヴァイオリンの音。
奏でるのは、上条恭介。
彼がそれを続けているのには、意味がある。
ある少女への、感謝だ。
ヴァイオリンしかない自分が、その唯一の夢さえ無くしかけても傍に居てくれた少女。
その時には、心には絶望しかなく、少女の存在を、煩わしくさえ思っていた。
だが、今思い返せば、自分に尽くしてくれた少女に、限りない感謝の想いが湧きおこる。
だから、自分の感謝を、自分のただ一つ誇れるヴァイオリンで伝える。
入院する前よりも上達して、彼女を喜ばせるために。
ただ、それだけを考えて、彼は弾き続ける。
196: 2011/04/17(日) 00:40:19.64
ぴたり、と演奏がやんだ。
曲が終わったわけでも、彼が疲れたからでもない。
人の気配を感じたからだ。
幼少のころから音楽に打ち込んできた恭介だからこそ、わかるもの。
目で見なくとも、足音が無くとも、少しの息づかいなどで人の気配が察知できる。
自分の部屋に訪れる人間といえば、家族とさやかぐらいしかいない。
もしさやかだったら、未だ入院前のものにも達していないヴァイオリンの音を聞かれるのはまずいな、と思いつつ振り向く。
「……え、」
確か、彼女はさやかの友達だ。
だが、自分の部屋にその少女がいる理由は、理解しようもなかった。
「鹿目、さん?」
203: 2011/04/17(日) 18:53:35.98
「どうして、君が……」
戸惑う様子に、少女は悪戯っぽく笑う。
「残念ながら、ハズレだよ……まあ、生き別れの双子なり、ドッペルゲンガーなり、自由に想像すればいいんじゃないかな」
返事を待たず、少年の額に手を伸ばす。
反射的に恭介はそれを避けようとするも、足の不自由な状態では不可能である。
そして、少女の手が少年の額に達した時、
少年の世界が、暗転した。
204: 2011/04/17(日) 19:01:20.18
『本当に、その願いでいいんだね?』
誰の声だろう。
子供のようだが、妙に理性的な感じがする。
『……うん、あたしは、恭介の腕を、夢を救いたい』
……さやか?
僕の腕って、まさか……
『く、うぅ……』
何だ……
あれは……青い……宝石?
『さあ、受け入れるといい』
……何だ、あの動物?
『……それが、君の運命だ』
205: 2011/04/17(日) 19:08:57.00
『―――さやかちゃん、ごめん!』
これは、鹿目さんの声?
手にあるのは、確かさっきの宝石みたいだけど……
あ、投げ捨てた
『まどか、あんた何、て―――』
『だって……え、さやかちゃん?』
……一体どうしたんだ?
『お、おい……どうしたんだよ!』
……すごい格好だなぁ
『……氏んでる』
―――え?
『美樹さんが、氏んでる……っ!』
どういう、ことだ
206: 2011/04/17(日) 19:13:29.96
『―――まったく、どうかしてるよねぇ、友達を放り投げるなんてさ』
あれは、さっきの……
『どういう、ことだ……』
『君たち魔法少女が身体をコントロールできるのはせいぜい百メートルが限度、まあ、こういう事故は頻繁に起こったりしないんだが』
魔法少女……もしかして、さやかと赤い子のことだろうか
『百メートル……? 一体、どういうことだ!』
『嫌だよ……さやかちゃん、起きてよ……!』
『だからまどか、そっちはさやかじゃなくてただの抜け殻なんだって』
抜け、殻?
『―――だって、さやかはさっき君が捨てちゃったじゃないか?』
まさか、あの宝石は……
207: 2011/04/17(日) 19:17:04.28
「ただの人間と同じ壊れやすい身体のままで、魔女と戦ってくれなんてことは到底頼めないさ」
「魔法少女にとっては、元の身体なんて外付けのハードウェアでしかないんだよ」
「そして、その本体は魔力を効率よく活用でき、なおかつ安全な姿が与えられている」
「……僕の役目は、君たちの魂をソウルジェムに変換することなんだよ」
……つまり、さやかの魂は、あの宝石の中にあるってことか
「―――てめえ」
「それじゃあ……魔法少女は、ゾンビだってことじゃねえか!!」
「むしろ便利だろう? 人体がいくらダメージを受けようと、ソウルジェムさえあれば何度でも再生できるんだから」
……違う
自分の身体は、そんな安いものじゃない……!
208: 2011/04/17(日) 19:19:02.70
※一応『』が「」だったので修正
『ただの人間と同じ壊れやすい身体のままで、魔女と戦ってくれなんてことは到底頼めないさ』
『魔法少女にとっては、元の身体なんて外付けのハードウェアでしかないんだよ』
『そして、その本体は魔力を効率よく活用でき、なおかつ安全な姿が与えられている』
『……僕の役目は、君たちの魂をソウルジェムに変換することなんだよ』
……つまり、さやかの魂は、あの宝石の中にあるってことか
『―――てめえ』
『それじゃあ……魔法少女は、ゾンビだってことじゃねえか!!』
『むしろ便利だろう? 人体がいくらダメージを受けようと、ソウルジェムさえあれば何度でも再生できるんだから』
……違う
自分の身体は、そんな安いものじゃない……!
209: 2011/04/17(日) 19:32:45.90
そして、少年の意識が現実へと帰ってくる。
目の前には、桃色髪の少女の顔。
「―――気分はどう?」
「最悪、かな」
自分の知らない所で自分は救われていて、
その救った少女は、自分の知らない所で苦しんでいる。
それが、どうしようもなく情けなかった。
「彼女に言葉が届くのは、あなただけ。彼女を救えるのは、あなただけ」
少女は少年を力強く見据え、選択を迫る。
「―――あなたは、どうしたい?」
強引であるのは、わかっている。
だが、それでもこれは最良の選択肢だ。
譲るわけにはいかなかった。
210: 2011/04/17(日) 19:39:46.31
「……そんなのは、決まってる」
少年が、一瞬の間を置いて答える。
「さやかは僕を支えてくれた、僕を救ってくれた」
なら、と少年は、力強く目の前の少女を見つめる。
「―――今度は、僕が助ける番だ」
松葉杖を使い、立ち上がる。
その様子に、怪我人の弱弱しさは見受けられない。
そこにいるのは、強い意志を持った、一人の男だった。
「……教えてくれ」
「さやかは、どこにいる」
213: 2011/04/17(日) 19:51:28.59
「さやかちゃん、あんな戦い方、駄目だよ……」
「ああでもしなきゃ勝てないのよ、あたし才能無いからさぁ」
突然降ってきた雨に、まどかとさやかはひとまず屋根のある場所で休んでいた。
「それで勝ったとしても、さやかちゃんの為にならないよ……」
その言葉が、癇に触る。
「……あたしの為ってなによ?」
ソウルジェムをまどかの眼前に突きつける。
「魔女を頃すことしか意味のない石ころのあたしに、何がためになるっていうの?」
「わ、わたしはただ、どうすればさやかちゃんが幸せになれるかって考えて……」
「―――だったらあんたが戦ってよ」
214: 2011/04/17(日) 19:57:08.88
「あんた誰よりも才能あるんだよねぇ、なら、あたしなんかよりずっとうまくやれるんでしょ?」
嘲るように、罵るように、言葉が口から次々に出てくる。
「あたしの為に何かしようっていうなら、まずあたしと同じ立場になってみなさいよ……」
汚い言葉ばかりが、頭の中を満たしていた。
「無理でしょ、当然だよね―――」
「ただの同情で、人間やめられる訳ないもんねぇ!!」
215: 2011/04/17(日) 20:04:50.30
「なんでも出来るくせに、何もしないあんたの代わりにあたしがこんな目に遭ってるのよ」
「―――知ったようなこと、言わないで」
まどかが怯える姿すら、頭にくる。
「さやかちゃん……!」
「ついて来ないで」
即座に拒絶の言葉を告げる。
このままだと、自分がまどかに何をするかわからなかったから。
ばしゃばしゃと、雨水を跳ねさせながら走る。
「―――なんてこと言ってんだろ、もう救いようがないよ」
彼女の頬を伝う雫は、雨粒ではない。
紛れもない、涙だった。
216: 2011/04/17(日) 20:12:32.06
「―――よう」
聞き覚えのある声に、まどかが顔を上げる。
確か、佐倉杏子。
「あなた、は……」
「杏子でいい」
そのまま、杏子は自分の傘にまどかを入れる。
ちなみに、きちんと自分で買ったビニール傘だ。
「あの馬鹿を追いかけるんだろ……行くぞ」
「……でも、」
躊躇うまどかに、溜息が出る。
「―――ああいうのは、無理矢理引っ張らなきゃ言うこと聞かないんだっての」
217: 2011/04/17(日) 20:18:14.89
雨に濡れながら、彷徨い歩く。
「あは……」
それを気にとめることは無い。
「あはは……」
何故なら、その体は抜け殻で、
その少女は、氏人で、
魔女と戦うだけの、石に過ぎないのだから。
だが、
「……さやかっ!」
「―――え、」
そう思っているのは、さやかだけなのだ。
「恭、介?」
218: 2011/04/17(日) 20:24:49.39
杖をつきながら、歩み寄ってくる。
彼もまた、雨に濡れながら。
「どう、して……」
「そんなの、決まってるじゃないか」
安心したのか、それともさやかを安心させるためか、彼は微笑む。
「さやかが、心配だったからだよ」
愛する人に、優しい言葉をかけられる。
本来なら、喜びが湧きおこるはずだ。
―――本来なら。
「……心配なんていらない、あたしはもう、人間じゃないから」
冷たい口調で答えながら、ソウルジェムを突き出す。
「あたしはもう、ただの石ころでしかない。心配される資格なんて無いんだから……」
219: 2011/04/17(日) 20:36:58.32
「―――でも、さやかは今、僕と話してるじゃないか」
「それは、ここにソウルジェムがあるから……」
言葉に詰まるさやかに、恭介はさらに詰め寄る。
「……僕が入院した時、周りの人がどうしたか、知ってるかい?」
ふるふる、とさやかは首を、弱弱しく横に振る。
「前まで僕を天才だ何だって騒いでた雑誌の記者は、ぱったりといなくなった」
「同じヴァイオリニストだって、僕に見向きもしなかった」
「極めつけは、仲の良かった友達だって見舞いに来なかった……まあ、生意気だって思ってたんだろうね」
「……そんな」
でも、と恭介は続ける。
「君だけは、いつも僕に会いに来てくれた」
220: 2011/04/17(日) 20:48:22.97
歩み寄る恭介に対し、さやかは思わず後ずさる。
「ヴァイオリンしかない僕が、その唯一すら無くしかけても、いつも君は傍にいてくれた」
「でも、迷惑だって、嫌がらせなのかって……」
ああ、と思い出し、恭介は恥ずかしそうにはにかむ。
「確かに、そう思ったこともあったさ。でも、今は違う」
強く、ただ強く、恭介はさやかを見つめる。
「君がいたからこそ今の僕がいるんだ……」
「そんな君が、人間じゃないはずがない」
さらに恭介はさやかに近付く。
「でも……でも……っ!!」
なおも自分を否定するさやかに、このままでは埒が明かないと悟る。
迷わず恭介は杖を片方投げ捨て、空いた手でさやかの腕を掴む。
そして、そのままさやかを自分の方に引きよせて、
221: 2011/04/17(日) 20:57:48.05
―――力強く、抱きしめた。
「今度は、僕がさやかを支える」
逃がさないように、さらに力を込める。
「僕がずっと傍に居る。他の誰が君を認めなくても、僕が認める」
今まで激しく降っていた雨が、急におさまりはじめる。
「だから、もう大丈夫だよ、さやか」
さやかは、涙でぐしゃぐしゃになった顔を、恭介の胸に押し付ける。
涙の理由は、寂しさでも、苦しさでもない。
ただの、安心、それだけだった。
少女の心を表すように、空が晴れる。
月明かりが、ただ、二人を優しく照らしていた。
224: 2011/04/17(日) 21:05:24.42
「……ったく、心配して探しに来たらお取り込み中かよ」
そう言いながらも、杏子の顔には笑みが浮かんでいた。
こういうのも、悪くないと言いたげに。
「さやかちゃん……良かった……!」
安心し、まどかにも安どの笑みが浮かぶ。
その視界に
『自分』の姿が、確かにあった。
「―――え?」
姿は自分と寸分も違わない。
だが、そこに鏡があるわけではない。
確かに、『自分』がそこにいるのだ。
「……あ、待って!」
背を向けて、『自分』が走り出す。
その姿は、瞬時に暗闇へと消えていった。
225: 2011/04/17(日) 21:13:13.51
「……なるほどね、僕が気付かないわけだ」
どこからともなく、白い小動物が現れる。
「はじめまして、でいいのかな? インキュベーターさん」
少女が、敵意をむき出しにする。
「まどかと同じ魔力を持つがゆえに、まどか自身をジャミングとして扱うとは、恐れ入ったよ」
「……それはそれはご丁寧に、私の妨害はお気に召したようで」
「ああ、君のおかげで魔女も生産できず、まどかとの契約も達成できていないよ。まったく、やってくれるね」
でも、と小動物は余裕を崩さない。
「もうすぐタイムリミットだ。それで全ては終わりだよ」
「……ワルプルギスの夜、か。4人もいるのに、超えられないとでも?」
226: 2011/04/17(日) 21:25:27.68
「……おや、もしかして君は、アレがただの魔女だと思っているのかい?」
「―――え?」
意表を突かれ、呆然とする。
「君たち人類は、牛乳を飲むために野生の牛を襲うのかい? 違うだろう? もっと効率的に調達するシステムを用いることができるはずだ」
「ま、さか……」
「気付いたようだね。僕たちは君たちに敵意を持っているわけじゃあない。だって、反撃されても困るだろう?」
呆然と、少女は立ち尽くす。
「まあ、時間までの行動は自由だ。何をしようがかまわない」
「―――僕としては、手早く済ませてくれればありがたいんだが」
絶対の、絶望の壁が、再び少女たちの前に立ちふさがった。
235: 2011/04/18(月) 21:15:53.09
「わたしは、あの子を助けたい。この結末を変えたい。そのための、力が欲しい!」
周囲に広がるのは廃墟。
空に浮かぶ不気味な影は、大災害を司るモノ。
「……それが君の願いだね」
「……うん」
この世の終わりのような風景の中に、異質な存在が二つ。
桃色の髪の少女と、白い小動物。
それらを、まばゆい光が包む。
少女は感じた。
自分の中に力が満ちていくのを。
そうして、一つの確信があった。
自分は、この為に生きてきたのだろう、ということを、理由はわからないが、そうだと感じてしまった。
236: 2011/04/18(月) 21:27:05.19
光が収まった所に、弱弱しい少女の姿は無かった。
そこにいる少女は、強い意志を持っていた。
同時に、その小さな体には、重すぎる運命を背負っていた。
少女の視線の先には、空中に浮かぶ巨大な『夜』。
少女は弓を現出させ、構える。
そこには、願いの全てを乗せて。
それがまぎれもなく自分の最初で最期の一撃であるのは、なんとなくわかっていた。
だが、退けない理由がある。
名も知らない少女。
それを、助けたいと。
こんな結末を変えたいと。
願いを乗せて、矢は飛翔した。
237: 2011/04/18(月) 21:33:50.48
もっとも、それは矢と言える代物ではない。
ただ強大で、膨大で、絶対的な、力の塊だった。
それが、『夜』を完全に飲み込む。
だが、幸せな結末は訪れない。
その世界は一人の少女が、孤独に戦った、それだけの世界。
希望も、救いもあるはずがなかったのだ。
少女の魂が濁っていく。
願いが歪んでいく。
少女の本来の願いは叶わない。
―――そう、
一人の願いで変えられるほど、世界は脆弱ではないのだ。
238: 2011/04/18(月) 21:43:17.27
救いたい。
怪物に、絶望そのものに形を変えようと、少女の目的は変わらない。
だが、手段は大きく歪む。
救いたい。
全てを救いたい。
だからこそ、壊さなければならない。
互いに傷つけあうだけの世界なら、自分が世界になる。
自分が全てを導く。
自分が世界を導き、世界を救う。
それは異常なまでの善意であり、実質、それは救いではない。
だからこそ、救済の魔女であるソレは、最も性質の悪いもの、
『最悪の魔女』と呼ばれるに相応しいものだったのだ。
239: 2011/04/18(月) 21:55:31.89
「―――夢?」
気付けば自分は布団の中。
これほどリアルな感覚は、二度目だ。
だからこそ、これがただの夢でないという確信があった。
杞憂かもしれなかった。
だが、確かめずにはいられない。
少なくとも、アレは自分の望む未来ではないから。
携帯を開き、目的の人物を呼び出す。
『…………もしもし』
電話をかけてから数秒と立たず、相手が電話に出る。
早朝なのだから、メールにするべきだっただろうか、と思いながら、
「―――ほむらちゃん、聞きたいことがあるの。今日、空いてる?」
そう、切り出した。
240: 2011/04/18(月) 22:09:44.49
「それでね、恭介ったらあたしだけの為に練習したって言ってマンツーマンでの演奏会をしてくれたの!」
やだーもう恭介愛してるー!などと叫びながら悶えるさやか。
ちなみにここはマミの家。
話を聞いているのはマミと杏子。
二人はさやかの回復を喜びながらも、そのテンションの変わりように困惑していた。
「……それ12回目だって、よく飽きないよなぁ」
「あなたも、ね」
杏子が突っ込んだのはさやかの話しについて。
マミが突っ込んだのは2個目に突入したホールケーキ。
呆れているようだが、二人は別にこういう話題が苦手ではない。
むしろ、興味を持つ年頃だ。
無論、杏子は口先では否定するだろうが。
241: 2011/04/18(月) 22:17:54.19
「……どうでもいいけどさぁ、あのまどかってヤツ、双子の姉妹でもいるのかい?」
ふと、疑問に思ったことを杏子が問う。
「えー? そんな話聞いたこと無いけどなぁ」
事実、その通りだ。
まどかの家族は両親と、弟が一人だけ。
生き別れた、という話も聞いたことは無かった。
そこで、さやかは思い出す。
「……そういや恭介も言ってたっけ、まどかのそっくりさんがあたしのこと教えてくれたって」
「ふぅん……気になるわね、鹿目さんにも今度聞いておかないと」
平穏な、少女たちの風景。
だが、タイムリミットは、確実に近付いて来ていた。
247: 2011/04/19(火) 21:54:36.17
「……まどか」
そう、確かに少女は言った。
まどかが、名前で呼んでほしいと言った時、ほむらの心には迷いがあった。
だが、結局は友達であり、友達ではない少女。
その少女が自分を想ってくれることが嬉しかったのだ。
当然だろう。
彼女は魔法少女である前に、一人の少女でしかないのだから。
「……ほむらちゃん」
ほむらを呼んだ少女、まどかがそれに応える。
「……少し、歩こっか」
「? ……ええ」
いつもと様子の違うまどかに、ほむらは少し心配げに目の前の少女を見つめる。
だが、自分を呼んだ理由と関係しているのだろう、と思い、自分から言ってくれるまで待つことにした。
248: 2011/04/19(火) 22:07:28.21
「ほむらちゃんは、さ」
「魔法少女のことについて、どれくらい知ってるの?」
唐突に、周りを行き交う人には聞こえない程度の声で話しかける。
「……そうね、」
少しだけ、躊躇う。
目の前の少女に、それを伝えてもいいのだろうか、と。
だが、まどかだからこそ、魔法少女の運命の残酷さについて知るべきだと、すぐに思いなおす。
「魔法少女の本来の存在理由、そして、その最期についてくらいかしら」
「……じゃあ、さ」
「ソウルジェムが濁りきったら―――どう、なっちゃうのかな?」
249: 2011/04/19(火) 22:23:20.15
その質問に、疑問が湧く。
どうして、彼女にとってそれが疑問であるのかが不思議だった。
だが、インキュベーターがわざと説明していないことに疑問を持っても仕方ないだろう、と一応納得はした。
「ソウルジェムは濁りきると、魔女の卵となり、所有者を魔女へと変える」
「……だからこそ、私たちは『魔法少女』と呼ばれるのよ」
「……そっか」
その反応に、またも疑問が湧く。
彼女なら、残酷な運命に、泣きだすだろうと思っていた。
そして、あまりにも冷たくそれを言い放つ自分に疑念の言葉をぶつけるだろうと思っていた。
だが、目の前の少女は、悲しみも、怒りも見せなかった。
ただ、その声色から、何かを悟ったことが感じられた。
そんなやり取りをしていれば、気付けば周りに人がいなくなっていた。
ただ、人気のない所へ移動してきただけで、会話に集中していたから周りが見えていなかったからそう感じたのだが。
「―――ねえ、ほむらちゃん」
250: 2011/04/19(火) 22:31:18.95
「ほむらちゃんが転校してきた日に、わたしと話したこと、覚えてる?」
言われるまでも無かった。
そう、克明に覚えている。
それは『一度目』と、あまりにも似ていて、あまりにも違いすぎたから。
「……ええ、しっかりと」
じゃあさ、とまどかが言いながら、強い意志のこもった瞳で見つめてくる。
「もう一度、質問させてもらうよ」
「―――ほむらちゃんとわたしって、前にどこかで会ったかな?」
ううん、とまどかはもう一度言い直す。
「会ったこと、あるよね」
251: 2011/04/19(火) 22:43:08.23
その通りだ、と言うことができればどれだけ楽だろう。
自分はあなたと親友だったのだ、と言えればどれだけ良かっただろう。
それでも、自分は約束した。
目の前の少女、本人に、まどかを救うと誓ったのだ。
だからこそ、その運命に、彼女自身を巻き込めるわけが無い。
「わたしね、夢を見たんだ」
返事を待たず、まどかは続ける。
「一度目は、ほむらちゃんが戦ってる夢。二度目は、わたしが戦う夢だった」
「―――そして、二度目の最後に、わたしは魔女になった」
言葉の終わりと共に、まどかは詰め寄ってくる。
「夢なら夢でいい。でも、ただの夢じゃないことはなんとなくわかるの」
自分に、迫ってくる。
「ねえ、ほむらちゃん……わたしたちはどこで出会ったの?」
252: 2011/04/19(火) 22:49:40.46
限界だった。
もう、一人で立ち上がることはできなかった。
差し出された手を、拒むことはできなかった。
「あの転校してきた日が初めてよ……ただし、この時間軸ではね」
「この、時間軸……?」
指輪に、意識を集中させる。
纏うのは、魔法少女としての装束。
こうしたほうが、わかりやすいだろうから。
「私の能力は時間停止、そして、もう一つ」
左腕の盾を指差しながら話し続ける。
「あなたと出会う前まで、時間を巻き戻すことができる」
253: 2011/04/19(火) 22:59:42.05
「……そっか、そういうことだったんだね」
まどかは納得したようだった。
もういいだろう、と変身を解く。
「……時間を巻き戻す前のわたしとほむらちゃんは、仲が良かったの?」
不安そうに、まどかが問う。
「……ええ、愚図で、馬鹿で、何の取り柄もない私を認めてくれた、大切な、友達よ」
少しだけ、自分の声が震えていた。
本人の前で、昔のことを話すような日が来るとは、到底考えていなかったからだろうか。
「わたしも、なっていいかな……」
え、と思わずまどかの方に素早く向き直る。
「ほむらちゃんの『大切な友達』に、わたしもなっていいかな……?」
254: 2011/04/19(火) 23:10:20.27
「……あなたは、いつも優しいのね」
それは、肯定であった。
同時に、歓喜でもあった。
す、とまどかを引き寄せ、背中に手を回す。
「……ありがとう、そう思ってくれてうれしい」
まどかも、背中に手を回してくる。
「わたしも、ほむらちゃんが喜んでくれてうれしいよ」
その言葉で、ほむらに今までになかった表情が生まれる。
涙があった。
けれども、その顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
255: 2011/04/19(火) 23:17:07.27
カツン、と足音が聞こえる。
さすがに抱き合ったままはまずいだろうか、と思いながらその方向に顔を向ける。
「……えっと、邪魔だった、かな?」
戸惑っているのは、桃色髪の少女。
そこで思い出す。
巴マミを助ける時に、この少女と会ったことを。
「あれ? あなたは、確か……」
まどかも見た事があるような反応をする。
二人の少女は、本当に瓜二つだった。
ただ、雰囲気は少し違うものを持っていた。
270: 2011/04/20(水) 21:40:01.33
突如現れた少女を、いつものほむらなら警戒しただろう。
だが、それはできなかった。
理由は二つある。
一つは、前に会った時、助けられたから。
そして、まどかと寸分も違わないその姿は、『魔法少女であるまどか』を思い出させたからだ。
「……あなたは、誰? 目的は、何?」
それでも、ほむらは適切な行動を取ろうとする。
だが、全ての時間軸のまどかの記憶を有している使い魔の少女には、無理をしているのがよくわかった。
「前にも言ったでしょ、『最悪の魔女の手下、その役割は救済』だって」
「……だからこそ、わからないのよ」
ほむらの立場で言えば、わからない、それで当然だ。
最悪の魔女が生まれてしまった世界を巻き戻し、今、ここにいるというのに。
271: 2011/04/20(水) 21:56:32.07
「……ほむらちゃんさぁ、私の主の素質がとんでもなく高いのは知ってるよね?」
「ええ、まどかは最強の魔法少女であり、最悪の魔女になりうるほどの力を持っている」
その言葉の通り、まどかは他の魔法少女の力など、比較にならないほどの力を秘めているのだ。
そう、例えば宇宙の法則そのものを捻じ曲げることだろうが。
「……まさか、」
そこまで考えて、ほむらは一つの可能性にたどり着く。
「そういうこと、それだけの力を持つ魔女が生み出した使い魔に、時間軸なんてのはあって無いようなものなんだよ」
「……なるほど、で、救済というのはどういうことかしら」
ああ、それなら、と使い魔はまどかに視線を向ける。
「主の性格を知ってれば分かると思うけど?」
「……え? 主って、わたし?」
272: 2011/04/20(水) 22:11:38.88
きょとん、とするまどかを見て、ほむらも納得する。
「……確かに、まどかならあり得るかもしれないわね」
二人で話がまとまってしまったようで、さらにまどかが困惑する。
そんなまどかに、使い魔は唐突に言い放つ。
「そういやさ、主としてはどう呼ばれたい? わが君とか、姫とか、女王様とか、ハッ! まさかお姉様―――」
「ちょ、ちょっと待ってよぉ!」
まくしたてる使い魔についていけなくなり、まどかがついに止めに入る。
ちなみに使い魔とほむらは、そんな困惑するまどかを可愛らしいと思っていた。
「えっと、あなた、さやかちゃんと上条くんが……その、抱き合ってた日の……」
他に言い方が見つからなかったようだが、顔が赤い。
そういう単語には、過剰反応してしまう年頃らしい。
273: 2011/04/20(水) 22:23:22.19
「そ、彼をあの場に連れだしたのは私だよ」
ちょっとだけ後押しもしたけど、と心の中で呟く。
「それで、わたしが主っていうのは……」
「ああ、主―――あなたが魔女になって、生み出した使い魔が私ってこと」
「……そう、なんだ」
納得しているようだが、実際、まどかはそれほど理解できていなかった。
まあ、また聞かれれば答えればいいか、と使い魔はその話題を終わらせた。
二人が話しているさまは、まるで姉妹のように見えた。
なんでもこなせる姉と、内気な妹。
妹に見える方が、姉に見える方を生み出したのだと言われても、多くの人は信じないだろう。
274: 2011/04/20(水) 22:29:14.60
「えーと、でも、主っていうのは……」
まどかは遠慮がちに提案する。
「ん、嫌? 下僕を従える趣味とか無いの?」
「そ、そういうのはちょっと……」
まあ、そうだろうと使い魔は思う。
主は性格からして、そういう真似は好まない。
「じゃ、何て呼べばいいかな?」
「そ、それは普通に名前で……」
普通に、名前で呼ぶのは捻りが無く、使い魔としてはあまり面白くはなかった。
まあ、主の望みだしいいか、と納得したが。
275: 2011/04/20(水) 22:36:40.23
「……そういえば、あなたはどう呼べばいいのかしら」
「……私?」
ほむらの言葉ももっともだ。
『あなた』と呼んでいるが、それではいろいろと不便だ。
『最悪の魔女の手下』など、役職名であって名前ではない。
「そういや、考えた事なかったなぁ……」
「うぅん……使い魔さん、とかじゃあそのまますぎるよね」
そこで、使い魔は思いつく。
「……じゃあ、主―――じゃなかった、まどかが名前付けてほしいな」
「え、名前、を……?」
「そ、元々生みの親なんだし、まどかが考えるのが当然でしょ?」
276: 2011/04/20(水) 22:48:02.94
使い魔は、悪戯っぽく笑みを浮かべる。
そう、彼女は別にまどかに生みの親の責任を押し付けているわけではない。
ただ、困っているまどかを見て、楽しんでいるだけなのだ。
「それじゃ、宿題にしとくからそのうち考えといてね」
「えっ、そ、そんなぁ……」
「ファンタジックな名前にされる覚悟は、今のうちにしといた方がいいかなー?」
「も、もう! ひどいよー!」
ふふ、と使い魔が笑う。
恐らく、そんな覚悟は必要ないだろう。
まどかの優柔不断さを鑑みれば、『夜』には間に合わない。
そして、『夜』がどういう結果になろうが、その後に自分と主が揃うことはないだろうから。
281: 2011/04/21(木) 18:59:26.61
「うーん、違いがわかんないなぁ……」
「あたしもだよ、ほんっと似てるよなー」
「似てる、って言うよりは同じなんでしょう? 外見で判断できなくても仕方ないわよ」
三者三様の感想。
まどかとほむらが使い魔と会った後、マミからの誘いによって三人は彼女の家に上がった。
そして自己紹介のあと、まどかと使い魔の少女を見比べた三人の反応がコレである。
「使い魔なんて信じられないなー、どっからどう見ても愛らしいまどかちゃんにしか見えないよ」
「も、もう、さやかちゃん……」
「私の姿はまどかの『理想の自分像』が元みたいだしね、まぁ、似てるのは当然なんだけど」
「……それにしても、魔法少女の魔女化の話といい、暁美さんの時間操作の話と言い、驚く話ばかりね」
282: 2011/04/21(木) 19:12:39.57
そうは言うものの、マミに動揺は見られなかった。
さやかの魔女化を阻止できているからだろうか。
それとも、既にキュゥべえを敵視しているからであろうか。
キュゥべえのことは、最早、この場の全員が信用してはいなかった。
それもそうだろう。
マミとほむらが良好な関係を築くことにより、『ソレ』は自分に都合のいい言葉を告げることもできなかったのだ。
今までの時間軸では、キュゥべえの巧みな口車に乗せられ、全ては『ソレ』の思うとおりに進んだ。
だが、今回は違う。
『ソレ』のたくらみはことごとく失敗に終わり、残るカードは一つとなった。
もっとも、そのカードが最大の障害であるのだが。
283: 2011/04/21(木) 19:26:36.77
「そういやさぁ、巻き戻す前の時間のあたし達ってーのはどういう感じだったんだ?」
純粋な興味で、杏子がほむらに聞く。
「……別に、性格や外見に変わらないわ。 そして誰一人まともな氏に方はしなかった」
「あー、やっぱり氏んでるんだよなぁ……」
「……生きているなら、多分私はここにはいないわ」
「ですよねー……」
事実、その通りだ。
どの道、まどか以外が生きていても魔女と化したまどかによって氏んでしまう。
「……魔法少女の魔女化も問題だけれど、当面目標にすべきことがある」
「―――ワルプルギスの夜の討伐、よ」
284: 2011/04/21(木) 19:48:34.82
「ワルプルギスの夜、ね……一応、キュゥべえに聞いたことがあるわ」
「ほむらちゃんは、戦ったことがあるんだよね?」
「……ええ、もっとも私がしたのはほとんどサポートだけで、主力として戦ったのはまどかだけれど」
瞬時に変身し、左腕の盾から資料を取り出す。
「戦闘時のデータよ。役に立つかはわからないけれど……」
「無いよりはある方がいいわよ……あら、鹿目さん、どうしたの?」
うーん、と唸っていたまどかにマミが声をかける。
「えぇと、どうしてキュゥべえはワルプルギスの夜のこと知ってたのかな、って」
「……そういえば、そうね」
確かに、おかしなことだった。
未来から戻ってきたわけでもないキュゥべえが知っているということは、普通はありえないことだ。
285: 2011/04/21(木) 20:02:29.12
もし、ワルプルギスの夜が普通の魔女だったとしよう。
そうすれば、キュゥべえはその魔女の誕生を予見していたことになる。
そうでないとするならば、すでにワルプルギスの夜はどこかで生まれていることになる。
だが、ワルプルギスの夜がもたらすのは天災。
ならば、この街にやってくる前に、他の街にも被害をもたらすはずだ。
それなのに、津波や地震で被害があった、というニュースが流れた記憶も、少女たちにはなかった。
「……ま、どうあれやることは変わらないっしょ」
「そうだよね、みんなで、打倒!ワルプルギスの夜!!」
おー! と声を上げながら少女たちが拳を突き上げる。
ノリの悪そうなほむらも、控えめながらそれに加わった。
だが、唯一そんな気分になれない少女が一人。
286: 2011/04/21(木) 20:13:21.13
使い魔の少女。
彼女の心には、キュゥべえのひとつの言葉が引っかかっていた。
『……おや、もしかして君は、アレがただの魔女だと思っているのかい?』
ギリ、と思わず歯ぎしりをする。
自分の考えが正しければ、恐らくワルプルギスの夜を倒せようが倒せまいが結果は同じということだ。
だが、その可能性を示唆しても、彼女たちの行動は変わらない。
マミと杏子はこの仲間たちを。
さやかは上条恭介を。
ほむらはまどかを。
まどかはこの街の人すべてを。
守りたいのだろう、とわかっているから。
だからこそ、伝えられない。
『救済』などという役割を負っておきながら実際は何もできない。
使い魔の少女は、ただ願うしかできなかった。
どうか、自分の推測が外れているようにと。
295: 2011/04/22(金) 21:30:35.54
カツン、と足音を響かせ、歩くのは四人。
その場に留まるは二人。
四人の魔法少女。
そして、外見がほとんど同じ少女が二人。
それぞれがそれぞれの想いを胸に、その時を迎える。
四人の少女が向かう先には、サーカスのような動物たちの集団。
それは、万国旗のようで、首輪のようでもあるもので繋がれていた。
その先には、深い霧。
それは、すぐに晴れていく。
―――そして、タイムリミット。
歯車を持つ道化師が、姿を現した。
296: 2011/04/22(金) 21:45:50.99
少女たちが、瞬時に自らを戦いの装束に包む。
「今日、ここで―――」
カシャン、とほむらの盾が稼働する。
「決着を、付けてやる!」
金属音と共に、周囲がAT4とRPG7によって埋め尽くされる。
それは、ほむらにとっては地道な作業。
だが、周りにとっては一瞬。
大量の弾頭が、逆さまの魔女に飛来した。
ドゴォ……ン、と連鎖するように、魔女に命中したソレは多くの爆発を生む。
魔女は揺らぐが、傷一つ与えられない。
だが、それで終わりではない。
297: 2011/04/22(金) 21:55:26.43
近くの鉄塔から、マミが空中に舞う。
その両手に携えるはマスケット銃―――ではない。
彼女がいつも、魔女へのトドメに使っているような巨大な砲。
それを二発、同時に叩き込む。
魔女の身体が、さらに揺らぐ。
さらに、追撃。
さやかと杏子。
空中を蹴り、マミと同じく鉄塔を蹴り、魔女へと高速で肉迫する。
「合わせてっ!!」
「おう!」
赤と、青が重なり、魔女へ突貫する。
だが。
298: 2011/04/22(金) 22:14:46.64
バチィ、と障壁のようなものがそれを防ぐ。
ち、と杏子が舌打ちをするとともに、さやかを連れて一旦退く。
それでも、時間稼ぎにはなった。
ずらり、と並ぶのは99式自走155mmりゅう弾砲。
そして、空中に浮かぶ無数のマスケット銃。
それが、一斉に火を噴いた。
着弾のたびにぐら、と揺れ、吹き飛んでいく魔女。
「杏子っ!!」
「ああ、わかってる!」
さやかが杏子の手を掴み、空中を蹴り、そのまま高速で突き進む。
299: 2011/04/22(金) 22:26:42.09
彼女は魔法少女では最速。
ならば、吹き飛ばされる魔女を追い越すのも当然であった。
空中でブレーキをかけ、魔女へ向き直る。
生み出されるは、巨大な剣と槍。
同時、マミが巨大な砲を生み出し、追撃として撃ち込む。
それは、人が扱うには大きすぎる代物だ。
例えるなら、戦艦の主砲程度の大きさだろうか。
そして、剣が振り下ろされ、槍が突き出される。
地面にたたきつけられる魔女。
そしてそこは手はず通りの場所。
―――数百基のクレイモアが、一斉に爆発した。
300: 2011/04/22(金) 22:38:24.84
「やあ、二人とも」
激しい戦闘をよそに、小動物はいつもと変わりない様子で話しかける。
もっとも、感情が存在しないのだから当然だが。
「……インキュベーター」
キ、と憎悪のこもった目で使い魔はキュウべえを睨みつける。
「やれやれ……そんなに敵視しなくても、まどかに契約を迫ったりしないさ」
「それは、もう必要無いから? それとも……迫らなくても、自分から願うようになるから?」
「え、それってどういう―――」
ブォン!と衝撃波が飛んでくる。
爆発の余波か、と思うが、それは間違いだった。
魔女の歯車から翼が生える。
それを中心に世界を包んでいく『夜』。
301: 2011/04/22(金) 22:48:03.81
魔法少女たちが、吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「みんな……っ!」
「心配することはないよ、まどか。どちらにしろ結果は見えているんだから」
キッ!と、インキュベーターをまどかの強い視線が射抜く。
「そんなことない! みんなは……絶対に、負けないんだから!!」
「―――ああ、そういうことじゃないんだよ」
え、とまどかが絶句する。
「別に、僕らは君たちと戦争をしているわけじゃない。エネルギーを回収させてもらっているだけさ」
「……そう、人間が家畜を頃すのと同じようなものさ」
302: 2011/04/22(金) 22:56:36.15
「そ、んな……」
「『ワルプルギスの夜を倒せば幸せな結末が待っています』、なんてことじゃあ、エネルギーの回収なんてままならないからね」
「……つまり、どういうこと?」
おや、とインキュベーターは首をかしげる。
「君はわかっているハズだろう? それとも、認めたくないから否定の言葉でも欲しいのかい?」
その言葉に、使い魔には強い怒りがこみ上げ、拳を握りしめる。
「まあいい、簡潔に言うと、あれはただのツールだよ」
「―――ソウルジェムに干渉し、強制的に穢れを押し付けるための、ね」
308: 2011/04/23(土) 13:17:43.98
空に浮かぶ『夜』はただ、不気味な笑みを浮かべる。
全てを嘲笑うように、少女たちを見下すように。
ピキ、と嫌な音が近くから聞こえ、少女たちはその場を離れる。
直後。
ビキゴキバキカギィ!!と何かが砕けるような音がと共に、ビルが空中に浮かんだ。
「……おいおい」
それだけではない。
鉄塔が、車が、さまざまな建造物が地面から引き剝がされ、『夜』の周囲に集う。
そして。
「―――マズい!!」
それらが、砲弾のように撃ち出された。
309: 2011/04/23(土) 13:28:58.67
一発や二発ではない。
数十発のそれが、少女達に牙を剥く。
車が爆発し、辺りが炎に包まれる。
地表に残っていた建造物が、撃ち出されたモノの衝撃で崩れる。
撃ち出されたモノに当たらずとも、その余波だけで十二分に少女達にダメージは蓄積されていく。
それは、戦闘ではなくただの蹂躙。
あまりに、一方的なものだった。
それでもまだ、『夜』の攻撃は終わらない。
魔力の塊を収束、射出。
拡散するソレは、並の魔女など、比べようも無いほど強力なもの。
310: 2011/04/23(土) 13:43:05.05
『アハ、アハ、アハハハハハァ!!』
気味の悪い笑い声を上げながら、『夜』はただただ攻撃を続ける。
そこには、一種の狂気が感じられた。
「このままだと……」
「……っく、どうすんだよ! このままじゃあ反撃もままならねーぞ!?」
魔力を消費し、傷を回復させる。
「……諦めたら、駄目」
「でも……っ!」
そう、諦めない。
ほむらが立ち上がる。
「待ち望んだ未来がすぐそこにあるの、出口がすぐ近くにあるのよ」
「―――絶対に、諦めない」
311: 2011/04/23(土) 13:57:34.14
「ツール、ね……わざわざあんなものを作るなんて、趣味が悪い」
「作ったわけじゃあないさ。そんなの、エネルギーがもったいないだろう?」
「じゃあ、あれも元は、魔法少女だったの……?」
コクリ、とインキュベーターは首を縦に振る。
「その通り、もっとも、かなり手を加えさせてもらったけどね」
「それは、どういう……?」
「魔女の姿や性質は、契約時の願いと密接に関わる……まあ、使い魔が魔女になる時は別だが」
「例えば、お菓子をお腹いっぱい食べたい、好きな異性の心の中を知りたい、とかね」
「だけど、アレが生み出すのは天災。さすがにそんな願いで契約なんて僕もしないさ」
「最初に純粋な希望が無いと、希望と絶望の相転移によるエネルギー回収ができないからね」
312: 2011/04/23(土) 14:16:22.36
「……つまり、あなたは『彼女』の願いを歪めたの?」
「そうなるね。確か元の願いは、人の役に立ちたいとか、みんなにもっと自分を見てほしい、とかだったかな?」
「……ひどいよ、希望を持って契約したのに、絶望を振りまくだけの存在にされるだなんて」
はぁ、と溜息がインキュベーターから漏れる。
「『彼女』がああなることによって、エネルギーは効率的に回収できる。それはこの宇宙全体にとって有益なことだよ」
「それは、あなたたちの都合でしょ……」
「……まったく、人間は傲慢な生き物だね。他の生物を狩って、頃して、食べているのに、自分達が被害を受けると、途端に相手を非難する」
「それでも、こんな現実を認めていい理由にはならないよ……!」
「……平行線だね。本当に、訳が分からない」
313: 2011/04/23(土) 14:27:07.49
「まあ、魔法少女たちを助けたいなら僕に言ってくれ。いつでも、その願いを力にしてあげるよ」
「馬鹿言わないで、そんなことしたら……」
「どのみち結果は同じさ。彼女たちが魔女になれば、それはとても強力なものだろうね」
「それを倒せるのは君くらいさ。放置すれば、人類の絶滅に繋がりかねないよ」
「……そんな、」
まさしく八方塞がり。
まどかが魔女になるか、四人が魔女になるか。
結果のほとんど変わらない二択だった。
319: 2011/04/24(日) 23:03:13.42
「わたし……」
小動物に感情があったなら、歓喜の表情を浮かべただろう。
ほむらにはもう、止める力は無い。
「わたしは、このSSを続けたい」
その時、ほむらとインキュベーターの感情が一致した。
それは、驚愕。
「―――ッそれは時間軸への干渉なんてレベルじゃない! 君は神になろうとでも言うのか!?」
「神でも、なんでも、いいよ……」
「今日まで続いてきた物語を、ここで終わらせたくない。それを邪魔するルールなら、わたしが壊してみせる、変えてみせる……」
「これがわたしの祈り、わたしの願い……さあ、叶えてよ、インキュベーター!!」
「あ、ルーター直った」
投下しますねー
320: 2011/04/24(日) 23:10:33.42
使い魔は、探す。
どこかにあるはずの道を。
未来へ繋がる出口を。
だが、彼女がまどかの使い魔だからこそ、気付かない、気付けない。
そこにある、最大の可能性に。
まどかの契約による魔法少女のルールの変換。
だが、その願いは大きすぎる。
それを直接叶えようとすれば、神にでもならなければならない。
結局、まどかが人で無くなってしまうのだ。
使い魔は主の願いのために、主を犠牲にすることになるのだ。
その可能性に気付かなかったのは、むしろ幸いだったのかもしれない。
321: 2011/04/24(日) 23:18:57.24
カツン、と使い魔は誰かが目の前に立つのを感じた。
「……まどか」
そう、まどかしかいない。
顔を上げ、正面からその表情を見つめる。
そこには、もう先ほどの嘆きはなかった。
ただ、強い意思、それがとてつもないほどに満ちていた。
「……わたしね、今でも信じてるんだ」
何を、と聞く前に、答えは返される。
「いずれ呪いを振りまく存在になるとしても、それでも、魔法少女はみんなの希望なんだって」
それは、儚い祈りのようだった。
しかし、それは強固な意志だ。
彼女の心が、そうさせていた。
322: 2011/04/24(日) 23:26:14.94
「朝が、昼があるから夜がある。明けない夜なんてないよ」
存在すらおぼろげな、希望。
「確かに、わたしたちの祈りは、儚い灯火でしかないかもしれない……」
だが、確かにそこにはあるのだ。
「だけど、夜明けは来るよ……ううん、」
希望は、出口は、未来は。
「わたしたちの手で、作り出す」
まどかの手が、差し出される。
拒む理由などない。
それが、まどかへの貢献が、自分の本来あるべき姿なのだから。
二人の手が、重なる。
―――そして、
323: 2011/04/24(日) 23:34:14.84
「く、そ―――近付くどころか動けもしねーぞ!?」
猛攻、破壊、蹂躙。
ただ、それだけだった。
有効な防御手段は、ほむらの盾のみ。
そこに魔力を集中し、たた、防御に専念する。
時間停止など、使う余裕は無い。
使えたとしても、『夜』の弾幕から4人が逃れることはできないのだが。
それほどに、強力だった。
そして、その防御も完全ではない。
直撃は避けられても、余波は飛んでくる。
それも、ビルなどの建築物が落下した衝撃の余波。
傷の回復すら、間に合わないのが現状だった。
324: 2011/04/24(日) 23:42:49.87
それだけの敵が、ただ真正面から攻め続けるハズはない。
もっとも、魔力が尽きるまでそれを続けても良かったのだが。
ただの魔女とは違う『夜』は、
ひとつの願いの、歪みの、悲劇の終着点は、的確に絶望を生み出す。
ヒュオ、とありえない速度で空中の建造物が移動。
「―――な、」
魔法少女たちを、取り囲む。
正面からの攻撃はやまず、時間停止での回避すら不可能。
そして、防ぐ手段も、迎撃するだけの力も残ってはいない。
完全な、チェックメイト。
―――轟音が、鳴り響いた。
325: 2011/04/24(日) 23:50:29.66
―――ならば、
「え……?」
完全に、詰んでいる勝負なら、
「うそ……どうして……」
その盤ごと、ひっくり返せ。
「そんな……まさか……っ!」
「―――もう大丈夫だよっ」
圧倒的な力で、全てを巻き返せ。
329: 2011/04/25(月) 20:28:14.43
轟音は、破壊の音。
だが、地を、少女たちの肉体を砕いたものではなかった。
砕かれたのは、『夜』に撃ち出された砲弾。
そして、それを砕いたのは。
「まどか……どうして……っ!」
鹿目まどか。
最強の魔法少女にして、最悪の魔女になり得る少女。
「違うよ、ほむらちゃん」
違う、という意味が理解できはしない。
目の前のまどかの姿は、紛れもなく消え失せた時間の中で見た魔法少女のもの。
「わたしは、契約なんてしてないよ」
契約をしていないのに、まどかがその姿であるのはおかしなことだった。
そして、唐突に、まどかの手が、ほむらの左手を包む。
330: 2011/04/25(月) 20:37:21.99
「まどか、何を……」
そこから、暖かな光が広がる。
まるで、全てを許す慈悲のような。
それでいて、赤子の心のように純粋な光。
「え……これって……」
「どう……なってんだ……?」
懐かしい感じがした。
本来そこにあるべきものが、戻ったような気がした。
「鹿目さん……まさか……」
ふふ、とまどかは少しだけ微笑む。
それだけで、理解できた。
まどかが今、どういう存在で、四人に何をしたのかも。
331: 2011/04/25(月) 20:43:29.49
「こんな……馬鹿な……」
インキュベーターには、驚愕という『感情』が生まれていた。
それほどの、衝撃。
「ありえない……こんなこと……!」
前例は無かった。
あるはずがない。
ほむらの時間逆行により、まどかに集中した因果。
『前回』で生み出された使い魔。
そして、人間の鹿目まどか。
全てが揃わなければ、この状況は成り立たないのだから。
332: 2011/04/25(月) 20:56:57.51
使い魔とは、魔女から生まれるもの。
魔女と魔法少女がイコールで結びつくものなら、使い魔もそうだといえる。
つまり、まどかの使い魔たる少女は、まどかの力そのものでもあるのだ。
そして、もしそうならば。
感情を力に変え、戦う魔法少女と同じように。
自分の力を媒介として、願いを元に、力を出力する。
声が小さな人でも、メガホンを使えば大きな声を出せるのと同じ。
魂をソウルジェムに移さずとも、使い魔を通して力を増幅させ、願いを果たす。
つまりまどかは、人でありながら、魔法少女の域を超えた力を行使しているのだ。
333: 2011/04/25(月) 21:07:52.37
四人に行使した力も、その片鱗。
システムを根本から作り直すのではなく、自分の持つシステムを模倣し、作り変える。
ソウルジェムを、感情に反応し魔力を生み出すツールへと変え、魂は肉体へと戻す。
模倣なら、複製なら、それほどの力も必要無い。
インキュベーターが、ワルプルギスの夜を生み出すエネルギーを節約したのと同じように。
完全なゼロからの創造でなければ、使う力は少なくて済むのだ。
だからこそ、鹿目まどかは人間であれた。
人体という、魔力を扱うのに不向きな身体でも大きな力を振るえるのだ。
334: 2011/04/25(月) 21:18:59.12
そうだとしても、ほむらは自分が情けなかった。
守ると、助けると言っておきながら、結局まどかに頼らざるをえなかった自分が。
けれど、同時に安心してしまった。
初めて助けられた時のように。
まどかが、自分の誇りだと言った、最初に自分が希望を持った時のように。
ほむらの心は、その時から止まっていたのだ。
つぎはぎの仮面を顔に張り付け、錆びついた鎧を纏っていただけで、
心はどうしようもなく弱かったのだ。
助けてほしくて、守ってほしくて仕方が無かった。
それでも、頼れずに。
不器用で、純粋で、まっすぐな少女は、ここまで一人で歩んで来るしかなかった。
だからこそ、頬を涙が伝う。
悲しみでもなく、苦しみでもなく、
ただ、安心を理由として。
335: 2011/04/25(月) 21:25:11.55
「―――行かなきゃ」
そう告げるまどかの背は、『一度目』と同じ。
否、決定的に違うものがあった。
あの時に、その小さな肩に背負ったのは明らかな絶望。
今背負うものは、希望にあふれる、願い。
「まどか、」
少しだけ、不安になって声をかける。
その声は、弱弱しかった。
いつもの、凛とした意思のこもった声ではなかった。
「……あの子、泣いてるの」
唐突に、まどかは呟いた。
336: 2011/04/25(月) 21:34:41.47
「助けてほしいって、こんなこと、本当はしたくないって……そう言ってるの」
空に浮かぶ、『夜』は不気味な笑みを浮かべるだけ。
狂ったように、壊れたように、本来の願いすら忘れ果てて。
「だから、わたしは助けたい。希望を信じて戦った魔法少女を、泣かせたくない」
振り向き、笑みを浮かべる。
「だから……行くね」
うん、と頷くしかできなかった。
けれど、そこに儚さは無かった。
気弱な桃色の髪の少女はもうそこにはいなかった。
ただ、意思を貫く、強い少女がそこにいた。
337: 2011/04/25(月) 21:40:47.03
とん、と軽い跳躍。
だが、瞬時に『夜』の眼前へとたどり着く。
無論、『夜』の判断は迎撃。
目の前の、強大な力を持った標的への攻撃。
「―――大丈夫だよ」
だが、それは叶わない。
慈悲が、想いが、優しさが、暖かみが、『夜』を支配する。
攻撃など、できるはずがなかった。
「もう、いいんだよ」
許すように。
包み込むように。
まどかは言葉を口にする。
338: 2011/04/25(月) 21:48:46.88
「こんなこと、しなくてもいいんだよ、だから―――」
す、と撫でるように、優しく『夜』に触れる。
「―――おやすみ」
ありがとう、とどこからか聞こえた気がした。
光が、辺りを包む。
否、『夜』が光となっていく。
それは、一つの氏であるのかもしれなかった。
だが、同時に、真の意味での救済でもあったのだろう。
光が差す。
空が、青を取り戻す。
―――夜明けが、訪れた。
339: 2011/04/25(月) 21:55:58.96
とん、と地面へと着地する。
見れば、笑顔を浮かべる四人。
自分は、未来を守れたのだと実感し、少し笑みがこぼれる。
「……ありがとう」
そう、それが叶えられたのも、使い魔である、自分と同じ姿の少女。
変身を解き、使い魔の少女を元の姿に再構築する。
「みんな、助けられた……わたしの願い、叶ったよ」
―――良かった
思わず、目を見開いた。
消え入りそうな声だった。
肉体が、透けていた。
全てを悟ったような、笑顔だった。
340: 2011/04/25(月) 22:05:58.83
「どうして……」
当然だよ、まどかの願いは果たされたからね
「でも……こんなの……っ!」
そうでなくても、魔法少女のルールを変えた事によって、私は生まれる可能性も無い存在になってしまった
ま、元々違う時間軸での結末のカタチなんだし、ここにいるのは最初からおかしかったんだけど
「そんな……そんなことって……」
私にとって、生きるっていうのは、まどかの願いを叶えて消え失せること
私は氏ぬんじゃない。氏ぬことで、ようやく生きられるんだよ
「おかしいよ、そんなの……」
ま、人間からしたらわからないかもねー
とにかく、私は悲しくないし、まどかも泣かないでよ
341: 2011/04/25(月) 22:11:29.66
「『宿題』は、どうするの?」
あぁ……ごめんね、できもしない宿題出しちゃって
忘れていいよ、もう無理だろうし
「無理じゃない! 今からでも間に合うよぉっ!!」
ああもう、そんなに泣かないで
こっちも泣きそうになるじゃない
会って数日の私のことなんて、忘れちゃえばいいんだよ
「忘れ、られないよ……」
……ごめんね
342: 2011/04/25(月) 22:15:09.04
……まどか
すごく、短い間だったけど、一緒に過ごせて嬉しかった
恨んでくれてもいい
いくら泣いてもいい
だけど、歩みは止めないで
みんなと一緒に、未来へ進んで行ってね
じゃあ、さよなら
343: 2011/04/25(月) 22:18:11.75
「―――待って!!」
少女の方向に、まどかは手を伸ばす。
だが、その手が掴めたのは、光の欠片だけ。
それも、指の間をすり抜けていった。
自分に力を与えてくれた少女は。
影から皆を、支えてくれた少女は。
虚空へと、跡形もなく消え去った。
355: 2011/04/27(水) 15:28:22.39
「……一人なんて、珍しいね」
その声に、あら、と言いながら振り返る。
その少女は、巴マミ。
「あなたが来たから、一人じゃないでしょ?」
声をかけたのは、インキュベーター。
かつて、少女に絶望を振りまいていた存在。
「おや、まだ僕を仲間扱いしてるのかい? てっきり君たちには嫌われたものだと思ったんだが」
心底から理解できなさそうに首をかしげる小動物。
「……そうね、事実を隠してたことには怒ってるけど、あなたは私の恩人に変わりないし」
空を見上げ、微笑みながら返す。
彼女は夕日に照らされながら、魔法少女になった日のことを思い出す。
357: 2011/04/27(水) 15:38:27.39
交通事故で、氏にかけていたマミの前に現れた白い小動物。
ソレによって、マミは命を救われた。
「それに、あの時魔法少女になったからみんなと出会えたの……あなたが居たから、ね」
「……憎悪と感謝が両立するなんて、人間の感情は本当に理解不能だよ」
くす、とマミから笑みがこぼれる。
「そのうち、わかる日が来ると思うわ」
そして、そういえば、とふと思い当たる。
「最近あなたの方はどうなの? しばらく姿を見なかったけれど」
「変わらないさ。前と同じく、勧誘活動中だよ」
358: 2011/04/27(水) 15:50:04.81
「それで、成果は?」
「上々だね。まどかが契約のリスクを完全に取り払ったから、後で文句も言われないし」
「……最初に説明しないのが悪いのよ?」
ぺち、とマミがキュゥべぇの頭をはたく。
痛いなぁ、と呟きながらも反省はしていないらしい。
「それはいいんだけど、一度に回収できるエネルギー量が少ないからね……」
はぁ、とキュゥべぇは溜息をつく。
「ソウルジェムで増幅された感情エネルギーをこまめに回収しないといけないし、契約する子の必要数も増えるしで忙しいんだよ」
「……それは、お疲れさま」
それなりに長い付き合いだが、キュゥべぇのこういう姿を見るのは初めてだった。
そこで、思いつく。
359: 2011/04/27(水) 16:03:12.35
「……じゃあ、紅茶でも飲んでいかない?」
「いや、どうしてそうなるんだい? というか、僕は食事をとってもあまり意味が無いんだが」
「残念だなー、ゆっくりお茶でもしてくれたら喜びで感情エネルギー増えそうなのになー」
ぴく、とキュゥべぇが固まる。
「物で釣るなんて、商売上手になったね?」
「そうね、誰に似たのかしら」
「……本当に、口がうまくなった」
少女の影を、小動物が追う。
次の勧誘には、マミを連れていくべきだろうか、と思いながら。
360: 2011/04/27(水) 16:15:39.34
「恭介ってば、先輩ヴァイオリニストに褒められてデレデレしすぎだっつーの!!」
バン!!と喫茶店のテーブルを叩く。
杏子にとっては気になる周りの視線も、さやかにはあってないようなものらしい。
「チクショー何が違うんだ! やっぱ胸か!! あの人巨乳だったし!!」
「……落ち着けよ、それにあんたも結構あるじゃないか」
「ちょっ……やめてよ! そういうのセクハラだって!」
「理不尽だなオイ!!」
繰り返される夫婦漫才。
これには店主も苦笑い。
「……でもさぁ、そういうだらしないトコも含めて好きなんだろ?」
「……うん」
そして惚気。
他の客に、気にするなと言う方が無理だろう。
361: 2011/04/27(水) 16:30:00.24
「だったら良いだろ、いちいち気にしててもキリが無いし」
「……ま、それもそうかな」
ふぅ、と杏子はようやく落ち着き、食事を再開する。
「……でもさ」
「ん?」
「さすがにそれは飲みすぎじゃないの?」
気付けばドリンクバー46杯目。
そろそろ店から文句が出てもいい頃だろうか。
「だってよー、決まった値段でいくらでも飲めるんだぞ? たくさん飲んだ方がいいだろ」
「いや、あんたの胃とかそんなんの話なんだけど……」
362: 2011/04/27(水) 16:37:39.97
「別に問題ねーけど? 昔からいくらでも食えるしいくらでも飲めるんだよ」
「ちょっと羨ましいけど……そこまでいくと、あんまりね」
ちら、とさやかは視線を落とす。
「な、何だよ……」
「……細い」
その先には、杏子の腹部。
「そんなに食べてるのに、見た感じあたしより細くない? それってどうなの?」
「い、いや、んなこと言われても……」
「恨めしい!こんなお腹なんてー!このやろー!!」
363: 2011/04/27(水) 16:45:59.10
ガバァ!と抱きつき、杏子の腹を揉みしだく。
「くっそー! 感触はぷにぷにしてるのに、全然出てない! 何この格差社会!!」
「ちょ、や、め……ん、ぁ……そんな……さわ、るなぁ……っ」
「色っぽい声出しやがってー! 世の男どもが放っておかないぞー!!」
それなら、周りを気にしてくれ、と杏子はさやかに襲われながら思った。
だが、さやかが暴走すれば周りを気にすることはない。
彼女の気が済むまで、されるがままであるしかないのだ。
ちなみに、周りの人間はただ、憐れみの目を向けていた。
肉食動物に襲われている、草食動物のような状況の少女に。
369: 2011/04/28(木) 18:33:43.61
「―――そういえば、このあたりだったよね」
そう言われて、すぐには反応できなかった。
だが、見回して気付く。
夕日に照らされた鉄橋。
まぎれもなく、『一度目』の、まどかが魔法少女としてほむらを助けた場所だった。
「……そうね。だけど、どうして?」
どうして、知っているのか。
まどかには、時間操作の能力があるわけではないのに。
「『あの子』の力を纏った時、流れ込んできたの。繰り返す時間の中で、自分がどういう生き方をしたのか」
『あの子』。
あの日、あの場所で、光の粒となり、消え去った少女。
未来を変えるため、献身的に行動しながらも、思い出すらほとんどこの世界に残さなかった少女。
370: 2011/04/28(木) 18:46:02.72
「だから、全部わかったよ。ほむらちゃんが、どれだけがんばってきたのかも」
「……まど、か」
過去のことは、すでに話していた。
だけど、それはあくまでほむらによって伝えられたもの。
まどかにとっては、違う時間の自分を、自分自身として認識できるわけがなかった。
同じだが、違う。
違うが、同じ。
永遠にその溝は埋められないと、心のどこかで諦めていた。
まどかが覚えていなくても、それでも、
幸せに、笑っていてくれればそれでいいのだと。
思い出は、自分の中に留めておけばそれでいいと、思っていた。
けれど、思い出してくれた。
過去の世界での思い出も、全て思い出した。
鎧を纏い続けた、脆い心にはその事実は歓喜をもたらした。
371: 2011/04/28(木) 18:53:49.85
「……ごめんね、今まで思い出せなくて。一人で、背負わせちゃって」
「……そんなこと、」
ううん、とまどかは首を横に振る。
「わたしがほむらちゃんを縛りつけたの。一人で出口を見つけられるはずのない、永遠の迷路に」
「それは、私が望んだことで、あなたのせいなんかじゃ……」
「それでも、だよ」
「ただ、一言だけあやまっておきたかったの……だから、ごめんね」
「……だったら、」
ほむらが、穏やかな笑みを浮かべた。
372: 2011/04/28(木) 19:00:56.90
「ありがとう、出会ってくれて。あなたのおかげで、私はここまで来ることができた」
「……わたしも、だよ。ほむらちゃんのおかげで、今のわたしがいるんだから」
手を握り合い、くす、と笑う。
こうしていると、身も心も一つになったよう。
想いが通じ合って、身体が溶け合ったような不思議な気持ち。
だから、目の前の『友達』が、何を言いたいか、手に取るようにわかる。
「ほむらちゃんは、わたしの―――」
「まどかは、私の―――」
「「最高の、友達」」
声が、重なった。
想いも、重なった。
思わず、笑みが漏れた。
373: 2011/04/28(木) 19:07:37.68
「……だけど、」
その先は、言わなくてもわかる。
「一人だけ、足りないわね」
「……うん」
使い魔の少女。
消えてしまった少女。
まともな生き方など、欠片もできなかった少女。
「みんなが、心から笑うためには」
まどかが、左手を差し出す。
「ちゃんと全員揃っての、幸せな結末でないと、ね」
ほむらが、ソウルジェムの指輪を嵌めた左手で、その手を握る。
374: 2011/04/28(木) 19:14:25.50
「……できると思う?」
「勿論」
「言うと思った」
迷いも無い。
諦めも無い。
そこにあるのは、純粋な希望。
「魔法少女は希望を振りまくの……だから、絶対に大丈夫」
「そうね、絶対に叶う……最後に愛と勇気が勝つストーリーって、そういうものだから」
冷たく、凛とした少女はもういない。
弱弱しく、引っ込み思案な少女ももういない。
ただ、強く、優しい少女がそこにいる。
ただ、それだけだ。
375: 2011/04/28(木) 19:21:12.56
「……最初は、何て言おっか」
「……そうね」
少女たちの表情は、ただ優しい。
「ありふれた言葉でも、心さえこもっていればいいと思う」
「……そうだね、だって、思い出はこれから作ればいいんだから」
特別な言葉でなくてもいい。
そんなものは、いつかまた、伝えればいい。
「一緒に、言おう」
「……うん」
強い光が、辺りを包む。
そして紡がれるのは、ただ一つの言葉。
376: 2011/04/28(木) 19:24:07.60
「「―――おかえり」」
その少女には、戸惑いが見えた。
けれど、すぐにわかった。
自分が何を伝えればいいのか。
それは簡単なこと。
だからこそ、優しい、一つの言葉。
「……ただいま」
377: 2011/04/28(木) 19:29:36.74
理想的で、ご都合主義で、馬鹿馬鹿しいほどの、幸せな結末。
少女たちの笑顔を見れば、誰だろうとそう思っただろう。
けれど、これはただのプロローグ。
ようやく、始まりを迎えるのだ。
少女はようやく、本当の意味で生まれることができたのだ。
そう、これは、
一人の少女の、人生の物語。
――――――――――――――――――END
379: 2011/04/28(木) 19:35:22.86
ようやく完結……ッ!
魔法少女まどか☆マギカは自分にとって本当に思い入れのある作品となりました
見終わった後の胸が締め付けられるようで、暖かいような気分は他ではそう味わえないものです
最終回を見た影響か、終盤はほむほむやまどかさんの出番が多くなりました
これもまた、愛でしょうか
これまで読んでくれたみなさん、本当にありがとうございました
自分の稚拙な文章を、少しでも楽しんでいただければ幸いです
それでは
390: 2011/04/29(金) 03:18:54.52
ハッピーエンド乙!
よかった!
よかった!
引用元: 「――最悪の魔女の手下、その役割は救済」
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