3: 2011/02/12(土) 03:53:14.86
唯「今日はみんなに重大な発表があります!」

ある日の放課後。いつも通りティータイムを楽しんでいる時、唯が突然そんな事を言った。

みんなが唯に注目する。

律「お?なんだなんだ?」

まあ唯のことだ。たいしたことじゃないだろうけど、とりあえずのってみる。

紬「な~に?唯ちゃん」

梓「ゆ、唯先輩。ホントに言うんですか・・・?」

澪「なんだ?梓は何か知ってるのか?」

梓「いえ・・・。その・・・。」

4: 2011/02/12(土) 03:55:27.75
唯「あずにゃん、みんななら絶対大丈夫だよ」

梓「・・・わかりました。じゃあ唯先輩、どうぞ」

なんなんだろう。2人に関係することなのか?

私は正直おもしろくなかった。

唯と梓が2人だけの秘密を持っているみたいな感じがして。

唯「うん。あのね、みんな」

唯「私ね、あずにゃんと付き合ってるんだ」

律「・・・え?」

今・・・なんて言った?

付き合ってる?唯と梓が?え、なんで?は?

6: 2011/02/12(土) 03:57:46.07
紬「そうだったの。おめでとう唯ちゃん、梓ちゃん」

私達2人をよそに、唯一ムギだけは動揺していないようだった。

むしろ目を輝かせているような気さえする。

紬「とってもお似合いのカップルね。もっと詳しく聞かせてくれないかしら?」

唯「うん。私ね、あずにゃんが入部して来たときからずっと好きだったんだ~。

  一目惚れってやつだね。だってあずにゃんってすごいかわいいんだもん」

梓「もう///。恥ずかしいからやめてください」

紬「あらあらまあまあ」

ムギはなんでこんなに楽しそうにしているのだろうか。

こっちはこれ以上ないくらいショックをうけているというのに。

それに唯も。なんでそんなに楽しそうに話してるんだよ・・・。

8: 2011/02/12(土) 04:00:04.54
紬「梓ちゃんは?梓ちゃんも唯ちゃんのこと好きだったの?」

梓「わ、私は、その///」

唯「もうあずにゃんったら照れちゃってかわい~」

梓「て、照れてません!」

いつもとたいして変わらない光景のはずなのに、どうしてこんなにも心が痛むのだろう。

梓「私は最初はむしろあまり好きではなかったですよ。練習も全然しないし、だらしない先輩だなーと思ってました」

唯「う・・・。あずにゃん私のことそんな風に思ってたんだ・・・」

11: 2011/02/12(土) 04:02:15.53
梓「だから最初はですってば。でも、軽音部で過ごしているうちに、唯先輩のいいところをたくさん見つけました。

  ホントは頑張り屋さんなところとか、とても優しいところとか、一緒にいる人を幸せな気分にさせるところとか」

梓「それで、気づいたらいつの間にか好きになっていました」

唯「なんか恥ずかしいね///」

梓「おかえしです」

笑いあう2人。とても幸せそうに見える。


なんで梓なんだよ・・・。私じゃ駄目なのか?

13: 2011/02/12(土) 04:04:47.22
澪「それにしても驚いたよ」

澪が話に入っていった。どうやらもう落ち着いたみたいだな。

澪「驚いたけど・・・。うん。確かに2人はお似合いだよな。おめでとう2人共」

唯「ありがとう澪ちゃん」

梓「ありがとうございます」

お似合い?どこがだよ。梓なんかより私の方がよっぽど・・・

澪「律?」

律「な、なんだ?」

いきなり話しかけられて私はドキリとしてしまう。

澪「どうしたんだ?さっきから黙ってるけど。なんか顔色も悪いぞ」

14: 2011/02/12(土) 04:07:15.43
律「いや、なんでもないよ・・・」

唯「りっちゃん大丈夫?」

唯が心配そうに私の顔を覗いてくる。

それはとても嬉しくて、だけどとても苦しい。

律「なんでもないってば。ただちょっとびっくりしちゃってさ。アハハ」

私はなんでもないフリをする。私の心の中を必氏に隠す。

唯「ホントに?」

律「ホントだって。いやー、それにしてもお前達いつから付き合ってるんだ?」

梓「1ヶ月くらい前からですね」

お前に聞いてねーよ

16: 2011/02/12(土) 04:09:20.70
澪「そんな前からなのか。全然気づかなかった。」

紬「そうよ。もっと早く教えてくれれば良かったのに」

唯「ごめんねみんな」

梓「唯先輩は悪くありません。私が内緒にしてくださいってお願いしたんです」

澪「いや、別に責めてるわけじゃないよ」

紬「そうよ。別にそんな事はいいの。それより2人とも、もうキスはしたの?」

律「・・・!」

相変わらず目を輝かせているムギがとんでもないことを言い出した。

いくら何でもその質問はないだろ・・・

梓「ム、ムギ先輩///」

澪「お、おいムギ。さすがにそんな事聞くのは///」

17: 2011/02/12(土) 04:11:29.42
紬「いいじゃない。恋人同士なんだもの。なにもおかしな事じゃないわ」

聞きたくない。

唯「え~、さすがに恥ずかしいよぅ///」

紬「ここまで言っちゃったんだもん。もう全部言っちゃお!唯ちゃん」

唯「も~ムギちゃんってばー」

もう何も言わないでくれ・・・

唯「うん///。チューもしたよ」

その瞬間、私の中の何かが大きな音をたてて崩れ落ちた。

19: 2011/02/12(土) 04:13:47.75
紬「わぁ///。じゃ、じゃあもしかして、その先も」

梓「ストーーーップ!ストップです!。もうこの話題はおしまいです///」

紬「えー。もうちょっといいじゃない梓ちゃん」

梓「ダメです!さあ皆さん。そろそろ練習を始めましょうよ」

澪「そうだな。もういいだろムギ」

紬「はーい。残念だけどしょうがないわね」

唯「ごめんねムギちゃん。また今度ね」

20: 2011/02/12(土) 04:16:13.75
ムギは少し不満そうだったけど、その話はそこで終わった。

だけど私は、いつまでもその話が頭から離れることはなく、心の中は、黒い感情で一杯だった。

悲しみ。嫉妬。憎しみ。

その他のいろいろな感情が一緒になったものが渦巻いている。

梓が私の唯を奪ったんだ。

私の方が唯のことを大好きなのに。

私の方が唯のことを幸せにしてあげられるのに。

梓なんか軽音部に入れるべきじゃなかったんだ。


梓なんか氏ねばいいのに。

21: 2011/02/12(土) 04:18:41.55
澪「それにしてもホントに驚いたよな。唯と梓が付き合ってるなんて」

部活が終わり、私と澪は2人で並んで帰り道を歩いている。

律「・・・そうだな」

澪「まあでも、ホントにお似合いだよな、あの2人」

律「・・・」

澪「・・・なあ律」

律「なんだよ」

澪「私さ、今までずっと悩んでたことがあったんだ。こんなのおかしいことなんだって。

  正直諦めてたと思う」

澪は何を言っているのだろう。

いきなり語り出した澪の真意がわからず、私は困惑した。

22: 2011/02/12(土) 04:20:54.63
律「なんの話だ?」

澪「でもさ」

私の問いには答えずに、澪は話を続ける。

澪「今日、唯と梓が付き合ってるって聞いて、2人の幸せそうな様子を見てたらさ、

  なんか悩んでるのが馬鹿らしくなってきたっていうか、ふっきれたんだ」

付き合ってるだの、幸せそうだの。

私はついイライラして、口調が荒くなってしまう。

律「だから何の話してるんだっての!」

澪「律」

真剣な顔で私の目を見つめる澪。心なしか顔が赤いような気がする

23: 2011/02/12(土) 04:23:21.08
澪「私、律の事が好きなんだ」

律「・・・は?」

澪「私と付き合ってほしい」

澪の突然の告白に、私は固まってしまった。

とても驚いた。澪が私をそんな風に見ていたなんて、全然気づかなかった。

・・・いや、気づくわけもないか。

私は唯しか見ていなかったのだから。

律「澪・・・」

24: 2011/02/12(土) 04:25:39.67
私は、大事な親友になんて答えるべきなのだろう。

私は唯の事が好きで。でもその唯は梓と付き合っていて。

どうせ叶わぬ恋ならば、いっそ諦めて澪の想いに応えてあげるべきなのかもしれない。

だけど、やっぱり私は・・・。

律「澪、私は・・・」

澪「唯のことが好きなんだろ?」

律「!?な、なんで」

澪「わかるに決まってるだろ。好きな人の事なんだから」

律「・・・うん、そうなんだ。だから」

澪「唯は梓と付き合ってるんだぞ」

そんな事はわかってる。わかってるんだ。だけど

25: 2011/02/12(土) 04:28:19.01
律「でも・・・諦めるつもりはないから」

澪「諦めないってどうするつもりだ?唯と梓の仲を引き裂くつもりか?

  そんな事までして唯に振り向いてほしいのか?」

律「・・・」

澪「律・・・。私じゃ駄目か?律のこと、絶対に幸せにするよ」

律「・・・ごめん」

澪「・・・そうなんだ。そんなに唯がいいんだ・・・。律とずっと一緒にいたのは私なのに・・・」

澪は最後にそう言って、逃げるようにその場から走って行ってしまった。

1人残された私は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

26: 2011/02/12(土) 04:30:42.92
律「はあ・・・」

家に帰って来た私は、服を着替えることもせず部屋のベッドの上に倒れ込んだ。

澪に言われたことが頭から離れない。

澪『諦めないってどうするつもりだ?唯と梓の仲を引き裂くつもりか?

  そんな事までして唯に振り向いてほしいのか?』

私は唯のことが好きだ。大好きだ。

でも唯は梓の事が好きで。恋人同士で。

唯のことを本当に想っているのならば、唯の事は諦めるべきだと、きっとどこかの常識人は言うのだろう。

それが正しいのはわかってる。

だけど、それはわかっているけれど、私の唯への気持ちは、どうしても諦められるものではなかった。

自己中心的だと言われようとも、私は唯のことが大好きで、唯にも私を好きになってほしい。

それが私の正直な気持ちなのだから。

だから、そのためには

律「梓が・・・邪魔だな・・・」

27: 2011/02/12(土) 04:32:50.95
梓「あれ、律先輩だけですか?」

次の日の放課後。私1人の部室に梓がやってきた。

唯とムギには今日は部活は休みだと伝えてある。

澪は今日は学校には来ていない。

律「よっ、梓。なんだよ、そんなに唯に会いたかったのか?」

梓「ち、違います///。そんなんじゃありません」

顔を真っ赤にして否定する梓。

以前は後輩のかわいい仕草にも見えていたが、今はただただ不快だ。

律「アハハ。まあいいや、座れよ。お茶いれるから」

梓「え、律先輩がですか?」

律「他に誰がいるんだよ」

梓「いや、だって今までそんなのした事ないじゃないですか」

律「いいだろたまには。私だってお茶くらいいれられるんだからな」

29: 2011/02/12(土) 04:35:08.39
梓「そ、そうなんですか?えっと、じゃあお願いします」

律「おう」

私は席を立ち、2人分のお茶をいれる。

律「はい、梓」

梓「ありがとうございます」

私も席につき、いれたお茶を飲む。

梓「あ、おいしいです」

律「当たり前だろ。私がいれたお茶なんだから」

梓「ムギ先輩のお茶がいいからですね」

律「おい」

30: 2011/02/12(土) 04:37:27.74
梓「それにしても、ホントにみなさん遅いですね」

律「なあ、梓」

梓「なんですか?」

律「お前、唯のこと好きか?」

梓「な、なんですかいきなり///」

律「いいから。答えろって」

梓「うー・・・。す、好きですよ///」

律「どのくらい?」

梓「え?」

律「どのくらい好きなんだよ」

梓「どのくらいって・・・。どうしたんですか律先輩?」

さっきまでと違う私の様子に、梓は困惑しているようだ。

少し怯えているようにも見える。

31: 2011/02/12(土) 04:39:32.53
律「どうなんだよ」

梓「・・・大好きです。多分、世界で一番」

律「ふーん。じゃあさ、お前達これからどうするの?」

梓「ど、どうするってなんですか?」

律「お前達さ、女同士じゃん。ここは女子校だから周りも寛容かもしれないけど、世間はそうじゃないよ。

  お前達、ずっと一緒にいられると思ってるの?」

梓「っ!」

律「梓、唯とは別れるべきだよ。それがお互いのためだと思うけど」

少しの沈黙。そして

32: 2011/02/12(土) 04:41:44.21
梓「・・・別れません」

梓「絶対に別れません!」

梓が声を張り上げて答える。

さっきまでの私に怯えていた梓はもういなかった。

梓「確かに私たちは女の子同士です。周りから見ればおかしく見えるのかもしれない。

  でも、それでも私は唯先輩が大好きなんです!愛してるんです!

  周りになんて思われたってかまいません!私は、ずっと唯先輩と一緒にいたいんです!」

律「そっか・・・。別れるつもりないんだ・・・。」

またしても部室に静寂が訪れる。無言の時間が流れる。

33: 2011/02/12(土) 04:43:49.24
律「プッ」

梓「え?」

律「アハハハハ。引っかかった引っかかった」

梓「え?え??」

律「いやー。梓ってばそんなに唯のことが大好きなのかー。

愛してるなんて言っちゃって、聞いてるこっちが恥ずかしくなるよ」

梓「なっ!」

みるみるうちに梓の顔が真っ赤になっていく。

梓「騙したんですか!?」

律「ごめんごめん。梓がどんだけ唯のことが好きなのか知りたくってさー」

梓「うー///。冗談にしてもひどいですよ律先輩。さっきの律先輩、ちょっと怖かったです」

34: 2011/02/12(土) 04:45:59.99
律「だからごめんって。それじゃ、帰ろうぜ」

梓「帰るって、部活はどうするんですか」

律「あれ、言ってなかったっけ?今日は部活ないよ」

梓「えー!聞いてないですよ」

律「そうだっけか。まあいいじゃん」

梓「良くないです!」

私達2人は帰り支度を整え、一緒に部室のドアまで向かう。

梓「そういえば、じゃあなんで律先輩は部室にいたんですか?」

36: 2011/02/12(土) 04:48:07.31
部室のドアを開け、階段の直前まで進む。

律「ああ、梓を待ってたんだよ」

梓「え?」

そして私は

梓を

強く

階下に向かって

押した

37: 2011/02/12(土) 04:50:24.58
私に押された梓は、体勢を崩して倒れ、階段に頭を強打し、ゴロゴロと踊り場まで転がっていった。

倒れている梓はピクリとも動かない。

私は梓をその場に残し、逃げるようにその場を後にした。

放課後の学校の廊下は、幸いなことに人の姿はなく、誰も梓の落ちていく音に気づいた人はいないみたいだ。

昇降口まで誰にも会わずに来た私だったが、そこで最悪な人物に出会ってしまった。

唯「あ、りっちゃん」

律「ゆ、唯!」

39: 2011/02/12(土) 04:53:05.33
私の頭はパニック寸前だった。

よりにもよって唯に会ってしまうなんて。

唯「もう用事は済んだの?」

律「あ、ああ。ゆ、唯はなにやってるんだ?」

唯「えへへ~。あずにゃんと一緒に帰ろうと思って昇降口で待ってたんだー。

  でもまだ来ないんだよね~。とっくに終わってるはずなのに。

  りっちゃんあずにゃんのこと見なかった?」

律「い、いや、見てないな。もう帰ったんじゃないのか?」

唯「ううん、靴はあるからまだいるはずなんだー。

  さっきメールもして見たんだけど返事が来ないんだよね~」

41: 2011/02/12(土) 04:55:09.24
決して来ることのない人を待っている唯。

そんな唯を見て、私は心がえぐられるようだった。

律「唯はまだ待つのか?」

唯「うん。もうちょっと待ってみるよ」

律「そっか・・・。邪魔するのは悪いし、私は先に帰るよ」

唯「うん、また明日ね。りっちゃん」

42: 2011/02/12(土) 04:57:17.86
家に帰った私は、急いで洗面所に駆け込み、嘔吐した。

かなり気持ちが悪い。梓が頭から血を流して倒れている姿が脳裏から離れない。

学校では興奮状態にあったのと、逃げる事に必氏だったのでなにも考えられなかったが、

落ち着いてくると罪悪感と後悔で押しつぶされそうになる。

私は人を頃してしまった。軽音部の仲間を。私の大好きな人の大好きな人を。

きっとそろそろ大騒ぎになっているはずだ。

私は捕まるのだろうか。

いや、梓といるところは誰にも見られていないし大丈夫なはず。

階段を踏み外した事故だと思われるはずだ。

43: 2011/02/12(土) 04:59:22.06
私はフラフラになりながらもなんとか部屋に戻った。

自分のベッドに潜り、震える体をおさえる。

どのくらいの時間が経っただろうか。

私の携帯の着信音が鳴り響いた。

ムギからの電話だ。私は少しためらったが、意を決して通話ボタンをおす。

律「・・・もしもし」

紬『り、りっちゃん・・・ぅぅ』

電話の向こうのムギは泣いていた。

嗚咽まじりで話すムギの声は、とても聞き取りづらいもので、

でもだからこそ、私にはムギの電話の内容がすぐに分かった。

紬『梓ちゃんが・・・。梓ちゃんが・・・』

44: 2011/02/12(土) 05:01:31.50
数日後、私とムギは梓の葬儀に出席した。

人間っていうのは本当にすごい生き物だ。

あれほどの事をしておいて、あんなに吐き気をもよおすほどの気分だったのに、

その数日後にはここまで落ち着いてきているのだから。

あれから聞いた話によると、私の思惑通り警察は梓の事を事故だと断定したらしい。

日本の警察が無能だというのは本当のようだ。

まあ今回はその無能さに救われたのだけど。

45: 2011/02/12(土) 05:03:42.20
葬儀からの帰り道。私達2人はほぼ無言だった。

ムギとの分かれ道に着いたとき、私はムギに聞いてみた。

律「なあムギ」

紬「なに?りっちゃん」

律「唯は・・・どうしてるんだ?」

紬「うん。憂ちゃんの話によると、ずっと部屋に引きこもっているみたいなの。呼びかけても出てきてくれないみたい・・・」

律「そっか・・・」

紬「澪ちゃんの様子は?りっちゃん何か知ってる?」

律「ごめん、わからない・・・」

紬「そう・・・。ショックよね、やっぱり」

46: 2011/02/12(土) 05:06:08.65
律「私、唯の家に行ってみるよ。なにも出来ないかもしれないけど、とりあえず唯に会ってくる」

紬「あ、じゃあ私も行くわ」

律「いや、いきなり2人で行ったら唯も戸惑うかもしれないから、まずは1人で行った方がいいと思うんだ」

紬「・・・わかったわ。じゃあ私は澪ちゃんの家に行ってみる」

律「ああ、頼む」

紬「うん。じゃあね、りっちゃん」

ムギと別れ、私は1人唯の家へと向かう。

きっと唯はとても傷ついているのだろう。

恋人を失う悲しみは私には分からないけれど、私が、梓の代わりに唯の悲しみを癒やしてあげたい。

邪魔な梓は、もういないのだから。

47: 2011/02/12(土) 05:08:17.72
唯の家に到着し、インターホンを押す。

それから少しして憂ちゃんが玄関から出てきた。

憂「あ、律さん」

律「こんばんは、憂ちゃん。唯、いる?」

憂「・・・お姉ちゃん、梓ちゃんが氏んじゃって、すごい・・・ショックみたいで」

憂ちゃんの目から涙がこぼれる。顔を両手で押さて泣きだした。

憂「それで・・・部屋から・・・出てこなくて・・・梓ちゃんが氏んじゃったなんて・・・

  私も・・・信じられなくて・・・ついこのあいだまで・・・なんで・・・梓ちゃんが・・・」

律「憂ちゃん・・・」

泣きながら話す憂ちゃんの言葉は支離滅裂で、だけど憂ちゃんの気持ちは、文字通り痛いほど伝わってきた。

律「お邪魔しても、いい?」

憂「はい・・・。お姉ちゃんの事、よろしくお願いします・・・」

48: 2011/02/12(土) 05:10:35.24
私は憂ちゃんに連れられて、2階に上がり唯の部屋の前まで来た。

憂「お姉ちゃん、律さんが会いに来てくれたよ」

憂ちゃんが扉ごしに呼びかける。返事はない。

憂「ずっとこんな感じなんです」

律「そうなんだ・・・」

私は今度は自分で唯に話しかけてみる

律「唯、私。律だ。入ってもいいか?」

やっぱり返事はない。

律「入るぞ」

49: 2011/02/12(土) 05:13:04.49
私は扉を開け、唯の部屋に入る。

唯の部屋は電気がついておらずカーテンも締め切っていて真っ暗だった。

その暗い部屋のベッドの上で、唯は自分の膝を抱えていた。

私が入ってもきても顔をあげることすらしない。

律「よっ、唯。元気か?」

私は努めて明るく話しかける。

私の取り柄はこれしかないから。これしか出来ないから。

律「あーあ。電気もつけないで。知ってるか?部屋が暗いと気持ちまで暗くなってくらしいぞ。

  それに部屋もだいぶ散らかしてるなー。よし、私が掃除してやるよ」

律「あ、そうだ唯。その間に風呂にでもって入ってきたらどうだ?

  何日も入ってないんじゃないか?すごい頭してるぞ」

律「ちゃんとご飯は食べてるのか?憂ちゃんがせっかく美味しい料理作ってくれるんだから、食べないともったいないぞ」

私がどれだけ話しかけても、唯は返事をしてはくれない。

それでも私は唯に話しかけ続けた。

51: 2011/02/12(土) 05:15:14.10
唯「帰ってよ」

30分もした頃、唯がようやく口を開いた。

唯「お願いだから帰って」

律「唯・・・」

唯「帰って!」

律「・・・分かったよ。でもまた明日来るから」

唯「・・・」

律「じゃあな。唯」

私はそれからというもの、放課後は毎日唯の家に行った。

その日学校であったことや、昨日見たテレビの内容など、取り留めのない話を唯に話して聞かせた。

相変わらず唯は返事をしてくれないけれど、少しずつつでもいいから唯が元気になってくれればと思う。

52: 2011/02/12(土) 05:17:13.07
今日も私はいつも通り唯の家に向かっていた。

澪「律」

後ろから声をかけられ、私は振り返った。

そこには久しぶりにみた親友の姿があった。

律「澪!」

澪「久しぶりだな、律。ちょっと話、いいか?」

久しぶりに会った澪は、思っていたよりも元気そうだった。

澪と最後に会った時にあんな別れ方をしてしまったから気になっていたけれど、とりあえず安心した。

54: 2011/02/12(土) 05:19:19.73
律「澪、もう大丈夫なのか?」

澪「律、最近毎日唯の家に行ってるらしいな」

ムギにでも聞いたのだろうか。澪がそう言った。

律「ああ。実は今、唯かふさぎ込んじゃっててさ。唯に元気になってほしくて」

澪「人の弱ってるところを狙ってるわけだ」

律「・・・は?」

澪「律は梓がいなくなって弱っている唯に優しくして、

  梓の変わりに自分を好きになってもらおうとしてるんだろ。最低だな」

律「・・・」

55: 2011/02/12(土) 05:21:28.16
律「・・・だったらなんだよ!唯は、梓がいなくなってボロボロになってるんだ!

  今の唯には、唯の心を支えてあげられる人が必要なんだよ!それが何か悪いことなのか!?」

澪「律・・・。そんなにか・・・。そうまでするほどに、唯じゃないとだめなのか?私はこんなに律のことが」

律「どんなに言われたって、私が好きなのは唯なんだ。悪いけど、澪の気持ちには応えられない」

私は最後にそう言って、澪を残してその場を去った。

56: 2011/02/12(土) 05:23:37.28
唯「ねえ、りっちゃん」

今日も私が唯の部屋で話をしていたら、突然唯が話しかけてきた。

顔をあげ、私を見る。

律「なんだ?唯」

唯「なんでりっちゃんは、毎日私に会いに来てくれるの?」

律「唯が心配だからだよ」

唯「そっか・・・。ごめんね、心配かけて」

そう言って唯は力無く笑う。

59: 2011/02/12(土) 05:25:40.15
唯「ホントはね、分かってるんだよ。こんな事してたってしょうがないって。

  あずにゃんは戻ってこないんだって」

唯の声が、徐々に涙声になっていく

唯「でも・・・どうしても・・・あずにゃんの事を思い出しちゃって・・・苦しくて・・・

  立ち直らなきゃって思ってるのに・・・出来なくて・・・忘れられなくて・・・」

唯「ねえりっちゃん・・・私は・・・どうしたらいいのかな・・・」

60: 2011/02/12(土) 05:27:48.11
律「・・・なあ、唯。私じゃ駄目か?」

唯「え?」

律「これからは、ずっと私が唯のそばにいる。唯が苦しい時も私が隣にいてあげる」

唯「りっちゃん・・・」

律「私は、唯が好きだ。」

唯「でも・・・私はあずにゃんが・・・」

律「唯、残念だけど、梓はもういない。唯は、これから梓のいない世界で、

  前を向いて歩いて行かなきゃいけないんだよ」

律「唯。私と一緒に歩いていこう。今はまだ、辛いかもしれないけど、私がいるよ。

  いつか絶対、唯を幸せにするから」

唯「・・・」

61: 2011/02/12(土) 05:29:54.01
唯「りっちゃん・・・。1つだけ約束して」

律「なんだ?」

唯「私を・・・1人にしないって・・・。絶対・・・いなくなったりしないって・・・。」

唯「もう・・・大切な人がいなくなるのは嫌なの・・・」

律「ああ、約束する。私はどこにも行かない。ずっと一緒だよ、唯」

私は唯を抱きしめた。唯は私の胸の中で、いつまでも泣いていた。

63: 2011/02/12(土) 05:32:02.75
数週間後。

唯「りっちゃん帰ろー」

律「ごめん、先行ってて。今日日直なんだ」

唯「えー。早くしてね」

律「わかったよ」

唯はだいぶ元気を取り戻していた。決して梓のことを忘れたわけではない。

それでも唯は、強く生きていこうと決めたんだ。

私はそんな唯の支えになれた事がとても嬉しい。

軽音部にはあれから行っていない。

今はまだ、辛い場所だから。

でも、いつかまた、4人で演奏出来る日がくればいいと思う。

65: 2011/02/12(土) 05:34:12.98
日直の仕事を終えた私は、教室を出て、唯が待つ昇降口に向かう。

そして、階段をおりようとした所で

ドンと

背を押され

私は

階下に

落ちていった

66: 2011/02/12(土) 05:36:26.83
体が動かない。頭から血が流れているのが分かる。

氏ぬ。嫌だ。氏にたくない。

助けて。誰か。

唯・・・。

だけど、私の意識はどんどん遠のいていく。

階段の上のいる人物の姿が、私の目に入った。

その黒髪の美少女の言葉が耳に届く。

澪「ごめん・・・律。律が悪いんだよ・・・。私がこんなに想ってるのに・・・。

  でも安心してくれ。律を1人になんて絶対にしないから」

澪「私達は、ずっと一緒だよ」

そこで、私の意識は途切れた。

67: 2011/02/12(土) 05:38:31.95
私は今、昇降口でりっちゃんが来るのを待っている。

あずにゃんが氏んじゃってふさぎこんでた私を、りっちゃんは助けてくれた。

りっちゃんのおかげで、私はあずにゃんの氏から立ち直ることができた。

私の大切な人。

私がりっちゃんと付き合ってることを知ったら、浮気者だって天国のあずにゃんは怒るかな?

それとも祝福してくれる?

それは、私にはわからないけれど。

それでも私は、りっちゃんとずっと一緒に歩いて行くよ。

きっと幸せになってみせるから。

だから心配しないで、私たちの事を見守っててね、あずにゃん。

私は恋人が待ち遠しくて、つい独り言をつぶやいた。

唯「早く来ないかな~、りっちゃん」

おわり。

68: 2011/02/12(土) 05:44:52.40
これで終わりです。読んでくれた方はありがとうございます。
修正が蛇足だと思った方がいたらすいませんでした。

69: 2011/02/12(土) 05:58:54.26

引用元: 律「ずっと一緒だよ」(微修正)